JP7287665B2 - 試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法 - Google Patents
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Description
もっともヒトに近いモデルとしては、平均寿命40年のアカゲザルを用い、20年かけてカロリー制限の健康長寿効果を明らかにした研究もある(非特許文献3)。
一方、哺乳類による試験では、一般に長い試験期間と大きなコストが必要である。例えば、アカゲザルによる研究は20年程度必要であり、マウスによる研究でも評価方法によっては100週間程度必要とする事例がある。早老症モデルマウスは老化の機序が一般健常個体とは異なるため、適用範囲は限られる。
さらに、実験動物の老化の指標として認知・運動機能などを用いる場合、定量評価が難しい行動観察が主体となり、実験間の比較などに困難が生じることが多い。
[1](a)特異的抗原に曝露されない環境で飼育されるマウスであって、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有するT細胞受容体を発現する雌マウス(試験雌マウス)に対して、試験物質を投与する工程と、(b)前記試験物質を投与した前記試験雌マウスの糞便を回収し、前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量を測定する工程と、(c)前記工程(b)で測定された前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量に基づいて、前記試験物質の抗老化機能を評価する工程と、を含む、試験物質の抗老化機能の評価方法。
[2]前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始時の週齢が、14~18週齢である[1]に記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[3]前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始時の週齢が、16週齢である、[2]に記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[4]前記工程(b)を、前記試験物質を投与した雌マウスが28週齢以下である期間に1回以上行う、[1]~[3]のいずれか1つに記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[5]前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始前の糞便中のIgA量が、1000ng/糞便mg以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[6]前記試験雌マウスが、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有するMHC Class II拘束性のT細受容体を発現するマウスである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[7]前記特異的抗原が卵白アルブミンである、[6]に記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[8]前記試験雌マウスが、DO11.10マウス系統のマウスである、[7]に記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[9](b’)前記試験雌マウスと同じ環境で同じ期間飼育されたマウスであって、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有する前記T細胞受容体を発現する雌マウスであって、且つ前記試験物質を投与しなかった雌マウス(対照雌マウス)の糞便を回収し、前記対照雌マウスの前記糞便中のIgA量を測定する工程、をさらに有する、[1]~[8]のいずれか一つに記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
[10]前記工程(c)において、前記工程(b)で測定された前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量が、前記工程(b’)で測定された前記対照雌マウスの前記糞便中のIgA量よりも多い場合に、前記試験物質は抗老化機能を有すると評価する、[9]に記載の試験物質の抗老化機能の評価方法。
工程(a)は、特異的抗原に曝露されない環境で飼育されるマウスであって、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有するT細胞受容体(T cell receptor:TCR)を発現する雌マウス(試験雌マウス)に対して、試験物質を投与する工程である。
「特異的抗原に曝露されない環境」とは、飼育環境および給餌飼料に当該特異的抗原が含まれない状態を意味する。特異的抗原に曝露されない環境は、飼育室内に特異的抗原を持ち込まず、特異的抗原を含まない原材料で調製された飼料を用いることにより達成することができる。
「そのT細胞のほとんどが特異的抗原に応答性を有するTCRを発現する」とは、マウスの体内に存在するT細胞のうちの大部分が、特異的抗原に応答性を有するTCRを発現しているT細胞であることをいう。前記マウスの体内に存在するT細胞のうちの大部分とは、例えば、マウス体内に存在するT細胞のうちの60%以上、好ましくは70%以上をいう。
「特異的抗原に応答性を有するTCR」とは、特異的抗原の存在下で培養された抗原提示細胞に対して応答性を有するT細胞のTCRをいう。特異的抗原の存在下で抗原提示細胞を培養すると、特異的抗原が抗原提示細胞に取り込まれ、特異的抗原の断片ペプチドとMHC(Major Histocompatibility Complex)とのペプチド-MHC複合体が抗原提示細胞に提示される。特異的抗原に応答性を有するT細胞とは、前記抗原提示細胞に提示されたペプチド-MHC複合体にTCRを介して結合し、活性化するT細胞である。T細胞の活性化は、例えば、T細胞からのサイトカイン(インターフェロン、インターロイキン等)の分泌量の上昇、T細胞の増殖等により確認することができる。したがって、T細胞が、特異的抗原に応答性を有するTCRを発現しているか否かは、特異的抗原の存在下で抗原提示細胞とT細胞とを共培養し、T細胞の活性化を検出することにより確認することができる。
一例として、TCRトランスジェニックマウスとしては、DO11.10マウス系統のマウスが挙げられる。DO11.10マウス系統は、卵白アルブミンに応答性を有するT細胞のTCRが導入されたトランスジェニックマウスである。
そのため、TCR発現マウス(例、TCRトランスジェニックマウス)の雌を用いることにより、従来よりも短期間で、試験物質の抗老化機能を評価することが可能となる。
糞便中IgAの測定方法は、公知の方法により、行うことができる。糞便中IgAの測定方法としては、例えば、糞便を適当な緩衝液(例、PBS等)に懸濁し、遠心分離を行って上清を取得し、前記上清中のIgAをELISA等により測定する方法が挙げられる。
投与開始前の糞便中IgA量により個体の選抜を行わない場合には、例えば、10匹以上とすることができる。一例として、試験雌マウスの数は、10~15匹程度とすることができる。
試験物質の投与期間は、例えば、10週間程度以上とすることができる。投与期間の上限は、特に限定されないが、本実施形態の評価方法では、従来法のように長い投与期間を必要とせず、12週間程度の投与期間で評価を行うことができる。一例として、試験物質の投与期間は、10~16週間程度とすることができる。具体例としては、12週間が例示される。例えば、試験物質の投与を16週齢で開始した場合には、28週齢程度まで試験物質の投与を行ってもよい。
工程(b)は、前記試験物質を投与した前記試験雌マウスの糞便を回収し、前記糞便中のIgA量を測定する工程である。
工程(c)は、前記工程(b)で測定された糞便中のIgA量に基づいて、前記試験物質の抗老化機能を評価する工程である。
通常、対照雌マウスの糞便中IgA量に対する試験雌マウスの糞便中のIgA量の増加率が大きいほど、試験物質は抗老化機能が高いと評価される。
本実施形態の評価方法は、上記工程(a)~(c)に加えて、他の工程を有していてもよい。他の工程としては、対照マウスの糞便中のIgA量を測定する工程(b’)が挙げられる。
工程(b’)は、前記試験雌マウスと同じ環境で同じ期間飼育されるマウスであって、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有するT細胞受容体遺伝子を発現する雌マウスであって、且つ前記試験物質を投与しなかった雌マウス(対照雌マウス)の糞便を回収し、前記対照雌マウスの糞便中のIgA量を測定する工程である。
対照雌マウスの糞便の回収は、前記工程(b)における試験雌マウスの糞便の回収と同時期に行い、同様の方法で、糞便中IgA量を測定する。
(準備)
雌マウスの選抜:16週齢の雌マウス(TCRトランスジェニックマウス、例DO11.10マウス)から定刻に糞便を採取し、糞便中IgA量をELISAで測定し、1000ng/糞便mg以上を示した個体を選抜する。
試験区の群分け:上記で選抜した個体を用い、試験雌マウス群及び対照雌マウス群が、各群4~6匹程度となるように群分けを行う。この時、糞中IgA抗体量が各群で差が生じないように留意する。
工程(a):定法通り1ケージあたり3~4匹で飼育する。試験物質を、飼料若しくは水に混ぜて、自由摂取させ、およそ28週齢に至るまで飼育する。
工程(b):工程(a)のマウスについて、2~4週間毎に定刻に糞便を回収し、ELISAで糞便中IgAを測定する。
工程(b’):試験物質を与えない以外は、工程(a)と同様に飼育した対照雌マウスについて、工程(b)と同時に糞便を回収し、ELISAで糞便中IgAを測定する。
工程(c):工程(b)で測定された試験雌マウスの糞便中IgA量と、工程(b’)で測定された対照雌マウスの糞便中IgA量とを比較して、当該比較結果に基づき、試験物質の抗老化機能を評価する。工程(b)で測定した試験雌マウスの糞便中IgA量の減少速度が、工程(b’)で測定された対照雌マウスの糞便中IgAよりも遅れる、又は緩やかになることがあれば、試験試料は、抗老化機能を有すると評価することができる。
そのため、短い期間で効率よく抗老化物質のスクリーニングを行うことが可能となる。
試験動物として、T細胞のほとんどが卵白アルブミン(OVA)に応答するTCRを発現するマウスである、DO11.10マウス(Jackson laboratories)の雄(12匹)及び雌(12匹)を用いた。D011.10マウスを、定法通りSPF環境下で1ケージあたり3~4匹で飼育した。飼料には市販標準飼料(NMF;オリエンタル酵母工業)を用い、自由摂取させた。
16~42週齢の間、2週間毎に糞便を採取し、IgA抽出まで-30℃で凍結保存し、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。ELISA用試料の調製のために、採取した糞便1mgを、10μLの抽出バッファー(cOmplete, EDTA-free: Roche Diagnosticsを添加したELISA Diluent:Thermo Fisher scientific)に懸濁し、4℃環境で10分間、15000gで遠心分離を行った。遠心後、上清を回収し、測定まで-30℃で凍結保存し、ELISA用試料とした。ELISAは、Mouse IgA ELISA構築キット(Bethyl Laboratories, Inc)を用いて行った。
雌では、16~28週齢の期間においても、加齢に伴い糞便中IgA量の有意な減少が認められた。
DO11.10マウスの雌を、定法通りSPF環境下で1ケージあたり3~4匹で飼育した。飼料は自由摂取とし、15週齢までは市販標準飼料を用い、16週齢から精製飼料(AIN-93M;オリエンタル酵母工業)を用いた。
精製飼料の投与開始前のマウス、及び精製飼料投与開始から1週間後のマウスから糞便を採取し、実験例1と同様の方法で、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。精製飼料の投与開始前後におけるIgA低減率を、下記により算出した。下記式中、「投与前IgA量」は、精製飼料投与開始前の糞便中IgA量を表し、「投与後IgA量」は、精製飼料投与開始1週間後の糞便中IgA量を表す。
IgA低減率=(投与前IgA量-投与後IgA量)/投与前IgA量×100(%)
図2に示すように、精製飼料投与開始前の糞便中IgA量が1000ng/糞便1mg以上の高値群では、精製飼料の投与により糞便中IgA量が低減した。一方、精製飼料投与開始前の糞便中IgA量が1000ng/糞便1mg未満の低値群では、精製飼料の投与による糞便IgA量の低下は認められなかった。
DO11.10マウスの雌を、定法通りSPF環境下で1ケージあたり3~4匹で飼育した。飼料には市販標準飼料を用い、自由摂取させた。16週齢のマウスの糞便を採取し、実験例1と同様の方法で、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。前記測定結果に基づき、マウスを、糞便中のIgA量が1000ng/糞便1mg以上である高値群と、1000ng/糞便1mg未満である低値群とに分けた。
高値群(n=6)および低値群(n=11)のマウスを、市販標準飼料を用いて飼育し、16~32週齢の間、4週間毎に糞便を採取し、実験例1と同様の方法で、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。
Claims (9)
- (a)特異的抗原に曝露されない環境で飼育されるマウスであって、そのT細胞のほとんどが前記特異的抗原に応答性を有するT細胞受容体を発現する雌マウス(試験雌マウス)に対して、試験物質を投与する工程と、
(b)前記試験物質を投与した前記試験雌マウスの糞便を回収し、前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量を測定する工程と、
(c)前記工程(b)で測定された前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量に基づいて、前記試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能を評価する工程と、
を含み、
前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始時の週齢が、14~18週齢である、
試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。 - 前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始時の週齢が、16週齢である、請求項1に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- 前記工程(b)を、前記試験物質を投与した前記試験雌マウスが28週齢以下である期間に1回以上行う、請求項1又は2に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- 前記試験雌マウスの前記試験物質の投与開始前の糞便中のIgA量が、1000ng/糞便1mg以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- 前記T細胞受容体が、MHC Class II拘束性のT細胞受容体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- 前記特異的抗原が卵白アルブミンである、請求項5に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- 前記試験雌マウスが、DO11.10マウス系統のマウスである、請求項6に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
- (b’)前記試験雌マウスと同じ環境で同じ期間飼育されるマウスであって、前記特異的抗原に応答性を有する前記T細胞受容体を発現する雌マウスであって、且つ前記試験物質を投与しなかった雌マウス(対照雌マウス)の糞便を回収し、前記対照雌マウスの前記糞便中のIgA量を測定する工程、
をさらに有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。 - 前記工程(c)において、
前記工程(b)で測定された前記試験雌マウスの前記糞便中のIgA量が、前記工程(b’)で測定された前記対照雌マウスの前記糞便中のIgA量よりも多い場合に、前記試験物質は、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能を有すると評価する、
請求項8に記載の試験物質の、加齢に伴う粘膜免疫機能の低下を抑制する機能の評価方法。
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