《実施形態1》
図1に示すように、EFP弾頭(10)は、弾殻(20)と、弾殻(20)の開口部(23)に設けられた複層ライナ(30)と、弾殻(20)の内部空間(S)に充填された炸薬(40)と、炸薬(40)を起爆する起爆機構(50)とを備えている。
弾殻(20)は、円筒状の側壁部(21)と円板状の底部(22)とを有している。側壁部(21)の底部(22)と反対側の端部には、開口部(23)が形成されている。弾殻(20)は、有底円筒状に形成されている。本実施形態1では、開口部(23)は、断面円形状の筒状に形成されている。ここで、円形には、真円形状と楕円を含む長円形状の両方が含まれる。つまり、開口部(23)は、断面が真円形状であってもよく、長円形状であってもよい。
なお、以下では、説明の便宜上、筒状の開口部(23)の軸方向の弾殻(20)の外側を前側、弾殻(20)の内側を後側と言う。また、図1において、上側を上側、下側を下側、紙面に直交する方向の手前側を左側、奥側を右側と言う。
複層ライナ(30)は、弾殻(20)の開口部(23)を閉塞する複数のライナ(31)が積層された積層体である。本実施形態1では、複層ライナ(30)は、2つのライナ(31,31)と、2つのライナ(31,31)の間に設けられたスペーサ(32)とを備えている。なお、複層ライナ(30)の具体的な構成については後述する。
炸薬(40)は、弾殻(20)の内部空間(S)に充填されている。炸薬(40)は、爆轟することにより、複層ライナ(30)の各ライナ(31)のユゴニオ弾性限界を超える圧力を各ライナ(31)に作用させることができるものであればいかなるものであってもよい。炸薬(40)としては、例えば、HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)を用いることができる。
起爆機構(50)は、ケーシング(51)と、安全起爆装置(safety and arming device)(52)と、雷管(53)と、伝爆薬(54)とを備えている。
ケーシング(51)は、前端部が、炸薬(40)が充填された弾殻(20)の内部空間(S)に面するように、弾殻(20)の底部(22)を貫通するように設けられている。
安全起爆装置(52)と雷管(53)と伝爆薬(54)とは、ケーシング(51)の内部に収容されている。図1では内部の図示を省略しているが、安全起爆装置(52)は、起爆機構(50)を所望のタイミングで起爆させるための装置であり、起爆タイミングを計測するタイマー、起爆タイミングになるまで起爆機構(50)を起爆させない安全装置、安全装置の解除機構等を備えている。また、図1では内部の図示を省略しているが、雷管(53)には、爆発を誘起する起爆薬等が充填されている。雷管(53)としては、例えば、電気雷管、EFI(Exploding Foil Initiator, or Exploded Foil Initiator)、SCB(Semi-Conductor Bridge)を用いることができる。伝爆薬(54)は、雷管(53)よりも低感度で且つ炸薬(40)よりも高感度な爆薬によって構成されている。
-複層ライナの詳細構成-
複層ライナ(30)は、上述のように、2つのライナ(31,31)と、2つのライナ(31,31)の間に設けられたスペーサ(32)とを備え、これらが積層されたものである。
2つのライナ(31,31)は、いずれも開口部(23)において中央部分が外縁部に対して後方に凹む金属板によって構成されている。2つのライナ(31,31)は、弾殻(20)の開口部(23)を閉塞する円形(真円形状と楕円を含む長円形状の両方を含む)に形成され、弾殻(20)の側壁部(21)の内周面に固定されている。ライナ(31)の材料としては、銅、ニッケル、タンタル等の金属材料を用いることができる。ライナ(31)は、炸薬(40)の爆轟圧力によって弾殻(20)から射出されると共に変形して飛翔体(35)となる。
2つのライナ(31,31)は、それぞれ中央部分が外縁部に対して後方に凹んだ前面(31a)及び後面(31b)を有している。本実施形態1では、2つのライナ(31,31)の前面(31a)及び後面(31b)は、それぞれ球面の一部分で構成され、各面の中心(最も窪んだ部分)と各面の曲率中心とが同一線上に配置されるように構成されている。このような構成により、本実施形態1では、2つのライナ(31,31)は、前面(31a)及び後面(31b)の中心を通る互いに直交する2面に対して面対称(左右対称且つ上下対称)な形状に形成されている。
なお、以下では、スペーサ(32)の前側のライナ(31)を第1ライナ(31-1)、スペーサ(32)の後側のライナ(31)を第2ライナ(31-2)と言い、第1ライナ(31-1)からなる飛翔体(35)を第1飛翔体(35-1)、第2ライナ(31-2)からなる飛翔体(35)を第2飛翔体(35-2)と言う。
第1ライナ(31-1)は、変形過程において外縁部が中央部分に対して後方に変位する後方変位型ライナに構成されている。一方、第2ライナ(31-2)は、変形過程において外縁部が中央部分に対して前方に変位する前方変位型ライナに構成されている。つまり、複層ライナ(30)は、後方変位型ライナと前方変位型ライナとをそれぞれ含むように構成されている。
本実施形態1では、各ライナ(31)の前面(31a)と後面(31b)の曲率を変更することにより、後方変位型ライナと前方変位型ライナとが生成されている。
具体的には、第1ライナ(31-1)は、前面(31a)の曲率が後面(31b)の曲率よりも大きくなるように構成されている。このような前面(31a)及び後面(31b)により、第1ライナ(31-1)は、中央部分が外縁部よりも薄く形成され、外縁部の重量が中央部分の重量よりも大きくなる。各ライナ(31)において、炸薬(40)の爆轟圧力によって射出される(加速される)際に、厚く形成された重量の大きい部分は、薄く形成された重量の小さい部分よりも速度が遅くなる。そのため、第1ライナ(31-1)は、変形過程において、速度の遅い外縁部が速度の速い中央部分に対して後方に変位する後方変位型ライナとなる。
一方、前方変位型ライナに構成された第2ライナ(31-2)は、後面(31b)の曲率が前面(31a)の曲率よりも大きくなるように構成されている。このような前面(31a)及び後面(31b)により、第2ライナ(31-2)は、中央部分が外縁部よりも厚く形成され、外縁部の重量が中央部分の重量よりも小さくなる。各ライナ(31)において、炸薬(40)の爆轟圧力によって射出される(加速される)際に、薄く形成された重量の小さい部分は、厚く形成された重量の大きい部分に比べて速度が速くなる。そのため、第2ライナ(31-2)は、変形過程において、速度の速い外縁部が速度の遅い中央部分に対して前方に変位する前方変位型ライナとなる。
スペーサ(32)は、開口部(23)において第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)との間を埋める形状に形成されている。具体的には、スペーサ(32)は、それぞれ中央部分が外縁部に対して後方に凹む前面(32a)及び後面(32b)を有している。前面(32a)は、スペーサ(32)前方の第1ライナ(31-1)の後面(31b)と同一の湾曲面によって形成され、後面(32b)は、スペーサ(32)後方の第2ライナ(31-2)の前面(31a)と同一の湾曲面によって形成されている。スペーサ(32)は、前面(32a)が第1ライナ(31-1)の後面(31b)に隙間無く当接し、後面(32b)が第2ライナ(31-2)の前面(31a)に隙間無く当接する。
スペーサ(32)は、複層ライナ(30)の各ライナ(31)よりも密度が小さくなるように、各ライナ(31)よりも密度の小さい材料で構成されている。スペーサ(32)の材料としては、各ライナ(31)よりも密度の小さい金属、樹脂等を用いることができる。
また、スペーサ(32)は、炸薬(40)の爆轟圧力によって第1ライナ(31-1)及び第2ライナ(31-2)が変形してなる第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)が、互いに異なる方向に飛翔するような形状に形成されている。具体的には、スペーサ(32)は、径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成されている。本実施形態1では、スペーサ(32)は、それぞれ球面の一部分で構成される前面(32a)と後面(32b)の互いの中心線(各面の中心を通る垂線)(X1,X2)が平行でない異なる方向に延びるように形成することにより、偏肉形状に形成されている。なお、前面(32a)及び後面(32b)の中心は、前面(32a)及び後面(32b)と開口部(23)の中心軸との交点であり、前面(32a)及び後面(32b)が真円形状である場合は、真円の中心であり、前面(32a)及び後面(32b)が楕円を含む長円形状の場合、長軸(長径)と短軸(短径)との交点である。
本実施形態1では、スペーサ(32)は、前面(32a)及び後面(32b)の中心線(X1,X2)が、弾殻(20)の筒状の開口部(23)の中心軸に対して互いに逆向きに傾斜するように形成されている。具体的には、スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)は、開口部(23)の前方に向かって開口部(23)の中心軸に対して上向きに傾斜し、スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)は、開口部(23)の前方に向かって開口部(23)の中心軸に対して下向きに傾斜している。これにより、スペーサ(32)の前面(32a)は、開口部(23)内において、上端が下端よりも後方に位置する後傾姿勢(上向き)となり、逆に、スペーサ(32)の後面(32b)は、開口部(23)内において、上端が下端よりも前方に位置する前傾姿勢(下向き)となる。このような後傾姿勢の前面(32a)と前傾姿勢の後面(32b)とを有することにより、スペーサ(32)は、左右対称(前面(32a)及び後面(32b)の中心を通り上下方向に延びる面に対して面対称)な形状である一方、上下方向には対称でない(前面(32a)及び後面(32b)の中心を通り左右方向に延びる面に対して面対称でない)非対称形状に形成されている。
このように構成されたスペーサ(32)を、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)との間に積層することにより、第1ライナ(31-1)は、前面(32a)と同様に、後傾姿勢(上向き)で開口部(23)内に設けられ、第2ライナ(31-2)は、後面(32b)と同様に、前傾姿勢(下向き)で開口部(23)内に設けられる。このように、複層ライナ(30)では、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とが、開口部(23)内において異なる傾斜角度で設置される(異なる設置角度で設けられる)ことにより、炸薬(40)の爆轟圧力によって第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とが、それぞれ異なる方向に射出されて変形し、異なる方向に飛翔する2つの飛翔体(第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2))となる。
-動作-
EFP弾頭(10)は、起爆機構(50)の安全起爆装置(52)が、所定の起爆タイミングで雷管(53)を作動させ、雷管(53)の起爆薬に点火する。起爆薬の発火が伝爆薬(54)に伝達され、炸薬(40)が起爆される。
図2に示すように、炸薬(40)が起爆されると、爆轟し、複層ライナ(30)の各ライナ(31)のユゴニオ弾性限界を超える圧力が複層ライナ(30)に作用し、複層ライナ(30)が弾殻(20)の前方へ射出される。具体的には、第1ライナ(31-1)、スペーサ(32)、第2ライナ(31-2)の順に弾殻(20)から射出される。複層ライナ(30)の2つのライナ(31,31)は、弾殻(20)から射出された後、変形して飛翔する飛翔体(EFP)(35)となる。飛翔体(35)は、飛翔しながら変形し、迎撃対象に衝突し、迎撃する。
なお、上述のように、2つのライナ(31,31)と共にスペーサ(32)も弾殻(20)から射出されるが、図2では、図示を省略している。
ここで、第1ライナ(31-1)は、後方変位型ライナに構成されているため、変形過程において外縁部が中央部分に対して後方に変位する。これにより、第1ライナ(31-1)からなる第1飛翔体(35-1)は、外縁部が後側へ折り畳まれた形状となる。一方、第2ライナ(31-2)は、前方変位型ライナに構成されているため、変形過程において外縁部が中央部分に対して前方に変位する。これにより、第2ライナ(31-2)からなる第2飛翔体(35-2)は、外縁部が前側に折り畳まれた形状となる。
また、上述のように、複層ライナ(30)では、スペーサ(32)により、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とが、開口部(23)内において異なる傾斜角度で設置されている。そのため、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、異なる方向に射出される。本実施形態1では、スペーサ(32)の前面(32a)によって開口部(23)内において後傾姿勢で設けられた第1ライナ(31-1)は、スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)方向、即ち、開口部(23)の中心軸に対し、斜め上向きに射出されて飛翔する。一方、スペーサ(32)の後面(32b)によって開口部(23)内において前傾姿勢で設けられた第2ライナ(31-2)は、スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)方向、即ち、開口部(23)の中心軸に対し、斜め下向きに射出されて飛翔する。
さらに、本実施形態1では、複層ライナ(30)の2つのライナ(31,31)は、左右対称で且つ上下対称な面対称形状に形成されている。そのため、左右対称及び上下対称でないライナを用いた場合に比べて、生成される飛翔体(35)の対称性が増し、各飛翔体(35)の飛翔方向が安定する。よって、2つのライナ(31,31)から生成される2つの飛翔体(35,35)を、狙った分散角度α(2つの飛翔体(35,35)の飛翔方向のなす角)で飛翔させることができる。
また、2つのライナ(31,31)は、後方変位型ライナと前方変位型ライナとで構成されている。そのため、2つのライナ(31,31)が、いずれも後方変位型ライナ又は前方変位型ライナで構成された場合に比べて、各飛翔体(35)生成時の相互作用が小さくなることによって互いの飛翔方向に与える影響を小さくすることができる。
具体的には、図3に示すように、2つのライナ(31,31)が、いずれも後方変位型ライナで構成された場合、炸薬(40)の爆轟圧力により、2つのライナ(31,31)から生成される第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、射出直後の初期には、速度差がなく、当接した状態で外縁部が中央部分に対して後方に変位するように変形する。そのため、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、射出直後の初期には、図3に示すように、第1飛翔体(35-1)が第2飛翔体(35-2)を包み込むような形状になる。
そして、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、互いの当接面(CS)において相互に作用を及ぼし合う。具体的には、第1飛翔体(35-1)は、第2飛翔体(35-2)から受ける力(当接面(CS)に直交する方向の力)の飛翔方向成分によって加速する一方、第2飛翔体(35-2)は、第1飛翔体(35-1)から受ける力(当接面(CS)に直交する方向の力)の飛翔方向成分によって減速する。また、第1飛翔体(35-1)は、第2飛翔体(35-2)から受ける力(当接面(CS)に直交する方向の力)の飛翔方向に直交する方向の成分によって飛翔方向が拘束され、狙った飛翔方向(スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)の方向)に飛翔しなくなる。第2飛翔体(35-2)も同様に、第1飛翔体(35-1)から受ける力(当接面(CS)に直交する方向の力)の飛翔方向に直交する方向の成分によって飛翔方向が拘束され、狙った飛翔方向(スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)の方向)に飛翔しなくなる。
また、2つのライナ(31,31)が、いずれも前方変位型ライナで構成された場合も同様に、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、射出直後の初期には、速度差がなく、第2飛翔体(35-2)が第1飛翔体(35-1)を包み込むような形状になり、互いの当接面(CS)において相互に作用を及ぼし合う。そのため、2つのライナ(31,31)をいずれも前方変位型ライナで構成した場合においても、第1飛翔体(35-1)は加速する一方、第2飛翔体(35-2)は減速し、また、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、当接面(CS)における相互作用により、互いに飛翔方向が拘束され、狙った飛翔方向に飛翔しなくなる。
以上のように、2つのライナ(31,31)がいずれも後方変位型ライナ又は前方型ライナで構成されている場合、複層ライナ(30)を第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)が異なる方向に飛翔するように構成しても、第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)は、当接面(CS)における相互作用により、互いの飛翔方向を拘束し合うため、分散角度αが小さくなる。
そこで、本実施形態1では、2つのライナ(31,31)を後方変位型ライナと前方変位型ライナとで構成している。具体的には、先に射出される第1ライナ(31-1)を後方変位型ライナで構成し、後で射出される第2ライナ(31-2)を前方変位型ライナで構成している。
このような構成により、2つのライナ(31,31)は、射出直後、速度差がなく、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、当接した状態で変形しながら飛翔するが、図2に示すように、当接面(CS)は、図3に示す場合に比べて小さくなる。また、第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)とは、後方の第2飛翔体(35-2)の先端が、前方の第1飛翔体(35-1)の後端部に当接するのみであり、上下左右方向(飛翔方向に直交する方向)には重なり合わない。そのため、第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)との間において相互作用を及ぼすとしても、第1飛翔体(35-1)が加速され、第2飛翔体(35-2)が減速されるだけであり、互いの飛翔方向を拘束し合わない。また、本実施形態1では、第1ライナ(31-1)を後方変位型ライナで構成し、第2ライナ(31-2)を前方変位型ライナで構成しているため、第1飛翔体(35-1)に作用する空気抵抗は、第2飛翔体(35-2)に作用する空気抵抗よりも小さくなる。そのため、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、変形過程において空気抵抗の差によって速度差が大きくなり、すぐに離れて互いに相互作用を及ぼさなくなる。
従って、本実施形態1のように、後方変位型ライナと前方変位型ライナとを交互に積層した複層ライナ(30)を用いると、同種のライナ(31,31)を積層した複層ライナ(30)を用いる場合に比べて、2つの飛翔体(35,35)間における当接面(CS)が小さくなり、また、上下左右方向(飛翔方向に直交する方向)には重なり合わないため、互いの飛翔方向に与える影響が小さくなる。よって、2つの飛翔体(35,35)の分散角度αが大きくなる。また、本実施形態1のように、第1ライナ(31-1)を後方変位型ライナで構成し、第2ライナ(31-2)を前方変位型ライナで構成すると、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)の相互作用時間が短くなるので、2つの飛翔体(35,35)の分散角度αはさらに大きくなる。
-実施形態1の効果-
本実施形態1のEFP弾頭(10)は、少なくとも1つの断面円形の開口部(23)を有する弾殻(20)と、上記開口部(23)に取り付けられ、該開口部(23)を閉塞する複数のライナ(31,31)が積層された複層ライナ(30)と、上記弾殻(20)内に充填された炸薬(40)とを備え、上記炸薬(40)の爆轟圧力によって上記各ライナ(31)を射出すると共に変形させて飛翔体(35)を生成するものである。上記複層ライナ(30)は、変形過程において外縁部が中央部分に対して後方に変位する後方変位型ライナと、変形過程において外縁部が中央部分に対して前方に変位する前方変位型ライナとを上記ライナ(31)としてそれぞれ含み、上記複数の飛翔体(35,35)が互いに異なる方向に飛翔するように構成され、上記複層ライナ(30)では、上記後方変位型ライナと上記前方変位型ライナとが交互に積層されている。
このように構成された本実施形態1のEFP弾頭(10)では、炸薬(40)の爆轟圧力により、複層ライナ(30)の複数のライナ(31,31)が、互いに異なる方向に射出されると共に変形して互いに異なる方向に飛翔する飛翔体(35,35)となる。また、上記複層ライナ(30)では、後方変位型ライナと前方変位型ライナとが交互に積層されているため、同種のライナ(31,31)が積層された複層ライナ(30)に比べて、射出直後、前後の飛翔体(35,35)間で相互に作用を及ぼす当接面(CS)が小さくなる。これにより、同種のライナ(31,31)で複層ライナ(30)を構成した場合に比べて、前後の飛翔体(35,35)間において互いの飛翔方向に与える影響が小さくなる。よって、複数の飛翔体(35,35)の分散角度αを大きくすることができる。従って、上記構成によれば、EFP弾頭(10)において制圧範囲を拡大することができる。
また、本実施形態1のEFP弾頭(10)では、上記後方変位型ライナは、前面(31a)の曲率が後面(31b)の曲率よりも大きいものであり、上記前方変位型ライナは、後面(31b)の曲率が前面(31a)の曲率よりも大きいものである。
前面(31a)の曲率が後面(31b)の曲率よりも大きいライナ(31)は、中央部分が外縁部よりも薄く形成され、外縁部の重量が中央部分の重量よりも大きくなる。一方、後面(31b)の曲率が前面(31a)の曲率よりも大きいライナ(31)は、中央部分が外縁部よりも厚く形成され、外縁部の重量が中央部分の重量よりも小さくなる。各ライナ(31)において、炸薬(40)の爆轟圧力によって射出される(加速される)際に、厚く形成された重量の大きい部分は、薄く形成された重量の小さい部分よりも速度が遅くなる。そのため、前面(31a)の曲率が後面(31b)の曲率よりも大きいライナ(31)は、変形過程において、速度の遅い外縁部が速度の速い中央部分に対して後方に変位する後方変位型ライナとなり、後面(31b)の曲率が前面(31a)の曲率よりも大きいライナ(31)は、変形過程において、速度の速い外縁部が速度の遅い中央部分に対して前方に変位する前方変位型ライナとなる。このようにして、本実施形態1のEFP弾頭(10)では、ライナ(31)の前面(31a)と後面(31b)の曲率の大小関係を変更することにより、容易に後方変位型ライナと前方変位型ライナとを構成することができる。
また、本実施形態1のEFP弾頭(10)では、上記複層ライナ(30)の上記複数のライナ(31,31)の各間には、スペーサ(32)が設けられ、上記各スペーサ(32)は、径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成されることにより、上記複数の飛翔体(35,35)が互いに異なる方向に飛翔するように構成されている。
このように本実施形態1のEFP弾頭(10)では、複数のライナ(31,31)の各間に設けるスペーサ(32)の形状を工夫し、径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成することにより、複層ライナ(30)の複数のライナ(31,31)が互いに異なる方向に射出されて互いに異なる方向に飛翔する複数の飛翔体(35,35)が生成されるように構成している。このような構成により、複数のライナ(31,31)の間にスペーサ(32)を挟みこむだけで、複数のライナ(31,31)が互いに異なる方向に射出される複層ライナ(30)を容易に構成することができる。
また、本実施形態1のEFP弾頭(10)では、上記各ライナ(31)は、前面(31a)及び後面(31b)の中心を通る互いに直交する2面に対して対称な形状に形成されている。
このように本実施形態1のEFP弾頭(10)では、各ライナ(31)を、前面(31a)及び後面(31b)の中心を通る互いに直交する2面に対して対称な形状に形成することとしたため、各ライナ(31)から生成される飛翔体(35)の対称性が増し、各飛翔体(35)の飛翔方向が安定する。よって、複数の飛翔体(35,35)を狙った分散角度で飛翔させることができる。
また、本実施形態1のEFP弾頭(10)では、上記スペーサ(32)は、上記ライナ(31)よりも密度が小さい。
このように本実施形態1のEFP弾頭(10)では、ライナ(31)よりも密度が小さいスペーサ(32)を用いることとしたため、ライナ(31)の密度以上の密度を有するスペーサ(32)を用いた場合に比べて、飛翔体(35)の運動エネルギ損失を低減することができる。
本実施形態1のEFP弾頭(10)では、上記複層ライナ(30)は、上記複数のライナ(31,31)として第1及び第2ライナ(31-1,31-2)を有するものであり、上記弾殻(20)から先に射出される上記第1ライナ(31-1)は、上記後方変位型ライナで構成され、上記第1ライナ(31-1)の射出後に射出される上記第2ライナ(31-2)は、上記前方変位型ライナで構成されている。
このように本実施形態1のEFP弾頭(10)では、後方変位型ライナが、前方変位型ライナの前方に配置されている。後方変位型ライナから生成される飛翔体(35)と前方変位型ライナから生成される飛翔体(35)とでは、後方変位型ライナから生成される飛翔体(35)の方が、空気抵抗が小さくなる。そのため、後方変位型ライナを前方変位型ライナの前方に配置することにより、2つの飛翔体(35,35)の飛翔時の相互干渉を抑制することができる。
-実施形態1の変形例1-
実施形態1の変形例1は、実施形態1のEFP弾頭(10)において、複層ライナ(30)の構成を変更したものである。具体的には、図4に示すように、変形例1では、第1ライナ(31-1)が前方変位型ライナに構成され、第2ライナ(31-2)が後方変位型ライナに構成されている。また、この変更に伴い、スペーサ(32)の前面(32a)と後面(32b)の形状が、実施形態1と異なる。その他の構成は、実施形態1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
図4に示すように、変形例1では、第1ライナ(31-1)は、前方変位型ライナに構成されているため、変形過程において外縁部が中央部分に対して前方に変位する。これにより、第1ライナ(31-1)からなる第1飛翔体(35-1)は、外縁部が前側へ折り畳まれた形状となる。一方、第2ライナ(31-2)は、後方変位型ライナに構成されているため、変形過程において外縁部が中央部分に対して後方に変位する。これにより、第2ライナ(31-2)からなる第2飛翔体(35-2)は、外縁部が後側に折り畳まれた形状となる。
第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)の形状が異なる以外、変形例1においても実施形態1と同様の動作が行われる。即ち、変形例1においても、スペーサ(32)により、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とが、開口部(23)内において異なる傾斜角度で設置されているため、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、異なる方向に射出される。変形例1では、後傾姿勢で設けられた第1ライナ(31-1)は、スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)方向に射出されて飛翔し、前傾姿勢で設けられた第2ライナ(31-2)は、スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)方向に射出されて飛翔する。
また、変形例1においても、2つのライナ(31,31)が、前方変位型ライナと後方変位型ライナとで構成されているため、2つのライナ(31,31)が、いずれも後方変位型ライナ又は前方変位型ライナで構成された場合に比べて、前後のライナ(31,31)の相互作用によって互いの飛翔方向に与える影響を小さくすることができる。
具体的には、変形例1では、先に射出される第1ライナ(31-1)を前方変位型ライナで構成し、後で射出される第2ライナ(31-2)を後方変位型ライナで構成している。このような構成により、2つのライナ(31,31)は、射出直後、速度差がなく、第1飛翔体(35-1)及び第2飛翔体(35-2)は、当接した状態で変形しながら飛翔するが、図4に示すように、当接面(CS)は、図3に示す同種のライナ(31,31)を積層した複層ライナ(30)を用いる場合に比べて小さくなる。また、第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)とは、後方の第2飛翔体(35-2)の先端が、前方の第1飛翔体(35-1)の後端部に当接するのみであり、上下左右方向(飛翔方向に直交する方向)には重なり合わない。そのため、第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)との間において相互作用を及ぼすとしても、第1飛翔体(35-1)が加速され、第2飛翔体(35-2)が減速されるだけであり、互いの飛翔方向を拘束し合わない。
従って、変形例1においても、前方変位型ライナと後方変位型ライナとを交互に積層した複層ライナ(30)を用いることにより、同種のライナ(31,31)を積層した複層ライナ(30)を用いる場合に比べて、2つの飛翔体(35,35)間における当接面(CS)が小さくなり、また、上下左右方向(飛翔方向に直交する方向)には重なり合わないため、互いの飛翔方向に与える影響が小さくなる。よって、2つの飛翔体(35,35)の分散角度αが大きくなる。
以上のようにEFP弾頭(10)を構成することとしても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
-実施形態1の変形例2-
実施形態1の変形例2は、実施形態1のEFP弾頭(10)において、複層ライナ(30)の構成を変更したものである。
変形例2では、図5に示すように、2つのライナ(31,31)は、それぞれ径方向の一端側が他端側よりも分厚くなる偏肉形状に形成されると共に、各ライナ(31)の厚肉部分が開口部(23)の周方向のそれぞれ異なる位置(変形例2では、180°異なる位置)に配置されるように形成されている。変形例2では、2つのライナ(31,31)は、それぞれ球面の一部分で構成される前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線(各面の中心を通る垂線)が平行でない異なる方向に延びるように形成することにより、偏肉形状に形成されている。なお、前面(31a)及び後面(31b)の中心は、前面(31a)及び後面(31b)と開口部(23)の中心軸との交点であり、前面(31a)及び後面(31b)が真円形状である場合は、真円の中心であり、前面(31a)及び後面(31b)が楕円を含む長円形状の場合、長軸(長径)と短軸(短径)との交点である。変形例2では、このように2つのライナ(31,31)を形成することにより、2つの飛翔体(35,35)が、実施形態1の分散角度αよりも大きな分散角度βで飛翔するように複層ライナ(30)が構成されている。
具体的には、変形例2では、後傾姿勢で設けられる第1ライナ(31-1)は、スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)方向よりも上向きに射出されるように、前面(31a)及び後面(31b)の中心線が、開口部(23)の前方に向かって開口部(23)の中心軸に対して上向きに傾斜すると共に、前面(31a)の中心線が後面(31b)の中心線よりも開口部(23)の中心軸に対する傾斜角度が大きくなるように形成されている。このように、第1ライナ(31-1)は、前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線が平行でない異なる方向に延びるように形成されることにより、下部が上部よりも分厚くなる上下非対称形状に形成されている。逆に、前傾姿勢で設けられる第2ライナ(31-2)は、スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)方向よりも下向きに射出されるように、前面(31a)及び後面(31b)の中心線が、開口部(23)の前方に向かって開口部(23)の中心軸に対して下向きに傾斜すると共に、前面(31a)の中心線が後面(31b)の中心線よりも開口部(23)の中心軸に対する傾斜角度が大きくなるように形成されている。このように、第2ライナ(31-2)は、前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線が平行でない異なる方向に延びるように形成されることにより、上部が下部よりも分厚くなる上下非対称形状に形成されている。
また、このような2つのライナ(31,31)の形状の変更に伴い、スペーサ(32)の前面(32a)と後面(32b)の形状が、実施形態1と異なる。その他の構成は、実施形態1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)の形状が異なる以外、変形例2においても実施形態1と同様の動作が行われる。即ち、変形例2においても、スペーサ(32)により、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とが、開口部(23)内において異なる傾斜角度で設置されているため、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、異なる方向に射出される。
変形例2では、図5に示すように、スペーサ(32)の前面(32a)によって開口部(23)内において後傾姿勢で設けられた第1ライナ(31-1)は、開口部(23)の中心軸に対して斜め上向きに射出される際に、上部に比べて下部が分厚く、重心が上下方向の中央よりも低い位置にあるため、スペーサ(32)の前面(32a)の中心線(X1)方向よりもさらに上向きの第1方向(X3)に射出される。一方、スペーサ(32)の後面(32b)によって開口部(23)内において前傾姿勢で設けられた第2ライナ(31-2)は、開口部(23)の中心軸に対して斜め下向きに射出される際に、下部に比べて上部が分厚く、重心が上下方向の中央よりも高い位置にあるため、スペーサ(32)の後面(32b)の中心線(X2)方向よりもさらに下向きの第2方向(X4)に射出される。
以上により、変形例2では、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、実施形態1よりも大きな分散角度βで射出される。これにより、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)によって生成される第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)との分散角度βは、実施形態1の分散角度αよりも大きくなる。
以上のようにEFP弾頭(10)を構成することとしても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。また、実施形態1よりも第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)との分散角度βを大きくすることができるため、EFP弾頭(10)の制圧範囲を拡大することができる。
-実施形態1の変形例3-
実施形態1の変形例3では、実施形態1のEFP弾頭(10)において、複層ライナ(30)の構成を変更したものである。
変形例3では、図6に示すように、複層ライナ(30)が、スペーサ(32)を有さず、2つのライナ(31,31)のみによって構成されている。つまり、2つのライナ(31,31)は当接している。また、変形例3では、2つのライナ(31,31)は、それぞれ径方向の一端側が他端側よりも分厚くなる偏肉形状に形成されると共に、各ライナ(31)の厚肉部分が開口部(23)の周方向のそれぞれ異なる位置(変形例3では、180°異なる位置)に配置されるように形成されている。変形例3では、2つのライナ(31,31)は、それぞれ球面の一部分によって構成される前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線(各面の中心を通る垂線)が平行でない異なる方向に延びるように形成することにより、偏肉形状に形成されている。なお、前面(31a)及び後面(31b)の中心は、前面(31a)及び後面(31b)と開口部(23)の中心軸との交点であり、前面(31a)及び後面(31b)が真円形状である場合は、真円の中心であり、前面(31a)及び後面(31b)が楕円を含む長円形状の場合、長軸(長径)と短軸(短径)との交点である。変形例3では、このように2つのライナ(31,31)を形成することにより、2つの飛翔体(35,35)が、異なる方向に飛翔するように複層ライナ(30)が構成されている。
具体的には、変形例3では、第1ライナ(31-1)は、前面(31a)の中心線が開口部(23)の中心軸に一致する一方、後面(31b)の中心線が開口部(23)の中心軸に対して開口部(23)の前方に向かって下向きに傾斜するように形成されることにより、前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線が平行でない異なる方向に延びるように形成されている。これにより、第1ライナ(31-1)は、下部が上部よりも分厚くなる上下非対称形状に形成される。逆に、第2ライナ(31-2)は、第1ライナ(31-1)の後面(31b)と当接する前面(31a)の中心線が、開口部(23)の中心軸に対して開口部(23)の前方に向かって下向きに傾斜する一方、後面(31b)の中心線が開口部(23)の中心軸に一致するように形成されることにより、前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線が平行でない異なる方向に延びるように形成されている。これにより、第2ライナ(31-2)は、上部が下部よりも分厚くなる上下非対称形状に形成される。その他の構成は、実施形態1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
変形例3では、複層ライナ(30)がスペーサ(32)を有しないが、第1ライナ(31-1)及び第2ライナ(31-2)が、異なる偏肉形状に形成されることにより、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、異なる方向に射出される。
変形例3では、図6に示すように、第1ライナ(31-1)は、開口部(23)から射出される際に、上部に比べて下部が分厚く、重心が上下方向の中央よりも低い位置にあるため、開口部(23)の中心軸に対して斜め上向きの第3方向(X5)に射出される。一方、第2ライナ(31-2)は、開口部(23)から射出される際に、下部に比べて上部が分厚く、重心が上下方向の中央よりも高い位置にあるため、開口部(23)の中心軸に対して斜め下向きの第4方向(X6)に射出される。
以上により、変形例3では、炸薬(40)の爆轟時に、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)とは、開口部(23)の中心軸に対して斜め上向きの第3方向(X5)と、斜め下向きの第4方向(X6)に射出される。これにより、第1ライナ(31-1)と第2ライナ(31-2)によって生成される第1飛翔体(35-1)と第2飛翔体(35-2)とは、異なる飛翔方向に(分散角度γで)飛翔する。
以上のようにEFP弾頭(10)を構成することとしても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
また、変形例3のEFP弾頭(10)では、上記複層ライナ(30)は、前後に隣り合う上記ライナ(31)どうしが当接するように構成され、上記複層ライナ(30)は、上記複数のライナ(31,31)が、それぞれ径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成されると共に、上記各ライナ(31)の厚肉部分が上記開口部(23)の周方向のそれぞれ異なる位置に配置されるように形成されることにより、上記複数の飛翔体(35,35)が互いに異なる方向に飛翔するように構成されている。
このように変形例3のEFP弾頭(10)では、厚肉部分が開口部(23)の周方向のそれぞれ異なる位置に配置される異なる偏肉形状の複数のライナ(31,31)を積層するだけで、複数の飛翔体(35,35)が互いに異なる方向に飛翔する複層ライナ(30)を、容易に構成することができる。
また、変形例3のEFP弾頭(10)では、複層ライナ(30)の複数のライナ(31,31)の各間にスペーサ(32)を設けることなく、複数のライナ(31,31)の形状を工夫することにより、複層ライナ(30)の複数の飛翔体(35,35)が互いに異なる方向に飛翔するように構成している。このような構成により、スペーサ(32)を用いる場合に比べて、複層ライナ(30)をコンパクトに形成することができ、また、スペーサ(32)を用いる場合に比べて、飛翔体(35)の運動エネルギ損失を低減することができる。
《実施形態2》
実施形態2では、EFP弾頭(10)を備えたEFP弾薬(1)について説明する。
図7に示すように、EFP弾薬(1)は、EFP弾頭(10)と、風防(15)とを備えている。EFP弾頭(10)は、本実施形態2では、複層ライナ(30)を複数有し、複数のEFPを生成する所謂マルチEFP弾頭に構成されている。風防(15)は、EFP弾頭(10)の先頭に設けられている。EFP弾薬(1)は、推進装置を有さず、発射装置を用いて発射される発射薬方式の弾薬である。
EFP弾頭(10)は、実施形態1と同様に、弾殻(20)と、弾殻(20)の開口部(23)に設けられた複層ライナ(30)と、弾殻(20)の内部空間(S)に充填された炸薬(40)と、炸薬(40)を起爆する起爆機構(50)とを備えている。
弾殻(20)は、実施形態1と同様に、円筒状の側壁部(21)を有する一方、実施形態1と異なり、側壁部(21)の両端が閉塞されている。また、弾殻(20)は、実施形態1と異なり、円筒状の側壁部(21)全体に、複数の開口部(23,…,23)が形成されている。そして、この複数の開口部(23,…,23)の全てに、複層ライナ(30)が設けられている。なお、個々の複層ライナ(30)の構成は、実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
炸薬(40)は、実施形態1と同様に、弾殻(20)の内部空間(S)に充填されている。また、起爆機構(50)は、実施形態1と同様に、ケーシング(51)と、安全起爆装置(safety and arming device)(52)と、雷管(53)と、伝爆薬(54)とを備えている。起爆機構(50)の構成は、ケーシング(51)が弾殻(20)と一体に構成されている以外は、実施形態1の起爆機構(50)と同様であるため、説明を省略する。
風防(15)は、弾殻(20)の前端部に固定されている。風防(15)は、EFP弾薬(1)の飛翔時に作用する空気抵抗を低減するため、先細り形状(本実施形態2では、円錐台形状)に形成されている。
-動作-
図8に示すように、EFP弾薬(1)は、発射装置から迎撃対象に向かって発射される。そして、起爆機構(50)の安全起爆装置(52)が、所定の起爆タイミングで雷管(53)を作動させ、雷管(53)の起爆薬に点火する。起爆薬の発火が伝爆薬(54)に伝達され、炸薬(40)が起爆される。
炸薬(40)が起爆されると、爆轟し、複層ライナ(30)の各ライナ(31)のユゴニオ弾性限界を超える圧力が各複層ライナ(30)の各ライナ(31)に作用し、各ライナ(31)が弾殻(20)の側壁部(21)の外方へ射出される。具体的には、第1ライナ(31-1)、スペーサ(32)、第2ライナ(31-2)の順に弾殻(20)から射出される。複層ライナ(30)の2つのライナ(31,31)は、弾殻(20)から射出された後、変形して飛翔する飛翔体(EFP)(35)となる。飛翔体(35)は、飛翔しながら変形し、迎撃対象に衝突し、迎撃する。
なお、各複層ライナ(30)の動作は、実施形態1と同様であるため、詳細な説明を省略するが、実施形態2では、複数の開口部(23,…,23)から2つのライナ(31,31)が分散角度αで射出され、2つの飛翔体(35,35)が分散角度αで飛翔することとなる。
本実施形態2のEFP弾薬(1)によれば、EFP弾頭(10)について、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
また、本実施形態2のEFP弾薬(1)は、マルチタイプのEFP弾頭(10)の各開口部(23,…,23)に複層ライナ(30)を設けることとしたため、生成される飛翔体(35,…,35)の個数を倍増させることによって飛翔体(35,…,35)の飛翔密度を増大させることができ、さらに、各開口部(23,…,23)から2つのライナ(31,31)を異なる方向に射出して、2つの飛翔体(35,35)を異なる方向に飛翔させることにより、制圧可能な範囲を拡大することができる。
-実施形態2の変形例-
実施形態2のEFP弾薬(1)のEFP弾頭(10)に対しても、実施形態1の変形例1~3の変形を適用することにより、実施形態2と同様の効果を奏することができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態1,2及び各変形例では、複層ライナ(30)が、ライナ(31)を2つ備える例について説明したが、複層ライナ(30)は、後方変位型ライナと前方変位型ライナとを交互に積層したものであればよく、備えるライナ(31)の数は2つに限られず、3つ以上のライナ(31)を備えるものであってもよい。
また、上記実施形態1,2及び各変形例では、弾殻(20)の開口部(23)は、断面が真円形状に形成されていた。しかしながら、開口部(23)の断面形状は、真円形状に限られない。開口部(23)の断面形状は、楕円を含む長円形状であってもよい。このように、「断面円形の開口部」には、断面が真円形状の開口部だけでなく、断面が楕円を含む長円形状の開口部も含まれる。
また、上記実施形態1,2及び各変形例において、複層ライナ(30)の複数のライナ(31,…,31)を、異種金属で形成してもよい。
さらに、ライナ(31)及びスペーサ(32)の形状は、ライナ(31)及びスペーサ(32)の少なくとも一方が、複数の飛翔体(35,…,35)が互いに異なる方向に飛翔するような形状に形成されていればよく、上記実施形態1,2及び各変形例に示した形状に限られない。また、ライナ(31)及びスペーサ(32)の前面(31a,32a)及び後面(31b,32b)の形状も、上記実施形態1,2及び各変形例において説明した形状(球面の一部分)に限られない。
また、実施形態1,実施形態1の変形例1,2及び実施形態2では、スペーサ(32)は、それぞれ球面の一部分で構成される前面(32a)と後面(32b)の互いの中心線(各面の中心を通る垂線)(X1,X2)が平行でない異なる方向に延びるように形成することにより、径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成されていた。しかしながら、スペーサ(32)を上記偏肉形状に形成する手法は、上述の手法に限られず、いかなる手法で上記偏肉形状に形成してもよい。いかなる手法によっても、スペーサ(32)を上記偏肉形状に形成することにより、前後のライナ(31,31)が異なる方向に射出されることとなり、前後の飛翔体(35,35)は、異なる方向に飛翔することとなる。
さらに、実施形態1の変形例2,3では、2つのライナ(31,31)は、それぞれ球面の一部分で構成される前面(31a)及び後面(31b)の互いの中心線(各面の中心を通る垂線)が平行でない異なる方向に延びるように形成することにより、径方向の一端側が他端側よりも分厚い偏肉形状に形成されていた。しかしながら、各ライナ(31)を上記偏肉形状に形成する手法は、上述の手法に限られず、いかなる手法で上記偏肉形状に形成してもよい。いかなる手法によっても、2つのライナ(31,31)を上記偏肉形状に形成し、さらに、各ライナ(31)の厚肉部分が開口部(23)の周方向のそれぞれ異なる位置に配置されるように各ライナ(31)を形成することにより、2つのライナ(31,31)が異なる方向に射出されることとなり、2つの飛翔体(35,35)は、異なる方向に飛翔することとなる。
また、上記実施形態2では、発射装置を用いて発射される発射薬方式のEFP弾薬(1)について説明したが、実施形態2のEFP弾薬(1)は、ロケットモータを備えるロケットモータ方式に構成されていてもよい。
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。