JP7841732B2 - ガス巻き込み欠陥の防止を目的としたオーバーフロー最適設計方法 - Google Patents
ガス巻き込み欠陥の防止を目的としたオーバーフロー最適設計方法Info
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Description
一般的にオーバーフローを設置する位置は,(1)溶湯の最終充填位置,(2)溶湯が合流する部分,(3)金型温度の低い部分,(4)溶湯のよどみ・死角となる部分が推奨されている(非特許文献1).また体積に関しては,大きなものを一つ設置するよりも,小さいものを複数設置することが望ましいとされている(非特許文献1~3).
近年では,最適化理論と数値流体力学(Computational Fluid Dynamics.以下,「CFD」という)を組み合わせたダイカストの金型形状最適化に関する研究がなされている(非特許文献4~8).例えばEl-Fotouhらは,実験計画法を用いて,ポロシティを最小化する単一のオーバーフロー及びランナーのゲート位置の最適化を行っている(非特許文献7).また,佃らはガス巻き込み量などを最小化する複数のオーバーフロー及びランナーのゲート位置の最適化を行っている(非特許文献8).
本発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,ガスを巻き込んだ製品部内の溶湯を完全に排出するため,ガスを巻き込んだ溶湯の残留位置を考慮することで位置を自動設計し,充填中のガスを巻き込んだ溶湯の湯流れ方向を推定することで体積を自動設計する,オーバーフローの最適設計システムを提供することにある.
こうして,本願発明に係るオーバーフロー最適設計方法は,所定のダイカスト製品を鋳造法で製造する際のガス巻き込み欠陥の防止を目的とし,下記(1),(2)のステップを含み,コンピュータを用いた数値流体力学計算(CFD)によって計算を実施するオーバーフロー最適設計方法であって,
(1)前記ダイカスト製品のオーバーフローの設置点を決定するオーバーフロー位置決定ステップ,
(2)オーバーフローの初期の形状を決定後,下記(2-1)及び(2-2)の評価に基づき,その体積に対応する形状のオーバーフローの体積と形状を決定するオーバーフロー体積決定ステップ,
前記(1)オーバーフロー位置決定ステップにおいては,オーバーフローを設けない状態で溶湯の湯流れをCFDによって求め,所定の閾値以上のガスを巻き込んだ溶湯の残留位置を求め,設定された範囲内の点からガスを巻き込んだ溶湯位置である点との距離からオーバーフロー設置候補点Pcを決定し,これらの設置候補点について流体停留時間Trを計算し,その最も大きい設置候補点をオーバーフロー設置点とし,
前記(2)オーバーフロー体積決定ステップにおいては,1つのオーバーフローの一応の体積を決定し,
(2-1)オーバーフローゲート部の評価を行うオーバーフローゲート評価ステップでは,オーバーフローゲート部に設定した検査面を通過する溶湯の流体体積Vfrと空気連行体積Varを測定し,空気連行体積率Vaを計算し,Vaが所定の閾値より小さくなった場合に,次の内部評価ステップに進み,
(2-2)製品内部の評価を行う内部評価ステップでは,製品内部におけるオーバーフロー周辺のガスを巻き込んだ溶湯のセルのみを抽出し,抽出した各セルの速度ベクトルを合成して湯流れ方向のベクトル[V]を求め,湯流れ方向とオーバーフローの位置とを数式で表現し,法線上の点Pfと重心Gを結ぶベクトル[PfG],点Pfと重心Gから湯流れ方向の先端に移動した点Pvを結ぶベクトル[PfPv],点Pfとオーバーフローの設置点Pdを結ぶベクトル[PfPd]について,下記式(3)を計算し,
(2-3)次に,上記(2-1)及び(2-2)を満たしたオーバーフローへの排出停止時の溶湯充填時刻における検査体積から測定されるオーバーフローの充填率Frとオーバーフローの初期体積V0から必要体積V'(=V0×Fr)を計算し,当該オーバーフローの体積をV'に形状の変更を行い,
各オーバーフローの体積・形状が変更される毎に上記(2-1)~(2-3)を繰り返し,最終的に全オーバーフローの体積・形状が条件を満足するまで最適化を行うことを特徴とする.
上記発明において,ガスを巻き込む量の閾値としては,特に限定されるものではないが,0.5~0.9,好ましくは0.6~0.8,更に好ましくは約0.7である。なお閾値は,オーバーフローの設置点を求める場合と,体積を求める場合とで適宜に変更することができる(例えば,前者では0.9を後者では0.7を用いることができる).位置と体積における閾値の変更だけでなく,製品の部位毎の重要度などにも応じて変更することは可能である.例えば,摺動面などの製品の欠陥を除去するための加工が難しい位置では0.5,欠陥を多少許容してもよい位置では0.9などに設定できる.但し,下記実施形態では,製品全体からVa値が0.7以上の溶湯を取り除きたいため,全て0.7として設定した.
<オーバーフロー設計における課題>
従来,試作製造時に鋳巣が発生すれば,オーバーフローの再設計が繰り返し行われることが多かった.その際,製品部からガスを巻き込んだ溶湯を完全に排出するため,問題のある位置へのオーバーフローの追加設置や体積の増大が行われるが,結果的に余計なオーバーフローとなってしまうことも多い.さらに,この余計なオーバーフローの設計が,ガスを巻き込んだ溶湯の完全な排出への障害となる可能性もある.
この繰り返し設計における問題を明らかにするために,簡易的な方案を用いて湯流れ解析を行った.湯流れ解析には,自作のソフトウエアの他に多くの計算用ソフトウエアを用いることができるが,本実施形態ではFlow Science社のFLOW-3Dを用いた(非特許文献10).また,ガスの巻き込みやすさの指標には空気連行モデル(非特許文献11,12)を使用した.CFD解析におけるメッシュセルは1mmに設定した.また,溶湯はダイカスト鋳造で一般的に用いられているアルミニウム合金ADC12,金型材料は熱間工具鋼SKD61とした.
図1(a)では,排気ランナーのみで,ガス及びガスを巻き込んだ溶湯の排出を行っているが,製品右側の青枠内部に大きくガスを巻き込んだ溶湯の残留が確認できた.そこで,製品右側の残留したガスを巻き込んだ溶湯を排出するため図1(b)に示すようにオーバーフローを設置した.しかしながら,製品右上側の緑枠内部にガスを巻き込んだ溶湯の残留が確認できたため,図1(c)で示すようにオーバーフローを追加設置した.その結果,ガスを巻き込んだ溶湯の多くを製品部から排出できたが,図1(b)では残留していなかった位置に,新たなガスを巻き込んだ溶湯の残留を確認した.
図中の製品上側1のガスを巻き込んだ溶湯の残留位置では,追加設計により製品下側のオーバーフローへの余分な溶湯の排出が増加し,製品部への充填が遅くなることで遅れて到達するガスを巻き込んだ溶湯を排出できない結果となった.また,製品右側2のガスを巻き込んだ溶湯の残留位置では,追加設計により,設計前の製品下側の体積の大きいオーバーフローへと向かう流れが小さくなることで排気ランナーへと向かう流れと引き合い,ガスを巻き込んだ溶湯が排出できずに残留してしまった.
このように,必要以上のオーバーフローによってガスを巻き込んだ溶湯の排出を試みようとすると,余分な溶湯の排出も増加することでオーバーフロー間において流れが引き合い,滞留してしまう.結果として,ガスを巻き込んだ溶湯が排出されずに製品部に残留する.また,歩留まりも悪くなるため好ましくない.すなわち,製品部からガスを巻き込んだ溶湯を適切に排出するには,余計な溶湯の排出を行わず,適切な位置に必要最小限の大きさ(体積)を持つオーバーフローを設計することが重要であることが分かった.
本研究では,余分な排出を行わず製品部からガスを巻き込んだ溶湯を完全に排出するため,ガスを巻き込んだ溶湯の湯流れ方向を推定することで,どのオーバーフローから溶湯を排出すべきかを判定する湯流れ推定アルゴリズムを提案する.最終的には,本アルゴリズムを組み込んだオーバーフロー最適設計システムを開発する.金型内の模式図を用いて湯流れ推定アルゴリズムを3つの計算ステップに分けて説明する.
1.ガスを巻き込んだ溶湯の抽出
ガスを巻き込んだ溶湯の湯流れ方向を推定するため,対象とする溶湯のセルを抽出した.このとき,図2に示すように金型内全体のガスを巻き込んだ溶湯のセルを抽出するのではなく,オーバーフロー周辺のガスを巻き込んだ溶湯のセルのみを抽出することで,製品部位で異なる湯流れに対応した湯流れ方向を推定し,位置により異なるオーバーフローの必要な体積を求めた.
ここで,点Pdはオーバーフローが設計されている平面におけるオーバーフローゲートと製品部の接続点である.また,青で示す範囲を抽出範囲とし,赤いセルが抽出されたガスを巻き込んだ溶湯のセルである.図2(a)ではy軸方向上側のオーバーフロー,図2(b)ではy軸方向下側のオーバーフローについて溶湯を排出すべきか判定している.
上記1で抽出したガスを巻き込んだ溶湯の湯流れ方向を推定するため,図3に示すように,抽出した溶湯の各セルの速度ベクトルを合成し,xy平面上での湯流れ方向[V]を求めた.湯流れ方向[V]は式(1)のように定義した.
ここで,図3に示すオレンジ色の矢印が,抽出した溶湯の湯流れ方向を示す.湯流れ方向は,抽出した各セルの座標値の平均から計算できる重心座標(Gx,Gy,Gz)から発生しているとする.また,図3(a)及び図3(b)は上記1で同じセルを抽出しているため湯流れ方向は等しい.
湯流れ方向とオーバーフローの設置点との関係を数式的に表現し,ガスを巻き込んだ溶湯を排出すべきオーバーフローの判定を行った.
はじめに,式(2)により,図4(a)及び図4(b)に青色の線で示すxy平面上での重心座標(Gx,Gy,0)を通り,傾きVの方程式に対して法線の方程式f(x)を導出した.
図4(a)に示すように式(3)の計算結果が0以上である場合,湯流れ方向がオーバーフローの設置点へと向かっていると判定し,オーバーフローへ溶湯を排出した.一方,図4(b)に示すように式(3)の計算結果が負である場合,湯流れ方向がオーバーフローの設置点へと向かっていないと判定し,オーバーフローへの溶湯の排出を停止した.
本アルゴリズムにより,溶湯の排出の必要性が高いオーバーフローの体積は増大し,必要性が低いオーバーフローの体積は減少する.
本研究では,前述の湯流れ推定アルゴリズムを組み込んだオーバーフロー最適設計システムを開発した.本節では,実製品を例にとり,オーバーフロー最適設計システムについて説明する.なお,オーバーフロー最適設計システムのフローチャートについては,図20に示した.
本研究で対象とする製品は,バイクのエンジンを構成する部品の一つであるクランクケースとし,大きさは縦幅250mm,横幅600mm,奥行き100mmであった.また,溶湯はアルミニウム合金ADC12,金型材料は熱間工具鋼SKD61とした.解析に使用したコンピューターの性能はCPUがIntel社製Core i9-10850K(クロック周波数は3.6GHz)であり,メモリは32GBである.なお,解析メッシュは3mmとし,メッシュ数は2,001,348である.この条件下で,充填完了までの解析には約1時間要した.
本研究では,一般的な方法により設計されたオーバーフローを従来形状と称する.図5に湯口方案及び排気ランナー,従来形状のオーバーフローを含めた金型形状を示した.
オーバーフローの設置点はガスを巻き込んだ溶湯位置との距離が大きくなると,余分な排出が多くなると考えられる.そのため,ガスを巻き込んだ溶湯位置に近く,より効率よく排出することが可能な位置に設置することが重要となる.
はじめに,オーバーフローを除いた解析を行うことで排気ランナーでは排出できない製品部のガスを巻き込んだ溶湯の残留位置を特定し,適切な設置点を自動決定した.図6にオーバーフローを除いた場合における,充填完了時刻までの0.02s毎の金型内の湯流れ挙動を示した.
図6(a)及び図6(b)より,製品左側の円形部ではVa値の高い溶湯が上下から合流していた.しかしながら,製品左側の排気ランナーは円形部より離れた製品上部に設計されているため排出できずに図6(c)に示す充填完了時においても製品部に残留していた.また,製品右下側にもガスを巻き込んだ溶湯が排気ランナーでは排出できずに残留していた.他にも,製品右側のピン部ではVa値の高い溶湯が詰まり,排出できずに残留していた.
最後に,点Pcの中から設置点Pdを決定する.このとき,Va値が0.7以上の数値を有する溶湯は全て製品部から排出したいため,Va値ではなく別の評価値を用いて設置点を一意に決定した.そこで,流体滞留時間Trを用いた.Trは各セルに流体が滞留している時刻を表し,大きい値を示す位置ほど流体が移動せず同じ場所に留まっている(言い換えると,大きい値を示す位置ほど金型内に留まっている時間が長い溶湯である)ことを示す.つまり,設置候補点の中から流体滞留時間が大きい位置を設置点として決定することで,製品部の湯流れ性の改善とガスを巻き込んだ溶湯を効率よく排出できる.具体的には,式(5)~式(7)で表すように設置点Pd間でLminの距離を保つことが可能な設置候補点Pcの内,滞留時間Trが最大の点を設置点Pdとして決定した.
なお,本実施形態の金型形状では,滞留時間Trが0.08s以上を示す位置と,空気連行体積率Vaが0.7以上を示す位置はおおよそ一致しており,製品内部において溶湯の滞留位置でガスを巻き込んだ溶湯を閉じ込めたままになっていることが分かった.滞留時間Trを設置点決定の評価値とすることで,ガスを巻き込んだ溶湯の排出に加え,製品内部の湯流れが改善されると考えられた.
図6(c)と図8を比較すると,決定された11点の設置点はオーバーフローを除いた湯流れ解析結果においてガスを巻き込んだ溶湯が残留していた位置付近に存在していることが確認できた.
体積設計システムでは,以下の3段階の評価を経てそれぞれのオーバーフローの体積を決定した.それぞれの評価は解析と並行して溶湯の充填時刻のタイムステップ毎に行った.ステップ幅は0.0005sとした.
(1)測定面によるゲート部評価
(2)湯流れ推定アルゴリズムによる製品内部評価
(3)検査体積によるオーバーフロー内の溶湯体積の評価及びオーバーフロー形状の変更
第1評価では,ゲート部を通過する溶湯の評価を行った.ここでは,次のステップで行う製品部評価に要する計算時間が長いため,ゲート部を通過する溶湯を評価することでガスを巻き込んだ溶湯の流れを把握し,計算コストを低減した.具体的には,図10(a)に示すようにオーバーフローゲート部に設定した検査面を通過する溶湯の流体体積Vfr及び空気連行体積Varを測定し,式(8)を用いて空気連行体積率Vaを計算した.
図10(b)より,はじめにゲート1のVa値が0.7より小さくなり第2評価へと移った.第2評価では,前述した湯流れ推定アルゴリズムを適用し,製品部評価を行った.ここで,より正確に湯流れを推定し,必要最小限のオーバーフローの体積を設計するため,<湯流れ推定アルゴリズム>のガスを巻き込んだ溶湯の抽出時に次の3つの操作を行った.
2つ目は,湯流れを推定するに当たり,溶湯をまとまりのある個々の領域として分割し評価を行うため,図11(b)から図11(c)となるように,取得したセル群に対してMathWorks社のMATLABを用いてラベリング処理を行い,「26連結」を満たすセルを取得した(非特許文献13).「26連結」とは,3次元イメージにおいて,面・エッジまたはコーナーが接触している場合に,それらのセルの連結性があるとした.
3つ目は,2つ目の操作で抽出された領域には微小な領域も含まれており,すべてに対して評価を行うと,かえって余分な排出が増える可能性がある.そのため,評価を行う領域を選択する.そこで,図11(c)から図11(d)となるように,抽出したそれぞれの領域の空気連行体積を式(9)より計算し,その値が設定値以上の場合,評価することとした.本研究では,設定値を0.50cm3とした.
なお,それぞれの評価は各タイムステップ毎に行うため,解析の実行とポストプロセスによる評価を常に同時に行う必要がある.そのため,例えばMATLABのbatchコマンドを用いることが好ましい.この機能では,MATLABのセッションの負荷をオフロードしてバックグラウンドで実行できる.これにより,解析をバックグラウンドで並列実行し,解析の実行と評価を同時に行える.製品内部評価では,ポストプロセスにより解析範囲のセルすべての情報を取得し,画像処理的に評価を行った.このポストプロセスによるセル情報の取得に時間がかかるため,評価に掛かる必要な時間が長くなる.しかし,解析はバックグラウンドで実行され続けているため,評価中にも次のタイムステップへと進み,評価時の判定と実際に実行されている解析状況に遅れが生じる.これを防止し,各タイムステップにおいて正しく評価するため,例えばFLOW-3DのPEEKと呼ばれるプログラムのモニタリング機能を用いることが好ましい.この機能では,解析実行中のFLOW-3Dを制御でき,シミュレーションの一時停止,再開,強制終了などの指令を送ることができる.これにより,製品内部評価中はシミュレーションを一時停止させ,評価終了後はシミュレーションを再開させることで,遅れを生じることなく各タイムステップにおいての評価をすることが可能となる.各評価での判定を満たした場合は,計算を続け,指定した回数(例えば3回)だけ連続で評価を満たした場合に体積を決定し,オーバーフローの体積を決定した後は,それ以上解析を続ける必要がないため,この機能を用いてシミュレーションを強制終了させる.これは,ガスを巻き込んだ溶湯がオーバーフローへ遅れて到達してくる場合への有効な対処あると考えられる.一つのオーバーフローの体積決定後は,形状変更されたそのオーバーフローを用いて,体積が未決定のオーバーフローに対して評価を行い,残りのすべてのオーバーフローの体積を決定する.
図12では,緑色で示す1つの領域が抽出され,湯流れ推定アルゴリズムの判定式が0以上となるためオーバーフローへの排出を続ける.一方,図13では緑色と青色で示す2つの領域が抽出され,どちらの領域も湯流れ推定アルゴリズムの判定式が0より小さくなるためオーバーフローへの排出を停止する.
第3評価では,第2評価までの判定を満たしたオーバーフローへの排出停止時の溶湯充填時刻における検査体積から測定されるオーバーフローの充填率Frとオーバーフローの初期体積V0から式(10)を用いて必要体積V’を計算する.ここまでオーバーフローへの溶湯の排出を停止すると述べてきたが,これは初期体積V0から必要体積V’へと変更することで,それ以上の排出を停止するという意味である.
ある一つのオーバーフローの形状変更後は,その形状変更後のオーバーフローを用いて再度シミュレーションを行い,上記3段階の評価を同様にそれぞれのオーバーフローに対して行う.本対象金型では合計11回の解析を行った.なお,解析では各オーバーフローの形状決定後に終了するため,金型全体への充填完了までは行わなかった.自動設計の結果として,時刻とオーバーフロー内の流体体積の関係を図14に示した.
図14に示すように,製品内部評価によりオーバーフローの体積は順に一意に決定され,多くの溶湯の排出が必要な位置では体積が増大した.これらの最適化には約7時間の計算を要した.
提案手法により設計されたオーバーフローの有効性を検証するために,従来形状を用いた場合と提案形状を用いた場合の湯流れ解析を行い,比較を行った.従来形状及び提案形状のそれぞれの場合における,充填完了時刻までの0.03s毎の金型内の湯流れ挙動を図15及び図16に示した.
図15に示すように従来形状では,製品左側円形部においてVa値の高い溶湯が排出できずに充填の遅い製品右側へと流出し,製品中央部に留まっていた.また,最終充填部となる製品右下部においてもオーバーフローの体積が不足しているため,Va値の高い溶湯が排出できずに残留してしまっていた.その他にも,製品右側ピン部ではオーバーフローが設計されていないため,Va値が高い溶湯が先端で詰まっていた.
一方,図16に示すように提案形状では,製品左側円形部において従来形状を用いた場合と同様にVa値の高い溶湯が上下から合流するが,その位置におけるオーバーフローの体積が湯流れ推定アルゴリズムによってより大きく設計されているため,Va値の高い溶湯を積極的に排出できていた.また,製品右側及びピン部にも十分な体積のオーバーフローが設計され,従来形状でのVa値の高い溶湯の残留を解消できた.その他,それぞれのオーバーフローの体積に関しても大小が確認でき,設置点に応じた必要な体積が設計できた.
また,図17と図18では,オーバーフロー内が溶湯で満たされているかを分析することで,余分な排出を行わずにガスを巻き込んだ溶湯をオーバーフローに排出できているかどうかの判断材料として理解できる.すなわち,図17より従来形状ではオーバーフローの体積が不足し製品全体に赤色のガスを巻き込んだ溶湯が残留していた.一方で,図18より提案形状では製品左側円形部に赤色のガスを巻き込んだ溶湯の残留が僅かに確認できるが,製品部全体ではほぼ完全に排出を行えていた.こうして,オーバーフロー部では青色のガスを巻き込んだ溶湯が十分に排出されており,無駄な排出を行っていないことも確認できた.
従来実験より数値的に鋳巣が発生しやすいと考えられる式(9)より計算されるVa値が0.7以上の数値を有する評価値Jで比較を行った.比較結果を図19に示した.
従来のオーバーフロー形状を用いた解析結果では97.34cm3の空気連行体積が確認できた.これに対し,本実施形態のオーバーフローを用いた解析結果では,空気連行体積が0.68cm3となるまでガスを巻き込んだ溶湯を排出することができ,従来形状に比べ99.3%低減した.以上より,本実施形態の手法によってガスを巻き込んだ溶湯を残留させない最適なオーバーフローの設計を実現した.
次に,図20を参照しつつ,オーバーフロー最適設計システムのフローチャートについて説明する.各ステップの詳細については上述の通りであるため,ここでは簡単に各ステップが行う内容について説明する.
まず初めに,オーバーフロー設計前の解析結果を取得し(CFD results (without overflow).オーバーフローなしCFD結果取得ステップ:S100),設計者が設計に関する条件の入力を行い(Initial setting.初期設定ステップ:S110),システムを起動しオーバーフローの設置点を決定する(Overflow design positions.オーバーフロー位置決定ステップ:S120).
次に,決定した設置点に対して装置の制約などを踏まえた十分に大きいオーバーフローを初期形状として設計しCFDシミュレーターの構築を行う.ここでは,設計者が設計に関する条件の入力を行い(Initial setting.第2初期設定ステップ:S130),システムを起動し(Start.開始)それぞれの設置点に対する最適なオーバーフローの体積を決定する(Overflow volume.オーバーフロー体積決定ステップ:S200).
S200では全体として,体積が決定されたオーバーフローについて,決定された体積以上の溶湯が排出されないように形状変更を行う(Change of overflow shape.オーバーフロー形状変更ステップ:S240).具体的には,一つのオーバーフローの体積決定後,決定された体積に対応する形状のオーバーフローを用いてCFD解析を行い(CFD analysis.CFD解析ステップ:S210),オーバーフローゲートの評価を行い(Evaluation of overflow gate.オーバーフローゲート評価ステップ:S220),製品内部の評価を行う(Evaluation inside the product.内部評価ステップ:S230).S220については,Va値が所定の閾値(本実施形態では0.7)より小さくなるまで繰り返し実施される.S220とS230については,オーバーフローの数だけ繰り返し計算を行う.次に,オーバーフロー形状変更ステップS240を行い,オーバーフロー体積が何個決定できているかの評価を行う(Evaluation.評価ステップ:S250).これらをオーバーフローの体積・形状が変化する毎に,S210~S250を繰り返す.
全てのオーバーフローの体積が決定されている場合には,最後に自動設計されたオーバーフローを用いた全体の評価を再度行い(Evaluation.最終評価ステップ:S300),提案形状として提示する(End).
本研究では,解析中の製品部のガスを巻き込んだ溶湯の湯流れを推定し,オーバーフローの設置点との関係を評価するアルゴリズムを提案した.そして,このアルゴリズムを組み込んだ最適設計システムを構築し,限られた解析回数の中でガス巻き込み欠陥を防止するオーバーフローの最適設を行った.結果として,提案システムを用いて設計されたオーバーフローは従来形状のオーバーフローを用いた場合の解析結果と比較し,製品部の空気連行体積を大幅に低減した.このため,提案システムを用いてオーバーフローを設計することで欠陥発生の抑制が期待できる.
こうして本実施形態によれば,ガスを巻き込んだ製品部内の溶湯を完全に排出するため,充填中の溶湯の湯流れ方向を推定することで,オーバーフローの位置と体積を自動設計する最適設計システムを提供できた.
Claims (2)
- 所定のダイカスト製品を鋳造法で製造する際のガス巻き込み欠陥の防止を目的とし,下記(1),(2)のステップを含み,対象物をメッシュセルに分解し、当該セル毎にコンピュータを用いた数値流体力学計算(CFD)によって計算を実施するオーバーフロー最適設計方法であって,予め設計者が設計に関する条件を設定・入力しておき、
(1)前記ダイカスト製品のオーバーフローの設置点を決定するオーバーフロー位置決定ステップ,
(2)オーバーフローの初期の形状を決定後,下記(2-1)及び(2-2)の評価に基づき,その体積に対応する形状のオーバーフローの体積と形状を決定するオーバーフロー体積決定ステップ,
前記(1)オーバーフロー位置決定ステップにおいては,オーバーフローを設けない状態で溶湯の湯流れをCFDによって求め,所定の閾値以上のガスを巻き込んだ溶湯の残留位置を求め,設定された範囲内の点からガスを巻き込んだ溶湯位置である点との距離からオーバーフロー設置候補点Pcを決定し,これらの設置候補点について流体停留時間Trを計算し,その最も大きい設置候補点をオーバーフロー設置点とし,
前記(2)オーバーフロー体積決定ステップにおいては,前記オーバーフロー設置点で求められたオーバーフローについて、装置の制約を踏まえた十分に大きいオーバーフローを初期形状として決定し,
(2-1)オーバーフローゲート部の評価を行うオーバーフローゲート評価ステップでは,一つ一つのオーバーフロー全体に検査体積、および一つ一つのオーバーフローゲート部に測定面を設定し、オーバーフローゲート部に設定した検査面を通過する溶湯の流体体積Vfrと空気連行体積Varを測定し,
空気連行体積率Vaを下記式(8)より計算し,一つ目の条件で0.7以上の数値を有するセルのみを抽出する、
Vaが0.7より小さくなった場合に,次の内部評価ステップに進み,
(2-2)製品内部の評価を行う内部評価ステップでは,製品内部におけるオーバーフロー周辺のガスを巻き込んだ溶湯のセルのみを抽出し,抽出した各セルの速度ベクトルを合成して湯流れ方向のベクトル[V]を求め,湯流れ方向とオーバーフローの位置とを数式で表現し,法線上の点Pfと重心Gを結ぶベクトル[PfG],点Pfと重心Gから湯流れ方向の先端に移動した点Pvを結ぶベクトル[PfPv],点Pfとオーバーフローの設置点Pdを結ぶベクトル[PfPd]について,下記式(3)を計算し,
計算値が0以上である場合には湯流れ方向がオーバーフローの設置点に向かっていると判定してオーバーフローに溶湯を排出する一方,計算値が負である場合には湯流れ方向がオーバーフローに向かっていないと判定してオーバーフローへの溶湯の排出を停止し,
(2-3)次に,上記(2-1)及び(2-2)を満たしたオーバーフローへの排出停止時の溶湯充填時刻における検査体積から測定されるオーバーフローの充填率Frとオーバーフローの初期体積V0から必要体積V'(=V0×Fr)を計算し,当該オーバーフローの体積をV'になるように下記式(11)により形状の変更を行い,
式中、初期形状のオーバーフローの長さはl0,幅はW0,厚みはt0であり,形状変更後のオーバーフローの長さはl’,幅はW’,厚みはt’とする.
各オーバーフローの体積・形状が変更される毎に上記(2-1)~(2-3)を繰り返し,最終的に全オーバーフローの体積・形状が前記条件を満足するまで最適化を行うことを特徴とするオーバーフロー最適設計方法. - 請求項1に記載のオーバーフロー最適設計方法を実施するためのソフトウエア.
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