JP7281389B2 - プログラムおよび遅延影響度算出装置 - Google Patents

プログラムおよび遅延影響度算出装置 Download PDF

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Description

本発明は、遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する遅延影響度算出装置等に関する。
鉄道分野においては、遅延対策の検討を目的として、運行管理システムに記録される運行実績データを利用した列車遅延の分析が進められている。従来の列車遅延の分析手法の一例として、ダイヤ図の列車スジを遅延量(遅延時分)に応じて色分けして表示したクロマティックダイヤ図(着色ダイヤ図)がよく知られている。クロマティックダイヤ図では、ダイヤ担当者が見慣れているダイヤ図の形式としたことで、実際の遅延箇所や遅延量を視覚的に容易に把握することができる。また、遅延の発生要因を特定するために、ある列車のある駅の遅延時分を目的関数とし、その遅延に影響を与える他の列車や駅の遅延時分を説明変数とした回帰分析を用いた分析手法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2019-123479号公報
しかしながら、従来の列車遅延の分析手法では、遅延対策の支援には未だ不充分である。例えば、都市部等の運行時隔が短い高密度線区では、遅延の影響はダイヤ図上で面的に広がり、どの箇所(発生源)で遅延が発生しその遅延がどのように波及しているか、といった列車遅延の波及のメカニズムを把握・分析するのは困難である。また、複数箇所で遅延が発生した場合、どの遅延に対して優先的に効果対策を実施すべきか、といった判断基準が得られない。一般的に、より多数の駅や列車に遅延が波及する波及範囲の広い遅延であるほど、重大な遅延とみなされる。具体的な遅延対策の検討にあたっては、より重大な遅延箇所や、遅延対策の実施によってより効果が得られる箇所に対して優先的に遅延対策を実施したいと考えるが、そのような観点での列車遅延の分析はなされていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運行実績データを利用した列車遅延の分析の一助となる、遅延対策の検討に有用な指標を定量的に算出する技術を提案すること、である。
上記課題を解決するための第1の発明は、
所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段(例えば、図17の遅延事象抽出部202)、
前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段(例えば、図17の遅延伝搬ネットワーク策定部208)、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて任意の遅延事象である着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段(例えば、図17の影響度算出部214)、
としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
他の発明として、
所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段と、
前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段と、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて任意の遅延事象である着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段と、
を備えた遅延影響度算出装置を構成してもよい。
第1の発明等によれば、運行実績データを利用して、遅延対策の検討に有用な指標として、任意の遅延事象である着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出することができる。遅延に関する因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けた遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象は、当該着目遅延事象から遅延が波及する範囲に相当する。従って、着目遅延事象からの遅延の波及範囲を表す影響度を、遅延対策の検討に有用な指標とすることができる。
第2の発明は、第1の発明において、
前記抽出手段は、前記所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の前記運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出し、
前記策定手段は、前記運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の前記遅延伝搬ネットワークを策定し、
前記算出手段は、前記着目遅延事象について前記運行日別の影響度を算出して総和を求めることで、前記着目遅延事象に関する通算影響度を算出する、
プログラムである。
第2の発明によれば、着目遅延事象について異なる運行日別の影響の総和である通算影響度を算出することができる。同じ列車ダイヤであっても、運行日毎に遅延が生じる着発事象や遅延時分が異なり得る。つまり、着目遅延事象に着目すると、運行日毎に、遅延が生じたか否か(遅延事象であるか否か)や生じた遅延時分といった遅延の状況が異なる。従って、例えば、1ヶ月間や1年間といった所定期間における通算影響度を算出するとした場合、通算影響度は、当該所定期間における運行日毎の遅延の違いを当該所定期間全体にわたって考慮した値となり、遅延対策の検討により有用な指標になり得る。
第3の発明は、第1の発明において、
所与の遅延対策時分を設定する設定手段(例えば、図17の遅延対策設定部206)、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて遅延発生源である遅延事象を特定する特定手段(例えば、図17の遅延発生源特定部204)、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて、所与の遅延事象から前記遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な前記遅延発生源のうち、前記着目遅延事象を経由せずに到達可能な前記遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が前記遅延対策時分以下である前記所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行する無効化手段(例えば、図17の遅延伝搬ネットワーク策定部208)、
前記無効化処理後の前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から辿ることが不可能となった遅延事象の数に基づいて、前記着目遅延事象に関する前記遅延対策による効果値を算出する効果算出手段(例えば、図17の効果値算出部216)、
として前記コンピュータを更に機能させるプログラムである。
第3の発明によれば、遅延対策時分を設定し、この遅延対策時分だけ着目遅延事象の遅延時分を減少させる遅延対策を実施した場合の効果値を算出することができる。着目遅延事象に対する遅延対策を実施することにより、遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に遅延対策の効果が伝搬して遅延時分が遅延対策時分だけ減少し、遅延時分が遅延対策時分以下である遅延事象については遅延が解消する。しかし、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、着目遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が有る遅延事象に対しては、その遅延発生源からの遅延が伝搬していることから、着目遅延事象のみに遅延対策を実施したとしても遅延が解消しない。つまり、遅延伝搬ネットワークにおいて着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象のうち、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、着目遅延事象を経由せずに到達可能な延発生源が無い遅延事象についてのみ、遅延対策により遅延時分が減少し得る。従って、無効化処理後の遅延伝搬ネットワークは、設定した遅延対策時分の遅延対策を着目遅延事象に対して実施した後の遅延事象間の繋がりを表し、着目遅延事象から辿ることが不可能となった遅延事象の数は、遅延対策により遅延が解消された遅延事象の数であるから、当該数に基づいて、着目遅延事象に対する遅延対策による効果値を算出することができる。
第4の発明は、第3の発明において、
前記効果算出手段は、前記無効化処理後の前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から辿ることが可能な遅延事象の数に基づいて遅延対策後影響度を算出し、前記算出手段により算出された影響度と当該遅延対策後影響度との差異に基づいて前記効果値を算出する、
プログラムである。
第4の発明によれば、遅延対策後の影響度を算出できるため、着目遅延事象について、遅延対策前後の影響度の差異に基づいて効果値を算出することができる。遅延対策後の影響度は、遅延対策の実施後に着目遅延事象からの遅延が伝搬している遅延事象である、無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて着目遅延事象から辿ることが可能な遅延事象、の数に基づいて算出することができる。
第5の発明は、第3又は第4の発明において、
前記抽出手段は、前記所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の前記運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出し、
前記策定手段は、前記運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の前記遅延伝搬ネットワークを策定し、
前記無効化手段は、前記運行日別の前記遅延伝搬ネットワークそれぞれについて前記無効化処理を実行し、
前記効果算出手段は、前記着目遅延事象についての前記運行日別の前記効果値を算出して総和を求めることで、前記着目遅延事象に関する通算効果値を算出する、
プログラムである。
第5の発明によれば、着目遅延事象について、異なる運行日別の効果値の総和である通算効果値を算出することができる。上述のように、同じ列車ダイヤであっても、運行日毎に遅延が生じる着発事象や遅延時分が異なり得る。つまり、着目遅延事象に着目すると、運行日毎に、遅延が生じたか否か(遅延事象であるか否か)や生じた遅延時分といった遅延の状況が異なるから、同じ遅延事象に同じ遅延対策時分の遅延対策を実施したとしても、運行日毎に得られる効果値が異なり得る。従って、通算効果値は、運行日毎の遅延の違いを考慮した値であり、遅延対策の検討により有用な指標といえる。
列車遅延の影響度の説明図。 任意の遅延事象についての影響度の説明図。 遅延対策による効果値の説明図。 列車遅延の分析手順の流れ図。 着遅延に関する因果関係の説明図。 発遅延に関する因果関係の説明図。 遅延事象の抽出の説図。 遅延伝搬ネットワークの策定の説明図。 遅延対策の実施の説明図。 複数の遅延の発生源からの遅延の波及の合流の説明図。 1つの遅延の発生源からの遅延の波及の合流の説明図。 遅延事象組の説明図。 遅延伝搬リストの説明図。 波及先リストの説明図。 波及先リストに追加する遅延事象組の生成の説明図。 波及先リストに追加する遅延事象組のフラグの設定の説明図。 遅延影響度算出装置の機能構成図。 列車遅延分析情報の一例。 遅延伝搬ネットワーク策定処理のフローチャート。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
[概要]
本実施形態は、所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき列車遅延の分析を行うものであり、遅延対策の検討を支援するために、列車遅延の影響や、遅延対策の実施により得られる効果を定量的な評価値として算出する。具体的には、ある駅で生じたある列車の到着或いは出発の遅延が波及した範囲を、当該遅延が他の列車に与える遅延の影響度として算出する。そして、この影響度に基づいて、遅延対策の実施により得られる効果を表す効果値を算出する。
(A)影響度
図1は、列車遅延の影響度を説明する図である。図1では、ダイヤ図の一例を示しており、列車ダイヤを点線で示し、運行実績データに相当する実績ダイヤを実線で示している。また、実績ダイヤ上の遅延が生じた着事象・発事象(着発事象)である遅延事象を「丸印」で示している。また、遅延事象のうち、遅延の発生源を「黒丸印」とし、遅延の発生源から波及した遅延事象を「白丸印」として示している。
図1の例では2箇所で遅延が発生しており、それぞれの遅延が他の着発事象に波及している。すなわち、1箇所目の遅延として、列車3MのB駅の出発が遅れる発遅延が生じている。この発遅延により、当該列車3MのB駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じているとともに、後続列車5M,7Mについても、B駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じている。つまり、遅延の発生源である列車3MのB駅の発遅延が、他の列車5M,7Mの着発事象に波及している。
また、2箇所目の遅延として、列車11MのB駅の出発が遅れる発遅延が生じている。同様に、この発遅延により、当該列車11MのB駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じているとともに、後続列車13Mについても、B駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じている。つまり、遅延の発生源である列車11MのB駅の発遅延が、他の列車13Mの着発事象に波及している。
ある遅延事象から遅延が波及した他の着発事象の総数を、当該遅延事象が他の着発事象に与える影響度とする。図1の例では、1箇所目の遅延の発生源である列車5MのB駅の発遅延の影響度は「10」であり、2箇所目の遅延の発生源である列車11MのB駅の発遅延の影響度は「6」である。
図1では遅延の発生源についての影響度を示しているが、遅延の発生源に限らず、図2に示すように、任意の着発事象についての影響度も同様に求めることができる。図2は、任意の着発事象の影響度を説明する図である。図2において、例えば、着発事象の一つである列車5MのB駅の着事象の影響度は「7」である。つまり、この着事象の遅延(着遅延)により、当該列車5MのB駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じているとともに、後続列車7Mについても、B駅以降の各駅の到着および出発に遅れが生じている。なお、遅延が生じていない(遅延事象でない)着発事象の影響度は「0」とする。
また、図1,図2は、ある運行日の運行実績データに基づく遅延事象の影響度の一例を示しているが、任意の着発事象について、同じ列車ダイヤに対する複数の運行日それぞれの運行実績データから求められる影響度の合計を求め、当該着発事象についての通算影響度とすることができる。運行日毎に運行実績データは異なり得る。つまり、運行日毎に、遅延の発生有無や発生箇所、発生した遅延が波及する範囲等が異なり得る。従って、ある着発事象に着目すると、運行日によって、遅延が生じる(遅延事象となる)/生じない(遅延事象とならない)の違いがあり、また、遅延が生じたときの影響度も異なり得る。そこで、遅延が生じていない(遅延事象でない)ときの影響度を「0」として、運行日毎の影響度の合計を、当該着発事象の通算影響度とする。
つまり、ある着発事象の通算影響度は、当該着発事象の遅延の発生頻度を考慮した影響度といえる。これにより、例えば、遅延が発生した時の影響度は小さいが毎日発生するといったように発生頻度が高い着発事象と、遅延が発生したときの影響度は大きいけれど発生頻度は低い着発事象とのそれぞれの通算影響度を比較することで、どちらの着発事象に対する遅延対策の実施が効果的かといった目安とすることができる。このため、ある着発事象の通算影響度を、当該着発事象に遅延対策を実施したときに得られる効果値とみなすことができる。
(B)効果値
図3は、遅延対策による効果値を説明する図である。図3では、図1に示した遅延の発生源に対して遅延対策を実施した場合を例示している。図3に示すように、遅延の発生源に対して遅延対策を実施したときの当該発生源の影響度を算出し、遅延対策を実施する前の影響度と実施した後の影響度との差分である影響度低減度合いを、当該発生源に対する遅延対策の実施により得られる効果値とする。
遅延対策とは、遅延事象の遅延時分を所定の遅延対策時分だけ減少させる、ことを意味する。つまり、ある遅延事象に対する遅延事象の実施とは、当該遅延事象の遅延時分を遅延対策時分だけ減少させるとともに、当該遅延事象から遅延が波及する他の遅延事象についても遅延時分を遅延対策時分だけ一律に減少させる、ことに相当する。遅延時分が遅延対策時分以下の遅延事象については、遅延対策を実施することで遅延時分が「0」となる。つまり遅延が解消されたことになる。
図3の例では、1箇所目の遅延の発生源である列車3MのB駅の発事象に対して、遅延対策時分を「3分」とした遅延対策を実施している。この遅延対策によって、対象の発生源である列車3MのB駅の発事象と、当該発生源から遅延が波及した遅延事象である、当該列車3MのB駅以降の各駅の着発事象、および、後続列車5M,7MのB駅以降の各駅の着発事象との遅延時分が、一律に「3分」だけ減少する。その結果、列車5Mおよび列車7MのB駅およびC駅の着発事象の遅延が解消する。従って、当該発生源の遅延対策後の影響度は「2」であり、遅延対策前の影響度「10」との差分「8」が、当該発生源に対する遅延対策により得られる効果値となる。
また、2箇所目の遅延の発生源である列車11MのB駅の発事象に対しても、同様に、遅延対策時分を「3分」とした遅延対策を実施している。この遅延対策によって、遅延の発生源である列車11MのB駅の発事象と、当該発生源から遅延が波及した遅延事象である、当該列車11MのB駅以降の各駅の着発事象、および、後続列車13MのB駅およびC駅の着発事象の遅延時分が「3分」だけ減少する。しかしこの結果、何れの着発事象の遅延も解消できていない。従って、当該発生源の遅延対策後の影響度は「6」であり、遅延対策前の影響度である「6」との差分「0」が、当該発生源に対する当該遅延対策により得られる効果値となる。
図3では、遅延の発生源に対する遅延対策の実施により得られる効果値について説明したが、任意の遅延事象(以下、「着目遅延事象」という)について、同様に、遅延対策の実施により得られる効果値を求めることができる。つまり、着目遅延事象に対する遅延対策の実施として、当該遅延事象から遅延が波及する遅延事象の遅延時分を減少させたときの当該遅延事象の影響度を求め、遅延対策の実施前の影響度との差分を、当該遅延対策の実施により得られる効果値とすることができる。
また、図3は、ある運行日に発生した遅延に対する遅延対策により得られる効果値の一例を示しているが、任意の着発事象について、同じ列車ダイヤに対する複数の運行日毎に遅延対策時分を同じとした遅延対策により得られる効果値の合計を求め、当該着発事象についての通算効果値とすることができる。
[分析手順]
続いて、列車遅延の分析手順を具体的に説明する。図4は、列車遅延の分析手順の流れを示すフローチャートである。なお、図4は大まかな流れを示しており、各ステップの詳細な処理は後述する。先ず、列車ダイヤと、この列車ダイヤに対する運行日別の運行実績データとを、分析対象として取得する(ステップS1)。次いで、遅延対策として実施する遅延対策時分を設定する(ステップS3)。そして、運行日それぞれを対象とした繰り返し処理(ループA)を実行する。
繰り返し処理(ループA)では、先ず、対象運行日の運行実績データから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する(ステップS5)。次いで、抽出した遅延事象のうちから、遅延の発生源を特定する(ステップS7)。続いて、遅延伝搬ネットワーク策定処理(図19参照。詳細は後述する)を実行して、対象運行日の遅延伝搬ネットワークを策定する(ステップS9)。そして、策定した遅延伝搬ネットワークを用いて、遅延事象それぞれについての影響度を算出する(ステップS11)。また、策定した遅延伝搬ネットワークを用いて、遅延事象それぞれについて、当該遅延事象に対して設定した遅延対策を実施後の影響度を算出する(ステップS13)。そして、遅延事象それぞれについて、遅延対策の実施前後の影響度の差異を、遅延対策の実施により得られる効果値として算出する(ステップS15)。
全ての運行日を対象とした繰り返し処理(ループA)を行うと、遅延事象それぞれについて、運行日毎の影響度の合計を算出して通算影響度とする(ステップS17)。また、遅延事象それぞれについて、運行日毎の効果値の合計を算出して通算効果値とする(ステップS19)。
(A)遅延事象の抽出(図4のステップS5)
遅延事象は、列車ダイヤの着発事象それぞれについて、列車ダイヤで定められる着発時刻と、運行実績データにおける実績の着発時刻とを比較して、遅延の発生有無を判定することで抽出する。列車ダイヤで定められる着発時刻と実績の着発時刻との差分が、当該遅延事象の遅延時分となる。もしも列車ダイヤで定められる着発時刻よりも実績の着発時刻の方が早い時刻の場合には遅延時分はゼロとする。
(B)遅延の発生源の特定(図4のステップS7)
遅延の発生源は、遅延事象間の遅延に関する所定の因果関係に基づいて特定する。具体的には、遅延事象のうち、当該遅延事象を因果関係に従う遅延の伝搬先としたときに伝搬元となる他の遅延事象が存在しない遅延事象を、遅延の発生源であると判定する。
(B1)着遅延
遅延の伝搬先が着事象となる遅延に関する因果関係には、図5に示す2種類のケースがある。1つ目のケースは、図5(1)に示すように、当該列車の直前駅の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の着事象の遅延時分Td2と、当該列車の直前駅の発事象の遅延時分Td1とを比較し、Td1≧Td2-β1、ならば、対象の着事象の遅延は、当該列車の直前駅の出発の遅れが伝搬したものであり、遅延の発生源ではない、と判定する。「β1」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の着事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該列車の直前駅の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。図5(1)の例は、列車3MのB駅の到着の遅れは、当該列車3Mの直前駅であるA駅の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の着事象を伝搬先とし、列車3MのA駅の発事象を波及元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
2つ目のケースは、図5(2)に示すように、当該駅での先行列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の着事象の遅延時分Td4と、当該駅の先行列車の発事象の遅延時分Td3とを比較し、Td3≧Td4-β2、且つ、Td4-Td3≦γ、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行列車の出発の遅れが伝搬したものであり、遅延の発生源ではない、と判定する。「β2」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「γ」は、信号設計上の追い込み時間に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の着事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。図5(2)の例は、列車3MのB駅の到着の遅れは、当該駅(B駅)での先行列車1Mの出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の着事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
(B2)発遅延
また、遅延の伝搬先が発事象となる遅延に関する因果関係には、図6に示す3種類のケースがある。1つ目のケースは、図6(1)に示すように、当該列車の当該駅への到着の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td6と、当該列車の当該駅の着事象の遅延時分Td5とを比較し、Td5≧Td6-β3、ならば、対象の発事象の遅延は、当該列車の当該駅の到着の遅れが波及したものであり、遅延の発生源ではない、と判定する。「β3」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該列車の当該駅の着事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。図6(1)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、当該列車3Mの当該駅(B駅)への到着の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車3MのB駅の着事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
2つの目のケースは、図6(2)に示すように、当該駅の異なる番線における先行列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td8と、当該駅の異なる番線の先行列車の発事象の遅延時分Td7とを比較し、Td7≧Td8-β4、且つ、Td8-Td7≦δ、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行列車の出発の遅れが伝搬したものであり、遅延の発生源ではない、と判定する。「β4」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「δ」は、信号設計上の発発時隔に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。図6(2)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、先行列車1Mの当該駅(B駅)の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
3つ目のケースは、図6(3)に示すように、単線区間において当該駅での先行対向列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td10と、当該駅の先行対向列車の発事象の遅延時分Td9とを比較し、Td9≧Td10-β5、且つ、Td10-Td9≦ε、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行対向列車の出発の遅れが伝搬したものであり、遅延の発生源ではない、と判定する。「β5」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「ε」は、信号設計上の着発時隔に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行対向列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。図6(3)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、先行対向列車1Mの当該駅(B駅)の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図7は、遅延事象の一例を示す図である。図7では、上側にダイヤ図を示し、下側に抽出した遅延事象を示している。図7の例では、列車1MのB駅の発車(発事象)が遅延の発生源であり、この遅延が、当該列車1Mおよび後続列車3MのB駅以降の各駅の到着および出発に波及している。そして、列車1MのB駅の発事象1Bd、C駅の着事象1Caおよび発事象1Cd、列車3MのB駅の着事象3Baおよび発事象3Bd、C駅の着事象3Caおよび発事象3Cdが遅延事象として抽出されている。
(C)遅延伝搬ネットワークの策定(図4のステップS9)
遅延伝搬ネットワークは、運行実績データに基づいて抽出した遅延事象をノードとし、遅延に関する因果関係を有する遅延事象同士をアークで繋ぐことで策定する。
図8は、遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。図8では、図7に示した遅延事象に基づく遅延伝搬ネットワークを例示している。図8に示すように、遅延伝搬ネットワークは、運行実績データから抽出された遅延事象をノードとして、所定の因果関係条件を満たす遅延事象の組み合わせについて、遅延の伝搬元の遅延事象のノードから伝搬先の遅延事象のノードに向かう有向アークで繋ぐことで策定する。因果関係条件とは、上述した遅延に関する因果関係(図5,図6参照)を有することである。遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から有向アークの方向に辿れる経路が、当該着目遅延事象からの遅延の伝搬経路となる。
(D)影響度の算出(図4のステップS11)
着目遅延事象の影響度は、遅延伝搬ネットワークにおいて、当該着目遅延事象の遅延伝搬経路上の遅延事象数の数に基づいて算出する。例えば、遅延事象の数を、そのまま影響度とすることができる。図8の例では、遅延の発生源である遅延事象1Bdの遅延伝搬経路として、遅延事象1Ca,1Cdの順に辿れる経路と、遅延事象3Ba,3Bd,3Ca,3Cdの順に辿れる経路とがある。そして、この遅延伝搬経路上の遅延事象の数である「6」が、遅延事象1Bdの影響度となる。
(E)遅延対策後の影響度の算出(図4のステップS13)
任意の事象の遅延対策後の影響度は、策定した遅延伝搬ネットワークに対して、当該任意の事象に対する遅延対策の実施により遅延の伝搬が解消されるアークを無効化した後のネットワークにおいて、当該着目遅延事象の遅延伝搬経路上の遅延事象の数に基づいて算出する。例えば、遅延事象の数を、そのまま遅延対策後の影響度とすることができる。
図9は、遅延対策の実施による遅延事象の無効化を説明する図である。図9では、図8に示した遅延伝搬ネットワークに対して、遅延の発生源である遅延事象1Bdに対して遅延対策時分が「5分」の遅延対策を実施した例を示している。遅延対策の実施により、遅延対策の実施対象である遅延事象1Bdから辿れる遅延伝搬経路に沿って遅延対策の効果が伝搬し、当該遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれの遅延時分が、一律に遅延対象時分が「5分」だけ減少する。その結果、遅延事象3Caの遅延時分が「0分」になり遅延が解消される。つまり、遅延の発生源である遅延事象1Bdからの遅延の伝搬は遅延事象3Caの直前の遅延事象3Bdで止まり、その先の経路部分には遅延は伝搬しない。これは、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延が解消された遅延事象3Caに繋がるアークが無効化されることに相当する。
本実施形態では、着目遅延事象の影響度は、当該遅延事象から辿れる遅延伝搬経路上の遅延事象の数に基づく。このため、遅延対策後の遅延伝搬経路に遅延が解消した遅延事象が含まれないよう、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延対策により遅延が解消した遅延事象を無効化遅延事象とし、この無効化遅延事象に向かうアークを無効化する。
従って、図9の例では、遅延の発生源である遅延事象1Bdに対する遅延対策の実施により遅延が解消される遅延事象3Caが無効化遅延事象であり、この無効化遅延事象である遅延事象3Caに向かう有向アークを無効化する。その結果、当該遅延事象1Bdの遅延対策後の影響度は「4」となる。そして、遅延対策の実施前の影響度「6」との差分「2」が、当該遅延対策により得られる効果値となる。
ところで、図9は、1つの遅延の発生源から遅延が伝搬する形状の遅延伝搬ネットワークである。しかし、図10に示すように、複数の遅延の発生源からの遅延が伝搬する形状の遅延伝搬ネットワークもあり得る。図10は、複数の遅延の発生源を含む遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。図10の遅延伝搬ネットワークは、2つの遅延発生源である遅延事象E,Dを含み、一方の遅延の発生源である遅延事象Eからの遅延伝搬経路と、他方の遅延の発生源である遅延事象Dからの遅延伝搬経路とが、遅延事象Bで合流する形状となっている。
つまり、2つの遅延伝搬経路が合流する遅延事象Bには、2つの遅延の発生源である遅延事象E,Dそれぞれからの遅延が重畳して波及している。言い換えれば、遅延事象Bから遅延伝搬ネットワークを遡って、2つの遅延の発生源である遅延事象E,Dに到達可能である。この遅延事象ネットワークにおいて、一方の遅延の発生源である遅延事象Dに対する遅延対策を実施した場合、当該遅延事象Dから辿れる遅延伝搬経路上の各遅延事象の遅延時分が遅延対策時分だけ減少するはずである。しかし、遅延事象Bでは、当該遅延事象Dの他にも、他方の遅延の発生源である遅延事象Eからの遅延が重畳して波及しているため遅延時分は減少しない。つまり、遅延事象Dからの効果が及ぶのは遅延事象Bの直前までであり、遅延事象B以降の経路部分には遅延対策の効果は伝搬せず、遅延時分は減少しない。
但し、図11に示すように、ある遅延事象において複数の遅延伝搬経路が合流する形式の遅延伝搬ネットワークであっても、合流する全ての遅延伝搬経路が、遅延対策の対象とする遅延事象から辿れる経路である場合がある。つまり、当該遅延事象から遅延伝搬ネットワークを遡って辿れる全ての経路が遅延対策を実施する遅延事象に到達する場合には、当該遅延事象以降の経路部分にも遅延対策の効果は伝搬する。図11の例では、1つの遅延の発生源である遅延事象Xから辿れる2つの遅延伝搬経路が、遅延事象Bにおいて合流している形式の遅延伝搬ネットワークである。この場合、遅延事象Bから遅延伝搬ネットワークを遡って辿れる全ての経路が遅延事象Xに到達するから、遅延事象Xへの遅延対策の効果は、遅延事象B以降の経路部分にも波及し、遅延事象B以降の遅延時分も減少する。
以上のことから、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、遅延対策を実施する遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が遅延対策時分以下である遅延事象を無効化遅延事象とする。そして、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がりであるアーク、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がりであるアーク、を無効化する無効化処理を実行する。
[遅延影響度算出装置]
本実施形態では、上述した列車遅延の分析を、コンピュータシステムの一種である遅延影響度算出装置によって行う。遅延影響度算出装置では、遅延伝搬ネットワークを、遅延の因果関係を有する2つの遅延事象の組み合わせ(遅延の伝搬元と伝搬先との組み合わせ)である遅延事象組で表現することで、遅延伝搬ネットワークの策定や、当該遅延伝搬ネットワークを用いた影響度の算出等の処理を行う。
(A)遅延事象組
図12は、遅延事象組を説明する図である。図12に示すように、遅延事象組は、上述した遅延に関する因果関係(図5,図6参照)を有する2つの遅延事象の組み合わせである。遅延事象組には、パラメータとして、遅延の伝搬元の遅延事象である前事象aと、遅延の伝搬先の遅延事象である後事象bと、合流フラグfと、遅延解消フラグgと、が設定される。遅延事象組は、遅延伝搬ネットワークにおいて前事象aのノードから後事象bのノードへ向かう有向アークで繋がれた2つの事象a,bの組み合わせを表す。以下、1つの遅延事象組を、[前事象a,後事象b,合流フラグf,遅延解消フラグg]と適宜表記する。
合流フラグfは、複数の遅延発生源からの遅延が波及している或いは複数の遅延伝搬経路を経由して遅延が波及している可能性があるか否かを示すフラグである。具体的には、後事象bから遅延伝搬ネットワークを遡ったとき、前事象aに到達しない経路が存在するならば「f=1」に設定され、それ以外ならば「f=0」に設定される。
遅延解消フラグgは、遅延対策により遅延が解消するかを示すフラグである。具体的には、前事象aおよび後事象bの少なくとも一方の遅延時分が遅延対策である遅延対策時分以下であるならば「g=1」に設定され、それ以外ならば「g=0」に設定される。遅延解消フラグgは、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延対策の実施により遅延が解消されて前事象aから後事象bに向かうアークが無効化されたこと(図9参照)に相当する。
図13は、遅延伝搬ネットワークを表現する遅延事象組の一例を示す図である。図13では、図8に示した遅延伝搬ネットワークを例示している。図13に示すように、遅延伝搬ネットワークは、遅延事象組の集合によって表現される。遅延伝搬ネットワークを表現する遅延事象組の集合を、遅延伝搬リストと称する。
(B)影響度の算出
遅延影響度算出装置は、遅延伝搬ネットワークにおける着目遅延事象の影響度の算出のために、当該遅延伝搬ネットワークにおいて遅延が波及する全ての遅延事象の組み合わせである遅延事象組の集合を波及先リストとして作成する。遅延伝搬ネットワークは、遅延が直接に伝搬する遅延事象同士を、遅延が伝搬する方向に向かうアークで繋いだネットワークである。この遅延伝搬ネットワークにおいて、他の遅延事象を介して間接的に遅延が伝搬する遅延事象の組み合わせについての新たな遅延事象組を生成し、生成した新たな遅延事象組を、当該遅延伝搬ネットワークを表す遅延伝搬リストに対して追加するリストとして作成する。遅延伝搬ネットワークを表す遅延伝搬リストと、追加するリストとを合わせたリストが波及先リストである。
図14は、波及先リストの一例を示す図である。図14では、図13に示した遅延伝搬ネットワークに対する波及先リストを例示しており、図14の上側に遅延伝搬ネットワークを示し、図14の下側に波及先リストを示している。但し、図14では、新たに生成する遅延事象組のうち、遅延事象1Baを伝搬元とする遅延事象組のみを点線のアークで示している。遅延影響度算出装置は、遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から有向アークを辿った遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれについても当該着目遅延事象から遅延が波及するとして、新たな遅延事象組を生成する。すなわち、当該着目遅延事象と、遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれとの組み合わせである遅延事象組であって、当該着目遅延事象を伝搬元とし、遅延伝搬経路上の遅延事象を伝搬先とした取り得る全ての組み合わせを遅延事象組として新たに生成し、生成した遅延事象組を遅延伝搬リストに追加するリストとして作成することで、波及先リストを作成する。波及先リストには、伝搬元の遅延事象から伝搬先の遅延事象に対して、直接または間接に遅延が波及する組み合わせがリスト化されていることとなる。
図14の例では、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延の発生源である遅延事象1Baから有向アークを辿った一方の遅延伝搬経路上に遅延事象1Ca,1Cdがあり、他方の遅延伝搬経路上に遅延事象3Ba,3Bd,3Cd,3Caがある。つまり、遅延事象1Baとの組み合わせである遅延事象組が遅延伝搬リストに含まれている遅延事象1Ca,3Baを除く遅延事象1Cd,3Bd,3Ca,3Cdについても、遅延事象1Baから遅延が波及している。従って、遅延事象1Baを遅延の伝搬元とし、これらの遅延事象Cd,3Bd,3Ca,3Cdそれぞれを遅延の伝搬先とした新たな遅延事象組[1Ba,1Cd,f,g],[1Ba,3Bd,f,g],[1Ba,3Ca,f,g],[1Ba,3Cd,f,g]が遅延伝搬リストに追加された波及先リストが作成されている。
波及先リストとして新たに生成・追加される遅延事象組は、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延が波及する遅延事象の全ての組み合わせについて、遅延が波及する方向に向かうアークを追加する処理に相当する。よって、図14には、遅延事象1Baを伝搬元とする遅延事象組のみのアークを追加する遅延事象組として示しているが、遅延事象3Baを伝搬元とし遅延事象3Caを伝搬先とする遅延事象組や、遅延事象3Baを伝搬元とし遅延事象3Cdを伝搬先とする遅延事象組なども新たに生成されて追加されることになる。波及先リストの生成については詳細に後述する。
従って、波及先リストにおいては、着目遅延事象から直接的に或いは間接的に遅延が伝搬する全ての遅延事象のノードに対して、当該着目遅延事象から向かう有向アークが設定されることとなる。よって、当該着目遅延事象のノードから他の遅延事象のノードに向かうアークの数が、当該着目遅延事象の影響度となる。遅延影響度算出装置は、波及先リストに含まれる遅延事象組のうち、前事象aが着目遅延事象である遅延事象組の数を、当該着目遅延事象の影響度として算出する。
(C)波及先リストの生成
図15は、波及先リストに追加する遅延事象組の生成を説明する図である。図15に示すように、遅延伝搬ネットワークを表現する伝搬遅延リストから、2つの遅延事象組であって、一方の遅延事象組の前事象aと、他方の遅延事象組の後事象bとが一致する2つの遅延事象組[前事象a=B,後事象b=A,f1,g1],[前事象a=C,後事象b=B,f2,g2]を探索し、探索した2つの遅延事象組を、一致する遅延事象Bを介して結合した新たな遅延事象組[前事象a=C,後事象b=A,f3,g3]を生成する。つまり、遅延伝搬ネットワークにおいて、結合した他方の遅延事象組[前事象a=C,後事象b=B,f2,g2]の前事象a=Cから、一方の遅延事象組[前事象a=B,後事象b=A,f1,g1]の後事象b=Aに向かう有向アークを追加することに相当する。
新たに生成した遅延事象組の合流フラグf3は、結合した2つの遅延事象組それぞれの合流フラグf1,f2に基づいて設定する。具体的には、合流フラグf1,f2のうちの少なくとも一方が「1」ならば、合流フラグf3を「f3=1」に設定し、両方とも「0」ならば、合流フラグf3を「f3=0」に設定する。結合した2つの遅延事象組それぞれの合流フラグf1,f2のOR条件によって合流フラグf3の値を設定する。これは、合流フラグfは、遅延発生源から、当該遅延事象組の前事象a=Cを経由せずに、後事象b=Aに遅延が波及する経路がある可能性を示すからである。つまり、結合する2つの遅延事象組の少なくとも一方の遅延事象組の合流フラグfが「1」であるとは、図16(1)に示すように、結合する2つの遅延事象組の遅延事象A,Bの少なくとも1つは、前事象a=Cを経由せずに、遅延発生源から遅延が波及する経路がある可能性を意味している。
更に、新たな遅延事象組の生成・波及先リストへの追加は遅延伝搬ネットワークへの新たなアークの追加に相当するから、新たな遅延事象組の生成・波及先リストへの追加により、合流フラグfが「f=1」に設定されている遅延事象組について、後事象bから遅延伝搬ネットワークを遡る全ての経路が前事象aに到達可能な形に遅延伝搬ネットワークの構造が変化した可能性もある。そこで、ある後事象bについて、遅延事象組の結合による新たな遅延事象組の生成・波及先リストの追加を完了した後に、合流フラグfが「f=1」に設定されている波及先リスト内の遅延事象組について、合流フラグfを必要に応じて更新する。具体的には、各遅延事象組について、後事象bから遅延伝搬ネットワークを遡った全ての経路が前事象aに到達しているならば、前事象a以外の他の遅延発生源からの遅延の波及は考えられないため、合流フラグfを「f=0」に更新する(後述の図19のステップS111~S119に相当)。
また、遅延解消フラグg3は、結合した2つの遅延事象組の遅延解消フラグg1,g2に基づいて設定する。具体的には、遅延解消フラグg1,g2の少なくとも一方が「1」ならば、遅延解消フラグg3を「g3=1」に設定し、両方とも「0」ならば、遅延解消フラグg3を「g3=0」に設定する。2つの遅延事象組の遅延解消フラグg1,g2のOR条件によって遅延解消フラグg3の値を設定する。これは、遅延解消フラグgは、遅延対策の実施により当該遅延事象組の遅延が解消するかを示すからである。つまり、結合する2つの遅延事象組の少なくとも一方の遅延解消フラグgが「1」であるとは、図16(2)に示すように、遅延対策の実施によって、結合する2つの遅延事象組の遅延事象A,B,Cの少なくとも1つの遅延が解消して少なくとも1つのアークを無効化することを意味しており、遅延対策の実施によって新たな遅延事象組の前事象a=Cから後事象b=Aへ向かうアークも無効化するからである。
遅延影響度算出装置は、このような新たな遅延事象組の生成・波及先リストへの追加を、遅延伝搬リストにおいて結合可能な2つの遅延事象組の全てについて行うことで、波及先リストを作成する。また、この2つの遅延事象の結合による新たな遅延事象の生成・波及先リストへの追加を、遅延事象組の後事象bの時刻(実績の着発時刻)が早い順に対象として繰り返し行うとともに、新たに生成・波及先リストに追加した遅延事象組も結合の対象として行う。つまり、遅延伝搬ネットワークの上流側(遅延の発生源)から、遅延伝搬経路の方向に沿って、順次、新たな遅延事象組を生成することになる。これにより、遅延伝搬経路の途中で遅延対策の効果が止まることを、新たに生成する遅延事象組の合流フラグf、および、遅延解消フラグgに反映させることができる。
すなわち、図9に示したように、遅延伝搬経路の途中において、遅延対策の実施により遅延の解消する遅延事象(遅延時分が遅延対策時分以下の遅延事象)が有る場合、当該遅延事象を含む遅延事象組の遅延解消フラグgは「g=1」であるので、これを結合して新たに生成した遅延事象組の遅延解消フラグgも「g=1」となる。従って、当該遅延事象以降の経路部分の遅延事象それぞれを含んで新たに生成される遅延事象組の遅延解消フラグgも「g=1」となり、当該遅延事象以降の経路部分への遅延の効果の伝搬が止まることが反映される。
また、合流フラグfについても同様であり、図10に示したように、遅延伝搬経路の途中に複数の遅延発生源の遅延が波及する遅延事象が有る場合、当該遅延事象を後事象bとする遅延事象組の合流フラグfは「f=1」であるので、当該遅延事象以降の経路部分の遅延事象それぞれを含んで新たに生成される遅延事象組の合流フラグfも「f=1」となり、当該遅延事象以降の経路部分への遅延の効果の伝搬が止まることが反映される。
(D)遅延対策の実施後の影響度
遅延影響度算出装置は、波及先リストに含まれる遅延事象組であって、前事象aが着目遅延事象である遅延事象組のうちから、合流フラグfが「f=0」であり、且つ、遅延解消フラグgが「g=1」である遅延事象組を除く遅延事象組の数を、当該着目遅延事象に対する遅延対策後の影響度として算出する。合流フラグfが「f=0」であり、且つ、遅延解消フラグgが「g=1」である遅延事象組とは、着目遅延事象に対する遅延対策の実施により解消される、直接または間接の遅延波及現象に相当する。一方、これ以外の遅延事象組は、着目遅延事象に対する遅延対策によって解消されない、直接または間接の遅延波及現象に相当する。つまり、当該遅延対策実施後の遅延伝搬ネットワークにおいて、当該着目遅延事象から辿ることが可能な遅延事象に相当する。
従って、合流フラグfが「f=0」であり、且つ、遅延解消フラグgが「g=1」である遅延事象組を除く遅延事象組とは、無効化処理を行った後の遅延伝搬ネットワークを表していることになる。無効化処理とは、上述した通り、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、遅延対策を実施する遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が遅延対策時分以下である遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がりを無効化する処理のことである。この無効化処理を行った後の遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延対策を実施した遅延事象(着目遅延事象)から辿ることが可能な遅延事象の数が、遅延対策後の影響度となる。
(E)遅延影響度算出装置の機能構成
図17は、遅延影響度算出装置1の機能構成の一例である。図17によれば、遅延影響度算出装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、遅延影響度算出装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、遅延影響度算出装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、遅延事象抽出部202と、遅延発生源特定部204と、遅延対策設定部206と、遅延伝搬ネットワーク策定部208と、影響度算出部214と、効果値算出部216とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
遅延事象抽出部202は、所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する。また、所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出する。具体的には、列車ダイヤ310で定められる各列車の着発事象それぞれについて、当該列車ダイヤ310で定められる着発時刻と、運行実績データ312における実績の着発時刻とを比較して、遅延が生じている着発事象を遅延事象として抽出する。また、運行実績データ312は運行日毎に用意されているので、運行日別の運行実績データ312を用いて、当該運行日別の遅延事象を抽出する(図7参照。図4のステップS5に相当)。
遅延発生源特定部204は、遅延伝搬ネットワークにおいて遅延の発生源である遅延事象を1つ以上特定する。具体的には、遅延事象抽出部202により抽出された遅延事象それぞれについて、遅延に関する所定の因果関係を有する他の遅延事象であって、当該遅延事象を遅延の伝搬先としたときに伝搬元となる他の遅延事象が存在するかを判定し、存在しない場合に当該遅延事象を遅延の発生源として特定する(図7参照。図4のステップS7に相当)。また、遅延事象は運行日毎に抽出されるので、運行日別に遅延の発生源を特定する。遅延に関する因果関係は、例えば、図5,図6を参照して説明した関係であり、遅延因果関係情報314として予め定められている。
遅延対策設定部206は、所与の遅延対策時分を設定する。例えば、操作部102を介した操作入力に従って行うことができる。設定した遅延対策時分は、設定遅延対策情報316として記憶される。
遅延伝搬ネットワーク策定部208は、遅延事象抽出部202により抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する。また、運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の遅延伝搬ネットワークを策定する。
具体的には、遅延伝搬ネットワーク策定部208は、遅延伝搬リスト作成部210と、波及先リスト作成部212とを有し、遅延伝搬ネットワーク策定処理(図19参照)を実行することで、遅延伝搬ネットワークを表現する遅延伝搬リストを作成し、更に、遅延伝搬ネットワークにおいて、他の遅延事象を介することで間接的に遅延が波及する遅延事象同士の組み合わせである遅延事象組を新たに生成して遅延伝搬リストに追加して、遅延が波及する遅延事象同士の全ての組み合わせである遅延事象組の集合である波及先リストを作成する(図12~図14参照。図4のステップS9に相当)。
また、遅延伝搬ネットワーク策定部208は、策定した遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、遅延対策を実施する遅延事象(着目遅延事象)を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が遅延対策時分以下である遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行する。また、運行日別の遅延伝搬ネットワークそれぞれについて無効化処理を実行する。
具体的には、遅延事象組のパラメータである合流フラグf,遅延解消フラグgを設定することで、当該遅延事象組の遅延事象同士の繋がりであるアークを無効化するかを指定する。合流フラグfは、遅延伝搬ネットワークを後事象から遡ったときに前事象に到達しない経路が存在するか否かを示すフラグである。遅延解消フラグgは、遅延事象の遅延時分が遅延対策時分以下であるか、つまり、遅延対策の実施により遅延が解消するかを示すフラグである(図9~図11参照)。
遅延伝搬リスト作成部210は、抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた因果関係条件を満たす2つの遅延事象同士を関連付けた遅延事象組を生成し、生成した遅延事象組の集合を、遅延伝搬ネットワークを表現する遅延伝搬リストとして作成する(図15参照)。
遅延伝搬リストの遅延事象組それぞれの合流フラグfおよび遅延解消フラグgは、次のように設定する。すなわち、合流フラグfについては、後事象bが同じであるが前事象aが異なる複数の遅延事象組がある場合には、当該遅延事象組のそれぞれの合流フラグfを「f=1」に設定し、それ以外の遅延事象組については合流フラグfを「f=0」に設定する。また、遅延解消フラグgについては、前事象aおよび後事象bそれぞれの遅延時分を遅延対策時分と比較し、少なくとも一方の遅延時分が遅延対策時分以下である場合には、遅延解消フラグgを「g=1」に設定し、そうでない場合には、遅延解消フラグgを「g=0」に設定する。
波及先リスト作成部212は、遅延伝搬リストの2つの遅延事象組を結合して、遅延伝搬ネットワークにおいて他の遅延事象を介して遅延が伝搬する2つの遅延事象同士を関連付けた遅延事象組を新たに生成し、生成した遅延事象組を遅延伝搬リストに追加して波及先リストを作成する(図15参照。図19のステップS101に相当)。
新たに生成・追加した遅延事象組の合流フラグfおよび遅延解消フラグgは、次のように設定する。合流フラグfについては、結合した2つの遅延事象組それぞれの合流フラグf1,f2のOR条件によって設定する。また、遅延解消フラグgについては、結合した2つの遅延事象組の遅延解消フラグg1,g2のOR条件によって設定する。更に、合流フラグfを「f=1」に設定した遅延事象組については、後事象bから遅延伝搬ネットワークを遡ったときに全ての経路が前事象aに到達するならば、合流フラグfを「f=0」に更新する(図16参照。図19のステップS111~S119に相当)。この合流フラグfを「f=0」に更新することは、図11を参照して説明した遅延事象Bからどの経路で辿っても遅延事象Xに到達すること、に相当する。
影響度算出部214は、遅延伝搬ネットワーク策定部208により策定された遅延伝搬ネットワークにおいて着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の数に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する。また、着目遅延事象について運行日別の影響度を算出して総和を求めることで、着目遅延事象に関する通算影響度を算出する。
具体的には、波及先リストから、前事象aが着目遅延事象と一致する遅延事象組を抽出し、抽出した遅延事象の数に基づいて、当該着目遅延事象の遅延が他の着発事象に与える影響度を算出する。例えば、抽出した遅延事象組の数を、そのまま影響度とする(図8,図13参照。図4のステップS13に相当)。また、遅延伝搬ネットワークは運行日毎に策定されるので、影響度を運行日毎に算出する。
効果値算出部216は、無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から辿ることが不可能となった遅延事象の数に基づいて、着目遅延事象に関する遅延対策による効果値を算出する。例えば、無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から辿ることが可能な遅延事象の数に基づいて遅延対策後影響度を算出し、影響度算出部214により算出された影響度と当該遅延対策後影響度との差異に基づいて効果値を算出する。また、着目遅延事象についての運行日別の効果値を算出して総和を求めることで、着目遅延事象に関する通算効果値を算出する。
具体的には、波及先リストから、前事象aが着目遅延事象と一致する遅延事象組であって、合流フラグfが「f=0」、且つ、遅延解消フラグgが「g=1」である遅延事象組以外の遅延事象組を抽出し、抽出した遅延事象の数に基づいて、当該着目遅延事象に対する遅延対策後の影響度を算出する。例えば、抽出した遅延事象組の数を、そのまま遅延対策後の影響度とする(図9,図14参照。図4のステップS13に相当)。また、遅延伝搬ネットワークは運行日毎に策定されるので、遅延対策後の影響度を運行日別に算出する。
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が遅延影響度算出装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、遅延影響度算出プログラム302と、列車ダイヤ310と、運行実績データ312と、遅延因果関係情報314と、設定遅延対策情報316と、列車遅延分析情報320とが記憶される。
列車遅延分析情報320は、運行実績データ312を用いた列車遅延の分析に関する情報である。図18に、列車遅延分析情報320の一例を示す。図18に示すように、列車遅延分析情報320は、運行日別情報321と、通算影響度情報329と、通算効果値情報330とを含む。運行日別情報321は、運行日毎に生成され、遅延事象抽出部202により抽出された当該運行日の遅延事象を格納した情報である遅延事象情報322と、遅延発生源特定部204により特定された当該運行日の遅延の発生源を格納した情報である遅延発生源情報323と、遅延伝搬リスト作成部210により作成された当該運行日の遅延伝搬ネットワークを表現する遅延伝搬リスト324と、実質的に遅延伝搬リスト324を含む波及先リスト作成部212により作成された波及先リスト325と、影響度算出部214により算出された当該運行日の遅延事象別の影響度を格納した情報である影響度情報326と、影響度算出部により算出された当該運行日の運行事象別の遅延対策後の影響度を格納した情報である遅延対策後影響度情報327と、効果値算出部216により算出された当該運行日の遅延事象別の効果値を格納した情報である効果値情報328とを含む。通算影響度情報329は、影響度算出部214により算出された遅延事象別の通算影響度を格納した情報である。通算効果値情報330は、効果値算出部216により算出された遅延事象別の通算効果値を格納した情報である。
(F)遅延伝搬ネットワーク策定処理
図19は、遅延伝搬ネットワーク策定部208が実行する遅延伝搬ネットワーク策定処理(図4のステップS9に相当)の流れを説明するフローチャートである。この処理において、遅延伝搬ネットワーク策定部208は、対象運行日の遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定し、遅延伝搬リストおよび波及先リストを作成する。
具体的には、先ず、遅延伝搬リスト作成部210が、遅延因果関係情報314で定められる遅延に関する因果関係を有する2つの遅延事象の組み合わせである遅延事象組を生成して、遅延伝搬ネットワークを表現する遅延伝搬リストを作成する(ステップS101)。
次いで、波及先リスト作成部212が、遅延伝搬リストに遅延事象組を追加して波及先リストを作成する。すなわち、遅延伝搬リストの遅延事象組を、後事象の時刻が早い順、前事象の時刻が遅い順にソートし、波及先リストとして初期作成する(ステップS103)。次いで、波及先リストの遅延事象組それぞれの後事象bを、ソート順(時刻の早い順)に対象とした繰り返し処理(ループB)を行う。繰り返し処理(ループB)では、後事象が対象後事象bである遅延事象組それぞれの前事象aを、ソート順(時刻の遅い順)に対象とした繰り返し処理(ループC)を行う。繰り返し処理(ループC)では、後事象が対象前事象aに一致する遅延事象組が、波及先リストに有るかを探索する(ステップS105)。有るならば(ステップS107:YES)、探索した遅延事象組の前事象を前事象とし、対象後事象bを後事象とした遅延事象組を新たに生成し、波及先リストに追加する(ステップS109)。全ての前事象aを対象としたループCの繰り返し処理(ループC)を終了すると、続いて、波及先リストから、後事象が対象後事象bに一致し、且つ、合流フラグfが「f=1」の遅延事象組[a,b,f=1,g]を抽出する(ステップS111)。そして、抽出した遅延事象組それぞれを対象とした繰り返し処理(ループD)を行う。
繰り返し処理(ループD)では、波及先リストから、後事象が対象後事象bに一致し、且つ、合流フラグfが「f=1」、の遅延事象組[a,b,f=1,g]を抽出し、抽出した遅延事象組の前事象の集合A={a1,a2,・・,an}を算出する(ステップS113)。そして、算出したAの全ての前事象ai(i=1,2,・・,n)について、前事象が対象遅延事象組の前事象aに一致し、後事象が当該前事象aiに一致し、且つ、合流フラグfが「f=1」、の遅延事象組[a,ai,f=1,g]が、波及先リストに有るかを探索する(ステップS115)。全て有るならば(ステップS117:YES)、対象遅延事象組の合流フラグfを「f=0」に更新する(ステップS119)。抽出した全ての遅延事象組を対象とした繰り返し処理(ループD)を終了し、続いて、全ての後事象bを対象とした繰り返し処理(ループB)を終了すると、本処理は終了となる。
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、運行実績データを利用して、遅延対策の検討に有用な指標として、任意の遅延事象である着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出することができる。遅延に関する因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けた遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象は、当該着目遅延事象から遅延が波及する範囲に相当する。従って、着目遅延事象からの遅延の波及範囲を表す影響度を、遅延対策の検討に有用な指標とすることができる。また、遅延対策時分を設定し、この遅延対策時分だけ着目遅延事象の遅延時分を減少させる遅延対策の実施による効果値を算出することができる。
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
例えば、上述の実施形態では、着目遅延事象の影響度を、遅延伝搬ネットワークにおいて、当該着目遅延事象から遅延の因果関係の方向に繋がる遅延事象の数として説明したが、これらの繋がる遅延事象それぞれの遅延時分の合計として算出するようにしてもよい。また、着目遅延事象と繋がる遅延事象それぞれに該当する列車の本数および駅の数を重複無しで計数し、その値に基づいて、当該着目遅延事象の影響度を算出するようにしてもよい。つまり、遅延伝搬ネットワークにおいて、当該着目遅延事象から遅延の因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象の影響度を算出することとしてもよい。
1…遅延影響度算出装置
200…処理部
202…遅延事象抽出部、204…遅延発生源特定部、206…遅延対策設定部
208…遅延伝搬ネットワーク策定部
210…遅延伝搬リスト作成部、212…波及先リスト作成部
214…影響度算出部、216…効果値算出部
300…記憶部
302…遅延影響度算出プログラム
310…列車ダイヤ、312…運行実績データ
314…遅延因果関係情報、316…設定遅延対策情報
320…列車遅延分析情報

Claims (6)

  1. 所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段、
    前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて任意の遅延事象である着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段、
    としてコンピュータを機能させ
    前記抽出手段は、前記所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の前記運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出し、
    前記策定手段は、前記運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の前記遅延伝搬ネットワークを策定し、
    前記算出手段は、前記着目遅延事象について前記運行日別の前記影響度を算出して総和を求めることで、前記着目遅延事象に関する通算影響度を算出する、
    プログラム。
  2. 所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段、
    前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて任意の遅延事象である着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段、
    遅延対策として必要な所与の遅延対策時分を設定する設定手段、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて遅延発生源である遅延事象を特定する特定手段、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて、所与の遅延事象から前記遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な前記遅延発生源のうち、前記着目遅延事象を経由せずに到達可能な前記遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が前記遅延対策時分以下である前記所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行する無効化手段、
    前記無効化処理後の前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から辿ることが不可能となった遅延事象の数に基づいて、前記着目遅延事象に関する前記遅延対策による効果値を算出する効果算出手段、
    としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
  3. 前記効果算出手段は、前記無効化処理後の前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から辿ることが可能な遅延事象の数に基づいて遅延対策後影響度を算出し、前記算出手段により算出された影響度と当該遅延対策後影響度との差異に基づいて前記効果値を算出する、
    請求項に記載のプログラム。
  4. 前記抽出手段は、前記所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の前記運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出し、
    前記策定手段は、前記運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の前記遅延伝搬ネットワークを策定し、
    前記無効化手段は、前記運行日別の前記遅延伝搬ネットワークそれぞれについて前記無効化処理を実行し、
    前記効果算出手段は、前記着目遅延事象についての前記運行日別の前記効果値を算出して総和を求めることで、前記着目遅延事象に関する通算効果値を算出する、
    請求項又はに記載のプログラム。
  5. 所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段と、
    前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段と、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段と、
    を備え
    前記抽出手段は、前記所与の列車ダイヤに対する異なる運行日毎の前記運行実績データそれぞれから、運行日別の遅延事象を抽出し、
    前記策定手段は、前記運行日別の遅延事象に基づいて、当該運行日別の前記遅延伝搬ネットワークを策定し、
    前記算出手段は、前記着目遅延事象について前記運行日別の前記影響度を算出して総和を求めることで、前記着目遅延事象に関する通算影響度を算出する、
    遅延影響度算出装置。
  6. 所与の列車ダイヤに対する運行実績データに基づき、各列車の各駅の着発に係る着発事象のうちから、遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出する抽出手段と、
    前記抽出された遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する策定手段と、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象に基づいて、当該着目遅延事象が他の着発事象に与える遅延の影響度を算出する算出手段と、
    遅延対策として必要な所与の遅延対策時分を設定する設定手段と、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて遅延発生源である遅延事象を特定する特定手段と、
    前記遅延伝搬ネットワークにおいて、所与の遅延事象から前記遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な前記遅延発生源のうち、前記着目遅延事象を経由せずに到達可能な前記遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が前記遅延対策時分以下である前記所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、および、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行する無効化手段と、
    前記無効化処理後の前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から辿ることが不可能となった遅延事象の数に基づいて、前記着目遅延事象に関する前記遅延対策による効果値を算出する効果算出手段と、
    を備えた遅延影響度算出装置。
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