以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、図1~12に示すように、車両のエンジンの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)の図2中右側に取り付けられたプレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、クラッチハウジング2内を径方向に移動(転動)可能な鋼球部材から成るウェイト部材8と、連動部材9と、手動操作又はアクチュエータ(不図示)により作動可能な作動部材10とから主に構成されている。なお、図中符号Sは、スプリングダンパを示しているとともに、符号B1はローラベアリング、及び符号B2、B3はスラストベアリングをそれぞれ示している。
入力ギア1は、エンジンから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベットR等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、図2中右端側が開口した円筒状部材から成るとともに入力ギア1と連結された筐体部2aと、該筐体部2aの開口を塞ぐように取り付けられたカバー部2bとを有して構成されており、エンジンの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転し得るようになっている。
また、クラッチハウジング2における筐体部2aは、図4に示すように、周方向に亘って複数の切欠き2aaが形成されており、これら切欠き2aaに嵌合して複数の駆動側クラッチ板6が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(図2中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
さらに、クラッチハウジング2におけるカバー部2bは、図5に示すように、その底面において当該カバー部2bの径方向に延設された複数の溝部2baが形成されている。かかる溝部2baには、それぞれウェイト部材8が配設されており、クラッチハウジング2が停止した状態(エンジン停止又はアイドリング状態)及び低速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が内径側位置(図2で示す位置)とされるとともに、クラッチハウジング2が高速で回転した状態では、当該ウェイト部材8が外径側位置となるよう設定されている。
クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、クラッチハウジング2の駆動側クラッチ板6と交互に形成された複数の被動側クラッチ板7が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたものであり、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの2つの部材を組み付けて構成されている。
第1クラッチ部材4aは、図6に示すように、周縁部に亘ってフランジ面4acが形成された円板状部材から成るもので、その中央に形成された挿通孔4ad(図2、6参照)に出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されるよう構成されている。かかる第1クラッチ部材4aには、図6、9、10に示すように、圧接アシスト用カムを構成する勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する勾配面4abとが形成されている。
第2クラッチ部材4bは、図7に示すように、円環状部材から成るもので、外周面に形成されたスプライン嵌合部4ba(図2、7参照)に被動側クラッチ板7がスプライン嵌合にて取り付けられるよう構成されている。そして、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)には、図9~11に示すように、プレッシャ部材5が組み付けられ、当該プレッシャ部材5のフランジ面5c(図2、8参照)と第1クラッチ部材4aのフランジ面4ac(図2、6参照)との間に複数の駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が交互に積層状態にて取り付けられるようになっている。
プレッシャ部材5は、図8に示すように、周縁部に亘ってフランジ面5cが形成された円板状部材から成るもので、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンの駆動力を車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置(図2参照)との間で移動可能なものである。
より具体的には、第2クラッチ部材4bに形成されたスプライン嵌合部4baは、図7、9、10に示すように、当該第2クラッチ部材4bの外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン嵌合部4baを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7の第2クラッチ部材4bに対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該第2クラッチ部材4bと共に回転し得るよう構成されているのである。
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、両クラッチ板6、7は、第2クラッチ部材4bの軸方向への摺動が許容されており、プレッシャ部材5が図2中左側に移動してそのフランジ面5c及び第1クラッチ部材4aのフランジ面4acが近接すると、両クラッチ板6、7が圧接され、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4b及び第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ部材5が図2中右側に移動してそのフランジ面5c及び第1クラッチ部材4aのフランジ面4acが離間すると、両クラッチ板6、7の圧接力が解放して第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
しかして、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して車輪側に伝達するとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
さらに、本実施形態においては、図6、8、9、10に示すように、第1クラッチ部材4aには、勾配面4aa及び4abが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4aa及び4abと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aaと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4abと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
そして、エンジンの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材8が外径側位置)となったときに、図13に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ面5cが第1クラッチ部材4aのフランジ面4acに対して更に近接する方向(図2中左側)に移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるようになっている。
一方、車両が走行中、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回って、図14中b方向のバックトルクが生じた際には、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置や動力源(エンジン側)に対する不具合を回避することができる。
ウェイト部材8は、クラッチハウジング2(本実施形態においてはカバー部2b)の径方向に延設された溝部2ba内に配設され、当該クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力で当該溝部2baの内径側位置(図2参照)から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るものである。すなわち、溝部2baにおけるウェイト部材8の転動面(底面)は、内径側位置から外径側位置に向かって上り勾配とされており、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材8をレリーズスプリングmの付勢力にて内径側位置に保持させるとともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材8に遠心力が付与されて上り勾配に沿って移動させ、当該クラッチハウジング2が所定の回転数に達することにより外径側位置まで移動させるようになっている。
連動部材9は、クラッチハウジング2(カバー部材2b)内に配設された円環状部材から成るもので、カバー部材2bの内周面に形成された溝部に嵌合して連結され、当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされるとともに、図2中左右方向に移動可能とされている。かかる連動部材9は、ウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動するのに伴って、クラッチスプリング11とレリーズスプリングmの付勢力に抗して図2中左側に移動し、プレッシャ部材5を押圧して非作動位置から作動位置に移動させ得るよう構成されている。
作動部材10は、手動又はアクチュエータで操作可能な部材(図2参照)から成り、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得る方向(図2中右側)にプレッシャ部材5を移動させ得るものである。なお、作動部材10は、変速操作時、例えば車両が具備するクラッチペダルやクラッチレバー等に対する操作、或いはアクチュエータの作動により図2中右側に移動してベアリング保持部材Cを介してプレッシャ部材5と当接し、当該プレッシャ部材5を作動位置から非作動位置まで移動させることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放してクラッチをオフ(動力の伝達を遮断)させ得るようになっている。
ベアリング保持部材Cは、図2に示すように、作動部材10と連結されるとともに、当該作動部材10とプレッシャ部材5との間に介在するベアリングB1を保持するもので、図12に示すように、一端が開口した円筒状部材から成り、開口端部Caと、該開口端部Caとは反対面の頂部Cbとを有して構成されている。なお、本実施形態に係るベアリングB1は、ベアリング保持部材Cの内部における頂部Cb側に取り付けられ、拡径した部位から開口端部Caまで円筒状部位が延設されている。本実施形態に係るベアリングB1は、ボールベアリングが用いられているが、例えばニードルベアリング等、他のベアリングを用いるようにしてもよい。
さらに、本実施形態に係るベアリング保持部材Cは、図2、20に示すように、その開口端部Caがクラッチ部材(第1クラッチ部材4a)に形成された凹部4dに嵌入して取り付けられており、凹部4dの内周壁面4daに対してインロー(はめ合い嵌合)して組み付けられている。また、凹部4dは、開口端部Caの外形に倣った略同一寸法(厳密には、開口端部Caより若干大きい寸法)の円形状の窪みから成り、当該凹部4dにベアリング保持部材Cを嵌合させることにより、動力伝達装置に対する位置決め及び芯出しがなされるようになっている。
しかして、変速操作時、例えば車両が具備するクラッチペダルやクラッチレバー等に対する操作、或いはアクチュエータの作動により作動部材10が図2中右側に移動すると、ベアリング保持部材Cが連動してプレッシャ部材5と当接し、当該プレッシャ部材5を作動位置から非作動位置まで移動させることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放してクラッチをオフ(動力の伝達を遮断)させる。
レリーズスプリングmは、プレッシャ部材5を非作動位置に保持し得るとともに、連動部材9が移動してプレッシャ部材5が非作動位置から作動位置に向かって移動するのに伴って圧縮され、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接される前の締結状態(駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との離間距離がゼロとなり、且つ、圧接による動力伝達が行われる直前の状態)に達するまで連動部材9及びプレッシャ部材5の移動を許容しつつ付勢力を付与し得るものである。
さらに、本実施形態に係るレリーズスプリングmは、図21で示すように、中央部maと周縁部mbとの変位により付勢力を生じさせ得る円形状の皿バネから成り、図2、20に示すように、中央部maがベアリング保持部材Cの頂部Cbに取り付けられるとともに、周縁部mbがプレッシャ部材5に取り付けられている。なお、プレッシャ部材5は、円環状に突出した突出部5dを有しており、当該突出部5dに取り付けられたリング状部材g(例えばサークリップ等)にレリーズスプリングmの周縁部mbが係止して取り付けられている。これにより、本実施形態に係るレリーズスプリングmは、ベアリング保持部材C及びプレッシャ部材5の両部材に亘って取り付けられ、プレッシャ部材5に付勢力(図20中符号a2で示す向きの付勢力)を付与するとともに、ベアリング保持部材Cに付勢力(同図中符号a1で示す向きの付勢力)を付与して作動部材10に当該付勢力を伝達させ得るようになっている。
クラッチスプリング11は、連動部材9とプレッシャ部材5との間に介装されたコイルスプリングから成り、当該連動部材9の移動に伴いプレッシャ部材5を押圧して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向に当該プレッシャ部材5を移動させ得るとともに、作動部材10の作動時、当該プレッシャ部材5の連動部材9に対する押圧力を吸収し得るものである。
また、本実施形態に係るクラッチスプリング11は、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が上述の如き締結状態に達する前から、連動部材9が移動する過程で圧縮され、連動部材9の移動を許容しつつ駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接力を付与し得るよう構成されている。
すなわち、クラッチハウジング2の回転に伴ってウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動し、連動部材9がウェイト部材8に押圧されると、その押圧力がクラッチスプリング11を介してプレッシャ部材5に伝達され、当該プレッシャ部材5を図2中左側に移動して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、その状態にて作動部材10を作動させると、作動部材10の押圧力にてプレッシャ部材5が同図中右側に移動するものの、連動部材9に対する押圧力はクラッチスプリング11にて吸収され、当該連動部材9の位置(ウェイト部材8の位置)は保持されるのである。
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るバックトルク伝達用カム(カム面K1、T1)を有している。かかるバックトルク伝達用カムは、図6、7、9、10に示すように、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの合わせ面(組み合わせ時の合わせ面)にそれぞれ一体形成されたカム面(K1、T1)により構成されている。
カム面K1は、図6、9に示すように、第1クラッチ部材4aに形成されたフランジ面4acの内径側(第2クラッチ部材4bとの合わせ面)において、その全周に亘って複数形成された勾配面から成り、当該第1クラッチ部材4aの周縁部に沿って円環状に複数形成された溝部Kの一方の端面に形成されている。すなわち、第1クラッチ部材4aには、その周方向に亘って複数の溝部Kが形成されており、各溝部Kの一方の端面が勾配面とされてバックトルク伝達用カムのカム面K1を構成しているのである。なお、各溝部Kの他方の端面は、第1クラッチ部材4aの軸方向に延びた壁面K2とされている。
カム面T1は、図7、10に示すように、第2クラッチ部材4bの底面(第1クラッチ部材4aとの合わせ面)において、その全周に亘って複数形成された勾配面から成り、当該第2クラッチ部材4bの底面に沿って円環状に複数形成された突出部Tの一方の端面に形成されている。すなわち、第2クラッチ部材4bには、その周方向に亘って複数の突出部Tが形成されており、各突出部Tの一方の端面が勾配面とされてバックトルク伝達用カムのカム面T1を構成しているのである。なお、各突出部Tの他方の端面は、第2クラッチ部材4bの軸方向に延びた壁面T2とされている。
そして、溝部Kに突出部Tを嵌入させて第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとを組み合わせると、図17に示すように、カム面K1とカム面T1とが対峙してバックトルク伝達用カムを構成するとともに、壁面K2と壁面T2とが所定寸法離間して対峙するようになっている。しかして、出力シャフト3を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第1クラッチ部材4aが第2クラッチ部材4bに対して相対的に回転するので、図18に示すように、カム面K1とカム面T1とのカムの作用によって、第1クラッチ部材4aに対して第2クラッチ部材4bを図2、18中右側に移動させる。
一方、第2クラッチ部材4bには、図7に示すように、スプライン嵌合部4baの延長上に押圧部4bbが形成されており、当該第2クラッチ部材4bが図2中右側に移動すると、積層状態にて取り付けられた駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7のうち同図中最も左側の被動側クラッチ板7を同方向へ押圧することとなる。これにより、プレッシャ部材5が非作動位置にあっても、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができ、出力シャフト3(出力部材)から回転力が入力された際、その回転力をエンジン側に伝達させてエンジンブレーキを生じさせることができる。
特に、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムは、連動部材9に対して近接する方向(図2中右側)に第2クラッチ部材4bを移動させて当該連動部材9とウェイト部材8との当接を保持し得るよう構成されている。すなわち、バックトルク伝達用カムが作動して、第2クラッチ部材4bを図2中右側に向かって移動させると、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させるとともに、プレッシャ部材5を同方向に押圧するので、その押圧力がクラッチスプリング11を介して連動部材9に伝達され、当該連動部材9とウェイト部材8との当接が保持されるのである。
しかして、バックトルク伝達用カムの作動時、連動部材9とウェイト部材8とが離間してしまうと、その後、クラッチハウジング2の回転に伴ってウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間を移動しても、その移動に連動部材9を追従させることができない場合があるのに対し、本実施形態によれば、バックトルク伝達用カムの作動時においても、連動部材9とウェイト部材8との当接を保持させることができるので、ウェイト部材8の移動に連動部材9を安定して追従させることができる。
さらに、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムを構成するカム面K1、T1は、第2クラッチ部材4bに取り付けられた被動側クラッチ板7の円環形状に沿って複数形成されている。すなわち、バックトルク伝達用カムが作動する際、押圧部4bbにて押圧される被動側クラッチ板7の投影形状(円環形状)に沿ってカム面K1、T1が形成されているのである。これにより、バックトルク伝達用カムの作用によって、押圧部4bbが被動側クラッチ板7に対して略均等の押圧力を付与することができ、より効率的に駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができる。
またさらに、本実施形態に係るバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1で構成されるカム)は、バックトルクリミッタ用カム(勾配面4ab及び勾配面5bで構成されるカム)の作動前に作動し得る構成とされている。すなわち、カム面K1及びカム面T1の間のクリアランス(間隙寸法)は、勾配面4ab及び勾配面5bの間のクリアランス(間隙寸法)よりも小さく設定されており、バックトルクリミッタ用カムの作動前にバックトルク伝達用カムが作動し得るようになっている。
さらに、本実施形態に係る動力伝達装置においては、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、第2クラッチ部材4bに伝達された回転力をバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)を介さず第1クラッチ部材4aに伝達し得るトルク伝達部と、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、バックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)による第2クラッチ部材4bの移動量を制限する移動量制限部とを具備している。
すなわち、第1クラッチ部材4aには、図6、9に示すように、凸部Fが周方向に亘って等間隔に複数(本実施形態においては3つ)一体形成されており、第2クラッチ部材4bには、図7、9に示すように、内側に向かって延びた突出部Gが一体形成されている。そして、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが組み付けられると、図15、16に示すように、一つの凸部Fが2つの突出部Gに挟まれた状態となっており、凸部Fの一側面F1と一方の突出部Gの当接面(第1当接面G1)とが対峙するとともに、凸部Fの他側面F2と他方の突出部Gの当接面(第2当接面G2)とが対峙するよう構成されている。
しかして、第1クラッチ部材4aに形成された凸部Fの一側面F1と第2クラッチ部材4bに形成された一方の突出部Gの第1当接面G1とは、本実施形態に係るトルク伝達部を構成している。すなわち、プレッシャ部材5が作動位置に移動して駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてクラッチがオン(駆動力を伝達)すると、バックトルク伝達用カムにおける溝部Kの壁面K2と突出部Tの壁面T2との離間状態(図17参照)が保持されつつ、図15に示すように、凸部の一側面F1と突出部Gの第1当接面G1とが当接し、第2クラッチ部材4bの回転力を受けて第1クラッチ部材4aに伝達し得るのである。
また、第1クラッチ部材4aに形成された凸部Fの他側面F2と第2クラッチ部材4bに形成された他方の突出部Gの第2当接面G2とは、本実施形態に係る移動量制限部を構成している。すなわち、出力シャフト3を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが相対的に回転するので、バックトルク伝達用カムにおける溝部Kのカム面K1と突出部Tのカム面T1とのカムの作用により第2クラッチ部材4bが移動する(図18参照)。そして、その移動量が設定値に達すると、図16に示すように、凸部の他側面F2と突出部Gの第2当接面G2とが当接し、第1クラッチ部材4aに対する第2クラッチ部材4bの相対回転が規制されるので、バックトルク伝達用カムが作動した際の第2クラッチ部材4bの移動量を制限することができる。
本実施形態においては、第1クラッチ部材4aに凸部Fを形成し、第2クラッチ部材4bに突出部Gを形成しているが、これに代えて、第1クラッチ部材4bに突出部Gを形成し、第2クラッチ部材4bに凸部Fを形成するようにしてもよい。この場合、第2クラッチ部材4bに形成された凸部Fの一側面F1と第1クラッチ部材4aに形成された一方の突出部Gの第1当接面G1とは、本実施形態に係るトルク伝達部を構成するとともに、第2クラッチ部材4bに形成された凸部Fの他側面F2と第1クラッチ部材4bに形成された他方の突出部Gの第2当接面G2とは、本実施形態に係る移動量制限部を構成する。
次に、本実施形態におけるバックトルク伝達用カムの作用について説明する。
エンジンが停止又はアイドリング状態のとき、入力ギア1にエンジンの駆動力が伝達されない或いは入力ギア1の回転数が低回転であるため、図2に示すように、ウェイト部材8が内径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が非作動位置とされている。このとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
車両の停止又はアイドリング状態の後、車両が発進するとき、入力ギア1の回転数が低回転から高回転に移行(中回転域)するため、ウェイト部材8が内径側位置と外径側位置との間とされるとともに、プレッシャ部材5が作動位置とされている。このとき、下り坂でアクセルオフするなどして、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
車両が発進した後、加速し、高速域で走行するとき、入力ギア1の回転数が高回転であるため、ウェイト部材8が外径側位置とされるとともに、プレッシャ部材5が作動位置とされている。このとき、シフトダウン等により、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、バックトルク伝達用カムの作用によって、第2クラッチ部材4bが同図中右側に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されてエンジン側に回転力を伝達させる。
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、クラッチスプリング11のセット荷重がレリーズスプリングmの最大荷重より小さく設定されている。これにより、エンジンの回転数が上昇してウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動する際、連動部材9がウェイト部材8で押し付けられて移動する過程において、レリーズスプリングmが圧縮されてクラッチスプリング11のセット荷重を超えると、当該レリーズスプリングmとクラッチスプリング11が圧縮開始されるので、不感帯領域が生じてしまうのを回避できる。
次に、本実施形態に係る動力伝達装置の作用について、従来のクラッチスプリングのセット荷重がレリーズスプリングの最大荷重より大きく設定されたものと比較して説明する。
先ず、従来の動力伝達装置の作用について、図34のグラフ(連動部材9の移動量(mm)を横軸、連動部材9に対して生じる押し付け荷重(N)を縦軸としたグラフ)を用いて説明する。なお、図34のグラフ中、P1はレリーズスプリングmの撓み量(圧縮量)が最大となった時点(レリーズスプリングmの最大荷重に達した時点)の連動部材9の押し付け荷重、P2はクラッチスプリング11が撓み始める時点(クラッチスプリング11のセット荷重に達した時点)の連動部材9の押し付け荷重となっている。
エンジンの回転数が上昇してウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動することによって連動部材9が移動する過程において、当該連動部材9の移動量がα1に達するまでレリーズスプリングmが撓みつつクラッチスプリング11は撓まない状態(すなわち、連動部材9及びプレッシャ部材5が一体として移動)とされるとともに、連動部材9の移動量がα1に達すると、押し付け荷重(N)がP1からP2に上昇するものの、連動部材9が移動しなくなり、不感帯領域となる。
そのような状態から押し付け荷重(N)がP2(クラッチスプリング11のセット荷重)に達すると、クラッチスプリング11が撓み始め、連動部材9の移動に伴って押し付け荷重(N)が増加することとなる。よって、押し付け荷重(N)がP1からP2に達するまで、連動部材12及びプレッシャ部材5が停止し、P2に達した後にクラッチスプリング11の圧縮が開始され、クラッチ板(駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7)が圧接して動力が伝達されるので、動力伝達時の唐突感があった。
これに対し、本実施形態においては、クラッチスプリング11は、そのセット荷重P2がレリーズスプリングmの最大荷重P1より小さく設定されているので、図22に示すように、連動部材9が移動する過程において、レリーズスプリングmが圧縮されて撓み、当該連動部材9の移動量がα2に達すると、クラッチスプリング11のセット荷重P2に達してクラッチスプリング11が圧縮し(撓み)始める。その後、連動部材9の移動量がα1に達すると、レリーズスプリングmが最大荷重P1に達し、それ以上の圧縮(撓み)がなくなる一方、クラッチスプリング11が圧縮されて撓むこととなり、連動部材9が連続的に移動することとなる。
すなわち、本グラフによれば、エンジンの回転数が上昇してウェイト部材8が内径側位置から外径側位置に移動することによって連動部材9が移動する過程において、連動部材9の移動量がα2となるまでの間、レリーズスプリングmが継続して圧縮する(撓む)とともに、連動部材9の移動量がα2となって押し付け荷重(N)がクラッチスプリング11のセット荷重P2に達すると、レリーズスプリングmと共にクラッチスプリング11が撓み始める。その後、連動部材9の移動量がα1に達すると、レリーズスプリングmが最大荷重P1に達して撓みがなくなる一方、クラッチスプリング11の撓み(圧縮)は継続して行われることとなり、連動部材9が連続して移動することが分かる。
したがって、連動部材9の移動量がα1となる前(押し付け荷重がP1となる前)においては、連動部材9の移動量がα2となるまでの間はレリーズスプリングmが単独で撓み、及び連動部材9の移動量がα1となるまでの間はレリーズスプリングm及びクラッチスプリング11の両方が撓むので、連動部材9が連続して移動するとともに、連動部材9の移動量がα1となって押し付け荷重がレリーズスプリングの最大荷重P1に達すると、レリーズスプリングmの撓みがなくなる一方、クラッチスプリング11が継続して撓むので、連動部材9の連続的な移動を許容することができる。よって、従来の不感帯領域を低減し、ウェイト部材8及び連動部材9を円滑且つ継続的に移動させることができるので、クラッチ締結時のショックを抑制して動力伝達時の唐突感を抑制することができる。
また、本実施形態においては、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの間にスプリング等を具備していないが、例えば第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの間に緩衝部材12が配設されたものとしてもよい。この場合の緩衝部材12は、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの間に介在され、連動部材9が移動してプレッシャ部材5が非作動位置から作動位置に向かう過程で圧縮する(スプリングが撓む)ことにより連動部材9及びプレッシャ部材5の移動を許容しつつ付勢力を付与し得るものとされる。
より具体的には、かかる緩衝部材12は、クラッチスプリング11が圧縮開始する前に圧縮される荷重に設定されたスプリングから成り、図2、3、19に示すように、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bが対峙する面(具体的には、第1クラッチ部材4aにおける第2クラッチ部材4bと対峙する面)に形成された収容凹部4cに収容されて組み付けられている。
この収容凹部4cは、円環状に形成された溝から成るとともに、緩衝部材12は、当該溝形状に倣って円環状に形成された皿バネから成る。また、収容凹部4cは、図19に示すように、内径側の壁面4caと、外径側の壁面4cbとを有する溝から成り、円環状のスプリングから成る緩衝部材12が当該溝形状に倣って嵌まり込むようになっている。
しかして、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムは、既述のように、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bが対峙する面において円環状に複数形成されるとともに、収容凹部4cは、図6に示すように、バックトルク伝達用カムと隣接した位置(本実施形態においては、バックトルク伝達用カムの形成位置より内径側)に同心円状に形成されている。
このような緩衝部材12は、クラッチスプリング11が圧縮開始する前に圧縮される荷重(P3)に設定されるので、図23に示すように、連動部材9の移動量がα1となる前(押し付け荷重がP1となる前)においては、連動部材9の移動量がα2となるまでの間はレリーズスプリングmが単独で撓み、連動部材9の移動量がα3となるまでの間はレリーズスプリングm及びクラッチスプリング11の2つが撓み、その後、連動部材9の移動量がα1となるまでの間はレリーズスプリングm、クラッチスプリング11及び緩衝部材12の3つが撓むので、連動部材9が連続して移動するとともに、連動部材9の移動量がα1となって押し付け荷重がレリーズスプリングの最大荷重P1(緩衝部材12の最大荷重)に達すると、レリーズスプリングm及び緩衝部材12の撓みがなくなる一方、クラッチスプリング11が継続して撓むので、連動部材9の連続的な移動を許容することができる。よって、この場合であっても、従来の不感帯領域を低減し、ウェイト部材8及び連動部材9を円滑且つ継続的に移動させることができるので、クラッチ締結時のショックを抑制して動力伝達時の唐突感を抑制することができる。
なお、上記の如く緩衝部材12を配設する場合、収容凹部4cがバックトルク伝達用カムの形成位置より内径側に同心円状に形成されているがバックトルク伝達用カムの形成位置より外径側に同心円状に形成されていてもよく、この場合、図24に示すように、緩衝部材12は、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が積層された部位(ディスクパック)に対し、当該駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接する方向に付勢力を付与するよう構成してもよい。
本実施形態によれば、クラッチスプリング11のセット荷重がレリーズスプリングmの最大荷重より小さく設定されたので、レリーズスプリングmの圧縮及びクラッチスプリング11の圧縮が連続的に行われて連動部材9が連続的に移動することとなり、不感帯領域が生じてしまうのを回避することができ、動力伝達時の唐突感を抑制して操作性を向上させることができる。
また、連動部材9が移動してプレッシャ部材5が非作動位置から作動位置に向かう過程で圧縮することにより連動部材9及びプレッシャ部材5の移動を許容しつつ付勢力を付与し得る緩衝部材12を具備した場合、レリーズスプリングmの圧縮過程において緩衝部材12又はクラッチスプリング11が圧縮されて不感帯領域を回避することができ、動力伝達時の唐突感をより一層抑制して操作性を向上させることができる。さらに、緩衝部材12を配設する場合、その緩衝部材12は、クラッチスプリング11が圧縮開始する前に圧縮される荷重に設定されたスプリングから成るので、動力伝達時の唐突感をより確実に抑制することができる。
さらに、緩衝部材12を配設する場合、その緩衝部材12が第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bが対峙する面に形成された収容凹部4cに収容されたので、第1クラッチ部材4aに対して第2クラッチ部材4bが移動する際、緩衝部材12が巻き込まれて位置ずれが生じてしまうのを回避することができる。なお、収容凹部4cは、第1クラッチ部材4aにおける第2クラッチ部材4bと対峙する面に形成されているが、第2クラッチ部材4bにおける第1クラッチ部材4aと対峙する面に形成するようにしてもよい。
またさらに、上記した収容凹部4cは、円環状に形成された溝から成るとともに、緩衝部材12は、当該溝形状に倣って円環状に形成されたスプリングから成るので、緩衝部材12で生じた付勢力を第2クラッチ部材4b等に対して略均一に付与させることができ、付勢力を安定して付与させることができる。また、上記したバックトルク伝達用カムは、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bが対峙する面において円環状に複数形成されるとともに、収容凹部4cは、当該バックトルク伝達用カムと隣接した位置に同心円状に形成されたので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動と、緩衝部材12による付勢力の付与とを確実且つ安定して行わせることができる。
加えて、本実施形態に係るベアリング保持部材Cは、一端が開口した円筒状部材から成り、その開口端部Caがクラッチ部材(第1クラッチ部材4a)に形成された凹部4dに嵌入して取り付けられた(インロー状態にて取り付けられた)ので、ベアリング保持部材Cの組み付けを容易に行わせることができるとともに、変速操作時に安定してベアリング保持部材Cを動作させることができる。
また、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接される前の締結状態に達するまで連動部材9及びプレッシャ部材5の移動を許容しつつプレッシャ部材5に付勢力を付与し得るレリーズスプリングmを具備して構成され、当該レリーズスプリングmは、ベアリング保持部材C及びプレッシャ部材5の両部材に亘って取り付けられ、プレッシャ部材5に付勢力を付与するとともに、ベアリング保持部材Cに付勢力を付与して作動部材10に当該付勢力を伝達させ得るので、レリーズスプリングmによって、変速操作手段の遊びを防止するスプリングを兼用させることができ、部品点数を削減できる。
さらに、本実施形態に係るレリーズスプリングmは、中央部maと周縁部mbとの変位により付勢力を生じさせ得る円形状の皿バネから成り、中央部maがベアリング保持部材Cに取り付けられるとともに、周縁部mbがプレッシャ部材5に取り付けられたので、ベアリング保持部材Cとプレッシャ部材5との両方に安定してレリーズスプリングmの付勢力を付与させることができる。
またさらに、本実施形態に係るクラッチ部材は、出力シャフト3(出力部材)と連結される第1クラッチ部材4aと、被動側クラッチ板7が取り付けられる第2クラッチ部材4bと、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムとを有するとともに、凹部4dは、第1クラッチ部材4aに形成されたので、ベアリング保持部材Cがバックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動を妨げてしまうのを回避でき、ベアリング保持部材Cの動作と、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動とをそれぞれ円滑に行わせることができる。
なお、上記実施形態によれば、バックトルク伝達用カムは、連動部材9に対して近接する方向に第2クラッチ部材4bを移動させて当該連動部材9とウェイト部材8との当接を保持し得るので、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、エンジンブレーキを生じさせた際のウェイト部材8による作動を安定して行わせることができる。
また、本実施形態に係るバックトルク伝達用カムは、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれに一体形成されたカム面(K1、T1)にて構成され、当該カム面(K1、T1)は、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの合わせ面にそれぞれ形成されたので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材2bの移動を確実且つ円滑に行わせることができる。
さらに、第1クラッチ部材4aに形成された勾配面4aaとプレッシャ部材5に形成された勾配面5aとを対峙させて構成され、入力ギア1(入力部材)に入力された回転力が出力シャフト3(出力部材)に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるための圧接アシスト用カムを具備したので、遠心力によるウェイト部材8の移動に伴う圧接力に加えて圧接アシスト用カムによる圧接力を付与させることができ、より円滑かつ確実に駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることができる。
またさらに、第1クラッチ部材4aに形成された勾配面4abとプレッシャ部材5に形成された勾配面5bとを対峙させて構成され、出力シャフト3(出力部材)の回転が入力ギア1(入力部材)の回転数を上回って当該クラッチ部材(第1クラッチ部材4a)とプレッシャ部材5とが相対的に回転したとき、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムを具備したので、ウェイト部材8が外径側位置にあるとき、入力ギア1を介してエンジン側に過大な動力が伝達されてしまうのを回避することができるとともに、バックトルクリミッタ用カムの作動前にバックトルク伝達用カムを作動させる構成とされたので、バックトルク伝達用カムによる作動を確実に行わせることができる。
加えて、本実施形態によれば、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムと、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、第2クラッチ部材4bに伝達された回転力をバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)を介さず第1クラッチ部材4aに伝達し得るトルク伝達部とを具備したので、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させることにより車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができるとともに、ウェイト部材8が外径側位置に移動してプレッシャ部材5が作動位置に移動するときの動力伝達を安定して行わせることができる。
また、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bにそれぞれ形成され、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動量を制限する移動量制限部を具備したので、バックトルク伝達用カムによる第2クラッチ部材4bの移動を設定された範囲内にて行わせることができる。
さらに、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの何れか一方に凸部Fが形成されるとともに、トルク伝達部は、当該凸部Fの一側面F1と該一側面F1と当接して回転力を受け得る第1当接面G1とから成るとともに、移動量制限部は、当該凸部Fの他側面F2と該他側面F2と当接して移動量を制限し得る第2当接面G2とから成るので、トルク伝達部及び移動量制限部の機能を凸部Fが兼用して行わせることができる。
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば図25、26に示すように、クラッチハウジング2の筐体部2aにウェイト部材8を移動可能に配設したものに適用してもよい。かかる動力伝達装置は、上記実施形態と同様、第1クラッチ部材4a、第2クラッチ部材4b及びバックトルク伝達用カムを有するとともに、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの間に緩衝部材12が介在して構成されている。
また、図25においては、第1クラッチ部材4aにおける第2クラッチ部材4bと対峙する面に緩衝部材12が取り付けられた実施形態を示すとともに、図26においては、第1クラッチ部材4aにおける駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が積層された部位(ディスクパック)に対し付勢力を付与する緩衝部材12が取り付けられた実施形態を示している。なお、ベアリング保持部材C’は、作動部材10’により移動可能とされるとともに、レリーズスプリングm’は、ベアリング保持部材C’及びプレッシャ部材5の両部材に亘って取り付けられたコイルスプリングから成るものとされている。
さらに、皿バネから成る緩衝部材12に代えて、他の弾性部材としてもよく、例えば図27に示すように、ウェーブスプリングから成る緩衝部材12’が収容凹部4cに配設されたものであってもよい。かかるウェーブスプリングは、図28、29に示すように、円環形状の一部に切欠き部12’aを有したC字状部材から成り、厚み方向tに対して波形(ウェーブ形状)に形成されて弾力を生じ得るもので、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bとの間に介在され、連動部材9が移動してプレッシャ部材5が非作動位置から作動位置に向かう過程で圧縮することにより連動部材9及びプレッシャ部材5の移動を許容しつつ付勢力を付与し得るよう構成されている。
なお、同図で示される動力伝達装置において、ベアリング保持部材Cは、その側壁に連通孔Ccが複数(本実施形態においては3つ)形成されており、オイル流路rを介してベアリング保持部材C内に供給されたオイルを外部に流出させ得るようになっている。また、作動部材10”は、ベアリング保持部材CのローラベアリングB1に係止され、運転者の操作やアクチュエータの作動によって同図中左右方向に移動することにより、プレッシャ部材5を作動位置と非作動位置との間で移動可能とされている。
一方、本実施形態に係る作動部材10”は、図27に示すように、引っ張り型とされ、手動又はアクチュエータで作動する際、同図中右側に移動してベアリングB1を同方向に引っ張ることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得るものとされている。なお、図27に示す動力伝達装置の緩衝部材12に代えて、図30に示すように、皿バネから成る緩衝部材12’を具備したものとしてもよい。
またさらに、図31に示すように、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの外周縁部にバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)が配設されたものであってもよい。かかる動力伝達装置によれば、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bの外周縁部にバックトルク伝達用カムが配設されるので、カムの作用を大きくすることができ、第2クラッチ部材4bの移動力(推力)を大きく設定できる。
なお、図31においては、緩衝部材12、12’が配設されていない動力伝達装置が示されているが、バックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)の内径側に皿バネから成る緩衝部材12が配設されたもの(図32参照)、又はバックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面T1)の内径側にウェーブスプリングから成る緩衝部材12’が配設されたもの(図33参照)であってもよい。
また、本実施形態においては、ベアリング保持部材Cは、一端が開口した円筒状部材から成り、その開口端部Caがクラッチ部材(第1クラッチ部材4a)に形成された凹部4dに嵌入して取り付けられているが、他の形状のベアリング保持部材であってもよく、クラッチ部材に形成された凹部に嵌合する形態(所謂インロー)とは相違する取付構造であってもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。