JP7355229B2 - 回路一体型アンテナ - Google Patents

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Description

本発明は、モノリシックマイクロ波集積回路などの集積回路に実装される回路一体型アンテナに関する。
携帯端末等の無線通信用デバイスにおいては、大容量・小型で持ち運びしやすいといった性質が強く求められる。これらを実現するためには、端末に内蔵される無線通信用デバイスの高周波(RF)フロントエンド部を担う高周波電子回路(以下、RF回路という)、および、アンテナの広帯域化(これは高データレート化につながる)や小型化が重要である。
一般に、RFフロントエンドの帯域幅は、その構成要素である増幅器や周波数変換器等のアナログ回路およびアンテナ等の高周波部品の動作帯域幅で決定される。これら高周波部品の動作帯域幅は、その動作帯域の中心周波数に対する比率(比帯域と呼称される)が一定であると仮定(この過程は通常成り立つ:非特許文献1)すれば、搬送波周波数の高周波化することで、帯域幅を搬送波周波数に比例させて大きくすることができる。また、搬送波周波数を高くすると、無線信号の波長が短くなることから、アナログ回路やアンテナの波長で決まるインピーダンス素子(四分の一波長線路など)を含む構成部品を小型化することもできる。したがって、無線通信用デバイスの高データレート化、小型化といったニーズに応える手段として、搬送波周波数の高周波化は有効な手法である。
このような観点から、近年、ミリ波・THz波といった超高周波を用いた高速・小型無線通信デバイスの研究が活発に行われている。ミリ波・THz波を用いる際に問題となるのが、高周波回路とアンテナとの接続部である。300GHzを超えるような超高周波帯においては、接続部に、ワイヤボンディングやフリップチップといった低周波帯で用いられる手法を適用すると、接続部の物理長に起因するインダクタンスによって大きな接続損失が発生してしまう。高周波回路と一体集積されるアンテナ(オンチップアンテナ:非特許文献2)の使用は、高周波回路とアンテナとの接続部を排除できるため、超高周波帯において低損失化に有効である。また、半導体集積プロセスで製作されるため、一般には小型であり、無線通信デバイスの小型化にも寄与する。
オンチップアンテナの代表的な構成としてパッチアンテナ(Patch Antenna)、スロットアンテナ(Slot Antenna)などが挙げられる。これらの動作原理は、基本的にはダイポールアンテナと同様であり、アンテナ導体パターン上に電圧・電流の定在波分布を形成することで電界を放射するものである。構造がシンプルなため製作が容易である反面、定在波形成による共振現象を利用しているため、一般には、共振のQ値で決まる狭帯域な特性を示す。一方で広帯域かつ指向性の比較的大きいアンテナとしてヴィヴァルディアンテナなどが挙げられるが、構造が波長程度と大きくビームフォーミングを行う際に多層化等の工夫が必要であり、1チップ実装の観点では向かない。
G. Hau、T. B. Nishimura、and N. Iwata、"High Efficiency、Wide Dynamic Range Variable Gain and Power Amplifier MMICs for Wide-Band CDMA Handsets"、IEEE Microwave and Wireless Components Letters、Vol. 11、pp. 13-15、Jan. 2001 X. D. Deng、Y. Li、C. Liu、W. Wu、and Y. Z. Xiong、"340 GHz On-Chip 3-D Antenna With 10 dBi Gain and 80% Radiation Efficiency"、IEEE Trans. Terahertz Sci. Technol、Vol. 5、pp. 619-627、July 2015 C. kai and S. J. Chung、"A Compact Edge-Fed Filtering Microstrip Antenna with 0、2 dB Equal-Ripple Response"、in Proc. 39th Eur. Microw. Conf. (EuMC 2009)、Rome、Italy、pp. 378-380、Oct. 2009
しかしながら、このような従来構造では、指向性が乏しく、入力から特定受信方向に対する放射電力の実質的な放射効率が悪いため、伝送距離が短くなってしまう問題点がある。また、単一周波数の共振系であることから、放射の周波数特性が単一周波数でピークを持つ特性であり、帯域幅を稼ぎにくく伝送速度を上げにくいという問題点がある。この解決法として、広帯域化されたオンチップアンテナを設計した場合でも、共振構造が複数個含まれる必要があるため、素子サイズが大きくなりアレー化が難しいという問題点がある。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、アンテナの小型化と指向性・利得の向上および放射特性の広帯域化とを両立できる回路一体型アンテナを提供することを目的としている。
このような目的を達成するために、本発明にかかる回路一体型アンテナは、集積回路を構成する基板上に実装される回路一体型アンテナであって、前記基板の表面に形成され、給電された電磁界を放射するパッチ導体と、前記基板の表面に形成され、入力された電磁界を前記パッチ導体に給電する給電線路と、前記パッチ導体と前記給電線路の接続部の両側に、前記パッチ導体の内側に向かうように形成された、前記給電線路に平行な2つのスリットと、前記基板の表面に形成され、前記給電線路の両側から突出して設けられた一対のスタブ導体とを備え、前記一対のスタブ導体のそれぞれは、前記パッチ導体の外周を取り囲むように、第1のギャップを挟んで前記パッチ導体と離間するよう、前記給電線路を挟んで対称配置されているものである。
本発明によれば、アンテナの小型化と指向性・利得の向上および放射特性の広帯域化とを両立することができる。
図1は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。 図2は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの積層構造を示す断面図である。 図3は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件を示す説明図である。 図4は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズを示す説明図である。 図5は、従来のパッチアンテナの構成を示す平面図である。 図6は、従来のパッチアンテナの解析条件を示す説明図である。 図7は、従来のパッチアンテナのアンテナサイズを示す説明図である。 図8は、動作解析に用いたCPWとViaのサイズを示す説明図である。 図9は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。 図10は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果を示す説明図である。 図11は、従来のパッチアンテナの解析結果を示す説明図である。 図12は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界分布を示す説明図である。 図13は、従来のパッチアンテナの電界分布を示す説明図である。 図14は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの積層構造を示す断面図である。 図15は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。 図16は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの利得周波数特性を示すグラフである。 図17は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの放射効率周波数特性を示すグラフである。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの構成を示す平面図である。図2は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの積層構造を示す断面図である。
本発明にかかる回路一体型アンテナ10は、モノリシックマイクロ波集積回路(以下、MMICという)などの集積回路を構成する誘電体の基板B上に、一般的な半導体プロセス技術により形成されたアンテナである。以下では、回路一体型アンテナ10をオンチップアンテナ(On Chip Antenna)と云うこともある。
図1および図2に示すように、回路一体型アンテナ10は、主に、基板Bの表面Pに形成された、給電線路11、パッチ導体12、スタブ導体13A,13B、およびギャップ14(第1のギャップ)から構成されている。以下では、本発明にかかるスタブ導体13A,13B付きのパッチアンテナを、スタブパッチアンテナと云うこともある。
給電線路11は、全体としてCPW(Coplanar Waveguide:コプレーナ導波路)などのマイクロストリップラインからなり、外部から入力された高周波の電磁界をパッチ導体12およびスタブ導体13A,13Bへ給電するための伝送線路である。以下では、説明を容易とするため、表面P上において、給電線路11が伸延する方向(紙面に向かって左右方向)を方向Yと呼び、方向Yと直行する方向(紙面に向かって上下方向)を方向Xという。
パッチ導体12は、外形形状が全体として平面視略正方形状をなす導体からなり、給電線路11から給電された電磁界を放射するアンテナエレメント(放射素子)である。パッチ導体12には、その一辺12Aの中央に位置する接続部12Bに給電線路11が接続されている。
パッチ導体12のうち接続部12Bの近傍には、方向Yに沿って、互いに平行する2つのスリット15A,15Bを、ギャップ14の両端のそれぞれからパッチ導体12の内側の領域に向かうように形成してもよい。ギャップ14の2つの端部のそれぞれは、スリット15A,15Bのそれぞれの一端部と連接するよう形成されている。スリット15A,15Bは、方向Yにおけるパッチ導体12の幅より短い長さを有している。
スタブ導体13A,13Bは、給電線路11がパッチ導体12と接続される接続部12Bの近傍に、給電線路11から両側に突出して設けられた2つのスタブである。これらスタブ導体13A,13Bは、パッチ導体12の外周を取り囲むように、ギャップ14を挟んでパッチ導体12と離間して、一定幅で帯状に形成されている。一対のスタブ導体13A,13Bは、パッチ導体12の中心を通過する方向Yに沿った中心線を挟んで、互いに対称的な形状をなし、互いに対称的な位置に対称配置されている。一対のスタブ導体13A,13Bの一端は、接続部12Bの近傍で給電線路11と接続されており、それぞれの他端は、パッチ導体12の一辺12Aと反対側の一辺12C側で、ギャップ13C(第2のギャップ)を挟んで互いに対向するように配置されている。
以下では、給電線路11が直線状に形成されている場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、途中に屈曲部や湾曲部、さらにはスタブが設けられていてもよい。また、パッチ導体12やスタブ導体13A,13Bの外側形状が、略正方形をなす場合を例として説明するがこれに限定されるものではなく、略矩形形状や略円形形状など、他の形状であってもよい。また、スタブ導体13A,13Bの内側形状は、略正方形状をなす場合を例として説明するがこれに限定されるものではなく、ギャップ14の幅が一定となるようパッチ導体12の外形形状に合わせた形状としてもよい。なお、ギャップ14の幅は、全周(全長)にわたって一定でなくてもよく、各部の幅を変更することにより、パッチ導体12の電界強度分布を調整してもよい。
また、基板BとしてInP(Indium Phosphide:リン化インジウム)などの化合物半導体からなる基板を用いる場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、高周波回路に用いられる一般的な誘電体基板を用いてもよい。また、給電線路11、パッチ導体12、スタブ導体13A,13Bなどの薄膜導体として金(Au)の薄膜を用いる場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、高周波回路に用いられる一般的な金属の薄膜導体を用いてもよい。
図2の積層構造例では、基板Bの表面Pに、例えばSiN(Silicon Nitride:窒化ケイ素)を用いたMIM(Metal-Insulator-Metal)構造などの回路実装層MIMが積層されており、給電線路11、パッチ導体12、スタブ導体13A,13B、およびギャップ14は、このSiNで覆われた状態で回路実装層MIM内に形成されている。また、回路実装層MIMの上部には、例えばBCB(Benzo Cyclo Butene:ベンゾシクロブテン)などの有機絶縁膜を用いた上部絶縁層BCBが積層されている。
一方、基板Bの底面Rのうち、少なくとも給電線路11、パッチ導体12、スタブ導体13A,13Bと対向する領域には、グランドプレーンGNDが形成されている。以下では、パッチ導体12とスタブ導体13A,13Bを合わせてアンテナ部ANTと云うこともある。
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、図1に示すように、パッチ導体12の外周を取り囲むように、給電線路11から両側に突出したスタブ導体13A,13Bを配置したものである。これにより、パッチ導体12とスタブ導体13A,13Bとの間、すなわちギャップ14に電気容量を形成でき、回路一体型アンテナ10の放射特性を広帯域化・高利得化することができる。また、給電線路11とのインピーダンス整合をとる際に、スリット15A,15Bのサイズに加えて、スタブ導体13A,13Bやギャップ14のサイズを用いて調整することができる。したがって、回路一体型アンテナ10の設計過程において、中心周波数、帯域幅、指向性・利得など、高い制御自由度を得ることが可能となる。
[第1の実施の形態にかかる動作解析]
次に、図3~図13を参照して、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の動作として、シミュレーションによる解析結果について説明する。以下では、比較のため、従来のパッチアンテナに関する解析結果についても合わせて説明する。
図3は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析条件の説明図である。図4は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナのアンテナサイズの説明図である。図5は、従来のパッチアンテナの構成を示す平面図である。図6は、従来のパッチアンテナの解析条件の説明図である。図7は、従来のパッチアンテナのアンテナサイズの説明図である。図8は、動作解析に用いたCPWとViaのサイズの説明図である。
また、図9は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。図10は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの解析結果の説明図である。図11は、従来のパッチアンテナの解析結果の説明図である。図12は、第1の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの電界分布の説明図である。図13は、従来のパッチアンテナの電界分布の説明図である。
図3において、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10に関する解析条件については、周波数帯域を250-340GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、アンテナ部ANT(パッチ導体12、スタブ導体13A,13B)の薄膜導体として膜厚が0.6μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが50μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。回路実装層MIMの厚さを1.8μmとし、回路実装層MIM内のSiNの厚さを0.77μmとし、上部絶縁層BCBの厚さを1.8μmとした。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。
また、図3および図4に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10に関するアンテナサイズについては、パッチ導体12の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを180μmとし、給電線路11の幅MSL_xを34μmとし、長さMSL_yを350μmとし、スタブ導体13A,13Bの縦横の幅Stubを300μmとし、スタブ導体13A,13Bの帯幅Stub_wを40μmとした。また、ギャップ14の幅Int_1を20μmとし、ギャップ13Cの幅Int_2を30μmとし、スリット15A,15Bの幅Slit_xを10μmとし、スリット15A,15Bの長さSlit_yを60μmとした。
一方、比較対象として用いた従来のパッチアンテナ50は、図5および図6に示すように、基板Bの表面Pに形成された、給電線路51とパッチ導体52から構成されている。
給電線路51は、全体としてCPWなどのマイクロストリップラインからなり、外部から入力された高周波の電磁界をパッチ導体52へ給電するための伝送線路である。
パッチ導体52は、外形形状が全体として平面視略正方形状をなす導体からなり、給電線路11から給電された電磁界を放射するアンテナエレメント(放射素子)である。パッチ導体52には、給電線路51の接続部近傍に、方向Yに沿って互いに平行する2つのスリット55A,55Bが、パッチ導体12の内側の領域に向けて形成されている。パッチアンテナの積層構造は、図2と同様であり、基板Bの底面Rには、グランドプレーンGNDが形成されている。
図6において、従来のパッチアンテナ50に関する解析条件については、周波数帯域を250-340GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、給電線路51およびパッチ導体52からなるアンテナ部ANTの薄膜導体として膜厚が0.6μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが50μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。
また、図7および図8に示すように、従来のパッチアンテナ50に関するアンテナサイズについては、パッチ導体52の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを180μmとし、給電線路11の幅MSL_xを34μmとし、長さMSL_yを350μmとし、スリット55A,55Bの幅Slit_xを10μmとし、スリット55A,55Bの長さSlit_yを60μmとした。
また、図8に示すように、CPWの幅CPW_wを13μmとし、CPWと他の導体とのギャップCPW_gapを11μmとした。また、Viaの半径Via_rを25μmとし、Viaの配置ピッチ間隔Via_pを60μmとした。これらサイズは、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10および従来のパッチアンテナ50の両方で共通とした。
図9には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果として、給電線路11の入力端(ポート)における入力反射係数S11の周波数特性が示されている。本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10(スタブパッチアンテナ)によれば、図11に示すように、入力反射係数S11の-10.0dBにおける帯域幅は25GHzであり、従来のパッチアンテナ50の帯域幅10GHzと比較して、2.5倍程度まで広がっていることが分かる。
図10には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果として、指向性および放射効率が示されている。また、図11には、従来のパッチアンテナ50の解析結果として、指向性および放射効率が示されている。図11に示すように、従来のパッチアンテナ50は、最大利得が3.80dBi程度であるが、図10に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10によれば、最大利得が4.75dBiもあり、パッチアンテナ50に比べて約1dBi程度向上していることが分かる。
これらのことから、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、従来のパッチアンテナ50と比べて放射特性が広帯域化・高利得化されていることが分かる。本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、半波長よりも小さいサイズで実現できるため、アレー化することによって、従来のパッチアンテナ50を用いた場合に比べて利得が大幅に向上する。
また、図12には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の解析結果として、電界分布が示されている。また、図13には、従来のパッチアンテナ50の解析結果として、電界分布が示されている。図13に示すように、従来のパッチアンテナ50の場合では、構造の境界部分に電界が集中しているのに対して、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10の場合では、構造の境界部分だけでなくパッチ導体12とスタブ導体13A,13Bの間の領域にも電界が集中している違いがある。後者の構造では、構造外側に形成された電界分布と構造内側に形成された電界分布が互いに強め合うことで利得が向上していると考えられる。
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、パッチ導体12の外周を取り囲むように、ギャップ14を挟んでパッチ導体12と離間するようスタブ導体13A,13Bを配置したものである。これにより、パッチ導体12とスタブ導体13A,13Bとの間、すなわちギャップ14に電気容量を形成でき、回路一体型アンテナ10の放射特性を広帯域化・高利得化することが可能となる。したがって、オンチップアンテナの指向性・利得を向上させることができるため、より長距離で無線通信を行うことが可能になる。また、広帯域な放射特性が得られるため、伝送可能な情報量が増加することでシステム全体を通じたミリ波帯/テラヘルツ帯の無線通信の大容量化が期待できる。チップ設計の観点では、パッチを装荷することで元のアンテナの構成を変更することなく、小型化し広帯域で利得・放射効率を改善することができる。
また、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ10は、給電線路11とのインピーダンス整合をとる際に、スリット15A,15Bのサイズに加えて、スタブ導体13A,13Bやギャップ14のサイズを用いて調整することができる。したがって、回路一体型アンテナ10の設計過程において、中心周波数、帯域幅、指向性・利得など、高い制御自由度を得ることができる。その際に、指向性のよいアンテナ素子の方が素子間における電磁界結合等の問題が軽減できるため、素子単体の利得改善効果を素子数に応じて倍増させることができる。また、従来のパッチアンテナよりも素子間隔を小さくすることができ、小型化およびビーム制御性の向上が期待できる。
これにより、半波長よりも小さいサイズで実現できるため、パッチ導体12とスタブ導体13A,13Bからなるアンテナ部ANTを、同一基板B上にアレー状に複数配置したアレーパッチアンテナを構成してもよい。このようなアレー化を行うことによって、単独のパッチアンテナを用いた場合に比べて利得を大幅に向上させることが可能となる。
また、アレー化によりヴィヴァルディアンテナ(Vivaldi Antenna)等の波長サイズで設計された従来の広帯域アンテナと同等以上の利得を有しながらビームフォーミングによって放射方向を自動的に制御できる。例えば、300GHz帯の超高速無線通信を想定した場合、送受信位置の僅かなずれがSN比に大きく影響することから、ビーム角の微調整によってSN比を常に最適化することで変調多値数の大きい状態で高ビットレートな無線伝送が可能となる。
さらに、本実施の形態のスタブパッチアンテナをアレー化した場合、スタブとパッチの間に形成される電気容量で電界を集中させて閉じ込めることにより素子間結合を低減することができ、アレーファクタから導出される利得の理論限界値に近い利得を出すことができる。
[第2の実施の形態]
次に、図14を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20について説明する。図14は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの積層構造を示す断面図である。
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20は、前述した図1の回路一体型アンテナ10において、アンテナ部ANTの上方に上部パッチ導体16を装荷したものである。
すなわち、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20は、図14に示すように、パッチ導体12およびスタブ導体13A,13Bからなるアンテナ部ANTの上方(上層)、具体的には、上部絶縁層BCBの表面に、スタブ導体13A,13Bの外形とほぼ同一形状の上部パッチ導体16を装荷したものである。上部パッチ導体16は、例えば金(Au)などの導体薄膜からなる。
この構造によれば、下層のアンテナ部ANTから放射された電波が上層の上部パッチ導体16と結合することによって、指向性の優れない周波数帯の電波の方向が修正される。このため、上部パッチ導体16が最大利得を保持した状態でその周辺周波数帯の利得を向上させ放射特性を平滑化させる働きを持つ。また、アンテナ部ANTと上部パッチ導体16との層間に電界が集中することで、対応周波数帯・帯域幅を保持した状態で、図1のスタブパッチアンテナよりも構造が小型化することが可能となる。
[第2の実施の形態にかかる解析結果]
次に、図15~図17を参照して、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20と従来のパッチアンテナに関する、シミュレーションによる解析結果について説明する。図15は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナに関する反射係数の周波数特性を示すグラフである。図16は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの利得周波数特性を示すグラフである。図17は、第2の実施の形態にかかる回路一体型アンテナの放射効率周波数特性を示すグラフである。
本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20に関する解析条件については、図3および図4で示した上部パッチ導体なしのものと同様であり、具体的には、周波数帯域を250-340GHzとし、解析空間を1000μm×1000μm×1000μmとした。また、アンテナ部ANT(パッチ導体12、スタブ導体13A,13B)の薄膜導体として膜厚が0.6μmの金(Au)を用いた。また、基板Bとして厚さが50μmのInP基板を用い、グランドプレーンGNDとして厚さが4μmの金(Au)を用いた。回路実装層MIMの厚さを1.8μmとし、回路実装層MIM内のSiNの厚さを0.77μmとし、上部絶縁層BCBの厚さを1.8μmとした。また、給電線路11の一端に設けられたポートPTのサイズを200μm(W)×150μm(H)とし、ポートPTから1Wの電磁界を入力した。上部パッチ導体16については、縦横の幅すなわちパッチサイズPatをスタブ導体13A,13Bと同じ300μmとし、膜厚を2.2μmとした。
また、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20に関するアンテナサイズについては、図3および図4で示したものと比較して、アンテナ部ANTを全体的に17%ほどサイズダウンしたものである。具体的には、パッチ導体12の縦横の幅すなわちパッチサイズPatを150μmとし、給電線路11の幅MSL_xを34μmとし、長さMSL_yを350μmとし、スタブ導体13A,13Bの縦横の幅Stubを250μmとし、スタブ導体13A,13Bの帯幅Stub_wを30μmとした。また、ギャップ14の幅Int_1を20μmとし、ギャップ13Cの幅Int_2を30μmとし、スリット15A,15Bの幅Slit_xを10μmとし、スリット15A,15Bの長さSlit_yを60μmとした。
図15には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20の解析結果として、給電線路11の入力端(ポート)における入力反射係数S11の周波数特性が示されている。本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20(上部パッチ導体あり)によれば、図15に示すように、入力反射係数S11の-10.0dBにおける帯域幅は30GHzであり、前述した回路一体型アンテナ10(上部パッチ導体なし)の帯域幅25GHzと比較して、16%程度広がっていることが分かる。
また、図16には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20の解析結果として、利得の周波数特性が示されており、図17には、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20の解析結果として、放射効率の周波数特性が示されている。図16および図17に示すように、本実施の形態にかかる回路一体型アンテナ20(上部パッチ導体あり)によれば、前述した回路一体型アンテナ10(上部パッチ導体なし)と比較して、利得および放射効率についても改善し、より安定化していることが分かる。したがって、上部パッチ導体16を装荷することにより、小型化と対応周波数帯の利得・放射効率の改善を両立することができる。なお、図16および図17では、比較のため、それぞれの中心周波数を基準として対応周波数帯を規格化した規格化周波数が横軸として用いられている。
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、パッチ導体12およびスタブ導体13A,13Bからなるアンテナ部ANTの上方に、スタブ導体13A,13Bの外形とほぼ同一形状の上部パッチ導体16を装荷したものである。
これにより、回路一体型アンテナ20の入力反射係数S11の-10.0dBにおける帯域幅を広げられるだけでなく、対応周波数帯の利得・放射効率を改善でき、小型化と対応周波数帯の利得・放射効率の改善を両立することができる。
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
10,20…回路一体型アンテナ、11…給電線路、12…パッチ導体、12A,12C…一辺、12B…接続部、13A,13B…スタブ導体、13C,14…ギャップ、15A,15B…スリット、16…上部パッチ導体、MIM…回路実装層、BCB…上部絶縁層、ANT…アンテナ部、B…基板、P…表面、R…底面、GND…グランドプレーン。

Claims (7)

  1. 集積回路を構成する基板上に実装される回路一体型アンテナであって、
    基板の表面に形成され、給電された電磁界を放射するパッチ導体と、
    前記基板の表面に形成され、入力された電磁界を前記パッチ導体に給電する給電線路と、
    前記パッチ導体と前記給電線路の接続部の両側に、前記パッチ導体の内側に向かうように形成された、前記給電線路に平行な2つのスリットと、
    前記基板の表面に形成され、前記給電線路の両側から突出して設けられた一対のスタブ導体とを備え、
    前記一対のスタブ導体のそれぞれは、前記パッチ導体の外周を取り囲むように、第1のギャップを挟んで前記パッチ導体と離間するよう、前記給電線路を挟んで対称配置されている
    ことを特徴とする回路一体型アンテナ。
  2. 請求項1に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記一対のスタブ導体のそれぞれは、一端が前記給電線路と接続され、他端が前記パッチ導体を挟んで前記接続部とは反対側において、第2のギャップを挟んで互いに対向するように配置されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
  3. 請求項1に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記第1のギャップは、前記2つのスリットのそれぞれの一端部と連接するよう形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
  4. 請求項1から3の何れか1項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記スタブ導体は、一定幅で帯状に形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
  5. 請求項1から4の何れか1項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記第1のギャップは、一定幅で形成されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
  6. 請求項1から5の何れか1項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記パッチ導体および前記一対のスタブ導体の上方に装荷された上部パッチ導体をさらに備えることを特徴とする回路一体型アンテナ。
  7. 請求項1から6の何れか1項に記載の回路一体型アンテナにおいて、
    前記パッチ導体と前記一対のスタブ導体からなるアンテナ部が、同一基板上にアレー状に複数配置されていることを特徴とする回路一体型アンテナ。
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