JP7367850B2 - 質量分析装置及び方法 - Google Patents

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Description

本発明は、質量分析を行うために荷電粒子を操作するための装置及び方法に関し、例えば、前記目的のためにイオン等の荷電粒子を制御する装置及び方法に関する。これは荷電粒子の質量電荷比や分析等に関係するものとすることができる。
特許文献1に少なくとも1つの引き出し領域を備えるイオンガイドであって、その引き出し方向がイオンガイドの光学軸に略直交しているものが開示されている。引き出されたイオンの分析には飛行時間(ToF)質量分析計が好まれる。
特許文献1において、イオンガイドの中を進む間に半径方向に閉じ込められて冷却されたイオンのビームを直交方向にうまく引き出すことができることが実験的に証明されている。イオンを緩やかな直流勾配により軸に沿って押し進めることができた。引き出しの前にトラップ内で追加冷却を行う必要はない。トラップ内での冷却を省略すれば質量分析をはるかに高いスループットで行うことができる。特許文献1では最大で100倍の増加が予想されている。
分析のデューティサイクルを更に上げるため、連続的なイオンビームの代わりにイオンの群れを用いることが特許文献1で提案されている。この場合、直交引き出しの「ショット」間に生じるイオンの無駄を低減させることができる。そのために以下の各実施形態が提案されている。本願の図1(特許文献1の図6に相当)に示すように、それらは主極(82)とイオンを一群に集める補助的な分割ロッド(84)とを有する四重極電極構造(80)を備えている。本願の図2(特許文献1の図7に相当)に示すように、これらの実施形態では一対の主ロッドがスリット(88)を持つ分離したセグメントを有しており、イオンパケットが引き出し領域(86)に達したときにそこに引き出しポテンシャルを印加することができる。主ロッドはまたそれらに印加されるRF電圧により四重極場を形成することによりイオンを半径方向に閉じ込める。補助電極は、集群(バンチング)作用を規定するために、変化する直流電圧を有している。
ところが、特許文献1はそのような変化する直流電圧を生成する方法の詳細を教示していない。ただし、その記載からすると、それは主にイオンガイドの輸送チャネルに沿って進む直流電圧のパルスである。
本発明者らは集群電圧の型が該電圧により押し進められるイオンのパラメータにおいて重要な役割を果たすことを経験から見出した。特許文献1に示唆されているように、分割された補助電極にパルス電圧を印加すると、急激ではあるが、関連するイオン群に含まれるイオンが加速するには十分ゆっくりと変化する電場が生成される可能性が非常に高い。
過去に実証されているように(例えば非特許文献1を参照)、インパルス電圧は集群されたイオン内にかなりのエネルギーを付与する。一定の条件(インパルスの一定の振幅及び一定の圧力範囲)についてはCID(衝突誘起解離)さえ観察されている。その加速プロセスが進行中の直流電圧波形内で隣の井戸へイオンを流出させる恐れがあり、これがイオンをm/zにより分離するとともに該イオンが引き出し領域に達するまでにその全体的な運動エネルギーを増大させる可能性がある。これはイオンの加速を生じさせる進行波の例である。即ち、イオン群は加速ステップと減速ステップを交互に繰り返すことにより伝播する。更に、非特許文献1で用いられている装置の構造は積層リング型ガイドである。本発明者らはこの構造がイオンガイドに沿ったイオンの輸送又は並進に適していないことを見出した。なぜなら、イオンガイドの積層リング構造が該イオンガイドの中心軸上及びその近傍に畝のある捕捉電場を生じさせるからである。本願の図3は積層リング型イオンガイドに関連付けられた捕捉電場の擬似ポテンシャルを示している。図中に示した畝は静止しており、かなりの大きさがある。いかなる種類の輸送ポテンシャルによりガイド軸に沿ってイオンの群れを輸送しても結果的にイオンの冷却が不完全になり、ひとたびイオン群が高真空領域内へ運び込まれてしまうと、かなりの膨張とイオン損失が生じる可能性がある。換言すれば、擬似ポテンシャルの畝がそこを通過する輸送中のイオンと相互作用し、それらのイオンを加熱するのである。
集群波形は特許文献2において詳しく説明されている。このような波形の最も簡単な例は以下のようなものである。
Figure 0007367850000001


ここでtは時間(秒)、Uは振幅(ボルト)、Tは低周波進行波の周期(秒)、Φは進行波の位相、fはRF波形の周波数(Hz)、φはRF波形の高周波(HF)振動の初期位相である。全体でイオンガイドのチャネルを成す一連の電極の各々に対し、この波形が該波形のそれぞれ異なる位相(Φ)において印加される。
進行波Φの間の番号と位相の関係は、該進行波を作り出すN個の電極の組の繰り返しにおける電極の数に依存する。それは一般に、Φ=2π*i/N+Φという規則に従う。ここで、i=0,1,…,N-1であり、Φは任意の初期位相である。一般に、周波数1/Tはfよりもかなり低くすべきであり、例えばf=1MHz、1/T=1kHzとする。本願の図4(a)及び(b)は、特許文献2に記載された波形を用いて、8個の電極(N=8)の組の繰り返しにより形成されたイオンガイドの長軸における擬似ポテンシャルの例を示している。本開示は、特許文献2に開示された特別な構造、即ち、一対のロッドが連続的でもう一対のロッドが細かく分割されている四重極イオンガイドに特に関係しているが、それ以外を排除するものではない。なお、後者のロッドは集群電極とも呼ばれる。構造そのものより、むしろもっと重要な特徴はこの構造が作り出す電場である。後述するように、所望の電場配置を作り出す方法は数多く存在する。
上記波形の主たる目的は、結果として生じる電気ポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル)にイオンガイドの軸に沿って移動する極大と極小の列を作り出すことである。このように移動する極大と極小は、進行波が軸に沿って一定の速度L/Tで伝播するという効果を生み出す。ここでLは繰り返されるN個の電極の組の軸方向の長さである。このような進行波により、正及び負の帯電粒子を進行波の同じ極小(井戸)内に保つことができる。これにより当該イオンの化学反応、例えば電子移動解離(ETD)法による低エネルギーでのイオンの断片化が可能になる。
これは最も重要なことであるが、イオンの群れを生成するこのような方法では、イオンの輸送中に、好ましくは無制限の時間の間、該イオンを冷却状態に保つことができることが望ましい。イオンの運動エネルギーを中性ガス粒子との衝突(これは周知の冷却法である)により熱エネルギーにまで低減させたら、たとえガスとの衝突がほとんどない高真空領域に運び込まれても、前記のような進行波がイオンの低エネルギーを必要なだけ長い時間、維持できることが望ましい。これは飛行時間(ToF)質量分析計と組み合わせる場合に非常に望ましく且つ有用な特性である。なぜなら、典型的なToF質量分析計の作動圧力は10-4mbarよりずっと低く、イオンガイドの引き出し領域へまとめて送ろうとしているイオンは既に熱エネルギーにまで冷却されているからである。それ故、最も望ましくは、前記波形が、衝突性の冷却によりイオンが熱エネルギーにまで冷却された高圧領域から、引き出し領域の低圧領域まで、イオンの運動エネルギーを低く、即ちほぼ熱エネルギーに保ったまま、イオンを移送することができるべきであり、その結果、イオンが直ちに引き出され、加速されてToF分析計内に入ることができるようにすべきである。それ故、最も望ましくは、イオンガイドの引き出し領域内に達したイオンは直ちにToF内へ引き出されるため、引き出し領域において引き出しの前に高めのガス圧の領域や追加の冷却時間を設けたりする必要がない。
これは、従来のイオントラップToF(IT-TOF)及びリニアイオントラップToF(LIT-TOF)の構成に比べて大きな利点となる。従来の構成ではイオンがパルス状の直流電圧でイオントラップに送られた後、熱平衡の状態まで冷却するのに十分な時間を与えられてからToFへ引き出される。これらの従来技術の機器では、引き出し領域内の圧力が冷却時間とToF分析計に係るガス負荷との間の妥協の産物となる。
US 2014/0070087 A1 US 9536721 B2 US 8067747 WO 2018/114442
K.Giles et al, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004; 18: 2401-2414
本発明は上記のような事情に鑑みて成されたものである。
本発明は、本明細書に記載の態様及び好ましい特徴の組み合わせを、そのような組み合わせが明らかに認められない又は明示的に回避されている場合を除き、含むものである。
本発明は、最も包括的な第1の態様において、波形の極小が拡大され、ポテンシャル井戸の極小に対応する(又は一致する)ように意図的に成形された波形に従って時間的に変化するように制御される電圧を集群電極に印加することにより荷電粒子を集める又は集群するポテンシャル井戸を規定する荷電粒子ガイド(即ちイオンガイド)内に電場を発生させることを提案する。これはポテンシャル井戸内における荷電粒子の加熱を抑制する上で非常に役立つことが分かった。本発明は好ましくは「一定速度の」イオン集群装置及び方法を提供する(即ちイオン群に加速のない運動をさせる)ものとすることができる。
例えば、波形が連続的に滑らかで、最小値まで低下し、その間は一定、又は事実上/実際上一定、又は少なくとも僅か若しくは無視できる程度にしか変化しない、というように成形することができる。波形を成形することにより、その極小が有限の時間持続して(即ち、時間的に拡大されて)波形自身の周期全体のかなりの部分になることを確実にすることができる。そのとき、ポテンシャル井戸内にあるイオンの群れに最も近い集群電極に印加される電圧は、波形(及び電圧)が該波形の極小の範囲内の一時点に達したように構成することができ、ポテンシャル井戸の極小(例えば底部)の形成に寄与することができる。同様に、イオンの群れからより遠い集群電極に印加される電圧は、波形(及び電圧)が該波形の極小の範囲外の一時点に達したように構成することができ、ポテンシャル井戸の側部/壁の形成に寄与することができる。
本明細書で「波形」という用語は少なくとも、周期的に又は波状に値が変化する量(例えば交流電圧、或いはRF電圧に印加される交流変調包絡線)への言及を含むものと理解してもよいが、これに限られない。「電圧波形」は本明細書ではこの文脈で理解してもよい。文脈によっては、「電圧波形」への言及は、高周波交流電圧信号(RF信号等)ではなく、時間と共により緩やかに変化する電圧の周期的な又は波状の変化への言及を含むものと理解してもよい。これは当業者であれば容易に分かるであろう。「電圧波形」とは、値が時間と共に「脈動して」おり、一定の極性を持つ交流電圧への言及を含んでいてもよい。これは、高周波RF電圧信号に印加された変調又は該信号の包絡線関数である「電圧波形」を含んでいてもよく、また文脈上必要であれば、基礎となるRF信号成分を持たない純粋な「電圧波形」を含んでいてもよい。波形には「周期」があってもよく、「周期」は振動性又は周期性の現象において続けて生じる同じ状態の間の時間間隔(T)への言及を含むものと理解してもよい。
波形は略滑らかに並進させられることが好ましい。つまり、ポテンシャル(及びその特徴)が、イオンの加速及び減速が滑らかになるように滑らかに移動することが好ましい。最も好ましくは、軸上のポテンシャルが装置の軸に沿って略一定速度で移動するようにする。
波形により形成されるポテンシャル井戸は、イオンが滑らかに移動できるようにするために、波形のエッジの滑らか且つ緩やかな立ち上がり及び立ち下がりによって滑らかに移動することが好ましい。
第1の態様において、本発明は荷電粒子操作装置を提供することができる。該装置は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極と、
前記チャネル内に電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に、周期(T)を持つ波形に従って変化する第1電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットであって、前記電場のポテンシャルが、ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有し、前記ポテンシャル井戸が、前記周期(T)と略等しい時間の間に該ポテンシャル井戸の長さ(例えば前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる、電源ユニットと、
前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットと
を備え、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
更に、最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して局所的な波形極大がない。言い換えれば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
前記第1電源電圧は、擬似ポテンシャルにより前記ポテンシャル井戸が形成されるように前記波形に従って変調されたRF電圧信号を含むことができる。或いは、前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものであってもよい。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。
このようにすれば、前記波形は、集群電極に印加されるときには、荷電粒子を集群する滑らかな極小を有するポテンシャル井戸を生じさせることができ、同時に、その極小に最も近い集群電極は、有限の(即ち時間的に拡大された)極小の範囲内にあるときには第1電源電圧を受け取る。これは、それらの電極に印加される第1電源電圧信号内で生じる可能性があるノイズが前記波形によって大幅に抑制されるということを意味する。これにより、集群されたイオンが不所望の電圧インパルスにより加熱されることが少なくなる。また、前記波形が滑らかであることはポテンシャル井戸内に集群されたイオンの加熱の発生を避ける上でも助けになる。第1電源電圧が印加される電極により規定されるイオンガイドのチャネルの、開放された内部体積内で生成される電場は、空間的に進行する波状のポテンシャルであって、荷電粒子(例えばイオン)を集群してイオンガイドのチャネルに沿って進行波形の運動速度で運ぶことができるポテンシャルを含んでいてもよい。
前記第1電源電圧は、前記波形の適宜の異なる位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極のグループを成す)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。このようにすれば、空間的に広がった範囲にある連続する集群電極が同時に第1電源電圧をその略一定の極小に相当する値において受け取ることができる。その結果、前記略一定の極小が、前記軸方向に分割された集群電極のうちの当該複数の電極に沿って、イオンガイドのチャネルの軸沿いに空間的に広がることができる。
数学的には、「連続した」関数(解析関数か数値関数かを問わず)は、不連続点として知られる、値の急激な変化、断絶又は跳びのない関数である。「連続的に滑らか」という用語はこの意味への言及を含むものと理解してよい。好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義し、X=100×ΔU/Uとするとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T)を通して
Figure 0007367850000002

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの第1電源電圧波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000003

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば約12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。これにはポテンシャル井戸内で不所望のインパルス力が荷電粒子に働くことを防止できるという利点がある。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
前記電源ユニットは、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有する擬似ポテンシャルの形をしたポテンシャルを前記チャネル内に生成するために、前記波形に従って変調されたRF電圧信号を含む第1電源電圧を前記軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。
或いは、前記電源ユニットは、該印加された第1電源電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、進行する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成される)、該ポテンシャル井戸を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように、前記波形に従って変化する交流電圧(例えば非RF信号)を含む第1電源電圧を複数の集群電極に供給するように適合させることができる。
前記電源ユニットは前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を供給するように適合させることができる。
好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は周期的に時間変調されていない。前記第2電源電圧の振幅は略一定であってもよい。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として、又は少なくとも実質的又は近似的に四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
前記電源ユニットは、当業者にとって容易に利用可能であって関連の先行技術において見出される手法に従って所望の振幅(例えば数百ボルト)を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。例えば、そのような電圧信号は、前記第1電源電圧波形及び/又は前記第2電源電圧を供給するときに半径方向閉じ込め電極及び/又は軸方向に分割された集群電極に印加することができる。前記電源ユニットは、予め選択されたRFスイッチング周波数で2つの予め選択された電圧レベルの間でスイッチングを行うことにより方形波形を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。前記第1電源電圧波形を作り出すために用いられる2つの予め選択された電圧レベルは、そのいずれか一方又は両方を所望のやり方又は時間変化率で時間と共に変化させてもよいが、それは予め選択されたRFスイッチング速度よりもはるかに低速の変化とすることが好ましい。従って、予め選択された電圧レベルのいずれか一方又は両方を時間的に変化させると、RF波形の振幅変調に包絡線が生じる。前記時間変化は時間的な周期変化とすることができる。前記RF電圧信号の変調の包絡線の波形形状は使用者が予め決めた所望の形状とすることができる。或いは、前記電源ユニットは、前記第1電源電圧波形及び/又は前記第2電源電圧を供給するときに、前記波形のみに従って変化する交流電圧を含む電圧波形を生成するように構成することができる。即ち、前記波形はRF成分を含まないものでもよい。その場合、前記予め選択された電圧は、該電圧を規定/供給するために所望のやり方で時間と共に変化させられる交流電圧とすることができる。前記予め選択された電圧は極性が一定であってもよく、また形状が周期的でもよい。それは周期的に値が実質的にゼロ(又は少なくとも無視しうる値)まで減少してもよい。従って、このようにすれば、望ましくも、前記波形形状(振幅変調の包絡線か交流電圧に加えられた変化かを問わず)は、前記時間間隔(T)内の前記有限の時間(T)であって前記局所極小に対応する前記有限の時間(T)の間に、(変調の)振幅の値が略一定(例えば非ゼロ又は略ゼロ)になる部分を含むことができる。
各集群電極又は少なくとも一群の連続する集群電極はそのような波形(即ち、RF電圧信号に重畳された変調として、又は時間変化する交流電圧波形として)を供給され、連続する集群電極は、共通の時間周期的な変調のそれぞれ異なる位相にあるような各々の波形を受け取るようにしてもよい。後でより詳しく説明するが、これにより、前記連続する集群電極の端から端まで支えられた空間的に変化するポテンシャル(即ち、前記ポテンシャル井戸)を生じさせることができ、それにより、任意の時点において、各集群電極が、前記一群の集群電極(又は全ての集群電極)に沿って延在するポテンシャル場にそれぞれの局所的なポテンシャル値を付与し、前記ポテンシャル井戸を規定する。それぞれの局所的な寄与はその時点で寄与している集群電極に印加されている波形の値により決まる。
波形の時間変化を例えば一時的に停止することにより、前記ポテンシャル井戸の並進運動を停止し、当該電極グループ(又は全ての電極)の各集群電極に(時間変化なしで)引き続き印加される波形の値に従って該ポテンシャル井戸の形状及び構造を維持することができる。その後、前記ポテンシャル井戸の並進運動を再開するように、前記一群の集群電極(又は全ての集群電極)に含まれる各集群電極に印加された停止状態の波形の時間変化を再開することができる。波形の時間変化を逆転させることにより並進運動の向きを逆転させることができる。
前記電源ユニットは、要望に応じて、前記第1及び第2電源電圧の一方又は両方にRF電圧成分を供給するために、当業者にとって容易に入手可能な適宜の電子的なスイッチング装置(例えば厳密に時間調整されたMOSFET)を含むことができる。該スイッチング装置は、前記波形に従って変化する所定の直流電圧値をそれぞれ有する2つの直流電源の各々に対して電気的な接続及び切断を交互に行うことにより切り替わるように構成することができる。前記2つの直流電源の各々の所定の直流電圧値は極性が互いに逆であるものとすることができる。それは実際には、第1及び/又は第2電源電圧の高速振動するRF成分が正弦波形ではなく、むしろ方形波形のようなものであることを意味する。RF電圧信号は、例えば、選択的且つ電気的に各々の集群電極及び/又は半径方向閉じ込め電極を正及び負の給電レールに交互に接続することでRF電圧信号を供給するように高周波(例えばRF)スイッチを電気的に制御することにより供給することができる。前記2つの直流電源の各々の所定の直流電圧値は、前記電源ユニットにより、略同一の各々の波形に従って、又は異なる各々の波形に従って変化させることができる。このようにすれば、RF信号の負極性の部分に印加される波形変調とRF信号の正極性の部分に印加される波形変調とを一致させる又は異ならせることができる。
前記電源ユニットは、第1電源電圧を供給するように適合させた第1電源ユニットと、第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットとを備えることができる。このように電源ユニットを分ければ、集群電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御を、半径方向閉じ込め電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御から独立させることができる。これは操作の容易さ、複雑さの低減及び製造コストの低減の点で有利である。
望ましくは、前記ポテンシャルの前記局所極小の境界が該局所極小の第1の側に位置する第1局所極大と該局所極小の反対側である第2の側に位置する第2局所極大とにより定められている。前記ポテンシャル井戸は、一又は複数の局所極小を含む井戸床又は底部であって、該井戸床の両側に1つずつある2つの局所極大のそれぞれ一方を含む又は規定する2つの離れた井戸壁により境界を定められた井戸床又は底部を含むことができる。前記ポテンシャル井戸は、前方の局所極大(又は前方の井戸壁)と後方の局所極大(又は後方の井戸壁)を含み、前記前方の局所極大が前記ポテンシャル井戸の並進方向において前記後方の局所極大を先導する又はそれに先行するものとすることができる。換言すれば、好ましくは、後方の局所極大(又は後方の井戸壁)は前方の局所極大(又は前方の井戸壁)の後に続く。
前記井戸床を規定するポテンシャルの値は空間的に略滑らかに変化していることが好ましく、且つ1つの局所極小しか含んでいないことが好ましい。このようにすれば、前記ポテンシャル内の荷電粒子が前記井戸内で前記1つの局所極小に位置することができ、それにより、チャネルを通じた輸送及びそこからの引き出しの最中に荷電粒子の位置を正確に規定することができるため、望ましい。最も好ましくは、前記ポテンシャル井戸が装置の前記チャネルに沿って滑らかに、例えば一定速度で、並進/移動する。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて配置された複数の前記ポテンシャル井戸を同時に形成するように、前記第1電源電圧波形を前記複数の電極のうち集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは、そうして形成された複数の前記ポテンシャル井戸の各々を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。好ましくは、前記複数のポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
好ましくは、前記電源ユニットは、1つの前記ポテンシャル井戸を生成するように、又は前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成するように、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な第1電源電圧波形を集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記第1電源電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、時間変化する交流電圧波形としてのみ印加され、第1電源電圧にはRF電圧信号成分が含まれないようにしてもよい。RF周波数を有するRF電圧信号がこの波形により振幅変調される場合、そのRF周波数は約0.2MHzから約5MHzの範囲内とすることができる。他の周波数値を用いてもよい。
好ましくは、前記電源ユニットは、分割された電極の各集群電極に供給される第1電源電圧波形が隣の電極に同時に供給される電圧波形と比べて時間のずれ又は位相のずれを持つように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。好ましくは、略同一の時間的波形が複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。例えば、ある(n番目の)集群電極(nは正の整数)に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の異なる位相にある第1電源電圧波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、前記電源ユニットは、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がN個の集群電極の連続する他のグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相と略等しくなるように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、ある集群電極グループのN個の集群電極(例えば当該グループ及びそのすぐ隣の各グループ)に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。このようにすれば、N個の集群電極の各グループ/サブセットのn番目の集群電極がそれぞれ略同一の第1電源電圧波形をその周期的なサイクル中の略同一の位相において受け取る。換言すれば、集群電極n、n+N、n+2N、…、及びn+(M-1)Nがそれぞれ前記波形をその周期的なサイクル中の同じ点において受け取る。ここで、1≦n≦Nであり、MはN個の集群電極からそれぞれ成る複数の集群電極グループの総数である。
望ましくは、前記電源ユニットは複数のポテンシャル井戸を生成するために前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、前記電極が板状である又は平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。井戸間隔の構成はNの適切な値を選択することにより選択することができる。好ましくはN≧6である。これはポテンシャル井戸の滑らかな移動を確実にするために特に適した下限であることが分かった。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記第1電源電圧波形の波形周波数は、該波形周波数(Hz)をf=1/T、印加された第1電源電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
好ましくは、前記波形形状及び/又は前記波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における該波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記第1電源電圧波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記第1電源電圧波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロ(例えば、実際上又は事実上ゼロ)である。
前記波形の形状は数学的関数により定義されているものとしてもよい。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000004


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。
例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000005


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000006


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。
好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大値を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当するものとすることができる。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
本装置は、全体として前記波形を規定する複数対の座標一式を含む数値データが保存された記憶ユニットを備えていてもよい。換言すれば、前記波形のサイクルに沿って複数の別々の離散的な点に各々対応する前記波形の複数の別々の離散的な値がデジタル形式で本装置に保存されていてもよい。本装置は前記記憶ユニット内に保存された離散的なデジタル値に従って前記電圧波形を生成するように構成されていてもよい。前記波形のサイクル内で、該波形の2つの連続する保存済みの値の間にある各点に対応する該波形の各値は、本装置により、任意の適切な数値的内挿処理により生成することができる。
保存された前記数値データは、前記波形を、正規化された時点t=t/Tにおける、振幅U及び周期Tの波形を正規化した値U(t)=U(t)/Uにより表すものとすることができる。
保存された前記数値データは、前記波形を、数学的な解析関数(即ち等式で表された関数)の数値若しくは数値関数(即ち等式で表されたものではない関数)の数値により表すもの、又は、本装置のオペレータ若しくはユーザにより描かれた任意の波形曲線/形状に沿った複数の離散的な点において前記曲線/形状をデジタル的な数値(座標)へとデジタル化して得られたデジタル値として表すものとすることができる。
本明細書に開示されている適切な波形は、本発明のいずれの態様において用いる場合であっても、いずれもデジタル方式で記録してコンピュータのメモリに保存することができる。前記波形のN個の位相をN個のD/A変換器により作り出した後、N個の音声増幅器で増幅することで、集群イオンガイドに印加すべきアナログ波形を作り出す。前記波形を例えばN=8で規定する関数は、多数の離散的な時間ステップにより定義することができる。N=8である今の例では、1周期T当たり256個の離散的な時間ステップが適切な数であるが、32より大きい数とすべきである。一般に離散的な時間ステップの数はNの倍数であることが好ましい。従って、別の例として、N=6の場合、離散的なステップの数は36、72、108、144等とすることができる。好ましくは、本装置は、前記波形のサイクルに沿って複数の別々の離散的な点に各々対応する前記波形の複数の別々の離散的な値が保存された記憶ユニットを備えている。
好ましくは、前記ポテンシャル井戸の極小が井戸床を規定し、該井戸床を規定するポテンシャルの値が、時間と共に値が変化しない1つの局所極小しか含んでいない。
好ましくは、本装置は、前記チャネルの入口(イオン入口)における圧力が0.5mbarより低くなるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御するように構成されたバッファガス制御ユニットを備える。それに代えて、又はそれに加えて、該バッファガス制御ユニットは、前記チャネルの一方の端におけるバッファガスの圧力が該チャネルの他方の端における圧力の少なくとも20倍になるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御するように構成されていてもよい。前記チャネルの入口は、該チャネルの出口における圧力よりも高い圧力に保たれることが好ましい。
誤解を避けるために言えば、本明細書に開示された装置のいずれの態様においても、また本明細書に開示されたそれに対応する各方法においても、以下のように構成することができる。
(a)前記軸方向に分割されたロッドと前記半径方向閉じ込めロッドがいずれも軸方向に分割されている、及び/又は、
(b)RF電圧が、
a.前記軸方向に分割されたロッドには印加されるが前記半径方向閉じ込めロッドには印加されない、又は、
b.前記半径方向閉じ込めロッドには印加されるが前記軸方向に分割されたロッドには印加されない、又は、
c.前記軸方向に分割されたロッドと前記半径方向閉じ込めロッドの両方に印加される。この電極構造では、軸方向の1つの共通の位置にある4つの対向するセグメントの全てに交流電圧(好ましくは無変調の電圧)を印加することができる。つまり、集群ロッドのセグメントと半径方向閉じ込めロッドのセグメントが軸方向に同じの間隔を空けて同じ位置に配置されている。二重分割型の装置の例が図7(b)に示されている。
前記半径方向閉じ込め電極は軸方向に分割された電極を備えるものとすることができる。この半径方向閉じ込め電極は軸方向に分割されていてもよいし、分割された電極から成る軸方向領域と分割されていない連続的な電極から成る軸方向領域とを備えていてもよい。前記波形は1つのシヌソイド関数又は1組のシヌソイド関数群を含んでいてもよい。
上記を考慮すれば、本発明のこの態様では、荷電粒子をより強く軸方向に閉じ込めてガイドチャネルに沿って並進させるためのポテンシャル井戸を作り出すことができる。
上記装置は、対応する荷電粒子操作方法の手段となる。この方法は本発明の更に別の対応する態様である。それ故、本装置との関係で上述した発明の各特徴は、対応する方法の実装として理解することができる。
第2の態様において、本発明は荷電粒子操作方法を提供する。該方法は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を設けること、
電源ユニットを設け、それを用いて、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に、周期(T)を持つ波形に従って変化する第1電源電圧を供給することで前記チャネル内に電場を生成し、前記電場のポテンシャルが、ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有し、前記ポテンシャル井戸が、前記周期(T)と略等しい時間の間に該ポテンシャル井戸の長さ(例えば前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられること、
電源ユニットを設け、それを用いて、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給することで、前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること
を含み、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
最も好ましくは、本方法では、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は前記波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
好ましくは、本方法において、前記第1電源電圧は、擬似ポテンシャルにより前記ポテンシャル井戸が形成されるように前記波形に従って変調されたRF電圧信号を含むことができる。或いは、前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものであってもよい。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。
望ましくは、本方法によれば、前記第1電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。このようにすれば、空間的に広がった範囲にある連続する集群電極が同時に第1電源電圧をその略一定の極小に相当する値において受け取ることができる。その結果、前記略一定の極小が、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極に沿って、イオンガイドのチャネルの軸沿いに空間的に広がることができる。
望ましくは、本方法において、前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、本方法においては、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義することができ、そのとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
本方法は、好ましくは、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるように前記有限の時間(T)を制約することを含む。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
好ましくは、本方法において、Tの最小許容持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義することができる。好ましくは、本方法において、T内における前記波形の値の最大許容変化(ΔU)とTの最小許容持続時間との比を、X/T ≦1.0、又はより好ましくはX/T ≦0.75、又はより好ましくはX/T ≦0.5、又はより好ましくはX/T ≦0.25、又はより好ましくはX/T ≦0.1、又はより好ましくはX/T ≦0.05、又はより好ましくはX/T ≦0.01、又はより好ましくはX/T ≦0.001、となるように制約することができる。
好ましくは、本方法は、前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期内の前記時間Tの間、略連続的であるように、前記第1電源電圧波形を制御することを含むことができる。好ましくは、前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂/∂t)の値が、前記波形の略全周期Tの間、略連続的である。好ましくは、前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂/∂t)の値が、前記波形の略全周期Tの間、超えない。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000007

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
本方法は、前記波形に従って変調されたRF電圧信号を含む第1電源電圧を前記軸方向に分割された集群電極に供給することで、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有する擬似ポテンシャルの形をしたポテンシャルを前記チャネル内に生成することを含むことができる。
より一般化すると、好ましくは、本方法は、前記第1電源電圧波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的であるように制約することを含む。好ましくは、第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的であるように制約される。好ましくは、本方法では、波形振幅Uの前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000008

を満たすように制約される。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。これにはポテンシャル井戸内で不所望のインパルス力が荷電粒子に働くことを防止できるという利点がある。
或いは、本方法は、前記波形に従って変化する交流電圧(例えば非RF信号)を含む第1電源電圧を複数の集群電極に供給することで、該印加された第1電源電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、進行する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成される)、該ポテンシャル井戸を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させる、ということを含むことができる。
本方法は、前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を前記軸方向に分割された集群電極に(即ち、半径方向閉じ込め電極に加えて)供給することを含むことができる。前記第2電源電圧の振幅は好ましくは略一定である。好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は時間変調されていない。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
本方法は、予め選択されたRFスイッチング周波数で2つの予め選択された電圧レベルの間でスイッチングを行うことにより方形波形を有するRF電圧信号を生成することを含むことができる。本方法は、前記2つの予め選択された電圧レベルのいずれか一方又は両方を所望のやり方又は時間変化率で時間と共に変化させることを含んでいてもよいが、それは予め選択されたRFスイッチング速度よりもはるかに低速の変化とすることが好ましい。予め選択された電圧レベルのいずれか一方又は両方を時間的に変化させることで、RF波形の振幅変調に包絡線を生じさせることができる。前記時間変化は時間的な周期変化とすることができる。本方法は、前記時間間隔(T)内の有限の時間(T)であって前記局所極小に対応する有限の時間(T)間に(変調の)包絡線の値が略一定(例えば非ゼロ又は略ゼロ)になる部分を含むように、前記変調の包絡線の波形形状を作り出すことを含むことができる。
本方法は、各集群電極又は少なくとも一群の連続する集群電極にそのような変調されたRF電圧信号又は非RF波形を供給することを含むことができ、その際、連続する集群電極は、共通の時間周期的な変調のそれぞれ異なる位相にあるそのような変調された各々のRF電圧信号又は非RF波形を受け取るようにすることができる。
本方法は、選択的且つ電気的に各々の集群電極を正及び負の給電レールに交互に接続することで前記波形のRF振動成分を供給するように高周波(例えばRF)スイッチを電気的に制御することにより前記RF電圧信号を供給することを含むことができる。
本方法は、第1電源ユニットを設け、それを用いて第1電源電圧を供給すること、及び第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットを設けることを含むことができる。
望ましくは、前記局所極小が該極小の第1の側に位置する第1局所極大と該局所極小の反対側である第2の側に位置する第2局所極大とに囲まれている。前記ポテンシャル井戸は上述のように構成することができる。
前記井戸床を規定するポテンシャルの値は略滑らかに変化していることが好ましく、且つ1つの局所極小しか含んでいないことが好ましい。このようにすれば、前記ポテンシャル内の荷電粒子が前記井戸内で前記1つの局所極小に位置することができ、それにより、チャネルを通じた輸送及びそこからの引き出しの最中に荷電粒子の位置を正確に規定することができるため、望ましい。前記局所極小は、その境界を定めている2つの井戸壁と連続していて、値又は勾配に実質的に不連続がない(又は少なくとも大きな不連続がない)ことが好ましい。
本方法は、前記第1電源電圧波形を前記複数の電極のうち集群電極に供給することで、前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて配置された複数の前記ポテンシャル井戸を同時に形成することを含むことができる。好ましくは、そうして形成された複数の前記ポテンシャル井戸の各々を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。好ましくは、前記複数のポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
本方法は、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な第1電源電圧波形を集群電極に供給することで前記ポテンシャル井戸を生成すること、又は前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成することを含むことができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記第1電源電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまり第1電源電圧にRF電圧信号が含まれない状態で印加されてもよい。RF周波数を有するRF電圧信号がこの波形により振幅変調される場合、そのRF周波数は約0.2MHzから約5MHzの範囲内とすることができる。
本方法は、分割された電極の各集群電極に供給される第1電源電圧波形が隣の電極に同時に供給される電圧波形と比べて時間のずれ又は位相のずれを持つように、前記第1電源電圧波形を供給することを含んでもよい。好ましくは、略同一の時間的波形が複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。例えば、ある(n番目の)集群電極(nは正の整数)に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある第1電源電圧波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
本方法は、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相と略等しくなるように、前記第1電源電圧波形を供給することを含むことができる。例えば、本方法は、ある集群電極グループのN個の集群電極(例えば当該グループ及びそのすぐ隣の各グループ)に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記第1電源電圧波形を供給することを含むことができる。
本方法は、複数のポテンシャル井戸を生成するために前記第1電源電圧波形を供給することを含むことができる。隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、前記電極が板状である又は平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。本方法は、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整することを含むことができる。例えば、好ましくはNは8以上である。
本方法は、前記第1電源電圧波形の波形周波数(Hz)をf、印加された第1電源電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例するように(例えばv=f・L)、前記波形周波数を制御することを含むことができる。
好ましくは、本方法は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における前記第1電源電圧波形の最大電圧値の約10%以下になるように、前記第1電源電圧の前記波形形状及び/又は前記波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)を制御することを含むことができる。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記第1電源電圧波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記第1電源波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
望ましくは、本方法は、前記波形に数学的関数により定義された形状を与えることを含む。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000009


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000010


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000011


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
本方法は、前記波形のサイクルに沿って複数の別々の離散的な点に各々対応する前記波形の複数の別々の離散的な値が保存された記憶ユニットを設けることを含むことができる。
本方法は、前記チャネルの出口における圧力が0.5mbarより低くなるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御することを含むことができる。また本方法は、前記チャネルの一方の端におけるバッファガスの圧力が該チャネルの他方の端における圧力の少なくとも20倍になるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御することを含むことができる。
更なる態様において、本発明は、上述した方法を備える、イオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップの制御方法を提供することができる。
別の態様において、本発明は、質量分析装置、又はイオンガイド装置、又はマスフィルタ装置、又は質量分析計、又はイオントラップ装置に上述の方法を実行させるように構成されたコンピュータ実行可能な命令を格納したコンピュータ読取可能な媒体を提供することができる。当該装置は、前記構成されたコンピュータ実行可能な命令を実行するために信号処理ユニットを備えていてもよく、又はプログラムされた若しくはプログラム可能な(例えば、コンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を備える)プロセッサ若しくはコンピュータを備えていてもよい。
本開示の第3の態様は直交加速型飛行時間質量分析計(oaToF)を改良するために有用な方法及び装置に関する。より詳しくは、本開示のこの態様は、イオンガイドから軸方向に引き出す方法及び装置に関するものであって、引き出されたイオン(又はより一般的に荷電粒子)を、oaToF分析計を改良するようなやり方でoaToFの「パルス化」領域に入力するのに特に好適である。
最も一般的には、本発明のこの第3の態様では、少なくとも部分的に擬似ポテンシャルを用いて生成される、軸方向に進行するポテンシャル井戸の深さを操作することにより、荷電粒子を軸方向に放出することを提案する。擬似ポテンシャルの振幅又は強さがその中にあるイオンの質量電荷比(m/z)に反比例することを利用することにより、本発明は、イオンガイドから荷電粒子を軸方向に放出する/引き出すときに、進行する井戸により質量の判別を行うことができるような装置及び方法を提供することを目的としている。本発明は、イオン群のなかで質量の異なる荷電粒子をイオンガイドから異なる時間において軸方向に引き出す方法を提供するために、擬似ポテンシャルの大きさ又は振幅が該擬似ポテンシャルの作用を受けている又は知覚しているイオンのm/zに反比例するという特性を利用することを提案する。
従って、第3の態様において、本発明は荷電粒子操作装置を提供することができる。該装置は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極と、
電源電圧を、
(a)前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給し、
(b)前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記一連の電極のうちの半径方向閉じ込め電極に供給する
ように適合させた電源ユニットと、
前記一連の電極のうち装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極であって、前記電源電圧を受け取りそれを用いて前記チャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成するように配置された電極を含む軸方向引き出し領域であって、前記擬似ポテンシャルは、前記ポテンシャル井戸の深さが該井戸の中で輸送される前記荷電粒子の質量電荷比(m/z)に従って変化し、前記ポテンシャル井戸の局所極大が軸方向引き出し領域へ向かって及び/又は軸方向引き出し領域に沿って軸方向に並進させられるときに前記深さが小さくなることにより、輸送されている異なる質量電荷比(m/z)の前記荷電粒子を各々異なる時点に放出する、というように規定されている、軸方向引き出し領域と、
を備えている。
前記ポテンシャル井戸は、一又は複数の局所極小を含む井戸床又は底部であって、該井戸床の両側に1つずつある2つの局所極大のそれぞれ一方を含む又は規定する2つの離れた井戸壁により境界を定められた井戸床又は底部を含むことができる。前記ポテンシャル井戸は、前方の局所極大(又は前方の井戸壁)と後方の局所極大(又は後方の井戸壁)を含み、前記前方の局所極大が前記ポテンシャル井戸の並進方向において前記後方の局所極大を先導する又はそれに先行するものとすることができる。換言すれば、好ましくは、後方の局所極大(又は後方の井戸壁)は前方の局所極大(又は後方の井戸壁)の後に続く。
前記井戸床を規定するポテンシャルの値は略滑らかに変化していることが好ましく、且つ1つの局所極小しか含んでいないことが好ましい。このようにすれば、前記ポテンシャル内の荷電粒子が前記井戸内で前記1つの局所極小に位置することができ、それにより、チャネルを通じた輸送及びそこからの引き出しの最中に荷電粒子の位置を正確に規定することができるため、望ましい。
前記ポテンシャル井戸の深さは、該ポテンシャル井戸が前記軸方向引き出し領域に向かって又は該領域に沿って軸方向に並進させられるときに小さくなるものとすることができる。これは、前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極大の高さが低くなるように装置を構成することにより達成できる。このとき、井戸の深さは、前記局所極小とその近くの先導する局所極大(例えば、当該局所極小のすぐ前の局所極大)との間のポテンシャル差により定まる。それに代えて、又はそれに加えて、前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極小の高さが高くなるように装置を構成することにより達成できる。このとき、井戸の深さは、先導する局所極小とその近くの局所極大(例えば、当該局所極小のすぐ前の局所極大)との間のポテンシャル差により定まる。
井戸深さの低減(即ち、局所極大の高さを低くすること)は、前進する擬似ポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くする漏れ電場の作用により、及び/又は、前記引き出し領域の外側から内部又は外部の直流ポテンシャルを印加することで、前進する擬似ポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くすることにより、達成することができる。外部の直流ポテンシャルは、前記軸方向引き出し領域(例えば、末端電極/出力端)と該引き出し領域を超えてイオンガイドの外側に位置する外部電極との間に生成される電位勾配を含むことができる。前記外部の直流ポテンシャルは、前進するポテンシャル井戸が前記一連の電極により規定された前記チャネルを出て前記電極により形成された漏れ電場領域に入る時及びその直後に、前記一連の電極により規定される前記チャネル内で、及び/又は、それらの電極を超えて局所的に、前進するポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くするという結果を得る任意の適切なやり方で選択及び印加することができる。前記軸方向引き出し領域は軸方向に分割された集群電極を含んでいてもよい。同領域は半径方向閉じ込め電極を含んでいてもよい。前記チャネルの末端電極は軸方向に分割された集群電極を含んでいてもよい。同末端電極は半径方向閉じ込め電極を含んでいてもよい。前記電源ユニットは、進行するポテンシャル井戸の全ての部分が最終的に前記チャネルの末端電極まで進むように(例えば、進行するポテンシャル井戸の後続部分が前記チャネルの末端電極に達したら、先行部分は停止しないように)、前記末端の軸方向に分割された集群電極へ電源電圧を供給するように適合させることができる。これにより、進行するポテンシャル井戸の全ての部分が確実に前記チャネルの漏れ電場領域内へと進んでその中に入るようになる。
井戸深さの低減(即ち、局所極小の高さを高くすること)は、擬似ポテンシャル井戸ではない進行するポテンシャル井戸が別の擬似ポテンシャル障壁に接してそれに抗して上昇することにより形成される合成ポテンシャル井戸の動的形状の変化により達成することができる。これには、進行するポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル障壁に向かって(例えば、更にそれに抗して)進むにつれて合成ポテンシャル井戸の床の高さを上げる効果があることが分かっている。
前記電源ユニットはRF電圧信号の形で前記軸方向に分割された集群電極に電源電圧を供給するように適合させることができる。従って、このように給電される集群電極は擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができる。このポテンシャルはポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。前記分割された集群電極は、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極を含んでいてもよい。前記電源ユニットは、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極に対し、該電極が擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができるように、RF電圧信号の形で電源電圧を供給するように適合させることができる。このポテンシャルは、前記チャネルの引き出し領域の長さに沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。前記電源ユニットは、前記ポテンシャル井戸を生成するために集群電極に供給されるRF電圧信号が、RF電圧信号の供給対象である前記チャネルの一端に配設された又は該一端を規定する電極にも同時に供給されるように構成されていてもよい。これにより、擬似ポテンシャル井戸の並進が前記引き出し領域を通って前記チャネルの末端の出力端まで進むことができる。こうして、擬似ポテンシャルの進行井戸を装置の漏れ電場領域内まで並進させることができる。
或いは、前記電源ユニットは、変調されたRF電圧信号ではなく、電圧波形信号の形で前記軸方向に分割された集群電極に電源電圧を供給するように適合させてもよい。従って、このように給電される集群電極は擬似ポテンシャルではないポテンシャルを規定する電場を生成することができる。このポテンシャルは前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。前記電源ユニットは、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極に対し、該電極が擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができるように、変調されたRF電圧信号の形で電源電圧を供給するように適合させることができる。これにより擬似ポテンシャル障壁を規定することができる。前記電源ユニットは、前記ポテンシャル井戸を生成するために集群電極に供給される前記非RF電圧波形信号が、変調されたRF電圧信号の供給対象である前記チャネルの一端に配設された又は該一端を規定する電極に同時に供給されないように構成されていてもよい。
前記擬似ポテンシャル障壁は前記引き出し領域内において前記チャネルの軸上で略静止している(例えば、該軸に沿って並進しない)ものとすることができる。前記擬似ポテンシャルは前記引き出し領域内において前記チャネルの軸上又は該軸に沿ってポテンシャル障壁を規定するような形状にすることができる。前記擬似ポテンシャル障壁は、前記ポテンシャル井戸の前記一又は複数の局所極小(例えば井戸床)のポテンシャルの値を超える高さ又は振幅を持つ局所的な擬似ポテンシャル極大を規定するものとすることができる。好ましくは、前記ポテンシャル障壁は、前記ポテンシャル井戸の前記後方の局所極大のポテンシャルの値より低い高さ又は振幅を有する局所的な擬似ポテンシャル極大を規定するものとすることができる。従って、前記後方の井戸壁は好ましくは該井戸の局所極大と近くの該井戸の局所極小(例えば井戸床)の間に挟まれた領域を有しており、それに沿ってそのポテンシャルの値が前記擬似ポテンシャル障壁の局所極大を超える。これは、もしポテンシャル井戸内にある荷電粒子が、前記擬似ポテンシャル障壁の近傍における該ポテンシャル井戸の並進によりこの領域まで(ポテンシャルエネルギーの点で)持ち上げられると、該荷電粒子は擬似ポテンシャル障壁を乗り越え、前記チャネルに沿って並進方向に移動し続け(即ち、引き出され)、最終的に前記チャネルから外へ出る、ということを意味する。
その結果、進行するポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル障壁まで進む一方、それ以上は進まないように、該井戸を制御することができる。前記進行するポテンシャル井戸は、擬似ポテンシャル障壁を通り抜けて進んだり、それを通過して/超えて進んだりしないように制御することができる。電圧波形(即ち非RF)により形成される前記進行するポテンシャル井戸は、前記引き出し領域内に形成された静止した擬似ポテンシャル障壁の立ち上がりエッジに出会う、横切る又は「打ち上げる」ように前記引き出し領域に向かって並進させることができる。その際、2つの区間から合成ポテンシャル井戸が形成される。一方の区間は、(電圧波形により形成された)前記進行するポテンシャル井戸のうち、擬似ポテンシャル障壁にまだ達してはいないものの近くにあって接近しつつある部分を含み、他方の区間は擬似ポテンシャル障壁により形成される。
前記合成ポテンシャル井戸は2つの局所極大の間に配設された局所極小を含むことができる。局所極大(電圧波形ポテンシャル)の一方は他方の局所極大(擬似ポテンシャル障壁)の方へ進むものとし、後者は静止しているものとすることができる。その際、前記局所極小のポテンシャルは、進行するポテンシャルの後方の内壁が擬似ポテンシャル障壁の対面側に向かって進み、その面に打ち上げるのに従って上昇することができる。前記局所極小のポテンシャルの上昇はその値が前記擬似ポテンシャル障壁のピーク電位に一致するまで続き、両者が一致すると、もはや2つの局所極大に挟まれている局所極小がないという意味で前記ポテンシャル井戸は井戸ではなくなる。この時点において合成ポテンシャル井戸内の荷電粒子は該井戸から放出され、軸方向引き出し領域からも放出される。なお、前記擬似ポテンシャル障壁の振幅又は高さは本装置内の荷電粒子の質量電荷比(m/z)に反比例するため、ある荷電粒子を前記合成ポテンシャル井戸から放出するための条件、つまり該荷電粒子を放出する時点は、当該荷電粒子の質量電荷比(m/z)に反比例することになる。その結果、質量の判別ができるやり方で荷電粒子を軸方向に引き出すことができる。即ち、前記ポテンシャル井戸において比較的大きい質量電荷比(m/z)の粒子群に含まれる粒子は、比較的小さい質量電荷比(m/z)の粒子群に含まれる粒子よりも先に合成ポテンシャル井戸から放出される。
好ましくは、電圧波形(即ち、非RF)により形成される前記進行するポテンシャル井戸の後方の内壁の電圧振幅又は高さが前記擬似ポテンシャル障壁の電圧振幅又は高さを超えるようにする。電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸の前方の壁の電圧振幅も前記擬似ポテンシャル障壁の電圧振幅を超えることが好ましい。この条件は、ある質量電荷比(m/z)の荷電粒子を搬送するように装置(例えばイオンガイド、イオントラップ、又はマスフィルタ)を構成する際、又は、装置内においてある質量電荷比(m/z)の荷電粒子の軌道を安定させる(即ち、装置及びその動作パラメータに関連付けられた安定性ダイアグラムの「安定領域」に対応させる)際の、当該荷電粒子に関係するものとすることができる。
好ましくは、電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸の後方の内壁の電位勾配の値が略連続的で有限である(即ち、値が階段状に変化しない)ようにする。このようにすれば、前記進行するポテンシャル井戸の後方の内壁が前記擬似ポテンシャル障壁に抗して前進するにつれて前記合成ポテンシャル井戸の局所極小が時間と共に滑らかに且つ連続的に上昇するため、電気ポテンシャルの不連続性に起因するインパルス力のせいで合成井戸内の荷電粒子の加熱や井戸からの「蹴り出し」が生じることを回避できるという利点がある。
前記擬似ポテンシャルは前記擬似ポテンシャル障壁のピークを規定する局所極大を有していてもよく、該局所極大は前記引き出し領域内で静止していることが好ましい。好ましくは、前記擬似ポテンシャル障壁は局所極小を有しておらず、それにより、荷電粒子が該擬似ポテンシャル障壁内に捕捉されることが避けられる。
前記軸方向引き出し領域は、異なるm/zのイオンを各々異なる時点に放出するために、装置の前記チャネルの末端に配設されている又は該一端により規定されているものとすることができる。例えば、前記軸方向引き出し領域は、前記一連の電極の物理的な一端(例えば出力端)を規定する前記一連の電極の末端の又は最後の集群電極及び/又は半径方向閉じ込め電極を備えるものとすることができる。この場合、例えば、当該末端の又は最後の集群電極を前記進行するポテンシャル井戸を規定するために駆動することができる。あるいは、前記軸方向引き出し領域は、前記一連の電極の集群電極及び/又は半径方向閉じ込め電極ではない末端の又は最後の電極でありながらも前記一連の電極の物理的な一端(例えば出力端)を規定する電極を備えていてもよい。この場合、例えば、集群電極ではない当該末端の又は最後の電極を前記擬似ポテンシャル障壁を規定するために駆動することができる。
前記軸方向引き出し領域は、前記チャネルの末端に近接して配設され且つ該末端から軸方向に一定の軸方向間隔を空けて配置された一又は複数の引き出し電極を備え、前記軸方向間隔が、前記引き出し電極に印加される電圧及び装置の前記チャネルの末端に配設された又は該末端を規定する電極に印加される電圧によって内部に電位勾配を形成可能な加速領域(例えば電圧の傾斜を含む)を規定しているものとすることができる。
前記一又は複数の引き出し電極は、装置の前記チャネルの末端と該一又は複数の引き出し電極との間に電位勾配が形成可能であるように、前記チャネルの末端を規定する電極から離れた位置に配置することができる。これは、前記引き出し電極と前記チャネルの末端の間に全体として電位勾配を規定するような電圧を前記引き出し電極と前記チャネルの末端に印加し、その電位勾配により、前記チャネルから放出された荷電粒子を該チャネルの端部から遠ざけることにより実現することができる。前記一又は複数の引き出し電極は(例えばグループとして又は別々に)装置の前記チャネルの末端から約0.02mと約0.005mの間の間隔、好ましくは約0.015mと約0.005mとの間の間隔、例えば約0.01mの間隔だけ離れているものとすることができる。
前記電位勾配は約-7000V/mと約-100V/mの間の値とすることができる。負の電圧値は正極性の荷電粒子にとっての加速電圧を表す。当然ながら、負極性の荷電粒子に対しては加速電圧の値は正になるが、絶対値は同じである。例えば、前記電位勾配は約-7000V/mと約-2000V/mの間の値とすることができる。別の例では、前記電位勾配を約-2000V/mと約-100V/mの間、より好ましくは約-2000V/mと約-200V/mの間、更に好ましくは約-1500V/mと約-200V/mの間、更に好ましくは約-1200V/mと約-300V/mの間の値とすることができる。前記電位勾配は、装置の前記チャネルの末端から/末端を超えて(即ち、漏れ電場領域内で)延在する前記擬似ポテンシャルと前記引き出し電極から延在する直流ポテンシャルとを組み合わせたものを含むポテンシャルの空間的な勾配により定義することができる。
前記チャネルの末端に配設されている又は該末端を規定している電極は前記集群電極と同じ形状、形態及び構成を持つ電極を含むことができる。或いは、前記チャネルの末端に配設されている又は該末端を規定している電極は前記集群電極と形状、形態及び/又は構成が異なっていてもよい。
本装置は、前記チャネルを形成する電極により生成されるポテンシャルの前記一又は複数の局所極小のうち1つの局所極小(例えば任意の局所極小)よりも低い直流ポテンシャルを規定する電場を生成するように前記引き出し電極に電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットを備えることができる。前記電源ユニットは前記引き出し電極に加速用直流電圧を供給するように適合させることができる。例えば、正イオン用の直流電圧は約-5Vと0Vの間、又は約-4Vと0Vの間、又は約-3Vと0Vの間、又は約-2Vと0Vの間、又は約-1Vと0Vの間の値とすることができる。該電圧は0Vでもよい(即ち、電圧を印加しない又は接地電圧を印加する)。もちろん、これらの電圧値は負イオンに用いる場合には極性を負ではなく正にすべきである。状況に合うものであれば他の電圧値も可能である。
本装置は、前記引き出し領域から引き出された荷電粒子を受け取って該受け取った荷電粒子の軌道を収束させるように配置された一又は複数の荷電粒子光学素子(例えばイオン光学素子、レンズ等)を備えることができる。例えば、一又は複数のイオン光学レンズ(例えばアインツェルレンズ等)を前記引き出し領域の下流に前記のように配置することができる。例えば、前記引き出し電極がそのような荷電粒子光学素子の少なくとも一部の機能も果たしてもよい。これは、引き出された荷電粒子を引き出し領域の下流にある所望の場所、例えば飛行時間(ToF)質量分析装置の入口(例えばそのフライトチューブ)へと方向付けて位置決めすることを支援する。従って、引き出された荷電粒子を正確且つ効率的にToF分析装置に渡すことができる。
例えば、前記引き出し電極は、飛行時間(ToF)質量分析装置内の加速電極(「押出し(pusher)電極」又は「パルス化(pulser)電極」とも呼ばれる)の少なくとも一部を含み、その機能も果たすものとすることができる。下流方向に進んで飛行時間(ToF)質量分析装置に導入された後、荷電粒子はToF質量分析装置の直交加速電極に接近し、そこで該直交加速電極により生成される電場により強く押されて所定のタイミングで直交方向に加速されつつToF質量分析装置のフライトチューブに沿った飛行を開始する。こうして直交加速電極から加速された荷電粒子は、まずToF分析装置のフライトチューブ内の飛行空間内で自由飛行した後、リフレクタにより形成された反射電場により逆方向に押し返され、再度飛行空間内を自由飛行して、最後にToF質量分析装置のイオン検出器に達する。このように、本装置内のポテンシャル井戸内の荷電粒子の軸方向の並進によりToFへ荷電粒子を供給することが可能であり、該ToFにおいては、供給された荷電粒子の軸方向の運動をToFのフライトチューブ内での直交方向の運動に変換し、ToFスペクトル測定を行うことができる。本装置はこのような飛行時間(ToF)質量分析装置を含むことができる。本発明は、入口が「押出し」又は「パルス化」電極として構成されている限り、何ら特定の種類のToF分析計に限定されない(例えばそれは反射ミラーを2組以上備える分析計とすることもできる)。
好ましくは、本装置は、荷電粒子の前述の飛行を実現するために前記直交加速電極において前記電場を生成するように構成された押出し電圧信号を前記飛行時間(ToF)質量分析装置の加速電極に印加するように構成することができる。前記押出し電圧信号は周期的なものとすることができる。前記押出し電圧信号は、前記並進するポテンシャル井戸を生成するための集群電極に印加される周期的な電圧信号と同期させることができる。前記並進するポテンシャル井戸を生成するための集群電極に印加される周期的な電圧信号の周期(例えば、連続したポテンシャル井戸が次々に引き出し領域へ到着する時間間隔)をTとし、kを正の整数とするとき、前記周期的な押出し電圧信号の周期はk×Tと略一致するものとすることができる。前記周期的な押出し電圧信号の位相は、所定の位相差又は位相遅延に応じて、集群電極に印加される周期的な電圧信号の位相とずれるように制御することができる。前記所定の位相差又は位相遅延は、引き出し領域の場所(例えば、末端出力端)と加速電極の場所との間の空間的な距離(例えば、前者から後者までの下流への進行距離)である荷電粒子通過距離に応じて決めることができる。これにより、押出し電圧信号の前記所定のタイミングを達成し、引き出し領域から引き出された荷電粒子の到着時間とToF質量分析装置の直交加速電極における押出し電圧の印加との同期を達成することができる。例えば、前記位相遅延δΦは次式で決定することができる。
Figure 0007367850000012


ここで、vはポテンシャル井戸の並進速度、Tは集群電極に印加される周期的な電圧信号の周期、δxは荷電粒子通過距離が、連続するポテンシャル井戸の間(例えば、連続するポテンシャル井戸内で対応する箇所又は特徴部分の間)の空間的な距離の整数倍をどれだけ超過しているかという分量である。言い換えれば、荷電粒子通過距離はm×W+δxである。ここで、Wは各ポテンシャル井戸の軸方向の長さ(例えば前記チャネルに沿った軸方向の長さ)であり、mは正の整数である。ここで、v=W/Tである。
前記電源ユニットは、該印加された電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、進行する井戸を形成するポテンシャルが擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成され)、該ポテンシャル井戸を前記軸方向の引き出し領域に向かって前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように、(例えば、上述した本発明の第1及び第2の態様に従って)電源電圧波形を複数の集群電極に供給するように適合させることができる。電圧信号のこの供給は本発明の第1の態様に従って上述のように行うことができる。前記電源ユニットは、前記チャネル内に擬似ポテンシャルを形成するように前記引き出し領域において一又は複数の他の電極に電源電圧(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。好ましくは、前記引き出し領域の電極の少なくとも幾つかが、擬似ポテンシャル障壁(又はその一部)を生成するための電圧(例えばRF信号)を供給される一方、前記進行するポテンシャル井戸を生成するために用いられる電圧波形(例えば非RF)を同時に供給されない。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて配置された複数の前記ポテンシャル井戸を同時に形成するように、電源電圧波形を前記複数の電極のうち集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは、そうして形成された複数の前記ポテンシャル井戸の各々を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。好ましくは、前記複数のポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成するように、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な電源電圧波形を集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまりRF電圧信号がない状態で印加されてもよい。
好ましくは、略同一の時間的波形が前記複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。特に、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。例えば、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、前記電源ユニットは、N個(Nは正の整数)の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相と略等しくなるように、前記電源電圧波形を供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、ある集群電極グループのN個の集群電極に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記電圧波形を供給するように適合させることができる。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。特にこの点で、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。
望ましくは、前記電源ユニットが複数のポテンシャル井戸を生成するために前記電源電圧波形を供給するように適合させられている場合、隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、前記電極が板状である又は平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。前記電源ユニットは、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整するように適合させることができる。横の寸法又は直径が大きいチャンネルに対してはNの値も大きくする方がより好適であり得る。本発明者らは、この調整により、本装置から引き出される荷電粒子の質量を判別する分解能を改善できることを見出した。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記波形周波数は、変調周波数(Hz)をf、印加された電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
前記電源ユニットは、本発明の第1(及び第2)の態様に関連して上述したやり方で前記電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で前記電源電圧を供給するように適合させることができ、且つ、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さ(例えば、前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように適合させることができる。好ましくは、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
数学的には、「連続した」関数(解析関数か数値関数かを問わず)は、不連続点として知られる、値の急激な変化、断絶又は跳びのない関数である。「連続的に滑らか」という用語はこの意味への言及を含むものと理解してもよい。好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。
最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
前記電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものとすることができる。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。
前記電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義するとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000013

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの前記波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000014

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば約12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。
好ましくは、前記波形形状及び/又は前記波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における該波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
望ましくは、前記波形の形状は数学的関数により定義されている。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000015


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000016


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000017


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
本装置は、前記チャネル内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧を供給するように適合させた第1電源ユニットと、前記チャネル内において半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットとを備えるものとすることができる。このように電源ユニットを分ければ、集群電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御を、半径方向閉じ込め電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御から独立させることができる。これは操作の容易さ、複雑さの低減及び製造コストの低減の点で有利である。
前記電源ユニットは、前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を前記軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。前記第2電源電圧の振幅は好ましくは略一定である。好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は時間変調されていない。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
前記電源ユニットは、当業者にとって容易に利用可能であって関連の先行技術において見出される手法に従って所望の振幅(例えば数百ボルト)を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。例えば、そのような電圧信号は半径方向閉じ込め電極に印加することができる。前記電源ユニットは、予め選択されたRFスイッチング周波数で2つの予め選択された電圧レベルの間でスイッチングを行うことにより方形波形を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。前記2つの予め選択された電圧レベルは、そのいずれか一方又は両方を所望のやり方又は時間変化率で時間と共に変化させてもよいが、それは予め選択されたRFスイッチング速度よりもはるかに低速の変化とすることが好ましい。従って、予め選択された電圧レベルのいずれか一方又は両方を時間的に変化させると、RF波形の振幅変調に包絡線が生じる。前記時間変化は時間的な周期変化とすることができる。前記RF電圧信号の振幅変調の包絡線の波形形状は使用者が予め決めた所望の形状とすることができる。望ましくは、前記振幅変調の包絡線波形形状は、前記時間間隔(T)内の前記有限の時間(T)であって前記局所極小に対応する前記有限の時間(T)の間に、(変調の)振幅の値が略一定(例えば非ゼロ又は略ゼロ)になる部分を含むことができる。これは上述のように本発明の第1の態様に従ったものとすることができる。
前記電源ユニットは、当業者にとって容易に入手可能な適宜の電子的な高周波数スイッチング装置(例えば厳密に時間調整されたMOSFET)を含むことができる。それは実際には、前記波形の高速振動するRF成分が正弦波形ではなく、むしろ方形波形であることを意味する。RF電圧信号は、例えば、選択的且つ電気的に各々の集群電極を正及び負の給電レールに交互に接続することで前記波形のRF振動成分を供給するように高周波(例えばRF)スイッチを電気的に制御することにより供給することができる。
更なる態様において、本発明は、上述した装置を備えるイオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップを提供することができる。更に別の態様において、本発明は、上述した装置を備える飛行時間質量分析計(例えば、直交加速型飛行時間質量分析計)を提供することができる。
上記装置は、対応する荷電粒子操作方法の手段となる。この方法は本発明の更に別の対応する態様である。それ故、本装置との関係で上述した発明の各特徴は、対応する方法の実装として理解することができる。
従って、第4の態様において、本発明は荷電粒子操作方法を提供することができる。該方法は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を設けること、
電源ユニットを設け、それを用いて、電圧を
(a)前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給することで、前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成し、
(b)前記一連の電極のうちの半径方向閉じ込め電極に供給することで、前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること、及び、
前記一連の電極のうち装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極を含む軸方向引き出し領域を設け、該領域において前記電源電圧を受け取りそれを用いて前記チャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成し、前記擬似ポテンシャルは、前記ポテンシャル井戸の深さが該井戸の中で輸送される前記荷電粒子の質量電荷比(m/z)に従って変化し、前記ポテンシャル井戸の局所極大が軸方向引き出し領域へ向かって及び/又は軸方向引き出し領域に沿って軸方向に並進させられるときに前記深さが小さくなることにより、輸送されている異なる質量電荷比(m/z)の前記荷電粒子を各々異なる時点に放出する、というように規定されていること、
を含んでいる。
本方法は、一又は複数の局所極小を含む井戸床又は底部であって、該井戸床の両側に1つずつある2つの局所極大のそれぞれ一方を含む又は規定する2つの離れた井戸壁により境界を定められた井戸床又は底部を含むように、前記ポテンシャル井戸を制御することを含むことができる。本方法は、前記ポテンシャル井戸を制御することで、該ポテンシャル井戸が前方の局所極大(又は前方の井戸壁)と後方の局所極大(又は後方の井戸壁)を含み、前記前方の局所極大が前記ポテンシャル井戸の並進方向において前記後方の局所極大を先導する又はそれに先行する、というようにすることを含むことができる。換言すれば、好ましくは、後方の局所極大(又は後方の井戸壁)は前方の局所極大(又は後方の井戸壁)の後に続く。
本方法は、前記井戸床を規定するポテンシャルの値が空間的に略滑らかに変化しており且つ好ましくは1つの局所極小しか含んでいないように、該ポテンシャルの値を制御することを含むことができる。本方法は、前記局所極小が、その境界を定めている2つの井戸壁と連続していて、値又は勾配に実質的に不連続がない(又は少なくとも大きな不連続がない)ように、該局所極小を制御すること含むことができる。
本方法は、前記ポテンシャル井戸が前記軸方向引き出し領域に向かって又は該領域に沿って軸方向に並進させられるときにその深さが小さくなるように、該ポテンシャル井戸の深さを制御すること含むことができる。
これは、前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極大の高さが低くなるように該高さを制御することにより達成できる。このとき、井戸の深さは、前記局所極小とその近くの局所極大(例えば、最小の局所極大)との間のポテンシャル差により定まる。それに代えて、又はそれに加えて、前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極小の高さが高くなるように該高さを制御することを含んでいてもよい。このとき、井戸の深さは、前記局所極小とその近くの局所極大(例えば、最小の局所極大)との間のポテンシャル差により定まる。
井戸深さの低減(即ち、局所極大の高さを低くすること)は、前進するポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くする漏れ電場の作用により、及び/又は、前記引き出し領域の外側から外部の直流ポテンシャルを印加することで、前進するポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くすることにより、達成することができる。外部の直流ポテンシャルは、前記軸方向引き出し領域(例えば、末端電極/出力端)と該引き出し領域を超えてイオンガイドの外側に位置する外部電極との間に生成される電位勾配を含むことができる。前記外部の直流ポテンシャルは、前進するポテンシャル井戸が前記一連の電極により規定された前記チャネルを出て前記電極により形成された漏れ電場領域に入る時及びその直後に、前記一連の電極により規定される前記チャネル内で、及び/又は、それらの電極を超えて局所的に、前進するポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くするという結果を得る任意の適切なやり方で選択及び印加することができる。前記軸方向引き出し領域は軸方向に分割された集群電極を含んでいてもよい。前記チャネルの末端電極は軸方向に分割された集群電極を含んでいてもよい。本方法は、進行するポテンシャル井戸の全ての部分が最終的に前記チャネルの末端電極まで進むように(例えば、進行するポテンシャル井戸の後続部分が前記チャネルの末端電極に達したら、先行部分は停止しないように)、前記末端の軸方向に分割された集群電極への電源電圧を制御することを含むことができる。これにより、進行するポテンシャル井戸の全ての部分が確実に前記チャネルの漏れ電場領域内へと進んでその中に入るようになる。
井戸深さの低減(即ち、局所極小の高さを高くすること)は、擬似ポテンシャル井戸ではない進行するポテンシャル井戸が別の擬似ポテンシャル障壁に接してそれに抗して上昇することにより形成される合成ポテンシャル井戸の動的形状の変化により達成することができる。これには、進行するポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル障壁に向かって進むにつれて合成ポテンシャル井戸の床の高さを上げる効果があることが分かっている。
本方法は、RF電圧信号の形で前記軸方向に分割された集群電極に電圧を供給することを含むことができる。従って、このように給電される集群電極は擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができる。このポテンシャルはポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。前記分割された集群電極は、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極を含んでいてもよい。本方法は、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極に対し、該電極が擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができるように、RF電圧信号の形で電圧を供給することを含むことができる。このポテンシャルは、前記チャネルの引き出し領域の長さに沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。本方法において、RF電圧信号が、前記ポテンシャル井戸を生成するために集群電極に供給されると同時に、RF電圧信号の供給対象である前記チャネルの一端に配置された又は該一端を規定する電極にも同時に供給されるようにしてもよい。これにより、擬似ポテンシャル井戸の並進が前記引き出し領域を通って前記チャネルの末端の出力端まで進むことができる。こうして、擬似ポテンシャルの進行井戸を装置の漏れ電場領域内まで並進させることができる。
或いは、本方法は、RF電圧信号ではなく、電圧波形信号の形で前記軸方向に分割された集群電極に電源電圧を供給することを含んでいてもよい。従って、このように給電される集群電極は擬似ポテンシャルではないポテンシャルを規定する電場を生成することができる。このポテンシャルは前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するものとすることができる。本方法は、装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極に対し、該電極が擬似ポテンシャルであるポテンシャルを規定する電場を生成することができるように、RF電圧信号の形で電源電圧を供給することを含むことができる。本方法は、前記ポテンシャル井戸を生成するために集群電極に供給される前記電圧波形信号が、RF電圧信号の供給対象である前記チャネルの一端に配設された又は該一端を規定する電極に同時に供給されないようなものとしてもよい。
前記擬似ポテンシャル障壁は前記引き出し領域内において前記チャネルの軸上で略静止している(例えば、該軸に沿って並進しない)ものとすることができる。前記擬似ポテンシャルは前記引き出し領域内において前記チャネルの軸上又は該軸に沿ってポテンシャル障壁を規定するような形状にすることができる。前記ポテンシャル障壁は、前記ポテンシャル井戸の前記一又は複数の局所極小(例えば井戸床)のポテンシャルの値を超える高さ又は振幅を持つ局所的な擬似ポテンシャル極大を規定するものとすることができる。好ましくは、前記ポテンシャル障壁は、前記ポテンシャル井戸の前記後方の局所極大のポテンシャルの値より低い高さ又は振幅を有する局所的な擬似ポテンシャル極大を規定するものとすることができる。従って、前記後方の井戸壁は好ましくは該井戸の局所極大と近くの該井戸の局所極小(例えば井戸床)の間に挟まれた領域を有しており、それに沿ってそのポテンシャルの値が前記擬似ポテンシャル障壁の局所極大を超える。
本方法は、進行するポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル障壁まで進む一方、それ以上は進まないように、該井戸を制御することを含むことができる。前記進行するポテンシャル井戸は、擬似ポテンシャル障壁を通り抜けて進んだり、それを通過して/超えて進んだりしないように制御することができる。電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸は、前記引き出し領域内に形成された静止した擬似ポテンシャル障壁の立ち上がりエッジに出会う、横切る又は「打ち上げる」ように前記引き出し領域に向かって並進させることができる。その際、2つの区間から合成ポテンシャル井戸が形成される。一方の区間は、(電圧波形により形成された)前記進行するポテンシャル井戸のうち、擬似ポテンシャル障壁にまだ達してはいないものの近くにあって接近しつつある部分を含み、他方の区間は擬似ポテンシャル障壁により形成される。
前記合成ポテンシャル井戸は2つの局所極大の間に配設された局所極小を含むことができる。局所極大(電圧波形ポテンシャル)の一方は他方の局所極大(擬似ポテンシャル障壁)の方へ進むものとし、後者は静止しているものとすることができる。前記局所極小のポテンシャルの上昇はその値が前記擬似ポテンシャル障壁のピーク電位に一致するまで続き、両者が一致すると、もはや2つの局所極大に挟まれている局所極小がないという意味で前記ポテンシャル井戸は井戸ではなくなる。
好ましくは、電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸の後方の内壁の電圧振幅又は高さが前記擬似ポテンシャル障壁の電圧振幅又は高さを超えるようにする。電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸の前方の壁の電圧振幅も前記擬似ポテンシャル障壁の電圧振幅を超えることが好ましい。
好ましくは、電圧波形により形成される前記進行するポテンシャル井戸の後方の内壁の電位勾配の値が略連続的で有限である(即ち、値が階段状に変化しない)ようにする。
前記擬似ポテンシャルは前記擬似ポテンシャル障壁のピークを規定する局所極大を有していてもよく、該局所極大は前記引き出し領域内で静止していることが好ましい。好ましくは、前記擬似ポテンシャル障壁は局所極小を有しておらず、それにより、荷電粒子が該擬似ポテンシャル障壁内に捕捉されることが避けられる。
本方法は、前記軸方向引き出し領域に、前記チャネルの末端に近接して配設され且つ該末端から軸方向に一定の軸方向間隔を空けて加速領域を規定するように配置された一又は複数の引き出し電極を設け、前記引き出し電極及び装置の前記チャネルの末端に配設された又は該末端を規定する電極に電圧を印加することにより、前記加速領域内に電位勾配を形成すること、を含むことができる。
本方法は、装置の前記チャネルの末端と前記一又は複数の引き出し電極との間に電位勾配が形成されるように、前記一又は複数の引き出し電極を、前記チャネルの末端を規定する電極から離れた位置に配置することを含むことができる。本方法は、前記チャネルから放出された荷電粒子を該チャネルの端部から遠ざけるような電位勾配を形成するために、電圧を前記引き出し電極と前記チャネルの末端に印加することを含むことができる。本方法は、一又は複数の引き出し電極を(例えばグループとして又は別々に)、装置の前記チャネルの末端から約0.02mと約0.005mの間の間隔、好ましくは約0.015mと約0.005mとの間の間隔、例えば約0.01mの間隔だけ離して設けることを含むことができる。
本方法は、前記加速電位勾配が約-7000V/mと約-100V/mの間の値になるように該加速電位勾配を制御することを含むことができる。当然ながら、負極性の荷電粒子に対してはこれらの電圧値は正になる。例えば、前記電位勾配は約-7000V/mと約-2000V/mの間の値とすることができる。別の例では、前記電位勾配を約-2000V/mと約-100V/mの間、より好ましくは約-2000V/mと約-200V/mの間、更に好ましくは約-1500V/mと約-200V/mの間、更に好ましくは約-1200V/mと約-300V/mの間の値とすることができる。前記電位勾配は、装置の前記チャネルの末端から/末端を超えて(即ち、漏れ電場領域内で)延在する前記擬似ポテンシャルと前記引き出し電極から延在する直流ポテンシャルとを組み合わせたものを含むポテンシャルの空間的な勾配により定義することができる。
本方法は、前記チャネルを形成する電極により生成されるポテンシャルの前記一又は複数の局所極小のうち1つの局所極小(例えば任意の局所極小)よりも低い直流ポテンシャルを規定する電場を生成するように前記引き出し電極に電源電圧を供給することを含むことができる。本方法は、前記引き出し電極に加速用直流電圧を供給することを含むことができる。正イオン用の直流電圧は約-5Vと0Vの間、又は約-4Vと0Vの間、又は約-3Vと0Vの間、又は約-2Vと0Vの間、又は約-1Vと0Vの間の値とすることができる。該電圧は0Vでもよい(即ち、電圧を印加しない又は接地電圧を印加する)。もちろん、これらの電圧値は負イオンに用いる場合には極性を負ではなく正にすべきである。状況に合うものであれば他の電圧値も可能である。
本方法は、一又は複数の荷電粒子光学素子(例えばイオン光学素子、レンズ等)を設け、前記引き出し領域から引き出された荷電粒子を該素子で受け取り、該受け取った荷電粒子の軌道を収束させることを含むことができる。
本方法は、前記引き出し電極を飛行時間(ToF)質量分析装置内の加速電極(「押出し(pusher)電極」又は「パルス化(pulser)電極」とも呼ばれる)の少なくとも一部として用いることを含むことができる。
本方法は、荷電粒子の前述の飛行を実現するために前記直交加速電極において前記電場を生成するように構成された押出し電圧信号を前記飛行時間(ToF)質量分析装置の加速電極に印加することを含むことができる。前記押出し電圧信号は周期的なものとすることができる。前記押出し電圧信号は、前記並進するポテンシャル井戸を生成するための集群電極に印加される周期的な電圧信号と同期するように制御することができる。本方法は、前記押出し電圧信号の周期を、前記並進するポテンシャル井戸を生成するための集群電極に印加される周期的な電圧信号の周期T(例えば、連続したポテンシャル井戸が次々に引き出し領域へ到着する時間間隔)と略一致するように制御することを含むことができる。本方法は、所定の位相差又は位相遅延に応じて、前記周期的な押出し電圧信号の位相を集群電極に印加される周期的な電圧信号の位相とずらすように制御することを含むことができる。前記所定の位相差又は位相遅延は、引き出し領域の場所(例えば、末端出力端)と加速電極の場所との間の空間的な距離(例えば、前者から後者までの下流への進行距離)である荷電粒子通過距離に応じて決めることができる。これにより、押出し電圧信号の前記所定のタイミングを達成し、引き出し領域から引き出された荷電粒子の到着時間とToF質量分析装置の加速電極における押出し電圧の印加との同期を達成することができる。例えば、前記位相遅延δΦは次式で決定することができる。
Figure 0007367850000018


ここで、vはポテンシャル井戸の並進速度、Tは集群電極に印加される周期的な電圧信号の周期、δxは荷電粒子通過距離が、連続するポテンシャル井戸の間(例えば、連続するポテンシャル井戸内で対応する箇所又は特徴部分の間)の空間的な距離の整数倍をどれだけ超過しているかという分量である。言い換えれば、荷電粒子通過距離はm×W+δxである。ここで、Wは各ポテンシャル井戸の軸方向の長さ(例えば前記チャネルに沿った軸方向の長さ)であり、mは正の整数である。
本方法は、前記軸方向に分割された集群電極に電源電圧(例えばRF信号)を供給し、それを用いて、前記チャネル内に、1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成することを含むことができる。本方法は、前記チャネルの少なくとも引き出し領域を規定する連続する集群電極に電源電圧を供給することを含むことができる。電圧信号のこの供給は、本発明の第1の態様に従って上述のようなやり方で行うことができる。本方法は、電源電圧(例えばRF信号)を複数の集群電極に供給することで、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って前記軸方向引き出し領域に達してそこを通り抜けて並進させられる擬似ポテンシャル井戸を規定する(即ち、前記進行する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルである)ことを含むことができる。
或いは、前記電源ユニットは、該印加された電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、進行する井戸を形成するポテンシャルが擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成され)、該ポテンシャル井戸を前記軸方向の引き出し領域に向かって前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように、電源電圧波形を複数の集群電極に供給するように適合させることができる。電圧信号のこの供給は本発明の第1の態様に従って上述のように行うことができる。前記電源ユニットは、前記チャネル内に擬似ポテンシャルを形成するように前記引き出し領域において一又は複数の他の電極に電源電圧(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。好ましくは、前記引き出し領域の電極の少なくとも幾つかが、擬似ポテンシャル障壁(又はその一部)を生成するための電圧(例えばRF信号)を供給される一方、前記進行するポテンシャル井戸を生成するために用いられる電圧波形を同時に供給されない。
本方法は、電源電圧波形を前記複数の電極のうち集群電極に供給することで、前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて配置された複数の前記ポテンシャル井戸を同時に形成することを含むことができる。好ましくは、そうして形成された複数の前記ポテンシャル井戸の各々を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。好ましくは、前記複数のポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
本方法は、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な電源電圧波形を集群電極に供給することで前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成することを含むことができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまりRF電圧信号がない状態で印加されてもよい。
好ましくは、本方法は、略同一の時間的波形を前記複数の集群電極の各々に同時に印加し、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取るようにすることを含むことができる。特に、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。例えば、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、本方法は、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相と略等しくなるように、前記電圧波形を供給することを含む。好ましくは、本方法は、ある集群電極グループのN個の集群電極に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記電圧波形を供給することを含む。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。特にこの点で、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。
好ましくは、本方法は、複数のポテンシャル井戸を生成するために前記電圧波形を印加することを含む。隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、それら電極板が平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。好ましくは、本方法は、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整することを含む。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記波形周波数は、変調周波数(Hz)をf、印加された電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
本方法は、本発明の第1(及び第2)の態様に関連して上述したやり方で前記電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給することを含むことができる。例えば、前記電源電圧は周期(T)を有する波形に従って変化する形状であり、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さ(例えば、前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるものとすることができる。好ましくは、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
本方法は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調しないように、電源電圧を供給することを含むことができる。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。
前記電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義するとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000019

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの前記波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000020

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば約12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。
好ましくは、前記波形形状及び/又は前記波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における該波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記時間Tの間、略連続的である。
望ましくは、前記波形の形状は数学的関数により定義されている。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000021


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000022


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000023


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
好ましくは、本方法は、第1電源ユニットを設け、それを用いて第1電源電圧を前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給することで、前記チャネル内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成すること、及び、別体の第2電源ユニットを設け、それを用いて第2電源電圧を前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に供給することで、前記チャネル内において半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること、を含む。
更なる態様において、本発明は、上述した方法を備える、イオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップの制御方法を提供することができる。更に別の態様において、本発明は、上述した方法を備える飛行時間質量分析計(例えば、直交加速型飛行時間質量分析計)の制御方法を提供することができる。
別の態様において、本発明は、質量分析装置、又はイオンガイド装置、又はマスフィルタ装置、又は質量分析計、又は飛行時間質量分析装置、又はイオントラップ装置に上述の方法を実行させるように構成されたコンピュータ実行可能な命令を格納したコンピュータ読取可能な媒体を提供することができる。当該装置は、前記構成されたコンピュータ実行可能な命令を実行するために信号処理ユニットを備えていてもよく、又はプログラムされた若しくはプログラム可能な(例えば、コンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を備える)プロセッサ若しくはコンピュータを備えていてもよい。
本開示の第5の態様はイオンを集群して輸送するためのイオンガイドへのイオンの注入の改良に関する。より詳しくは、本開示のこの態様は、(本開示の第1の態様のような)新しい波形を用いて、装置内の選択されたポテンシャル井戸にイオンをより簡単に且つ良好に注入することに関する。本開示のこの態様の主たる利点は従来技術に比べて電子機器が劇的に簡素化されることである。
従って、第5の態様において、本発明は荷電粒子操作装置を提供することができる。該装置は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極と、
前記チャネル内にポテンシャルを規定する電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットであって、前記ポテンシャルが、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って選択的に並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するような、電源ユニットと、
前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットと、
を備え、
前記一連の電極を成す電極が、荷電粒子を収集するための前記チャネル内の収集領域と、収集された荷電粒子を前記収集領域から輸送するための輸送領域とを規定し、
前記電源ユニットが、
(1)荷電粒子を収集するために前記収集領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための収集電圧信号、又は、
(2)前記収集領域を通って前記輸送領域まで荷電粒子を並進させるために前記収集領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための輸送電圧信号
となるように選択的に構成される前記第1電源電圧を、前記収集領域を規定する電極に印加するように適合させられており、
前記収集電圧信号が略静止したポテンシャル井戸を規定する電場を生成し、前記輸送電圧信号が前記並進させられるポテンシャル井戸を規定する電場を生成する。
好ましくは、前記並進させられるポテンシャル井戸が、前記静止したポテンシャル井戸を並進させることにより生成される。
好ましくは、前記収集電圧信号が、時間的に略一定の(即ち、時間的に静止している又は時間変化しない)振幅(非RF電圧信号を含む場合)又は変調包絡線(RF信号を含む場合)を有する電圧波形を含んでいる。
好ましくは、前記電源ユニットは、周期的な時間変化を前記収集電圧信号に加えることによって、前記収集電圧信号により生成される前記ポテンシャル井戸を並進させることにより、前記収集電圧信号を前記輸送電圧信号に選択的に変化させるように適合させられている。
望ましくは、この変化を、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成する前記輸送領域を規定する電極に印加される輸送電圧信号と調和させる。
この調和は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される前記輸送電圧信号が、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値と一致する、というものとすることができる。この一致により、前記収集領域と前記輸送領域の隣接端部をまたぐ複数の集群電極に印加される輸送電圧値の分布を、前記輸送領域に沿って(例えば端から端まで)延在する複数の集群電極への輸送電圧の分布と整合させることができる。この調和は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化が、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化と調和する、というものとすることができる。例えば、前記収集領域及び前記輸送領域の集群電極に印加される各々の輸送電圧信号が時間的に周期的であり、波形周期Tの波形により規定される場合、前記第1電源電圧を前記波形の周期の整数倍に略等しい時間Δtの間だけ収集電圧信号になるように選択的に構成すれば、調和が達成される。即ち、n=1,2,3…として、Δt=nTである。
例えば、前記波形は、異なる集群電極に対し、該波形の周期的サイクルに沿った各々異なる位相で同時に印加することができる。好ましくは、前記収集領域の末端の集群電極とそれに隣接する前記輸送領域の集群電極との間における差が、前記収集領域及び/又は前記輸送領域のいずれの2つの隣接する集群電極の間における位相差とも同じである。換言すれば、好ましくは、前記収集領域と前記輸送領域との間の結合/インターフェイス/移行のどちら側でも、そこに位置する集群電極に印加された前記波形の位相の空間的な分布が、イオンガイドのチャネルに沿って空間的に繰り返すパターンに従っている。
例えば、前記波形の全周期にわたる等間隔の位相ステップであるN個の位相ステップ(Nは整数)を選択することができる。好ましくは、前記輸送電圧信号の印加中、前記収集領域の各電極に印加される電圧のN個の異なる位相を、前記輸送領域の各電極に印加される電圧のN個の異なる位相と同期させることができる。ただし、前記収集電圧信号の印加中は、前記収集領域の電極に印加される電圧のN個の位相はどの位相角においても「凍結」されている一方、前記輸送領域の電極に印加されている電圧のN個の位相は継続する。その後、時間nT(nは整数)が経過したら前記収集領域の電極に印加される電圧のN個の位相が「解凍」される。同様に、並進電圧の持続時間もnTの時間間隔又は持続時間を持つものとすることができる。収集電圧信号を印加する度に(即ち印加時点毎に)異なる時間間隔mT(mは整数)を与えてもよい(即ち、m≠n)。実装によっては、収集領域内で印加される波形の周期にわたる等間隔の位相ステップ(異なる位相)の数Ncollectが、輸送領域内で印加される波形の周期にわたる位相の数Ntransと異なっていてもよい。収集領域にわたる軸方向に分割された集群電極の数はNと等しくてもよいし、Nの整数倍でもよい。
望ましくは、前記収集領域が前記輸送領域と連通するように、前記収集領域を規定する電極が前記輸送領域を規定する電極と隣接している、又は整列している、又は連続している。このようにすれば、収集電圧が輸送電圧に遷移したとき、収集領域を規定する電極により該収集領域に集められた荷電粒子を輸送領域へ送ることができる。収集領域内に含まれている半径方向閉じ込め電極も軸方向に分割された電極であることが好ましい(この一例を本明細書では「二重分割型」と呼ぶ)。任意選択で、収集領域の軸方向に分割された集群電極に印加される第1電源電圧信号(及び/又は半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧信号)は、輸送領域の軸方向に分割された集群電極に印加される電圧(及び/又は半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧信号)の振幅よりも大きい振幅を持つ波形を有することができる。
前記第1電源電圧信号は周期的な電圧波形信号(例えば非RF信号)を含んでいてもよいし、周期的な変調波形により変調された振幅を有するRF信号を含んでいてもよい。
前記電源ユニットは、前記チャネル内に、1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために、前記軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。前記電源ユニットは、前記チャネルの少なくとも前記収集領域を規定する連続する集群電極に第1電源電圧を供給するように適合させることができる。第1電源電圧信号のこの供給は、本発明の第1の態様に従って上述のようなやり方で行うことができる。例えば、前記電源ユニットは、選択的に静止する又は前記収集領域の全長の少なくとも一部に沿って並進する擬似ポテンシャル井戸(即ち、その静止した又は並進する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルである)を規定するように、複数の集群電極に第1電源電圧信号(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。
或いは、前記電源ユニットは、該印加された電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、静止した又は並進する井戸を形成するポテンシャルが擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成され)、該ポテンシャル井戸を選択的に静止させる又は前記収集領域の全長の少なくとも一部に沿って並進させるように、第1電源電圧信号波形を複数の集群電極に供給するように適合させることができる。第1電源電圧信号のこの供給は本発明の第1の態様に従って上述のように行うことができる。前記電源ユニットは、前記チャネル内に擬似ポテンシャルを形成するように前記収集領域において一又は複数の他の電極に第1電源電圧信号(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。好ましくは、前記収集領域の電極の少なくとも幾つかが、擬似ポテンシャル井戸(又はその一部)を生成するための電圧(例えばRF信号)を供給される一方、前記並進するポテンシャル井戸を生成するために用いられる電圧波形を同時に供給されない。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記収集領域内に同時に前記ポテンシャル井戸を1つだけ形成する、又は任意選択で複数の前記ポテンシャル井戸を前記収集領域内に前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて形成するように、前記複数の電極のうち集群電極に第1電源電圧信号波形を供給するように適合させることができる。好ましくは、そのように形成された前記ポテンシャル井戸(複数の場合)の各々を前記収集領域内で一斉に静止させる又は前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記チャネルのうち前記収集領域以外の、前記輸送領域を規定する部分内でポテンシャルを規定する電場を生成するように、前記一連の電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧信号を供給するように適合させられている。前記輸送領域内の前記ポテンシャルは、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って選択的に並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を含むことができる。
前記電源ユニットは、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記収集領域内に一又は複数の並進するポテンシャル井戸を規定する電場を生成するために、前記輸送領域の電極に前記輸送電圧信号の形をした前記第1電源電圧信号を供給するように適合させることができる。
好ましくは、前記輸送領域内の前記複数の並進するポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成するように、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な第1電源電圧信号波形を集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまりRF電圧信号がない状態で印加されてもよい。
好ましくは、略同一の時間的波形が前記複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。特に、前記電圧波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。例えば、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、
(1)前記第1電源電圧が、前記収集領域において荷電粒子を収集するために該領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための収集電圧信号になったときは、前記収集領域内の各集群電極に印加される前記電圧波形の位相が時間と共に変化しない、又は、
(2)前記第1電源電圧が、前記収集領域を通って前記輸送領域まで荷電粒子を並進させるために該領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための輸送電圧信号になったときは、前記収集領域内の各集群電極に印加される前記電圧波形の位相が時間と共に変化する、
というように、前記第1電源電圧が選択的に構成される。このようにすれば、前記第1電源電圧信号を、時間又は位相が「静止した」状態から時間又は位相が「変化する」状態へ、及びその逆に、変化するように制御することができる。
同様に、前記輸送領域の集群電極に印加される前記第1電源電圧は、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記輸送領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成する輸送電圧信号となり、輸送領域内の各集群電極に印加される電圧波形の位相が時間と共に変化する、というように構成することができる。
好ましくは、前記電源ユニットは、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相と略等しくなるように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、ある集群電極グループのN個の集群電極に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記電源電圧波形を供給するように適合させることができる。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。特にこの点で、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。
望ましくは、前記電源ユニットが前記輸送領域に複数のポテンシャル井戸を生成するために前記第1電源電圧の電源電圧波形を供給し且つ選択的に前記収集領域にも供給するように適合させられている場合、隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、前記電極が板状である又は平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。前記電源ユニットは、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整するように適合させることができる。横の寸法又は直径が大きいチャンネルに対してはNの値も大きくする方がより好適であり得る。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形周波数は、変調周波数(Hz)をf、印加された電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
前記電源ユニットは、本発明の第1(及び第2)の態様に関連して上述したやり方で前記第1電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で前記第1電源電圧を供給するように適合させることができ、且つ、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さ(例えば、前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように適合させることができる。好ましくは、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
数学的には、「連続した」関数(解析関数か数値関数かを問わず)は、不連続点として知られる、値の急激な変化、断絶又は跳びのない関数である。「連続的に滑らか」という用語はこの意味への言及を含むものと理解してもよい。好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。
最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものとすることができる。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。或いは、前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する変調された振幅を持つRF電圧信号成分を含んでいてもよい。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成される。
前記電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義するとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000024

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの前記波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000025

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば約12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形形状及び/又は波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における該波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形の一次の時間導関数(即ち∂/∂t)の値が、少なくとも前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記第1電源電圧の波形の一次の時間導関数(即ち∂/∂t)の値が、前記波形の略全周期Tの間、略連続的である。これにはポテンシャル井戸内で不所望のインパルス力が荷電粒子に働くことが防止されるという利点がある。
望ましくは、前記波形の形状は数学的関数により定義されている。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000026


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000027


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000028


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
本装置は、前記チャネル内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に前記第1電源電圧を供給するように適合させた第1電源ユニットと、前記チャネル内において半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットとを備えるものとすることができる。このように電源ユニットを分ければ、集群電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御を、半径方向閉じ込め電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御から独立させることができる。これは操作の容易さ、複雑さの低減及び製造コストの低減の点で有利である。
前記電源ユニットは、前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を装置の半径方向閉じ込め電極に供給するように適合させることができる。前記第2電源電圧の振幅は好ましくは略一定である。好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は時間変調されていない。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記半径方向閉じ込め電極も、少なくとも収集領域、そして任意選択で輸送領域が、実質的に分割電極のみを含むように、軸方向に分割されていてもよい。任意選択で、ある分割電極の各電極セグメントが他の分割電極の各々の対応する電極セグメントと共に前記チャネルの軸に垂直な面内で略同一平面上にあるようにグループ化されていてもよい。或いは、前記半径方向閉じ込め電極は連続的なロッドを含んでいてもよい。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。前記半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
前記電源ユニットは、当業者にとって容易に利用可能であって関連の先行技術において見出される手法に従って所望の振幅(例えば数百ボルト)を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。例えば、そのような電圧信号は半径方向閉じ込め電極に印加することができる。前記電源ユニットは、予め選択されたRFスイッチング周波数で2つの予め選択された電圧レベルの間でスイッチングを行うことにより方形波形を有するRF電圧信号を生成するように適合させることができる。前記2つの予め選択された電圧レベルは、そのいずれか一方又は両方を所望のやり方又は時間変化率で時間と共に変化させてもよいが、それは予め選択されたRFスイッチング速度よりもはるかに低速の変化とすることが好ましい。従って、予め選択された電圧レベルのいずれか一方又は両方を時間的に変化させると、RF波形の振幅変調に包絡線が生じる。前記時間変化は時間的な周期変化とすることができる。前記RF電圧信号の振幅変調の包絡線の波形形状は使用者が予め決めた所望の形状とすることができる。望ましくは、前記振幅変調の包絡線波形形状は、前記時間間隔(T)内の前記有限の時間(T)であって前記局所極小に対応する前記有限の時間(T)の間に、(変調の)振幅の値が略一定(例えば非ゼロ又は略ゼロ)になる部分を含むことができる。これは上述のように本発明の第1の態様に従ったものとすることができる。
各集群電極又は少なくとも一群の連続する集群電極はそのような変調されたRF電圧信号を供給され、連続する集群電極は、共通の時間周期的な変調のそれぞれ異なる位相にあるそのような変調されたRF電圧信号をそれぞれ受け取るようにしてもよい。後でより詳しく説明するが、これにより、前記連続する集群電極の端から端まで支えられた空間的に変化するポテンシャル(即ち、前記ポテンシャル井戸)を生じさせることができ、それにより、任意の時点において、各集群電極が、前記一群の集群電極(又は全ての集群電極)に沿って延在するポテンシャル場にそれぞれの局所的なポテンシャル値を付与し、前記ポテンシャル井戸を規定する。それぞれの局所的な寄与はその時点で寄与している集群電極に印加されている変調波形の値により決まる。
変調波形の時間変化を例えば一時的に停止することにより、前記ポテンシャル井戸の並進運動を停止し、当該電極グループ(又は全ての電極)に含まれる各集群電極に(時間変化なしで)引き続き印加される変調波形の値に従って該ポテンシャル井戸の形状及び構造を維持することができる。その後、前記ポテンシャル井戸の並進運動を再開するように、前記一群の集群電極(又は全ての集群電極)に含まれる各集群電極に印加された停止状態の変調波形の時間変化を再開することができる。変調波形の時間変化を逆転させることにより並進運動の向きを逆転させることができる。
前記電源ユニットは、当業者にとって容易に入手可能な適宜の電子的な高周波数スイッチング装置(例えば厳密に時間調整されたMOSFET)を含むことができる。それは実際には、前記波形の高速振動するRF成分が正弦波形ではなく、むしろ方形波形であることを意味する。RF電圧信号は、例えば、選択的且つ電気的に各々の集群電極を正及び負の給電レールに交互に接続することで前記波形のRF振動成分を供給するように高周波(例えばRF)スイッチを電気的に制御することにより供給することができる。
更なる態様において、本発明は、上述した装置を備えるイオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップを提供することができる。
上記装置は、対応する荷電粒子操作方法の手段となる。この方法は本発明の更に別の対応する態様である。それ故、本装置との関係で上述した発明の各特徴は、対応する方法の実装として理解することができる。
従って、第6の態様において、本発明は荷電粒子操作方法を提供することができる。該方法は、
荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を設けること、
電源ユニットを設け、それを用いて、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧を印加することで、前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って選択的に並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成すること、及び、
電源ユニットを設け、それを用いて第2電源電圧を前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に印加することで、前記チャネル内において半径方向に荷電粒子を閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること
を含み、
前記一連の電極を成す電極が、荷電粒子を収集するための前記チャネル内の収集領域と、収集された荷電粒子を前記収集領域から輸送するための輸送領域とを規定し、更に、
前記電源ユニットにより、
(1)荷電粒子を収集するために前記収集領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための収集電圧信号、又は、
(2)前記収集領域を通って前記輸送領域まで荷電粒子を並進させるために前記収集領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための輸送電圧信号
となるように選択的に構成される前記第1電源電圧を、前記収集領域を規定する電極に印加することを含み、
前記収集電圧信号が略静止したポテンシャル井戸を規定する電場を生成し、前記輸送電圧信号が前記並進させられるポテンシャル井戸を規定する電場を生成する。
好ましくは、本方法は、前記並進させられるポテンシャル井戸を、前記静止したポテンシャル井戸を並進させることにより生成することを含む。
好ましくは、前記収集電圧信号が、振幅(非RF電圧信号を含む場合)又は変調包絡線(RF信号を含む場合)が時間的に略一定である(即ち、時間的に静止している又は時間変化しない)電圧波形を含んでいる。
好ましくは、本方法は、周期的な時間変化を前記収集電圧信号に加えることによって、前記収集電圧信号により生成される前記ポテンシャル井戸を並進させることにより、前記収集電圧信号を前記輸送電圧信号に選択的に変化させることを含む。
望ましくは、本方法は、前記変化を、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成する前記輸送領域を規定する電極に印加される輸送電圧信号と(例えば位相が揃うように)同期させることを含む。この同期は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される前記輸送電圧信号が、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値と一致する、というものとすることができる。この一致は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化が、両方とも、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化と略同じである、というものとすることができる。例えば、本方法は、波形周期Tを有する波形により規定される時間的に周期的な輸送電圧信号を前記収集領域と前記輸送領域に印加し、それから前記第1電源電圧を前記波形の周期の整数倍に略等しい時間Δtの間だけ収集電圧信号になるように選択的に構成することにより同期させることを含むことができる。即ち、n=1,2,3…として、Δt=nTである。
好ましくは、本方法は、周期的な電圧波形信号(例えば非RF信号)を含むように、又は、周期的な変調波形により変調された振幅を有するRF信号を含むように、前記第1電源電圧信号を供給することを含むことができる。
好ましくは、本方法は、前記軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧(例えばRF信号)を供給して、前記チャネル内に、1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成することを含む。好ましくは、本方法は、前記チャネルの少なくとも前記収集領域を規定する連続する集群電極に第1電源電圧を供給することを含む。第1電源電圧信号のこの供給は、本発明の第1の態様に従って上述のようなやり方で行うことができる。例えば、本方法は、複数の集群電極に第1電源電圧信号(例えばRF信号)を供給することで、選択的に静止する又は前記収集領域の全長の少なくとも一部に沿って並進する擬似ポテンシャル井戸(即ち、その静止した又は並進する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルである)を規定することを含むことができる。
或いは、本方法は、第1電源電圧信号波形を複数の集群電極に供給することで、該印加された電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、静止した又は並進する井戸を形成するポテンシャルが擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成され)、該ポテンシャル井戸を選択的に静止させる又は前記収集領域の全長の少なくとも一部に沿って並進させるようにすることを含んでいてもよい。第1電源電圧信号のこの供給は本発明の第1の態様に従って上述のように行うことができる。本方法は、前記チャネル内に擬似ポテンシャルを形成するように前記収集領域において一又は複数の他の電極に第1電源電圧信号(例えばRF信号)を供給することを含むことができる。好ましくは、前記収集領域の電極の少なくとも幾つかが、擬似ポテンシャル井戸(又はその一部)を生成するための電圧(例えばRF信号)を供給される一方、前記並進するポテンシャル井戸を生成するために用いられる電圧波形を同時に供給されない。
好ましくは、本方法は、前記複数の電極のうち集群電極に第1電源電圧信号波形を供給することで、前記収集領域内に同時に前記ポテンシャル井戸を1つだけ形成する、又は任意選択で複数の前記ポテンシャル井戸を前記収集領域内に前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて形成することを含むことができる。好ましくは、そのように形成された前記ポテンシャル井戸(複数の場合)の各々を前記収集領域内で一斉に静止させる又は前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。
好ましくは、本方法は、前記一連の電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧信号を供給することで、前記チャネルのうち前記収集領域以外の、前記輸送領域を規定する部分内でポテンシャルを規定する電場を生成することを含むことができる。前記輸送領域内の前記ポテンシャルは、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って選択的に並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を含むことができる。
本方法は、前記輸送領域の電極に前記輸送電圧信号の形をした前記第1電源電圧信号を供給することで、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記収集領域内に一又は複数の並進するポテンシャル井戸を規定する電場を生成することを含むことができる。
好ましくは、前記輸送領域内の前記複数の並進するポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
好ましくは、本方法は、約0.5kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な第1電源電圧信号波形を集群電極に供給することで前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成することを含むことができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまりRF電圧信号がない状態で印加されてもよい。
好ましくは、略同一の時間的波形が前記複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。特に、前記電圧波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。例えば、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、
(1)前記第1電源電圧が、前記収集領域を通って前記輸送領域まで荷電粒子を収集するために該領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための収集電圧信号になったときは、前記収集領域内の各集群電極に印加される前記電圧波形の位相が時間と共に変化しない、又は、
(2)前記第1電源電圧が、前記収集領域において荷電粒子を並進させるために該領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための輸送電圧信号になったときは、前記収集領域内の各集群電極に印加される前記電圧波形の位相が時間と共に変化する、
というように、前記第1電源電圧が選択的に構成される。このようにすれば、前記第1電源電圧信号を、時間又は位相が「静止した」状態から時間又は位相が「変化する」状態へ、及びその逆に、変化するように制御することができる。
同様に、本方法は、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記輸送領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成する輸送電圧信号として構成された前記第1電源電圧を、前記輸送領域の集群電極に供給し、輸送領域内の各集群電極に印加される電圧波形の位相が時間と共に変化するようにすること、を含むことができる。
好ましくは、本方法は、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される前記電圧波形の位相と略等しくなるように、前記第1電源電圧の電圧波形を供給することを含むことができる。例えば、本方法は、ある集群電極グループのN個の集群電極に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記電圧波形を供給することを含むことができる。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。特にこの点で、前記波形は本発明の第1の態様に関連して上述したような波形であることが好ましい。
望ましくは、本方法が前記輸送領域に複数のポテンシャル井戸を生成するために前記第1電源電圧の電圧波形を供給し且つ選択的に前記収集領域にも供給することを含んでいるとき、隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、それら電極板が平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。前記電源ユニットは、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整するように適合させることができる。横の寸法又は直径が大きいチャンネルに対してはNの値も大きくする方がより好適であり得る。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形周波数は、変調周波数(Hz)をf、印加された電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
本方法は、本発明の第1(及び第2)の態様に関連して上述したやり方で前記第1電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給することを含むことが好ましい。例えば、本方法は、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で第1電源電圧を供給し、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さ(例えば、前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させることを含むことができる。好ましくは、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
数学的には、「連続した」関数(解析関数か数値関数かを問わず)は、不連続点として知られる、値の急激な変化、断絶又は跳びのない関数である。「連続的に滑らか」という用語はこの意味への言及を含むものと理解してもよい。好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。
最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものとすることができる。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。或いは、前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する変調された振幅を持つRF電圧信号成分を含んでいてもよい。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成される。
前記第1電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義するとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000029

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの前記波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000030

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば約12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形形状及び/又は波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における該波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは前記波形の各々の周期を支える。より好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、前記電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、前記波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、前記波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記第1電源電圧の波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、前記波形の略全周期Tの間、略連続的である。これにはポテンシャル井戸内で不所望のインパルス力が荷電粒子に働くことが防止されるという利点がある。
望ましくは、前記波形の形状は数学的関数により定義されている。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000031


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000032


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000033


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
本方法は、第1電源ユニットを設け、それを用いて第1電源電圧を前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給することで、前記チャネル内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成すること、及び、別体の第2電源ユニットを設け、それを用いて第2電源電圧を前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に供給することで、前記チャネル内において半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること、を含む。
本方法は、前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を装置の半径方向閉じ込め電極に供給することを含むことができる。前記第2電源電圧の振幅は好ましくは略一定である。好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は時間変調されていない。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記半径方向閉じ込め電極も、少なくとも収集領域、そして任意選択で輸送領域が、実質的に分割電極のみを含むように、軸方向に分割されていてもよい。任意選択で、ある分割電極の各電極セグメントが他の分割電極の各々の対応する電極セグメントと共に前記チャネルの軸に垂直な面内で略同一平面上にあるようにグループ化されていてもよい。或いは、前記半径方向閉じ込め電極は連続的なロッドを含んでいてもよい。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。前記半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
更なる態様において、本発明は、上述した方法を備える、イオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップの制御方法を提供することができる。更に別の態様において、本発明は、上述した方法を備える飛行時間質量分析計(例えば、直交加速型飛行時間質量分析計)の制御方法を提供することができる。
別の態様において、本発明は、質量分析装置、又はイオンガイド装置、又はマスフィルタ装置、又は質量分析計、又は飛行時間質量分析装置、又はイオントラップ装置に上述の方法を実行させるように構成されたコンピュータ実行可能な命令を格納したコンピュータ読取可能な媒体を提供することができる。当該装置は、前記構成されたコンピュータ実行可能な命令を実行するために信号処理ユニットを備えていてもよく、又はプログラムされた若しくはプログラム可能な(例えば、コンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を備える)プロセッサ若しくはコンピュータを備えていてもよい。
本開示の第7の態様はイオンを集群して輸送するための改良された構造に関する。より詳しくは、本開示のこの態様は、本開示の第1の態様に係るイオン輸送を提供する新規な平坦な構造に関する。この構造はプリント基板(PCB)により実現でき、非常に簡単に製造できる。
第7の態様において、本発明は、荷電粒子の輸送の軸を規定するガイドチャネルを形成するように配設された一連の電極を備えるガイドアセンブリを備える荷電粒子操作装置を提供することができる。該ガイドアセンブリは、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第1のアレイ、及び、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第2のアレイであって、前記ガイドチャネルの軸を挟んで前記第1のアレイから離間して配設された第2のアレイ
を備える集群電極アセンブリと、
前記ガイドチャネルの軸を挟んで離間しており、該軸と平面平行であるとともに互いに平面平行であるように配設された複数の平坦な閉じ込め電極を備える半径方向閉じ込め電極アセンブリと、
前記ガイドチャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるポテンシャルを規定する電場を生成し、該ポテンシャルが、前記ガイドチャネルの軸の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するように、前記第1のアレイ及び前記第2のアレイの集群電極に第1電源電圧を供給するとともに前記複数の平坦な閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させた電源ユニットと
を備える。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記集群電極アセンブリの集群電極と前記半径方向閉じ込め電極アセンブリの閉じ込め電極に、変調された電圧波形とRF電圧という形で電源電圧を同時に供給するように適合させられている。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記集群電極アセンブリの集群電極に、RF電圧に変調電圧波形を印加した形の電源電圧を同時に供給する(即ち、前記RF電圧の振幅を変調する)ように適合させられている。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記ガイドチャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成するようにRF電圧を平坦な閉じ込め電極に供給するように適合させられている。
好ましくは、前記集群電極の第1のアレイが、前記ガイドチャネルの軸を横断する横方向の間隔により前記集群電極の第2のアレイから離間している。好ましくは、前記横方向の間隔は前記ガイドチャネルの少なくとも一部に沿って均一である。好ましくは、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向において、前記平坦な集群電極の第1のアレイのうち連続する(例えば隣接する)平坦な集群電極が軸方向の間隔又は隙間により軸方向に分離されている。好ましくは、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向において、前記平坦な集群電極の第2のアレイのうち連続する(例えば隣接する)平坦な集群電極が軸方向の間隔又は隙間により軸方向に分離されている。好ましくは、前記第1のアレイの連続的な平坦な集群電極の間の距離が前記第2のアレイの連続的な平坦な集群電極の間の距離と一致している。好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイのうちのある平坦な集群電極が、前記平坦な集群電極の第2のアレイのうち対応する平坦な集群電極と軸方向に位置が正確に合っている。好ましくは、前記平面の間の横方向の間隔が前記集群電極の軸方向の間隔と少なくとも等しい。より好ましくは、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも2倍(2×)である。更に好ましくは、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも3倍(3×)である。任意選択で、実施形態によっては、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも5倍(5×)である。
前記半径方向閉じ込め電極アセンブリは、前記集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、該電極と対向し且つ前記集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、を含む閉じ込め電極の第3のアレイを含むことができる。
前記半径方向閉じ込め電極アセンブリは、前記集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、該電極と対向し且つ前記集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、を含む閉じ込め電極の第4のアレイを含むことができる。
好ましくは、前記集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極が、前記閉じ込め電極の第3のアレイの同一平面上の閉じ込め電極と前記閉じ込め電極の第4のアレイの同一平面上の閉じ込め電極との間に配設されている。
好ましくは、前記集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極が、前記閉じ込め電極の第3のアレイの同一平面上の閉じ込め電極と前記閉じ込め電極の第4のアレイの同一平面上の閉じ込め電極との間に配設されている。
前記閉じ込め電極の第3のアレイと前記閉じ込め電極の第4のアレイは、前記ガイドチャネルの軸を横断する(例えば該軸と直交する)方向(例えば、前記ガイドチャネルの軸と交差する方向)に互いに対向するように配設することができる。前記閉じ込め電極の第3のアレイと前記閉じ込め電極の第4のアレイは、それぞれ前記ガイドチャネルの略全長に沿って延在することができる。前記閉じ込め電極の第3のアレイと前記閉じ込め電極の第4のアレイはそれぞれ、前記ガイドチャネルの略全長に沿って延在する各々の単一の(例えば連続的な)平坦な閉じ込め電極を備えることができる。該2つの各々の単一の平坦な閉じ込め電極は平面平行とすることができる。
前記閉じ込め電極の第3のアレイと前記閉じ込め電極の第4のアレイはそれぞれ、2つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極を一対含むことができる。各対の前記2つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極は、互いに平面平行であるとともに、該対の一方の閉じ込め電極が前記集群電極の第1のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)一方、該対の他方の閉じ込め電極が前記集群電極の第2のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)ように離間して配置されているものとすることができる。
前記閉じ込め電極の第3のアレイと前記閉じ込め電極の第4のアレイはそれぞれ、4つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極を一組含むことができる。各組の4つの各々の連続的な閉じ込め電極は、互いに平面平行であるとともに、該組の2つの同一平面上の閉じ込め電極が前記集群電極の第1のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)一方、他の2つの同一平面上の閉じ込め電極が前記集群電極の第2のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)ように離間して配置されているものとすることができる。これにより、前記集群電極の第1のアレイは、平坦な集群電極の第1のアレイの一方の側にある同一平面上の平行な連続的な第1対の閉じ込め電極と同一平面上にあるとともに、平坦な集群電極の第1のアレイの他方の側にある同一平面上の平行な連続的な第2対の閉じ込め電極と同一平面上にあるようにすることができる。同様に、前記集群電極の第2のアレイは、平坦な集群電極の第2のアレイの一方の側にある同一平面上の平行な連続的な第3対の閉じ込め電極と同一平面上にあるとともに、平坦な集群電極の第2のアレイの他方の側にある同一平面上の平行な連続的な第4対の閉じ込め電極と同一平面上にあるようにすることができる。この配置は半径方向の閉じ込めポテンシャルを強める。
好ましくは、前記第2のアレイの平坦な集群電極は前記平坦な集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と平面平行になるように配設されている。好ましくは、前記平坦な集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極は互いに同一平面上にあるように配設されている。好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極は互いに同一平面上にあるように配設されている。好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極及び前記平坦な集群電極の第2のアレイの各平坦電極は前記ガイドチャネルの軸に平面平行になるように配設されている。
好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイのうち1つの平坦電極と前記平坦な集群電極の第2のアレイのうち1つの平坦電極が前記ガイドチャネルの軸を横断する共通平面内に存在するように配設されている。好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極が前記平坦な集群電極の第2のアレイの各々の平坦電極と同一平面上にあるように配置されており、それらの各々の共通平面が前記ガイドチャネルの軸を横断している。前記横断平面は好ましくは前記ガイドチャネルの軸に垂直である。
好ましくは、前記第2のアレイの平坦な集群電極は同一平面上にはなく且つ互いに平面平行になるように軸方向に間隔を空けて配設されている。好ましくは、前記第1のアレイの平坦な集群電極は同一平面上にはなく且つ互いに平面平行になるように軸方向に間隔を空けて配設されている。
好ましくは、前記平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極と前記平坦な集群電極の第2のアレイの各平坦電極は、前記第1のアレイが前記第2のアレイと平行であり、前記平坦な集群電極の第1のアレイが、前記ガイドチャネルの幅を規定する横方向の距離を挟んで前記平坦な集群電極の第2のアレイと対向しているように配設される。
好ましくは、前記閉じ込め電極の第3のアレイは、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向に延在する複数の電極セグメントのアレイを規定するように分割されている。好ましくは、前記閉じ込め電極の第3のアレイは、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向に延在する複数の電極セグメントのアレイを規定するように分割されている。
前記閉じ込め電極は前記平坦な集群電極の第1のアレイ及び/又は前記平坦な集群電極の第2のアレイの分割と同じように分割されていてもよい。
望ましくは、前記電源ユニットは、前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するように、前記第1のアレイ及び前記第2のアレイの集群電極にのみ集群電圧を供給するように適合させられている。
望ましくは、前記電源ユニットは、前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるポテンシャルを規定する電場を前記ガイドチャネル内に生成するように、前記複数の平坦な閉じ込め電極にのみ半径方向閉じ込め電圧を供給するように適合させられている。
前記電源ユニットは、前記チャネル内に、1つの前記ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に前記一又は複数の局所極小を有するポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を生成するために、前記軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる擬似ポテンシャル井戸を規定する(即ち、前記進行する井戸を形成するポテンシャルは擬似ポテンシャルである)ように、複数の集群電極に第1電源電圧(例えばRF信号)を供給するように適合させることができる。
或いは、前記電源ユニットは、該印加された第1電源電圧波形からポテンシャル井戸を規定し(即ち、進行する井戸を形成するポテンシャルが擬似ポテンシャルではなく、電圧波形により形成され)、該ポテンシャル井戸を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように、第1電源電圧波形(例えば非RF信号)を複数の集群電極に印加するように適合させてもよい。
前記電源ユニットは、前記チャネル内に半径方向(即ち、チャンネル軸に対する横断方向)の閉じ込めポテンシャル(例えば擬似ポテンシャル等)を形成するために第2電源電圧(例えばRF信号、又は非RF電圧波形)を前記軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。前記第2電源電圧の振幅は好ましくは略一定である。好ましくは、前記第2電源電圧の振幅は時間変調されていない。半径方向閉じ込め電極に印加される第2電源電圧の作用は、軸方向に分割された集群電極の存在との組み合わせで、半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)を生成することである。前記一連の電極は四重極イオンガイドとして構成することができる。半径方向閉じ込め電場(ポテンシャル)は四重極場として構成することができる。本発明は、六重極、八重極、十重極等、より高次の電場及びより多数の極を備えるイオンガイドに応用できる。
前記電源ユニットは、第1電源電圧を供給するように適合させた第1電源ユニットと、第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットとを備えることができる。このように電源ユニットを分ければ、集群電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御を、半径方向閉じ込め電極に印加される(例えばRF及び/又は電圧波形及び/又は交流)電圧信号及びそれらの制御から独立させることができる。これは操作の容易さ、複雑さの低減及び製造コストの低減の点で有利である。
望ましくは、前記局所極小が該極小の第1の側に位置する第1局所極大と該局所極小の反対側である第2の側に位置する第2局所極大とに囲まれている。前記ポテンシャル井戸は、一又は複数の局所極小を含む井戸床又は底部であって、該井戸床の両側に1つずつある2つの局所極大のそれぞれ一方を含む又は規定する2つの離れた井戸壁により境界を定められた井戸床又は底部を含むことができる。前記ポテンシャル井戸は、前方の局所極大(又は前方の井戸壁)と後方の局所極大(又は後方の井戸壁)を含み、前記前方の局所極大が前記ポテンシャル井戸の並進方向において前記後方の局所極大を先導する又はそれに先行するものとすることができる。換言すれば、好ましくは、後方の局所極大(又は後方の井戸壁)は前方の局所極大(又は後方の井戸壁)の後に続く。
前記井戸床を規定するポテンシャルの値は略滑らかに変化していることが好ましく、且つ1つの局所極小しか含んでいないことが好ましい。このようにすれば、前記ポテンシャル内の荷電粒子が前記井戸内で前記1つの局所極小に位置することができ、それにより、チャネルを通じた輸送及びそこからの引き出しの最中に荷電粒子の位置を正確に規定することができるため、望ましい。前記局所極小は、その境界を定めている2つの井戸壁と連続していて、値又は勾配に実質的に不連続がない(又は少なくとも大きな不連続がない)ことが好ましい。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記チャネルの軸に沿って間隔を空けて配置された複数の前記ポテンシャル井戸を同時に形成するように、第1電源電圧波形を前記複数の電極のうち集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは、そうして形成された複数の前記ポテンシャル井戸の各々を前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って一斉に並進させる。好ましくは、前記複数のポテンシャル井戸はポテンシャル井戸の列内において略等間隔で隣接している。例えば、あるポテンシャル井戸の局所極小(及び/又は局所極大若しくは他の特徴部分)とそのすぐ隣のポテンシャル井戸の局所極小(例えば対応する特徴部分又は構造)との間の軸方向の距離が前記複数のポテンシャル井戸の各々について略同一である。
好ましくは、前記電源ユニットは、前記複数のポテンシャル井戸を同時に生成するように、約0.1kHzと約20kHzの間にある波形周波数(即ち、波形周期をTとして、1/T)を持つ周期的な第1電源電圧波形を集群電極に供給するように適合させることができる。好ましくは前記波形周波数が約1kHzと約4kHzの間にある。前記第1電源電圧波形は、RF電圧信号に印加される変調波形を規定することで前記RF電圧信号の振幅に対する「包絡線」を生み出すものでもよく、又は、純粋な電圧波形としてのみ、つまりRF電圧信号がない状態で印加されてもよい。
好ましくは、前記電源ユニットは、分割された電極の各集群電極に供給される第1電源電圧波形が隣の電極に同時に供給される電圧波形と比べて時間のずれ又は位相のずれを持つように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。好ましくは、略同一の時間的波形が複数の集群電極の各々に同時に印加され、各集群電極が隣の集群電極により受け取られる該波形の位相とは異なる該波形の位相において該波形を受け取る。例えば、ある(n番目の)集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ前([n-1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも進んだ該波形の位相と一致するものとすることができる。同様に、ある(n番目の)集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ後ろ([n+1]番目)の隣接する集群電極に印加される同じ波形の位相よりも遅れた該波形の位相と一致するものとすることができる。このように、どの集群電極も時間と共に同じ電圧波形を受け取るように駆動されるものの、各集群電極が周期的サイクル中の僅かに異なる位相にある第1電源電圧波形の1つの変形版を「補給」される、というようにすることができる。
好ましくは、前記電源ユニットは、N個の連続する集群電極からそれぞれ成る複数の選択されたグループ又はサブセットに対し、あるグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相がすぐ隣のN個の集群電極のグループの1番目の集群電極に印加される第1電源電圧波形の位相と略等しくなるように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、ある集群電極グループのN個の集群電極に対し、当該グループ内のある集群電極に印加される波形の位相が当該グループ内のすぐ後ろの集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=-360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているとともに、当該グループ内のすぐ前の集群電極に印加される波形の位相とΔΦ=+360/Nに略等しい位相差(ΔΦ)だけ違っているように、前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。その結果、いずれの時点においても、前記波形の完全な1サイクルがN個の集群電極の各グループの端から端までにわたり使い切られる。
望ましくは、前記電源ユニットは複数のポテンシャル井戸を生成するために前記第1電源電圧波形を供給するように適合させることができる。隣接するポテンシャル井戸の間隔は、前記複数の電極により規定されるチャネルの横の寸法又はサイズと関連付けて構成することができる。例えば、前記横の寸法は、チャネルの内接直径、又は、前記電極が平坦である場合は対向する電極間の垂直距離とすることができる。前記電源ユニットは、Nの値を調整することにより井戸間隔の構成を選択的に調整するように適合させることができる。本発明者らは、Nを適正に選択することで、例えば、本装置から引き出される荷電粒子の質量を判別する分解能を改善できることを見出した。例えば、好ましくはNは8以上である。
好ましくは、前記第1電源電圧波形の波形周波数は、変調周波数(Hz)をf、印加された第1電源電圧波形の同一の値(例えば同一の位相)が存在する集群電極間の前記チャネルの軸に沿った空間距離をLとするとき、前記チャネルの軸に沿ったポテンシャル井戸の並進速度vがf・Lに比例する(例えばv=f・L)ような周波数にする。
前記電源ユニットは、本発明の第1(及び第2)の態様に関連して上述したやり方で前記第1電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給するように適合させることができる。例えば、前記電源ユニットは、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で前記第1電源電圧を供給するように適合させることができ、且つ、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さ(例えば、前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように適合させることができる。好ましくは、前記波形が、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
数学的には、「連続した」関数(解析関数か数値関数かを問わず)は、不連続点として知られる、値の急激な変化、断絶又は跳びのない関数である。「連続的に滑らか」という用語はこの意味への言及を含むものと理解してもよい。好ましくは、波形の変化率(例えば、波形Uに対する∂U/∂t)はその周期(T)の全体を通して略連続的に滑らかである。
最も好ましくは、前記波形には前記有限の時間(T<T)を通して波形極大がない。例えば、前記有限の時間は波形の極小を1つしか含んでいなくてもよい。それどころか、前記波形が全体としてその周期Tの間に極小を1つしか含んでいなくてもよい。
前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調していないものとすることができる。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成されるのではなく、「本物の」ポテンシャルによって形成される。或いは、前記第1電源電圧は、前記波形に従って時間と共に値が変化する変調された振幅を持つRF電圧信号成分を含んでいてもよい。この後者の場合、ポテンシャル井戸は擬似ポテンシャルによって形成される。
前記電源電圧は、前記波形の適宜の位相において、前記軸方向に分割された集群電極のうちの複数の電極(例えば空間的に連続して隣接する電極群を形成する電極)の各々に、前記波形の前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)の間に同時に印加されるものとすることができる。
前記波形の極小は、それが本当に一定である、又は事実上若しくは実際上一定である、又は少なくともそれが前記有限の時間(T<T)の間に僅かしか変化しない、という意味で、前記周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定であるものとすることができる。前記波形は、Tを通した該波形の値の変化が、該波形の周期(T)内における該波形の極値間の最大の変化に対する所定の百分率又は割合(例えば、該波形の最高最低振幅U又はその最小値と最大値の差に対する割合)を超えない場合に、僅かしか変化しないと言うことができる。例えば、Tを通した波形の値の最大許容変化(ΔU)を波形の振幅(U)に対する百分率(%)で表したものをX=100×ΔU/Uと定義するとき、X≦10、又はX≦5、又はX≦2.5、又はX≦1.0、又はX≦0.5、又はX≦0.25、又はX≦0.1、又はX≦0.05、又はX≦0.01であることが好ましい。
前記有限の時間(T)は、kを1より大きい(k>1)任意の正の数(即ち非整数又は整数)として、T>T≧T/kとなるようにしてもよい。好ましくはk≧1.2とする。好ましくはk≦20、又はk≦15、又はk≦10とする。好ましくは例えば1.2≦k≦8.0とする。
の持続時間を周期Tの百分率(%)で表したものをT =100×T/Tと定義するとき、好ましくはX/T ≦2.0、より好ましくはX/T ≦1.0、より好ましくはX/T ≦0.5、より好ましくはX/T ≦0.25、より好ましくはX/T ≦0.1、より好ましくはX/T ≦0.05、より好ましくはX/T ≦0.01、より好ましくはX/T ≦0.001とする。
好ましくは、波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値は、Y=50とするとき、前記波形の周期(T)内の前記有限の時間(T<T)を通して
Figure 0007367850000034

を満たす。例えば、50≧Y≧1.4、より好ましくは10≧Y≧2、更に好ましくは7≧Y≧3とし、例えばYの値は約5とすることができる。場合によっては例えばY≧1.4とする。前記波形はこの意味で前記有限の時間Tを通して略一定であると言うことができる。好ましくは、前記有限の時間(T<T)を通して前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値の平均値が前記値Yを超えないようにする。好ましくは、該絶対値の平均値が前記有限の時間(T)を通して0.5Yを超えず、又は好ましくは0.25Y、又は好ましくは0.1Y、又は好ましくは0.05Y、又は好ましくは0.01Y、又は好ましくは0.001Yを超えない。前記波形の極小はこの意味で前記有限の時間(T<T)を通して値が略一定とすることができる。
好ましくは、前記波形(U)の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記波形の周期(T)内の前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が前記波形の周期(T)の略全体を通して略連続的である。好ましくは、波形振幅Uの前記波形の一次の時間導関数の絶対値が前記波形の周期(T)を通して
Figure 0007367850000035

を満たすようにする。より好ましくは、この絶対値が75以下、より好ましくは50以下、より好ましくは20以下、より好ましくは約10と約15の間、例えば12とすることができる。好ましくは、前記波形(U)が「誤差関数」(erf)を含む又は少なくとも部分的に誤差関数に従って定義されている。
好ましくは、前記第1電源電圧の波形形状及び/又は波形周波数(即ち、波形周期をTとして、f=1/T)は、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、前記波形の電圧値が該波形の周期内における第1電源電圧波形の最大電圧値の約10%以下になるような波形形状及び/又は波形周波数にする。ここでNは集群電極の各サブセットに含まれる個々の集群電極の数であって、集群電極の各サブセットは第1電源電圧波形の各々の周期を支える。より好ましくは、第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、該波形の最大電圧値の約5%以下である。更に好ましくは、第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、該波形の最大電圧値の約3%以下である。更に好ましくは、第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、該第1電源電圧波形の最大電圧値の約2%以下、又は好ましくは約1%以下、又は約0.5%以下、又は約0.25%以下、又は約0.1%以下、又は約0.01%以下ある。最も好ましくは、第1電源電圧波形のこの電圧値は、前記時間Tの間、略ゼロである。
好ましくは、前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、少なくとも前記時間Tの間、略連続的である。好ましくは、前記第1電源電圧波形の一次の時間導関数(即ち∂U/∂t)の値が、前記波形の略全周期Tの間、略連続的である。これにはポテンシャル井戸内で不所望のインパルス力が荷電粒子に働くことが防止されるという利点がある。
望ましくは、前記波形の形状は数学的関数により定義されている。前記数学的関数は解析関数を含む(即ち、数学的方程式として表される)ものでもよいし、数値関数でもよい。好ましくは、前記第1電源電圧は以下の形を取るものとすることができる。
Figure 0007367850000036


ここで、関数U(2πt/T+Φ)は前記波形を周期T(秒)、位相Φ及び振幅Uの周期的変調関数として表している。関数ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φの高速振動する(例えばRF)周期関数でもよいし、前記第1電源電圧にRF成分が含まれていない場合には一定の値(例えば、f=0という設定のように)でもよい。例えば、波形U(2πt/T+Φ)の形状は少なくとも部分的に「誤差関数」(erf(y))の形状を含むものとし、前記波形の周期Tの時間の少なくとも一部の間、
Figure 0007367850000037


が成り立つものとすることができる。ここで、
Figure 0007367850000038


であり、変数yはt及びTに比例している(例えばt及びTの関数である)。例えば、変数yは比t/Tに比例するものとすることができる(例えばy~t/T)。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は値が常に正である又は値が常に負である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は連続関数である。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)を通して値が略一定である極大を有している。この極大は好ましくは前記ポテンシャル井戸の局所極大に相当していてもよい。好ましくは、波形U(2πt/T+Φ)は前記波形の周期T内で前記時間Tと前記時間Tとの間で略連続的に変化する。
好ましくは、本装置は、引き出し電極アセンブリと、該アセンブリを用いて前記ガイドチャネルから荷電粒子を引き出すために、該引き出し電極アセンブリに引き出し電圧を選択的に印加するように構成された引き出し電源ユニットとを備えている。前記引き出し電極アセンブリは、前記集群電極の第1及び/又は第2のアレイのうちの一又は複数の集群電極を含んでいてもよく、及び/又は、前記半径方向閉じ込め電極アセンブリのうちの一又は複数の半径方向閉じ込め電極を含んでいてもよい。
前記引き出し電源ユニットは、該アセンブリを用いて荷電粒子に力を加えて該粒子を前記ガイドチャネルに対する横断(例えば垂直又は直交)方向に引き出すために、前記引き出し電圧を前記引き出し電極アセンブリに印加するように構成することができる。引き出し方向は前記集群電極の第1又は第2のアレイを含む平面に垂直にすることができる。引き出し方向は前記集群電極の第1又は第2のアレイを含む平面に平行にすることができる。直交引き出しはどの横方向にも都合よく行うことができる。荷電粒子は、引き出し電極アセンブリの平坦な電極に形成されたスリット/アパーチャを通して、又は、引き出し電極アセンブリのメッシュ電極を通して、装置から引き出すことができる。実施形態によっては、メッシュ電極を、集群電極の第1又は第2のアレイのうちの電極の内部、又は集群電極の第1又は第2のアレイの複数の電極の内部に形成することができる。
イオンガイドからの荷電粒子の直交引き出しは、前記電極が平坦な構造であることにより一層簡便に行うことができる。引き出し電極アセンブリは前記ガイドチャネルの近傍にイオン光学レンズを備えることができる。これは引き出し光学系の収差を最小にする上で有益である。なぜなら、前記ガイドチャネルの電極は平坦であるから、他の場合よりもレンズを接近させることができるからである。
前記引き出し電源ユニットは、該アセンブリを用いて荷電粒子に力を加えて該粒子を前記ガイドチャネルに平行な方向(例えば軸方向)に引き出すために、前記引き出し電圧を前記引き出し電極アセンブリに印加するように構成することができる。
上記装置は、対応する荷電粒子操作方法の手段となる。この方法は本発明の更に別の対応する態様である。それ故、本装置との関係で上述した発明の各特徴は、対応する方法の実装として理解することができる。
従って、第8の態様において、本発明は、荷電粒子の輸送の軸を規定するガイドチャネルを形成するように配設された一連の電極を備えるガイドアセンブリを備える荷電粒子操作方法を提供することができる。該方法は、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第1のアレイ、及び、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第2のアレイであって、前記ガイドチャネルの軸を挟んで前記第1のアレイから離間して配設された第2のアレイ
を備える集群電極アセンブリを設けること、
前記ガイドチャネルの軸を挟んで離間しており、該軸と平面平行であるとともに互いに平面平行であるように配設された複数の平坦な閉じ込め電極を備える半径方向閉じ込め電極アセンブリを設けること、及び、
電源ユニットを設け、それを用いて前記第1のアレイ及び前記第2のアレイの集群電極に第1電源電圧を供給するとともに前記複数の平坦な閉じ込め電極に第2電源電圧を供給することで、前記ガイドチャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるポテンシャルを規定する電場を生成し、該ポテンシャルが、前記ガイドチャネルの軸の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有すること
を含む。
上述した本発明の各態様のいずれに係る本発明のいずれの特徴も、文脈上そうでない限り、上述した本発明の他の態様により規定される本発明に適用することができるということを理解すべきである。
本明細書において「ポテンシャルを規定する電場」という用語は、電気的なポテンシャル場、又は電気ポテンシャル(電位)、又は単にポテンシャルへの言及を少なくとも含むものと理解してよいが、これらに限られない。これらの短縮された用語はしばしば当該技術分野で同義語的に用いられる。この電場は自由空間内に存在し、該空間全体に広がっており、異なる空間座標における該電場の値(電圧)により空間全体にわたる電場の形状を規定することができる。これは電極に印加される電圧と対照的である。
本明細書において「RF」という用語は「高周波(radio frequency)」という用語の短縮形である。本明細書の文脈上、他の意味で理解する必要がなければ、この用語には当該技術分野で用いられている意味を与えることが好ましい。
本明細書において「波形」という用語は少なくとも、周期的に又は波状に値が変化する量(例えば電圧)への言及を含むものと理解してもよいが、これに限られない。「電圧波形」は本明細書ではこの文脈で理解してもよい。文脈によっては、「電圧波形」への言及は、RF電圧信号ではない、時間と共に緩やかに変化する電圧の周期的な又は波状の変化への言及を含むものと理解してもよい。これは当業者であれば容易に分かるであろう。これは、変調されたRF電圧に対する変調又は該電圧の包絡線関数である「電圧波形」を含んでいてもよく、基礎となるRF信号成分を持たない純粋な「電圧波形」を含んでいてもよい。
本明細書において「集群電極」という用語は少なくとも、複数の電極から成る分割されたアレイに含まれる電極であって、それに電圧波形信号及び/又はRF電圧信号(これは変調されていてもよい)を印加することで個々に電気的なポテンシャル場を発生させることができ、他のそのような電極と組み合わさって、全体としてその内側に荷電粒子を空間的に「集群させる」形状の一又は複数の電気的なポテンシャル場(例えばポテンシャル井戸)を発生させる(本明細書では「集群ポテンシャル」と呼ぶ)電極への言及を含むものと理解してもよいが、これに限られない。限定的ではないが関係のある幾つかの構造例が特許文献2に提示されている。
本発明の原理を例示する実施形態及び実験についてこれより以下の添付図面を参照しながら論じる。
特許文献1の従来技術の開示に関する図。 特許文献1の従来技術の開示に関する図。 積層リング型イオンガイドに関連した捕捉電場の擬似ポテンシャル。 (a)、(b)特許文献2の従来技術の開示に関する図。 寄生オフセットを示す図。 計算した寄生オフセットの例を示す図。 本発明の一実施形態に係る荷電粒子操作装置を示す図。 (a)~(d)輸送チャネル内で用いられる電極配置例を示す図。 輸送チャネル内で用いられる電極構造の例を示す図。 輸送チャネル内で用いられる電極構造の例を示す図。 輸送チャネル内で用いられる電極構造の例を示す図。 輸送チャネル内で用いられる電極構造の例を示す図。 輸送チャネル内で用いられる電極構造の例を示す図。 直交引き出しに適したイオンガイドの例を示す図。 直交引き出しに適したイオンガイドの例を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 本開示に従った波形を示す図。 開示された波形の例を示す図。 様々な振幅を有する図11の波形に対応する8位相イオンガイド用の軸における擬似ポテンシャルを示す図。 従来技術の変調手法(無限変調正弦波)によるZX平面内での擬似ポテンシャルを示す図。 本開示に従った変調手法(「erf」変調)によるZX平面内での擬似ポテンシャルを示す図。 本開示に従った変調手法(「erf」変調)に意図的な正のオフセット(+20V)を加えたものによるZX平面内での全ポテンシャルを示す図。 進行するポテンシャル井戸の例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 2つの時点における進行するポテンシャル井戸の列の例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 イオンのトレースの例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 進行する擬似ポテンシャル井戸の例を示す図。 イオンガイド内部にあるイオン及びそこから軸方向に引き出されたイオンの軌跡の例を示す図。 進行するポテンシャル井戸の例を示す図。 イオンガイドから軸方向に引き出された後、ToF分析装置内に入るイオンの軌跡の例を示す図。 イオンガイド内部にあるイオン及びそこから軸方向に引き出されたイオンの軌跡の例を示す図。 イオンガイド内部にあるイオン及びそこから軸方向に引き出されたイオンの軌跡の例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 静止したポテンシャル井戸及びそれと連続する進行するポテンシャル井戸並びにそれらを支えるイオンガイドの例を示す図。 開示されたイオンガイドの平坦な電極の例。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図であって、イオンの閉じ込め及びイオンの直交引き出しのための電場の等電位線を含む図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図であって、イオンの閉じ込め及びイオンの直交引き出しのための電場の等電位線を含む図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図であって、イオンの閉じ込め及びイオンの直交引き出しのための電場の等電位線を含む図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図であって、イオンの閉じ込め及びイオンの直交引き出しのための電場の等電位線を含む図。 開示されたイオンガイドの例を示す横断面図であって、イオンの閉じ込め及びイオンの直交引き出しのための電場の等電位線を含む図。 開示された波形の例を示す図。 開示された波形及びその時間導関数の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの軌跡の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの運動エネルギーの例を示す図。 開示された波形及びその時間導関数の例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 開示された波形の例を示す図。 波形及びその時間導関数の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの軌跡の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの運動エネルギーの例を示す図。 開示された波形及びその時間導関数の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの軌跡の例を示す図。 イオンガイド内のイオンの運動エネルギーの例を示す図。
本発明の態様及び実施形態について添付図面を参照しながらこれより論じる。更なる態様及び実施形態は当業者には自明であろう。本稿で言及する全ての文書は参照により本明細書に援用される。
以下の開示においては、擬似ポテンシャル及び漏れ電場の基本的な特性を読者に理解してもらうために理論的な議論を行う。その後、本発明者らにより実現されたそれらの擬似ポテンシャル及び漏れ電場の特性の有利な実際的応用及び利用の例を示す。
擬似ポテンシャル
擬似ポテンシャルという研究手法は質量分析の関連部分において広く用いられている。擬似ポテンシャル進行波の詳細な理論的説明は例えば従来技術(特許文献2)に見られる。以下では高周波電場を用いた荷電粒子の閉じ込めという物理的現象を理解し、2次元四重極マスフィルタという簡単な場合を例にして擬似ポテンシャルの手法を概観する。
RF電場におけるイオンを閉じ込める純粋に静電気的な装置に似たものとして、理解に役立つ機械的な類似物を考えてみる。特に、回転する鞍形面上のビーズを捕捉することを考えてみよう。回転する鞍形ポテンシャルという類似物はRFイオンガイド/トラップの物理的性質と厳密には一致しないが、その基礎を成す原理を直感的且つ有用な方法で捉えるものである。質量mの粒子を空間の一点に安定的に閉じ込めるには、
F=-cr
なる復元力、即ち拘束力Fが必要である(フックの法則参照)。ここで、cはばね定数、rは位置変数である。保存力FはスカラーポテンシャルUによって常に次式で表すことができる。
F=-∇U
この力が与えられれば、次のように1回積分することによりポテンシャルを計算することができる。
Figure 0007367850000039


ここで、α、β及びγは3つの空間方向においてcの役割を果たす定数である。静電ポテンシャル内での荷電粒子の捕捉という議論を見越して、α=-β=1、γ=0と選ぶことにする。この選択により、Uは次式のように鞍形面の形を有するポテンシャルとなる。
Figure 0007367850000040

この形状のポテンシャルはX方向に粒子を捕捉することができるが、y方向には安定的な極小がなく、粒子が漏出する可能性が常にある。故にこの静止ポテンシャルでは安定的な捕捉はできない。しかし、これから鞍形の重力ポテンシャルの例を用いて示すように、時間変化を導入すれば捕捉が実現可能になる。重力ポテンシャルにおいては、
Figure 0007367850000041


とすることができる。よって次のような鞍形の重力ポテンシャルの式が得られる。
Figure 0007367850000042


ここで、mはビーズの質量、gは地球の重力加速度、h及びrはポテンシャルの湾曲を形作るパラメータである。この鞍を垂直軸(z軸)の周りに角周波数Ωで回転させ、他に一切運動を加えないようにすることで、鞍の内側でビーズの「平衡を保つ」ことができる。この角回転は静的な重力ポテンシャルを時間変化するポテンシャルに変換する。後者は当該ポテンシャルを回転する軸x’、y’を用いて書くことにより次式のように記述することができる。
Figure 0007367850000043

この回転する鞍形ポテンシャルは、実験室の枠組み内では、次式のような回転行列により与えられる標準的な座標変換を適用することにより記述することができる。
Figure 0007367850000044


これにより次式が得られる。
Figure 0007367850000045

図的には、このポテンシャルの時間変化は、鞍形面が、該鞍形面からビーズが転げ落ちないような周波数Ωで垂直軸の周りに回転しているものとして視覚化することができる。鞍が高速で回転すればするほど、ビーズはより良好に鞍形面(即ち重力ポテンシャル面)の内側に閉じ込められる。回転が十分に高速であればビーズが鞍形面に閉じ込められた安定的な軌道をたどることを証明できる。回転する鞍形ポテンシャルは、高速振動するポテンシャルでの粒子の捕捉の基本的な物理的過程を直感的に例示するが、イオンの捕捉/ガイドに用いられる電気ポテンシャルは、厳密には、重力ポテンシャルの鞍形面U(x,y,t)に対して上に示した数学的な形をしてはいないことに注意が必要である。むしろ、イオンガイド/トラップにおける電気ポテンシャルは典型的には次のような形をしている。
Figure 0007367850000046

図的には、このポテンシャル表現の時間変化はむしろ、湾曲が時間と共に振動し、鞍形ポテンシャルの壁が鳥の翼のようにはためくという、羽ばたきポテンシャルに似ている。定数c'はイオントラップ/ガイドの電極に印加される電圧Uに依存している。
「回転鞍」ポテンシャルや「羽ばたき」ポテンシャルのように高速振動するポテンシャルは粒子を閉じ込めるために用いることができる。そしてこれは「擬似ポテンシャル」の概念により理解される。擬似ポテンシャル近似では、高速振動するポテンシャル内で粒子に作用する平均ポテンシャルを実効的なポテンシャルとみなす。それは高速振動の1周期にわたる時間平均を取ることにより計算される。このようなポテンシャル内の粒子の軌道を分析するため、該ポテンシャル内の粒子の運動方程式を次のように書くことができる。
Figure 0007367850000047


ここで、zは質量mの粒子の電荷である。イオン閉じ込め用の電気ポテンシャルの一般形は、次式のように、動かない、低速で変化する又は準静的な部分U(r)と、高速で時間に依存した、周波数Ωで振動する振動部分URF(r)cos(Ωt)から成る。
Figure 0007367850000048

振動部分の周波数が、粒子がU(r)のみの影響下で行う運動の1周期Tの時間スケールの逆数よりはるかに大きいものとする。即ち、Ω≫1/Tとする。この仮定の結果、次式が得られる。
Figure 0007367850000049


力F(r)による滑らかな粒子軌道が、周波数Ωで振動する力FRF(r)により変調されている。
こうして、全体の軌道r(t)を次のように滑らかな部分R(t)と高速振動する部分ξ(t)の和で記述することができる。
Figure 0007367850000050

一般に、振動ξの振幅は軌道Rの滑らかな部分よりもはるかに小さい。即ち、|ξ|≪|R|である。このことから、力F(r)と力FRF(r)を次のようにテイラー級数においてパラメータξの最低次数まで展開することができる。
Figure 0007367850000051


この級数のうち無視できる部分を省略すると、運動方程式は次のようになる。
Figure 0007367850000052


軌道の振動部分についての運動方程式の結果は近似的に次式で与えられる。
Figure 0007367850000053


この方程式の解は次のようになる。
Figure 0007367850000054

1周期2π/Ωにわたり、
Figure 0007367850000055


の時間平均を計算することにより、時間平均した擬似ポテンシャルを表す式が得られる。その際、cos(Ωt)を含む項は時間平均がゼロになるため、[cos(Ωt)]の項だけが残ることに注意されたい。即ち、
Figure 0007367850000056


となる。ここで、
Figure 0007367850000057


であるとすると、上記の式は次のように切り詰められる。
Figure 0007367850000058


Fは保存力であることと、∇×FRF(R)=0であることから、上記の式は次のようになる。
Figure 0007367850000059

上記の結果と、〈cos(Ωt)〉=1/2であることから、
Figure 0007367850000060


となる。これは、「永続的な」力(Fsec)を、高速振動するRFポテンシャル内の電荷zの粒子に作用する力の時間平均として定義することができることを意味する。換言すれば、前記永続的な力は、次式で表される永続ポテンシャル(Usec)の空間勾配に比例している。
Figure 0007367850000061

ここで、
Figure 0007367850000062


である。
これがRF電場により生成される「擬似ポテンシャル」である。高速振動の1周期にわたって時間平均した運動方程式から、永続ポテンシャルの時間平均が静止ポテンシャルと「擬似ポテンシャル」の和として記述できることが分かる。四重極場等の場合、FRF∝URFであることから「擬似ポテンシャル」はポテンシャルの振動部分の大きさの二乗に比例するとともに、粒子の質量電荷比m/zに逆比例する。なお、FRF∝zであるから、Ups∝zであり、生じる力は当該荷電粒子の電荷の符号に依存しないことに注意されたい。これにより、なぜ擬似ポテンシャル波が同じ井戸で正負の粒子を両方とも輸送できるかが説明できる。
漏れ電場
リニア四重極イオンガイドのうち該ガイドの末端から遠い内部領域では、2次元四重極ポテンシャルを次式で記述することができる。
Figure 0007367850000063


ここで、2rは四重極イオンガイドの対向するロッド間の最短距離であり、U-URFcos(Ωt)という式は接地を基準として測定した電気ポテンシャルであり、2対のロッドの各対に逆極性で印加される。それは直流成分(即ちU)とRF成分(即ちURFcos(Ωt))の一次結合である。ここでΩはRF信号の角周波数である。これはやや理想化された状況であって、リニア四重極イオンガイドのうち該ガイドの末端から遠い内部領域においては非常に良好な近似であるが、イオンガイドに沿った軸方向の位置が末端に近付くにつれて徐々に不正確になる。更に、イオンガイドのポテンシャルは該イオンガイドの末端を超えて外にも延在しており、出口端の外で単純に値ゼロまで即座に低下するわけではない。むしろ、ポテンシャルの振幅又は強度が持っていたであろう値から滑らかに移行する、いわゆる「漏れ電場」領域が存在する。
出口の漏れ磁場UFFは次式で定量化できることを示すことができる。
Figure 0007367850000064


ここで、減少項f(z)は、イオンガイドの出口端に接近して通り過ぎる際のイオンガイド軸に沿った軸方向の距離zに対して滑らかに減少する振幅又は強度の関数である。イオンガイドの端部に漏れ領域がある結果、イオンガイドの中心軸(即ちz軸)上のイオンは、イオンガイドの外側で、z軸に沿った方向にイオンガイドの末端を超えて距離が増大するにつれて減少する非ゼロの四重極ポテンシャルの作用を受ける。良い近似として次式が成り立つことを示すことができる。
Figure 0007367850000065


ここで、a及びbは四重極イオンガイドの構造により決まる正の定数であり、zはイオンガイドの外側で固定したポテンシャルにある(例えば接地されている)軸方向の位置である。いわゆるEnge関数も記述的である。上述したように、この漏れ効果はRFポテンシャルにより生成される擬似ポテンシャルに等しく当てはまる。漏れ電場は四重極以外(例えば六重極、八重極、十重極等)の構造のイオンガイドにも存在する。漏れ電場の作用は、イオンガイド内部のポテンシャルを該ガイドの末端の付近及びその位置において減少させること、そして前記末端を超えて有限の距離にわたり非ゼロで延在するポテンシャルを規定することである。
以下の開示では、本発明者らにより実現された擬似ポテンシャル及び漏れ電場のこれらの特性の有利な実際的応用及び利用について述べる。上記の理論的な議論の目的は、読者に擬似ポテンシャル及び漏れ電場の基本的な特性を理解してもらうことである。
波形
実際には、特許文献2の波形(上述)には小さな欠陥があることが本発明者らにより見出された。これらの欠陥は輸送装置の集群効果を低下させる。これらの欠陥は、波形を実現する電子機器のかなり小さな欠陥に起因する。なお、「小さい」といってもそれは波形の振幅と比べた当該欠陥の大きさを指すものであって、イオンの運動におけるその欠陥の影響は有害であり、イオンが完全に失われる結果となり得る。
本開示では、イオンを集群して輸送するように構成された、主電極と集群電極を有する四重極イオンガイド等の多重極イオンガイド(幾つかの好適な構造が既に本発明者らにより特許文献2において開示されている)に応用可能な新しい種類の波形が開示される。このような装置は広範囲にわたるMS/MS分析を高いスループットと最小限の損失で成し遂げる上で有用と考えられる。開示された各波形は、好ましくは、例えばイオンが高真空領域内へ輸送された後、数十ミリ秒にもなり得る伝播時間の間、該イオンを冷却された状態に維持することを可能にする。それらの波形は、反対の電荷を持つ粒子の反応を通じてプロダクトイオンを生成するETD(電子移動解離)のような方法等、いわゆる「ソフト」で「低速」の解離方法を装置内で用いることを可能にすべきである。損失を最小化して最大量の情報をもたらすとともに隣接する井戸間の「混信」をほぼなくすために、イオンの群れの各々を、それらの運動エネルギーを増加させることなく、進行するポテンシャル波のそれぞれの井戸の中に留まらせることが必要である。
本開示の第1の態様及びそれに対応する第2の態様はイオン移動方法(第2の態様)及び装置(第1の態様)に関する。これは例えば本発明の第1及び第2の態様に関連して上述したようなものである。
より詳しくは、本開示のこの態様はイオンガイドにおいてイオンを集群して輸送するための波形を形成する方法の改良に関する。このイオンガイドはイオンの断片化(「低速」の方法による断片化を含む)及びTOF質量分析計との組み合わせのための準備を行うものである。新しい波形は、2本の平行な連続的なロッドと2列の平行な分割電極群とを備える又は4列の平行な分割電極群を備える四重極構造のような、多重極構造を有する形式のイオンガイドに好適である。
本開示の第1の態様から第8の態様までの方法及び装置には本発明者らが知得している従来技術と比べて以下のような利点がある。
・目的のイオン群に対して最大の質量範囲と好ましくは最小のイオン加熱で直交加速を実行することができる。これは例えば本発明の第7及び第8の態様に従って実行することができる。
・イオンが最小のエネルギー分布と最小の集群サイズで直交引き出しに供される。
・従来技術の波形に比べて波形精度の要件が大きく軽減され、必要な電源ユニット(PSU)に対する要件も軽減される。
・寄生的な波形歪みが生じたとしてもそれによる効果が補償される。
・従来技術に記載されている進行波の障壁をより高くできるため、質量通過範囲がより広くなる。
・近接する井戸の間におけるイオンの移動又は「混信」が大幅に低減される又は防止される(これは、ある井戸から軸方向に漏出したとしても、隣の井戸に入るよりむしろ半径方向に追い出されるからである)。
・軸方向と半径方向における進行波の特性を切り離すことができるので、従来技術のようにポテンシャル障壁の高さが半径方向の閉じ込めの力と強く結びつくことがない。
・従来技術よりも良好なイオンの閉じ込めができる。
・輸送されるイオン群の形状及びサイズを印加波形の特徴により修正することができる。
・簡単なデジタルスイッチング系を用いて波形を実現することができる。
・進行する擬似ポテンシャルを生じさせる変調されたRF振幅(それがある場合)の極小値の箇所にイオン群が位置するようにイオンを輸送することができ、簡単で実際的な波形を得るためにどのような要件が暗に存在するかを認識することができる。
・擬似ポテンシャルと実ポテンシャルを組み合わせることにより、輸送ポテンシャルのための改良された方法が提供される。これは例えば本発明の第3及び第4の態様に従って実現することができる。
これらの利点は例えば本発明の第1及び第2の態様に従って実現することができる。本発明の第1及び第2の態様は本願に開示されている全ての態様に適用できる。
本開示の第3及び第4の態様は軸方向引き出し装置(第3の態様)及びそれに対応する方法(第4の態様)に関する。これは例えば本発明の第3及び第4の態様に関連して上述したようなものである。これは例えばoaToF(直交加速型飛行時間質量分析計)の改良又は集群イオンガイドのoaToF分析計への応用に好適である。より詳しくは、本開示のこれらの態様は、oaToF分析計が改良されるようなやり方でイオンガイドからoaToFのパルス化領域内へ軸方向に引き出しを行う装置及びそれに対応する方法に関するものでもある。これは例えば本発明の第3及び第4の態様に関連して上述したようなものである。
本開示の第5及び第6の態様はそれぞれ、イオンを集群して輸送するためのイオンガイドにイオンを注入する装置(第5の態様)及びそれに対応する方法(第6の態様)の改良に関する。これは例えば本発明の第5及び第6の態様に関連して上述したようなものである。より詳しくは、本開示のこれらの態様は、(本開示の第1及び第2の態様のような)新しい波形を利用して装置内の選択されたポテンシャル井戸にイオンをより簡単に且つより良好に注入することに関する。本開示のこの態様の主な利点は従来技術に比べて電子機器が劇的に簡素化されることである。
本開示の第7及び第8の態様はそれぞれ、イオンを集群して輸送するための改良された構造(第7の態様)及びそれに対応する方法(第8の態様)に関する。詳しくは、本開示のこの態様は、本開示の第1、第2、第3、第4、第5又は第6の態様に関連して本明細書に開示された配置に従ってイオンの輸送を行うための新規な平坦な構造に関する。この構造はプリント基板(PCB)により実現でき、非常に簡単に製造できる。
なお、本発明の第1及び第2の態様に関連する装置及び方法、並びに本明細書に開示されている新しい波形は、本明細書に開示されている本発明の全ての態様に適用できるものと理解されたい。
新しい波形
これから、荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を含む荷電粒子操作装置又は方法が本発明によりどのように提供されるかを例示するため、本発明の一例について説明する。図6は本発明の一実施形態に係る装置を概略的に示している。この装置は、チャネル内に電場を生成するように、軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧を供給する電源ユニット5を有している。前記電場のポテンシャルは、少なくとも一定の時間(T)の間、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる一又は複数の局所極小を有している。ある軸方向に分割された集群電極に印加される第1電源電圧は、前記時間(T)内で前記局所極小に相当する有限の時間(T)の間、値が略一定に保持される。実用の際は、波形周期のこの部分は、波形の電圧値が該電圧の最小値(例えばゼロ。ただし共通の直流オフセットがある場合はそれを除く)と該波形の振幅の10%以下の一定値との間(前記最小値を含む)にあり続けるような時間部分と定めることができる。
電源ユニット6が、前記チャネル内で半径方向にイオンを閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するために、同時に第2電源電圧を半径方向閉じ込め電極に供給する。好適なポテンシャルの性質、生成されるポテンシャル井戸の性質、及びそれらの利点については後続の各例で説明する。
本発明者らは、従来技術(上記[背景技術]を参照)に記載されている、
Figure 0007367850000066


という形の波形を実装しようと試みている間に、いわゆる寄生オフセットから問題が生じることを見出した。その波形の生成は好ましくは「デジタル法」により成される。即ち、高周波(RF)領域にあり、数百ボルトの振幅を持つ波形が、様々な先行技術に記載されているように生成される。方形波形が、厳密に時間調整されたMOSFETを用いた2つの電圧レベルの間でのスイッチングにより生成される。これは実際には、その波形の高速振動成分が余弦cos(2πft+φ)ではなく、むしろ方形波形であることを意味している。従来技術及び本願において、前記2つの電圧レベルは時間と共に変化させることができる。時間的な周期変化がRF波形の振幅変調包絡線を生み出す。
寄生オフセットがあると、正極性と負極性の各々の半周期が正確に釣り合わない、即ち、均等且つ逆極性になっていないため、意図しない電圧成分が生じてしまう。このようなオフセットは図5Aに示したようにRF波形の正及び負の偏位の積分面積の差を計算することにより評価することができる。この差は2つの原因から生じると考えられる。一つは変調波形の正と負の振幅が釣り合っていないことである。もう一つの原因はRF波形が0.5から僅かに外れたデューティサイクルを持つことである。デューティサイクルは、基本的には、搬送波形の周期に対する該搬送波の正又は負の半周期の時間の比である。理想的にはRF波形(ときに搬送波形と呼ばれる)のデューティサイクルは0.5(50%)である。著者らは、デューティサイクルが0.5から僅かに外れると、イオンを集群して輸送する上でかなり有害な影響を及ぼす寄生オフセット電圧が発生する可能性があることを見出した。
搬送波形の各周期の寄生オフセットの大きさは(A-B)*fで与えられる。ここで、A及びBは正及び負の偏位の面積であり、実際の波形のデジタルオシロスコープの軌跡から数値的に計算できる。A及びBの単位はボルト秒(V*sec)であり、fはRF波形の周波数で、単位はHzである。
実際の波形では波形のパラメータが一定の許容範囲内に維持される。許容範囲は前記波形を生成する方法の不完全さにより決まる。この不完全さには、電子部品の公差(容量及び抵抗の値のばらつき等)、MOSFETの特性等、及びイオンガイド自身の要素間の容量(負荷容量)が含まれる。計算したオフセットの例を本願の図5Bに示す。図5Bから分かるように、寄生オフセットは変調周波数よりも高い周波数を持つ信号であるため、フィルタリング法で除去することが難しい。振幅400Vの波形のバランスが0.25%崩れただけでも2Vの寄生オフセットが生じる恐れがあることに注意すべきである。また、1MHzの周波数を持つ400VのRF振幅の波形の場合、正及び負の半周期の間に5nsの偏りがあるだけで同じ2Vの寄生オフセットが生じてしまう。2Vは、内接半径2.5mmの四重極構造のガイドにおいて集群イオンの輸送の性能にとって有害であることが分かった。
波形に振幅変調、位相変調又は他の種類の変調が行われている場合、高い部品公差を条件として定めることによりオフセットを改善することが可能であり、本発明者らはそれを達成したが、それはコストがかかる上に、影響がまだ十分に除去されないことがある。そこで、本発明者らは代替となる低コストでより効果的な解決策を探すことにした。
従来技術である特許文献2に示されているように、四重極イオンガイドの軸(z方向)に沿って集群電極に以下の電圧波形を印加することにより擬似ポテンシャルを生成することができる。
Figure 0007367850000067


これにより生じる軸方向の擬似ポテンシャルは、
Figure 0007367850000068


で与えられる。ここで、Eは時間平均された電場、zはイオン電荷、mは擬似ポテンシャル内のイオンの質量である。nを自然数とするとき、任意のz座標に対するこの擬似ポテンシャルの極小は時間t=n*Tに現れる。本発明者らはまた、これらの時間が、
Figure 0007367850000069


という波形が最大又は最小となる、即ちRF振幅の極値を取る瞬間であることも理解している。これは、擬似ポテンシャルの進行波の極小にあるイオンが最大の寄生オフセット電圧を受け、そこでは寄生オフセットがRF振幅の2%に達し、数ボルトになる可能性がある、ということを意味する。これは非常に有害であり、イオン群の伝播に対し、その輸送にとって有害な幾つかの異なるやり方で影響を及ぼす可能性がある。それはイオンを溢れさせ、隣で進行する擬似ポテンシャル井戸の中へ入らせる。また、それは加熱を生じさせ、質量に依存した損失を生じさせる。ポテンシャルの短時間で急な変化は電気ポテンシャルのインパルスのように作用し、イオンにエネルギーの「蹴り」を与え、その結果、隣の井戸へのあふれや放射状(即ちガイド軸を横切る、半径方向)の損失が生じる可能性がある。寄生オフセットは擬似ポテンシャルの底の上昇の一因となる可能性がある。擬似ポテンシャルの深さはイオンの質量に反比例するから、擬似ポテンシャル井戸に閉じ込められたイオンの群れのうち重いイオンは軽いイオンより先に漏出し始め、イオンガイドの質量範囲の能力が低下する。
当然ながら、寄生オフセットは搬送中のイオン群の(軸に沿った)近傍(即ち、擬似ポテンシャル井戸の極小の位置)に発生すると最も大きくイオンに影響を及ぼす。こうして本発明者らは全てのイオン群の位置において波形の不完全性の影響を軽減し、好ましくは除去することの必要性を理解した。そういうわけで、本発明者らは前述の箇所におけるRF振幅を最小にする方法を探した。
そのような方法を探すうちに、本発明者らは、擬似ポテンシャル井戸だけでなく、交流電圧波形として形成される(即ちRF成分を含まない)「本物の」ポテンシャル井戸の形成にも関係する以下のことを理解した。
・運動中のイオン群が存在する箇所における振幅が無視しうる又は略ゼロの波形が好ましい。これは、イオンが、最も近くの波形に印加される波形の寄生オフセットに影響されなくなることを意味する。見方を変えると、もし電圧波形(例えば変調されたRF波形又は交流電圧波形)がポテンシャル井戸の位置で一定の「ゼロ」値を持っていれば、最も近くの電極に印加される波形は前記ポテンシャル井戸に悪影響を及ぼしやすい寄生オフセットを発生させることができない。
・擬似ポテンシャルは、いずれの側においても、近接する電極の箇所においては有意な値を持つが、より遠くの近接する電極の箇所においては大きく低減する。従って、8位相(N=8)の場合、3つの近接する電極が波形の1周期/サイクルの間に全て同時に該波形のゼロレベルを持つことが好ましい。
・このような特性を有する系においては、イオンは最も好ましくは主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)に印加されるRF電圧(例えば追加のRF電圧)により半径方向に捕捉され、この電圧は一定の振幅を有するRF波形により供給することができる。なお、一定の振幅のRF波形では、簡単な直流ブロック法によりその直流成分を完全に除去することができる。この場合、進行波の井戸内のイオンは主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)の四重極捕捉電場だけで半径方向に閉じ込めることができる。
・主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)と軸方向に分割された集群電極(集群電極)に同じ直流オフセットを供給することにより、ポテンシャル井戸の破壊が生じ得なくなり、寄生オフセットによる直流の分解が確実に無くなる。
これらの重要な洞察に加えて、本開示により教示される波形は、従来技術である特許文献2に比べて、以下のような幾つかの新たな特徴とより高い柔軟性をもたらす。
・軸方向の捕捉及び集群のポテンシャルと半径方向の捕捉ポテンシャルとが実質的に独立している。これにより装置の操作が大幅に簡素且つ容易になる。その結果、従来技術に比べてより高い半径方向捕捉電場を印加することができる。半径方向のイオンの閉じ込めは主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)の捕捉用多重極場(例えば四重極場)により成され、軸方向のイオンの集群は複数の位相(例えば波形/変調の位相)を持つ変調されたポテンシャル(即ち、電圧波形)により成される。
・波形の追加的なパラメータが、ポテンシャル井戸の間のポテンシャル障壁の高さと、イオンを井戸内に保つ電場の強度に影響を及ぼし、従来技術に比べてイオン群をより効果的に閉じ込める。これは、従来技術に比べて、イオンがその指定された群れの中により良好に保持され、損失が少なくなり、変調された波形の所与の振幅について質量範囲がより広くなることを意味する。また、波形のパラメータでイオン群の軸方向のサイズを制御できるため、より高い柔軟性が得られる。
この新しい波形は特許文献2に教示されたような定速の並進(即ち、加速も減速もない)を生み出し、イオン群の「滑らかな」輸送に影響を及ぼす。これは、輸送中にイオンを低温に保つことができるため、イオン群を高真空領域に送って該高真空領域内で更に輸送するために用いることができる。同時に、本明細書の教示によれば、波形精度の要件が軽減されるため、より実用的な実装方法が得られる。
新しい種類の波形は、主ロッドと集群電極から成る、多重極場構造(例えば四重極場構造)を備える輸送装置に適用できる。集群電極は細かく分割されたロッドを含むことができる。関係のある幾つかの構造例が特許文献2に提示されている。主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)の主な役割は、イオンを輸送装置の軸の方へ閉じ込めるために多重極(例えば四重極)の半径方向閉じ込め電場を供給することである。集群電極はイオンガイドの光学軸に沿って間隔を空けて配置されている。この軸方向に分割された集群電極には、複数の波形を有する電源電圧を供給する電源ユニット(PSU)により電圧を供給することができる。これらの波形は、イオンガイドに沿って一定の波速で軸方向に移動する複数のポテンシャル井戸を、装置の軸に沿って、ガイドチャネル内に生成する。典型的には8つの位相(例えば共通の電圧波形の位相)が前記複数の集群電極に供給される。この具体的な事例において、8つの位相の各々は位相間に360/8=45度という一定の位相ずれを持つものとすることができる。より一般にはN個の位相が用いられる(Nは正の整数)が、その場合、隣接する位相間に360/N度という一定の位相角の位相ずれがある。N個の位相がそれぞれ各々のN番目毎の電極に印加される。故に、N個1組の電極が繰り返し用いられることになる。つまり、各電極には、-360/N度という位相角のずれを持って先行する電極と、+360/N度という位相角のずれを持って続く電極とがある。波形は周期的な電圧(例えば、RF成分を含まない)又は周期的な変調されたRF電圧(例えば、該波形に従って変調された振幅を持つRF成分を含む)とすることができる。波形はこの二つの組み合わせ、即ち周期的な依存性電圧と周期的な変調されたRF電圧の和とすることができる。
前記波形は、電極に印加されると、輸送装置の軸に沿って一定の速度で移動する局所極小と局所極大から成るポテンシャル又は擬似ポテンシャルを発生させる。その速度はイオン輸送の要件に従って調整可能とすることができ、変調周波数とN個の電極の繰り返し距離によって決まる。N個の電極から成るグループがM個ある場合、N個の電極の組の長さをLとすると、装置の全長はLtotal=M*Lである。主電極(即ち、半径方向閉じ込め電極)と集群電極の役割は意図的に分けられていることが最も好ましい。
図6は本発明の一実施形態に係る荷電粒子操作装置の一例を概略的に示している。この装置(1)は、荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極(2,3)を備えている。第1電源ユニット(5)は、軸方向に分割された集群電極(3)に対し、前記チャネル内に電場を生成するように、本明細書に開示されたような、周期(T)を持つ波形に従って変化する第1電源電圧(7)を供給するように適合させられている。前記電場のポテンシャルは、本明細書に記載されたような、ポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に複数の局所極小を有しており、前記ポテンシャル井戸が前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられる。前記ポテンシャル井戸は前記周期(T)と略等しい時間の間に該ポテンシャル井戸の長さ(例えば前記チャネルに沿った軸方向の長さ)と略等しい距離だけ並進させられる。本明細書で論じたように、前記波形は、
(a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
(b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である。
第2電源ユニット(6)は、前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、半径方向閉じ込め電極(2)に第2電源電圧(8)を供給するように適合させられている。
本装置は、第1及び第2電源ユニット(5,6)とコンピュータ(9)とを含む制御ユニット(4)を備えており、前記コンピュータは、波形のサイクルに沿って複数の別々の離散的な点に各々対応する前記波形の複数の別々の離散的な値が保存された記憶ユニットを備えている。コンピュータは、記憶ユニット内に保存された離散的な値に従って波形を生成するように第1電源ユニットを制御するように構成されている。
本装置は、前記チャネルの出口における圧力が0.5mbarより低くなるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御するように構成されたバッファガス制御ユニット(10)を備えている。バッファガス制御ユニットは、前記チャネルの一方の端におけるバッファガスの圧力が該チャネルの他方の端における圧力の少なくとも20倍になるように前記チャネル内のバッファガスの圧力を制御するように構成されている。例えば、前記チャネルの出口/出力端における圧力が該チャネルの入口端における圧力より少なくとも20分の1以下になるように制御することができる。
制御ユニット(4)は、擬似ポテンシャルによりポテンシャル井戸が形成されるように前記波形に従って変調されたRF電圧信号を含むように、又は、前記波形に従って時間と共に値が変化する交流電圧を含んでいる一方、基礎となるRF電圧信号を含まない又はそれを変調しないように、第1電源電圧を制御することができる。
制御ユニット(4)は、軸方向に分割された集群電極の各々の電極に第1電源電圧波形を供給し、該波形が、隣接する電極に同時に供給される電圧波形に対して位相ずれを持つように、第1電源ユニット(5)を制御することができる。これは、前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)の間、軸方向に分割された連続する複数の集群電極の各々にそれぞれ前記波形の異なる位相において同時に第1電源電圧を印加することを含むことができる。
制御ユニット(4)は、第1電源電圧の波形周波数(f=1/T)が、所定の有限の時間Tの間、該波形の値が該波形の1周期T内における該波形の最大値の10%以下になるような周波数になるように第1電源電圧を供給すべく、第1電源ユニット(5)を制御することができる。ここで、T≧T/Nであり、Nは、軸方向に分割された集群電極のうち、前記波形の完全な1周期Tを支えるサブセットを形成する、軸方向に分割された連続する集群電極の数である。実施形態によっては、前記有限の時間(T)を通して、前記波形の値が該波形の振幅(U)に対する割合(%)で表される所定の最大許容変化(ΔU)を超えて変化しないように、即ち、100×ΔU/U≦10となるように第1電源ユニット(5)を制御することができる。実施形態によっては、時間Tを周期Tに対する割合(%)で表したものをT’=100×T/Tとし、ΔU’=100×ΔU/Uとして、ΔU’/T’≦2.0となるように第1電源ユニット(5)を制御することができる。実施形態によっては、波形振幅Uを持つ波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値が前記有限の時間(T)を通して、
|(T/U)∂U/∂t|≦50
となるように第1電源ユニット(5)を制御することができる。実施形態によっては、波形振幅Uの第1電源電圧波形の一次の時間導関数の絶対値が該波形の周期(T)を通して、
|(T/U)∂U/∂t|≦100
となるように第1電源ユニット(5)を制御することができる。例えば、一次の時間導関数に対するこれらの上限は波形が本明細書で論じたような誤差関数(erf)を含む場合に特に好適である。望ましくは、これらの波形及び条件のいずれかを適用することにより生成されるポテンシャル井戸が井戸床を規定し、該井戸床を規定するポテンシャルの値が、時間と共に値が変化しない1つの局所極小しか含んでいないようにする。
輸送チャネル内で使用できる電極の例を図7(a)~(d)に示す。主電極及び集群電極は、何らかの手段で分割された集群ロッドを用いて、普通のリニア四重極のロッドに「似せる」ことができる。例えば、半径方向の捕捉電場は半径方向閉じ込め電極と軸方向に分割された集群電極との間の電圧差により生成することができる。こうして、RF半径方向閉じ込め電圧を半径方向閉じ込め電極及び軸方向に分割された集群電極のいずれか一方又は両方に印加することができる。半径方向閉じ込め電極が分割されており、軸方向に分割された集群電極に印加される電圧が変調されたRF電圧でない場合、その電圧を軸方向に分割された集群電極と半径方向閉じ込め電極の両方に印加することができる。
どちらの種類のロッドも図7(a)に示したように双曲線状の輪郭を持つものとすることができる。別の実施形態では、図7(b)のように主ロッドと集群ロッドの両方を分割することができる。主ロッドと集群ロッドの横断面は他の形状にすることができる。それは頂部を切断した双曲線状電極、円形電極、台形電極、矩形電極等を含むが、これらに限られない。実施形態によっては、分割された集群ロッドは主ロッドと横断面の形状が異なるものとすることができる。集群ロッド同士は主ロッド同士よりも互いに近付けて又は遠ざけて配置することができる。
更に応用可能な幾つかの構造を図8a~図8eに示す。ここで、図8aと図8bは平坦な主ロッドと平坦な集群電極を有する例を示している。図8cは部分的に双曲線状になった連続的な主電極と部分的に双曲線状になった集群電極を有する構造を示している。図8dは代わりの実施形態を示している。
図8dは対向して配置された電極平面を備える装置を示している。各平面は内側の集群電極と2つの主電極から成る。この構成は製造が容易であり、プリント基板(PCB)の表面に作製したり、PCB上に実装された電極にしたりできる。図8dの装置は横断面で見たときに四重極場に似たものを生み出すために用いることができる。図8eは各平面上に2対、合計で8本の主ロッドを有する代替の構造を示しており、適切な電圧が印加されたときにより正確な四重極場を生み出す。
集群電極と半径方向閉じ込め電極のこの配置は、本明細書で説明したように、荷電粒子操作装置(図6の符号1)内に含めることができる。集群電極と半径方向閉じ込め電極のこの配置は、荷電粒子の輸送の軸を規定するガイドチャネルを形成するように配設された一連の電極を備えるガイドアセンブリ20を備えている。該ガイドアセンブリは、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第1のアレイ21、及び、
前記ガイドチャネルに沿って軸方向に離して配設された複数の平坦な集群電極の第2のアレイであって、前記ガイドチャネルの軸を挟んで前記第1のアレイから離間して配設された第2のアレイ22
を備える集群電極アセンブリと、
前記ガイドチャネルの軸を挟んで離間しており、該軸と平面平行であるとともに互いに平面平行であるように配設された複数の平坦な閉じ込め電極を備える半径方向閉じ込め電極アセンブリ(23,24,25,26)と、
を備えている。
電源ユニット(図6の符号5及び6)は、前記ガイドチャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるポテンシャルを規定する電場を生成し、該ポテンシャルが、ガイドチャネルの軸の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するように、前記第1のアレイ及び第2のアレイの集群電極に第1電源電圧7を供給するように適合させられている。
前記集群電極の第1のアレイ21は、前記ガイドチャネルの軸を横断する横方向の間隔により前記集群電極の第2のアレイ22から離間している。前記横方向の間隔は前記ガイドチャネルの少なくとも一部に沿って均一である。前記平坦な集群電極の第1のアレイのうち連続する(例えば隣接する)平坦な集群電極が、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向において、軸方向の間隔又は隙間により軸方向に分離されている。前記平坦な集群電極の第2のアレイのうち連続する(例えば隣接する)平坦な集群電極が、前記ガイドチャネルの軸に平行な方向において、軸方向の間隔又は隙間により軸方向に分離されている。前記第1のアレイの連続的な平坦な集群電極の間の距離は前記第2のアレイの連続的な平坦な集群電極の間の距離と一致している。前記平坦な集群電極の第1のアレイのうちのある平坦な集群電極が、前記平坦な集群電極の第2のアレイのうち対応する平坦な集群電極と軸方向に位置が正確に合っている。前記横方向の間隔は前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも2倍である。より好ましくは、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも3倍(3×)である。更に好ましくは、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも3倍半(3.5×)である。望ましくは、前記横方向の間隔が前記軸方向の間隔の大きさの少なくとも5倍(5×)である。
半径方向閉じ込め電極アセンブリは、前記集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、該閉じ込め電極と対向し且つ前記集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、を含む閉じ込め電極の第3のアレイ(23,24)を含んでいる。また、半径方向閉じ込め電極アセンブリは、前記集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、該閉じ込め電極と対向し且つ前記集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極と同一平面上にあるように配設された一又は複数の平坦な閉じ込め電極と、を含む閉じ込め電極の第4のアレイ(25,26)を含んでいる。集群電極の第1のアレイ21の平坦な集群電極は、閉じ込め電極の第3のアレイ(23,24)の同一平面上の閉じ込め電極と閉じ込め電極の第4のアレイ(25,26)の同一平面上の閉じ込め電極との間に配設されている。集群電極の第2のアレイ22の平坦な集群電極は、閉じ込め電極の第3のアレイ(23,24)の同一平面上の閉じ込め電極と閉じ込め電極の第4のアレイ(25,26)の同一平面上の閉じ込め電極との間に配設されている。
閉じ込め電極の第3のアレイと閉じ込め電極の第4のアレイは、ガイドチャネルの軸を横断する(例えば該軸と直交する)方向(例えば、ガイドチャネルの軸と交差する方向)に互いに対向するように配設されている。閉じ込め電極の第3のアレイと閉じ込め電極の第4のアレイは、それぞれガイドチャネルの略全長に沿って延在している。閉じ込め電極の第3のアレイと閉じ込め電極の第4のアレイはそれぞれ、ガイドチャネルの略全長に沿って延在する各々の単一の(例えば連続的な)平坦な閉じ込め電極を備える。該2つの各々の単一の平坦な閉じ込め電極は平面平行とすることができる。
閉じ込め電極の第3のアレイと閉じ込め電極の第4のアレイはそれぞれ、2つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極を一対含んでいる。各対の前記2つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極は、互いに平面平行であるとともに、該対の一方の閉じ込め電極が集群電極の第1のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)一方、該対の他方の閉じ込め電極が集群電極の第2のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)ように離間して配置されている。
図8eに示したもう一つの例では、閉じ込め電極の第3のアレイと閉じ込め電極の第4のアレイがそれぞれ、4つの各々の連続的な平坦な閉じ込め電極(23,24,37,38;25,26,39,40)を一組含んでいる。この例では、各組の4つの各々の連続的な閉じ込め電極は、互いに平面平行であるとともに、該組の2つの同一平面上の閉じ込め電極が集群電極の第1のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)一方、他の2つの同一平面上の閉じ込め電極が集群電極の第2のアレイと隣接する(例えば同一平面上にある)ように離間して配置されている。これにより、集群電極の第1のアレイは、平坦な集群電極の第1のアレイの一方の側にある同一平面上の平行な連続的な第1対の閉じ込め電極と同一平面上にあるとともに、集群電極の第1のアレイの他方の側にある同一平面上の平行な連続的な第2対の閉じ込め電極と同一平面上にある。同様に、集群電極の第2のアレイは、平坦な集群電極の第2のアレイの一方の側にある同一平面上の平行な連続的な第3対の閉じ込め電極と同一平面上にあるとともに、集群電極の第2のアレイの他方の側にある同一平面上の平行な連続的な第4対の閉じ込め電極と同一平面上にある。この配置は半径方向の閉じ込めポテンシャルを強める。
好ましくは、第2のアレイの平坦な集群電極は平坦な集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極と平面平行になるように配設されている。平坦な集群電極の第2のアレイの平坦な集群電極は好ましくは互いに同一平面上にあるように配設されている。平坦な集群電極の第1のアレイの平坦な集群電極は互いに同一平面上にあるように配設されていてもよい。また、平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極及び平坦な集群電極の第2のアレイの各平坦電極はガイドチャネルの軸に平面平行になるように配設されていてもよい。
平坦な集群電極の第1のアレイのうち1つの平坦電極と平坦な集群電極の第2のアレイのうち1つの平坦電極がガイドチャネルの軸を横断する共通平面内に存在するように配設されていてもよい。平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極は、平坦な集群電極の第2のアレイの各々の平坦電極と同一平面上にあるように配置され、それらの各々の共通平面がガイドチャネルの軸を横断している、というものであってもよい。横断平面は好ましくはガイドチャネルの軸に垂直である。第2のアレイの平坦な集群電極は同一平面上にはなく且つ互いに平面平行になるように軸方向に間隔を空けて配設されていてもよい。また、第1のアレイの平坦な集群電極も、同一平面上にはなく且つ互いに平面平行になるように軸方向に間隔を空けて配設されていてもよい。
幾つかの例において、平坦な集群電極の第1のアレイの各平坦電極と平坦な集群電極の第2のアレイの各平坦電極は、第1のアレイが第2のアレイと平行であり、平坦な集群電極の第1のアレイが、ガイドチャネルの幅を規定する横方向の距離を挟んで平坦な集群電極の第2のアレイと対向しているように配設される。幾つかの例において、閉じ込め電極の第3のアレイは、ガイドチャネルの軸に平行な方向に延在する複数の電極セグメントのアレイを規定するように分割されている。閉じ込め電極の第3のアレイは、ガイドチャネルの軸に平行な方向に延在する複数の電極セグメントのアレイを規定するように分割されていてもよい。
幾つかの例において、集群ロッドのセグメント間の隙間は該セグメントの幅より大きい又は同じ値である。好ましくは、集群セグメントの軸方向の幅は輸送装置の内接半径よりもはるかに小さく、好ましくは2.5分の1未満、好ましくは5分の1未満、より好ましくは10分の1未満である。集群電極セグメントの横方向の幅は装置のチャネルの内接半径と等しいことが好ましい。
輸送チャネルの内接半径は好ましくは約2mmから約5mmの範囲内にある。集群ロッドの(軸方向の)セグメント間の隙間は好ましくは集群セグメントの幅の2倍より大きく、好ましくは集群セグメントの幅の4倍より大きい。
イオンガイドからのイオンの直交引き出し
主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)は2以上のセグメントに分割されていてもよい。各主ロッドの少なくとも1つのセグメントはガイドからイオン群を引き出すための引き出し領域として利用することができる。イオン群は引き出し領域からイオンガイドの軸に略直交する方向に引き出すことができる。イオン群は一又は複数のToF質量分析計に送り込むことができる。図9a及び図9bはこのような引き出しに好適なイオンガイドの例を示している。図9bを参照すると、単一の引き出し領域929を持つ分割型イオンガイドが引き出しレンズ電極933、935及び937とともに示されている。
引き出し領域は2つの時間的段階において以下の2つの電場構成を作り出すように構成されている。
・輸送電場(これは上流及び下流の輸送イオンガイド並びに引き出し電場と同じ)
・引き出し電場(これは上流及び下流の輸送電場並びに引き出し電場と同じ)
動作中、引き出し領域は上記2つの電場間で断続的に切り替えられる。切り替え周波数は変調周波数を整数で除した値にする。
引き出し領域の主ロッド(即ち、半径方向閉じ込め電極)はイオンを通過させて質量分析計へ向かわせるためにスリットを有していることが好ましい。或いは、主ロッドの引き出しセグメントをメッシュ又は格子製にすることもできる。
引き出しは、例えば特許文献2及び特許文献4に記載の方法により行うことができる。
集群電極に印加される集群波形は引き出しサイクルを通して継続することができることに注意すべきである。これにより、集群波形を供給するために複数の電源ユニットを設けなくても、輸送装置の他の場所にある引き出し領域内で進行波を持続させることができる。
好ましくは、集群電極に印加される波形が引き出し領域の伝送段階と引き出し段階の両方を通して変化しない。こうすれば、引き出し領域の集群ロッドのために追加の電源又はスイッチが不要になる。
イオンガイドからのイオンの軸方向引き出し
イオン群はイオン出口端を通ってイオンガイドの軸方向に(即ち、イオンガイドの軸に平行に)出ることもできる。軸方向に出るイオン群は直交引き出し領域に渡すことができ、これにより、イオンをToF分析計内に導入する代替の方法(oaToF-直交加速ToF)が得られる。oaToF法は当該技術分野で周知である。この方法は多くの商用の装置に広く用いられており、LC-ToF形式及びQ-ToF形式として知られている。軸方向引き出し法には、全ての連続するポテンシャル井戸内にあるイオンを分析できる(引き出しと引き出しの間で井戸を見逃す必要がない)という利点がある。
新しい波形を発生させるための構造及び手法
実際には、本明細書に開示された新しい波形を発生させるために以下のようにする。
・繰り返されるN個の分割電極(セグメント)の組に集群波形を印加することができる。セグメントの各組に含まれるセグメントの数Nは輸送チャネル全体を通じて一定とすることができる。繰り返されるセグメントの組は図9bに示したイオンガイドの部分において電極の陰影により示されている(図は位相の数N=8の実施形態の例を示している)。
・N個の変調位相をそれぞれN番目の電極に印加することができる。例えば、N=8の場合、各電極には、各電極には、-360/8=-45度という位相角のずれを持って先行する電極と、+45度という位相角のずれを持って続く電極とがある。
・集群電極同士は軸方向に距離sだけ離すことができる。従って、位相の数と電極の距離から繰り返し距離Lが決まる。今の8位相の実施形態では繰り返し距離Lは8*sである。装置の全長LtotalはLよりも相当に大きくすることができる。電極のグループがM個あり、各グループが8個の集群電極を備えているとすると、イオンガイドの全長LtotalはM*Lとなり、今の例ではM*8*sとなる。例として、sを1mmとし、Mを50とすることができる。そうするとガイドの全長はLtotal=400mmとなる。装置はそれをどの用途又は機器に応用されるかに応じてもっと長く又は短くすることができる。
・繰り返し距離Lから進行波の波長や連続するポテンシャル井戸間の距離も定まる。
・提示した例では、8つの変調位相のそれぞれがちょうどM個の電極に接続される。
・事例によっては繰り返し距離sとイオンガイドの内接半径又は横方向の寸法をイオンガイドの長さに沿って変化させてもよいことに注意すべきである。
新しい波形の更なる説明
実際には以下のことが言える。
・振幅変調された波形は次の関数で記述することができる。

Figure 0007367850000070


ここで、U(2πt/T+Φ)は周期T(秒)の周期的な変調関数、位相Φ=2π*i/N+Φであり(i=0,1,…,N-1)、Φは任意の初期位相である。ξ(2πft+φ)は、周波数f及び位相φで高速振動する周期的な関数である。
・U(2πt/T+Φ)という成分はRF電圧を変調する。RF電圧は関数ξ(2πft+φ)により表されている。これもRF周波数f(Hz)を持つ周期的な関数である。それは例えば調和関数又は方形波とすることができる。RFの位相と周波数は好ましくは全ての変調位相に共通である。
・一般にRF周波数fは1/Tで表される変調周波数よりもかなり高くすべきである。典型的には、fは0.2~5MHzの範囲内とすることができ、1/Tは典型的には0.1~20kHzの範囲内である。
・位相角Φは電源ユニット(PSU)により供給される変調位相毎に異なっている必要がある。N位相(繰り返される分割電極の各組にN個の電極がある)という一般的な場合、PSUは式(1)により記述されるようなN個の波形を供給する必要があり、N個の位相がそれぞれ異なる位相角を持ち、1からNまでの位相がΦ=-2πi/N(ここで、i=0,1,2,…,N-1)で与えられる位相角を持つ。8位相の例に戻ると、位相角は以下のようになる。
位相1:Φ=0度
位相2:Φ=-45度
位相3:Φ=-90度
位相4:Φ=-135度
位相5:Φ=-180度
位相6:Φ=-225度
位相7:Φ=-270度
位相8:Φ=-315度
・周期Tが、進行する擬似ポテンシャル井戸の周期を決める。これは隣接する井戸を占めているイオン群の配送の時間間隔である。
・波速はL/T(単位はm*s-1)で与えられる。
・波形のRF成分と半径方向の捕捉RF波形は同じ位相角、周波数及び振幅を有していてもよく、そうすれば単一の制御ユニットから簡便に導出できるため有利である。
・本発明の重要な側面は周期的な変調関数の形である(「形」とは、厳密には、1周期Tの間に振幅が時間に対してどのように変化するかを意味する)。それはU(2πt/T+Φ)で表される。
・各変調位相の時間依存性は同じ形をしている必要がある。
周期的な変調関数U(2πt/T+Φ)は周期関数の1周期T内で4つの部分に分割できる波形と定義することができる。図10aを見ると、図10aにおいてTで示したように、RF電圧が略一定の高レベルの電圧又は振幅になっている第1の時間がある。また、図10aにおいてTFFで示したように、RF電圧が前記高レベルの電圧又は振幅から低レベルの電圧へ平均して下降する第2の時間がある。また、図10aにおいてTで示したように、前記低レベルの電圧が持続する第3の時間がある。図10aにおいてTFRで示したように、RF電圧が前記低レベルの電圧又は振幅と前記高レベルの電圧又は振幅の間で上昇する第4の時間がある。
上昇及び下降の期間TFR及びTFFは好ましくは略非ゼロで常に存在する。TFF又はTFRをゼロにすると擬似ポテンシャル又はポテンシャルの形状が過大に変化してイオン群に周期的なインパルス力を与え、又は違う見方をすれば軸方向の電場が急激に変化し、ポテンシャル井戸の伝播が加速及び減速して、上述した従来技術のようになってしまう。
実際には、本発明者らは、最高の性能に達するには以下の条件が好ましいと考える。
・T=TFR+TFF及びTFR+TFF≦Tであること。より好ましくは、TFR=TFF及びTFR+TFF>T/20であること。
・Tは好ましくはT/N以上(≧T/N)とすべきである。これは波動が2つの集群電極間の距離を伝播するのにかかる時間である。例によってはT≧2*T/Nとする。
・U(2πt/T+Φ)は好ましくは連続的で滑らかな関数(電圧に急な変化がない)とすべきである。U(2πt/T+Φ)の時間についての一次導関数は最も好ましくは100未満である(ここでUとtは正規化した変数として表される。即ち、U’=U/U及びt’=t/T)。U/Uなる量は、その最大の値が1であり、通常は0と1という極値の間に広がるから、「単位位相」と呼ぶことができる。U’とt’は単位のない量である。
・U(2πt/T+Φ)の時間についての一次微分も連続関数であることが最も好ましい。
・主ロッドに印加されるRF電圧の振幅は変調されていないことが好ましい。
他の好ましい条件には以下のものが含まれる。
・ある実施形態ではTFR=TFFであるが、他の実施形態ではTFR≠TFFである。
・ある実施形態ではT=Tであるが、他の実施形態ではT≠Tである。
・軸上のポテンシャルの最大電圧は、印加された電圧波形の振幅の少なくとも70%であることが好ましい。
・軸上のポテンシャルの最小値は、印加された電圧波形の振幅の少なくとも30%未満であることが好ましい。
・単位位相の和は2とN-2の間であることが好ましい。
・単位位相の和は整数値であることが好ましい。
・波形のデジタル駆動を用いる場合、波形のデジタル化はNの整数値であることが好ましい。例えば、N=8という好ましい場合、1周期当たりのデジタルステップ数は256(8ビット数)とすることができる。
要するに、進行するポテンシャル井戸と障壁の形、即ち高さ、形状及び軸方向の長さ(軸に沿った長さ)は、以下に例示するような波形の諸側面に依存する。
半径方向の捕捉RFは本システム全体の重要な部分である。集群波形では半径方向の捕捉は生じないため、その役割は半径方向の捕捉電場に属する。先に強調したように、集群波形と半径方向閉じ込め波形は独立している。
しかし、集群波形が変調されたRF波形である場合、半径方向の捕捉RFと変調されたRFの両方の周波数に一定の関係を持たせる必要がある。実施形態によっては、両方の波形のために同じRF電圧を供給することが実際的である。この場合、時間Tだけ続く高い変調された電圧の領域が、電場の弱い領域を作り出す。これは、進行波の井戸から「あふれ出る」ことができたイオンが井戸と井戸の間に閉じ込められにくくなり、イオンガイドから漏出することで井戸と井戸の間の「混信」を低減させる、又は好ましくはそれを無くすことになるため、有利である。そうでなければ、両方の周波数がそれぞれ相手の整数値でなければならない。これは周波数うなりによりイオンに不所望の損失が生じることを防ぐためである。2つのRF間の位相をずらすことも可能である。実際上最も有用な位相ずれは0度と180度であろう。なぜなら、それに対応して半径方向閉じ込め電場が強い領域と弱い領域が作り出されるからである。
本明細書で論じる例においては、少なくとも装置の一部において、該装置の軸と直交する平面内で四重極場(又は実質的に四重極成分を有する場)を生成できる構造であることが好ましい。
本明細書で論じる例においては、上述のような波形を運ぶことができる集群電極の各組におけるセグメントの好ましい最小数(N)は6である。好ましい数はN=8であるが、他の数を用いることもできる。数字が大きければ大きいほどイオン群の並進が滑らかになるが、より複雑になるという犠牲が伴う。8位相であれば、進行波の移動が十分に滑らかになり、輸送チャネルの全体の圧力勾配を通して幅広い質量範囲のイオンを冷却状態に保つことができる。
裏付けとなるデータ
これから具体例により本発明を説明する。その形は誤差関数erfに基づいている。図10a~gに示した例は全てこの関数に基づいている。誤差関数は確率及び統計並びに他の数学の分野で普通に見られるS字状の特殊な数学関数である。この関数を利用して、2つの(高い及び低い)電圧レベルの間で「滑らかな」移動を生じさせるという要件を(先に定義したような本発明の一定のパラメータ範囲の下で)満たすように、電圧が低い値から高い値へ、そして高い値から低い値へどのように変化するかを記述する。エラー関数の定義は次の通りである。
Figure 0007367850000071

この関数は、数学的には簡単にerf(y)である。ここでyはガウス関数の積分の限界を決める量である。erfの勾配はガウス関数そのものだということに注意すべきである。
Figure 0007367850000072

今の応用例では変数yが時間変数tとの関係で表されている。関数erf(y)は問題の電圧又は電圧振幅(それがRFを変調するために用いられる場合)を時間に関連付けて表している。即ち、それは先に導入した関数U(t)を定義する。波形は2つの部分に分かれていなければならない。
周期Tの前半、0<t≦T/2では、
Figure 0007367850000073

であるから、積分の極限は-pからpまでである。
そして後半、T/2<t≦Tでは、
Figure 0007367850000074


であるから、積分の極限は-pからpまでである。これにより、変調が「釣り合った」形になる。即ちT=T及びTFR=TFFとなる。従って変調波形の形は次のように表すことができる。
Figure 0007367850000075
ここでTは変調波形の周期、pは無次元のパラメータである(実際上、これは高電圧状態と低電圧状態の間の遷移の急峻さ、そしてTFR及びTFFの値を定めるために用いることができるパラメータである)。図10a及び図10bはパラメータpを5に設定(p=5)して計算した変調波形を示している。この場合、変調波形はより高い周波数のRF波形を変調している(なお、同図では方形のRF波形が見えるように変調に対するRF波形の相対周波数を意図的に低くしている)。イオンガイドの繰り返しの組にN=8個の分割電極が含まれる場合について、波形の一例を図11に、それに対応する軸上のポテンシャルを図12に示す。図11は図6に概略的に示した装置1の分割された集群電極3も概略的に示している。それらには波形の8つの位相が印加されており(なお、図6ではN=6だがここではN=8である)、8個の連続する電極のグループに含まれる各集群電極3が同じ波形を該波形の8つの位相のうちそれぞれ異なる位相において受け取るようになっている。チャネルのZ軸に沿って連続する電極位置にある連続する集群電極に印加される波形の位相は次々に45度ずつ大きくなる。
図10cは、パラメータpを2.5に設定(p=2.5)して変調波形を計算した別の例を示している。p>2であることが好ましい。
このような波形はガウス分布状の擬似ポテンシャル障壁を等間隔で発生させる。
時間Tは無くすことができる。即ち、波形の立ち上がり面は最高点に達したら直ちに下降し始めてもよい。これは図10cに示した波形のようになる。しかし、時間Tがより長い方が有益であることがある。そうすれば擬似ポテンシャル又はポテンシャルの障壁がより高くなる。
非ゼロのTを用いるとともに波形の立ち上がり面及び立ち下がり面をより急峻にすることの利点を実証する例を図10g及び図10hに示す。図10gには2つの波形がある。波形aは波面がより平坦で、T~0である。波形bでは時間Tがはっきり見えている。どちらの波形も周期と振幅は同じである。得られる軸上の擬似ポテンシャルの違いが図10hに描かれている。「a」と「b」は前記2つの波形に対応している。軸上の擬似ポテンシャルbが少なくとも2倍高いことが分かる。この例から、この新しい種類の波形のための進行波のパラメータは、波形の振幅や周波数を変化させずに変調だけで修正できることが分かる。
誤差関数(erf)のより一般的な実装は、TFR=TFF及びT≠T(T>T及びT<Tを含む)となるように定義することができる。
Figure 0007367850000076

Figure 0007367850000077

ここでfは1に近い無次元のパラメータである。f>1を選択すればT>Tの波形が得られ、f<1ならT>Tの波形が得られる。T>Tの場合の例を図10dに示す。変調されたRF波形が変調包絡線の正及び負の形状と一緒に示されている。
時間Tは波形の最大振幅の時間であり、集群において2つの役割を果たす。第一に、それはポテンシャル/擬似ポテンシャル障壁の形成に関与する(後でerf関数に基づく波形について一例を挙げる)。第二に、それは軸方向のイオン群の寸法に影響を及ぼす。
いま、ある変調波形がRF電圧の振幅を変調する場合を考える。実際には、このような波形は、PSUにより供給される8つの位相のそれぞれについて変調波形の2つの成分を生成することにより作り出される。即ち、式(2)による正の包絡線と式(5)による負の包絡線である。変調されたRF波形は図10aから図10dに示したようになる。RF電圧は例えばデジタルスイッチング法により供給することができる。この方法は、高周波スイッチを用いて集群電極を交互に正及び負の給電レールに電気的に接続することで波形のRF振動成分を供給するものである。
Figure 0007367850000078
図10aから図10dの上記の各例では、振幅U(t)及びU(t)(高周波RFの負及び正のポテンシャルに対応)は同じであり、符号が逆になっているだけである。これらはRF振幅が変調されている例である。
実施形態によっては振幅U(t)とU(t)が違っていることがある。正イオンに対しては[U(t)]>[U(t)]が有利であり、負イオンに対しては[U(t)]<[U(t)]が有利である。[U(t)]>[U(t)]の場合の例を図10eに示す。
この場合、例えば図10fに示したような、RF変調電圧と同じ形でオフセット電圧(意図的なオフセット)を発生させる。このような変調波形電圧は以下のような理由で発生させることができる。
・寄生オフセット電圧が発生することがあり、その一部又は全体が負であることがある。この負の成分は、変調されたRF電圧から生成された擬似ポテンシャルからイオンを逸らす。従って、負の寄生オフセット電圧は装置の性能を低下させる。この負の成分は[U(t)]>[U(t)]という条件により防止できる。
・変調波形電圧は変調波形振幅を増大させる又は強める。従って、変調は2つの成分を持つことができる。即ち、RF電圧成分と、低速で変化する交流電圧成分である(その変化の特徴的な時間はRFの周波数よりもはるかに大きい)。正イオンの伝送の場合、2つの成分が強め合う。RF成分は並進する擬似ポテンシャル井戸を形成し、低速の交流電圧成分は並進するポテンシャル井戸を生成する。擬似ポテンシャル井戸の高さは質量に依存し、並進するポテンシャル井戸は質量に依存しない。並進する擬似ポテンシャル井戸とポテンシャル井戸の組み合わせはイオンの閉じ込めを向上させ、配送されるイオンの質量範囲を広げる。
・従って、明確化のために言うと、本明細書において教示する方法では、進行するポテンシャルを生成する際にポテンシャルと擬似ポテンシャルの成分を任意に関連させて組み合わせることができる。
本明細書において教示する方法の優れた特徴の1つは、擬似ポテンシャル障壁の高さを低くする恐れがある寄生オフセットに対処できるということである。新しい波形の特徴により、イオンの位置には寄生オフセットは生じない。しかし、波形の波面の領域に寄生オフセットがあると、それが擬似ポテンシャル障壁の実質的な高さを変化させる恐れがある。寄生オフセットが負であれば、正に帯電したイオンがより高い確率で擬似ポテンシャルから漏出する。新しい波形を用いて教示通りに意図的な正のオフセットを導入することによりその影響を補正することができる。このような意図的なシフトはイオンの質量に依存しない。それ故、広い質量範囲が保たれる。イオンの符号が逆であれば意図的なオフセットの符号も逆にする必要があるのは当然である。
これらの例は1種類の関数、即ち誤差関数のみに基づいている。しかし、この関数はより広い範囲にわたる可能な関数の一部分と考えることができる。別の関数を式(6)に示す。解は複素数であるが、その実数部分が波形を生み出す解を与える。
Figure 0007367850000079

ここでkは追加のパラメータ/変数であり、その値は任意に選択可能である。なお、上に提示した各関数だけが先に概説した好ましい条件を満たすような関数であるというわけではないことに注意することが重要である。立ち上がり及び立ち下がり面は、高電圧と低電圧の部分の時間も合わせて、スプライン等、幅広い種類の数学関数を利用して表すことができる。実際には、波形を実現する電子機器がそれ自身で波形の表示を補正する。故に、本明細書に提示したerf関数は、それを用いて生成される波形並びにポテンシャル及び擬似ポテンシャルの挙動を理解するための有用で簡単な手段である。しかし、それが、より一般的な波形を記述するための唯一の網羅的な手段であるとみなしてはならない。
解離への影響
イオンガイド内でETD(電子移動解離)等の解離法が用いられる場合、正と負の両方の粒子を同じポテンシャル井戸内で同時に輸送する必要がある。有利なことに、正の意図的なオフセットを用いればこの特徴を残すことができる。これは擬似ポテンシャルがm/zに依存していることによる。ETDにおける反応イオンは、例えばアントラセンのラジカルアニオン(m/z177及びm/z179)やフルオランテンのラジカルアニオン(m/z202)のように、普通は低質量である。これらの低質量イオンは、高質量の被検物質イオンよりも、より高い擬似ポテンシャルにより影響されるため、わずかな正の意図的なシフトだけで正の反応イオンと負の試薬イオンをまだ効果的に運ぶことができる。
幾つかの例では、少なくともイオンガイドの全長の一部について、RF成分のない開示された波形により、つまり図10fの例bに示したような変調波形電圧のみで、進行波を作り出すことができる。この場合、同じ電荷のイオンしか輸送できない。図10fの例の波形は式2~式5を参照してf=1とp=5で形成された。この正のポテンシャルによって正イオンが輸送され、逆に図10fを逆転させたものによって負イオンが輸送される。波形の周期は好ましくはまだT、T(立ち上がり部分と立ち下がり部分の両方から成る)、Tの4つの部分を全て有している。幾つかの例では、波形の振幅を例えば5V~20V程度とすることができる。もちろん、他の値も可能であり、それが好ましいこともあり得る。幾つかの例では、繰り返される軸方向のセグメントの組の数は例えば8、又は10とすることができる。もちろん、他の値も可能であり、それが好ましいこともあり得る。
例1:図13aに、従来技術に記載された、m/zが1000Thに等しいイオンについてのZX平面内の擬似ポテンシャルの3次元図がある。
Figure 0007367850000080

ここでZはイオンガイドの軸の方向(長さ方向)、Xは内接半径が2.5mmの(図7aに示した構造の)連続ロッドへ向かう方向である。この擬似ポテンシャルは連続ロッドにおいて1Vの一定のポテンシャルを持つ8個の電極の組を複数用いて生成した。波形の振幅は390V(0-p)、周波数は1.2MHzとした。
図13bに、p=5として式(2)から得られた変調波形を用いて生成された移動する擬似ポテンシャルを示す。RF搬送波の振幅は360V(0-p)、周波数は1MHzとした。200V(0-p)と1MHzのRF搬送波を半径方向閉じ込め電極に印加した。
2つの図を比較すると、式(2)のerf波形に基づいた新しい波形の方がより良好な半径方向の閉じ込めが成されることが分かる。即ち、グラフのX=3mmにおいて、連続ロッドにおける擬似ポテンシャルの高さが図13bの方が高い。これは連続ロッドに印加された半径方向閉じ込めRFによる。なお、どちらの波形も質量カットオフは同じように低い(170Th程度)。また、2つの事例において擬似ポテンシャル井戸の構造が違っていることも分かるであろう。erfの事例ではイオンを運ぶ井戸の数が半分になっている(例として、このような井戸の一つの中にイオンを表す黒い円がイオン群の位置にある)。イオンを運ぶ井戸の間に別の井戸があるが、この井戸ではX方向の電場が非常に小さい又は存在しないことに注意されたい。この弱い電場の領域ではイオンがイオンガイドから半径方向に(黒い矢印で示すように)漏出することができる。これは新しい波形の有用な特性である。なぜならそれは連続する井戸において生じる恐れがあるイオンの混信を低減させるからである。ある井戸から半径方向に軸方向に失われる恐れがあるイオンは隣の井戸へあふれるのではなくガイドから半径方向に失われる。これは、連続ロッドにおけるRFの位相がセグメントにおける集群波形の位相と同じとき、本発行物に開示された波形のために利用できる独特の特徴である。
例2:図13cに、図13bの擬似ポテンシャルに+20Vの意図的なオフセットを加えたものを示す。このオフセットは高電圧レベルを上げつつ、低電圧のレベルを同一に保っている。このようなオフセットの簡単な例が図10eに描かれていた。上述したように、このようなオフセットをデジタル波形に対して実現することは技術的に容易である。図13bと図13cを比較すると、意図的なオフセットがある方には中間の井戸がないことが分かる。代わりにそれは数倍に増大され、高い障壁になっている。この場合、漏出しようとするイオンがあれば、それらもガイドから半径方向に、「イオンを搬送している」井戸から直接漏出する可能性が高い。井戸と井戸の間に高い軸上の障壁を形成することによってもあふれが低減する(イオンを表す黒い円と想定される漏出経路を示す黒矢印を参照)。
交流波形
先に述べたように、電源は、N個の位相(波形)に変調された様相がない(RF成分がない)ように構成することができる。例えば、この場合、波形の1つの位相が図10fの1つの位相のように見えたり、又は必要に応じてそれに対応する負の部分のように見えたりする。このような交流波形は、ある種の断片化法が実施されない場合に本発明の目的のために用いることができる。図10fの波形はパラメータf=1及びp=5を用いて式5により記述されるもので、以下erf(f,p)と記載する。ここでも、これらの波形に必要なのは、集群イオンガイド内でイオンを集群して輸送する間に該イオンを冷却することである。「冷却する」とはイオンを実質的に熱運動化することを意味し、それはイオンがイオンガイドに入っているバッファガス分子と同じマクスウェル速度分布を有していることを意味している。更に、イオン群が装置の高圧領域から装置の低圧領域内へ移送されるときにもイオンは冷却されたままであるほうが好ましい。つまり、それらのイオンは高圧領域において達成したマクスウェル速度分布と同じ分布を保つべきである。
これらの要件を満たすため、波形のこの関数は、装置の軸に沿って略滑らかに並進する軸上のポテンシャルを規定すべきである。即ち、軸上のポテンシャル(及びその特徴部分)が好ましくは滑らかに移動することで、加速及び減速が滑らかに行われるようにすべきである。好ましくは軸上のポテンシャルが一定の速度で装置の軸に沿って移動すべきである。
本発明者らは、波形のエッジの立ち上がり及び立ち下がりを滑らか且つ緩やかにすることによりイオンの滑らかな動きが可能になることを見出した。望ましくは、波形のT時間内において、電圧の増大/減少がRFの1周期よりもはるかに長い時間の間に0.1Uの大きさに達するべきである。ここでUは波形の振幅である。
使用時には、満たすことが最も好ましい追加の要件がある。例えば、本発明の実施形態及び応用によっては、集群イオンガイドの各井戸のなかで最大限に広い範囲の質量が輸送されることが望ましい。このために、半径方向の捕捉用擬似ポテンシャルを維持しながら、隣り合うイオンの群れの間に高いポテンシャル障壁を生じさせるような波形にすることができる。この態様は高エネルギーイオンの捕捉及び低い動作圧での注入領域の作動を行う際にも有用である。
本発明者らは、図10fのerf波形、即ちerf(1,5)が、ここに述べた要件を十分に満たすことを見出した。上述したように、この波形は、erf波形をRF搬送波の変調に使用し、イオンの輸送を擬似ポテンシャルにより行う場合にも同様に好適である。
erf関数が好適な波形の一例であることに注意すべきである。ただし、他の波形が好適であることが分かった。本願の教示に従って適切に規定された任意の波形がデジタル方式で記録されてコンピュータのメモリに保存される。波形のN個の位相がN個のD/A変換器により作り出されてからN個の音声増幅器で増幅されることで、集群イオンガイドに印加すべきアナログ波形が作り出される。従って、N=8で波形を規定する関数は、多数の離散的な時間ステップにより定義されることになる。例えば、1交流周期当たり256個の離散的な時間ステップは好ましい数であり、その数は32より大きいことが最も好ましい。最も好ましくは、離散的な時間ステップの数はNの倍数である。別の例として、N=6の場合、好ましくは離散的なステップの数を36、72、108、144等から選ぶとよい。
波形を交流波形とする場合、本明細書で教示したように、N個の電極のM組に正又は負の位相が印加される。PSUの部分はあっても無くてもよい。それがある場合、その供給電圧は、RF電圧、又はRF電圧に交流波形成分を加えた波形、又は純粋に交流波形だけを含むことができる。RF電圧は変調されていてもよい。
交流波形U(t)はより一般的にerf(f,p)と定義することができる。RF電圧に変調を加えたものとして様々な波形を図10a~図10dに示す。これらはパラメータf及びp(式5)の選択により実現される。適用可能なf及びpの範囲は用いられる位相の数(N)に依存する。Nの値が大きければf及びpの範囲も広くできる。パラメータfは波形の対称性を決める。例えば、f>1であれば図10aに示したようにTがTより長くなり、f<1であればTがTより短くなる。fの所与の値に対し、pはTFF及びTFRの時間を決める。fの値はイオン群の軸方向のサイズを規定するために好ましく選ばれる。より多数のイオンを運ぶように群れを長くしてもよい。群れを短くすると、例えば軸方向の射出を向上させることができる。
erf(f,p)は便利な関数であるが、有効な波形を生成できる手段はそれだけではない。例えば式(6)を用いてもよく、図44の波形はそれを例示している。この関数は、丸みを帯びた滑らかな立ち上がり及び立ち下がりエッジと急峻な壁を生み出す。この関数ではイオン群が滑らかに加速及び減速される輸送が行われる。この波形が、新しい波形の非常に望ましい特徴である緩やかな立ち上がり/立ち下がりエッジを有していることに注意されたい。本発明の実施形態及び応用によってはこのような波形が好まれる。図45は、デジタル化した波形(1周期当たり256時点)の1周期全体を、正規化した時間単位(即ちt’=t/T)と正規化した電圧単位(即ちU’=U/U)で示している。ここでUは波形の振幅である。
上のように規定された教示に合うものであれば波形の他のアプローチを用いてもよい。例えば、台形状の波形を適切にデジタル平滑化することで上記の教示に従う波形を生み出すことができる。
明確化のために言うと、波形のN個の位相が交流電圧である場合、イオンガイド構造体が前記第2電源電圧を例えば半径方向閉じ込め電極に印加することにより半径方向にイオンを閉じ込めるために用いられる電場(例えば四重極場)を生成することに変わりはない。
本発明のこの態様を幾つかのシミュレーションの例を用いて示す。集群イオンガイドは分割された集群電極と連続的な半径方向閉じ込め電極を有するものとし、集群電極の間隔は2.2mmとする。各事例において、閉じ込めRFは150Vで1.429MHz、交流波形の振幅は10Vでその周波数は1kHz、Nは8とした。イオン群は距離4Lだけ運ばれたが、そのうち前半の2Lは圧力10mTorrのヘリウムバッファガス中とし、後半の2Lは真空中とした。各事例において、150Da~1500Daの範囲(150Da、200Da、600Da、800Da、1000Da及び1500Da)のイオンを1eVの軸方向エネルギーで動かし初めた。イオンは全て1価の正イオンであり、質量毎に100個のイオン、合計600個のイオンを発射した。1000Daのイオンの事例では軸に沿ったイオン群の前進をそれらの軸方向エネルギーとともにモニタした。
この実施例では波形U(t)はerf(1,5)と定義され、図48に示されている。ここで、図46は軸に沿ったイオン群の前進を示している。イオン群が軸上のポテンシャル井戸内で振動している最初の冷却期間の後、イオン群は一定の速度で進行することに注意されたい。図47はイオン群の軸方向の運動エネルギーの推移を示している(各イオンの個々のエネルギーが記録されている)。1eVの初期エネルギーが500msの間に減少し、その後はイオンのエネルギーは一定に留まり、最大エネルギーのイオンのエネルギーは200eV未満で、RMSエネルギーは0.0129eVである。この波形については、発生するポテンシャル井戸内で150Da~1500Daの範囲の全イオンが無損失で運ばれた。
図48は、無次元単位のU’(t)をt’に対してプロットした単位波形を示している。電圧が0.1U’(t)だけ立ち上がる/立ち下がるタイミングはこの実施例では0.05t’程度である。RF周期は集群波形の周期よりはるかに短く、典型的には250~1000分の1の長さである。故に、Tの間に徐々に変化するという条件は満たされている。即ち、0.05t’>>TRF/Tである。図48にはまた、同図の右側の補助軸を参照する破線で表したように、一次の時間微分∂U’(t)/∂t’もプロットされている。なお、本明細書で∂U/∂tと表記したときの時間導関数は、関数の離散的な値を用いて計算された数値的な導関数(例えば、図48に例示したΔU/Δt)への言及、及び、数学関数又は方程式の解析的な導関数への言及を含むものであると理解されたい。
この実施例では、∂U’(t)/∂t’の最大値は12で、波形の立ち上がり及び立ち下がりエッジの80%において到達している。実際の変化率を評価するには∂U’(t)/∂t’にU/Tなる量を乗算する必要がある。従って、この実施例では、電圧の変化率は12×10/1 V/ms、即ち120V/msに等しい。ここでは「正規化された」量∂U’(t)/∂t’を用いている(即ち、U’=U/U、t’=t/T。ここでUは波形振幅、Tは波形周期である)が、それは、それにより電圧の最大変化率を一般的な意味で教示することができるからである。
図48はΔU’なる量とT’なる量を示している。量ΔU’は、波形が略一定であると言える時間T’(T’=T/T)を通したU’の値の最大許容変化を表している。T’の最小許容値(例えばT’≧0.1)とΔU’の最大許容値を、波形が満たすべき必須条件として適切に選ぶことにより、量ΔU’と量T’の値をこれらの制約の下で調節しつつ、なおも波形がT’を通して略一定であるという条件を満たすことができるようにすることができる。図49を参照して、T’の最小許容値をT (1)として設定したとする。U’の最大許容値がΔU’として設定されているとき、ΔU’がどれだけ減少しても、波形がT’を通して略一定であるという条件は満たされる。例えば、ΔU’がΔU’まで減少すると、その結果、この新しい条件に従う波形はT’を通して多少「平たく」なる。加えて、量ΔU’/T’はT’の範囲内における波形の最小点aと最大点bを結ぶ線の勾配に正比例しており、この勾配は点aと点bの間の波形の平均値である。このように、量ΔU’と量T’に制約を加えることにより、T’を通した波形の平均勾配に制約を加えることができる。図50は、ΔU’の値を固定しつつT’のサイズを大きくする(例えばT (1)からT (2)へ)ことでも同様の効果があることを示している。
比較として、図51はerf(1,100)という極端な場合の波形とシミュレーションデータを示している。これらの値に対してU’(t’)が表すのは、図51に示したように、方形波形である。ここでは∂U’(t)/∂t’が125に増大しており、電圧変化率がこの例では125×10/1=1250V/msになっている。この波形のエッジの立ち上がり及び立ち下がりが、Tの間の緩やかな変化のおかげで波形が略一定になるという条件を満たさないことは明らかである。対応するイオン群の軸に沿った前進を図52に示し、イオン群の軸方向の運動エネルギーの推移を示す。図53から、ガイドチャネルに沿って並進させられているとき、イオン群が絶えず励振されていることが分かる。ここでは、チャネル内の圧力を、圧力が10mTorrである領域を含むように設定した。この圧力では、ポテンシャル井戸の前進する壁による次の前方への「跳び」が生じるまでにイオンが部分的に再冷却される時間がある。2000μs前進した後、イオン群が真空領域に入ると、エネルギーは連続的に増加し始める。最大エネルギーは4000μs前進した時点で3.5eVを超え、この時点までに7個のイオンが半径方向に失われている。図52に示したように、イオン群が真空領域に入った後、群れの軸方向の寸法も次第に増大する。広い範囲の質量の通過に関しては、方形波形では質量が100、150及び800Daのイオンにかなりの損失が生じた。残ったイオンは集群イオンガイドの数個のポテンシャル井戸にわたって分散していた。
この波形は、U’(t)が滑らかな関数ではなく、∂U’(t)/∂t’が連続関数ではないため、先に定義した基準を満たさない。ここでは∂U’(t)/∂t’=125であり、先に定めた100という上限を超えている。
第3の実施例を図54~図56に示す。これらの図はU’(t)が1つのシヌソイド関数又は1組のシヌソイド関数を含んでいる別の例を示している。これらの図に示したように、シヌソイド関数は一定速度でのイオンの輸送及びイオン群の真空中への移送に有効であり、擬似ポテンシャル井戸を必要としない実施形態や応用にとって有効な解決策を提供する。シヌソイド関数が呈する軸上のポテンシャルは、erf型の関数により達せられるものに比べて最小値が大きく、最大値が小さく、電場強度が弱い、ということではないことに注意すべきである。従って、それはイオンガイドが搬送できる質量範囲の点でerf型関数に劣っており、また高いエネルギーのイオンを指定の群れの中に維持する上でもerf型関数に劣っている。
二重の分割
本発明はいずれの態様においても二重分割型の電極を用いて実装すること(即ち、集群電極と半径方向閉じ込め電極の両方を軸方向に分割すること)ができる。一例を図7bに示す。この電極構造では、交流電圧(好ましくは変調されたRF電圧ではないもの)を軸上の共通の位置にある4つの隣接するセグメントの全てに印加することができる。集群ロッドのセグメントと半径方向閉じ込めロッドのセグメントは同じ軸方向の間隔を持ち、同じ軸方向の位置にあることが最も好ましい。この実施形態は単一分割型の実施形態よりも広い質量範囲を提供する。シミュレーションによると、二重分割型では、同じ交流波形、半径方向閉じ込めRF電圧及びNの値を用いた単一分割型の実施形態に比べて質量範囲が最大で2.6倍になる。また、二重分割型では、より高い交流電圧を印加して、注入領域においてより高いエネルギーのイオンを捕捉することができる。本発明者らは、二重分割型の電極配置の使用により、収集領域に入る時点で最大200eVの運動エネルギーを持つイオンを捕捉できることを見出した。従って、イオンガイドの二重分割型の電極配置は、本発明の諸態様に記載のように、少なくとも収集領域において好ましく利用することができ、また二重分割型の電極配置は集群イオンガイドの「下流の」冷却領域においても利用できる。これによりイオンの冷却と輸送を実質的に並行して行うことができ、イオンのスループットと、低いバッファガス圧における集群イオンガイドへのイオンの注入確率を高める。
二重分割型の装置は本発明の別の態様に従って集群イオンガイドから軸方向にイオンを射出するときにも有効に利用できる。本明細書に開示されている本発明のいずれの態様に係るイオンガイドの実施形態も二重分割型の部分と単一分割型の部分(例えば集群電極のみが軸方向に分割されているもの)を含むことができる。
イオンガイドからのイオンの軸方向引き出し
本発明の第3及び第4の態様はイオンを操作するための装置及び方法を提供する。その例を以下に説明する。本装置は荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を含むことができる。該装置は、電源電圧を、
(a)前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成するように、前記一連の電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給し、
(b)前記チャネル内でイオンを半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記一連の電極のうちの半径方向閉じ込め電極に供給する
ように適合させた一又は複数の電源ユニットを含むことができる。
本装置は、前記一連の電極のうち装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極を含む軸方向引き出し領域を有することができる。これらの電極は前記電源電圧を受け取りそれを用いて前記チャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成するように配置することができ、前記擬似ポテンシャルは、前記ポテンシャル井戸の深さが該井戸の中で輸送される前記荷電粒子の質量電荷比(m/z)に従って変化し、前記ポテンシャル井戸の局所極大が軸方向引き出し領域へ向かって及び/又は軸方向引き出し領域に沿って軸方向に並進させられるときに前記深さが小さくなることにより、輸送されている異なる質量電荷比(m/z)の前記荷電粒子を各々異なる時点に放出する、というように規定することができる。例えば、図6~図8eを参照して上述した装置がこれを実行することができる。
図14は擬似ポテンシャル井戸(50,51)が、イオンガイドのチャネルの長さに沿って、イオンガイドの末端電極54により規定されるイオンガイドの引き出し領域に向かって、そして該領域の中へ、並進させられるときの該井戸の動的な進展を概略的に示している。イオンガイドの末端は縦の破線で示されており、漏れ電場の作用があるのはイオンガイドのこの末端の近傍である。これは図14において「漏れ電場領域」と示されている。
漏れ電場の作用は、イオンガイドの内部と、イオンガイドの末端よりも先で且つ該末端の近傍の両方において、擬似ポテンシャルの振幅を減少させることである。
図14は、擬似ポテンシャルの2つの局所極大に挟まれた擬似ポテンシャル井戸の局所極小内に閉じ込められたイオンの群れに含まれるイオンにより感受される擬似ポテンシャル井戸の前進を示している。前記2つの局所極大は前方の極大と後続の極大を含んでいる。前者は常にイオンガイドの末端により近く、且つポテンシャル井戸の局所極小の前を行く。後者はイオンガイドの末端から見て常に前方の極大又は局所極小のいずれよりも遠くにある。
イオンの群れは、「軽いイオン」と名目上示された比較的小さい質量電荷比(m/z)のイオンと、「重いイオン」と名目上示された比較的大きい質量電荷比(m/z)のイオンを含んでいる。あるイオンにより知覚される擬似ポテンシャルは該イオンの質量電荷比に逆比例するとすれば、これは、軽いイオンにより知覚されるポテンシャル井戸の前方及び後続の局所極大の高さ又は振幅50が、重いイオンにより知覚される高さ又は振幅51よりも大きいことを意味する。これは図14において、同じ位置にあるが前方/後続の極大の相対的な高さが異なる2つの同時進行する擬似ポテンシャル井戸の形で概略的に示されている。
時間T0において、擬似ポテンシャル井戸はイオンガイド内で該ガイドの末端からかなり遠くにあり、漏れ電場領域の作用をあまり受けない。そのため、このポテンシャル井戸のうち漏れ電場領域に最も近い前方の局所極大の振幅は、該ポテンシャル井戸の後続の局所極大の振幅とほぼ同じ振幅である。図14(時間T0)にはまた、破線(52、53)で表したように、指数関数的に低減する2つの包絡線が示されている。これらの線は、各擬似ポテンシャル井戸の前方の局所極大のピーク(符号52は軽いイオン、53は重いイオンに対応)から伸びており、漏れ電場領域を通り抜け、その先の点で略ゼロの値まで下降している。各包絡線は、それに関連付けられた前方の局所極大が時間T1、T2及びT3の間に漏れ電場領域に向かって前進するに従って、その高さがどこまで低下するかを表している。図から分かるように、イオンガイドの端を超えた位置では包絡線はゼロではないが、重いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルの包絡線は軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルよりも先にほんのわずかな値に達する。この違いから生じる結果は以下の通りである。
時間T1において、擬似ポテンシャル井戸はガイドの末端により近付いており、ポテンシャル井戸の前方の極大が漏れ電場領域の作用をかなり受け始めている。その結果、イオンの群れに含まれる全てのイオンにより知覚されるポテンシャル井戸の前方の極大の振幅又は高さが大きく低下している。それでも、低下したとは言え、前方の局所極大の高さは、重いイオンと軽いイオンの両方を保持するのに有効なポテンシャル井戸を規定するためにはまだ十分である。
その後、時間T2において、擬似ポテンシャル井戸はガイドの末端に向かって更に前進しており、ポテンシャル井戸の前方の極大の名目上の位置はガイドの末端を超えているが、漏れ電場領域の作用により、前方の極大の高さ又は振幅は、ポテンシャル井戸を知覚しているイオンの質量電荷比によってはまだかなりの値を持っている。特に、軽いイオンはより強い擬似ポテンシャルを知覚しており、それはイオンガイドの端部を超えてもかなりのレベルで存続することができるため、軽いイオンはそれにより知覚されるポテンシャル井戸内に捕捉された状態が続く。一方、重いイオンはそれより弱い擬似ポテンシャルを知覚しており、それは時間T2においてはイオンガイドの端部を超えると有意なレベルで存続することができない。その結果、重いイオンは、そうでなければ重いイオンがポテンシャル井戸から出ることを防ぐ障壁を形成していたはずの高い前方の極大をもはや知覚しないため、もはやポテンシャル井戸内には捕捉されない。これは図14において、重いイオンの放出と軽いイオンの捕捉の継続により概略的に示されている。
最後に、時間T3において、軽いイオンにより知覚されるポテンシャル井戸がイオンガイドの末端に向かって更に前進し、今や軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルの前方の極大もほんのわずかとなり、有効なポテンシャル井戸を規定するには不十分である。擬似ポテンシャル井戸はもはや軽いイオンを保持することができず、その結果、そのイオンがイオンガイドから放出される。
このように、まず重いイオンをイオンガイドから引き出した後、軽いイオンを引き出すことができるため、ポテンシャル井戸により輸送されるイオンの群れに含まれるイオンの質量判別を、イオンガイドの軸方向引き出し領域から各イオンが放出される時間と関連付けて行うことができる。
図15は、上述したようなタイプの周期的な電圧波形であって、本発明の第1及び第2の態様を参照してパラメータf=1及びp=5とした式5、即ちerf(1,5)による正及び負の包絡線を持つ波形を、その完全な波形周期の3回分にわたって示したものである。図24は本発明の第1及び第2の態様を参照した上述したようなタイプの周期的な電圧波形の別の例をその完全な波形周期の3回分にわたって示したものである。この波形はerf(2,2)に相当する。この波形はイオン群を軸方向に圧縮するために用いられる。RF電圧に印加された変調包絡線が図15に示した包絡線と異なっている(なお、見やすくするため、この波形はRFを実際よりはるかに低い周波数で描いている)。ここに開示した実施例のデータにおいて、集群電極に印加されたRF電圧の周波数は3MHz、RF電圧の振幅は2000Vであった。同時に、1000Vの振幅を持つ3MHzのRF電圧をイオンガイドの半径方向閉じ込め電極に印加した。-15.0Vの軸方向引き出し電圧を引き出し電極に印加した。図24に示したこの代替の波形をイオンガイドの個々の集群電極に上述のように位相がずれた形で印加すると、図25に示した擬似ポテンシャルが生じる。ここで、擬似ポテンシャルはイオンガイドの軸に沿った距離(z)の関数としてプロットされている。左の列は軽いイオン(200Da)により知覚される擬似ポテンシャル井戸を示し、右の列は重いイオン(2000Da)により知覚される擬似ポテンシャル井戸を示している。
図25は、この波形に従って形成された擬似ポテンシャル井戸(94,98)の軸方向の前進を示しており、その中でイオンの群れが運ばれている。イオンの群れは軽いイオン(95)と重いイオン(99)を含んでいる。図25中の左図(a,c,e,g)はイオン群のうち軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルに相当し、図25中の右図(b、d、f、h)はイオン群のうち重いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルに相当する。
引き出し電極の軸方向の位置は軸方向の位置z=116mmにある縦の破線97により示されている。イオンガイドの末端は軸方向の位置z=105.5mmにある縦の破線96により示されている。
図25中の図a及びbは同一の時点t=T1においてイオン群により知覚される擬似ポテンシャルに相当する。図25中の図c及びdはそれより後の同一の時点t=T2においてイオン群により知覚される擬似ポテンシャルに相当する。図25中の図e及びfはそれより更に後の同一の時点t=T3においてイオン群により知覚される擬似ポテンシャルに相当する。最後に、図25中の図g及びhは最後の同一の時点t=T4においてイオン群により知覚される擬似ポテンシャルに相当する。
時点t=T3における図25中の図e及びfを比較すると、重いイオンにより知覚される擬似ポテンシャル(図f)はこの時点でそれらの重いイオンを放出しているのに対し、軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャル(図e)はこの時点ではそれらの軽いイオンを引き続き閉じ込めていることが分かる。図gに対応するその後の時点t=T4においてようやく、軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャルがそれらの軽いイオンを放出する。
図16は、連続する2つの時点におけるある質量電荷比のイオン73に対する擬似ポテンシャルの等電位線を概略的に示す図であって、擬似ポテンシャル井戸71が軸方向に前進し、ポテンシャル井戸が漏れ電場領域を通過するに従ってイオンガイドの末端における等電位場線72が開く様子を示している。図16はまた任意選択の引き出し電極70の位置(ここではイオンガイドの右側の末端)も示している。この電極には、イオンガイド内で進行するポテンシャル波がイオンガイドの末端の引き出し領域に向かって並進するにつれてその波の前方の極大の高さを低くすることを支援するために、引き出し電圧を印加することができる。
図17~図21は、引き出し電極に様々な引き出し電圧を印加した(又は引き出し電圧を印加しなかった)結果、イオンガイドの末端において引き出し領域から上述のように放出されたイオンのトレースを示している。このデータは図15のerf(1,5)を用いて得たものである。
更に言えば、図17~図21の各々には、質量300Daのイオン(トレース81)と質量3000Daのイオン(トレース80)を含む、放出された又は引き出されたイオンの「群れ」についてマススペクトルが示されている。図15に示した変調波形で変調されたRF電圧のRF周波数は3MHz、振幅は2000Vとした。図17に示したスペクトルでは、引き出し電極に印加された引き出し電圧は-2.0Vであった。図18に示したスペクトルでは引き出し電極に印加された引き出し電圧は-1.5Vであり、図19に示したスペクトルでは引き出し電圧は-1.0Vであった。図20は引き出し電圧を-0.5Vまで低減させたときのマススペクトルを示している。最後に、図21は引き出し電圧が実質的に印加されていない(即ち0.0Vの電圧又は接地)のときのマススペクトルを示している。
全ての事例において質量分離が生じており、しかもそれが、擬似ポテンシャル井戸を形成するために集群電極に印加される電圧よりも低い高々数ボルトの値の引き出し電圧を引き出し電極に印加することにより改善していることが分かる。比較のため、図22は質量300Da、500Da(トレース82)及び3000Daのイオンを含む、引き出されたイオンの「群れ」についてマススペクトルを示している。この事例では-1.5Vの引き出し電圧を引き出し電極に印加した。同様に、図23は質量300Da及び3000Daのイオンを含む、引き出されたイオンの「群れ」についてマススペクトルを示している。この事例ではRF周波数、電圧振幅、及び引き出し電極に印加された引き出し電圧が前の各例とは違っている。
図26は図18に示したマススペクトルの元となったイオンの「群れ」のイオンの軌跡を示している。ここでは、イオンガイドの内部及び該イオンガイドの端部を超えた後のイオンの(z軸に沿った)軸方向の位置が時間の関数として示されている。質量300Daの軽いイオンの軌跡100が質量3000Daの重いイオンの軌跡101と共に示されている。イオンの群れがイオンガイドの末端に到達するまで、重いイオンと軽いイオンがイオンガイドの軸に沿って略一定の速さで横に動いていることが分かる。末端への到達は図26に示したように約900μsの時点に起きている。その時点で、重いイオンにより知覚される擬似ポテンシャル井戸の前方の極大が事実上抑えられ、重いイオンの軌跡がz軸に沿って急激な加速を見せている。これは重いイオンの放出又は引き出しの表れである。その後、約1100μsの時点で、軽いイオンにより知覚される擬似ポテンシャル井戸の前方の極大が事実上抑えられ、軽いイオンの軌跡がz軸に沿って急激な加速を見せている。これは軽いイオンの放出又は引き出しの表れである。
ガイドから出た後、質量の異なるイオンが同じ引き出し電場の作用を受け、軽いイオンは重いイオンよりも早く進み、その結果、より遠くのz位置において、異なる質量のイオンのうち軽いイオンが重いイオンに追いつく。この原理を利用して、本発明は、集群イオンガイドから出た単一の群れから射出された広い質量範囲のイオンを、イオンガイドの端部を基点にして選んだ軸方向距離において、軸上の同じ位置に収束させる手段を提供する。図29はこの例を示している。これについては後でより詳しく論じる。
従って、イオン群がイオンガイドからイオン出口端を通って軸方向に(即ち、イオンガイド軸に平行に)出ることができる。軸方向に出るイオン群は、例えば図28に概略的に示したように、「oaToF」分析装置の直交引き出し(押出し)領域内へ渡すことができる。これによりイオンをToF分析計に導入する改良された方法が得られる。この場合、よく知られた既存のToFパルス化法、即ちoaToF(直交加速/引き出し型ToF)に本発明を応用することができる。数多くのoaToF法が当該技術分野で周知である。本発明は、oaToFの質量範囲が広く、パルス化周波数が高いTOF質量分析装置を提供する。
本装置1は、以下に図6を参照して説明するが、引き出し領域から引き出された荷電粒子を受け取って該受け取った荷電粒子の軌道を収束させるように配置された一又は複数の荷電粒子光学素子102(例えばイオン光学素子、レンズ等)を備えることができる。例えば、一又は複数のイオン光学レンズ(例えばアインツェルレンズ等)を引き出し領域の下流において装置1のガイドチャネルの長手方向の軸101Bと揃えて前記のように配置することができる。例えば、引き出し電極(図16及び25の符号70及び97)がそのような荷電粒子光学素子の少なくとも一部の機能も果たしてもよい。これは、引き出された荷電粒子を引き出し領域の下流にある所望の場所、例えば飛行時間(ToF)質量分析装置の入口(例えばそのフライトチューブ)へと方向付けて位置決めすることを支援する。従って、引き出された荷電粒子を正確且つ効率的にToF分析装置に渡すことができる。下流方向に進んで飛行時間(ToF)質量分析装置に導入された後、荷電粒子106はToF質量分析装置の直交加速電極103に接近し、そこで該直交加速電極により生成される電場により強く押されて所定のタイミングで直交方向に加速されつつToF質量分析のフライトチューブに沿った飛行107を開始する。こうして直交加速電極103から加速された荷電粒子は、まずToF分析装置のフライトチューブ内の飛行空間内で自由飛行した後、リフレクタ104により形成された反射電場により逆方向に押し返され、再度飛行空間内を自由飛行して、最後にToF質量分析装置のイオン検出器105に達する。このように、本装置内のポテンシャル井戸内の荷電粒子の軸方向の並進によりToFへ荷電粒子を供給することが可能であり、該ToFにおいては、供給された荷電粒子の軸方向の運動をToFのフライトチューブ内での直交方向の運動に変換し、ToFスペクトル測定を行うことができる。本装置はこのような飛行時間(ToF)質量分析装置を含むことができる。
本開示は、広い質量範囲のイオンを、例えば本明細書に開示された新しい種類の波形を用いて形成した群れの形で輸送する方法を教示する。その波形は、位相をずらした一組の変調されたRF電圧を含む。その変調周波数はRF周波数よりもはるかに低い。この波形は進行する擬似ポテンシャル井戸、即ち、設定された速さでイオンガイドの輸送チャネルに沿って進行する擬似ポテンシャルの極大及び極小の列を作り出すことができる。擬似ポテンシャルはm/zに依存しているため、イオンガイドの出口において擬似ポテンシャル進行波が伝播するとき、擬似ポテンシャル障壁(進行する井戸の前方の極大)の高さが自然に低下(傾斜)する。これは擬似ポテンシャル井戸が装置の端部に達したときに起きる。
図27は代わりの構成を示している。ここでは進行するポテンシャル井戸(ピーク60と61の間)が擬似ポテンシャル井戸ではなく、先に図14を参照して図示及び説明した例においてRF電圧信号に印加された変調波形/包絡線に相当する電圧波形により形成された「本物の」ポテンシャルである。
同図は、ポテンシャルの2つの局所極大(60、61)に挟まれた井戸の局所極小内に閉じ込められたイオンの群れに含まれるイオンにより感受されるポテンシャル井戸の前進を示している。これら2つの局所極大は前方の極大(A)と後方の極大(B)を有している。前者は常にイオンガイドの末端により近く、且つポテンシャル井戸の局所極小の前を行き、後者はイオンガイドの末端から見て常に前方の極大又は局所極小のいずれよりも遠くにある。イオンの群れは、「軽いイオン」と名目上示された比較的小さい質量電荷比(m/z)のイオンと、「重いイオン」と名目上示された比較的大きい質量電荷比(m/z)のイオンを含んでいる。ポテンシャル井戸の影響下にある間は全てのイオンが同じポテンシャル井戸の作用を受け、イオンガイドの軸に沿って同じ速度で進行する。静止した擬似ポテンシャルが、そこを通過するイオンの質量に応じて変化する障壁を用意する。
進行するポテンシャル井戸の局所極小の位置が擬似ポテンシャル障壁(62、63)の対面するエッジと一致すると(時間T1)、擬似ポテンシャル障壁が存在する引き出し領域の入口における進行するポテンシャル井戸の値に応じて、ポテンシャル井戸の深さが変わる(即ちその床が上がる)。進行するポテンシャル井戸が十分に前進して、擬似ポテンシャル障壁が始まる軸方向の位置における該井戸の値が同位置における擬似ポテンシャル障壁の高さと等しくなると、ポテンシャル井戸の深さがゼロまで減少し(即ちその床が擬似ポテンシャル障壁の高さまで上がり)、イオンの「群れ」に含まれるイオンが放出される。
擬似ポテンシャル障壁の高さはポテンシャル井戸内で輸送されるイオンの質量電荷比(m/z)に応じて変化する。質量電荷比(m/z)の大きいイオンがより低い擬似ポテンシャル障壁63を知覚し、前進するポテンシャル井戸により該障壁の上へ持ち上げられる(時点T2)。重いイオンが放出された後でようやく、より高いポテンシャル障壁62を知覚する質量電荷比(m/z)の小さいイオンが前進するポテンシャル井戸により該障壁の上へ持ち上げられる(時点T3)。このように、重いイオンをイオンガイドから引き出し、その後で軽いイオンを引き出すことにより、ポテンシャル井戸内で輸送されるイオンの群れに含まれるイオンの中で質量判別を行うことができる。更に言えば、重いイオンが軽いイオンよりも先に放出されるため、集群イオンガイドの端部から軸方向に離れた位置にある共通の場所において全てのm/z値のイオンを一点に集める手段が得られる。RF電圧を分割電極の1つに印加することができるが、それは、最後のセグメント、又は最後から2番目のセグメント、又は最終組のN個のセグメントに含まれる任意のセグメントとすることができる。最後のセグメントに続くセグメントを直流引き出し電極にしてもよいし、引き出し領域の外側に直流引き出し電極を配置してもよい。
以下の実施例のデータでは、RF電圧を装置の最後の電極セグメントに印加した。即ち、RF電圧を最終組のN個のセグメントのうち最後のセグメントに印加した(ここで、N=8)。図29及び図30は集群イオンガイドからイオンを軸方向に射出するこの第2の実施形態を説明するために更なるシミュレーションを示している。これらの図は重いイオン109及び111(3000Da)と軽いイオン108及び110(300Da)がイオンガイドから軸方向に射出されるときのそれらイオンの(z軸に沿った)軸方向の位置を示しており、イオンガイドの端部を越えた軌跡も含んでいる。図30に示したシミュレーション結果に対応するパラメータは、重いイオンと軽いイオンの射出の間の時間的な分離が大きくなるように調整した(erf関数の振幅、擬似ポテンシャル障壁の高さ、及び軸方向引き出し電圧)。図29に示したシミュレーション結果に対応するパラメータは、重いイオンと軽いイオンの射出の間の時間的な分離が小さくなるように調整した。図29に示したシミュレーション結果では、イオンがイオンガイドの端部から軸方向に35mmの距離で一点に集まっている。本発明のこの態様はプロダクトイオンとプリカーサイオンに当てはまる。本発明のこの態様はToF質量分析装置、Q-ToF質量分析装置、又は無損失の2次元タンデム質量分析装置に応用することができる。
軸方向へのイオンの収集と輸送
本明細書に開示された新しい波形によれば、イオンガイドにイオンを注入する方法が非常に簡単になる。これにより、イオンガイド装置においてコストを大きく低減し、性能及び頑強性を大きく向上させることができる。またこれにより、イオン群形成の異なる段階においてポテンシャルを異なる値の間で切り替えずに済むイオン群形成方法が利用できるようになる。このような方法は装置内でイオン群同士を空間的に大きく離す必要がある場合に有利となり得る。例えば、そのような大きな距離(空の井戸1個分以上)は、イオンが引き出し領域に十分近付いたときに、イオン群の位相空間体積が引き出し領域の引き出し電場による影響を受ける可能性がある場合に非常に好ましい。
本発明の第5及び第6の態様に係る荷電粒子操作装置及び方法はこのために応用できる。例えば、そのような装置の一実施形態が図33に示されている。この装置は荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極(2、3)を含む。このチャネルは、本発明の第1の態様に係る本明細書に開示された装置(例えば図6)に従うものとすることができる。
本装置は、前記チャネル内にポテンシャル71を規定する電場を生成するように、前記電極のうち軸方向に分割された集群電極に第1電源電圧を供給するように適合させた電源ユニット(130A)であって、該ポテンシャルが、前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って選択的に並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するような、電源ユニットを備えている。
電源ユニット(130A)は、前記チャネル内で荷電粒子73を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記電極のうち半径方向閉じ込め電極に第2電源電圧を供給するように適合させられている。
前記一連の電極を成す電極は、荷電粒子を収集するための前記チャネル内の収集領域128Aと、収集された荷電粒子を収集領域から輸送するための輸送チャネル128Bとを規定する。
電源ユニット130Aは、制御ユニット130Bからの制御の下、
(1)荷電粒子を収集するために前記収集領域128A内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための収集電圧信号、又は、
(2)前記収集領域128Bを通って前記輸送領域まで荷電粒子を並進させるために前記収集領域内に前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成するための輸送電圧信号
となるように選択的に構成される前記第1電源電圧を、前記収集領域を規定する電極に印加するように適合させられており、
前記収集電圧信号が略静止したポテンシャル井戸を規定する電場を生成し、前記輸送電圧信号が前記並進させられるポテンシャル井戸を規定する電場を生成する。
並進させられるポテンシャル井戸は静止したポテンシャル井戸を並進させることにより作り出される。図33中の上図は、収集領域に形成された静止したポテンシャル井戸124と、輸送領域に形成された、同時に並進させられる複数のポテンシャル井戸の軸方向の形状を示している。図33に示したように、収集領域のイオン入口端は、局所的な高いポテンシャル129にあるイオン入力装置130と連通している。このポテンシャルは収集領域の軸方向の長さに沿って滑らかにポテンシャル井戸の形状124へと変化する。同様に、収集領域のイオン出口端は、図33に示したように、時間変化する局所的なポテンシャルにある輸送チャネル128Bの入口端と連通している。このポテンシャルは、輸送領域内でポテンシャル井戸が連続的に生成され、輸送領域の軸に沿って収集領域の出口端から離れる方向に(即ち、コンベアのように)並進させられるにつれて、時間と共に変化する。収集領域の出口端において、収集領域内の静止したポテンシャル井戸124のポテンシャルは、輸送領域内でそれに隣接するポテンシャルへと滑らかに変化する。
前記収集電圧信号は、時間的に略一定の(即ち、時間的に静止している又は時間変化しない)振幅(非RF電圧信号を含む場合)又は変調包絡線(RF信号を含む場合)を有する電圧波形を含んでいる。電源ユニット130Aは、周期的な時間変化を前記収集電圧信号に加えることによって、前記収集電圧信号により生成される前記ポテンシャル井戸を並進させることにより、前記収集電圧信号を前記輸送電圧信号に選択的に変化させるように適合させられている。これは図33(上図)に、それまで静止していたポテンシャル井戸124が収集領域内で並進し、静止した井戸から進行する井戸へ遷移した後、次々に並進するポテンシャル井戸(125、126、127)に変化する、という形で示されている。これにより井戸が並進させられて輸送領域128B内に入り、それに沿って進む。
この変化は、前記輸送領域を通って荷電粒子を並進させるために前記ポテンシャル井戸を規定する電場を生成する前記輸送領域を規定する電極に印加される輸送電圧信号と同期している(例えば位相が揃っている)。この同期は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される前記輸送電圧信号が、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値と一致する、というものである。この一致は、前記収集領域の末端を規定する集群電極に印加される輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化が、両方とも、前記収集領域の末端に隣接する前記輸送領域の集群電極に印加される前記輸送電圧信号の値及びそれに含まれる時間的変化と略同じである、というものである。例えば、前記収集領域と前記輸送領域に印加される輸送電圧信号が時間的に周期的であり、波形周期Tを有する波形により規定されている場合、第1電源電圧を前記波形の周期の整数倍に略等しい時間Δtの間だけ収集電圧信号になるように選択的に構成すれば、同期が達成される。即ち、n=1,2,3…として、Δt=nTである。
図31及び図32はこれの例を示している。図31は収集領域内のポテンシャル井戸が進行/並進する井戸の状態から静止した井戸の状態に変化するという遷移が成される例を示している。図31の上図は、静止したポテンシャル井戸を生成するために、収集領域を規定する複数の分割電極の1つに印加される電圧を示している。図31の下図は、遷移が成されずにポテンシャル井戸が進行する井戸のままであったとした場合に、収集領域を規定する複数の分割電極の1つに印加される電圧である。この波形は装置の輸送部(図33の128B)を通して、N個の組の各々において対応する電極に印加される。進行波を生成するための電圧波形117(図31の下図)は遷移の直前に電極に印加されていた電圧波形112と位相が揃っている。遷移の直後、印加電圧113は遷移の瞬間における波形の位相と一致している。これは静止した井戸124が必要とされる時間の間、持続する。その時間が終わる時点において、印加電圧114は、遷移が起きなかったとしたら印加されていたであろう波形118の位相と一致している。その後、第2の静止時間115が同じように続くことができる。
図32の上図は、静止したポテンシャル井戸を生成するために、収集領域を規定する複数の分割電極の別の1つに印加される電圧を示している。図32の下図は、遷移が成されずにポテンシャル井戸が進行する井戸のままであったとした場合に、収集領域を規定する複数の分割電極の1つに印加される電圧である。この波形は装置の輸送部(図33の128B)を通して、N個の組の各々において対応する電極に印加される。進行波を生成するための電圧波形122(図32の下図)は遷移の直前に電極に印加されていた電圧波形119と位相が揃っている。遷移の直後、印加電圧120は遷移の瞬間における波形の位相と一致している。これは静止した井戸124が必要とされる時間の間、持続する。その時間が終わる時点において、印加電圧121は、遷移が起きなかったとしたら印加されていたであろう波形123の位相と一致している。その後、第2の静止時間122が同じように続くことができる。
上述のような遷移により、各分割集群電極に印加される電圧は同じように静止させられ、それが全て同じ時点に生じる。収集領域(及び輸送領域)を形成する各分割集群電極には同じ波形が印加されるが、それは(図11に示したようなやり方で)該波形の周期的なサイクルに沿ってそれぞれ異なる位相で印加されるため、ある集群電極に印加される電圧は静止した井戸への遷移の瞬間における波形の電圧に留まることになる。その結果、その瞬間には、収集領域に沿って連続する各々の電極に該波形が異なる位相で印加されるから、それらの各々の電極がそれに応じて異なる各々の電圧値を有し、その差は波形に従っている、ということになる。これには、収集領域内の集群電極の総体的な効果により形成されるポテンシャル井戸を静止させる効果がある。これは、それらの電極に印加される波形の位相の時間的な変化を単に停止することにより達成される。その後、進行/並進するポテンシャル井戸に戻る遷移は、それらの電極に印加される波形の位相の時間的な変化を再開することにより達成される。
このやり方は制御用電子機器を著しく簡素化する。このような簡素化は本明細書に開示された波形の固有の特性に起因しており、新しい波形により可能となる。その理由は以下の通りである。
(1)第1に、半径方向閉じ込め電圧と軸方向集群電圧を独立して印加し、継続的に供給することができる。これらの電圧はイオンガイドのイオン収集領域と集群イオンガイドの主たる輸送領域に共通なものとすることができる。これにより、半径方向閉じ込めポテンシャルを常に収集領域に存在させ続けることができるため、切り替えが不要である。
(2)第2に、イオンは常に進行波のポテンシャル又は擬似ポテンシャルの極小に位置しているため、イオンは、変調電圧がゼロになっている変調の位相の間、常に電極に近接した位置にある。このことから、本発明者らは、本明細書に開示された新しい波形そのものがイオンの収集に適した「収集性の」ポテンシャルの特性を有していることを理解した。必要なのは、一群のイオンをイオンガイドに導入しようとする時間の間、「収集」領域において変調波形を「停止する」ことだけである。
その結果、電子機器系が特に簡素化され、大幅に低コストになる。本願で「変調された電圧波形」という用語を用いるとき、それは基礎となるRF信号を持たない波形変調を持つ電圧のことを言う。これは本開示においてより一般化して開示された新しい波形に含まれる特別な事例である。この新しい波形にはRF電圧成分が存在していてもよいし、無くてもよい。換言すれば、変調されたRF電圧成分はなく、変調電圧そのものだけが用いられる。変調されたRF電圧成分を生成する必要がなければイオンの注入に必要な電子機器が非常に簡素化される。これが可能であるのは、半径方向閉じ込めRF電圧が独立しており、継続的に存在しているからである。半径方向閉じ込め電圧波形は「デジタル方式で」生成されたRF波形とすることができ(例えば「デジタル方式で」とは2つの電圧値の間で高速に切り替えることにより生成されるという意味である)、単一の電圧発生器で群れ形成領域を含む集群イオンガイドの全ての部分に給電を行うことができる。装置の輸送部(図33の128B)内の波形はRF変調していてもよいしRF成分無しでもよい。装置の両部分における波形の同期/調和により、収集及び輸送の領域間でイオンの群れを滑らかに移行させることができる。
より詳しくは、収集領域に進行波を生成する波形を一時的に止める(停止する)ことで、静止した第1ステップの収集ポテンシャルを達成するために必要な静止した電圧一式を供給する一方、下流の装置では進行波を継続させる。これはデジタル制御装置により容易に達成できる。停止することで集群イオンガイドの単一のポテンシャル井戸に狙いをつけてイオンを効率的に運び込むことができる。静止した電圧は適切な位相において再開され(n周期後、即ちn*Tの後に電圧は再び時間に依存するようになり)、装置のうち収集領域以外の全ての部分で継続的に動いている変調波形と同期させられ、位相が揃う。収集領域の波形が変化し始めると、群れ形成の輸送段階が始まる。群れ形成に好適な変調された電圧波形の一位相の例を図10fに示す。収集領域においては、任意の時点又は位置においては1つの極性のイオンだけが注入されるから、変調された電圧波形を利用できる。集群イオンガイドの他の部分における電圧は、例えば同じ極小において正負両方の極性のイオンを同時に搬送する場合等、必要に応じて変調されたRF波形としてもよい。
なお、収集領域は、本明細書に開示されたいずれタイプの電極構造についても、分割ロッドから成るもの(XロッドとYロッドの両方が分割されたもの)又は分割ロッドと連続ロッドから成るもの(Xロッドのみ又はYロッドのみが分割されたもの)とすることができる。収集領域が分割ロッドから成る場合、変調された電圧波形をx及びyの両方のロッドに印加することができ、これにより更に高い電圧を印加できる。このようにすれば、対向する2列の電極に半径方向閉じ込めRF電圧波形と変調された電圧波形の両方が同時に印加される(この波形の加算は、従来技術で必要とされる変調に比べて技術的にはるかに容易に達成できる)。これは装置の応用によっては非常に有利であり、以下のような利点をもたらすことができる。
1)より広い範囲の質量を一度に注入できる。
2)より高いエネルギーのイオンを注入できる。
3)収集領域にイオンを注入する(運び込む)プロセスを高速化できる。
4)収集領域内の圧力を低下させることで、CIDによる解離の確率を低くしてプリカーサイオンを注入することができる。この「無傷の」プリカーサイオンは、後で他の解離手段により解離させてもよい。
そのように変調された電圧波形の例を図31及び図32に示す。これらの変調された電圧波形は上記の例示的な式(2)に基づいている。ここではそれらを「I_ERF」波形と呼ぶ。「I」は「Injection(注入)」を表し、「ERF」は式(2)がパラメータf=1及びp=5の誤差関数(erf)を利用していることを表している。図31及び図32において上図は8つの波形電圧のうち2つのトレースを示している(注:他の6つは図示していない)。このような電圧(112、114)がイオンガイドの収集領域内の2つの隣接する集群電極に印加される。これらの電圧は、本明細書に記載された所望の波形をデジタル形式で保存した一組の離散的な値から作り出したものであり、RF周波数成分は加えなかった。イオンガイド内で隣接する輸送領域内の集群電極の残り又はその一部に印加される波形は、変調されたRF波形でもよいし、変調された電圧波形でもよい。
図31及び図32の上図を見ると、I_REF波形には明確な停止時間(113、120)があることが分かる。これは収集領域にイオンが収集される時間である。また停止時間は、イオンの群れが集群イオンガイドの輸送領域内を伝播するときの該イオンの群れと群れの間の軸方向の距離(進行するポテンシャル井戸の波長を単位とする)も規定する。停止時間の長さは波形変調周期Tの整数倍とすることが好ましい。
図31及び図32の下図から分かるように、I_ERF波形とERF波形はどちらもイオン輸送段階の間、収集領域内で同期させられる。これにより、収集領域からのイオンの移送が損失なし又は最小限の損失で確実に行われる。
群れ形成領域における波形の振幅とイオンガイドの他の箇所における振幅は大きさが違っていてもよい。これは有利となり得る。例えば、群れ形成領域に入ってくるイオンはエネルギーが高いことがあり、それに対しては波形の振幅をより大きくする必要がある。
平坦なイオンガイド構造
本発明の製造に当たって解決すべき主たる問題は、イオンを集群して輸送するという明確な目的のために、早く且つ簡単に製造でき、再現性があり、コストがより低い電極構造を見出すことである。本明細書の他の箇所で記載した目下の構造は、製造可能ではあっても、精密に製造して手動で組み立てる必要がある個別の精密な構成部品を多数含んでいる。これには時間がかかり、コストが高く、十分に管理できない。これらの構造はその応用が見込まれる分析業界において必要とされる数十台又は数百台の装置のためにバッチ生産するには向いていない。
従来技術の方法には、装置の横寸法を実際上5mm程度までしか小さくできないという問題もある。応用によっては計装電源ユニットを全体的に小型化するためにより小さな寸法のチャネルが望まれる。本発明のより小型の実施形態は、コストを更に削減し、その応用可能な用途の範囲を広げることができる。より小型の実施形態は幾つかの面で性能を向上させる。本発明の目的はこれらの問題を解決することであった。
従来技術によれば、必要な電場が平坦電極により生成される。しかし、イオンを集群して輸送する本応用形態では、電極構造が、最も好ましくは50個から数百個程度の多数のセグメントを持つ。長手方向の電極間隔は最も好ましくは2つの電極平面の間の隙間よりも2倍(2×)狭い。好ましくは少なくとも3倍(3×)、典型的には3.5倍(3.5×)小さい値とし、それより一層小さい値を用いてもよい。
構造例を図8dに示す。この実施形態の装置は平行に対向するように配置された2つの電極平面を備えている。各平面は複数の内側の集群電極から成る列と2つの連続的な半径方向閉じ込め電極から成る。変調された電圧波形(又は変調されたRF波形)の様々な位相を内側の集群電極(21、22)に印加することができ、RF電圧を連続的な外側の半径方向閉じ込め電極(23、24、25、26)に印加することができる。この平坦な構造の内部で、半径方向閉じ込め電極に印加されるRF電圧がイオン群を半径方向に閉じ込める作用を生み出す。内側の集群電極(21、22)に印加される、本明細書に記載したような変調された電圧波形の様々な位相がイオンを集群して輸送する作用を生み出す。電極平面同士を金属製支持部材により離間させて配置することで、金属製支持部材が、連続的な電極の一部を成すようにすることができる(図35~38に示した符号137a~d及び138a~d)。
こうして構成された平坦な装置の断面を図35~38にも示す。図35~38はそれぞれイオンガイドチャネルの軸を横切る断面の例を示すもので、図8dに示した集群イオンガイドの構成も電極平面から構築することができる(図35~38に示した符号132a~d、133a~d及び134a~d)。この実施形態の装置は真っ直ぐ対向するように配置された複数対の電極平面を備えている。1対の電極は複数の集群電極から成る2つの対向する列133a~dから成り、この集群電極133a~dの両側にある他の2対132a~d及び134a~dはそれぞれ連続的な半径方向閉じ込め電極を含んでいる。変調された電圧波形(又は変調されたRF波形)の様々な位相が集群電極を形成する電極平面の対に印加され、固定振幅のRF電圧が、連続的な半径方向閉じ込め電極に印加される。この平坦な構造の内側で、RF電圧が、連続的な半径方向閉じ込め電極を形成する電極平面の対に印加される。
2面の電極は、電極の2つの平行平面間の隙間を二等分する中央平面を中心として互いに鏡像の形状になっていることが好ましい。このような構造は本明細書に記載した先の構造よりもはるかに容易に、早く、且つ低コストで製造でき、図35~38に符号135d、135及び136として示したプリント基板(PCB)上に作製できる。複数の平坦電極への電気的な接続を簡便に行うために、従来技術にあるように多層のPCBを用いることができる。PCBは大量に且つ低コストで製造できる。このように構成された平坦な装置の断面も図35~38に示している。
実施形態によっては図35~37に示したようにPCB(135d、135及び136)上に追加の金属製電極を搭載してもよい。これは関係する受動型又は能動型の電子部品と共に十分な精度でPCB上に載置して取り付けることができる。これらの部品は電子産業において確立しているロボット法を用いて載置することができる。PCBは前記電子部品を載置するために図35、36及び37に示したように横方向に拡大することができる。
図8dは横断面で見たときに四重極場に似たものを生み出すために利用できる。図8eは、適切な電圧が印加されたときにより正確な四重極場を生み出すために、各平面上に2対、計8本の主ロッドを有する代替の構造を示している。図8dの構造は、イオン群の搬送及び搬送中のイオン群の衝突冷却のために十分な精度の半径方向閉じ込め電場を生み出す。実施形態によっては「よりきれいな」四重極場が必要になることがある。これは横方向の電極セグメントの数を増やすことにより達成できる。このよりきれいな電場は平坦な電極構造のコストを増大させずに生み出すことができるが、分割された電圧を発生させるためにPSUの要件に関する要求がどうしても高くなる。
図8dの構造は、イオン群の搬送及び搬送中のイオン群の衝突冷却のために十分な精度の半径方向閉じ込め電場を生み出す。実施形態によっては「よりきれいな」四重極場が必要になることがある。これは横方向の電極セグメントの数を増やすことにより達成できる。このよりきれいな電場は平坦な電極構造のコストを増大させずに生み出すことができるが、分割された電圧を発生させるためにPSUの要件に関する要求がどうしても高くなる。
実施形態によっては集群電極と同様に半径方向閉じ込め電極も分割することができる。図34は例として2つの対向する電極平面の一方を平面図で示している。この場合、イオン閉じ込め用のRF電圧と共に、変調された電圧波形の様々な位相を内側の集群電極133と分割された半径方向閉じ込め電極(132、134)に印加することができる。この実施形態では非常に高い集群電圧を印加することができる。これにより群れを軸方向により緊密に詰め込むことができるとともに、より広い質量範囲のイオンの閉じ込めとより高いエネルギーのイオンの注入が可能になる。上述したように、本発明ではイオン群の輸送と衝突冷却を同時に行うことができる。
PCBは上述した本発明の実施形態の幾つかにとって十分な精度と剛性をもたらす。図37に示したように、PCBと電極の間にセラミック、ガラスセラミック又は被削性セラミック製の羽目板139を挿入することにより製造精度を高めることができる。
更なる実施形態では、PCB又はセラミック基板材料を図38に示したように加工することができる。この形式は絶縁表面上に表面電荷が蓄積するリスクを軽減する上で有用である。表面電荷が内部チャネルに蓄積すると静電荷に起因して不所望の電場が形成される恐れがある。これは装置の正しい機能を妨害する。当業者には公知のように、表面電荷の形成を防止するために絶縁表面を更に追加の材料で被覆することもできる。図38の装置の形式は「表面トラッキング距離」を増大させ、隣接電極間により大きな電圧差を印加することを可能にする。特に、セラミック/誘電体基板部品に電荷が溜まりすぎると、その表面電荷から生じる電場がイオンガイド内部の電場に不所望な、変化しやすい影響を与える恐れがある。図38に隙間距離「x」で示したように、ガイドの隣接電極間の隙間140に近接するセラミックの下部を削り落とす(符号141参照)ことにより、表面トラッキング距離が長くなり、電極に高い電圧を印加できるようになる。この狭い隙間xは漂遊イオンがそこを通過する可能性を低下させる。しかし、もし通過しても、そこで表面電荷の蓄積により生じる電場が隙間xを通って逆戻りすることが防止される。
好ましい実施形態では、図34に示したようなイオンガイドのガイド軸を横断する横方向の平坦電極の幅(d)を、電極平面間の隙間(g)と等しくなるような寸法にすることができる。即ち、好ましくはg=dとする。しかし、他の実施形態ではgを0.5d≦g≦2dの範囲に入るように選ぶことができる。
図35~38に示したように、2つの電極平面は2つの側面部材(137a~d、138a~d)により隔てられている。これらの側面部材は閉じた構造体でも開いた構造体でもよい。閉じた構造体はチャネルに沿ったガスのコンダクタンスを低下させるために有用である。開いた構造体はバッファガスや反応ガスを輸送チャネル内に導入するために利用したり、チャネルからガスを排出するために利用したりできる。チャネルはこのような領域を幾つか、様々に組み合わせた構造とすることができる。
集群イオンガイドからのイオンの直交引き出しも、これらの平坦な構造によって更に簡便に行うことができる。それは集群イオンガイドに引き出しレンズをより近付けて形成することを可能にする。これは引き出し光学系における収差を最小化するために有用である。直交引き出しはどの横方向にも簡便に行うことができる。イオンは平坦な電極に形成されたスリット/アパーチャを通して装置から引き出してもよいし、メッシュを通してもよい。実施形態によってはそのメッシュを電極の内部又は複数の電極の内部に形成することができる。他の実施形態では、電極平面上に形成された集群電極の間隔を変化させることで、集群イオンガイドに沿ってイオン群が運ばれるにつれて該イオン群を伸長又は圧縮するようにすることができる。これは、電極平面から形成される装置により容易に実現できる。
電極平面から集群イオンガイドを形成する更なる利点は、イオンを並列搬送するために複数の集群イオンガイドチャネルを単一平面の形にすることができることである。記載された全ての実施形態における全ての解決策は本明細書に詳細に開示された新しい波形を用いて実施できる。
平坦に構築された集群イオンガイドの実施例を横断面図で図39に示す。この例では集群電極133並びに半径方向閉じ込め電極132及び134の間隔がd/g=1.33(ここではd=10及びg=7.5)となるようにこれらの電極が配置されている。等電位線143は、4つの外側電極132及び134全てに単一の電圧が印加され、2つの内側電極133がゼロ電位である場合を示している。ポテンシャル井戸が形成され、その中にイオンの群れ142が閉じ込められている。
この等電位線は半径方向捕捉電場の形を示している。これは近似的な四重極ポテンシャルであり、半径方向の閉じ込め作用を提供するのに十分である。図39は、振幅が1000V(0-p)で周波数が1MHzのRF電圧が4つの外側電極に印加されたときにイオン群142が形成されることを示している。図示したイオン群はガイドチャネル内を2ms間伝播した後のものである。バッファガスはアルゴンガスで、圧力を10mTorrに設定した。集群波形(変調された電圧又は変調されたRF電圧の8位相分で、例えば図11に示したもの)を内側の2列の電極133に印加することができる。変調された電圧を(図10fのように)用いる場合、それを4つの外側電極132及び134に印加したり、6つの電極(132、133、134)の全てに印加したりできる。外側電極132及び134は好ましくは図34に示したように分割されている。変調された電圧を6つの電極の全てに印加するときはより高い振幅を印加できる。変調された電圧をどの電極に印加するかという選択が、横方向のイオン群の形状に影響を及ぼす。これは有効に利用することができる。
本発明によるイオンの直交引き出しを図40及び41により例示する。これらの図は装置を横断面で示している。ガイドの寸法はd/g=1とd=2mmである。4つの外側電極の全てに電圧を印加したときに生じる電位線が示されている。この構成ではより対称な四重極場が生じる。1000V及び3.3MHzのRF電圧(4つの外側電極に印加)に対して形成されるイオン群が示されている。上側の内側電極(集群電極133e)にはアパーチャ144があり、そこを通してイオン群142を引き出し、装置の外に出すことができる。アパーチャの横方向の寸法は0.36mmである。図42は上側(133e)及び下側(133)の内側電極(集群電極)に引き出し電圧を印加することによる直交引き出しを示している。引き出し電場の等電位線143が図43に示されている。イオン群142aがアパーチャ144に向かってそこを通過することが分かる。
図42及び43は別の実施形態による装置を横断面図で示している。ガイドの寸法はd/g=1とd=2mmである。4つの外側電極(132、134)の全てに電圧を印加したときに生じる電位線143が図42に示されている。図42にはまた、1000V及び3.3MHzのRF電圧を(4つの外側電極に)印加したときに形成されるイオン群142も示されている。外側電極(半径方向閉じ込め電極132及び134)が離間して対向することで隙間が規定され、そこを通してイオン群を対向する電極の平面に平行な方向142bに引き出し、装置の外に出すことができる。図46は上側及び下側の外側電極(半径方向閉じ込め電極132)に引き出し電圧を印加することによる直交引き出しを示している。引き出し電場の等電位線143が図45に示されている。
いずれの直交引き出し装置によっても、イオンを平坦な集群イオンガイドから例えばToF分析計に向けて引き出すことができる。
ここまでの記述、後述の請求項、又は添付図面に開示された各特徴は、必要に応じて、その具体的な形態で表現されるか、開示された機能を実行するための手段又は開示された結果を得るための方法若しくはプロセスの観点から表現されていたが、それらの特徴は、個別に又はいくつかの特徴を任意に組み合わせて、本発明をその多様な形態で実現するために利用することができる。
上記では本発明を模範的な実施形態と結びつけて説明してきたが、多くの同等の修正や変形は本願の開示があれば当業者にとって自明であろう。従って、前述した本発明の模範的な実施形態は例証的なものであって限定的なものではないとみなされるべきである。前記実施形態には本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることができる。
疑義を避けるために述べておくと、本明細書で行われた理論的な説明はいずれも読者の理解を深めることを目的としたものである。本発明者らはこれらの理論的な説明のいずれによっても束縛されることを望まない。
本明細書で用いた見出しは整理を目的とするものに過ぎず、記載された主題を限定するものと解釈すべきではない。
後続の特許請求の範囲を含め、本明細書を通じて、「備える(comprise)」及び「含む(include)」という語、並びにそれらの変化形(comprises、comprising、including等)は、文脈上異なる解釈が必要な場合を除き、述べられた整数若しくはステップ又は整数若しくはステップのグループを含むことを意味する一方、他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップのグループを排除することを意味してはいないと解釈すべきものである。
なお、本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる単数形は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、指示対象が複数ある場合を含む。本明細書で範囲を表すとき、始点となる或る特定の数値及び/又は終点となる別の特定の数値に「約」を付すことがある。そのように範囲が表されているとき、前記或る特定の数値がまさに始点である及び/又は前記別の特定の数値がまさに終点であるような形態は別の実施形態となる。同様に、「約」という先行詞の使用により値が近似値として表されている場合、当該特定の値は別の実施形態を成すということを理解すべきである。「約」という用語と数値との関係は任意であり、例えば±10%を意味する。
ここまで、本発明及び該本発明が関連する技術の水準をより十分に説明及び開示するために多くの公開物を引用している。引用文献の完全なリストは下記の通りである。これらの参考文献のそれぞれの実体は参照により本明細書に援用される。
[1]US2014/0070087A1
[2]US9536721B2
[3]K.Giles et al, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004; 18: 2401-2414
[4]US8067747

Claims (40)

  1. 荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極と、
    電源電圧を、
    前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成するように、前記一連の電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給し、
    前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成するように、前記一連の電極のうちの半径方向閉じ込め電極に供給する
    ように適合させた電源ユニットと、
    前記一連の電極のうち装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極であって、前記電源電圧を受け取りそれを用いて前記チャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成するように配置された電極を含む軸方向引き出し領域であって、前記擬似ポテンシャルは、前記ポテンシャル井戸の深さが該井戸の中で輸送される前記荷電粒子の質量電荷比(m/z)に従って変化し、前記ポテンシャル井戸の局所極大が軸方向引き出し領域へ向かって及び/又は軸方向引き出し領域に沿って軸方向に並進させられるときに前記深さが次第に小さくなることにより、前記ポテンシャル井戸内の比較的大きい質量電荷比(m/z)の荷電粒子が比較的小さい質量電荷比(m/z)の荷電粒子よりも先に放出されるように、輸送されている異なる質量電荷比(m/z)の前記荷電粒子を各々異なる時点に放出する、というように規定されている、軸方向引き出し領域と、
    を備える荷電粒子操作装置。
  2. 前記ポテンシャル井戸が前記軸方向引き出し領域に向かって又は該領域に沿って軸方向に並進するに従って該ポテンシャル井戸の深さが小さくなる、請求項1に記載の荷電粒子操作装置。
  3. 前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極大の高さが低くなる、請求項2に記載の荷電粒子操作装置。
  4. 前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極小の高さが高くなる、請求項2に記載の荷電粒子操作装置。
  5. 前記並進させられるポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル井戸ではなく、並進させられて別の擬似ポテンシャル障壁に向かって進み、前記別の擬似ポテンシャル障壁を越えて進む、請求項4に記載の荷電粒子操作装置。
  6. 前記並進させられるポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くするために前記引き出し領域及びその付近に漏れ電場を形成するように構成されている、請求項3に記載の荷電粒子操作装置。
  7. 前記並進させられるポテンシャル井戸の前方の壁の高さを低くするために、前記引き出し領域の付近に外部の直流ポテンシャルを印加するように構成されている、請求項3又は6に記載の荷電粒子操作装置。
  8. 前記チャネルの末端に近接した軸方向引き出し領域に配設され且つ該末端から軸方向に一定の軸方向間隔を空けて配置された一又は複数の引き出し電極を備え、前記軸方向間隔が、前記引き出し電極に印加される電圧及び装置の前記チャネルの末端に配設された又は該末端を規定する電極に印加される電圧によって内部に電位勾配を形成可能な加速領域を規定している、請求項1~7のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  9. 前記引き出し領域から引き出された荷電粒子を受け取って該受け取った荷電粒子の軌道を収束させるように配置された一又は複数の荷電粒子光学素子を備える、請求項1~8のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  10. 飛行時間(ToF)質量分析装置を備え、該飛行時間質量分析装置において荷電粒子の飛行を実現するように構成された押出し電圧信号を該飛行時間(ToF)質量分析装置の加速電極に印加するように構成されており、前記押出し電圧信号が、前記並進されるポテンシャル井戸を生成するために前記軸方向に分割された集群電極に印加される周期的な前記電源電圧と同期している、請求項1~9のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  11. 前記電源ユニットが、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で前記電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給するように適合され、且つ、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さと略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように適合させられており、前記波形が、
    (a)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
    (b)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である、請求項1~10のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  12. 前記電源ユニットが、第1電源電圧波形が隣接する電極に同時に供給される電圧波形に対して位相ずれを持つように、軸方向に分割された集群電極の各々の電極に前記第1電源電圧波形を供給するように適合させられている、請求項11に記載の荷電粒子操作装置。
  13. 前記電源ユニットが、前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)の間、軸方向に分割された連続する複数の集群電極の各々にそれぞれ前記波形の異なる位相において同時に前記第1電源電圧を印加するように構成されている、請求項11及び12のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  14. 軸方向に分割された集群電極のうち、前記波形の完全な1周期Tを支えるサブセットを形成する、軸方向に分割された連続する集群電極の数をNとするとき、第1電源電圧の波形周波数(f=1/T)が、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、該波形の値が該波形の1周期T内における該波形の最大値の10%以下になるような周波数である、請求項11~13のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  15. 前記有限の時間(T)を通して、前記波形の値が該波形の振幅(U)に対する割合(%)で表される所定の最大許容変化(ΔU)を超えて変化しない、100×ΔU/U≦10のように変化する、請求項11~14のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  16. 前記時間Tを前記周期Tに対する割合(%)で表したものをT’=100×T/Tとし、ΔU’=100×ΔU/Uとするとき、ΔU’/T’≦2.0である、請求項15に記載の荷電粒子操作装置。
  17. 波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値が、前記有限の時間(T)を通して、
    |(T/U)∂U/∂t|≦50
    を満たす、請求項11~16のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  18. 波形振幅Uの前記第1電源波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値が、前記波形の周期(T)を通して、
    |(T/U)∂U/∂t|≦100
    を満たす、請求項11~17のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  19. 前記電源ユニットが、第1電源電圧を供給するように適合させた第1電源ユニットと、第2電源電圧を供給するように適合させた別体の第2電源ユニットとを備える、請求項1~18のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  20. 前記ポテンシャル井戸の極小が井戸床を規定し、該井戸床を規定するポテンシャルの値が、時間と共に値が変化しない1つの局所極小しか含んでいない、請求項1~19のいずれかに記載の荷電粒子操作装置。
  21. 請求項1~19のいずれかに記載の荷電粒子操作装置を備えるイオンガイド、又はマスフィルタ、又は質量分析計、又はイオントラップ、又は飛行時間質量分析計。
  22. 荷電粒子を輸送するためのチャネルを形成するように配設された一連の電極を設けること、
    電源ユニットを設け、それを用いて、電圧を
    (a)前記一連の電極のうち軸方向に分割された集群電極に供給することで、前記チャネル内に、該チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させられるポテンシャル井戸を規定する局所極大の間に一又は複数の局所極小を有するポテンシャルを規定する電場を生成し、
    (b)前記一連の電極のうちの半径方向閉じ込め電極に供給することで、前記チャネル内で荷電粒子を半径方向に閉じ込めるように構成された前記チャネル内に半径方向閉じ込め電場を生成すること、及び、
    前記一連の電極のうち装置の前記チャネルの少なくとも一端に配設された又は該一端を規定する電極を含む軸方向引き出し領域を設け、該領域において前記電源電圧を受け取りそれを用いて前記チャネル内に擬似ポテンシャルを規定する電場を生成し、前記擬似ポテンシャルは、前記ポテンシャル井戸の深さが該井戸の中で輸送される前記荷電粒子の質量電荷比(m/z)に従って変化し、前記ポテンシャル井戸の局所極大が軸方向引き出し領域へ向かって及び/又は軸方向引き出し領域に沿って軸方向に並進させられるときに前記深さが次第に小さくなることにより、前記ポテンシャル井戸内の比較的大きい質量電荷比(m/z)の荷電粒子が比較的小さい質量電荷比(m/z)の荷電粒子よりも先に放出されるように、輸送されている異なる質量電荷比(m/z)の前記荷電粒子を各々異なる時点に放出する、というように規定されていること、
    を含む、荷電粒子操作方法。
  23. 前記ポテンシャル井戸が前記軸方向引き出し領域に向かって又は該領域に沿って軸方向に並進するに従って該ポテンシャル井戸の深さが小さくなる、請求項22に記載の荷電粒子操作方法。
  24. 前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極大の高さが低くなる、請求項23に記載の荷電粒子操作方法。
  25. 前記ポテンシャル井戸が前記引き出し領域に向かって及び/又は該領域を通って進行するときに該ポテンシャル井戸の局所極小の高さが高くなる、請求項23に記載の荷電粒子操作方法。
  26. 前記並進させられるポテンシャル井戸が擬似ポテンシャル井戸ではなく、並進させられて別の擬似ポテンシャル障壁に向かって進み、前記別の擬似ポテンシャル障壁を越えて進む、請求項25に記載の荷電粒子操作方法。
  27. 前記並進させられるポテンシャル井戸の前端の壁の高さを低くするために前記引き出し領域及びその付近に漏れ電場を形成すること、を含む請求項24に記載の荷電粒子操作方法。
  28. 前記引き出し領域の付近に外部の直流ポテンシャルを印加することで、前記並進させられるポテンシャル井戸の前端の壁の高さを低くする、請求項22~27のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  29. 前記チャネルの末端に近接した軸方向引き出し領域に配設され且つ該末端から軸方向に一定の軸方向間隔を空けて配置された一又は複数の引き出し電極を設けること、及び、前記引き出し電極に印加される電圧及び装置の前記チャネルの末端に配設された又は該末端を規定する電極に印加される電圧によって前記軸方向間隔内に電位勾配を形成すること、を含む請求項22~28のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  30. 一又は複数の荷電粒子光学素子を設け、該荷電粒子光学素子において、前記引き出し領域から引き出された荷電粒子を受け取って該受け取った該荷電粒子の軌道を収束させること、を含む請求項22~29のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  31. 飛行時間(ToF)質量分析装置を設け、該飛行時間質量分析装置において荷電粒子の飛行を実現するように構成された押出し電圧信号を該飛行時間(ToF)質量分析装置の加速電極に印加し、前記押出し電圧信号が、前記並進されるポテンシャル井戸を生成するために前記軸方向に分割された集群電極に印加される周期的な前記電源電圧と同期していること、を含む請求項22~30のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  32. 前記電源ユニットが、周期(T)を有する波形に従って変化する形状で前記電源電圧を軸方向に分割された集群電極に供給するように適合され、且つ、前記ポテンシャル井戸が前記周期(T)と略等しい時間の間に該井戸の長さと略等しい距離だけ並進するように、前記ポテンシャルを前記チャネルの全長の少なくとも一部に沿って並進させるように適合させられており、前記波形が、
    (c)その周期(T)を通して略連続的に滑らかであり、
    (d)前記周期(T)内で該波形の極小に相当する有限の時間(T<T)を通して値が略一定である、請求項22~31のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  33. 前記電源ユニットが、第1電源電圧波形が隣接する電極に同時に供給される電圧波形に対して位相ずれを持つように、軸方向に分割された電極の各々の電極に前記第1電源電圧波形を供給するように適合させられている、請求項32に記載の荷電粒子操作方法。
  34. 前記電源ユニットが、前記波形の周期(T)内の有限の時間(T<T)の間、軸方向に分割された連続する複数の集群電極の各々にそれぞれ前記波形の異なる位相において同時に前記第1電源電圧を印加するように構成されている、請求項32及び33のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  35. 軸方向に分割された集群電極のうち、前記波形の完全な1周期Tを支えるサブセットを形成する、軸方向に分割された連続する集群電極の数をNとするとき、第1電源電圧の波形周波数(f=1/T)が、T≧T/Nを満たす所定の有限の時間Tの間、該波形の値が該波形の1周期T内における該波形の最大値の10%以下になるような周波数である、請求項32~34のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  36. 前記有限の時間(T)を通して、前記波形の値が該波形の振幅(U)に対する割合(%)で表される所定の最大許容変化(ΔU)を超えて変化しない、100×ΔU/U≦10のように変化する、請求項32~35のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  37. 前記時間Tを前記周期Tに対する割合(%)で表したものをT’=100×T/Tとし、ΔU’=100×ΔU/Uとするとき、ΔU’/T’≦2.0である、請求項36に記載の荷電粒子操作方法。
  38. 波形振幅Uを持つ前記波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値が、前記有限の時間(T)を通して、
    |(T/U)∂U/∂t|≦50
    を満たす、請求項32~37のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  39. 波形振幅Uの前記第1電源波形(U)の一次の時間導関数(∂U/∂t)の絶対値が、前記波形の周期(T)を通して、
    |(T/U)∂U/∂t|≦100
    を満たす、請求項32~38のいずれかに記載の荷電粒子操作方法。
  40. コンピュータ実行可能な命令を格納した、コンピュータ読取可能な媒体であって、
    前記コンピュータ実行可能な命令が、質量分析装置、又はイオンガイド装置、又はマスフィルタ装置、又は質量分析計、又は飛行時間質量分析装置、又はイオントラップ装置に請求項32~39のいずれかに記載の方法を実行させるコンピュータ読取可能な媒体。
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