以下、本発明に係るき裂判定装置、き裂判定方法及びプログラムの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。また、実施の形態では、試験片搬送機から試験機に向けて試験片を水平に押し込む方向をY軸方向、Y軸方向と同一水平面上にあってY軸方向に直交する方向をX軸方向、X軸方向及びY軸方向に対して直交する方向(上下方向)をZ軸方向とする。
図1は、実施の形態に係る穴広げ試験装置1の構成を示す正面図である。穴広げ試験装置1は、試験片搬送機100と、試験機200と、き裂判定装置300と、を備える。各部は、通信回線等を介して互いに通信可能に接続されている。
試験片搬送機100は、試験機200に試験片を供給し、試験機200から試験片を回収する装置である。試験片搬送機100は、試験機200に供給される多数の試験片を格納する供給ストッカ110と、試験機200からの制御信号に基づいて供給ストッカ110からの試験片を試験機200に供給し、試験終了後に試験片を試験機200から回収する搬送ロボット120と、搬送ロボット120により回収された試験片を格納する回収ストッカ130と、を備える。
試験機200は、試験片搬送機100から供給された試験片を受け取り、受け取った試験片に対して穴広げ試験を実行し、穴広げ試験が終了した試験片を試験片搬送機100に返却する装置である。
試験機200は、試験片に形成された打抜き穴にパンチを打ち抜き穴の板厚断面に発生するき裂が少なくとも一箇所で板厚断面における厚さ方向に貫通するまで押し込む。その後、貫通した時点での打ち抜き穴の内径を図示しない計測器により測定し、初期の打ち抜き穴の径に対する貫通した時点での打ち抜き穴の径の比(穴広げ率)を算出する。穴広げ率は、金属材料の加工性を評価する指標である。
図2は、実施の形態に係る試験機200の構成を示す断面図である。試験機200は、試験片に対して垂直な方向に延び、試験片の打ち抜き穴に押し込まれるパンチ210と、パンチ210が押し込まれる試験片を保持するダイス220と、試験片の打ち抜き穴をパンチ210の押し込み方向と反対側から撮影するカメラ230と、を備える。
パンチ210は、円錐状に形成された押し広げ用の工具である。パンチ210は、試験片の打ち抜き穴の板厚断面に板厚断面における厚さ方向のき裂が発生する程度に打ち抜き穴を広げられる大きさを有する。パンチ210は、図示しない押し出し機構、例えば、油圧負荷機構に支持され、押し出し機構によりダイス220に向けて押し出される。
ダイス220は、一対のしわ押さえ221、222を備え、試験片をZ軸方向の両側から挟み込んだ状態で保持する。しわ押さえ221、222は、試験片を挟み込んだ状態でダイス220に向けて押し出されたパンチ210が挿通され、試験片の打ち抜き穴の周囲における変形を許容する程度の大きさを有し、しわ押さえ221、222の中心部に設けられた中心孔である貫通孔221a、222aを備える。
カメラ230は、パンチ210が押し込まれた試験片の打ち抜き穴を撮影する。カメラ230は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等を備えるカメラモジュールを備える。カメラ230は、試験片の打ち抜き穴をパンチ210の押し込み方向に対向する方向に向かって撮影し、パンチ210の中心点が画像中心となるように配置されている。カメラ230は、少なくとも試験機200のパンチ210が上昇している間に所定の周期、例えば、200msec周期で打ち抜き穴を撮影し、得られた画像データをリアルタイムでき裂判定装置300に送信する。
次に、図2及び図3を参照して、実施の形態に係る試験機200が実行する穴広げ試験の流れを説明する。まず、図3(a)に示すように、試験機200は、一対のしわ押さえ221、222が互いに離れており、パンチ210の先端がしわ押さえ222から少しはみ出した状態(初期状態)で試験片搬送機100からY軸方向に搬送された試験片を受け入れる。その後、図3(b)に示すように、カメラ230の撮影画像に基づいてパンチ210の先端を確認し、パンチ210を少しだけ上昇させ、試験片の打ち抜き穴の中心点とパンチ210の先端の中心点との位置合わせ(センタリング)を行う。
次に、図3(c)に示すように、しわ押さえ221を静止させた状態でパンチ210としわ押さえ222とを一緒に上昇させ、一対のしわ押さえ221、222で試験片を挟み込んで保持する。一対のしわ押さえ221、222で試験片を挟み込んだ状態でパンチ210だけを上昇させると、図2に示すように、打ち抜き穴の内周面が徐々にめくれ、打ち抜き穴の板厚断面が横向きから上向きとなるように次第に変形する。打ち抜き穴の板厚断面がめくれ上がったときの内周側の端部(輪郭)が「内周端」であり、打ち抜き穴の板厚断面がめくれ上がったときの外周側の端部(輪郭)が「外周端」である。
き裂判定装置300は、パンチ210の上昇を検知すると、試験片の打ち抜き穴におけるき裂判定処理を開始する。その後、き裂判定装置300により打ち抜き穴の板厚断面において板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が一箇所でも発生したことが検出されると、その情報を受け付けた試験機200は、パンチ210の上昇を停止させる。そして、試験機200は、パンチ210をわずかに降下させて試験片の弾性応力を緩和してから、図示しない計測器で打ち抜き穴の内径を計測し、計測された打ち抜き穴の内径に基づいて穴広げ率を算出する。その後、試験機200は、パンチ210及びしわ押さえ222を降下させ、試験片搬送機100に試験片を回収させる。
以上が、試験機200が実行する穴広げ試験の流れである。
図1に戻り、き裂判定装置300は、試験機200から打ち抜き穴の画像データを受信し、画像データに基づいて打ち抜き穴に板厚断面に板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生したことを判定し、ユーザに報知する。き裂判定装置300は、例えば、操作制御盤300Aと、試験機制御盤300Bと、自動信号処理盤300Cと、から構成される。
図4は、実施の形態に係るき裂判定装置300のハードウェア構成を示すブロック図である。き裂判定装置300は、操作部310と、出力部320と、通信部330と、記憶部340と、制御部350と、を備える。各部は、図示しない内部バス等を介して互いに通信可能に接続されている。
操作部310は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部350に供給する。操作部310は、例えば、キーボードと、マウスと、バーコードリーダと、を備える。操作部310は、例えば、ユーザによる文字の入力等を受け付けたり、試験片等に貼られた各種のコードを読み取ったりする。
出力部320は、打ち抜き穴の板厚断面におけるき裂の位置(角度)及びき裂スコア、き裂が打ち抜き穴の板厚断面における厚さ方向に貫通した旨の情報等を出力し、ユーザや試験機200、外部機器等に通知する。出力部320は、例えば、図1に示すように、ユーザが視認可能なディスプレイ321と、各種書類を印刷するプリンタ322と、を備える。き裂スコアは、打ち抜き穴の撮影画像の輝度情報に基づいて検出されたき裂候補点が実際にき裂である可能性を示す指標であり、その詳細については後述する。
図4に戻り、通信部330は、例えば、インターネットのような通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。
記憶部340は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブに例示される。記憶部340は、制御部350に実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部340は、制御部350が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。さらに、記憶部340は、画像データ記憶部341と、輝度プロファイル記憶部342と、き裂スコア記憶部343と、を備える。
図5(a)は、画像データ記憶部341のデータテーブルの一例を示す。画像データ記憶部341は、試験片の打ち抜き穴を撮影した画像データを、試験片の試料番号、画像の撮影日時等に対応付けて記憶する。
図5(b)は、輝度プロファイル記憶部342のデータテーブルの一例を示す。輝度プロファイル記憶部342は、輝度プロファイルの波形データを、試験片の試料番号、画像の撮影日時、輝度トレース円の識別番号に対応付けて記憶する。
輝度プロファイルは、試験片の撮影画像において打ち抜き穴の内周端の外側に設定された輝度トレース円上を所定の周方向ピッチでトレースしながら輝度を検出し、検出された輝度を輝度トレース円の中心点周りの角度に対応付けて表現したデータである。輝度トレース円は、打ち抜き穴の内周端を近似した円(内周端近似円)と同一の中心点を有し、当該内周端近似円から所定の長さだけ径を大きくした円である。輝度プロファイル及び輝度トレース円の詳細については後述する。
図5(c)は、き裂スコア記憶部343のデータテーブルの一例を示す。き裂スコア記憶部343は、き裂スコアを、試験片の試料番号、画像の撮影日時、き裂候補点の角度に対応付けて記憶する。き裂スコア記憶部343は、経時的に撮影された試験片の打ち抜き穴の画像のそれぞれに基づいて順次算出されたき裂スコアの履歴を記憶する。き裂候補点は、試験片の打ち抜き穴の板厚断面においてき裂が発生している可能性がある輝度プロファイル上の位置である。輝度プロファイル上の位置は、輝度プロファイルの半径と角度とにより特定される。また、き裂スコアは、各き裂候補点において試験片の打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生している可能性を示す指標である。試験片の試料番号は、各試験片を識別するために割り振られた固有の番号である。
図4に戻り、制御部350は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、き裂判定装置300の各部の制御を行う。制御部350は、記憶部340に記憶されているプログラムを実行することにより、図14のき裂判定処理、図15の内周端近似円生成処理、図16のき裂顕在化処理及び図17のき裂スコア算出処理をそれぞれ実行する。
制御部350は、機能的には、画像データ取得部351と、内周端近似円生成部352と、輝度プロファイル生成部353と、LUT(Lookup Table)変換部354と、き裂顕在化部355と、き裂スコア算出部356と、ノイズ要素除去部357と、き裂判定部358と、を備える。
画像データ取得部351は、試験機200のカメラ230で周期的に撮影され、図4(a)に示す画像データ記憶部341に記憶された打ち抜き穴の画像データを取得する。
内周端近似円生成部352は、打ち抜き穴の撮影画像において、パンチ210の先端の中心点である仮想中心点から径方向に所定間隔で輝度を測定し、径方向の微分最大点を検索する。そして、内周端近似円生成部352は、微分最大点の検索を所定の周方向ピッチで仮想中心点に対して全周にわたり実行し、検索された複数の輝度の微分最大点に基づいて内周端近似円の中心座標及び半径を算出する。内周端近似円は、例えば、輝度の微分最大点の位置データに円の最小二乗法等を適用して生成された近似円である。輝度の微分最大点は、仮想中心点から径方向に延びる直線上で輝度が最も変化する点である。
また、内周端近似円生成部352は、内周端近似円と各輝度の微分最大点との間の径方向の平均距離が第1の閾値以下であるかどうかを判定することで、内周端近似円を再び生成するかどうかを決定する。第1の閾値は、例えば、試験片における打ち抜き穴の径の初期値、板厚、材質等を考慮して設定する。平均距離が第1の閾値以下か第1の閾値に等しい場合は、内周端近似円の誤差が大きいと判断し、例えば、輝度の微分最大点の検索数を増やすなどして内周端近似円を生成する。
図6を参照して、撮影画像上で打ち抜き穴の内周端を検索する具体的な方法を説明する。図6は、パンチ210が押し込まれた打ち抜き穴をカメラ230で撮影した様子を示す平面図であり、記号×は、仮想中心点である。打ち抜き穴の撮影画像では、パンチ210は比較的暗い明度となるのに対し、打ち抜き穴の板厚断面は比較的明るい明度となる。このため、打ち抜き穴の板厚断面において仮想中心点から放射状に検索された輝度の微分最大点は、打ち抜き穴の内周端の一部であると理解できる。それで、最も右側の位置を0°とし、所定の周方向ピッチ、例えば、1°ピッチで仮想中心点から放射状に輝度の微分最大点を検索すると、各スポットS1、S2、S3、S4、…Sn、…で輝度の微分最大点を得ることができる。
打ち抜き穴の内周端を正確に検出するには、周方向のピッチを小さくして輝度の微分最大点を検索すればよいが、コンピュータの処理時間等を考慮すると、例えば、打ち抜き穴の全周360°を1°ピッチで刻んで輝度の微分最大点を検出すればよい。この場合、合計360個の輝度の微分最大点を検出できる。
次に、打ち抜き穴の撮影画像において各輝度の微分最大点が検出された画素の位置に基づいて、各輝度の微分最大点の位置データ(xi,yi)を生成する。具体的には、打ち抜き穴の撮影画像の各画素と打ち抜き穴の実寸法に相当するXY座標とを予め対応付けて記憶部340のデータテーブルに記憶させておく。そして、当該データテーブルを参照して、各輝度の微分最大点が得られた画素がXY座標のどの位置に対応するかを読み取ることで、各輝度の微分最大点の位置データ(xi,yi)を生成する。
次に、各輝度の微分最大点の位置データ(xi,yi)に基づいて、内周端近似円の中心座標及び半径を算出する。内周端近似円の中心座標及び半径は、公知の手法、例えば、円の最小二乗法を用いて算出すればよい。
図4に戻り、輝度プロファイル生成部353は、内周端近似円生成部352で生成された内周端近似円を基準にして試験片の撮影画像上に複数の輝度トレース円を設定し、それぞれの輝度トレース円上を所定の周方向ピッチでトレースしながら輝度を検出することで、各輝度トレース円の輝度プロファイルを生成する。また、輝度プロファイル生成部353は、生成された輝度プロファイルを輝度プロファイル記憶部342に記憶させる。
図7は、内周端近似円の外側に設定された複数の輝度トレース円C1~C5を示す図である。各輝度トレース円C1~C5は、打ち抜き穴の板厚断面上に設定され、所定の間隔で大きくなる半径を有する。輝度トレース円の数は任意であるが、コンピュータの処理時間等を考慮すれば、例えば、2つ~7つの範囲内であることが好ましい。各輝度トレース円C1~C5の半径の間隔は、輝度トレース円の数、試験片の板厚等に応じて設定される。
試験片の撮影画像上に輝度トレース円を設定する具体的な方法を説明する。まず、最小の輝度トレース円を打ち抜き穴の内周端から内側に外れないように設定する。打ち抜き穴の内周端は、真円である内周端近似円とは異なり多少のゆがみを有しているため、内周端近似円に沿って輝度トレース円を設定すると、打ち抜き穴の板厚断面から外れた部分の輝度を検出する可能性がある。このため、最小の輝度トレース円は、内周端近似円からある程度の余裕を持たせて、例えば、内周端近似円から数個の画素分だけ径を広げて設定される。
より詳細に説明すると、最小の輝度トレース円は、例えば、打ち抜き穴の内周端のゆがみを考慮して+2画素程度、円周端近似円の中心座標及び内径の計算誤差を考慮して+2画素程度、その他の誤差を考慮して+1画素程度の余裕を持たせ、内周端近似円から合計5画素分だけ間隔を広げて設定するとよい。5画素分の長さは、例えば、撮影分解能が0.05mmであるならば、約0.25mmに相当する。内周端近似円と最小の輝度トレース円との間の間隔は、上記の具体例に限られず、対象となる試験片に応じて適宜設定される。
隣接する輝度トレース円同士の間隔も、内周端近似円と最小径の輝度トレース円との間隔に合わせて、例えば、5画素分の長さとする。なお、隣接する輝度トレース円同士の間の間隔についても、上記の具体例に限られず、対象となる試験片に応じて適宜設定される。
試験片にある程度の厚みを有する場合には、試験片に打ち抜き穴の状態や試験片の材料特性に依存する反射ムラが発生することがある。そこで、反射ムラの状態に応じて、輝度トレース円同士の間隔を広く取り、打ち抜き穴の板厚断面全体でき裂を評価するか、輝度トレース円同士の間隔を狭く取り、内円端近傍の輝度トレース円でき裂を評価するかを決定する。いずれを採用するかは、対象となる試験片に対して事前に穴広げ試験を実施して決定すればよい。
図8は、輝度トレース円上の各輝度を角度に対応付けて表現した輝度プロファイルを示す図である。図8の記号×は、内周端近似円の中心点である。輝度トレース円の最も右側の位置を0°とし、所定の周方向ピッチ、例えば、1°ピッチで右回りに配置されたスポットにおける輝度を検出する。撮影画像から検出された輝度を縦軸とし、各輝度に対応する角度を横軸として輝度プロファイルを描くと、図8の上部に示す波形データを得ることができる。
打ち抜き穴の撮影画像の輝度は、撮影画像の画素毎に検出される。したがって、輝度トレース円上の輝度を検出するには、打ち抜き穴の撮影画像の同一画素の輝度を重複して使用しないように工夫する必要がある。このため、打ち抜き穴の撮影画像上に輝度トレース円を重ねた場合に、輝度トレース円をどの画素を使用して表現するかを予め対応付けておく。
この対応付けは、多数の径の異なる輝度トレース円に対して行っておき、各輝度トレース円に対応する多数の画素の位置を記憶部340のデータテーブルに記憶させればよい。そして、内周端近似円に対応する輝度トレース円が設定されると、当該データテーブルを参照して、設定された輝度トレース円に対応する画素の輝度を順次読み取ればよい。
なお、撮影画像における輝度の読み取りは上記の方法に限られず、例えば、各輝度トレース円を構成する各点において、点の周囲の画素の輝度を読み取り、画素の面積比で案分して算出された輝度を用いてもよい。
図4に戻り、LUT変換部354は、輝度プロファイル生成部353で生成された複数の輝度プロファイルに基づいて平均輝度を算出し、複数の輝度プロファイルの各々について、平均輝度以上の輝度の値を平均輝度に変換する。LUT変換部354では、入力される輝度と出力される輝度との関係を記憶したルックアップテーブルを参照して、輝度プロファイルの輝度の値を変換する。以下、この変換を「LUT変換」と称する。
図9は、平均輝度を上回る輝度を平均輝度に変換するLUT変換を折れ線で表現した図である。この折れ線(LUT変換直線)は、平均輝度以上の輝度が入力されると、平均輝度を出力するように入出力関係を規定した2つの直線からなる。ルックアップテーブルには、輝度プロファイル生成部353で生成された全ての輝度プロファイルに基づいて作成されたLUT変換直線を示すデータが記憶されている。
輝度プロファイルに対してLUT変換を行うのは、打ち抜き穴の板厚断面のうち内周端と外周端との間にある中間部付近で、内周端でないにも関わらず明度が明るい部分が存在するためである。この明度が明るい部分を含む明暗の境目を内周面と誤判定しないように輝度プロファイルに対してLUT変換を行う。
図4に戻り、き裂顕在化部355は、LUT変換部354で変換された輝度プロファイルに対してき裂部位を顕在化させるき裂顕在化処理を実行する。以下、図10を参照して、き裂顕在化処理の具体例を説明する。
まず、図10(a)に示すLUT変換部354で変換された輝度プロファイルに対してフーリエ変換、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)を実行することで、輝度プロファイルを図10(b)に示す周波数軸データに変換する。
次に、図10(c)に示すように、FFTが実行された周波数軸データにデジタルフィルタを適用し、高域帯及び低域帯のデータをカットする。低域帯は、第1の周波数閾値よりも周波数が小さな周波数を含む帯域であり、高域帯は、第2の周波数閾値よりも周波数が大きな周波数を含む帯域である。第1の周波数閾値及び第2の周波数閾値は、いずれも試験片を構成する金属材料毎に個別に設定されている。
第1の周波数閾値は、例えば、数Hz程度の低い周波数であり、周波数軸データから大きな波をカットするように設定すればよく、穴広げ試験の条件毎に調整される必要はない。他方、第2の周波数閾値は、試験片において髪の毛程度の微細なき裂も検出でき、かつ不要なノイズをカットできるように調整される。第2の周波数閾値は、対象となる試験片に対して事前に本実施の形態に係る穴広げ試験を実施することで設定される。第1の周波数閾値及び第2の周波数閾値を調整することで、試験片の打ち抜き穴におけるき裂の検出度合いを調整できる。
次に、図10(c)の周波数軸データに対して逆フーリエ変換、例えば、逆FFTを実行することで、図10(d)に示す輝度プロファイルを得る。そして、図10(d)に示す輝度プロファイルに対して絶対値演算を実行することで、図10(e)に示す輝度プロファイルを得る。一連の処理が実行された輝度プロファイルは、一連の処理が実行される前の輝度プロファイルと比較して、き裂部位での波形が反転し、全体的に波形のノイズが低減され、結果としてき裂部位が顕在化されている。
図4に戻り、き裂スコア算出部356は、き裂顕在化部355によりき裂部位が顕在化された各輝度プロファイルに基づいて、各き裂候補点において試験片の打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生している可能性を示す指標であるき裂スコアを算出する。具体的には、まず、同心円である複数の輝度のうち最も外側にある輝度トレース円(最大の輝度トレース円)に対応する輝度プロファイル(360°全方向の波形データ)を角度0°から順にトレースし、輝度(波高値)が第2の閾値以上であるピークをき裂候補点として検出する。次に、最大の輝度トレース円でき裂候補点として検出されたピークの輝度の値(波高値)と、検出されたき裂候補点と同一のき裂を構成すると判断された最大の輝度トレース円以外の他の輝度プロファイルにおけるピークの輝度の値(波高値)とを累積することにより、各き裂候補点におけるき裂スコアを算出する。例えば、検出されたき裂候補点において、最大の輝度トレース円でき裂候補点として検出されたピークの輝度の値(波高値)と、検出されたき裂候補点と同一のき裂を構成すると判断された最大の輝度トレース円以外の他の輝度プロファイルにおけるピークの輝度の値(波高値)とを合計すればよい。第2の閾値は、例えば、過去の穴広げ試験の結果等に基づいて設定される。
以下、図11を参照して、各輝度プロファイルからき裂スコアを算出する方法の具体例を説明する。図11は、図7の各輝度トレース円C1~C5に対応する5つの輝度プロファイルP1~P5を示す図である。各輝度プロファイルP1~P5は、図10に示す処理によりき裂部位が顕在化されている。
まず、輝度プロファイルP1において輝度が図11の点線で示す第2の閾値以上となる極座標上の位置であるき裂候補点を検索する。輝度が第2の閾値以上である2つのピークのうち角度がa1のピークを第1のき裂候補点(候補1位)とし、角度がb1のピークを第2のき裂候補点(候補2位)とする。各ピークの波高値は、それぞれL11、L12である。なお、輝度プロファイルのピークの角度は、角度0°から周方向に輝度を読み取った場合に、輝度が第2の閾値以上となってから第2の閾値未満になるまでの連続した範囲において、最初に検出された最も輝度の高い部分で示される。
次に、輝度プロファイルP2において輝度プロファイルP1のき裂候補点のピークと同一のき裂を示すピークを検索する。輝度プロファイルP2を角度0°の位置から周方向に順にトレースし、輝度プロファイルP2の輝度が所定の閾値以上となる場合にピークが存在すると判断する。図11では、角度a2、b2で輝度のピークを検出するものとし、各ピークの波高値はL21、L22である。
輝度プロファイルP2のピークは、それぞれ以下の式(1)、(2)で表される条件を満たす場合にき裂候補点のピークと同一のき裂を示すピークであると判断される。
|a1-a2|<α …(1)
|b1-b2|<α …(2)
例えば、α=10°の場合に、輝度プロファイルP1の第1候補のピークの角度a1が100°であり、輝度プロファイルP2の第1候補のピークの角度a2が105°であれば、両者は同一のき裂を示すと判断できる。
次に、輝度プロファイルP3において輝度プロファイルP1のき裂候補点のピークと同一のき裂を示すピークを検索する。輝度プロファイルP3を角度0°の位置から周方向に順にトレースし、輝度プロファイルP3の輝度が所定の閾値以上となる場合にピークが存在すると判断する。図11では、角度a3で輝度のピークを検出するものとし、ピークの波高値はL31である。輝度プロファイルP3の輝度のピークは、以下の式(3)で表される条件を満たす場合に候補1位のき裂候補点のピークと同一のき裂を示すと判断される。
|a1-a3|<α …(3)
以下同様にして、各輝度プロファイルP4、P5を角度0°の位置から周方向に順にトレースし、輝度プロファイルP4、P5の輝度が所定の閾値以上となる場合にピークが存在すると判断する。図11では、それぞれ角度a4、a5で輝度のピークを検出するものとし、各ピークの波高値はL41、L51である。
なお、各輝度プロファイルP2~P5で検出された各ピークが輝度プロファイルP1の各き裂候補点のピークと同一のき裂を構成するかどうかは、他の方法で判断してもよい。例えば、輝度プロファイルP1のピークと輝度プロファイルP2のピークとの間の角度の差が所定の範囲内であるとき、輝度プロファイルP2のピークと輝度プロファイルP3のピークとの角度の差も所定の範囲内であれば、輝度プロファイルP2のピークと輝度プロファイルP3のピークとは同一のき裂を示すと判断してもよい。
また、輝度プロファイルP1のピークと輝度プロファイルP2のピークとの間の角度差がr1であるとき、輝度プロファイルP2のピークと輝度プロファイルP3のピークとの角度の差r2がr1+r’以下であれば、輝度プロファイルP2のピークと輝度プロファイルP3のピークとは同一のき裂を示すと判断してもよい。
次に、輝度プロファイルP1のき裂候補点のピークの輝度の値と、当該き裂候補点のピークと同一のき裂を示す各輝度プロファイルP2~P5のピークの輝度の値とを累積することで、各き裂候補点のき裂スコアを算出する。例えば、輝度プロファイルP1のき裂候補点のピークの輝度の値と、当該き裂候補点のピークと同一のき裂を示す各輝度プロファイルP2~P5のピークの輝度の値とを合計すればよい。具体的には、候補1位のき裂スコアは、L11+L21+L31+L41+L51であり、候補2位のき裂スコアは、L12+L22である。
以上が、各輝度プロファイルからき裂スコアを算出する方法の具体例である。
図4に戻り、ノイズ要素除去部357は、き裂スコア算出部356で算出されたき裂候補点におけるき裂スコアの履歴に対して最小化フィルタを適用することで、ノイズ要素を含むき裂候補点を除去する。き裂スコアの履歴は、経時的に撮影された試験片の打ち抜き穴の画像に基づいて算出されたき裂スコアを、当該画像の撮影順に並べた履歴であり、図5(c)に示すき裂スコア記憶部343に記憶されている。最小化フィルタは、き裂候補点におけるき裂スコアの履歴を受け付け、受け付けたき裂スコアの履歴の中から最小値を出力する。最小化フィルタから出力された最小値が第3の閾値を下回るき裂候補点についてはノイズ要素を含むものとして除外すればよい。第3の閾値は、過去の穴広げ試験の結果を踏まえて試験片の金属材料毎に設定される。
図12及び図13を参照して、ノイズ要素を含むき裂候補点を除去する方法を説明する。図12は、打ち抜き穴の画像データに基づいて算出された各き裂スコアを示すグラフである。
図12では、2つのき裂スコアが各記号で表現されているが、これらのき裂スコアは、例えば、試験片の表面に付着した油による縞模様、ダイスの材質、打ち抜き穴の形状や凹凸等により発生したノイズ要素が要因である可能性もある。そこで、き裂スコアからノイズ要素を排除するには、き裂スコアの経時的な変化を把握する必要がある。
図13は、図12のグラフを時間軸に沿って少しずつずらして重ね合わせたグラフである。図13の点線は、経時的に変化するき裂スコアを示す記号を繋いだものである。候補2位の点線では、き裂スコアが急激に変化しているため、徐々に広がるき裂の伝播によりき裂スコアが増加した訳ではなく、瞬間的に出現したノイズ要素を含んでいると判断できる。他方、候補1位の点線では、き裂スコアが経時的に安定しているため、ノイズ要素を含んでいないと判断できる。したがって、ノイズ要素を含むき裂候補点を除外するには、経時的に算出された複数のき裂スコアの履歴に最小化フィルタを適用し、最小化フィルタの出力が第3の閾値を下回るき裂候補点を除外すればよい。
図4に戻り、き裂判定部358は、ノイズ要素除去部357でノイズ要素を含むものとして除去されなかったき裂候補点において、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生しているかどうかを判定する。具体的には、ノイズ要素除去部357でノイズ要素を含むものとして除去されなかったき裂候補点において、き裂スコア算出部356で算出されたき裂スコアが第4の閾値以上である場合に、当該き裂スコアに対応するき裂候補点において打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生していると判定する。第4の閾値は、例えば、過去の穴広げ試験の結果等に基づいて設定される。
き裂判定部358は、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生したと判定した場合に、試験機200の押し出し機構を停止させる制御信号を出力する。また、き裂判定部358は、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生したき裂候補点の位置、き裂スコア、画像の撮影日時を出力部320に出力させると共に記憶部340に記憶させる。
以上が、き裂判定装置300のハードウェア構成である。
次に、図14~図17のフローチャートを参照して、実施の形態に係るき裂判定装置300が実行するき裂判定処理の一連の流れを説明する。き裂判定処理は、試験機200における試験片のセンタリングが終了し、しわ押さえ221、222により試験片が保持された後に、パンチ210が押し込み方向への移動を開始した時点で開始される。
まず、画像データ取得部351は、試験機200から送信され、図5(a)に示す画像データ記憶部341に記憶された試験片の画像データを取得する(ステップS1)。
次に、内周端近似円生成部352は、打ち抜き穴の内周端近似円を生成する内周端近似円生成処理を実行する(ステップS2)。以下、図15のフローチャートを参照して、ステップS2の内周端近似円生成処理の流れを説明する。
まず、内周端近似円生成部352は、パンチ210の中心点である仮想中心点から放射状に輝度の微分最大点を検索する(ステップS21)。輝度の微分最大点は、例えば、図6に示すように仮想中心点の周りに1°ピッチで放射状に検索される。
次に、内周端近似円生成部352は、仮想中心点の周りの全周で輝度の微分最大点を検索したかどうかを判定する(ステップS22)。仮想中心点の周りの全周で輝度の微分最大点を検索したと判定された場合(ステップS22;Yes)、ステップS23に処理を進める。他方、仮想中心点の周りの全周で輝度の微分最大点を検索していないと判定された場合(ステップS22;No)、ステップS21に処理を戻す。ステップS21の処理では、輝度の微分最大点の検索数等の条件を変更して輝度の微分最大点を検索する。例えば、輝度の微分最大点を周方向に0.5°ピッチで検索すればよい。
ステップS22の処理でYesの場合、内周端近似円生成部352は、輝度の微分最大点が検索された撮影画像の画素に基づいて、各輝度の微分最大点に対応する位置データ(xi,yi)を生成する(ステップS23)。
次に、内周端近似円生成部352は、ステップS23で生成された位置データ(xi,yi)に基づいて、内周端近似円の中心座標及び半径を算出し(ステップS24)、処理をリターンする。例えば、ステップS23で生成された360点の輝度の微分最大点の位置データ(xi,yi)に対して円の最小二乗法を適用することで、内周端近似円の中心座標及び半径を算出する。
以上が、内周端近似円生成処理の流れである。
図14に戻り、内周端近似円生成部352は、ステップS2で算出された内周端近似円の中心座標及び半径に基づいて、内周端近似円と各輝度の微分最大点との間の径方向の平均距離を算出する(ステップS3)。例えば、内周端近似円と360点の輝度の微分最大点との間の径方向の距離をそれぞれ算出し、算出された全ての距離の平均値を算出する。
次に、内周端近似円生成部352は、ステップS3で算出された平均距離が第1の閾値以下であるかどうかを判定する(ステップS4)。ステップS3で算出された平均距離が第1の閾値以下であると判定された場合(ステップS4;Yes)、処理をステップS5に進める。他方、ステップS3で算出された平均距離が第1の閾値以下でないと判定された場合(ステップS4;No)、処理をステップS2に戻す。ステップS2では、例えば、周方向のピッチを狭くすることで、輝度の微分最大点を検索するスポット数を増加させ、内周端近似円を生成する。
ステップS4の処理でYesの場合、輝度プロファイル生成部353は、ステップS2で生成された内周端近似円より径が大きな複数の輝度トレース円を設定し、設定された輝度トレース円上をトレースしながら所定の周方向ピッチで各角度の輝度を検出することで、輝度トレース円における輝度プロファイルを生成し、輝度プロファイルを図5(b)に示す輝度プロファイル記憶部342に記憶させる(ステップS5)。具体的には、図8に示すように、輝度トレース円に対応する画素の輝度を撮影画像から読み取り、各角度に対応付けられた輝度を示す輝度プロファイルを作成する。輝度トレース円は、打ち抜き穴の撮影画像において打ち抜き穴の板厚断面上に設定され、図7に示すように内周端近似円の外側に所定の間隔、例えば、数画素分の間隔を空けて複数個設定される。
次に、LUT変換部354は、ステップS5で生成された輝度プロファイルに対してLUT変換を行い、輝度プロファイル記憶部342に記憶させる(ステップS6)。例えば、全ての輝度プロファイルに基づいて輝度ヒストグラムを作成し、作成された輝度ヒストグラムから平均輝度を算出する。そして、図9に示すLUT変換直線で表現されるルックアップテーブルを参照して、複数の輝度プロファイルの各々について、平均輝度以上の輝度の値を平均輝度に変換する。
次に、き裂顕在化部355は、ステップS6で変換された輝度プロファイルに対してき裂を顕在化させるき裂顕在化処理を実行する(ステップS7)。以下、図16のフローチャートを参照して、き裂顕在化処理の流れを説明する。
まず、き裂顕在化部355は、ステップS6でLUT変換が行われた輝度プロファイルに対してFFTを実行する(ステップS71)。例えば、図10(a)に示す輝度プロファイルに対してFFTを実行することで、輝度プロファイルの波形を図10(b)に示す周波数軸データに変換する。
次に、き裂顕在化部355は、ステップS71でFFTが実行された周波数軸データの高域帯及び低域帯をカットする(ステップS72)。例えば、高域帯及び低域帯をカットするデジタルフィルタに図10(b)に示す周波数軸データを通過させ、図10(c)に示す周波数軸データを生成する。
次に、き裂顕在化部355は、ステップS72で高域帯及び低域帯がカットされた周波数軸のデータに対して逆FFTを実行する(ステップS73)。例えば、図10(c)に示す周波数軸データに対して逆FFTを実行することで、図10(d)に示すように波形の全体的なノイズが低減された輝度プロファイルを得ることができる。
次に、き裂顕在化部355は、ステップS73で逆FFTが実行された輝度プロファイルに対して絶対値演算を実行し(ステップS74)、処理をリターンする。例えば、図10(d)に示す輝度プロファイルに対して絶対値演算を実行すると、図10(e)に示すようにき裂部位が反転し、き裂部位が顕在化された輝度プロファイルを得ることができる。なお、逆FFTが実行された輝度プロファイルに対して絶対値演算を実行するかどうかは、後述する処理を考慮して適宜選択できる。
以上が、き裂顕在化処理の流れである。
図14に戻り、ステップS7のき裂顕在化処理が終了すると、輝度プロファイル生成部353は、全ての輝度トレース円について輝度プロファイルを顕在化したかどうかを判定する(ステップS8)。例えば、図7に示すように5つの輝度トレース円C1~C5が設定されている場合、5つの輝度プロファイルが全て顕在化されたかどうかを判定する。
全ての輝度トレース円について輝度プロファイルを顕在化したと判定された場合(ステップS8;Yes)、ステップS9に処理を進める。他方、輝度プロファイルを顕在化していない輝度トレース円が存在すると判定された場合(ステップS8;No)、処理をステップS7に戻す。
ステップS8の処理でYesの場合、き裂スコア算出部356は、ステップS7の処理でき裂部位が顕在化され、同心円である複数の輝度トレースのうち最も外側にある最大の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルからき裂候補点を検出し、検出された各き裂候補点におけるき裂スコアを算出するき裂スコア算出処理を実行する(ステップS9)。以下、図17のフローチャートを参照して、き裂スコア算出処理の流れを説明する。
まず、き裂スコア算出部356は、ステップS7で変換された最大の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルにおいてき裂候補点を検索し、き裂候補点を検出したかどうかを判定する(ステップS91)。き裂候補点は、最大の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルにおいて、ピークの波高値が第2の閾値以上となる位置であり、輝度トレース円の中心点周りの角度で表現される。き裂候補点を検出したと判定された場合(ステップS91;Yes)、ステップS92に処理を進める。他方、き裂候補点を検出していないと判定された場合(ステップS91;No)、試験片の打ち抜き穴を板厚方向に貫通するき裂が発生していないと判断できるため、図14のき裂判定処理のステップS1に処理を戻す。
ステップS91の処理でYesの場合、き裂スコア算出部356は、ステップS91で検索された各き裂候補点のき裂スコアを算出する(ステップS92)。例えば、最大の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルから検出されたき裂候補点の角度と、他の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルのピークが存在する角度との差分を算出する。次に、当該差分の絶対値が所定の値よりも小さい場合に、他の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルのピークをき裂候補点として検出されたピークと同一のき裂を示すピークとして検出する。次に、最大の輝度トレース円に対応する輝度プロファイルのき裂候補点の輝度の値(波高値)と、他の輝度プロファイルにおけるピークの輝度の値(波高値)とを合計することにより、き裂候補点のき裂スコアを算出する。
図11の具体例では、候補1位のき裂スコアは、L11+L21+L31+L41+L51であり、候補2位のき裂スコアは、L12+L22である。き裂スコアは、例えば、各輝度プロファイルの波高値を合計して算出されるため、打ち抜き穴の板厚断面の外周端から内周端に向かってき裂が繋がっているほど、その値が大きくなる。
次に、き裂スコア算出部356は、ステップS92で算出されたき裂スコアを、試料番号、画像の撮影日時及びき裂候補点に対応付けて図5(c)のき裂スコア記憶部343に記憶させ(ステップS93)、処理をリターンする。
以上が、き裂スコア算出処理の流れである。
図14に戻り、ノイズ要素除去部357は、ステップS9のき裂スコア算出処理で順次算出され、図5(c)のき裂スコア記憶部343に記憶されたき裂スコアの履歴に対して最小化フィルタを適用することで、ノイズ要素を含むき裂候補点を除去する(ステップS10)。具体的には、打ち抜き穴の画像データ毎に算出されたき裂スコアの履歴を受け付けた最小化フィルタの出力が第3の閾値を下回るき裂候補点を、ノイズ要素を含むものとして除去すればよい。
次に、き裂判定部358は、ステップS10の処理でノイズ要素を含むものとして除去されなかったき裂候補点において、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生しているかどうかを判定する(ステップS11)。具体的には、ステップS10の処理でノイズ要素を含むものとして除去されなかったき裂候補点において、ステップS9で算出されたき裂スコアが第4の閾値以上である場合に、当該き裂スコアに対応するき裂候補点において打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生していると判定する。他方、ステップS10の処理でノイズ要素を含むものとして除去されなかったき裂候補点において、ステップS9の処理で算出されたき裂スコアが第4の閾値未満である場合、又はステップS10の処理で全てのき裂候補点が除去された場合に、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生していないと判定する。
打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生したと判定される場合(ステップS11;Yes)、ステップS12に処理を進める。他方、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生していないと判定される場合(ステップS11;No)、ステップS1に処理を戻す。
ステップS11の処理でYesの場合、き裂判定部358は、試験機200の押し出し機構を停止させる制御信号を出力する(ステップS12)。また、き裂判定部358は、打ち抜き穴の板厚断面を板厚断面における厚さ方向に貫通するき裂が発生したき裂候補点の位置、き裂スコア、画像の撮影日時等に関する情報を出力部320に出力させると共に記憶部340に記憶させ、処理を終了する。
以上が、き裂判定処理の流れである。
その後、試験機200は、き裂判定装置300から押し出し機構を停止させる制御信号を受け取ると、押し出し機構の動作を停止させ、図示しない計測器を用いて打ち抜き穴の内径を測定する。そして、試験機200は、測定された内径に基づいて穴広げ率を算出し、算出された穴広げ率を試験片の試料番号に対応付けてメモリに記憶させればよい。
以上説明したように、実施の形態に係るき裂判定装置300は、輝度プロファイルに基づいて、試験片の打ち抜き穴の板厚断面におけるき裂候補点を検出し、検出されたき裂候補点におけるき裂が発生している可能性を示す指標であるき裂スコアを算出するき裂スコア算出部356を備える。このため、き裂候補点毎にき裂スコアを算出することで、内周端から外周端までき裂が繋がっているかどうかを定量的に判断でき、結果として穴広げ試験における打ち抜き穴のき裂判定の精度を向上させることができる。
本発明は上記の実施形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
(変形例)
上記実施の形態では、内周端近似円と各輝度の微分最大点との間の径方向の平均距離を算出し、算出された平均距離が第1の閾値以下である場合に内周端近似円を生成する処理を実行していたが(ステップS3、S4)、本発明はこれに限られない。例えば、内周端近似円生成処理(ステップS2)を実行した後、ステップS3、S4を省略し、輝度プロファイルを生成する処理(ステップS5)を実行してもよい。
上記実施の形態では、き裂顕在化処理(ステップS7)が実行された後にき裂スコア算出処理(ステップS9)を実行していたが、本発明はこれに限られない。例えば、き裂判定処理におけるき裂判定の精度よりも処理時間を優先させる場合には、き裂顕在化処理を実行せずにき裂スコア算出処理を実行してもよい。
具体的には、ステップS5の処理で得られたき裂プロファイルのうち、最も外側にある最大の輝度トレース円の輝度プロファイルで検出された輝度のピークが所定の閾値以下である角度をき裂候補点として検出し、最大の輝度トレース円でき裂候補点として検出されたピークの輝度の値(波高値)と、検出されたき裂候補点と同一のき裂を構成すると判断された最大の輝度トレース円以外の各輝度プロファイルにおけるピークの輝度の値(波高値)とを合計することにより、き裂候補点のき裂スコアを算出するき裂スコア算出処理を実行すればよい。
最大の輝度トレース円以外の各輝度プロファイルでは、輝度の値(波高値)が所定の閾値以下の場合にピークが存在すると判断すればよい。また、最大の輝度トレース円以外の各輝度プロファイルにおけるピークの角度が、き裂候補点が存在する角度を基準にして所定の範囲内に存在する場合に、当該ピークがき裂候補点と同一のき裂を構成すると判断すればよい。
また、き裂スコア算出処理を実行せずに、き裂顕在化処理でき裂が顕在化された輝度プロファイルの波形を出力部320のディスプレイ321等に表示させてもよい。加えて、き裂スコア算出処理を実行せずに、き裂顕在化処理でき裂が顕在化された全ての輝度プロファイルで検出された輝度のピークがいずれも所定の閾値以上であり、かつ、それぞれの輝度のピークが所定の範囲内(例えば、10°の範囲内)に存在する場合に、打ち抜き穴の板厚断面に板厚断面における厚さ方向に貫通したき裂が発生していると判定し、試験機200の押し出し機構を停止させる制御信号を出力してもよい。
上記実施の形態では、き裂スコア算出処理(ステップS9)が実行された後にノイズ要素を除去する処理(ステップS10)を実行していたが、本発明はこれに限られない。例えば、試験片を構成する金属材料の種類によっては、ノイズが発生する可能性が低いため、ステップS10の処理を省略してもよい。
上記実施の形態では、き裂判定装置300の記憶部340に各種データが記憶されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、各種データは、その全部又は一部が通信ネットワークを介して外部のサーバやコンピュータ等に記憶されていてもよい。
上記実施の形態では、き裂判定装置300は、それぞれ記憶部340に記憶されたプログラムに基づいて動作していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、プログラムにより実現された機能的な構成をハードウェアにより実現してもよい。
上記実施の形態では、き裂判定装置300は、例えば、専用のシステムであったが、本発明はこれに限られない。例えば、き裂判定装置300は、汎用コンピュータで実現してもよく、クラウド上に設けられたコンピュータであってもよい。
上記実施の形態では、き裂判定装置300が実行する処理は、上述の物理的な構成を備える装置が記憶部340に記憶されたプログラムを実行することによって実現されていたが、本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
また、上述の処理動作を実行させるためのプログラムを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto-Optical Disk)等のコンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納して配布し、そのプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理動作を実行する装置を構成してもよい。
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。