JP7385865B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法に関する。
リチウムイオン二次電池は高電圧・高容量であるため、高出力・小型化が求められるノートパソコン、携帯電話用の二次電池として、またハイブリット車や電気自動車などの車載用の電池として普及している。
リチウムイオン二次電池は例えば、正極、負極および電解質等からなり、正極の正極活物質(正極材料)としてはLiCoOやLiNiOなどが用いられている。中でもLiNiOはエネルギー密度が高く、Coに比べ安価であるなどの理由から、有望な材料である。
ただし、リチウムイオン二次電池に用いられている正極活物質は一般的に不安定である。そのため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、すなわち繰り返し充放電を行った際の電池の容量の維持率が十分には高くはなく、サイクル特性を高めることが求められていた。
リチウムイオン二次電池について、繰り返し充放電を行った場合に、電池の容量が低下する原因については、従来から各種検討がなされてきた。
非特許文献1には、ニッケルリッチなLi[NiCoMn1-x-y]Oの容量低下メカニズムについての検討結果が開示されている。
非特許文献1によれば、容量維持率が低いニッケルリッチなLi[NiCoMn1-x-y]Oでは、繰り返し充放電を行う際にc軸方向に沿って急激な異方性収縮、膨張が生じ、それにより該正極材料の粒子表面に伝播する内部微小亀裂が生成されているとされている。そして、正極材料の粒子に内部微小亀裂が生成されると、該粒子内部へ電解質が浸透し、粒子の内部露出表面が劣化することでサイクル特性が低下するとされている。
Hoon-Hee Ryu et al., Chemistry of Materials, 2018, Vol.30, Issue 3, PP.1155-1163
正極活物質の安定性を高め、該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上する方法として、正極活物質の元素を他の元素により置換することが考えられる。
しかしながら、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の評価には数か月を要し、複数の候補の元素について、置換した正極活物質の合成、評価を実験的に繰り返し行うと、開発に膨大な時間・コストがかかる。
このため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素について、効率的に探索できるリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法が求められていた。
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素について、効率的に探索できるリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化を求める算出工程と、
前記算出工程で得られた、前記層間距離の変化から、LASSO回帰を用いて、前記層間距離の変化を算出するモデルに用いる記述子を抽出する記述子抽出工程と、
前記層間距離の変化を、前記記述子抽出工程で抽出した前記記述子を用いて表したモデルを作成するモデル作成工程と、
前記モデル作成工程で作成した前記モデルを用い、ベイズ最適化により、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索する探索工程と、を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法を提供する。
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素について、効率的に探索できるリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法を提供することができる。
図1は、実施例1において置換前の正極活物質として用いたLiNiOの結晶構造の説明図である。
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法は以下の工程を有することができる。
層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化を求める算出工程。
算出工程で得られた、層間距離の変化から、LASSO回帰を用いて、層間距離の変化を算出するモデルに用いる記述子を抽出する記述子抽出工程。
層間距離の変化を、記述子抽出工程で抽出した記述子を用いて表したモデルを作成するモデル作成工程。
モデル作成工程で作成したモデルを用い、ベイズ最適化により、リチウムイオン二次電池用正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索する探索工程。
本発明の発明者らは、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素について、効率的に探索できるリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法に関して鋭意検討を行った。
既述の非特許文献1によれば、層状のリチウムイオン二次電池用正極活物質において、繰り返し充放電を行った際、c軸方向に沿って急激な異方性収縮、膨張が生じ、それにより該正極材料の粒子表面に伝播する内部微小亀裂が生成されているとされている。そして、正極材料の粒子に内部微小亀裂が生成されると、該粒子内部へ電解質が浸透し、粒子の内部露出表面が劣化することでサイクル特性が低下するとされている。
このため、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」と記載する場合もある)においては、充放電の際、すなわち層間にリチウムを挿入、脱離させた際のc軸の格子定数の変化、すなわち層間距離の変化を抑制できる、置換元素を探索、選択することが求められる。
しかしながら、実験的に置換元素を探索、評価するためには、膨大な時間と、コストを要する。そこで、効率的に正極活物質の置換元素を探索する方法として、本発明の発明者らは、第一原理計算を用いる方法に着目した。
ただし、置換元素の候補は数多くあり、2種以上の置換元素を組み合わせることも考えられる。このため、候補となる置換元素やその組み合わせの全てについて第一原理計算を実施すると、膨大な量の計算となる。
そこで、本発明の発明者らは、計算量を抑制し、効率的に置換元素を探索できる置換元素の探索方法について更なる検討を行った。その結果、LASSO回帰を用いることでリチウムを挿入、脱離させた際の正極活物質の層間距離の変化を算出するモデルに用いる記述子を効率的に抽出でき、さらにベイズ最適化を用いることで、作成したモデルを用いて効率的に置換元素を探索できることを見出し、本発明を完成させた。
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法について、工程毎に説明する。
(算出工程)
算出工程では、層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有する正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化を求めることができる。なお、以下の説明の中で、「層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化」のことを単に「層間距離の変化」と記載する場合もある。
算出工程で層間距離算出用元素により元素の一部を置換する層状構造を有する正極活物質は特に限定されず、サイクル特性を高めることが求められている各種正極活物質を用いることができる。正極活物質としては例えば、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiNi1-tCo(0<t<1)のいずれかとすることができる。特にLiNiOについては、LiCoO等と比較してサイクル特性が劣っており、サイクル特性を高めることが求められていることから、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法において、正極活物質としてはLiNiOを用いることが好ましい。
層間距離算出用元素により置換する正極活物質中の元素は特に限定されず、任意に選択することができる。正極活物質として、例えば上述のようにLiNiOや、LiCoO、LiNi1-tCoを選択した場合には、遷移金属であるNiやCoを置換する対象の元素とすることができる。置換の対象とする元素の置換の程度等についても特に限定されず、予め定めた任意の置換割合とすることができる。
層間距離算出用元素としては特に限定されず、任意の元素を選択できる。
後述する記述子抽出工程や、モデル作成工程において、算出工程での計算結果、すなわち層間距離の変化についての計算結果を用いて、記述子の抽出や、モデルの作成を行っている。このため、記述子抽出工程で記述子を抽出できるように、またモデル作成工程でモデルを作成できるように、算出工程で十分な数のデータを取得しておくことが好ましい。従って、算出工程では、十分な数のデータが得られるように、複数の異なる、十分な数(パターン)の層間距離算出用元素で、正極活物質の元素の一部を置換した場合の層間距離の変化を算出しておくことが好ましい。
後述する探索工程において、同時に2個以上の異なる元素により、正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索する場合には、算出工程でも同様に、同時に2個以上の異なる層間距離算出用元素により、正極活物質の元素の一部を置換し、層間距離の変化を算出することが好ましい。この場合も、上述のように記述子抽出工程等で記述子の抽出等ができるように、十分な数のデータを取得しておくことが好ましい。従って、この場合、算出工程では、複数の異なる、十分な数の層間距離算出用元素の組み合わせで、正極活物質の元素の一部を置換した場合の層間距離の変化を算出しておくことが好ましい。
なお、同時に2個以上の異なる元素により、正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索することは、その組み合わせも多くなることから、従来は特に困難であった。しかしながら、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法によれば、2個以上の異なる元素を同時に含む置換元素の探索も、計算量を抑制しつつ、効率的に実施でき、特に高い効果を発揮できる。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法においては、同時に2個以上の異なる元素により、正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索することが好ましい。
算出工程では、層間距離算出用元素により元素の一部を置換した置換後の正極活物質と、係る置換後の正極活物質のリチウム(リチウムイオン)の少なくとも一部を脱離させた正極活物質とについて、例えば第一原理計算により層間の距離を計算することができる。得られた計算結果から、層間距離算出用元素により元素の一部を置換した正極活物質について、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の層間距離の変化を算出できる。
第一原理計算の際にリチウムを挿入または脱離させる程度は特に限定されず、予め定めた任意の挿入量、脱離量とすることができる。ただし、層間距離の変化が十分に大きくなるようにリチウムを挿入または脱離させることが好ましく、リチウムを脱離させる際には、例えばリチウムを75%以上脱離させることが好ましい。なお、計算上リチウムは全て脱離させることもできることから、リチウムの脱離量は100%以下であることが好ましく、99%以下であることがより好ましい。
ここでいう層間とは、リチウムを挿入した際にリチウムが配置される部分を意味する。
第一原理計算の詳細は特に限定されるものではない。
密度汎関数理論に基づく第一原理計算においては、一般化勾配近似による汎関数の一種であるPBE(Perdew-Burke-Ernzehof)汎関数が広く用いられている。これは、PBE汎関数は多くの場合、結晶構造を精度よく計算できるためである。
ところが、例えば層状構造を有する正極活物質について、リチウムを脱離させた状態では層状構造の周辺の電荷はほぼ0になっており、主にファンデルワールス力が層間に働いている。そして、PBE汎関数においてはファンデルワールス力を正しく取り入れられていない。
このため、算出工程で第一原理計算を行う際、層状構造を有する正極活物質に関する第一原理計算では従来は用いられていなかった、一般化密度勾配近似によるエネルギー汎関数にファンデルワールス力を補正項として加えたファンデルワールス密度汎関数を用いることが好ましい。これはファンデルワールス密度汎関数を用いることで、層状構造を有する正極活物質について、リチウムを挿入、脱離させた際の層間距離を特に正確に評価できるからである。
(記述子抽出工程)
記述子抽出工程では、算出工程で得られた、層間距離の変化から、LASSO回帰を用いて、層間距離の変化を算出するモデルに用いる記述子(パラメータ)を抽出できる。
後述するモデル作成工程において、層間距離の変化を記述子を用いて表したモデルを作成する。しかしながら、正極活物質にリチウムを挿入または脱離した際の層間距離の変化を決める物理法則は見出されていないため、モデルに必要となる記述子は明らかではない。ただし、記述子の種類が多いとモデルが複雑になり、計算量が多くなる等の問題がある。また、適切な記述子を選択できていないと、作成したモデルの精度が低くなり、探索工程において、置換元素を精度よく探索できない恐れもある。
そこで、記述子抽出工程では、LASSO回帰を用い、層間距離の変化に関連する記述子を抽出できる。LASSO回帰とは統計学等の分野における過剰適合を防ぐために用いられる正則化の一手法(L1型正則化法)であり、大量のデータのうち重要でないデータのパラメータを0としてデータから削除する、スパース正則化法に基づく回帰モデリングである。
記述子抽出工程で抽出する、記述子の候補としては特に限定されないが、各置換元素の元素情報や、0%充電状態の結晶構造情報等が挙げられる。
各置換元素の元素情報としては、例えば原子番号、原子質量、電気陰性度、共有結合半径、第一イオン化エネルギー、最大酸化数、ファンデルワールス係数等が挙げられる。
0%充電状態の結晶構造情報としては、体積、格子定数、結晶軸の基本ベクトルがなす角度(結晶軸間の角度)、置換元素の座標等が挙げられる。
記述子抽出工程では例えばまず算出工程で算出したデータの一部を訓練データとして用い、層間距離の変化を算出するモデル(記述子抽出用のモデル)を訓練データから作成できる。そして、係るモデル作成の際に用いなかった算出工程で算出したデータの残部と、作成したモデルを用いて算出される層間距離の変化と、を比較して、作成したモデルの予測精度を評価できる。予測精度の評価は、例えば平均2乗誤差MSEで評価でき、平均2乗誤差MSEが最小となる正則化項の時の記述子を抽出できる。
(モデル作成工程)
モデル作成工程では、層間距離の変化を、記述子抽出工程で抽出した記述子を用いて表したモデルを作成できる。
モデル作成に当たっては、例えば算出工程で作成したデータを用い、記述子抽出工程で抽出した記述子により、層間距離の変化を表すモデルを作成できる。モデル作成の際は、例えばベイズ最適化と相性の良いガウス過程回帰を使用することが好ましい。
(探索工程)
探索工程では、モデル作成工程で作成したモデルを用い、ベイズ最適化により、リチウムイオン二次電池用正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索できる。
ベイズ最適化は現在の最小値付近に最小値があるとしてその付近を選択する「活用」と、データ点が少ない空間を選択する「探索」を繰り返す手法であり、これにより最適値、すなわち最適な置換元素を少ないサンプリングで求めることを可能とする。
探索工程を終了するタイミングは特に限定されないが、例えば得られている層間距離変化の最小値が収束した場合に探索工程を終了できる。
そして、探索工程を終了するまでの間に、モデルを用いて算出した、置換元素による置換後の正極活物質の層間にリチウムを挿入または脱離させた際の層間距離の変化に関するデータから、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、置換元素を選択できる。具体的には例えば、モデルを用いて算出した、置換元素による置換後の正極活物質の層間にリチウムを挿入または脱離させた際の層間距離の変化が小さくなる順に、所定の数の置換元素や、置換元素の組み合わせを、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、置換元素として選択できる。
以上に説明した本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法によれば、第一原理計算や、統計学的手法を用いることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素を、効率的に探索できる。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順により、リチウムイオン二次電池に用いた場合にサイクル特性を高めることができる、層状構造を有する正極活物質であるLiNiOのNiを同時に置換する2つの置換元素について探索を行った。
なお、以下の説明における置換元素の候補元素とは、周期律表のNi、Coを除く3周期以降の65個の元素を意味している。置換元素の候補元素とは、具体的には、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、Ac、Th、Paを意味する。
(算出工程)
算出工程では、層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化を求めた。
層間距離算出用元素としては、上記置換元素の候補元素からランダムに2個の元素を組み合わせた32種類の元素の組み合わせを選択した。ただし、リチウムを80%程度引き抜けるよう、電荷補償の都合上、2個の置換元素の価数の合計が6以上となる2個の元素を選択、組み合わせた。
そして、第一原理計算により、層間距離算出用元素により元素の一部を置換したLiNiOにおいて、層間からリチウムを脱離させた際の層間距離の変化を算出した。
第一原理計算は、平面波基底第一原理計算ソフトであるVASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いて、密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)の範疇で、ファンデルワールス密度汎関数を用いて行った。また、projector augmented wave(PAW)ポテンシャルを用い、平面カットオフは650eV、k点は3×3×1とした。
置換前の正極活物質であるLiNiOは、rhombohedral対称性(R-3m)をもつユニットセルを初期構造とした。用いたLiNiOの構造を図1に示す。図1は、LiNiOのユニットセルをa軸方向に2倍、b軸方向に2倍配置し、ユニットセルを4個含んだスーパーセルであり、リチウム原子11、ニッケル原子12、酸素原子13を含んでいる。なお、図1中では一部の元素にのみ番号を付けているが、同じハッチングの元素は、同じ原子を意味している。
層間距離算出用元素は、ニッケル原子12のサイトに固溶すると仮定し、LiNiOのニッケル原子2個を、2個の層間距離算出用元素である第1、第2の層間距離算出用元素X、Xにより置換した。置換後の正極活物質において、ニッケル原子(Ni)と、第1の層間距離算出用元素(X)、第2の層間距離算出用元素(X)との組成比は、Ni:X:X=84:8:8となる。
そして、リチウム脱離量が0%の場合と、83%の場合とについて層間距離を算出し、リチウムを脱離させた際の層間距離の変化を求めた。
なお、置換元素の置換位置、およびリチウム脱離の構造は対称性から独立な全ての構造の中から、最もエネルギーの低いものを最安定構造として用いた。
リチウム脱離させた際の層間距離の変化は、リチウム脱離前後での、図1中に示したニッケル原子12の層の間の距離d1、d2、d3の変化量の絶対値の平均とした。
(記述子抽出工程)
算出工程で求めた32種類の元素の組み合わせである層間距離算出用元素それぞれについての層間距離の変化のデータを訓練データと、テストデータとに分けた。なお、26個のデータを訓練データとし、6個のデータをテストデータとした。
そして、訓練データからモデルを作成し、作成したモデルを用いてテストデータの層間距離の変化を予測し、算出工程で求めた層間距離の変化のデータと比較して予測精度を算出し、この際、LASSO回帰により記述子の抽出を行った。
記述子の候補としては、各置換元素の元素情報や、リチウム脱離量が0%の状態、すなわち0%充電の場合の結晶構造情報が挙げられる。各置換元素の元素情報としては、第一イオン化エネルギー、原子質量、電気陰性度等が挙げられる。リチウム脱離量が0%の状態の結晶構造情報としては、格子定数や、体積、置換元素の置換位置等が挙げられる。
既述の様に、本実施例では層間距離算出用元素として、2個の元素の組み合わせを用いている。このため、用いた2個の元素の入れ替えについて対称となるように、各置換元素の元素情報としては、第1の層間距離算出用元素Xと、第2の層間距離算出用元素Xとのそれぞれの値の和や、積を用いた。
予測精度は平均2乗誤差MSEで評価し、MSEが最小となる正則化項の時の記述子を記述子として抽出した。
その結果、リチウム脱離量が0%の時、すなわち放電状態の結晶構造の体積V、基本ベクトルがなす角度α、格子定数a、第1、第2の層間距離算出用元素のz座標zX1×zX2、第1、第2の層間距離算出用元素X、Xの原子質量mX1×mX2、第一イオン化エネルギーEX1×EX2を記述子として抽出した。なお、第1、第2の層間距離算出用元素X、Xのz座標とは、図1におけるc軸方向の座標を意味する。
(モデル作成工程)
モデル作成工程では、記述子抽出工程で抽出した記述子を用いて、層間距離算出工程で算出した層間距離の変化のデータを表すモデルを作成した。モデル作成の際にはガウス過程回帰を用いた。
(探索工程)
モデル作成工程で作成したモデルを用い、ベイズ最適化により、層間距離の変化を抑制できる、正極活物質LiNiOのニッケル元素の一部を置換する置換元素(置換元素の組み合わせ)を探索した。
具体的には、既述の置換元素の候補元素から、2個の元素を組み合わせた全1657組のうち、算出工程で計算を行っていない、1625組の候補を対象に、置換元素の探索を行った。ベイズ最適化は、maximum probability of improvementの元COMBOを用いて行った。
その結果、置換元素としてMgとCr、CrとReのいずれかの原子の組み合わせを用いて正極活物質であるLiNiOのニッケル元素を置換し、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、層間距離の変化を抑制し、サイクル特性を向上できることを確認できた。
探索工程の間の探索履歴を確認したところ、層間距離の変化が小さいものを多く選択し、優先的に探索していることを確認できた。MgとCrとの組み合わせを探索するまでに要した探索数は49であり、CrとReとの組み合わせを探索するまでに要した探索数は68であった。
[比較例1]
上記置換元素の候補元素からランダムに2個の元素を組み合わせた。ただし、リチウムを80%程度引き抜けるよう、電荷補償の都合上、2個の置換元素の価数の合計が6以上となる2個の元素を複数組選択した。
次いで、作成した複数の2個の元素の組み合わせからランダムに選択し、実施例1の算出工程の場合と同様にして、選択した2個の置換元素により置換後の正極活物質について、リチウム脱離量が0%の場合と、83%の場合とについて層間距離を算出した。そして、算出結果から、リチウムを脱離させた際の層間距離の変化を求めた。
その結果、実施例1と同じMgとCrとの組み合わせを探索するまでに要した探索数は828であり、CrとReとの組み合わせを探索するまでに要した探索数は628であった。
以上の結果からLASSO回帰を用いて記述子を抽出し、該記述子を用いたモデルを用いて、ベイズ最適化により置換元素を探索した実施例1においては、ランダムに元素の組み合わせを選択し、置換元素を探索した場合と比較して、大幅に探索数を抑制できることを確認できた。
すなわち、実施例1においては、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に効果のある、リチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素について、効率的に探索できることを確認できた。

Claims (2)

  1. 層間距離算出用元素により元素の一部を置換した、層状構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質において、層間にリチウムを挿入または脱離させた際の、層間距離の変化を求める算出工程と、
    前記算出工程で得られた、前記層間距離の変化から、LASSO回帰を用いて、前記層間距離の変化を算出するモデルに用いる記述子を抽出する記述子抽出工程と、
    前記層間距離の変化を、前記記述子抽出工程で抽出した前記記述子を用いて表したモデルを作成するモデル作成工程と、
    前記モデル作成工程で作成した前記モデルを用い、ベイズ最適化により、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の元素の一部を置換する置換元素を探索する探索工程と、を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法。
  2. 前記リチウムイオン二次電池用正極活物質が、LiNiOである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の置換元素の探索方法。
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Citations (3)

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