JP7303556B2 - 超強力触媒を用いた難分解性有機物の分解方法及び超強力触媒 - Google Patents

超強力触媒を用いた難分解性有機物の分解方法及び超強力触媒 Download PDF

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Description

本発明は、木質系材料や合成ポリマーなどの有機物の分解方法、特に、難分解性有機物の資源化を可能にする超強力酸化触媒調製方法に関する。
近年、廃棄物の埋め立て処理や焼却処理による環境問題が生じている。かかる問題を解決するべく、廃棄物処理技術の研究が熱心に行なわれている。
例えば、特許文献1には、廃プラスチック、木くずなどの有機物を含む廃棄物を、高温で加熱することにより熱分解して、熱分解ガスと残渣に分解した上で、熱分解ガスを酸素と反応させてガスを改質するとともに、ガス中の有害成分を浄化処理する、廃棄物の処理方法が記載されている。
有機物を含む廃棄物の中でも、セルロース、リグニン、リグノセルロース、ヘミセルロースなどを成分とする木質系材料や、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートなどの合成ポリマーに代表される、化学的に安定であって分解が困難である難分解性有機物の処理技術の研究が行なわれている。
例えば、特許文献2には、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含む木質系材料を熱分解させて分解ガスを生成した上で、当該ガスを改質する有機性廃棄物の処理システムが記載されている。
特許文献3には、セルロース及びヘミセルロースを含むセルロース系バイオマスを、亜臨界状態の高温高圧水で分解して、単糖やオリゴ糖を製造する装置が記載されている。
特許文献4には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニルなどを含有する廃プラスチックを加熱炉で加熱して可燃性ガスを生じさせ、次いで、燃焼炉で当該可燃性ガスを燃焼させる廃棄物処理装置であって、異常時に可燃性ガスをセメント製造装置に排出可能とする廃棄物処理装置が記載されている。
また、触媒を利用して有機物を効率的に酸化分解する廃棄物処理技術の研究も行なわれている。
特許文献5には、フェントン反応を利用した有機塩素化合物の分解処理方法が記載されており、具体的には、金属酸化物にMn、Fe、Co、Ni又はCuをドープした触媒と酸化剤を用いて、有機塩素化合物を水熱酸化分解することが記載されている。より詳細には、Cu-WO触媒やCu-TiO触媒を用いて、クロロベンゼンやクロロフェノールを30MPa、200℃で水熱酸化分解することが記載されている。
特開2000-202419号公報 特開2004-243286号公報 特開2009-261275号公報 特開2011-183269号公報 国際公開第2012/133006号
しかしながら、特許文献1~5に記載される処理方法は、高温条件下や高圧条件下で有機物を分解する方法であり、エネルギー的に有利とはいえない。かつ、高温や高圧に耐久可能な処理施設を必要とする方法である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、木質系材料や合成ポリマーなどの有機物の新たな分解方法を提供することを目的とする。
本発明者は、遷移金属オキソ種を形成し得る遷移金属錯体型の分子触媒とそれを担持する固相担体を適切に組み合わせて、触媒活性を増大させることで、有機物を効率的に分解させることを指向した。遷移金属オキソ種とは、遷移金属に酸素が結合したものである。
さて、遷移金属オキソ種による有機物の分解反応は、遷移金属オキソ種があたかもラジカル種のように振る舞い、有機物から水素原子を引き抜くことで反応が進行すると考えられる。本発明者は、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体の遷移金属に酸素が結合した遷移金属錯体オキソ種のSOMOのエネルギー準位を低下または上昇させることで、有機物の分解が促進されるとの仮説を立てた。すなわち、当該SOMOと有機物のHOMOのエネルギー準位を近接させること、又は、当該SOMOと有機物のLUMOのエネルギー準位を近接させることで、SOMOと有機物のHOMOの両軌道又はSOMOと有機物のLUMOの両軌道が相互作用しやすくなり、円滑に水素原子引き抜き反応が進行するとの仮説を立てた。
そこで、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体を採用し、この錯体のSOMOのエネルギー準位を変動し得る担体として、導電性カーボンを採用して、触媒を製造した。錯体のπ電子含有有機配位子のπ平面と導電性カーボンのπ平面との間に電子的相互作用が生じて、触媒活性が向上することを期待したのである。そして、実際に当該触媒の触媒活性を測定したところ、導電性カーボンの存在に因り、著しく酸化活性が向上することを知見した。すなわち、本発明者は、遷移金属錯体オキソ種型の分子触媒の重要性だけではなく、それを担持する担体の重要性も知見した。
かかる知見に基づき、本発明者は本発明を完成するに至った。
本発明の有機物の分解方法は、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が導電性材料又は半導体に担持された触媒、並びに、酸化剤を用いることを特徴とする。
本発明の有機物の分解方法によれば、木質系材料や合成ポリマーに代表される、化学的に安定であって分解が困難である難分解性有機物を、簡便な手段で、分解することができる。さらには、本発明の有機物の分解方法によれば、化学的に著しく安定なことで知られる炭化水素も、分解することができる。
また、分解生成物である蟻酸、酢酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フェノール誘導体、キノン誘導体、ベンゼンカルボン酸類などの低分子有機化合物を、化成品原料などとして利用することもできる。
製造例1の触媒に遷移金属オキソ種が形成された場合の、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体の化学構造である。 評価例1において、製造例2の触媒を用いた反応液、及び、比較製造例2の触媒を用いた反応液における過酸化水素の濃度を経時的に示したグラフである。 実施例7において、メタンの酸化分解物であるメタノール、ホルムアルデヒド及び蟻酸の濃度を経時的に示したグラフである。
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の有機物の分解方法(以下、単に「本発明の分解方法」ということがある。)は、以下の化学式(2)で表され、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が導電性材料又は半導体に担持された触媒(以下、「本発明の触媒」ということがある。)、並びに、酸化剤を用いることを特徴とする。
本発明の分解方法においては、蟻酸、酢酸などの低級カルボン酸、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの低級アルデヒド、フェノール樹脂などの原料となり得るフェノール誘導体、キノン誘導体、テレフタル酸などのベンゼンカルボン酸類などの低分子有機化合物が分解生成物として製造される。分解可能な有機物から分解が進行するに従って、例えば、分解生成物が低級アルコール、低級アルデヒド、低級カルボン酸へと順に変換される。よって、本発明の分解方法を用いることを特徴とする、蟻酸、酢酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フェノール誘導体、キノン誘導体、ベンゼンカルボン酸類などの低分子有機化合物の製造方法を、発明として把握することができる。当該製造方法は、地球の資源問題に貢献する発明である。反応条件及び基質を適宜設定することで、目的とする低分子有機化合物を製造することができる。さらには、本発明の分解方法においては、有機物を二酸化炭素まで分解することも可能である。
分解可能な有機物は、特に限定されない。分解対象物として、有機物を含む廃棄物全般、例えば、木材の加工や森林の伐採などで生じる廃木材、刈草、河川の維持管理のために除去される流木、災害廃棄物を例示できる。また、分解対象物として、有機物を含有する汚泥、廃ゴム、廃タイヤなどの合成ポリマー、炭水化物などの天然ポリマー、廃油などの油脂なども例示される。さらには、分解対象物として、パルプや紙及び紙加工品の製造から生じる紙屑、繊維工業から生じる繊維屑、廃棄食料品、廃棄プリント基板などの産業廃棄物を例示できる。
また、炭化水素も分解対象物に包含される。炭化水素としては、低分子量のものであっても高分子量のものであってもよいが、天然ガスなどに含まれるメタン、エタン、プロパン、ブタンなどの低級アルカン、石油などに含まれる鎖状炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素を例示できる。分解対象物として天然ガスや石油などの天然炭素資源を採用することができ、さらに、本発明の分解方法を用いて上述した低分子有機化合物を製造することができるため、本発明は天然炭素資源の効率的な活用に貢献できるものである。
産業的な利用価値の点からみて、有機物としては、セルロース、リグニン、リグノセルロース、ヘミセルロースなどを成分とする木質系材料や、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニルなどの合成ポリマーに代表される、化学的に安定であって分解が困難である難分解性有機物であるのが好ましい。特に、リグニン及びリグノセルロースはフェノール骨格を含有しているため、その分解生成物として、フェノール誘導体やキノン誘導体が得られることが想定できる。また、ポリエチレンテレフタラートはベンゼンカルボン酸骨格を含有しているため、その分解生成物として、テレフタル酸などのベンゼンカルボン酸類が得られることが想定できる。
フェノール誘導体としては、フェノール、フェノールのベンゼン環に水酸基、メトキシ基、CHO基、カルボキシル基などの置換基が置換した化合物及びこれらの塩、並びに、これらの二量体を例示できる。キノン誘導体としては、オルトベンゾキノン、パラベンゾキノン、及び、これらのキノン骨格に上述した置換基が置換した化合物並びにその塩を例示できる。ベンゼンカルボン酸類としては、安息香酸、テレフタル酸、及び、これらのベンゼン環に上述した置換基が置換した化合物並びにこれらの塩を例示できる。
遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体に、酸化剤を作用させることで、遷移金属に酸素が結合して、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が形成される。すなわち、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体は、本発明の分解方法の系内にて、in situで生成し、かかる遷移金属オキソ種が、有機物の酸化分解に寄与する。
遷移金属としては、汎用性や価格面から、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Cr、V、Mo、Re、Osが好ましい。遷移金属としては、1種類でもよいし、複数種でもよい。
π電子含有有機配位子は、遷移金属に配位可能なヘテロ元素と、π電子平面を有する共役系構造を有する有機配位子である。主にπ電子平面が、錯体が担持される導電性材料又は半導体と相互作用することで、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体、すなわち遷移金属錯体オキソ種のエネルギーの変動が図られ、その結果、遷移金属錯体オキソ種のSOMOのエネルギー準位が低下または変動すると考えられる。
π電子含有有機配位子の分子全体における共役系の割合は、高い方が好ましい。また、π電子含有有機配位子の全体が平面形状であるのが好ましい。π電子含有有機配位子としては、芳香環を有するものや、ビタミンA、ポリアセチレンなどの長い共役系を有するものが好ましい。上述したπ電子含有有機配位子であれば、錯体が担持される導電性材料又は半導体との相互作用が効率的に機能して、錯体全体のエネルギー的な安定化が好適に達成されるといえる。
好適なπ電子含有有機配位子としては、サレン骨格、ポルフィリン骨格、アザポルフィリン骨格、ポルフィセン骨格、コルフィセン骨格、ヘミポルフィセン骨格、コロール骨格、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ビピリジン骨格、フェナントロリン骨格、ジピロメテン骨格、又は、芳香環含有ジチオレン骨格を有する配位子を例示できる。
遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体は、π電子含有有機配位子が複数層に積層したものであってもよいし、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体自体が複数層に積層したものであってもよい。すなわち、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体は、分子会合体であってもよい。また、π電子含有有機配位子や錯体が積層して分子会合体を形成するに際し、π-πスタッキングで結合していてもよいし、置換基を利用したロタキサンとして結合していてもよく、置換基を利用したイオン結合で結合していてもよく、遷移金属同士がN、O、Sなどのヘテロ元素を介して結合していてもよい。
遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される具体的な錯体として、ポルフィリン類縁体を包含する以下の化学式(1)を例示できる。
Figure 0007303556000001
化学式(1)において、Mは遷移金属である。
~Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRは互いに結合して置換基で置換されていても良い単環又は置換基で置換されていても良い複数環を形成してもよい。R及びR、R及びR、R及びR、R及びRで形成される環は、芳香環でもよいし、複素環でもよい。
Xは、それぞれ独立に、N、CR又は(CR)から選択される。Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、4つのXのうち、1つ又は2つのXが存在せずに、化学式(1)におけるピロール環同士が単結合又は二重結合で直接に結合してもよい。
「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば、アルキル基の場合、「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
本発明における分子会合体である遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体は、以下の化学式(2)具体的に示される。化学式(2)におけるM、R~R、Xについては、化学式(1)で行った説明を援用する。化学式(2)におけるHetは、O、N、Sから選択されるヘテロ元素である。HetとMとの結合は、単結合でもよいし、二重結合でもよい。
Figure 0007303556000002
なお、化学式(1)及び化学式(2)の錯体は、市販のものを購入してもよいし、J. Metz, O. Schneider, M. Hanack, Inorg. Chem. 23 (1984)1065-1071、L. A. Bottomley, J.-N. Gorce, V. L. Goedken, C. Ercolani, Inorg. Chem. 24 (1985) 3733-3737、A. B. Sorokin, E. V. Kudrik, D. Bouchu, Chem. Commun. (2008) 2562-2564、Y. Yamada, T. Sugiura, K. Morita, H. Ariga-Miwa, K Tanaka, Inorganica Chimica Acta, 489 (2019) 160-163などの文献の記載内容に基づき、合成してもよい。
酸化剤としては、過酸化物、ハロゲン酸若しくはその塩、過ハロゲン酸若しくはその塩、又は、オゾンを例示できる。酸化剤は1種類を用いてもよいし、複数を併用してもよい。
過酸化物としては、過酸若しくはその塩、非過酸型の有機過酸化物、非過酸型の無機過酸化物がある。過酸としては、過カルボン酸、過硫酸、過炭酸、過リン酸、次過ハロゲン酸を例示できる。過カルボン酸としては、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸を例示でき、また、次過ハロゲン酸としては、次過塩素酸、次過臭素酸、次過ヨウ素酸を例示できる。非過酸型の有機過酸化物としては、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジメチルジオキシラン、過酸化アセトン、メチルエチルケトンペルオキシド、ヘキサメチレントリペルオキシドジアミンなどを例示でき、また、非過酸型の無機過酸化物としては、過酸化水素、過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウムなどを例示できる。
ハロゲン酸としては、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸を例示でき、過ハロゲン酸としては、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸を例示できる。
過酸の塩、ハロゲン酸の塩、過ハロゲン酸の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩、その他の金属塩、及び、アンモニウム塩を例示できる。
取扱いの簡便性、価格、分解反応の進行の容易性、及び、有機物を分解するとの本発明の趣旨の点から、酸化剤としては、無機の酸化剤が好ましく、過酸化水素が特に好ましい。酸化剤の使用量は、分解対象の有機物の量に応じて、適宜決定すればよい。酸化剤の使用量が多い方が、分解反応の速度は増加する。
錯体を担持させる導電性材料又は半導体(これらを総称して「担体」ということがある。)としては、電子的摂動を遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体に付与可能であり、当該錯体のSOMOのエネルギー準位を適切にコントロールできる可能性があるものであれば限定されない。
担体としては、固体が好ましく、また、結晶性のものが好ましい。担体としては、粉末状のものでもよいが、板状やシート状に加工したものを採用してもよい。
導電性材料としては、黒鉛などの導電性カーボン、金属を例示できる。半導体としては、基板上に形成された平面状の半導体が好ましく、また、n型半導体やp型半導体でもよい。
担体として黒鉛などの導電性カーボンを採用する場合には、そのπ電子平面と錯体のπ電子含有有機配位子のπ電子とがπ-πスタッキングにより会合することによる安定化エネルギーや導電性カーボンのπ電子による電子的摂動により、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位が低下または上昇すると考えられる。
黒鉛などの導電性カーボンのπ電子平面と錯体のπ電子含有有機配位子のπ電子とで生じる、より安定なπ-πスタッキングなどの電子的相互作用のためには、共役系平面の面積が大きい導電性カーボンが好ましい。導電性カーボンとしては、鱗片状黒鉛や高配向性熱分解グラファイトのような、板状のものが好ましい。また、導電性カーボンとしては、グラファイトの層状構造が剥離した劈開面を有するものが好ましい。好適な導電性カーボンの具体的な商品名としては、VULCAN(登録商標:CABOT社)XC72や、「グラファイト,粉末」(特級:富士フィルム和光純薬株式会社)を例示できる。富士フィルム和光純薬株式会社の当該商品は鱗片状黒鉛である。好適な導電性カーボンとして、高配向性熱分解グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite:HOPG)を例示できる。
導電性カーボンとしては、比表面積が小さい方が好ましい。比表面積が大きすぎると、共役系平面の面積が小さいことに加えて、導電性カーボン表面にCOOH基やOH基などの官能基が多数存在し、所望の効果を害されるおそれがある。導電性カーボンの好適な比表面積として、0.5~100m/g、1~50m/g、2~25m/g、5~10m/gを例示できる。
導電性カーボンの密度としては、1.5~2.3g/cmの範囲内が好ましく、1.7~2.26g/cmの範囲内がより好ましく、2~2.25g/cmの範囲内がさらに好ましく、2.1~2.25g/cmの範囲内がさらにより好ましく、2.2~2.25g/cmの範囲内が特に好ましい。 導電性カーボンのかさ密度の範囲としては、20~700kg/mの範囲、50~600kg/mの範囲、100~500kg/mの範囲、200~400kg/mの範囲、250~350kg/mの範囲を例示できる。
担体として金属を採用する場合には、金属の自由電子と、錯体のπ電子含有有機配位子のπ電子とが相互作用して、その安定化エネルギーにより、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位を適切にコントロールできると考えられる。
担体として金属を採用する場合、又は、担体として半導体を採用する場合には、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位を適切にコントロールするために、担体に適切な電圧を印加してもよい。担体を流れる電流により、又は、印加により生じる担体の分極により、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位を適切にコントロールできると考えられる。
以上の錯体と担体との電子的相互作用を鑑みると、π電子含有有機配位子には、錯体と担体との相互作用を立体的に妨げるような大きな置換基は存在しない方がよいといえる。具体的には、サレン骨格、ポルフィリン骨格、アザポルフィリン骨格、ポルフィセン骨格、コルフィセン骨格、ヘミポルフィセン骨格、コロール骨格、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ビピリジン骨格、フェナントロリン骨格、ジピロメテン骨格、又は、芳香環含有ジチオレン骨格を有するπ電子含有有機配位子であれば、これらの骨格にtert-ブチル基などの立体障害の大きな置換基が存在しないものが好ましい。
本発明の分解方法は、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体を、導電性材料又は半導体に担持させて、触媒を製造する工程、及び、触媒に酸化剤を作用させて、前記遷移金属を遷移金属オキソ種とする工程を経て、実施されるのが好ましい。上述の工程を経ることで、担体の表面に錯体が固定された触媒上で、錯体の遷移金属と酸化剤とが作用して遷移金属オキソ種が形成されるので、遷移金属オキソ種が、π電子含有有機配位子や担体を酸化することを抑制できる。
後述する評価例1及び評価例2の結果から、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体を担体に担持させることで、上記錯体と担体とが電子的に強く相互作用するといえる。上記錯体の電子状態が変化した結果、遷移金属オキソ種の生成が容易になったとも考えられる。
すなわち、「遷移金属 + [O] → 遷移金属オキソ種」とのオキソ種生成反応の速度が著しく増加して、系内でのオキソ種の濃度が増加することで、所望の分解反応の速度が増加したとも考えられる。
以上の事項から、本発明の分解方法について考察すると、以下のメカニズム1及びメカニズム2が生じていることが考えられる。
メカニズム1:遷移金属錯体オキソ種と担体との電子的相互作用により、遷移金属錯体オキソ種の電子状態が変化した結果、遷移金属錯体オキソ種の有機物に対する反応性が向上する。
メカニズム2:遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体と担体との電子的相互作用により、錯体の電子状態が変化した結果、錯体が遷移金属錯体オキソ種に変化する反応速度が増加して、系内でのオキソ種の濃度が増加するため、有機物の分解反応速度が向上する。
本発明の分解方法は、遷移金属オキソ種で分解され難い水などの溶媒中で実施されるのが好ましい。本発明の触媒は酸化反応の速度を著しく増加させるので、有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒自体が酸化分解されるおそれがある。
また、本発明の分解方法で製造される蟻酸、酢酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドなどの低分子有機化合物は、主に水溶性である。そのため、処理後の廃水を適切に処理することで、これらの生成物を単離することができる。単離方法としては、蒸留(精留)、イオン交換樹脂、有機溶媒による抽出、冷却による蟻酸の結晶化などの方法を採用すればよい。レアメタルなどの有価金属を含有する有機物を分解した場合には、処理後の廃水を適切に処理することで、有価金属を回収することも可能である。
本発明の分解方法は、酸存在下で実施されるのが好ましい。酸の存在により、酸化反応の速度が増加する。酸の使用量は、触媒や酸化剤の量、分解対象の有機物の量、さらには反応速度に応じて、適宜決定すればよい。
酸としては、一般的な化学反応に用いられる酸であればよい。具体的な酸として、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸を例示できる。酸化剤又は酸化剤の分解物が酸としての機能を有する場合には、当該酸化剤又は酸化剤の分解物を酸として代用しても良い。
本発明の分解方法は、撹拌下で実施されるのが好ましい。また、本発明の分解方法は、加熱条件下で行われるのが好ましい。加熱温度としては、40℃~90℃の範囲内、50℃~80℃の範囲内、55℃~70℃の範囲内を例示できる。分解反応の時間は、分解反応の進行をモニタリング等することで、適宜決定すればよい。また、反応装置に分析装置を組み合わせて、反応液における生成物の濃度をin situで測定しながら分解反応を行ってもよい。
本発明の分解方法を応用して、有機廃棄物処理システムや低級アルカン処理システムなどの有機物処理システムを提供することもできる。有機物処理システムの一態様として、海洋環境に存在するマイクロプラスチックや流出油などを分解するための海水処理システムや、河川水、湖沼水などに存在又は溶存する有機物を分解するための淡水処理システムを提供することもできる。
さらには、本発明の分解方法を応用して、水に含まれる有機物を二酸化炭素まで分解することで、COD(Chemical Oxygen Demand)、BOD(Biochemical Oxygen Demand)、TOD(Total Oxygen
Demand)及びTOC(Total Organic Carbon)の値が低減された水にすることができる。したがって、有機物処理システムの一態様として、工業排水、生活排水、下水などに存在又は溶存する有機物を分解するための排水処理システムを提供することもできる。
有機物処理システムとしては、本発明の触媒及び酸化剤を用いて分解対象の有機物を水中で酸化分解する反応槽、及び、反応槽の動作を制御する制御部を備えているものが好ましい。反応槽としては、原料供給部、触媒固定部、加温部、撹拌部、及び、排出部が備えられているものが好ましい。制御部としては、電子計算機を利用して、反応系内のパラメータに応じて各部を制御するものが好ましい。
有機物処理システムとしては、さらに、分解液を回収する分解液回収装置、分解液から化成品原料や有価金属などの有益な分解物を単離する分解物単離装置、有機物の酸化に因り生成し得る二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置を備えているシステムが好ましい。加えて、分解対象物が固形廃棄物の場合には、分解前の固形廃棄物を粉砕する粉砕装置を備えているシステムが好ましい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例などを示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの具体例によって限定されるものではない。
(製造例1)
テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体(11.7mg、10.1μmol)を10 mLのCHClに溶解した溶液を、導電性カーボン1.27g(Vulcan(登録商標) XC―72)を60mLのCHClに懸濁させた溶液に混合し、30分間超音波処理した。その後、CHClをエバポレートで除去した。得られた黒色粉末を1mmHg、60℃の条件で12時間減圧乾燥して、1.27gの製造例1の触媒を製造した。
製造例1の触媒は、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体が、導電性材料である導電性カーボンに担持された触媒である。
製造例1の触媒におけるテトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体は、化学式(2)において、MがFeであり、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRは互いに結合して、tert-ブチル基で置換されたベンゼン環を形成しており、XはすべてNであり、HetはNであり、HetとMとの結合は一方が単結合であって他方が二重結合の錯体である。
(製造例2)
溶媒としての1-クロロナフタレン中で、フタロシアニン鉄錯体とNaNを混合して、280℃の条件下で2時間反応させることで、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体を合成した。反応液にCHClを加えて、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体を析出させた。析出物を濾過し、CHCl、エタノール及び水で洗浄した後に乾燥することで、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体を単離した。単離したフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体をピリジンに溶解し、不溶物を濾過で取り除いた溶液に、ヨウ素を加えて室温下で18時間撹拌することで、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体にピリジンが配位したカチオンとヨウ化物イオンとの塩を形成させた。
溶媒を除去して上記塩を単離し、その後、塩をピリジンに溶解して、不溶物を濾過で取り除いた溶液に、アセトニトリルと水を加えることで、紫色の析出物を析出させた。紫色の析出物を濾取し、水で洗浄後に乾燥した。得られた固体をピリジンに溶解し、不溶物を濾過で取り除いた溶液に、濾液にジエチルエーテルを徐々に加えることで、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体にピリジンが配位したカチオンとヨウ化物イオンとの塩(以下、製造例2の塩ということがある。)を、青みがかった紫色の結晶として得た。
製造例2の塩の構造は、H-NMR、13C-NMR、MALDI-TOF MSの結果により支持された。
製造例2の塩(30mg、22μmol)を20mLのピリジンに溶解した溶液を、導電性カーボン4g(商品名「グラファイト,粉末」;富士フィルム和光純薬株式会社)と混合し、10分間超音波処理した。その後、溶液を15時間室温で攪拌した後、ピリジンをエバポレートで除去して、製造例2の塩が導電性カーボン上に担持された黒色粉末を得た。当該黒色粉末と、トリフルオロ酢酸の水溶液を混合し、撹拌することで、黒色粉末からピリジンとヨウ化物イオンを除去した。得られた黒色粉末を1mmHg、60℃の条件で12時間減圧乾燥して、4gの製造例2の触媒を製造した。
製造例2の触媒は、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体が、導電性材料である導電性カーボンに担持された触媒である。なお、商品名「グラファイト,粉末」(富士フィルム和光純薬株式会社)は、鱗片状黒鉛である。
製造例2の触媒におけるフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体は、化学式(2)において、MがFeであり、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRは互いに結合してベンゼン環を形成しており、XはすべてNであり、HetはNであり、HetとMとの結合は一方が単結合であって他方が二重結合の錯体である。
(製造例3)
製造例2の塩(4.8mg、3.5μmol)を22mLのピリジンに溶解した溶液に、導電性カーボンとしての10×10×1.0mmの板状の高配向性熱分解グラファイト(HOPG SPI-1(ZYA)Grade アライアンスバイオシステムズ製)を5時間浸漬した後、ピリジンで洗浄し、乾燥することで、製造例2の塩が板状の導電性カーボン上に担持された担持物を得た。当該担持物と、トリフルオロ酢酸の水溶液を混合し、浸漬することで、担持物からピリジンとヨウ化物イオンを除去した。得られた担持物を1mmHg、60℃の条件で16時間減圧乾燥して、製造例3の触媒を製造した。
(比較製造例1)
導電性カーボンの代わりに、シリカゲル(Merck Silica gel 60(0.040-0.063mm))を用いた以外は、製造例1と同様の方法で、比較製造例1の触媒を製造した。
比較製造例1の触媒は、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体が、導電性材料ではなく半導体でもないシリカゲルに担持された触媒である。
(比較製造例2)
導電性カーボンの代わりに、シリカゲル(Merck Silica gel 60(0.040-0.063mm))を用いた以外は、製造例2と同様の方法で、比較製造例2の触媒を製造した。
比較製造例2の触媒は、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体が、導電性材料ではなく半導体でもないシリカゲルに担持された触媒である。
製造例1~製造例3の触媒、比較製造例1~比較製造例2の触媒の特徴について、表1に示す。
Figure 0007303556000003
(評価例1)
ガラス容器内の製造例1の触媒に30%過酸化水素水溶液を添加したところ、気体の発生、すなわち発泡が激しく観察された。
ガラス容器内の比較製造例1の触媒に30%過酸化水素水溶液を添加した。しかし、発泡はほとんど観察されなかった。
参照実験として、ガラス容器内の導電性カーボン(Vulcan(登録商標) XC-72)に30%過酸化水素水溶液を添加した。しかし、発泡はほとんど観察さなかった。
以上の結果から、製造例1の触媒においては、遷移金属オキソ種が形成され、かつ、遷移金属オキソ種に因り、過酸化水素が分解されて、酸素が発生したと考えられる。導電性カーボンに担持された製造例1の触媒の活性、又は製造例1の触媒から形成された遷移金属オキソ種の活性は、著しく高いといえる。
製造例1の触媒に遷移金属オキソ種が形成された場合の、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体の化学構造を図1に示す。
製造例2の触媒、30%過酸化水素水溶液、トリフルオロ酢酸及び水を混合した反応液を、60℃に保持し、過酸化水素の濃度を経時的に測定した。同様に、比較製造例2の触媒、30%過酸化水素水溶液、トリフルオロ酢酸及び水を混合した反応液を、60℃に保持し、過酸化水素の濃度を経時的に測定した。
なお、初期の両反応液における、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度は19μmol/Lであり、過酸化水素の濃度は189mmol/Lであり、トリフルオロ酢酸の濃度は51mmol/Lであった。
製造例2の触媒を用いた反応液、及び、比較製造例2の触媒を用いた反応液における過酸化水素の濃度の推移を、グラフにして図2に示す。
図2のグラフから、担体が導電性カーボンである製造例2の触媒を用いた反応液においては、過酸化水素の分解速度が速いことがわかる。担体が導電性カーボンである製造例2の触媒を用いた反応液における過酸化水素の分解速度と、担体がシリカゲルである比較製造例2の触媒を用いた反応液における過酸化水素の分解速度を比較したところ、前者の分解速度は後者の分解速度の約13倍であった。
担体が導電性カーボンである製造例2の触媒においては遷移金属オキソ種の生成速度が速いといえるし、さらに、製造例2の触媒から形成された遷移金属オキソ種の活性は高いといえる。
(評価例2)
導電性カーボン(Vulcan(登録商標) XC―72)、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体、及び、製造例1の触媒を、紫外線光電子分光装置に供して、各物質の価電子帯のエネルギー準位を測定した。
測定の結果、導電性カーボンと比較して、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の価電子帯のエネルギー準位が高いこと、及び、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体と比較して、製造例1の触媒の価電子帯のエネルギー準位が著しく高いことが判明した。すなわち、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体を導電性カーボンに担持させることにより、両者が電子的に相互作用して、フェルミ準位が大きく変化することが確認された。
フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体、製造例2の塩、製造例2の触媒、製造例3の触媒、製造例2及び製造例3で用いた導電性カーボンを、紫外線光電子分光装置に供して、各物質の価電子帯のエネルギー準位を測定した。
測定の結果、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体及び製造例2の塩と比較して、製造例2の触媒及び製造例3の触媒においては、価電子帯のエネルギー準位、すなわちHOMOのエネルギー準位が著しく高くなっていることが判明した。なお、製造例2の触媒及び製造例3の触媒のHOMOのエネルギー準位は、同等であった。
フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体を導電性カーボンに担持させることにより、両者が電子的に相互作用して、フェルミ準位が大きく変化することが確認された。
以上の結果から、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体を、導電性材料に担持させることで、上記錯体が導電性材料と電子的に相互作用し、その結果、触媒活性が向上すると考えられる。
(実施例1:リグニンの分解)
製造例1の触媒(102mg、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.81μmol)、リグニン(alkali)(Aldrich製、202mg)、30%過酸化水素水溶液(200μL、1.96mmol)、及び、トリフルオロ酢酸(20μL、261μmol)を、2.0mLのHOに加えて、60℃で24時間攪拌した。
得られた懸濁液の上澄みを遠心分離により分離した。メンブレンフィルター(ADVANTEC製 PTFE 1.0μm)で濾過して固体を取り除いた後、溶液中に存在する成分をGC-MSで分析した。その結果、22mMのメタノール、46mMの酢酸及び10mMの蟻酸の生成が確認された。
(比較例1:リグニンの分解)
製造例1の触媒の代わりに、比較製造例1の触媒(101mg、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.81μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、リグニンの分解及び分析を行った。
その結果、30mMのメタノール、7.4mMの酢酸及び5mMの蟻酸の生成が確認された。
実施例1と比較例1の結果の通り、実施例1の方が比較例1に比較してメタノールより酢酸及び蟻酸の量が多く得られたことから、製造例1の触媒は著しく活性であることがわかる。遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が導電性材料に担持されることで、触媒活性が著しく増加することが、具体的な試験結果で裏付けられたといえる。
(実施例2:リグニンの分解)
製造例1の触媒の代わりに、製造例2の触媒(50mg、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.40μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、リグニンの分解及び分析を行った。
その結果、21mMのメタノール、4.6mMの酢酸及び28mMの蟻酸の生成が確認された。
リグニンの分解に関する結果を表2に示す。
Figure 0007303556000004
実施例1、比較例1及び実施例2の結果を比較すると、実施例2において蟻酸の量が最も多く得られたことがわかる。製造例2の触媒の酸化活性は著しく高いといえる。
実施例1と実施例2の違いは、主に触媒の錯体におけるπ電子含有有機配位子の置換基の有無に因り生じたと考えられる。すなわち、製造例1の触媒は、π電子含有有機配位子であるフタロシアニン骨格に、立体障害の大きなtert-ブチル基を有している。他方、製造例2の触媒は、π電子含有有機配位子であるフタロシアニン骨格に置換基を有していない。製造例2の触媒においては、π電子含有有機配位子のπ平面と導電性カーボンのπ平面とが、置換基に妨害されることなく、安定にπ-πスタッキングにより会合していると考えられ、その結果、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位が、有機物の分解に適した状態に変動したと考えられる。
(実施例3:セルロースの分解)
製造例1の触媒(41mg、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.33μmol)、セルロース粉末(Wako製、38μm、19mg)、30%過酸化水素水溶液(1.0mL、9.8mmol)、及び、トリフルオロ酢酸(12μL、157μmol)を混合して、60℃で24時間攪拌した。
得られた懸濁液の上澄みを遠心分離により分離した。メンブレンフィルター(ADVANTEC製 PTFE 1.0μm)で濾過して固体を取り除いた後、溶液中に存在する成分をGC-MSで分析した。その結果、11mMのアセトアルデヒド及び158mMの蟻酸の生成が確認された。
セルロースからアセトアルデヒド及び蟻酸への変換効率は、29%であった。
(実施例4:ポリエチレンの分解)
製造例1の触媒(41mg、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.33μmol)、ポリエチレン(101mg)、30%過酸化水素水溶液(1.0mL、9.8mmol)、及び、トリフルオロ酢酸(6μL、78μmol)を混合して、60℃で5日間攪拌した。
得られた懸濁液の上澄みを遠心分離により分離した。メンブレンフィルター(ADVANTEC製 PTFE 1.0μm)で濾過して固体を取り除いた後、溶液中に存在する成分をGC-MSで分析した。その結果、3mMのアセトアルデヒド、1mMの酢酸及び0.6mMの蟻酸の生成が確認された。
(実施例5:グルコースの分解)
製造例1の触媒(41mg、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.33μmol)、554mMのD-(+)-グルコース水溶液(423μL、0.234mmol)、30%過酸化水素水溶液(200μL、1.96mmol)、トリフルオロ酢酸(8μL、104μmol)、及び1.5mLのHOを混合して混合液とし、60℃で24時間攪拌した。
なお、混合液におけるグルコースの初期濃度は110mMであった。
得られた懸濁液の上澄みを遠心分離により分離した。メンブレンフィルター(ADVANTEC製 PTFE 1.0μm)で濾過して固体を取り除いた後、溶液中に存在する成分をGC-MSで分析した。その結果、461mMの蟻酸の生成が確認された。
グルコースから蟻酸への変換効率は、70%であった。
(実施例6:ベンゼンの分解)
製造例2の触媒(50mg、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の量は0.40μmol)、0.25mLのベンゼン、0.5mLの30%過酸化水素水溶液、60μLのトリフルオロ酢酸、及び、1mLのアセトニトリルを混合して混合液とし、60℃で8時間攪拌した。
得られた懸濁液の上澄みを遠心分離により分離し、H-NMR分析に供した。その結果、ベンゼンの酸化分解物であるフェノール及びp-ベンゾキノンの生成が確認された。フェノール及びp-ベンゾキノンの生成濃度から、製造例2の触媒の8時間におけるターンオーバー数を計算したところ、692であった。なお、製造例2の触媒のターンオーバー数は、フェノール及びp-ベンゾキノンが生成される際に生じた酸化反応の回数の合計数を、製造例2の触媒の数で除した値である。
(実施例7:メタンの分解)
製造例2の触媒、30%過酸化水素水溶液、トリフルオロ酢酸、及び、3mLの水を混合して混合液とした。混合液における、フタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度は19μmol/Lであり、過酸化水素の濃度は193mmol/Lであり、トリフルオロ酢酸の濃度は51mmol/Lであった。60℃、撹拌条件下の混合液に対して、メタンガスを1.0MPaで導入して、メタンの分解を行った、反応液において、メタンの酸化分解物であるメタノール、ホルムアルデヒド及び蟻酸の濃度を、経時的に測定した。結果を図3に示す。
図3のグラフの各物質の濃度からみて、ホルムアルデヒドから蟻酸への酸化反応速度が著しく速いといえる。また、蟻酸の濃度増加の速度が10時間程度から緩やかになることからみて、蟻酸が酸化されて二酸化炭素が生じていることが示唆される。
参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
実施例7において、8時間経過時の製造例2の触媒のターンオーバー数を算出したところ、197であった。なお、ここでのターンオーバー数は、メタンガスを使用した系と窒素ガスを使用した系にて、「メタノール、ホルムアルデヒド及び蟻酸が生成される際に生じた酸化反応の回数の合計数を、製造例2の触媒の数で除した値」をそれぞれ算出し、メタンガスを使用した系での値から窒素ガスを使用した系での値を減じた値である。
(比較例2:メタンの分解)
製造例2の触媒の代わりに、比較製造例2の触媒をフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度が19μmol/Lとなる量で用いた以外は、実施例7と同様の方法で、メタンの分解及び分析を行った。また、参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
比較例2において、8時間経過時の比較製造例2の触媒のターンオーバー数を算出したところ、4であった。
担体が導電性カーボンである製造例2の触媒のターンオーバー数が197であり、担体がシリカゲルである比較製造例2の触媒のターンオーバー数が4であったことから、担体の違いに因り、触媒活性が著しく変化するといえる。
製造例2の触媒のターンオーバー数が著しく高いのは、評価例1で考察した遷移金属オキソ種の生成速度が速くなったことに加えて、π電子含有有機配位子であるフタロシアニン骨格のπ平面と、担体の導電性カーボンのπ平面とが、安定にπ-πスタッキングにより会合している結果、製造例2の触媒に生じる遷移金属オキソ種のエネルギー準位が、メタンの分解に適した状態に変動したことが理由と考えられる。
(実施例8:エタンの分解)
製造例1の触媒、30%過酸化水素水溶液、トリフルオロ酢酸、及び、水を混合して混合液とした。混合液における、テトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度は150μmol/Lであり、過酸化水素の濃度は189mmol/Lであり、トリフルオロ酢酸の濃度は51mmol/Lであった。60℃、撹拌条件下の混合液に対して、エタンガスを1.0MPaで導入して、エタンの分解反応を開始し、24時間後、エタンの酸化分解物であるエタノール、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度を測定した。
また、参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
実施例8において、24時間経過後の製造例1の触媒のターンオーバー数を算出したところ、857であった。なお、ここでのターンオーバー数は、エタンガスを使用した系と窒素ガスを使用した系にて、「エタノール、アセトアルデヒド及び酢酸が生成される際に生じた酸化反応の回数の合計数を、製造例1の触媒の数で除した値」をそれぞれ算出し、エタンガスを使用した系での値から窒素ガスを使用した系での値を減じた値である。
(比較例3:エタンの分解)
製造例1の触媒の代わりに、比較製造例1の触媒をテトラtert-ブチルフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度が150μmol/Lとなる量で用いた以外は、実施例8と同様の方法で、エタンの分解及び分析を行った。また、参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
比較例3において、24時間経過後の比較製造例1の触媒のターンオーバー数を算出したところ、289であった。
(実施例9:エタンの分解)
製造例1の触媒の代わりに、製造例2の触媒をフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度が19μmol/Lとなる量で用いたこと、及び、エタンの分解反応の時間を8時間にしたこと以外は、実施例8と同様の方法で、エタンの分解及び分析を行った。また、参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
実施例9において、8時間経過時の製造例2の触媒のターンオーバー数を算出したところ、2389であった。
(比較例4:エタンの分解)
製造例2の触媒の代わりに、比較製造例2の触媒をフタロシアニン鉄錯体μ-窒素架橋二量体の濃度が19μmol/Lとなる量で用いたこと以外は、実施例9と同様の方法で、エタンの分解及び分析を行った。また、参照実験として、60℃、撹拌条件下の混合液に対して、窒素ガスを1.0MPaで導入した場合の測定も行った。
比較例4において、8時間経過時の比較製造例2の触媒のターンオーバー数を算出したところ、22であった。
エタンの分解に関する結果を表3に示す。
Figure 0007303556000005
実施例8及び比較例3の結果から、担体が導電性カーボンである製造例1の触媒のエタン酸化活性は、担体がシリカゲルである比較製造例1の触媒のエタン酸化活性よりも、優れていることがわかる。
実施例9及び比較例4の結果から、担体が導電性カーボンである製造例2の触媒のエタン酸化活性は、担体がシリカゲルである比較製造例2の触媒のエタン酸化活性よりも、非常に著しく優れていることがわかる。
実施例8及び実施例9の結果から検討すると、実施例9の条件は、錯体の濃度すなわち触媒の量が実施例8の約1/8であり、反応時間が実施例8の1/3であったにも関わらず、実施例9における製造例2の触媒のターンオーバー数は、著しく高いことがわかる。
実施例1及び実施例2の結果から考察したのと同様に、実施例8と実施例9の違いは、主に触媒の錯体におけるπ電子含有有機配位子の置換基の有無に因り生じたと考えられる。製造例2の触媒においては、π電子含有有機配位子のπ平面と導電性カーボンのπ平面とが、安定にπ-πスタッキングにより会合している結果、導電性カーボンの電子的摂動が好適に作用して、遷移金属オキソ種及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体のSOMOのエネルギー準位が、エタンの分解に適した状態に変動したと考えられる。
以上のとおり、リグニン、セルロース、ポリエチレン、グルコース、ベンゼン、メタン、エタンを分解可能なので、本発明の分解方法における酸化反応は、C-H結合やC-C結合などの難分解性有機物に含まれる化学結合を開裂可能な酸化反応であるといえる。また、固体触媒を用いた、水に不溶な固形有機物の分解反応が、水中で進行した点からみて、本発明の触媒の活性は著しく高いといえる。
本明細書で示した種々の試験結果及び考察から、本発明の触媒の活性が高いのは、π電子含有有機配位子と担体との電子的相互作用に因り、本発明の触媒から生じる遷移金属錯体オキソ種のSOMOのエネルギー準位が有機物の酸化反応に適した状態に変動したことに因ると推定される。

Claims (10)

  1. 以下の化学式(2)で表され、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が導電性材料又は半導体に担持された触媒、並びに、酸化剤を用いることを特徴とする有機物の分解方法。
    Figure 0007303556000006
    化学式(2)において、Mは遷移金属である。
    ~Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRは互いに結合して置換基で置換されていても良い単環又は置換基で置換されていても良い複数環を形成してもよい。R及びR、R及びR、R及びR、R及びRで形成される環は、芳香環でもよいし、複素環でもよい。
    Xは、それぞれ独立に、N、CR又は(CR)から選択される。Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、4つのXのうち、1つ又は2つのXが存在せずに、化学式(2)におけるピロール環同士が単結合又は二重結合で直接に結合してもよい。
    化学式(2)におけるHetは、O、N、Sから選択されるヘテロ元素である。HetとMとの結合は、単結合でもよいし、二重結合でもよい。
  2. 前記有機物がポリマー及び炭水化物から選択される請求項1に記載の分解方法。
  3. 前記有機物が木質系材料である請求項1又は2に記載の分解方法。
  4. 前記有機物がリグニンである請求項1~3のいずれか1項に記載の分解方法。
  5. 水中で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の分解方法。
  6. 遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体を、導電性材料又は半導体に担持させて、触媒を製造する工程、
    前記触媒に酸化剤を作用させて、前記遷移金属を遷移金属オキソ種とし、前記有機物を酸化分解する工程、
    を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の分解方法。
  7. 前記遷移金属が、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Cr、V、Mo、Re及びOsから選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の分解方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載の分解方法を用いることを特徴とする、蟻酸、酢酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フェノール誘導体、キノン誘導体及びベンゼンカルボン酸類から選択される有機化合物の製造方法。
  9. 以下の化学式(2)で表され、遷移金属及びπ電子含有有機配位子で形成される錯体が導電性材料又は半導体に担持され、酸化剤とともに使用する触媒、及び酸化剤を用いて有機物を分解することを特徴とする有機物処理システム。
    Figure 0007303556000007
    化学式(2)において、Mは遷移金属である。
    ~Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRは互いに結合して置換基で置換されていても良い単環又は置換基で置換されていても良い複数環を形成してもよい。R及びR、R及びR、R及びR、R及びRで形成される環は、芳香環でもよいし、複素環でもよい。
    Xは、それぞれ独立に、N、CR又は(CR)から選択される。Rは、それぞれ独立に、水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルキレン基、置換基で置換されていても良い芳香族基から選択される。また、4つのXのうち、1つ又は2つのXが存在せずに、化学式(2)におけるピロール環同士が単結合又は二重結合で直接に結合してもよい。
    化学式(2)におけるHetは、O、N、Sから選択されるヘテロ元素である。HetとMとの結合は、単結合でもよいし、二重結合でもよい。
  10. 前記遷移金属が、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Cr、V、Mo、Re及びOsから選択される、請求項9に記載の有機物処理システム。
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