JP7772425B2 - ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nad+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(nmn)を定量する方法、並びにその方法を実施するためのキット及び濾紙 - Google Patents

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nad+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(nmn)を定量する方法、並びにその方法を実施するためのキット及び濾紙

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Description

本発明は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を定量する方法、並びにその方法を実施するためのキット及び濾紙に関する。
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide Adenine Dinucleotide:NAD+)は、エネルギー産生反応に必須な補酵素のことである。また、げっ歯類やヒト等において、加齢に伴い、当該NAD+が低下することが報告されている(非特許文献1)。
一方、ニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide Mononucleotide:NMN)も種々の生物種に存在しており、ニコチンアミドリボシド(Nicotinamide Riboside:NR)等と共にビタミンB3群と総称されるNAD+の前駆体である。また、これらのNAD+前駆体は、げっ歯類等において、生体内のNAD+を増加させることにより、老化関連疾患の病態を改善し得ることが報告されている(非特許文献2)。また、近年、NMN等のNAD+前駆体は、アンチエイジングのサプリメントとして販売されており、生体内におけるNAD+レベルの増加に注目が集まっている。
従って、上述のNAD+やNMN等のNAD+前駆体について、生体内におけるこれらのレベルを定量することは、病態や老化度の把握に繋がることが期待されている。その中で、NAD+やNMN等のNAD+前駆体のレベルを定量する方法が種々検討されている。例えば、非特許文献3等では、乾燥血液スポット法(Dried Blood Spot法:DBS法)によりNAD+が検出可能であることが報告されている。
ここで、上記DBS法とは、被験対象に由来する血液を、専用の濾紙に滴下(スポットとも言う)し、乾燥させた後、抽出操作により当該血液中に存在する測定対象物質の濃度等を定量する方法である。当該DBS法によれば、(1)血液をそのまま使用するため、血液から血漿成分を分離する作業等が不要である、(2)従来の血液検査等に比べて少量の採血量で実施できるため、自己採血による採取が可能である、(3)濾紙を使用するため、検査機関等への輸送が容易である、等のメリットがある。そのため、新生児マススクリーニングや、遠隔地での治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)等で実際に使用されており、注目を集めている手法である。
Experimental gerontology,2020,134,110888 生化学,第87巻第2号,p.239-244,2015 Metabolites,2017,7,35
しかしながら、上述のNAD+やNMN等のNAD+前駆体について、非特許文献3等に記載のDBS法に基づいて定量しようとすると、正確に定量できないという問題を有している。これは、第一に、NAD+やNMN等のNAD+前駆体は、これらの保存状態によって分解等の程度が大きく変わってしまう傾向にあり、これらを定量しようとする際、予め急速凍結等の特殊処理が必要となるためである。また、さらに、非特許文献3等に記載のDBS法は、定量対象物質によっては、濾紙滴下後の保存安定性等の安定性が悪く、これに起因して正確に定量できないことがあるためである。
本発明の課題は、DBS法を用いた、NAD+又はNMN等のNAD+前駆体の正確な定量方法の提供である。
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
[1]
被験対象のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を定量する方法であって、下記工程1及び2を含む、前記方法:
(工程1)前記被験対象に由来する血液が添加された、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙と、溶媒とを接触させる工程1、及び
(工程2)前記工程1によって得られた溶媒中の前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を定量する工程2。
[2]
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を定量する方法である、[1]に記載の方法。
[3]
前記濾紙が、カオトロピック剤を含浸してなるものである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記ラジカル阻害剤が、界面活性剤を含むものである、[1]又は[2]に記載の方法。
[5]
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、[4]に記載の方法。
[6]
前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウムである、[5]に記載の方法。
[7]
前記カオトロピック剤が、グアニジン塩を含むものである、[3]に記載の方法。
[8]
前記グアニジン塩が、グアニジンチオシアン酸塩である、[7]に記載の方法。
[9]
前記濾紙が、セルロースからなるものである、[1]~[8]のいずれか一つに記載の方法。
[10]
前記溶媒が、水及び/又はアセトニトリルである、[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法。
[11]
前記溶媒が、水である、[10]に記載の方法。
[12]
前記工程2における前記定量が、質量分析計を用いた方法又は比色法によりなされる、[1]~[11]のいずれか一に記載の方法。
[13]
[1]~[12]のいずれか一つに記載の方法を実施するためのキットであって、採血器具、及びラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙を含む、前記キット。
[14]
[1]~[12]のいずれか一つに記載の方法を実施するための、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙。
本発明によれば、NAD+又はNMN等のNAD+前駆体の保存安定性が良好なため、DBS法を用いた、NAD+又はNMN等のNAD+前駆体の正確な定量方法を提供することができる。
<ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を定量する方法>
本発明のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を定量する方法(以下、本発明の定量方法と略記する場合がある。)は、被験対象に由来する血液が添加された、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙と、溶媒とを接触させる工程1(以下、本発明にかかる工程1と略記する場合がある。)、及び前記工程1によって得られた溶媒中の前記NAD+又はNMNを定量する工程2(以下、本発明にかかる工程2と略記する場合がある。)を含むものである。
以下、本発明の定量方法について、その詳細を記載する。
[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)]
本発明の定量方法における、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)とは、上述の通り、エネルギー産生反応に必須な補酵素のことである。また、全ての真核生物、古細菌、真正細菌等における電子伝達系としても知られている。
尚、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドは、生体内において、酸化型と還元型の2つの状態を取り得るが、本発明においては、酸化型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(即ち、NAD+)を意味する。また、ジホスホピリジンヌクレオチド、補酵素I、コエンザイムI、コデヒドロゲナーゼI等のNAD+を意味する旧名称についても、本発明におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに含まれるものとする。
[ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)]
本発明の定量方法における、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)とは、上述の通り、種々の生物種に存在しており、ビタミンB3群と総称されるNAD+前駆体のことである。また、NMNは、ミトコンドリアの活性化や、いわゆる長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子の活性化等、種々の機能を有することも知られている。
尚、NMNの構造は、以下の通りである。
本発明の定量方法における定量対象物質としては、上述の通り、NAD+及び/又はNMNであり、本発明の定量方法によれば、これらを正確に定量することができる。その中でも、定量の正確性の観点に基づくと、本発明の定量方法における定量対象物質としては、NAD+がより好ましい。
尚、本発明における上記「定量」とは、後述の被験対象に由来する血液中のNAD+又はNMNの濃度、質量、モル量等を算出することであることは言うまでもない。
[被験対象]
本発明の定量方法における被験対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ等の哺乳動物等が挙げられ、ヒト、サル、マウス又はラットが好ましく、ヒトがより好ましい。また、かかるヒトとしては、例えば、健常者、NAD+及び/又はNMNの増減に関連する疾患等に罹患している患者、NAD+及び/又はNMNの増減に関連する疾患等に罹患していることが疑われるヒト等が挙げられる。かかる疾患としては、具体的には、例えば、加齢性疾患等が挙げられる。
[工程1]
本発明にかかる工程1は、被験対象に由来する血液が添加された、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙と、溶媒とを接触させる工程である。以下、かかる工程1について詳述する。
本発明にかかる工程1における血液とは、上述の被験対象に由来する血液のことであり、具体的には、例えば、全血、血球、血漿、血清等が挙げられ、これらの中でも全血が好ましい。
また、被験対象に由来する血液を、当該被験対象から採取する方法としては、通常この分野で行われている方法によりなされればよく、例えば、自己採血器具による方法等が挙げられる。かかる自己採血器具としては、例えば、MBS微量採血キット(株式会社マイクロブラッドサイエンス)等が挙げられる。被験対象がヒトである場合には、例えば、当該ヒトの手や足の指先から上記自己採血器具により、血液を採取することができる。
本発明にかかる工程1における濾紙とは、前記被験対象に由来する血液を添加する対象であり、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなるものである。その中でも、定量の正確性の観点に基づくと、カオトロピック剤を含浸してなる濾紙がより好ましい。
上記ラジカル阻害剤とは、タンパク質-タンパク質間の相互作用を破壊してタンパク質を変性させる物質のことであり、具体的には、例えば、界面活性剤、緩衝液等を含有するものである。
かかる界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられ、これらの中でも陰イオン界面活性剤が好ましい。かかる陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウムと称される場合もある。)、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でもドデシル硫酸ナトリウムが好ましい。
かかる緩衝液としては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液等のトリス緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液等のグッド緩衝液等が挙げられ、これらの中でも、トリス緩衝液が好ましい。
上記カオトロピック剤とは、水分子間の相互作用を減少させ、これによってタンパク質の構造を不安定化させる物質のことであり、少なくともグアニジン塩を含有するものである。
かかるグアニジン塩としては、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン硫酸塩等が挙げられ、これらの中でもグアニジンチオシアン酸塩が好ましい。
上記ラジカル阻害剤及びカオトロピック剤を濾紙に含浸させる方法としては、通常この分野で行われている方法であればよく、例えば、当該ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含む溶液に濾紙を一定時間浸漬する真空含浸法、真空加圧含浸法や、当該ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を濾紙に直接塗布或いは被覆する方法等が挙げられる。
本発明にかかる工程1における濾紙の主成分(ベース)としては、セルロース、コットン、パルプ等が挙げられ、これらの中でもセルロースが好ましい。かかるセルロースベースの濾紙を得る方法としては、通常この分野で行われている方法であればよい。かかる方法としては、例えば、水とセルロースとを混合し、抄紙機によって当該混合液から水を除き乾燥させた後、自動濾紙打抜機によって濾紙を製造する方法である。また、特公平08-032995号公報等に記載の方法を参照することもできる。
本発明にかかる工程1における濾紙の厚さとしては、500μm~800μmの範囲であればよく、好ましくは、550μm~750μmの範囲である。
本発明にかかる工程1における濾紙の重量としては、例えば、単位面積あたりの重量(mg/cm)が5mg/cm~50mg/cmであればよく、好ましくは、15mg/cm~35mg/cmである。
特に、本発明にかかる工程1における濾紙がラジカル阻害剤を含浸してなるものである場合、当該濾紙の重量としては、例えば、単位面積あたりの重量(mg/cm)が5mg/cm~50mg/cmであればよく、好ましくは、15mg/cm~20mg/cmである。また、本発明にかかる工程1における濾紙がカオトロピック剤を含浸してなるものである場合、当該濾紙の重量としては、例えば、単位面積あたりの重量(mg/cm)が5mg/cm~50mg/cmであればよく、好ましくは、30mg/cm~35mg/cmである。
尚、上記単位面積あたりの重量を測定する際は、例えば、ザルトリウス電子てんびん(MSA225S-100-DI)を使用することができる。
また、本発明にかかる工程1における濾紙における当該濾紙の縦横の長さ、形状、上記カラジカル阻害剤及びオトロピック剤の含浸濃度等のその他のパラメータについては、実際に使用する条件等を考慮し、任意に設定することができる。特に、かかる形状としては、特に限定はされないが、例えば、円形、四角形等が挙げられる。
本発明にかかる工程1における濾紙としては、上述の特性を有するものであればいずれもよく、かかる特性を満たすものとしては、例えば、Whatman FTA DMPK-A Card(GE Healthcare)、QIAcard FTA DMPK-A Card(QIAGEN)、Whatman FTA DMPK-B Card(GE Healthcare)、QIAcard FTA DMPK-B Card(QIAGEN)が挙げられるため、これらを用いてもよい。
尚、上記Whatman FTA DMPK-A Card(GE Healthcare)及びQIAcard FTA DMPK-A Card(QIAGEN)については、後述の実施例に記載の通り、ラジカル阻害剤(ドデシル硫酸ナトリウム)を含浸してなるものであり、濾紙の主成分はセルロースである。また、上記Whatman FTA DMPK-B Card(GE Healthcare)及びQIAcard FTA DMPK-B Card(QIAGEN)については、後述の実施例に記載の通り、カオトロピック剤(グアニジンチオシアン酸塩)を含浸してなるものであり、濾紙の主成分はセルロースである。
本発明にかかる工程1における溶媒とは、被験対象に由来する血液が添加された濾紙から、NAD+及びNMNを含む成分を抽出するためのものであり、具体的には、例えば、水、アセトニトリル、水とアセトニトリルとの混合液、エタノール等のアルコール等が挙げられ、これらの中でも水又は水とアセトニトリルとの混合液が好ましく、水がより好ましい。かかる水としては、イオン交換水、脱イオン水、純水、超純水、蒸留水等が挙げられ、これらの中でも超純水が好ましい。また、かかる水とアセトニトリルとの混合液を用いる場合、両者の比率としては、水80%:アセトニトリル20%~水20%:アセトニトリル80%の範囲であればよく、好ましくは、水80%:アセトニトリル20%~水40%:アセトニトリル60%の範囲である。
また、上記溶媒を調製する際、定量対象物質に応じた内部標準物質を当該溶媒中に添加してもよい。
本発明にかかる工程1において、濾紙と溶媒とを接触させる方法としては、通常この分野で行われている方法であればよく、具体的には、例えば、当該濾紙が十分に浸る程度の量の溶媒を、濾紙に添加し、混合する方法が挙げられる。かかる量としては、例えば、100μL~1000μLであり、濾紙の条件や後述の定量に用いる機器等の性能に応じて適宜調整することができる。
上記方法としては、より具体的には、例えば、以下の通りになされればよい。先ずは、予め被験対象より当該被験対象に由来する血液を一定量採取し、濾紙の所定の箇所に当該血液1μL~10μLをスポットしておく。その後、濾紙における血液がスポットされた箇所を切り取り、2mLチューブ等のチューブに投与する。次いで、当該チューブに上記溶媒100μL~1000μLを添加することによりなされる。溶媒を添加した後、必要に応じて、マイクロミキサー等のミキサーで室温にて一定時間(10分間~60分間程度)混合してもよい。
また、上記方法を実施する際、必要に応じ、非特許文献1、非特許文献3、特表2015-508493号公報、特表2018-530766号公報、特表2014-503197号公報、特表2011-506922号公報、特表2004-505277号公報、乾燥マトリクススポットの均一性 アプリケーションノート(アジレント・テクノロジー株式会社)等に記載の手法を参考にしてもよい。
このように、本発明にかかる工程1により、被験対象に由来する血液が添加された濾紙と溶媒とを接触させることにより、当該被験対象に由来する血液が添加された濾紙から、NAD+及びNMNを含む成分を抽出することができる。
また、本発明にかかる工程1を実施した後、且つ後述の本発明にかかる工程2を実施する前に、本発明にかかる工程1により得られた溶媒における定量対象物質を安定させるために、有機溶媒を一定量添加する工程を実施してもよい。かかる有機溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、エタノールが挙げられ、これらの中でもアセトニトリルが好ましい。また、当該有機溶媒を添加する量としては、例えば、本発明にかかる工程1における溶媒1に対して、2倍の量を添加すればよい。
[工程2]
本発明にかかる工程2は、本発明にかかる工程1によって得られた溶媒中のNAD+又はNMNを定量する工程である。以下、かかる工程2について詳述する。
本発明にかかる工程2におけるNAD+又はNMNを定量する方法とは、本発明にかかる工程1の作業により得られた溶媒中に存在するNAD+又はNMNを定量する方法のことであり、通常この分野で行われているものであればいずれでもよく、例えば、質量分析計を用いた方法、比色法、蛍光法等が挙げられる。
かかる質量分析計を用いた方法としては、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析計(CE/MS)等を利用する方法が挙げられる。これらの方法においては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフ等のクロマトグラフを有する分離部にて、生体試料(血液等)中の成分を分離し、分離された種々の成分を質量分析部にてイオン化させ、さらに、質量電荷比(m/z)毎に分離することによりなされればよい。より具体的な手法については、機器付属の添付書類や、例えば、WO2014/038524、WO2017/19588、WO2018/034346等に記載の手法を参考にしてなされればよい。
かかる比色法とは、生体試料(血液等)と発色剤とを反応させた際の、発色の度合いに基づいて、マイクロプレート分光光度計等のマイクロプレートリーダーにより対象物質を定量する方法である。
かかる発色剤としては、通常この分野で用いられているものであればいずれでもよく、具体的には、例えば、オルトクレゾールフタレインコンプレクソン(OCPC)、アルセナゾ-III、クロロホスホナゾ-III、エリオクロムブラックT、グリオキサール-ビス(2-ヒドロキシアニル)、NN(2-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシ-4’-スルホ-1’-ナフチルアゾ)-3-ナフトエ酸)、ヒドロキシナフトールブルー等が挙げられる。また、上記比色法の具体的な手法については、通常この分野で行われている方法に従ってなされればよく、例えば、特開2003-262629等を参考にしてなされればよい。
尚、上記比色法により定量を行う場合には、市販のキット等を用いてもよく、かかるキットとしては、具体的には、例えば、NAD/NADH Assay Kit-WST(株式会社同仁化学研究所)や、NAD+/NADH Assay Kit(Colorimetric)(CELL BIOLABS)等が挙げられる。
かかる蛍光法とは、対象物質を含む生体試料(血液等)に光を照射し、励起されて基底状態に戻る際に発生する光を検出することによりなされる方法であり、具体的には、励起された電子が基底状態に戻る際に発生する光の度合いに基づいて、蛍光プレートリーダー等のプレートリーダーにより対象物質を定量する方法である。また、上記蛍光法の具体的な手法については、通常この分野で行われている方法に従ってなされればよく、例えば、特開2012-202742、特開2009-276162等を参考にしてなされればよい。
尚、上記蛍光法により定量を行う場合には、市販のキット等を用いてもよく、かかるキットとしては、具体的には、例えば、NAD+/NADH Assay Kit(Fluorometric)(CELL BIOLABS)等が挙げられる。
<NAD+又はNMNを定量する方法を実施するためのキット>
本発明のNAD+又はNMNを定量する方法を実施するためのキット(以下、本発明のキットと略記する場合がある。)は、採血器具とラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙とを含むものである。
以下、本発明のキットについて、その詳細を記載する。
かかる採血器具としては、被験対象から血液を採血するためのものであり、<本発明の定量方法>において説明した通りであり、具体例、好ましい例等についても同様である。
かかる濾紙としては、ラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなるものであり、<本発明の定量方法>において説明した通りであり、具体例、好ましい例等についても同様である。
本発明のキットは、少なくとも上述の採血器具とラジカル阻害剤又はカオトロピック剤を含浸してなる濾紙とを含むものであるが、必要に応じて、説明書、当該濾紙を保存するための容器等を含んでいてもよい。
かかる説明書としては、本発明の定量方法の原理、操作手順等が文章、図面等により実質的に記載されているものであり、取扱い説明書、添付文書、パンフレット、リーフレット等の形態であるものが挙げられる。
かかる容器としては、濾紙を保存し得るものであればいずれでもよく、好ましくは、湿気を吸収する機能を有しているものである。このような容器としては、具体的には、例えば、吸湿規格袋等が挙げられる。かかる吸湿規格袋としては、具体的には、例えば、吸湿くん(丸東産業株式会社)(登録商標)等が挙げられる。
本発明のキットによれば、本発明の定量方法をより簡便、短時間且つ正確に行うことができる。また、本発明のキットによれば、被験対象(例えば、ヒト)が、自宅等の特定の場所において当該被験対象由来の血液が添加された濾紙を準備し、当該濾紙を機関(例えば、LC-MS/MS等の質量分析計を有する検査機関、医療機関等)に郵送し、当該機関においてNAD+やNMNを定量し、要すれば、定量結果を当該被験対象にフィードバックする一体的なサービス等を提供することが可能となる。上述及び後述の実施例の通り、本発明のキットに含まれる濾紙によれば、NAD+やNMNの保存安定性に優れているため、本発明のキットは、濾紙の郵送が発生する上記サービス等においても、十分に適用できるものである。
<本発明の定量方法の適用>
上述した本発明の定量方法については、種々の分野への適用可能性も有している。例えば、上述の通り、NAD+やNMNの増減に関連する疾患として、加齢性疾患等が知られている。そのため、本発明の定量方法により得られた定量結果と、上記疾患との関連性を利用した分析(例えば、判定、診断等)を実施することも可能であると考えられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
<実施例1:抽出液の最適化検討>
被験対象に由来する血液が添加された特定の濾紙から、NAD+及びNMNを含む成分を抽出するために用いる溶媒(即ち、これは、本発明にかかる工程1における溶媒に相当する。以下、抽出液と略記する場合がある。)について、最適なものを探索した。
尚、本実施例1の意図について補足すると、本実施例1では、上記抽出液の最適化に焦点を当てているため、濾紙は使用していない。具体的な手法は以下の通りであるが、血液に種々の候補抽出液を添加し、その後の溶液をそのまま用いて、質量分析計によりNAD+及びNMNを定量する実験系となっている。
[実験手法]
6週齢の雄性SDラット(3匹)について、イソフルラン吸入麻酔下で開腹、腹部大動脈から全採血を行い、血液を採取した。採取した個体別血液(即ち、全血)のうち、200μLを1.5mLのマイクロチューブに分注した後、遠心分離(13,200×g、5分、4℃)を行った。遠心後の上清を除き、遠心残渣を血球画分とした。
その後、超純水(Milli-Q integral 5システム/Merck Ltd.)とアセトニトリル(Thermo Fisher Scientific)を100:0、80:20、60:40、40:60、20:80及び0:100の比率でそれぞれ混合した計6種類の抽出液を調製した。
1.5mLのマイクロチューブに個体別血液或いは血球を5μL、内部標準物質(NAD-d4及びNMN-d5 / Toronto Research Chemicals, Inc.)混合水溶液を10μL及び抽出液を295μL添加してボルテックスミキサーで撹拌した後、マイクロミキサー(TOMY MICRO TUBE MIXER MT-400、撹拌速度5)で30分間、室温下で混合した。混合後の血液或いは血球抽出溶液をマイクロチューブに100μLずつ分取し、アセトニトリル200μLを添加してボルテックスで撹拌した後、遠心分離(24,250×g、10分、4℃)を行った。遠心後の上清100μLをバイアルに分取し、最終有機溶媒含量が67%となるように、使用した抽出液に応じて希釈した内部標準物質混合水溶液を0μL~50μL添加して混合した。その後、下記分析条件に従いLC-MS/MSでNAD+及びNMNをそれぞれ測定した。
[LC-MS/MS測定条件]
[実験結果]
上記の実験結果を表4に示す。
表4から明らかな通り、アセトニトリル含量比率がそれぞれ異なる6種類の抽出液を用いたところ、血液中のNAD+及びNMNについて、水のみを抽出液として用いた場合(即ち、水=100%且つアセトニトリル含量=0%)の濃度が最も高かった。また、当該抽出液のアセトニトリル含有率を60%程度までに調製した場合では、アセトニトリル含有率が0%(即ち、水のみ)である場合に比べて、NAD+及びNMNの濃度は低いものの、ある程度のNAD+及びNMNの濃度は確認された。
しかしながら、アセトニトリル含有率を80%以上に調製した場合では、NAD+及びNMNの濃度が大幅に低下することが分かった。また、この結果の傾向は、血球を用いた場合においても同様であった。
実施例1の結果より、血液中のNAD+及びNMNの定量において、これらを血液から最も効率よく抽出し得る溶媒は、水であることが分かった。
本結果について考察すると、定量対象であるNAD+及びNMNは、血球中に存在している。よって、水による浸透圧作用で当該血球成分が破壊されることにより、これらを効率良く検出することができたものと推察される。
<実施例2:冷蔵保存安定性の観点に基づく、濾紙の最適化検討>
被験対象に由来する血液の添加対象である濾紙(即ち、本発明にかかる工程1における濾紙に相当する。)について、被験対象に由来する血液が添加された濾紙を一定期間、冷蔵保存した場合において、NAD+及びNMNを定量するに際し最適なものを探索した。
具体的な実験手法は以下の通りである。
[実験手法]
1試験あたり5名の被検者(成人男女)から、MBS微量採血検査キット(株式会社マイクロブラッドサイエンス)を用いた自己採血により血液約120μL(キットの回収容器2本分)を採取し、サンプル処理を行うまで氷上に静置した。被験者は採取日の朝は絶食とし、午前9時頃に採取を行った。試験は計4回実施し、採取血液量不足による欠落1名を除いた延べ人数19名で評価を行った。
採取された血液を被検者別に1.5mLのマイクロチューブに回収し、緩やかなピペッティングにより混合した。血液5μLを4種類の濾紙(Whatman FTA DMPK-A Card/GE healthcare、QIAcard FTA DMPK-B Card/QIAGEN、QIAcard FTA DMPK-C Card/QIAGEN、Whatman 903 protein saver card/Cytiva)に複数箇所スポット(滴下/添加)し、吸湿規格袋(吸湿くん(登録商標)/丸東産業株式会社)に封入した後、冷蔵保存した。次いで、血液スポット後に冷蔵保存した濾紙について、2日間、2週間(14日間若しくは15日間)または1月間(30日間)保存後、血液をスポットした箇所を切り取り、2mLマイクロチューブに回収した。内部標準物質(NAD-d4及びNMN-d4/Toronto Research Chemicals, Inc.)混合水溶液を300μL添加してボルテックスで撹拌した後、マイクロミキサー(TOMY MICRO TUBE MIXER MT-400、撹拌速度5)で30分間、室温下で混合した。血液抽出溶液をマイクロチューブに150μLずつ分取し、アセトニトリル300μLを添加してボルテックスで撹拌した後、遠心分離(24,250×g、10分、4℃)を行った。遠心後の上清40μLをバイアルに分取し、LC-MS/MSで測定した。
一方、初期値用の試料として血液5μLを2mLマイクロチューブに回収し(濾紙スポット無し)、内部標準物質(NAD-d4及びNMN-d4/Toronto Research Chemicals, Inc.)混合水溶液を300μL添加してボルテックスで撹拌した後、マイクロミキサー(TOMY MICRO TUBE MIXER MT-400、撹拌速度5)で30分間、室温下で混合した。血液抽出溶液をマイクロチューブに150μLずつ分取し、アセトニトリル300μLを添加してボルテックスで撹拌した後、遠心分離(24,250×g、10分、4℃)を行った。遠心後の上清40μLをバイアルに分取し、LC-MS/MSで測定した。
尚、上記Whatman FTA DMPK-A Cardについては、以下、DMPK-Aカードと略記する場合がある。QIAcard FTA DMPK-B Card については、以下、DMPK-Bカードと略記する場合がある。QIAcard FTA DMPK-C Cardについては、以下、DMPK-Cカードと略記する場合がある。また、Whatman 903 protein saver cardについては、903カードと略記する場合がある。
[LC-MS/MS測定条件]
[実験結果]
上記の実験結果を表8~11に示す。
上記表8及び9から明らかな通り、NAD+については、DMPK-Aカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の81.5%、79.1%及び71.8%であり、良好な冷蔵保存安定性が示された。また、DMPK-Bカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の80.7%、87.8%及び79.8%であり、DMPK-Aカードを用いた場合よりもさらに良好な冷蔵保存安定性が示された。
一方、上記表10から明らかな通り、DMPK-Cカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の70.1%、66.6%及び54.3%であり、上記表11から明らかな通り、903カードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の74.1%、77.2%及び82.6%であった。この結果より、NAD+については、DMPK-Aカード及びBカード(特に、DMPK-Bカード)が、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、各期間を通して平均的に冷蔵保存安定性の面で優れていることが分かった。
また、NMNについては、DMPK-Aカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNMNの濃度が、上記表8から明らかな通り、それぞれ初期値(0日間)の73.1%、80.6%及び99.9%であり、良好な冷蔵保存安定性が示された。また、上記表9から明らかな通り、DMPK-Bカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNMNの濃度が、それぞれ初期値(0日間)の95.4%、93.6%及び78.6%であり、こちらもDMPK-Aカードと同程度の良好な保存安定性が示された。
一方、DMPK-Cカードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNMNの濃度が、上記表10から明らかな通り、それぞれ初期値(0日間)の68.4%、52.9%及びNCであり、903カードを用いた場合の2日間、2週間及び1月間保存後のNMNの濃度が、上記表11から明らかな通り、それぞれ初期値(0日間)の60.1%、64.5%及び56.3%であった。この結果より、NMNについても、DMPK-Aカード及びBカードが、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、冷蔵保存安定性の面で優れていることが分かった。
上記結果について考察すると、DMPK-Aカード及びBカードについては、ケミカル剤による処理が施されているのに対し、DMPK-Cカード及び903カードについては、ケミカル剤による処理が施されていない(Am.J.Trop.Med.Hyg.,99(2),2018,pp.256-265、又はBioanalysis,2013,5,2613-30等)。
従って、当該ケミカル剤による処理の有無や、その種類が、冷蔵保存安定性の面に寄与しているものと推察される。
尚、上記ケミカル剤については、DMPK-Aカードでは、ラジカル阻害剤(ドデシル硫酸ナトリウム)のことであり、DMPK-Bカードでは、カオトロピック剤(グアニジンチオシアン酸塩)のことである(Am.J.Trop.Med.Hyg.,99(2),2018,pp.256-265、又はBioanalysis,2013,5,2613-30等)。
<実施例3:室温保存安定性の観点に基づく、濾紙の最適化検討>
被験対象に由来する血液の添加対象である濾紙(即ち、本発明にかかる工程1における濾紙に相当する。)について、被験対象に由来する血液が添加された濾紙を室温保存した場合において、NAD+及びNMNを定量するに際し最適なものを探索した。
具体的な実験手法は以下の通りである。
[実験手法]
実施例2で調製した血液スポット濾紙の一部を、吸湿規格袋(吸湿くん(登録商標)/丸東産業株式会社)に封入した後、室温保存した。2日間、1週間(7日間)または2週間(15日間)室温保存後、血液をスポットした箇所を切り取り、2mLマイクロチューブに回収した。実施例2と同様の処理を行った後、実施例2と同様の条件によってLC-MS/MSで測定した。
[実験結果]
上記の実験結果を表12~15に示す。
上記表12から明らかな通り、NAD+については、DMPK-Aカードを用いた場合の2日間及び2週間保存後のNAD+の濃度は、それぞれ初期値(0日間)の71.6%及び51.6%であり、良好な保存安定性が示された。また、上記表13から明らかな通り、DMPK-Bカードを用いた場合の2日間、1週間及び2週間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の82.0%、87.2%及び67.6%であり、DMPK-Aカードを用いた場合よりもさらに良好な室温保存安定性が示された。
一方、上記表14から明らかな通り、DMPK-Cカードを用いた場合の2日間及び2週間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の55.9%及び50.2%であり、上記表15から明らかな通り、903カードを用いた場合の2日間及び2週間保存後のNAD+の濃度が、それぞれ初期値(0日間)の66.2%及び50.3%であった。この結果より、NAD+については、DMPK-Aカード及びBカードが、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、室温保存安定性の面で優れていることが分かった。
また、NMNについては、上記表12及び13から明らかな通り、その値に多少の上下の振れがあるものの、DMPK-A及びBカードを用いた場合には、保存安定性を大幅に損ねることがなく、NMNを定量可能であることが示された。
一方、上記表14から明らかな通り、DMPK-Cカードを用いた場合の2日間及び2週間保存後のNMNの濃度については、これを定量することができなかった。また、上記表15から明らかな通り、903カードを用いた場合の2日間保存後のNMNの濃度は初期値(0日間)の79.8%であったものの、2週間保存後のNMNの濃度については、これを定量することができなかった。この結果より、NMNについても、DMPK-Aカード及びBカードが、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、室温保存安定性の面で優れていることが分かった。
上記結果について考察すると、実施例2と同様、ケミカル剤による処理の有無並びにその種類が起因しているものと推察される。
<実施例4:抽出効率の観点に基づく、濾紙の最適化検討>
被験対象に由来する血液の添加対象である濾紙(即ち、本発明にかかる工程1における濾紙に相当する。)について、当該被験対象に由来する血液が添加された濾紙からのNAD+及びNMNの抽出効率の観点から、NAD+及びNMNを定量するに際し最適なものを探索した。
具体的な実験手法は以下の通りである。
[実験手法]
濾紙の有無により、NAD+及びNMNの抽出効率を評価した。濾紙なしの試料の調製法については、実施例2と同様である。
一方、濾紙ありの試料の調製法についても、実施例2の方法と同様である。即ち、血液5μLを4種類の濾紙(Whatman FTA DMPK-A Card/GE healthcare、QIAcard FTA DMPK-B Card/QIAGEN、QIAcard FTA DMPK-C Card/QIAGEN、Whatman 903 protein saver card/Cytiva)にそれぞれスポットした後、実施例2と同様の種々の処理を行った後、実施例2や3のような一定期間の冷蔵或いは室温保存はせずに、実施例2と同様の条件によってLC-MS/MSで測定した。
[実験結果]
上記の実験結果を表16及び17に示す。
上記表16から明らかな通り、NAD+については、DMPK-A及びBカードを用いた場合、濾紙からのNAD+の抽出効率(濾紙無しの濃度の値に基づいて算出)がそれぞれ95.1%及び90.9%であり、良好な抽出効率が示された。
一方、上記表17から明らかな通り、DMPK-Cカード及び903カードを用いた場合、濾紙からのNAD+の抽出効率がそれぞれ72.9%及び77.2%であった。本結果より、NAD+について、DMPK-A及びBカードが、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、抽出効率の面で優れていることが分かった。
また、NMNについては、上記表16から明らかな通り、DMPK-A及びBカードを用いた場合、濾紙からのNMNの抽出効率(濾紙無しの濃度の値に基づいて算出)がそれぞれ125.6%及び87.7%であり、良好な抽出効率が示された。
一方、上記表17から明らかな通り、DMPK-Cカード及び903カードを用いた場合、濾紙の抽出効率がそれぞれ87.9%及び73.2%であった。本結果より、NMNについても、DMPK-A及びBカードが、DMPK-Cカード及び903カードと比較すると、抽出効率の面で優れていることが分かった。
上記実施例2~4の結果についてさらに付言すると、本発明のようなDBS法は、一般的に、自己採血を含むことが前提で実施されることが多いため、例えば、被験対象に由来する血液を濾紙に添加する工程と、当該濾紙に含まれる定量対象物質を定量する工程とを、物理的或いは時間的に別のステージで行うケースが多い。より具体的には、血液を濾紙に添加する工程は、例えば、被験対象(例えば、ヒト)自身が自宅等で実施する。その後、当該濾紙を、LC-MS/MS等の質量分析計を有する機関(検査機関、医療機関等)に輸送し、当該機関において、定量対象物質を定量する工程を実施する。そのため、DBS法を実施する場合には、当該濾紙を室温或いは冷蔵下において、一定期間(例えば、数日間~1月間程度)保存する必要がある。また、当該濾紙を保存中、定量対象物質の分解等を防ぐ必要も出てくる。よって、当該DBS法に用いる濾紙については、定量対象物質の保存安定性が優れていることが求められる。
上記実施例2~4より、DMPK-Aカード及びBカード(即ち、本発明にかかる工程1における濾紙に相当する。)については、上記性質を満たし得ることが示されたと言える。即ち、DBS法を用いた、NAD+及びNMNの定量方法に最適であることが分かった。
<実施例5:抽出後溶液の保存安定性検討>
被験対象に由来する血液が添加された濾紙と、溶媒(抽出液)とを接触させた後の溶媒(以下、抽出後溶液と略記する場合がある。)の保存安定性について検討した。
具体的な手法については、以下の通りである。
[実験手法]
実施例2で得られた濾紙保存後(冷蔵15日)の血液抽出溶液の一部(100%水)及びLC-MS/MS測定用の溶液の一部(67%アセトニトリル含有水)をそれぞれ冷凍保管した。71日冷凍保管後、前者については2倍量のアセトニトリルを添加、混合及び遠心分離(24,250×g、10分、4℃)した後の上清を、後者は保管後の溶液を遠心分離(24,250×g、10分、4℃)した後の上清を実施例2の条件と同様にしてLC-MS/MSで測定した。
[実験結果]
上記の実験結果を表18~21に示す。
上記表18及び19から明らかな通り、各濾紙の抽出液について、抽出液の状態(100%水)で保存した場合のNAD+の保存安定性は、DMPK-Bカードが93.1%であり、良好な保存安定性が示された。DMPK-A、C及び903カードの抽出液はそれぞれ145.8%、200.6%、266.3%といずれも初期値と比べて顕著に高い値を示した。
一方、表20及び21から明らかな通り、各濾紙の抽出液について、抽出液にアセトニトリルを添加した溶液の形態で保存した場合のNAD+の保存安定性は、DMPK-A、C及び903カードについて、それぞれ89.6%、73.6%及び92.1%であり、抽出液の状態(100%水)の時の値からの改善がみられた。
上記結果を考察すると、DMPK-Bカードについては、抽出の時点でNAD+が十分不活化されるため、100%水の状態でも安定であると推察される。一方、DMPK-A、C及び903カードについては、抽出時のNAD+の不活化が十分ではなく、100%水の状態で保存した場合には酵素反応の進行等により初期値と比較して高振れする傾向があるため、アセトニトリル添加によりこれらを不活化することで保存安定になると推察される。
上記結果によれば、通常この分野では、抽出後溶液の保存安定化のためにアセトニトリル等の有機溶媒を一定量添加していたが、DMPK-Bカードを用いる場合には、抽出後溶液にアセトニトリル等の有機溶媒を添加する必要はなく、結果として、より簡便にNAD+の定量を行え得ることが分かった。また、この点についてさらに付言すると、一定量のアセトニトリル等の有機溶媒の添加が不要となったことから、抽出後溶液中におけるNAD+を定量する際、LC-MS/MS等の質量分析計を利用する方法以外にも比色法や蛍光法等といった、質量分析計を利用する方法よりもより簡便な手法を採用できる可能性が示唆された。これは、アセトニトリル等の有機溶媒を一定量添加してしまうと、試料中におけるNAD+の濃度が薄まることによる感度の面や、アセトニトリルと、比色法や蛍光法のキットに含まれる界面活性剤等の試薬との相性の面から比色法や蛍光法を実施できなかったことに起因している。
本発明は、DBS法を用いた、NAD+又はNMN等のNAD+前駆体の定量方法に関する産業に利用することができる。

Claims (9)

  1. 被験対象のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を定量する方法であって、下記工程1及び2を含む、前記方法:
    (工程1)前記被験対象に由来する血液が添加された、カオトロピック剤を含浸してなる濾紙と、溶媒とを接触させる工程1、及び
    (工程2)前記工程1によって得られた溶媒中の前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を定量する工程2。
  2. 前記カオトロピック剤が、グアニジン塩を含むものである、請求項に記載の方法。
  3. 前記グアニジン塩が、グアニジンチオシアン酸塩である、請求項に記載の方法。
  4. 前記濾紙が、セルロースからなるものである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記溶媒が、水及び/又はアセトニトリルである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記溶媒が、水である、請求項に記載の方法。
  7. 前記工程2における前記定量が、質量分析計を用いた方法又は比色法によりなされる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  8. 請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、採血器具、及びカオトロピック剤を含浸してなる濾紙を含む、前記キット。
  9. 請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実施するための、カオトロピック剤を含浸してなる濾紙。
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