JP7325039B2 - 一塩基の識別方法 - Google Patents

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Description

本発明は、核酸における特定の一塩基の有無の識別方法、当該方法を用いて細胞のゲノムDNAを編集する方法又はゲノム編集された細胞を生産する方法等に関する。
ヒトゲノムには、107個の一塩基多型(SNP)又は一塩基多様性(SNV)が存在すると予測されており、これらがヒトの形態、体質、及び素因等の表現型に直接的又は間接的に関わると考えられている。特に、疾患に関連するSNVは病原性SNVと呼ばれ、例えば多発性内分泌腺腫症2型(MEN2B)又は栄養障害型表皮水疱症(DEB)等の遺伝性疾患を直接的に生じさせることが知られている(非特許文献1及び2)。
SNP/SNVの簡便かつ迅速な検出方法の開発はゲノム診療及びゲノム修復医療において重要である。また人工的な一塩基置換部位は、遺伝子改変体のマーカー(Single Nucleotide(SN)マーカー)として使用でき、その検出方法の有用性は高い。現在のところ、SNP、SNV又はSNマーカー(以下「SNP/SNV/SNマーカー」とも記載する)を検出する手法としてはPCR-RFLP及びTaqman assay等が知られているが、検出に利用できる制限酵素部位が無かったり専用の装置が必要であるため、いずれも汎用性のある手法とは言えない。
最近、SNP/SNV/SNマーカーをPCRで検出するためにHiDi DNA polymeraseが開発された(非特許文献3)。本酵素は一塩基変異を識別し目的SNP/SNV/SNマーカーを有する核酸をより多く増幅できることから、SNP/SNV/SNマーカーを検出する新たな手法として期待される。
Wellcome Trust Case Control Consortium, 2007, Nature, 447, 661-678. Wells, S.A., Jr. et al., 2013, J. Clin. Endocrinol. Metab., 98, 3149-3164. Drum, M. et al., 2014, PLoS One, 9, e96640
本発明者は、HiDi DNA polymeraseを用いて実験を行ったところ、標的SNマーカーを含む配列と標的を含まない配列の増幅産物が区別可能な検出可能範囲は102程度であることを見出した。これは、本酵素によるSNP/SNV/SNマーカー検出感度が期待より低く、SNP/SNV/SNマーカーを検出するためには、テンプレートの量を厳密に制御する必要があることを示している。
一実施形態において、本発明は、SNP/SNV/SNマーカーを検出することが可能な、核酸における特定の一塩基の有無の識別方法を提供することを課題とする。
本発明者は、SNマーカーの有無に応じて、プライマーの3'末端部位と対応する部位におけるテンプレートのパリンドローム配列の有無が異なる領域において、プライマーを設計し、これを用いてSNマーカー検出PCRを行ったところ、その検出感度が顕著に改善することを見出した。
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(1)核酸における特定の一塩基の有無の識別方法であって、
(i)特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸を増幅する工程、
(ii)対照核酸を、上記(i)において用いたのと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び
(iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも多い場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程を含み、
前記プライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸の対応領域と同一ではなく、かつ、対照核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含み、
検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、前記プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一であり、かつ、検出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含まない、方法。
(2)核酸における特定の一塩基の有無の識別方法であって、
(i)特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸を増幅する工程、
(ii)対照核酸を、上記(i)において用いたのと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び
(iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも少ない場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程を含み、
前記プライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸の対応領域と同一であり、かつ、対照核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含まず、
検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、前記プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一ではなく、かつ、検出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含む、方法。
(3)前記特定の一塩基が、人為的に導入されるマーカー塩基である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記パリンドローム配列が、A又はTの塩基を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記パリンドローム配列が、2~6の塩基を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記パリンドローム配列が、4~6の塩基を含む、(5)に記載の方法。
(7)前記核酸増幅が、PCR又はリアルタイムPCRにより行われる、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記核酸増幅を、一塩基ミスマッチを検出可能な、遺伝子改変型又は天然の耐熱性DNAポリメラーゼを用いて行う、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)細胞に対してゲノム編集を行う工程、
(1)~(8)のいずれかに記載の方法にしたがって、細胞の核酸中の特定の一塩基の有無を識別する工程、及び
特定の一塩基の有無の識別結果に基づいて、ゲノム編集が行われた細胞を選択する工程、
を含む、ゲノム編集された細胞を生産する方法。
本発明により、核酸における特定の一塩基の有無の識別方法が提供される。
図1は、本発明の一実施形態の概念を示す模式図である。Aは、パリンドローム配列のない領域にSNマーカーを導入する場合の例であり、Bは、パリンドローム配列のある領域にSNマーカーを導入する場合の例である。SNマーカーを枠で囲んだ。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図2は、パリンドローム配列がない部位にSNマーカーを配置した場合(プライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列:gatt、マーカー導入後のプライマーの3'末端部位に対応するテンプレート配列:gatc)のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。 図3は、パリンドローム配列がある部位にSNマーカーを配置した場合(プライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列:aatt、マーカー導入後のプライマーの3'末端部位に対応するテンプレート配列:aatc)のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図4は、パリンドローム配列(ggcc)がある部位にSNマーカーを配置した場合のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図5は、パリンドローム配列(ttaa)がある部位にSNマーカーを配置した場合のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図6は、パリンドローム配列(at)がある部位にSNマーカーを配置した場合のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図7は、パリンドローム配列(gc)がある部位にSNマーカーを配置した場合のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図8は、パリンドローム配列(caattg)がある部位にSNマーカーを配置した場合のプライマー及びテンプレートの配列、並びに核酸増幅後の電気泳動結果を示す。下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。 図9は、図3と同様のプライマー及びテンプレートを用いて、異なる酵素を用いて核酸増幅を行った後の電気泳動結果を示す(A:GoTaq DNA polymerase、B:Tks Gflex DNA polymerase)。 図10は、図3と同様のプライマー及びテンプレートを用いて、疾患特異的iPS細胞のゲノム修復における目的クローンの一次スクリーニングにおいて本手法を適用した場合の結果を示す。パリンドロームのある領域にSNマーカーを導入する場合(B)の一次スクリーニング陽性率は5.7%であり、パリンドロームのない領域にSNマーカーを導入する場合(A)の一次スクリーニング陽性率1.8%より顕著に高かった。
1.用語の定義
本明細書において、「核酸」とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖、及びリン酸を構成単位として有する高分子の有機化合物を意味し、これら核酸のアナログ等も包含する。核酸は、例えば、DNA、RNA、又はcDNA等であってよい。核酸は、例えば本明細書に記載の細胞の由来となる生物種のゲノムDNAであってよい。また、核酸は、検出のために標識されたものであってもよい。
本明細書において、「検出核酸」は、特定の一塩基の有無の識別を行う核酸を意味する。
本明細書において、「対照核酸」は、検出核酸において特定の一塩基の有無の識別を行うための比較対象となる核酸を意味する。対照核酸は、例えば、特定の一塩基の有無が既にわかっている核酸であってよい。
本明細書において、「特定の一塩基」の種類は限定されず、A、T、G、C、及びこれらの塩基のアナログ等も包含する。特定の一塩基は、天然に存在する一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)、一塩基多様性(Single Nucleotide Variant、SNV)であってもよい。また、特定の一塩基は、挿入欠失(Insertion & Deletion、Indel)又は構造多型(Structural Variant、SV)の一部を構成する塩基であってもよい。
本明細書において、「一塩基多型(SNP)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、通常その頻度が集団内で約1%以上見出されるものを指す。SNPは、塩基の付加、欠失、又は置換であり得、一塩基の変異のみならず2塩基から10塩基程度の変異を包含する。一般に、SNPはゲノムで比較的頻繁に発生し、遺伝的多様性に寄与している。
本明細書において、「一塩基多様性(SNV)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、一塩基置換をさす。
本明細書において、「挿入欠失(Indel)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、一塩基以上50塩基未満の短い挿入欠失を指す。
本明細書において、「構造多型(SV)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、50塩基以上の挿入、欠失、重複、転座、逆位、縦列反復をさす。
一実施形態において、SNP、SNV、Indel、SVは、本明細書に記載の疾患等の疾患の原因となる変異であり得る。
一実施形態において、「特定の一塩基」は、人為的に導入された塩基である一塩基(Single Nucleotide、SN)マーカーであってもよい。特定の一塩基が、天然に存在する塩基である場合、本発明の方法の要件を満たす部位を探索してマーカーを設計することができるが、SNマーカーを導入すれば、本発明の方法の要件を満たすようにプライマーを設計する限り、原則どのような部位でも本発明を適用することができる。SNマーカーは、例えば、本明細書に記載のゲノム編集方法により導入することができ、他の編集を行う部位に加えて導入することによって、人為的な処理、例えばゲノム編集がなされた核酸の検出を簡便にするために用いることができる。SNマーカーとしては、アミノ酸配列に影響を及ぼさないサイレント変異を生ずる塩基が用いることができる。
SNマーカーを導入する場合の本発明の一実施形態の概念を示す模式図を図1Bに示す。図1Bでは、SNマーカーを枠で囲み、下線は、パリンドローム配列、又はそのマーカー導入後の配列を示す。図1Bにおいて、パリンドローム配列(AATT)のある領域(配列番号23)にSNマーカーが導入されており、SNマーカー導入後の配列(配列番号24)はパリンドローム配列を有さない。例えば、SNマーカー導入後の配列と同一の配列を有するプライマー配列を使用して核酸増幅を行い、その増幅効率を調べることによって、特定の一塩基(図1BではSNマーカーであるC)の有無を識別することができる。
2.核酸における特定の一塩基の有無の識別方法
一態様において、本発明は、(i)特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸を増幅する工程、(ii)対照核酸を、上記(i)において用いたのと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び(iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも多い場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程を含む核酸における特定の一塩基の有無の識別方法に関する(本明細書において、本方法を、「ポジティブスクリーニング法」とも記載する)。本明細書に記載の方法に含まれ得る工程について、以下に記載する。
(検出核酸を増幅する工程及び対照核酸を増幅する工程)
本明細書に記載の方法において、特定の一塩基の有無の識別は、プライマーの3'末端の一塩基が検出核酸の対応領域と同一であるか否かに基づいてなされる。したがって、一実施形態において、プライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸の対応領域と同一ではなく、かつ、検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一である(特定の一塩基が存在しない場合、プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一ではない)。
本明細書に記載の方法は、特定の方法で核酸増幅を行った場合に、プライマーの3'末端における一塩基が全一致しない場合(ミスマッチが存在する場合)は増幅効率が低下することを利用する(本明細書において、このような方法を、「一塩基ミスマッチ検出核酸増幅」等と記載する)。これは、対応する塩基を3'末端に設定した配列特異的プライマーを用いて行うことができ、そのようなプライマーは当業者であれば容易に設計することができる。一塩基ミスマッチ検出核酸増幅は、多型等を検出する場合等には、「amplification refractory mutation system(ARMS)」又は「アレル特異的増幅(ASA)、又は「アレル特異的PCR」とも呼ばれる。
一実施形態において、対照核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含み、かつ、検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、検出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含まないように、プライマーを設計する(検出核酸に特定の一塩基が存在しない場合、検出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含む)。本発明者は、当該部位において一塩基ミスマッチ検出核酸増幅を行った場合、検出感度が顕著に上昇することを実施例において示している。したがって、一実施形態において、本発明は、特定の一塩基の有無を高感度に識別できるという効果を奏する。
本明細書において、テンプレートとなる核酸鎖中におけるプライマーと「対応する領域」とは、フォワードプライマーであれば、当該プライマーとハイブリダイズする相補鎖中の領域に対する、核酸鎖中の相補的領域を意図する。また、リバースプライマーであれば、当該プライマーとハイブリダイズする核酸鎖中の領域に対する、相補鎖中の相補的領域を意図する。
フォワードプライマーであれば、プライマーの3'末端の一塩基と対応する領域は、当該プライマーとハイブリダイズする相補鎖中の領域における5'末端の一塩基とハイブリダイズし得る領域であってよい。また、リバースプライマーであれば、プライマーの3'末端の一塩基と対応する領域は、当該プライマーとハイブリダイズする核酸鎖中の領域における5'末端の一塩基とハイブリダイズし得る領域であってよい。
核酸増幅効率の点から、プライマーの3'末端での検出核酸鎖又は対照核酸鎖の対応領域に対する異同を除き、テンプレート又はその相補鎖の配列と完全に同一であることが好ましい。しかしながら、プライマーの3'末端の一塩基は、核酸の対応領域と同一である場合に核酸鎖と高ストリンジェントな条件でのハイブリダイズが可能である限り、テンプレートの配列と完全に同一である必要はなく、多少の変異を含んでいてもよい。例えば、プライマーは、テンプレート配列又はその相補的な配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基同一性を有する配列であってよく、又はテンプレート配列又はその相補的な配列に対して、1又は数個の塩基が付加、欠失、及び/又は置換したものであってもよい。
本明細書において「塩基同一性」とは、2つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、2つの塩基配列間で同一塩基の割合(%)をいう。本明細書において「数個」とは、例えば、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個、2~3個又は2個をいう。
プライマーの長さは、限定しないが、10~40塩基、15~30塩基、又は20~30塩基であってよい。
本明細書において「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、低塩濃度及び/又は高温の条件下でハイブリダイゼーションと洗浄を行うことをいう。例えば、6×SSC、5×Denhardt試薬、0.5%SDS、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA中で65℃~68℃にてプローブと共にインキュベートし、その後、2×SSC、0.1%SDSの洗浄液中で室温から開始して、洗浄液中の塩濃度を0.1×SSCまで下げ、かつ温度を68℃まで上げて、バックグラウンドシグナルが検出されなくなるまで洗浄することが例示される。高ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件については、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので参考にすることができる。
一実施形態において、検出核酸を増幅する工程と、対照核酸を増幅する工程は、少なくとも一つの同一のプライマーを用いて実施される。それ以外のプライマーは同一であってもなくてもよいが、増幅条件を同一にする点から、2つ以上の同一のプライマー(例えばフォワード及びリバースプライマー)、例えば同一のプライマーセットを用いて行うことが好ましい。核酸増幅において用いるプライマーの総数は限定しないが、例えば2以上又は4以上例えば2であってよい。
本明細書において、「パリンドローム配列」又は「回文構造」とは、相補鎖の存在を仮定した場合に、一方の鎖の配列と、その鎖の相補鎖における当該配列と相補的な配列が同一となる配列又は構造をいう。パリンドローム配列の長さは2以上であれば限定しないが、例えば4以上、6以上、又は8以上であってよく、20以下、18以下、16以下、10以下、8以下、又は6以下であってよい。一実施形態において、パリンドローム配列は、例えば2~20、2~10、2~6、4~20、4~10、又は4~6の塩基を含むか、これからなる。
一実施形態において、パリンドローム配列はA又はTの塩基を含む。この実施形態は、G又はCの配列のみからなるパリンドローム配列に比べて、検出感度が向上するという効果を奏し得る。パリンドローム配列の例として、限定するものではないが、AT、GC、AATT、TTAA、GGCC、CCGG、及びCAATTGが挙げられる。
核酸を増幅する工程は特に限定しない。PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、及びRPA(Recombinase Polymerase Amplification)法からなる群から選択される核酸増幅法が挙げられる。これらの方法の詳細は、本分野において公知であり、その通常の方法に従うことができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。一実施形態において、検出工程は、PCR法(例えば、定量PCR等のPCR法又はReal-time PCR法)を用いて行われる。
PCR法では、標的塩基配列を特異的に増幅可能なプライマー対を用いて標的塩基配列を有する核酸の増幅が行われる。
LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法は、プライマーとして、好ましくは少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドを用いる核酸増幅法であり、2本鎖DNA、プライマー、鎖置換型DNA polymerase、基質等を同一容器に入れ、一定温度(例えば65℃付近)で保温することにより、検出までを1ステップの工程で行う(詳細については、例えば、国際特許公開WO 00/28082号公報を参照されたい)。
SMAP(Smart Amplification Process)法は、LAMP法と類似する方法であるが、フォールディングプライマーと呼ばれる、5'側が自己相補的な配列、すなわち、相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に有する折り返し配列であるプライマーを用いる点で、LAMP法と主に相違する(詳細については、例えばMitani Y., et al., Nature Methods, vol.4, No.3, p.257-262(2007)を参照されたい)。RCA(Rolling Circle Amplification)法は、特定のDNA又はRNAポリメラーゼ、及びテンプレートとして環状DNAを用い、短いDNA又はRNAプライマーにより、長い一本鎖DNA又はRNAを増幅する等温酵素反応である(詳細については、例えば、Ali MM. et al., Chem. Soc. Rev.,2014, 21; 43(10): 3324-41を参照されたい)。
RPA(Recombinase Polymerase Amplification)法は、PCRの通常の熱変性ステップの代わりをする2つの重要なタンパク質:大腸菌RecAリコンビナーゼ及び一本鎖DNA結合蛋白質(SSB)を用いる(詳細については、例えば、Daher RK. et al., Clin. Chem., 2016, 62(7):947-58を参照されたい)。リコンビナーゼは、一本鎖オリゴヌクレオチド・プライマー及びプローブと核タンパク質フィラメントを形成する。このフィラメントは、相同配列を探してターゲットの二重らせん構造のDNA(dsDNA)を走査し、一旦相同性が見つかるとフィラメントはdsDNAに侵入してDNA鎖が局部的に分かれたDループ構造を形成し、そこで相補鎖はSSBによって安定化され、ターゲット鎖はプライマーとハイブリッドする。核タンパク質フィラメントからのリコンビナーゼの分解は、RecAタンパク質を加水分解するATPによって引き起こされ、鎖置換DNAポリメラーゼによるプライマー伸長を可能にする。新しく生成されたDNA鎖は、次のRPAラウンドに使用される。
核酸増幅を行うために用いるポリメラーゼの種類は特定しない。本発明者は、本明細書に記載の方法を適用することで、酵素の種類に関係なく、一塩基ミスマッチを検出し得ることを示している。
一実施形態において、核酸増幅は、一塩基ミスマッチを検出可能な、遺伝子改変型又は天然の耐熱性DNAポリメラーゼを用いて行う。このような酵素を用いることにより、特定の一塩基の検出感度をさらに向上させることができる。一塩基ミスマッチを検出可能なDNAポリメラーゼは当業者に公知であり、例えばDrum, M. et al., 2014, PLoS One, 9, e96640に記載のHiDi DNAポリメラーゼ、又は当該文献に記載された変異に対応する変異を他のDNAポリメラーゼに導入することによって作製することができる。具体的には、Drum, M. et al., 2014(上掲)には、Taq DNA polymeraseのクレノー断片の立体構造において、プライマー鎖のリン酸骨格と直接コンタクトする塩基性アミノ酸(アルギニンとリジン)が塩基配列の識別に関連しうることが示されており、解析の結果、それらのうち、1アミノ酸置換体(R660V)が最も酵素活性が高くかつ一塩基ミスマッチを検出できることを示している。したがって、これらの変異、例えばR660V、又はこれらに対応する変異を耐熱性DNAポリメラーゼ(例えば公知の耐熱性DNAポリメラーゼ)に導入することによって、一塩基ミスマッチを検出可能なポリメラーゼを作製することができる。ここで、上記変異に対応する塩基は、複数のDNAポリメラーゼの塩基配列を、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるように整列(アラインメント)することによって、例えば上記660位と対応する位置を決定することにより特定することができる。
(検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程)
一実施形態において、本発明の方法は、(iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも多い場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程を含む。本工程では、工程(i)及び工程(ii)で増幅された核酸が定量され、検出核酸と対照核酸の量の比較に基づいて、検出核酸に特定の一塩基が存在するか否かが識別され得る。
本明細書において、「定量」とは、絶対定量、半定量、他の試料に対する相対的な量の定量、及び定性的な産物の有無の決定も包含する。
増幅産物を定量する方法は当業者に公知であり、例えば、蛍光増幅法、電気泳動法、リン酸定量法、原子吸光法、吸光度測定等、例えば電気泳動又は蛍光増幅に基づいて核酸を定量することができる。例えば、電気泳動法では、核酸をアガロースゲル等の媒体上に電気泳動し、泳動後の媒体を染色剤(例えば、エチジウムブロマイド等のインターカレート剤又はSYBR Green)を用いて核酸を染色し、その染色強度に基づいて増幅産物の量を定量することができる。また、蛍光増幅法では、例えば、二本鎖DNA結合蛍光色素を加えてPCRを行い、PCRを行うと同時に蛍光の強さを計測することによって、核酸の濃度を定量することができる。あるいは、蛍光色素及びクエンチャーで修飾した、標的塩基配列に結合可能なプローブを用いることもできる。この場合、伸長反応ステップでプローブが分解されると、蛍光色素がクエンチャーと分離されて蛍光を発するため、核酸増幅反応の進行に従って蛍光が増幅される。この蛍光の強度に基づいて、核酸増幅物の量を定量することができる。
本明細書において、(i)の検出核酸を増幅する工程、及び(ii)対照核酸を増幅する工程の順番は問わず、同時であっても別々であってもよい。同時に行うことにより、検出条件を同一にし、検出核酸と定量核酸の増幅産物の差をより正確に特定することができる。別々に行う場合、(i)の検出核酸を増幅する工程は、(ii)対照核酸を増幅する工程の前又は後に行うことができ、それぞれの工程を複数回行うことによってより検出精度を高めることができる。また、対照核酸の増幅産物、例えば複数回の増幅産物の結果(例えばその平均値)を閾値とし、この閾値と検出核酸の増幅産物との比較を行うこともできる。
本明細書に記載の特定の一塩基の有無の識別方法は、上記工程(i)~(iii)以外の方法を含んでもよい。例えば、上記工程(i)の前に、検出核酸及び/又は対照核酸の希釈系列を調製する工程を含んでもよい。当該工程を行い、複数の希釈物を後の工程に供することにより、検出感度が十分でない場合であっても、検出核酸と対照核酸の増幅産物の量の差をより明瞭に検出することができる。
一態様において、本発明は、核酸における特定の一塩基の有無の識別方法であって、
(i)特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸を増幅する工程、
(ii)対照核酸を、上記(i)において用いたのと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び
(iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも少ない場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する工程を含む方法に関する(本明細書において、「ネガティブスクリーニング法」とも記載する)。
本ネガティブスクリーニング法における、工程(i)及び工程(ii)は、本明細書に記載のポジティブスクリーニング法について記載した工程(i)及び工程(ii)と同様である。本ネガティブスクリーニング法は、工程(iii)において、検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも少ない場合に、検出核酸に特定の一塩基が存在すると識別する点において、本明細書に記載のポジティブスクリーニング法とは異なる。
本ネガティブスクリーニング法は、プライマーと対照核酸及び検出核酸との対応関係が、本明細書に記載のポジティブスクリーニング法の当該対応関係とは逆になる。すなわち、本ネガティブスクリーニング方法では、プライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸の対応領域と同一であり、かつ、検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一でない(検出核酸に特定の一塩基が存在しない場合、プライマーの3'末端の一塩基は検出核酸の対応領域と同一である)。また、本ネガティブスクリーニング方法では、対照核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含まず、検出核酸に特定の一塩基が存在する場合、検出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含む(検出核酸に特定の一塩基が存在しない場合、出核酸は、前記プライマーの3'末端側と対応する領域において前記パリンドローム配列を含まない)。本ネガティブスクリーニング法の各構成の詳細については、ポジティブスクリーニング法において記載したのと同様である。
3.ゲノム編集方法
一態様において、本発明は、細胞に対してゲノム編集を行う工程、本明細書に記載の方法にしたがって、細胞の核酸中の特定の一塩基の有無を識別する工程、及び特定の一塩基の有無の識別結果に基づいて、ゲノム編集が行われた細胞を選択する工程、を含む、ゲノム編集された細胞を生産する方法、又はゲノム編集方法に関する。
細胞は、動物細胞又は植物細胞であれば限定しない。動物細胞の由来となる生物種は、例えば、哺乳動物(例えばヒト及びアカゲザル等の霊長類、ラット、マウス、及びドブネズミ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物、並びにカンガルー、コアラ、ウォンバット等の有袋類及びカモノハシ、ハリモグラ等の単孔類が挙げられる)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ハト、ダチョウ、エミュー、オウム、及びセキショクヤケイ等)、爬虫類(トカゲ、ワニ、ヘビ、カメ等)、両生類(アフリカツメガエル及びネッタイツメガエル、サンショウウオ、アホロートル等)、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュ、キンギョ、フナ、コイ、サケ、マス、ウナギ、ナマズ、スズキ、タイ、ヒラメ、マグロ、ブリ、カツオ、サメ等)、軟体動物類(タコ、イカ、アワビ、サザエ、アコヤガイ、ハマグリ、アサリ、カタツムリなど)、棘皮動物類(ウニ、ナマコ、ヒトデ等)、甲殻類(カニ、エビ、シャコ、ザリガニ、ヤドカリ等)、昆虫類(カイコ、クワコ、オオミノガ、チャミノガ、ショウジョウバエ、ミツバチ、クマバチ、アリ、テントウムシ、コオロギ、バッタ、カブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシ、ゴキブリ、シロアリ等)、刺胞動物(ヒドラ、クラゲ、サンゴ等)が挙げられ、好ましくはヒト等の哺乳動物である。植物細胞の由来となる生物種は限定されず、例えば、単子葉植物及び双子葉植物を含む被子植物、裸子植物、コケ植物、シダ植物、草本植物及び木本植物等いずれの植物細胞であってもよい。植物細胞の由来の具体例としては、例えば、イネ科(イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガム、アワ、ヒエ、シコクビエ、トウジンビエ、ハトムギ、キビ、サトウキビ、ヨシ及びマダケ等)、アブラナ科(シロイヌナズナ、アブラナ、ブロッコリー、ワサビ、及びキャベツ等)、ナス科(ナス、トマト、タバコ、トウガラシ、及びジャガイモ等)、ウリ科(キュウリ、メロン、スイカ、ヒョウタン等)、ヒガンバナ科(ネギ、タマネギ、ニンニク等)、マメ科(ダイズ、アズキ、レンゲ、カンゾウ、クズ、センナ、キバナオウギ、アラビアゴムノキ、シタン等)、キンポウゲ科(オウレン等)、アカネ科(クチナシ、コーヒーノキ等)、サトイモ科(サトイモ、コンニャク、ハンゲ、カラスビシャク等)、ヤマノイモ科(ヤマノイモ、ナガイモ等)、ヒルガオ科(サツマイモ、アサガオ等)、トウダイグサ科(キャッサバ、パラゴムノキ等)、セリ科(ニンジン、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、センキュウ、ボウフウ等)、タデ科(イヌタデ、ソバ、ダイオウ等)、クワ科(クワ、カジノキ等)、ヒユ科(アマランサス、ケイトウ等)、スベリヒユ科(スベリヒユ、マツバボタン等)、アオイ科(オクラ、ハイビスカス等)、キク科(ヒマワリ、キクイモ、アーティチョーク、ホソバオケラ、オオバナオケラ等)、ミズキ科(サンシュユ等)、バラ科(バラ、モモ、ナシ、リンゴ、イチゴ等)、ミカン科(ミカン、ユズ、サンショウ、キハダ等)、ブドウ科(ブドウ、ヤマブドウ等)、ボタン科(ボタン、シャクヤク等)、ゴマノハグサ科(アカヤジオウ等)、シソ科(シソ、ハッカ、ローズマリー、コガネバナ等)、モクセイ科(レンギョウ等)、キキョウ科(キキョウ等)、マタタビ科(マタタビ、サルナシ、キウイフルーツ等)、オモダカ科(サジオモダカ等)、ジャノヒゲ(ジャノヒゲ等)、カキノキ科(カキノキ、コクタン等)、ラン科(シュンラン、バニラ等)、バショウ科(バショウ、バナナ等)、ウコギ科(タラノキ、オタネニンジン等)、クスノキ科(シナニッケイ、アボカド等)、クロウメモドキ科(ナツメ等)、ブナ科(ブナ、ナラ、クリ等)、ムクロジ科(ムクロジ、トチノキ等)、アサ科(麻(ヘンプ)等)、イラクサ科(苧麻(ラミー)等)、キジカクシ科(サイザルアサ、アガヴェ等)、ウルシ科(ヤマウルシ、ハゼノキ、マンゴー等)、カバノキ科(シラカンバ、ダケカンバ等)、ヤナギ科(ネコヤナギ、シダレヤナギ等)、コショウ科(コショウ等)、パイナップル科(パイナップル等)、パパイア科(パパイア等)、ニクズク科(ニクズク等)、ケシ科(ケシ等)、ヤシ科(ココヤシ、アブラヤシ等)、マツ科(アカマツ、エゾマツ等)、マオウ科(マオウ)、イチョウ科(イチョウ等)、シダ植物(ワラビ、スギナ、ヘゴ等)、コケ植物(ゼニゴケ、ツノゴケ、マゴケ、スギゴケ等)の植物が挙げられる。これら細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、及び凍結細胞のいずれであってもよい。
本方法の対象細胞は、例えば哺乳動物細胞、例えば幹細胞であってもよい。本明細書において「幹細胞」とは、別種の細胞又は様々な種類の細胞に分化することができる能力と、自己複製能力の両方を有する細胞を指す。幹細胞は、幹細胞のみからなる細胞集団であってもよいし、幹細胞を豊富に含む細胞集団であってもよい。例えば幹細胞の例として哺乳動物の場合、骨髄、血液、皮膚、腸、神経、及び脂肪等の生体組織に存在する未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞といい、その例としてミューズ細胞が挙げられる)、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等を含む。このような幹細胞は、自体公知の方法によって作製することができるが、所定の機関より入手でき、また市販品を購入することもできる。
ゲノム編集を行う工程(以下、「ゲノム編集工程」とも記載する)では、例えばゲノムDNA中のSNP/SNV等の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列をSNP/SNV等の変異型塩基配列に置換することができる。或いは、例えばゲノム上の特定の部位において、特定の遺伝子、遺伝子群、又はこれらに付随する天然又は人工的塩基配列群をノックイン又はノックアウト等してもよい。また、ゲノム編集工程では、複数の遺伝子座を大規模に欠損させてもよく、特定遺伝子又は遺伝子群の全部又は一部を別の染色体上に転座させてもよく、特定遺伝子を他染色体上に加えて重複させたり、同一染色体上で隣接する位置に縦型重複させてもよい。
本明細書において、「野生型」とは同種塩基配列のアレル集団内において自然界に最も多く存在し、かつそれがコードするタンパク質又はノンコーディングRNAが機能を有する場合には、その本来の機能を有するアレルをいう。本明細書において、変異の種類には、置換、挿入、欠失、構造多型(重複、転座、逆位、縦列反復、コピー数多型)が挙げられる。
一実施形態において、SNP、SNV、Indel、SV等の変異型塩基配列は疾患の原因となり得る。疾患の種類は、変異型塩基配列が原因となり得る疾患であれば限定しないが、例えば多発性内分泌腺腫症2B型(multiple endocrine neoplasia type2A(MEN2B))、多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A)、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)、栄養障害型表皮水疱症(DEB)、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndrome(HBOC))、Li-Fraumeni症候群(LFS)、Cowden症候群、リンチ症候群、家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis(FAP))、副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(HPT-JT)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis(ALS))、筋緊張性ジストロフィー(Myotonic Dystrophy1(DM1))、家族性パーキンソン病、遺伝性アルツハイマー病、マルファン症候群、変容性骨異形成症(metatropic dysplasia)、進行性骨化性線維異形成症、新生児期発症多臓器系炎症性疾患(neonatal-onset-multi-system inflammatory disease(NOMID))、FGFR3軟骨異形成症、II型コラーゲン異常症、von-Hippel-Lindau病(VHLD)、シトリン欠損症(Citrin deficiency)、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(Transthyretin-type Familial Amyloid Polyneuropathy)、ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick type C(NPC))、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie Tooth disease)、テイサックス病(Tay-Sachs disease)、Williams症候群、Duchenne 筋ジストロフィー、Smith-Magenis症候群、カーニー複合(Carney Complex)、APP変異に起因するアルツハイマー病、Potocki-Lupski症候群、Prader-Willi症候群、Angelman症候群、ダウン症候群、XX男性症候群(SRY)、統合失調症(chr 11)、バーキットリンパ腫、Hemophilia A、Hunter症候群、Emery-Dreifuss筋ジストロフィー、FMR1変異に起因する脆弱X症候群、ハンチントン病、脊髄小脳失調等であってよい。
本明細書において、「ゲノム編集」とは、ゲノム上の標的部位を特異的に切断及び編集する技術を指す。ゲノム編集では、配列特異的な切断が可能である部位特異的ヌクレアーゼ(Site Specific Nuclease, SSN)(本明細書では、「ゲノム編集タンパク質」とも記載する)、例えば、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)、CRISPR/Cas9(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats CRISPR)/CRISPR-associated protein 9)、CRISPR/Cpf1(CRISPR from Prevotella and Francisella 1)又はZFN(zinc finger nuclease)及びその改変体等が用いられる。SSNには、CRISPR/Cas系の他の菌由来のアナログ(SaCas9、ScCas9、FnCpf1等)、又は別のCasタンパク群(Cas12a、Cas12b、C2c1、C2c2、C2c3等)とその改変体群も含まれる。標的認識能が正確で、一塩基置換を識別できる部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)を用いることが好ましく、その例として、TALEN及びその改変体(例えば、Platinum TALEN)、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)及びその改変体(例えば、高忠実性改変体として、eSpCas9-1.0/-1.1、SpCas9-HF1/HF2/HF3/HF4、HypaCas9、xCas9が挙げられる)並びにSpCas9のPAM改変体(SpCas9(VQR)、SpCas9(EQR)、SpCas9(VRER)、SpCas9(D1135E)、及びSpCas9(QQR1)等)、Staphylococcus aureus Cas9(SaCas9)及びその改変体(例えば、SaCas9HF及びSaCas9(KKH))、Streptococcus canis Cas9(ScCas9)及びその改変体(例えば、ScCas9HF)、Acidaminococcus sp. Cpf1(AsCpf1)及びその改変体(例えば、AsCpf1(RR)、AsCpf1(RVR))、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cpf1(LbCpf1)及びその改変体(例えば、LbCpf1(RR)及びLbCpf1(RVR))、Francisella novicida Cpf1(FnCpf1)及びその改変体(例えば、FnCpf1(RR)、FnCpf1(RVR))、並びに、Moraxella bovoculi 237(Mb)Cpf1及びその改変体(例えば、MbCpf1(RR)及びMbCpf1(RVR))等が挙げられる。
ゲノム編集では、上記ヌクレアーゼ等により切断されたDNAは、相同組換え又は非相同末端連結により修復されるが、このときに目的の遺伝子を改変することが可能である。ゲノム編集において標的認識能が正確なヌクレアーゼ、例えばAsCpf1を用いることによって、目的の細胞が得られる精度を高めることができる。
ゲノム編集タンパク質がCRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1又は別のCasタンパク群等である場合、ゲノム編集(切断)を行うためには、ゲノム編集タンパク質に加えて、crRNA(又はガイドRNA)を同時に導入する必要がある。
ゲノム編集タンパク質がCRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1又は別のCasタンパク群等である場合、ゲノム編集(意図された置換、挿入又は欠失等)を行うためには、ゲノム編集タンパク質、crRNA(又はガイドRNA)に加えて、テンプレートDNA(ssODN、dsDNA等)を同時に導入する必要がある。
ゲノム編集工程には、一般的なSSNとテンプレートDNAを用いたゲノム編集法に加えて、Cytosine Base Editor(CBE)又はAdenine Base Editor(ABE)を用いた塩基置換も含まれる。CBEとはG-C塩基対からT-A塩基対への一塩基転位を可能にするCRISPR/Casタンパクをベースにした人工酵素である。用い得るタンパク質として、CBE並びにその改変体及び類似体(例えばBE1、BE2、BE3、HF-BE3、BE4、BE4max、BE4-gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-BE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaBE3、SaBE4、SaBE4-Gam、Sa(KKH)-BE3、Cas12a-BE、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、A3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRISPR-X)等が挙げられる。一方、ABEとはA-T塩基対からG-C塩基対への一塩基転位を可能にするCRISPR/Casタンパクをベースにした人工酵素である。用い得るタンパク質として、ABE並びにその改変体及び類似体(例えば、TAM、CRISPR-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE.7.10*、xABE、ABESa、VQR-ABE、VRER-ABE、Sa(KKH)-ABE)等が挙げられる。
また、ゲノム編集タンパク質、(及び任意に上記crRNA)に加えて、ゲノム編集が行われた細胞を選択するための抗生物質耐性等の選択マーカーを細胞に導入してもよい。
ゲノム編集タンパク質(及び任意に選択マーカー)は、これらをコードする核酸を含むベクターの形態で細胞に導入されてもよい。ゲノム編集タンパク質をコードする核酸に加えて、任意に選択マーカーをコードする核酸及び/又はcrRNAは、同一のベクター上に含まれていてもよいし、複数の異なるベクター上に含まれていてもよい。また、ベクターは、例えば切断後のDNAに取り込まれ得る改変用テンプレートとしての一本鎖DNA又は二本鎖DNA、例えば一本鎖オリゴデオキシヌクレオチドと共に細胞内に導入してもよい。ベクターは、公知の方法により細胞に導入することができ、例えば導入方法の例として、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、PEG-リン酸カルシウム法、ポリエチレンイミン(PEI)仲介トランスフェクション、及びマイクロインジェクション法、ウイルスベクター法等が挙げられる。
本態様の方法は、本明細書に記載の方法にしたがって、細胞の核酸中の特定の一塩基の有無を識別する工程、及び特定の一塩基の有無の識別結果に基づいて、ゲノム編集が行われた細胞を選択する工程を含む。
一実施形態において、本発明の方法は、ゲノム編集工程後、上記選択工程の後又は前に、選抜工程を含んでもよい。選抜工程は、例えばゲノム編集工程と同時に抗生物質耐性等の選択マーカーを細胞に導入し、この抗生物質耐性等の存在下で細胞を培養することにより行うことができる。抗生物質としては、例えばピューロマイシン、ネオマイシン、ブラストサイジン、ハイグロマイオシン、及びゼオシンが挙げられ、その種類及び濃度は当業者であれば適宜設定することができる。また、選抜工程における培養条件は、当業者であれば適宜設定することができ、例えば培養期間は、1日~7日、2日~5日、又は2日~3日とすることができる。
一態様において、本発明は、本明細書に記載のゲノム編集された細胞を生産する方法によって得られる細胞、例えばゲノム編集がなされた細胞に関する。一態様において、本発明は、上記ゲノム編集がなされた細胞を含む医薬組成物、例えば疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物、並びに疾患の治療及び/又は予防のための当該細胞の使用に関する。
また、一態様において、本発明は、本明細書に記載のゲノム編集方法によってゲノム編集がなされた細胞を得る工程、及び得られた細胞を用いて疾患を治療及び/又は予防する工程を含む、疾患の治療方法に関する。
これらの態様における疾患の治療及び/又は予防は、例えば、ゲノム編集がなされた細胞を増殖、及び必要に応じて分化させ、これを対象に投与又は移植することにより行うことができる。この実施形態において、ゲノム編集を行う細胞は、対象における拒絶反応を低減するため、対象から得られる幹細胞とすることができる。
これらの態様において、治療及び/又は予防がなされ得る対象は、ヒトであってもよい。また、疾患は、SNP、SNV、Indel、SV等の変異が原因となり得る疾患であれば限定せず、本明細書に記載された疾患であってよい。
<材料と方法>
1. プライマーの設計
プライマーの設計は、HiDi DNA polymerase(myPOLS, Germany)のデータシートに従った。
具体的には、プライマーペア(一塩基検出プライマー(SNプライマー)と共通プライマー)は60~200 bpのアンプリコンを増幅できるように設計した。プライマーの設計は一般的なルールに従うが、特に重要なポイントはGC contentを40~60%の範囲におさめることである。SNプライマー(フォワード又はリバースプライマーのいずれかを使用)は、プライマーの3’末端の一塩基がSNマーカーと対応するように設計した。使用したプライマーの塩基配列は表1に示す。
Figure 0007325039000001
2. テンプレートの準備(ssODNの構築)
Human RET exon 16付近のgenomic DNAに相当する99 merのSingle-stranded oligodeoxynucleotides(ssODN)(PAGE精製グレード)又は75merのssODN(HPLC精製グレード)を用いた。使用したssODNテンプレートの塩基配列を表1に示す。これらのssODN(100 nM)を原液として、10-1 から10-10までの10倍希釈による段階的希釈系列を作成した。
3. PCR反応液の組成
3.1 HiDi DNA Polymerase
組成は、HiDi DNA polymerase(myPOLS, Germany)のデータシートに準拠した。具体的には、一反応あたりの反応液の体積は10 μLとした。フォワードプライマー、リバースプライマーの最終濃度は それぞれ0.2 μMとした。dNTPsの最終濃度は200 μMとした。HiDi bufferの最終濃度は 1xとした。HiDi DNA polymeraseの最終濃度は2.5 Unit/reactionとした。
3.2 GoTaq DNA polymerase
組成は、GoTaq Green Master Mix(Promega, USA)のデータシートに準拠した。具体的には、一反応あたりの反応液の体積は10 μLとした。フォワードプライマー、リバースプライマーの最終濃度は それぞれ0.2 μMとした。MasterMixの最終濃度は1xとした。
3.3 Tks Gflex DNA polymerase
組成は、Tks Gflex DNA polymerase(TAKARA-BIO, Japan)のデータシートに準拠した。具体的には、一反応あたりの反応液の体積は 10 μLとした。フォワードプライマー、リバースプライマーの最終濃度は それぞれ0.2 μMとした。Gflex PCR Bufferの最終濃度は 1xとした。DNA polymeraseの最終濃度は 1.25 Unit/ 50 μLとした。
4. PCRプログラム
4.1 HiDi DNA polymerase
増幅プログラムはHiDi DNA polymerase(myPOLS, Germany)のデータシートに従い一部改変した。プログラムは以下の通りである:1.最初の変性、95℃/2 min;2.変性、95℃/15 sec;3.アニーリング、63-69℃/10 sec;4.伸長、70℃/30 sec;5.上記2-4の反復35-37 サイクル;6. ホールド<10℃。
4.2 GoTaq DNA polymerase
増幅プログラムはGoTaq Master Mix(Promega, USA)のデータシートに従い一部改変した。プログラムは以下の通りである:1.最初の変性、95℃/2 min;2.変性、95℃/1 min;3.アニーリング、65-68℃/1 min;4.伸長、70℃/30 sec;5.上記2-4の反復、39 サイクル;6. ホールド<10℃。
4.3 Tks Gflex DNA polymerase
増幅プログラムはTks Gflex DNA polymerase(TAKARA-BIO, Japan)のデータシートに従った。プログラムは以下の通りである:1.変性、98℃/10 sec;2.アニーリング、65-68℃/15 sec;3.伸長、68℃/30 sec;4.上記1-3の反復、37 サイクル;5.ホールド<10℃。
5 ゲノム編集
5.1 AsCpf1_RR及びCRISPR RNA(crRNA)の設計と構築
ピューロマイシン耐性遺伝子を有するAsCpf1-RR変異体のall-in-oneベクターを作製するために、AsCpf1-RR及びcrRNA骨格を含むpY211哺乳動物発現ベクター(Gao, L. et al., 2017, Nat. Biotechnol., 35, 789-792)(Addgene plasmid ナンバー89352をDr. Feng Zhangから譲り受けた)を用いた。ここで、3×HAタグは、3×HAタグ、T2AペプチドcDNA、及びSGFP2 cDNAに置換した。手短には、3×HA及びT2AフラグメントをssODNのアニーリングにより構築し、SGFP2 cDNAをpSGFP2-C1(Addgene plasmid ナンバー22881をDr. Dorus Gadellaから譲り受けた)から増幅させた。pY211ベクターをBamHI/EcoRIにより切断した。最後に、全ての断片を、In-Fusion HD Cloning kit(Clontech/TAKARA-BIO)を用いて融合させた。得られたプラスミドを、pY211-T2Gと名付けた。その後、ピューロマイシン耐性遺伝子に対応するcDNAを、pSIH-H1-Puro vector(Addgene plasmid ナンバー26597をDr. Frank Sinicropeから譲り受けた)から増幅し、SpeI/EcoRI部位でpY211-T2Gベクターに融合させた。最終的なall-in-oneベクターは、pY211-puroと名付けた。
crRNAは、以前記載された通りに、マニュアルで設計した(Gao, L. et al.、上掲)。RETエキソン16又はCOL7A1エキソン78を標的とするcrRNAガイド配列テンプレートは、BbsIで消化したpY211-puroベクターに、以前記載された通りにクローニングした(Gao, L. et al.、上掲)。
5.2 iPS細胞の構築
iPS細胞は、CytoTune-iPS 2.0 Sendai Reprogramming Kit(ThermoFisher Scientific, USA)を用いて、製造業者のプロトコルに従って、ヒトT細胞から作製した。手短には、ヒトT細胞を末梢血サンプルから単離し、1.5×106細胞/ウェルの密度で、抗CD3抗体(eBioscience)でコートした6ウェルプレートに播種した。1日後、3×105細胞に、感染多重度(MOI)10でリプログラミング因子を有する組換えセンダイウイルス(SeV)を感染させた。2日間培養後、感染細胞を回収し100mmディッシュあたり2×104細胞で、マイトマイシンC(MMC)処理マウス胚線維芽細胞(MEF, フィーダー細胞として作用する)上に再播種した。感染の20~23日後、コロニーを採取し、ヒトiPS細胞用培地(詳細は以下の通り)で再培養した。SeVを除くため、iPS細胞を38℃で3日間培養し、1回継代した。
新規に樹立したiPS細胞(FB4-14及びB117-3細胞)の質を確かめるために、5つの多能性遺伝子(Nanog、Gdf3、Rex1、Sall4、Dnmt3B)及び4つのYamanaka因子(Oct-3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を、事前に設計したプライマーセットを用いてRT-PCRにより確かめた。
5.3 細胞
疾患遺伝子座に常染色体優性変異を有するFB4-14細胞(MEN2B-特異的iPS細胞)を用いた。この遺伝子座は、エキソン16のコドン918においてRET遺伝子に単一アレル点突然変異(TからC)を有し、これがMet918Thr置換をもたらす。
5.4 iPS細胞の培養
細胞は、MMCで処理したMEFを播種した、0.1%ゼラチンでコートした細胞培養プレートで維持し、iPS細胞用培地で37℃で5%CO2下で増殖させた。この培地は、20% KNOCKOUTTM血清代替物(KSR, Invitrogen)、2 mM L-グルタミン(Life technologies)、0.1 mM 非必須アミノ酸(NEAA, SIGMA)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(SIGMA)、0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(ナカライテスク)及び5 ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、和光)を補充したDMEM/F12(SIGMA)からなる。トランスフェクションの前に、iPS細胞をMatrigel-GFR(Corning)でコートした細胞培養プレートに移し、10 μMのROCK阻害剤を含むiPS細胞用培地をMEFでコンディショニングした培地(MEF-CM)で2日間培養した。最後に、細胞をMatrigel-GFRでコートした細胞培養プレート上でmTeSR1培地(STEMCELL Technologies)において37℃で5%CO2下で増殖させた。
5.5 トランスフェクション
iPS細胞に、pY211-puroベクター(AsCpf1-RR cDNA、CRISPR RNA、及びピューロマイシン耐性遺伝子を含むall-in-one哺乳動物発現ベクター)、及びssODNをエレクトロポレーションした。手短には、1×106細胞を10 μg pY211-puro及び15 μg ssODN(99 nt, PAGE-purified; Sigma-Aldrich)を含む100 μLのOptiMEMに再懸濁した。続いて、Super Electroporator NEPA21 Type 2(NEPA GENE, Japan)を用いて、細胞を2 mmギャップキュベット内でエレクトロポレーションした(トランスファーパルス20 V、パルス長50 ms、パルス回数5回)。エレクトロポレーション後、細胞をMatrigel-GFRコート24ウェルプレートに移し、CloneR(STEMCELL Technologies)を含むmTeSR1培地で16時間増殖させ、CloneR及びピューロマイシン(0.5 μg/mL)を含むmTeSR1培地で48時間処置し、CloneRを含むmTeSR1培地で1~2日増殖させた。その後、細胞をTrypLE(ThermoFisher Scientific, USA)で単一化し、CloneRを含むmTeSR1培地に低密度(100mmプレートに対し500~1000細胞)で播種し、クローニングした。
6. ゲノムDNAの抽出
ゲノム編集済みiPS細胞のコロニーの1/3をサンプリングし、Proteinase K抽出法によりゲノムDNAの粗分画を抽出した。具体的には、細胞サンプルを10μLのProteinase K(TAKARA-BIO, Japan)を含む溶解バッファーに再懸濁し、55℃で12時間インキュベートし、その後、Proteinase Kを1時間の85℃での熱処理により不活性化した。その後のPCR条件の詳細は、上記の通りである。
<結果>
1.パリンドローム配列における一塩基検出PCR
SNマーカーの有無に応じて、プライマーの3'末端部位と対応する部位におけるテンプレートのパリンドローム配列の有無が異なる領域において、SNマーカー特異的プライマーを設計した。本発明の一実施形態の概念を示す模式図を図1に示す。
パリンドローム配列がない部位にSNマーカーを配置した場合(プライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列:GATT、マーカー導入後のプライマーの3'末端部位に対応するテンプレート配列:GATC)、コントロールと比較した際のSNマーカーの検出可能範囲は102程度であった(図2)。一方、パリンドローム配列がある部位に、パリンドローム配列が解消されるようにマーカーを導入した場合(プライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列:AATT、マーカー導入後のプライマーの3'末端部位に対応するテンプレート配列:AATC)、コントロールと比較した際のSNマーカーの検出可能範囲は105程度であり、検出感度が顕著に向上した(図3、実施例1)。
2.異なるパリンドローム配列における一塩基検出PCR
4塩基長パリンドローム配列(AATT)を別の同じ長さのパリンドローム配列に変更した場合でも、本方法が有効かどうかを検討した。その結果、4塩基長パリンドローム配列がGGCCの場合、検出可能範囲は 103であり検出感度は大きく改善された(実施例2、図4)。4塩基長パリンドローム配列であるTTAAが別位置に存在する場合についても、検出可能範囲は104であり検出感度は大きく改善された(実施例3、図5)。これらの結果は、4塩基長の別配列、及び別位置においても本方法が有効であることを示している。
3.パリンドローム配列の長さの検討
パリンドローム配列長を減少した場合でも、本方法が有効かどうかを検討するために、まずプライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列のパリンドローム配列を2塩基長にした場合について解析した。2塩基長パリンドローム配列がATであった場合、検出可能範囲は104であり検出感度は大きく改善された(実施例4、図6)。2塩基長パリンドローム配列がGCであった場合、検出可能範囲は103であり検出感度は改善された(実施例5、図7)。次に、パリンドローム配列長を増加した場合でも、本方法が有効かどうかを検討するために、プライマーの3'末端部位に対応する原テンプレート配列の3'末端のパリンドローム配列を6塩基長にした場合について解析した。6塩基長パリンドローム配列がCAATTGであった場合、検出可能範囲は104であり検出感度は大きく改善された(実施例6、図8)。以上の通り、パリンドローム配列長が2~6塩基の範囲で本方法が有効であることが示された。
4.酵素種の検討
一塩基ミスマッチ検出用であるHiDi DNA polymerase以外の一般的なPCR用DNA polymeraseでも本方法が適用できるのかについて検討するために、2つの酵素(GoTaq DNA polymerase、及びTks Gflex DNA polymerase)について実施例1と同じテンプレート及びプライマーセットを用いて解析を行った。その結果、GoTaq DNA polymerase使用時のSNマーカー検出可能範囲は104であり、パリンドローム配列がない部位にSNマーカーを配置し、HiDi DNA polymeraseを用いた場合に比べて、検出感度は大きく改善された(実施例7、図9A)。Tks Gflex DNA polymerase使用時のSNマーカー検出可能範囲は102であり(実施例8、図9B)、この検出範囲は、パリンドローム配列がない部位にSNマーカーを配置し、HiDi DNA polymeraseを用いた場合と同様であった。GoTaq DNA polymerase、及びTks Gflex DNA polymeraseは、本来3'末端の一塩基の相違を識別できるように設計されていない。したがって、本方法を適用することによって通常のPCR酵素であっても、一塩基の相違を識別できるように改善され得ると考えられる。
これらの結果を、以下の表にまとめる。
Figure 0007325039000002
5.ゲノム編集への適用
実施例1と同じテンプレート及びプライマーセットを用いて本方法を疾患特異的iPS細胞のゲノム修復における目的クローンの一次スクリーニングにおいて適用した。具体的には、ODN_Ori99_I920sC (配列番号5)をゲノム編集により細胞に導入し、その後、フォワードプライマー(配列番号6)を用いてPCRを行い、スクリーニングをおこなったところ、パリンドローム配列がない部位にSNマーカーを配置し、HiDi DNA polymeraseを用いた場合(ODN_Ori99_I913sC (配列番号2)を導入、フォワードプライマー(配列番号3)を使用した場合)に比べて、目的クローンの陽性率が顕著に改善された(図10、1.8% -> 5.7%)。この結果は、本方法が実際のゲノム編集体のスクリーニング効率の改善等において有効であることを示している。

Claims (9)

  1. 核酸における特定の一塩基の有無の識別方法であって、
    (i)前記特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸をプライマーを用いて増幅する工程、
    (ii)前記特定の一塩基を含まない対照核酸を、上記(i)において用いた前記プライマーと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び
    (iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも多い場合に、検出核酸に前記特定の一塩基が存在すると識別する工程を含み、
    前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸において前記少なくとも一つのプライマーがハイブリダイズする領域に相補的な配列と同一ではなく、かつ、対照核酸は、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の配列がハイブリダイズする領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含み、
    検出核酸に前記特定の一塩基が存在する場合、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の一塩基は検出核酸において前記少なくとも一つのプライマーがハイブリダイズする領域に相補的な配列と同一であり、かつ、検出核酸は、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の配列がハイブリダイズする領域において前記パリンドローム配列を含まない、方法。
  2. 核酸における特定の一塩基の有無の識別方法であって、
    (i)前記特定の一塩基の有無の識別を行う検出核酸をプライマーを用いて増幅する工程、
    (ii)前記特定の一塩基を含まない対照核酸を、上記(i)において用いた前記プライマーと同一の少なくとも一つのプライマーを用いて増幅する工程、及び
    (iii)検出核酸における増幅産物が、対照核酸における増幅産物よりも少ない場合に、検出核酸に前記特定の一塩基が存在すると識別する工程を含み、
    前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の一塩基は、対照核酸において前記少なくとも一つのプライマーがハイブリダイズする領域に相補的な配列と同一であり、かつ、対照核酸は、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の配列がハイブリダイズする領域において2以上の塩基を含むパリンドローム配列を含まず、
    検出核酸に前記特定の一塩基が存在する場合、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の一塩基は検出核酸において前記少なくとも一つのプライマーがハイブリダイズする領域に相補的な配列と同一ではなく、かつ、検出核酸は、前記少なくとも一つのプライマーの3'末端の配列がハイブリダイズする領域において前記パリンドローム配列を含む、方法。
  3. 前記特定の一塩基が、人為的に導入されるマーカー塩基である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記パリンドローム配列が、A又はTの塩基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記パリンドローム配列が、2~6の塩基を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記パリンドローム配列が、4~6の塩基を含む、請求項5に記載の方法。
  7. 前記(i)及び(ii)の増幅する工程が、PCR又はリアルタイムPCRを用いる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記(i)及び(ii)の増幅する工程が伝子改変型又は天然の耐熱性DNAポリメラーゼを用い、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 単離された細胞に対してゲノム編集を行う工程、
    請求項1~8のいずれか一項に記載の方法にしたがって、前記細胞の核酸中の前記特定の一塩基の有無を識別する工程、及び
    前記特定の一塩基の有無の識別結果に基づいて、ゲノム編集が行われた前記細胞を選択する工程、
    を含む、ゲノム編集された細胞を生産する方法。
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