JP7348524B2 - 方向性電磁鋼板の表面に形成された溝を消失させる、鋼板の処理方法 - Google Patents

方向性電磁鋼板の表面に形成された溝を消失させる、鋼板の処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、溝による磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板の評価において、特に溝による磁区細分化処理の効果を知るために、溝形成しない場合の磁束密度を評価するために必要となる方向性電磁鋼板の表面に形成された溝を消失させる、鋼板の処理方法に関するものである。
一方向性電磁鋼板はエネルギー節約の観点から鉄損を低減することが要望されている。特に巻き鉄心トランス用としては、人為的に溝を導入することにより歪取り焼鈍後にも磁区細分化効果を維持する手段が特許文献1に開示されている。この方法は、歯形ロール等の機械的手段により鋼板に溝を導入し磁区細分化を図るものである。
また、上記の機械的手段以外にも、高エネルギー線照射やエッチングによる手段として、特許文献2~4に開示された技術が存在するが、いずれも溝を導入し、歪取り焼鈍後にも磁区細分化効果を発揮するという点で機械的手段と同様の技術である。
特開平1-252726号公報 特開昭62-179105号公報 特開平4-88121号公報 特開2000-173814号公報
方向性電磁鋼板では、圧延方向と交差する方向に溝を形成して磁区制御を行うことにより、鉄損を低減することが知られている。
この磁区制御を最適化し適正に実施するためには、溝を形成した鋼板の磁気特性とともに溝を形成しなかった場合の磁気特性を認識し、溝形成の影響を正確に把握する必要がある。見方を変えると、特定の溝形成を実施した際、その溝形成条件が適切であったかどうかを判断するには、溝を形成した鋼板の磁気特性とともに溝を形成しなかった場合の磁気特性を認識する必要がある。
本発明者らによれば、このような磁区制御の最適化のための検討として、例えば、図1に示すような関係が認識されている。図1は、溝を形成する前の鋼板または溝を消失させた鋼板の磁束密度B8と、溝による磁束密度低下量ΔB8を表したチャート例であり、溝の深さdでグループ分けしたものである。この検討においては、溝形成による磁束密度B8の低下は、溝深さおよび溝形成前のB8に依存している。つまり、磁区細分化効果を十分に得つつB8の低下を抑制して必要なB8を得ることができる溝の深さを設計するには、溝形成前のB8を知ることが必要となる。
溝を方向性電磁鋼板の製造工程の最終段階で形成する場合は、溝を形成する前の時点でB8を測定しておき、必要なB8を得るための溝深さを設計した上で溝形成工程を実施することが可能である。しかし、以下のように溝を形成する時期が最終工程ではないプロセスで製造される場合は、プロセスの適用によりB8が変化することがあり、溝形成前の状態でB8を測定しても意味がない。
例えば一般的に、溝を形成する時期が、二次再結晶後よりも二次再結晶前である方が、鉄損がよくなることが知られている。その理由としては、以下が考えられる。溝形成工程では歪が入る場合があり、これが鉄損に悪影響を与える。特に機械的方法であるプレス、歯車あるいはレーザによる溝形成方法により鋼板に導入される歪は、一般に方向性電磁鋼板の需要家でなされている歪取り焼鈍では除去できない。これに対して、二次再結晶では、そのような歪を解消し、鉄損への悪影響を緩和することができる。
このような鋼板において、溝がない場合のB8を知るために、溝形成プロセスの有無で2種類の鋼板を製造しておくことが考えられるが、多様な仕様の製品を製造する際に、評価のためだけの特別な鋼板を製造することは工業的には大きな問題となる。
また、二次再結晶前の鋼板に溝を形成する方法では、溝の形成自体が二次再結晶挙動に影響を及ぼすことになるため、単に溝形成プロセスの適用の有無だけでは、溝の存在の有無だけの影響、すなわち溝による純粋な磁区制御の効果を正確に知ることができない。
単純には、図2に示すように、溝が形成された鋼板面を機械加工などで研削して溝を消失させることが考えられるが、板厚が非常に薄い方向性電磁鋼板を磁気特性の測定が可能な程度の面積で表面を均一に研削することは困難で研削により鋼板が歪んでしまい正確な磁気特性の測定の支障となる。
また、図3に示すように、酸洗などで溝が形成された鋼板面層領域を除去して溝を消失させることが考えられるが、溝のような大きな凹凸を有した状態で酸洗を行うと溝部近傍領域が優先的に酸洗され凹凸がなかなか消失せず、凹凸を必要な程度まで消失させると鋼板の板厚(残存厚さ)が非常に薄くなってしまい正確な磁気特性の測定の支障となる。
そこで、本発明はこのような方向性電磁鋼板の製品板について、磁束密度、特に溝を形成しなかった場合の磁束密度、を評価するための鋼板を得る方法を提供することを課題とする。
本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝が形成された方向性電磁鋼板の溝のある面において溝を消失させる方法であり、溝の部分にのみエッチングに対して鋼板の保護効果がある被膜が存在する状態とした後、エッチングにより、溝を有する面の溝以外の部分について以下の式(1)の範囲の深さdr(μm)まで表層を除去する鋼板の処理方法。
dg≦dr≦dg×1.50 … (1)
ここで、dg(μm)が溝深さで、dr(μm)がエッチングの深さである。
[2]
溝を消失させた後の圧延方向に100mmに亘る板厚の変動△t(μm)が、元の板厚t(μm)に対して、以下の式(2)を満足する[1]に記載の鋼板の処理方法。
△t/t≦0.10 ・・・・ (2)
[3]
溝のある面の全面について、エッチングに対して鋼板の保護機能がある被膜を形成した後、溝以外の部分の被膜を機械的に除去して、溝の部分にのみエッチングに対して鋼板の保護効果がある被膜が存在する状態とすることを特徴とする、[1]または[2]に記載の鋼板の処理方法。
[4]
溝のある面の全面について形成されるエッチングに対して鋼板の保護機能がある被膜が、方向性電磁鋼板の製造過程で形成される絶縁被膜またはグラス被膜であることを特徴とする、[3]に記載の鋼板の処理方法。
[5]
溝以外の部分の被膜を機械的に除去した後、熱処理にて機械的研削の歪を除去することを特徴とする、[4]に記載の鋼板の処理方法。
[6]
エッチング処理が硫酸を含む酸性処理液を用いて行われることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一つに記載の鋼板の処理方法。
本発明により、溝が形成された方向性電磁鋼板について、溝が無い場合の磁束密度を簡便に評価することができる。
図1は、溝形成前の磁束密度B8と、溝形成による磁束密度低下量ΔB8を整理したチャートである。 図2は、溝が形成された鋼板面を研削等して溝を消失させることを模式的に説明する図である。 図3は、溝が形成された鋼板面を酸洗等して溝を消失させることを模式的に説明する図である。 図4は、被膜を有する場合(グラスの根が存在する場合)の「溝の深さ」および「エッチングの深さ」を模式的に説明する図である。 図5は、溝が形成された鋼板面を、局所的なレジスト処理を伴うエッチングにより溝を消失させることを模式的に説明する図である。 図6は、レジスト材を溝の形成された面の全面に形成した後、溝以外の部分の保護膜を機械研削等で除去することにより、溝部のみにレジスト被膜が存在する状態とすることを模式的に説明する図である。
本発明の一態様により、以下が提供される。
圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝が形成された方向性電磁鋼板の溝のある面において溝を消失させる方法であり、溝の部分にのみエッチングに対して鋼板の保護効果がある被膜が存在する状態とした後、該エッチングにより、溝を有する面の溝以外の部分について以下の式(1)の範囲の深さdr(μm)まで表層を除去する鋼板の処理方法。
dg≦dr≦dg×1.50 … (1)
本発明に係る方法の適用対象とする方向性電磁鋼板は、溝が形成されたものである。その溝の形成される方向は、圧延方向と交差する方向(言い換えると、圧延方向と平行ではない方向)であり、溝の深さ方向は鋼板の板厚方向である。以下で、溝の深さは、dg(μm)と称することがある。
この溝は、冷間圧延後の工程で、レーザ、電子ビーム、プラズマ、機械的方法、エッチングなど、公知の手法により、局所的に形成することができる。一態様では、深さ(dg)がおよそ数μmから数十μmの溝が、圧延直角方向と0~50°の角度をなす方向に延伸して、およそ数mmから数十mmの間の一定の間隔で形成される。本発明の一態様では、溝は圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に延伸して、およそ2mmから30mmの間の一定の間隔で形成されてもよい。ここで一定とは、上記で規定した間隔に対し、実際の各溝の間の間隔が規定した値に対し±10%以内の変動の中に納まることを意味する。また、溝幅は、20μmから100μmであるとよい。なお溝幅は溝形成方向と垂直な断面における平均寸法を指す。
溝を形成するタイミングは冷間圧延直後かつ脱炭焼鈍前、脱炭焼鈍後、仕上焼鈍後、張力被膜形成後などが挙げられ、公知の任意のタイミングで溝を形成することができる。
方向性電磁鋼板に溝を形成することにより、磁区制御(磁区細分化)が生じて、鉄損が改善される一方で、磁束密度が低下する。そのため、溝を形成された鋼板では、溝が無い鋼板の磁束密度を正確に知ることができる。
そこで、本態様では、溝が形成された方向性電磁鋼板から、溝を消失させた鋼板を得る。これにより、溝が無い鋼板の磁束密度を評価することができる。
溝を消失させるために、本態様では以下の工程を含む。
・方向性電磁鋼板の溝のある面において、溝の部分にのみエッチング処理に対して鋼板の保護効果がある被膜(以下、「レジスト被膜」または「レジスト」と称することがある)が存在する状態とする。
・その後、該エッチングにより、溝を有する面の溝以外の部分について以下の式の範囲の深さdr(μm)まで表層を除去して溝を消失させる。
dg≦dr≦dg×1.50 … (1)
ここで、dg(μm)は除去前の溝の深さであり、dr(μm)は溝以外の部分におけるエッチングの深さである。つまり、除去前の溝の深さの1.00~1.50倍の範囲の深さで、方向性電磁鋼板の溝を有する面をエッチングする。
ここで「溝の深さ」および「エッチングの深さ」は、方向性電磁鋼板の母鋼板について測定するものとする。すなわち、鋼板上に存在するいわゆるグラス被膜や、張力被膜を除いた領域について測定する。これらの深さは、鋼板の断面研磨試料において母鋼板を確認することで測定できる。鋼板表面にグラス被膜と称される被膜が存在する場合、いわゆるグラスの根と称する酸化物が母鋼板中に断続的に存在し、界面が凹凸になる場合があるが、この領域は母鋼板と見なすものとする。この状況については図4に模式図を示す。
溝を有する面の溝以外の部分の表層を除去した後(つまり、溝を消失させた後)の鋼板表面は平坦化されており、圧延方向に100mmに亘る板厚の変動△t(μm)が、元の板厚t(μm)に対して以下の式(2)を満足することが好ましい。
△t/t≦0.10 ・・・・ (2)
ここで「元の板厚」は、上記の「深さ」と同様、方向性電磁鋼板の母鋼板について、鋼板の断面観察により測定するものとする。つまり、溝が無い部分での被膜と母鋼板の界面の位置を表面として、この表裏の距離を「元の板厚」とする。板厚は少なくとも30箇所について行い、この平均値を板厚t(μm)とする。
板厚の変動Δt(μm)は、溝の消失とともに被膜も除去されているため上記のような被膜領域の除外について考慮する必要はない。断面観察により鋼板そのものの厚さを少なくとも30箇所で測定し、板厚の最大値と最小値の差を板厚の変動△t(μm)とする。
溝を消失させる手段として、エッチングを用いる。エッチングは、処理対象の表面の一部を選択的に化学的、電気化学的に溶解する加工法である。溶解させたくない箇所(エッチングを行なわない箇所)にレジスト被膜を形成してからエッチングを行なうことで、溶解させたい箇所のみを除去することができる。方向性電磁鋼板の表面の溝を消失させるには、溝の部分にのみレジスト被膜が存在する状態としてからエッチングを行なうことで、溝以外の部分(溝を画定する土手に相当する箇所)のみが溶解し除去される。その結果、溝のない電磁鋼板を得ることができ、その磁束密度を測定または評価することができる。
溝を消失させる手段として、機械的な研削手段で溝がある面を溝深さまで研削することが考えられる(図2参照)。しかしながら、方向性電磁鋼板のような比較的薄い鋼板を機械的な研削手段すると、鋼板に加工歪が生じて、鋼板が変形する。そのため、鋼板を、安定的に研削をすることができず、溝を十分に消失できる深さまで研削することができない。
溝を消失させる別の手段として、レジスト処理をせずに酸洗するような、単純な化学処理で溝がある面を溝深さまで溶解することが考えられる(図3参照)。しかしながら、この手段では、溝以外の部分だけでなく、溝の内部(溝の底)も溶解し、溝を効果的に消失させることができない。溝が消失したと判断できる程度まで表面を平坦にするには、鋼板を大きく減厚する必要があり、目的とする磁気特性を得るには十分とは言えないほどにまで板厚が減少してしまう。
そのため、本態様では、溝を消失させる手段として、図5に示すような、局所的なレジスト処理を伴うエッチングを用いる。レジスト処理であれば、加工歪が生じることや、溝の内部まで溶解することがない。したがって、溝を過不足なく消失させた電磁鋼板を得ることができ、その磁束密度を精緻に測定または評価することができる。
レジストを溝部のみに存在する状態とする手段は、特に限定されるものではない。
本願発明の一態様は、レジスト材が存在しない鋼板表面に対して、溝部のみにレジスト材の被膜を形成する。この場合、素材となる方向性電磁鋼板の表面が絶縁被膜やグラス被膜で覆われている場合は、これを除去した後、溝部のみへのレジスト材の形成処理を行う。絶縁被膜やグラス被膜の除去は公知の方法を適用すれば良い。例えば、絶縁被膜またはグラス被膜を有する方向性電磁鋼板を、NaOH:10質量%+HO:90質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、HSO:10質量%+HO:90質量%の硫酸水溶液に、80℃で3分間、浸漬する。その後、HNO:10質量%+HO:90質量%の硝酸水溶液によって、常温で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。
レジストを溝部のみに形成する手段は、特に限定されるものではなく、印刷プロセス、フォトレジストプロセス、等を用いることができる。印刷プロセスでは、インクジェット印刷、グラビアオフセット印刷などを用いて、レジスト材を溝部のみに塗布することができる。フォトレジストプロセスでは、感光性レジスト材を鋼板の表面に塗布後、マスキングした光を照射して、所望する箇所(溝の部分)のみにレジスト材が残るようにすることができる。フォトレジストプロセスは、任意の複雑な形状に容易に対応できる点で、好ましい。
本願発明の一態様として、フォトレジストプロセスの感光、現像工程や精緻な局所領域印刷を利用せずに、溝部のみにレジスト被膜が存在する状態としてもよい。具体的には、図6に示すように、レジスト材を方向性電磁鋼板の溝の形成された面の全面に形成した後、溝以外の部分の保護膜を機械研削により除去することにより、溝部のみにレジスト被膜が存在する状態とすることができる。ここでの機械研削では、鋼板表面の上のレジスト被膜(保護膜)を除去すれば良く、そのような加工をすることで溝の部分の保護膜が残存する上、機械研削による加工歪の影響による鋼板の変形は生じない。ただし、機械研削による加工歪が懸念される場合に、熱処理等により当該歪みの除去を行なってもよい。また、感光、現像工程や精緻な局所領域印刷が不要なので、作業時間の短縮、作業コストの軽減にもつながる。
機械研削による除去の前に全面に形成されるレジスト材としては、前述の印刷技術などを適用できるが、方向性電磁鋼板で一般的に知られている絶縁被膜またはグラス被膜とすることも可能である。つまり、素材となる方向性電磁鋼板の表面が溝部を含めて、絶縁被膜またはグラス被膜で覆われている場合、溝以外の部分の該被膜を機械研削により除去することにより、溝部のみにレジスト被膜が存在する状態とすることができる。この場合は、上述の鋼板全面での被膜剥離や、別途レジスト材を鋼板全面に形成することを省略できるため作業時間の短縮、作業コストの軽減でもメリットとなる。
エッチング条件は、エッチング対象である電磁鋼板を溶解できるものであれば特に限定されず、一般的な酸エッチング条件を用いてもよい。エッチング処理溶液(液種、濃度)、エッチング温度、エッチング温度を適宜調整して、溝部以外の部分を過剰に溶解すること、または溶解が不足で溝部が残存すること、を回避することができる。エッチングに過不足があると、溝を過不足なく十分に消失させることができず、方向性電磁鋼板の磁束密度を精緻に測定または評価することができない。
エッチング処理液としては、均一に鋼板(溝以外の部分)が除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、塩酸、塩化第二鉄、硝フッ酸、硫酸等の方向性電磁鋼板の表面を溶解する液を使用することがでる。対象とする方向性電磁鋼板の鋼種及び要求されるエッチング面の性状(溝の深さ等)に応じて液を選択することができる。
本願発明の一態様として、エッチング処理液が硫酸を含む処理液を用いてもよい。硫酸を含むエッチング処理液は、簡便に溝以外の鋼板表面を除去することができ、好ましい。
エッチングの深さをdr(μm)、エッチング前(除去前)の溝の深さをdg(μm)として、エッチングの深さを以下のように規定する。
dg≦dr≦dg×1.50 … (1)
つまり、除去前の溝の深さの1.00~1.50倍の範囲の深さで、方向性電磁鋼板の溝を有する面をエッチングする。これは、溝が除去できる1.00倍未満では、溝が磁気特性に影響を及ぼす影響を排除できないからである。一方、1.50倍超では、エッチング量が過剰であり、方向性電磁鋼板の厚さが薄くなり過ぎて、このエッチング後のB8が溝形成前のB8と解離が生じ、溝形成前の磁束密度B8を正確に測定することができない場合があるからである。
dr(μm)が(1)の範囲に入っていても、エッチングによって得られる板厚は、元の板厚の30%減以内にとどめることが好ましい。この範囲を超えてエッチングで板厚を減肉した場合のB8は、溝が無い場合のB8より低い値となる。
エッチングの深さを、エッチング前の溝の深さの1.00倍以上とすることは必要である。溝でない部分(溝を画定する土手の部分)を、溝の深さを超えてエッチング(溶解)させることにより、レジスト皮膜の下に潜りこむようにエッチングが進行し、それに応じてレジスト皮膜が方向性電磁鋼板(の溝の底であった箇所)から剥離し、その後のエッチングでは鋼板のエッチング面をより均一にすることができる。
好ましくはエッチングの深さは、溝の深さの1.40倍以下、さらに好ましくは1.30倍以下、さらに好ましくは1.20倍以下である。
溝を有する面の溝以外の部分の表層を除去した後の鋼板表面は全体が十分に平坦化されることが好ましい。本発明の一態様ではこれを、圧延方向に100mmに亘る板厚の変動△t(μm)と元の板厚t(μm)とにより、以下の式(2)で規定する。
△t/t≦0.10 ・・・・ (2)
表面が十分に平坦化することは、B8を決定づける要因の一つである、鋼板断面積を磁束の流れる方向に均一化し、溝形成の影響を精緻に評価する目的に対してB8を正確に測定することを可能とする。
式(2)の左辺の値は、好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下である。ここで、0.10超となると溝が無い場合のB8からの乖離が生じる可能性があることから△t/tの上限を0.10とした。この理由は、板厚が薄くなりすぎると、鋼板の厚さに対しての表面の影響が大きくなるためと推定している。
このような最終的な表面の凹凸は、溝を式(1)を満足する範囲に消失させた後、必要に応じ、軽い機械研磨、化学研磨などを実施することで調整可能である。また、溝を消失させるエッチングにおいて、エッチング条件(腐食液種類、濃度、温度、時間、電解条件など)により調整することも可能である。このような条件設定は通常作業として鋼板の表面処理などを実施している当業者であれば適宜選定することは困難ではない。
上記の態様により、溝を消失させた方向性電磁鋼板について、磁束密度を測定し、評価する。溝が消失されているので、溝による磁束密度の低下がない条件で、方向性電磁鋼板の磁束密度を正確に測定することができる。
本発明にかかる評価方法の対象となる方向性電磁鋼板の化学組成は特に限定されるものではないが、以下の化学組成を有するものであってもよい。
本発明に係る方向性電磁鋼板の一態様は、化学組成として、質量分率で、Si:2.00%~7.00%を含有し、残部がFeおよび不純物である。
上記の化学組成は、鋼板の抵抗値を上げて磁気特性を向上させるための好ましい化学組成である。
また、本発明に係る方向性電磁鋼板は、磁気特性の改善を目的として、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、例えば、次の元素が挙げられる。各数値は、それらの元素が任意元素として含有された場合の、上限値を意味する。
質量%で、
C:0.005%以下
Mn:1.00%以下、
S及びSe:合計で0.015以下、
Al:0.065以下、
N:0.005%以下
Cu:0.40%以下、
Bi:0.010%以下、
B:0.080%以下、
P:0.50%以下、
Ti:0.015%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Cr:0.30%以下、
Ni:1.00%以下、
Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上:合計で0.030%以下。
これら任意元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、任意元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
なお、不純物とは、上記に例示した任意元素に限らず、含有されても本発明の効果を損なわない元素を意味する。意図的に添加する場合に限らず、鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から不可避的に混入する元素も含む。不純物の合計含有量の上限の目途としては、5%程度が挙げられる。
注意を要するのは、方向性電磁鋼板では、脱炭焼鈍および二次再結晶時の純化焼鈍を経ることが一般的であり、比較的大きな化学組成の変化(含有量の低下)が起きることである。元素によっては、50ppm以下に低減され、純化焼鈍を十分に行えば、一般的な分析では検出できない程度(1ppm以下)にまで達することもある。
本発明に係る方向性電磁鋼板の上記化学成分は、最終製品における化学組成であり、出発素材でもある後述するスラブの組成とは異なることを申し添えておく。
本発明に係る方向性電磁鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、方向性電磁鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
本発明に係る方向性電磁鋼板の表面に、一般的に方向性電磁鋼板に設けられる被膜を、形成してもよい。これらは、例えば、グラス被膜、絶縁被膜、張力被膜などと呼ばれる。
ただし、これらの被膜は、本発明に係る方向性電磁鋼板の必須の要素ではない。本発明に係る方向性電磁鋼板の上記の化学組成は、被膜を有する方向性電磁鋼板においては、その基材となる鋼成分の組成であり、表面の絶縁被膜を上述の方法により除去した後に測定するものとする。
スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブの化学組成を用いることができる。スラブの化学組成は、例えば、次の元素を含有する。
C:0.090%以下、
Cは、製造工程においては一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品への含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、C含有量は0.090%以下である。C含有量の好ましい上限は0.075%である。Cは主に後工程の脱炭焼鈍工程で除去され、仕上げ焼鈍工程後には0.005%以下となる。Cを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.001%であってもよい。
Si:2.00%~7.00%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が2.00%未満であると、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。一方、Si含有量が7.00%を超えると、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。Si含有量の好ましい下限は2.50%であり、さらに好ましくは3.00%である。Si含有量の好ましい上限は4.50%であり、さらに好ましくは4.00%である。
Mn:0.05%~1.00%
マンガン(Mn)はS又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mnを含有させる場合、Mn含有量が0.05%~1.00%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。インヒビターの機能の一部を窒化物によって担う場合は、インヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
S及びSe:合計で0.003%~0.035%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S及びSeの少なくとも一方を含有させる場合、S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%であると、二次再結晶が安定する。インヒビターの機能の一部を窒化物によって担う場合は、インヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、S及びSe含有量の合計の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.010%である。S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、S及びSeをできるだけ少なくすることが好ましい。
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%」であるとは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が合計で0.003%~0.035%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%であってもよい。
Al:0.010%~0.065%
アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。Alを含有させる場合、Alの含有量が0.010%~0.065%の範囲内にある場合に、後工程の窒化により形成されるインヒビターとしてのAlNは二次再結晶温度域を拡大し、特に高温域での二次再結晶が安定する。したがって、Alの含有量は0.010%~0.065%である。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。二次再結晶の安定性の観点から、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
N:0.012%以下
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。Nは製造工程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限は規定しない。一方、Nを含有させる場合、N含有量が0.012%を超えると、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.009%である。Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.005%以下であってもよい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、含有されても本発明の効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。意図的に添加する場合に限らず、スラブを工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入する元素も含む。不純物の合計含有量の上限の目途としては、5%程度が挙げられる。
スラブの化学組成は、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、例えば、次の元素が挙げられる。各数値は、それらの元素が任意元素として含有された場合の、上限値を意味する。
質量%で、
Cu:0.40%以下、
Bi:0.010%以下、
B:0.080%以下、
P:0.50%以下、
Ti:0.015%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Cr:0.30%以下、
Ni:1.00%以下、
Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上:合計で0.030%以下。
これら任意元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、任意元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
(実施例1)
真空溶解炉にて、質量%で、C:0.09%、Si:3.4%、Al:0.03%、N:0.01%、S:0.003%、Se:0.015%、Mn:0.08%を含有するスラブを作製した。このスラブに、加熱条件を1400℃、1時間とした熱間圧延を施し、板厚2.3mmの熱延板に仕上げた。
上記熱延板に、1000℃、120秒の焼鈍を施し、次いで、酸洗の後、一回の中間焼鈍を挟む二回の冷間圧延で板厚230μmの冷延板に仕上げた。この冷延板に、水素を含む湿潤雰囲気中にて、昇温速度200℃/sで850℃、120秒の脱炭焼鈍を施し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を水スラリーにて塗布し、次いで、1200℃、20時間の仕上焼鈍を施した。仕上げ焼鈍後の鋼板の組成は、グラス被膜を除去した鋼板のみについて、質量%で、Siは3.3%、Mnは0.07%、Al、C、N、SおよびSeの含有量がそれぞれ0.005%以下で、残部がFeおよび不純物であった。
仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、磁気測定用の単板サイズに剪断し、リン酸アルミニウムとコロイダルシリカを主成分とする被膜液を塗布して焼き付け、絶縁被膜付き方向性電磁鋼板を作製した。これにより得られる方向性電磁鋼板は一般的な方向性電磁鋼板であり、特別なものではない。
このように製造された溝のない方向性電磁鋼板が試料No.A01である。表面は、一次被膜やグラス被膜と呼ばれるフォルステライトを主体とする酸化物の被膜が形成され、さらにその上に、二次被膜や絶縁被膜と呼ばれるシリカを含有する酸化物被膜が形成されている。
この方向性電磁鋼板の片面に公知の条件でレーザ照射し溝を形成した鋼板が試料No.A02である。溝の延伸方向は圧延直角方向から20°、溝の間隔は6mm、溝幅は40μm、溝の深さdgは20μmとした。レーザ照射部は照射により上記被膜は消失するが、試料No.A02は公知技術に従い再コーティングを実施し、溝部には二次被膜や絶縁被膜と呼ばれるシリカ等を含有する酸化物被膜が形成されている。
さらに、試料No.A01、A02の鋼板に対して前述の方法によって被膜を剥離した鋼板がそれぞれ試料No.A03、A04である。
本実施例においては、溝を有する方向性電磁鋼板(試料No.A02またはA04)を素材として、溝の影響を検討する際の基準となる溝を有さない方向性電磁鋼板である試料No.A03のB8に相当する確からしい材料を如何に得られるかを検討する。
試料No.A04-(a~e)は、試料No.A04の溝部のみにフォトレジスト技術を用いてレジスト被膜を形成し、溝形成面のみを10%硫酸の80℃の処理液に100~240秒浸漬しエッチング量を変化させたものである。
試料No.A04-(f~i)は、試料No.A04をそのまま、つまりレジスト被膜を形成する処理を施さずに、溝形成面のみを10%硫酸の80℃の処理液に115~210秒浸漬しエッチング量を変化させたものである。
試料No.A02-(a~e)は、試料No.A02の両面の絶縁被膜およびグラス被膜を機械研削により除去し、溝部のみに絶縁被膜を残存させ、溝形成面のみを10%硫酸の80℃の処理液に170~340秒浸漬しエッチング量を変化させたものである。
これら鋼板について磁束密度B8を測定した。B8は、磁化力800A/mにおける磁束密度であり、W60mm×L300mmの単板で評価した。単板を5枚用意し、5枚のB8測定値の平均値を各材料のB8とした。
処理条件および溝を有する面の溝以外の部分のエッチング深さdr(μm)、元の板厚t(μm)、板厚の変動△t(μm)およびB8は表1に示す。
溝を消去する処理を行った鋼板のB8と、溝がない鋼板の真の値と考えるべき試料No.A03のB8との差をB8devとして表1に示す。B8devが小さいほど、溝を消去する処理が適切であったと判断できる。
試料No.A04-(a~e)の結果から、式(1)を満足する範囲で溝を消去することで、溝を有する鋼板から溝がない鋼板のB8の妥当な予測が可能と判断できる。
一方、レジスト処理を施さずにエッチングを実施した試料No.A04-(f~i)は、エッチングが進行しdr(μm)が大きくなっても△t/tおよびB8devは十分には小さくならず、むしろ悪化する場合さえ見られる。
また、試料No.A02-(a~e)は試料No.A04-(a~e)に比べると、同程度のdr(μm)において△t/tが小さくなり、B8devも小さくなっている。理由は不明であるが、試料No.A02-(a~e)は試料No.A04-(a~e)に比べると、エッチングが緩やかに進行する条件となっており、これが鋼板表面の平坦度を高めたものと考えられる。
Figure 0007348524000001
(実施例2)
真空溶解炉にて、質量%で、C:0.09%、Si:3.1%、Al:0.03%、N:0.01%、S:0.03%、Mn:0.08%、Cu:0.2%、Bi:0.003%を含有するスラブを作製した。このスラブに、加熱条件を1350℃、1時間とした熱間圧延を施し、板厚2.0mmの熱延板に仕上げた。
上記熱延板に、1080℃、120秒の焼鈍を施し、次いで、酸洗の後、冷間圧延で板厚230μmの冷延板に仕上げた。この冷延板に、水素を含む湿潤雰囲気中にて、昇温速度300℃/sで840℃、110秒の脱炭焼鈍を施し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を水スラリーにて塗布し、次いで、1200℃、20時間の仕上焼鈍を施した。仕上げ焼鈍後の鋼板の組成は、グラス被膜を除去した鋼板のみについて、質量%で、Siは3.0%、Mnは0.07%、Cuは0.18%、Bi、Al、C、N、Sの含有量がそれぞれ0.005%以下で、残部がFeおよび的不純物であった。
仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、磁気測定用の単板サイズに剪断し、リン酸アルミニウムとコロイダルシリカを主成分とする被膜液を塗布して焼き付け、絶縁被膜付き方向性電磁鋼板を作製した。これにより得られる方向性電磁鋼板は一般的な方向性電磁鋼板であり、特別なものではない。
このように製造された溝のない方向性電磁鋼板が試料No.B01である。表面は、一次被膜やグラス被膜と呼ばれるフォルステライトを主体とする酸化物の被膜が形成され、さらにその上に、二次被膜や絶縁被膜と呼ばれるシリカを含有する酸化物被膜が形成されている。
さらに、試料No.B01の鋼板に対して前述の方法によって被膜を剥離した鋼板が試料No.B02である。
試料No.B02の鋼板の片面に公知の条件でレーザ照射し溝を形成した鋼板が試料No.B03~06である。溝の延伸方向は圧延直角方向から10°、溝の間隔は7mm、溝幅は50μm、溝の深さdgは10~40μmとした。当然ではあるが、試料No.B03~06の表面には全面において絶縁被膜およびグラス被膜は存在していない。
本実施例においては、本発明効果が有効となる溝の深さdg(μm)について検討する。
試料No.B(03~06)-(a~c)は、試料No.B(03~06)の溝部のみにインクジェット印刷技術を用いてレジスト被膜を形成し、溝形成面のみを20質量%塩酸の80℃の処理液に5~36分浸漬しエッチング量を変化させたものである。
また、B07、B08では、それぞれ溝の深さdgを65μm、75μmとし、浸漬時間を36分、40分としたことを除いて、上述の試料と同様のエッチングを行なった。
これら鋼板について実施例1と同様に磁束密度B8を測定した。
処理条件および溝を有する面の溝以外の部分のエッチング深さdr(μm)、元の板厚t(μm)、板厚の変動△t(μm)およびB8は表2に示す。
溝を消去する処理を行った鋼板のB8と、溝がない鋼板の真の値と考えるべき試料No.B02のB8との差をB8devとして表2に示す。B8devが小さいほど、溝を消去する処理が適切であったと判断できる。
試料No.B(03~06)-(a~c)の結果から、式(1)を満足する範囲で溝を消去することで、発明効果により溝を有する鋼板から溝がない鋼板のB8の妥当な予測が可能と判断できる溝の深さの範囲を判断できる。
試料No.B03-(a~c)は式(1)によらずB8devは小さい。B8devの大小はその絶対値で評価し、この値が0.03以下であれば十分小さいと判断した。これはベースとなる試料No.B03の溝深さが非常に小さいため、エッチングの有無によらずB8は溝がない鋼板である試料No.B02の値と大きな差を生じることはなく、本発明技術の必要性が小さくなることを示している。
一方、試料No.B06-(a~c)およびB07は式(1)によらずB8devはあまり小さくならない。この状況はベースとなる試料No.B06の溝深さが非常に大きいため、溝が消失する程度までエッチングが進行すると、鋼板自体の大きな部分が消失してしまった状態である。またエッチング後の板厚が薄くならざるを得ず、測定精度に影響を及ぼすこともあるので、エッチングによる減厚が大きい場合は、溝消去後の鋼板から得られる磁気特性値の妥当性には配慮すべきであることを示している。ただし、一般的には試料No.B08のような深い溝を形成するメリットはなく、このような深い溝が形成された方向性電磁鋼板自体が実用的ではない。
これらのことから、本発明技術が有効に作用する溝の深さは、板厚の30%以下と判断できる。
Figure 0007348524000002
(実施例3)
真空溶解炉にて、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Al:0.03%、N:0.01%、S:0.01%、Mn:0.1%を含有するスラブを作製した。このスラブに、加熱条件を1150℃、1時間とした熱間圧延を施し、板厚2.0mmの熱延板に仕上げた。
上記熱延板に、1050℃、120秒の焼鈍を施し、次いで、酸洗の後、冷間圧延で板厚230μmの冷延板に仕上げた。この冷延板の片面に公知の条件でレーザ照射し溝を形成した。溝の延伸方向は圧延直角方向から20°、溝の間隔は5mm、溝幅は40μm、溝の深さdgは20μmとした。その後、水素を含む湿潤雰囲気中にて、昇温速度100℃/sで850℃、120秒の脱炭焼鈍を施し、その後、アンモニアを含有する雰囲気にて、750℃、60秒の焼鈍を施し、鋼中の窒素量を増加させた。その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を水スラリーにて塗布し、次いで、1200℃、20時間の仕上焼鈍を施した。仕上げ焼鈍後の鋼板の組成は、グラス被膜を除去した鋼板のみについて、質量%で、Siは3.2%、Mnは0.09%、Al、C、N、Sの含有量がそれぞれ0.005%以下で、残部がFeおよび的不純物であった。
仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、磁気測定用の単板サイズに剪断し、リン酸アルミニウムとコロイダルシリカを主成分とする被膜液を塗布して焼き付け、絶縁被膜付き方向性電磁鋼板を作製した。これにより得られる方向性電磁鋼板は一般的な方向性電磁鋼板であり、特別なものではない。
このように製造された溝を有する方向性電磁鋼板の表面は、溝部も含めて一次被膜やグラス被膜と呼ばれるフォルステライトを主体とする酸化物の被膜が形成され、さらにその上に、二次被膜や絶縁被膜と呼ばれるシリカを含有する酸化物被膜が形成されている。
さらに、この鋼板に対して前述の方法によって被膜を剥離した鋼板が試料No.C01である。
本実施例においては、溝を有する方向性電磁鋼板(試料No.C01)に対して、純粋に溝の存在による効果を除外した鋼板を製造することはできない。これは、前述のように、例えば上記の試料No.C01の製造工程において仕上焼鈍前に実施されている溝形成工程を省略した場合、溝の存在による効果は除外できるが、同時に溝が存在しないことによる二次再結晶挙動の変化による効果が重畳してしまうためである。
本実施例においては、試料No.C01を素材として様々な方法で溝を消失させた鋼板の特性を比較することにより、本発明による溝の消失手法の妥当性と優位性を説明する。
試料No.C01を素材として、溝形成面のみについて表面研削処理を行い、以下の試料No.C01-(a~j)を得た。
試料No.C01-aは、dr=20μmとなる表面研削を一度で実施した鋼板である。
試料No.C01-bは、dr=20μmとなる表面研削を一度に4μmずつ5回に分けて実施し、1回の研削毎に歪を除去するため1100℃で120分の熱処理を実施した鋼板である。
試料No.C01-(c、d)は、10%硫酸の80℃の処理液にそれぞれ120、160秒浸漬し、dr=20、26μmとなる表面エッチングを実施した鋼板である。
試料No.C01-(e~h)は、溝部のみにフォトレジスト処理によりレジスト被膜を形成した上で50質量%フッ化アンモニウム液と150gの95重量%硫酸混合液からなる処理液に50~100秒浸漬し、dr=15~32μmとなる表面エッチングを実施した鋼板である。
試料No.C01-(i、j)は、溝部のみにフォトレジスト処理によりレジスト被膜を形成した上で5%硫酸の80℃の処理液にそれぞれ180、240秒浸漬し、dr=20、26μmとなる表面エッチングを実施した鋼板である。
これら鋼板について実施例1と同様に磁束密度B8を測定した。
処理条件および溝を有する面の溝以外の部分のエッチング深さdr(μm)、元の板厚t(μm)、板厚の変動△t(μm)およびB8は表3に示す。
本実施例においては、溝がない鋼板の真の値と考えるべき試料が存在しないため、実施例1,2のようなB8devによる評価はできないが、以下のように考察することで溝を消去する処理として適切であるかを判断した。
まず、これまでの知見(例えば図1)や実施例1の結果から、B8が1.95T程度の方向性電磁鋼板における一般的な形態を有する20μm程度の深さの溝を形成することによるB8の低下(△B8)は0.014T程度と考えられる。
表3には、溝を消失させた鋼板のB8と、溝を形成した鋼板である試料No.C01のB8との差を△B8として示している。
試料No.C01-aは、△B8が負の値となっている。つまり、B8が試料No.C01よりも低い値となっており、溝がない鋼板の特性としては明らかに不適切である。鋼板形状も明らかに反って変形しており、通常の機械的な研削での溝消去という手法は妥当でないことを示している。
試料No.C01-bは、△B8は妥当と判断できる。また鋼板形状も十分に平坦で表面の凹凸も小さく、この鋼板のB8を溝がない鋼板の特性と考えることに問題はないと考えられる。ただし、溝消去の処理に時間と手間がかかるという問題がある。
試料No.C01-(c、d)は、△B8が負の値を含めて非常に小さく、溝がない鋼板の特性としては明らかに不適切である。鋼板表面は、溝の形態はくずれて不明確にはなっているが、目視でも凹凸が激しく、溝消去の手法としては妥当でないと判断できる。
試料No.C01-eは溝消去が十分ではなく不適当な条件である。
試料No.C01-(f~g)は、エッチングの進行によるdr(μm)の増大に伴って△B8が適正範囲に漸近する。また鋼板形状も十分に平坦で表面の凹凸も小さく、この鋼板のB8を溝がない鋼板の特性と考えることに問題はないと考えられる。また溝消去の処理も短時間かつ簡易な実施が可能である。
試料No.C01-hはdr/dgが大きすぎ、不適当な条件である。
試料No.C01-(i、j)は、△B8が試料No.C01-(f、g)と同程度の適正範囲にある。また鋼板表面の凹凸は試料No.C01-(f、g)よりも小さい。試料No.C01-(i、j)は、エッチングが比較的緩やかに進行する条件となっており、処理時間の点では試料No.C01-(f、g)に多少劣るが、△t/tに関する実施例1の結果も考慮すると、この鋼板のB8が溝がない鋼板の特性に非常に近いと考えることは妥当と考えられ、高精度な特性評価には有用な手法と考えられる。
Figure 0007348524000003
本発明によれば、磁区制御のために鋼板表面に溝が形成された方向性電磁鋼板を素材として、溝の影響だけを除外したことに相当する表面の溝を消去した鋼板を得ることができる。この鋼板の磁気特性は、磁区制御に必要な溝形態の最適制御に有用であり、したがって、本発明は、電磁鋼板製造産業において利用可能性が大きいものである。

Claims (6)

  1. 圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝が形成された方向性電磁鋼板の溝のある面において溝を消失させる方法であり、溝の部分にのみエッチングに対して鋼板の保護効果がある被膜が存在する状態とした後、エッチングにより、溝を有する面の溝以外の部分について以下の式(1)の範囲の深さdr(μm)まで表層を除去する鋼板の処理方法。
    dg≦dr≦dg×1.50 … (1)
    ここで、dg(μm)が溝深さで、dr(μm)がエッチングの深さである。
  2. 溝を消失させた後の圧延方向に100mmに亘る板厚の変動△t(μm)が、元の板厚t(μm)に対して、以下の式(2)を満足する請求項1に記載の鋼板の処理方法。
    △t/t≦0.10 ・・・・ (2)
  3. 溝のある面の全面について、エッチングに対して鋼板の保護機能がある被膜を形成した後、溝以外の部分の被膜を機械的に除去して、溝の部分にのみエッチングに対して鋼板の保護効果がある被膜が存在する状態とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼板の処理方法。
  4. 溝のある面の全面について形成されるエッチングに対して鋼板の保護機能がある被膜が、方向性電磁鋼板の製造過程で形成される絶縁被膜またはグラス被膜であることを特徴とする、請求項3に記載の鋼板の処理方法。
  5. 溝以外の部分の被膜を機械的研削により除去した後、熱処理にて前記機械的研削の歪を除去することを特徴とする、請求項4に記載の鋼板の処理方法。
  6. エッチング処理が硫酸を含む酸性処理液を用いて行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼板の処理方法。
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