以下図面について本発明の一実施の形態を詳述する。以下の説明において、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
(1)第1実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法
(1-1)第1実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法の概要
まずは、本実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法の概要について説明する。ここにいう培養関連プロセスとは、種々の細胞を培養する過程で必要となる1つ又は複数の操作を実行する、細胞の培養に関連した種々のプロセスである。以下の実施形態では、細胞の培養に用いる培地について調整を行うプロセス(以下、培地調整プロセスとも称する)から、当該培地を用いて細胞の培養を行うプロセス(以下、細胞培養プロセスとも称する)までの一連のプロセスを培養関連プロセスとして適用してもよく、また、培地調整プロセスだけを培養関連プロセスとして適用してもよく、細胞培養プロセスだけを培養関連プロセスとして適用してもよい。培養関連プロセスには、基礎培地の選定、培地の調整、培地の調整に用いられる成分の選定、調整後の培地による細胞の培養、及びその培養条件、これらの操作を実行する装置等の実行主体の選定、及び当該実行主体の処理手順の決定、のうち少なくとも一部の操作が含まれる。
図1は、培養関連プロセス最適化方法を実行する、本実施形態に係る培養関連プロセス最適化システム1の全体構成を示したブロック図である。図1に示すように、培養関連プロセス最適化システム1は、培養関連プロセス最適化装置2と複数の通信装置3a,3b,3c,3dとが、インターネット等のネットワーク4に接続された構成を有する。
培養関連プロセス最適化システム1では、例えば、ヒトiPS細胞を培養して特定の細胞へ分化誘導を行う再生医療に関する培養関連プロセス、CHO細胞を培養してバイオ医薬品の生産(抗体生産)を行う培養関連プロセス、大腸菌Xを培養して酵素Rの発現を誘導することで化合物を生産する有用タンパク質の生産に関する培養関連プロセス等、様々な培養関連プロセスにおいて、なるべく利得が大きく最適な評価結果が得られるような実行手順を試行錯誤によって求めるものである。
ここで、最適な評価結果とは、培養関連プロセスの実行手順に係るコスト、収量、品質、実行時間、それらのばらつき、及びそれらの所与の目標値からの偏差、のうちの少なくとも1種類以上を適用できる。例えば、複数種類の培地P,Qで細胞を培養してヒトiPS細胞等から特定の細胞へ分化誘導を行う培養関連プロセスの評価結果の一例としては、例えば、細胞を生産するまでに係るコスト、細胞の収量、細胞の品質、細胞を生産するまでの実行時間、それらのばらつき、及び、それらの所与の目標値からの偏差となる。
ここで、実行手順とは、培養関連プロセス及び評価プロセスで行われる一連の操作(例えば、培地の調整や培養、マーカー遺伝子発現評価等)と、各操作によりそれぞれ処理される処理対象(例えば、ヒトiPS細胞等)と、各操作により処理対象を処理した後に得られる成果物(例えば、ヒトiPS細胞から分化誘導された細胞等)と、操作により処理対象を処理する際の各種実行パラメータ値(例えば、基礎培地濃度、BMP4濃度、VEGF濃度、グルコース濃度、培養期間等)と、操作に関する制約条件(例えば、「装置が起動してから5分以上経過後」等)と、が記述されたデータである。
例えば、実行手順としては、実験室において複数の実験者等により生命科学実験を行う際の一連の操作を示した実験手順、複数の装置を用いて、培地の調整から当該培地で細胞を培養するまでの一連の操作を示した培地調整・培養手順等が該当する。
ここで、ある培養関連プロセスから得られる利得を最大化するような、培養関連プロセスの実行手順内の生産条件(例えば、基礎培地濃度やグルコース濃度等の様々な実行パラメータ値の組み合わせ)は自明ではなく、ナイーブな方法では多数の実験を繰り返し実行し、試行錯誤する必要がある。生産物が複雑になればなるほど、その培養関連プロセスも複雑かつ巨大になり、さまざまな生産条件を探索して、最適な生産条件を求めることがより難しくなる。また、少量多品種の培養関連プロセスや、医薬品の生産等で、生物を利用する培養関連プロセスでもロボット等を活用して自動化が図られているものの、生産対象の品種の違いや、生物の個体差等により、それぞれのケースで毎回最適な生産条件を求める必要が生じ、結果的に生産条件の探索にかかる総コストが大きくなってしまう。
一般的に、生産条件を探索する際に、機械装置や、ロボット、人間(作業者)等、培養関連プロセスで各操作を行う実行主体の種類及び数量が増えると、生産条件の探索条件ごとに、それぞれの実行主体に向けて適切な実行指示情報を逐次生成することになるため、多大な労力がかかる。
本実施形態に係る培養関連プロセス最適化システム1では、上記の点を考慮し、実行主体が実行環境100で実際に培養関連プロセスを実行手順に従って実行し、なるべく大きな利得が得られる最適な生産条件を探索する際に、なるべく少ない実験回数で利得が大きい最適な生産条件を求められ、生産条件の探索にかかる総コスト及び労力の低減を図るとともに、利得が大きい最適な培養関連プロセスを求めることができるようにする。
ここで、本実施形態に係る培養関連プロセス最適化システム1により最適化する培養関連プロセスの一例として、分化誘導培地A(以下、単に「培地A」とも称する)と、培地Aとは種類が異なる分化誘導培地B(以下、単に「培地B」とも称する)と、を用いてヒトiPS細胞を分化誘導し、特定の細胞を生産する培養関連プロセスを挙げて、本実施形態に係る培養関連プロセス最適化システム1の概要について以下説明する。また、培養関連プロセスによって得られたヒトiPS細胞から分化誘導された細胞を評価する評価プロセスの一例として、マーカー遺伝子の発現陽性率の評価を行う場合について説明する。
図1に示すように、培養関連プロセス最適化システム1に含まれる培養関連プロセス最適化装置2は、演算処理部7と、データベース8と、表示部9と、操作部10と、送受信部11とを有する。
演算処理部7は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等からなるマイクロコンピュータ構成を有し、データベース8と、表示部9と、操作部10と、送受信部11とが接続されている。
演算処理部7は、操作部10を介して、培養関連プロセス最適化装置2の管理者(ユーザとも称する)から各種操作命令が与えられると、ROMに予め格納している培養関連プロセス最適化プログラムや、テンプレート実行手順生成処理プログラム、可変パラメータ値設定処理プログラム、実行スケジュール生成処理プログラム、実行指示情報生成処理プログラム等を、操作命令に基づき適宜読み出してRAMに展開することにより、培養関連プロセス最適化プログラム等に従って各回路部を制御する。
演算処理部7は、例えば、培養関連プロセス最適化処理を実行することにより、テンプレート実行手順や実行スケジュール、実行指示情報等を生成し、これら演算処理結果をデータベース8に記憶させる。
データベース8は、演算処理部7の演算処理結果を記憶する他、送受信部11により外部から受信した実行環境情報(後述する)等を記憶する。また、データベース8には、実行環境100において、過去に実行主体が培養関連プロセスの実行手順を実行したときの実行結果(以下、過去の実行結果を実行実績結果とも称する)や、実行実績結果を評価した過去の評価結果(以下、過去の実行結果に対する評価結果を評価実績結果とも称する)等の各種データが記憶されている。
表示部9は、演算処理部7によって生成されたテンプレート実行手順や、実行手順等の演算処理結果を表示し、培養関連プロセス最適化装置2を管理する管理者等に把握させ得る。
本実施形態に係る培養関連プロセス最適化装置2は、培養関連プロセス最適化処理によって、培地A,Bを用いてヒトiPS細胞を分化誘導し、特定の細胞を生産する培養関連プロセス及び評価プロセスの実行手順と、実行手順内の各操作をそれぞれどのようなタイミングで各実行主体が協調して行うべきかを示したデータである実行スケジュールと、実行環境100の実行主体に対して実行スケジュールに沿ってそれぞれ対応する操作を実行することを指示するデータである実行指示情報と、を生成する。
培養関連プロセス最適化装置2は、実行スケジュールと実行指示情報とを、実行環境100の対応する実行主体の通信装置3a,3b,3c,3dにネットワーク4を介して送信する。
ここで、図1に示す実行環境100は、培養関連プロセス及び評価プロセスの実行手順が実際に実行される環境を示すものであり、例えば、工場や、実験室等となる。実行環境100内の実行主体が、培養関連プロセス及び評価プロセスの実行手順内で規定した各操作を実行する。実行主体は、培養関連プロセス及び評価プロセスの種類に応じて変わり、例えば、機械装置や、ロボットアーム、人間、インキュベータ、カメラ等の計測機器、実験自動化装置、計算機等が該当する。
本実施形態では、培地A,Bを用いてヒトiPS細胞(以下、単に「細胞」とも称する)を分化誘導し、特定の細胞を生産する培養関連プロセスと、培養関連プロセスの実行手順を実行することで生産された細胞のマーカー遺伝子発現評価を行う評価プロセスとを、一例に説明するが、この場合は、培地A,Bを調整及び混合する培地混合装置Pと、細胞を培養する細胞培養装置X,Yと、マーカー遺伝子発現評価を行うフローサイトメーターQと、が実行主体となり得る。
本実施形態に係る培養関連プロセス最適化システム1では、培養関連プロセス最適化装置2で生成した実行スケジュール及び実行指示情報を、実行主体である培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQに提示するために、ネットワーク4を介して実行主体の通信装置3a,3b,3c,3dに送信する。
例えば、通信装置3aは、培地混合装置Pに接続又は搭載されており、培地混合装置P用に生成された実行指示情報に含まれる設定情報を培地混合装置Pに提示し、設定情報に基づいて実行スケジュール通りに培地混合装置Pを自動的に稼働させるようにしてもよい。
また、通信装置3aは、例えば、培地A,Bをそれぞれ調整する作業、及び必要に応じて培地A,Bの混合を行う作業者が所有するパーソナルコンピュータやスマートフォン等の電子機器であってもよい。この場合、通信装置3aは、培養関連プロセス最適化装置2から受信した実行スケジュールや、培地混合装置P用に生成された実行指示情報を、培地混合装置Pを操作する作業者に提示し、当該作業者に培地混合装置Pを用いて調整作業等を行わせる。
例えば、通信装置3bは、細胞培養装置Xに接続又は搭載されており、細胞培養装置X用に生成された実行指示情報に含まれる設定情報を細胞培養装置Xに提示し、設定情報に基づいて実行スケジュール通りに細胞培養装置Xを自動的に稼働させるようにしてもよい。また、通信装置3cも、細胞培養装置Yに接続又は搭載されており、細胞培養装置Y用に生成された実行指示情報に含まれる設定情報を細胞培養装置Yに提示し、設定情報に基づいて実行スケジュール通りに細胞培養装置Yを自動的に稼働させるようにしてもよい。
また、通信装置3b,3cは、例えば、培地Aや培地Bの培養作業を行う作業者がそれぞれ所有するパーソナルコンピュータやスマートフォン等の電子機器であってもよい。この場合、通信装置3b,3cは、培養関連プロセス最適化装置2から受信した、実行スケジュールや、細胞培養装置X,Y用に生成された実行指示情報を、細胞培養装置X,Yを操作する各作業者に提示し、各作業者に細胞培養装置X,Yを用いて培養作業等を行わせる。
フローサイトメーターQは、例えば、培地A,Bを用いて培養した細胞のマーカー遺伝子発現評価を行うことが可能な、細胞分析装置である。通信装置3dは、フローサイトメーターQに接続又は搭載されており、フローサイトメーターQ用に生成された実行指示情報に含まれる設定情報をフローサイトメーターQに提示し、設定情報に基づいて実行スケジュール通りにフローサイトメーターQを自動的に稼働させるようにしても良い。また、通信装置3dは、例えば、マーカー遺伝子発現評価作業を行う作業者が所有するパーソナルコンピュータやスマートフォン等の電子機器であってもよい。この場合、通信装置3dは、培養関連プロセス最適化装置2から受信した、実行スケジュールや、フローサイトメーターQ用に生成された実行指示情報を、フローサイトメーターQを操作する作業者に提示し、作業者にフローサイトメーターQを用いてマーカー遺伝子発現評価作業等を行わせる。
さらに、これら通信装置3a,3b,3c,3dは、対応する実行主体が実行スケジュールや実行指示情報に従って実行したときに得られる実行結果や評価結果を、適宜、ネットワーク4を介して培養関連プロセス最適化装置2に送信する。
次に、培養関連プロセス最適化装置2の演算処理部7について説明する。演算処理部7は、テンプレート実行手順生成部15と、可変パラメータ値設定部16と、実行手順生成部17と、判定部18と、実行スケジュール生成部19と、実行指示情報生成部20とを有し、後述するテンプレート実行手順、実行手順、実行スケジュール及び実行指示情報を生成する。
ここで、テンプレート実行手順は、ある探索の起点となる実行手順(以下、起点実行手順と称する)を書き換える形で作成される。図2は、培地A,Bによって培養される細胞に関する培養関連プロセスと評価プロセスに関する起点実行手順の構成の一例を示した概略図である。
テンプレート実行手順生成部15は、管理者が最適化したい培養関連プロセス(例えば、培地A,Bの調整と、培地Aによる細胞培養と、培地Aで培養した分化途中の細胞の培地Bによる培養)及び評価プロセス(マーカー遺伝子発現評価)が操作部10を介して選択又は入力されると、データベース8に記憶されている複数の実行手順の中から、これら培養関連プロセス及び評価プロセスに対応する実行手順を起点実行手順として選択する。
この場合、テンプレート実行手順生成部15は、図2に示すように、培養関連プロセスの操作として、培地Aの調整と、培地A(調整済み)による細胞培養と、培地Bの調整と、培地Aで培養した分化途中の細胞の培地B(調整済み)による培養との4つの操作が規定され、評価プロセスの操作として、マーカー遺伝子発現評価の1つの操作が規定された実行手順を、起点実行手順として選択している。
起点実行手順は、培養関連プロセス及び評価プロセスで行われる操作に関する内容を、操作ごとに操作概要欄C1,C2,C3,C4に規定している。本実施形態に係る起点実行手順の操作概要欄C1,C2,C3,C4には、例えば、操作の内容を規定した操作項目26aと、操作の処理対象を規定したinput項目26bと、操作により得られる成果物を規定したoutput項目26cと、操作に関連する数値を規定した実行パラメータ項目26dと、操作に関する制約条件を規定した制約条件項目26eとを有する。
例えば、操作概要欄C1には、「分化誘導培地Aの調整」が操作項目26aに規定され、処理対象である「基礎培地、BMP4,VEGF」がinput項目26bに規定され、成果物である「分化誘導培地A」がoutput項目26cに規定され、「基礎培地濃度」、「BMP4濃度」、「VEGF濃度」、及び「グルコース濃度」が実行パラメータ項目26dに規定され、「なし」が制約条件項目26eに規定されている。
また、実行パラメータ項目26dに規定された「基礎培地濃度」には基礎培地の濃度を示すパラメータ値として「10mM」が規定され、「BMP4濃度」にはBMP4(Bone Morphogenetic Protein 4:骨形成因子4(骨形成タンパク質4))の濃度を示すパラメータ値として「2μM」が規定され、「VEGF濃度」にはVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮細胞増殖因子)の濃度を示すパラメータ値として「5μM」が規定され、及び「グルコース濃度」にはグルコースの濃度を示すパラメータ値として「4μM」が規定されている。
制約条件項目26eに規定された「なし」は、「分化誘導培地Aの調整」という操作に関する制約条件が規定されていないことを示す。制約条件は、操作に関して制約する条件を規定しており、例えば、時間制約、並行性制約、実行条件制約等があり、時間、環境、温度、湿度、清浄度等で操作が制約されることが規定される。
時間制約として、例えば、実行主体が実行手順の操作を行うときにかかる実行時間を規定する時間制約、及び、実行手順の操作の間に時間的な制約を設ける時間制約等がある。実行条件制約として、所定の条件の範囲内で実行手順の操作を行わなければならないことを規定した実行条件制約があり、例えば、操作概要欄C4の制約条件項目26eで示すように「分化誘導培地Bの調整が終わってから60分以内」等の制約条件が該当する。
本実施形態に係る培養関連プロセス及び評価プロセスの起点実行手順には、上述した「分化誘導培地Aの調整」に関する操作概要欄C1の他、「分化誘導培地Aによる細胞培養(目的細胞誘導)」に関する操作概要欄C2と、「分化誘導培地Bの調整」に関する操作概要欄C3と、「分化誘導培地Bによる細胞培養(目的細胞分化)」に関する操作概要欄C4と、「マーカー遺伝子発現評価」に関する操作概要欄C5と、が規定されている。なお、操作概要欄C3の実行パラメータ項目26dに規定された「SCF濃度」にはSCF(Stem Cell Factor:幹細胞因子)の濃度を示すパラメータ値が規定されている。また、「マーカー遺伝子発現評価」に関する操作概要欄C5では、output項目26cに、マーカー遺伝子の発現陽性率としての確率を示す0-100%の指標が設定されている。
「分化誘導培地Aによる細胞培養(目的細胞誘導)」に関する操作概要欄C2には、input項目26bに「分化誘導培地A(調整済み)、ヒトiPS細胞(HPS0003株)」と規定されており、「分化誘導培地A(調整済み)」という規定から、操作概要欄C1で規定した操作の終了後に行われる操作であることが規定されている。また、「分化誘導培地Bによる細胞培養(目的細胞分化)」に関する操作概要欄C4には、input項目26bに「分化誘導培地B(調整済み)、(分化誘導培地Aで培養した分化途中の)ヒトiPS細胞(HPS0003株)」と規定されており、「分化誘導培地B(調整済み)」という規定から、操作概要欄C3で規定した操作の終了後に行われる操作であることが規定され、また、「(分化誘導培地Aで培養した分化途中の)ヒトiPS細胞(HPS0003株)」という規定から、操作概要欄C2で規定した操作の終了後に行われる操作であることが規定されている。
テンプレート実行手順生成部15は、データベース8に記憶されている過去の実行手順の実行実績結果とその評価実績結果とに基づいて、起点実行手順の中で実行パラメータ値が変更可能な実行パラメータ項目26dを、可変パラメータ項目として選定し、次にどのような実行パラメータ値の実行手順で培養関連プロセス及び評価プロセスを実行環境100で実行させてその実行結果を評価させるべきかを決定するためのテンプレート実行手順を生成する。
図3及び図4は、図2に示した起点実行手順の操作概要欄C1,C2,C3,C4の内容に基づいてデータベース8から探索した、過去の実行手順による実行実績結果及び評価実績結果の構成の一例を示す。テンプレート実行手順生成部15は、例えば、データベース8から探索した複数の実行実績結果及び評価実績結果を比較し、操作概要欄C1,C2,C3,C4の実行パラメータ項目26dのうち、実行パラメータ値を変更可能な可変パラメータ項目となり得る実行パラメータ項目26dを特定する。可変パラメータ項目となり得る実行パラメータ項目26dを特定するにあたっては、例えば、実行実績結果及び評価実績結果における、実行パラメータ値の数値の変化傾向等を目安にできる。
テンプレート実行手順生成部15は、例えば、図3に示す実行実績結果及び評価実績結果1と、図4に示す実行実績結果及び評価実績結果2と、を比較し、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における実行パラメータ項目26dの「BMP4濃度」、「VEGF濃度」、及び「グルコース濃度」において、それぞれの実行パラメータ値が異なっていること、これらの違いによって図3及び図4の操作概要欄C5のoutput項目26cに示される評価実績結果が異なっていること等、に基づいて、これら実行パラメータ値が可変パラメータ値となり得る項目(可変パラメータ項目)と推測し得る。
なお、起点実行手順の実行パラメータ値のうち、実行実績結果を得た過去の実行手順で設定されていた探索範囲を特定し、この過去の探索範囲の和集合との共通部分を、新たな探索範囲として設定するようにしてもよい。また、複数の実行実績結果において、同じ実行パラメータ項目が変更されていても、各評価実績結果の変動幅が所定値以下であるような場合には、その実行パラメータ項目は評価実績結果への影響は小さいとして可変パラメータ項目としない等のルールを設定するようにしてもよい。
本実施形態では、説明を簡単にするために、可変パラメータ項目として、数値が設定されている実行パラメータ項目の中から可変パラメータ項目を決める場合について説明するが、培地の調整や細胞の培養等の数値以外を規定している操作項目26a等を、可変パラメータ項目として選んでもよい。すなわち、起点実行手順では、実行環境100において変更し得る全ての操作及び操作に関する条件が可変パラメータ項目となり得る。なお、数値以外を規定している操作項目26a等を可変パラメータ項目として選択する例については、後述する他の実施形態において詳細に説明する。
テンプレート実行手順生成部15は、図3に示す実行実績結果及び評価実績結果1と、図4に示す実行実績結果及び評価実績結果2と、を比較して、可変パラメータ項目に対して可変パラメータ値の数値範囲である探索範囲を設定する。この場合、テンプレート実行手順生成部15は、これら実行実績結果及び評価実績結果において、評価プロセスの「マーカー遺伝子発現評価」の操作概要欄C5におけるoutput項目26cの「マーカー遺伝子発現陽性率」が異なることと、可変パラメータ項目となる実行パラメータ項目26dの実行パラメータ値と、に基づいて、所望するマーカー遺伝子発現陽性率が得られるであろう、可変パラメータ値の範囲(探索範囲)を推測し、図5に示すように、可変パラメータ項目26gとその探索範囲を設定したテンプレート実行手順を生成し得る。
例えば、一例として、図3に示す実行実績結果及び評価実績結果1では、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における実行パラメータ項目26dの「BMP4濃度」が8μMと図4の「BMP4濃度」よりも高く、「VEGF濃度」も12μMと図4の「VEGF濃度」よりも高く、かつ、「グルコース濃度」が4μMと図4の「グルコース濃度」よりも低い。このことが、図3に示すマーカー遺伝子発現陽性率のほうが、図4に示すマーカー遺伝子発現陽性率よりも「75%」と高い結果が得られている要因であると推測する。そして、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における実行パラメータ項目26dが、マーカー遺伝子発現陽性率に影響を与えていると推測し、これらを可変パラメータ値の探索範囲とする。このような特徴抽出ルールにより可変パラメータ値の探索範囲を推測する。
このように、テンプレート実行手順生成部15は、過去の1種類以上の実行実績結果及び評価実績結果から、所与の特徴抽出ルールに基づいて、評価実績結果に影響を与えるであろう1種類以上の実行パラメータ項目とその探索範囲を推測する。
なお、ここでは、起点実行手順と同じ操作で構成された過去の実行手順が存在しており、この過去の実行手順の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、起点実行手順の中で可変パラメータ項目26gとその探索範囲とを設定する場合について述べた。テンプレート実行手順生成部15は、起点実行手順が、過去の実行手順とは異なる操作で構成されている場合においても、起点実行手順と関連する過去の実行手順(以下、関連実行手順と称する)を選択し、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、起点実行手順の中で可変パラメータ項目26gとその探索範囲とを設定する機能も有している。
例えば、起点実行手順の操作に、過去の実行手順に含まれていない未知の操作が含まれている場合、両者の実行パラメータ値の種類及び数値は一般には異なることになる。しかしながら、テンプレート実行手順生成部15は、例えば、起点実行手順の中の評価プロセスの操作で評価結果に影響を与えるであろう実行パラメータ項目とその探索範囲を、複数の関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を対比解析することで推測する。
テンプレート実行手順生成部15は、起点実行手順と、複数の関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果との両者の実行パラメータ値の間に少なくとも1つの行列演算と少なくとも1つの線形または非線形変換を組み合わせた形で特徴量変換関数を設計することで、両者の対応を取ることができる。また、上記特徴量変換関数自体を逐次最適化によって変更可能であってもよい。
ここで、特徴量変換関数とは、探索範囲の推測に用いる探索空間が高次元であっても、実際に目的変数に寄与している次元は低次元である際に、過去の実行実績結果及び評価実績結果を基に、目的変数に対して効果のある低次元の空間を抽出するための関数をいう。このような特徴量変換関数によって生成された低次元の探索空間上で、可変パラメータ値の探索を行うことで、探索を効率化することができる。
ここで、例えば、回帰モデルの一種である、ニューラルネットワーク等による機械学習モデルは、少なくとも1つの行列演算と少なくとも1つの線型または非線形変換を組み合わせた形で定義できる。
少なくとも1つの行列演算と少なくとも1つの線形または非線形変換を組み合わせた形で特徴量変換関数を設計する例として以下のような例がある。例えば、細胞の培養温度と、培養時間の間に一定の関係性があり、その関係性を満たしながら条件(培養温度及び培養時間)を振ると、評価値が高く出るケース(所望の評価結果が得られるケース)を想定する。このような場合に、上記評価値が高めに出る培養時間と培養温度との関係性を特徴量変換関数で学習した上で、特徴量変換関数によって指定された空間の上で逐次最適化を行うことで、効率よく探索を進めることができる。
また、テンプレート実行手順生成部15は、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果において、どの要因が評価結果の改善に最も寄与しているかを管理者等が事前に分析した事前知識をルール化しておくことで、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果から、起点実行手順での可変パラメータ項目とその探索範囲との設定を効果的に行うことができる。なお、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、可変パラメータ項目とその探索範囲とを設定するときの詳細な説明については後述する。
図5は、実行実績結果及び評価実績結果を参考に、起点実行手順に可変パラメータ項目26gを設定し、可変パラメータ項目26gにそれぞれ探索範囲を設定した、テンプレート実行手順の構成の一例を示す。
この例では、実行実績結果及び評価実績結果を参考に、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における「BMP4濃度」「VEGF濃度」「グルコース濃度」を可変パラメータ項目26gとして設定している。
テンプレート実行手順生成部15は、生成したテンプレート実行手順を、可変パラメータ値設定部16及び実行手順生成部17に送出する。可変パラメータ値設定部16は、過去の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、探索範囲の中でどのような可変パラメータ値によって実行環境100で実行手順を実行させるかを決定し、探索範囲の中から選択した、複数個の可変パラメータ値を実行手順生成部17に送出する。
ここで、可変パラメータ値設定部16は、過去の1種類以上の実行実績結果及び評価実績結果を基に、所与の手順(例えば、ベイズ最適化、直交表、ラテン超方格法等)に従って、テンプレート実行手順において探索範囲に含まれる複数個の可変パラメータ値を生成する。また、可変パラメータ項目26gの探索範囲を表わした探索空間上に実行実績結果を射影して可変パラメータ値を設定してもよい。
なお、本実施形態では、過去に実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在しない場合でも、例えば、直交法等、管理者が定めたルールに従って、当該探索範囲の中から可変パラメータ値を設定することができる。
本実施形態に係る可変パラメータ値設定部16では、例えば、過去の1種類以上の実行実績結果及び評価実績結果から回帰モデル(応答曲面)を生成し、この回帰モデルを用いて、例えば、ベイズ最適化や、マルチタスクベイズ最適化等により、探索範囲内から複数の可変パラメータ値を選択してゆく。
実行手順生成部17は、可変パラメータ値設定部16で選択された可変パラメータ値を、テンプレート実行手順の可変パラメータ項目26gにそれぞれ書き込んで、可変パラメータ値が異なる複数の実行手順を生成する。このようにして、実行手順生成部17は、可変パラメータ値が異なる複数の実行手順のリストを生成する。
図6及び図7は、可変パラメータ項目26gに設定される可変パラメータ値が異なる2つの実行手順の一例を示したものである。図6は、実行手順の一例として、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における可変パラメータ項目26gに、「BMP4濃度」の可変パラメータ値として「5μM」、「VEGF濃度」の可変パラメータ値として「10μM」を設定し、「グルコース濃度」の可変パラメータ値として「11μM」を設定した、実行手順を示す。
また、図7は、他の実行手順の一例として、「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1における可変パラメータ項目26gに、「BMP4濃度」の可変パラメータ値として「6μM」、「VEGF濃度」の可変パラメータ値として「8μM」を設定し、さらに、「グルコース濃度」の可変パラメータ値として「6μM」を設定した、実行手順を示す。
実行手順生成部17は、このような複数の実行手順からなるリストを生成し、実行スケジュール生成部19に、これら実行手順のリストを送出する。
実行スケジュール生成部19は、実行手順のリストから順番に実行手順を選択してゆき、実行手順ごとに実行スケジュールを生成してゆく。ここでは、一例として、例えば、図6に示した実行手順から実行スケジュールを生成する際の概要について説明する。
なお、ここでは、説明を簡単にするために、実行手順のリストから順番に実行手順を選択して、実行手順の実行スケジュールを生成する場合について説明するが、リスト内の複数の実行手順について一度にそれぞれの実行スケジュールや、複数の実行手順の進行状況の関係を示した1つの実行スケジュールを生成するようにしてもよい。
複数の実行スケジュールが一度に提示された実行主体は、例えば、実行スケジュールの内容に応じて、一度に複数の実行スケジュールに従った実行手順を同時に実行してもよく、複数の実行スケジュールの中から順番に任意の実行スケジュールを選択して、各実行スケジュールに従って実行手順を実行するようにしてもよい。実行主体は、これら実行手順を実行した実行結果や評価結果を得られるたびに、これらをその都度、培養関連プロセス最適化装置2に送信することが望ましい。
培養関連プロセス最適化装置2は、実行環境100の実行主体に対して実行スケジュールを提示し、当該実行スケジュールに従って実行手順を実行主体に実行させるが、例えば、実行主体からの実行結果及び評価結果を受け取った際には、これら実行結果及び評価結果の内容を反映した実行手順を再生成し、再生成した実行手順の実行スケジュールを、その都度、生成することが望ましい。これにより、実行環境100で実行主体により得られた実際の実行結果及び評価結果を、その都度反映させた最適な実行手順を生成することができ、培養関連プロセスの最適化を図ることができる。
なお、このように、複数の実行スケジュールを実行主体に提示し、各実行主体から複数の実行手順の実行結果及び評価結果等をそれぞれ、培養関連プロセス最適化装置2が受信した際における、培養関連プロセス最適化装置2の処理については、図17Bを用いて後述することとする。
実行スケジュール生成部19は、図6に示す実行手順を基に、図8、図9A及び図9Bに示すような実行手順抽象構文木tを生成する。実行手順抽象構文木は、実行手順を構文解析して、実行手順で規定したそれぞれの操作の間の依存性と、当該操作の処理対象と、当該操作により得られる成果物と、当該操作に関する制約条件と、が解析可能なデータ構造である構文木である。
構文木として実行手順抽象構文木tは、実行手順の中の操作概要欄C1,C2,C3,C4に規定された、操作項目26a、input項目26b、output項目26c、実行パラメータ項目26d、可変パラメータ項目26g及び制約条件項目26eの内容をノードとし、これらノードをエッジで接続させて操作間の依存性を規定した木構造状のデータ構造を有する。
この場合、実行スケジュール生成部19は、実行手順の操作概要欄C1,C2,C3,C4ごとに、操作項目26a、input項目26b、output項目26c、実行パラメータ項目26d、可変パラメータ項目26g及び制約条件項目26eの内容をノードとし、これらノードをエッジで接続させて依存性を規定した個別抽象構文木をそれぞれ個別に生成し、実行手順の操作の進行順序に基づいて、これら個別抽象構文木を互いに紐付けて実行手順抽象構文木tを生成し得る。
なお、実行手順から個別抽象構文木及び実行手順抽象構文木tを生成する、個別抽象構文木生成処理及び実行手順抽象構文木生成処理の詳細については後述する。
次に、実行スケジュール生成部19は、送受信部11を介して実行環境100から受け取った実行環境情報(後述する)と、上述した実行手順抽象構文木tとに基づいて、実行手順の中の各操作を実行する実行主体を実行手順抽象構文木tに紐付けた拡張抽象構文木(後述する)を生成する。
構文木としての拡張抽象構文木は、実行手順を構文解析して、実行手順で規定したそれぞれの操作の間の依存性と、当該操作の処理対象と、当該操作により得られる成果物と、当該操作に関する制約条件と、実行手順の中の各操作を実行する実行主体と、が解析可能なデータ構造である構文木である。
ここで、図10Aに、実行環境情報Eの構成の一例を示す。図10Aに示すように、実行環境情報Eは、実行手順に規定された各操作を、実行環境100において実際に実行可能な実行主体の候補と、実行主体が操作を実行する際の実行時間と、実行主体を操作に用いることが不可能な実行不可能時間(使用状況)と、を示した情報である。
図10Aに示す実行環境情報Eにおいては、実行手順の操作概要欄C1,C3に示す「調整」の操作は、培地混合装置Pが実行することができるが、細胞培養装置X,Y及びフローサイトメーターQでは実行することができないことが規定され、さらに、培地混合装置Pが「調整」を実行した際の実行時間(培地Aの調整に30分、培地Bの調整に30分)が規定されている。
なお、実行環境情報Eには、例えば、実行主体である装置(ここでは培地混合装置P)において、目的の培地A,Bの状態に到達させる適切な温度や、湿度等を規定してもよい。また、その他、実行環境情報Eには、機械の動作精度や、待機時間等の実行主体たる機械の機能や性能に関する情報を規定してもよい。
また、実行環境情報Eにおいては、実行手順の操作概要欄C2に示す「培養」の操作は、細胞培養装置X,Yが実行することができるが、培地混合装置P及びフローサイトメーターQでは実行することができないことが規定され、さらに、細胞培養装置X,Yが「細胞培養」を実行した際の実行時間(細胞培養装置Xは培地A,Bによる培養に6日要する。細胞培養装置Yは培地A,Bによる培養に6日要する。)が規定されている。
また、実行環境情報Eにおいては、実行手順の操作概要欄C5に示す「マーカー遺伝子発現評価」の操作は、フローサイトメーターQのみが実行することができ、培地混合装置P及び細胞培養装置X,Yでは実行することができないことが規定され、さらに、フローサイトメーターQが「マーカー遺伝子発現評価」を実行した際の実行時間(フローサイトメーターQはマーカー遺伝子発現評価に60分要する。)が規定されている。
実行環境情報Eは、使用状況として、細胞培養装置Xが2020年1月3日17時から2020年1月6日17時まで、実行手順の操作を実行できないことを示す実行不可能時間が規定され、細胞培養装置Yが2020年1月12日17時から2020年1月15日17時まで、実行手順の操作を実行できないことを示す実行不可能時間が規定されている。
なお、本実施形態に係る実行環境情報Eでは、実行主体についての操作の可否を示す使用状況として、実行主体が当該操作を実行できない実行不可能時間が規定されている場合について説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、実行主体についての操作の可否を示す使用状況として、実行主体が当該操作を実行できる実行可能時間(例えば、2020年1月2日 9時から16時まで等)が規定されている実行環境情報Eを適用してもよい。なお、これら実行不可能時間や実行可能時間については、単に使用状況と称する。
本実施形態では、実行環境100において所定の情報処理装置(図1に図示せず)が各実行主体の個別情報(どの実行主体がどの操作を実行可能であるかと、実行時間と、使用状況)を取りまとめて実行環境情報Eを生成し、実行環境100側の情報処理装置で生成された実行環境情報Eを培養関連プロセス最適化装置2が受信してもよい。また、実行環境100の各実行主体から通信装置3a,3b,3c,3dを介してそれぞれ自己の個別情報を培養関連プロセス最適化装置2に送信し、培養関連プロセス最適化装置2の演算処理部7で個別情報を取りまとめて実行環境情報Eを生成するようにしてもよい。
実行スケジュール生成部19は、実行手順抽象構文木tに含まれる実行主体ノード(図8、図9A及び図9B中、「actuator」と表記)に割り付けが必要となる操作ノードを特定して、取得した実行環境情報Eと、実行手順抽象構文木tとから、まずは制約条件を考慮しないで、実行手順抽象構文木tの各操作ノードの実行主体ノード(「actuator」)に、実行環境情報Eで規定した実行主体を割り付け、図11に示すように、各操作にそれぞれ実行主体を割り付けた集合A´を得る。
ここで集合A´は、制約条件を考慮せずに、実行手順抽象構文木tの中の実行主体ノードにそれぞれ操作が実行可能な全ての実行主体を割り付けて、組み合わせパターンを示したものである。
実行スケジュール生成部19は、実行手順抽象構文木tの中の実行主体ノードに、各操作に実行主体を割り付けた集合A´の結果を反映させ、図12、図13及び図14に示すような拡張抽象構文木t´を生成する。
図12、図13及び図14は、図6に示す実行手順に、図10Aに示す実行環境情報Eの実行主体を割り付けた木構造状のデータ構造である拡張抽象構文木t´の一例を示しており、培地A,Bの調整から、細胞培養、及び、マーカー遺伝子発現評価までの一連の操作に、それぞれ実行主体、実行時間及び制約条件が紐付けられている。なお、このような拡張抽象構文木t´の生成については後述する。
次に、実行スケジュール生成部19は、拡張抽象構文木t´に基づいて、図10Bに示すように、順番に実行される一連の操作のうち、直列に実行できる操作と、並列に実行できる操作と、を示した半順序を生成する。実行スケジュール生成部19は、実行手順を開始する開始時刻(ここでは、2020年1月2日8時30分とする)を決め、実行手順の一連の操作について並行性制約を解析可能な半順序に基づき、操作が実行される順番に沿って、集合A´の各要素に対して実行開始時間及び実行終了時刻を割り付けてゆき、図15に示すような集合A´´を得る。
なお、複数の操作を同時に実行可能な実行手順では、各操作の間において、同時に実行不可能な操作や同時に実行可能な操作が並行性制約として規定され、この並行性制約が、拡張抽象構文木t´や半順序に反映され得る。また、並行性制約には、培地Bの調整だけを、培地Aによる細胞培養と並行化することで、培養関連プロセス全体での時間効率を向上させることができるかも規定される。
ここで図15の集合A´´は、実行手順内の制約条件を考慮せずに、所定の開始時刻(2020年1月2日8時30分)から、実行手順で順に実行する操作の順番に沿って、各操作についてそれぞれ実行主体が実行可能な実行開始時刻と実行終了時刻とを割り付けていった、組み合わせパターンを示している。
例えば、図15の集合A´´の「No.2」では、並行性制約がない「分化誘導培地Aによる培養」と「分化誘導培地Bの調整」とについて、「細胞培養装置X」で「分化誘導培地Aによる培養」を2020年1月13日17時00分まで実行させた後、数日たった2020年1月15日16時30分から「培地混合装置P」を使用して次の「分化誘導培地Bの調整」を実行させ、その後、「細胞培養装置Y」による「分化誘導培地Bによる培養」と、「フローサイトメーターQ」による「マーカー遺伝子発現評価」とを順に実行させる時間割付スケジュールを示す。
また、図15の集合A´´の「No.4」では、並行性制約がない「分化誘導培地Aによる培養」と「分化誘導培地Bの調整」とについて、「細胞培養装置Y」による「分化誘導培地Aによる培養」(2020年1月2日9時から2020年1月8日9時まで)と、「培地混合装置P」による「分化誘導培地Bの調整」(2020年1月8日8時30分から2020年1月8日9時まで)とを並行して実行させ、その直後に、「細胞培養装置X」による「分化誘導培地Bによる培養」と、「フローサイトメーターQ」による「マーカー遺伝子発現評価」とを実行させる時間割付スケジュールを示す。
なお、図15の集合A´´の「No.3」及び「No.5」では、「培地混合装置P」による「分化誘導培地Bの調整」が終了してから、60分よりも長い時間経過してから、「細胞培養装置Y」による「分化誘導培地Bによる培養」が行われており、図6に示した実行手順内の「分化誘導培地Bによる細胞培養(目的細胞分化)」に関する操作概要欄C4において、制約条件項目26eに規定された「分化誘導培地Bの調整が終わってから60分以内」という制約条件を満たしていない。
このように、実行スケジュール生成部19は、実行手順内の制約条件を考慮しなかったときに、実行手順の操作を実行主体で実行できる可能性がある時間割付スケジュールの組み合わせを全て生成し、これらの組み合わせパターンを集合A´´として得る。
次に、実行スケジュール生成部19は、実行手順、実行手順抽象構文木t又は拡張抽象構文木t´から、各操作の制約条件(制約条件項目26eに規定された条件)を読み取り、制約条件に規定された実行時間等の制約を、全て満たしている時間割付スケジュールを候補スケジュールとして集合A´´の中から抽出し、候補スケジュールからなる集合A´´´を得る。
図16は、制約条件項目26eに規定された制約条件を満たした組み合わせの集合A´´´の一例を示す。例えば、図6の実行手順には、「分化誘導培地Bによる細胞培養」の操作概要欄C4において、制約条件項目26eに「分化誘導培地Bの調整が終わってから60分以内」という制約条件が規定されている。そのため、実行スケジュール生成部19は、図16に示すように、上記の制約条件を満たした「No.1」、「No.2」、及び「No.4」を候補スケジュールとして抽出し、これら候補スケジュールからなる集合A´´´を得る。なお、「No.3」及び「No.5」は、「分化誘導培地Bによる培養」の制約条件26eに規定された「分化誘導培地Bの調整が終わってから60分以内」という制約条件を満たしていないため集合A´´´には含まれていない。
ここで、実行スケジュール生成部19には、例えば、実行手順の最終操作である「マーカー遺伝子発現評価」の実行終了時間が、最も早い候補スケジュールを選択する等の選択条件が予め管理者によって設定されている。これにより、実行スケジュール生成部19は、集合A´´´の中から選択条件に該当する1つの候補スケジュールを、最終的な実行スケジュールとして選択する。
図16に示す集合A´´´では、実行終了時間が最も早い候補スケジュールが「No.4」である。なお、「No.4」は、「分化誘導培地Aの調整」の後に、並行性制約がない「分化誘導培地Aによる培養」と「分化誘導培地Bの調整」とを並行に実行し、「分化誘導培地Aによる培養」と「分化誘導培地Bの調整」とが同時に完了した直後に「分化誘導培地Bによる培養」を実行することによって、「No.1」、「No.2」及び「No.4」の中で最も時間短縮が実現されているスケジュールである。なお、「No.2」では並行性制約が考慮されていないため、最も実行時間が長いスケジュールとなっている。
また、終了時間が最も早い候補スケジュールが複数ある場合には、例えば、実行終了時間以外にも優劣を定める指標が設定されており、候補スケジュールの識別子であるナンバー(No)の数値が小さいスケジュールを実行スケジュールとして選択する。
実行スケジュール生成部19は、選択した実行スケジュールを実行指示情報生成部20に送出する。実行指示情報生成部20は、実行環境情報Eを参照して、各操作を実行する実行主体ごとに、実行スケジュール通りに操作を行うことを指示する実行指示情報をそれぞれ生成する。
ここで、実行指示情報は、実行環境100において実行手順の各操作を実行スケジュール通りに実行主体に実行させるのに十分な情報が記述されたデータである。典型的には、培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQを制御して動作させるプログラム等の設定情報が該当する。
演算処理部7は、このようにして実行手順のリストを基に、実行手順ごとに生成した各実行スケジュール及び実行指示情報を送受信部11に送出し、送受信部11からネットワーク4を介して対応する実行主体の通信装置3a,3b,3c,3dにそれぞれ送信する。
実行スケジュール及び実行指示情報を受信した通信装置3a,3b,3c,3dは、それぞれ対応する実行主体である培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQに実行スケジュール及び実行指示情報を提示し、実行環境100において各操作を行わせる。
その結果、培養関連プロセス最適化システム1では、実行環境100において実行スケジュール及び実行指示情報に基づき、各実行主体に実行手順の操作をそれぞれ実行させ、その結果、実行手順の実行結果や評価結果が得られると、その都度これら実行結果や評価結果が、通信装置3a,3b,3c,3dから培養関連プロセス最適化装置2に送信される。
培養関連プロセス最適化装置2は、実行環境100の通信装置3a,3b,3c,3dから実行結果や評価結果を受信すると、その都度、実行手順、当該実行手順に設定した可変パラメータ値、実行結果及び評価結果を対応付けてデータベース8に記録してゆき、これら実行結果や評価結果を演算処理部7の判定部18により解析する。
判定部18の再スケジュール判定部23は、この際、(i)実行環境100での実際の実行手順の進行が、実行スケジュールと相違が生じており、実行スケジュール通りに実行手順が実行されていないという判定、あるいは、(ii)実行スケジュール内の未実行の箇所に対して影響があり、実行スケジュールを変更する必要があると判定すると、実行スケジュール通りに実行手順を実行させるための実行スケジュール及び実行指示情報を再生成させる。
例えば、培地Aによる培養を細胞培養装置Xで実行し、その後、培地Bによる培養も同じ細胞培養装置Xで実行するとの実行スケジュールに従って、細胞培養装置Xが実行手順を実行する際、細胞培養装置Xが培地Aによる培養に予定以上に時間を要し、後続の細胞培養装置Xによる培地Bによる培養の実行が遅れているとの実行結果を細胞培養装置Xから受信した場合、判定部18は、細胞培養装置Xが実行スケジュール通りに実行手順が実行されていないと判定し、実行スケジュール及び実行指示情報を再生成させる。
一方、例えば、培地Aによる培養を細胞培養装置Xで実行し、並行して培地Bの調整を培地混合装置Pで実行するとの実行スケジュールに従って、細胞培養装置X及び培地混合装置Pが実行手順を実行する際、細胞培養装置Xが培地Aによる培養に予定以上に時間を要したとしても、培地混合装置Pによる培地Bの調整には影響がなく、培地Bの調整や、その後の細胞培養装置X,Yを用いた培地Bによる細胞培養等の操作については、実行スケジュール通りに実行可能であることもある。このような場合、判定部18は、培地Aによる培養に時間を要して実行スケジュール通りに実行できなかったとの実行結果を細胞培養装置Xから受信しても、実行スケジュール内の未実行の箇所(例えば、培地Bの調整や、細胞培養装置X,Yを用いた培地Bによる細胞培養、マーカー遺伝子発現評価等)に対して影響はなく、実行スケジュールを変更する必要はないと判定する。
すなわち、判定部18は、全ての実行主体が実行スケジュール通りに実行したか否かを単に判定するだけでなく、実行環境100の一部の実行主体が実行スケジュール通りに実行していなくても、当該一部の実行主体の操作が、他の実行主体の操作に影響を与えず、他の実行主体が実行スケジュール通りに操作を実行し、最終的に実行スケジュールが提示した終了日時までに実行手順が終了するか否かを判定する。
この例では、判定部18は、実行環境100の一部の実行主体が実行スケジュール通りに実行していなくても、最終的に実行スケジュールが提示した終了日時までに実行手順が終了すれば、実行スケジュール通りの実行が可能であるとし、実行スケジュールを変更する必要はないと判定することになる。
培養関連プロセス最適化装置2は、実行スケジュール及び実行指示情報を再生成した際には、再生成した実行スケジュール及び実行指示情報を再びそれぞれ対応する実行主体の通信装置3a,3b,3c,3dに送信し、それぞれ対応する実行主体である培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、又はフローサイトメーターQに新たな実行スケジュール及び実行指示情報を提示し、実行環境100において各操作を行わせる。
また、判定部18の継続判定部22は、実行環境100の通信装置3a,3b,3c,3dから実行結果や評価結果を受信した際に、操作部10を介して管理者から継続命令が与えられたか否かや、評価結果が所望の評価結果であるか否か、所定回数の評価結果を得たか否か等に基づいて、実行環境100の通信装置3a,3b,3c,3dから受信した実行結果や評価結果を基に、再び可変パラメータ値設定部16で、実行結果や評価結果を反映した新たな可変パラメータ値を探索するか否かを判定する。
継続判定部22は、例えば、操作部10を介して管理者から継続命令が与えられた際には、可変パラメータ値設定部16に対して、新たに得られた実行結果及び評価結果を含めた回帰モデル(応答曲面)を再び生成させる。これにより、演算処理部7は、可変パラメータ値設定部16によって、この回帰モデルを用いて、ベイズ最適化や、マルチタスクベイズ最適化等により、探索範囲内から複数の可変パラメータ値を新たに選択してゆき、実行手順生成部17によって、可変パラメータ値が異なる、又は、同じである、複数の実行手順のリストを生成する。
なお、実行手順生成部17は、同じ可変パラメータ値の実行手順のリストを生成した際には、実行環境100の実行主体に、同じ実行手順を複数回実行させることになるが、例えば、実行手順の確実性の検証や、同じ評価結果が得られるかの検証等の観点から有効なものである。より具体的には、培養関連プロセスの実行結果や評価結果のノイズが大きいと予想できる場合(所定の可変パラメータ値により得られた評価結果が過去の最大値を5%上回っていたとしても、それがノイズによるものなのか、本当に改善しているのかについて一回の観測で不明な場合)等に、標準偏差や平均などの統計量を得て、より精度の高い評価が可能となる。
このようにして、培養関連プロセス最適化装置2は、新たに生成した実行手順に対応する実行スケジュール及び実行指示を再生成し、これらを実行環境100における実行主体の通信装置3a,3b,3c,3dに再送信して、実行環境100においてそれぞれ対応する実行主体である培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQに実行スケジュール及び実行指示情報を提示し、実行環境100の培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQにおいて各操作を行わせる。
このように、培養関連プロセス最適化システム1は、実行スケジュール及び実行指示情報の生成と、実行スケジュール及び実行指示情報の実行主体(培地混合装置P、細胞培養装置X,Y、及びフローサイトメーターQ)への提示と、これに基づく実行主体からの実行結果及び評価結果の取得と、得られた実行結果及び評価結果を反映した新たな可変パラメータ値の設定と、を繰り返し行う。
これにより、培養関連プロセス最適化システム1では、実行主体が実行環境100で実際に培養関連プロセスを実行した実行結果及び評価結果を反映させつつ、なるべく大きな利得が得られる最適な可変パラメータ値や実行スケジュールを探索することができ、利得が大きい最適な培養関連プロセスを求めることができる。
次に、上述した培養関連プロセス最適化方法の概要について図17Aのフローチャートを用いて説明する。なお、培養関連プロセス最適化システム1では、実際には、リスト化した実行手順ごとに生成した複数の実行スケジュール及び実行指示情報を各実行主体に提示し、実行環境100において、複数の異なる実行手順が同時に実行されることが望ましいが、その際は、異なる実行手順ごとにそれぞれ実行結果及び評価結果をその都度受け取る場合もある。このような場合については、図17Bを用いて後述し、図17Aのフローチャートでは、説明を簡単にするために、1つの実行手順に対する処理に着目して以下説明する。
図17Aのフローチャートに示すように、培養関連プロセス最適化装置2は、開始ステップから培養関連プロセス最適化処理手順を開始し、サブルーチンSR1で、テンプレート実行手順生成処理を行い、テンプレート実行手順を生成する。培養関連プロセス最適化装置2は、次のサブルーチンSR2で、可変パラメータ値設定処理を行い、テンプレート実行手順内に規定した可変パラメータ項目26gの探索範囲の中から、複数の可変パラメータ値を選択する。
培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS3で、可変パラメータ項目26gの可変パラメータ値が異なる(又は、同じである)複数の実行手順のリストを生成する。培養関連プロセス最適化装置2は、次のサブルーチンSR4で、実行スケジュール生成処理を行い、ステップS3で生成した実行手順ごとに実行スケジュールを生成する。培養関連プロセス最適化装置2は、次のサブルーチンSR5で、実行指示情報生成処理を行い、サブルーチンSR4で生成した実行スケジュールの実行指示情報を生成する。
培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS6で、リスト内の実行手順ごとに生成した実行スケジュールと実行指示情報とを、それぞれ実行スケジュール内の対応する実行主体に送信する。これにより、培養関連プロセス最適化システム1では、実行環境100において、実行スケジュール及び実行指示情報に従い、各実行主体に対してそれぞれ実行手順の操作を行わせる。
培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS7で、実行環境100において得られた実行結果及び評価結果を送受信部11で受信し、次のステップS8で、実行スケジュール及び実行指示情報に基づいて実行環境100で実行主体に実行させた実行手順と、このときの可変パラメータ値と、実行環境100から取得した実行結果と、同じく実行環境100から取得した評価結果とを対応付けてデータベース8に記録する。
培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS9で、実行結果や評価結果等から、実行主体に提示した実行スケジュールに従って実行手順が実行されているか否かを判断する。ここで、実行主体に提示した実行スケジュールに従って実行手順が実行されていない場合、実行スケジュールに変更が必要であるとし(Yes)、培養関連プロセス最適化装置2は、ステップS10で、実行スケジュールの未実行部分を解析し、実行環境100で実行可能な実行スケジュールを実行スケジュール生成処理により生成する。
また、培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS11で、新たに生成した実行スケジュールの実行指示情報を生成し、次のステップS12で、新たに生成した実行スケジュール及び実行指示情報を、実行スケジュール内の対応する実行主体に送信する。
一方、上記のステップS9で、実行主体に提示した実行スケジュールに従って実行手順が実行されている場合、実行スケジュールの変更が必要ないとし(No)、培養関連プロセス最適化装置2は、次のステップS13で、実行環境100の実行主体から取得した実行結果及び評価結果を反映させて、テンプレート実行手順の探索範囲の中から再び最適な可変パラメータ値を探索するか否かを判断する。
例えば、実行環境100の実行主体から取得した実行結果及び評価結果を確認した管理者が、操作部10を介して可変パラメータ値の探索継続命令を与えられた場合や、実行環境100の実行主体から取得した評価結果について予め設定した評価結果が得るまで可変パラメータ値の探索を行うことが設定されている場合、実行環境100の実行主体から実行結果及び評価結果を取得してから所定回数だけ可変パラメータ値の探索を行うことが設定されている場合等に、テンプレート実行手順の探索範囲の中から再び最適な可変パラメータ値を探索する(Yes)。
この場合、培養関連プロセス最適化装置2は、再びサブルーチンSR2に戻り、ステップS13で否定結果(No)が得られるまで、上述した処理を繰り返す。一方、ステップS13で、テンプレート実行手順の探索範囲の中から再び最適な可変パラメータ値を探索しないと培養関連プロセス最適化装置2で判断した場合、上述した培養関連プロセス最適化処理を終了する。
ここで、図17Aのフローチャートでは、説明を簡単にするために、1つの実行手順に着目しており、最適な実行結果及び評価結果が得られると、培養関連プロセス最適化処理を終了するかのような説明となっている。そこで、複数の実行スケジュール及び実行指示情報を実行主体に提示し、各実行主体から、複数の異なる実行手順の実行結果及び評価結果等をそれぞれ培養関連プロセス最適化装置2が受信した際における、培養関連プロセス最適化装置2の処理の概要について、図17Bを用いて説明する。
図17Bに示す例では、培養関連プロセスの実行手順として、4つの実行手順0,1,2,3が提示されている例を示している。このように、培養関連プロセス最適化システム1では、実行スケジュール及び実行指示情報を介して複数の異なる実行手順が各実行主体に提示され、実行環境100において、複数の異なる実行手順が並行して実行されることが望ましい。
ここでは、実行手順0については、培地Aの調整、培地Aによる細胞培養、培地Bの調整、及び、培地Bによる細胞培養が終了しており、最適な実行結果が得られているものとする。一方、実行手順1については、培地Aの調整(或いは培地Bの調整)が失敗又は遅延しており、その影響によって未実行の操作(培養)があるとの実行結果が得られているものとする。実行手順2については未実行であり、実行手順3は現在実行中であり、それぞれ実行結果を得られていないものとする。
この場合、培養関連プロセス最適化装置2は、図17Bに示すように、実行手順0の実行結果を受け取った後に、他の実行手順2について、培地Aの調整又は培地Bの調整が失敗又は遅延しており、その影響によって未実行の操作(培養)があるとの実行結果を受け取ることになる。
この際、培養関連プロセス最適化装置2では、最適な実行手順0の実行結果についてデータベース8に記憶して次回以降の回帰モデルの生成に活用することになる。また、培養関連プロセス最適化装置2では、実行手順0について最適な実行結果を受け取った後であっても、培養関連プロセス最適化処理を即座に終了することなく、その後に得られた不最適な実行手順1の実行結果についてもデータベース8に記憶してゆくことになる。このような不最適な実行結果についても、必要に応じて次回以降の参考データとして、新たな実行手順を生成する際に活用され得る。
このように、培養関連プロセス最適化システム1では、1つの実行手順0についてのみ着目して培養関連プロセス最適化処理を終了させることなく、他の実行手順1,2,3の実行結果や評価結果についても必要に応じて取得してデータベース8に蓄積させてゆき、状況に応じて、管理者等の判断により培養関連プロセス最適化処理を終了するようにすることが望ましい。
(1-2)テンプレート実行手順生成処理
(1-2-1)テンプレート実行手順生成部の構成
次に、上述したテンプレート実行手順を生成するテンプレート実行手順生成処理について説明する。図18は、テンプレート実行手順生成部15の構成を示すブロック図である。図18に示すように、テンプレート実行手順生成部15は、起点実行手順取得部1501と、実行実績結果・評価実績結果取得部1502と、関連実行手順解析部1503と、可変パラメータ項目特定部1504と、探索範囲設定部1505と、テンプレート実行手順出力部1506と、制約条件設定部1507とを有する。
ここで、起点実行手順取得部1501は、操作部10を介して入力された、「分化誘導培地Aの調整」、「分化誘導培地Aによる培養」、「分化誘導培地Bの調整」、「分化誘導培地Bによる培養」、及び、「マーカー遺伝子発現評価」等の培養関連プロセス及び評価プロセスの内容から、図2に示したような、内容(例えば、処理対象や、成果物、操作等)が共通する、最適化の起点となる起点実行手順を、データベース8から取得する。
実行実績結果・評価実績結果取得部1502は、操作部10を介して入力された培養関連プロセス及び評価プロセスの内容や、起点実行手順の操作概要欄の内容に基づいて、図3及び図4に示すように、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果や、或いは、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在しない場合には起点実行手順と関連する実行手順(関連実行手順)の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する。
なお、ここでは、操作部10を介して入力された培養関連プロセス及び評価プロセスの内容や、起点実行手順の中の操作概要欄の内容と同じ実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する場合について述べたが、例えば、入力された培養関連プロセス及び評価プロセスの内容と類似性のある実行実績結果及び評価実績結果や、起点実行手順の中の操作概要欄の内容と類似性がある実行実績結果及び評価実績結果を、データベース8から取得してもよい。
ここで、類似性とは、例えば、培養関連プロセス及び評価プロセス(以下、まとめてプロセスと称する)に含まれる操作内容とその順番、プロセスの入出力となるものの名称や特性値から判定される。操作内容とその順番であれば、正規化された中間表現を比較するのが望ましい。具体的には、たとえばプロセスの抽象構文木間の距離を求める。また、一方のプロセスの抽象構文木をもとに類似したプロセスを表現する抽象構文木を受理する木オートマトンを作成し、受理されるかどうかの判定を行う。プロセスの入出力の比較は、単純には培地や細胞であれば、名称同士の距離や培地の各成分含有量、細胞の遺伝子型などの特性値を比較するのが望ましい。
このような類似性の定義を、実行実績結果・評価実績結果取得部1502に予め規定しておくことで、入力された培養関連プロセス及び評価プロセスの内容と類似性のある実行実績結果及び評価実績結果や、起点実行手順の中の操作概要欄の内容と類似性がある実行実績結果及び評価実績結果を、データベース8から取得することができる。
関連実行手順解析部1503は、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在せず、起点実行手順と関連する実行手順(関連実行手順)の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から読み出したとき、起点実行手順の中から可変パラメータ項目やその探索範囲を特定するために、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を解析する。なお、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を解析し、起点実行手順の中から可変パラメータ項目やその探索範囲を特定する場合については後述する。
可変パラメータ項目特定部1504は、実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、起点実行手順の中から、可変パラメータ値の探索範囲を設定する可変パラメータ項目26gを設定可能な実行パラメータ項目26d等を特定する。探索範囲設定部1505は、実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、可変パラメータ項目26gで設定する探索範囲を特定してその範囲を設定する。
なお、可変パラメータ項目26gの設定と、その探索範囲については、操作部10を介して管理者が設定するようにしてもよい。また、可変パラメータ項目26gに設定する探索範囲としては、例えば、(i)演算処理部7又は管理者が特定した可変パラメータ値の範囲を基準にさらに所定領域範囲を広げた、最大の可変推測範囲を示す探索範囲や、(ii)演算処理部7又は管理者が特定した可変パラメータ値の範囲を基準に、さらに有望と思われる所定領域範囲(例えば、管理者の過去の経験測や知見、制約条件等から特定した範囲)に狭めた、最小の可変推測範囲を示す探索範囲、であってもよい。なお、特許公報や公開特許公報等を基に、可変パラメータ値の探索範囲を、特許公報の内容を回避した最適範囲に狭める例については、後述する第4実施形態において詳細に説明する。
探索範囲設定部1505は、例えば、実際の生産現場で一定の品質等を担保しながら可変パラメータ値の最適化を行うような場合、許容される品質等のばらつきから逆算して、可変パラメータ項目の探索範囲を絞り込んだり、一連の評価実績結果の累積値を最適化するように探索範囲を絞り込んだりしてもよい。
テンプレート実行手順出力部1506は、探索範囲設定部1505で求めた探索範囲を起点実行手順に設定し、起点実行手順に基づいてテンプレート実行手順を生成し、当該テンプレート実行手順を出力する。制約条件設定部1507は、必要に応じて、テンプレート実行手順の中の制約条件項目26eに対して新たな制約条件を追加したり、或いは、制約条件を修正したりするものである。
(1-2-2)起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果が存在していない場合
ここで、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在していない場合に、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を解析し、起点実行手順の中から可変パラメータ項目やその探索範囲を特定する場合について、図19から図28を用いて、以下説明する。
図19は、培地Aを調整し、培地Aにより細胞を培養し、培地Bを調整し、培地Aで培養した細胞を培地Bで培養して所望の条件の細胞を生産する培養関連プロセスと、得られた細胞についてマーカー遺伝子発現評価を実行する評価プロセスとを規定した起点実行手順の一例を示す概略図である。
この場合、起点実行手順取得部1501は、例えば、管理者が最適化したい培養関連プロセスを特定する、「分化誘導培地Aの調整」や、「分化誘導培地Bの調整」、「分化誘導培地Aによる培養」、「分化誘導培地Bによる培養」の用語が操作部10を介して入力され、さらに、その評価プロセスを特定する「マーカー遺伝子発現評価」の用語が操作部10を介して入力されると、これら用語を基に同じ培養関連プロセス及び評価プロセスの実行手順を、データベース8の中から探索して、起点実行手順として取得する。
なお、ここでは、説明を簡単にするために、管理者が入力した用語を基に、同じ用語を含む実行手順をデータベース8から探索して起点実行手順として取得する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、用語そのものの他に、当該用語が表す型(例えば操作、input、output、制約など)、操作の手順、操作を行う前の処理対象の使用順序、操作により得られる成果物の出現順序、中間表現(例えば、抽象構文木)の構造等、これらとの間で予め規定した類似度を基に、データベース8から起点手順を取得するようにしてもよい。
図19は、データベース8の中から探索した起点実行手順の構成の一例を示している。図19に示すように、この起点実行手順は、培養関連プロセス及び評価プロセスで行われる操作に関する内容を、操作ごとに操作概要欄C6,C7,C8,C9,C10に規定している。この起点実行手順の操作概要欄C6,C7,C8,C9,C10にも、上述した図2の起点実行手順と同様に、例えば、操作の内容を規定した操作項目26aと、操作の処理対象を規定したinput項目26bと、操作により得られる成果物を規定したoutput項目26cと、操作に関連する数値を規定した実行パラメータ項目26dと、操作に関する制約条件を規定した制約条件項目26eとを有する。
次に、実行実績結果・評価実績結果取得部1502は、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に記録されているか否かを探索するが、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に記録されていない場合、起点実行手順と関連する実行手順(関連実行手順)の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する。
この場合、実行実績結果・評価実績結果取得部1502は、例えば、起点実行手順の中の培養関連プロセスで規定した「分化誘導培地Aの調整」や、「分化誘導培地Bの調整」、「分化誘導培地Aによる培養」、「分化誘導培地Bによる培養」等の用語、及び、評価プロセスで規定した「マーカー遺伝子発現評価」等の用語を基に、これら用語が含まれた実行手順を、データベース8に記録された実行手順の中から特定し、特定した実行手順を関連実行手順として、当該関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する。
ここで、図20及び図21は、関連実行手順の実行実績結果及び評価プロセスの構成の一例を示している。また、図22は、これら図20及び図21に示す関連実行手順(実行手順A,Z)の評価実績結果を示す。
図20に示す関連実行手順(実行手順A)には、図19に示した起点実行手順の「分化誘導培地Bの調整」の操作概要欄C8及び「分化誘導培地Bによる細胞培養」の操作概要欄C9は存在しないものの、操作概要欄C6,C12,C13に、起点実行手順内の「分化誘導培地Aの調整」、「分化誘導培地Aによる細胞培養」、及び「マーカー遺伝子発現評価」の用語が含まれている。これにより、実行実績結果・評価実績結果取得部1502は、図20に示す関連実行手順と、図22に示す実行手順Aの評価実績結果とを、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果として取得する。
また、図21に示す関連実行手順(実行手順B)には、起点実行手順の操作概要欄の全てが存在している。すなわち、操作概要欄C6,C12,C13,C14,C15に、起点実行手順と同じ「分化誘導培地Aの調整」、「分化誘導培地Aによる細胞培養」、「分化誘導培地Bの調整」、「分化誘導培地Bによる細胞培養」、及び「マーカー遺伝子発現評価」の用語が含まれている。これにより、実行実績結果・評価実績結果取得部1502は、図21に示す関連実行手順と、図22に示す実行手順Bの評価実績結果とを、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果として取得する。
関連実行手順解析部1503は、これら図20及び図21に示す関連実行手順の各培養関連プロセスの操作概要欄C6に示す実行実績結果の内容と、図22に示す各評価実績結果の内容とを比較し、培養関連プロセスで得た実行実績結果の内容(実行パラメータ値の数値の変動等)と、評価プロセスで得た評価実績結果の内容と、の関連性や依存性等を解析し、評価実績結果に影響を与える、培養関連プロセスの実行パラメータ項目を推測する。
この実施形態に係る関連実行手順解析部1503は、例えば、図22に示す「実行手順B」の評価実績結果である「マーカー遺伝子発現陽性率」が「実行手順A」よりも高い「82%」であることから、同じく「実行手順B」の評価実績結果である「マーカー遺伝子発現陽性率」の値(「82%」)に近い結果を導き出すような、実行パラメータ値を探索すれば良いという仮説を立てることができる。
関連実行手順解析部1503は、例えば、実行手順A,Bの「実行パラメータ値」の中身を解析し、「基礎培地濃度」、「BMP4濃度」、及び「グルコース濃度」については「実行手順A」と「実行手順B」との値が等しく、「VEGF濃度」については「実行手順A」が「10μM」で「実行手順B」の「5μM」よりも値が大きいとの解析結果を得る。
これにより、関連実行手順解析部1503は、「実行パラメータ」のうち「VEGF濃度」の値を大きくすれば、「実行手順B」によって得られた「マーカー遺伝子発現陽性率」に近い細胞を生産できる可能性があるとの解析結果を得る。なお、ここでは、実行手順A,Zの2つの評価実績結果しか例示していないが、過去に実行された多数の評価実績結果、例えば数百の評価実績結果の実行パラメータ値を比較することによって可変パラメータ値を決定してもよい。この際、関連実行手順解析部1503は、「マーカー遺伝子発現陽性率」の値が「82%」に近い値、例えば「5%」前後の幅を持たせて「77%~87%」の評価実績結果が得られた複数の手順の実行パラメータ値を比較してもよい。
関連実行手順解析部1503は、このような解析結果を可変パラメータ項目特定部1504に送出する。可変パラメータ項目特定部1504は、関連実行手順解析部1503から受け取った解析結果と、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果とに基づいて、図23に示すように、起点実行手順の「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C6に規定されている、実行パラメータ項目の「BMP4濃度」、「VEGF濃度」及び「グルコース濃度」を可変パラメータ項目26jとして設定する。
可変パラメータ項目特定部1504は、関連実行手順解析部1503からの解析結果と、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果と、操作概要欄C6の「BMP4濃度」、「VEGF濃度」及び「グルコース濃度」を可変パラメータ項目26jとして設定した起点実行手順とに基づいて、可変パラメータ項目26jの探索範囲を推測し、例えば、「0μM<BMP4濃度<10μM」「0μM<VEGF濃度<15μM」及び「3μM<グルコース濃度<15μM」と設定する。なお、ここでは「基礎培地濃度」については、「可変パラメータ」ではなく「実行パラメータ」として一意の値が設定されている。これにより、テンプレート実行手順出力部1506は、これら情報に基づいて図23に示すようなテンプレート実行手順を出力する。
なお、図24及び図25は、図23に示すテンプレート実行手順を基に生成された実行手順の構成の一例を示すものである。演算処理部7では、テンプレート実行手順生成部15から図23に示すテンプレート実行手順を可変パラメータ値設定部16が受け取ると、可変パラメータ値設定部16によって可変パラメータ値設定処理を行い、可変パラメータ項目26jの探索範囲の中から複数の可変パラメータ値(この例では、「BMP4濃度」が「5μM」や「6μM」等)を選択し、実行手順生成部17によって各可変パラメータ値を設定した複数の実行手順のリストを生成する。
(1-2-3)テンプレート実行手順生成処理手順のフローチャート
次に、上述したテンプレート実行手順生成処理について、図26のフローチャートを用いて以下説明する。図26に示すように、培養関連プロセス最適化装置2は、開始ステップからテンプレート実行手順生成処理手順を開始し、次のステップS201で、最適化したい培養関連プロセス及び評価プロセスが、管理者により入力される。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS202で、培養関連プロセス及び評価プロセスに基づいて、探索の起点となる起点実行手順をデータベース8から取得する。
なお、ここでは、説明を簡単にするために、データベース8を探索して、探索の起点となる起点実行手順を取得する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、データベース8を探索しても、探索の起点となる起点実行手順が存在せず、データベース8から取得できない場合には、テンプレート実行手順生成部15において、新たに起点実行手順を作成して、当該起点実行手順を取得するようにしてもよい。新たな起点実行手順の作成としては、管理者自身が操作部10を介して作成することで取得してもよく、また、テンプレート実行手順生成部15によって、管理者により入力された操作名や使用装置名等の傾向から、所定の培養関連プロセス及び評価プロセスの操作を手本に、おおよその起点実行手順を自動的に作成することで取得してもよい。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS203で、起点実行手順と同じ実行手順の、過去の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在しているか否か判断する。ここで、テンプレート実行手順生成部15は、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在していると判断すると(Yes)、次のステップS204で、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS205で、ステップS204で取得した過去の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、起点実行手順の中で可変パラメータ値を設定可能な可変パラメータ項目を特定する。
なお、このような可変パラメータ項目の設定については、管理者が起点実行手順の中から項目を精査し、管理者による操作部10を介した選択命令の入力に基づいて、所定の項目を可変パラメータ項目として設定するようにしてもよい。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS206で、ステップS204で取得した過去の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、可変パラメータ項目に設定可能な探索範囲を推測し、推測した所定の探索範囲を可変パラメータ項目に設定する。テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS210で、可変パラメータ項目に探索範囲を設定したテンプレート実行手順を出力して、上述したテンプレート実行手順生成処理手順を終了する。
なお、このような可変パラメータ項目における探索範囲の設定については、管理者が可変パラメータ値の範囲を精査し、管理者による操作部10を介した入力命令の入力に基づいて、探索範囲を設定するようにしてもよい。
一方、上述したステップS203で、テンプレート実行手順生成部15は、起点実行手順と同じ実行手順の実行実績結果及び評価実績結果がデータベース8に存在していないと判断すると(No)、次のステップS207で、入力された培養関連プロセス及び評価プロセスに基づいて、起点実行手順と関連する関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得する。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS208で、複数の関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を比較し、評価実績結果に影響を与える実行パラメータ項目を、起点実行手順の中から推測する。
テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS209で、評価実績結果に影響を与える実行パラメータ項目を可変パラメータ項目とし、この可変パラメータ項目に設定可能な探索範囲を、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて推測する。そして、テンプレート実行手順生成部15は、推測した所定の探索範囲を可変パラメータ項目に設定する。テンプレート実行手順生成部15は、次のステップS210で、可変パラメータ項目に探索範囲を設定したテンプレート実行手順を出力して、上述したテンプレート実行手順生成処理手順を終了する。
(1-3)可変パラメータ値設定処理
次に、上述した可変パラメータ値設定処理手順について説明する。図27は、可変パラメータ値設定部16の構成を示すブロック図である。図27に示すように、可変パラメータ値設定部16は、可変パラメータ値解析部1601と可変パラメータ値選定部1602とを有する。可変パラメータ値解析部1601は、例えば、起点実行手順と同一又は関連した実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得し、これら実行実績結果及び評価実績結果を用いた回帰モデル等によって、探索範囲の中から評価実績結果に影響を与える可変パラメータ値を解析する。
回帰モデルとしては、例えば、テンプレート実行手順で探索範囲を設定した可変パラメータ項目に対応する箇所の、実行実績結果の実行パラメータ値を説明変数とし、評価実績結果を目的変数とした主成分分析(PCA;Principal Component Analysis)や、テンプレート実行手順で探索範囲を設定した可変パラメータ項目に対応する箇所の、実行実績結果の実行パラメータ値と評価実績結果とを説明変数とし、評価実績結を目的変数とした部分的最小二乗法(PLS;Partial Least Squares)、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等のように、線形又は非線形変換を適用する種々の回帰モデルを適用することができる。また、回帰モデルとしては、例えば、実行実績結果及び評価実績結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
機械学習モデルとしては、例えば、少なくとも1つの行列演算と少なくとも1つの線型または非線形変換を組み合わせた形で定義されるニューラルネットワーク等を適用することができる。機械学習モデルを学習させる際には、教師あり学習と教師なし学習とがある。未学習の機械学習モデルについて教師あり学習をさせる際には、実行実績結果と、その評価実績結果と、当該評価実績結果が所望する結果であるか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する評価実績結果であるか否かを示す正解率)と、を用い、実行実績結果及び評価実績結果を学習させる際に正解ラベルを付して学習させる。
未学習の機械学習モデルについて教師なし学習をさせる際には、実行実績結果と、その評価実績結果と、を用い、実行実績結果及び評価実績結果の法則性や特徴を学習させる。
可変パラメータ値設定部16は、可変パラメータ値解析部1601において、任意に選択した可変パラメータ値を、学習済みの機械学習モデルに入力すると予測結果(例えば、教師ありであれば正解率、教師なしであれば予測評価結果)を得、可変パラメータ値選定部1602において、当該予測結果を基に可変パラメータ値を選定する。
なお、このような回帰モデルについては、実行環境100から受け取った実行結果及び評価結果を、説明変数や目的変数、学習データ等として、その都度、追加してゆくことが望ましい。これにより、実行環境100で実行されている実行手順の最新のデータを反映させた回帰モデルを生成することができ、培養関連プロセスの最適化を一段と図ることができる。
可変パラメータ値選定部1602は、可変パラメータ値解析部1601の解析結果に基づいて、例えば、ベイズ最適化や、直交表、ラテン超方格法等に従って、可変パラメータ項目の探索範囲の中から所定数の可変パラメータ値を選定する。
具体的には、例えば、可変パラメータ値選定部1602は、過去の実行実績結果及び評価実績結果を基に可変パラメータ値解析部1601によって生成された回帰モデルを用いて、可変パラメータ値を選定してゆく。回帰モデルを用いて可変パラメータ値を選定してゆく方法として、回帰モデルを基に探索空間上に何らかの関数を定義し、その関数を最適化することでアルゴリズミックに選定してゆくことができる他、そのように生成された可変パラメータ値の一部又は全部を管理者の判断で置き換えるようにしてもよい。
回帰モデルを基に、探索空間上に定義される前記関数は、たとえば探索空間のどの点に可変パラメータ値を生成したら、どのくらいの評価結果の改善や情報が新たに得られるのかを定量的に定義した関数(例えば、Upper Confidence Bound, Expected Improvement, parallel Knowledge Gradient, Mutual Information等)であって、これらの関数に関して所与の手順の最適化(例えば、最大化、最小化、重み付きサンプリング等)を行うことで、所定数の可変パラメータ値のリストを得ることができる。
可変パラメータ値が複数ある場合で、それらに優先順位を割り振る必要があるとき、適当に定めた所与の基準(例えば、上記関数の値を基にソートする他、Local Penalization等の手法によって逐次的に可変パラメータ値が生成された場合は、可変パラメータ値の生成順に優先順位を昇順に割り振る等)によってアルゴリズミックに優先順位を定めることができる他、管理者の判断で任意に優先順位を割り振っても良い。
なお、可変パラメータ値設定部16は、可変パラメータ値の属性値(例えば、溶液中の物質濃度、流速、などの場合は、可変パラメータ値にlogをかけた方がより説明変数の変化に対して、目的変数の変化が一様になって、寄与が見えやすくなるなどの効果があるため、例えば、可変パラメータ値にlogをかけた値)を反映して探索範囲を変換又は制限する機能を有し、変換又は制限した探索範囲の中から可変パラメータ値を推測するようにしてもよい。例えば、ある可変パラメータ値が評価値に対して対数で変化する種類のものであることがわかっている場合、それに対応して可変パラメータ値にも対数変換を施すケース等が含まれる。
また、可変パラメータ値設定部16は、例えば、実際の生産現場で一定の品質等を担保しながら最適化を行うような場合、許容される品質等のばらつきから逆算して探索範囲の中から可変パラメータ値を絞り込んだり、一連の評価実績結果の累積値を最適化するような可変パラメータ値を探索範囲から選定したりするようにしてもよい。
例えば、上述した可変パラメータ値設定処理について、図28のフローチャートを用いて説明すると、可変パラメータ値設定部16は、開始ステップから可変パラメータ値設定処理手順を開始し、次のステップS301で、例えば、過去の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、探索範囲に関する回帰モデルを生成する。
可変パラメータ値設定部16は、次のステップS302で、探索範囲を設定した可変パラメータ項目に、回帰モデルに基づき、探索範囲内から、複数の可変パラメータ値を選択して、可変パラメータ値設定処理手順を終了する。
(1-4)実行スケジュール生成処理
(1-4-1)実行スケジュール生成処理の概要
次に、上述した実行スケジュール生成処理手順について説明する。図29は、実行スケジュール生成部19の構成を示すブロック図である。また、図30は、実行スケジュール生成処理手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、図6に示した実行手順の実行スケジュールを生成する例について以下説明する。
図29に示すように、実行スケジュール生成部19は、個別抽象構文木生成部1901と、実行手順抽象構文木生成部1902と、拡張抽象構文木生成部1903と、実行環境情報取得部1904と、半順序生成部1905と、候補スケジュール生成部1906と、実行スケジュール選択部1907とを有する。
この場合、実行スケジュール生成部19は、図30に示すように、開始ステップから実行スケジュール生成処理手順を開始し、次のサブルーチンSR41及びステップS404に移動する。実行スケジュール生成部19は、サブルーチンSR41において、個別抽象構文木生成部1901によって個別抽象構文木生成処理(後述する)を行い、図6に示すように、実行手順内の操作概要欄C1,C2,C3,C4,C5に規定した操作ごとにそれぞれ個別抽象構文木を生成する。
ここで、図31は、個別抽象構文木生成処理によって、図6に示す実行手順の「分化誘導培地Aの調整」の操作概要欄C1から生成した個別抽象構文木の構成を示す。図32は、個別抽象構文木生成処理によって、図6に示す実行手順の「分化誘導培地Aによる細胞培養」の操作概要欄C2から生成した個別抽象構文木の構成を示す。
図33は、個別抽象構文木生成処理によって、図6に示す実行手順の「分化誘導培地Bの調整」の操作概要欄C3から生成した個別抽象構文木の構成を示す。図34は、個別抽象構文木生成処理によって、図6に示す実行手順の「分化誘導培地Bによる細胞培養」の操作概要欄C4から生成した個別抽象構文木の構成を示す。
一方、ステップS404において、実行スケジュール生成部19は、実行環境情報取得部1904により、例えば、データベース8又は実行環境100から、図10Aに示すような実行環境情報Eを取得する。
実行スケジュール生成部19は、サブルーチンSR42において、実行手順抽象構文木生成部1902によって実行手順抽象構文木生成処理(後述する)を行い、上記のサブルーチンSR41で生成した複数の個別抽象構文木を統合し、図8、図9A及び図9Bに示すような実行手順抽象構文木tを生成する。なお、個別抽象構文木が1つだけのときには、当該個別抽象構文木を実行手順抽象構文木として取り扱うことになる。
実行スケジュール生成部19は、次のサブルーチンSR43において、拡張抽象構文木生成部1903によって拡張抽象構文木生成処理(後述する)を行い、図8、図9A及び図9Bに示した実行手順抽象構文木tに、図10Aに示した実行環境情報Eの内容を反映させ、図12、図13及び図14に示した拡張抽象構文木t´を生成する。
実行スケジュール生成部19は、次のステップS405において、半順序生成部1905によって、拡張抽象構文木t´から、図10Bに示すような半順序を生成する。実行スケジュール生成部19は、次のステップS406において、候補スケジュール生成部1906によって、実行手順を開始する開始時刻(例えば、2020年1月2日8時30分とする)を決め、半順序と実行環境情報Eとを基に、操作が実行される順番に沿って、各操作についてそれぞれ実行主体が実行可能な実行開始時刻と実行終了時刻とを割り付けた、複数の時間割付スケジュールの集合A´´(図15)を生成する。
また、実行スケジュール生成部19は、候補スケジュール生成部1906によって、複数の時間割付スケジュールの中から、実行手順等で規定されている制約条件を満たした候補スケジュールを選択し、候補スケジュールの集合A´´´(図16)を生成する。
実行スケジュール生成部19は、次のステップS408において、実行スケジュール選択部1907によって、例えば、『実行手順の最終操作である「マーカー遺伝子発現評価」の実行終了時間が、最も早い候補スケジュールを選択する』等、予め設定された選択条件に基づいて、複数の候補スケジュールの中から実行スケジュールを選択し、実行スケジュール生成処理手順を終了する。
(1-4-2)個別抽象構文木生成処理
次に、上述した個別抽象構文木生成処理について説明する。図35は、個別抽象構文木生成処理手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、図6に示した実行手順1の「分化誘導培地Aによる細胞培養」の操作概要欄C2に基づいて、図39に示すような個別抽象構文木を生成する例を示す。
図35に示すように、個別抽象構文木生成部1901は、開始ステップから個別抽象構文木生成処理手順を開始し、次のステップS4101において、実行手順の中から、個別抽象構文木を生成する、例えば、操作概要欄C2の操作項目26aを選択する。
個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4102において、操作概要欄C2のoutput項目26cに基づき、図36の「step1」に示すように、output項目26cの内容(ここでは「(分化途中の)ヒトiPS細胞」)を示すoutputオブジェクトノードn1を生成する。個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4103において、図36の「step2」に示すように、outputオブジェクトノードn1の子に「output」を示すoutputラベルノードn2を、エッジを介して追加する。
個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4104において、操作概要欄C2の操作項目26aに基づき、図36の「step3」に示すように、outputラベルノードn2の子に、操作項目26aの操作内容(ここでは操作内容を示す「分化誘導培地Aによる細胞培養」であり、図36では単に「細胞培養」と表している)を示す操作名ノードn3を、エッジを介して追加する。個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4105において、図36の「step4」に示すように、操作名ノードn3の子に「input」を示すinputラベルノードn4を、エッジを介して追加する。
個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4106において、操作概要欄C2のinput項目26bに基づき、図37の「step5」に示すように、input項目26bの内容(ここでは、「分化誘導培地A」と「ヒトiPS細胞」)を示すinputオブジェクトノードn5を、エッジを介して追加する。
個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4107において、操作概要欄C2の中に実行パラメータ値又は可変パラメータ値が存在するか否かを判断する。ここで、図6に示す実行手順の操作概要欄C2には、実行パラメータ項目26dに実行パラメータ値が存在(可変パラメータ項目26gも存在)しており、ステップS4107で肯定結果(Yes)が得られるため、個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4108に移る。
個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4108において、図37の「step6」に示すように、実行パラメータ項目26d(可変パラメータ項目26gが存在する場合には可変パラメータ項目26g)の内容を示すパラメータノード群n6を操作名ノードn3の子にエッジを介して追加する。
なお、パラメータノード群n6は、パラメータのノードであることを示すparameterラベルノードn60と、parameterラベルノードn60の子にエッジを介して追加され、実行パラメータ値であることを示すstaticラベルノードn62を有する。なお、可変パラメータ値が存在している場合には、parameterラベルノードn60と同様の手法によってdynamicラベルノードが追加される。
また、実行パラメータ値であることを示すstaticラベルノードn62には、それぞれ実行パラメータ値(ここでは「培養期間」)が、子としてエッジにより追加され、パラメータ名ノードn63の子に、実行パラメータ値の数値を示すパラメータ値ノードn64(ここでは「6日」)がエッジを介して追加される。なお、可変パラメータ値が存在している場合も、上記と同様に、可変パラメータ値であることを示すdynamicラベルノードに、可変パラメータ値で規定するパラメータ名を示すパラメータ名ノードが、子としてエッジにより追加され、パラメータ名ノードの子に、可変パラメータ値の数値を示すパラメータ値ノードがエッジを介して追加される。
なお、上記のステップS4107で実行パラメータ値又は可変パラメータ値が存在していないと判断したときには、個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4109に移る。
個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4109において、操作概要欄C3の制約条件項目26eに、操作に関する制約条件が存在するか否かを判断し、存在する場合には次のステップS4110に移る。なお、制約条件項目26eに規定されている制約条件が、操作に直接関する制約条件か、input項目26bに関する制約条件か、output項目26cに関する制約条件か、実行パラメータ項目26dや可変パラメータ項目26gに関する制約条件か、については、実行手順を生成する際に定められている。なお、ここで説明する操作概要欄C2の制約条件項目26eにはinput項目26bに関する制約条件(ここでは「分化誘導培地Aの調整が終わってから60分以内」)は存在するが、操作に関する制約条件(例えば「細胞培養(操作概要欄C2の操作)は10日以内」等)は存在しない。
上記のとおり、操作概要欄C2には操作に関する制約条件が存在しないため、図示を省略する。仮に操作に関する制約条件が存在する場合には、個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4110において、制約条件項目26eに基づいて、操作に関する制約条件の内容を示した制約条件ノード群n7(図示せず)を、操作名ノードn3の子に追加する。
この場合、操作に関する制約条件ノード群n7は、操作に関する制約条件の内容を示すconstraintラベルノードn70が、操作名ノードn3の子にエッジを介して追加され、constraintラベルノードn70(図示せず)の子に、制約条件が静的なもの(変動しない固定条件)である場合にはstaticラベルノードn71(図示せず)がエッジを介して追加される。また、このstaticラベルノードn71の子として、制約される対象名を示す制約名ノードn72(図示せず)がエッジを介して追加され、この制約名ノードn72の子として、制約されるパラメータ値を示すパラメータ値ノードn73(図示せず)がエッジを介して追加される。なお、制約条件が動的なものである場合はdynamicラベルノードが上述した手順と同様の手順で追加される。
一方、上記のステップS4109で操作に関する制約条件が存在していないと判断したときには、個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4111に移る。個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4111において、図38の「step7」に示すように、操作名ノードn3の子に、操作の実行主体を示すactuatorラベルノードn8を、エッジを介して追加する。
個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4112において、操作概要欄C3の制約条件項目26eに、input項目26bに関する制約条件が存在するか否かを判断し、存在する場合には次のステップS4113に移る。
個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4113において、図39の「step8」に示すように、制約条件項目26eに基づいて、input項目26bに関する制約条件の内容を示した制約条件ノード群n9を、対応するinputオブジェクトノードn5の子に追加する。
ここで、制約条件ノード群n9では、対応するinputオブジェクトノードn5の子に、outputラベルノードn90を、エッジを介して追加し、outputラベルノードn90の子に、intermediateラベルノードn91を追加する。また、制約条件ノード群n9では、intermediateラベルノードn91の子にinputラベルノードn92を、エッジを介して追加し、このinputラベルノードn92の子に、制約条件で規定する操作開始・終了の判断基準(この場合は、「分化誘導培地Aの調整が終わってから60分以内」、との操作開始の制約条件が規定されていることから、ここでは、「分化誘導培地A」が制約条件で規定する操作開始の判断基準となる)となるinput対象を示すinputオブジェクトノードn93を、エッジを介して追加する。
さらに、制約条件ノード群n9では、intermediateラベルノードn91の子にinput項目26bに関する制約条件の内容を示すconstraintラベルノードn94を、エッジを介して追加し、このconstraintラベルノードn94の子に、制約条件が静的なもの(変動しない固定条件)であることを示すstaticラベルノードn95と、制約される対象名(ここでは「時間」)を示す制約名ノードn96と、制約されるパラメータ値(ここでは「0分~60分」)を示すパラメータ値ノードn97とが、直列的にエッジを介して追加される。
なお、上記のステップS4112でinput項目26bに関する制約条件が存在していないと判断したときには、個別抽象構文木生成部1901は、次のステップS4114に移る。
このようにして、個別抽象構文木生成部1901は、例えば、実行手順の操作概要欄C2について、個別抽象構文木を生成することができる。
個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4114において、個別抽象構文木を生成していない操作項目26aが実行手順内に存在しているか否かを判断する。ここで、個別抽象構文木生成部1901は、個別抽象構文木を生成していない操作項目26aが実行手順内に存在していると判断すると(Yes)、次のステップS4115において、実行手順の中から、個別抽象構文木を生成していない他の操作概要欄C1,C3,C4,C5の操作項目26aを選択し、再び上述したステップS4102に戻り、ステップS4114で否定結果(No)が得られるまで、上述した処理を繰り返す。
一方、個別抽象構文木生成部1901は、ステップS4114において、個別抽象構文木を生成していない操作項目26aが実行手順内に存在していないと判断すると(No)、このことは、実行手順の中にある全ての操作概要欄C1,C2,C3,C4,C5の操作項目26aに関して個別抽象構文木を生成したことを表わしており、上述した個別抽象構文木生成処理手順を終了する。
(1-4-3)実行手順抽象構文木生成処理
次に、上述した個別抽象構文木を統合する実行手順抽象構文木生成処理について説明する。図40は、実行手順抽象構文木生成処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、図6に示した実行手順において、「分化誘導培地Bによる細胞培養」の操作概要欄C4に基づいて生成した、図41の個別抽象構文木と、「評価プロセス」の操作概要欄C5に基づいて生成した、図42の個別抽象構文木とを統合する例を示す。
なお、ここでは、複数の個別抽象構文木が生成され、これら個別抽象構文木を統合する場合について説明するが、テンプレート実行手順によっては、1つの操作概要欄しかなく、1つの個別抽象構文木だけが生成されることもある。この場合には、上述したように、生成された1つの個別抽象構文木を、実行手順抽象構文木として取り扱うことになる。
図40に示すように、実行手順抽象構文木生成部1902は、開始ステップから実行手順抽象構文木生成処理手順を開始し、次のステップS4201において、図31、図32、図33、及び図34(図41は図34と構成が同じである)に示す複数の個別抽象構文木の中から、所定の個別抽象構文木(ここでは、例えば、最終的に行われる「評価プロセス」の操作に関する個別抽象構文木(図42))を選択する。
実行手順抽象構文木生成部1902は、次のステップS4202において、図42に示すように、前のステップS4201で選択した「評価プロセス」の個別抽象構文木に含まれる、子を持たないinputラベルノードの集合Nlを特定する。
実行手順抽象構文木生成部1902は、次のステップS4203において、図41に示すように、図42の集合Nlに含まれるinputオブジェクトノード(ここでは、「(分化誘導後の)ヒトiPS細胞」のラベルが付されたinputオブジェクトノード)n100とラベル(例えば、ノードを識別可能なノード名)が同じoutputオブジェクトノードn200を有し、かつ、outputオブジェクトノードn200に親を持たない、「分化誘導培地Bによる細胞培養」の個別抽象構文木を特定する。
実行手順抽象構文木生成部1902は、次のステップS4204において、前のステップS4203で特定した図41に示す「分化誘導培地Bによる細胞培養」の個別抽象構文木のoutputオブジェクトノードn200を、図42に示す「マーカー遺伝子発現評価」の個別抽象構文木の集合Nlに含まれるinputオブジェクトノードn100に置き換え、図42の個別抽象構文木と、図43の個別抽象構文木とを接続して、図43に示すような中間抽象構文木を生成する。
実行手順抽象構文木生成部1902は、次のステップS4205において、中間抽象構文木に含まれる、子を持たないinputラベルノードの集合Nlの要素に接続可能な個別抽象構文木または中間抽象構文木が存在するか否かを判断する。ここで、中間抽象構文木に含まれる、子を持たないinputラベルノードの集合Nlに1つ以上接続可能な個別抽象構文木または中間抽象構文木が存在する場合、実行手順抽象構文木生成部1902は、再び上述したステップS4203に移り、中間抽象構文木に含まれる新たな集合Nlに接続可能な個別抽象構文木を特定する。このようにして、ステップS4205において、中間抽象構文木に含まれる、子を持たないinputラベルノードの集合Nlの要素に接続可能な個別抽象構文木または中間抽象構文木が存在しなくなるまで、上述した処理を繰り返す。
一方、ステップS4205において、中間抽象構文木に含まれる、子を持たないinputラベルノードの集合Nlの要素に接続可能な個別抽象構文木または中間抽象構文木が存在しない場合、実行手順抽象構文木生成部1902は、次のステップS4207において、中間抽象構文木を最終的な実行手順抽象構文木t´(図8及び図9)として出力し、上述した実行手順抽象構文木生成処理手順を終了する。
(1-4-4)拡張抽象構文木生成処理
次に、上述した拡張抽象構文木生成処理手順について説明する。図44は、拡張抽象構文木生成処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、図10Aに示した実行環境情報Eと、図8、図9A及び図9Bに示した実行手順抽象構文木tと、に基づいて拡張抽象構文木t´(図12、図13及び図14)を生成する例を示す。
図44に示すように、拡張抽象構文木生成部1903は、開始ステップから拡張抽象構文木生成処理手順を開始し、次のステップS4301において、図10Aの実行環境情報Eの中から所定の実行主体を選択する。なお、ここでは、説明を簡単にするため、実行主体として、例えば、「培地混合装置P」が選択された例について説明する。拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4302において、前のステップS4301で選択した実行主体「培地混合装置P」が実行可能な操作を、実行環境情報Eの情報から特定する。
例えば、図10Aに示す実行環境情報Eにおいて、実行主体となり得る培地混合装置Pであれば、培地Aの調整及び培地Bの調整の操作のみを実行可能であり、実行主体となり得る細胞培養装置X,Yであれば、細胞の培養の操作のみを実行可能であり、実行主体となり得るフローサイトメーターQであれば、マーカー遺伝子の発現評価の操作のみを実行可能であることを特定する。
拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4303において、前のステップS4301で選択した実行主体をラベル(例えば、実行主体を識別可能な実行主体名)とする「培地混合装置P」の実行主体名ノードnxを生成する。より具体的には、例えば、培地混合装置Pであれば、培地混合装置Pを識別可能な「培地混合装置P」をラベルとした実行主体名ノードnxであり、細胞培養装置Xであれば、細胞培養装置Xを識別可能な「細胞培養装置X」をラベルとした実行主体名ノードnxである。
拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4304において、前のステップS4301で選択した実行主体の「培地混合装置P」が実行可能な操作(すなわち、「培地の調整」)に対応する操作名ノードn3を、実行手順抽象構文木tの中から選択する。ステップS4301で、「培地の調整」が実行可能な操作である「培地混合装置P」を選択した場合には、拡張抽象構文木t´を示した図12を用いて示すが、実行手順抽象構文木tの中から「培地の調整」(すなわち、図9Aにおける「培地の調整」)の操作名ノードn3を選択する。
拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4305において、前のステップS4304で選択した「培地の調整」の操作名ノードn3に接続されたactuatorラベルノードn8の子として、「培地混合装置P」の実行主体名ノードnxを、エッジを介し追加する。
拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4306において、前のステップS4301で選択した「培地混合装置P」が実行可能な「培地の調整」の操作に関する実行時間を、実行環境情報Eから特定し、図12に示すように、この実行時間(ここでは、「30分」)を示す実行時間ノードnx1を、「培地混合装置P」の実行主体名ノードnxの子としてエッジを介して追加する。
拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4307において、前のステップS4301で選択した「培地混合装置P」が実行可能な他の操作に対応する、他の操作名ノードn3が、実行手順抽象構文木tに存在するか否かを判断する。
例えば、「培地混合装置P」を選択した場合には、「培地混合装置P」が実行可能な他の操作として「培地の調整」の操作が、図9Bにおいても存在している。よって、この場合、拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4308において、前のステップS4301で選択した「培地混合装置P」が実行可能な操作に対応する、「培地の調整」の操作名ノードn3を実行手順抽象構文木tから選択し、再びステップS4305に戻り、上述した処理を繰り返す。
一方、ステップS4307で否定結果が得られると、このことは、実行手順抽象構文木tにおいて「培地混合装置P」が実行可能な操作名ノードn3(図13及び図14に示すように、「培地の調整」の操作名ノードn3)全てに、「培地混合装置P」の実行主体名ノードnxや実行時間ノードnx1を追加したことを表わしており、このとき、拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4309に移る。
拡張抽象構文木生成部1903は、ステップS4309において、実行環境情報Eの中に選択してない他の実行主体(例えば、細胞培養装置X,YやフローサイトメーターQ)が存在しているか否かを判断し、存在していない場合には、実行環境情報Eの中の全ての実行主体を実行手順抽象構文木tの中にノードとして規定した拡張抽象構文木t´を生成したことを表しており、上述した拡張抽象構文木生成処理手順を終了する。
一方、ステップS4309において、実行環境情報Eの中に選択してない他の実行主体(例えば、細胞培養装置X,YやフローサイトメーターQ)が存在している場合、拡張抽象構文木生成部1903は、次のステップS4310において、実行環境情報Eの中から他の実行主体を選択して、再びステップS4302に戻り、ステップS4309にて否定結果が得られるまで、上述した処理を繰り返す。
(1-4-5)半順序の生成処理
次に、上述した半順序の生成処理手順について説明する。この場合、半順序生成部1905は、拡張抽象構文木から、図10Bに示すような半順序を生成する。半順序生成部1905は、拡張抽象構文木t´の操作名ノードn3のうち、子孫に操作名ノードn3を持たない「分化誘導培地Aの調整」及び「分化誘導培地Bの調整」の各操作名ノードn3を、図45の「step1」に示すように抽出する。
半順序生成部1905は、拡張抽象構文木t´の操作名ノードn3のうち、子孫に操作名ノードn3を持たない「分化誘導培地Aの調整」の操作名ノードn3のみを子としている「分化誘導培地Aによる培養」の操作名ノードn3(拡張抽象構文木t´では単に「細胞培養」と表記)を抽出し、図45の「step2」に示すように、「分化誘導培地Aによる培養」の操作名ノードn3の子として、「分化誘導培地Aの調整」の操作名ノードn3を、エッジを介して追加する。なお、拡張抽象構文木t´において、「分化誘導培地Bによる培養」の操作名ノードn3(拡張抽象構文木t´では単に「細胞培養」と表記)には、「分化誘導培地Bの調整」の操作名ノードn3だけでなく、「分化誘導培地Aによる培養」の操作名ノードn3も子としているため、「分化誘導培地Bの調整」の操作名ノードn3のみを子としている操作名ノードは存在していない。このため、「分化誘導培地Bの調整」の操作名ノードn3には他の操作名ノードn3は追加されない。
続いて、「step3」に示すように、子孫に操作名ノードn3を持たない「分化誘導培地Aによる培養」及び「分化誘導培地Bの調整」の操作名ノードn3を子としている「分化誘導培地Bによる培養」の操作名ノードn3を抽出し、当該「分化誘導培地Bによる培養」の操作名ノードn3の子として、「分化誘導培地Aによる培養」及び「分化誘導培地Bの調整」の各操作名ノードn3を、エッジを介して追加する。
半順序生成部1905は、同様にして、図45の「step4」に示すように、拡張抽象構文木t´に基づいて、「分化誘導培地Bによる培養」の操作名ノードn3を子としている「マーカー遺伝子発現評価」の操作名ノードn3を抽出し、当該「マーカー遺伝子発現評価」の操作名ノードn3の子として、「分化誘導培地Bによる培養」の操作名ノードn3を、エッジを介して追加して最終的な処理結果である半順序を得る。
(1-5)実行指示情報生成処理
次に、上述した実行指示情報生成処理手順について説明する。図46は、実行指示情報生成部20の構成を示すブロック図である。また、図47は、実行指示情報生成処理手順を示すフローチャートである。図46に示すように、実行指示情報生成部20は、操作概要欄選択部2001と、操作マニュアル生成部2002と、設定情報生成部2003とを有する。
なお、本実施形態では、実行指示情報として、後述する操作マニュアルと設定情報とを実行指示情報としているが、本発明はこれに限らず、例えば、操作マニュアルのみを実行指示情報としたり、あるいは、設定情報のみを実行指示情報としたりしてもよい。
この場合、実行指示情報生成部20は、図47に示すように、開始ステップから実行指示情報生成処理手順を開始する。操作概要欄選択部2001は、ステップS501において、例えば、図6に示す実行手順の中から所定の操作概要欄C1を選択し、次のステップS502及びステップS503に移る。
操作マニュアル生成部2002は、次のステップS502において、ステップS501で選択した操作概要欄C1に対して、予め対応付けられた、操作指示フォーマットをデータベース8から読み出す。
例えば、操作指示フォーマットは、培地混合装置P等が読み取り可能な言語によってあらかじめ定められた形式のコマンド等であり、実行手順の内容や、実行手順に基づいて生成された実行スケジュールの内容を、所定の言語によって実行主体である培地混合装置P等が識別可能なように提示される。あるいは、培地混合装置P等の実行主体を人間が操作する場合には、操作指示フォーマットは、自然言語によって予め定められた形式の文章等であり、実行手順の内容や、実行手順に基づいて生成された実行スケジュールの内容を、自然言語によって人間が理解できるように提示することができれば、いかなる形式であってもよい。
操作マニュアル生成部2002は、次のステップS504において、ステップS501で選択した操作概要欄C1の制約情報、実行パラメータ値、可変パラメータ値等の他、実行スケジュールの時刻情報等を読み出し、読み出した内容を、操作指示フォーマットに予め決められた領域にそれぞれ入力し、操作マニュアルを生成する。
操作マニュアルは、実行手順の内容や、実行手順に基づいて生成された実行スケジュールの内容を、人間が自然言語により理解できるように作成できれば、種々の形式であってよい。なお、自然言語による操作マニュアルは、実行主体である培地混合装置P等の装置に人間が介在しない場合には出力されなくてもよい。
一方、ステップS503において、設定情報生成部2003は、実行スケジュールで定めた、実行主体が操作を実行し始める実行開始日時と、当該実行主体が操作を実行し終える実行終了日時と、実行手順の制約条件と、実行パラメータ値と、可変パラメータ値とに基づいて、例えば、ステップS501において選択した操作概要欄C1の実行主体である培地混合装置Pを稼働させるプログラム等の設定情報を生成する。
実行指示情報生成部20は、ステップS505において、ステップS501で選択した操作概要欄C1及び実行スケジュールに基づいて生成した操作マニュアルと設定情報とを実行指示情報として出力する。
実行指示情報生成部20は、次のステップS506において、実行手順の中に選択していない操作概要欄が存在するか否かを判断し、存在している場合(Yes)、操作概要欄選択部2001によって、ステップS507において、ステップS501で選択されていない操作概要欄C2等を選択し、再び上記のステップS502に戻る。
このようにして、実行指示情報生成部20は、ステップS506において否定結果(No)が得られるまで、上述した処理を繰り返すことで、実行手順の中の全ての操作概要欄C1,C2,C3,C4,C5ごとに、実行指示情報を生成することができる。
(1-6)変形例
なお、上述の(1-1)から(1-5)では、例えば図6の実行手順1における操作概要欄C1~C4のように、培地調整プロセスと細胞培養プロセスとでなる培養関連プロセスを適用した場合について説明した。しかしながら、培養関連プロセスは、操作として、培地の調整に関する操作(操作概要欄C1,C3)を含む培地調整プロセスと、培地による細胞培養に関する操作(操作概要欄C2,C4)を含む細胞培養プロセスとのうち、少なくともいずれかを含んだ培養関連プロセスであってもよい。すなわち、上述の実施形態では、例えば、操作概要欄C1~C4のうち1つだけを培養関連プロセスとして適用してもよい。
一例として、実行手順に図6の操作概要欄C1だけしか存在しない場合には、培養関連プロセス最適化装置2は、培地混合装置Pに、「分化誘導培地Aの調整」(操作概要欄C1の操作)だけを実行させる、テンプレート実行手順や実行手順等を生成する。より詳細には、例えば、ユーザが操作部10を介して操作概要欄C1の操作のみを実行させるためのコマンドを入力すると、培養関連プロセス最適化装置2は、操作概要欄C1から可変パラメータ値が異なる複数の実行手順を生成し、これら複数の実行手順を培地混合装置Pへ送信するとともに、各実行手順に従って培地混合装置Pに「分化誘導培地Aの調整」を繰り返し実行させる。
ここで、操作概要欄C1の可変パラメータ値は、上述したように過去の実行実績結果に基づいて決定されてもよく、あるいは、予めユーザにより操作部10を介して設定されてもよい。これにより、複数の組み合わせの可変パラメータ値に基づいて調整された、複数の培地Aが生成される。そして、生成した各培地Aに対して所定の評価プロセスを実行して、各培地Aの評価結果を得、実行結果とその評価結果とを培養関連プロセス最適化装置2に蓄積してゆく。培養関連プロセス最適化装置2は、得られた実行手順、可変パラメータ値、実行結果及び評価結果を対応付けて、データベース8に記録する。
(1-7)作用及び効果
以上の構成において、本実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法は、細胞の培養に関する培養関連プロセスで順に行われる複数の操作がそれぞれ操作項目として規定され、かつ、操作に関する情報が規定された、探索の起点となる起点実行手順を取得する(取得ステップ)。培養関連プロセス最適化方法は、起点実行手順の中で可変パラメータ値を設定可能な1つ又は複数の可変パラメータ項目を特定し(可変パラメータ項目特定ステップ)、過去の実行実績結果とその評価実績結果とに基づいて、可変パラメータ項目特定ステップで特定した可変パラメータ項目に前記可変パラメータ値を設定して、実行手順を生成する(実行手順生成ステップ)。
また、培養関連プロセス最適化方法は、実行環境において実行主体がこの実行手順に従って実行したときの実行結果を取得するとともに(実行結果取得ステップ)、当該実行結果に対する評価結果を取得する(評価結果取得ステップ)。培養関連プロセス最適化方法は、これら実行手順、可変パラメータ値、前記実行結果及び前記評価結果を対応付けて記録する(記憶ステップ)。
これにより、培養関連プロセス最適化方法は、これら実行手順、可変パラメータ値、前記実行結果及び前記評価結果に基づいて、実行主体が実行環境100で実際に培養関連プロセスを実行し、なるべく大きな利得が得られる最適な生産条件の実行手順を探索する手がかりとして活用でき、なるべく少ない実験回数で利得が大きい最適な生産条件(培地の調整条件や、細胞の培養条件等)を求めることができる。また、培養関連プロセス最適化方法は、なるべく少ない実験回数で利得が大きい最適な生産条件を求めることができるので、生産条件の探索にかかる総コスト及び労力の低減を図るとともに、利得が大きい最適な培養関連プロセスを求めることができる。
(2)第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法
次に、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法について説明する。第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法は、テンプレート実行手順に設定する可変パラメータ項目を選定する際に、項目選定シミュレーションを実行し、項目選定シミュレーションの結果に基づいて、起点実行手順の中から可変パラメータ項目を選定する。
また、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法は、テンプレート実行手順の可変パラメータ項目に設定した探索範囲の中から可変パラメータ値を選択する際に、可変パラメータ値選定シミュレーションを実行し、可変パラメータ値選定シミュレーションの結果に基づいて、各可変パラメータ項目において探索範囲の中から可変パラメータ値を選定する。
第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法は、実行環境100で実行するための実行手順を、逐次最適化によって最適化する際、実行環境100で実行手順を実際に実行させて逐次最適化を行う前に、項目選定シミュレーションによって可変パラメータ項目の種類を事前に絞り込んだり、或いは、可変パラメータ値選定シミュレーションに基づいて得られたシミュレーション解析結果を利用して、可変パラメータ値の範囲を事前に制限することによって、実行環境100での条件検討回数を削減し得るものである。
ある実行環境100で実行される実行手順の最適化を行う際、最適化対象になり得る変数の数が多い場合や、変数の中にカテゴリカル変数(例えば、加える試薬の種類)が含まれているような場合、単純な逐次最適化を用いて探索を行うと膨大な実験数を必要とする。実行環境100で実行される培養関連プロセスの多くは、通常、1つの実行手順を実行するのに大きな時間的金銭的コストを必要とすることが多いため、培養関連プロセス最適化システム1によって生成した実行手順に従って、最適化のために膨大な回数の実行手順を実行主体に行わせるのは現実的でない。
第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法は、シミュレーション解析結果を用いることで、実行環境100で実際に実行主体が実行手順を実行して、最適化する可変パラメータ項目や可変パラメータ値の範囲を制限する。培養関連プロセス最適化方法によって絞り込みを行うことによって、実行環境100で実際に行う実行手順の回数を大幅に削減することができる。
特に、バイオプラントのように実行環境100が複雑系であってなおかつ隠れ変数が多いような系の場合、シミュレーションによる系の挙動の予測精度が悪い(+次元を揃えるのも難しい)ため、シミュレーションによる最適条件の予測値は、直接的には実世界の最適生産条件と一致しないことが多い一方、変化させる条件の変数種に対する目的関数の応答性の間の関係性は、ある程度、シミュレーションと、実世界とで共通している場合がある。このようなケースであれば、実行環境100が複雑系である場合でも、シミュレーションによって、大域的に実験条件(可変パラメータ項目や可変パラメータ値)を変動させることで、たとえば、目的関数の値を変化させる変数と、変化させない変数と、を大まかに分類したり、説明変数に対する目的変数の応答の特性を大まかに把握することができる。その情報を参考にして、目的関数の値に寄与すると予測される変数の中から、探索する範囲(可変パラメータ項目や可変パラメータ値)を設定したり、使用する回帰モデルの形状を決定することで、効率的に可変パラメータ項目や可変パラメータ値の探索を進めることができる。
ここでは、特に隠れ変数が多いバイオプラントを例として、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法について説明する。より具体的には、例えば、ある化合物Aを生産する酵素Pを発現するためのプラスミドを導入された大腸菌Xが存在するとし、この大腸菌Xを培地Mで培養し、酵素Pの発現を誘導することで、化合物(以下、目的物質とも称する)Aを生産するような培養関連プロセスを考え、以下、項目選定シミュレーション及び可変パラメータ値選定シミュレーションについて順番に説明する。
(2-1)項目選定シミュレーションを用いたテンプレート実行手順生成処理
まずは、培養関連プロセス最適化方法において、項目選定シミュレーションを用いて、目的物質Aの収量[g/L]を最大化するような、培地Mを組成する最適な数種類の原料を、可変パラメータ項目として特定したテンプレート実行手順を生成する場合について説明する。
ここで、例えば、培地Mを組成する候補原料として、数百種類存在している場合に、培養関連プロセスにおいて目的物質Aの収量を最大化できる培地Mを得るためには、これら数百種類の候補原料の中から、いずれの原料を選択すれば最適であるか、あるいは、いずれの原料を組み合わせることが最適であるか、各原料をどのような配合で混ぜ合わせることが最適であるかについて、実行環境100において実際に実行主体に実行手順を実行させてゆき、得られた実行結果及び評価結果から特定してゆくには負担が大きいものとなる。
そこで、第2実施形態では、テンプレート実行手順を生成する際に、項目選定シミュレーションを実行することで、培地Mを組成する、数百種類の候補原料の中から、目的物質Aの収量を最大化できるであろう、培地Mを組成する原料の絞り込みを事前に行い、実行環境100で実際に行う実行手順の回数を大幅に削減させるものである。
ここで、図48は、第2実施形態に係るテンプレート実行手順生成部51の構成を示すブロック図である。また、図49は、第2実施形態に係るテンプレート実行手順生成処理手順を示すフローチャートである。図48に示すように、テンプレート実行手順生成部51は、起点実行手順取得部1501と、実行実績結果・評価実績結果取得部1502と、候補項目選択部53と、項目選定シミュレーション解析部54と、可変パラメータ項目解析部55と、探索範囲設定部56と、テンプレート実行手順出力部1506と、制約条件設定部1507とを有する。
図49に示すように、培養関連プロセス最適化装置2は、開始ステップからテンプレート実行手順生成処理手順を開始し、次のステップS201で、最適化したい培養関連プロセス及び評価プロセスが、管理者により入力される。
起点実行手順取得部1501は、次のステップS202で、培養関連プロセス及び評価プロセスに基づいて、探索の起点となる起点実行手順をデータベース8から取得する。候補項目選択部53は、ステップS51において、目的物質Aの収量を最大化するという評価結果を評価プロセスで得るための、培地Mを組成する複数の候補原料(候補可変パラメータ項目とも称する)を特定し、各候補原料の項目選定用パラメータ値として所定の溶解量を任意に選択する。なお、候補可変パラメータ項目(候補原料)の数は、特に限定されず、ここでは9個や10個等のように2個以上(複数)としたが、1つであってもよい。また、候補可変パラメータ項目(候補原料)の特定は、管理者が特定してもよく、過去に行った後述する項目選定シミュレーション評価結果を基に特定するようにしてもよく、その特定の仕方については特に限定されない。
例えば、培地Mを組成するm個の候補原料を代謝経路網から特定する場合は、実行実績結果・評価実績結果取得部1502によって、培地Mに関する過去の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から取得し、この実行実績結果等で用いられている培地Mの原料の中から、例えば、m個の候補原料を特定したり、実行実績結果等で用いられている培地Mの原料を中心に代謝経路網の所定領域内から、m個の候補原料を特定してもよい。
なお、代謝経路網は、生化学において細胞の中で起きる連鎖的な化学反応の経路を示したデータであり、この場合、予めデータベース8に記憶されている。候補項目選択部53は、データベース8から代謝経路網を取得し、代謝経路網に基づいて、培地Mを組成するm個の候補原料を選択する。
項目選定シミュレーション解析部54は、ステップS52において、ステップS51で特定したm個の候補原料の溶解量を入力として項目選定シミュレーションを行い、項目選定シミュレーション評価結果として、目的物質Aの収量がどの程度となるかを推測した出力結果を得る。
なお、ここでは、一例として、培地Mを組成する原料に関して述べていることから、項目選定用パラメータ値は溶解量となるが、その他の培養関連プロセスにおいては、項目選定用パラメータ値として、例えば、濃度や混合量、温度、時間等となることは言うまでもない。
ここで、項目選定シミュレーションは、例えば、E-cell等の細胞シミュレーションなどや、分子混雑や局在といった非理想的な条件下で働く生化学反応系等を予めモデル化してあるものを用いることによって、例えば、選択したm個の原料で組成した培地Mで大腸菌Xを培養し、酵素Pの発現を誘導したと仮定したときに、目的物質Aがどの程度収量が予測されるのかを仮想的にシミュレーションできるものである。
項目選定シミュレーション解析部54は、項目選定シミュレーション評価結果として、例えば、項目選定シミュレーション開始から所定の時刻Tが経過したときを開始時刻Tとし、項目選定シミュレーション結果に基づいて、開始時刻Tから時刻(T+△t)までの間の目的物質Aの収量の積分値を、項目選定シミュレーション評価結果として算出する。
候補項目選択部53は、次のステップS53において、候補可変パラメータ項目(候補原料)の項目選定用パラメータ値(すなわち、候補原料の溶解量)を新たに選択して項目選定シミュレーションを行う処理を継続するか否かを判断する。なお、項目選定シミュレーションを継続して実行するか否かは、例えば、管理者による判断でもよく、また、項目選定シミュレーションを所定回数実行したか否かを候補項目選択部53で判断してもよく、所望の項目選定シミュレーション評価結果(ここでは、目的物質Aの収量変化が大きい原料)を得られたか否かを候補項目選択部53で判断してもよい。
候補項目選択部53は、ステップS53において、項目選定シミュレーションを継続すると判断(Yes)したとき、すなわち、管理者が継続すると判断したり、項目選定シミュレーションを所定回数実行していないと候補項目選択部53が判断したり、所望の項目選定シミュレーション評価結果群を得られていないと候補項目選択部53が判断したときには、再びステップS51に戻り、候補原料について新たな溶解量(項目選定用パラメータ値)を選択し、次のステップS52において、新たに選択した溶解量を入力として項目選定シミュレーションを行う。
このようにして、複数の異なる溶解量の候補原料を生成し、それぞれ項目選定シミュレーションを行い、溶解量を変えた候補原料の組み合わせごとに、目的物質Aの収量の積分値を、項目選定シミュレーション評価結果として算出する。
一方、ステップS53において、候補項目選択部53は、項目選定シミュレーションを継続しないと判断(No)したとき、すなわち、管理者が継続しないと判断したり、項目選定シミュレーションを所定回数実行したと候補項目選択部53が判断したり、所望の項目選定シミュレーション評価結果群を得られたと候補項目選択部53が判断したときには、次のステップS54に移る。
可変パラメータ項目解析部55は、ステップS54において、得られた項目選定シミュレーション評価結果を基に、候補原料の溶解量を変えたことにより生じる、目的物質Aの収量変化(または収量増加)から、候補原料が当該収量変化や収量増加に影響が大きい原料であるか否かを特定することができ、これを基に可変パラメータ項目となる原料を制限する。
探索範囲設定部56は、次のステップS55において、目的物質Aの収量変化(または収量増加)に影響を与えるとして、ステップS54で絞り込んだ可変パラメータ項目の原料ごとに、過去の実際の実行実績結果及び評価実績結果の傾向に基づき、それぞれ設定可能な溶解量の探索範囲を推測し、推測した所定の探索範囲を可変パラメータ項目の各原料に設定する。
テンプレート実行手順出力部1506は、ステップS211において、探索範囲設定部56で求めた探索範囲を起点実行手順に設定し、起点実行手順に基づいてテンプレート実行手順を生成し、当該テンプレート実行手順を出力し、上述したテンプレート実行手順生成処理手順を終了する。
なお、上述した実施形態においては、候補原料の種類と数(m個)を固定して、固定した組み合わせの候補原料の各溶解量をそれぞれ変えてゆき、項目選定シミュレーションを繰り返し行う場合について説明したが、例えば、組み合わせる候補原料の種類と数を適宜変えて、項目選定シミュレーションを繰り返し行うようにしてもよいことは言うまでもない。
(2-2)可変パラメータ値選定シミュレーションを用いたテンプレート実行手順生成処理
次に可変パラメータ値選定シミュレーションについて説明する。この場合、培養関連プロセス最適化方法は、テンプレート実行手順の探索範囲の中から可変パラメータ値を選択する際に、可変パラメータ値選定シミュレーションを用いて、培地Mを組成する複数(例えば、m1個)の原料について目的物質Aの収量[g/L]を最大化するような、1(L)中でのそれぞれの溶解量(mol/L)の範囲を絞り込み、これを基に可変パラメータ値を選定するものである。
ここで、図50は、第2実施形態に係る可変パラメータ値設定部61の構成を示すブロック図である。また、図51は、第2実施形態に係る可変パラメータ値設定処理手順を示すフローチャートである。図50に示すように、可変パラメータ値設定部61は、可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62と、可変パラメータ値解析部1601と、可変パラメータ値選定部1602とを有する。
図51に示すように、可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、開始ステップから可変パラメータ値設定処理手順を開始し、次のステップS70で、可変パラメータ項目に設定した各原料の探索範囲の中から、それぞれ所定の溶解量(例えば1(L)中での、原料m1の溶解量L1、原料m2の溶解量L2、原料m3の溶解量L3、…、等)を候補可変パラメータ値(以下、候補溶解量とも称する)としてランダムに選択する。
可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、次のステップS71において、ステップS70でランダムに選択した各原料の候補溶解量を入力として可変パラメータ値選定シミュレーションを行い、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果として、異なる培地の濃度を入力した時、目的物質Aの収量がどのように分布するかに関する情報を得る。
ここで、可変パラメータ値選定シミュレーションは、例えば、E-cell等の細胞シミュレーションなどを用いて分子混雑や局在といった非理想的な条件下で働く生化学反応系等を予めモデル化しておき、例えば、m個の原料を所定の溶解量(例えば、原料m1を溶解量L1、原料m2を溶解量L2、原料m3を溶解量L3、…、等)で組成した培地Mで大腸菌Xを培養し、酵素Pの発現を誘導したと仮定したときに、目的物質Aがどの程度収量を期待できるのかを仮想的にシミュレーションできるものである。
可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果として、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーション開始から所定の時刻Tが経過したときを開始時刻Tとし、項目選定シミュレーション結果に基づいて、開始時刻Tから時刻(T+△t)までの間の目的物質Aの収量の積分値を、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果として算出する。
可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、次のステップS72において、探索範囲の中から候補溶解量を新たに選択して可変パラメータ値選定シミュレーションを行う処理を継続するか否かを判断する。可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、ステップS72において、可変パラメータ値選定シミュレーションを継続すると判断(Yes)したとき、すなわち、管理者が継続すると判断したり、可変パラメータ値選定シミュレーションを所定回数実行していないと可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62が判断したり、所望の可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果群を得られていないと可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62が判断したときには、上記のステップS70に戻り、探索範囲の中から候補溶解量をランダムに選択し、再び可変パラメータ値選定シミュレーションを行う。
このようにして、m個の原料の溶解量がそれぞれ異なる、複数の組み合わせ候補を生成し、組み合わせ候補ごとに可変パラメータ値選定シミュレーションを行い、組み合わせ候補ごとに、目的物質Aの収量の積分値を可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果として算出する。
一方、ステップS72において、可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62は、可変パラメータ値選定シミュレーションを継続しないと判断(No)したとき、すなわち、管理者が継続しないと判断したり、可変パラメータ値選定シミュレーションを所定回数実行していると可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62が判断したり、所望の可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果群を得られていると可変パラメータ値選定シミュレーション解析部62が判断したときには、次のステップS73に移る。
可変パラメータ値解析部1601は、ステップS73において、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果を基に、候補可変パラメータ値と可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果との分布傾向を得、この分布傾向から各原料の探索範囲の中から溶解量の範囲を制限する。可変パラメータ値選定部1602は、次のステップS74において、可変パラメータ値と可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果との分布傾向を基に制限した可変パラメータ値の範囲から、各原料の可変パラメータ値(溶解量)を選択してゆき、可変パラメータ項目の各原料の溶解量が異なる複数の実行手順を生成し、上述した可変パラメータ値設定処理手順を終了する。
なお、可変パラメータ値選定シミュレーションの結果から可変パラメータ値の範囲を制限し、制限した範囲内から可変パラメータ値を選択する方法については特に限定されないが、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果等を解析して、最適な評価結果が得られることが期待できる可変パラメータ値を選定してゆくことが望ましい。
ここで、図52の63Aは、例えば、説明を簡単にするために2種類の可変パラメータ項目(原料)を用いて、可変パラメータ項目ごとに候補可変パラメータ値(候補溶解量)を変えて可変パラメータ値選定シミュレーションを行い、それぞれ可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果として、目的物質Aがどの程度の収量が期待できるかを推測した出力結果を得たときの、候補可変パラメータ値と可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果との分布傾向をイメージした概略図を示す。
ここでは、図52の63Aは、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーション時における、1つ目の原料a1の候補溶解量を横軸に示し、2つ目の候補原料b1の候補溶解量を縦軸に示し、それぞれ得られた可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果について色分けして示した例である。このような可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果の分布傾向から、最適と推測される可変パラメータ値の範囲を絞り込み、絞り込んだ可変パラメータ値の範囲から、実行手順で規定する各原料の可変パラメータ値(溶解量)を選択してゆく。
なお、ここでは、可変パラメータ値解析部1601は、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーションに用いた各原料の候補溶解量を説明変数とし、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果を目的変数として回帰モデルを生成し、この回帰モデルの解析結果に基づき、原料の最適な溶解量の範囲を制限して、当該制限された範囲内から可変パラメータ値を選択するようにしてもよい。
また、この際、可変パラメータ値解析部1601は、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーションに用いた各原料の候補溶解量を説明変数とすることに加えて、さらに、データベース8に記憶した過去の実行実績結果や実行結果(溶解量)も説明変数として用い、当該実行実績結果の評価実績結果や評価結果(収量)、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果を目的変数として回帰モデルを生成し、この回帰モデルの解析結果に基づき、原料の最適な溶解量の範囲を制限し、当該制限した範囲から可変パラメータ値を選択するようにしてもよい。
なお、ここでは、可変パラメータ値選定シミュレーションを実行して、目的物質Aの収量変化が大きくなる原料の可変パラメータ値(溶解量)の範囲を制限し、これを基に原料の可変パラメータ値を選定するようにしたが、本発明はこれに限らない。
他の実施形態としては、例えば、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を学習データとして用い、ニューラルネットワーク等のような機械学習モデル(回帰モデル)を学習させ、出力を入力で微分可能な学習済みの回帰モデルを得、学習済みの回帰モデルでも、可変パラメータ値選定シミュレーションと近似な解析結果が得られるようにしておき、当該回帰モデルaによって、最適な可変パラメータ値の範囲を制限するようにしてもよい。
この場合、このような学習済みの回帰モデルaをデータベース8に予め記憶しておくことが望ましい。これにより、可変パラメータ値解析部1601は、目的物質Aの収量変化が大きくなる各原料の溶解量をそれぞれ制限する際、可変パラメータ値選定シミュレーションを実行することなく、学習済みの回帰モデルaを用いて、原料の最適な溶解量の範囲を制限することがきる。
学習済みの回帰モデルaを用いる場合には、可変パラメータ値選定シミュレーションに比して演算処理の負担を低減できることもあり、可変パラメータ値選定シミュレーションよりも短時間で可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果と近似の解析結果を得られ、シミュレーションを用いて、可変パラメータ値とする溶解量の探索を効率的に行うことができる。
なお、回帰モデルaを学習させる際には、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力だけでなく、データベース8に記録されている実行実績結果及び評価実績結果等についても学習データとして用い、機械学習モデル(回帰モデルa)を学習させるようにしてもよい。
また、他の実施形態として、以下のような回帰モデルbを使用して、可変パラメータ値の範囲を制限するようにしもよい。例えば、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を学習データとして用い、可変パラメータ値(原料の溶解量)を変えることで得られる、特徴的なハイパーパラメータ値を特徴量として抽出する学習済み回帰モデルaを生成する。
次に、この学習済みの回帰モデルaから抽出した、ハイパーパラメータ値等の特徴量を参考にし、過去の実行実績結果(過去に用いた培地Mの原料)や評価実績結果(そのときの目的物質Aの収量)を説明変数とし、当該評価実績結果を目的変数とした、最終的な回帰モデルbを生成するようにしてもよい。
なお、学習済みの回帰モデルaから抽出した、ハイパーパラメータ値等の特徴量を参考にして、最終的な回帰モデルbを生成するとは、例えば、以下のようなことである。
1.ここで、回帰モデルf(x/w)は入力としてd次元のベクトルのxをとる。また、k個(1≦k の整数)の重み変数wを持つとする。
2.上記1の回帰モデルがデータに対して回帰を行うとは、k個の重み変数wのうち、i個(1≦i≦k の整数)を、回帰モデルの出力がデータに当てはまるように更新することをいう。(例えば、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を近似するような回帰モデルの重みを求めるなど。)
3.上記2で得られた回帰モデルaの特徴量を、別の回帰モデルbに移行するときのやり方(可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を近似するように学習した回帰モデルaの知見を、実際に可変パラメータ値を選択するのに用いる最終的な回帰モデルbに移植する場合など)としては大まかに下記(1)、(2)のパターンが存在する。例えば、回帰モデルaと最終的な回帰モデルbが同じ関数形でかける場合、
(1)学習後の、回帰モデルaの重み変数k個のうちの一部又は全部を、最終的な回帰モデルbの対応する重み変数に代入する。
(2)回帰モデルaのk個の重み変数の間に成り立っている、1つ以上の関係式又は不等式c(w)=0 or c(w)>0 などを抽出(又は管理者が作成)し、その関係を、最終的な回帰モデルbの重み変数wも(学習時に)同様に満たすようにする。
また、回帰モデルaと最終的な回帰モデルbとが同じ関数形とならないような場合は、回帰モデルaの入出力を近似するように、最終的な回帰モデルbを訓練するという方法によっても、回帰モデルaの特徴量を、別の回帰モデルbに移行することが可能である。
可変パラメータ値解析部1601は、このようにして得られた最終的な回帰モデルを用いて、目的物質Aの収量変化が大きくなる、原料の溶解量の範囲を制限することがきる。
ここで、上述した学習済みの回帰モデルaから抽出した特徴量を参考にして、最終的な回帰モデルbを生成するときのより簡単な例として、以下、図52の63B,63C,63D,63Eを用いて説明する。
図52の63B,63C,63Dは、例えば、可変パラメータ項目として2つの原料を規定し、テンプレート実行手順にて規定した各可変パラメータ値の探索範囲ER1をイメージし、さらに、可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果を利用して学習済みの回帰モデルaから抽出した特徴量について領域ER2,ER3,ER4としてイメージした概略図である。この場合、明示的に制約条件を記述する(未知数や自由度がない)ことで、探索範囲ER1を領域ER2、ER3、ER4のように制限することができ、これを特徴量として抽出することができる。
例えば、図52の63Eは、探索範囲は、63Dのように明示的に領域として書き下せる物に限らず、1つ以上の未知数や自由度を備えていても良いことを示す概略図である。63Dでは、絞り込んだ探索範囲が一意に特定されていたが、63Eにおいては探索範囲自体が未知数cによって特徴付けられている。実際に探索を行う際は、たとえば、この未知数cで特徴付けられた探索範囲を実際に実行する可変パラメータ値を生成するための回帰モデルbに記述することで、結果として探索範囲を制限する効果がある。
(2-3)作用及び効果
以上の構成において、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法でも、第1実施形態と同様に、培養関連プロセス最適化処理によって、培養関連プロセス及びその評価プロセスの実行手順と、実行手順内の各操作をそれぞれどのようなタイミングで各実行主体が協調して行うべきかを示したデータである実行スケジュールと、実行環境100の実行主体に対して実行スケジュールに沿ってそれぞれ対応する操作を実行することを指示する実行指示情報とを生成する。従って、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法でも、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法では、所定の評価結果が得られると推測される可変パラメータ項目となり得る候補可変パラメータ項目(候補原料)の項目選定用パラメータ値(溶解量)を選択し、選択した候補原料の項目選定用パラメータ値を入力とし、評価結果(目的物質の収量変化)を出力とする、項目選定シミュレーションを演算処理により実行し、項目選定シミュレーションの結果に基づいて、可変パラメータ項目を事前に制限するようにした(可変パラメータ項目特定ステップ)。これにより、第2実施形態では、培地Mを組成する、数百種類の候補原料の中から、目的物質Aの収量を最大化できるであろう、培地Mを組成する原料の絞り込みを事前に行うことができるので、実行環境100で実際に行う実行手順の回数を大幅に削減させることができる。
また、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法では、所定の評価結果が得られると推測される候補可変パラメータ値(候補原料)を選択し、選択した候補可変パラメータ値を入力とし、評価結果(目的物質の収量変化)を出力とする、可変パラメータ値選定シミュレーションを演算処理により実行し、可変パラメータ値選定シミュレーションの結果に基づいて、可変パラメータ値の範囲を事前に制限するようにした(可変パラメータ値特定ステップ)。これにより、第2実施形態では、培地Mを組成する原料において、目的物質Aの収量を最大化できるであろう、原料の溶解量の範囲の絞り込みを事前に行うことができるので、実行環境100で実際に行う実行手順の回数を大幅に削減させることができる。
また、可変パラメータ値特定ステップの例としては、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を学習データとして用いて、出力を入力で微分可能な学習済みの回帰モデルを生成し、この学習済みの回帰モデルに基づいて、可変パラメータ値の範囲を制限するようにしてもよい。これにより、可変パラメータ値選定シミュレーションよりも短時間で可変パラメータ値選定シミュレーション評価結果と近似の解析結果を得られ、可変パラメータ値の探索を効率的に行うことができる。
さらに、可変パラメータ値特定ステップの例としては、可変パラメータ値選定シミュレーションの入出力を学習データとして用いて、候補可変パラメータ値の変化に応じた特徴量を抽出する学習済みの回帰モデルを生成し、この学習済みの回帰モデルから抽出した特徴量を用いた最終的な回帰モデルを生成して、この最終的な回帰モデルに基づいて、前記可変パラメータ値の範囲を制限するようにしてもよい。
以上により、培養関連プロセス最適化方法では、項目選定シミュレーション及び可変パラメータ値選定シミュレーションによって、テンプレート実行手順の可変パラメータ項目や、実行手順の可変パラメータ値をある程度制限することができるので、実行環境100で実際に行わせる実行手順の回数を大幅に削減することができる。
特に、バイオプラントのように隠れ変数が多く、実行環境100が複雑系である培養関連プロセスでは、これら項目選定シミュレーション及び可変パラメータ値選定シミュレーションを用いることで、実行環境100において実行主体が実行手順により最適な生産条件を探索してゆく探索回数を減らすのに有効となる。
なお、第2実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法においては、大腸菌Xを培地Mで培養して酵素Pの発現を誘導することで化合物Aを生産する培養関連プロセスを一例に説明したが、その他、上述した実施形態に係る細胞の培養関連プロセスに適用できることは言うまでもない。
(3)関連実行手順の検索について
続いて、第3実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法について説明する。上述した実施形態においては、起点実行手順の中の操作項目26aに規定した用語を基に、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を、データベース8から検索して取得するようにしたが、本実施形態ではより広範囲で検索を実行する。例えば、起点実行手順の中の操作項目26aだけでなく、その他のinput項目26b、output項目26c、実行パラメータ項目26d及び制約条件項目26eのいずれかに規定された用語を基に、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を、データベース8から検索して取得してもよい。
また、その他、単なる用語の同一性による検索だけでなく、起点実行手順の中の、少なくとも操作項目26a、input項目26b、output項目26c、実行パラメータ項目26d及び制約条件項目26eに規定された、例えば、(i)培養手法、加熱手法、冷却手法、成形手法、圧縮手法又は選別手法等の技術的な処理・加工手法と、(ii)基礎培地、原料等の、操作の処理対象と、(iii)分化誘導培地(調整済み)、目的物質、又は成形品の、操作により得られる成果物と、(iv)定性定量評価、外観評価、成形性評価又は品質評価等の評価手法と、について、種類や性質、特定、成分、組成、品種、遺伝子、相同性、生産条件等が関連するものを予め定めておき、この予め定めた事項を基に、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果を、データベース8から検索して取得してもよい。
例えば、図2に示す「分化誘導培地 Bによる細胞培養」の起点実行手順を一例とすると、(i)起点実行手順のinput項目26bで規定した分化誘導培地Bと成分又は種類が近い培地や、分化誘導培地Bと成分が近い培地等の実行実績結果及び評価実績結果、(ii)起点実行手順の評価プロセスにおけるoutput項目26cで規定したマーカー遺伝子発現評価と結果が近い実行実績結果及び評価実績結果、(iii)起点実行手順の実行パラメータ項目26dに規定した培養手法と同じ培養手法や、近似の培養温度、培養時間、近似の評価指標等の実行実績結果及び評価実績結果、(iv)起点実行手順の制約条件項目26eで規定した時間制約や実行条件制約等と所定範囲内にある実行実績結果及び評価実績結果を、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果としてデータベース8から検索して取得してもよい。
また、起点実行手順の操作項目26a、input項目26b、output項目26c、実行パラメータ項目26d又は制約条件項目26eに規定された、培地や組成、遺伝子、菌株、培養手法、培養手順、培養温度、培養時間等と同じ用語が含まれている、実行実績結果及び評価実績結果を、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果としてデータベース8から検索して取得する他、単なる用語の同一性による検索だけでなく、これら事項と組成や、品種、遺伝子、相同性、生産条件等が関連する事項を予め定めておき、この予め定めた事項を基に、関連実行手順の実行実績結果及び評価実績結果をデータベース8から検索してもよい。
(4)第4実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法
(4-1)第4実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法の概要
次に、第4実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法について説明する。図53は、第4実施形態に係る培養関連プロセス最適化方法を実行する、培養関連プロセス最適化システム301の全体構成を示したブロック図である。図53に示すように、この培養関連プロセス最適化システム301は、培養関連プロセス最適化装置302に最適範囲探索部303が設けられている点と、培養関連プロセス最適化装置302にネットワーク4を介して特許情報管理システム101a及び情報管理システム101bが接続されている点とで、上述した第1実施形態と異なるものである。以下、説明の重複を避けるため、第1実施形態と同一構成については説明を省略し、第1実施形態との相違点に着目して説明する。
培養関連プロセス最適化装置302は、例えば、特許公報(特許庁の審査を経て権利として認められた特許出願の内容を示した公報)や、公報特許公報(権利化前の特許出願の内容を示した公報)等を記憶している、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat(登録商標))や、外国特許情報サービス(FOPISER)、Espacenet(登録商標)、PATENTSCOPE(登録商標)等の特許情報管理システム101aと、情報管理システム101bとが、ネットワーク4を介して接続されている。この場合、培養関連プロセス最適化装置302は、所定の特許公報や公開特許公報を取得するために操作部10を介して管理者(ユーザ)から所定の特許情報取得命令が与えられると、当該特許取得命令を送受信部11からネットワーク4を介して特許情報管理システム101aに送信する。
これにより、特許情報管理システム101aは、特許情報取得命令に応じた所定の特許公報又は公開特許公報をデータベースから読み出し、これを特許公報データとして、ネットワーク4を介して培養関連プロセス最適化システム301に送信する。培養関連プロセス最適化システム301は、特許情報取得命令に応じて特許情報管理システム101aから送信された特許公報データを、送受信部11を介して受信してデータベース8に記憶する。培養関連プロセス最適化装置302は、取得した特許公報データを表示部9に表示し、特許公報データに基づいた特許公報又は公開特許公報の内容を管理者に視認させる。
また、培養関連プロセス最適化装置302は、操作部10からの操作命令に応じて、ネットワーク4を介して接続された情報管理システム101bから、例えば、培地や、培地で培養される細胞、培地を調整する手法を示した培地調整プロセス、細胞を培養する手法を示した細胞培養プロセス等のような培養関連の各種技術情報を必要に応じて取得することができる。このようにして、培養関連プロセス最適化装置302は、ネットワーク4を介して特許公報データや、その他の各種技術情報を既存条件として取得することができる。
ここで、培養関連プロセス最適化装置302が既存条件として取得可能な、特許公報データ以外の技術情報としては、公知の技術情報の他、未公知の技術情報も含まれる。具体的には、技術情報として、例えば、学術論文、教科書、実験ノート、製品仕様書、ホームページに記載の技術情報、特定の人が収集・作成した技術情報等の各種技術情報を適用することができる。なお、本実施形態では、例えば、特許庁の審査を経て権利として認められた特許公報である特許公報データを、既存条件として取得した場合について主に説明する。
この場合、培養関連プロセス最適化装置302は、特許公報データを既存条件として取得すると、最適範囲探索部303によって、既存条件を回避した実行手順を生成可能な可変パラメータ値の最適範囲を探索する。具体的には、最適範囲探索部303は、起点実行手順、過去の実行実績結果及び評価実績結果等を基に規定した可変パラメータ値の探索範囲の中から、既存条件に含まれる複数の構成要件のうち、少なくとも1つ以上の構成要件を充足しない、既存条件の範囲外となる実行手順を生成可能な可変パラメータ値の最適範囲を探索する。
例えば、特許公報においては、当該特許公報における特許請求の範囲に記載されている請求項の内容によって権利範囲が規定され、請求項に記載された複数の構成要件を全て充足した技術事項については、原則として特許権侵害に該当することになる。
第4実施形態に係る培養関連プロセス最適化装置302では、最適範囲探索処理を実行することで、特許公報の請求項に規定されている複数の構成要件のうち、少なくとも1つ以上の構成要件を充足しない、特許権の権利範囲外となるテンプレート実行手順を生成可能な可変パラメータ値の最適範囲を特定し、培養関連プロセスにおいて、なるべく利得が大きく最適な評価結果が得られ、かつ、既存条件を回避した実行手順を試行錯誤によって求めるものである。特に、上記のように、既存条件として特許公報を選択した場合には、培養関連プロセスにおいて、なるべく利得が大きく最適な評価結果が得られ、かつ、特許権侵害とならない実行手順を求めることができ、一方、既存条件として、管理者が回避させたい公知・未公知の培養関連プロセスを選択した場合には、当該培養関連プロセスにおいて、なるべく利得が大きく最適な評価結果が得られ、かつ、公知・未公知の培養関連プロセスを回避した新たな実行手順を求めることができる。
(4-2)最適範囲探索処理
次に、上述した最適範囲探索処理について説明する。図54は、最適範囲探索部303の構成を示すブロック図である。また、図55は、培養関連プロセス最適化装置302で実行される最適範囲探索処理手順を示すフローチャートである。図54に示すように、最適範囲探索部303は、特許情報解析部304と、最適範囲論理式生成部305と、論理式解析部306とを有する。また、特許情報解析部304は、請求項解析部3041と、構成要件解析部3042とを有し、最適範囲論理式生成部305は、既存条件論理式生成部3051と、探索範囲論理式生成部3052と、最適範囲論理式解析部3053とを有する。
この場合、培養関連プロセス最適化装置302は、ネットワーク4を介して外部のシステム等から既存条件を取得すると、図55に示すように、開始ステップから最適範囲探索処理手順を開始し、次のステップS87に移る。ステップS87において、最適範囲探索部303は、取得した既存条件が特許公報データであるか否かを判断する。なお、取得した既存条件が特許公報データであるか否かの判断は、例えば、取得した既存条件の取得先が特許情報管理システム101aであるか否かを基に判断したり、既存条件に「特許公報」又は「公開特許公報」の文字が含まれているか否かを基に判断したりしてもよく、また、既存条件が特許公報データであるとの判断結果が、管理者によって操作部10を介して入力されることで判断するようにしてもよい。
ここで、ステップS87において肯定結果が得られると、このことは、取得した既存条件が特許情報データであることを表しており、このとき、最適範囲探索部303の特許情報解析部403は、次のステップS88において、請求項解析部3041によって、特許公報データに含まれる解析対象となる請求項(以下、既存請求項と称する)の従属関係を解析する。なお、ここでは、特許公開データの一例として、既存請求項の内容が下記のような権利化後の特許公報を適用した場合について説明する。
「『既存請求項1
骨形成タンパク質4(以下、BMP4(Bone morphogenetic protein-4)と称する)を3μM未満、
血管内皮増殖因子(以下、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)と称する)を5μM未満、
及び/又は、
幹細胞増殖因子(以下、SCF(Stem Cell Factor)と称す)を5μM以上10μM未満、
含む、間葉系幹細胞用培地。』
『既存請求項2
さらに、糖類を5μM未満
含む、上記の既存請求項1に記載の間葉系幹細胞用培地。』
『既存請求項3
さらに、物質Kを含む、
上記の既存請求項1又は2に記載の間葉系幹細胞用培地。』
『既存請求項4
前記物質Kを5μM未満
含む、上記の既存請求項3に記載の間葉系幹細胞用培地。』」
この場合、請求項解析部3041には、例えば、特許請求の範囲及び明細書等でなる特許出願書類について特許庁が予め規定している書式に関する情報や、特許請求の範囲において既存請求項の従属関係を表すときに用いる一般的な書式及び用語に関する従属関係解析情報等が予め記憶されている。請求項解析部3041は、特許公報データから特許請求の範囲の情報を抽出し、従属関係解析情報及び公知の自然言語処理技術(例えば、引用文献1:Sheremetyeva, S., Nirenburg, S., & Nirenburg, I. (1996). Generating patent claims from interactive input. In Eighth International Natural Language Generation Workshop(https://www.researchgate.net/publication/2480091_Generating_Patent_Claims_From_Interactive_Input)、引用文献2:Sheremetyeva, S. (2003, July). Natural language analysis of patent claims. In Proceedings of the ACL-2003 workshop on Patent corpus processing (pp. 66-73). (https://aclanthology.org/W03-2008.pdf))を用いて、既存請求項1~4の記載内容を解析し、既存請求項1~4のそれぞれについて、従属の記載がない独立した独立請求項であるか否か、請求項に従属する従属請求項についてはどの請求項に従属されているか等、既存請求項1~4の従属関係を特定する。そして、請求項解析部3041は、従属される側の既存請求項を親とし、従属させる既存請求項を子とする木構造及び有向非巡回グラフ(DAG:Directed acyclic graph)等、既存請求項1~4の従属関係を構造化した請求項構文木を生成する。
図56は、請求項解析部3041によって既存請求項1~4を基に生成した請求項構文木の一例を示す。この例では、特許請求の範囲の記載に基づいて、既存請求項1を親として規定し、当該既存請求項1の子として既存請求項2を規定し、これら既存請求項1,2の子として既存請求項3を規定し、当該既存請求項3の子として既存請求項4を規定している。
このように、既存請求項1~4について従属関係を解析すると、次のステップS89において、構成要件解析部3042は、既存請求項1~4ごとにそれぞれ記載内容を複数の構成要件に区分けするとともに、例えば、文中の「、(句読点)」、「及び」、「又は」等の用語を基に構成要件同士の関連性等を解析する。例えば、構成要件解析部3042は、構成要件同士の関連性を表す用語を予め定義しておき、この定義情報及び公知の自然言語処理技術(例えば、引用文献3:Shinmori, A., Okumura, M., Marukawa, Y., & Iwayama, M. (2003, July). Patent claim processing for readability-structure analysis and term explanation. In Proceedings of the ACL-2003 workshop on Patent corpus processing (pp. 56-65). (https://aclanthology.org/W03-2007.pdf))を用いて、既存請求項1~4ごとにそれぞれ記載内容を解析してゆき、個々の既存請求項1~4ごとにそれぞれ構成要件同士の関連性を木構造等で表した構成要件構文木を生成する。
ここで、図57は、構成要件解析部3042によって既存請求項1から生成した構成要件構文木の構成を示した概略図である。ここで、既存請求項1は、文中にある「、(句読点)」や「及び/又は」等の用語から、「BMP4を3μM未満含む」という構成要件と、「VEGFを5μM未満含む」という構成要件と、「SCFを5μM以上10μM未満含む」という構成要件と、「間葉系幹細胞用培地」という構成要件とに分けることができる。
また、既存請求項1の文中にある「、(句読点)」や「及び/又は」等の用語から、既存請求項1の権利範囲は、下記の4つの形態の「間葉系幹細胞用培地」となる。
(i) 「BMP4を3μM未満含む間葉系幹細胞用培地」
(ii) 「VEGFを5μM未満含む間葉系幹細胞用培地」
(iii) 「SCFを5μM以上10μM未満含む間葉系幹細胞用培地」
(iV) 「BMP4を3μM未満と、VEGFを5μM未満と、SCFを5μM以上10μM未満と、を全て含む間葉系幹細胞用培地」
なお、本明細書中において既存請求項の構成要件とは、既存請求項で規定している物質、合成法、部位、位置、方向、時間、数量、濃度、温度、圧力等のように、名詞、数値及び単位等の用語で表される要件を示す他に、さらにこれら複数の用語が繋がり1つの意味合いを持つ文章で表される要件をも示す。例えば、上記の既存請求項1を例とした場合、用語からなる構成要件とは、「間葉系幹細胞用培地」、「BMP4」、「3μM未満」、「VEGF」、「5μM未満」、「SCF」、「5μM以上」、「10μM未満」というような用語が該当する。また、1つの意味合いを持つ文章からなる構成要件とは、「BMP4を3μM未満含む」、「VEGFを5μM未満含む」、「SCFを5μM以上10μM未満含む」、「BMP4を3μM未満と、VEGFを5μM未満と、SCFを5μM以上10μM未満と、を全て含む」というような文章が該当する。
構成要件解析部3042は、既存請求項1の文中にある「、(句読点)」や「及び/又は」等の用語や、構成要件同士の関連性を表す用語の定義情報、公知の自然言語処理技術に基づき、既存請求項1の構成要件と各構成要件間の関連性とを解析し、上記のような用語単位及び文章単位で構成要件を特定してゆき、これら構成要件同士の関連性を表した構成要件構文木(図57)を生成する。
この場合、構成要件解析部3042は、起点となる精緻化(elaboration)ノードn200を設け、当該精緻化ノードn200の子としてターゲット(target)ノードn201と属性(attribute)ノードn202とを設け、これらターゲットノードn201及び属性ノードn202を精緻化ノードn200にそれぞれエッジにより繋げる。構成要件解析部3042は、既存請求項1の最後尾にある「発明の名称」となる名詞「間葉系幹細胞用培地」を抽出してターゲットノードn201に対応付け、既存請求項1を上記の4つの形態に区分けしている「及び/又は」の「/」を解析し、子で規定するいずれかの制約を満たせば足りることを示す「or」を属性ノードn202に対応付ける。
構成要件解析部3042は、既存請求項1における「及び/又は」の「及び」と「又は」との関係性について表した「or」の属性ノードn203の子として、文章単位でなる構成要件間の関係性を示した「及び/又は」のうち、子で規定するいずれかの制約を満たせば足りる「又は」を表す「or」のノードn205と、子で規定する制約全てを満たす必要がある「及び」を表す「and」のノードn206と設けて、これらを属性ノードn203にエッジを介して繋げる。
構成要件解析部3042は、いずれかの制約を満たせば足りる「又は」を表すノードn205の子として、「又は」で区分けされた構成要件の内容をそれぞれ表した複数の制約(constraint)ノードn2051,n2052,n2053を設け、これらをノードn205にエッジを介して繋げる。また、構成要件解析部3042は、各制約ノードn2051,n2052,n2053にそれぞれ子として変数(variable)ノードn207とパラメータノードn208とを設けて、これらを各制約ノードn2051,n2052,n2053にエッジを介してそれぞれ繋げる。
本実施形態に係る制約ノードn2051には、「BMP4」のラベルが変数ノードn207にエッジを介して繋げられ、パラメータノードn208に「3μM未満」というパラメータが対応付けられており、上記(i)で示した既存請求項1の「BMP4を3μM未満含む」という構成要件が規定されている。制約ノードn2052には、「VEGF」のラベルが変数ノードn207にエッジを介して繋げられ、パラメータノードn208に「5μM未満」というパラメータが対応付けられており、上記(ii)で示した既存請求項1の「VEGFを5μM未満含む」という構成要件が規定されている。
さらに、制約ノードn2053には、「SCF」のラベルが変数ノードn207にエッジを介して繋げられ、パラメータノードn208に「and」の論理積を表すノードn2081が設けられている。そして、論理積を表すノードn2081には、下限値ノードn2082と上限値ノードn2083が子として設けられ、これらがエッジによって繋げられている。下限値ノードn2082には、親の制約ノードn2053で規定した「SCF」について既存請求項1で限定されているパラメータの下限値「5μM以上」のラベルが対応付けら、上限値ノードn2083には、同じく親の制約ノードn2053で規定した「SCF」について既存請求項1で限定されているパラメータの上限値「10μM未満」のラベルが対応付けられる。
そして、「又は」を表すノードn205と同じく、属性ノードn203の子として設けられた他方の「及び」を表すノードn206では、制約全てを満たす必要がある制約ノードn2061,n2062,n2063が設けられ、これらが「及び」を表すノードn206の子としてエッジを介して繋げられる。なお、ここでは、制約ノードn2061,n2062,n2063は、上述した「又は」を表すノードn205で規定した制約ノードn2051,n2052,n2053と同じ内容であるため、その説明は省略する。
また、構成要件解析部3042は、既存請求項1と同様に残りの既存請求項2~4についても構成要件構文木を生成する。以上のように、構成要件解析部3042は、既存請求項1~4ごとに、各既存請求項1~4内にそれぞれ規定されている複数の構成要件の互いの関係性を解析し、既存請求項1~4の構成要件の互いの関連性を表した構成要件構文木を生成する。
なお、このような各既存請求項1~4について構成要件構文木を生成する処理には、例えば、公知の技術である「Patent claim processing for readability: Structure analysis and term explanation (https://www.researchgate.net/publication/228569678_Patent_claim_processing_for_readability_Structure_analysis_and_term_explanation)を適用することができる。
なお、本実施形態では、既存請求項1~4ごとにそれぞれ構成要件構文木を別個に生成するようにし、そのうち一例として既存請求項1の構成要件構文木について図57を用いて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、既存請求項1に従属する既存請求項2等の構成要件構文木を、既存請求項1の構成要件構文木に統合し、既存請求項1~4を1つの構成要件構文木で表すようにしてもよい。
次にステップS90において、既存条件論理式生成部3051は、各既存請求項1~4について生成した構成要件構文木に基づいて、各既存請求項1~4の内容を表した既存条件論理式をそれぞれ生成する。すなわち、既存条件論理式生成部3051は、論理学において論理的表現を表すのに用いられている論理記号(例えば、(∀、∃、¬、∧、∨、→、←、及び、⇔等)を用いて構成要件構文木を表した既存条件論理式を生成する。なお、以下、説明を簡単にするために、既存請求項1,2に着目して説明し、既存請求項3,4についての説明は省略する。既存請求項1の既存条件論理式は下記の式(1)となり、既存請求項2の既存条件論理式は下記の式(2)となる(∨は論理和(or)、∧は論理積(and))。
(BMP4 < 3μM )∨(VEGF < 5μM)∨(5μM ≦ SCF < 10μM)∨((BMP4 < 3μM )∧(VEGF < 5μM)∧(5μM ≦ SCF < 10μM)) …(1)
糖類 < 5μM …(2)
次に、構成要件解析部3042は、ステップS91に移り、ステップS90で生成した既存条件論理式を解析し、既存条件論理式に含まれる用語を、下位概念の関係にある用語(ここではオントロジーとも称する)に変換した既存条件論理式を生成する。例えば、既存請求項2の既存条件論理式である式(2)では、「糖類」と下位概念の関係にある「グルコース」及び「トレハロース」に、当該「糖類」を変換した、下記の式(3)に示すような新たな既存条件論理式を生成する。
(グルコース < 5μM) ∨ (トレハロース < 5μM) …(3)
このような下位概念の関係にある用語への変換は、上位・下位概念の関係を予め定義した定義情報を用いて「糖類」の下位概念の関係にある物質を特定したり、或いは、解析を行っている特許公報データに含まれる明細書の記載内容から「糖類」の下位概念として規定している物質を検索して特定したりしてもよい。また、ここでは、既存請求項に規定された用語を下位概念の関係にある用語へ変換した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、既存請求項に規定された用語を上位概念の関係にある用語へ変換するようにしてもよい。
これ加えて、ステップS91において、既存条件論理式解析部3053は、既存請求項1~4の各既存条件論理式を解析し、ステップS88で解析した既存請求項1~4の従属関係に基づいて、既存請求項1~4のそれぞれについて生成した既存条件論理式に従属関係を関連付ける。図58は、既存請求項1~4の既存条件論理式に従属関係を関連付けて構造化した構造化データの一例を示すものである。
この場合、既存条件論理式解析部3053は、例えば、既存請求項2が既存請求項1に従属していることから(既存請求項1∧既存請求項2(図58では「1∧2」と表記))、既存請求項1の従属項である既存請求項2の既存条件論理式を、従属させる既存請求項1の既存条件論理式に隣接して配置させる。また、既存条件論理式解析部3053は、例えば、既存請求項1の従属項である既存請求項2と、既存請求項1と、にそれぞれ既存請求項3が従属していることから(既存請求項1∧既存請求項2∧既存請求項3(図58では「1∧2∧3」と表記)、既存請求項1∧既存請求項3(図58では「1∧3」と表記))、既存請求項1又は2の従属項である既存請求項3についても、既存請求項3の既存条件論理式を、従属させる既存請求項1と既存請求項2とにそれぞれ従属させる既存請求項1,2の既存条件論理式に隣接して配置させる。
このようにして、既存条件論理式解析部3053は、既存請求項1~4について、行ごとにそれぞれ既存請求項の従属パターンを示した構造化データを生成する。既存条件論理式解析部3053は、構造化データに基づいて、下記の式(4)で示すように、既存請求項1~4の個別の既存条件論理式に従属関係を関連付けた既存条件論理式(以下、単に論理式Pと称する)を生成する。
論理式P
= 既存請求項1の既存条件論理式∨
(既存請求項1の既存条件論理式Λ既存請求項2の既存条件論理式)∨
(既存請求項1の既存条件論理式Λ既存請求項2の既存条件論理式Λ既存請求項3の既存条件論理式)∨
(既存請求項1の既存条件論理式Λ既存請求項2の既存条件論理式Λ既存請求項3の既存条件論理式Λ既存請求項4の既存条件論理式)∨
(既存請求項1の既存条件論理式Λ既存請求項3の既存条件論理式)∨
(既存請求項1の既存条件論理式Λ既存請求項3の既存条件論理式Λ既存請求項4の既存条件論理式) …(4)
ここで、既存請求項1~4を全て考慮した論理式Pについては複雑であることから、説明を簡単にするために、以下、既存請求項1及び既存請求項2により得られる論理式P´を適用した例で説明する。この場合、論理式P´は次の式(5)で表される。
論理式P´
= 既存請求項1∨(既存請求項1∧既存請求項2)
=(BMP4 < 3μM) ∨ (VEGF < 5μM) ∨ (5μM ≦ SCF < 10μM) ∨ ((BMP4 < 3μM )∧ (VEGF < 5μM) ∧ (5μM ≦ SCF < 10μM)) ∨
((BMP4 < 3μM) ∨ (VEGF < 5μM) ∨ (5μM ≦ SCF < 10μM) ∨ ((BMP4 < 3μM) ∧ (VEGF < 5μM) ∧ (5μM ≦ SCF < 10μM))) ∧ ((グルコース < 5μM) ∨ (トレハロース < 5μM)) …(5)
次にステップS95に移り、探索範囲論理式生成部3052は、演算処理部7のテンプレート実行手順生成部15で生成した、最適化の対象とする可変パラメータ値の探索範囲を取得し、論理学において論理的表現を表すのに用いられている論理記号を用いて当該探索範囲を表した探索範囲論理式Qを生成する。
なお、上述したステップS87で否定結果が得られると、このことは、取得した既存条件が特許情報データでないこと、すなわち、特許公報又は公開特許公報のいずれでもなく、書物や論文等の技術情報の中から既存条件を取得したことを表しており、このとき、最適範囲探索部303は、次のステップS93に移る。ステップS93において、既存条件論理式生成部3051は、取得した技術情報を解析して技術情報の中から解析対象の既存条件を抽出し、当該既存条件を表した既存条件論理式を生成して、次のステップS95に移る。なお、この際、既存条件を表した既存条件論理式の生成手法については、特に限定されるものではなく、例えば、管理者が既存条件論理式を生成したり、或いは、公知の自然言語処理技術を用いて技術情報の中から自動的に既存条件を抽出して既存条件論理式を生成するようにしもてよい。
なお、ここでは、既存請求項の内容が下記のような権利化後の特許公報を取得した場合(ステップS87において肯定結果が得られた場合)について以下主に説明する。また、最適化の対象とする可変パラメータ値の探索範囲として、BMP4が0μM以上10μM未満であって、かつ、SCFが0μM以上15μM以下であって、かつ、グルコースが10μM以上15μM以下であることが規定されている場合を一例に以下説明する。
この場合、探索範囲論理式生成部3052は、上記の可変パラメータ値の探索範囲に基づいて、探索範囲論理式Qとして下記の式(6)を生成する。
探索範囲論理式Q
= (0μM ≦ BMP4 ≦ 10μM) ∧ (0μM ≦ SCF ≦ 15μM) ∧ (10μM ≦ グルコース ≦ 15μM) …(6)
次にステップS96に移り、最適範囲論理式解析部3053は、ステップS91で得られた論理式P´と、ステップS95で得られた探索範囲論理式Qと、に基づいて、可変パラメータ値の探索範囲内において既存条件の範囲外となる最適範囲を示した最適範囲論理式Rを生成する。本実施形態では、上記の論理式P´(説明を簡単にするため論理式Pに変えてここでは論理式P´を用いる)と探索範囲論理式Qとに基づいて、否定を表す論理記号「¬」と、論理積を表す論理記号「∧」から下記の式(7)が求められる。
最適範囲論理式R
= ¬ P´ ∧ Q
= ¬((BMP4 < 3μM) ∨ (VEGF < 5μM) ∨ (5μM ≦ SCF < 10μM) ∨ ((BMP4 < 3μM) ∧ (VEGF < 5μM) ∧ (5μM ≦ SCF < 10μM)) ∨ (((BMP4 < 3μM) ∨ (VEGF < 5μM) ∨ (5μM ≦ SCF < 10μM) ∨ ((BMP4 < 3μM) ∧ (VEGF < 5μM) ∧ (5μM ≦ SCF < 10μM))) ∧ ((グルコース < 5μM) ∨ (トレハロース < 5μM)))) ∧
((0μM ≦ BMP4 ≦ 10) ∧ (0μM ≦ SCF ≦ 15μM) ∧ (10μM ≦ グルコース ≦ 15μM)) …(7)
次にステップS97において、最適範囲論理式解析部3053は、ステップS96で得られた論理式Rを、例えば、選言標準形の最適範囲論理式に変換する。選言標準形の最適範囲論理式は、R1 ∨ R2 ∨ … ∨ Rn (Ri = R'1 ∧ … ∧ R'm)で表され、Ri (1 ≦ i ≦ n) が真となるパラメータの組み合わせは権利範囲に含まれず、可変パラメータ値の探索範囲内のパラメータであるかどうか判定する論理式である。
ここで、¬ P´は下記の式(8)のように表すことができる。
¬ P´= (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt) ∨ (¬Ps ∧ ¬Pp ∧ ¬Pglt ∧ ¬Pglc ∧ ¬Pt)
但し、Ps: BMP4 < 3μM
Pp: VEGF < 5μM
Pglt: 5μM ≦ SCF < 10μM
Pglc: グルコース < 5μM
Pt: トレハロース < 5μM …(8)
探索範囲論理式Qは下記の式(9)のように表すことができる。
Q = Qs ∧ Qglt ∧ Qglc
但し、Qs: 0μM ≦ BMP4 ≦ 10μM
Qglt: 0μM ≦ SCF ≦ 15μM
Qglc: 3μM ≦ グルコース ≦ 15μM …(9)
上記の式(8)及び式(9)から式(10)を求めることができる。
¬ P´ ∧ Q
=((¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt) ∨ (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt ∧ ¬ Pglc ∧ ¬ Pt)) ∧
(Qs ∧ Qglt ∧ Qglc)
= R1 ∨ R2
但し、R1 = (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt ∧ Qs ∧ Qglt ∧ Qglc)
R2 = (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt ∧ ¬ Pglc ∧ ¬ Pt ∧ Qs ∧ Qglt ∧ Qglc)
…(10)
このようにして、ステップS97において、選言標準形の最適範囲論理式(R1 ∨ … ∨ Rn、本実施形態ではR1 ∨ R2)に変換すると、次のステップS98に移り、論理式解析部306は、得られた選言標準形の最適範囲論理式に基づいて、テンプレート実行手順で定義する可変パラメータ値の範囲を抽出し、最適範囲探索処理手順を終了する。
この場合、ステップS98において、論理式解析部306は、選言標準形の最適範囲論理式の中で、可変パラメータ値の探索範囲外となるパラメータに関する条件(この例では、例えば、Pp:VEGF < 5μM)は真に置き換える。また、論理式解析部306は、選言標準形の最適範囲論理式のR1及びR2のそれぞれにおいて、パラメータに関する範囲の条件が共通している共通部分を特定し、特定した共通部分を除いた最適範囲論理式を生成する。下記の式(11)は、選言標準形の最適範囲論理式のR1で共通部分を除いた最適範囲論理式を示し、下記の式(12)は、選言標準形の最適範囲論理式のR2で共通部分を除いた最適範囲論理式を示す。
R1 = (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt ∧ Qs ∧ Qglt ∧ Qglc)
→ (3μM ≦ BMP4 ≦ 10μM) ∧ ((0μM ≦ SCF ≦ 5μM) ∨ (10μM ≦ SCF ≦ 15μM)) ∧ (3μM ≦ グルコース ≦ 15μM) …(11)
R2 = (¬ Ps ∧ ¬ Pp ∧ ¬ Pglt ∧ ¬ Pglc ∧ ¬ Pt ∧ Qs ∧ Qglt ∧ Qglc)
→ (3μM ≦ BMP4 ≦ 10μM) ∧ ((0μM ≦ SCF ≦ 5μM) ∨ (10μM ≦ SCF ≦ 15μM)) ∧ (5μM ≦ グルコース ≦ 15μM) …(12)
論理式解析部306は、選言標準形の最適範囲論理式のR1で可変パラメータ値の探索範囲外となるパラメータに関する条件を真に置き換え、共通部分を除いた上記の式(11)を基に、下記の式(13)で示すような3つのパラメータの範囲を得る。
3μM ≦ BMP4 ≦ 10μM、
(0μM ≦ SCF ≦ 5μM) ∨ (10μM ≦ SCF ≦ 15μM)、
3μM ≦ グルコース ≦ 15μM …(13)
また、論理式解析部306は、選言標準形の最適範囲論理式のR2で可変パラメータ値の探索範囲外となるパラメータに関する条件を真に置き換え、共通部分を除いた上記の式(12)を基に、下記の式(14)で示すような3つのパラメータの範囲を得る。
3μM ≦ BMP4 ≦ 10μM
(0μM ≦ SCF ≦ 5μM) ∨ (10μM ≦ SCF ≦ 15μM)
5μM ≦ グルコース ≦ 15μM …(14)
論理式解析部306は、選言標準形の最適範囲論理式のR1から求めた上記の式(13)の条件と、選言標準形の最適範囲論理式のR2から求めた上記の式(14)の条件とを比較し、上記の式(13)の条件と上記の式(14)の条件とで包含しているパラメータの範囲を、テンプレート実行手順で定義する最終的な可変パラメータ値の範囲を抽出する。
本実施形態では、上記の式(13)の条件が上記の式(14)の条件を包含していることから、上記の式(13)の条件が示すパラメータの範囲を、テンプレート実行手順で定義する最終的な可変パラメータ値の範囲として抽出する。
培養関連プロセス最適化装置302は、最適範囲探索部303で求めた可変パラメータ値の範囲をテンプレート実行手順生成部15が受け取り、テンプレート実行手順生成部15によって、実行テンプレートの可変パラメータ項目に、最適範囲探索部303で求めた可変パラメータ値の範囲を新たな探索範囲として設定する。具体的には、図5に示したテンプレート実行手順では、例えば、操作概要欄C1における可変パラメータ項目26gに、「BMP4濃度」の可変パラメータ値として「3μM ≦ BMP4 濃度≦ 10μM」を規定する等、最適範囲探索部303で求めた可変パラメータ値の範囲を新たな探索範囲として可変パラメータ項目26gに設定する。
これにより、可変パラメータ値設定部16は、上述した実施形態と同様に、過去の実行実績結果及び評価実績結果に基づいて、設定した探索範囲の中でどのような可変パラメータ値によって実行環境100で実行手順を実行させるかを決定し、探索範囲の中から選択した、複数個の可変パラメータ値を実行手順生成部17に送出することができる。
また、実行手順生成部17は、上述した実施形態と同様に、可変パラメータ値設定部16で選択された可変パラメータ値を、テンプレート実行手順の可変パラメータ項目26gにそれぞれ書き込んで、可変パラメータ値が異なる複数の実行手順を生成することができる。このようにして、実行手順生成部17は、可変パラメータ値が異なる複数の実行手順のリストを生成することができる。
(4-3)作用及び効果
以上の構成において、培養関連プロセス最適化装置302は、培養関連プロセスに関する既存条件を、既存条件取得部として送受信部11を介して取得する(既存条件取得ステップ)。そして、培養関連プロセス最適化装置302は、予め規定した可変パラメータ値の探索範囲内において、当該既存条件に含まれる複数の構成要件のうち、少なくとも1つ以上の構成要件を充足しない、既存条件の範囲外の実行手順を生成可能な前記可変パラメータ値の最適範囲を、最適範囲探索部303で探索する(最適範囲探索ステップ)。
このようして、培養関連プロセス最適化装置302は、実行手順生成ステップにおいて、最適範囲探索ステップで探索した可変パラメータ値の最適範囲の中から、可変パラメータ値を設定して実行手順を生成するようにした。
これにより、培養関連プロセス最適化装置302では、上述した実施形態と同様の効果を奏することに加えて、既存条件を回避した、従来にない新たな条件の培養プロセスを求めることができる。
なお、上述した実施形態においては、標準形の最適範囲論理式として、連言節(and)の選言(or)の形式で最適範囲論理式を生成する選言標準形の最適範囲論理式を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、選言節の連言の形式で最適範囲論理式を生成する連言標準形の最適範囲論理式等、その他種々の標準形の最適範囲論理式を適用してもよい。また、論理式解析部による最適範囲論理式の解析結果として、標準形の最適範囲論理式を得るようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、¬ P´ ∧ Qを充足する条件を導き、可変パラメータ値の探索範囲内において既存条件の範囲外となる最適範囲を示した最適範囲論理式を得ることができればよく、その他種々の解法を適用してもよい。
また、上述した実施形態においては、既存条件取得部として、ネットワーク4に接続した送受信部11を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、外部機器と接続可能なインターフェースを既存条件取得部として適用し、ネットワーク4を介さずに外部機器から既存条件を直接取得するようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、既存条件の一例として、権利化後の1件の特許公報、又は、権利化前の1件の公開特許公報を特許公報データとして適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。既存条件としては、例えば、権利化後の複数の特許公報を統合した特許公報データや、権利化前の複数の公開特許公報を統合した特許公開データ、権利化後の1件以上の特許公報と権利化前の1件以上の公開特許公報とを統合した特許公報データを適用してもよい。
なお、上記のように複数の特許公報や公開特許公報を特許公報データとして用いる場合には、特許公報及び/又は公開特許公報の既存請求項の範囲を表す論理式P1,P2,…,PNをそれぞれ生成し、これら論理式の否定と、探索範囲論理式Qとの論理積となる下記の式(15)を得ることで、上述した実施形態と同様の処理を実行することができ、可変パラメータ値の最適範囲を求めることができる。
(¬ P1 ∧ ¬ P2 ∧ … ∧ ¬ PN) ∧ Q …(15)
なお、その他の実施形態として、上述した第2実施形態の構成と第4実施形態の構成とを組み合わせた培地関連プロセス最適化システムや、上述した第3実施形態の構成と第4実施形態の構成とを組み合わせた培地関連プロセス最適化システムとしてもよい。