JP7306438B2 - 防汚層付きガラス基体及び表示装置用前面板 - Google Patents

防汚層付きガラス基体及び表示装置用前面板 Download PDF

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Description

本発明は、防汚層付きガラス基体及び表示装置用前面板に関する。
従来、スマートフォン、タブレットPC、カーナビゲーション装置の表示装置等に用いられるタッチパネルや表示パネルの前面板として、カバーガラスが用いられている。これらタッチパネルや表示パネルは使用時に人間の指等が触れるため、指紋、皮脂、汗等による汚れが付着しやすい。そして、これらの汚れは付着すると落ちにくく、汚れが付着した部分とそうでない部分とでの光の散乱や反射の違いによって目立つため、視認性や美観を損ねるという問題があった。そのため、これらのカバーガラスとして、人間の指等が触れる部分に含フッ素有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成したガラス基体を用いる方法が知られている。
防汚層には、汚れの付着を抑制するために、高い撥水・撥油性が求められるとともに、付着した汚れの繰り返しの払拭に対する耐摩耗性が求められており、従来から防汚層の耐久性を高める方法が検討されていた。
防汚層の耐久性を高めた防汚層付きガラス基板として、凹凸形状を有するガラス基板の表面に防汚層を形成した防汚層付きガラス基板(例えば、特許文献1参照。)や、ガラス基板と防汚層との間に低反射膜を備えた防汚層付きガラス基板(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。このように、防汚層付きガラス基体については、防汚層の耐摩耗性の向上が求められていた。
国際公開第2014/119453号 国際公開第2014/129333号
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、防汚層の耐摩耗性に優れる防汚層付きガラス基体の提供を目的とする。
本発明は、以下の1~12に関する。
1.相互に対向する一対の主面を有するガラス基体の一方の主面に、炭素含有材料からなる粘着剤を前記ガラス基体の外周の少なくとも一部から外方に露出させて付着させることと、
前記粘着剤が付着した状態で、前記ガラス基体の他方の主面に酸化ケイ素を含む材料を成膜して密着層を形成することと、
前記密着層の表面に防汚層を形成することと、を含み、
前記成膜の方法は真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法からなる群から選ばれる少なくとも1の方法である、防汚層付きガラス基体の製造方法。
2.前記密着層の前記防汚層と接する層は、酸化ケイ素を主体とし、炭素原子を5×1018~5×1019atoms/cmの濃度で含有する、前記1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
3.前記粘着剤を前記ガラス基体の前記他方の主面の面積に対して1~50面積%露出させる、前記1または2に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
4.前記粘着剤を前記ガラス基体の外周の全部から露出させる、前記1~3のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
5.前記粘着剤がシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤またはポリウレタン系粘着剤である、前記1~4のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
6.前記ガラス基体の前記一方の主面側に前記粘着剤を介してキャリア基材を貼り付けることを含み、
前記キャリア基材の材質はガラス、ポリエチレンテレフタラート樹脂またはポリイミド樹脂である、前記1~5のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
7.前記ガラス基体に前記粘着剤および前記キャリア基材が付着した状態で前記防汚層を形成する、前記6に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
8.前記成膜の方法がスパッタリング法である、前記1~7のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
9.1~8の層を積層して前記密着層を形成する、前記1~8のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
10.窒化ケイ素、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選ばれる1種類以上を含む材料を成膜することと、
酸化ケイ素を含む材料を成膜することと、を交互に行って前記密着層を形成する、前記1~9のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
11.含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を硬化させて前記防汚層を形成する、前記1~10のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
12.前記ガラス基体の前記他方の主面に防眩処理を施すことを含む、前記1~11のいずれか1に記載の防汚層付きガラス基体の製造方法。
本発明によれば、防汚層の耐摩耗性に優れる防汚層付きガラス基体を提供できる。
実施形態の防汚層付きガラス基体を概略的に示す断面図である。 他の実施形態の防汚層付きガラス基体を概略的に示す断面図である。 粘着剤およびキャリア基材を貼り付けた状態のガラス基体を概略的に示す平面図である。 粘着剤およびキャリア基材を貼り付けた状態のガラス基体の他の態様を概略的に示す平面図である。 図4に示すガラス基体のA-A線断面図である。 防汚層を形成するための装置の一例を概略的に示す図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
[防汚層付きガラス基体]
図1は、実施形態の防汚層付きガラス基体を概略的に示す断面図である。図1に示す防汚層付きガラス基体1は、相互に対向する第一の主面2と、第二の主面3と、第一の主面2と第二の主面3とを接続する端面4とを有するガラス基体5を備えている。
防汚層付きガラス基体1は、ガラス基体5の第一の主面2上に、密着層6および防汚層7をその順に備えている。また、防汚層付きガラス基体1は、第二の主面3の周縁部に印刷層8を備えている。印刷層8は必須ではなく、必要に応じて備えられる。
密着層6は、その防汚層7と接する層(以下「接触層」ともいう。)が、酸化ケイ素を主体とし、炭素原子が5×1018~5×1019atoms/cmの濃度で炭素を含
有する含炭素酸化ケイ素層である。
防汚層付きガラス基体1においては、密着層6の接触層である含炭素酸化ケイ素層に含有される、炭素原子の濃度が上記した範囲であることで、密着層6を介して防汚層7をガラス基体5に強固に密着させて、防汚層7に優れた耐摩耗性を付与できる。
防汚層7は、例えば、後述する含フッ素有機ケイ素化合物等の含フッ素加水分解性ケイ素化合物が、ガラス基体の第一の主面2上に形成された密着層6表面で以下のように加水分解縮合反応して形成されるものであり、撥水性や撥油性を有することで防汚層として機能する。本明細書において、含フッ素加水分解性ケイ素化合物とは、ケイ素原子に加水分解可能な基または原子が結合した加水分解性シリル基を有し、さらにそのケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物をいう。なお、前記ケイ素原子に結合して加水分解性シリル基を構成する加水分解可能な基または原子を併せて、「加水分解性基」という。
すなわち、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解性シリル基が、加水分解によりシラノール基となり、さらにこれらが分子間で脱水縮合して-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合を生成することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される。含フッ素有機ケイ素化合物被膜において、シロキサン結合のケイ素原子に結合する前記含フッ素有機基のほとんどは、密着層6側の被膜表面付近に存在し、この含フッ素有機基の作用により、撥水性や撥油性の発現が可能となる。この際、シラノール基は、防汚層7が形成される被成膜面である密着層6の防汚層7側の表面、すなわち酸化ケイ素層の表面の、水酸基と、脱水縮合反応により化学結合して、シロキサン結合を介して接着した点を形成する。このように、防汚層付きガラス基体1において、防汚層7が密着層6を介してガラス基体5に強固に付着されているため、防汚層付きガラス基体1は優れた防汚性を有する。
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、ケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物であって、シラノール基を有した含フッ素ケイ素化合物であってもよく、この場合にも上記と同様の効果が得られる。
次に、本発明の実施形態に係る防汚層付きガラス基体1の各構成について詳細に説明する。
(ガラス基体5)
実施形態の防汚層付きガラス基体1に用いられるガラス基体5は、一般に防汚層による防汚性の付与が求められているガラス基体であれば特に限定されず、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えばソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基体を使用できる。
ガラス基体5は、物理強化処理もしくは化学強化処理により強化されていることが好ましく、化学強化処理されていることがより好ましい。
ガラス基体5のガラスの組成は、成形、化学強化処理による強化が可能な組成であることが好ましく、ナトリウム、リチウムなどのイオン半径の小さいアルカリ金属を含んでいることが好ましい。このようなガラスとして、具体的に例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等を用いることが好ましい。
本実施形態で用いられるガラス基体5のガラス組成としては、特に限定されず、種々の組成を有するガラスを使用できる。ガラス組成として、例えば、以下のガラス組成(いずれも、アルミノシリケートガラスである。)が挙げられる。
(i)モル%で表示した組成で、SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~10%、NaOを0~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%
、CaOを0~5%およびZrOを0~5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiOを50~74%、Alを1~10%、NaOを6~14%、KOを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrOを0~5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiOを68~80%、Alを4~10%、NaOを5~15%、KOを0~1%、MgOを4~15%およびZrOを0~1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiOを67~75%、Alを0~4%、NaOを7~15%、KOを1~9%、MgOを6~14%およびZrOを0~1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71~75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
本実施形態で用いられるガラス基体5としては、視認性を妨げない程度であれば着色成分(Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、及びNdの金属酸化物)を含有するガラスを使用してもよい。
ガラス基体5の製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500~1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。
なお、ガラス基体5の成形方法についても特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を使用できる。
ガラス基体5の形状は、図示するような平坦な形状のみでなく、一か所以上の屈曲部を有するガラスのような曲面を有する形状であってもよい。最近では、画像表示装置を備える各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。
ガラス基体5が曲面を有する形状である防汚層付きガラス基体1は、このような画像表示装置用として有用である。例えば、屈曲部を有する断面コ字状のガラスを使用して防汚層付きガラス基体1を作製し、携帯電話などの前面板として使用した場合、使用者が防汚層付きガラス基体1に触れる頻度が増加する。これにより、防汚層が徐々に取れてしまい、汚れ付着抑制効果が低下してしまう。本発明の防汚層付きガラス基体1であれば耐摩耗性に優れ、前記用途に有用である。
ガラス基体5が曲面を有する場合、ガラス基体5の表面は、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。表面全体が曲面で構成される場合の例として、たとえば、ガラス基材の断面が円弧状である場合が挙げられる。
ガラス基体5が曲面を有する場合、前記面の曲率半径(以下、「R」ともいう。)は、防汚層付きガラス基体1の用途、ガラス基体5の種類等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、25000mm以下であることが好ましく、1mm~5000mmがより好ましく、5mm~3000mmが特に好ましい。Rが前記の上限値以下であれば、平板に比較し、意匠性に優れる。Rが前記の下限値以上であれば、曲面表面へも均一に防汚層7を形成できる。
ガラス基体5の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。ガラス基体5の厚さは、0.1mm~5mmであることが好ましく、0.2mm~2mmであることがより好ましく、0.5mm~2mmであることがさらに好ましい。ガラス基体5の厚さが5mm以下であれば、ガラス基体5に、後述する化学強化処理を行う場合に、これを効果的に実施でき、軽量化と強度とを両立できる。化学強化処理を効果的に行う点からは、ガラス基体5の厚さは3mm以下であることがより好ましい。また、ガラス基体5の厚さが1mm以上であれば、タッチパネルに用いた場合に、優れた強度を得られる。ガラス基体5の厚さを2mm以下にすれば、タッチパネルに用いた場合に、優れた感度が得られる。
本実施形態の防汚層付きガラス基体1において、用いられるガラス基体5の第一の主面2は、防汚層付きガラス基体1に防眩性を付与するための凹凸形状を有することが好ましい。
凹凸形状は、例えば、防眩処理およびエッチング処理によって付与される。凹凸形状を有する第一の主面2の形状としては、表面粗さは、二乗平均粗さ(RMS)で、10~1500nmであることが好ましく、15nm~1000nmであることがより好ましく、10nm~500nmであることがさらに好ましく、10nm~200nmであることがとくに好ましい。RMSが上記した範囲であることで、凹凸形状を有する第一の主面2のヘイズ値を3~30%に調整でき、その結果、得られる防汚層付きガラス基体1に優れた防眩性を付与できる。
なお、二乗平均粗さ(RMS)はJIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定できる。RMSの測定方法として具体的には、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 商品名:VK-9700)により、試料である防眩処理後のガラス基体5の測定面に対して、300μm×200μmの視野範囲を設定し、ガラス基体5の高さ情報を測定する。測定値に対して、カットオフ補正を行ない、得られた高さの二乗平均を求めることでRMSを算出できる。当該カットオフ値としては0.08mmを使用することが好ましい。ヘイズ値は、JIS K 7136の規定により測定される値である。
また、凹凸形状を有する第一の主面2を上方から観察すると、円形状の孔が観察される。このように観察される円形状の孔の大きさ(真円換算での直径)は5μm~50μmであることが好ましい。このような範囲にあることにより、防汚層付きガラス基体1のギラツキ防止性と防眩性を両立可能である。
また、ガラス基体5は、防汚層付きガラス基体1の強度を高めるために、化学強化処理が施されていることが好ましい。化学強化処理が施されたガラス基体5は、例えば、表面圧縮応力(CS)が450MPa~1200MPa、応力層の深さ(DOL)が10μm~50μmである。
(密着層6)
密着層6は、上述したように、ガラス基体5の第一の主面2表面に備えられる。密着層6は、単層または複数の層が積層された積層体からなる。密着層6の防汚層7と接する層は、酸化ケイ素を主体とし、5×1018atoms/cm~5×1019atoms/cmの濃度で炭素原子を含有する含炭素酸化ケイ素層である。密着層6の防汚層7と接する層が、上記した範囲の含炭素酸化ケイ素層であることで、防汚層7が密着層6を介してガラス基体5に強固に密着されるため、防汚層付きガラス基体1は優れた耐摩耗性を有する。含炭素酸化ケイ素層は、6×1018atoms/cm~4×1019atoms/cmの濃度で炭素原子を含有することが好ましい。
含炭素酸化ケイ素層は、後述する低反射膜における、酸化ケイ素(SiO)を材料と
した低屈折率層と同様の方法を用いて形成できる。例えば、後述のように、ガラス基体5の第二の主面3上の印刷層8の表面に、炭素含有材料からなる粘着剤をガラス基体5の外周から露出させて付着させた状態で、密着層6を構成する酸化ケイ素層の形成を行う。これにより、酸化ケイ素層を形成する際の、加熱やプラズマダメージによって、粘着剤の、上記ガラス基体5の外周から露出された部分より炭素含有材料に含まれる炭素成分が揮発し、酸化ケイ素層中に取り込まれる。このようにして、炭素原子が上記所定の割合で含有された含炭素酸化ケイ素層を形成できる。この際の、炭素原子の含有量は、上記ガラス基体5の外周から露出された粘着剤の面積等を変更することで調節できる。
また、上述したように、加熱やプラズマに晒されることで、粘着剤に含まれる炭素成分が揮発して、酸化ケイ素層に取り込まれることから、粘着剤を構成する材料を選択することで、炭素以外の元素、例えば、フッ素(F)等を、酸化ケイ素層中に取り込ませた層を形成することも可能である。また、粘着剤以外の、酸化ケイ素層中に取り込ませようとする元素を含む材料を用い、当該材料が熱やプラズマに晒される状態で、酸化ケイ素層を形成すれば、当該元素を取り込んだ酸化ケイ素層を形成できる。
また、密着層6は、積層体からなる場合、後述する低屈折率層と高屈折率層が積層され、防汚層7と接する層が含炭素酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率層として構成される低反射膜としても構成できる。この場合、当該低反射膜は、積層体からなる密着層6として機能する。
なお、ここでいう「主体」とは、該主体成分の、防汚層7との密着性以外の物性が変化しない程度に、主体成分に不純物(炭素原子を除く。)が含まれていてもよいことを意味する。例えば、密着層6が低反射膜として機能する場合には、防汚層7と接する層として使用される酸化ケイ素の屈折率は炭素原子を含有しない場合、通常1.43~1.50であるが、屈折率が1.40~1.53、好ましくは1.45~1.52となる程度に不純物を含んでもよい。
密着層6の防汚層7と接する層における表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることより好ましく、1.5nm以下であることがさらに好ましい。Raが、3nm以下であれば、布等が防汚層7の凹凸形状に沿って変形できるため、防汚層7表面全体に略均一に荷重がかかる。そのため、防汚層の剥がれが抑制され、耐摩耗性が向上されると考えられる。
なお、算術平均粗さ(Ra)は、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、基準面からの絶対値偏差を平均した値である。Raは0に近いほど、完全な平滑面に近いことを示す。Raは、例えば、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定できる。Raの測定方法として具体的には、走査型プロープ顕微鏡(型式:SPA400、セイコーインスツル社製)により、試料である密着層6形成後のガラス基体5の測定面に対して、3μm×3μmの視野範囲を設定し、ガラス基体5の平面プロファイルを測定する。測定された平面プロファイルから、Raを算出できる。
なお、密着層の算術平均粗さ(Ra)を測定する際には、第一の主面2が凹凸形状を有する場合、当該凹凸形状を拾わないように測定領域を設定すればよい。前述の円形状の孔の径や二乗平均粗さ(RMS)が前述の好ましい範囲にあれば、測定領域を例えば凹凸の稜線を除く領域に設定するなどして、密着層のRaを測定することが可能である。
ガラス基体5の第一の主面2が凹凸形状を有する場合、密着層6の防汚層7と接する層における二乗平均粗さ(RMS)は、下限値として10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。上限値として1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより
好ましく、500nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。RMSが前記範囲であれば、防汚層7の剥がれが抑制され耐摩耗性が向上されるだけでなく、ギラツキ防止性や防眩性も両立できる。凹凸形状のRMSの測定に際しては、上述の密着層6の算術平均粗さ(Ra)の測定とは反対に、測定領域に円形状の孔が十分多く含まれるように測定領域を選べばよい。また、上述のように、密着層6や防汚層7の表面粗さは十分平滑なので、密着層6や防汚層7がある状態で、上記の方法で測定されたRMSの値は、凹凸形状のRMSと同値であると考えてよい。
また、後述するように、防汚層7の膜厚が2nm~20nm程度である場合、防汚層7の厚さが薄いため、防汚層7の表面の凹凸構造は、密着層6の表面形状がそのままトレースされて形成される。そのため、防汚層7の算術平均粗さ(Ra)は、密着層6の、Raと同視できる。また、防汚層7の二乗平均粗さ(RMS)も、密着層6のRMSと同視できる。したがって、密着層6の表面粗さ(RaまたはRMS)を、防汚層7形成後の防汚層付きガラス基体1のRaまたはRMSにより測定できる。ただし、ガラス基体5の第一の主面2が凹凸形状を有する場合、防汚層7のRaまたはRMSの測定に際して、当該凹凸形状が測定されないように、例えば、1μm×1μmの領域程度の微細な領域を選択して測定する等、測定領域を選定することが好ましい。
(低反射膜)
低反射膜とは、反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、画像表示装置に使用した場合には、画像表示装置からの光の透過率を向上でき、画像表示装置の視認性を向上できる膜のことである。
本実施形態の防汚層付きガラス基体1は、第一の主面2と防汚層7の間に、低反射膜を備えることが好ましい。低反射膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成とすることができる。また、低屈折率層1層のみの構成でもよい。
低反射膜における高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
低反射性を高めるためには、低反射膜は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、例えば該積層体は全体で2層以上8層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上6層以下の層が積層されていることがより好ましく、2層以上4層以下の層が積層されていることがさらに好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層、低屈折率層各々の層数を合計したものが上記範囲であることが好ましい。
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される低反射性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、窒化ケイ素(Si)から選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択された1種以上を好ましく使用できる。
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種からなる層であり、低屈折率層が酸化ケイ素からなる層である構成が好
ましい。
(防汚層7)
防汚層7とは、表面への有機物、無機物の付着を抑制する膜、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。
防汚層7は、密着層6の表面上に備えられる。防汚層7としては、例えば、撥水・撥油性を有することで、得られる防汚層付きガラス基体1に防汚性を付与できるものであれば特に限定されないが、含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応させることで硬化さ
せて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
また、防汚層7の厚さは、特に限定されないが、防汚層7が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、第一の主面2上の膜厚で、2nm~20nmであることが好ましく、2nm~15nmであることがより好ましく、2nm~10nmであることがさらに好ましい。第一の主面2上の膜厚が2nm以上であれば、防汚層7によってガラス基体5の第一の主面2上が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、第一の主面2上の膜厚が20nm以下であれば、防汚層7が形成された状態での防汚層付きガラス基体1のヘイズ値等の光学特性が良好である。
含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する方法としては、パーフルオロアルキル基;パーフルオロ(ポリオキシアルキレン)鎖を含むフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の組成物を、ガラス基体5の第一の主面2上に形成された密着層6の表面に、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布した後必要に応じて加熱処理する方法、または含フッ素有機ケイ素化合物を密着層6の表面に気相蒸着させた後必要に応じて加熱処理する真空蒸着法等が挙げられる。密着性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を得るには、真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法による含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を用いて行うことが好ましい。
被膜形成用組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、真空蒸着法による被膜形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。被膜形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、および、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、用いる部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、真空蒸着が可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)
本発明の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してま
たは直接結合する含フッ素有機基として存在する。市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)として、KP-801(商品名、信越化学工業社製)、X-71(商品名、信越化学工業社製)、KY-130(商品名、信越化学工業社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、KY-195(商品名、信越化学工業社製)、Afluid(登録商標)S-550(商品名、旭硝子社製)、オプツ-ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY-185、KY-195、オプツ-ルDSX、S-550を用いることがより好ましい。
なお、市販品の含フッ素加水分解性ケイ素化合物について、これが溶剤とともに供給される場合には、溶剤を除去して使用される。本発明に用いる、被膜形成用組成物は、上記含フッ素加水分解性ケイ素化合物と必要に応じて添加される任意成分を混合することで調製され、真空蒸着に供される。
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を、密着層6表面に付着させ反応させて成膜することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。なお、具体的な真空蒸着方法、反応条件については従来公知の方法、条件等が適用可能である。
図1に示す防汚層付きガラス基体1においては、密着層6および防汚層7は、第一の主面2上のみに設けられているが、さらに端面4上に備えられていてもよい。例えば、密着層6および防汚層7は、ガラス基体5の第一の主面2から端面4にわたる領域に備えられていてもよい。この場合、密着層6および防汚層7が、それぞれの機能を発揮し得る態様で、第一の主面2および端面4上の大部分に備えられる。これにより、端面4でのマイクロクラックの発生を抑制し、防汚層付きガラス基体1に高い強度を付与できる。
また、密着層6および防汚層7は、ガラス基体5の第一の主面2に加え、端面4上にも備えられる場合、端面4上に、密着層6または防汚層7のいずれか一方が備えられていてもよい。図2は、端面4上の一部において、密着層6を介さずに直接防汚層7が備えられた防汚層付きガラス基体の一例を示す図である。このように、端面4上においては、防汚層7は密着層6上になく、直接防汚層7が形成されていてもよく、また、防汚層7は端面の一部に形成されていても、全部に形成されていてもよい。この場合には、防汚層7によって端面4でのマイクロクラックが抑制されるため、防汚層付きガラス基体1に高い強度を付与できる。
なお、密着層6および防汚層7はそれぞれ、ガラス基体5の第二の主面3側の最表面の外周近傍までに限り、連続して配設されていてもよい。この場合には、防汚層付きガラス基体1にさらに高い強度を付与できる。
(印刷層8)
印刷層8は、例えば、表示の視認性と美観を高める目的で、携帯機器の表示装置の外周近傍に配置された配線回路や、携帯機器の筺体と防汚層付きガラス基体1の接着部等を隠ぺいするように必要に応じて備えられる。ここで、周縁部とは、外周から中央部に向かって、所定の幅を有する帯状領域を意味する。印刷層8は、第二の主面3の周縁全周に備えられていてもよく、周縁一部に備えられていてもよい。
防汚層付きガラス基体1が印刷層8を備える場合、印刷層8は、例えば、上記配線回路や接着部を隠ぺい可能な幅で適宜設定できる。また、印刷層8の色は特に限定されず、目
的に応じて所望の色を選択可能である。印刷層8は、インクを印刷する方法等により形成される。
インクとしては、特に限定されず、形成する印刷層8の色に応じて選択できる。インクとして例えば、セラミックス焼成体等を含む無機系インク、染料または顔料のような色料と有機樹脂を含む有機系インクのいずれを用いてもよい。
例えば、印刷層8を黒色で形成する場合、黒色の無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等が挙げられる。黒色の印刷層8は、前記セラミックスとシリカからなるインクを溶融し、所望のパターンで印刷した後、乾燥して得られる。この無機系インクは、溶融、乾燥工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
有機系インクは、所望の色の染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、透明ABS樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。
上記無機系インクおよび有機系インクのなかでは、乾燥温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
[防汚層付きガラス基体の物性]
(水接触角)
防汚層付きガラス基体1の水接触角は、90°~130°であることが好ましく、100°~120°であることがより好ましい。水接触角が上記した範囲であることで、防汚層付きガラス基体1は優れた防汚性を発揮する。なお、水接触角は、水に対する接触角の値であり、例えば、防汚層付きガラス基体1の第一の主面2の最表面に約1μLの純水の水滴を着滴させて、接触角計で測定できる。
[防汚層付きガラス基体の製造方法]
次に、防汚層付きガラス基体1の製造方法について説明する。上記の密着層6および防汚層7を備える防汚層付きガラス基体1は、例えば、以下に説明するように製造される。まず、ガラス基体5の第二の主面3側に粘着剤を介してキャリア基材が貼り付けられる。さらに、キャリア基材が貼り付けられた状態で、第一の主面2上に、密着層6および防汚層7が順に形成されて防汚層付きガラス基体1が製造される。
防汚層付きガラス基体1の製造方法において、粘着剤およびキャリア基材が貼り付けられる前に、ガラス基体5は、第一の主面2に防眩処理および化学強化処理が施されることが好ましい。さらに、ガラス基体5の第二の主面3側には、必要に応じて印刷層8が形成される。
以下、本発明の防汚層付きガラス基体1の製造方法の各工程について説明する。
(防眩処理)
防眩処理としては、防眩性を付与し得る凹凸形状を形成できる方法であれば特に限定されず、公知の方法を使用できる。防眩処理として例えば、ガラス基体5の第一の主面2に化学的な方法、あるいは物理的な方法で表面処理を施し、所望の表面粗さの凹凸形状を形成する方法を使用できる。また、防眩処理として、ガラス基体5の第一の主面に防眩膜用の塗布液を塗布あるいは噴霧して、ガラス基体5上に防眩膜を堆積させて、凹凸形状を付与してもよい。
化学的な方法による防眩処理として具体的には、フロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基体5を浸漬することで行われる。
また、物理的方法による防眩処理として例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基体5の表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせて、これを用いてガラス基体5表面を研磨する方法等で行われる。
なかでも、化学的表面処理であるフロスト処理は、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、ガラス基体5の強度の低下が生じ難いため、好ましく利用できる。
さらに、防眩処理を施したガラス基体5の第一の主面2に対して、その表面形状を整えるためのエッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理としては、例えば、ガラス基体5を、フッ化水素の水溶液であるエッチング溶液に浸漬して、化学的にエッチングする方法を使用できる。エッチング溶液には、フッ化水素以外にも、塩酸、硝酸、クエン酸などの酸が含有されていてもよい。エッチング溶液に、これらの酸を含有させることで、ガラス基体5に含有されるNaイオン、Kイオン等の陽イオン成分とフッ化水素との反応による、析出物の局所的な発生を抑制できるほか、エッチングを処理面内で均一に進行させられる。
エッチング処理を行う場合、エッチング溶液の濃度や、エッチング溶液へのガラス基体5の浸漬時間等を調節することで、エッチング量を調節し、これによりガラス基体5の防眩処理面のヘイズ値を所望の値に調整できる。また、防眩処理を、サンドブラスト処理等の物理的表面処理で行った場合、クラックが生じることがあるが、エッチング処理によってこのようなクラックを除去できる。また、エッチング処理によって、防汚層付きガラス基体1のギラツキを抑えるという効果も得られる。ガラス基体5は、所望の大きさに切断される場合、上記防眩処理を行った後、次の化学強化処理を行う前に切断されることが好ましい。
防眩処理として、防眩膜用の塗布液を塗布する方法としては、公知のウェットコート法(スプレーコート法、静電塗装法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等)等
を使用できる。
中でもスプレーコーティング法や静電塗装法(静電スプレー法)は防眩膜を堆積する優れた方法として挙げられる。防眩膜用の塗布液を用いてスプレー装置によりガラス基体5に処理することで防眩膜を形成でき、ガラス基体5の防眩処理ができる。スプレーコーティング法によれば、広い範囲でヘイズ値などを変更できる。これは塗布液の塗布量、材料構成を自由に変えることで要求特性を得るのに必要な凹凸形状を比較的に容易に作製できるためである。特に静電塗装法(静電スプレー法)はより好ましい。
防眩膜用の塗布液には、粒子を含んでもよい。粒子としては金属酸化物粒子、金属粒子、顔料系粒子、樹脂系粒子などを使用できる。
金属酸化物粒子の材料としては、Al、SiO、SnO、TiO、ZrO、ZnO、CeO、Sb含有SnO(アンチモン含有酸化スズ、ATO)、Sn含有In(ITO)、RuO等が挙げられる。屈折率がマトリックスと同じため、SiOが好ましい。
金属粒子の材料としては、金属(Ag、Ru等)、合金(AgPd、RuAu等)等が挙げられる。
顔料系粒子としては、無機顔料(チタンブラック、カーボンブラック等)、有機顔料が挙げられる。
樹脂粒子の材料としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラニン樹脂等が挙げられる。
粒子の形状としては鱗片状、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、不定形状等が挙げられる。他の粒子は、各粒子が独立した状態で存在していてもよく、各粒子が鎖状に連結していてもよく、各粒子が凝集していてもよい。
粒子は、中実粒子でもよく、中空粒子でもよく、多孔質粒子等の穴あき粒子でもよい。
鱗片状粒子としては、鱗片状シリカ(SiO)粒子、鱗片状アルミナ(Al)粒子、鱗片状チタニア(TiO)、鱗片状ジルコニア(ZrO)等が挙げられ、膜の屈折率上昇を抑え、反射率を下げられる点から、鱗片状シリカ粒子が好ましい。
他の粒子としては、球状シリカ粒子、棒状シリカ粒子、針状シリカ粒子等のシリカ粒子が好ましい。中でも、防眩膜付き基材のヘイズが充分に高くなり、かつ防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度が充分に低くなり、その結果、防眩効果が充分に発揮される点から、球状シリカ粒子が好ましく、多孔質球状シリカ粒子がより好ましい。
静電塗装法では、静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて、防眩膜用塗布液を帯電させて噴霧する。静電塗装ガンから噴霧された防眩膜用塗布液の液滴は、マイナス電荷を帯びているため、接地されたガラス基材に向かって静電引力によって引き寄せられる。そのため、帯電させずに噴霧する場合に比べて、ガラス基体5上に効率よく付着する。
防眩処理方法は1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。例えば、エッチング処理、塗布液を用いたスプレーコーティング法などによる防眩処理は、通常それぞれ単独で実施するが、併用しても構わない。
(化学強化処理)
化学強化処理方法としては、特に限定されず、ガラス基体5の表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、ガラス基
体5の表面のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス基体5の表面に圧縮応力が残留し、ガラス基体5の強度を向上させる。
(印刷層8の形成)
その後、ガラス基体5の第二の主面3側に例えばインクが印刷され、印刷層8が形成される。印刷層8の形成は必須ではなく、必要に応じて適宜行われる。印刷法としては、バ
ーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基材に印刷でき、またガラス基体5のサイズに合わせて印刷可能であることから、スクリーン印刷法が好ましい。印刷層8は複数の層を積層した複層からなってもよく、単一の層からなってもよい。印刷層8が複層からなる場合、印刷層8は、上記インクの印刷、乾燥を繰り返すことで形成できる。
(粘着剤、キャリア基材の貼り付け)
次いで、印刷層8の形成されたガラス基体5の第二の主面3上に、炭素含有材料からなる粘着剤を付着させ、さらに、当該粘着剤の表面にキャリア基材を貼り付ける。この際、粘着剤は、ガラス基体5の外周から露出させるように配置されることが好ましい。
図3に、粘着剤9およびキャリア基材10を貼り付けた際の、ガラス基体5に対する粘着剤9およびキャリア基材10の配置の一例を概略的に示す。図3では、ガラス基体5の第二の主面3上の印刷層8の表面に、帯状の粘着剤9が付着され、この粘着剤9を介してキャリア基材10が貼り付けられている。
図3では、粘着剤9は、その長手方向の両端が、ガラス基体5の外周から露出させて配置されている。そして、ガラス基体5の外周から粘着剤9を露出させた状態で、後述するように、密着層6を構成する酸化ケイ素層の成膜を行う。これにより、酸化ケイ素層を形成する際の、加熱やプラズマによって、粘着剤9の上記ガラス基体5の外周から露出された部分より炭素含有材料が揮発し、酸化ケイ素層中に取り込まれて、含炭素酸化ケイ素層が形成される。
粘着剤9の形状は特に限定されず、図3に示す帯状の他、鉤型状等の形状であってもよい。また、粘着剤9は、連続的または断続的のいずれの態様でガラス基体5上に付着されていてもよい。
また、図3に示すガラス基体5は、印刷層8を有しているため、粘着剤9は、印刷層8の表面に貼り付けているが、ガラス基体5上に印刷層8を有しない場合には、粘着剤9は、第二の主面3に直接貼り付けられる。
また、ガラス基体5に対する粘着剤9およびキャリア基材10の配置は、粘着剤9がガラス基体5の外周から露出された状態でガラス基体5がキャリア基材10に保持されれば、特に限定されない。例えば、粘着剤9およびキャリア基材10は、第二の主面3上の全部に配置されていてもよく、一部に配置されていてもよく、また、連続的または断続的のいずれの態様で配置されていてもよい。キャリア基材10に保持されるガラス基体5の数についても特に限定されず、1つのキャリア基材10に1つまたは複数のガラス基体5が保持される。
図4に、粘着剤9およびキャリア基材10を貼り付けた際の、ガラス基体5に対する粘着剤9およびキャリア基材10の配置の他の例を概略的に示す。図5は、図4に示すガラ
ス基体のA-A線断面図である。図4においては、キャリア基材10のガラス基体5の貼り付けられる面の全部に粘着剤9が付着されて、この粘着剤9上にガラス基体5が貼り付けられている。このように、キャリア基材10の一方の主面全面に粘着剤9を付着させ、これによりガラス基体5が貼り付けられてもよい。
また、炭素含有材料からなる粘着剤9は、酸化ケイ素層を形成する際に、加熱やプラズマにさらされていればよい。したがって、粘着剤9は、ガラス基体5に貼り付ける態様に限定されず、ガラス基体5とは別に、例えば、キャリア基材10の、ガラス基体5が貼り付けられる側の主面上に独立して配置されていてもよい。
粘着剤9の露出量は、粘着剤9の材料にもよるが、露出部分の面積が、ガラス基体5の第一の主面2の面積に対して1~50面積%であることが好ましく、1~20面積%であることがより好ましい。これにより、酸化ケイ素層中に上記所定の濃度で炭素原子を含有させられる。
(粘着剤9)
粘着剤9の材料としては、シリコーンゴムやシリコーンレジンを用いたシリコーン系粘着剤、1種以上のアクリル酸エステルのモノマーを重合あるいは共重合させて合成されるアクリル系粘着剤、ポリウレタンを用いたポリウレタン系の粘着剤等が挙げられる。ここで、防汚層付きガラス基体1は、携帯機器等に組み付けられる際、第二の主面3側で接着剤等により携帯機器等の表示装置あるいは筺体に接着される。そのため、接着性の観点から第二の主面3は、撥水・撥油性の低い方が好ましい。このような点から、粘着剤9の材料としては上記したなかでも、アクリル系、ポリウレタン系の粘着剤9が好ましい。
粘着剤9の粘着力は、ガラス基体5または印刷層8とキャリア基材10との、接着力および防汚層成膜後に粘着剤9およびキャリア基材10を除去する際の粘着剤9の剥離性のバランスの点から、JIS Z 0237で規定された180度剥離・アクリル板への付着力測定での値で、0.02N/25mm~0.4N/25mmが好ましく、0.05N/25mm~0.2N/25mmがより好ましい。
粘着剤9の厚みは、ガラス基体5または印刷層8とキャリア基材10との接着力および剥離性の観点から、5μm~50μmであることが好ましい。
また、粘着剤9以外の炭素含有材料が、ガラス基体5とは別に、キャリア基板上に配置されてもよい。これらの場合、酸化ケイ素層中に含まれる炭素の量を、ガラス基体5とは別に配置した粘着剤9又は粘着剤9以外の炭素含有材料の量によって調整できる。ガラス基体5とは別に配置した粘着剤9又は粘着剤9以外の炭素含有材料の量は、例えば上記粘着剤9の露出量と同様にすればよい。
粘着剤9以外の炭素含有材料としては、例えば、酸化ケイ素層中に炭素原子を含有させることを目的とする場合、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂や、グリース(油脂)などを使用できる。この場合、樹脂の形状は特に限定されず、フィルム状やブロック状など、製造条件などにあわせて適宜設計できる。
また、粘着剤9の材料を選択するか、粘着剤9以外の材料を用いることで、所望の元素を酸化ケイ素層に取り込ませた層を形成できる。粘着剤9の材料または粘着層以外の材料に含まれる成分が、酸化ケイ素層の形成時に、加熱やプラズマにさらされることで揮発して、当該成分が酸化ケイ素層に取り込まれた層が形成される。
酸化ケイ素層中に炭素原子以外の原子を含有させる場合、例えば、フッ素原子を含有させる場合には、キャリア基材10の、ガラス基体5が貼り付けられる側の主面上に、ガラス基体5とは別に、フッ素を含有する粘着剤、あるいは粘着剤9以外のフッ素含有材料を配置させる。この際のフッ素含有材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂等のフッ素含有樹脂や、フッ素含有グリースを使用できる。この場合、フッ素含有樹脂の形状は特に限定されず、フィルム状やブロック状など、製造条件などにあわせて適宜設計できる。
(キャリア基材10)
キャリア基材10としては、ガラス基体5を保持したまま垂直状態または水平状態を維持できる程度の強度を有し、密着層6および防汚層7を形成する温度、圧力、雰囲気等の条件に耐え得る材質のものであれば特に限定されず、ガラス製、樹脂製、金属製等のものを使用できる。キャリア基材10の形状としては、板状、フィルム状の基材を使用できる。なお、ガラス基体5が曲面を有する場合には、キャリア基材10は、ガラス基体5の第二の主面3と対応する形状に加工されていてもよい。
樹脂製のキャリア基材10として、具体的には、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好適に用いられる。樹脂製のキャリア基材10として、耐熱性の観点からは、PET樹脂が好ましい。樹脂製のキャリア基材10としては、フィルム状であることが好ましく、上記した樹脂のフィルムが好適に用いられる。
また、粘着剤付き保護フィルム等、予め粘着剤9の備えられたキャリア基材10を用いてもよい。この場合、ラミネート機等を用いて、ガラス基体5を搬送しながら、第二の主面3に、粘着剤付きフィルムを連続的に供給、載置した後、加圧することで、貼り付けられる。この際のラミネート条件は特に限定されず、例えばガラス基体5の搬送速度を1mm/min~5mm/min、加圧力は、線圧で1kgf/cm~10kgf/mの条件で行える。
上記粘着剤9の備えられたキャリア基材10としては、シリコーン系粘着剤付きのポリイミドテープとして、No.6500(商品名、日立マクセル社製)等、アクリル系粘着剤付きのPETフィルムとして、RP-207(商品名、日東電工社製)等、ポリウレタン系付きのPETフィルムとして、UA-3004AS(商品名、スミロン社製)等を使用でき、このような粘着剤9を備えたキャリア基材10を用いることで、基板の保持と炭素の導入を効率的に実施できる。
また、粘着剤9がガラス基体5に対して充分な保持力を有する場合、粘着剤9がキャリア基材10の機能を兼ねられるため、別途キャリア基材10を用いなくてもよい。
キャリア基材10の大きさは、特に限定されないが、ガラス基体5の保持力の点からは、ガラス基体5の第二の主面3よりも大きいことが好ましい。キャリア基材10がガラス基体5よりも大きい場合には、例えば、スパッタリングにより密着層6が形成される場合、スパッタリングが行われる過程で、密着層を形成する材料が端面4に回り込んで、端面4上に密着層6が形成される。さらに、蒸着により防汚層7が形成される場合、蒸着が行われる過程で、防汚層形成材料が端面4に回り込んで、端面4上に防汚層7が形成される。このようにして、ガラス基体5の第一の主面2から端面4にわたる領域に、密着層6および防汚層7が形成される。
また、第二の主面3の面積よりもより小さいキャリア基材10を用いてもよい。この場
合、ガラス基体5を、第二の主面3より面積の小さいキャリア基材10上に貼り付けた状態で、例えば、密着層6をスパッタリングにより形成し、さらに、防汚層7を蒸着により形成すれば、第二の主面3側の最表面の外周近傍まで、密着層6および防汚層7を形成できる。
(密着層6の形成)
密着層6は、キャリア基材10がガラス基体5に貼りつけられた状態で、密着層形成材料を第一の主面2に向けてスパッタリングすることで形成される。次いで、キャリア基材10にガラス基体5が貼りつけられた状態で、密着層6が形成された第一の主面2に向けて、防汚層形成材料を蒸着することで防汚層7が形成される。
密着層6を構成する各層を成膜する方法は特に限定されず、各種成膜方法を使用できる。例えば、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法等を使用できる。これらの成膜方法のなかで、スパッタリング法を用いることで、緻密で耐久性の高い膜を形成できるので好ましい。特に、パルススパッタリング法、ACスパッタリング法、デジタルスパッタリング法等のスパッタリング法により成膜することが好ましい。
例えば、パルススパッタリング法により成膜する場合は、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気のチャンバ内に、ガラス基体5を配置し、密着層形成材料として、所望の組成となるようにターゲットを選択して成膜する。このとき、チャンバ内の不活性ガスのガス種は特に限定されるものではなく、アルゴンやヘリウム等、各種不活性ガスを使用できる。
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力は、特に限定されるものではないが、0.5Pa以下の範囲とすることにより、形成される膜の表面粗さを好ましい範囲とすることが容易である。これは、以下に示す理由によると考えられる。すなわち、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力が0.5Pa以下であると、成膜分子の平均自由行程が確保され、成膜分子がより多くのエネルギーをもって基体に到達する。そのため、成膜分子の再配置が促され、比較的密で平滑な表面の膜ができると考えられる。不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1Pa以上であることが好ましい。
パルススパッタリング法により高屈折率層および低屈折率層を成膜する場合、各層の層厚の調整は、例えば、放電電力の調整、成膜時間の調整等により可能である。
(防汚層7の形成)
図6は本実施形態の防汚層付きガラス基体1の製造方法において、防汚層7を形成するために使用可能な装置を模式的に示す図である。図6に示す装置は、ガラス基体5の第一の主面2上に、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を蒸着する装置である。
図6に示す装置を用いた場合、密着層6の形成されたガラス基体5は、図の左側から右側に向かって搬送手段32により搬送されながら、真空チャンバ33内で、防汚層7が形成されることで防汚層付きガラス基体1となる。
真空チャンバ33内では、真空蒸着法、特に抵抗加熱法による真空蒸着装置20を用いて、被膜形成用組成物をガラス基体5の第一の主面2側に付着させる。
真空チャンバ33内の圧力は、生産安定性の観点から、1Pa以下に維持されることが
好ましく、0.1Pa以下がより好ましい。この圧力であれば、抵抗加熱法による真空蒸着を問題なく実施できる。
真空蒸着装置20は、真空チャンバ33外に被膜形成用組成物を加熱する加熱容器21と、真空チャンバ33内に、加熱容器21から被膜形成用組成物の蒸気を供給する配管22と、配管22に接続され加熱容器21から供給されるガラス基体5の第一の主面2に噴射するための噴射口を有するマニホールド23が備えられている。また、真空チャンバ33内において、ガラス基体5は、マニホールド23の噴射口とガラス基体5の第一の主面2が対向するように保持されている。
加熱容器21は、蒸着源である被膜形成用組成物が十分な蒸気圧を有する温度にまで加熱できる加熱手段を有する。被膜形成用組成物の種類によるが加熱温度は、具体的には30℃~400℃が好ましく、150℃~350℃が特に好ましい。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、成膜速度が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解が生じることなく、ガラス基体5の第一の主面2上に防汚性を有する被膜を形成できる。
ここで、上記方法においては、真空蒸着の際に、加熱容器21内の含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を蒸着開始温度まで昇温した後、その蒸気を所定の時間、系外に排出する前処理を設けることが好ましい。この前処理により、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が通常含有する、得られる被膜の耐久性に影響を与える低分子量成分等を除去でき、さらには、蒸着源から供給する原料蒸気の組成の安定化が可能となる。これにより、耐久性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を安定して形成することが可能となる。
具体的には、加熱容器21の上部に、マニホールド23へと接続される配管22とは別に、初期蒸気を系外に排出するための開閉自在な排気口に接続する配管(図示せず)を設け、系外でトラップする等の方法をとればよい。
また、真空蒸着時における、ガラス基体5の温度は室温(20~25℃)から200℃までの範囲であることが好ましい。ガラス基体5の温度が200℃以下であると、成膜速度が良好になる。ガラス基体5の温度の上限値は150℃がより好ましく、100℃が特に好ましい。
また、成膜速度を制御するために、上記配管22上に可変バルブ24を設け、真空チャンバ33内に設けられた膜厚計25での検出値に基づいて上記可変バルブ24の開度を制御することが好ましい。このような構成を設けることで、ガラス基体5の第一の主面2上に供給する含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物の蒸気の量を制御できる。これにより、ガラス基体5の第一の主面2上に精度よく目的とする厚さの被膜を形成できる。なお、膜厚計25としては、水晶振動子モニタ等を使用できる。さらに、実際に堆積された防汚層7の膜厚測定は、例えば、薄膜解析用X線回折計ATX-G(RIGAKU社製)を用いた場合には、X線反射率法(XRR)により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
このようにして、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物が、ガラス基体5の密着層6上に付着される。さらに付着と同時にまたは付着後、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が加水分解縮合反応することにより、密着層6に化学結合するとともに、分子間でシロキサン結合することで含フッ素有機ケイ素化合物被膜となる。
この含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解縮合反応は、付着と同時に上記密着層
6の表面で進行するが、さらにこの反応を十分に促進させるために、必要に応じて、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成されたガラス基体5を、真空チャンバ33から取り出した後、ホットプレートや恒温恒湿槽を使用した加熱処理を行ってもよい。加熱処理の条件としては、例えば、80~200℃の温度で10~60分間の加熱処理が挙げられる。
なお、防汚層7の形成は、チャンバ33に加湿装置等を接続して、チャンバ33内を加湿した状態で行ってもよい。加熱処理と加湿処理は別々に実施してもよく、同時に実施してもよい。また、防汚層7の形成後、含フッ素有機ケイ素化合物被膜表面に対し、例えば、酸処理またはアルカリ処理によりエッチング等を行って、含フッ素有機ケイ素化合物被
膜の表面粗さ(Ra)を例えば、10nm以下に調整してもよい。
上記で防汚層7を形成した後に、ガラス基体5の第二の主面3側に貼り付けられた粘着剤9およびキャリア基材10を除去して、防汚層付きガラス基体1を得られる。上記のようにして得られる実施形態の防汚層付きガラス基体1は、撥水性や撥油性等の防汚性に優れるとともに、防汚層が高い耐摩耗性を有するものである。
次に、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。例1~5は本発明の実施例、例6および例7は比較例である。
ガラス基体として厚さ1.3mmの、対向する一対の主面が四角形の板状ガラスDT(強化処理を実施していないドラゴントレイル(登録商標)、旭硝子社製、化学強化用アルミノシリケートガラス)を用い、以下の各例の手順で、それぞれ防汚層付きガラス基体を得た。以下、当該ガラス基体の一方の主面を第1面、他方の主面を第2面、厚さ方向の面を側面と称する。
(例1)
ガラス基体に次のように(1)防眩処理、(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成、(5)密着層(低反射膜)の形成、(6)防汚層の形成をその順に以下の手順で行い、防汚層付きガラス基体を得た。
(1)防眩処理(AG)
ガラス基体の第1面に以下の手順により、フロスト処理による防眩処理を施した。
まず、耐酸性の保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」ともいう)を、ガラス基体の防眩処理を施さない側の面(第2面)に貼合した。次いで、このガラス基体を3質量%のフッ化水素水溶液に3分間浸漬し、ガラス基体の第1面の表面をエッチングすることで表面に付着した汚れを除去した。次いでガラス基体を15質量%フッ化水素、15質量%フッ化カリウム混合水溶液に3分間浸漬し、ガラス基体の第1面の表面に対してフロスト処理を行った。このガラス基体を10質量%フッ化水素水溶液に6分間浸漬することで、第1面表面のヘイズ値を25%に調整した。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136に拠り、ヘイズメータ(商品名:HZ‐V3、スガ試験機社製)を用いて測定した。
上記で防眩処理のされたガラス基体を、150mm×250mmの大きさに切断し、その後、化学強化処理を行った。
(2)化学強化処理
上記でガラス基体に貼り付けた保護フィルムを除去した後、450℃に加熱・溶解させた硝酸カリウム塩にガラス基体を2時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷することで化学強化ガラス基体を得た。こうして得られた化
学強化ガラス基体の表面圧縮応力(CS)は730MPa、応力層の深さ(DOL)は30μmである。
(3)アルカリ処理
次いで、このガラス基体を、アルカリ溶液(ライオン社製、サンウォッシュTL-75)に4時間浸漬して、表面の汚れを除去した。
(4)黒色印刷層の形成
次いで、以下の手順により、ガラス基体の防眩処理がなされていない面(第2面)の周
辺部の四辺に、スクリーン印刷によって2cm幅の黒枠状に印刷を施し、黒色印刷層を形成した。まず、スクリーン印刷機により、顔料を含む有機系インクである黒色インク(商品名:GLSHF、帝国インキ製)を5μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上記と同じ手順で、上記同様の黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。こうして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された黒色印刷層を形成し、第2面の外側周辺部に黒色印刷層を備えたガラス基体を得た。
(5)密着層(低反射膜(AR膜))の形成
次に、以下の方法で、防眩処理がなされている側(第1面)と側面に密着層を形成した。
まず、図3に示すのと同様に、ガラス基体の第2面の黒色印刷層上に、粘着剤として、幅20mm×長さ400mmのポリイミドの両面テープ(商品名:No6500、日立マクセル社製)を貼りつけ、これにより、ガラス基体を、厚さ2mm、1000mm×1000mm角の、上記ガラス基体よりも大きなガラス基板(キャリア基材)に貼りつけた。この際、両面テープがガラス基体の対向する一対の各辺の外周から両面テープの長手方向で2mmだけ露出するように配置した。これにより、密着層形成中の加熱やプラズマにより、この露出部分から炭素含有成分が揮発し、密着層中に取り込まれる。例1では、粘着剤の露出部分の面積は、ガラス基体の第1面の面積に対して5面積%である。
キャリア基材にガラス基体が貼りつけられた状態で、以下の工程で密着層を成膜した。まず、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、酸化ニオブターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層(第1層)を形成した。
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、シリコンターゲット(AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層(第2層)を形成した。
次いで、第1層と同様にして、第2層の低屈折率層上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。次いで、第2層と同様にして、厚さ80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)層と酸化ケイ素(シリカ)層が総計4層積層された密着層(低反射膜)を形成した。当該密着層において、防汚層と接する層(接触層)の低屈折率層は含炭素酸化ケイ素層となる。
(6)防汚層(AFP層)の形成
次に、以下の方法で防汚層を成膜した。なお、ガラス基体はキャリア基材に貼りつけたまま用い、防眩処理がなされた面(第1面)に成膜すると同時に側面にも効率的に防汚層を成膜した。防汚層の成膜に際しては、図6に示す装置と同様の装置を用いた。まず、防汚層の材料として、含フッ素有機ケイ素化合物膜の形成材料を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行い、含フッ素有機ケイ素化合物膜の形成用組成物(以下、防汚層形成用組成物という。)とした。防汚層形成用組成物としては、KY-185(信越化学工業社製)を用いた。
次いで、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。270℃に到達後は、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、密着層が形成されたガラス基体を真空チャンバ内に設置した後、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器に接続されたマニホールドから、ガラス基体の密着層(低反射膜)に向けて防汚層形成用組成物を供給し、成膜を行った。
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、密着層上のフッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が4nmになるまで行った。次いで、真空チャンバから取り出されたガラス基体を、フッ素含有有機ケイ素化合物膜面を上向きにしてホットプレートに設置し、大気中150℃で60分間加熱処理を行った。
(例2)
例1と同様に(1)防眩処理、(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成を行ったガラス基体を、次のように、樹脂製のキャリア基材によりラミネートし、この状態で、(5)密着層の形成、(6)防汚層の形成を行って防汚層付きガラス基体を得た。
先ず、(5)密着層の形成の前に、図4に示すのと同様に、ガラス基体の黒色印刷層を有する面(第2面)を、アクリル系の粘着剤を付着させた樹脂製のキャリア基材でラミネートした。粘着剤は、樹脂製キャリア基材の一方の主面表面全体に付着されている。また、ガラス基体の各辺の外周から粘着剤が各々10mmだけ露出するようにラミネートした。樹脂製キャリア基材としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム(商品名:RP-207、日東電工社製)を用いた。例2では、粘着剤の露出部分の面積は、ガラス基体の第1面の面積に対して22.4面積%である。
上記で樹脂製キャリア基材のラミネートされたガラス基体をチャンバ内に収容し、例1と同様に(5)密着層を形成した。そして、この密着層の形成されたガラス基体を用いて、(6)防汚層の形成を行った。
(例3)
例1と同様に(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成を行ったガラス基体の、黒色印刷層を、ガラス基体の第2面よりも大きい吸着樹脂(キャリア基材を兼ねた粘着剤)で保持させた。この状態で、例3の(5)密着層の形成では、例1の第4層と同様の手順により、厚さ20nmの炭素を含有する酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層のみを形成した。そして、この密着層の形成されたガラス基体を用いて、(6)防汚層の形成を行った。(6)防汚層の形成は、例1と同様の手順で行い、防汚層形成用組成物として、KY-185(信越化学工業社製)に代えて、オプツールDSX(ダイキン工業社製)を用いた。吸着樹脂としては、ウレタンゴムシート(タイプレン TR-100-50、タイガーポリマー社製)を用いた。この際、吸着樹脂が、ガラス基体の各辺の外周から2mmだけ露出するようにした。例3では、吸着樹脂の露出部分の面積は、ガラス基体の第1面の面積に対して4.3面積%である。
(例4)
例2においてガラス基体に(4)黒色印刷層を形成しなかったこと、またガラス基体を保持するキャリア基材および粘着剤にシリコーン系吸着樹脂(IonPad、クリエイティブテクノロジー社製)を使用した他は、同様の条件および操作で、防汚層付きガラス基体を作製した。例4では、吸着樹脂の露出部分の面積は、ガラス基体の第1面の面積に対して4.3面積%である。
(例5)
例2において、アクリル系の粘着剤を付着させた樹脂製のキャリア基材の代わりに、ポリウレタン系の粘着剤を付着させた樹脂製のキャリア基材(PETフィルム UA-3000AS、スミロン社製)でラミネートした。その際、ガラス基体の各辺の外周から粘着剤が各々10mmだけ露出するようにラミネートした。ラミネートされたガラス基体について、(5)密着層の形成、(6)防汚層の形成を行って防汚層付きガラス基体を得た。(5)密着層の形成においては、例1における密着層の構成を下記のように変更した以外は例1と同様の手順でスパッタリングを行った。(6)防汚層の形成は、例1と同様の手順で行った。例5では、粘着剤の露出部分の面積は、ガラス基体の第1面の面積に対して34.5面積%である。
例5では、例1と同様の方法で、密着層を、窒化ケイ素からなる高屈折率層および酸化ケイ素からなる低屈折率層をそれぞれ4層ずつ交互に積層して構成した。この際、密着層形成中の加熱やプラズマにより、粘着剤の露出部分から炭素含有成分が揮発し、密着層中に取り込まれる。窒化ケイ素からなる高屈折率層は、真空チャンバ内で、アルゴンガスに窒素ガスを50体積%となるように混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件で、シリコンターゲットを用いてパルススパッタリングを行って形成した。密着層を構成する各層の厚みは、ガラス基体に近い層から順に、第1層の高屈折率層(窒化ケイ素層)が15nm、第2層の低屈折率層(酸化ケイ素層)が70nm、第3層の高屈折率層(窒化ケイ素層)が17nm、第4層の低屈折率層(酸化ケイ素層)が105nm、第5層の高屈折率層(窒化ケイ素層)が15nm、第6層の低屈折率層(酸化ケイ素層)が50nm、第7層の高屈折率層(窒化ケイ素層)が120nm、第8層の低屈折率層(含炭素酸化ケイ素層)が80nmである。
(例6)
例1において、ガラス基体を、粘着剤を使用せず、金属爪(金属の材質:ステンレス鋼SUS304)でキャリア基材であるガラス基板に保持した他は、例1と同様の手順で、(1)防眩処理、(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成、(5)密着層の形成、(6)防汚層の形成をその順に行い、防汚層付きガラス基体を得た。
(例7)
例1において、ガラス基体を、粘着剤を使用せず金属爪(金属の材質:ステンレス鋼SUS304)でキャリア基材であるガラス基板に保持した他は、例1と同様の手順で、(1)防眩処理、(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成、(5)密着層の形成、(6)防汚層の形成をその順に行い、防汚層付きガラス基体を得た。さらに、(5)密着層の形成においては、防汚層と接する層のSiOを成膜する際に、圧力を1Paとした。
上記各例で得られた防汚層付きガラス基体について、次のように、水接触角の測定、密着層の防汚層と接する層における算術平均粗さ(Ra)および炭素含有量の測定、耐摩耗
性評価および視感反射率の測定を行った。
(水接触角測定)
防汚層付きガラス基体の防汚層の形成された側(第1面)の表面に約1μLの純水の水滴を着滴させ、接触角計(協和界面科学社製、装置名;DM-501)を用いて、水に対する接触角を測定した。防汚層表面における水接触角の測定箇所は10箇所として、その平均を算出して評価に用いた。その結果を表1に示す。
(接触層の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の測定)
防汚層付きガラス基体の防汚層の形成された側の表面の平面プロファイルを走査型プロープ顕微鏡(型式:SPA400、セイコーインスツル社製)で測定した。測定モードをDFMモードとし、操作エリアを3μm×3μmとした。得られた平面プロファイルからJIS B 0601(2001)に基いてRaの値を求めた。なお、実施例および比較例においては、防汚層の膜厚が4nmと極めて薄いため、防汚層の表面構造は、密着層の表面構造をトレースして形成される。そのため、防汚層のRaを接触層のRaとみなした。なお、後述の防汚層の除去処理を行った後のRaは上記の測定でのRaと変化がなかった。また、防眩処理のなされた基板(例1~2、例4~7)の場合、基板自体の凹凸形状を拾わないように微小領域で測定する等、測定領域を選定した。
(接触層における炭素原子濃度の測定)
まず、防汚層付きガラス基体に形成された防汚層や、表面有機汚染を除去するため、酸素プラズマ処理を実施し、その後、紫外線(UV)オゾン処理を実施した。これらは、防汚層の膜厚や表面汚染の度合いによってはどちらか一方の処理でもよい。
酸素プラズマ処理では、低温灰化装置(LTA-102型、ヤナコ分析工業株式会社製)を用いた。処理条件は、高周波出力:50W、酸素流量:50ml/min、処理時間:60分である。
UVオゾン処理では、紫外線照射装置PL30-200(センエンジニアリング株式会社製)を使用し、紫外線照射装置電源としてUB2001D-20を使用した。処理条件は、紫外線波長:254nm、処理時間:10分である。
UVオゾン処理の終了後の防汚層付きガラス基体について、X線光電子分光法でフッ素のピークのないことを確認することにより、表面の防汚層が除去されていることを確認した。
次に、以下の手順に従って、SIMS(二次イオン質量分析装置)にて、防汚層付きガラス基体の接触層中の炭素量の測定を行った。
(ア)初めに、炭素原子濃度既知の標準試料をイオン注入により作製する。評価対象の膜と同じ組成の基板あるいは単膜を、評価対象の試料とは別に準備する。準備する試料は、炭素原子濃度の極力低いものが好ましい。ここでは、SiO膜評価用に石英ガラス基板を用意した。
イオン注入は、IMX-3500RS(アルバック社製)を用い、エネルギーを110keVとして石英ガラス基板に12Cイオンを注入する。12Cイオン注入量は1.5×1015ions/cmである。
(イ)次に、評価対象の試料と上記(ア)で作製した炭素原子濃度既知の標準試料を同時にSIMS装置内へ搬送し、順番に測定を行い、12および30Siの強度の深さ方向プロファイルを取得する。標準試料の深さ方向プロファイルから相対感度因子(R
elative Sensitivity Factor:RSF)を求め、求めたRSFを用いて測定試料の炭素原子濃度のプロファイルを得る。
SIMSの測定には、ADEPT1010(アルバック・ファイ社製)を用いる。SIMSの測定条件は、一次イオン種としてCsを用い、加速電圧:5kV、電流値:150nA、入射角:試料面の法線に対して60°、一次イオンのラスターサイズ:600×600μmで一次イオン照射を行う。二次イオンの検出については、検出領域を120×120μm(一次イオンのラスターサイズの4%)、検出器のField Apertureを2に設定し、極性がマイナスの二次イオンを検出する。この際、中和銃を使用
する。なお、測定精度を確保するために、装置内を極力高真空にしておくことが好ましい。今回のSIMSの測定開始前の真空度は6.7×10-8Paであった。
また、12Cイオン注入石英ガラス基板に対する一次イオンのスパッタ(照射)レートは0.44nm/secであった。装置真空度と同様、測定精度を確保するために、極力スパッタレートの高い条件で測定を行うことが好ましい。
次いで、(イ)で得られた測定試料の炭素原子濃度のプロファイルの横軸を次のように、スパッタ時間から深さへ変換する。分析した後の評価対象の試料(防汚膜付きガラス基体)の凹部(クレータ)の深さを触針式表面形状測定器(Veeco社製Dektak150)によって、評価対象の試料に対する一次イオンのスパッタレートを求める。12Cイオン注入石英ガラス基板及び評価対象の試料に対するそれぞれの一次イオンのスパッタレートを用いて、横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。
次いで、上記で横軸を深さへ変換した測定試料の炭素原子濃度のプロファイルから、接触層中の炭素原子濃度を次のように算出する。接触層の、最も表面付近には、吸着炭素が存在し、SIMSによる測定では、この吸着炭素が測定される。この吸着炭素の測定された領域を除き、接触層の二次イオン強度が横ばいの停滞領域であり、かつ接触層のガラス基体側の層で測定されるNbの二次イオン強度が上昇開始する手前までの領域における平均炭素原子濃度を接触層中の炭素濃度とした。このようにして、各試料について平均炭素原子濃度を3回測定し、これらの平均値を、炭素(C)原子濃度とした。その結果を表1に示す。
(耐摩耗性評価)
先ず、底面が10mm×10mmである平面金属圧子の表面に平織り綿布金巾3号を装着してサンプルを擦る摩擦子とした。次に、前記摩擦子を用い、平面摩耗試験機3連式(大栄科学精器製作所製)にて摩耗試験を行った。具体的には、上記圧子の底面がサンプルの防汚層表面に接触するよう摩耗試験機に取り付け、摩擦子への加重が1000gとなるように重りを載せ、平均速さ6400mm/min、片道40mmで往復摺動した。往復1回で擦り回数2回として試験を行い、擦り回数50000回終了後の防汚層表面の水の接触角を上記同様に測定した。その結果を表1に示す。
(視感反射率の測定)
防汚層付きガラス基体の第1面の最表面の、第2面に形成された黒色印刷層に対向する領域について、分光測色計(形式:CM-2600d、コニカミノルタ製)により、分光反射率をSCIモードで測定し、その分光反射率から、視感反射率(JIS Z8701において規定されている反射の刺激値Y)を求めた。その結果を表1に示す。
例1~7における防汚層付きガラス基体に対する各処理の内容および評価結果を表1に示す。表1において、防眩処理、化学強化処理の欄は、処理を行った場合を○、行わない場合を×で表わす。また、黒色印刷層の欄は、黒色印刷層を形成した場合を○、形成しな
い場合を×で表わす。
Figure 0007306438000001
表1に示されるように、例1~5の防汚層付きガラス基体は、いずれも、接触層において、SIMSによる炭素原子濃度が8.1×1018~3.25×1019atoms/cmであることが確認された。例1~5の防汚層付きガラス基体は、水接触角が大きく、優れた防汚性を有することが分かる。また、例1~5の防汚層付きガラス基体は、50000回擦り後も、初期に比べて水接触角の低下が少なく、防汚層の優れた耐摩耗性を有することが分かる。
これに対し、例6および7の防汚層付きガラス基体では、接触層において、SIMSによる炭素原子濃度が0.8×1018atoms/cm以下であり、50000回擦り後に、初期に比べて水接触角が低下しており、防汚層の耐摩耗性が劣ることが分かる。
1…防汚層付きガラス基体、2…第一の主面、3…第二の主面、4…端面、5…ガラス基体、6…密着層、7…防汚層、8…印刷層、9…粘着剤、10…キャリア基材。

Claims (20)

  1. 相互に対向する一対の主面を有するガラス基体と、前記ガラス基体の一方の主面に、密着層と、防汚層とを順に備え、
    前記密着層の前記防汚層と接する層は、酸化ケイ素を主体とし、炭素原子を5×1018~5×1019atoms/cmの濃度で含有し、
    前記ガラス基体は、化学強化ガラス基体であることを特徴とする防汚層付きガラス基体。
  2. 前記密着層の前記防汚層と接する層の算術平均粗さ(Ra)は、3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防汚層付きガラス基体。
  3. 前記密着層を構成する層の数は1~8である、請求項1又は2に記載の防汚層付きガラス基体。
  4. 前記密着層は低反射膜であり、
    前記低反射膜は波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成であり、
    前記高屈折率層は、窒化ケイ素、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選ばれる1種類以上からなる層であり、前記低屈折率層は、酸化ケイ素、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料およびSiとAlとの混合酸化物を含む材料から選ばれる1種類以上からなる層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  5. 前記密着層は、窒化ケイ素、酸化ニオブ、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選ばれる1種類以上からなる層と、酸化ケイ素からなる層とが交互に積層された積層体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  6. 前記防汚層に含フッ素有機基が存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  7. 前記防汚層は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物の硬化物からなる、請求項6に記載の防汚層付きガラス基体。
  8. 前記防汚層の厚さは、2nm~20nmである、請求項6または7に記載の防汚層付きガラス基体。
  9. 前記一方の主面は、凹凸形状を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  10. 前記凹凸形状の二乗平均粗さ(RMS)は、10nm以上であることを特徴とする請求項9に記載の防汚層付きガラス基体。
  11. 前記凹凸形状の二乗平均粗さ(RMS)は、1000nm以下であることを特徴とする請求項9又は10に記載の防汚層付きガラス基体。
  12. 前記凹凸形状が円形状の孔を有する、請求項9~11のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  13. 前記円形状の孔の直径は5μm以上50μm以下である、請求項12に記載の防汚層付きガラス基体。
  14. 前記ガラス基体の、前記一方の主面から前記一対の主面を接続する端面にわたる領域に、前記密着層および前記防汚層をその順に備える、請求項1~13のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  15. 前記ガラス基体の、前記一方の主面から前記一対の主面を接続する端面にわたる領域に前記防汚層を備え、前記端面の前記防汚層の備えられる一部の領域において、前記端面上に前記密着層および前記防汚層をその順に備える、請求項1~13のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  16. 前記ガラス基体は、曲面を有する形状である、請求項1~15のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  17. 前記曲面の曲率半径は、1mm~5000mmである、請求項16に記載の防汚層付きガラス基体。
  18. 前記ガラス基体の厚さは、0.1mm~5mmである、請求項1~17のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  19. 前記ガラス基体は、モル%表示でSiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~10%、NaOを0~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%およびZrOを0~5%含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体。
  20. 請求項1~19のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス基体を備える、表示装置用前面板。
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