JP7473770B2 - 溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板とその製造方法及び溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管とその製造方法 - Google Patents

溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板とその製造方法及び溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、特に、寒冷地のラインパイプに好適な、高強度と高靭性を有し、さらに、溶接熱影響部の靱性に優れる鋼板とその製造方法、及び、該鋼管を用いて製造した溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管とその製造方法に関するものである。
溶接構造用鋼材においては、近年、高強度と高靱性に加え、耐震性の観点から、高一様伸びが求められている。一般に、鋼材の金属組織を、軟質相であるフェライトと硬質相であるベイナイトなどの二相の組織にすることで、鋼材の高一様伸び化が可能であることが知られている。
例えば、特許文献1には、API 5L X70グレード以下の耐歪時効特性に優れる低降伏比高強度鋼板が開示されている。加速冷却後に再加熱することで、表裏面の硬度を含む組織制御をして、強度X70レベルでの全伸びを確保する熱処理方法が開示されている。
特開2013-227670号公報
特許文献1に記載の熱処理方法は、加速冷却後に高温処理を行なうことで、有害な硬化組織を焼戻し、延性の回復を図るものであるが、X80レベル以上の強度を確保することは難しい。
鋼板の金属組織において、延性を確保するためには、フェライト相が必須であり、鋼板強度をX80レベル以上に高強度化しようとすると、熱処理設備に、急速加熱設備を設置する必要が生じるので、鋼板の製造工程においては、実質的に、熱処理工程数が増加して、生産性の低下や、製造コストの増加を招くことになる。
本発明は、従来技術における上記課題を踏まえ、鋼管用鋼板の機械特性において、低温靭性の低下を招く合金元素を多量に含有せずに、API 5L X80グレード以上の高強度と高延性(一様伸びと局部伸びの双方)を確保するとともに、溶接熱影響部の靱性の向上を図ることを課題とし、該課題を解決する鋼管用高延性鋼板と、該鋼板を、高製造効率で、かつ、安定した高品質で製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、鋼管用高延性鋼板を用いて、溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管と、その製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋼板の金属組織とその製造方法について鋭意検討した。その結果、以下の知見(v)~(z)を得るに至った。
(v)X80グレード以上の強度と、全伸びで20%以上の延性を確保するためには、主要な金属組織として、フェライトとベイナイトの2相混合組織が必要である。降伏強度(YS、以下、単に「YS」ということがある。)に関しては、フェライト粒径の細粒化が必要である。また、延性のうち、特に、一様伸びに関しては、高いフェライト分率が必要である。
(w)制御圧延と加速冷却を用いると、フェライト相とベイナイト相の組織制御は可能であるが、低温靭性等に有害なMA組織(Martensite-Austenite Constituent、以下「MA」ということがある。)の生成は避けられない。
引張試験時に、フェライト/MAの異相界面、又は、ベイナイト/MAの異相界面に応力が集中し、これらの異相界面にマイクロクラックが発生してボイドへと成長する。MAの生成は、特に、局部伸びに影響を及ぼし、全伸びの低下に繋がる。それ故、全伸びを確保する観点から、MAの生成を抑制する必要がある。
(x)MA分率の増加だけでなく、MAサイズの増大が、マイクロクラックの発生を助長するので、MAサイズを微細化する必要がある。フェライト粒の粗大化を抑制し、フェライト粒径を微細化することにより、MAサイズを微細化することができ、かつ、MAを金属組織中に均一に分散させることができる。
(y)フェライト粒径を細粒化するためには、Ti-Mn複合酸化物を核とするフェライト変態(粒内変態)を促進し、粒内フェライト(IGF: Intra granular ferrite)を生成させることが有効である。
この粒内フェライトは、母材の組織制御のみならず、溶接熱影響部(HAZ: Heat affected zone、以下「HAZ」ということがある。)において、組織細粒化による靱性向上に寄与する。また、HAZにおいて、フェライト粒を細粒化した結果、MAを、鋼板中に均一に分散させることができる。そのため、HAZでのMAによる靱性低下を最小限に抑制することができる。
なお、HAZのフェライト微細化には、Ti-Mn複合酸化物を核とした粒内変態が寄与している。この粒内変態の核となり得るTi-Mn複合酸化物は、スラブ凝固時に、鋼板中に生成する。
一般的に、鋼中の介在物の個数密度が過剰となった場合、鋼板の延性(特に、局部伸び)は低下するが、粒内変態に寄与するTi-Mn複合酸化物サイズで、かつ、酸化物個数密度を最適化することによって、鋼板の延性低下を抑制することが可能である。
そして、以上の知見から、次の知見(z)を得るに至った。
(z)鋼板の機械特性において強度と延性を確保するには、鋼板の組織を、フェライトとベイナイトの混合組織とする必要があるが、生成するMAに関し、(z-1)MA分率を下げるとともに、(z-2)粗大なフェライト生成を抑制し、フェライト粒径を微細にすることによって、MAを鋼板中に微細に分散させれば、(z-3)母鋼板において、大きな強度低下を起こすことなく、高伸び特性を維持することができ、かつ、(z-4)HAZにおいて、粒内変態による組織微細化によって、高い靱性を確保することができる。
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下の通りである。
(1)成分組成が、質量%で、
C :0.03~0.12%、
Si:0.05~0.50%、
Mn:1.20~2.50%、
P :0.015%以下、
S :0.010%以下、
Ti:0.005~0.030%、
Al:0.005%未満、
N :0.001~0.005%、
O :0.001~0.005%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、
(i)下記式[1]で定義する指標Aが1.5~3.5であり、
(ii)上記鋼板の金属組織が、主として、フェライトとベイナイトの2相混合組織からなり、該組織において、
(ii-1)平均粒径20μm以下のフェライトの分率が面積率で30%以上、ベイナイトの平均硬度が230Hv以上であり、
(ii-2)MAの分率が面積率で3%未満で、フェライト粒の周囲に生成するMAの最大長さが10μm以下、平均長さが0.1~2.0μmであり、
(ii-3)円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物が1.0×105~1.0×107個/mm2存在する
ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
A=([Ti]-2×[O])/[N] ・・・[1]
ここで、[Ti]:Ti量(質量%)
[O]:O量(質量%)
[N]:N量(質量%)
(2)前記金属組織の機械特性が、
(iii-1)GOST規格の試験片形状の全厚引張試験による一様伸びに係るn値が0.1~0.2、全伸びが20%以上で、
(iii-2)シャルピー衝撃試験による靭性値vE-40が200J以上である
ことを特徴とする前記(1)に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
(3)前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.01~0.50%、
Ni:0.01~0.50%、
Cr:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.50%、
Nb:0.005~0.030%、
V :0.10%以下、
B :0.005%以下
の1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
(4)前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、
REM:0.0035%以下
の1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を製造する製造方法であって、
(iv)前記(1)~(4)のいずれかに記載の鋼板の成分組成と同じ成分組成の鋼片を1050℃以上1250℃以下の温度に加熱した後、未再結晶温度域にて、累積圧下率40%以上で熱間圧延し、700℃以上の温度で熱間圧延を終了し、次いで、
(v)50秒以下で冷却帯へ搬送し、10℃/秒以上の平均冷却速度で、熱延終了温度より-50~-150℃の温度域まで冷却して、該温度域に3秒超15秒以下保持し、続いて、30℃/秒以上の平均冷却速度で350~500℃の温度域まで冷却する
ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板の製造方法。
(6)前記(1)~(4)のいずれかに記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を用いて製造した鋼管であって、
GOST規格の試験片形状の全厚引張試験における降伏強度が575MPa以上、引張強度が640MPa以上、伸びが18%以上である
ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管。
(7)前記鋼管の溶接熱影響部の、シャルピー衝撃試験による靱性値vE-40が50J以上であることを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管。
(8)前記(6)又は(7)に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管を製造する製造方法であって、
前記(1)~(4)のいずれかに記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を筒状に成形し、該鋼板端部の突合せ部を溶接し、必要に応じ、溶接後に拡管する
ことを特徴とする溶接部熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管の製造方法。
(9)前記鋼管用高延性鋼板を、UOプロセス、又は、JCOプロセスで筒状に成形することを特徴とする前記(8)に記載の溶接部熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管の製造方法。
本発明によれば、低温靭性の低下を招く合金元素を多量に添加せずに、特に、寒冷地で使用するラインパイプの製造に好適な、高強度と高延性を有し、さらに、溶接熱影響部の靱性に優れる鋼板を、生産性及び経済性よく大量に安定して提供することができる。また、本発明によれば、寒冷地で使用するラインパイプに好適な、溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管を大量に安定して提供することができる。
本発明の高強度高延性鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)は、成分組成が、質量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.05~0.50%、Mn:1.20~2.50%、P:0.015%以下、S:0.010%以下、Ti:0.005~0.030%、Al:0.005%未満、N:0.001~0.005%、O:0.001~0.005%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、
(i)下記式[1]で定義する指標Aが1.5~3.5であり、
(ii)上記鋼板の金属組織が、主として、フェライトとベイナイトの2相混合組織からなり、該組織において、
(ii-1)平均粒径20μm以下のフェライトの分率が面積率で30%以上、ベイナイトの平均硬度が230Hv以上であり、
(ii-2)MAの分率が面積率で3%未満で、フェライト粒の周囲に生成するMAの最大長さが10μm以下、平均長さが0.1~2.0μmであり、
(ii-3)円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物が1.0×105~1.0×107個/mm2存在する
ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
A=([Ti]-2×[O])/[N] ・・・[1]
ここで、[Ti]:Ti量(質量%)
[O]:O量(質量%)
[N]:N量(質量%)
本発明の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板の製造方法(以下「本発明鋼板製造方法」ということがある。)は、本発明鋼板を製造する製造方法であって、
(iv)本発明鋼板の成分組成と同じ成分組成の鋼片を1050~1250℃に加熱した後、未再結晶温度域にて、累積圧下率40%以上で熱間圧延し、700℃以上の温度で熱間圧延を終了し、次いで、
(v)50秒以下で冷却帯へ搬送し、10℃/秒以上の平均冷却速度で、熱延終了温度より-50~-150℃の温度域まで冷却して、該温度域に3秒超15秒以下保持し、続いて、30℃/秒以上の平均冷却速度で350~500℃の温度域まで冷却する
ことを特徴とする。
また、本発明の溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管(以下「本発明鋼管」ということがある。)は、本発明鋼板を用いて製造した鋼管であって、GOST規格の試験片形状の全厚引張試験における降伏強度が575MPa以上、引張強度が640MPa以上、伸びが18%以上であることを特徴とする。
さらに、本発明の溶接部熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管の製造方法(以下「本発明鋼管製造方法」ということがある。)は、本発明鋼管を製造する製造方法であって、本発明鋼板を筒状に成形し、該鋼板の突合せ部を溶接し、必要に応じ、溶接後に拡管することを特徴とする。
はじめに、本発明鋼板について説明する。
まず、本発明鋼板の成分組成の限定理由について説明する。以下、成分組成に係る%は、質量%を意味する。
C:0.03~0.12%
Cは、強度の確保に必要な元素である。0.03%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Cは0.03%以上とする。好ましくは0.07%以上である。一方、0.12%を超えると、母材靭性及び溶接熱影響部(HAZ)靭性が劣化し、また、MAが生成して、伸びが低下するので、Cは0.12%以下とする。好ましくは0.10%以下である。
Si:0.05~0.50%
Siは、脱酸のため添加し、また、固溶強化により強度向上に寄与する元素である。0.05%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Siは0.05%以上とする。好ましくは0.10%以上である。一方、0.50%を超えると、溶接性や靭性が劣化するので、Siは0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
なお、Siは、MAの生成を促す元素でもあるので、成分組成や製造条件の変動によらず、安定してMAの生成を抑制するためには、0.35%以下がより好ましい。
Mn:1.20~2.50%
Mnは、強度や焼入性の向上に寄与する元素である。また、Ti酸化物に複合析出したMnSの周囲に形成されるMn欠乏層により粒内フェライトが生成するので、Ti-Mn酸化物を核として粒内フェライトを生成させるためには、一定量以上のMnが必要である。
1.20%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Mnは1.20%以上とする。好ましくは1.50%以上である。一方、2.50%を超えると、靱性及び溶接性が劣化するので、Mnは2.50%以下とする。好ましくは2.20%以下である。
なお、Mnは、MAの生成を促す元素でもあるので、成分組成や製造条件の変動によらず、安定してMAの生成を抑制するためには、2.00%以下がより好ましい。
P:0.015%以下
Pは、不可避的不純物元素であり、また、粒界に偏析して靱性を劣化させる元素である。0.015%を超えると、粒界偏析や中心偏析が著しくなり、母材靭性が劣化するので、Pは0.015%以下とする。好ましくは0.012%以下である。
中心偏析部では、成分組成や製造条件が変動すると、MAが多量に生成するので、より好ましくは0.010%以下である。下限は特に限定しないが、0.0005%未満への低減は、製造コストの上昇を招くので、実用鋼板上、0.0005%が実質的な下限である。
S:0.010%以下
Sは、不可避的不純物元素であり、また、熱延時の割れの原因となるMnSを生成する元素である。できるだけ低減することが好ましいが、0.010%を超えると、MnSの生成量が増加して母材靭性が劣化するので、Sは0.010%以下とする。好ましくは0.005%以下である。下限は特に限定しないが、0.0005%未満への低減は、製造コストの上昇を招くので、実用鋼板上、0.0005%が実質的な下限である。
Ti:0.005~0.030%
Tiは、Oと結合して、粒内フェライトの生成を促進する機能を有するTi-Mn複合酸化物を形成する重要な元素である。生成したTi-Mn複合酸化物を核としてフェライト変態が生じ、母鋼板の靱性が向上するとともに、HAZ組織が微細化してHAZ靱性が向上する。0.005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Tiは0.005%以上とする。好ましくは0.008%以上である。
一方、0.030%を超えると、Ti-Mn複合酸化物が粗大化し、溶接熱影響部の靭性が劣化するので、Tiは0.030%以下とする。好ましくは0.025%以下である。
なお、添加したTiは、フェライトの生成を促進する機能を有するTi窒化物も形成するので、粒内フェライトの生成をより促進するためには、Ti、O、及び、Nの適切な量的関係が必要であり、本発明鋼板においては、下記式[1]で定義する指標Aを導入するが、指標Aについては後述する。
A=([Ti]-2×[O])/[N] ・・・[1]
ここで、[Ti]:Ti量(質量%)
[O]:O量(質量%)、
[N]:N量(質量%)
Al:0.005%未満
Alは、強力な脱酸元素である。鋼中にTi-Mn複合酸化物を形成し、粒内フェライトの生成に活用するためには、鋼中にTiと結合するOを十分に確保することが重要である。それ故、本発明鋼板においては、強力な脱酸元素を必須成分としない。この点が、本発明鋼板の成分組成上の特徴である。
しかし、鋼原料から混入する場合があることを想定して、Alは0.005%未満に制限する。Alが0.005%以上になると、Al酸化物が生成して、鋼中のOの量が著しく減少し、Ti-Mn複合酸化物が生成し難いので、Alは0.005%未満とする。好ましくは0.003%以下である。
下限は0%を含むが、Alを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
N:0.001~0.005%
Nは、固溶強化元素であり、また、TiやNbと結合して、フェライトの生成を促進する機能を有する窒化物を形成する元素である。0.001%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Nは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.0050%を超えると、固溶強化が進み、溶接熱影響部の靱性が劣化するので、Nは0.005%以下とする。好ましくは0.004%以下である。
O:0.001~0.005%
Oは、Tiと結合し、粒内フェライト生成の核となる機能を有するTi-Mn複合酸化物を形成する元素である。0.0010%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Oは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.005%を超えると、Ti-Mn複合酸化物のサイズ及び個数が過大となり、靱性劣化の要因となるので、Oは0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
本発明鋼板は、低温靭性の低下を招く多量の合金元素を添加せずに、上記元素で構成されるものであるが、本発明鋼板の特性を損なわない範囲で、以下の、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B、Ca、Mg、及び、REMの1種又は2種以上を含有してもよい。
Cu:0.01~0.50%
Cuは、強度の確保に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Cuは0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、0.50%を超えると、熱間加工性が低下し、また、低温靱性が低下するので、Cuは0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
Ni:0.01~0.50%
Niは、鋼の焼入性の向上に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Niは0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、Niは高価な元素であるため、0.50%を超えると、添加効果が飽和するだけでなく、製造コストが上昇するので、0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
Cr:0.01~0.50%
Crは、焼入性の向上に寄与する元素であり、強度の向上に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Crは0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、0.50%を超えると、低温靭性が劣化するので、Crは0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
Mo:0.01~0.50%
Moは、焼入性の向上に寄与する元素である。0.01%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Moは0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、0.50%を超えると、溶接性や低温靱性が低下するので、Moは0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
Nb:0.005~0.030%
Nbは、Nb(CN)を生成し、そのピニング効果により組織を細粒化して、靭性の向上に寄与する元素である。また、固溶Nbは、焼入性を高め、強度の上昇に寄与する元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Nbは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。一方、0.030%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するので、Nbは0.030%以下とする。好ましくは0.025%以下である。
V:0.10%以下
Vは、焼入性の向上に寄与する元素であり、強度の向上に有効な元素である。しかし、0.10%を超えると、低温靭性が劣化するので、Vは0.10%以下とする。好ましくは0.05%以下である。下限は特に限定しないが、0.005%程度の添加で添加効果が発現するので、実用鋼板上、0.005%が実質的な下限である。
B:0.005%以下
Bは、焼入性の向上と、粒内フェライトの生成に寄与する元素である。しかし、0.005%を超えると、粗大なBN等が生成し、低温靭性が低下するので、Bは0.005%以下とする。好ましくは0.002%以下である。下限は特に限定しないが、0.0001%程度の添加で添加効果が発現するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、硫化物系介在物の形態を制御して、靭性の向上に寄与する元素である。0.0001%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Caは0.0001%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0050%を超えると、鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するので、Caは0.0050%以下とする。好ましくは0.0035%以下である。
Mg:0.0001~0.0050%
Mgは、硫化物系介在物の形態を制御して、靭性の向上に寄与する元素である。0.0001%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Mgは0.0001%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0050%を超えると、鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するので、Mgは0.0050%以下とする。好ましくは0.0035%以下である。
REM:0.0035%以下
REMは、硫化物系介在物の形態を制御して、靭性の向上に寄与する元素である。しかし、0.0035%を超えると、鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するので、REMは0.0035%以下とする。好ましくは0.0025%以下である。下限は特に限定しないが、0.0001%程度の添加で添加効果が発現するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
ここで、上記式[1]で定義する指標Aについて説明する。
指標A(上記式[1]):1.5~3.5
指標A(=([Ti]-2×[O])/[N]、[Ti]:Ti量(質量%)、[O]:O量(質量%)、[N]:N量(質量%))は、粒内フェライトの生成を促進するため、フェライト変態の核となる“円相当径0.05~2.0μm”のTi-Mn複合酸化物を、1.0×105~1.0×107個/mm2形成するのに必要なTiの量的範囲を、窒化物を形成するTiの量を考慮して規定する指標である。
指標Aが1.5未満では、Ti-Mn複合酸化物が充分に形成されないので、指標Aは1.5以上とする。一方、指標Aが3.5を超えると、粗大なTi-Mn複合酸化物が生成し、靱性が低下するので、指標Aは3.5以下とする。
次に、本発明鋼板の金属組織と機械特性について説明する。
本発明鋼板の金属組織は、主として、フェライトとベイナイトの2相混合組織である。そして、該組織は、
(ii-1)平均粒径20μm以下のフェライトの分率が面積率で30%以上で、ベイナイトの平均硬度が230Hv以上であり、
(ii-2)MAの分率が面積率で3%未満で、フェライト粒の周囲に生成するMAの最大長さが10μm以下、平均長さが0.1~2.0μmであり、
(ii-3)円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物が1.0×105~1.0×107個/mm2存在する
組織である。
本発明鋼板の金属組織を規定する要件について説明する。
平均粒径20μm以下のフェライトの分率:面積率で30%以上
フェライトとベイナイトの2相混合組織において、鋼中に分散させたTi-Mn複合酸化物を核として、粒内フェライトの生成を促進することにより、フェライト粒径を微細化し、平均粒径20μm以下のフェライトを、面積分率で30%以上確保することができる。
その結果、高一様伸び(n値:0.1~0.2)と、20%以上の全伸びを達成することができる。好ましくは、平均粒径20μm以下のフェライトを、面積率で40%以上確保する。上記フェライトの分率の上限は、所要の強度の確保の点で、65%程度が実質的な上限となる。
また、平均粒径20μm以下の微細なフェライトを生成することで、MAも鋼中に微細に分散するので、GOST規格の試験片形状の全厚引張試験において、局部伸びの劣化を抑制し、0.1~0.2のn値と、20%以上の全伸びを達成することができる。
ベイナイトの平均硬度:230Hv以上
ベイナイトの平均硬度を230Hv以上とすることで、本発明鋼板から製造した鋼管において、GOST規格の試験片形状の全厚引張試験で、降伏強度575MPa以上、引張強度640MPa以上、伸び18%以上を達成することができる。ベイナイトの平均硬度は、好ましくは250Hv以上である。ベイナイトの平均硬度の上限は、特に限定しないが、伸び特性の確保の点で、290Hv程度が実質的な上限となる。
MAの分率:面積率で3%未満
ラインパイプ用鋼板を大きな変形を受ける地震地帯等で使用する場合、該鋼板には、一様伸びを主とする伸び性能が要求される。しかし、ラインパイプ用鋼板が、n値が良好な一様伸びを備えていても、鋼板組織中に、MAのような極めて硬い硬化組織が存在すると、MA/フェライトの異相界面やMA/ベイナイトの異相界面でマイクロクラックが発生し易くなる。
上記異相界面でマイクロクラックが発生すると、局部伸びが低下するので、ラインパイプ用鋼板においては、MAの生成抑制を含め、金属組織の制御が必要となる。
MAは、(a)微細なフェライトやベイナイトの粒界に微細に分散しているもの、(b)ベイナイトのラス内に存在するもの、及び、(c)粗大なフェライトの粒界を覆うように生成しているものの3形態に分けられる。
本発明鋼板の金属組織においては、全てのMA形態につき、MA分率を面積率で3%未満に抑制する。MA分率を3%未満に抑制することにより、局部伸びを効果的に改善することができる。好ましくは2%以下である。
MAの最大長さ:10μm以下
MAの平均長さ:0.1~2.0μm
γ-α変態時に粗大に成長したフェライト粒の周囲に生成するMAは、引張方向に垂直に投影した時のサイズが大きいため、特に、局部伸び性能を阻害するので、最大長さを10μm以下に、かつ、平均長さを0.1~2.0μmにする必要がある。
MAの最大長さが10μmを超えると、鋼板の伸び性能が著しく低下するので、MAの最大長さは10μm以下とする。好ましくは7μm以下である。下限は特に限定しないが、不可避的に生成するMAの場合、1.0μm程度のため、1.0μm程度が実質的な下限となる。
MAの平均長さが2.0μm超であると、鋼板の伸び性能や低温靱性が低下するので、MAの平均長さは2.0μm以下とする。下限は、特に限定しないが、不可避的にMAが生成する場合、その平均長さが0.1μm程度であるので、0.1μm程度が実質的な下限である。
円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物:1.0×105
1.0×107個/mm2
本発明鋼板のHAZの金属組織においては、粒内フェライトの生成を促進して金属組織を微細化し、HAZ靱性の向上を図るため、フェライト変態の核となるTi-Mn複合酸化物を形成する。その場合、金属組織中に、円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物を1.0×105~1.0×107個/mm2存在させる。
Ti-Mn複合酸化物は、円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物に着目する。円相当径が2.0μmを超えると、引張試験時にTi-Mn複合酸化物がボイドの発生起点となるため、延性が低下する。また、粗大な介在物は破壊発生起点にもなり、靱性が劣化するので、Ti-Mn複合酸化物の円相当径は2.0μm以下とする。
円相当径が0.05μm未満のTi-Mn複合酸化物は、フェライト変態の核として機能しないので、Ti-Mn複合酸化物の円相当径は0.05μm以上とする。
円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物の個数が1.0×105個/mm2未満では、フェライト変態を促進できないので、上記個数は1.0×105個/mm2以上とする。
一方、円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物の個数が1.0×107個/mm2を超えると、引張試験時に、Ti-Mn複合酸化物がボイドの発生起点となり、ボイドの生成と連結頻度が高くなり、特に、局部伸びが低下するので、上記個数は1.0×107個/mm2以下とする。
以上説明したように、本発明鋼板は、低温靭性の低下を招く多量の合金元素を必要とせず、(i)指標Aを1.5~3.5に、かつ、(ii)主として、フェライトとベイナイトの2相混合組織において、(ii-1)平均粒径20μm以下のフェライトの分率を面積率で30%以上、ベイナイトの平均硬度を230Hv以上とし、(ii-2)MAの分率を面積率で3%未満とするとともに、フェライト粒の周囲に生成するMAの最大長さを10μm以下、平均長さを0.1~2.0μmとし、(ii-3)円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物を1.0×105~1.0×107個/mm2存在させることにより、GOST規格の試験片形状の全厚引張試験での、一様伸びに係るn値0.1~0.2、及び、全伸び20%以上、さらに、シャルピー衝撃試験での靭性値vE-40200J以上を達成することができる。
次に、本発明鋼板製造方法について説明する。
本発明鋼板製造方法においては、前述したように、
(iv)本発明鋼板の成分組成と同じ成分組成の鋼片を1050~1250℃に加熱した後、未再結晶温度域にて、累積圧下率40%以上で熱間圧延し、700℃以上の温度で熱間圧延を完了し、次いで、
(v)50秒以下で冷却帯へ搬送し、10℃/秒以上の平均冷却速度で、熱延終了温度より-50~-150℃の温度域まで冷却して、該温度域に3秒超15秒以下保持し、続いて、30℃/秒以上の平均冷却速度で350~500℃の温度域まで冷却する。
以下、本発明鋼板製造方法の工程条件について説明する。
鋼片加熱温度:1050~1250℃
鋼片加熱温度が1050℃未満であると、炭化物の固溶が不十分となり、必要な強度が得られないので、鋼片加熱温度は1050℃以上とする。好ましくは1080℃以上である。一方、鋼片加熱温度が1250℃を超えると、γ粒が成長し、最終組織が粗大となり、母材強度、及び、母材靭性が劣化するので、鋼片加熱温度は1250℃以下とする。好ましくは1150℃以下である。
未再結晶温度域における累積圧下率:40%以上
圧延中のオーステナイト粒の微細化を促進して、フェライト粒の微細化を図るため、未再結晶温度域において、累積圧下率40%以上で、1050~1250℃に加熱した鋼片に熱間圧延を施す。
累積圧下率が40%未満であると、フェライト粒の微細化を十分に達成できないので、累積圧下率は40%以上とする。好ましくは50%以上である。累積圧下率は、鋼片の変形抵抗を考慮して設定するので、上限は限定できないが、圧延機の圧延限界が実質的な上限である。
熱間圧延終了温度:700℃以上
熱間圧延は、700℃以上の温度で終了する必要がある。熱間圧延終了温度が700℃未満であると、所要の冷却開始温度を確保することができない。好ましくは750℃以上である。熱間圧延中の鋼片又は鋼板の温度の低下分は、圧延条件により変動するので、熱間圧延終了温度の上限は、特に限定しない。
熱延終了後の冷却帯への搬送時間:50秒以内
熱間圧延完了後の鋼板を、50秒以内に冷却帯へ搬送する。該搬送時間が50秒を超えると、鋼板を空冷することになり、高温でフェライト変態が進行し、粗大なフェライトが生成する。γ-α変態時に、Cが、オーステナイト界面に吐き出されるので、生成した粗大なフェライトの周囲に、フェライトを覆う伸びたMAが生成する。
フェライトが粗大化すると、降伏強度が低下し、粗大なフェライトの周囲に伸びたMAが生成すると、局部伸びが低下するので、鋼板を冷却帯へ搬送するまでの時間は、空冷を避けるため50秒以内とする。搬送時間は短いほど好ましいので、下限は限定しない。熱間圧延終了後、鋼板を、直ちに冷却帯へ搬送するのが好ましい。
熱延終了温度より-50~-150℃の温度域までの平均冷却速度:10℃/秒以上
平均粒径20μm以下の細粒フェライトを面積率で30%以上含む、フェライトとベイナイトの2相混合組織を得るためには、高温でのγ-α変態を避けて、低温でγ-α変態を促進する必要がある。そのため、冷却帯へ搬送後、直ちに、所定の温度域(熱延終了温度より-50~-150℃)まで急冷する必要がある。
平均冷却速度が10℃/秒未満であると、粗大なフェライトが生成し、また、生成したMAもフェライト回りで延伸するので、平均冷却速度は10℃/秒以上とする。好ましくは20℃/秒以上である。
冷却開始温度域:熱間圧延終了温度より-50~-150℃
フェライトを30%以上生成させるため、熱延終了温度より-50~-150℃の温度域に、平均冷却速度10℃/秒以上で急冷する。冷却温度域が、熱延修了温度より-50℃を超えると、高温域に急冷することになり、粗大なフェライトが生成するので、熱延修了温度より-50℃以下とする。
一方、冷却温度域が、熱延終了温度-150℃未満であると、フェライト変態より、ベイナイト変態が進行し、硬化組織が生成するので、熱延終了温度-150℃以上とする。
冷却温度域での保持時間:3秒超15秒以下
冷却温度域での保持時間が3秒以下であると、フェライト変態が進行しないので、保持時間は3秒超とする。一方、保持時間が15秒を超えると、フェライト変態が著しく進んで粗大化し、かつ、残部にパーライトなどが生成するので、保持時間は15秒以下とする。
350~500℃の温度域への平均冷却速度:30℃/秒以上
350~500℃の温度域への平均冷却速度が30℃/秒未満であると、パーライトなどが生成して、所定の強度が得られないので、平均冷却速度30℃/秒以上で冷却して、ベイナイト変態を促進する。上限は特に限定しないが、冷却設備の冷却能の限度が実質的な上限である。
冷却停止温度域:350~500℃
冷却温度域が350℃未満であると、マルテンサイトなどの硬化組織が生成して、低温靭性が劣化するので、冷却温度域は350℃以上とする。好ましくは380℃以上である。一方、冷却温度域が500℃を超えると、パーライトなどが生成して、所要の金属組織が得られないので、冷却温度域は500℃以下とする。好ましくは470℃以下である。
以上説明したように、本発明鋼板製造方法は、基本的に、熱間圧延工程、次いで、熱間圧延終了直後の加速冷却工程からなるものであるので、本発明鋼板製造方法によれば、寒冷地で使用するラインパイプの製造に好適な、高強度と高延性を有し、さらに、溶接熱影響部の靱性に優れる、低温靭性の低下を招く合金元素を多量に含有しない鋼板を、生産性及び経済性よく大量に安定して製造することができる。
次に、本発明鋼管について説明する。
本発明鋼管は、本発明鋼板を用いて製造した鋼管であって、GOST規格の試験片形状の全厚引張試験における降伏強度が575MPa以上、引張強度が640MPa以上、伸びが18%以上の構造用鋼管である。
本発明鋼管は、上記機械特性に加え、溶接熱影響部のシャルピー靱性値vE-40が50J以上の低温靱性に優れている構造用鋼管であるので、寒冷地で使用するラインパイプに好適な構造用鋼管である。
本発明鋼管製造方法について説明する。
本発明鋼管製造方法は、本発明鋼板を筒状に成形し、端部を突き合せた突合せ部を溶接し、必要に応じ、溶接後に拡管して鋼管を製造する。
本発明鋼板を筒状に成形する成形法は、筒状に成形できる成形法であればよく、特定の成形法に限定されないが、例えば、UOプロセス、又は、JCOプロセスが好ましい。
上記突合せ部を溶接する溶接法は、特に、特定の溶接法に限定されないが、サブマージアーク溶接法が好ましい。鋼板の板厚が厚い場合、鋼板端部の突合せ部を、内外面から溶接する溶接法が好ましい。この場合、突合せ部の内外面から1層ずつ、片面1パスの入熱を10~30kJ/cmとして溶接することが好ましい。
本発明鋼管製造方法において、溶接後、拡管を行う場合は、0.4~2.0%の拡管率で行うことが好ましい。この拡管で、形状精度の優れた構造用鋼管を製造することができる。
本発明鋼管製造方法は、基本的には、従来の製造工程に依るものであるが、本発明鋼板は、低温靭性の低下を招く合金元素を多量に含有せず、API 5L X80グレード以上の高強度と高延性を有し、溶接熱影響部の靱性に優れているので、本発明鋼管製造方法によれば、寒冷地で使用するラインパイプに好適な構造用鋼管を大量に安定して製造することができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に示す成分組成のインゴットを真空溶解炉にて溶製し、厚み240~300mmに加工し、板厚20~30mmの厚鋼板を製造した。
Figure 0007473770000001
次に、表2に示す製造条件で鋼板を製造した。
Figure 0007473770000002
製造した鋼板から試験片を採取し、以下のように、観察及び試験を行った。
試験片を、3%ナイタール液(硝酸アルコール溶液)でエッチングした後、光学顕微鏡で、組織を観察した。倍率は500倍、観察視野は220μm×180μmである。
撮影した光学顕微鏡写真を用いて、ポイントカウンティング法と切片法で、フェライト分率と粒径を算出した。
試験片を、レペラ腐食液(4%ピクリン酸エタノール溶液と二亜硫酸ナトリウム水溶液を1:1で混合した腐食液)でエッチングした後、光学顕微鏡で、MAを観察した。倍率500倍、観察視野は220μm×180μmである。MA部分を二値化し、ルーゼックス画像解析にて、MA分率を算出し、MA形状を特定した。
試験片を、鏡面研磨した後、SEM-EDSでTi-Mn複合酸化物のサイズと数を分析した。倍率は500倍から3000倍で、観察視野は1.0mm×1.0mmとした。
造管前の鋼板からGOST規格の試験片を採取して厚引張試験を行い、全伸び(%)、n値(5~10%)、及び、局部伸び(%)を測定した。また、シャルピー衝撃試験で、vE-40を測定した。
さらに、製造した25mm厚の鋼板を筒状に成形した後、鋼板端部の突合せ部を、サブマージアーク溶接で、内面は1パスの入熱を11kJ/cmとして溶接し、外面は1パスの入熱を14kJ/cmとして溶接し、造管後の鋼管からGOST規格の試験片を採取して全厚引張試験を行い、降伏強度YS(MPa)、引張強度TS(MPa)、全伸び(%)、及び、局部伸び(%)を測定した。また、シャルピー衝撃試験は、フルサイズを使用してvE-40を測定した。
結果を表3に示す。
Figure 0007473770000003
表3において、発明鋼1~21は、いずれも、成分組成及び製造方法が本発明の範囲内であり、造管後の降伏強度YSが575MPa以上である。また、発明鋼1~21は、いずれも、一様伸びを示すn値が0.1~0.2で、全伸びが20%以上であり、高延性である。さらに、-40℃のシャルピー吸収エネルギー値vE-40が200J以上であり、低温靱性に優れている。
一方、比較鋼22~26は、成分組成が本発明の範囲を外れているため、金属組織が、本発明の範囲外の組織となり、全伸び、及び、低温靭性が劣っている。
比較鋼22は高C、比較鋼23は高Siのため、比較鋼24は高Mnのため、いずれも、MAが多く生成し、母材の全伸びと靱性、造管後の全伸びと靱性が低くなっている。
比較鋼25は高Tiのため、粒内変態核となる所定のサイズのTi-Mn複合酸化物量が少ないため、造管後のHAZ靱性が低くなっている。
比較鋼26は高Alのため、MAが多く生成し、母材の全伸びと靱性が低下している。また、高Alにより、粒内変態核となる所定のサイズのTi-Mn複合酸化物量が少ないため、HAZの靱性が低くなっている。
比較鋼27~30は、成分組成が本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲を外れているため、金属組織も本発明の範囲外の組織となり、材質特性が劣っている。
比較鋼27は、圧延終了温度が低いため、フェライトの生成が促進されて、MA分率が増加し、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼28は、搬送時間が長いため、フェライト粒の粗大化が顕著となり、MA分率、MAサイズが増加し、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼29は、第1冷却速度が遅いため、フェライト粒の粗大化、およびパーライトなどの組織が生成したことにより、母材と造管後の両方に置いて、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼30は、保持温度が高いため、フェライト粒が粗大化し、MA分率、MAサイズが増加し、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼31は、保持温度が低いため、フェライト分率が低く、ベイナイト分率が増加し、さらに、ベイナイト組織中に多量のMAが生成したため、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼32は、保持時間が短いため、フェライト分率が低く、ベイナイト分率が増加し、さらに、ベイナイト組織中に多量のMAが生成したため、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼33は、保持時間が長いため、フェライト粒が粗大化し、MA分率、MAサイズが増加し、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
比較鋼34は、停止温度が低いため、強度の高いマルテンサイトの生成が促進され、残部に多量のMAが生成したことにより、母材と造管後の両方において、全伸びと靱性が低位となっている。
前述したように、本発明によれば、低温靭性の低下を招く多量の合金元素を添加せずに、主に、寒冷地におけるラインパイプ用鋼板に使用し得る、局部伸びに優れる低降伏比の高強度高延性鋼板を、生産性及び経済性よく大量に安定して製造することができる。よって本発明は、鋼板製造産業及び鋼構造物建造産業において利用可能性が高いものである。

Claims (9)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C :0.03~0.12%、
    Si:0.05~0.50%、
    Mn:1.20~2.50%、
    P :0.015%以下、
    S :0.010%以下、
    Ti:0.005~0.030%、
    Al:0.005%未満、
    N :0.001~0.005%、
    O :0.001~0.005%
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、
    (i)下記式[1]で定義する指標Aが1.5~3.5であり、
    (ii)上記鋼板の金属組織が、フェライトとベイナイトの2相混合組織であり、
    (ii-1)フェライトの平均粒径が20μm以下、フェライトの分率が面積率で30%以上、ベイナイトの分率が面積率で39.2%以上、ベイナイトの平均硬度が230Hv以上であり、
    (ii-2)MAの分率が面積率で3%未満で、フェライト粒の周囲に生成するMAの最大長さが10μm以下、平均長さが0.1~2.0μmであり、
    (ii-3)円相当径0.05~2.0μmのTi-Mn複合酸化物が1.0×10~1.0×10個/mm存在する
    ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
    A=([Ti]-2×[O])/[N] ・・・[1]
    ここで、[Ti]:Ti量(質量%)
    [O]:O量(質量%)
    [N]:N量(質量%)
  2. 前記金属組織の機械特性が、
    (iii-1)GOST規格の試験片形状の全厚引張試験による一様伸びに係るn値が0.1~0.2、全伸びが20%以上で、
    (iii-2)シャルピー衝撃試験による靭性値vE-40が200J以上である
    ことを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
  3. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cu:0.01~0.50%、
    Ni:0.01~0.50%、
    Cr:0.01~0.50%、
    Mo:0.01~0.50%、
    Nb:0.005~0.030%、
    V :0.10%以下、
    B :0.005%以下
    の1種又は2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
  4. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Ca:0.0001~0.0050%、
    Mg:0.0001~0.0050%、
    REM:0.0035%以下
    の1種又は2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を製造する製造方法であって、
    (iv)請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼板の成分組成と同じ成分組成の鋼片を1050~1250℃に加熱した後、未再結晶温度域にて、累積圧下率40%以上で熱間圧延し、700℃以上の温度で熱間圧延を終了し、次いで、
    (v)50秒以下で冷却帯へ搬送し、10℃/秒以上の平均冷却速度で、熱延終了温度より-50~-150℃の温度域まで冷却して、該温度域に3秒超15秒以下保持し、続いて、30℃/秒以上の平均冷却速度で350~500℃の温度域まで冷却する
    ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板の製造方法。
  6. 請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を用いて製造した鋼管であって、
    GOST規格の試験片形状の全厚引張試験における降伏強度が575MPa以上、引張強度が640MPa以上、伸びが18%以上である
    ことを特徴とする溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管。
  7. 前記鋼管の溶接熱影響部の、シャルピー衝撃試験による靱性値vE-40が50J以上であることを特徴とする請求項6に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管。
  8. 請求項6又は7に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管を製造する製造方法であって、
    請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靱性に優れる鋼管用高延性鋼板を筒状に成形し、該鋼板端部の突合せ部を溶接し、必要に応じ、溶接後に拡管する
    ことを特徴とする溶接部熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管の製造方法。
  9. 前記鋼管用高延性鋼板を、UOプロセス、又は、JCOプロセスで筒状に成形することを特徴とする請求項8に記載の溶接部熱影響部の靱性に優れる構造用鋼管の製造方法。
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