JP7374032B2 - 電磁気測定による厚さ測定用マスターカーブの作成方法とその使用方法 - Google Patents
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Description
一方、金属部材の厚み測定が必要とされる場面は、このような圧延現場のような設備の整った工場のみならず、橋梁、ビルディングなどの既設構造物の躯体や配管その他のメンテナンス、モニタリングなど実に様々な場所で求められている。このような場所では、検査部分の構造物は、金属母材に断熱材やメッキ、コーティングや溶射などが施されていたり、二種類の金属がクラッドされた二層部材が使用されているなど様々な部材が使用されている。しかも、このような場所は狭く或いは高所で、携帯可能で取り扱いが簡単な計測器が要求される。
また、被測定物が鋼材である場合、同じ鋼材でも鋼種によっては鋼材内を伝わる音速が異なり、実際の計測では音速調整(校正)を行う必要があり、非常に使いにくいという問題があった。
後者の電磁式厚み計は、磁性金属母材上の非磁性金属層や有機・無機層の厚み測定しかできず、いずれも母材の厚み測定ができなかった。
単層用のマスターカーブの作成方法(図24)は、
周波数掃引により、厚さ測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZO(ω)を計測するステップ11と、
厚さT1の異なる単層標準試験体10上に前記コイル2を設置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、前記複数の単層標準試験体10に渦電流をそれぞれ発生させてそのインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ21と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化し、正規化インピーダンスZ nor (ω)を算出するステップ31と、
前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出するステップ41と、
前記周波数差分値df(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT1とをそれぞれ対応させ、前記標準試験体10の厚さT1に関する単層用マスターカーブを作成するステップ51とで構成されることを特徴とする。
前記特徴量を、複素数である前記周波数差分値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを極値とすることを特徴とする。
請求項1で作成した単層用マスターカーブを予め用意し、
単層被検体上にコイル2を配置し、
ステップ2 1 で、前記周波数掃引で前記コイル2に通電して単層被検体に渦電流を発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 1 で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記単層被検体の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 1 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出し、
ステップ5 1 で、前記周波数差分値df(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、
前記特徴量を単層用マスターカーブに当て嵌めて前記単層被検体の厚さを同定することを特徴とする。
第1二層標準試験体20は、A部材(導電率σA)を上層とし、B部材(導電率σB)を下層として積層した(解析例では、上層σA(10MS/m)>下層σB(2MS/m)とした。)。
第2二層標準試験体30は第1二層標準試験体20の逆で、B部材(導電率σB)を上層とし、A部材(導電率σA)を下層として積層した(解析例では上層σB(2MS/m)<下層σA(10MS/m)とした。)。
該方法は、
周波数掃引にて測定に使用するコイル2の自己インピーダンスZO(ω)を計測するステップ12と、
上層部材の導電率σAが下層部材の導電率σBより大きく、上層部材の厚さTU,下層部材の厚さT D が異なり、上・下層部材の厚さの和がTU+TD である複数の第1二層標準試験体20上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、第1二層標準試験体20に渦電流をそれぞれ発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ22と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZ nor (ω)を算出するステップ32と、
ステップ3 2 で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を演算するステップ42と、
前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfから特徴量となる周波数差分値df(Znor)の位相の最大値(最大位相)を抽出し、前記最大値(最大位相)である特徴量と前記上層部材の厚さTUとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さTU毎に低周波領域Lfから特徴量となる周波数差分値df(Znor)の虚数部であるdf(Xnor)の最小値df(Xnor)minを抽出し、前記最小値である特徴量と前記下層部材の厚さTDとを対応させて第1二層標準試験体20の上層部材及び下層部材の厚さTU・TDに関する上層用と下層用の第1マスターカーブを作成するステップ52とで構成されることを特徴とする。
請求項4で作成した第1二層標準試験体20における第1マスターカーブを予め用意し、
上層部材の導電率σAが下層部材の導電率σBより大である(上層σA>下層σB)ことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2 2 で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて、前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 2 で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化して第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 2 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を演算し、
ステップ5 2 で、前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfから特徴量となる周波数差分値df(Znor)の位相の最大値(最大位相)を抽出し、前記特徴量を上層用の第1マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUを同定し、
前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfから特徴量となるその虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを抽出し、前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUに対応する下層用の第1マスターカーブに前記特徴量を当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さTDを同定することを特徴とする。
該方法は、
周波数掃引にて測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZO(ω)を計測するステップ13と、
下層部材の導電率が上層部材の導電率より大きく、上層部材の厚さTU,下層部材の厚さT D が異なり、上・下層部材の厚さの和がTU+TD である複数の第2二層標準試験体30上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して第2二層標準試験体30に渦電流をそれぞれ発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ23と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ33と、
前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出するステップ43と、
前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを第1の特徴量として抽出し、前記第1の特徴量と前記上層部材の厚さTUとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さTU毎に前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfの虚数部の最小値df(Xnor)minを第2の特徴量として抽出し、前記第2の特徴量と前記下層部材の厚さTDとを対応させて、第2二層標準試験体30の厚さTU・TDに関する上層用と下層用の第2マスターカーブを作成するステップ53とで構成されることを特徴とする。
請求項6で作成した第2二層標準試験体30における第2マスターカーブを予め用意し、
下層部材の導電率σAが上層部材の導電率σBより大きい(上層σB<下層σA)ことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2 3 で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 3 で、第2二層標準試験体30の前記インピーダンスZ(ω)を正規化して第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 3 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出し、
ステップ5 3 で、前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを、検査箇所における二層部材の第1の特徴量として抽出し、
前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第2の特徴量として抽出し、
前記第1の特徴量を上層用及び下層用の第2マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUを同定すると共に、前記上層部材の厚さTUに対応する下層用の第2マスターカーブに前記第2の特徴量に当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さTDを同定することを特徴とする。
測定現場の検査対象にはさまざまなのもがあるが、本発明では単層部材と2種類の部材(A部材、B部材)を積層した二層部材とを対象とする。後者の場合は、上層と下層の肉厚をそれぞれ測定する。
(上層部材の導電率>下層部材の導電率)の場合、下層からの電磁気信号が上層を通ってコイル2にセンシングされにくいが、逆の、(上層部材の導電率<下層部材の導電率)の場合、下層からの電磁気信号が上層を通ってコイル2にセンシングされやすく、センシングのために別別の手段を取る必要があるためである。
上記3グループ{単層/二層(上層部材の導電率>下層部材の導電率)/二層(上層部材の導電率<下層部材の導電率)}に付いては肉厚を検出するためには、それぞれグループ毎のマスターカーブを作成する必要があり、そのために測定現場の検査対象に合った標準検査体が必要となる。
単層の測定対象に対しては単層標準試験体10が用意される。
二層の測定対象で(上層部材の導電率>下層部材の導電率)の場合は、(上層部材の導電率>下層部材の導電率)となる二層標準試験体20が用意される。
二層の測定対象で(上層部材の導電率<下層部材の導電率)の場合は、(上層部材の導電率<下層部材の導電率)となる二層標準試験体30が用意される。
これら3グループに付いては肉厚を検出するためのパラメータが異なるので、
(1)単層部材の肉厚検出を(第1実施形態)、
(2)上層部材の導電率>下層部材の導電率を(第2実施形態)、
(3)上層部材の導電率<下層部材の導電率を(第3実施形態)として説明する。
本実施例では、コイル2はピックアップセンサとしても働き、測定対象に渦電流を発生させた状態でのインピーダンスZ(ω)をセンシングして周波掃引測定器3に出力する。コイル2の形状(内径、外径、高さ、巻数、リング型、矩形)には様々なものがあるが、検査対象に合わせて最適のものが使用される。本発明で使用されるコイル2はパンケーキ型の空芯コイルである。
なお、図示していないが、ピックアップセンサを別体としてコイルと同軸に、或いは近接させて設けるようにしてもよい。
コイル2は、測定対象に対してリフトオフして使用される。リフトオフ間隔はマスターカーブ作成時と現場での被検体の測定時とは同じ間隔Sが取られる。本発明では、例えば、0.5mmのリフトオフ間隔Sが採用されている。
スタート周波数は、本発明では、例えば、スタート周波数は200Hz、ストップ周波数は200kHzである。スタート周波数からストップ周波数まで多周波数(例えば、200Hz,204.66Hz, ・・・2kHz・・20kHz・・200kHzの範囲で、対数スケールで300等間隔)で掃引する。掃引では正弦波が用いられる。計測値(インピーダンスZ(ω))は接続されているパーソナルコンピューター4に転送される。
本発明の第1実施形態は、電磁気特性が把握されていない測定現場の単層部材(被検体)の厚さを同定するための単層用マスターカーブ(図5)を作成することである。
1:単層用マスターカーブの作成
ステップ11:コイル2の自己インピ―ダンスZ0(ω)の測定
測定に用いられるコイル2を空中に配置し、この状態でコイル2にスタート周波数からストップ周波数まで対数等間隔で周波数掃引を行う。コイル2の自己インピーダンスZ0(ω)は、(式1)で表示される。
単層用マスターカーブ作成の基準となる単層標準試験体10として、厚さT1の異なる非磁性導電性単層板(例えば、アルミニウム板、SUS板)を複数枚用意する。単層標準試験体10の導電率σ1は事前に把握されていないが、厚さT1は予め正確に把握されている。
コイル2は、単層標準試験体10に対してリフトオフ(隙間S)して配置される(図1)。この状態でコイル2に通電し、各単層標準試験体10に対してステップ1と同じ条件(同じ対数等間隔)で周波数掃引する。これにより単層標準試験体10に渦電流が発生し、ファラディの法則により、この渦電流はコイル2が発生した磁場の変化を妨げるように反磁束が発生させる。その結果、コイル2のインピーダンスが変わる。これをインピーダンス変化といいΔZ(ω)表す。この変化した渦電流測定信号(インピーダンス変化ΔZ(ω))に単層標準試験体10の厚さ変化が現れる。
インピーダンスZ(ω)は、式(2)(3)に示すように、周波数の増大と共に大きくなり、これを1つの複素平面に収めると、分析しやすくなる。このプロセスがインピーダンス正規化である。
正規化インピーダンスZnorは、ステップ2 1 で測定したインピーダンスZ(ω)とコイルの自己インピーダンスの実数部、すなわち抵抗R 0 の差である (Z(ω)-R 0 )をコイル2の自己インピーダンスZ 0 (ω)の虚数部であるωL 0 で割ることで算出する(式4)。
その虚数部は、(虚数部)jXnor=(jωΔL/ωLo)+j
その実数部は、(実数部)R nor =(ΔR/ωL o )である。
各単層標準試験体10の正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)は、式5によりそれぞれ演算される。
ここでは周波数差分値df(Znor)から各単層標準試験体10の特徴量となる極値を抽出する。
各単層標準試験体10の周波数差分値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の、掃引周波数に対する変化を示したのが図4である。縦軸が虚数部df(Xnor)、横軸が掃引周波数である。
図4の各曲線(図では7本の曲線)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minが各単層標準試験体10の厚さT1に対応しており、この最小値df(Xnor)minが各単層標準試験体10の厚さT1 と関連する特徴量となる。
そして、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT1とを対応させて単層用標準試験体10の厚さT1に関する単層用マスターカーブを作成する(図5)。横軸に単層標準試験体10の厚さT1をとり、縦軸に各単層標準試験体10の演算値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Znor)minを取った。
この単層用マスターカーブは測定現場の被検体の導電率に関係せず、厚さのみに関係し、且つ単調な曲線であるから現場での利便性が高い。換言すれば、正確な導電率が不明な測定対象についても正確な測定が可能であることを意味する。
用意した単層標準試験体は以下の通りである。
SUS304板(150mm×150mm)厚さ(mm):1,2,3,4,5
SUS304板(100mm×100mm)厚さ(mm):3,4,5
Al板 (150mm×150mm)厚さ(mm):0.5,1,2
Al5052板(150mm×150mm)厚さ(mm):3,4,5,6
これら単層標準試験体には同じ周波数掃引測定を上記のように行った。
測定に使用されるコイル2は測定現場における単層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、単層用マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。単層の被検体の導電率は不明である。
被検体の厚さの測定は、上記ステップ21~51に従って行われる。即ち、コイルは、単層用マスターカーブ作成に使われたものを使用する。そして前記測定用のコイルによる単層用マスターカーブは予め用意されており、パーソナルコンピューターに記憶をさせておく。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は単層用マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、単層用マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
被検体の存在している場合のインピーダンスZ(ω)をコイルでセンシングし、パーソナルコンピューターに送る。
そして、この正規化インピーダンスZ nor (ω)の周波数差分を演算し、周波数差分値の虚数部から特徴量となる極値(虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)min)を抽出し、この特徴量(最小値)を予め記憶されている単層用マスターカーブに当て嵌めて被検体の厚さを同定する。
1.二層用第1マスターカーブの作成(図1の右半分の図、図6~図9)
ここでは、測定対象の被検体(上層の導電率は下層の導電率より大である:上層σA>下層σB)に合わせて、第1二層標準試験体20の組み合わせを上層の導電率σAが下層の導電率σBより大になる(上層σA>下層σB)ようにその材質を選定する。そして、この第1二層標準試験体20を用いて測定現場の検査積層箇所(二層部材の被検体)の上層と下層のそれぞれの厚さTU、TDを同定するための二層用第1マスターカーブを作成する。
次に、第1二層標準試験体20として、厚さTUの上層部材と厚さTDの下層部材が積層された二層部材20を用意する。
上層に配置されるA部材の導電率σA、下層に配置されるB部材の導電率σBは上記のようにいずれも事前に把握されていないが、上層の厚さTU、下層の厚さTDは事前にそれぞれ正確に把握されている。
第1二層標準試験体20の存在によるインピーダンスZ(ω)を第1実施形態と同様の手順でコイル2にてセンシングする。
第1実施形態と同様、パーソナルコンピューター4では検出したインピーダンス信号Z(ω)とコイルの自己インピーダンスの実数部であるR 0 の差である(Z(ω)‐R 0 )をコイル2の自己インピ―ダンスZ0(ω)の虚数部であるωL o で割ることでインピーダンス信号Z(ω)の正規化を行う。図6では5本の正規化インピーダンス信号Z nor (ω)が示され、これらを結ぶと、同じ傾向を示す曲線(リサージュ波形)に纏まる。各曲線は板厚毎に曲線を形成する。
図中の符号A、Bで示す表は標準試験体20の板厚と積層順を示す。この5つの曲線の一番上の第1二層標準試験体20は符号AAで示され、最下段の部材は符号AAAで示されている。これは、2mm、3mmのA部材で構成された単層標準試験体で、2~4番目以降の二層部材との比較のために使用される。2~4番目は、上層が2mmのA部材で、残りが下層である。
図7は周波数差分値df(Znor)のリサージュ波形で、縦軸にその虚数部、横軸に実数部を取った複素平面である。
ここでは、5本の曲線の特徴量となる高周波領域Hfの周波数差分値df(Znor)の位相の最大値(最大位相)と上層の厚さTUとを対応させ、上層の厚さTU毎にプロットしたのが図8である。
図9の右肩の表で第1二層標準試験体20の上層の材質と厚さを示す。Aは、上層がA部材で厚さが1mm、・・・AAAAAは5mmである。
この場合は、まず、上層がA部材で厚さが1mmの第1二層標準試験体20の特徴量となる低周波領域Lfの周波数差分値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minと下層の厚さTDとを対応させ、上層の厚さTU毎にプロットする。これを◆(塗潰し菱形)で示す。同様にして、上層がA部材で厚さが2mmの第1二層標準試験体20をプロットする。これを■(塗潰し正方形)で示す。これを5本示したのが図9である。なお、縦軸は虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)min、横軸は下層の厚さTDである。
即ち、第1二層標準試験体20の下層の場合は、上層の厚みTUごとに下層用のマスターカーブが描かれることになる。
測定用の二層標準試験体20(30)のA部材・B部材の選定は、現地の二層部材である被検体の上層と下層の導電率に合わせて図10の組み合わせによる。図10は、本発明で使用されるA部材、B部材の例である。組み合せに当たっては、A部材の導電率σAの方がB部材の導電率σBより大きくなるように選ばれる。導電率はAl>Al合金>SUSの順である。
図11では、上層のリサージュ波形がその材質(アルミニウム、Al5052)に拘わらず、換言すれば導電率に拘わらず、厚みTU(0.5、1、2,3、4,5mm)毎に描かれる。なお、厚みTUは、曲線に重ねて書かれている数字である。
図13は、二層部材の上層の厚さTU と周波数差分値d f (Z nor )の高周波領域の特徴量の関係を示すプロットである。図14は上層の厚さTU毎に下層の厚さTDと周波数差分値d f (Z nor )の低周波領域の特徴量の関係をプロットしたものである。図13では標準試験体の導電率の相違に拘わらず、板厚毎に点が一致している。図14も同様である。なお、図14の右肩の表で、塗潰し菱形(◆)Alを繋いだカーブは上層の厚さTUが0.5mmのほぼ直線、塗潰し正方形(■)Alは同1mmのほぼ直線、塗潰し三角形(▲)Alは同2mmのほぼ直線、バツ印(×)Al5052は同3mmのほぼ直線である。バツに縦棒印・Al5052は同4mm、塗潰し丸印(●)Al5052は同5mmのほぼ直線である。この場合も導電率には左右されない。
被検体は二層部材で、上・下層の導電率は不明である。ただし、上・下層の材質は把握されており、この場合は、A部材である上層の導電率σAは、B部材である下層の導電率σBより大であることは把握されている(上層σA>下層σB)。
従って作業者は、(上層σA>下層σB)用である二層用第1マスターカーブを用いることになり、パーソナルコンピューター4にこの条件に合う二層用第1マスターカーブが予め格納されることになる。なお、上記同様、測定に使用されるコイル2は測定現場における二層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、二層用第1マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。
そして、被検体の厚さの測定は、上記ステップ22~52に従って行われる。即ち、
コイルは、上記のように二層用第1マスターカーブ作成に使われたものを使用する。そしてそのコイルによる二層用第1マスターカーブは予め用意されており、パーソナルコンピューターに記憶をさせておく。コイルの自己インピーダンスZ 0 (ω)もパーソナルコンピューターに記憶をさせておく。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は二層用第1マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、二層用第1マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引(対数等間隔でスタート周波数もストップ周波数も同じ)で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
上記コイルで被検体が存在する時のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、パーソナルコンピューターに送る。
そして、ステップ4 2 の手順に従って、この正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を演算し、ステップ5 2 の手順に従って、前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfから特徴量となる周波数差分値df(Znor)の最大位相df(Xnor)と、低周波領域Lfから特徴量となる最小値df(Xnor)minとを抽出する。
抽出した高周波領域Hfの周波数差分値df(Znor)の最大位相である特徴量を図8の二層用第1マスターカーブ(上層用)に当て嵌め、被検体の上層の厚さを同定する。
二層用第2マスターカーブの作成(図1の右の図、図15~図23)
この場合は、第2実施形態の逆で、第2二層標準試験体30の組み合わせを上層の導電率σBが下層の導電率σAより小になる(上層σB<下層σA)ようにその材質を選定する。電磁気特性は同様に把握されていない。そして、この第2二層標準試験体30を用いて測定現場の検査積層箇所(二層部材)の上層と下層のそれぞれの厚さを同定するための二層用第2マスターカーブを作成する。
次に、第2二層標準試験体30として、厚さTUの上層部材と厚さTDの下層部材の積層体を用意するが、これらの点は第2実施形態と同様である。しかしながら、上記のように導電率は(上層σB<下層σA)である。
第2二層標準試験体30の各インピーダンスZ(ω)の測定(図1の右の図)が第2実施形態と同じ方法で行われ、インピーダンスZ(ω)を第2実施形態と同様の手順でコイル2にてセンシングし、パーソナルコンピューター4に送る。
第2実施形態と同様、式4に従って、パーソナルコンピューター4でインピーダンス信号Z(ω)の正規化を行い、正規化インピーダンスZ nor (ω)を算出する。そこで、次のステップに進む。
ここでは、式5に従って、第2実施形態と同様、正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)の演算を行う。図15は周波数差分値df(Znor)のリサージュ波形である。上層の導電率が下層の導電率より小さいため、上下層の情報が混じっており、この波形から特徴量が見いだせない。図15の標準試験体30の内、3つを使用して図16を作成した。虚数部df(Xnor)の周波数に伴う変化を図16に示す。これにより、正規化インピーダンスZnor(ω)の変化を明確に表せるようになる。図16の縦軸が周波数差分d f (Z nor )の虚数部、横軸が周波数である。図16の左側が低周波領域L f 、右側が高周波領域H f である。高周波数H f 及び低周波数L f 領域には破線と実線の長円で囲まれた極小値df(Xnor)minが2箇所表れている。
ステップ5 3 :前記正規化インピーダンスZ nor (ω)の周波数差分値d f (Z nor )の高周波領域H f から特徴量となる虚数部d f (X nor )の極値(最小値d f (X nor )min)と低周波領域であるL f から特徴量である虚数部d f (X nor )の極値(最小値d f (X nor )min)を抽出する(図16)
そしてこの図16の長円で囲んだ高周波領域Hfの虚数部df(Xnor)の極値(最小値df(Xnor)min)を第1の特徴量として、上層の厚さを同定する。
続いて低周波領域Lfの虚数部df(Xnor)の極値(最小値df(Xnor)min)を第2の特徴量として、上層の厚さ毎に下層の厚さを同定する。
測定用の第2二層標準試験体30は、第2実施形態と同様、図10の組み合わせによる。
上記と同じ手順(ステップ1 3 ~3 3 )で複数の第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)のリサージュ波形を複素平面に描く(図19)。このリサージュ波形は複雑すぎて特徴量を抽出できない。
二層用第2マスターカーブ(下層用)では、図中の表に示す上層(SUS304)の厚み(0.5、1、2、3、4mm)毎に下層(Al又はAl合金)のカーブが異なる。
被検体は二層部材で、この場合も上・下層の導電率は不明である。ただし、上・下層の材質は把握されており、この場合は、B部材である上層の導電率σBは、A部材である下層の導電率σAより小であることは把握されている(上層σB<下層σA)。
従って作業者は、(上層σB<下層σA)用である二層用第2マスターカーブを用いることになり、パーソナルコンピューター4に二層用第2マスターカーブが予め格納されることになる。なお、上記同様、測定に使用されるコイル2は測定現場における二層部材(被検体)に最適のものが選ばれ、二層用第2マスターカーブも当然測定現場で使用されるコイル2を使ったものが用いられる。
そして、被検体の厚さの測定は、上記ステップ23~53に従って行われる。
次に、被検体上にリフトオフ間隔を設けて上記コイルを配置する。リフトオフ間隔は二層用第2マスターカーブ作成時と同じ間隔にする。
そして、二層用第2マスターカーブ作成時と同じ周波数掃引(対数等間隔でスタート周波数もストップ周波数も同じ)で前記コイルに通電して被検体に渦電流を発生させる。
インピーダンスZ(ω)をコイルでセンシングし、
そして、第2の特徴量(低周波領域Lfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)min)を抽出し、同定した上層の厚さの二層用第2マスターカーブ(下層用)にこの第2の特徴量を適用して被検体の下層の厚さを同定する。これにより被検体の上・下層の厚さ同定が完了する。
2:コイル
3:周波掃引測定器
4:パーソナルコンピューター
10:単層標準試験体
20:第1二層標準試験体
30:第2二層標準試験体
T1:単層標準試験体の厚さ
TU:二層標準試験体の上層の厚さ
TD:二層標準試験体の下層の厚さ
σA:A部材の導電率
σB:B部材の導電率
Hf:高周波領域
Lf:低周波領域
S:(リフトオフ)間隔
ZO(ω):コイルの自己インピーダンス
ΔZ(ω):インピーダンス変化
Z(ω):インピーダンス
Znor(ω):正規化インピーダンス
df(Znor):正規化インピーダンスの周波数差分値
df(Xnor):周波数差分値df(Znor)のの虚数部
df(Xnor)min:周波数差分値の虚数部の最小値
Claims (7)
- 周波数掃引により、厚さ測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZo(ω)を計測するステップ11と、
厚さT1の異なる単層標準試験体10上に前記コイル2を設置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、前記複数の単層標準試験体10に渦電流をそれぞれ発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ21と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記単層標準試験体10の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ31と、
ステップ3 1 で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出するステップ41と、
前記周波数差分値df(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、前記特徴量と前記各単層標準試験体10の厚さT1とをそれぞれ対応させ、前記単層標準試験体10の厚さT1に関する単層用マスターカーブを作成するステップ51とで構成されることを特徴とする厚さ測定用マスターカーブの作成方法。 - 前記特徴量を、複素数である前記周波数差分値df(Znor)の虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを極値とすることを特徴とする請求項1に記載の厚さ測定用マスターカーブの作成方法。
- 請求項1又は2で作成した単層用マスターカーブを予め用意し、
測定現場における単層被検体上にコイル2を配置し、
ステップ2 1 で、前記周波数掃引で前記コイル2に通電して単層被検体に渦電流を発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 1 で、前記単層被検体のインピーダンスを正規化して前記単層被検体の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 1 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出し、
ステップ5 1 で、前記周波数差分値df(Znor)から特徴量となる極値を抽出し、
前記特徴量を前記単層用マスターカーブに当て嵌めて前記単層被検体の厚さを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。 - 周波数掃引にて測定に使用するコイル2の自己インピーダンスZo(ω)を計測するステップ12と、
上層部材の導電率σAが下層部材の導電率σBより大きく、上層部材の厚さTU,下層部材の厚さT D が異なり、上・下層部材の厚さの和TU+TD である複数の第1二層標準試験体20上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、第1二層標準試験体20に渦電流をそれぞれ発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ22と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ32と、
ステップ3 2 で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を演算するステップ42と、
前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfから特徴量を抽出し、前記特徴量と前記上層部材の厚さTUとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さTU毎に低周波領域Lfから特徴量を抽出し、前記特徴量と前記下層部材の厚さTDとを対応させて第1二層標準試験体20の上層部材及び下層部材の厚さTU・TDに関する上層用と下層用の第1マスターカーブを作成するステップ52とで構成されることを特徴とする厚さ測定用マスターカーブの作成方法。 - 請求項4で作成した第1マスターカーブを予め用意し、
上層部材の導電率σAが下層部材の導電率σBより大であることが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2 2 で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて、前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 2 で、前記インピーダンスZ(ω)を正規化して第1二層標準試験体20の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 2 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を演算し、
ステップ5 2 で、前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfから特徴量となる前記周波数差分値df(Znor)の位相最大値を抽出し、前記特徴量を上層用の第1マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUを同定し、
前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfから特徴量となる前記周波数差分値df(Xnor)の最小値を抽出し、前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUに対応する下層用の第1マスターカーブに前記特徴量を当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さTDを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。 - 周波数掃引にて測定に使用されるコイル2の自己インピーダンスZO(ω)を計測するステップ13と、
下層部材の導電率が上層部材の導電率より大きく、上層部材の厚さTU,下層部材の厚さT D が異なり、上・下層部材の厚さの和がTU+TD である複数の第2二層標準試験体30上に前記コイル2をそれぞれ配置し、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電し、第2二層標準試験体30に渦電流をそれぞれ発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングするステップ23と、
前記インピーダンスZ(ω)を正規化して前記第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出するステップ33と、
ステップ3 3 で正規化された前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値df(Znor)を算出するステップ43と、
前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを第1の特徴量として抽出し、前記第1の特徴量と前記上層部材の厚さTUとを対応させ、
続いて、上層部材の厚さTU毎に前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfの虚数部df(Xnor)の最小値df(Xnor)minを第2の特徴量として抽出し、前記第2の特徴量と前記下層部材の厚さTDとを対応させて、第2二層標準試験体30の厚さTU・TDに関する上層用と下層用の第2マスターカーブを作成するステップ53とで構成されることを特徴とする厚さ測定用のマスターカーブ作成方法。 - 請求項6で作成した第2マスターカーブを予め用意し、
下層部材の導電率σAが上層部材の導電率σBより大きいことが分かっている検査箇所における二層部材(被検体)の上層部材上にコイル2を配置し、
ステップ2 3 で、前記周波数掃引にて前記コイル2に通電して前記検査箇所における二層部材に渦電流を発生させて前記コイル2のインピーダンスZ(ω)をセンシングし、
ステップ3 3 で、第2二層標準試験体30の前記インピーダンスZ(ω)を正規化して第2二層標準試験体30の正規化インピーダンスZnor(ω)を算出し、
ステップ4 3 で、前記正規化インピーダンスZnor(ω)の周波数差分値d f (Znor)を算出し、
ステップ5 3 で、前記周波数差分値df(Znor)の高周波領域Hfの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第1の特徴量として抽出し、
前記周波数差分値df(Znor)の低周波領域Lfの虚数部の最小値を、検査箇所における二層部材の第2の特徴量として抽出し、
前記第1の特徴量を上層用及び下層用の第2マスターカーブに当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の上層部材の厚さTUを同定すると共に、前記上層部材の厚さTUに対応する下層用の第2マスターカーブに前記第2の特徴量に当て嵌めて前記検査箇所における二層部材の下層部材の厚さTDを同定することを特徴とする厚さ測定用マスターカーブを使用した測定現場での使用方法。
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