JP7431594B2 - 判定装置、船陸間通信システムおよび判定方法 - Google Patents

判定装置、船陸間通信システムおよび判定方法 Download PDF

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Description

本開示は、舶用2サイクルエンジンのシリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置、これを備えた船陸間通信システムおよび判定方法に関する。
下記特許文献1に示されるような、舶用2サイクルエンジンに燃料を供給する燃料供給系統において、燃料は、入口弁から燃料ポンプに供給され、燃料ポンプ内のピストンの摺動量に応じた圧力で燃料油高圧管を通じて燃料弁に送られる。燃料弁は、燃料噴射口がエンジンの燃焼室内に位置するように設けられている。燃料弁は、供給される燃料の圧力が所定の啓開圧を超えることにより燃料をシリンダ内に噴射する。
このような燃料供給系統の燃料弁において、燃料弁を閉方向に付勢するばねの弾性力の低下、当該ばねの損傷、または、燃料弁部材の損傷等により、燃料弁の啓開圧が低下すると、燃焼室内に燃料が早期かつ多量に噴射されるため、エンジンの適切な燃焼制御を行うことができない。
一方で、このような燃料弁における啓開圧の低下は、啓開圧の低下の要因となる箇所が複数箇所にわたること、および、燃料弁における燃料油の圧力が、燃料ポンプの摺動および燃料弁の開閉により常時変化する(定常状態とならない)こと等から直接的に検出することができない。
特開2017-210958号公報
本発明は上記に鑑みなされたものであり、簡単な構成で燃料弁における啓開圧の低下の可能性を判定することができる判定装置、船陸間通信システムおよび判定方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る判定装置は、複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置であって、前記各シリンダにおける筒内圧力を前記舶用2サイクルエンジンのクランク角に応じたサンプリング周期で検知する筒内圧力検知器と、前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知する排気ガス温度検知器と、前記啓開圧の低下の可能性を判定する判定処理を行う判定器と、前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、および/または、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力の発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力における最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出する状態値算出器と、を備え、前記判定器は、燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する。
上記構成によれば、燃焼圧力および排気ガス温度がともに上昇したときに、第1状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性が低く判定される、および/または、第2状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性が高く判定される。第1状態値は、シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す値である。また、第2状態値は、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力の発生タイミングにおける第2基準値からの進み度を示す値および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度を示す値の少なくとも何れか1つを示す値である。このように、第1状態値および第2状態値は、何れも直接測定可能な状態値であるため、容易に測定可能である。このため、燃焼圧力および排気ガス温度がともに上昇した要因が燃料弁における啓開圧の低下であるか、他の要因であるのかを測定可能な状態値を用いて判定することができる。したがって、簡単な構成で燃料弁における啓開圧の低下の可能性を判定することができる。
前記判定器は、前記第1状態値を取得するとともに、前記第2状態値として前記燃焼開始時圧力の発生タイミングにおける前記第2基準値からの進み度または前記差分圧力における第3基準値からの上昇度を取得し、前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定し、かつ、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定してもよい。
上記構成によれば、燃焼圧力および排気ガス温度がともに上昇したときに、第1状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性が低く判定され、第2状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性が高く判定される。燃料弁における啓開圧の低下の可能性を高める判定要素およびその可能性を低める判定要素の双方に基づいて判定を行うことにより、より確実度の高い判定を行うことができる。
前記判定器は、前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より高いほど大きい値となる第1条件指数を算出し、前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より高いほど大きい値となる第2条件指数を算出し、前記第1状態値が大きいほど小さい値となる否定要素指数を算出し前記第2状態値が大きいほど大きい値となる肯定要素指数を算出し、前記第1条件指数と、前記第2条件指数と、前記否定要素指数および前記肯定要素指数の重み付き和である係数とを掛け合わせて前記啓開圧の低下の可能性が高いほど大きい値となる評価指数を算出し、前記評価指数が所定のしきい値を超えた場合に、前記啓開圧の低下の可能性が高いと判定してもよい。
上記構成によれば、前記啓開圧の低下の可能性が高いほど評価指数が大きい値となるため、前記啓開圧の低下の可能性を容易に可視化することができる。
本発明の他の態様に係る船陸間通信システムは、複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置と、船舶に設けられたデータ送信装置と、陸上に設けられた管理装置と、を備え、前記判定装置は、前記各シリンダにおける筒内圧力を検知する筒内圧力検知器と、前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知する排気ガス温度検知器と、前記啓開圧の低下の可能性を判定する判定処理を行う判定器と、前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、および/または、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力における発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出する状態値算出器と、を備え、前記判定器は、燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定し、前記判定器は、前記管理装置に設けられ、前記状態値算出器は、前記船舶に設けられ、前記データ送信装置は、前記筒内圧力のデータと、前記排気ガス温度のデータと、前記第1状態値および/または前記第2状態値のデータを前記管理装置に衛星通信を介して送信するように構成されている。
本発明の他の態様に係る判定方法は、複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定方法であって、前記各シリンダにおける筒内圧力を前記舶用2サイクルエンジンのクランク角に応じたサンプリング周期で検知し、
前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知し、前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力における発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出し、燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する。
上記方法によれば、燃焼圧力および排気ガス温度がともに低下したときに、第1状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、第2状態値が大きいほど燃料弁における啓開圧の低下の可能性を高く判定する。第1状態値は、シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す値である。また、第2状態値は、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力の発生タイミングにおける第2基準値からの進み度を示す値および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度を示す値の少なくとも何れか1つを示す値である。このように、第1状態値および第2状態値は、何れも直接測定可能な状態値であるため、容易に測定可能である。このため、燃焼圧力および排気ガス温度がともに低下した要因が燃料弁における啓開圧の低下の可能性であるか、他の要因であるのかを測定可能な状態値を用いて判定することができる。したがって、簡単な構成で燃料弁における啓開圧の低下の可能性を判定することができる。
本発明によれば、簡単な構成で燃料弁における啓開圧の低下の可能性を判定することができる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る判定装置が適用される船陸間通信システムの概略構成を示すブロック図である。 図2は、本実施の形態における判定装置の構成を示す概略ブロック図である。 図3は、燃料弁における啓開圧の低下が生じた場合のクランク角に対する筒内圧力の変化を示すグラフである。 図4は、機関負荷に応じた燃焼圧力基準値の変化の例を示すグラフである。 図5は、機関負荷に応じた排気ガス温度基準値の変化の例を示すグラフである。 図6は、圧縮圧力の偏差の大きさに応じた第1状態指数の変化の例を示すグラフである。 図7は、一のシリンダにおける燃焼開始タイミングの他のシリンダの平均値に対する進み度に応じた第2状態指数の変化の例を示すグラフである。 図8は、一のシリンダにおける差分圧力の他のシリンダの平均値に対する上昇度に応じた第3状態指数の変化の例を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る判定装置が適用される船陸間通信システム1の概略構成を示すブロック図である。本実施の形態における船陸間通信システム1は、船舶4に設けられる船上システム2と、陸上に設けられる管理装置3とを含んでいる。
船舶4は、内燃機関5と、内燃機関5を制御する機関制御装置6aと、内燃機関5の状態を計測する機関計測装置6bと、を備えている。機関制御装置6aは、内燃機関5等の制御を行う。また、機関計測装置6bは、内燃機関5に関連するデータを計測する。機関計測装置6bが計測するデータは、例えば、内燃機関5の筒内圧力データ、燃焼開始タイミングデータ、排気ガス温度データ、および機関負荷データ、等を含む。なお、機関制御装置6aは、内燃機関5等の制御のために、燃料制御弁用作動油圧データ、排気制御弁用作動油圧データ、および燃料噴射量データ等を取得する。
内燃機関5は、例えば船舶4の推進用主機である大型の2サイクル(2ストローク)エンジン10(以下、単にエンジン)と、エンジン10に掃気を供給するために空気を圧縮する過給機20と、を備えている。なお、エンジン10は、船舶4の発電用のエンジンであってもよい。
エンジン10は、複数のシリンダ11(図1では1つのみ図示)を有している。特に、ユニフロー2サイクルエンジンにおいて、各シリンダ11には、下方部分に掃気口12が形成され、上方部分には排気口13が形成されている。各シリンダ11には、ピストン14、燃料弁15、および排気弁16が設けられている。ピストン14は、掃気口12を横切るようにしてシリンダ11内を摺動し、下端部分がコネクティングロッド17を介してクランク軸18に連結されている。
燃料弁15は、シリンダ11の上方部分に位置しており、燃料供給装置31から燃料が供給される。燃料弁15と燃料ポンプ34との間は、燃料油高圧管38により燃料の圧力が保持された状態で燃料が流通可能に接続されている。燃料供給装置31は、燃料を昇圧し、燃料弁に燃料を供給する燃料ポンプ34と、燃料ポンプ34を動作させる作動油を供給するアキュムレータ35と、アキュムレータ35から燃料ポンプ34に供給される作動油が流通する作動油経路36に設けられ、燃料ポンプ34の動作を制御する燃料制御弁37と、を備えている。燃料ポンプ34には、燃料供給管71からの燃料を燃料ポンプ34内に供給する入口弁72が設けられている。入口弁72は例えば逆止弁により構成される。燃料ポンプ34および入口弁72は、シリンダ11毎に設けられる。
燃料供給装置31は、燃料制御弁37を制御することにより、燃料ポンプ34の動作(ストローク量、動作開始タイミング)を制御する。これにより、燃料弁15における燃料の噴射が制御され、燃料噴射量、燃料噴射パターンおよび燃料噴射タイミングを変更することができる。
排気弁16は、排気口13を開閉する弁であって、排気弁駆動装置32によって駆動される。排気弁駆動装置32は、排気弁16を開閉作動させるためのアクチュエータ61と、アクチュエータ61を動作させる作動油を供給するアキュムレータ62と、アキュムレータ62からアクチュエータ61に供給される作動油が流通する作動油経路63に設けられ、アクチュエータ61の動作を制御する排気制御弁64と、を備えている。排気制御弁64は、シリンダ11毎に設けられる。排気弁駆動装置32は、排気制御弁64を制御することにより、排気弁16の開閉パターンおよび開閉タイミングを変更することができる。
なお、燃料制御弁37と、排気制御弁64とは、個別の制御弁として構成されてもよいし、互いに独立して作動可能な複数の弁を備えた1つの制御弁ユニットとして(複数の弁のうちの1つの弁が燃料制御弁37として機能し、他の1つの弁が排気制御弁64として機能するように)構成されてもよい。
過給機20は、エンジン10に供給される空気を断熱圧縮するように構成されている。過給機20は、複数の圧縮機翼(ブレード)を備え、回転軸23回りに回転することにより、外部から導入された空気を圧縮する圧縮機22と、圧縮機22の回転軸23に連結され、圧縮機22の回転動力を生成するタービン21と、を備えている。
圧縮機22で圧縮された空気は、掃気管24および掃気室25を介してエンジン10に掃気として供給される。エンジン10での燃焼により排出された排気ガスは、過給機20のタービン21に流入される。タービン21は、複数のタービン翼(ブレード)を備え、流入された排気ガスによってタービン21が回転軸23回りに回転することにより、圧縮機22が回転する。
船上システム2は、機関制御装置6aおよび/または機関計測装置6bが取得したデータを管理装置3に送信するためのデータ送信装置7を備えている。データ送信装置7は、機関制御装置6aおよび/または機関計測装置6bから所定のデータを取得し、管理装置3に送信するためのデータ送信信号を生成する。データ送信装置7は、公知のコンピュータ装置を含む。
さらに、船上システム2は、データ送信装置7で生成されたデータ送信信号を、衛星通信を介して管理装置3に送信する船外通信部8を備えている。データ送信装置7と船外通信部8とは船内LAN9により信号を授受可能に接続されている。船外通信部8は、例えば電子メール等を送信可能なメールサーバを備えている。船内LAN9には、種々のデータサーバ、演算装置、入力装置または表示装置等が接続され得る。
船外通信部8から送信されたデータ送信信号は、通信衛星40を介した衛星通信により伝送される。管理装置3には、衛星通信によるデータ送信信号を受信可能な衛星アンテナ41が設けられ得る。これに加えて、または、これに代えて、陸上に設けられた他の衛星アンテナ42でいったんデータ送信信号が受信され、当該衛星アンテナ42からインターネット等の通信ネットワーク43を介して管理装置3にデータ送信信号が送信されてもよい。管理装置3は、記憶器(例えば大容量のデータサーバ)29および演算器等を備えたコンピュータ装置として構成される。
ここで、燃料供給装置31、燃料油高圧管38および燃料弁15を含む燃料供給系統において、燃料は、入口弁72から燃料ポンプ34に供給され、燃料ポンプ34内のピストンの摺動量に応じた圧力で燃料油高圧管38を通じて燃料弁15に送られる。燃料弁15は、燃料噴射口がエンジン10の燃焼室内に位置するように設けられている。燃料弁15は、供給される燃料の圧力が所定の啓開圧を超えることにより燃料をシリンダ11内に噴射する。燃料供給系統の燃料弁15において、燃料弁15を閉方向に付勢するばね(図示せず)の弾性力の低下、当該ばねの損傷、または、燃料弁部材の損傷等により、燃料弁15の啓開圧が低下すると、燃焼室内に燃料が早期かつ多量に噴射されるため、エンジン10の適切な燃焼制御を行うことができない。
一方で、このような燃料弁15における啓開圧の低下は、啓開圧の低下の要因となる箇所が複数箇所にわたること、および、燃料弁15における燃料油の圧力が、燃料ポンプ34の摺動および燃料弁の開閉により常時変化する(定常状態とならない)こと等から直接的に検出することができない。なお、燃料噴射量または燃料噴射圧は、燃料ポンプ34に設けられた検出器59で検出することが可能であるが、上記理由により、検出器59からの検出データから燃料弁15における啓開圧の低下を判定することは困難である。
そこで、本実施の形態における船陸間通信システム1は、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置300を備えている。図2は、本実施の形態における判定装置の構成を示す概略ブロック図である。判定装置300は、エンジンの状態を示す測定値を検知する検知器として、負荷検知器51、筒内圧力検知器52、および排気ガス温度検知器53を含む。これらの検知器で検知された測定値は、機関計測装置6bを介してデータ送信装置7に送られる。さらに、判定装置300は、判定器30および状態値算出器50を含む。本実施の形態において、判定器30は、管理装置3に設けられる。すなわち、判定器30は、管理装置3が実行する機能ブロックとして構成される。また、状態値算出器50は、データ送信装置7に設けられる。すなわち、状態値算出器50は、データ送信装置7が実行する機能ブロックとして構成される。
筒内圧力検知器52は、エンジン10の各シリンダ11にける筒内圧力を検知する。機関計測装置6bは、筒内圧力検知器52から筒内圧力を所定のサンプリング周期で計測し筒内圧力データを生成する。状態値算出器50は、機関計測装置6bで生成された筒内圧力データを取得し、所定の状態における筒内圧力を抽出し、各状態における筒内圧力データを生成する。
このために、機関計測装置6bは、筒内圧力の計測時に、その計測時におけるクランク角の情報を対応付ける。例えば、機関計測装置6bは、クランク角として、シリンダ11内のピストン14が上死点の位置にあるときを0°にとり、それを基準に-180°から180°までの角度範囲における筒内圧力の変化を取得する。筒内圧力を計測するサンプリング周期は、クランク角に対応した周期である。例えば、サンプリング周期が0.5°である場合、機関計測装置6bは、一周期(-180°~180°)に720個の筒内圧力データを取得する。
本実施の形態において抽出する筒内圧力は、燃焼圧力Pmax、圧縮圧力Pcomp、および燃焼開始時圧力Pを含む。状態値算出器50は、機関計測装置6bから取得した筒内圧力のデータからこれらの圧力を取得する。燃焼圧力Pmaxは、各シリンダ11における燃焼時の最大圧力である。状態値算出器50は、クランク角が所定の開始角度から所定の終了角度となるまでのデータ取得期間(例えば一周期)において、計測された筒内圧力の最大値を燃焼圧力Pmaxとして抽出する。抽出された燃焼圧力Pmaxのデータには、そのときのクランク角θpmのデータが対応付けられる。なお、データ取得期間は、一周期における筒内圧力の最大値が必ず含まれるようなクランク角の範囲であれば一周期全体でなくてもよい。
圧縮圧力Pcompは、各シリンダ11においてそのシリンダ11内のピストン14が上死点に位置しているときの筒内圧力である。状態値算出器50は、クランク角が0°のときに計測された筒内圧力を圧縮圧力Pcompとして抽出する。
燃焼開始時圧力Pは、各シリンダ11における燃焼開始時の筒内圧力である。状態値算出器50は、圧縮圧力Pcompにおけるクランク角(θpc=0°)と燃焼圧力Pmaxにおけるクランク角θpmとの間の期間における筒内圧力の最小値を燃焼開始時圧力Pとして抽出する。抽出された燃焼開始時圧力Pのデータには、そのときのクランク角θpfのデータが対応付けられる。このときのクランク角θpfのデータは、燃焼開始時圧力の発生タイミングのデータ(以下、燃焼開始タイミングデータと称する)としても使用される。
排気ガス温度検知器53は、エンジン10の各シリンダ11の出口における排気ガス温度Tを検知する。排気ガス温度検知器53は、エンジン10の各シリンダ11の排気口の下流(シリンダ11と排気管26との間の経路)に設けられる。なお、これに代えて、排気ガス温度検知器53は、排気管26の温度または過給機20のタービン21の出口温度を排気ガス温度として検知してもよい。
さらに、機関計測装置6bは、エンジン10への負荷(機関負荷)のデータを計測する。機関負荷データは、負荷検知器51により検出されるデータに基づいて得られるものでもよい。例えば、負荷検知器51は、エンジン10あるいはそこに接続される出力軸における変位を検知してもよい。機関計測装置6bは、検知された変位から負荷を算出してもよい。
これに代えて、機関負荷データは、過給機20の回転軸23の回転数を検知する過給機回転数検知器58により検知される過給機回転数データに基づいて得られるものでもよい。あるいは、機関制御装置6aから燃料噴射量および機関回転数を取得し、それらから仮想負荷を算出してもよい。燃料噴射量は、燃料ポンプ34に設けられる検出器59で検出され、機関制御装置6aに送られる。また、機関回転数は、エンジン10に設けられた機関回転数検出器(図示せず)で検出され、機関制御装置6aに送られる。
機関計測装置6b(または機関制御装置6a)で計測される燃焼開始タイミングデータ、排気ガス温度データおよび機関負荷データは、データ送信装置7に送られる。状態値算出器50は、これらのデータおよび筒内圧力から取得した各状態の筒内圧データに基づいて後述する第1状態値および第2状態値を算出し、これらの状態値を含むデータ送信信号を生成する。データ送信信号は、通信衛星40を介した衛星通信により管理装置3(判定器30)に伝送される。
管理装置3は、管理装置3内の記憶器29に、データ送信信号に含まれる各種データを蓄積して記憶する。例えば、管理装置3は、記憶器29に、複数の周期にわたって周期ごとの燃焼圧力Pmax、圧縮圧力Pcomp、燃焼開始時圧力P、燃焼開始タイミングθpfの履歴を記憶する。また、管理装置3は、記憶器29に、所定期間における排気ガス温度Tの履歴を記憶する。
判定器30は、データ送信信号に含まれる各種データに基づいて燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を判定する。本実施の形態において、燃料弁15における啓開圧の低下が生じる前提条件は、対応するシリンダ11における燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、そのシリンダ11における排気ガス温度Tが排気ガス温度基準値より上昇したことに設定されている。
図3は、燃料弁15における啓開圧の低下が生じた場合のクランク角に対する筒内圧力の変化を示すグラフである。図3において、啓開圧低下発生時のグラフを実線で示し、同じ負荷で啓開圧の低下が発生していないとき(正常時)のグラフを一点鎖線で示す。正常時のグラフにおける最大圧力、燃焼開始時圧力、最大圧力時クランク角、および燃焼開始時クランク角(燃焼開始タイミング)は、それぞれ、Pmax0、Pf0、θpm0、θpf0で表す。燃料弁15において啓開圧の低下が生じると、燃料ポンプ34から燃料弁15までの間の経路における燃料の昇圧により燃料弁15が開くタイミングが正常時より早くなり、燃料弁15から燃料を噴射するタイミングが早まる(θpf<θpf0)。この結果、図3に示すように、シリンダ11内のピストン14が正常時よりも高い位置(筒内圧力が上がった状態)で燃焼が発生するため、燃焼圧力Pmaxが正常時の燃焼圧力Pmax0よりも上昇する。
また、燃料弁15において啓開圧の低下が生じると、燃料噴射量が増加するため、シリンダ11内の燃焼室内に供給されるエネルギー量が増加する。この結果、排気弁16の下流において計測される排気ガス温度Tが同じ負荷における正常時よりも上昇する。
以上より、燃焼圧力Pmaxの上昇および排気ガス温度Tの上昇が生じていなければ燃料弁15における啓開圧の低下は生じておらず、燃料弁15において啓開圧の低下が生じると、燃焼圧力Pmaxの上昇および排気ガス温度Tの上昇は必ず発生しているといえる。ただし、燃焼圧力Pmaxの上昇および排気ガス温度Tの上昇は、燃料弁15における啓開圧の低下以外の要因でも生じ得る。
そこで、判定器30は、啓開圧の低下が生じている可能性を低める要因(否定要素)を示す第1状態値および啓開圧の低下が生じている可能性を高める要因(肯定要素)を示す第2状態値を取得し、燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、排気ガス温度Tが排気ガス温度基準値より上昇したときに、第1状態値が大きいほど啓開圧の低下の可能性を低く判定し、第2状態値が大きいほど啓開圧の低下の可能性を高く判定する。
本実施の形態において、判定器30は、燃焼圧力Pmaxに関する第1条件指数F(C1)および排気ガス温度Tに関する第2条件指数F(C2)をそれぞれ算出し、第1条件指数F(C1)および第2条件指数F(C2)を掛け合わせ、それにさらに第1状態値に応じた第1状態指数RC(1)および第2状態値に応じた第2状態指数RC(2)~第3状態指数RC(3)に基づく係数kを掛け合わせた評価関数Cを用いて燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を示す評価指数を算出する。
(第1の前提条件)
ここで、判定器30が判定の条件として用いる燃焼圧力Pmaxは、例えば、各シリンダ11における数サイクルの燃焼圧力Pmaxの平均値を用いてもよいし、一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した燃焼圧力Pmaxの平均値を用いてもよい。これらの平均値は、状態値算出器50にて算出されてもよいし、判定器30にて算出されてもよい。燃焼圧力Pmaxの基準となる燃焼圧力基準値は、例えば、負荷に応じて予め設定される燃焼圧力設定値、または、他のシリンダ11の燃焼圧力Pmaxの平均値等に基づいて設定される。例えば、燃焼圧力基準値は、燃焼圧力設定値または他のシリンダ11の燃焼圧力Pmaxの平均値に所定の許容値を加えた値に設定される。
これにより、判定器30は、例えばあるシリンダ11における燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力設定値または他のシリンダ11の燃焼圧力Pmaxの平均値に所定の許容値を加えた値より高くなると、当該シリンダ11における燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力基準値より上昇した(第1の前提条件を満足した)と判定する。
図4は、機関負荷Lに応じた燃焼圧力基準値Bpmの変化の例を示すグラフである。図4において、燃焼圧力基準値Bpmは、機関負荷Lが増えるほど増加する(折れ線グラフで表される)ように設定される。本実施の形態において、判定対象の燃焼圧力Pmax(L)と、その燃焼圧力Pmaxが得られたときの機関負荷Lにおける燃焼圧力基準値Bpm(L)との差の大きさを、第1条件指数F(C1)と定義する。第1条件指数F(C1)は、判定対象の燃焼圧力Pmax(L)が燃焼圧力基準値Bpm(L)に対して高いほど大きい値となる指数である。
なお、燃焼圧力基準値として他のシリンダ11の燃焼圧力Pmaxの平均値を用いる場合、さらに、燃焼圧力Pmaxの変動係数を第1条件指数F(C1)に反映してもよい。変動係数は、標準偏差を平均値で割ることにより与えられる。標準偏差は、分散の平方根で与えられ、分散は、複数のデータ要素のそれぞれの値の平均値からの差を二乗し、それらを足し合わせてデータ要素の数で割ることにより与えられる。
この場合、各シリンダ11における数サイクルの燃焼圧力Pmaxの平均値または一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した燃焼圧力Pmaxの平均値から変動係数が求められる。その上で、判定対象の燃焼圧力Pmaxから得られた変動係数と、その燃焼圧力Pmaxが得られたときの機関負荷において、他のシリンダ11の燃焼圧力Pmaxの変動係数に基づいて定められる第1変動係数基準値との差の大きさが第1条件指数F(C1)に反映される。この場合、第1条件指数F(C1)は、判定対象の燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力基準値に対して高いほど大きい値となり、判定対象の燃焼圧力Pmaxから得られた変動係数が第1変動係数基準値に対して大きいほど大きい値となる指数である。
(第2の前提条件)
また、判定器30が判定の条件として用いる排気ガス温度Tは、例えば一定期間の平均値を用いてもよい。この平均値は、状態値算出器50にて算出されてもよいし、判定器30にて算出されてもよい。排気ガス温度Tの基準となる排気ガス温度基準値は、例えば、陸上運転時の排気ガス温度Tを標準化した排気ガス温度標準値、または、他のシリンダ11の排気ガス温度Tの平均値等に基づいて設定される。例えば、排気ガス温度基準値は、排気ガス温度標準値または他のシリンダ11の排気ガス温度Tの平均値に所定の許容値を加えた値に設定される。
これにより、判定器30は、例えばあるシリンダ11における排気ガス温度Tが排気ガス温度標準値または他のシリンダ11の排気ガス温度Tの平均値に所定の許容値を加えた値より高くなると、当該シリンダ11における排気ガス温度Tが排気ガス温度基準値より上昇した(第2の前提条件を満足した)と判定する。
図5は、機関負荷Lに応じた排気ガス温度基準値Bteの変化の例を示すグラフである。図5において、排気ガス温度基準値Bteは、機関負荷Lが増えるほど増加する(折れ線グラフで表される)ように設定される。本実施の形態において、判定対象の排気ガス温度T(L)と、その排気ガス温度T(L)が得られたときの機関負荷Lにおける排気ガス温度基準値Bte(L)との差の大きさを、第2条件指数F(C2)と定義する。第2条件指数F(C2)は、判定対象の排気ガス温度T(L)が排気ガス温度基準値Bte(L)に対して高いほど大きい値となる指数である。
なお、排気ガス温度基準値として他のシリンダ11の排気ガス温度Tの平均値を用いる場合、さらに、排気ガス温度Tの変動係数を第2条件指数F(C2)に反映してもよい。
この場合、各シリンダ11における数サイクルの排気ガス温度Tの平均値または一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した排気ガス温度Tの平均値から変動係数が求められる。その上で、判定対象の排気ガス温度Tから得られた変動係数と、その排気ガス温度Tが得られたときの機関負荷において、他のシリンダ11の排気ガス温度Tの変動係数に基づいて定められる第2変動係数基準値との差の大きさが第2条件指数F(C2)に反映される。この場合、第2条件指数F(C2)は、判定対象の排気ガス温度Tが排気ガス温度基準値に対して高いほど大きい値となり、判定対象の排気ガス温度Tから得られた変動係数が第2変動係数基準値に対して大きいほど大きい値となる指数である。
第1状態値は、圧縮圧力Pcompにおける第1基準値からの偏差を示す値である。第2状態値は、燃焼開始タイミング(燃焼開始時圧力Pの発生タイミング)θpfにおける第2基準値からの進み度を示す値、および燃焼圧力Pmaxから燃焼開始時圧力Pを差し引いた差分圧力Pup(=Pmax-P)における第3基準値からの上昇度を示す値の少なくとも何れか1つを含む。
(否定要素:第1状態指数)
第1状態値に用いられる圧縮圧力Pcompは、例えば、数サイクルの圧縮圧力Pcompの平均値、または、一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した圧縮圧力Pcompの平均値であってもよい。第1状態値の基準となる第1基準値は、例えば、機関負荷に応じて予め設定される圧縮圧力/掃気圧比(Pcomp/P比)、設計上の圧縮圧力/掃気圧比および計測される掃気圧Pから算出される仮想の圧縮圧力Pcomp、または、他のシリンダ11の圧縮圧力Pcompの平均値等に基づいて設定される。例えば、第1基準値は、これらの値を中心とする所定範囲の上限値および下限値に設定される。
なお、第1基準値として、機関負荷に応じて予め設定される圧縮圧力/掃気圧比(Pcomp/P比)を用いる場合、圧縮圧力Pcompおよびそのときの(同じ周期における)掃気圧Pから算出されたPcomp/P比がそのときの機関負荷における設定値と比較され、それらの偏差が第1状態値として算出される。掃気圧Pは、エンジン10の掃気経路内の圧力を示すデータであり、掃気経路内(図1の例では掃気室25内)に設けられた掃気圧力検知器57で検出される圧力のデータである。
また、第1基準値として、仮想の圧縮圧力Pcompを用いる場合、設計上の圧縮圧力/掃気圧比に、取得した圧縮圧力Pcompと同じ周期における掃気圧Pを掛けることにより得られる仮想の圧縮圧力Pcompと、取得した圧縮圧力Pcompとが比較され、それらの偏差が第1状態値として算出される。
判定器30は、あるシリンダ11における圧縮圧力Pcompが所定範囲の上限値を超えた場合、圧縮圧力Pcompとその上限値との偏差を算出し、当該偏差に基づいて第1状態指数RC(1)を設定する。さらに、判定器30は、あるシリンダ11における圧縮圧力Pcompが所定範囲の下限値を下回った場合、圧縮圧力Pcompとその下限値との偏差を算出し、当該偏差に基づいて否定要素指数である第1状態指数RC(1)を設定する。なお、偏差は、両者を差し引くことで算出されてもよいし、両者の比率によって算出されてもよい。Pcomp/P比を用いる場合も同様に第1状態指数RC(1)が設定される。
図6は、圧縮圧力Pcompの偏差D1の大きさに応じた第1状態指数RC(1)の変化の例を示すグラフである。第1状態指数RC(1)は、他のシリンダの圧縮圧力Pcompの平均値に対する圧縮圧力Pcompの偏差(の絶対値)D1が第1基準値B1を超えた場合、その偏差D1がより大きくなるほど小さい値となるように設定される。図6の例において、第1状態指数RC(1)は、圧縮圧力Pcompの偏差D1が第1基準値B1以下において0となり、圧縮圧力Pcompが第1基準値B1より大きくなると負の値となるように設定される。圧縮圧力Pcompの偏差D1が大きくなるほど指数関数的に小さい値(絶対値が大きい負の値)となるように設定される。燃料弁15における啓開圧の低下の発生は、圧縮行程に直接的な影響を与えないので、燃料弁15における啓開圧の低下が生じても圧縮圧力Pcompが変化する可能性は低いと考えられる。したがって、圧縮圧力Pcompの偏差D1は、燃焼圧力Pmaxおよび排気ガス温度Tの上昇の原因が燃料弁15における啓開圧の低下である可能性を低くする要素となる。
(肯定要素:第2状態指数)
第2状態値の1つである燃焼開始タイミングの進み度D2に用いられる燃焼開始タイミング(燃焼開始時圧力Pの発生タイミング)θpfは、例えば、数サイクルの燃焼開始タイミングθpfの平均値、または、一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した燃焼開始タイミングθpfの平均値であってもよい。進み度D2の基準となる第2基準値は、例えば、他のシリンダ11の燃焼開始タイミングθpfの平均値等に基づいて設定される。例えば、第2基準値は、他のシリンダ11の平均値から所定の許容値を差し引いた値に設定される。なお、本実施の形態では、燃焼開始タイミングをクランク角θで表しているが、これに代えて、基準のクランク角θからの時間を用いてもよい。
判定器30は、あるシリンダ11における燃焼開始タイミングθpfが第2基準値を下回った(早くなった)場合、燃焼開始タイミングθpfの第2基準値に対する進み度D2を算出し、当該進み度D2に基づいて肯定要素指数である第2状態指数RC(2)を設定する。なお、進み度D2は、第2基準値から燃焼開始タイミングθpfを差し引くことで算出されてもよいし、第2基準値に対する燃焼開始タイミングθpfの比率によって算出されてもよい。
図7は、一のシリンダ11における燃焼開始タイミングθpfの他のシリンダ11の平均値に対する進み度D2に応じた第2状態指数RC(2)の変化の例を示すグラフである。第2状態指数RC(2)は、燃焼開始タイミングθpfの第2基準値B2に対する進み度D2が大きくなるほど大きい値となるように設定される。図7の例において、第2状態指数RC(2)は、燃焼開始タイミングθpfの第2基準値B2に対する進み度D2が大きくなるほど線形的に増加する値となるように設定される。前述の通り、燃料弁15における啓開圧の低下が発生すると、燃料弁15から燃料を噴射するタイミングが早まるため、シリンダ11内に噴射された燃料が燃焼を開始するタイミングも早まる。したがって、燃料弁15における啓開圧の低下が生じると、燃焼開始タイミングθpfが早まる可能性が高いと考えられる。したがって、燃焼開始タイミングθpfの第2基準値B2に対する進み度D2は、燃焼圧力Pmaxおよび排気ガス温度Tの上昇の原因が燃料弁15における啓開圧の低下である可能性を高くする要素となる。
(肯定要素:第3状態指数)
第2状態値の1つである差分圧力Pupの上昇度に用いられる差分圧力Pup(=Pmax-P)は、例えば、数サイクルの差分圧力Pupの平均値、または、一定の機関負荷にある状態において複数の取得期間を設定し、その取得期間ごとに取得した差分圧力Pupの平均値を用いてもよい。上昇度の基準となる第3基準値は、例えば、他のシリンダ11の差分圧力Pupの平均値等に基づいて設定される。例えば、第基準値は、他のシリンダ11の平均値から所定の許容値を差し引いた値に設定される。
判定器30は、あるシリンダ11における差分圧力Pupが第3基準値を超えた場合、差分圧力Pupの第3基準値に対する上昇度を算出し、当該上昇度に基づいて肯定要素指数である第3状態指数RC(3)を設定する。
図8は、一のシリンダ11における差分圧力Pupの他のシリンダ11の平均値に対する上昇度D3に応じた第3状態指数RC(3)の変化の例を示すグラフである。第3状態指数RC(3)は、差分圧力Pupの第3基準値B3に対する上昇度D3が大きくなるほど大きい値となるように設定される。図8の例において、第3状態指数RC(3)は、差分圧力Pupの第3基準値B3に対する上昇度D3が大きくなるほど線形的に増加する値となるように設定される。前述の通り、燃料弁15における啓開圧の低下が発生すると、燃料弁15から燃料を噴射するタイミングが早まるため、燃料噴射量が多くなり(エネルギー量が増大し)、燃焼による筒内圧力の上昇度が大きくなる。したがって、燃料弁15における啓開圧の低下が生じると、差分圧力Pupが上昇する可能性が高いと考えられる。したがって、差分圧力Pupの第3基準値B3に対する上昇度D3は、燃焼圧力Pmaxおよび排気ガス温度Tの上昇の原因が燃料弁15における啓開圧の低下である可能性を高くする要素となる。
状態値算出器50は、船上で計測されたエンジン10の各種データから、上記第1状態値および第2状態値を算出する。データ送信装置7は、燃焼圧力Pmaxのデータ、排気ガス温度Tのデータ、第1状態値および第2状態値を含むデータ送信信号を生成し、管理装置3に送信する。判定器30は、データ送信信号に含まれる各種データから以上のような各指数F(C1),F(C2),RC(1)~RC(3)を算出し、評価する。なお、これらの各指数の演算は、判定器30の判定処理とは別に管理装置3が実行してもよい。これに代えて、各指数の演算は、船上の状態値算出器50で実行され、データ送信装置7が送信するデータ送信信号に、算出された各指数F(C1),F(C2),RC(1)~RC(3)が含まれてもよい。
(評価関数)
判定器30は、上記のように算出された各指数F(C1),F(C2),RC(1)~RC(3)を取得し、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を示す評価指数を算出する。評価指数を算出するための評価関数Cは、第1条件指数F(C1)と、第2条件指数F(C2)と、各状態指数RC(1)~RC(3)に基づいて算出される係数kとから以下のように表される。
C=k・F(C1)・F(C2)
k=α・RC(1)+α・RC(2)+α・RC(3)
ここで、否定要素指数である状態指数RC(1)および肯定要素指数である状態指数RC(2)~RC(3)は、啓開圧の低下の判定に与える影響の大きさに基づいて重み付けされている。α~αは、各状態指数RC(1)~RC(3)の影響度を示す影響指数である。影響指数α~α、各状態指数RC(1)~RC(3)における他の状態指数に対する重みを表す。影響指数α~αの値は、特に限定されないが、例えば、α:α:α=35%:40%:30%:30%に設定される。なお、影響指数α~αは、エンジン10の特性、仕様、使用年数等によって異なる割合に設定され得る。また、影響指数α~αは、機械学習(教師あり学習)を行った結果に基づいて設定されてもよい。また、評価関数Cにおいて、影響指数α~αを用いない(α=α=α)でもよい。
上記のような評価関数Cを用いて判定器30が算出する評価指数が大きい値となるほど、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性が高くなる。判定器30は、算出された評価指数が所定のしきい値を超えた場合に、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性が高いと判定し、所定の報知を行う。所定の報知は、例えば、管理装置3に設けられる表示装置、警告灯、ブザー等によって行われてもよいし、管理装置3から船舶4に異常報知信号を送信することにより、船舶4に備えられた表示装置、警告灯、ブザー等によって行われてもよい。
このように、上記構成によれば、燃焼圧力Pmaxおよび排気ガス温度Tがともに上昇したときに、第1状態値が大きいほど燃料弁15における啓開圧の低下の可能性が低く判定され、第2状態値が大きいほど燃料弁15における啓開圧の低下の可能性が高く判定される。第1状態値および第2状態値は、何れも直接測定可能な状態値であるため、容易に測定可能である。このため、燃焼圧力Pmaxおよび排気ガス温度Tがともに上昇した要因が燃料弁15における啓開圧の低下であるか、他の要因であるのかを測定可能な状態値を用いて判定することができる。したがって、簡単な構成で燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を判定することができる。
特に、本実施の形態のように、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を低める判定要素である第1状態値およびその可能性を高める判定要素である第2状態値の双方に基づいて判定を行うことにより、より確実度の高い判定を行うことができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
例えば、上記実施の形態において、第1状態指数RC(1)~第3状態指数RC(3)をすべて評価関数Cに用いる態様を例示したが、これに限られない。すなわち、上記3つの状態指数RC(1)~RC(3)のうち、少なくとも1つの状態指数が使用されていればよく、使用しない状態指数が存在していてもよい。なお、場合によって影響指数α~αの何れかを0とすることで、対応する状態指数RC(1)~RC(3)の評価指数への影響をなくしてもよい。例えば、否定要素指数において影響指数の最も大きい第1状態指数RC(1)と、肯定要素指数において影響指数の最も大きい第2影響指数RC(2)または第2影響指数RC(3)の何れか一方とを用いて評価指数を算出してもよい。
また、上記実施の形態においては、判定器30が評価関数Cを用いて評価指数を算出することにより、燃料弁15における啓開圧の低下の可能性を数値化する態様を例示したが、これに限られない。例えば、判定器30は、燃焼圧力Pmaxが燃焼圧力基準値Bpmより上昇し、かつ、排気ガス温度Tが排気ガス温度基準値Bteより上昇したときに、第1状態値が所定のしきい値以上であれば啓開圧の低下の可能性が低いと判定する、および/または、第2状態値が所定のしきい値以上であれば啓開圧の低下の可能性が高いと判定し、所定の報知を行ってもよい。
また、上記実施の形態においては、データ送信装置7で生成したデータ送信信号をメールサーバ等を含む船外通信部8に送信し、船外通信部8が衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信する態様を例示したが、データ送信装置7が直接衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信してもよい。すなわち、データ送信装置7がVSAT方式のように船外通信部8を介さず直接衛星通信可能に構成されてもよい。
また、上記実施の形態では、陸上の管理装置3に判定器30が設けられる態様を例示したが、管理装置3とは別の陸上設備に判定器30が設けられてもよい。あるいは、例えば、データ送信装置7または船内LAN9に接続された判定処理用の演算器等、船上に判定器30が設けられてもよい。また、上記実施の形態では、船上に状態値算出器50が設けられる態様を例示したが、陸上に状態値算出器50が設けられてもよい。この場合、データ送信装置7から管理装置3に送信されるデータ送信信号には、第1状態値および第2状態値を算出するための元のデータ(例えば数サイクル分の筒内圧力データ等)が含まれる。
また、判定対象のエンジン10は、船舶4に設けられる燃焼機関である限り、特に限定されない。例えば、上記エンジン10は、推進用主機、各種補機、船内発電用内燃機関等、種々の用途のエンジン10を含み得る。
本発明は、簡単な構成で燃料弁における啓開圧の低下の可能性を判定することができる判定装置、船陸間通信システムおよび判定方法を提供するために有用である。
1 船陸間通信システム
3 管理装置
4 船舶
7 データ送信装置
10 エンジン(2サイクルエンジン)
11 シリンダ
30 判定器
52 筒内圧力検知器
53 排気ガス温度検知器
300 判定装置

Claims (7)

  1. 複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置であって、
    前記各シリンダにおける筒内圧力を前記舶用2サイクルエンジンのクランク角に応じたサンプリング周期で検知する筒内圧力検知器と、
    前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知する排気ガス温度検知器と、
    前記啓開圧の低下の可能性を判定する判定処理を行う判定器と、
    前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、および/または、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力の発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力における最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出する状態値算出器と、を備え、
    前記判定器は、燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する、判定装置。
  2. 前記判定器は、前記第1状態値を取得するとともに、前記第2状態値を取得し、
    前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定し、かつ、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する、請求項1に記載の判定装置。
  3. 前記判定器は、
    前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より高いほど大きい値となる第1条件指数を算出し、
    前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より高いほど大きい値となる第2条件指数を算出し、
    前記第1状態値が大きいほど小さい値となる否定要素指数を算出し前記第2状態値が大きいほど大きい値となる肯定要素指数を算出し、
    前記第1条件指数と、前記第2条件指数と、前記否定要素指数および前記肯定要素指数の重み付き和である係数とを掛け合わせて前記啓開圧の低下の可能性が高いほど大きい値となる評価指数を算出し、
    前記評価指数が所定のしきい値を超えた場合に、前記啓開圧の低下の可能性が高いと判定する、請求項1または2に記載の判定装置。
  4. 複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定装置と、
    船舶に設けられたデータ送信装置と、
    陸上に設けられた管理装置と、を備え、
    前記判定装置は、
    前記各シリンダにおける筒内圧力を検知する筒内圧力検知器と、
    前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知する排気ガス温度検知器と、
    前記啓開圧の低下の可能性を判定する判定処理を行う判定器と、
    前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、および/または、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力における発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出する状態値算出器と、を備え、
    前記判定器は、燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定し、
    前記判定器は、前記管理装置に設けられ、
    前記状態値算出器は、前記船舶に設けられ、
    前記データ送信装置は、前記筒内圧力のデータと、前記排気ガス温度のデータと、前記第1状態値および/または前記第2状態値のデータを前記管理装置に衛星通信を介して送信するように構成された、船陸間通信システム。
  5. 複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンの各シリンダ内にそれぞれ燃料を噴射する燃料弁において燃料を噴射するために必要な圧力を示す啓開圧の低下の可能性を判定する判定方法であって、
    前記各シリンダにおける筒内圧力を前記舶用2サイクルエンジンのクランク角に応じたサンプリング周期で検知し、
    前記各シリンダの出口における排気ガス温度を検知し、
    前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの筒内圧力である圧縮圧力における第1基準値からの偏差を示す第1状態値、燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力における発生タイミングの第2基準値からの進み度および燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力から燃焼開始時の筒内圧力である燃焼開始時圧力を差し引いた差分圧力における第3基準値からの上昇度の少なくとも何れか1つを示す第2状態値を算出し、
    燃焼時の筒内圧力の最大値である燃焼圧力が燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定する、および/または、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する、判定方法。
  6. 前記第1状態値を取得するとともに、前記第2状態値を取得し、
    前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より上昇し、かつ、前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より上昇したときに、前記第1状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を低く判定し、かつ、前記第2状態値が大きいほど前記啓開圧の低下の可能性を高く判定する、請求項に記載の判定方法。
  7. 前記燃焼圧力が前記燃焼圧力基準値より高いほど大きい値となる第1条件指数を算出し、
    前記排気ガス温度が前記排気ガス温度基準値より高いほど大きい値となる第2条件指数を算出し、
    前記第1状態値が大きいほど小さい値となる否定要素指数を算出し前記第2状態値が大きいほど大きい値となる肯定要素指数を算出し、
    前記第1条件指数と、前記第2条件指数と、前記否定要素指数および前記肯定要素指数の重み付き和である係数とを掛け合わせて前記啓開圧の低下の可能性が高いほど大きい値となる評価指数を算出し、
    前記評価指数が所定のしきい値を超えた場合に、前記啓開圧の低下の可能性が高いと判定する、請求項5または6に記載の判定方法。
JP2020014042A 2020-01-30 2020-01-30 判定装置、船陸間通信システムおよび判定方法 Active JP7431594B2 (ja)

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