JP7297279B2 - 肉盛層、肉盛層を有する機械部品、及び肉盛層の形成方法 - Google Patents

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本発明は、スベリ軸受など無潤滑状態で使用される機械部品用の自己潤滑複合材に関する。
一般に、機械部品の損耗原因は、腐食、摩耗、焼付きに大別される。このうち、腐食と摩耗については、各種の防食処理や硬化肉盛等によって対策がほぼ確立されている。一方で、焼付きを防止する対策としては、水、油等の流体潤滑材もしくは有機系Moやグラファイトを用いることが知られている。
例えば、特許文献1(特開平10-204569号公報)には、Co基合金に20~40体積%のBNを分散させた自己潤滑複合材が開示されている。
特開平10-204569号公報
しかし、高温、高面圧下での乾式摺動に対して肉盛方法での焼付き防止に関しては十分な効果が得られていない。また、膜厚を確保するために、溶接、溶射などの表面改質処理を行うが、比重が軽く、しかも融点が低いことが影響して、さらに、金属との反応性が非常に大きいことから,緻密で十分な厚さの被膜を形成することが困難であった。
また、摺動部材の損耗要因の1つに摺動部分の摩擦係数が大きいことがあげられる。その1つが焼き付け現象である。焼き付けについての従来の対策として、潤滑剤などの使用があげられるが、高温部材では使用できない場合もあった。一方、潤滑剤が使用できない条件では使用条件を緩くするしかなかった。自己潤滑剤が肉盛り施工できれば、部材の寿命延命のために条件を上げることができ、新たな製品の開発にもつながる。
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、高温、高面圧下での乾式摺動部材の焼付き防止に最適な自己潤滑複合材を提供することである。
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第1態様によれば、Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、
自己潤滑剤粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドした潤滑材料と、
を有し、基材金属中に分散させたことを特徴とする自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第2 態様によれば、前記自己潤滑剤粉末は、グラファイト粉末、BN,MoS,WSCr の群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、第1態様の自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第3態様によれば、さらに、NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物を含むことを特徴とする、第1又は第2態様の自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第4態様によれば、前記金属粉末端末は70~30体積%、前記潤滑材料は30~40体積%、前記金属炭化物は、0~30体積%含むことを特徴とする、第1態様の自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第5態様によれば、前記潤滑材料は、30~150μmの粒度のグラファイト粉末を用いて、50~250μmの大きさに構成されていることを特徴とする、第1又は第2態様の自己潤滑複合材を提供する。
本発明の第6態様によれば、
Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、
自己潤滑剤粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドした潤滑材料と、
NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物を、
基材の溶融プール上に落下させて肉盛層を形成させることを特徴とする、肉盛層の形成方法を提供する。基材の溶融プールは、レーザ溶接法又はプラズマ溶接法により形成される。
本発明によれば、グラファイトなどの自己潤滑剤粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッド潤滑剤量を用いることで、自己潤滑剤表面の金属がバリアとなり自己潤滑剤の劣化を防ぐことができる。また、肉盛層の形成にレーザ溶接法又はプラズマ溶接法を用いることで、施工中に溶剤にかかる温度を低く抑えることができ、グラファイトの分解と耐摩耗用の炭化物と反応を制御することができる。
図1は、本発明の自己潤滑複合材を用いて母材に肉盛層を形成するためのプラズマ溶接トーチの構造を示す断面図である。 図2は、本発明の自己潤滑複合材を用いて母材に肉盛層を形成するためのレーザ溶接トーチの構造を示す断面図である。 円筒突合せ式摩耗試験の試験機の構成を模式的に示す図である。 ピンオンディスク摩耗試験の試験機の構成を模式的に示す図である。
以下、本発明の自己潤滑複合材及び基材の表面に係止する肉盛層の形成方法について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態にかかる自己潤滑複合材は、Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、グラファイト粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドしたグラファイト材料と、NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物を有する。そして、この自己潤滑複合材は、レーザ溶接法又はプラズマ溶接法により基材に形成された溶融プール上に落下させることにより、基材表面に肉盛層として形成される。なお、上記構成において、グラファイト材料は、潤滑材料の一例に相当し、グラファイト粉末は、自己潤滑材粉末の一例に相当する。潤滑材料に用いられる自己潤滑材料としては、グラファイト粉末のほか、BN,MoS,WSCr などの粉末材料から少なくとも1つを用いることができる。
図1は、本実施形態にかかる肉盛層の形成方法に用いられるプラズマ溶接トーチを示す断面図である。
プラズマ粉体溶接法は、図1に示すように、溶接トーチ10の中心孔11にタングステン電極12を設け、タングステン電極12と母材15との間に電源16から電圧をかける。また、中心孔11にアルゴンガスを供給することで、タングステン電極12と母材15との間に、ガスプラズマを発生させる。溶接トーチ10の先端からはパイロットアーク及びメインアークが噴出する。同時に、溶接トーチ10の粉末供給孔13から上記の材料粉末を供給する。この粉末はメインアークによって溶融し、母材15の表面に形成された溶融プールと混合し、肉盛層15aになる。また、溶接トーチ10のガス供給孔14からはシールドガス(通常、アルゴンガス)が供給される。
これにより、母材15の表面に形成された溶融プールと材料粉末が混合し、これが冷却することで、母材15の表面に肉盛層が形成される。
このようなプラズマ粉体溶接法は、以下の特徴を有している。まず、母材への溶け込み深さが小さい。従って、1層で目標の化学成分の肉盛金属が得られる。また、肉盛材料として粉末を用いるため、材料をワイヤやロッドに形成する必要がなく、一般金属の他各種炭化物を主成分とする超硬複合合金の肉盛も容易に行うことができ、炭化物含有量の調整も自由である。さらに、アルゴンガス中での自動溶接であるため、ブローホール等の欠陥が少ない。溶融溶接であるため、母材との結合は冶金結合であり、剥離等の問題はない。
また、本実施形態の肉盛層は、レーザ溶接によっても形成することができる。レーザ溶接は、図2に示すように、母材15にレーザ17を照射することで、母材表面に溶融プールを形成する。また、レーザ17の周囲には、シールドガス供給孔18からシールドガスを吐出し、レーザ17の周囲にシールドガス19を形成する。同時に、粉末供給孔13から上記の材料粉末を供給する。この粉末はレーザと母材表面に形成した溶融プールに送給することにより肉盛層を形成する。
このようなレーザ溶接法は、低温度での肉盛りが可能であり、溶剤にかかる温度を低く抑えることができ、材料粉末中の炭素と炭化物形成元素との反応を抑制することができるという効果を奏する。
本実施形態にかかる自己潤滑複合材は、上記の通り、Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、グラファイト粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドしたグラファイト材料と、NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物を有する。
金属粉末材料は、マトリックス材として配合されるものであり、Ni,Co,CU系基金属もしくはこれらの合金を粉末にしたものを用いる。金属粉の粒度は50~250μmであることが好ましい。
金属粉末材料は、体積比で70~30%の比率で混合することが好ましい。金属粉末材料が少なくなると、溶接が困難になり、肉盛層の形成が難しくなる。
グラファイト材料は、溶接材料として配合されるものであり、グラファイト粉末の表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドしたものが用いられる。
グラファイト材料は、粒度30~150μmのグラファイト粉末を用い、メッキなどによりグラファイト粉末の表面にNi,Crなどの金属を塗布、あるいは、グラファイト粉末の表面にタングステンクラッドすることにより、50~250μmの粒度に構成される。
グラファイト材料は、原料となるグラファイト粉末に対し、重量比で60~80%程度の金属を塗布あるいはタングステン粉末をクラッドすることにより得られる。タングステンクラッドは、グラファイト粉末の表面にタングステン粉末を、圧力を加えて接合する。両者の接合には有機結合剤を用いることができる。
グラファイト材料は、体積比で20~60%の比率で配合することが好ましい。グラファイト材料が少ないと、周同時に肉盛層の焼き付けをおこしやすくなる。
金属炭化物は、NbC,WC,ZrCの少なくとも1つを含む。炭化物の粒度は、50~250μmであることが好ましい。また、炭化物は、体積比で0~30%の比率で配合することが好ましい。金属炭化物が少ないと耐摩耗性が悪くなりやすい。
(自己潤滑複合材)
下記の金属粉末材料、潤滑材料としてのグラファイト材料、金属炭化物を、V型混合器により混合し、目的とする自己潤滑複合材を得た。この自己潤滑複合材としての実施例1~4と比較例1~4の成分を下記表1に示す。
Figure 0007297279000001
(肉盛層の形成)
上記各実施例及び比較例の自己潤滑複合材を、母材(軟鋼)に対しレーザ溶接法によって母材15の表面に肉盛層15aを形成したサンプル片を作成した。レーザ溶接の溶接条件を表2に示す。なお、得られたサンプル片は、それぞれ実施例サンプル1~8,比較例サンプル1~4とした。
Figure 0007297279000002
これらの各実施例及び比較例の自己潤滑複合材について、レーザ溶接法により、母材表面に肉盛層が形成された。ただし、金属粉末材料が20%である比較例2及び3については、肉盛層が均一に形成できず、ムラのある肉盛層となった。
また、上記各実施例及び比較例の材料を、母材(軟鋼)に対しプラズマ溶接法によって母材15の表面に肉盛層15aを形成したサンプル片を作成した。プラズマ溶溶接の溶接条件を表3に示す。なお、得られたサンプル片は、それぞれ実施例サンプル9~16,比較例サンプル5~8とした。
Figure 0007297279000003
これらの各実施例及び比較例の自己潤滑複合材について、プラズマ溶接法によっても、母材表面に肉盛層が形成された。ただし、レーザ溶接法と同様に、金属粉末材料が20%である比較例2及び3については、肉盛層が均一に形成できず、ムラのある肉盛層となった。
(摩耗試験1:円筒突合せ式摩耗試験)
上記のようにして得られた実施例サンプル1~8及び比較例サンプル1~4を用いて、図3に示すように試験機に固定し、一定負荷で相手材2(S45C)を押しつけた状態で回転させ、摩擦傾数を求めた。また、試験前後の外観状況を比較した。実験条件は、表4に示す通りである。
Figure 0007297279000004
実施例サンプルはいずれも、摩擦係数の増加が確認できなかった。一方で、比較例サンプルは、試験途中に焼き付けが生じ、摩擦係数が増加した。また、試験後の試験片及び相手材の表面状態を視認したところ、実施例サンプルには、いずれも焼き付けが確認されなかった。
(摩耗試験2:ピンオンディスク摩耗試験)
上記のようにして得られた実施例サンプル及び比較例サンプル1を用いて、図4に示すように、一定負荷で相手材3(エメリー紙4を貼り付けた回転ディスク)に押しつけた状態で、回転ディスクを回転させ、肉盛り層の摩耗量を求めた。実験条件は、表5に示す通りである。試験結果を表6に示す。
Figure 0007297279000005
Figure 0007297279000006
(摩擦係数)
実施例2,3,6及び比較例1のサンプルについて、摩擦係数を測定した。摩擦係数の測定は、図3に示す円筒突合せ式摩耗試験機において、表面から15mmの深さに熱電対を埋め込み、当該熱電対の温度に基づいて計測した。なお、試験条件は、回転側試験片の回転数が550rpm、突き合わせ荷重が10kg/cm2、突合せ面はドライの状態で行い、60秒後の温度に基づいて摩擦係数を計測した。結果は、表7の通りであった。
Figure 0007297279000007
上記摩耗試験の結果によれば、本実施形態にかかる実施例サンプルは、焼き付きを防止し、また、耐摩耗性にも優れていることが分かった。これは、グラファイトの表面に金属を塗布又はタングステンクラッドすることにより、グラファイト表面の金属がバリアとなりグラファイトの劣化を防ぐことができ、グラファイトとNbC,WC,ZrCなどの耐摩耗用炭化物とを共に共存させた肉盛層を形成することができるためと考えられる。
また、実施例サンプル2,3,6,7に示すように、グラファイト材料の粒径及び表面にWクラッド又はNiメッキを付した双方の実施例において、自己潤滑性の確保及び焼き付きの防止に効果があることが分かった。
一方で、比較例サンプル1に示すように、グラファイト材料及び金属炭化物を含まない肉盛層は、焼き付き防止及び耐摩耗性に優れたものとはならなかった。また、金属粉末材料が20%の比較例サンプル2及び3は、焼き付き防止及び耐摩耗性の向上には効果が表れたが、肉盛層をムラなく形成することが困難であった
比較例サンプル4に示すように、グラファイト材料は、体積%で20%より少なくなると、自己潤滑性に劣り、焼き付きなどが発生することが分かった。
また、実施例1乃至5との比較に示すように、金属炭化物を含めることで、耐摩耗性を向上させることができ、その分量の増加とともに、耐摩耗性が向上することが分かった。
また、摩擦係数についても、潤滑材料を30%以上含めることで、潤滑材料を含まない比較例1に比べて約半分の数値となることが判明した。すなわち、金属粉末材料に、グラファイトなどから構成された潤滑剤量を追加することで、摩擦係数を小さくすることができ、焼き付き、耐摩耗性の向上を図ることが分かった。また、潤滑材料は自己潤滑材料であるグラファイトの表面にタングステンクラッドなどの手段を施すことにより、自己潤滑剤と炭化物形成元素との反応を抑制することができ、肉盛層中に含めることができる。
以上説明したように、本実施形態にかかる自己潤滑複合材を用いた肉盛層は、グラファイトの表面にNi,Crの少なくとも1つを塗布又はタングステンクラッドすることで、自己潤滑剤表面の金属がバリアとなり自己潤滑剤の劣化を防ぐことができる。また、肉盛層の形成にレーザ溶接法又はプラズマ溶接法を用いることで、施工中に溶剤にかかる温度を低く抑えることができ、グラファイトの分解と耐摩耗用の炭化物と反応を制御することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。例えば、
することができる。
また、上記実施形態は、自己潤滑材粉末として、グラファイト粉末を用いているが、
ことができる。
本発明の自己潤滑複合材は、母材の表面に肉盛り加工することにより、滑り軸受やガイドローラに用いることで、自己潤滑性、耐摩耗性などを向上させることができる。
1 サンプル片
2 相手材
3 相手材
4 エメリー紙
10 溶接トーチ
11 中心孔
12 タングステン電極
13 粉末供給孔
14 ガス供給孔
15 母材
15a 肉盛層
16 電源
17 レーザ
18 シールドガス供給孔
19 シールドガス

Claims (8)

  1. Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、
    自己潤滑剤粉末の表面にタングステンクラッドした潤滑材料と、
    母材金属の一部と、
    が分散した状態で含まれた溶融溶接物を有し、
    前記母材金属の表面、1層によって構成される、肉盛層
  2. 前記自己潤滑剤粉末は、グラファイト粉末、BN,MoS,WS,Crの群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の肉盛層
  3. さらに、NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の肉盛層
  4. 前記金属粉末材料は70~30体積%、前記潤滑材料は30~40体積%、前記金属炭化物は、0~30体積%含むことを特徴とする、請求項に記載の肉盛層
  5. 前記潤滑材料は、30~150μmの粒度のグラファイト粉末を用いて、50~250μmの大きさに構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の肉盛層
  6. 母材金属と、
    前記母材金属の表面に形成され、請求項1からのいずれか1つに記載の肉盛層と、
    を有する、機械部品。
  7. Ni,Co,Cu系基金属もしくはこれらの合金を用いた金属粉末材料と、
    自己潤滑剤粉末の表面にタングステンクラッドした潤滑材料と、
    NbC,WC,ZrCの少なくとも1つの炭化物から構成される金属炭化物とを、
    母材金属の表面に形成された前記母材金属の溶融物を含む溶融プール上に落下させて、1層の肉盛層を形成することを特徴とする、肉盛層の形成方法。
  8. 前記溶融プールは、前記母材金属にレーザを照射するレーザ溶接により形成される、または前記母材金属にプラズマを照射するプラズマ溶接により形成されることを特徴とする、請求項に記載の肉盛層の形成方法。
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