JPH07316718A - 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材 - Google Patents

熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材

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JPH07316718A
JPH07316718A JP10948394A JP10948394A JPH07316718A JP H07316718 A JPH07316718 A JP H07316718A JP 10948394 A JP10948394 A JP 10948394A JP 10948394 A JP10948394 A JP 10948394A JP H07316718 A JPH07316718 A JP H07316718A
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Satoshi Yasumoto
聡 安本
Toshiyuki Hoshino
俊幸 星野
Akihiro Matsuzaki
明博 松崎
Kenichi Amano
虔一 天野
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Kawasaki Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 クリーンな環境のみならずゴミ入りの過酷な
使用条件下においても、繰り返し応力負荷によるミクロ
組織変化が少なく軸受寿命の永い軸受鋼材を高い熱処理
生産性の下に提供すること。 【構成】 熱処理生産性を改善するためにSbを0.001 〜
0.015 wt%含有すると共に、繰り返し応力負荷によるミ
クロ組織変化遅延を促進するためにB50高負荷転動疲労
寿命改善成分として、とくにAl:0.07超〜1.0 wt%含有
させ、その他、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Mn:2.0 超〜
5.0 wt%,Cr:2.5 超〜8.0 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 w
t%,Ni:1.0 超〜3.0 wt%, Cu:1.0 超〜2.5 wt%,
N:0.012 超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,N
b:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02
〜0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 w
t%, Co:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいず
れか1種または2種以上を含む成分組成とし、かつその
組織は残留オーステナイト量が10〜35%を占めるものと
する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ころ軸受あるいは玉軸
受といった転がり軸受の要素部材として用いられる軸受
部材に関し、とくに苛酷な使用環境における繰り返し応
力負荷によって転動接触面下に発生するミクロ組織変化
(劣化)に対する遅延特性が、潤滑油の清浄性に関係な
く、それが劣悪な状態であってもなお優れた特性を示す
と共に、熱処理時に起こる脱炭層の生成を抑制する効果
に優れた軸受部材について提案する。
【0002】
【従来の技術】自動車ならびに産業機械等で用いられる
ころがり軸受としては、従来、高炭素クロム軸受鋼(JI
S:SUJ 2)が最も多く使用されてきた。一般に軸受鋼と
いうのは、転動疲労寿命の長いことが重要であるが、こ
の転動疲労寿命に与える要因としては、鋼中の硬質な非
金属介在物の影響が大きいと考えられていた。そのた
め、最近の研究の主流は、鋼中酸素量の低減を通じて非
金属介在物の量, その大きさを制御することによって軸
受寿命を向上させる方策がとられてきた。
【0003】例えば、軸受の転動疲労寿命の一層の向上
を目指して開発されたものとしては、特開平1−306542
号公報や特開平3−126839号公報などの提案があり、こ
れらは、鋼中の酸化物系非金属介在物の組成, 形状ある
いは分布状態をコントロールする技術である。しかしな
がら、非金属介在物の少ない軸受鋼を製造するには、高
価な溶製設備の設置あるいは従来設備の大幅な改良が必
要であり、経済的な負担が大きいという問題があった。
【0004】一方、軸受の寿命は、潤滑油の特性にも大
きく影響される。一般に、潤滑油中には、研磨時の研磨
粉やバリ、あるいは回転時に発生した摩耗粉等(以下、
これらを「ゴミ」という)が混入しており、このゴミの
混入は軸受部材の転がり寿命の低下を招くことが指摘さ
れていた。従来、ゴミ入り環境下での軸受寿命の改善に
対しては、主に潤滑油の清浄性を向上させる手法が採ら
れているが、特開平5−78782 号公報や同5−78814 号
公報などの開示によると、軸受部材の表面層を浸炭窒化
処理することにより、その表面層の炭化物面積率, 表面
炭素濃度, 表面残留オーステナイト量をコントロールし
て、該表層部における特性を改善することにより、ゴミ
による圧痕形状をコントロールし、もって、応力集中の
軽減を導いて長寿命化を図ることを提案している。しか
しながら、この従来技術は、鋼組織を本質的に改善する
訳ではなく、いわゆる浸炭窒化・硬化熱処理によって、
軸受部材の表面層のみを外的に改質する方法であるか
ら、後述するような、表層部の下辺で観察されるミクロ
組織変化部の改善につながらないばかりでなく、さらに
処理コストが高いといった問題が残っていた。
【0005】また、上記高炭素軸受鋼(JIS-SUJ 2) の特
性改善を図るためのもう1つの動きは、加工性、特に熱
処理時の脱炭層の生成を抑制する技術に関する研究であ
る。一般に、上記 JIS-SUJ2に規定された軸受鋼は、0.
95〜1.10wt%のCを含むことから、非常に硬質であり、
それ故に、球状化焼なましを行って加工性を向上させた
後に成形加工し、その後焼入れ, 焼もどし処理を施すこ
とによって、転がり軸受に必要な強度と靱性を得てい
た。ところが、このような特性改善のための熱処理が何
回も重なると、素材表面には、Cと雰囲気ガスとの反応
によって、脱炭層と呼ばれる“低C濃度領域”が発生す
ることが知られている。この脱炭層は、転がり軸受の硬
さ低下のみならず転動疲労寿命劣化の原因となることか
ら、切削または研削加工により除去するのが普通であっ
た。そのために材料歩留り、さらには生産性の低下を余
儀なくされていたのである。これに対して従来、上記脱
炭層の生成を防止する手段として、熱処理時における炉
内の雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルをコントロー
ルする方法や、特開平2−54717 号公報に開示されてい
る, 球状化焼なましの初期段階に浸炭処理を施す方法な
どが提案されている。しかし、上記の各方法はいずれ
も、熱処理あるいはその前処理時の雰囲気清浄によるも
のであることから、熱処理コストが嵩むのみならず、材
料の組成や熱処理時間等に応じた適切なガス組成の設定
といった煩雑な操作を必要とするところに問題を残して
いた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、発明者らが
行った最近の研究成果によれば、転動寿命を決めている
要因としては、従来から一般に論じられてきた現象;す
なわち、特開平5−78782 号, 同5−78814 号各公報な
どで問題にしている熱処理時に生じる軸受部材表面にお
ける“脱炭層”(低C濃度領域)や、特開平1−306542
号, 同3−126839号各公報で問題にしている“非金属介
在物”の存在以外の要因もあるということが判った。と
いうのは、従来技術の下で主として軸受部材表面層を熱
処理することによって、単に脱炭層や非金属介在物を減
少させても、軸受の転動疲労寿命、特に、高負荷あるい
は高温といった過酷な条件下での軸受寿命の向上には大
きな効果が得られないことを多く経験したからである。
このことから、発明者らは軸受寿命を律する他の要因の
存在を確信したのである。
【0007】そこで、発明者らは、最近の軸受使用環境
を考慮した上での軸受寿命, とくに転がり軸受の剥離の
発生原因について鋭意研究を続けた。その結果、軸受使
用環境の激化に伴って、軸受の内・外輪と転動体との回
転接触時に発生する繰り返し剪断応力により、図1(a)
に示すような、転動接触面(表層部)の下部に、帯状の
白色生成物と棒状の析出物からなるミクロ組織変化層が
発生し、これが転動回数を増すにつれて次第に成長し、
終いにはこのミクロ組織変化部から、図(b) に示すよう
な疲労剥離が生じて軸受部材表層部を欠損して軸受寿命
がつきることがわかった。さらに、軸受使用環境の苛酷
化すなわち, 高面圧化(小型化), 使用温度の上昇は、
これらミクロ組織変化が発生するまでの転動回数を短縮
し、著しい軸受寿命の低下につながるということも突き
止めた。
【0008】以上説明したように、軸受寿命というの
は、従来技術のような、軸受部材の表面層の部分におけ
る脱炭層や非金属介在物の制御だけでは不十分であり、
例えば、浸炭・窒化や球状化焼鈍などの各種の熱処理に
よって、表面層の脱炭層や非金属介在物量を単に低減さ
せるだけでは、上述した転動接触面(表層部)下で発生
するミクロ組織変化が発生するまでの時間を遅延させる
ことはできない。その結果として、軸受寿命の今まで以
上の向上は図り得ないということを知見したのである。
【0009】本発明の主たる目的は、過酷な使用条件下
での転動疲労寿命特性を向上させるのに有効な手段を提
案することにある。本発明の他の目的は、軸受鋼の成分
組成そのものおよび鋼中の残留オーステナイト量を工夫
することによって、表層部だけでなく鋼全体としての特
性, とくに高負荷・高温環境下での軸受使用中に生成が
予想される表層部下に見られるミクロ組織変化を遅延さ
せることができ、ひいては軸受寿命の著しい向上をもた
らす軸受部材を提供することにある。本発明の他の目的
は、鋼の成分組成と鋼中残留オーステナイトの量を制御
することにより、ゴミ入り環境下においても、そのゴミ
による圧痕の周辺にその応力集中によって上記ミクロ組
織変化が発生するのを抑制することに加え、更に表面層
の転動疲労寿命、素材自体の特性の改善を図り、もって
軸受寿命の一層の向上を目指すことにある。本発明のさ
らに他の目的は、熱処理時の脱炭層厚みの成長を抑える
ことにより、熱処理生産性(脱炭層の加工除去の手間を
省くこと)の向上を図ることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上述
した知見に基づき軸受寿命として新たに“ミクロ組織変
化遅延特性”というものに着目した。そして、この特性
の向上を通じてこの面における軸受寿命の向上を図るこ
とにした。そのためには、当然新たな合金設計(成分組
成)ならびに鋼組織の特定が必要であり、このことの実
現なくして軸受のより一層の寿命向上は図れないという
認識に立って、さらに種々の実験と検討とを行った。そ
の結果、意外にも適正量のAlおよびSbを複合添加するこ
と及び、鋼中の残留オーステナイト量(以下、単に「残
留γ量」と略記する)を制御すれば、繰り返し応力負荷
による転動接触面下に生成する上述したミクロ組織変化
を著しく遅延できることを見い出し、本発明軸受部材と
その製造方法を開発した。
【0011】すなわち、本発明にかかる軸受部材は、以
下に列挙するような要旨構成を有するものである。 (1) C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜1.0 wt%,Sb:
0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下を含有し、残
部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ鋼中の残留
オーステナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織
を有することを特徴とする、繰り返し応力負荷によるミ
クロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
【0012】(2) C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜
1.0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以
下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
〜2.0 wt%,Cr:0.05〜2.5 wt%, Mo:0.05〜0.5 wt
%,Ni:0.05〜1.0 wt%, Cu:0.05〜1.0 wt%,B:0.
0005〜0.01wt%及びN:0.005 〜0.012 wt%のうちから
選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、残部がFe
および不可避的不純物からなり、かつ鋼中の残留オース
テナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有す
ることを特徴とする、繰り返し応力負荷によるミクロ組
織変化の遅延特性に優れた軸受部材。 (3) ただし、上記基本成分(C, Al, Sb, O)に対しさ
らに、選択的に添加される任意添加成分(Si, Mn, Cr,
Mo, Ni, Cu, B, N)については、上記(2) の組成の範
囲内において、次のような組合わせで添加することが推
奨される。 0.05〜0.5 wt%Si−(Mn, Cr, Mo,Ni,Cu,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.0 wt%Mn−(Cr, Mo, Ni, Cu,BおよびNの
いずれか1種以上) 0.05〜2.5 wt%Cr−(Mo, Ni, Cu,BおよびNのいず
れか1種以上) 0.05〜0.5 wt%Mo−(Ni, Cu,BおよびNのいずれか
1種以上) 0.05〜1.0 wt%Ni−(Cu,BおよびNのいずれか1種
以上) 0.05〜1.0 wt%Cu−( BまたはN) 0.0005 〜0.01wt%B−N
【0013】(4) C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜
1.0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以
下を含有し、さらに、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Mn:2.
0 超〜5.0 wt%,Cr:2.5 超〜8.0 wt%, Mo:0.5 超
〜2.0 wt%,Ni:1.0 超〜3.0 wt%, Cu:1.0 超〜2.5
wt%,N:0.012 超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt
%,Nb:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:
0.02〜0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜
0.5 wt%, 及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれる
いずれか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不
可避的不純物からなり、かつ鋼中の残留オーステナイト
量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有することを
特徴とする、繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の
遅延特性に優れた軸受部材。
【0014】(5) ただし、上記基本成分(C, Al, Sb,
O)に対しさらに、選択的に多量添加される任意添加成
分(Si, Mn, Cr, Mo, Ni, Cu, N)とその他の少量添加
される任意添加成分(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCo)
については、上記(4) に記載の組成範囲内において、次
のような組合わせで添加することが推奨される。 0.5 超〜2.5 wt%Si−(Mn, Cr, Mo, Ni, Cu および
Nのうちのいずれか1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta, H
f およびCoのうちのいずれか1種以上) 2.0 超〜5.0 wt%Mn−(Cr, Mo, Ni, Cu およびNの
いずれか1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCo
のうちのいずれか1種以上) 2.5 超〜8.0 wt%Cr−(Mo, Ni, Cu およびNのいず
れか1種以上)−(V,Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCoのう
ちのいずれか1種以上) 0.5 超〜2.0 wt%Mo−(Ni, Cu およびNのいずれか
1種以上)−(V, Nb,W, Zr, Ta, Hf およびCoのうちの
いずれか1種以上) 1.0 超〜3.0 wt%Ni− (Cu, およびNのいずれか1
種以上)−(V, Nb, W,Zr, Ta, Hf およびCoのうちのい
ずれか1種以上) 1.0 超〜2.5 wt%Cu− (N) −(V, Nb, W, Zr, Ta,
Hf およびCoのうちのいずれか1種以上) N−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCoのうちのいず
れか1種以上)
【0015】(6) C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜
1.0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以
下を含有し、さらにSi:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05〜
2.0 wt%,Cr:0.05〜2.5 wt%, Mo:0.05〜0.5 wt%,
Ni:0.05〜1.0 wt%, Cu:0.05〜1.0 wt%,B:0.000
5〜0.01wt%及びN:0.005 〜0.012 wt%のうちから選
ばれるいずれか1種または2種以上を通常環境下での転
動疲労を改善する成分として含み、さらにまた、上記改
善成分のいずれか1種以上のものが選択された場合はそ
の元素を除く下記の成分、すなわち、Si:0.5 超〜2.5
wt%, Mn:2.0 超〜5.0 wt%,Cr:2.5 超〜8.0 wt%,
Mo:0.5 超〜2.0 wt%,Ni:1.0 超〜3.0 wt%, C
u:1.0 超〜2.5 wt%,N:0.012 超〜0.050 wt%, V:
0.05〜1.0 wt%,Nb:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜
1.0 wt%,Zr:0.02〜0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt
%,Hf:0.02〜0.5 wt%, Co:0.05〜1.5 wt%のう
ちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、苛酷な
環境下での転動疲労寿命を改善する成分として含み、残
部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ鋼中の残留
オーステナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織
を有することを特徴とする、繰り返し応力負荷によるミ
クロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
【0016】(7) ただし、上記(6) において、通常環境
における転動疲労寿命改善成分については、次のような
組合わせが推奨される。 0.05〜0.5 wt%Si−(Mn, Cr, Mo,Ni,Cu,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.0 wt%Mn−(Cr, Mo, Ni, Cu,BおよびNの
いずれか1種以上) 0.05〜2.5 wt%Cr−(Mo, Ni, Cu,BおよびNのいず
れか1種以上) 0.05〜0.5 wt%Mo−(Ni, Cu,BおよびNのいずれか
1種以上) 0.05〜1.0 wt%Ni−(Cu,BおよびNのいずれか1種
以上) 0.05〜1.0 wt%Cu−( BまたはN) 0.0005 〜0.01wt%B−N また、上記の苛酷な使用環境における転動疲労寿命改善
成分についての組合わせは下記のものが推奨される。 ´ 0.5 超〜2.5 wt%Si−(Mn, Cr, Mo, Ni, Cu およ
びNのうちのいずれか1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta,
Hf およびCoのうちのいずれか1種以上) ´ 2.0 超〜5.0 wt%Mn−(Cr, Mo, Ni, Cu およびN
のいずれか1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf および
Coのうちのいずれか1種以上) ´ 2.5 超〜8.0 wt%Cr−(Mo, Ni, Cu およびNのい
ずれか1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCoの
うちのいずれか1種以上) ´ 0.5 超〜2.0 wt%Mo−(Ni, Cu およびNのいずれ
か1種以上)−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCoのうち
のいずれか1種以上) ´ 1.0 超〜3.0 wt%Ni− (Cu, およびNのいずれか
1種以上)−(V, Nb,W, Zr, Ta, Hf およびCoのうちの
いずれか1種以上) ´ 1.0 超〜2.5 wt%Cu− (N) −(V, Nb, W, Zr, T
a, Hf およびCoのうちのいずれか1種以上) ´ N−(V, Nb, W, Zr, Ta, Hf およびCoのうちのい
ずれか1種以上)
【0017】なお、上記各軸受部材は、所定の成分組成
を有する鋼を、溶製後常法に従う処理によって棒鋼に圧
延し、次いで焼ならしと焼なましを施した後、 850〜95
0 ℃(望ましくは 880〜920 ℃) からの焼入れを施すこ
とによって製造することができる。
【0018】
【作用】まず、上記合金設計ならびに組織制御にかかる
本発明の軸受部材を開発した経緯につき、発明者らが行
った実験結果に基づいて説明する。まず、この実験に当
たっては、 SUJ 2 ( C:1.02wt%, Si:0.25wt%, Mn:0.45wt
%, Cr:1.35wt%, N:0.0040wt%, O:0.0012wt%)
と、AlとSbを添加した2種の材料 (C:1.00wt%, , Si:0.23wt%, Mn:0.46wt%,
Cr:1.33wt%, Sb:0.0030wt%, Al:0.080 wt%, N:
0.0042wt%, O:0.0009wt%) (C:1.00wt%, , Si:0.20wt%, Mn:0.43wt%,
Cr:1.30wt%, Sb:0.0080wt%, Al:0.215wt %, N:
0.0032wt%, O:0.0008wt% ) の化学組成を有する鋼を溶製してから鋳造し、1240℃で
30h の拡散焼鈍を施した後に65mmφの棒鋼に圧延して供
試材とした。ついで、この供試材を焼ならし、球状化焼
なまし、さらには焼入れ−焼もどしの順で熱処理を行
い、その後、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmの円
筒状の試験片とした。
【0019】次に、上記試験片をラジアルタイプ型の転
動疲労寿命試験機を用い、ヘルツ最大接触応力:600kgf
/mm2, 繰返し応力数:46500 cpm , 潤滑:#68タービン
飛沫油使用環境下の負荷条件で、焼入れ温度を調整し
て、鋼中の残留γ量(7%, 18%) を変化させることに
より転動疲労寿命試験を行った。その試験結果は、ワイ
ブル分布に従うものとして確率紙上にプロットし、主と
して表面層における非金属介在物の抑制と材料強度の上
昇による, 従来から検討されていた通常の転動疲労寿命
を示す数値であるB10(10%累積破損確率) と、高温・
高負荷転動時の繰り返し応力負荷による, 苛酷な使用環
境下で見られる、いわゆる表層部下におけるミクロ組織
変化の発生を遅延させることによる転動疲労寿命を示す
数値と見られるB50(50%累積破損確率)とを求めた。
また、脱炭層の試験については、上記の円筒状試験片を
10mmの位置で高さ方向に垂直に切断後、ナイタールにて
腐食し、ミクロ組織変化による円周上の全脱炭層深さ
(厚み)最大値(以後、「最大脱炭層」という)で評価
した。
【0020】その結果、表1に示すように、高Al添加材
については、残留γ量が7%の場合、前記B10値につい
ての改善はそれほど大きいものではないが、B50値につ
いては著しく高い数値を示し、軸受平均寿命はSUJ 2 材
に比べ、Al:0.08wt%では約10倍もの改善を示してい
た。とくに、Alを0.215 wt%と、もっと多量に添加した
場合には、B50値は約20倍にも達し、高負荷転動中に生
成するミクロ組織変化の遅延特性に対して顕著な効果を
示し、破損(寿命)を大きく遅延させることができるこ
とが判った。ところが、同じ成分組成でも、残留γ量が
18%と多くなると、B50値の改善程度が一層顕著なもの
になることに加え、更にB10値もSUJ 2 材に比べると、
Al:0.08wt%の場合で約6倍、Al:0.215 wt%の場合で
約11倍も改善されることが判った。さらに、熱処理後の
最大脱炭層については、SUJ 2の0.10mmに対してSb:0.
0030wt%含有するものでは0.02mm、Sb:0.0080wt%含有
するものでは、実に0.01mmの厚さとなり、適量のSbの添
加は、熱処理脱炭層の抑制に極めて著効を示すことが窺
える。
【0021】
【表1】
【0022】図2は、上記実験結果をまとめたものであ
って、表層部における非金属介在物に起因する軸受寿命
と、表層部下における繰返し応力負荷でのミクロ組織変
化の様子、ならびに残留γ量が軸受の転動疲労寿命に及
ぼす影響を示す模式図である。この図に明らかなよう
に、従来からごく一般的に議論されてきた、軸受部材表
面層の非金属介在物の量とその形態, C濃度, 炭化物面
積率などの指標としての, 累積破損確率10%のB10値で
示される軸受寿命(以下、これを「B10寿命」という)
によれば、単にAlを多量に添加するだけではその効果は
期待した程には得られないが、残留γ量を多くした場合
には、かなり改善されることがわかる。一方、部材表層
部下の帯域に見られるミクロ組織変化特性を示す指標と
しての, 累積破損確率50%のB50値で示される軸受寿命
( 以下、これを「B50寿命」という)でみると、Al添加
の効果は極めて顕著であり、この傾向は残留γ量の影響
よりも大きく、少なくとも苛酷な環境下で発生するミク
ロ組織変化の生成度合いを示す軸受寿命を意識する限
り、高Alと高残留γ量へのコントロールは極めて有効で
あることがわかる。
【0023】以上説明したように、B10寿命, B50寿命
の両方を改善するには、適正量のAlを含有する鋼につい
て、焼ならしおよび球状化焼なましの処理を経てからさ
らに適正な焼入れ処理および必要に応じて焼もどし処理
をも施すことにより、鋼中の残留γ量を所定の範囲に制
御することが有効である。このような処理によって特性
が改善される理由については必ずしも明確に解明した訳
ではないが、発明者らは、この残留γが繰返し応力負荷
によるミクロ組織変化の遅延と応力作用領域に存在する
硬質な非金属介在物の切り欠き作用を緩和し、このこと
によってB10寿命およびB50寿命の両方を向上させるも
のと考えている。
【0024】なお、上記の残留γ量は、体積比にして10
〜35%が適正量と考えている。それは、この残留γの量
が少ないと転動疲労寿命、とりわけB10寿命向上の効果
が得られないからであり、それ故に10%以上は必要であ
る。一方、35%を超える残留γ量では軸受強度の不足な
らびに寸法の安定性に欠けるから、残留γ量は、10〜35
%の範囲に、好ましくは15〜30%の範囲に、そしてより
好ましくは15〜25%の範囲内に制御する。
【0025】本発明においては、主として繰り返し応力
負荷によるミクロ組織変化遅延特性の改善を図るという
観点から、以下に説明するような成分組成の範囲を決定
した。
【0026】C: 0.5〜1.5 wt% Cは、基地に固溶してマルテンサイトの強化に有効に作
用する元素であり、焼入れ焼もどし後の強度確保とそれ
による転動疲労寿命を向上させるために含有させる。そ
の含有量が0.5 wt%未満ではこうした効果が得られな
い。一方、 1.5wt%超では被削性, 鍛造性が低下するの
で、 0.5〜1.5 wt%の範囲に限定した。好ましくは、0.
65〜1.10wt%の範囲がよい。
【0027】Al:0.07超〜1.0 wt% Alは、鋼の溶製時の脱酸剤としても作用し、さらにNと
結合して結晶粒を微細化し、鋼の靱性向上にも寄与する
元素である。とくに、本発明においては最も重要な役割
を担っている元素であり、とりわけ苛酷な繰り返し応力
負荷の下での、上述したミクロ組織変化の遅延を促して
この面における転動疲労寿命(B50寿命)のより一層の
向上を図る場合に、欠かせない成分である。この作用
は、Alの単独多量添加でも十分に効果がある。すなわ
ち、このAlによる上記ミクロ組織変化の遅延を実現する
ためには、少なくとも0.07wt%を超えて含有させること
が必要であるが、 1.0wt%を超えるとその効果が飽和す
る一方で靱性, 加工性を低下させるので、このAlは0.07
超〜1.0 wt%に限定した。好ましくは0.07超〜0.5 wt%
の範囲、より好ましくは0.10〜0.3 wt%の範囲がよい。
【0028】Sb:0.001 〜0.015 wt% このSbは、この発明においてAlとともに重要な役割を担
っている元素である。とくに、このSbは、熱処理時にお
いて、鋼材表層部のCと雰囲気ガスとの反応を抑制して
脱炭層の発生を阻止することによって、熱処理生産性向
上に寄与する。しかも、Alとの複合添加により、該脱炭
層の抑制にあわせてミクロ組織変化の遅延に対しても効
果を示すことから、積極的に添加する。このような2つ
の作用は、このSb含有量が0.001 wt%以上で顕著なもの
となるが、0.015 wt%を超えて添加してもその効果は飽
和することに加え、却って熱間加工性および靱性の劣化
を招くようになる。従って、Sbは0.001 〜0.015 wt%の
範囲で含有させることとした。好ましくは、0.0020〜0.
0100wt%、より好ましくは0.0025〜0.0080wt%の範囲で
含有させる。
【0029】O:0.0020wt%以下 Oは、硬質な非金属介在物を形成するので、たとえ他の
成分の制御によって繰り返し応力負荷によるミクロ組織
変化の遅延が得られたとしても、B10寿命, B 50寿命の
低下を招くことがあるから、可能な限り低いことが望ま
しい。しかし、0.0020wt%以下の含有量であれば許容で
きる。好ましくは0.0012wt%以下である。
【0030】Si:0.05〜0.5 wt%, 0.5 超〜2.5 wt%以
下 Siは、鋼の溶製時の脱酸剤として用いられる他、基地に
固溶して焼もどし軟化抵抗の増大により焼入れ, 焼もど
し後の強度を高めてB10値にあらわれる転動疲労寿命
(B10寿命)を向上させる元素として有効である。こう
した目的の下に添加されるSiの含有量は、0.05〜0.5 wt
%、好ましくは0.15〜0.50wt%がよい。さらに、このSi
は、0.5 wt%超を添加すると、高温, 高負荷, 繰り返し
応力負荷の下でのミクロ組織変化の遅延をもたらして、
50値としてあらわれる転動疲労寿命(B50寿命)を向
上させる効果がある。しかし、その含有量が 2.5wt%を
超えると、効果が飽和する一方で加工性や靱性を低下さ
せるので、ミクロ組織変化遅延特性のより一層の向上の
ためには、 0.5超〜2.5 wt%を添加することが有効であ
る。より好ましくは0.5 超〜2.0 wt%がよい。
【0031】Mn:0.05〜2.0 wt%, 2.0 超〜5.0 wt% Mnは、鋼の溶製時に脱酸剤として作用し、鋼の低酸素化
に有効な元素である。また、鋼の焼入れ性を向上させる
ことにより基地マルテンサイトの靱性, 硬度を向上さ
せ、部材表層部における一般的な転動疲労寿命(B10寿
命)の向上に有効に寄与する。こうした目的のために
は、0.05〜2.0 wt%の添加があれば十分であり、好まし
くは0.25〜2.0 wt%である。しかし、このMnの添加によ
って、Alと同様に繰返し応力の負荷によるミクロ組織変
化を著しく遅延させるB50寿命を改善させるためには、
2.0wt%を超えて添加することが必要である。しかし、
5.0 wt%を超える添加量では、多量(>35%) の残留γ
を発生して強度ならびに寸法安定性の低下を招くため、
このB50寿命改善の目的のためには、 2.0超〜5.0 wt%
の範囲で添加することとし、好ましくは 2.0超〜4.0 wt
%の添加がよい。
【0032】Cr:0.05〜2.5 wt%, 2.5 超〜8.0 wt% Crは、焼入れ性の向上と安定な炭化物の形成を通じて、
強度の向上ならびに耐摩耗性を向上させ、ひいては一般
的な意味での転動疲労寿命を向上させる成分である。こ
うした効果を得るためには、0.05〜2.5 wt%の添加で十
分である。好ましい添加量は0.15〜2.5 wt%である。さ
らに、このCrは、繰返し応力負荷によるミクロ組織変化
を遅延せしめて、この面での転動疲労寿命(B50寿命)
を向上させるためには、 2.5wt%を超える多量添加を行
う必要がある。そして、このB50寿命を向上するために
添加するCr添加の量は、 8.0wt%を超えると飽和するの
みならず、却って焼入れ時の固溶C量の低下を招いて強
度が低下する。従って、この目的のために添加するとき
は、 2.5超〜8.0 wt%としなければならない。好ましく
は 2.5超〜5.0 wt%の範囲がよい。
【0033】Mo:0.05〜0.5 wt%, 0.5 超〜2.0 wt% Moは、残留炭化物の安定化により耐摩耗性を向上させる
元素である。とくに0.05〜0.5 wt%を添加すると、焼入
れ性を増大して焼入れ焼もどし後の強度向上に寄与する
と共に、安定炭化物の析出により、耐摩耗性とB10寿命
を向上させる。さらにこのMnは、0.5 wt%超という多量
添加を行うと、上述したように、転動時のミクロ組織変
化を遅らせる効果が著しくなり、この面での転動疲労
寿命,即ちB50寿命を向上させる。しかし、その量が 1.
5wt%を超えると、切削性, 鍛造性を低下させ、コスト
アップの因ともなるため、このB50寿命向上のために
は、 0.5超〜2.0 wt%の範囲内で添加することが必要で
あるが、好ましくは 0.5超〜1.5 wt%がよい。
【0034】Ni:0.05〜1.0 wt%, 1.0 超〜3.0 wt% Niは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め靱性を向上させるとともに、B10寿命を向上させる
ので、この目的のためには0.05〜1.0 wt%の範囲内で添
加することとし、好ましくは0.15〜1.0 wt%添加する。
さらに、このNiは、上述したように、 1.0wt%を超えて
添加した場合には、転動時のミクロ組織変化を遅らせ、
これによりB50寿命を向上させる。しかし、この場合で
も3wt%を超えて添加すると、多量(>35%) の残留γ
を析出して強度の低下ならびに寸法安性を害することに
なる他、コストアップになるため、この作用効果を期待
する場合には、1.0 超〜3.0 wt%の範囲内で添加するこ
とが必要であり、好ましくは 1.0超〜2.5 wt%がよい。
【0035】Cu:0.05〜1.0 wt%, 1.0 超〜2.5 wt% Cuは、焼入れの増大により焼入れ焼もどし後の強度を高
め、B10寿命を向上させるために添加する。この目的の
ために添加するときは、0.05〜1.0 wt%の範囲で十分で
あり、好ましくは0.15〜1.0 wt%がよい。一方、このCu
はまた、上記の目的とは別に 1.0%を超えて多量に添加
した場合には、上述したように、繰り返し応力負荷によ
るミクロ組織変化を遅らすことによって、B50寿命を著
しく向上させることになる。ただし、その量が 2.5wt%
を超えるとこの添加効果が飽和するとともに、却って鍛
造性の低下を招くことになるため、この目的(B50寿命
の向上)のためには 1.0超〜2.5 wt%の範囲で添加する
ことが必要であり、好ましくは 1.0超〜2.0 wt%がよ
い。
【0036】B:0.0005〜0.01wt% Bは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め、B10寿命を向上させるので、0.0005wt%以上を添
加する。しかしながら、0.01wt%を超えて添加すると加
工性を劣化させるので、0.0005〜0.01wt%の範囲に限定
する。好ましくは0.0015〜0.0050wt%がよい。
【0037】N:0.0005〜0.012 wt%, 0.012 超〜0.00
5 wt% Nは、炭窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化し、
基地に固溶して焼入れ焼もどし後の強度を高め、そして
10寿命を向上させる。この目的のためには0.0005〜0.
012 wt%の範囲内で添加するが、好ましくは0.0020〜0.
012 wt%がよい。また、このNは、一方において0.012
wt%を超えて添加した場合には、上述したように、繰り
返し応力によるミクロ組織変化を遅らせることによりB
50寿命を向上させることができる。ただし、この量が0.
050 wt%を超えると、加工性, 靱性が低下するため、こ
の目的のためには0.012 超〜0.05wt%を添加するが、好
ましくは 0.012超〜0.035 wt%がよい。
【0038】以上、部材表層部における繰り返し応力負
荷によるミクロ組織変化を遅延させることによる転動疲
労寿命(B50寿命)を改善すると共に、強度の上昇を通
じて部材表層部における転動疲労寿命(B10寿命)を改
善するための主要成分(C,Al, Sb, OおよびSi, Mn, C
r, Mo, Ni, Cu, B, N)の限定理由についてそれぞれ
説明したが、本発明ではさらに、V, Nb, W, Zr, Ta,
HfおよびCoのうちから選ばれるいずれか1種または2種
以上を添加することにより、苛酷な使用環境(ゴミ入
り, 高負荷, 高温)での転動疲労寿命, 即ちB50寿命を
改善させるようにしてもよい。
【0039】上記各元素の好適添加範囲と添加の目的、
上限値、下限値限定の理由につき、表2にまとめて示
す。
【表2】
【0040】本発明においては、被削性を改善するため
に、S,Se, Te, REM, Pb,Bi, Ca,Ti, Mg, P,Sn, As
等を添加しても、上述した本発明の目的である繰り返し
応力負荷によるミクロ組織変化による遅延特性を阻害す
ることはなく、容易に被削性を改善することができるの
で、必要に応じて添加してもよい。
【0041】なお、Pは、鋼の靱性ならびに転動疲労寿
命を低下させることから可能なかぎり低くすることと
し、0.025 wt%以下、好ましくは 0.015wt%以下に抑え
るのがよい。また、Sは、Mnと結合してMnSを形成し、
被削性を向上させる。しかし、多量に含有させると転動
疲労寿命を低下させることから0.025 wt%以下、好まし
くは 0.015wt%以下に抑えるのがよい。
【0042】
【実施例】表3, 表4, 表5に示す成分組成の鋼を溶製
して鋳造し、得られた鋼材につき1200℃で30h の拡散焼
鈍を施した後に65mmφの棒鋼に圧延した。次いで、焼な
らし−球状化焼なましの後、鋼材No.1, No.6は 820℃
で、その他は 880℃〜920 ℃で焼入れ、 180℃で焼もど
し行った。さらに、ラッピング仕上げにより12mmφ×22
mmならびに60mmφ×5mmの円筒状試験片を作製した。こ
のときの該試験片の面粗度はいずれもRa:0.1 mmとし
た。そして、上記各試験片について、クリーン環境下に
おけるB10寿命, B50寿命についての測定試験を行っ
た。このクリーン環境下のB10寿命, B50寿命の試験
は、図3に示すようなラジアルタイプの転動疲労寿命試
験機を用いて、ヘルツ最大接触応力:600 kgf/mm2 , 繰
り返し応力数約46500 cpm および潤滑油:#68タービン
飛沫油を使うという条件で行ったものである。なお、試
験の結果は、ワイブル分布に従うものとして確率紙上に
まとめ、鋼材No.1 (従来鋼である SUJ2) の平均寿命
(累積破損確率:10%および50%における、剥離発生ま
での総負荷回数) を1として、その他の鋼種のものを対
比して評価した。
【0043】一方、上記各試験片についてのゴミ入り環
境の苛酷な条件下での転動寿命 (B 10寿命, B50寿命)
は、円盤状試験片を作製してスラスト型転動疲労試験機
を用い、ヘルツ最大接触応力:536 kgf/mm2 , 繰り返し
応力数:1800cpm の条件で、#68タービン油中に硬さ:
Hv850 程度、平均粒子径:約100 μmの鉄粉を約150ppm
混入して行った。試験機には、図3に示すような改良
を行い、鋼球と試験片の接触部に常時鉄粉が供給される
ようにした。
【0044】試験結果は、ワイブル分布に従うものとし
て確率紙上にプロットし、B10寿命(累積破損確率:10
%での剥離発生までの総負荷回数) ならびにB50寿命(
同50%) を求め、鋼材No.1をそれぞれ1として比較評価
したものである。また、残留オーステナイト量は、ラッ
ピング仕上げ後の試験片をX線解析装置を使って測定し
たものである。上記の評価結果を、表3, 表4, 表5に
まとめて示した。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】鋼No.2〜5は比較例として示すものであ
り、鋼中C量が本発明範囲外である鋼No.4、鋼中Al量が
本発明範囲外である鋼No.5、鋼中O量が本発明範囲外で
ある鋼No.3および、鋼中残留オーステナイト量が本発明
範囲外である鋼No.2の場合、通常試験においても、Alを
含まない従来鋼 (鋼No.1) と同程度か、B10寿命, B50
寿命のいずれか少なくとも一方が低く、軸受寿命の改善
には効果がないことが判る。また、No.4は、Sbも本発明
外範囲のものであるが、最大脱炭層の深さが0.09mmと大
きく、従来鋼に比べて改善の程度が小さいために、この
脱炭層除去のための処理が必要となった。これに対し、
本発明軸受部材である鋼材No.6〜54は、クリーン環境下
での通常試験では、B10寿命が従来鋼(鋼材No.1)に比
較すると平均約3〜33倍も改善され、また、B50寿命も
7〜80倍も優れた結果を出している。さらに、この傾向
は、ゴミ入り環境下の試験でも、B10寿命にして約2〜
17倍、B50寿命にして約5〜31倍も優れた結果を示して
おり、全く同様に改善されていることが判る。さらに、
最大脱炭層の深さも平均0.01〜0.03mm程度と小さく、熱
処理生産性にも優れていることが判る。すなわち、軸受
部材としては、多量のAlおよびSbを複合添加したものが
ゴミ入り環境下における転がり寿命, とりわけB50寿命
で示されるミクロ組織変化を著しく遅延し、一方残留γ
量を10〜35%にコントロールすることによりB10寿命の
著しい向上をもたらし、そして脱炭層の深さをも減じる
ことから、軸受の全体的な転動疲労寿命の向上に極めて
有効で生産性の向上にも寄与するものであることが窺え
る。
【0049】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、
鋼中残留γ量を10〜35%の組織とし、かつAl≧0.07wt%
超およびSb≧0.001 wt%複合添加軸受鋼材とすることに
より、クリーン環境のみならずゴミ入り環境下において
高負荷, 高温使用という苛酷な条件であっても、軸受部
材の表層部下における繰り返し応力負荷に伴うミクロ組
織変化の遅延をもたらし、このことによってB10, B50
転動疲労寿命の向上(高Al含有効果)を達成すると共
に、さらには熱処理時の加工負荷を軽減(Sb添加効果)
して生産性を高めることができる。従って、従来技術の
下では不可欠とされていた、部材表層部のより一層の鋼
中酸素量の低減あるいは鋼中に存在する酸化物系非金属
介在物の組成, 形状, ならびにその分布状態をコントロ
ールするために必要となる製鋼設備の改良あるいは建設
が、本発明では不必要である。また、本発明にかかる軸
受部材の開発によって、転がり軸受の小型化ならびに軸
受使用温度のより以上の上昇が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a),(b)は、繰り返し応力負荷の下に、
部材表層部下の帯域において発生するミクロ組織変化の
ようすを示す金属組織の顕微鏡写真。
【図2】非金属介在物に起因する軸受寿命とミクロ組織
変化に起因する軸受寿命とに及ぼすAl, Sb含有量と残留
γ量との影響を示す説明図。
【図3】スラスト型転動疲労試験機の概略構成を示す略
線図。
フロントページの続き (72)発明者 松崎 明博 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内 (72)発明者 天野 虔一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜1.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分
    組成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比
    にして10〜35%である鋼組織を有することを特徴とす
    る、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミク
    ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
  2. 【請求項2】C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜1.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
    〜2.0 wt%,Cr:0.05〜2.5 wt%, Mo:0.05〜0.5 w
    t%,Ni:0.05〜1.0 wt%, Cu:0.05〜1.0 wt%,
    B:0.0005〜0.01wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
    うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、 残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有
    し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10
    〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理
    生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化
    の遅延特性に優れた軸受部材。
  3. 【請求項3】C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜1.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Mn:2.0
    超〜5.0 wt%,Cr:2.5 超〜8.0 wt%, Mo:0.5 超〜
    2.0 wt%,Ni:1.0 超〜3.0 wt%, Cu:1.0 超〜2.5 w
    t%,N:0.012 超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,N
    b:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02
    〜0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 w
    t%, 及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいず
    れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避
    的不純物からなる成分組成を有し、かつ鋼中の残留オー
    ステナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有
    することを特徴とする、熱処理生産性ならびに繰り返し
    応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受
    部材。
  4. 【請求項4】C: 0.5〜1.5 wt%, Al:0.07超〜1.
    0 wt%,Sb:0.001 〜0.015 wt%, O:0.0020wt%以下
    を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5 wt%, Mn:0.05
    〜2.0 wt%,Cr:0.05〜2.5 wt%, Mo:0.05〜0.5 w
    t%,Ni:0.05〜1.0 wt%, Cu:0.05〜1.0 wt%,
    B:0.0005〜0.01wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%、の
    うちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、通常
    環境下での転動疲労を改善する成分として含み、 さらにまた、上記改善成分のいずれか1種以上のものが
    選択された場合はその元素を除く下記の成分、すなわ
    ち、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Mn:2.0 超〜5.0 wt%,C
    r:2.5 超〜8.0 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 wt%,Ni:1.
    0 超〜3.0 wt%, Cu:1.0 超〜2.5 wt%,N:0.012
    超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,Nb:0.05〜1.0 w
    t%, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02〜0.5 wt%,
    Ta:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 wt%及びCo:0.0
    5〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか1種または2
    種以上を、苛酷な環境下での転動疲労寿命を改善する成
    分として含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる
    成分組成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体
    積比にして10〜35%である鋼組織を有することを特徴と
    する、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミ
    クロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2008084749A1 (ja) * 2006-12-25 2008-07-17 Nippon Steel Corporation 被削性と強度特性に優れた機械構造用鋼

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