JP7461777B2 - 沸騰冷却用作動液、それを用いた沸騰冷却装置および沸騰冷却方法 - Google Patents

沸騰冷却用作動液、それを用いた沸騰冷却装置および沸騰冷却方法 Download PDF

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Description

本発明は、沸騰冷却用作動液、それを用いた沸騰冷却装置および沸騰冷却方法に関する。
高発熱密度の高温物体を低コストで効率的に冷却する次世代技術として、沸騰冷却技術が期待されている。沸騰冷却技術においては、発熱体(被冷却部)の伝熱面と作動流体とを接触させて液体から気体へ相変化するときの潜熱を利用する。温度変化の生じる顕熱に比べて、より多くの熱エネルギーを小さな温度差で輸送することができるため、沸騰冷却技術を使用した相変化型冷却器は、国内外問わず開発が進められている。
ENHANCING THERMAL CONDUCTIVITYOF FLUIDS WITH NANOPARTICLES(Stephen U. S. Choi and J. A. Eastman) Effect of nanoparticles on criticalheat flux of water in pool boiling heat transfer(S. M. You, J. H. Kim, and K.H. Kim APPLIED PHYSICS LETTERS VOLUME 83, NUMBER 16, 2003)
しかしながら、沸騰冷却技術には、限界熱流束(Critical Heat Flux:CHF)という問題がある。これは伝熱面にCHF以上の大きな熱流束負荷が加えられると、沸騰方式による冷却が困難になるというものである。熱流束が増大すると、作動流体の蒸発量が増加して伝熱面上で孤立発生していた沸騰気泡が合体し、図1に示すように一つの大きな合体気泡10が発熱体16の伝熱面18を覆い始める。伝熱面18が合体気泡10で完全に覆われると、伝熱面18と作動流体14とが接触せず潜熱による熱輸送は不可能となる。冷却能力が著しく低下するこの状態への遷移は、ドライアウトもしくはバーンアウトなどと称される。この状態に遷移する熱流束がCHFである。
沸騰冷却中にドライアウトが生じると、冷却能力の低下により伝熱面の温度が急上昇するため、半導体デバイスであれば熱による故障に至る。また、発熱物体であれば、融点を超えて溶融に至って火災などの危険な状態に陥るおそれがある。これに対応するために、沸騰冷却装置のCHFを高める試みが行われており、作動液に添加物を加えることが提案されている。作動液にナノ粒子を添加する手法は、ポンプなど機械要素へのダメージが少なく単相冷却時に強制対流させることができる(非特許文献1)。ナノ粒子を沸騰冷却に用いる冷媒に添加した場合には、CHFが200%程度向上することが報告されている(非特許文献2)。
伝熱面との接触により作動液が沸騰してナノ粒子が濃縮され、伝熱面表面にナノ粒子が堆積する。そのナノ粒子堆積面のぬれ限界温度が、本来の伝熱面のぬれ限界温度より高くなることによって、CHF改善の効果が得られるものと考えられている。ぬれ限界温度とは、物体に対して作動液がぬれ広がり得る最大温度をさす。ぬれ限界温度以上になると、沸騰により乾いた伝熱面を作動液が再び濡らすことができず、ドライアウトへ遷移が始まる。ぬれ限界温度が高いほど、ドライアウトへ遷移し難くなる。
ナノ粒子を含有する沸騰冷却用作動液を長時間使用すると、伝熱面に堆積し続けるナノ粒子層が熱抵抗層となって沸騰冷却時の伝熱面の温度が上昇し、熱抵抗を上昇させてしまう。熱抵抗は電子機器向け冷却装置の性能指標の一つであり、ある2点間における熱(W)の移動に際して生じる温度差(K)、すなわち熱の伝わり難さを表す値である。熱抵抗は冷却装置の設計上重要な要素であるので、沸騰冷却装置においても低減が求められる。電子機器向け沸騰冷却装置の場合は特に、動作時温度が冷却対象とする電子機器の製品寿命に直結するため、熱抵抗および伝熱面温度を長時間低く維持する必要がある。
そこで本発明は、沸騰冷却時に問題となる上記の2つの課題、すなわち、長期にわたって低い熱抵抗を維持しつつ、CHFを大幅に改善することが可能な沸騰冷却用作動液、沸騰冷却装置、および沸騰冷却方法を提供することを目的とする。
本発明に係る沸騰冷却用作動液は、冷媒と、前記冷媒中に1重量%以下の濃度で分散した平均粒子径5μm未満の炭酸カルシウム粒子とを含有することを特徴とする。
本発明に係る沸騰冷却装置は、被冷却部と、前記被冷却部に接触可能な作動流体とを備え、前記被冷却部の熱による前記作動流体の沸騰蒸発によって、前記被冷却部が冷却される沸騰冷却装置であって、前記作動流体として前述の沸騰冷却用作動液を用いることを特徴とする。
本発明に係る沸騰冷却方法は、被冷却部に作動流体が接し、前記被冷却部の熱により前記作動流体が沸騰蒸発することで、前記被冷却部を冷却する沸騰冷却方法であって、前記作動流体として前述の沸騰冷却用作動液を用いることを特徴とする。
本発明によれば、長期にわたって低い熱抵抗を維持しつつ、CHFを大幅に改善することが可能な沸騰冷却用作動液、沸騰冷却装置、および沸騰冷却方法を提供することができる。
限界熱流束を説明するための図である。 本発明の沸騰冷却装置の一例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の例を示す模式図である。 沸騰冷却用作動液の評価に用いた伝熱実験システムを示す概略図である。 伝熱面からの距離と温度との関係を示すグラフである。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。 本発明の沸騰冷却装置の他の構成例を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の沸騰冷却用作動液(以下、単に作動液とも称する)は、平均粒子径が5μm未満の炭酸カルシウム粒子が冷媒に分散された分散液である。冷媒としては、水が好ましく、不純物元素の少ない純水およびイオン交換水などがより好ましい。アンモニア、アルコール類、炭化水素類、またはフルオロカーボン類等を冷媒として用いてもよい。アルコール類としては、例えばエタノール等が挙げられ、炭化水素類としては、例えばヘプタン等が挙げられ、フルオロカーボン類としては、例えばフレオン-11等が挙げられる。
こうした冷媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。混合する場合には、均一に互いに溶解する種類、混合割合とすることが望まれる。冷媒は、炭酸カルシウムが溶解可能であることが好ましい。さらに、冷媒は炭酸カルシウムの溶解度において負の温度特性を有することが好ましい。溶解した炭酸カルシウムは、温度の高い伝熱面近傍に選択的に再析出する。これによって、伝熱面の炭酸カルシウム堆積層中の粒子間の接触熱抵抗、および伝熱面と粒子との間の接触熱抵抗が低下し、全体の熱抵抗が低減されるためである。
伝熱面から離れた領域にあり温度が相対的に低い作動液、および低熱負荷時・装置停止時の作動液においては、炭酸カルシウムが溶解する。その結果、炭酸カルシウム堆積層の剥離が促されることによって、長期間の安定した熱抵抗が得られる。また、水と相溶性のあるアルコール(エタノール、メタノール等)は、水と同様に炭酸カルシウムが溶解するため好ましい。
炭酸カルシウム粒子は、平均粒子径が5μm未満に規定される。なお、本明細書における平均粒子径とは、電子顕微鏡などの顕微鏡観察により求めた平均粒子径をさす。炭酸カルシウム粒子の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましい。炭酸カルシウム粒子の形状は特に限定されず、任意の形状とすることができる。
具体的には、炭酸カルシウム粒子の形状は、球状、粒状、板状、直方体状、立方体状または針状であっても良い。真球状の炭酸カルシウム粒子の場合には、直径が5μm未満に規定され、非真球状の炭酸カルシウム粒子の場合には、長径が5μm未満に規定される。粒状、板状および直方体状のカルシウム粒子の場合には、長手方向の長さが5μm未満に規定され、立方体状のカルシウム粒子の場合には、一辺の長さが5μm未満に規定される。針状の炭酸カルシウム粒子の場合には、長手方向の長さが5μm未満に規定される。
炭酸カルシウム粒子は、例えば、水酸化カルシウム懸濁液に二酸化炭素ガスを吹き込んで合成することができる。水酸化カルシウム懸濁液は、酸化カルシウムを十分な量の水と反応させて得られる。炭酸カルシウム粒子の平均粒子径は、例えば反応時間により制御することができる。平均粒子径が5μm以上の炭酸カルシウム粒子の場合には、例えば篩分け等により平均粒子径が5μm未満に調整すればよい。
あるいは、平均粒子径が5μm未満の市販の炭酸カルシウム粒子を用いて、本発明の作動液を調製することもできる。使用し得る炭酸カルシウム粒子としては、例えば宇部マテリアルズ製超高純度炭酸カルシウム(CS)等が挙げられる。
炭酸カルシウムの純度は特に限定されないが、冷媒に微量溶解することを考慮すると高純度である方が好ましい。純度の低い炭酸カルシウムが冷媒に溶解した場合には、炭酸カルシウム中の不純物元素が作動液に溶出して、沸騰冷却装置内の腐食などの問題を引き起こすおそれがある。
炭酸カルシウム粒子は、1重量%以下の濃度で冷媒中に分散させて、本発明の作動液が得られる。作動液中における炭酸カルシウム粒子の濃度は、0.5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。なお、本発明の効果が発揮されるためには、炭酸カルシウム粒子の濃度は、0.001重量%以上であることが望まれる。
炭酸カルシウム粒子は、例えば振とう、撹拌や低出力の超音波バスによる超音波の付与などにより冷媒中に分散させることができる。分散の方法は特に限定されないが、炭酸カルシウム粒子が均一に、かつ凝集が少なくなる方法が好ましく、さらに工業的に実用性の高い方法が好適である。
本発明の効果を損なわない範囲であれば、炭酸カルシウム粒子を分散させるために分散剤を用いてもよい。分散剤としては、例えばポリカルボン酸もしくはその無水物またはその塩からなるポリマーを含むポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。ポリカルボン酸系分散剤としては、Naを含まないポリカルボン酸アンモニウム塩や、カチオンで中和されていない酸性タイプのものが好ましい。分散剤の量は特に限定されないが、炭酸カルシウム100質量部に対して0.1~10質量部程度が一般的である。分散剤は、炭酸カルシウム粒子の表面に付着させてもよい。
本発明の作動液は、平均粒子径が5μm未満の炭酸カルシウム粒子が1重量%以下の濃度で含有されているので、本発明の作動液を用いることで、熱抵抗が低く伝熱特性に優れた沸騰冷却を行うことができる。具体的には、水のみを作動液として用いた従来の場合の200~500%程度と大きなCHFを達成することができる。また、本発明の作動液を用いることによって、伝熱面における伝熱効率の経時変化が抑制されるという効果も得られる。
本発明の沸騰冷却装置の一例を、図2に示す。沸騰冷却装置20は、作動流体24を収容する容器22を備えている。容器22の底部の一部には被冷却部26が接しているので、作動流体24は容器22を介して被冷却部26に接することができる。被冷却部26としては、例えば、半導体デバイス(ICチップ)等の発熱部材が挙げられる。被冷却部26の種類によっては、作動流体24に直接接していてもよい。
容器22、被冷却部26は、任意の形状とすることができる。また、容器22のサイズや縦横比、作動流体24の容量も特に限定されず、適宜選択することができる。容器22内に収容された作動流体24が沸騰して蒸発した後、凝縮できる構成であれば本発明の目的を達成することができる。容器22内の圧力は、大気圧、加圧環境、減圧環境のいずれでもよい。
被冷却部26の熱により沸騰蒸発した作動流体24は、矢印a方向に上昇し、冷却器としてのコンデンサー32において液化される。この際、矢印bで示されるように熱は放出されて、液化した作動流体24は、矢印cで示されるように容器22に戻る。なお、コンデンサー32は、任意の形状、タイプのものを用いることができる。
図示するような構成の沸騰冷却装置は、ポンプなどの外部動力源を必要とせず、装置全体としてコンパクトで省エネルギー性にも優れている。本発明の沸騰冷却装置20は、上述したような沸騰冷却用作動液を作動流体24として用いるので、高いCHFを繰り返し再現性よく得ることができる。しかも、伝熱面における伝熱効率の経時変化を抑制することができる。また、伝熱面へのコーティング等、特別な処理は何ら必要とされないので、安価に作製することができる。
図3には、本発明の沸騰冷却装置の他の例を示す。沸騰冷却装置30は、作動流体24を収容し、被冷却部26と接している容器22を備えている。沸騰冷却装置30においては、容器22とコンデンサー42との間に2系統の配管が設けられている。被冷却部26の熱により沸騰蒸発した作動液は、一方の配管内を矢印a方向に上昇し、コンデンサー42において液化される。
図2に示した沸騰冷却装置20の場合と同様、沸騰冷却装置30においても、コンデンサー42での液化により、矢印bで示されるように熱は放出される。液化した作動流体24は、他方の配管内を矢印cで示されるように通過して容器22に戻る。このように配管が別途設けられているので、沸騰冷却装置30では、図2に示した沸騰冷却装置20より効率よく冷却が行われることになる。
上述したように、本発明の沸騰冷却方法においては、沸騰冷却を必要とする被冷却部に作動流体が接し、該被冷却部の熱により作動流体が沸騰蒸発することで該被冷却部が冷却される。こうした機構で被冷却部が冷却される方法であれば、本発明の範囲内となる。
以下に本発明の具体例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
冷媒として純水を用い、下記表1に示す処方で実施例1~5、比較例1~5の沸騰冷却用作動液を調製した。
実施例および比較例の沸騰冷却作動液は、具体的には、以下のような手法により調製した。
[実施例1]
冷却装置を備えた反応容器に酸化カルシウムおよび純水を投入して、濃度7.5wt%の水酸化カルシウム懸濁液を2L調製した。この懸濁液を16℃に冷却し、攪拌しつつ二酸化炭素ガスを導入して炭酸化反応を行った。二酸化炭素ガスは、その導入速度が水酸化カルシウム1kgに対して5L/分となるように導入した。こうして、炭酸カルシウム粒子を含む懸濁液が得られた。
炭酸カルシウム粒子を含む懸濁液には、8gのアクリル酸アンモニウム共重合体を分散剤として添加した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って実施例1の作動液を得た。炭酸カルシウム粒子を電子顕微鏡で観察して求めた平均粒子径は、0.07μmであった。
[実施例2、3]
作動液の炭酸カルシウム濃度をそれぞれ0.01wt%、0.1wt%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例2,3の作動液を得た。
[実施例4]
炭酸カルシウム粒子(宇部マテリアルズ(株)製 超高純度炭酸カルシウムCS3N-A、平均粒子径<0.5μm、純度99.9%)を純水に加え、ポリエチレン製の容器中で振とうし、濃度10wt%の懸濁液を調製した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.1wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、実施例4の作動液を得た。
[実施例5]
作動液の炭酸カルシウム濃度を1wt%となるように変更した以外は、実施例4と同様の方法により実施例5の作動液を得た。
[比較例2]
炭酸カルシウム粒子(富士フィルム和光(株)製、純度99.9% 平均粒子径5μm)を純水に加え、ポリエチレン製の容器中で振とうし、濃度10wt%の懸濁液を調製した。本懸濁液を炭酸カルシウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、比較例2の作動液を得た。
[比較例3、4]
作動液の炭酸カルシウム濃度をそれぞれ0.01wt%、0.1wt%となるように変更した以外は、比較例2と同様の方法で比較例3,4の作動液を得た。
[比較例5]
酸化アルミニウム分散液(CIKナノテック(株)製ALW 10wt%、平均粒子径0.02μm)を酸化アルミニウム濃度が0.001wt%となるよう純水で希釈し、超音波バスにより超音波を付与して分散処理を行って、比較例5の作動液を得た。
実施例および比較例の作動液は、ベーパーチャンバー沸騰冷却装置を模した伝熱実験システムを用いて評価した。伝熱実験システムの概略を、図4に示す。システム50は、作動流体54を収容する容器51を備えている。容器51は、SUS304製の枠52と、ガスケット53を介して枠52の上に設けられた無酸素銅製の上板56と、ガスケット55を介して枠52の下に設けられたSUS304製の底板57とを含む。
上板56、ガスケット53、枠52、ガスケット55および底板57は、ボルト(図示せず)で一体に圧着固定され、これによって、作動流体54を収容する空間59が気密性を保たれた状態で形成されている。なお、ガスケットとしては、シリコンゴムシートが用いられる。本実施例においては、空間59の容積は、60mm×60mm×22mmとした。
上板56の上面には、冷却部としての水冷ヒートシンク58が設けられている。水冷ヒートシンク58は、冷却水(例えば25℃の水)を循環させることができる。空間59内の圧力は、バルブ64を介して接続された真空ポンプ(図示せず)により調整し、圧力計66により確認することができる。底板57の一部には、加熱ヒーター62で加熱可能な試験片ブロック60の端面が露出している。試験片ブロック60は、無酸素銅製の円柱(直径9mm)であり、露出している上端面が伝熱面68となる。
伝熱面68から所定距離(3mm、6mm、9mm)には、K型シース熱電対63(Class1、直径0.5mm)が、試験片ブロック60の側面から中心まで半径方向に挿入されている。これら熱電対63およびデータロガー(図示せず)によって、試験片ブロック60の所定の位置の温度を測定することができる。加熱ヒーター62の印加電圧を変圧器(図示せず)により変化させることで、試験片ブロック60の伝熱面68を通過する熱流束を制御可能である。
作動液の評価試験に先立って、試験片ブロック60の伝熱面68の状態を調整しておく。具体的には、伝熱面68を研磨紙で一方向に研磨した後、生じた研磨粉などの汚れを洗浄する。実施例および比較例の作動液を、作動流体54として伝熱実験システムの空間59内に容積の30%になるよう充填し、真空雰囲気下(試験開始時圧力-95kPa以下)で熱量を投入して試験を行った。
その際の伝熱面温度、熱流束および熱抵抗を求めた。それぞれの求め方は、以下のとおりである。
加熱ヒーター62の印加電圧を調整して定常状態になった後、試験片ブロック60の伝熱面68から所定距離(3mm、6mm、9mm)の温度を熱電対63で1分間測定し、それぞれの距離について平均値を得た。これを伝熱面68からの所定距離にある各位置の測定値として、図5のグラフにプロットした。図5に示される3点の温度分布の回帰直線を外挿し、伝熱面温度Tw(℃)を求めた。
また、回帰直線の傾きΔT/Δxを温度変化の傾きdT/dxとみなして、熱伝導率k(W/m・K)を用いて、下記数式(1)のフーリエの法則より熱流束q(W/cm2)を求めた。
q=-k(dT/dx) …数式(1)
ここで、印加電圧を2V以下のステップで上昇させながら、ドライアウトに遷移する直前の印加電圧における定常状態の熱流束をCHFとした。ドライアウトの定義は、熱電対63により測定された3点の温度がそれまでの状態に比べて急上昇し、ほぼ同等の温度になった状態をいう。
また、水冷ヒートシンク58と上板56の中心温度をTc(℃)として、下記数式(2)により熱抵抗R(K/W)を算出した。熱抵抗Rが小さいほど、伝熱性能が優れることを表す。
R=(Tw-Tc)/(q×伝熱面面積) …数式(2)
実施例および比較例の各作動液について3回の試験を行って評価し、熱抵抗およびCHFについて平均を求めた。下記表2には、実施例および比較例の作動液を用いた際のCHF時の熱抵抗の測定値及び平均をまとめる。
粒子が含有されない作動液(比較例1)の熱抵抗は1.41(K/W)であるのに対し、実施例の作動液の熱抵抗は、最大でも1.30(K/W)以下であることから、実施例の作動液は伝熱性能に優れていることがわかる。
平均粒子径が5μmの炭酸カルシウム粒子が含有された場合には、熱抵抗は最大で2.32(K/W)にも達している(比較例3)。その熱抵抗は、平均粒子径が0.07μmの炭酸カルシウム粒子を同じ濃度(0.01wt%)で含有する実施例2の3倍以上と大きい。
下記表3には、実施例および比較例の作動液を用いた際の限界熱流束(CHF)の測定値及び平均を示す。さらに、作動液として水のみを用いた場合(比較例1)の平均CHFを100%として、相対CHFを求め、その結果を、下記表3に合わせて示す。
実施例の作動液を用いた場合には、200%以上の相対CHFが得られており、実施例の作動液によって、高いCHFを繰り返し再現性よく得られることが確認された。
平均粒子径が5μmの炭酸カルシウム粒子が含有された場合には、CHFは低下してしまう(比較例2~4)。平均粒子径が0.02μmの粒子であっても酸化アルミニウムの場合には、相対CHFはたかだか157%であり(比較例5)、炭酸カルシウム粒子を含有した実施例には及ばないことがわかる。
なお、本発明の沸騰冷却装置は、上述の構成に限定されるものではない。本発明の沸騰冷却用作動液は、図6~11に示すような種々の構成の沸騰冷却装置に用いることができる。
図6に示す沸騰冷却装置70においては、内面にウイック73が配置された容器72が用いられる。作動流体78を収容する容器72は、底面で発熱体74に接し、上面で冷却部76に接している。発熱体74の熱により沸騰蒸発した作動流体78は、矢印e方向に上昇し、冷却部76により液化される。液化した作動流体78は、毛細管現象にてウイック73内を矢印rで示されるように移動する。平均粒子径の小さな炭酸カルシウム粒子を用いることで、ウイックを目詰まりさせることなく冷却が可能である。容器72の形状、発熱体74および冷却部76の設置位置や形状等は、特に限定されず、適宜選択することができる。
沸騰冷却装置は、図7に示すような流動型とすることもできる。図7に示す流動沸騰冷却型の沸騰冷却装置80においては、作動流体88は配管流路82内に収容される。配管流路82の途中には、作動流体88を輸送するためのポンプ83、および冷却用のラジエーター86が設けられている。配管流路82内の圧力は、特に限定されず、大気圧、加圧環境、減圧環境のいずれとしてもよい。
配管流路82内の作動流体88は、ポンプ83により矢印方向に移動する。発熱体84は、配管流路82の一部に接しているが、作動流体88に直接接触して設けることもできる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、ポンプ83における軸受けなどへの影響は最小限となる。平均粒子径は小さいほどポンプ軸受けなど可動部への影響は小さくなる。
冷却部は、作動流体とともに容器内に収容することもできる。図8には、プール沸騰冷却型の沸騰冷却装置90の構成を示す。図示する装置90では、作動流体98を収容する容器92の内部に、冷却部としての凝縮部96が設けられている。容器92内の圧力は特に限定されず、大気圧、加圧環境、減圧環境のいずれとしてもよい。発熱体94は、容器92の底面に接しているが、作動流体98に直接接触して設けることもできる。容器92、発熱体94、および凝縮部96の形状は特に限定されず、適宜選択することができる。
作動流体は、必ずしも容器内に収容する必要はなく、発熱体に向けてスプレーすることで発熱体と接触させることもできる。図9には、ミスト冷却型の沸騰冷却装置100の構成を示す。図示する装置100では、底面で発熱体104に接した板102が用いられ、作動流体108は、スプレーノズル106により板102に向けてスプレーされる。この場合には、作動流体108は、板102を介して発熱体104に接することになるが、作動流体108を、発熱体104に直接スプレーしてもうよい。
スプレーノズル106からの液滴の噴霧速度、スプレーノズル106と伝熱面との間の距離等、パラメータは特に制限されず、適宜選択することができる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、スプレーノズル106に詰まりが生じるおそれは少なく、飛散するミストの中にも粒子が分散して存在できる。平均粒子径は小さいほど、スプレーノズルへの悪影響は低減される。
図10には、衝突噴流沸騰冷却型の沸騰冷却装置110の構成を示す。図示する装置110は、ノズルスプレーを噴流ノズル112に変更した以外は、ミスト冷却型の装置100と同様の構成である。作動流体118は、噴流ノズル112により板102に向けて衝突させるが、発熱体104に直接衝突させてもよい。噴流ノズル112からの液滴の噴流、噴流ノズル112と伝熱面との間の距離等、パラメータは特に制限されず、適宜選択することができる。本発明の沸騰冷却用作動液に含有されている粒子は、平均粒子径が5μm未満の微小粒子であるので、圧送ポンプ軸受けやノズルなどへの影響は最小限となる。
図11には、液浸漬冷却型の沸騰冷却装置120の構成を示す。図示する装置120では、作動流体128を収容する容器122内に発熱体124が設けられている。容器122および発熱体124の形状や、容器122内における作動流体128の水位等は特に限定されず、適宜選択することができる。コンデンサーがないので、蒸発した冷媒は外部に流出するが、作動液の入れ替え、あるいは追加だけで冷却を継続することができる。このため、冷却システム全体の小型化・軽量化に有利である。
上述のいずれも、被冷却部と、前記被冷却部に接触可能な作動流体とを備え、前記被冷却部の熱による前記作動流体の沸騰蒸発によって、前記被冷却部が冷却される沸騰冷却装置であるので、本発明の沸騰冷却用作動液を作動流体として用いることで所望の効果が得られる。
10…合体気泡 14…作動流体 16…被冷却部(発熱体) 18…伝熱面
30…沸騰冷却装置 32…コンデンサー 40…沸騰冷却装置
42…コンデンサー 50…伝熱実験システム 51…容器 52…枠
53…ガスケット 54…作動流体 55…ガスケット 56…上板
57…底板 58…水冷ヒートシンク 59…空間 60…試験片ブロック
62…加熱ヒーター 64…バルブ 66…圧力計

Claims (4)

  1. 冷媒と、前記冷媒中に0.001重量%以上1重量%以下の濃度で分散した平均粒子径5μm未満の炭酸カルシウム粒子とを含有することを特徴とする沸騰冷却用作動液。
  2. 前記炭酸カルシウム粒子は、平均粒子径が1μm以下である請求項1記載の沸騰冷却用作動液。
  3. 被冷却部と、前記被冷却部に接触可能な作動流体とを備え、前記被冷却部の熱による前記作動流体の沸騰蒸発によって、前記被冷却部が冷却される沸騰冷却装置であって、
    前記作動流体として、請求項1または2に記載の沸騰冷却用作動液を用いることを特徴とする沸騰冷却装置。
  4. 被冷却部に作動流体が接し、前記被冷却部の熱により前記作動流体が沸騰蒸発することで、前記被冷却部を冷却する沸騰冷却方法であって、
    前記作動流体として、請求項1または2に記載の沸騰冷却用作動液を用いることを特徴とする沸騰冷却方法。
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