以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、船舶推進システム100の概略構成を示す図である。
船舶推進システム100は、船舶を推進するためのシステムである。船舶推進システム100は、駆動力を発生する主機3と、主機3の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4と、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角とを制御する制御装置6とを備えている。船舶推進システム100は、主機3の駆動力によって発電を行う電動発電機5をさらに備えていてもよい。
主機3は、例えば、ディーゼルエンジンである。主機3には、燃料供給器31が設けられている。燃料供給器31は、主機3に供給する燃料の単位時間当たりの供給量を変更することで、主機3の回転速度(詳しくは、主機3の出力軸30の回転速度)を変更する。
主機3の出力軸30は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に接続されている。減速装置20は、主機3の駆動力を減速して可変ピッチプロペラ4に伝達する。
可変ピッチプロペラ4は、船舶に推進出力を与える推進器である。可変ピッチプロペラ4は、主機3から減速装置20を介して伝えられた駆動力によって回転し、推進出力を発生させる。可変ピッチプロペラ4の回転速度は、主機3の回転速度に応じて変化する。
可変ピッチプロペラ4は、可変ピッチプロペラ4の翼角(即ち、ピッチ角)を変更する翼角変更装置41を有している。翼角変更装置41は、例えば、可変ピッチプロペラ4の翼角を変更するための駆動力を発生させる油圧式又は電動式のアクチュエータを含んでいる。
電動発電機5は、電動動作及び発電動作を択一的に行う。電動発電機5は、減速装置20を介して主機3に接続されている。さらに、電動発電機5は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に接続されている。電動発電機5は、発電機の一例である。
電動発電機5は、いわゆる軸発電機である。即ち、電動発電機5は、発電動作をする場合には、主機3によって駆動され発電を行い得る。電動発電機5は、発電した電力を電力変換装置13へ供給する。電動発電機5は、電力変換装置13を介して船内母線11に電気的に接続されている。尚、電動発電機5の発電量は、電力変換装置13により制御される。
さらに、電動発電機5は、回生ブレーキとしても機能して発電を行う。詳しくは、可変ピッチプロペラ4の回転力は、減速装置20を介して電動発電機5に伝達し得る。可変ピッチプロペラ4の回転力が減速装置20を介して電動発電機5に伝わることによって、電動発電機5は駆動されて発電する。
一方、電動発電機5は、電動動作をする場合には、可変ピッチプロペラ4を回転させる駆動力を発生させる。電動発電機5の駆動力は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に伝わる。船舶推進システム100は、電動発電機5とは別の発電機である主発電機10をさらに備えてもよい。電動発電機5は、主発電機10からの電力によって電動機として動作する。例えば、主発電機10は船内母線11を介して電動発電機5に電気的に接続される。
つまり、可変ピッチプロペラ4は、主機3及び電動発電機5の一方又は双方からの駆動力によって回転し、推進出力を発生させる。可変ピッチプロペラ4の回転速度は、駆動源となる主機3及び電動発電機5の一方又は双方の出力に応じて変化する。
船舶推進システム100は、操船装置12をさらに備えてもよい。操船装置12は、例えば、船体に設置される。操船装置12は、ユーザからの操船の指令を受け付ける。操船装置12が受け付ける指令は、例えば、運転モードに基づく運転の実行と停止、運転モードの切り換え、及び船速の変更等である。
船舶推進システム100は、主機3の回転速度を検出する回転速度センサ32をさらに備えている。
回転速度センサ32は、例えば、主機3に設置され、主機3の出力軸30の回転速度を検出する。尚、本開示において、「主機3の回転速度を検出する」ことには、主機3の回転速度を直接検出することは勿論、主機3の回転速度と相関性を有する、可変ピッチプロペラ4の回転速度を検出することを含む。
図2は、制御装置6のハードウェア構成を示す概略的なブロック図である。制御装置6は、船舶推進システム100の全体を制御する。制御装置6は、制御部60、メモリ61及び記憶部62を有している。
制御部60は、記憶部62からプログラムをメモリ61に読み出して展開することによって、制御装置6の各種機能を実現する。制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサから形成される。制御部60は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI(large scale integrated circuit)等から形成されてもよい。
記憶部62は、制御部60で実行されるプログラム及び各種データを記憶する。記憶部62は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等で形成される。例えば、記憶部62は、推進制御プログラムを記憶している。メモリ61は、データ等を一時的に記憶する。メモリ61は、例えば、揮発性メモリで形成される。
制御装置6は、操船装置12、燃料供給器31、回転速度センサ32、翼角変更装置41、電動発電機5及び電力変換装置13の各々と通信可能である。制御装置6には、操船装置12で受け付けられた操船の指令が入力される。制御装置6には、回転速度センサ32の検出結果が入力される。制御装置6は、燃料供給器31、翼角変更装置41、電動発電機5及び電力変換装置13のそれぞれに指令を出力する。
具体的には、制御装置6は、船速が目標船速になるように、主機3及び可変ピッチプロペラ4を制御する。このとき、制御装置6は、複数の運転モードの中から選択された運転モードで、主機3及び可変ピッチプロペラ4を制御する。制御装置6は、運転モードの実行及び停止、運転モードの切り換え、並びに各運転モードにおける船速の変更を、例えば、操船装置12から入力された指令に基づいて行う。
図3は、制御装置6の機能ブロック図である。制御装置6は、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角に基づいて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を推定する推定部63と、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角を制御する運転制御部64とを含んでいる。以下、特に断りが無い限り、「回転速度」は、主機3の回転速度を意味する。尚、主機3の回転速度と可変ピッチプロペラ4の回転速度とは相関があるので、「回転速度」を可変ピッチプロペラ4の回転速度として読み替えることもできる。
推定部63は、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定を一定の周期で繰り返し行う。推定部63は、推定値を記憶部62に記憶させる。
例えば、推定部63は、船舶の動的応答を表した動的モデル65を含んでいる。動的モデル65は、回転速度及び翼角を入力として、推進出力の推定値を出力する。すなわち、動的モデル65は、プロペラを含む船舶の状態における時間依存変化を表している。動的モデル65は、例えば、数学的モデリングによりモデル化された可変ピッチプロペラ4のモデルを含む。可変ピッチプロペラ4の推進出力に影響を与える要素として、時間に応じて変化する動的要素が含まれる。例えば、動的モデル65は、微分方程式で表される。
運転制御部64は、回転速度及び翼角を制御する。詳しくは、運転制御部64は、燃料供給器31に指令値を出力し、回転速度を制御する。このとき、運転制御部64は、回転速度センサ32によって回転速度を検出し、検出された回転速度が目標の回転速度となるように燃料供給器31への指令値を調整する。また、運転制御部64は、翼角変更装置41に指令値を出力することによって翼角を制御する。例えば、運転制御部64は、船速が目標船速になるように、回転速度及び翼角を制御する。尚、この例では、燃料供給器31が制御されることによって主機3の回転速度が制御されるが、運転制御部64が主機3の回転速度を変更する際の制御対象は、燃料供給器31に限定されない。例えば、主機3が出力、回転速度又は燃料供給量を制御する制御装置(例えば、ECU(Electronic Control Unit))を含む場合、制御対象は主機3(詳しくは、制御装置)であってもよい。
運転制御部64は、翼角を変更する際に、翼角の変更中の可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御する(以下、この制御を「定速制御」という)。仮に、回転速度及び翼角が所望の目標値へ変更される際に、回転速度及び翼角が目標値まで瞬時に変更されると、可変ピッチプロペラ4の推進出力が大きく変動する虞がある。運転制御部64は、回転速度及び翼角を目標値へ変更する際に、回転速度及び翼角の変更態様を管理することによって可変ピッチプロペラ4の推進出力の変動を低減する。つまり、定速制御では、翼角の変更中、即ち、回転速度及び翼角が目標値に変更されるまでの過渡期間の可変ピッチプロペラ4の推進出力の変動が低減される。
詳しくは、運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度及び翼角のうちの一方を定められた態様で変更しつつ、回転速度及び翼角のうちの他方を可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整する。この例では、運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度を定められた態様で変更しつつ、翼角を可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整する。つまり、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を一定に維持するためには、翼角だけでなく回転速度も変更する必要がある。このとき、回転速度は一定の態様で変更されるので、回転速度を他の物理量に応じて調整等することは不要である。一方、翼角は、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整される。つまり、回転速度を変更したことによる可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値の変動を打ち消すように、翼角が調整される。こうして、回転速度は定められた態様で変更され且つ、翼角は微調整されながら、回転速度及び翼角がそれぞれの目標値まで変更される。
運転制御部64は、複数の運転モードを切り換えて回転速度及び翼角を制御し、運転モードの切り換えに伴って翼角を変更する際に定速制御を行う。具体的には、運転制御部64は、第1運転モードと第2運転モードとを切り換えるように構成されている。
運転制御部64は、第1運転モード及び第2運転モードのいずれにおいても、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角を制御して、船舶を目標速度で運航させる。具体的には、第1運転モードでは、可変ピッチプロペラ4の翼角が所定の範囲内に設定されるように回転速度及び翼角が制御される。例えば、第1運転モードでは、翼角が所定の第1翼角に維持される。第1運転モードでは、翼角が第1翼角に維持された状態で回転速度が変更されることによって主機3の出力、即ち、可変ピッチプロペラ4の推進出力が調整される。一方、第2運転モードでは、可変ピッチプロペラ4の翼角が第1運転モードとは異なる範囲内で設定されるように回転速度及び翼角が制御される。例えば、第2運転モードでは、翼角が第1翼角とは異なる第2翼角に維持される。第2運転モードでは、翼角が第2翼角に維持された状態で回転速度が変更されることによって主機3の出力、即ち、可変ピッチプロペラ4の推進出力が調整される。
この例の運転制御部64は、第1運転モード及び第2運転モードの各々における主機3の回転速度を、操船装置12から入力された目標船速と、運転モード毎に設定されたプロペラ特性とに基づいて決定する。
具体的には、第1運転モードは、可変ピッチプロペラ4及び主機3の特性から設定されるプロペラカーブ(すなわち、舶用特性カーブ)に基づいて回転速度及び翼角を制御する運転モードである。例えば、第1運転モードは、第2運転モードよりも推進効率に優れた運転モードである。
一方、第2運転モードは、第1運転モードのプロペラカーブとは異なるプロペラカーブに基づいて回転速度及び翼角を制御する運転モードである。具体的には、第2運転モードは、同じ推進出力を出す場合の回転速度が、第1運転モードよりも高い運転モードである。言い換えれば、第2運転モードは、第1運転モードと比べて翼角が小さい運転モードである。第2運転モードは、回転速度を高めに設定できるため、第1運転モードと比較して主機3の発揮可能出力を大きくできるという利点がある。よって、第2運転モードは、例えば、荒天時等における推進負荷の増加に備えた運航に適している。また、第2運転モードは、主機3によって電動発電機5を駆動させて発電を行いながら運航する場合に適している。後者の場合、運転制御部64は、例えば、第1運転モードでは、可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5のうちの可変ピッチプロペラ4のみを主機3の駆動力で運転し、第2運転モードでは、翼角を第1運転モードよりも小さく設定すると共に可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5の両者を主機3の駆動力で運転する。
図4は、可変ピッチプロペラ4の回転速度と推進出力によって規定される運転領域を示すグラフである。図4は、主機3及び可変ピッチプロペラ4の動作点を示す、いわゆる運転マップの一例である。尚、可変ピッチプロペラ4の回転速度と主機3の回転速度は相関があり、可変ピッチプロペラ4の推進出力と主機3の推進出力(主機3の出力のうち船舶の推進力にのみ用いられる出力)とは相関がある。このため、図4に示すグラフは、主機3の回転速度と主機3の推進出力との関係を示しているグラフとも言える。
記憶部62は、翼角が一定に維持された場合の回転速度と出力との関係を示すプロペラ特性であるプロペラカーブを複数の翼角ごとに記憶している。例えば、記憶部62は、翼角が第1翼角α1に維持された場合の回転速度と出力との関係を示す第1プロペラカーブc1と、翼角が第2翼角α2に維持された場合の回転速度と出力との関係を示す第2プロペラカーブc2とを記憶している。第1プロペラカーブc1は、運転マップ上で第1翼角α1に対応する動作点を連続的に繋いだ曲線である。第2プロペラカーブc2は、運転マップ上で第2翼角α2に対応する動作点を連続的に繋いだ曲線である。各プロペラカーブc1、c2には、目標船速に応じた動作点が設定されている。尚、記憶部62は、第1翼角α1及び第2翼角α2以外の翼角に対応するプロペラカーブ、即ち、プロペラ特性を記憶していてもよい。
運転制御部64は、第1運転モードでは、可変ピッチプロペラ4の翼角を第1翼角α1に設定し、主機3の回転速度を第1プロペラカーブc1に基づいて制御する。具体的には、運転制御部64は、第1運転モードにおいて、主機3の回転速度を、第1プロペラカーブc1上における目標船速に対応する動作点の回転速度になるように制御する。
運転制御部64は、第2運転モードでは、可変ピッチプロペラ4の翼角を第2翼角α2に設定し、主機3の回転速度を第2プロペラカーブc2に基づいて制御する。具体的には、運転制御部64は、第2運転モードにおいて、主機3の回転速度を、第2プロペラカーブc2上における目標船速に対応する動作点の回転速度になるように制御する。第2プロペラカーブc2は、第1プロペラカーブc1に比べて全体的に回転速度が高い方に位置している。つまり、同じ出力に対して、第1プロペラカーブc1で決定される回転速度に比べて、第2プロペラカーブc2で決定される回転速度の方が高い。第2運転モードにおいて、第1運転モードと同じ船速を実現するためには、第1翼角α1から第2翼角α2への翼角の減少を補うべく、主機3の回転速度が高く変更される。つまり、主機3及び可変ピッチプロペラ4の動作点が回転速度の高くなる方へ移動する。
運転制御部64は、第1運転モードと第2運転モードとの間で運転モードを切り換える際に定速制御を実行する。第1運転モードと第2運転モードとでは、可変ピッチプロペラ4の翼角が異なる。主機3の回転速度及び出力も第1運転モードと第2運転モードとで変わり得る。以下、第1運転モードのときの主機3の回転速度を第1回転速度と称し、第2運転モードのときの主機3の回転速度を第2回転速度と称する。例えば、第1回転速度は、第1プロペラカーブc1に基づいて第1翼角α1で目標船速を実現するように設定される。第2回転速度は、第2プロペラカーブc2に基づいて第2翼角α2で目標船速を実現するように設定される。第1運転モードと第2運転モードとで目標船速が同じであれば、第1運転モードと第2運転モードとの間で運転モードが切り換えられて定常状態になったときには、運転モードの切り換え前後で船速が略同じになる。しかしながら、運転モードが完全に切り換わるまでの過渡期間、即ち、切り換わって定常状態になるまでの間の船速が変動する虞がある。
そこで、運転制御部64は、運転モードを切り換える際に定速制御を実行する。具体的には、運転制御部64は、推定部63によって推定された可変ピッチプロペラ4の推進出力が一定に維持されるように回転速度及び翼角を調整しながら、回転速度及び翼角を第1回転速度N1及び第1翼角α1から第2回転速度N2及び第2翼角α2へ、又は、第2回転速度N2及び第2翼角α2から第1回転速度N1及び第1翼角α1へ変更する。このとき、運転制御部64は、回転速度及び翼角のうちの一方を定められた態様で変更しつつ、回転速度及び翼角のうちの他方を可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整する。例えば、運転制御部64は、回転速度を第1回転速度N1から第2回転速度N2へ、又は第2回転速度N2から第1回転速度N1へ定められた態様で変更しつつ、翼角を第1翼角α1から第2翼角α2へ、又は第2翼角α2から第1翼角α1へ可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整する。尚、運転制御部64は、過渡期間において、翼角を定められた態様で変更しつつ、回転速度を可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整してもよい。
続いて、制御装置6による推進制御について詳細に説明する。まず、運転モードが第1運転モードから第2運転モードに切り換えられる場合について説明する。図5は、運転モードが第1運転モードから第2運転モードに切り換えられる場合の推進制御のフローチャートである。図6は、船舶推進システム100の制御系の一部の構成を示すブロック図である。図7は、運転モードが第1運転モードから第2運転モードに切り換えられる場合の主機3の回転速度、可変ピッチプロペラ4の推進出力、可変ピッチプロペラ4の翼角、及び船速を示したタイムチャートである。
まず、ステップSa1において、運転制御部64は、第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの切り換えの指令を受け付ける。ユーザは、第1運転モードの運転時において操船装置12を操作することで、第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの切り換え実行の入力を行う。運転制御部64は、操船装置12から切り換え指令を受け取ると、運転モードの切り換えを開始する。
次に、推定部63は、ステップSa2において、主機3の現在の回転速度を回転速度センサ32により検出する。検出された回転速度が第1回転速度N1である。推定部63は、第1回転速度N1と第1翼角α1とを動的モデル65に入力し、動的モデル65を用いて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求める。推定部63は、求められた推定値を目標推進出力として記憶部62に記憶させる。
続いて、運転制御部64は、ステップSa3において、主機3の回転速度を変更する。運転制御部64は、例えば、回転速度を現在の回転速度から所定量だけ変更して更新する。この例では、第1回転速度N1をより高い第2回転速度N2に変更するケースなので、運転制御部64は、現在の回転速度を所定量だけ高く変更する。例えば、運転制御部64は、回転速度センサ32で検出される回転速度が所定量だけ変更した回転速度になるように燃料供給器31からの燃料供給量を調整する。
その後、運転制御部64は、ステップSa4において、推定部63によって推定される推定値が記憶部62に記憶された目標推進出力に近づくように、可変ピッチプロペラ4の翼角を調整する。運転制御部64は、図6に示す制御系によって翼角の指令値を求め、翼角を調整する。まず、推定部63は、現在の回転速度及び現在の翼角を動的モデル65に入力して可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求める。運転制御部64は、目標推進出力と推定値との偏差を求め、偏差を制御器に入力することによって翼角の指令値を求める。運転制御部64は、目標推進出力と推定値との偏差が小さくなるように翼角の指令値を調整する。運転制御部64は、調整後の翼角を現在の翼角として更新する。制御器は、例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御、PI(Proportional-Integral)制御又はP(Proportional)制御を行うフィードバック制御器である。
運転制御部64は、ステップSa5において、現在の回転速度が第2回転速度N2になったか否かを判定する。尚、第2回転速度N2は、第2プロペラカーブc2に基づいて目標船速及び第2翼角α2から求められる。ステップSa5において、現在の回転速度が第2回転速度N2になっていなければ、運転制御部64は、ステップSa3の処理に戻る。その後、運転制御部64は、ステップSa4,Sa5の処理を実行する。回転速度が第2回転速度N2になるまで、運転制御部64は、ステップSa3,Sa4及びSa5の処理を繰り返す。
このような処理を繰り返すと、図7に示すように、回転速度は、第1回転速度N1から第2回転速度N2へ、所定量ずつステップ状に変更されていく。回転速度は、規則的に変更される。回転速度の変更に応じて、翼角が調整される。翼角は、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定に維持されるように微調整される。そのため、翼角は、第1翼角α1から第2翼角α2へ減少傾向で変更されるが、回転速度の変更ほど規則的ではない。回転速度が第2回転速度N2になったときには、翼角は第2翼角α2になっている。このような翼角の調整によって、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値は、翼角が第1翼角α1から第2翼角α2に変更されるまでの間、略一定に維持される。その結果、翼角が第1翼角α1から第2翼角α2に変更されるまでの間の船速も、略一定に維持される。
このように、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が運転モードの切り換え開始時から変動しないように、回転速度が第1回転速度N1から第2回転速度N2へ且つ翼角が第1翼角α1から第2翼角α2へ徐々に変更されていく。
ステップSa5において、運転制御部64により、回転速度が第2回転速度N2になったことが判定されると、第1運転モードから第2運転モードへの切り換えが完了する。尚、第1運転モードが可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5のうちの可変ピッチプロペラ4のみを主機3の駆動力で運転する運転モードであり、かつ、第2運転モードが可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5の両者を主機3の駆動力で運転する運転モードである場合、運転制御部64は、例えば、第1運転モードから第2運転モードへの切り換えの完了時又はこの完了時よりも後に、電力変換装置13を制御して電動発電機5による発電を開始する。
次に、運転モードが第2運転モードから第1運転モードに切り換えられる場合について説明する。図8は、運転モードが第2運転モードから第1運転モードに切り換えられる場合の推進制御のフローチャートである。
まず、ステップSb1において、運転制御部64は、第2運転モードから第1運転モードへの運転モードの切り換えの指令を受け付ける。この処理は、ステップSa1の処理と同様である。運転制御部64は、操船装置12から切り換え指令を受け取ると、運転モードの切り換えを開始する。
それ以降のステップSb2からステップSb5は、第1運転モードから第2運転モードへの切り換わり時のステップSa2からステップSa5の処理と基本的には同様である。ステップSa2からステップSa5では、第1翼角α1から第2翼角α2へ且つ第1回転速度N1から第2回転速度N2へ変更されたのに対し、ステップSb2からステップSb5では、第2翼角α2から第1翼角α1へ且つ第2回転速度N2から第1回転速度N1へ変更される点が異なる。翼角及び回転速度の変化の方向が異なるのに応じて、処理の内容が変更されている。
具体的には、推定部63は、ステップSb2において、主機3の現在の回転速度を回転速度センサ32により検出する。検出された回転速度が第2回転速度N2である。推定部63は、第2回転速度N2と第2翼角α2とを動的モデル65に入力し、動的モデル65を用いて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求める。推定部63は、求められた推定値を目標推進出力として記憶部62に記憶させる。
続いて、運転制御部64は、ステップSb3において、主機3の回転速度を変更する。運転制御部64は、例えば、回転速度を現在の回転速度から所定量だけ変更して更新する。この例では、第2回転速度N2をより低い第1回転速度N1に変更するケースなので、運転制御部64は、現在の回転速度を所定量だけ低く変更する。例えば、運転制御部64は、回転速度センサ32で検出される回転速度が所定量だけ変更した回転速度になるように燃料供給器31からの燃料供給量を調整する。
その後、運転制御部64は、ステップSb4において、推定部63によって推定される推定値が記憶部62に記憶された目標推進出力に近づくように、可変ピッチプロペラ4の翼角を調整する。このとき、推定部63は、現在の回転速度及び現在の翼角を動的モデル65に入力して可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求める。運転制御部64は、目標推進出力と推定値との偏差を求め、偏差を制御器に入力することによって翼角の指令値を求める。運転制御部64は、目標推進出力と推定値との偏差が小さくなるように翼角の指令値を調整する。運転制御部64は、調整後の翼角を現在の翼角として更新する。
運転制御部64は、ステップSb5において、現在の回転速度が第1回転速度N1になったか否かを判定する。尚、第1回転速度N1は、第1プロペラカーブc1に基づいて目標船速及び第1翼角α1から求められる。ステップSb5において、現在の回転速度が第1回転速度N1になっていなければ、運転制御部64は、ステップSb3の処理に戻る。その後、運転制御部64は、ステップSb4,Sb5の処理を実行する。回転速度が第1回転速度N1になるまで、運転制御部64は、ステップSb3,Sb4及びSb5の処理を繰り返す。これにより、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が運転モードの切り換え開始時から変動しないように、回転速度が第2回転速度N2から第1回転速度N1へ且つ翼角が第2翼角α2から第1翼角α1へ徐々に変更されていく。
こうして、第2翼角α2から第1翼角α1への翼角の変更、及び、第2回転速度N2から第1回転速度N1への回転速度の変更が完了する。これにより、第2運転モードから第1運転モードへの運転モードの切り換えが完了する。尚、第1運転モードが可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5のうちの可変ピッチプロペラ4のみを主機3の駆動力で運転する運転モードであり、かつ、第2運転モードが可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5の両者を主機3の駆動力で運転する運転モードである場合、運転制御部64は、例えば、第2運転モードから第1運転モードへの切り換えの開始時又はこの開始時よりも前に、電力変換装置13を制御して電動発電機5による発電を開始する。
このように制御装置6は、翼角を変更する際に定速制御を実行する。つまり、制御装置6は、翼角を変更する際に、翼角の変更中の可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御する。翼角を変更する際には、翼角の変更前後で船速が一定になるように変更前後の動作点(即ち、回転速度及び翼角)を決定したとしても、動作点、即ち、翼角を変更する間の過渡期間においては船速が変動する虞がある。制御装置6は、翼角の変更中の可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を監視して、推定値が一定になるように回転速度及び翼角を調整しながら翼角を変更する。その結果、翼角の変更中、即ち、翼角が変更される過渡期間における可変ピッチプロペラ4の推進出力の変動を低減することができる。したがって、過渡期間においては、船速の変動を低減できて船速が安定化する。
このとき、可変ピッチプロペラ4の推進出力を一定に維持するために、推定部63は、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角に基づいて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を推定する。このため、主機3の種類等によって主機3の出力を直接検出できない場合でも、可変ピッチプロペラ4の推進出力を一定に維持するような回転速度及び翼角の制御を実現できる。
具体的には、推定部63は、船舶の動的応答を表し、回転速度及び翼角を入力として可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を出力する動的モデル65を用いて、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求める。このため、船舶の動的な運転状況に応じた可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を適切に推定できる。
このような定速制御は、翼角の設定条件が異なる複数の運転モードの間で運転モードを切り換える際に特に有効である。
また、運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度及び翼角のうちの一方を、定められた態様で変更しつつ、回転速度及び翼角のうちの他方を可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように調整する。この場合、回転速度及び翼角の両者を他の物理量に応じて自由に調整する場合と比較して、回転速度及び翼角の制御を簡単にすることができる。
特に、運転制御部64は、回転速度を定められた態様で変更しつつ、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように翼角を調整する。可変ピッチプロペラ4の翼角は、主機3の回転速度と比較して、応答性良く制御できる。このため、翼角を定められた態様で変更しつつ、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値が一定になるように回転速度を調整する場合と比較して、翼角を変更する際の過渡期間における船速の変動を一層低減できる。
以上のように、船舶推進システム100は、駆動力を発生する主機3と、主機3の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4と、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角を制御する制御装置6とを備え、制御装置6は、回転速度及び翼角に基づいて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を推定する推定部63と、翼角を変更する際に、翼角の変更中の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御する運転制御部64とを有する。
換言すると、船舶の推進制御方法は、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角に基づいて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を推定することと、翼角を変更する際に、翼角の変更中の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御することとを含む。
さらに換言すると、船舶の推進制御プログラムは、コンピュータに、主機3の回転速度及び可変ピッチプロペラ4の翼角に基づいて可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を推定することと、翼角を変更する際に、翼角の変更中の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御することとを実行させる。
これらの構成によれば、翼角を変更する際の変更中の可変ピッチプロペラ4の推進出力を一定に維持することができる。したがって、翼角を変更する際の過渡期間において、船速の変動を低減でき、船速を安定化させることができる。また、可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求めることによって、主機3の出力を直接検出できない場合でも、翼角の変更中の可変ピッチプロペラ4の推進出力を一定にして、船速を安定化させることができる。
また、運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度及び翼角のうちの一方を定められた態様で変更しつつ、回転速度及び翼角のうちの他方を推定値が一定になるように調整する。
この構成によれば、回転速度及び翼角の一方は変更の態様が決まっており、自由には変更されない。そして、回転速度及び翼角の他方は比較的自由に調整でき、推定値が一定になるように調整される。その結果、回転速度及びと翼角の両者を自由に調整する場合と比較して、回転速度及び翼角の制御を簡単にすることができる。
さらに、運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度を定められた態様で変更しつつ、翼角を推定値が一定になるように調整する。
この構成によれば、可変ピッチプロペラ4の翼角は、主機3の回転速度と比較して、応答性良く制御できるため、翼角を変更する際の過渡期間における船速の変動を一層低減できる。
また、推定部63は、船舶の動的応答を表し、回転速度及び翼角を入力として推定値を出力する動的モデル65を含む。
この構成によれば、動的モデル65を用いることで、運転状況に応じた船舶の動的な挙動を推定でき、ひいては翼角の変更中の船速を適切に安定化させることができる。
また、運転制御部64は、翼角が所定の範囲内に設定されるように回転速度及び翼角が制御される第1運転モードと、翼角が第1運転モードとは異なる範囲内で設定されるように回転速度及び翼角が制御される第2運転モードとを切り換えるように構成され、第1運転モードと第2運転モードとの間で運転モードを切り換える際に、翼角の変更中の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御する。
この構成によれば、翼角が異なる範囲に設定される第1運転モードと第2運転モードとの間の運転モードの切り換えの際に、船速を安定化させることができる。
具体的には、運転制御部64は、第1運転モードでは翼角を所定の第1翼角α1に維持する一方、第2運転モードでは翼角を第1翼角α1と異なる第2翼角α2に維持する。
この構成によれば、第1運転モードでは、翼角が第1翼角α1で一定になり、第2運転モードでは、翼角が第2翼角α2で一定になる。そして、このような第1運転モードと第2運転モードとの間の運転モードの切り換えに応じて、翼角が第1翼角と第2翼角とで変更される。このときの船速が安定化する。
また、船舶推進システム100は、主機3によって駆動される電動発電機5(発電機)をさらに備え、運転制御部64は、第1運転モードでは、可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5のうちの可変ピッチプロペラ4のみを主機3の駆動力で運転し、第2運転モードでは、翼角を第1運転モードよりも小さく設定すると共に可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5の両者を主機3の駆動力で運転する。
この構成によれば、第2運転モードでは翼角が第1運転モードよりも小さく設定されるため、船速を第1運転モードのときと同程度にする場合には主機3の回転速度が第1運転モードに比べて高くなる。このため、第2運転モードでは、第1運転モードと比べて、主機3の発揮可能出力を大きくすることができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
例えば、主機3は、ディーゼルセンジンに限定されず、ガスタービンエンジン、蒸気タービン、ガソリンエンジン、ガスエンジン等であってもよい。例えば、船舶推進システム100は、主機3、可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5を含む推進機構を2つ以上備えてもよい。
電動発電機5は、電動機としての機能を有さない発電機であってもよい。船舶推進システム100は、電動発電機5を備えなくてもよい。主発電機10で発生した電力は、例えば、電動発電機5に加えて、船内母線11を介して電動発電機5以外の他の船内機器に供給されてもよい。
船舶推進システム100が備える、主機3、減速装置20、可変ピッチプロペラ4、電動発電機5、回転速度センサ32等の個数は、限定されない。
運転制御部64は、第1運転モード及び第2運転モードの各々において、翼角を所定の範囲内で変動するように制御してもよい。つまり、第1運転モードでは翼角が第1翼角に維持され、第2運転モードでは翼角が第2翼角に維持されているが、これに限定されない。第1運転モードにおいて、翼角が所定の範囲で変更されてもよい。第2運転モードにおいても、翼角が所定の範囲で変更されてもよい。ただし、第2運転モードにおける翼角の設定範囲は、第1運転モードにおける翼角の最小値よりも低い範囲に設定されていることが好ましい。運転制御部64は、第2運転モードにおいて、主機3によって電動発電機5を駆動しなくてもよい。
運転制御部64は、翼角を変更する際に、翼角を定められた態様に変更しつつ、推定値が一定になるように回転速度を調整してもよい。運転制御部64は、翼角を変更する際に、回転速度及び翼角の両方を推定値が一定になるように調整してもよい。運転制御部64は、運転モードの切換時以外において翼角を変更する際に、翼角の変更中の推定値が一定になるように回転速度及び翼角を制御してもよい。
推定部63による可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定は、動的モデル65を用いるものに限定されない。推定部63は、動的モデル65を含まなくてもよい。推定部63は、回転速度及び翼角に対応する可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を規定したテーブル等を有していてもよい。その場合、推定部63は、回転速度及び翼角をテーブルに照らし合わせることによって可変ピッチプロペラ4の推進出力の推定値を求めることができる。
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。