以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.偏光フィルム積層体
図1および図2は、本発明の1つの実施形態による偏光フィルム積層体の概略図であり、図1は偏光フィルム積層体の斜視図であり、図2は図1に示す偏光フィルム積層体の部分断面図である。偏光フィルム積層体100は、偏光子10と偏光子10の一方面側(図示例では上面側)に配置された表面保護フィルム20と、偏光子10の他方面側(図示例では下面側)に配置された保護フィルム30および第2の表面保護フィルム40とを備える。偏光フィルム積層体100は、その一方面側(図示例では上面側)に偏光子10が露出した露出部11,11…を有する。図示例では、露出部11は、偏光子10の一方面側に配置されている表面保護フィルム20に貫通孔21を形成することにより設けられている(便宜上、貫通孔を有する表面保護フィルムを第1の表面保護フィルムと称する場合がある)。偏光子10の露出部11に対応する部分は、任意の適切な処理により非偏光部とされていてもよい。
表面保護フィルム20は、製造時に偏光子10を一時的に保護することを目的として用いられ、任意の適切なタイミングで偏光子10から取り除かれる。したがって、表面保護フィルム20は偏光子10に剥離可能に積層されている。図示しないが、代表的には、表面保護フィルム20は任意の適切な粘着剤を介して偏光子10に貼り合わせられている。なお、本明細書において単に保護フィルムというときは、保護フィルム30のような偏光子保護フィルムを意味し、製造時に一時的に用いられる表面保護フィルムとは異なるものである。
偏光子10は長尺状とされ、代表的には、図1に示すように偏光フィルム積層体100はロール状に巻回されている。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。図示例では、長尺状の表面保護フィルム20の長尺方向と偏光子10の長尺方向が実質的に平行とされている。1つの実施形態においては、長尺状の表面保護フィルム20の幅寸法は、偏光子10の幅寸法と実質的に同じまたはそれよりも大きく設計される。
露出部11は、偏光子10の長尺方向および/または幅方向に所定の間隔で(すなわち、所定のパターンで)配置されている。露出部11の配置パターンは、目的に応じて適切に設定され得る。代表的には、露出部11は、偏光子10を所定サイズの画像表示装置に取り付けるために所定サイズに裁断(例えば、長尺方向および/または幅方向への切断、打ち抜き)した際に、該画像表示装置のカメラ部に対応する位置に配置されている。
1つの長尺状偏光子10から1つのサイズの偏光子片のみを裁断により得る場合には、露出部11は、図1に示すように、偏光子10の長尺方向および幅方向のいずれにおいても実質的に等間隔で配置され得る。このような構成であれば、画像表示装置のサイズに合わせた偏光子の所定サイズへの裁断の制御が容易であり、歩留まりを向上させることができる。さらに、裁断された枚葉の偏光子(偏光フィルム積層体)における非偏光部(露出部)の位置のばらつきを抑制することができる。なお、「長尺方向および幅方向のいずれにおいても実質的に等間隔」とは、長尺方向の間隔が等間隔であり、かつ、幅方向の間隔が等間隔であることを意味し、長尺方向の間隔と幅方向の間隔とが等しい必要はない。例えば、長尺方向の間隔をL1とし、幅方向の間隔をL2としたとき、L1=L2でもよく、L1≠L2であってもよい。また、「偏光子片」とは、長尺状の偏光子を裁断して得られた偏光子を意味する。本明細書においては、文脈上、偏光子片を単に偏光子と称する場合がある。
1つの長尺状偏光子10から複数のサイズの偏光子片を裁断により得る場合には、偏光子10の長尺方向および/または幅方向における露出部11の間隔を裁断すべき偏光子のサイズに応じて変更することができる。例えば、露出部11は、長尺方向には実質的に等間隔で配置され、かつ、幅方向には異なる間隔で配置されてもよく;長尺方向には異なる間隔で配置され、かつ、幅方向には実質的に等間隔で配置されてもよい。長尺方向または幅方向において露出部11が異なる間隔で配置される場合、隣接する露出部の間隔はすべて異なっていてもよく、一部(特定の隣接する露出の間隔)のみが異なっていてもよい。また、偏光子10の長尺方向に複数の領域を規定し、それぞれの領域ごとに長尺方向および/または幅方向における露出部11の間隔を設定してもよい。このように、長尺状の偏光子において目的に応じた任意の適切な配置パターンで露出部(非偏光部)を形成できることが、本発明の特徴の1つである。
図3Aは、本発明の実施形態による偏光フィルム積層体における露出部の配置パターンの一例を説明する概略平面図であり、図3Bは、露出部の配置パターンの別の例を説明する概略平面図であり、図3Cは、露出部の配置パターンのさらに別の例を説明する概略平面図である。1つの実施形態においては、露出部11は、図3Aに示すように、偏光子10の長尺方向において隣接する露出部11を結ぶ直線が、その長尺方向に対して実質的に平行であり、ならびに、偏光子10の幅方向において隣接する露出部11を結ぶ直線が、その幅方向に対して実質的に平行であるように配置される。本実施形態は、図1に示す偏光フィルム積層体100における露出部11の配置パターンに対応する。別の実施形態においては、露出部11は、図3Bに示すように、偏光子10の長尺方向において隣接する露出部11を結ぶ直線が、その長尺方向に対して実質的に平行であり、ならびに、偏光子10の幅方向において隣接する露出部を結ぶ直線が、その幅方向に対して所定の角度θWを有するように配置される。さらに別の実施形態においては、露出部11は、図3Cに示すように、偏光子10の長尺方向において隣接する露出部を結ぶ直線が、その長尺方向に対して所定の角度θLを有し、ならびに、偏光子10の幅方向において隣接する露出部を結ぶ直線が、その幅方向に対して所定の角度θWを有するように配置される。
上記θLおよび/またはθWは、好ましくは0°を超えて±10°以下である。ここで、「±」は、基準方向(偏光子の長尺方向または幅方向)に対して時計回りおよび反時計回りのいずれの方向も含むことを意味する。図3Bおよび図3Cに示す実施形態は、以下のような利点を有する:画像表示装置によっては表示特性を向上させるために偏光子の吸収軸を当該装置の長辺または短辺に対して最大で10°程度ずらして配置することを要求される場合がある。後述するように偏光子の吸収軸は長尺方向または幅方向に発現するので、上記のような構成であれば、このような場合において、裁断された枚葉の偏光フィルム積層体(偏光子)101の吸収軸の方向を所望の角度に精密に制御することができ、かつ、偏光フィルム積層体(偏光子)101ごとの吸収軸の方向のばらつきを顕著に抑制することができる。なお、露出部の配置パターンが図示例に限定されないことは言うまでもない。例えば、露出部は、偏光子の長尺方向において隣接する露出部を結ぶ直線が、その長尺方向に対して所定の角度θLを有し、ならびに、偏光子の幅方向において隣接する露出部を結ぶ直線が、その幅方向に対して実質的に平行であるように配置されてもよい。また、偏光子の長尺方向に沿って複数の領域を規定し、それぞれの領域ごとにθLおよび/またはθWを設定してもよい。
露出部11の平面視形状(偏光フィルム積層体100の一方面側から見た形状)は、偏光子が用いられる画像表示装置のカメラ性能に悪影響を与えない限りにおいて、任意の適切な形状が採用され得る。露出部の平面視形状としては、例えば、略円形状または略矩形状が挙げられる。具体的には、円形、楕円形、正方形、矩形、ひし形が挙げられる。後述する表面保護フィルムの貫通孔の形状を適切に設定することにより、所望の平面視形状を有する露出部を形成することができる。
A-1.偏光子
偏光子10は、代表的には、二色性物質を含む樹脂フィルムで構成される。樹脂フィルムは、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称する)フィルムである。
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料等が挙げられる。これらは、単独で、または、二種以上組み合わせて用いられ得る。好ましくは、ヨウ素が用いられる。例えば、化学処理による脱色により非偏光部を形成する場合に、樹脂フィルム(偏光子)に含まれるヨウ素錯体が適切に還元されるので、カメラ部に使用するのに適切な特性を有する非偏光部を形成することができるからである。
上記PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が用いられ得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
偏光子(非偏光部を除く)は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子(非偏光部を除く)の単体透過率(Ts)は、好ましくは39%以上、より好ましくは39.5%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは40.5%以上である。なお、単体透過率の理論上の上限は50%であり、実用的な上限は46%である。また、単体透過率(Ts)は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、顕微分光システム(ラムダビジョン製、LVmicro)を用いて測定することができる。偏光子の偏光度(非偏光部を除く)は、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.93%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
上記非偏光部は、好ましくは、偏光子を脱色することにより形成された脱色部である。非偏光部の透過率(例えば、23℃における波長550nmの光で測定した透過率)は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、特に好ましくは90%以上である。このような透過率であれば、非偏光部としての所望の透明性を確保することができる。その結果、非偏光部が画像表示装置のカメラ部に対応するよう偏光子を配置した場合に、カメラの撮影性能に対する悪影響を防止することができる。
好ましくは、非偏光部は、二色性物質の含有量が相対的に低い低濃度部とされている。具体的には、他の部位よりも二色性物質の含有量が低い低濃度部とされている。このような構成によれば、機械的に(例えば、彫刻刃打抜き、プロッター、ウォータージェット等を用いて機械的に抜き落とす方法により)、非偏光部が形成されている場合に比べて、クラック、デラミ(層間剥離)、糊はみ出し等の品質上の問題が回避される。また、低濃度部は二色性物質自体の含有量が低いので、レーザー光等により二色性物質を分解して非偏光部が形成されている場合に比べて、非偏光部の透明性が良好に維持される。
上記低濃度部は、上記他の部位よりも二色性物質の含有量が低い部分である。低濃度部の二色性物質の含有量は、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。低濃度部の二色性物質の含有量がこのような範囲であれば、低濃度部に所望の透明性を十分に付与することができる。例えば、画像表示装置のカメラ部に低濃度部を対応させた場合に、明るさおよび色味の両方の観点から非常に優れた撮影性能を実現することができる。一方、低濃度部の二色性物質の含有量の下限値は、通常、検出限界値以下である。なお、二色性物質としてヨウ素を用いる場合、ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析で測定したX線強度から、予め標準試料を用いて作成した検量線により求められる。
他の部位における二色性物質の含有量と低濃度部における二色性物質の含有量との差は、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。含有量の差がこのような範囲であれば、所望の透明性を有する低濃度部を形成することができる。
上記低濃度部は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量が3.6重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5重量%以下であり、さらに好ましくは1.0重量%以下であり、特に好ましくは0.5重量%以下である。低濃度部におけるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量がこのような範囲であれば、後述する塩基性溶液との接触により形成された低濃度部の形状を良好に維持することができる(すなわち、優れた寸法安定性を有する低濃度部を実現することができる)。当該含有量は、例えば、蛍光X線分析により測定したX線強度から予め標準試料を用いて作成した検量線により求めることができる。このような含有量は、後述する塩基性溶液との接触において、接触部におけるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を低減させることにより実現され得る。
偏光子の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。厚みは、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm未満である。一方で、厚みは、好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。このような厚みであれば、優れた耐久性と光学特性とを有する偏光子が得られ得る。また、厚みが薄いほど、非偏光部が良好に形成され得る。例えば、化学処理による脱色により非偏光部を形成する場合に、脱色液と樹脂フィルム(偏光子)との接触時間を短くすることができる。具体的には、より短時間で、より透過率の高い非偏光部を形成することができる。
上記脱色液(例えば、塩基性溶液)を接触させた部分の厚みは、他の部位よりも薄くなり得る。この傾向は、脱色により得られる非偏光部の透過率を高くするほど、強くなり得る。樹脂フィルムを薄くすることにより、非偏光部の高い透過率(好ましくは、90%以上)を達成しながら、上記非偏光部と他の部位との段差を、小さくすることができる。こうして、段差により発生するおそれがある不具合を防止し得る。不具合としては、例えば、長尺状の偏光子をロール状に巻回した際に非偏光部と他の部位との段差が、重ね合わせた部分に巻き痕として転写される、保護フィルム等の他の構成部材との貼り合せの際に、非偏光部と他の部位との段差により気泡が発生する、最終製品において当該段差が視認されるなどが考えられる。このような不具合を防止することは、本発明の偏光子を裁断して得られる最終的に使用される偏光子の品質のばらつきの抑制にも寄与し得ると考えられる。このような効果は、例えば、非偏光部の透過率が90%以上の場合および/または二色性物質の含有量が0.2重量%以下の場合に顕著となり得ると考えられる。なお、非偏光部の透過率が90%以上と高いことも、最終的に使用される偏光子の品質のばらつきを抑制することに寄与し得る。具体的には、脱色液の接触により非偏光部を形成する場合、脱色度合いが弱いと得られる非偏光部の透過率にばらつきが生じやすいが、透過率90%以上および/または二色性物質の含有量が0.2重量%以下とすることで(脱色度合いを強くすることで)、脱色状態を安定して制御することができる。
1つの実施形態においては、非偏光部は他の部位よりも薄い薄肉部とされている。例えば、偏光子の一方面側の表面が凹んだ凹部が形成されて薄肉部とされている。この場合、非偏光部と他の部位との段差(凹部の深さ)は、例えば0.02μm以上である。一方で、段差は、好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。後述する脱色により非偏光部を形成する場合(例えば、非偏光部の透過率が90%以上の場合および/または二色性物質の含有量が0.2重量%以下の場合)にはこのような段差が形成される場合があるところ、段差の上限がこのような範囲であればロール形成による巻き痕等の段差による不具合が良好に抑制されると考えられる。その結果、本発明の偏光子を裁断して得られる最終的に使用される偏光子の品質のばらつきを顕著に抑えることができる。なお、本明細書において「段差(凹部の深さ)」は、凹部の最も深い部分の深さをいう。
上記一方面側の表面が凹んだ凹部は、例えば、偏光子の一方面側のみから脱色液を作用させることにより形成される。脱色処理後に形成される凹部の深さを上記範囲とすることで、後述の脱色後の処理を均一に施し得る。また、一方面側のみに凹部が形成され得ることで、ロール形成による巻き痕等の段差による不具合の発生を防止し、最終的に使用される偏光子の品質のばらつきを抑制し得ると考えられる。
偏光子の吸収軸は、目的に応じて任意の適切な方向に設定され得る。吸収軸の方向は、例えば、長尺方向であってもよく幅方向であってもよい。長尺方向に吸収軸を有する偏光子は、製造効率に優れるという利点がある。幅方向に吸収軸を有する偏光子は、例えば、長尺方向に遅相軸を有する位相差フィルムといわゆるロールトゥロールで積層できるという利点がある。本明細書において「ロールトゥロール」とは、ロール状のフィルムを搬送しながら互いの長尺方向を揃えて積層することをいう。
上記偏光子を構成する樹脂フィルム(代表的には、PVA系樹脂フィルム)は、単一のフィルムであってもよく、樹脂基材上に形成された樹脂層(代表的には、PVA系樹脂層)であってもよい。PVA系樹脂層は、樹脂基材上にPVA系樹脂を含む塗布液を塗布して形成してもよく、樹脂基材上にPVA系樹脂フィルムを積層して形成してもよい。以下、偏光子が樹脂基材上に形成されたPVA系樹脂層である場合について具体的に説明する。ここではPVA系樹脂層が塗布形成される場合について説明するが、PVA系樹脂フィルムを積層する場合についても同様である。なお、偏光子が単一のPVA系樹脂フィルムである場合には、偏光子は当業界で周知慣用されている方法により作製され得るので、詳細な説明は省略する。
A-1-1.積層体の作製
最初に、樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成して、樹脂基材/PVA系樹脂層の積層体を作製する。
樹脂基材の形成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
後述する延伸において水中延伸方式を採用する場合、上記樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも延伸性に優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光子を作製することができる。1つの実施形態においては、樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような樹脂基材を用いることにより、製造時に寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光子の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、樹脂基材の吸水率は、例えば、形成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、形成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm~300μm、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂は、上記A-1項で説明したとおりである。
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは3μm~40μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。
PVA系樹脂層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
A-1-2.積層体の延伸
積層体の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸である。
積層体の延伸方向は、適宜、設定され得る。1つの実施形態においては、長尺状の積層体の長尺方向に延伸する。その結果、得られる偏光子の吸収軸は長尺方向に発現し得る。この場合、代表的には、周速の異なるロール間に積層体を通して延伸する方法が採用される。別の実施形態においては、長尺状の積層体の幅方向に延伸する。その結果、得られる偏光子の吸収軸は幅方向に発現し得る。この場合、代表的には、テンター延伸機を用いて延伸する方法が採用される。
延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。好ましくは、水中延伸方式である。水中延伸方式によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光子を作製することができる。
積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、例えば、上記自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよいし、上記水中延伸方式と空中延伸方式とを組み合わせてもよい。また、多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
積層体の延伸温度は、樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定され得る。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは50℃~85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。延伸浴への積層体の浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光子を作製することができる。
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光子を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
後述の染色により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
好ましい実施形態においては、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸した後、上記ホウ酸水中延伸および後述の染色を行う。このような空中延伸は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光子を作製することができる。例えば、上記樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、破断したりする。そのため、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光子を作製することができる。
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃~150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
A-1-3.染色
上記染色は、代表的には、PVA系樹脂層に二色性物質(好ましくは、ヨウ素)を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部~20重量部、より好ましくは0.1重量部~10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光子の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光子の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光子の単体透過率が40%~44%となるように、浸漬時間を設定する。
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。
A-1-4.その他の処理
上記積層体は、延伸、染色以外に、そのPVA系樹脂層を偏光子とするための処理が、適宜施され得る。偏光子とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~60℃である。好ましくは、架橋処理は上記水中延伸の前に行う。好ましい実施形態においては、染色処理、架橋処理および水中延伸をこの順で行う。
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃~100℃である。
A-2.表面保護フィルム
表面保護フィルム20は、所定のパターンで配置された貫通孔21,21…を有する。貫通孔が設けられる位置は、偏光子の露出部(非偏光部)が形成される位置に対応する。図4に示される貫通孔の配置パターンは、図3Aに示される露出部(非偏光部)の配置パターンに対応する。貫通孔は、任意の適切な形状を有し得る。貫通孔の形状は形成される露出部(非偏光部)の平面視形状に対応する。貫通孔は、例えば、機械的打ち抜き(例えば、パンチング、彫刻刃打抜き、プロッター、ウォータージェット)または所定部分の除去(例えば、レーザーアブレーションまたは化学的溶解)により形成される。
表面保護フィルムは、硬度(例えば、弾性率)が高いフィルムが好ましい。搬送および/または積層時の貫通孔の変形が防止され得るからである。表面保護フィルムの形成材料としては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。好ましくは、エステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂)である。このような材料であれば、安価である上に、弾性率が十分に高く、搬送および/または積層時に張力をかけても貫通孔の変形が生じにくいという利点がある。
表面保護フィルムの厚みは、代表的には20μm~250μmであり、好ましくは30μm~150μmである。このような厚みであれば、搬送および/または積層時に張力をかけても貫通孔の変形が生じにくいという利点を有する。
表面保護フィルムの弾性率は、好ましくは2.2kN/mm2~4.8kN/mm2である。表面保護フィルムの弾性率がこのような範囲であれば、搬送および/または積層時に張力をかけても貫通孔の変形が生じにくいという利点を有する。なお、弾性率は、JIS K 6781に準拠して測定される。
表面保護フィルムの引張伸度は、好ましくは90%~170%である。表面保護フィルムの引張伸度がこのような範囲であれば、搬送中に破断しにくいという利点を有する。なお、引張伸度は、JIS K 6781に準拠して測定される。
1つの実施形態としては、図4に示すように、長尺状の偏光子10に、長尺状で所定のパターンで配置された貫通孔21,21…を有する表面保護フィルム20をロールトゥロールにより積層する。貫通孔を有する表面保護フィルムを用いることにより、上記偏光子の露出部(非偏光部)を良好に形成することができる。
偏光子と表面保護フィルムとをロールトゥロールで積層する場合、長尺状の表面保護フィルムがロール状に巻き取られた表面保護フィルムロールから表面保護フィルムを巻き出して、偏光子に積層してもよいし、表面保護フィルムに貫通孔を形成した後、連続的に(一旦、表面保護フィルムを巻き取ることなく)偏光子に積層してもよい。
上述のように、代表的には、表面保護フィルム20は、任意の適切な粘着剤を介して偏光子10に剥離可能に貼り合わせられる。好ましくは、予め、粘着剤層が形成された表面保護フィルムに貫通孔を形成し、これを偏光子に貼り合わせる。表面保護フィルムの積層に用いられる粘着剤としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂などをベース樹脂とし、このベース樹脂に、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物などから選ばれる架橋剤、さらにはシランカップリング剤などが配合された粘着剤組成物が挙げられる。粘着剤層の厚みは、通常1μm~60μm、好ましくは3μm~30μmである。粘着剤層が薄すぎると粘着性が低下する、気泡が混入しやすくなるなどの不具合が生じるおそれがあり、厚すぎると粘着剤がはみ出すなどの不具合が生じるおそれがある。耐薬品性、密着性(例えば、後述の浸漬時における溶液の侵入を防ぐための)、被着体への自由度などの観点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
A-3.その他
保護フィルム30の形成材料としては、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。保護フィルムの厚みは、代表的には10μm~100μmである。1つの実施形態においては、保護フィルムの厚みは80μm以下である。このような厚みの保護フィルムを用いることにより、得られる偏光板の薄型化に寄与し得る。一方で、上記一方面側に凹部が形成された偏光子のもう一方面側に、このような厚みの保護フィルムを配置させた長尺状の偏光板をロール状に巻回した場合に、上記凹部が保護フィルムに巻き痕として転写される等の段差による不具合が発生しやすいと考えられる。このような実施形態においては、凹部の段差を小さくするメリットが顕著に得られ得る。
保護フィルムは、光学補償機能を有していてもよい(すなわち、目的に応じた適切な屈折率楕円体、面内位相差および厚み方向位相差を有していてもよい)。保護フィルムは、代表的には、接着層(具体的には、接着剤層、粘着剤層)を介して偏光子に積層される。接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤や活性エネルギー線硬化型接着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。
偏光子10が樹脂基材上に形成された樹脂層である場合、保護フィルム30の積層および/または樹脂基材の剥離が行われ得る。1つの実施形態においては、樹脂基材/偏光子の積層体の偏光子表面に保護フィルムがロールトゥロールにより積層され、次いで、樹脂基材が剥離される。
第2の表面保護フィルム40は、貫通孔が設けられていないこと以外は第1の表面保護フィルムと同様のフィルムが用いられ得る。さらに、第2の表面保護フィルムとしては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)フィルムのような柔らかい(例えば、弾性率が低い)フィルムも用いることができる。1つの実施形態においては、第2の表面保護フィルム40は、偏光子10の片側に、ロールトゥロールにより積層される。具体的には、第2の表面保護フィルム40は、任意の適切な粘着剤を介して偏光子10または保護フィルム30に剥離可能に貼り合わせられる。第2の表面保護フィルムを用いることにより、後述する化学処理において偏光子または偏光板(偏光子/保護フィルム)が適切に保護され得る。第2の表面保護フィルムは、第1の表面保護フィルムと同時に偏光子または偏光板に積層してもよく、第1の表面保護フィルムを積層する前に積層してもよく、第1の表面保護フィルムを積層した後に積層してもよい。好ましくは、第2の表面保護フィルムは、第1の表面保護フィルムを偏光子または偏光板に積層する前に積層される。このような手順であれば、保護フィルムの傷つきが防止される、および、巻き取り時において第1の表面保護フィルムに形成された貫通孔が痕として保護フィルムに転写されるのが防止されるという利点を有する。第1の表面保護フィルムを積層する前に第2の表面保護フィルムを積層する場合には、例えば、保護フィルムと第2の表面保護フィルムとの積層体を作製し、この積層体を樹脂基材/偏光子の積層体に積層した後に樹脂基材を剥離し、この剥離面に第1の表面保護フィルムを積層することができる。
図示しないが、本発明の偏光フィルム積層体は、目的に応じて任意の適切な光学機能層をさらに有していてもよい。光学機能層の代表例としては、位相差フィルム(光学補償フィルム)、表面処理層が挙げられる。
B.非偏光部の形成
上記非偏光部は、上記所望の光学特性が得られる限りにおいて、任意の適切な方法により形成され得る。1つの実施形態においては、非偏光部は、化学処理により偏光子を脱色することにより形成される。化学処理を施す際には、第1の表面保護フィルムによる保護に加え、偏光子10の他方面側が任意の適切なフィルム材により保護されていることが好ましい。このフィルム材としては、例えば、保護フィルム30、第2の表面保護フィルム40、偏光子10が樹脂基材上に形成された樹脂層である場合にはその樹脂基材が用いられる。
以下、非偏光部の形成を具体的に説明する。代表例として、図示例の偏光フィルム積層体100において化学処理による脱色(以下、化学的脱色処理とも称する)により偏光子に非偏光部を形成する場合を説明する。なお、図示例と異なる構成であっても同様の手順が適用可能であることは当業者に明らかである。
上記化学的脱色処理は、偏光フィルム積層体を塩基性溶液と接触させることを含む。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、樹脂フィルムの所望の部位に塩基性溶液を接触させることで、接触部のヨウ素含有量を容易に低減させることができる。
偏光フィルム積層体と塩基性溶液との接触は、任意の適切な手段により行われ得る。代表例としては、偏光フィルム積層体の塩基性溶液への浸漬、あるいは、塩基性溶液の偏光フィルム積層体への塗布または噴霧が挙げられる。浸漬が好ましい。図5に示すように、偏光フィルム積層体を長尺方向に搬送しながら脱色処理を行うことができるので、製造効率が顕著に高いからである。第1の表面保護フィルム(および、必要に応じて第2の表面保護フィルム)を用いることにより、浸漬が可能となる。具体的には、塩基性溶液に浸漬することにより、偏光子における第1の表面保護フィルムの貫通孔に対応する部分のみが塩基性溶液と接触する。例えば、偏光子が二色性物質としてヨウ素を含む場合、偏光子と塩基性溶液とを接触させることにより、偏光子の塩基性溶液との接触部分のヨウ素濃度を低減させ、結果として、当該接触部分(第1の表面保護フィルムの貫通孔により設定され得る)のみに選択的に非偏光部を形成することができる。このように、本実施形態によれば、複雑な操作を伴うことなく非常に高い製造効率で、偏光子の所定の部分に選択的に非偏光部を形成することができる。なお、偏光子にヨウ素が残存している場合、ヨウ素錯体を破壊して非偏光部を形成したとしても、偏光子の使用に伴い再度ヨウ素錯体が形成され、非偏光部が所望の特性を有さなくなるおそれがある。本実施形態では、後述の塩基性溶液の除去によって、ヨウ素自体が偏光子(実質的には、非偏光部)から除去される。その結果、偏光子の使用に伴う非偏光部の特性変化を防止し得る。
塩基性溶液による非偏光部の形成について、より詳細に説明する。偏光子の所定の部分との接触後、塩基性溶液は当該所定部分内部へと浸透する。当該所定部分に含まれるヨウ素錯体は塩基性溶液に含まれる塩基により還元され、ヨウ素イオンとなる。ヨウ素錯体がヨウ素イオンに還元されることにより、当該部分の偏光性能が実質的に消失し、当該部分に非偏光部が形成される。また、ヨウ素錯体の還元により、当該部分の透過率が向上する。ヨウ素イオンとなったヨウ素は、当該部分から塩基性溶液の溶媒中に移動する。その結果、後述の塩基性溶液の除去により、塩基性溶液と共にヨウ素イオンも当該部分から取り除かれる。このようにして、偏光子の所定部分に選択的に非偏光部(低濃度部)が形成され、さらに、当該非偏光部は経時変化のない安定なものとなる。なお、第1の表面保護フィルムの材料、厚みおよび機械的特性、塩基性溶液の濃度、ならびに偏光フィルム積層体の塩基性溶液への浸漬時間等を調整することにより、塩基性溶液が所望でない部分まで浸透すること(結果として、所望でない部分に非偏光部が形成されること)を防止することができる。
上記塩基性溶液に含まれる塩基性化合物としては、任意の適切な塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩、アンモニア水等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物が用いられ、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが用いられる。ヨウ素錯体を効率良くイオン化することができ、より簡便に非偏光部を形成することができる。これらの塩基性化合物は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記塩基性溶液の溶媒としては、任意の適切な溶媒を用いることができる。具体的には、水、エタノール、メタノール等のアルコール、エーテル、ベンゼン、クロロホルム、および、これらの混合溶媒が挙げられる。ヨウ素イオンが良好に溶媒へと移行し、後の塩基性溶液の除去において容易にヨウ素イオンを除去できることから、溶媒は水、アルコールが好ましい。
上記塩基性溶液の濃度は、例えば、0.01N~5Nであり、好ましくは0.05N~3Nであり、より好ましくは0.1N~2.5Nである。塩基性溶液の濃度がこのような範囲であれば、効率よく偏光子内部のヨウ素濃度を低減させることができ、かつ、所望の部分でのヨウ素錯体のイオン化を防止することができる。
上記塩基性溶液の液温は、例えば、20℃~50℃である。偏光フィルム積層体(実質的には、偏光子の所定部分)と塩基性溶液との接触時間は、偏光子の厚みや、用いる塩基性溶液に含まれる塩基性化合物の種類、および、塩基性化合物の濃度に応じて設定することができ、例えば、5秒間~30分間である。
偏光子(樹脂フィルム)にはホウ酸が含まれ得る。例えば、上記延伸処理、架橋処理等の際に、ホウ酸溶液(例えば、ホウ酸水溶液)を接触させることでホウ酸が含まれ得る。偏光子(樹脂フィルム)のホウ酸含有量は、例えば10重量%~30重量%である。また、塩基性溶液との接触部におけるホウ酸含有量は、例えば5重量%~12重量%である。
好ましくは、上記塩基性溶液との接触後、塩基性溶液を接触させた接触部において、樹脂フィルムに含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を低減させる。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を低減させることにより、寸法安定性に優れた低濃度部を得ることができる。具体的には、加湿環境下においても、塩基性溶液との接触により形成された低濃度部の形状をそのまま維持することができる。
樹脂フィルムに塩基性溶液を接触させることにより、接触部にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物が残存し得る。また、樹脂フィルムに塩基性溶液を接触させることにより、接触部にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の金属塩が生成し得る。これらは水酸化物イオンを生成し得、生成した水酸化物イオンは、接触部周囲に存在する二色性物質(例えば、ヨウ素錯体)に作用(分解・還元)して、非偏光領域(低濃度領域)を広げ得る。したがって、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属塩を低減させることにより、経時的に非偏光領域が広がるのを抑制して、所望の非偏光部形状が維持され得ると考えられる。
上記水酸化物イオンを生成し得る金属塩としては、例えば、ホウ酸塩が挙げられる。ホウ酸塩は、樹脂フィルムに含まれるホウ酸が塩基性溶液(アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物の溶液)に中和されて生成し得る。なお、ホウ酸塩(メタホウ酸塩)は、例えば、偏光子が加湿環境下に置かれることにより、下記式に示すように、加水分解されて水酸化物イオンを生成し得る。
(式中、Xはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す)
好ましくは、接触部におけるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量が3.6重量%以下、好ましくは2.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下となるように当該含有量を低減させる。
なお、樹脂フィルムには、偏光子とするための各種処理を施されることにより、予め、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属が含まれ得る。例えば、ヨウ化カリウム等のヨウ化物の溶液を接触させることで、樹脂フィルムにカリウムが含まれ得る。このように、通常、偏光子に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属は、上記低濃度部の寸法安定性に悪影響を及ぼさないと考えられる。
上記低減方法としては、好ましくは、塩基性溶液との接触部に処理液を接触させる方法が用いられる。このような方法によれば、樹脂フィルムから処理液にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を移行させて、その含有量を低減させることができる。
処理液の接触方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、塩基性溶液との接触部に対し、処理液を滴下、塗工、スプレーする方法、塩基性溶液との接触部を処理液に浸漬する方法が挙げられる。
塩基性溶液の接触時に、任意の適切な保護材で樹脂フィルムを保護した場合、そのままの状態で処理液を接触させることが好ましい(特に、処理液の温度が50℃以上の場合)。このような形態によれば、塩基性溶液との接触部以外の部位において、処理液による偏光特性の低下を防止することができる。
上記処理液は、任意の適切な溶媒を含み得る。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール等のアルコール、エーテル、ベンゼン、クロロホルム、および、これらの混合溶媒が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を効率的に移行させる観点から、水、アルコールが好ましく用いられる。水としては、任意の適切な水を用いることができる。例えば、水道水、純水、脱イオン水等が挙げられる。
接触時の処理液の温度は、例えば20℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。このような温度であれば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を処理液に効率的に移行させることができる。具体的には、樹脂フィルムの膨潤率を著しく向上させて、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を物理的に除去することができる。一方で、水の温度は、実質的には95℃以下である。
接触時間は、接触方法、処理液(水)の温度、樹脂フィルムの厚み等に応じて、適宜調整され得る。例えば、温水に浸漬する場合、接触時間は、好ましくは10秒~30分、より好ましくは30秒~15分、さらに好ましくは60秒~10分である。
1つの実施形態においては、上記処理液として酸性溶液が用いられる。酸性溶液を用いることにより、樹脂フィルムに残存するアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物を中和して、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を化学的に除去することができる。
酸性溶液に含まれる酸性化合物としては、任意の適切な酸性化合物を用いることができる。酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素、ホウ酸等の無機酸、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、安息香酸等の有機酸等が挙げられる。酸性溶液に含まれる酸性化合物は、好ましくは無機酸であり、さらに好ましくは塩酸、硫酸、硝酸である。これらの酸性化合物は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
好ましくは、酸性化合物として、ホウ酸よりも酸性度の強い酸性化合物が好適に用いられる。上記アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の金属塩(ホウ酸塩)にも作用し得るからである。具体的には、ホウ酸塩からホウ酸を遊離させて、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を化学的に除去することができる。
上記酸性度の指標としては、例えば、酸解離定数(pKa)が挙げられ、ホウ酸のpKa(9.2)よりもpKaの小さい酸性化合物が好ましく用いられる。具体的には、pKaは、好ましくは9.2未満であり、より好ましくは5以下である。pKaは任意の適切な測定装置を用いて測定してもよく、化学便覧 基礎編 改訂5版(日本化学会編、丸善出版)等の文献に記載の値を参照してもよい。また、多段解離する酸性化合物では、各段階でpKaの値が変わり得る。このような酸性化合物を用いる場合、各段階のpKaの値のいずれかが上記の範囲内であるものが用いられる。なお、本明細書において、pKaは25℃の水溶液における値をいう。
酸性化合物のpKaとホウ酸のpKaとの差は、例えば2.0以上であり、好ましくは2.5~15であり、より好ましくは2.5~13である。このような範囲であれば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を処理液に効率的に移行させることができ、結果として、低濃度部における所望のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属含有量を実現することができる。
上記pKaを満足し得る酸性化合物としては、例えば、塩酸(pKa:-3.7)、硫酸(pK2:1.96)、硝酸(pKa:-1.8)、フッ化水素(pKa:3.17)、ホウ酸(pKa:9.2)等の無機酸、ギ酸(pKa:3.54)、シュウ酸(pK1:1.04、pK2:3.82)、クエン酸(pK1:3.09、pK2:4.75、pK3:6.41)、酢酸(pKa:4.8)、安息香酸(pKa:4.0)等の有機酸等が挙げられる。
なお、酸性溶液(処理液)の溶媒は上述のとおりであり、処理液として酸性溶液を用いる本形態においても、上記樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の物理的な除去は起こり得る。
上記酸性溶液の濃度は、例えば、0.01N~5Nであり、好ましくは0.05N~3Nであり、より好ましくは0.1N~2.5Nである。
上記酸性溶液の液温は、例えば20℃~50℃である。酸性溶液への接触時間は、樹脂フィルムの厚みや、酸性化合物の種類、および、酸性溶液の濃度に応じて設定することができ、例えば、5秒間~30分間である。
樹脂フィルムは上記処理以外に、任意の適切な他の処理がさらに施され得る。他の処理としては、塩基性溶液および/または酸性溶液の除去、ならびに、洗浄等が挙げられる。
塩基性溶液および/または酸性溶液の除去方法の具体例としては、ウエス等による拭き取り除去、吸引除去、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。上記乾燥温度は、例えば、20℃~100℃である。乾燥時間は例えば5秒~600秒である。
洗浄処理は任意の適切な方法により行われる。洗浄処理に使用する溶液は、例えば、純水、メタノール、エタノール等のアルコール、酸性水溶液、および、これらの混合溶媒等が挙げられる。洗浄は、代表的には、図5に示すように偏光フィルム積層体を搬送しながら行われる。洗浄処理は任意の適切な段階で行われ得る。洗浄処理は複数回行ってもよい。なお、図示例では、塩基性溶液の接触後に、水による洗浄、酸性溶液の接触および水による洗浄をこの順で行っている。
代表的には、上記のようにして非偏光部が形成された後(好ましくは、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の低減後)、第1の表面保護フィルムおよび第2の表面保護フィルムは剥離除去され得る。本発明の偏光フィルム積層体によれば、上記偏光子と表面保護フィルムとの積層、脱色および表面保護フィルムの剥離を長尺方向に搬送しながら(連続的に)行うことができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴に、偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布して保護フィルム(厚み25μm)を貼り合わせ、これを60℃に維持したオーブンで5分間加熱した。その後、基材をPVA系樹脂層から剥離し、幅1200mm、長さ43mの長尺状の偏光板(厚み5μmの偏光子(単体透過率42.3%)/保護フィルム)を得た。
幅1200mm、長さ43mのエステル系樹脂フィルム(厚み38μm)の一方の面に粘着剤(アクリル系粘着剤)を厚みが5μmになるよう塗布した。この粘着剤付エステル系樹脂フィルムに、ピクナル刃を用いて直径2.8mmの貫通孔を長尺方向に250mmおきに、幅方向に400mmおきに形成した。
得られた総厚30μmの偏光板の偏光子側に、上記粘着剤付エステル系樹脂フィルムを、ロールトゥロールで貼り合わせ、これを1mol/L(1N)の水酸化ナトリウム水溶液に30秒浸漬し、次いで、1mol/L(1N)の塩酸に10秒浸漬した。その後、60℃で乾燥し、偏光子に透明部を形成した。
[実施例2]
厚み60μmのPVAフィルム(クラレ社製、PE6000)を、30℃の水溶液に30秒浸漬させた(膨潤工程)。
次いで、PVAフィルムを、液温30℃の染色浴に、得られる偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.15重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、PVAフィルムを、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に5.5倍に一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、PVAフィルムを液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
洗浄後、PVAフィルムの片面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UY」、厚み40μm)を貼り合わせ、これを60℃に維持したオーブンで5分間加熱し、厚み22μmの偏光子(単体透過率42.5%)を有し、幅1200mm、長さ43mの偏光板を作製した。
得られた偏光板の偏光子表面に、上記貫通孔を形成した粘着剤付エステル系樹脂フィルムをロールトゥロールで貼り合わせ、これを1mol/L(1N)の水酸化ナトリウム水溶液に180秒浸漬し、次いで、1mol/L(1N)の塩酸に60秒浸漬した。その後、60℃で乾燥し、偏光子に透明部を形成した。
各実施例の偏光板の透明部について以下の項目について評価した。
1.透過率(Ts)
分光光度計(村上色彩技術研究所(株)製 製品名「DOT-3」)を用いて測定した。透過率(T)は、JlS Z 8701-1982の2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値である。
2.ヨウ素含有量
蛍光X線分析により、偏光子の透明部におけるヨウ素含有量を求めた。具体的には、下記条件により測定したX線強度から、あらかじめ標準試料を用いて作成した検量線により、偏光子のヨウ素含有量を求めた。
・分析装置:理学電機工業製 蛍光X線分析装置(XRF) 製品名「ZSX100e」
・対陰極:ロジウム
・分光結晶:フッ化リチウム
・励起光エネルギー:40kV-90mA
・ヨウ素測定線:I-LA
・定量法:FP法
・2θ角ピーク:103.078deg(ヨウ素)
・測定時間:40秒
実施例1および2で得られた偏光板の透明部(塩酸への浸漬前)は、それぞれ、透過率が90.3%(実施例1)と90.2%(実施例2)、ヨウ素含有量が0.08重量%(実施例1)と0.12重量%(実施例2)であった。偏光子の透明部以外の部位のヨウ素含有量は約5重量%であり、いずれの実施例においても二色性物質の含有量が他の部位よりも低い、非偏光部として機能し得る透明部が形成されていた。
3.ナトリウム含有量
蛍光X線分析により、偏光子の透明部におけるナトリウム含有量を求めた。具体的には、下記条件により測定したX線強度から、あらかじめ標準試料を用いて作成した検量線により、偏光子のナトリウム含有量を求めた。ナトリウム含有量の測定は、塩酸への浸漬前、および、浸漬後に行った。
・分析装置:理学電機工業製 蛍光X線分析装置(XRF) 製品名「ZSX100e」
・対陰極:ロジウム
・分光結晶:フッ化リチウム
・励起光エネルギー:40kV-90mA
・ナトリウム測定線:Na-KA
・定量法:FP法
・測定時間:40秒
実施例1の偏光板では、透明部のナトリウム含有量は塩酸への浸漬前は4.0重量%、浸漬後は0.04重量%であった。また、実施例2の偏光板では、透明部のナトリウム含有量は塩酸への浸漬前は4.1重量%、浸漬後は0.05重量%であった。
また、各実施例で得られた偏光板を65℃/90%RHの環境下に500時間置いたところ、いずれの実施例においても加湿試験前後で透明部のサイズの大きな変化は見られなかった。同様の加湿試験を塩酸への浸漬を行わなかった以外は実施例1および2と同様にして作製した偏光板について行ったところ、透明部のサイズはいずれの偏光板においても約1.3倍と大きくなっていた。
さらに、キヤノン社製光学計測器「ZYGO New View 7300」を用いて、透明部付近の表面平滑性を測定した。実施例1および2の透明部付近の表面平滑性(凹凸の大きさ)の評価結果を図6(a)、(b)に示す。偏光子の厚みが5μmである実施例1では、透明部(凹部)と他の部位との段差が0.8μm以下と小さく、表面がより平滑であった。