JPH0437715B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明は、細菌の分離、増菌培養、及び薬剤
感受性試験等に用いられる細菌培養用シヤーレに
関するものである。

〔従来の技術〕

病院等における細菌検査では、感染症の原因と
なる病原体を検出するため、検査材料からの細菌
の分離培養、並びに増菌培養操作を行わなければ
ならない。特に、感染症の病像が複雑多岐にわた
り、臨床所見からの病原菌の推定が困難になりつ
つある現在、細菌検査による結果はより重要なも
のとなつている。

ところが、細菌はその種類により増殖に適する
培地が異なるため、病原菌をスクリーングするに
あたつては、検査材料から病原菌として検出され
る可能性のある細菌各々について適切な培地を準
備する必要がある。

従来の細菌培養用シヤーレで各種の平板培地を
作製するためには、培地成分を溶解し、滅菌、分
注、凝固と繁雑な操作を必要とし、なおかつ、各
操作を可及的無菌的に操作せねばならず、さらに
通常一シヤーレにつき一培地の分注であるため、
一検体当たりに要するシヤーレ枚数も多くなり、
検体数や取扱い菌種の一定でない病院検査室等で
は、用時必要量を調製することは事実上不可能に
ちかい。

従つて、多くの施設では、一定期間内の見込必
要量を一度に作製、あるいは購入し、冷蔵庫に保
存しながら消費する方法をとらざるを得ないが、
この場合も単に蓋体を蓋合しただけの状態で保
存、あるいは購入されるため、湿気や雑菌等が侵
入するなどの問題点があつた。

また、従来の培地では使用前の乾燥が不可欠な
操作であるが、保存中、あるいは購入時に脱気状
態であつた培地も、この乾燥操作中に空気中の酸
素を溶解する結果となり、嫌気性菌を扱う場合に
は乾燥後、嫌気チヤンバー内に放置するなどの必
要があつた。

接種操作についても、従来の細菌培養用シヤー
レでは、そのほとんどが一シヤーレにつき一培地
であるために一検体当たりに要するシヤーレ枚数
も多くなり、必然的に操作が煩雑とならざるを得
なかつた。この点については、シヤーレ本体内部
に隔壁を設けた分画シヤーレに種類の異なる培地
を分注する方法もあるが、培地作製の際に、各培
地間、及びシヤーレ隔壁との間に段差を生ずるた
め、接種操作においては各分画ごとに行わなけれ
ばならない点において、前記一シヤーレにつき一
培地の場合と変わりはない。

〔発明が解決しようとする問題点〕

そこで、この発明は上記従来例の細菌培養用シ
ヤーレが有する問題点、すなわち培地を作製する
ために煩雑な操作が要求されるという点、保存や
輸送の際に培地に湿気や雑菌が侵入するという
点、さらに接種操作においても一回の操作で一つ
の培地にしか接種することができず、作業の能率
が非常に悪いという点を解決しようとするもので
ある。

〔問題点を解決するための手段〕

そのため、この発明では、シヤーレ本体の上縁
口部を被覆する透過性膜を、着脱可能な不透過性
膜で被覆し、シヤーレ底部に小孔を設けている。
そして、透過性膜は、充填される培地の成分を浸
出透過し、かつ細菌を保持しうるものとしてい
る。また、不透過性膜は、少なくとも水及び酸素
を透過しないものとしている。さらに、この発明
では、必要に応じ、シヤーレ底部より不透過性膜
に達する高さの隔壁を設けたり、小孔に封止体を
設けている。

〔作用〕

上記手段を施した結果、培地の作製はシヤーレ
底部に設けた小孔から培地用充填物を分注するこ
とにより、簡単かつ無菌的に行なえ、保存、輸送
の際にも湿気や雑菌が侵入することなく、また培
地が直接空気に触れることなく封入されるため酸
化等による培地の劣化が抑制されるようになつ
た。また接種操作においても、透過性膜により、
培地が分画されている場合も同一平面の培養面が
得られるため、一回の操作でその分画された培地
の全部へ一度に接種することができるようになつ
た。

〔実施例〕

以下、この発明の構成を実施例として示した図
面に従つて説明する。

１はプラスチツクまたはガラス等の材質よりな
り、好ましくは透明体としたシヤーレ本体であ
り、その上縁口部を透過性膜２で被覆し、シヤー
レ底部３には小孔４を設けている。前記透過性膜
２は、フイルム状又はシート状として実施される
が、シヤーレ本体１とこの透過性膜２との間に充
填される培地の成分を、毛細管現象によつて透過
性膜２表面に浸出しうるだけの微細孔、または間
隙を有することが必要である。その材料として
は、例えば、セルロースエステル系、ポリプロピ
レン系、ポリカーボネート系、フツ化ポリビニリ
デン、芳香族系ポリマー等の合成樹脂からなる多
孔性膜や、多孔性ゴム膜等が好ましいが、充填さ
れる培地が寒天等のゲル化剤を含む場合であれ
ば、布や紙等の間隙の広い材料も適用可能であ
る。尚、合成樹脂膜において疎水性のものは、あ
らかじめ親水処理を施しておくことは言うまでも
ない。また透過性膜２の強度は、培地を充填した
際に平面を保ちうる程度で十分であるが、材料に
より必要があれば、合成繊維等による補強、ある
いは固形培地の場合には培地が凝固するまでの
間、この透過性膜２と以下に説明するシヤーレ蓋
５との間隙に平らな補強材を挿入することにより
補強することができる。さらに、シヤーレ底部３
の小孔４には、着脱可能とした封止体６を設け
て、滅菌後のシヤーレ本体１内部を無菌状態に保
つておくことが好ましく、培地分注に際しては、
従来のシヤーレと同様にシヤーレ全体として滅菌
状態で供されることはいうまでもない。又、第５
図から第８図に示す実施例のようにシヤーレ底部
３は、シヤーレ本体１の周縁部から小孔４に至る
勾配を有するものとして実施でき、培地分注の際
に泡沫を生ずることなく培地充填を行うことがで
きる。

７は前記シヤーレ本体１の上縁口部を被覆する
透過性膜２を、さらに被覆する着脱可能な不透過
性膜であり、フイルム状又はシート状として実施
され、その膜厚には限定されることがないが、少
なくとも防水性と酸素を透過しにくい性質を兼ね
備えることが必要である。その材料としては、ポ
リアクリロニトリル、ナイロン、ポリメタクリロ
ニトリル、エチレン・ビニルアルコールポリマ
ー、ポリビニリデンクロリド、ポリエチレンテレ
フタレート、ポリビニルクロリド等の酸素ガスバ
リヤー性の高い合成樹脂フイルムが好ましいが、
他の材料においても、上記高酸素ガスバリヤー性
樹脂やアルミニウム箔等の金属箔を積層すること
により、目的を達成できるものであればよい。

５はプラスチツクまたはガラス等の材質よりな
り、好ましくは透明体としたシヤーレ蓋であり、
そを内側周縁部にはリング状の突起８を設けてい
る。この突起８は、透過性膜２とシヤーレ蓋５と
の間に間隙をつくり、透過性膜２表面に増殖する
細菌のコロニーがシヤーレ蓋５内面に付着するの
を防止するためのものであり、また外界との適当
な気密を保つために設けられている。尚、前記突
起８はかならずしもシヤーレ蓋５の内側周縁部に
設ける必要はなく、透過性膜２の周縁部またはシ
ヤーレ本体１の上端周縁部に設けることもでき
る。

前記シヤーレ本体１には、そのシヤーレ底部３
より透過性膜２に達する高さの隔壁９を設けるこ
とができる。この場合、シヤーレ底部３の小孔４
はこの隔壁９により生ずる分画部１０のすべてに
設ける必要がある。又、シヤーレ底部３は、シヤ
ーレ本体１の周縁部から小孔４に至る勾配を有す
るものとして実施できることはいうまでもない。

〔発明の効果〕

この発明の細菌培養用シヤーレは、上述の如く
構成されているため、シヤーレ本体１への培地充
填は、従来のようにシヤーレ蓋５を開けて培地を
分注する必要がなく、シヤーレ蓋５をしたままの
状態でこのシヤーレを裏返し、シヤーレ底部３の
小孔４より培地の分注を行うことができる。従つ
て、分注された培地は分注の際にシヤーレ蓋５を
開けていないため、従来のものに比べ雑菌汚染の
危険が少ないばかりでなく、培地が透過性膜２を
底面として凝固し、接種・培養に供する際には、
不透過性膜７を剥離することにより、この透過性
膜２が培養面となるため、従来のように培地凝固
に水平な台を必要とすることもなく、また凝固時
の振動による培地表面の乱れも生じない。

さらに培地充填後の保存、輸送に際しても、培
地が不透過性膜７とシヤーレ本体１により封入さ
れるため空気と触れることがなく、従つて酸化等
による培地の劣化や湿気による培養面の濡れ、並
びに保存中の雑菌汚染を防止する効果を有する。

同様に、分画を有するこの発明のシヤーレを用
いた場合には、各分画に充填された培地の培養面
の高さは透過性膜２により統一されるため、従来
の分画シヤーレ培地では各培地間及び隔壁９との
段差のため適用できなかつたスパイラル・プレー
ター（スパイラル・システム・インストルメンツ
社；米国）等の自動接種装置による接種が可能と
なり、かつ用手法による接種においても一回の操
作で多数の培地への接種を行うことができる。

また、この発明の細菌培養用シヤーレは前述の
如く、内部に分注された培地を空気と遮断して保
存できることから、あらかじめ減圧、煮沸、超音
波処理等により脱気を行なつた培地を分注するこ
とにより、嫌気性細菌の培養において、従来の培
地に比べ溶存酸素量の少ない好適な培地を供する
ことができる。

さらに、この発明の細菌培養用シヤーレによれ
ば、シヤーレ本体１内に充填される培地の形状は
シヤーレ本体１と透過性膜２とによつて維持され
るので、液体や半流動培地、寒天培地等のあらゆ
る培地の充填が可能である。例えば、シヤーレ本
体１内にあらかじめポリアクリル酸ソーダ、スタ
ーチポリアクリレート、PVA等からなる高吸水
性樹脂あるいは、天然物由来のアルギン酸、カル
ボキシメチルセルロースからなるゲル化剤等を封
入しておくことにより、液体培地の充填も可能で
ある。これにより従来煩雑であつた薬剤含有培地
の作製がより簡便になり、加えてシヤーレ本体１
の各分画部１０ごとに薬剤含有濃度の異なる培地
を充填すれば、簡便な薬剤感受性試験用培地とな
る。

その他、この発明の細菌培養用シヤーレは、分
画を用いて適当な培地を組み合わせることによ
り、一〜数枚で病原菌のスクリーニングを行うこ
ともできる。

【図面の簡単な説明】

第１図はこの発明に係る細菌培養用シヤーレの
一実施例を示す一部破断分解斜視図、第２図は第
１図に示す実施例のシヤーレ蓋の底面図、第３図
は第１図に示す実施例のシヤーレ本体の底面図、
第４図は第３図中のＡ−Ａ線による断面図、第５
図はこの発明に係る細菌培養用シヤーレの他実施
例を示す一部破断分解斜視図、第６図は第５図に
示す実施例のシヤーレ蓋の底面図、第７図は第５
図に示す実施例のシヤーレ本体の底面図、第８図
は第７図中のＢ−Ｂ線による断面図、第９図はこ
の発明に係る細菌培養用シヤーレの他実施例を示
す一部破断分解斜視図、第１０図は第９図に示す
実施例のシヤーレ蓋の底面図、第１１図は第９図
に示す実施例のシヤーレ本体の底面図である。 １……シヤーレ本体、２……透過性膜、３……
シヤーレ底部、４……小孔、６……封止体、７…
…不透過性膜、９……隔壁。

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 １ シヤーレ本体１の上縁口部を、充填される培
   地の成分を浸出透過し、かつ細菌を保持しうる透
   過性膜２で被覆し、さらにこの透過性膜２を、着
   脱可能とし、少なくとも水及び酸素を透過しない
   不透過性膜７で被覆し、しかもシヤーレ底部３に
   小孔４を設けたことを特徴とする細菌培養用シヤ
   ーレ。 ２ シヤーレ本体１が、そのシヤーレ底部３より
   透過性膜２に達する高さの隔壁９を有したもので
   ある特許請求の範囲第１項に記載の細菌培養用シ
   ヤーレ。 ３ 小孔４が着脱可能とした封止体６を有したも
   のである特許請求の範囲第１項に記載の細菌培養
   用シヤーレ。