以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
以下の実施形態では、所謂デュアルフューエル型のエンジンについて説明する。デュアルフューエル型のエンジンは、ガス運転モードとディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行することができる。ガス運転モードは、気体燃料である燃料ガスを主に燃焼させる。ディーゼル運転モードは、液体燃料である燃料油を燃焼させる。また、1周期が2サイクル(ストローク)であって、シリンダ内部をガスが一方向に流れるユニフロー掃気式である場合について説明する。しかし、エンジンの種類は、デュアルフューエル型、2サイクル型、ユニフロー掃気式、クロスヘッド型に限られず、レシプロエンジンであればよい。
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン(クロスヘッド型エンジン)100の全体構成を示す図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。具体的に、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、クロスヘッド114と、連結棒116と、クランクシャフト118と、排気ポート120と、排気弁122と、掃気ポート124と、掃気溜126と、冷却器128と、掃気室130と、燃焼室132とを含んで構成される。
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、ピストン112がシリンダ110内を往復移動する。ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、ピストン112の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われる。ピストン112には、ピストンロッド112aの一端が連結されている。ピストンロッド112aの他端には、クロスヘッド114におけるクロスヘッドピン114aが連結されている。クロスヘッド114は、ピストン112と一体的に往復移動する。クロスヘッド114は、クロスヘッドシュー114bによって、ピストン112のストローク方向に垂直な方向(図1中、左右方向)の移動が規制されている。
クロスヘッドピン114aは、連結棒116の一端に設けられた孔に挿通されている。クロスヘッドピン114aは、連結棒116の一端を支持する。また、連結棒116の他端は、クランクシャフト118に連結されている。クランクシャフト118は、連結棒116に対して回転する構造となっている。その結果、ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド114が往復移動する。また、クロスヘッド114の往復移動に伴いクランクシャフト118が回転する。
排気ポート120は、ピストン112の上死点より上方のシリンダヘッド110aに設けられた開口部である。排気ポート120は、シリンダ110内で生じた燃焼後の排気ガスを排気するために開閉される。排気弁122は、不図示の排気弁駆動装置によって所定のタイミングで上下に摺動される。排気弁122は、上下に摺動されることで、排気ポート120を開閉する。排気ポート120を介して排気された排気ガスは、排気管120aに流入する。排気管120aに流入したガスは、過給機Cのタービン側に供給される。過給機Cのタービン側に供給されたガスは、外部に排気される。
掃気ポート124は、シリンダ110の下端側の内周面(シリンダライナ110bの内周面)から外周面まで貫通する孔である。掃気ポート124は、シリンダ110の全周囲に亘って、複数設けられている。掃気ポート124は、ピストン112の摺動動作に応じてシリンダ110内に活性ガスを吸入する。かかる活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。
掃気溜126には、過給機Cのコンプレッサによって加圧された活性ガス(例えば空気)が封入されている。冷却器128は、加圧された活性ガスを冷却する。冷却された活性ガスは、掃気室130に圧入される。掃気室130は、シリンダジャケット110c内に形成される。冷却された活性ガスは、掃気室130とシリンダ110内の差圧をもって掃気ポート124からシリンダ110内に吸入される。
また、シリンダヘッド110aには、不図示のパイロット噴射弁が設けられる。ガス運転モードにおいては、エンジンサイクルにおける所定のタイミングで適量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。かかる燃料油は、燃焼室132の熱で気化して燃料ガスとなる。燃焼室132は、シリンダヘッド110aと、シリンダライナ110bと、ピストン112とに囲繞される。燃焼室132の熱で気化した燃料ガスは、自然着火し、僅かな時間で燃焼して、燃焼室132の温度を極めて高くする。シリンダ110に流入した燃料ガスは、所定のタイミングで確実に燃焼される。ピストン112は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されるものとする。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものを適用することもできる。
一方、ディーゼル運転モードにおいては、ガス運転モードにおける燃料油の噴射量よりも多量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。ピストン112は、燃料ガスではなく、燃料油の燃焼による膨張圧によって往復移動する。
このように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、ガス運転モードとディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行する。また、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100には、圧縮比可変機構Vが設けられている。圧縮比可変機構Vは、選択された運転モードに応じてピストン112の圧縮比を可変とする。以下、圧縮比可変機構Vについて詳述する。
図2Aは、図1の一点鎖線部分を抽出した拡大図であり、図2Bは、図2AのIIB―IIB線断面である。
図2A、図2Bに示すように、クロスヘッドピン114aには、ピストンロッド112aの端部が挿入される。クロスヘッドピン114aには、連結穴160が形成されている。連結穴160は、クロスヘッドピン114aの軸方向(図2B中、左右方向)と垂直する方向に延在する。連結穴160には、ピストンロッド112aの端部が挿入(進入)されている。連結穴160は、ピストンロッド112aの端部が挿入されることで後述する油圧室を形成する。連結穴160にピストンロッド112aの端部が挿入されることで、クロスヘッドピン114aと、ピストンロッド112aが連結される。
ピストンロッド112aには、大径部162aと、第1小径部162bと、第2小径部162cが形成されている。大径部162aは、第1小径部162bおよび第2小径部162cよりも大きい外径を有する。第1小径部162bは、大径部162aよりも他端側に位置する。第1小径部162bは、大径部162aよりも小さい外径を有する。第2小径部162cは、大径部162aよりも一端側に位置する。第2小径部162cは、大径部162aよりも小さい外径を有する。第2小径部162cは、第1小径部162bよりも大きい外径を有する。
連結穴160は、大径穴部164aと、小径穴部164bとを有している。大径穴部164aは、連結穴160におけるピストン112側に位置する。小径穴部164bは、大径穴部164aに対して連結棒116側に連続する。小径穴部164bは、大径穴部164aよりも小さい内径を有する。
ピストンロッド112aの第1小径部162bは、連結穴160の小径穴部164bに挿入可能な寸法となっている。ピストンロッド112aの大径部162aは、連結穴160の大径穴部164aに挿入可能な寸法関係となっている。
小径穴部164bの内周面には、周方向に亘ってリング溝140が形成されている。リング溝140には、シールリング機構300が配される。大径部162aの外周面には、周方向に亘ってリング溝142およびリング溝144が形成されている。リング溝142は、大径部162aにおける第2小径部162c側に設けられる。リング溝142には、Oリングで構成されるシール部材Oが配される。リング溝144は、大径部162aにおける第1小径部162b側に設けられる。リング溝144には、シールリング機構302が配される。なお、シールリング機構300、302の構成について、詳しくは後述する。
第2小径部162cには、固定蓋166が設けられている。固定蓋166は、連結穴160よりも大きい外径を有する。固定蓋166は、環状形状の部材である。固定蓋166には、ピストンロッド112aの第2小径部162cが挿通されている。固定蓋166の内周面には、周方向に亘ってリング溝146が形成されている。リング溝146には、Oリングで構成されるシール部材Oが配される。
クロスヘッドピン114aの外周面には、クロスヘッドピン114aの径方向に窪んだ窪み114cが形成されている。固定蓋166は、窪み114cに当接する。
クロスヘッドピン114aの内部には、第1油圧室(油圧室)168aおよび第2油圧室168bが形成されている。第1油圧室168aおよび第2油圧室168bは、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aとの連結部分に形成される。
第1油圧室168aは、大径部162aと第1小径部162bの外径差による段差面、大径穴部164aの内周面、および、大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面によって囲繞される。
ピストンロッド112aの大径部162aと第1小径部162bの外径差による段差面は、クロスヘッドピン114aの大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面と対向する。以下、ピストンロッド112aの大径部162aと第1小径部162bの外径差による段差面を、単にピストンロッド112aの段差面という。また、クロスヘッドピン114aの大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面を、単にクロスヘッドピン114aの段差面という。
第2油圧室168bは、大径部162aにおける第2小径部162c側の端面、大径穴部164aの内周面、および、固定蓋166によって囲繞される。大径穴部164aは、ピストンロッド112aの大径部162aによって、ピストンロッド112aの一端側と他端側とに区画される。
つまり、大径部162aよりも他端側に区画された大径穴部164aによって第1油圧室168aが形成される。また、大径部162aよりも一端側に区画された大径穴部164aによって第2油圧室168bが形成される。
第1油圧室168aには、第1油圧室供給油路170aおよび第1油圧室排出油路170bが連通している。第1油圧室供給油路170aは、一端が大径穴部164aの内周面(第1油圧室168a)に開口し、他端が後述するプランジャポンプを介して油圧ポンプに連通している。第1油圧室排出油路170bは、一端が大径穴部164aの内周面に開口し、他端が後述するスピル弁を介してタンクに連通している。
第2油圧室168bには、固定蓋166の壁面に開口する補助油路170cが連通している。補助油路170cは、固定蓋166とクロスヘッドピン114aとの当接部分を介してクロスヘッドピン114aの内部を通り、油圧ポンプに連通している。
図3Aは、ピストンロッド112aが連結穴160に浅く進入した状態を示す図である。図3Bは、ピストンロッド112aが連結穴160に深く進入した状態を示す図である。
第1油圧室168aは、ピストン112のストローク方向の長さが可変となっている。第1油圧室168aには、第1油圧室供給油路170aを介して作動油が供給可能である。
第1油圧室168aに作動油が供給されると、図3Aに示すように、第1油圧室168aのピストン112のストローク方向の長さが長くなる。一方、第2油圧室168bは、ピストン112のストローク方向の長さが短くなる。作動油は、非圧縮性である。そのため、第1油圧室168aに作動油を供給した状態で第1油圧室168aを密閉すると、図3Aの状態を維持することができる。
また、第1油圧室168aは、第1油圧室排出油路170bを介して作動油を排出可能である。第1油圧室168aから作動油が排出されると、図3Bに示すように、第1油圧室168aのピストン112のストローク方向の長さが短くなる。一方、第2油圧室168bは、ピストン112のストローク方向の長さが長くなる。
このように、ピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aは、ストローク方向の全長を可変とする。ピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aを含むピストン112のストローク方向の全長は、ピストンロッド112aの段差面およびクロスヘッドピン114aの段差面のストローク方向の離隔距離に応じて変化する。
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bのピストン112のストローク方向の長さが変更された分、ピストンロッド112aがクロスヘッドピン114aの連結穴(油圧室)160に進入する進入位置(進入深さ)が変化する。このように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を変化させることで、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変としている。
ピストンロッド112aは、クロスヘッドピン114aに連結されている。しかし、図3Bに示す状態では、ピストンロッド112aは、第2油圧室168bの分だけ遊びが生じている。
図3Bに示す状態でピストン112が上死点に到達したとき、ピストンロッド112aには、ピストン112側に慣性力が加わる。ピストンロッド112aは、慣性力により、ピストン112側に移動してしまう場合がある。上死点位置のずれが生じないように、第2油圧室168bには、補助油路170cを介して油圧ポンプからの油圧が供給されている。第2油圧室168bに油圧が供給されることで、ピストンロッド112aのピストン112側への移動が抑えられる。
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、比較的低速の回転数で用いられる。そのため、ピストンロッド112aに加わる慣性力も比較的小さいものとなる。したがって、第2油圧室168bに供給する油圧が低くても、ピストン112の上死点位置のずれを抑えることができる。
ピストンロッド112aには、ピストンロッド112aの外周側面から径方向内側に向かう流路穴172が設けられている。クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの外周面側から連結穴160まで貫通する貫通孔174が設けられている。貫通孔174は、油圧ポンプと連通している。
また、流路穴172と貫通孔174は、ピストンロッド112aの径方向に対向しており、流路穴172と貫通孔174が連通している。流路穴172の外周面側の端部は、流路穴172の他の部位よりも、ピストン112のストローク方向(図3中、上下方向)の流路幅が広く形成されている。したがって、図3Aおよび図3Bに示すように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が変わっても、流路穴172と貫通孔174の連通状態が維持される。
大径部162aは、流路穴172の分だけ、大径穴部164aの内周面に対向する面積が小さくなり、大径穴部164aに対して傾き易くなる。ここでは、第1小径部162bが小径穴部164bにガイドされることで、ピストンロッド112aのストローク方向に対する傾きが抑えられている。
そして、ピストンロッド112aの内部には、ピストン112のストローク方向に延在し、ピストン112およびピストンロッド112aを冷却する冷却油が流通する油路176が形成されている。油路176は、内部に冷却管178が配されており、冷却管178によってピストンロッド112aの径方向外側の往路176aと、内側の復路176bとに分けられている。流路穴172は、油路176のうちの往路176aに開口している。
油圧ポンプから供給された冷却油は、貫通孔174、流路穴172を介して油路176の往路176aに流入する。往路176aと復路176bは、ピストン112の内部で連通している。往路176aを流れた冷却油は、ピストン112の内壁に到達すると復路176bを通って、第1小径部162b側に戻る。油路176の内壁およびピストン112の内壁に冷却油が接触することで、ピストン112が冷却される。
クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの軸方向に延在する出口孔180が形成されている。小径穴部164bは、出口孔180に連通している。冷却油は、ピストン112を冷却した後に、油路176から小径穴部164bに流入する。小径穴部164bに流入した冷却油は、出口孔180を通って、クロスヘッドピン114a外に排出され、タンクに還流する。
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bに供給される作動油、および、油路176に供給される冷却油は、いずれも同じタンクに還流して同じ油圧ポンプで昇圧される。そのため、油圧を作用させる作動油の供給、および、冷却用の冷却油の供給を、1つの油圧ポンプで行うことができ、コストを低減することが可能となる。
ピストン112の圧縮比を可変とする圧縮比可変機構Vは、第1油圧室168aの油圧を調整する油圧調整機構196を含んで構成される。続いて、油圧調整機構196について詳述する。油圧調整機構196は、プランジャポンプ182と、スピル弁184と、駆動機構Dとを含んで構成される。
図4は、プランジャポンプ182、スピル弁184、および、駆動機構Dの配置を説明するための説明図である。図4は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100のうち、クロスヘッド114近傍の外観および部分断面を示す。プランジャポンプ182およびスピル弁184は、それぞれ、図4にクロスハッチングで示すクロスヘッドピン114aに取り付けられている。
プランジャポンプ182およびスピル弁184それぞれの下方には、機関架橋186aが配されている。機関架橋186aは、クロスヘッド114の往復移動をガイドする2つのガイド板186bに両端が取り付けられ、両ガイド板186bを支持する。
機関架橋186aには、駆動機構Dが載置されている。駆動機構Dは、第1カム板188と、第2カム板190と、第1アクチュエータ192と、第2アクチュエータ194とを含んで構成される。第1カム板188および第2カム板190は、それぞれ、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194によって、機関架橋186a上を図4中、左右の向きに可動する。
プランジャポンプ182およびスピル弁184は、ピストン112のストローク方向にクロスヘッドピン114aと一体に往復移動する。一方、第1カム板188および第2カム板190は、機関架橋186a上にあって、機関架橋186aに対してピストン112のストローク方向には移動しない。
図5は、油圧調整機構196の構成を説明するための説明図である。図5に示すように、油圧調整機構196は、プランジャポンプ182と、スピル弁184と、第1カム板188と、第2カム板190と、第1アクチュエータ192と、第2アクチュエータ194と、第1切換弁198と、第2切換弁200と、位置センサ202と、油圧制御部204とを含んで構成される。
プランジャポンプ182は、ポンプシリンダ182aと、プランジャ182bとを含んで構成される。ポンプシリンダ182aは、油圧ポンプPに連通する供給油路を介して、内部に作動油が導かれる。プランジャ182bは、ポンプシリンダ182a内をストローク方向に移動するとともに一端がポンプシリンダ182aから突出する。
第1カム板188は、ピストン112のストローク方向に対して傾斜する傾斜面188aを有する。第1カム板188は、プランジャポンプ182のストローク方向の下方に配置されている。そして、プランジャポンプ182がストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、ポンプシリンダ182aから突出したプランジャ182bの一端が、第1カム板188の傾斜面188aに接触する。
そして、プランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、ポンプシリンダ182a内に押し込まれる。このとき、プランジャポンプ182は、ポンプシリンダ182a内の作動油を第1油圧室168aに供給(圧入)する。
第1アクチュエータ192は、第1切換弁198を介して供給される作動油の油圧によって作動する。第1アクチュエータ192は、第1カム板188をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第1アクチュエータ192は、第1カム板188を可動し、第1カム板188のプランジャ182bに対する相対位置を変化させる。
このように、第1カム板188がストローク方向に垂直な方向に移動すると、プランジャ182bと第1カム板188とのストローク方向における接触位置が相対変化する。例えば、図5中、左側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位する。図5中、右側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。プランジャ182bは、第1カム板188との接触位置によってポンプシリンダ182aに対する最大押し込み量が設定される。
スピル弁184は、本体184aと、弁体184bと、ロッド184cとを含んで構成される。スピル弁184の本体184aの内部には、第1油圧室168aから排出された作動油が流通する内部流路が形成されている。弁体184bは、本体184a内の内部流路に配される。ロッド184cは、一端が本体184a内の弁体184bに対向し、他端が本体184aから突出している。
第2カム板190は、ストローク方向に対して傾斜する傾斜面190aを有する。第2カム板190は、ロッド184cのストローク方向の下方に配置されている。そして、スピル弁184がストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aから突出したロッド184cの一端が、第2カム板190の傾斜面190aに接触する。
そして、ロッド184cは、第2カム板190の傾斜面190aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、本体184a内に押し込まれる。スピル弁184は、ロッド184cが本体184a内に所定量以上押し込まれることで弁体184bが移動する。スピル弁184は、弁体184bが移動すると、内部流路を作動油が流通可能となって、第1油圧室168aからタンクTに向かって作動油が排出される。
第2アクチュエータ194は、第2切換弁200を介して供給される作動油の油圧によって作動する。第2アクチュエータ194は、第2カム板190をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第2アクチュエータ194は、第2カム板190を可動し、第2カム板190のロッド184cに対する相対位置を変化させる。
第2カム板190の相対位置に応じて、ロッド184cと第2カム板190とのストローク方向における接触位置が変化する。例えば、図5中、左側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位する。図5中、右側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。ロッド184cは、第2カム板190との接触位置によって本体184aに対する最大押し込み量が設定される。
位置センサ202は、ピストンロッド112aのストローク方向の位置を検知して、ストローク方向の位置を示す信号を出力する。
油圧制御部204は、位置センサ202からの信号を取得し、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を特定する。油圧制御部204は、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194を駆動させて、第1油圧室168a内の油圧(作動油の油量)を調整する。油圧制御部204は、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が設定位置となるように、第1油圧室168a内の油圧(作動油の油量)を調整する。
図6Aは、第1油圧室168aから作動油を排出する際の圧縮比可変機構Vの動作を説明する図である。図6Bは、第1油圧室168a内の作動油の排出を停止する際の圧縮比可変機構Vの動作を説明する図である。図6Cは、第1油圧室168aに作動油を供給する際の圧縮比可変機構Vの動作を説明する図である。図6Dは、第1油圧室168aへの作動油の供給を停止する際の圧縮比可変機構Vの動作を説明する図である。
図6Aでは、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が比較的高い位置となるように、第2カム板190の相対位置が調整されている。そのため、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aにロッド184cが深くまで押し込まれる。ロッド184cが弁体184bを移動させると、第1油圧室168aから作動油が排出される。このとき、第2油圧室168bには油圧ポンプPの油圧が作用していることから、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が安定して保持されている。
この状態において、ピストン112の上死点は低くなっている(クロスヘッドピン114a側に近くなっている)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は小さくなっている。
そして、油圧制御部204は、ECU(Engine Control Unit)などの上位の制御部からユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比を大きくする指示を受けると、図6Bに示すように、第2カム板190を図6B中、右側に移動させる。その結果、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が低くなる。ロッド184cは、下死点に近いクランク角において、本体184a内に押し込まれなくなる。スピル弁184は、ピストン112のストローク位置に拘わらず、弁体184bが閉じた状態に維持される。すなわち、第1油圧室168a内の作動油が排出されなくなる。
油圧制御部204は、図6Cに示すように、第1カム板188を図6C中、左側に移動させる。その結果、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置が高くなる。プランジャ182bは、下死点に近いクランク角において、第1カム板188からの反力によってポンプシリンダ182a内に押し込まれる。このとき、ポンプシリンダ182a内の作動油は、第1油圧室168aに圧入される。
ピストンロッド112aは、図6Cに示すように、油圧によって押し上げられる。ピストンロッド112aは、図6Cに示すように、クロスヘッドピン114aとの相対的な位置が変位し、ピストン112の上死点が高くなる(クロスヘッドピン114a側から遠くなる)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は大きくなる。
プランジャポンプ182は、ピストン112の1ストローク毎に、プランジャポンプ182内に蓄えられた作動油を、第1油圧室168aに圧入する。ここでは、プランジャポンプ182内の最大容積に対して、第1油圧室168aの最大容積が数倍あるとする。そのため、油圧制御部204は、プランジャポンプ182がピストン112のストローク何回分、動作をするかによって、第1油圧室168aに圧入される作動油の量を調整する。油圧制御部204は、第1油圧室168aに圧入される作動油の量を調整することで、ピストンロッド112aの押し上げ量を調整する。
ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が所望の位置となると、油圧制御部204は、第1カム板188を図6D中、右側に移動させる。その結果、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置が低くなる。こうして、プランジャ182bは、下死点に近いクランク角において、ポンプシリンダ182a内に押し込まれることがなくなる。このとき、プランジャポンプ182は、作動を停止し、第1油圧室168aへの作動油の圧入が停止される。
こうして、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに対するストローク方向のピストンロッド112aの進入位置を調整する。圧縮比可変機構Vは、油圧調整機構196によって第1油圧室168aの油圧を調整し、ピストンロッド112aおよびクロスヘッド114のストローク方向の相対的な位置を変更する。これにより、圧縮比可変機構Vは、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変とする。
図7は、クランク角とプランジャポンプ182およびスピル弁184の動作タイミングを説明するための説明図である。図7においては、説明の便宜上、第1カム板188の傾斜面188aとの接触位置が異なる2つのプランジャポンプ182を並べて示す。しかし、実際には、プランジャポンプ182は、1つであって、第1カム板188が移動することで、プランジャポンプ182との接触位置が変位する。また、スピル弁184および第2カム板190は図示を省略する。
図7に示すように、下死点手前から下死点までのクランク角の範囲を角aとし、下死点から角aと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角bとする。また、上死点手前から上死点までのクランク角の範囲を角cとし、上死点から角cと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角dとする。
プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、図7中、右側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aと、クランク角が角aの開始位置で接触を開始する。そして、プランジャ182bは、傾斜面188aと、クランク角が下死点を超えて角bの終了位置で接触が解除される。図7中、プランジャポンプ182のストローク幅を幅sで示す。
また、プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、図7中、左側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャポンプ182のプランジャ182bは、クランク角が下死点で接触する。しかし、プランジャ182bはポンプシリンダ182aに押し込まれることなく、すぐに離隔する。
このように、プランジャポンプ182は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角aの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。また、クランク角が角bの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を吸入する。
また、スピル弁184は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角aの開始位置から角bの終了位置までの間、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
ここでは、プランジャポンプ182およびスピル弁184は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する場合について説明した。しかし、プランジャポンプ182およびスピル弁184は、クランク角が角cおよび角dの範囲にあるとき動作してもよい。この場合、クランク角が角cの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。また、クランク角が角dの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を吸入する。また、クランク角が角cの開始位置から角dの終了位置までの間、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
なお、上死点や下死点以外のストローク範囲でプランジャポンプ182やスピル弁184を動作させることも可能である。その場合、駆動機構Dを、プランジャポンプ182やスピル弁184の往復移動に同期させて移動させなければならない。しかし、本実施形態のように、上死点や下死点付近で、プランジャポンプ182やスピル弁184を動作させることで、このような同期機構を設けずともよく、コストを低減することが可能となる。
また、シリンダ110内の圧力は、クランク角が上死点を挟んだ角度範囲(角c、角d)よりも下死点を挟んだ角度範囲(角a、角b)の方が低い。このことから、プランジャポンプ182から第1油圧室168aへの作動油の圧入は、クランク角が上死点を挟んだ角度範囲よりも下死点を挟んだ角度範囲の方が容易になる。
また、スピル弁184から排出される作動油の油圧は、上死点を挟んだ角度範囲(角c、角d)よりも下死点を挟んだ角度範囲(角a、角b)の方が低い。このことから、第1油圧室168aの作動油の排出は、クランク角が上死点を挟んだ角度範囲よりも下死点を挟んだ角度範囲の方が、キャビテーションの発生を抑え、スピル弁184を作動させる荷重を低く抑えることが可能となる。
図8は、シールリング機構300の構成を示す断面図である。図9は、シールリング機構302の構成を示す断面図である。上記したように、第1油圧室168aには、作動油が圧入される。第1油圧室168aは、シールリング機構300、302によって、第1小径部162bと小径穴部164bの隙間がシールされている。より具体的には、シールリング機構300は、第1小径部162bと小径穴部164bの隙間をシールする。シールリング機構302は、大径部162aと大径穴部164aの隙間をシールする。シールリング機構300、302には、約1000barの高圧な油圧を長期にわたってシールすることができる耐久性およびシール性が要求される。
図8に示すように、シールリング機構300は、中央リング310と、高圧側サイドリング(サイドリング)312と、低圧側サイドリング(サイドリング)314とを含んで構成される。中央リング310、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314は、金属材で構成され、環状形状(リング形状)に形成されている。中央リング310、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314には、ピストンロッド112aの第1小径部162bが挿通される。中央リング310は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314よりも弾性変形しやすい(軟らかい)金属材が用いられている。なお、中央リング310は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314と同一の金属材であってもよいし、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314よりも弾性変形しにくい(硬い)金属材であってもよい。
中央リング310、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314は、合口が設けられていない。なお、中央リング310、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314は、合口が設けられていてもよい。
中央リング310は、高圧側サイドリング312と低圧側サイドリング314の間に配される。高圧側サイドリング312は、中央リング310より大径部162a側に配される。低圧側サイドリング314は、中央リング310を挟んで高圧側サイドリング312とは軸方向の反対側に配される。つまり、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314は、中央リング310を挟んで軸方向の両側に配される。
中央リング310の内径は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314の内径よりも小さい。中央リング310は、シール面310a、第1傾斜面310b、310cおよび外周面310dを有する。シール面310aは、中央リング310の内周面であり、中央リング310の軸方向に沿って形成されている。シール面310aには、中央リング310よりも硬度が高いコーティング材でコーティング加工が施されており、耐久性が向上している。
第1傾斜面310b、310c(軸方向の両面)は、シール面310a側から、シール面310aとは反対側の外周面310d側にかけて、中央リング310の軸方向中央に向かって傾斜するように形成されている。換言すると、第1傾斜面310b、310cは、径方向内側から径方向外側に向かうに連れて、軸方向中央に傾斜するように形成されている。また、第1傾斜面310b、310cは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が同一である。つまり、中央リング310は、軸方向の中央を基準として、軸方向に対称に形成されている。ここで、同一とは、完全な同一だけでなく、製造工程における寸法誤差等による略同一を含むものである。また、以下の説明でも、同一は、完全な同一、および、略同一を含む。
外周面310dは、第1傾斜面310b、310cに連続し、中央リング310の軸方向に沿って形成されている。したがって、中央リング310の断面は、シール面310aを底辺とした台形形状に形成されている。
外周面310dには、周方向において所定間隔ごとに、軸方向に沿って油溝310eが形成されている。なお、油溝310eの数は、いくつであってもよい。
高圧側サイドリング312は、内周面312a、第2傾斜面312b、水平面312cおよび外周面312dを有する。第2傾斜面312bは、中央リング310の第1傾斜面310bに対向(当接)する。第2傾斜面312bは、内周面312a側から外周面312d側にかけて(径方向外側に向かうに連れて)、中央リング310側に向かうように傾斜している。第2傾斜面312bは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が、第1傾斜面310bの傾斜角度と同一となるように形成されている。水平面312cは、軸方向と直交する平面に沿って形成されている。
外周面312dには、周方向において所定間隔ごとに、軸方向に沿って油溝312eが形成されている。なお、油溝312eの数は、いくつであってもよい。第2傾斜面312bには、周方向において所定間隔ごとに、径方向に沿って油溝312fが形成されている。なお、油溝312fの数は、いくつであってもよい。また、油溝312fは、油溝312eと連続していてもよいし、連続していなくてもよい。
低圧側サイドリング314は、内周面314a、第2傾斜面314b、水平面314cおよび外周面314dを有する。第2傾斜面314bは、中央リング310の第1傾斜面310cに対向(当接)する。第2傾斜面314bは、内周面314a側から外周面314d側にかけて(径方向外側に向かうに連れて)、中央リング310側に向かうように傾斜している。第2傾斜面314bは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が、第1傾斜面310cの傾斜角度と同一となるように形成されている。水平面314cは、軸方向と直交する平面に沿って形成されている。
第1油圧室168aに作動油が圧入されると、リング溝140に作動油が流入する。リング溝140に流入した作動油は、リング溝140内において高圧側サイドリング312の外周面312d、中央リング310の外周面310d、および、低圧側サイドリング314の外周面314d側に移動する。このとき、外周面312dに油溝312eが形成されているため、リング溝140に流入した作動油が、中央リング310の外周面310d側に流入しやすくなっている。また、外周面310dに油溝310eが形成されているため、リング溝140に流入した作動油が、低圧側サイドリング314の外周面314d側に流入しやすくなっている。これにより、作動油は、第1小径部162bと、高圧側サイドリング312の内周面312a、中央リング310のシール面310a、および、低圧側サイドリング314の内周面314aとの隙間を通過し難い。したがって、シールリング機構300は、作動油の漏洩を抑制することができる。
そして、リング溝140に流入した作動油(図8中、矢印線で示す)は、高圧側サイドリング312の水平面312cを軸方向に加圧する。また、リング溝140に流入した作動油は、高圧側サイドリング312の外周面312d、中央リング310の外周面310d、および、低圧側サイドリング314の外周面314dを径方向内側に加圧する。作動油に加圧された高圧側サイドリング312は、第2傾斜面312bに垂直な方向に中央リング310を加圧する。また、作動油に加圧された低圧側サイドリング314は、第2傾斜面314bに垂直な方向に中央リング310を加圧する。
これにより、中央リング310は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314から径方向内側に向かう力が均等に加えられることになる。そして、中央リング310は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314から加えられた力によって径方向内側に縮み、シール面310aが第1小径部162bに当接する。これにより、シールリング機構300は、第1小径部162bと小径穴部164bの隙間をシールすることができる。なお、低圧側サイドリング314の水平面314cとリング溝140との隙間、および、中央リング310の第1傾斜面310cと低圧側サイドリング314の第2傾斜面314bとの隙間も、リング溝140に流入した作動油による油圧でシールされる。
このように、シールリング機構300は、中央リング310に第1傾斜面310b、310cが形成され、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314に、第1傾斜面310b、310cにそれぞれ当接する第2傾斜面312b、314bが形成されるようにした。これにより、中央リング310は、第1油圧室168aに作動油が圧入された際に、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314から径方向内側に同等の力が加えられることになる。したがって、中央リング310のシール面310aは、第1小径部162bに当接する際に、軸方向において均一な面圧となる。そうすると、シールリング機構300は、シール面310aの一部にのみ偏った力が加えられることにより、その一部が摩耗しやすくなるといった事態を抑制することができる。つまり、シールリング機構300は、中央リング310(シール面310a)の摩耗を抑制することができる。
このとき、高圧側サイドリング312の第2傾斜面312bに油溝312fが形成されていることにより、高圧側サイドリング312の第2傾斜面312bと、中央リング310の第1傾斜面310bとの間に作動油が浸入しやすくなる。そして、高圧側サイドリング312の第2傾斜面312bと、中央リング310の第1傾斜面310bとの間に作動油が浸入することで、中央リング310が高圧側サイドリング312に対して滑りやすくなる。これにより、シールリング機構300は、中央リング310と高圧側サイドリング312との摩擦力によるシール面310aの面圧の低下を抑制することができる。つまり、シールリング機構300は、シール性能の低下を抑制することができる。
また、中央リング310は、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314よりも弾性変形しやすい金属材で構成される。そのため、中央リング310は、加えられた力により径方向内側に縮みやすく、シール性を向上することができる。
図9に示すように、シールリング機構302は、中央リング320と、低圧側サイドリング322と、高圧側サイドリング324とを含んで構成される。中央リング320、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324は、金属材で構成され、環状形状(リング形状)に形成されている。中央リング320、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324は、リング溝142に挿入される。中央リング320は、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324よりも弾性変形しやすい金属材が用いられている。なお、中央リング320は、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324と同一の金属材であってもよいし、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324よりも弾性変形しにくい(硬い)金属材であってもよい。
また、中央リング320、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324は、合口が設けられていない。なお、中央リング320、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324は、合口が設けられていてもよい。
中央リング320は、低圧側サイドリング322と高圧側サイドリング324の間に配される。低圧側サイドリング322は、中央リング320より第2小径部162c側に配される。高圧側サイドリング324は、中央リング320を挟んで低圧側サイドリング322とは軸方向の反対側に配される。つまり、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324は、中央リング320を挟んで軸方向の両側に配される。
中央リング320の外径は、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324の外径よりも大きい。中央リング320は、シール面320a、第1傾斜面320b、320cおよび内周面320dを有する。シール面320aは、中央リング320の外周面であり、中央リング320の軸方向に沿って形成されている。シール面320aには、中央リング320よりも硬度が高い材質のコーティング材でコーティング加工が施されており、耐久性が向上している。
第1傾斜面320b、320c(軸方向の両面)は、シール面320a側から、シール面320aとは反対側の内周面320d側にかけて、中央リング320の軸方向中央に向かって傾斜するように形成されている。換言すると、第1傾斜面320b、320cは、径方向外側から径方向内側に向かうに連れて、軸方向中央に傾斜するように形成されている。また、第1傾斜面320b、320cは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が同一である。つまり、中央リング320は、軸方向の中央を基準として、軸方向に対称に形成されている。
内周面320dは、第1傾斜面320b、320cに連続し、中央リング320の軸方向に沿って形成されている。したがって、中央リング320の断面は、シール面320aを底辺とした台形形状に形成されている。
内周面320dには、周方向において所定間隔ごとに、軸方向に沿って油溝320eが形成されている。なお、油溝320eの数は、いくつであってもよい。
低圧側サイドリング322は、外周面322a、第2傾斜面322b、水平面322cおよび内周面322dを有する。第2傾斜面322bは、中央リング320の第1傾斜面320bに対向(当接)する。第2傾斜面322bは、外周面322a側から内周面322d側にかけて(径方向内側に向かうに連れて)、中央リング320側に向かうように傾斜している。第2傾斜面322bは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が、第1傾斜面320bの傾斜角度と同一となるように形成されている。水平面322cは、軸方向と直交する平面に沿って形成されている。
高圧側サイドリング324は、外周面324a、第2傾斜面324b、水平面324cおよび内周面324dを有する。第2傾斜面324bは、中央リング320の第1傾斜面320cに対向(当接)する。第2傾斜面324bは、外周面324a側から内周面324d側にかけて(径方向内側に向かうに連れて)、中央リング320側に向かうように傾斜している。第2傾斜面324bは、軸方向と直交する平面に対する径方向の傾斜角度が、第1傾斜面320cの傾斜角度と同一となるように形成されている。水平面324cは、軸方向と直交する平面に沿って形成されている。
内周面324dには、周方向において所定間隔ごとに、軸方向に沿って油溝324eが形成されている。なお、油溝324eの数は、いくつであってもよい。第2傾斜面324bには、周方向において所定間隔ごとに、径方向に沿って油溝324fが形成されている。なお、油溝324fの数は、いくつであってもよい。また、油溝324fは、油溝324eと連続していてもよいし、連続していなくてもよい。
第1油圧室168aに作動油が圧入されると、リング溝142に作動油が流入する。リング溝142に流入した作動油は、リング溝142内において高圧側サイドリング324の内周面324d、中央リング320の内周面320d、および、低圧側サイドリング322の内周面322d側に移動する。このとき、内周面324dに油溝324eが形成されているため、リング溝142に流入した作動油が、中央リング320の内周面320d側に流入しやすくなっている。また、内周面320dに油溝320eが形成されているため、リング溝142に流入した作動油が、低圧側サイドリング322の内周面322d側に流入しやすくなっている。これにより、作動油は、大径穴部164aと、高圧側サイドリング324の内周面324d、中央リング320の内周面320d、および、低圧側サイドリング322の内周面322dとの隙間を通過し難い。したがって、シールリング機構302は、作動油の漏洩を抑制することができる。
そして、リング溝142に流入した作動油(図9中、矢印線で示す)は、高圧側サイドリング324の水平面324cを軸方向に加圧する。また、リング溝142に流入した作動油は、高圧側サイドリング324の内周面324d、中央リング320の内周面320d、および、低圧側サイドリング322の内周面322dを径方向外側に加圧する。作動油に加圧された高圧側サイドリング324は、第2傾斜面324bに垂直な方向に中央リング320を加圧する。また、作動油に加圧された低圧側サイドリング322は、第2傾斜面322bに垂直な方向に中央リング320を加圧する。
これにより、中央リング320は、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324から径方向外側に向かう力が均等に加えられることになる。そして、中央リング320は、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324から加えられた力によって径方向外側に膨らみ、シール面320aが大径穴部164aに当接する。これにより、シールリング機構302は、大径部162aと大径穴部164aの隙間をシールすることができる。なお、低圧側サイドリング322の水平面322cとリング溝142との隙間、および、中央リング320の第1傾斜面320bと低圧側サイドリング322の第2傾斜面322bとの隙間も、リング溝142に流入した作動油による油圧でシールされる。
このように、シールリング機構302は、中央リング320に第1傾斜面320b、320cが形成され、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324に、第1傾斜面320b、320cにそれぞれ当接する第2傾斜面322b、324bが形成されるようにした。これにより、中央リング320は、第1油圧室168aに作動油が圧入された際に、低圧側サイドリング322および高圧側サイドリング324から径方向外側に同等の力が加えられることになる。したがって、中央リング320のシール面320aは、大径穴部164aに当接する際に、軸方向において均一な面圧となる。そうすると、シールリング機構302は、シール面320aの一部にのみ偏った力が加えられることにより、その一部が摩耗しやすくなるといった事態を抑制することができる。つまり、シールリング機構302は、中央リング320(シール面320a)の摩耗を抑制することができる。
このとき、高圧側サイドリング324の第2傾斜面324bに油溝324fが形成されていることにより、高圧側サイドリング324の第2傾斜面324bと、中央リング320の第1傾斜面320cとの間に作動油が浸入しやすくなる。そして、高圧側サイドリング324の第2傾斜面324bと、中央リング320の第1傾斜面320cとの間に作動油が浸入することで、中央リング320が高圧側サイドリング324に対して滑りやすくなる。これにより、シールリング機構302は、中央リング320と高圧側サイドリング324との摩擦力によるシール面320aの面圧の低下を抑制することができる。つまり、シールリング機構302は、シール性能の低下を抑制することができる。
また、中央リング320は、高圧側サイドリング324および低圧側サイドリング322よりも弾性変形しやすい金属材で構成される。そのため、中央リング320は、加えられた力により径方向外側に膨らみやすく、シール性を向上することができる。
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
上記実施形態では、シールリング機構300は、中央リング310、高圧側サイドリング312および低圧側サイドリング314の3つのリングを含んで構成される場合について説明した。しかしながら、シールリング機構は、3つ以上の奇数のリングを含んで構成されていればよく、例えば、5つのリングを含んで構成されてもよい。この場合、シールリング機構は、高圧側サイドリング312、中央リング310、中央サイドリング、中央リング310および低圧側サイドリング314の順に並んで配されればよい。中央サイドリングは、軸方向の両面に、対向する第1傾斜面310bまたは第1傾斜面310cと同一の傾斜角度で第2傾斜面が形成されていればよい。なお、シールリング機構302についても同様に、3つ以上の奇数のリングを含んで構成されていればよい。
また、高圧側サイドリング312は、油溝312e、312fが設けられる場合について説明した。しかしながら、高圧側サイドリング312は、油溝312e、312fの一方または双方が設けられていなくてもよい。なお、高圧側サイドリング324についても同様に、油溝324e、324fの一方または双方が設けられていなくてもよい。
また、中央リング310は、油溝310eが設けられる場合について説明した。しかしながら、中央リング310は、油溝310eが設けられていなくてもよい。なお、中央リング320についても同様に、油溝320eが設けられていなくてもよい。