JPH0617123A - ショットピーニングに熱処理を併用する駆動系部品の強度向上方法および表面強化された駆動系部品 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 駆動系部品の表面強度向上方法を提供する。 【構成】 肌焼鋼製駆動系部品に対し、浸炭焼入を施
し、そのまま、あるいは焼戻し後にショットピーニング
処理して、ひき続き低温熱処理を行い、必要に応じさら
にショットピーニング処理を施して、表面に高い残留応
力分布を付与せしめる駆動系部品の強度向上方法。 【効果】 繰返し曲げ荷重に対し、疲労強度低下が著し
く改善される。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、合金肌焼鋼製の構造部
品であり、特に疲労強度および耐面損傷強度向上が要求
されるギアあるいはドッグクラッチのような駆動系部品
のくり返し荷重による疲労強度低下の小さい駆動系部品
の強度向上方法およびそれで得られた駆動系部品に関す
る。

【０００２】

【従来の技術】一般に、自動車等のエンジン駆動部品の
構造部材には常時変動する動力が伝達されるため、ギア
・ドッグクラッチ等の駆動系部品は、高強度、耐久性が
要求され通常肌焼鋼製部品に熱処理 (浸炭焼入、焼戻
し) を施したものが実用に供されている。

【０００３】近年、エンジンの高出力化、パワートレイ
ンのコンパクト化が進むにつれて、ギア・ドッグクラッ
チ (図１) などの部品において、歯元強度の不足から、
折損や、面強度の不足からくるピッティング等の面損傷
が問題となってきており、かかる点に対する対策として
ショットピーニングによる部品の表面強度向上手段が採
用されてきた。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】前記したギア・ドッグ
クラッチ等駆動系部品の歯元曲げ強度を向上させるため
には、応力が集中する歯元表面 (図２) における疲労亀
裂の発生をできるだけ抑制することが望ましい。通常、
疲労破壊の起点は、部品の表面であることが確認されて
おり、一般に問題となる高サイクル疲労の領域では、疲
労亀裂の発生までの寿命が破損寿命の殆んどを占めてい
るからである。

【０００５】また、ピッティングは、２物体が互いにあ
る面圧を受けて接触する際、相対辷りが存在する場合に
起こる表面疲労の一種 (図３) で、亀裂の発生は表面に
近い部分であることが知られている。前述のような欠陥
を抑制するには、曲げ疲労強度向上の場合と基本的に同
様に、表面の亀裂発生を遅らせる手段が有効である。

【０００６】これら駆動系部品の表面強度を簡易に向上
できる機械的手段の１つとしてショットピーニング法が
挙げられるが、通常のショットピーニング法によれば、
図４に示されるように処理表面より深さ10数μm のとこ
ろに最大の残留応力分布が生じ、表面強度向上には必ず
しも最適なものではなかった。この際、改質効果を高め
る方法として、ショット粒径、硬さ、投射速度を適切に
選定することにより、部品の最表面における圧縮残留応
力が最大となるように残留応力分布を形成させることも
可能である。

【０００７】ところが、ギヤ等のように長時間にわたり
繰返し応力が働く部品の場合、初期に形成された表面付
近の残留応力分布が使用中に次第に解放されてしまい、
亀裂の発生に対する抵抗力が弱まっていくことが観察さ
れている (図５) 。本発明は、かかる従来技術における
問題点を解消し、疲労亀裂が生成し難く、破損までの寿
命が著しく増加された駆動系部品の強度向上方法と、そ
れにより強化された駆動系部品を提供することを目的と
している。

【０００８】

【課題を解決するための手段】前記目的を達成するた
め、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ショットピーニ
ングと低温熱処理との組合せにより、部品表面における
圧縮残留応力の向上と高い転位密度の維持が可能である
ことを知見し、本発明を完成するに至った。すなわち、
本発明は表面強度を向上すべきギア・ドッグクラッチ等
の肌焼鋼製駆動系部品に浸炭焼入れ・焼戻しを施し、通
常のショットピーニングにひき続き硬度低下を生じない
低温度で所定時間熱処理を行うことを特徴とする駆動系
部品の強度向上方法を要旨としている。

【０００９】あるいはまた、本発明は表面強度を向上す
べきギア・ドッグクラッチ等の肌焼鋼製部品に浸炭焼入
れし、焼戻しをすることなくショットピーニングを施
し、ひき続き硬度低下を生じない低温度で所定時間熱処
理を行うことを特徴とする駆動系部品の強度向上方法を
も要旨とし、さらに硬度低下を生じない低温度で所定時
間熱処理を施した後、再度ショットピーニングを行う駆
動系部品の強度向上方法も要旨とするものである。

【００１０】そして、前記の各方法で得られた表面残留
応力分布を有する駆動系部品も、本発明の要旨とすると
ころである。

【００１１】

【作 用】本発明の構成と作用を説明する。本発明にお
いては、肌焼鋼製駆動系部品に対する熱処理 (浸炭焼入
れ) により、その組織にある残留オーステナイトが焼戻
しされてマルテンサイトに変態し、体積膨張の結果表面
に圧縮応力を生ぜしめる。その表面にショットピーニン
グを施すと、表面から10数μm の深さにわたって最大残
留応力分布が得られるのである (図６) 。このショット
ピーニングにひき続き、硬度低下を生じない低温熱処理
を施すことにより、Ｃ、Ｎがショットピーニングにより
生成した転位の周辺に拡散、析出してその移動を固定す
る一種の歪時効効果を発揮する。

【００１２】また、浸炭焼入後に焼戻しを行わず直ちに
ショットピーニングを施すと、残留オーステナイトが加
工誘起変態をおこして膨張し、ショットピーニングによ
り生じた転位密度を増加させ、これに低温熱処理を施す
ことにより、Ｃ、Ｎの拡散、析出が表面近くの圧縮残留
応力をさらに高める作用をする。そして、前記低温熱処
理後、さらにショットピーニングを適用すると、転位密
度が高められ表面強度は一層高められることになる。こ
の結果、表面を発生起点とする疲労亀裂の生成を遅延さ
せることができ、破損までの寿命を著しく増加させるこ
とができる。

【００１３】

【実施例】本発明の実施例を説明するが、これによって
本発明は限定されるものではない。 実施例１ 図１に示すドッグクラッチを、表１に示す材料で製作
し、浸炭焼入（930℃で３時間、830℃で20分間保持し、
115℃の油中に焼入）、焼戻し（180 ℃で１時間焼戻
し）を行なった後に、ショットピーニング処理 (条件：
直径 0.3m/m HRC60カバーレッジ 200％）に引続き、 19
0℃４時間の熱処理を行なった。この低温熱処理で、硬
度は殆んど変化しなかったが残留応力分布は図６に示す
ように通常の浸炭焼入を施したものに比べて向上した。
また繰返し曲げにおける残留応力分布は図７のとおりで
あった。 実施例２ 実施例１における浸炭焼入れ後の焼戻しを省略し直ちに
ショットピーニングを施し、その後低温熱処理を行なっ
た。その結果を図６、図７に示す。残留応力分布は向上
するが、繰返し曲げ寿命にはあまり寄与していないこと
がわかる。 実施例３ 実施例２において低温熱処理後、さらにショットピーニ
ング (条件：直径 0.3m/m HRC60 カバーレッジ 200％）
を行なった。その結果図６、７に示すように残留応力分
布も、繰返し寿命も共に向上した。

【００１４】

【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成され
ているからショットピーニングと低温熱処理の相乗作用
により、駆動系部品の寿命が著しく向上され、産業上益
するところ極めて大である。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明が適用されるドッグクラッチの斜視図で
ある。

【図２】ギアの噛み合い接触面を示す説明図である。

【図３】ピッティング発生原因となる応力分布の説明図
である。

【図４】通常のショットピーニングにより生ずる残留応
力分布の説明図である。

【図５】駆動部品における残留応力分布の運転中の変化
を示すグラフである。

【図６】ショットピーニングと熱処理の組合せによる残
留応力分布の変化を示すグラフである。

【図７】ショットピーニングと熱処理を複合した結果、
疲労強度に与える効果を示すグラフである。

Claims (5)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 表面強度を向上すべき駆動系部品に浸炭
   焼入れ・焼戻しを施し、通常のショットピーニングにひ
   き続き、硬度低下を生じない低温度で所定時間熱処理を
   行うことを特徴とする駆動系部品の強度向上方法。
2. 【請求項２】 表面強度を向上すべき駆動系部品に浸炭
   焼入れし、焼戻しをすることなくショットピーニングを
   施し、ひき続き硬度低下を生じない低温度で所定時間熱
   処理を行うことを特徴とする駆動系部品の強度向上方
   法。
3. 【請求項３】 硬度低下を生じない低温度で所定時間熱
   処理を施した後、再度ショットピーニングを行う請求項
   ２記載の駆動系部品の強度向上方法。
4. 【請求項４】 最表面残留応力が−1000Mpa以上であ
   り、表面から10数μmに最高残留応力帯域が存在するこ
   とを特徴とする駆動系部品。
5. 【請求項５】 表面残留応力分布が請求項１, ２または
   ３記載の方法により与えられた駆動系部品。