JP7278521B1 - レーザレーダ装置 - Google Patents
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Abstract
Description
受信信号を周波数解析すると、表面的にはスペクトルピークが1つにしか見えないということがある。
本開示技術が応用されるレーザレーダ装置は、ドップラライダ、及びコヒーレント差分吸収ライダ(DIAL、Differential Absorption LIDAR)である。ドップラライダは、ドップラ効果による周波数の変移を観測することで、観測対象の相対的な移動速度と変位とを観測することができるLIDAR(Light Detection and Ranging、又はLaser Imaging Detection and Ranging)の一種である。コヒーレント差分吸収ライダは、2つ以上の異なるレーザ波長を用いることによりターゲットの分子濃度を測定することができるレーザレーダ装置である。コヒーレント差分吸収ライダは、空気中の水蒸気量、及び風速分布の測定に用いられる。
ハードターゲット(HT)とは、例えば、自動車、航空機等の、ある程度の大きさを有し反射面又は散乱面としての境界面が明確であるターゲットをいう。ソフトターゲット(ST)とは、例えば、大気中に存在するエアロゾル、雨滴、霧、雲の粒子等の、空間に分布した多数の微小な粒子状の散乱体からなるターゲットをいう。
図1は、本開示技術が解決しようとする課題が生じる状況を表した説明図である。図1には、レーザレーダ装置が計測する検出目標領域(TgArea)内の或る同一のレンジビン内において、ソフトターゲット(ST)とハードターゲット(HT)との両方が混在する状況が示されている。なお、レンジとは英語のrangeに由来し、一般には「範囲」を意味する用語だが、レーダに関する技術分野においてレンジは距離を意味する。またレンジビンの「ビン」は、ヒストグラムにおける階級と同義である。
図2Aは、レーザレーダ装置が受信する受信信号波形を表したグラフである。図2Aに示されるグラフの横軸は時間を表し、縦軸は受信信号電圧(振幅)を表している。図2Aに例示されるグラフからは、ToF(Time of Flight)の性質から、レンジビン(n)が5である距離範囲にターゲットが存在していることが読み取れる。ToFとレンジとの関係は、以下の数式により与えられる。
ただし、Lはターゲットまでの距離を、cは光速を、ΔtはToFを、それぞれ表す。ターゲットまでの距離(L)は、レンジとも称される。
図2Bは、受信信号波形をフーリエ変換した結果を表したグラフその1である。横軸は、「IF周波数」と記載されているが、中間周波数を含む周波数帯域を表した周波数軸である。一般に、中間周波数は、送信機又は受信機の中間段階において送信信号又は受信信号の周波数を変換した周波数である。本開示技術における中間周波数は、具体的には、ヘテロダイン検波におけるビート信号の周波数(ビート周波数とも称される)である。したがって、中間周波数からの差分は、ドップラ現象により生じるドップラシフト分の周波数(ドップラ周波数)だとわかる。縦軸は、「スペクトルパワー」と記載されているとおり、スペクトルの大きさをパワーの単位で示したものである。図2Bに例示されたグラフは、ハードターゲット(HT)とソフトターゲット(ST)間の移動速度差が容易に識別できるほど大きい場合を示している。
図2Cは、受信信号波形をフーリエ変換した結果を表したグラフその2である。図2Cに示されるグラフの横軸及び縦軸は、図2Bに示されるグラフの各軸と同じである。図2Cに例示されたグラフは、ハードターゲット(HT)とソフトターゲット(ST)間の移動速度差が図2Bと比較して小さい場合を示している。図2Cのグラフにおいて、「全受信スペクトル」と称されたスペクトルピークが1つしかないことからも、ハードターゲット(HT)とソフトターゲット(ST)間の移動速度差が小さいことが理解できる。なお、図2Cのグラフにおいては、周波数が高い側にあるスペクトルピークを「STからのスペクトル」とし、周波数が低い側にあるスペクトルピークを「HTからのスペクトル」としているが、一般的にはこの逆のパターンもあり得る。
本明細書において、図2B及び図2Cに例示されるグラフ、すなわち周波数領域を示す空間は、「スペクトル空間」と称されるものとする。また、図2B及び図2Cに例示されるドップラシフトされたスペクトルは、「ドップラシフトスペクトル」と称されるものとする。ドップラシフトスペクトルは、単にドップラスペクトルと称されることもある。
一般に、時間領域信号をフーリエ変換して得られるスペクトルは、ゲインと位相との情報を有し、複素数で表される。ゲインは複素数の大きさであり、位相は複素数の偏角である。本明細書において登場する「スペクトル空間」は、ゲインの周波数特性を表すものとして例示されることが多いが、本開示技術はこれに限定されない。本開示技術は、スペクトルのゲインに着目するだけではなく、スペクトルのゲイン及び位相の両者に着目し、スペクトルを複素数として扱うことをも含む。
図3は、実施の形態1に係るレーザレーダ装置の機能構成を示したブロック図である。図3Aは全体的な機能構成を示したものであり、図3Bは信号処理部12の詳細を示したものである。
図3Aに示されるとおり、実施の形態1に係るレーザレーダ装置は、光源1と、光分割器2と、トリガ生成回路3と、パルス変調部4と、送信側光学系5と、送受分離器6と、テレスコープ7と、受信側光学系8と、光合波器9と、受光部10と、AD変換部11と、信号処理部12と、を含む。実施の形態1に係るレーザレーダ装置を構成するこれらの構成要素は、図3Aに示されるとおりに接続されている。
図3Bに示されるとおり、実施の形態1に係るレーザレーダ装置の信号処理部12は、レンジビン分割部1201と、周波数解析部1202と、積算処理部1203と、ピーク周波数算出部1204と、SNR算出部1205と、距離特性算出部1206と、HT位置特定部1207と、確率密度分布算出部1208と、受信信号分別部1209と、ST信号スペクトル算出部1210と、ST速度検出部1211と、HT信号スペクトル算出部1212と、HT速度検出部1213と、を含む。実施の形態1に係るレーザレーダ装置の信号処理部12を構成するこれらの構成要素は、図3Bに示されるとおりに接続されている。
各処理ステップの詳細は、後述の説明により明らかとなる。
光源1は、略単一周波数からなる連続光を生成する構成要素である。レーザレーダ装置の名称が示すとおり、レーザレーダ装置の光源1は、レーザを発振するレーザ発振器であってよい。
光分割器2は、光源1から発せられた光を2系統に分割する構成要素である。2系統のうち一方は光合波器9に接続されたものであり、他方はパルス変調部4に接続されたものである。すなわち、光分割器2で分割された光の一方は光合波器9へと送られ、他方はパルス変調部4へと送られる。パルス変調部4へと送られる光は送信光の種光として、光合波器9へと送られる光はヘテロダイン検波用の参照光として、それぞれ機能する。種光は、周波数変調されたのちにパルス化され、パワー増幅されることにより送信光となる。
光分割器2は、具体的には、ファイバカプラ等のカプラであってよい。光分割器2が分配する光の比率は、例えば、送信光対参照光が2:1程度のものである。
トリガ生成回路3は、トリガ信号を生成する回路である。トリガ生成回路3は、具体的には、パルスジェネレータ、ファンクションジェネレータ等の機器、又はFPGA(Field-programmable gate array)により実現されるとよい。
トリガ生成回路3により生成されるトリガ信号は、後述のパルス変調部4及びAD変換部11の動作開始トリガとして、それぞれへ送られる(図3A参照)。
パルス変調部4は、光分割器2から送られる送信光に対して、パルス変調を実施する構成要素である。本明細書において、パルス変調により得られる光は、パルス光(Pi)と称されるものとする。パルス光(Pi)は、一定の繰返し周期(Trep)、及び一定のパルス幅(δT)を有する。Piにおける右下添え字のi(i=1,2,…)は、何番目のパルスであるかを識別する通し番号である。パルス変調部4が動作するクロック信号は、トリガ生成回路3が生成するトリガ信号であってもよいし、トリガ信号と同期した別のものであってもよい。
パルス変調部4は、中間周波数信号(以降、「IF信号」と称する)に基づいて、パルス光(P1)にfIFの周波数シフトを付与する。
パルス変調部4は、具体的には、音響光学素子又は位相変調器、及び光増幅器によって実現されるとよい。
送信側光学系5は、その名称が示すとおり、送信側の光学系である。より具体的に言えば送信側光学系5は、パルス変調部4から送られる送信光であるパルス光(Pi)を、設計されたビーム径及び広がり角を持つように整形し、送受分離器6を介してテレスコープ7へと送る光学系である。
送信側光学系5は、凹面レンズ及び凸面レンズから成るレンズ群によって実現される。また送信側光学系5は、その構成要素にミラーを備えるいわゆる反射型光学系であってもよい。
送受分離器6は、送信側光学系5からの送信光をテレスコープ7へと送り、テレスコープ7からの受信光を受信側光学系8へと送る、構成要素である。送受分離器6は、わかりやすく言えば、光学系が光ファイバで構成されていればサーキュレータであり、光学系が空気伝搬のものであれば偏光ビームスプリッタ(PBS、Polarizing Beam Splitter)である。
テレスコープ7は、送受分離器6から送られた送信光を設計されたビーム径となるように拡大し、大気中へ送信する、構成要素である。またテレスコープ7は開口を有し、大気中にあるターゲットに反射した受信光を開口で受信する。本明細書において、Piがターゲットに反射して受信される受信光は、Riであるとする。なお、PiにおけるPはPulseの頭文字を由来とし、RiにおけるRはReflectionの又はReceiveの頭文字を由来とする。
テレスコープ7は、送信側光学系5と同様に、凹面レンズ及び凸面レンズから成るレンズ群によって実現される。またテレスコープ7も、その構成要素にミラーを備える反射型のものであってもよい。
受信側光学系8は、その名称が示すとおり、受信側の光学系である。より具体的に言えば受信側光学系8は、送受分離器6を経由して送られる受信光(Ri)を、設計されたビーム径及び広がり角を持つように整形し、光合波器9へと送る光学系である。
受信側光学系8は、送信側光学系5と同様に、凹面レンズ及び凸面レンズから成るレンズ群によって実現される。また受信側光学系8は、その構成要素にミラーを備えるいわゆる反射型光学系であってもよい。
光合波器9は、光分割器2からの参照光と受信側光学系8を介して送られる受信光とを合波する構成要素である。光合波器9は、わかりやすく言えば、光学系が光ファイバで構成されていればコンバイナであり、光学系が空気伝搬のものであれば偏光ビームスプリッタを利用したものである。また、光合波器9は、光ファイバカプラ等のカプラにより実現されてもよい。
光合波器9において合波により得られた光(以降、「合波光」と称する)は、受光部10へと送られる。
受光部10は、光信号である合波光を、電気信号に変換する構成要素である。受光部10は、O/Eコンバータ、O/E変換器、又は光/電気変換器と称される機器であってよい。
本明細書において、合波光を電気信号に変換したものは、合波信号と称されるものとする。
AD変換部11は、アナログ電気信号である合波信号を、デジタル信号へと変換する構成要素である。
AD変換部11は、サンプラ又はA/D変換器であってよい。前述のとおりAD変換部11のサンプリングのタイミングは、トリガ生成回路3から送られるトリガ信号に基づく。
本明細書において、AD変換部11の出力であるデジタル信号は、「デジタル受信信号」と称されるものとする。デジタル受信信号は、信号処理部12へと送られる。
信号処理部12は、その名称が示すとおり、信号処理を実施する構成要素である。
図3Bに示される信号処理部12の各機能は、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウエアであっても、メモリに格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSPとも称される)であってもよい。
このように信号処理部12は、ハードウエア、ソフトウエア、ファームウエア、又はこれらの組合せによって、図3Bに示される各機能を実現できる。
一般に、Aスコープとは、レーダ画像の表し方の一つであり、縦軸に受信信号強度、横軸に距離(レンジ)を取って波形を表示するものである。図5Bに示されるグラフの縦軸は「受信SNR」と記載されているが、これはレンジビンごとに計算された受信信号強度とも解釈できる。したがって、図5Bに示されるグラフもAスコープだと言える。なお、レーダ画像の表し方には、Aスコープのほか、Bスコープ、Eスコープ、PPIスコープ(Plan Position Indicator Scope、単にPスコープとも言う)等のスコープが存在する。
受信信号波形からAスコープが生成される処理ステップの詳細は、後述の説明により明らかとなる。
図6Aは、一連の受信信号波形を表したものである。ここで、図6Aにおけるmは、積算処理部1203が行う積算処理に用いられる変数である。
図6Bは、ハードターゲット(HT)が存在するレンジビン(nH)における受信スペクトル(ゲインの周波数特性)を表したものである。
図6Cは、ハードターゲット(HT)が存在するレンジビン(nH)における受信スペクトル(ゲインの周波数特性)をヒストグラム化したものである。図6Cに示されるグラフの横軸は受信信号スペクトルのSNRについての階級であり、縦軸は度数である。
図6Dは、一連の受信信号波形を、ハードターゲット(HT)に関する成分とソフトターゲット(ST)に関する成分とに分離したことを表したものである。
図6Eは、ソフトターゲット(ST)に関する成分のスペクトルを表したものである。
図6Fは、ハードターゲット(HT)に関する成分のスペクトルを表したものである。
信号処理部12におけるレンジビン分割部1201は、AD変換部11から送られたデジタル受信信号を、あらかじめ決められた幅を有する時間窓ごとに区切る。前述の数式(1)に示されるように、ToFとレンジとは、比例の関係にある。したがって、区切られた時間窓のそれぞれが、対応するレンジビンとなる。レンジビンは、例えば、図2Aにおいて縦破線によって区切られた時間窓である。図2Aのグラフに記載されている{「n=1」、「n=2」、…}は、nがレンジビンに付される通し番号であることを示している。
なお、レンジビンの幅(以降、単に「レンジビン幅」と称する)は、パルス幅(δT)を基準に決められてもよい。レンジビン幅は、設計仕様により決められてよいが、例えば、分解能を6[m]としたい場合、レンジビン幅は6[m]と決めればよい。
信号処理部12における周波数解析部1202は、レンジビンごとに、デジタル受信信号をフーリエ変換する。フーリエ変換は、高速フーリエ変換(FFT)、離散フーリエ変換(DFT)、であってよい。
広辞苑によれば、「積算」とは、「あつめて計算すること、累計」とある。数学の分野における用語を用いれば、「積算」は「総和」である。積算処理部1203が行う処理は、複数のパルスに関するデジタル受信信号のデータについて、総和演算を実施するというものである。デジタル受信信号のデータについての総和演算は、一般に、時間領域で行う方法と周波数領域で行う方法とが考え得るが、本開示技術の説明においては、周波数領域(前述の「スペクトル空間」)で実施することを前提とする。図6に例示されているケースにおいては、積算処理部1203が実施する総和演算は、mが1からm_MAXまでである。m_MAXは、レーザレーダ装置の使用される環境に合わせて適宜設計して決めればよいが、例えば、1000回といったオーダ(大きさの目安)である。
前述のとおり、一般にスペクトルは、ゲイン及び位相の両方の情報を有しており、複素数で表される。したがって、積算処理部1203は、総和演算を、複素数で表されるスペクトル(ゲイン及び位相)に対して実施してもよいし、実数で表されるスペクトル(ゲインのみ)に対して実施してもよい。
積算処理部1203が実施する処理の効果は、デジタル受信信号のデータについて平均を求めることによる効果と同じであり、すなわちノイズ低減である。
信号処理部12におけるピーク周波数算出部1204は、レンジビンごとに、スペクトルのピーク周波数を算出する。ここで、スペクトルピークは、周波数領域上に表された信号ゲインの極大点を意味する。スペクトルピーク値は、信号ゲインの極大値である。また、ピーク周波数算出部1204が算出するスペクトルのピーク周波数は、積算処理部1203において総和演算の処理がなされた周波数領域のデータに関するスペクトルピークの周波数である。積算処理部1203における総和演算の処理が複素数で表されるスペクトルに対して実施された場合、総和演算後の各周波数(離散フーリエ変換結果の各周波数)における複素数に対して、その総和演算後の複素数の大きさをゲインとして求め、ゲインの極大値とそのときの周波数を求めればよい。
SNR(Signal to Noise Ratio)は、信号対雑音比であることは明確であるが、工学的な意味での厳密な定義は、使用される技術分野及び場面によって多少の差異がある。特に、ノイズ(雑音)をどのように求めるかについては、様々な方法が考えられる。
SNRは、例えば、以下のように与えられる。
ただし、PSは信号のパワーであり、PNは雑音のパワーである。SNRは、一般的には、時間領域の信号に対して、ある時間範囲において統計的に定義されるものである。例えば、品質工学におけるSNRは、例えば望目特性におけるSN比は、平均値の二乗を標準偏差の二乗(分散)で除算したものである。
図5に示されるようにSNR算出部1205は、レンジビンとして定義された時間窓ごとに、SNRを計算するとよい。また、SNR算出部1205は、レーザレーダ装置が送信光を照射していないときに観測できるデジタル受信信号に基づいて、雑音パワー(PN)を求めるとよい。雑音パワー(PN)を求めるときの時間幅も、レンジビンとして定義された時間窓と同じ時間幅でよい。
PSNRは、例えば、以下のように与えられる。
ただし、PSPは、(時間領域で見た)デジタル受信信号のピークにおける瞬間的なパワー(以降、「ピーク強度」と称する)である。すなわち、SNR算出部1205は、ピーク強度と帯域外雑音との比を計算することで、SNRを計算する。
信号処理部12における距離特性算出部1206は、SNR算出部1205が算出するレンジビンごとのSNRを、距離特性を表すAスコープの態様でユーザに向けて表示する(図5A、図5B参照)。時間とレンジとの関係は、数式(1)に示されるとおりである。ただし、図5Bに示されるグラフにおける“Δt”は、レンジビンの幅に相当する時間幅である。ユーザへの表示は、レーザレーダ装置の出力インタフェースであるディスプレイで行われるとよい。
信号処理部12におけるHT位置特定部1207は、SNR算出部1205が算出するレンジビンごとのSNRに基づいて、ハードターゲット(HT)までの距離を特定する。一般にハードターゲット(HT)は、入射角度に応じて受信信号のSNRやその検出確率が変化する、すなわちSNRに入射角度依存性が存在する、という性質がある。またレーザレーダ装置から見てハードターゲット(HT)の後ろにある領域は死角となり、ハードターゲット(HT)よりも遠いレンジにおいて、SNRは0となる。特に、ハードターゲット(HT)が照射領域よりも大きい場合(例えば、人工衛星に搭載されたレーザレーダ装置が地表面を観測する場合等)、この性質は顕著に現れる。HT位置特定部1207は、ハードターゲット(HT)が有するこれらの性質から、ハードターゲット(HT)までの距離を特定するとよい。
或るレンジビン内にソフトターゲット(ST)とハードターゲット(HT)とが混在する場合、レンジビン内にソフトターゲット(ST)のみが存在する場合と比較して、SNRが高く算出されるという性質がある。本開示技術の発明者は、以下に示す非特許文献1において、海面エコー検出確率を測定する実験を通じて、海面をハードターゲット(HT)とし、大気中のエアロゾルをソフトターゲット(ST)とした場合、同一レンジビン内にソフトターゲット(ST)とハードターゲット(HT)とが混在するときにSNRが高く算出されることを明らかにしている。
非特許文献1:野邑 寿仁亜ら著“コヒーレントドップラーライダによる潮流計測適用にむけた海面エコー検出確率の算出”第38回レーザセンシングシンポジウム予稿集,F3(2019).
本明細書において、ハードターゲット(HT)が存在すると推測されるレンジビンは、n=nH、すなわちnH番目のレンジであるとする。
信号処理部12における確率密度分布算出部1208は、ハードターゲット(HT)が存在すると推測されるレンジビン、すなわちnH番目のレンジに対して、ヒストグラムを生成する。確率密度分布算出部1208が生成するヒストグラムは、例えば、近時のN回分の測定データに基づいて生成する。ここでヒストグラムにおける度数の総和量であるNは、積分処理についてのm_MAXと同じであってもよいし、異なってもよい。ヒストグラムの度数の総和量であるNは、例えば、数千回といったオーダ(大きさの目安)である。
離散的に表されるヒストグラムに対して、連続的に表される確率分布(確率密度関数)をフィッティングすることが考えられる。信号処理部12における確率密度分布算出部1208は、生成したヒストグラムに対して、確率分布をフィッティングする(図6C参照)。
図6Cに示されるように、N回の統計データに基づいて生成されるヒストグラムは、ソフトターゲット(ST)に依拠する確率分布と、ハードターゲット(HT)に依拠する確率分布と、の両者を重ね合わせた曲線によりフィッティングできる、と考えられる。ヒストグラムの元となるN回分の統計データは、「一連の」統計データと称されるものとする。一連の統計データは、時間的に連続した測定により得られたデータであることが望ましい。また一連の統計データは、レーザレーダ装置から見たターゲットの相対位置及び相対速度の変化が小さいと言える程度に時間間隔が短いものとする。
信号処理部12における受信信号分別部1209は、ハードターゲット(HT)が存在するレンジビンからの各受信信号について、ハードターゲット(HT)からの受信信号が含まれておらずソフトターゲット(ST)からの受信信号のみか、ハードターゲット(HT)からの受信信号とソフトターゲット(ST)からの受信信号とが混在しているか、を分別する構成要素である。受信信号分別部1209が行う信号の分別は、確率密度分布算出部1208が実施する確率分布のフィッティングに基づいて、行われる。
本開示技術の発明者は、非特許文献1において、同一レンジビン内にソフトターゲット(ST)とハードターゲット(HT)とが混在する場合に、各データが確率的に受信されるハードターゲット(HT)からの受信信号(単に「HT受信信号」とも称する)を含んでいるか否かを、確率分布のフィッティングに基づいて識別可能であることを示している。確率分布のフィッティングによりこのような識別が可能なことは、重ね合わせの原理に基づいている。
信号処理部12における受信信号分別部1209は、算出した確率に基づいて、すなわち統計確率の観点から、一連の統計データを、ハードターゲット(HT)による信号の有無で分別する(図6D参照)。受信信号分別部1209は、SNRに関する閾値を決定し、SNRがこの閾値よりも大きい場合にハードターゲット(HT)が含まれるものとし、SNRがこの閾値以下の場合にソフトターゲット(ST)のみであるものとして、分別を行ってよい。SNRに関する閾値に基づく分別は、ハードターゲット(HT)周辺にはソフトターゲット(ST)が同時に存在し、確率的に受信されたハードターゲット(HT)からの散乱信号にはソフトターゲット(ST)からの受信信号が混在して、その結果、SNRが高く算出される、という性質を利用したものである。
また、受信信号分別部1209は、確率に対する閾値(SNRx)を定義して、信号とノイズとを区別するようにしてもよい(図4におけるST1208-2)。
信号処理部12におけるST信号スペクトル算出部1210は、受信信号分別部1209においてソフトターゲット(ST)に依拠すると分別された信号データ(以降、「ST信号データ」と称する)に基づいて、ST信号のスペクトルを算出する(図6E参照)。ST信号スペクトル算出部1210は、N回の測定データのうちソフトターゲット(ST)に依拠するものについて算出した複数のスペクトルを、周波数領域上で積算(総和演算)処理するとよい。
信号処理部12におけるST速度検出部1211は、ST信号のスペクトルに基づいて、ソフトターゲット(ST)のドップラ速度(vST)を算出する。ソフトターゲット(ST)のドップラ速度(vST)は、ソフトターゲット(ST)の相対移動速度のうち、レーザの照射方向(視線方向とも称される)の成分である。
なお、図6は、ハードターゲット(HT)が存在すると推定されたレンジビン(nH)に対する説明であったが、ST速度検出部1211は、レーザレーダ装置から見てnHよりも近いレンジビンに対しても、ソフトターゲット(ST)のドップラ速度(vST)を算出する。
信号処理部12におけるHT信号スペクトル算出部1212は、受信信号分別部1209においてハードターゲット(HT)に依拠すると分別された信号データ(以降、「HT信号データ」と称する)に基づいて、HT信号のスペクトルを算出する(図6F参照)。HT信号スペクトル算出部1212は、N回の測定データのうちハードターゲット(HT)に依拠するものについて算出した複数のスペクトルを、周波数領域上で積算(総和演算)処理するとよい。
ST信号スペクトル成分を除去する基礎となるST信号のスペクトルは、レンジビン(nH)におけるST信号のスペクトルに限定されない。本開示技術は、例えば、nHよりも1つレーザレーダ装置に近い隣接したレンジビン(nH-1)における信号スペクトルから、ST信号のスペクトルを推定してもよい。また、本開示技術が、照射するレーザを走査するタイプのレーザレーダ装置に適用される場合、空間的に隣接したエリアに関する計測結果から、ST信号のスペクトルが推定されてもよい。
信号処理部12におけるHT速度検出部1213は、HT信号のスペクトルに基づいて、ハードターゲット(HT)のドップラ速度(vHT)を算出する。ハードターゲット(HT)のドップラ速度(vHT)は、ハードターゲット(HT)の相対移動速度のうち、レーザの照射方向(視線方向とも称される)の成分である。
実施の形態2に係るレーザレーダ装置は、本開示技術に係るレーザレーダ装置の変形例である。実施の形態2では、特に明記する場合を除き、実施の形態1で用いられた符号と同じものが使用される。また実施の形態2では、実施の形態1と重複する説明が、適宜、省略される。
図3Bと図7との比較から理解されるとおり、実施の形態2に係るレーザレーダ装置の信号処理部12は、確率密度分布算出部1208に代えて、HT領域外スペクトル算出部1214及びHT領域内スペクトル算出部1215を備える。実施の形態2に係るレーザレーダ装置の信号処理部12を構成する構成要素は、図7に示されるとおりに接続されている。
図4と図8との比較から理解されるとおり、実施の形態2に係るレーザレーダ装置の処理ステップは、「確率密度分布を算出(ST1208)」及び「SNR閾値を決定(ST1208-2)」に代えて、「HT領域外スペクトル算出(ST1214)」及び「HT領域内スペクトル算出(ST1215)」を含む。
実施の形態2に係るレーザレーダ装置は、機械学習によってST信号のスペクトルを推定するように学習済みの人工知能を備える。人工知能は、具体的には、学習モデルと称される数理モデルで構成される。機械学習の教師データは、実測データでもシミュレーションにより得られたデータでもよい。機械学習は、nHよりも1つレーザレーダ装置に近い隣接したレンジビン(nH-1)における信号スペクトルから推定を実施するものでも、空間的に隣接したエリアに関する計測結果から推定を実施するものでも、どちらでもよい。
レンジビンがnHである領域のように、ハードターゲット(HT)が存在する領域は、「HT領域」と称されるものとする。
nHよりも1つレーザレーダ装置に近い隣接したレンジビン(nH-1)と、空間的に隣接したエリアとは、共にハードターゲット(HT)が存在しない領域であるから、HT領域外である。
信号処理部12におけるHT領域外スペクトル算出部1214は、HT領域外に関するデジタル受信信号の情報から、HT領域外のST信号のスペクトルを算出する。HT領域外に関するデジタル受信信号の情報は、学習済み学習モデルへの入力となる。
学習済み学習モデルは、HT領域外スペクトル算出部1214からの入力情報に基づいて、レンジビン(nH)におけるST信号のスペクトルを推定し、出力する。そして、この学習済み学習モデルは、HT領域内スペクトル算出部1215に備えられていてよい。
すなわち、信号処理部12におけるHT領域内スペクトル算出部1215は、学習済み学習モデルの出力と、HT領域外スペクトル算出部1214からのHT領域外に関するデジタル受信信号の情報とに基づいて、レンジビン(nH)におけるST信号のスペクトルを推定する。
実施の形態3に係るレーザレーダ装置は、本開示技術に係るレーザレーダ装置の変形例である。実施の形態3では、特に明記する場合を除き、既出の実施の形態で用いられた符号と同じものが使用される。また実施の形態3では、既出の実施の形態と重複する説明が、適宜、省略される。
実施の形態3は、レーザレーダ装置の信号処理部12において、その全部の機能をまとめてブラックボックスとみて、人工知能に置き換えるものである。
Claims (2)
- SNR算出部と、確率密度分布算出部と、受信信号分別部と、を含む信号処理部を備え、
前記SNR算出部は、デジタル受信信号から、レンジビンとして定義された時間窓ごとにSNRを計算し、
前記確率密度分布算出部は、ハードターゲット(HT)が存在すると推測されるレンジビンに対してヒストグラムを生成し、確率分布をフィッティングし、
前記受信信号分別部は、重ね合わせの原理に基づいて、前記SNRが、統計確率上、ソフトターゲット(ST)に依拠するかハードターゲット(HT)に依拠するかを分別し、
前記信号処理部は、
受信スペクトル全体の中に存在する一方のターゲットの速度に対応する受信スペクトル成分の算出手法として、2種類のターゲットが存在する領域以外の、一方のターゲットの速度算出結果から、前記2種類のターゲットが存在する領域での一方の受信スペクトルの成分を算出する、
レーザレーダ装置。 - SNR算出部と、学習済み人工知能と、受信信号分別部と、を含む信号処理部を備え、
前記SNR算出部は、デジタル受信信号から、レンジビンとして定義された時間窓ごとにSNRを計算し、
前記学習済み人工知能は、HT領域外の情報に基づいてHT領域内のST信号スペクトルを推定し、
前記受信信号分別部は、重ね合わせの原理に基づいて、前記SNRが、統計確率上、ソフトターゲット(ST)に依拠するかハードターゲット(HT)に依拠するかを分別する、
レーザレーダ装置。
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野邑 寿仁亜ら: "「コヒーレントドップラーライダによる潮流計測適用にむけた海面エコー検出確率の算出」", 第38回レーザセンシングシンポジウム予稿集, JPN6023002032, 4 September 2020 (2020-09-04), pages 3 - 1, ISSN: 0005034886 * |
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