本発明は、抗B7S1(B7-H4)抗体およびその免疫反応性フラグメントを含む抗B7S1(B7-H4)ポリペプチド、B7S1(B7-H4)分子に結合するキメラ抗原受容体(CAR)、およびそれらの使用、特に、B7S1を発現する病原性細胞の存在に関連する、癌を含む医学的疾患の治療における使用に関する。本発明は特に、罹患組織(癌性細胞を含む)に対して免疫系活性化を増強できるヒト化抗B7S1抗体およびその抗原結合フラグメント、並びに、B7S1を発現する病原性細胞の存在に関連する医学的疾患(癌を含む)の治療のための、抗B7S1 CARを発現する、遺伝子操作された免疫細胞に関する。
B7S1(B7-H4、B7x、VTCN1とも呼ばれる)は、B7ファミリーのメンバーの一つであり、2003年に同定され(Prasad et al.,Immunity 2003,18:863-873;Sica et al.,Immunity 2003, 18:849-861)、ヒトPD-L1およびB7-H3とそれぞれ18%および24%のアミノ酸同一性を共有する(Zhang et al.,Natl Acad Sci USA 2003,100:10388-10392)。B7S1は、2つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインと、大きい疎水性膜貫通ドメイン(後は2つの細胞内アミノ酸が連結されている)とから構成される。B7S1タンパク質の発現は特殊なAPCに限られ、IL-10およびIL-6によって誘導されることができる(Kryczek et al.,Cancer Research 2007,67:8900-8905;Kryczek et al.,J Immunol 2006,177:40-44)。活性化されたT細胞でその推定受容体が誘導され、T細胞の増殖、サイトカインの産生、および細胞毒性が阻害される(Prasad et al.,2003;Sica et al.,2003)。B7S1の発現は複数の固形腫瘍に見られ、患者の転帰および腫瘍におけるT細胞の浸潤と負の相関があるため(Chen et al., J Immunother 2012,35:354-358;Chen et al.,Cancer Immunol Immunother 2011,60:1047-1055 2011;Jiang et al.,Cancer Immunol Immunother 2010,59:1707-1714;Kryczek et al.,Cancer Research 2007,67:8900-8905;Quandt et al.,Clin Cancer Res 2011,17,3100-311;Xu et al.,Oncol Lett 2016,11:1841-1846;Zang et al., Proc Natl Acad Sci USA 2007,104:19458-19463)、B7S1は、抗腫瘍T細胞の機能を活性化するように、有望な候補標的として癌免疫療法に使用することができる。しかしながら、腫瘍免疫におけるB7S1の機能的重要性、及びB7S1によってT細胞機能を阻害する分子メカニズムはまだ確立されていない。また、今までB7S1の受容体は同定されておらず、腫瘍におけるその発現パターンもまだ確立されていない。
本明細書は、細胞(例えば、癌細胞)上に発現するB7S1分子に高い親和性で結合し、癌細胞に対する効果的な免疫応答を促進する抗体およびその免疫反応性フラグメントを提供する。本明細書で提供される抗体およびその免疫反応性フラグメントは、免疫系の活性化を増強することができ、これによって、B7S1分子の発現及び/または活性に関連する病的状態を標的とするための重要な治療剤および診断剤を提供する。したがって、本発明は、B7S1結合に関連する方法、組成物、キットおよび製品を提供する。
一局面において、本発明は、重鎖(HC)可変領域配列および軽鎖(LC)可変領域配列を含む、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、前記抗体がB7S1の細胞外ドメインに結合し、SPR分析によって確認された結合親和性が約1.5nMまたは1.5nMよりも優れており、例えば、SPR分析によって確認された結果、1.0~1.4nM、0.5~1.0nM、0.1~0.5nM、0.4nM、0.3nM、0.2nM、0.1nMまたはそれよりも優れている。
一部の実施形態では、本発明は、
(a)GYTFTSYWMH(配列番号1)を含むCDR1配列、
(b)AIYPGNSDTDYNQKFKG(配列番号2)を含むCDR2配列、
(c)TVAHYFDY(配列番号3)を含むCDR3配列、
(d)KASQDVSFAVA(配列番号4)を含むCDR1配列、
(e)SASYRYT(配列番号5)を含むCDR2配列、および
(f)QQHYNTPLT(配列番号6)を含むCDR3配列
からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
一部の実施形態では、本発明は、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、その中で、
(a)前記HCが、
GYTFTSYWMH(配列番号1)を含むCDR1配列、
AIYPGNSDTDYNQKFKG(配列番号2)を含むCDR2配列、および
TVAHYFDY(配列番号3)を含むCDR3配列を含み、
(b)前記LCが、
KASQDVSFAVA(配列番号4)を含むCDR1配列、
SASYRYT(配列番号5)を含むCDR2配列、および
QQHYNTPLT(配列番号6)を含むCDR3配列を含む。
一部の実施形態では、前記抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。一部の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトアクセプターフレームワークをさらに含む。一部の実施形態では、前記ヒトアクセプターフレームワークは、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する。一部の実施形態では、前記ヒトアクセプターフレームワークは、VLのサブグループκIフレームワークシーケンスと、VHのサブグループIIIフレームワークシーケンスとを含む。一般的に言えば、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition, NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991)、Volume 1-3に記載のようなサブグループである。一部の実施形態では、VLの場合、前記サブグループは、Kabat et al.,(同上)に記載のようなサブグループκIである。一部の実施形態では、VHの場合、前記サブグループは、Kabat et al.,(同上)に記載のようなサブグループIIIである。
一部の実施形態では、前記ヒトアクセプターフレームワークは、ヒトコンセンサスコンセンサスフレームワークを含む。一部の実施形態では、前記ヒトアクセプターフレームワークは、アミノ酸配列変化、例えば、1~15、1~10、2~9、3~8、4~7、または5~6のアミノ酸変化を有する、ヒトコンセンサスフレームワークを含む。
一部の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントはHC可変領域配列を含み、前記HC可変領域配列は、配列番号7または8に示されるアミノ酸配列、または配列番号7または8と80%超、85%超、90%超、91%超、92%超、93%超、94%超、95%超、96%超、97%超、98%超、または99%超の同一性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントはLC可変領域配列を含み、前記LC可変領域配列は、配列番号9または10に示されるアミノ酸配列、または配列番号9または10と、80%超、85%超、90%超、91%超、92%超、93%超、94%超、95%超、96%超、97%超、98%超、または99%超の同一性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、前記HC可変領域配列は配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記LC可変領域配列は配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、前記HC可変領域配列は配列番号8のアミノ酸配列を含み、前記LC可変領域配列は配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、前記抗体がIgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプである。一部の実施形態では、前記抗原結合フラグメントが、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFvおよびFvからなる群から選択される。一部の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、結合するB7S1分子の生物学的活性を阻害または低減するブロッキング抗体(blocking antibody)またはアンタゴニスト抗体である。好ましくは、前記ブロッキング抗体またはアンタゴニスト抗体は、B7S1分子の生物学的活性を実質的または完全に阻害する。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、および第二の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、二重特異性分子を提供する。一部の実施形態では、前記第二の抗体またはその抗原結合フラグメントは、腫瘍細胞の表面に発現する腫瘍抗原に特異的に結合し、前記腫瘍抗原は、A33;ADAM-9;ALCAM;BAGE;β-カテニン;CA125;カルボキシペプチダーゼM;CD103;CD19;CD20;CD22;CD23;CD25;CD27;CD28;CD36;CD40/CD154;CD45;CD46;CD5;CD56;CD79a/CD79b;CDK4;CEA;CTLA4;サイトケラチン8;EGF-R;EphA2;ErbB1;ErbB3;ErbB4;GAGE-1;GAGE-2;GD2/GD3/GM2;HER-2/neu;ヒトパピローマウイルス-E6;ヒトパピローマウイルス-E7;JAM-3;KID3;KID31;KSA(17-1A);LUCA-2;MAGE-1;MAGE-3;MART;MUC-1;MUM-1;N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼ;オンコスタチンM;pl5;PIPA;PSA;PSMA;ROR1;TNF-β受容体;TNF-α受容体;TNF-γ受容体;トランスフェリン受容体;およびVEGF受容体からなる群から選択される。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、ポリペプチドを提供する。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントのHC可変領域および/またはLC可変領域を含む、ポリペプチドを提供する。
一局面において、本発明は、治療薬に連結された本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、免疫コンジュゲートを提供する。一部の実施形態では、前記治療薬が細胞毒素または放射性同位体である。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチドまたは免疫コンジュゲート、および薬学上許容される担体を含む、組成物を提供する。一部の実施形態では、前記組成物は抗癌剤をさらに含む。一部の実施形態では、前記剤が、抗体、化学療法剤、放射線療法剤、ホルモン療法剤、毒素または免疫療法剤である。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、または組成物、および、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、または組成物の使用に関する必要な情報を備えるプロトコルを含む、癌を治療するための製品またはキットを提供する。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、および、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの使用に関する必要な情報を備えるプロトコルを含む、癌を診断するための製品またはキットを提供する。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントのHC可変領域および/またはLC可変領域をコードする、単離された核酸、前記核酸を含む発現ベクター、または前記発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
一局面において、本発明は、前記抗体またはその抗原結合フラグメントを上記宿主細胞において発現させることと、前記抗体またはその抗原結合フラグメントを前記宿主細胞から単離することとを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを調製するための方法を提供する。
一局面において、本発明は、有効量の上記の本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、組成物、製品、またはキットを、癌疾患に罹患している患者に投与することを含む、癌を治療するための方法を提供する。一部の実施形態では、癌は、リンパ腫、黒色腫、結腸直腸腺癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、胃癌、および淡明細胞型腎細胞癌からなる群より選ばれる。
一実施形態では、有効量の上記の本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、組成物、製品、またはキットは、患者に投与される唯一の治療用抗癌剤である。別の実施形態では、それらは、チェックポイント分子またはその受容体に対する抗体(例えば、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体);パニツムマブ(panitumumab)、抗EGFR抗体セツキシマブ(cetuximab,Erbitux(登録商標))、EGFRチロシンキナーゼ(TK)阻害剤ゲフィチニブ(gefitinib,Iressa(登録商標))およびエルロチニブ(erlotinib,Tarceva(登録商標))などの抗上皮成長因子受容体(EGFR)薬剤;シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、オキサリプラチン(оxaliplatin)、ネダプラチン(nedaplatin)、サトラプラチン(satraplatin)、四硝酸トリプラチン(triplatin tetranitrate)、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシルおよびイホスファミドなどのアルキル化剤;パクリタキセル(paclitaxel)およびドセタキセル(docetaxel);および、イリノテカン(irinotecan)、トポテカン(topotecan)、アムサクリン(amsacrine)、エトポシド(etoposide)、リン酸エトポシド(etoposide phosphate)、テニポシド(teniposide)などのトポイソメラーゼ阻害剤を含むが、これらに限定されない別の抗体または抗体フラグメントまたは抗癌剤と組み合わせて投与することができる。
一部の実施形態では、上記の本発明の抗体または抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、組成物、製品、またはキットは、癌治療において相乗効果を実現するように、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体と組み合わせて投与される。
一局面において、本発明は、その他の抗チェックポイント抗体と組み合わせて投与される、有効量の上記の本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、二重特異性分子、ポリペプチド、免疫コンジュゲート、組成物、製品、またはキットを、癌疾患に罹患している被験者に投与することを含む、癌を治療するための方法を提供する。一部の実施形態では、癌は、リンパ腫、黒色腫、結腸直腸腺癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、胃癌、および淡明細胞型腎細胞癌からなる群より選ばれる。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを、被験者からのサンプルと接触させることを含む、B7S1ポリペプチドの発現または活性を検出または定量するための方法を提供する。一部の実施形態では、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、検出可能な物質で標識される。一部の実施形態では、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、放射性標識、蛍光標識、または酵素標識されている。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを使用してB7S1ポリペプチドの発現または活性を検出、定量またはモニタリングすることを含む、被験者における癌のリスクを予測するための方法を提供する。
一局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを使用してB7S1ポリペプチドの発現または活性を検出または定量することを含む、B7S1の発現レベルまたは活性の増加を示す癌の治療における薬剤の有効性をモニタリングするための方法を提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるものを含むヒト抗B7S1抗体またはそのフラグメントをコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。
一実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、単離された核酸配列を提供し、ここで、前記単離された核酸配列は、ヒトB7S1結合ドメインの配列およびCD3ζシグナル伝達ドメインの配列を含む。
一部の実施形態では、前記単離された核酸配列は、共刺激シグナル伝達ドメインの配列をさらに含む。一部の実施形態では、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28シグナル伝達ドメイン、4-IBBシグナル伝達ドメイン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる。一部の実施形態では、前記ヒトB7S1結合ドメインは、Fabフラグメント、Fvフラグメント、および単鎖Fv(scFv)から選ばれるヒト抗体またはそのフラグメントである。一部の実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるものを含む。
一実施形態では、本発明は、ヒトB7S1結合ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、単離されたキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。一部の実施形態では、単離されたキメラ抗原受容体は、共刺激シグナルドメインの配列をさらに含む。一部の実施形態では、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28シグナル伝達ドメイン、4-IBBシグナル伝達ドメイン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる。一部の実施形態では、前記ヒトB7S1結合ドメインは、Fabフラグメント、Fvフラグメント、および単鎖Fv(scFv)から選ばれるヒト抗体またはそのフラグメントである。一部の実施形態では、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるものを含む。
一実施形態では、本発明は、細胞上のB7S1発現に関連する疾患、障害または病状を診断する方法であって、a)前記細胞を、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるものを含むヒト抗B7S1抗体またはそのフラグメントに接触させること;およびb)B7S1発現に関連する疾患、障害または病状の診断のためのB7S1の存在を検出することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、前記B7S1発現に関連する疾患、障害または病状は癌である。
一実施形態では、本発明は、哺乳動物から得られたサンプル中のB7S1の発現を検出することを含む、哺乳動物におけるB7S1関連疾患の診断、予後の判断、またはリスクの確定のための方法を提供する。哺乳動物から得られたサンプル中のB7S1の発現を検出することは、a)前記サンプルを、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるものを含むヒト抗B7S1抗体またはそのフラグメントに接触させること;およびb)B7S1に関連する疾患の診断のためのB7S1の存在を検出することを含む。一部の実施形態では、B7S1に関連する疾患は癌である。
一実施形態では、本発明は、細胞を、配列番号7~10のアミノ酸配列から選ばれるヒト抗B7S1抗体またはそのフラグメントに接触させることを含む、B7S1依存性T細胞阻害をブロックするための方法を提供する。一部の実施形態では、前記細胞は、B7S1を発現する腫瘍細胞、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる。
一実施形態では、本発明は、有効量の上記の抗B7S1抗体またはそのフラグメントを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてB7S1を発現する細胞によって媒介されるT細胞阻害を遮断するための方法を提供する。一部の実施形態では、前記細胞は、B7S1を発現する腫瘍細胞、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれる。
一実施形態では、本発明は、有効量の遺伝子改変された細胞を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物に抗腫瘍免疫を提供するための方法を提供し、ここで、前記遺伝子改変された細胞には、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列を含み、前記単離された核酸配列は、ヒトB7S1結合ドメインの配列およびCD3ζシグナル伝達ドメインの核酸配列を含む。一部の実施形態では、前記細胞は自己T細胞である。
図1は、Biacore 8Kを使用した表面プラズモン共鳴(SPR)結合分析の実験結果を示す図である。解離(kd)および会合(ka)速度定数のデータは、Biacore 8K評価ソフトウェアを使用して得られた。平衡解離定数(KD)は、kaに対するkdの比率から計算された。
図2は、細胞表面で過剰発現したB7S1に対するヒト化抗B7S1抗体の結合親和性のフローサイトメトリー分析を示す図である。そのデータは、mAbがプレートに結合したヒトB7S1細胞外ドメインタンパク質に結合するだけではなく、細胞表面に発現するヒトB7S1分子にも効果的に結合することを示している。
LPSで刺激されたヒトPBMC上で発現したB7S1に対するヒト化抗B7S1抗体の結合親和性のフローサイトメトリー分析を示す図である。そのデータは、ヒト初代細胞上に発現したB7S1に抗体が高い親和性で結合することを示している。
図4は、ヒト化抗B7S1抗体が、B7S1によるT細胞活性化の阻害をブロックすることを示す図である。そのデータは、抗B7S1抗体が、抗CD3によって刺激されたT細胞から産生されるIL-2に対するB7S1の阻害効果を用量依存的に逆転できることを示している。
図5A~Bは、ヒト化抗B7S1抗体が、B7S1によるT細胞活性化への阻害をブロックしたことを示す図である。そのデータは、抗B7S1抗体が抗CD3によって誘導されたCD4+およびCD8+T細胞増殖に対するB7S1の阻害効果をブロックできることを示している。
図6A~Bは、抗B7S1抗体のインビボ治療効果および抗B7S1抗体と抗PD-1抗体の組み合わせの相乗効果を示す図である。インビボ治療効果をテストするためにC57/BL6マウスにE.G7リンパ腫とhepa1-6肝細胞癌(HCC)腫瘍動物モデルが構築された。図6Aと6Bに示すように、抗B7S1抗体によるB7S1の遮断は、E.G7とHepa1-6の皮下腫瘍増殖を有意に阻害した。B7S1とPD-1ブロッカーの組み合わせは、E.G7とHepa1-6モデルにおいて腫瘍増殖を阻害する相乗効果を示した。
発明の詳細
本発明は本明細書において、B7S1タンパク質、特にヒトB7S1タンパク質またはポリペプチドに結合する抗体およびそのフラグメントを提供する。本発明はまた、例えば癌細胞に対する免疫系の活性化を増強するための前記抗体およびそのフラグメントの使用に係る。
本発明はさらに、抗B7S1抗体、抗B7S1抗体をコードするポリヌクレオチド、および抗B7S1抗体をコードするポリヌクレオチドを含む細胞を調製するための方法を提供する。
本発明はまた、B7S1を発現する病原性細胞の存在に関連する医学的疾患(癌を含む)を治療するための、抗B7S1 CARおよび抗B7S1 CARを発現する遺伝子操作された免疫細胞を提供する。
1.定義
本開示は、本明細書に記載の態様に限られるものではなく、その自身は勿論変化することができることを理解されたい。また、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は特定の態様を説明するためにのみ使用され、限定することを意図しないことも理解されたい。
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、その技術が属する分野の通常の技術者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で引用されるすべての技術および特許公開は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。特に明記しない限り、当業者は、本技術分野の技術的範囲内の組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および組換えDNAの従来の技術を使用する。例えば、Sambrook & Russell eds.(2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Third Edition;Harlow & Lane eds.(1999) Antibodies, A Laboratory Manual. MONOCLONAL ANTIBODIES: A PRACTICAL APPROACH (Shepherd, P. et al. eds.,2000) Oxford University Press, USA, New York N.Y.を参照できる。
本明細書で使用されるように、「B7S1」とは、抗原提示細胞の表面に発現するタンパク質(エプスタインバーウイルス(Epstein-Barr Virus)感染後にB細胞に発現するタンパク質を含む)を指し、Tリンパ球のリガンド/受容体と相互作用して免疫応答を調節(例えば、阻害)する。このタンパク質は、V-setドメインを含むT細胞活性化阻害剤1、B7-H4、B7S1、B7X、B7h.5、PR01291およびVCTN1とも呼ばれる。B7S1はB7スーパーファミリーに属するI型膜貫通タンパク質である。ヒトB7S1は、シグナルペプチドをコードする残基1~21、B7S1細胞外ドメインをコードする残基22~259、膜貫通ドメインをコードする残基260~280、およびB7S1の細胞内部分をコードする残基281~282を有する、長さが約282アミノ酸であると考えられる。細胞外ドメイン内では、残基35~146はIg様V型1ドメインをコードし、残基153~241はIg様V型2ドメインをコードすると考えられる。79679(Entrez);ENSG00000134258(Ensemble);Q7Z7D3(UniProt);およびNM_024626.3(ヒトRNA配列)とNP_078902.2(ヒトポリペプチド配列)(NCBI)を参照されたい。これらのそれぞれは、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
B7S1タンパク質は、卵巣癌、食道癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌、黒色腫など、複数の癌で発現されている。Kryczek,I.et al.,J,Exp,Med,(2006)203(4):871-88を参照されたい。B7S1は、休止中のBまたはT細胞、単球、樹状細胞では発現しないが、サイトカイン(例えば、IL-6およびIL-10)を介して特殊な抗原提示細胞(APC)(例えば、樹状細胞、単球細胞及びマクロファージ)にB7S1発現を誘導することができる。B7S1は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、p38MAPK、AKTまたはプロテインキナーゼB(PKB)、およびc-Jun N末端キナーゼ(JNK)のリン酸化を含む、TCR/CD28シグナル伝達イベントを阻害し、IL-2の産生と増殖の低減、およびCD69などの初期活性化マーカーの発現を引き起こす。Wang,X.Plos One(2012)7(1):1-10を参照されたい。
本発明で使用されているように、用語の「抗体」は、「免疫グロブリン」とも呼ばれ、天然抗体の構造的特徴を有する抗体、および天然抗体とは異なる構造的特徴を有するがB7S1分子に対して結合特異性を示す抗体様分子を包含する。用語の抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学活性フラグメント、すなわち、抗原結合部位を含む分子を包含することを意図している。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであってもよい。
用語の「重鎖」(「HC」)、「軽鎖」(「LC」)、「軽鎖可変領域」(「VL」)、「重鎖可変領域」(「VH」)、「フレームワーク」(「FR」)とは、天然に存在する免疫グロブリンのドメイン、および合成(例えば、組換え)結合タンパク質(例えば、ヒト化抗体)の対応するドメインを指す。天然に存在する免疫グロブリン(例えば、IgG)の基本の構造単位は、2つの軽鎖と2つの重鎖を持つ四量体である。各鎖のアミノ末端(「N」)部分は、約100~110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み、主に抗原認識を担当する。各鎖のカルボキシ末端(「C」)部分は定常領域として定義され、軽鎖は単一の定常ドメインを有し、重鎖は通常3つの定常ドメインとヒンジ領域を有する。したがって、天然に存在するIgG分子の軽鎖の構造はN-VL-CL-Cであり、IgG重鎖の構造はN-VH-CH1-H-CH2-CH3-C(Hはヒンジ領域)である。IgG分子の可変領域は、相補性決定領域(CDR)(抗原と接触する残基を含む)と非CDRセグメント(構造を維持し、CDRループの位置を決定するフレームワークセグメントと呼ばれる)で構成される。したがって、VLとVHドメインの構造は、N-FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-Cという構造を有する。
天然抗体では、可変性は抗体の可変領域において不均一に分布しており、軽鎖と重鎖可変領域において相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然重鎖と軽鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDRで接続された4つのFR領域が含まれている。各鎖のCDRはFR領域によって密接にリンクされており、別の鎖からのCDRと一緒に抗体の抗原結合部位の形成を促進する[Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest National Institute of Health, Bethesda, MD (1987)参照]。定常領域は、抗体と抗原との結合に直接に関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)への抗体の関与など、さまざまなエフェクター機能を示す。
本明細書で使用されているように、用語の抗体の「抗原結合フラグメント」(または「抗体フラグメント」と略称する)とは、抗原(例えば、ヒトB7S1などのようなB7S1分子)に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。前記抗体フラグメントは、完全な抗体の一部のみを含み、その部分は好ましくは、完全な抗体に存在する場合に当該部分に通常に関連する少なくとも1つ、好ましくはほとんどまたはすべての機能を保持する。抗体フラグメントの実例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント;二重特異性抗体(ダイアボディdiabоdy);線状抗体;単鎖抗体分子;および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれる。
抗体がパパインでの消化により、「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントが生成され、それぞれが単一の抗原結合部位と残りのFcフラグメントを有し、その名前は、容易に結晶化する能力を反映している。「Fab」フラグメントはさらに、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)を含む。「Fab’」フラグメントとFabフラグメントとの違いは、抗体のヒンジ領域からの1つまたは複数のシステインを含む、いくつかの残基が重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に追加されたことである。「Fab’-SH」とは、定常ドメインのシステイン残基には遊離のチオール基があるFab’である。「F(ab’)」フラグメントは、ペプシン消化生成物「F(ab’)2」のヒンジシステインジスルフィド結合の切断によって生成される。
「Fd」フラグメントは、VHとCH1ドメインで構成される。「dAb」フラグメント(Ward et al.,(1989)Nature341:544-546)はVHドメインで構成される。単離された相補性決定領域(CDR)と2つ以上の単離されたCDRとの組み合わせは、合成リンカーによって結合されていてもよい。
「Fv」フラグメントは、抗体の一本アームのVLドメインとVHドメインで構成される。一本鎖Fv(scFv)は、1つの重鎖可変領域と1つの軽鎖可変領域で構成され、柔軟なペプチドリンカーによって1つの単鎖ポリペプチド鎖に共有結合されている。
用語の「ダイアボディ」とは、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、これらのフラグメントは、同一のポリペプチド鎖(VH-VL)において軽鎖可変ドメイン(VL)に接続される重鎖可変ドメイン(VH)を含む。リンカーを使用することにより(同一鎖上の2つのドメイン間のペアリングを可能にするには短すぎるため)、ドメインは他の鎖の相補ドメインとペアリングせざるを得ず、2つの抗原結合部位を生成する。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/11161;および、Hollinger et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,90:6444-48(1993)にはより完全に記載されている。
これらの抗体のフラグメントは、当業者に知られている従来の技術を使用して、例えば、組換えDNA技術によって、または完全な免疫グロブリンの酵素的または化学的切断によって得られる。
本明細書で使用されているように、用語の「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の群から得られた抗体のことであり、すなわち、可能な変異体抗体(例えば、自然に存在する変異またはモノクローナル抗体の製造過程において発生する変異を含み、このような変異体は一般に微量で存在する)を除き、該群を構成する各抗体は同一であり、および/または同じエピトープに結合する。
本明細書で使用されているように、用語の「キメラ抗体」とは、組換えDNA技術を使用して、ある種からのモノクローナル抗体のFc定常領域(例えば、マウスのFc定常領域)を別の種からの抗体のFc定常領域(例えば、ヒトFc定常領域)に置き換えた抗体を指す。例えば、Robinson et al.,PCT/US86/02269;Morrison et al.,欧州特許出願173,494を参照できる。
本明細書で使用されているように、用語の「ヒト化抗体」とは、ヒトフレームワーク領域および非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、または合成)免疫グロブリンからの1つまたは複数のCDRを含む抗体を指す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。一態様では、すべてのCDRは、ヒト化免疫グロブリンのドナー免疫グロブリンに由来する。そのため、可能なCDRを除いて、ヒト化免疫グロブリンのすべての部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同じである。ヒト化抗体は、遺伝子工学によって構築することができる(例えば、米国特許番号5,585,089を参照できる)。
「アクセプターヒトフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワークまたは重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークを指す。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークと同じアミノ酸配列を含み得るか、またはアミノ酸配列変化を含み得る。一部の実施形態では、アミノ酸変化の数は、1~10、2~9、3~8、4~7、または5~6である。
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において最も一般的にみられるアミノ酸残基を表すフレームワークのことである。一般に、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列は、可変ドメイン配列のサブグループから選択される。一般に、前記配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版、NIH Publication 91-3242,Bethesda MD (1991)、第1~3巻のサブグループのようなものである。一部の実施形態では、VLについて、前記サブグループは、Kabat et al.,(同上)によって記載されているサブグループκIである。一部の実施形態では、VHについて、前記サブグループは、Kabat et al.,(同上)によって記載されているサブグループIIIである。
本明細書で使用されているように、用語の「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本技術のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含んでもよい(例えば、ランダムまたは部位特異的インビトロ突然変異誘発、またはインビボ体細胞の突然変異によって導入される突然変異)。しかしながら、本明細書で使用されている用語の「ヒト抗体」は、別の哺乳動物種の生殖系列(例えば、ウサギ)に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含むことを意図しない。 したがって、本明細書で使用されているように、用語の「ヒト抗体」とは、タンパク質の実質的にすべての部分(例えば、CDR、フレームワーク、CL、CHドメイン(例えば、CH1、CH2、CH3)、ヒンジ、VL、VH)が、わずかな配列変化または変異のみを伴って、ヒトにおいて実質的に非免疫原性である抗体を指す。したがって、ヒト抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体とは異なる。ヒト抗体は、機能的に再構成されたヒト免疫グロブリン(例えば、重鎖および/または軽鎖)遺伝子を発現することができる非ヒト動物または原核生物または真核生物細胞によって産生され得ることを指摘されたい。
本明細書で使用されているように、「二重特異性抗体」または「二重特異性抗原結合抗体」もしくは「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。本発明について言えば、「二重特異性抗体」は、B7S1と別の抗原、例えば、腫瘍細胞に発現する腫瘍抗原、に特異的に結合する。
「コンジュゲート」は、細胞毒性剤を含むがこれに限定されない、1つまたは複数の異種分子にコンジュゲートされた抗体である。
「ブロッキング」抗体または「アンタゴニスト」抗体は、それが結合する抗原の生物学的活性を阻害または低下させる抗体である。好ましいブロッキング抗体またはアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を実質的または完全に阻害する。
本明細書で使用されているように、「単離された」という用語は、他の材料を実質的に含まない分子または生物学的または細胞性材料を指す。例えば、組換えDNA技術によって生成された場合は、細胞性材料、ウイルス材料、または培地を実質的に含まない核酸またはペプチド、或いは化学的に合成された場合は化学物質の前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。また、「単離された核酸」とは、断片として自然に存在せず、自然状態では見出されない核酸断片を含むことを意味する。「単離された」という用語は本明細書においてまた、他の細胞タンパク質から単離されたポリペプチドを指し、精製されたポリペプチドおよび組換えポリペプチドの両方を包含することを意図する。
本明細書で使用されているように、2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈で使用される「相同性」または「同一性」のパーセンテージは、2つ以上の配列またはサブ配列が同じであるか、または所定のパーセンテージの同じヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有することを指し、例えば、所定の領域で(例えば、本明細書に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列または本明細書に記載の抗体のアミノ酸配列)、少なくとも80%の同一性を有し、好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性を有する。相同性は、各配列における位置を比較することによって確定でき、比較の目的でその位置をアラインメントすることができる。比較された配列の中の一つの位置が同じ塩基またはアミノ酸によって占められている場合、当該分子はその位置で相同である。配列間の相同性の程度は、マッチングした数または配列によって共有される相同位置の数の関数である。本分野で知られているソフトウェアプログラムをアラインメントに使用して相同性パーセンテージまたは配列の同一性を確定することができる。好ましくは、デフォルトのパラメータをアラインメントのために使用する。好ましいアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用したBLASTである。好ましいプログラムはBLASTNおよびBLASTPである。これらのプログラムの詳細は、次のインターネットアドレス:ncbi.nlm.nih.gоv/cgi-bin/BLASTにある。
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。別途説明する場合を除き、本明細書で使用されている「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。親和性は、例えば、Biacore、ラジオイムノアッセイ(RIA)およびELISAを含む、本分野で知られている通常の方法によって測定することができる。
パートナーYに対する分子Xの親和性は、一般的に、比率koff/kon(kd/ka)として計算される平衡解離定数(KD)で表すことができる。例えば、Chen,Y.,et al,(1999) J. MoI Biol 293:865-881を参照できる。低親和性抗体は一般に抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は一般に抗原に速く結合し、より長く結合したままになる傾向がある。本発明の一実施形態では、「解離速度(kd)」は、表面プラズモン共鳴測定を使用して測定される。本発明によれば、「オン速度」または「会合した速度」或いは「会合速度(ka)」もしくは「kоn」は、同じ表面プラズモン共鳴技術を使用して確定することができ、会合および解離センサーグラムを同時にフィッティングすることにより、単純な1対1のLangmuir結合モデル(Biacore評価ソフトウェア)を使用して計算する。
本明細書で使用されているように、用語の「EC50」は、インビトロまたはインビボアッセイの中で、B7H3に結合する、および/または応答を誘導する抗体またはその抗原結合フラグメントの濃度を指し、それは最大結合または応答の50%であり、すなわち、最大結合または応答とベースラインとの中間である。
用語の「癌」、「新生物(neoplasm)」、および「腫瘍(tumor)」は、本発明において置き換えて使用することができ、細胞の異常で制御されない成長により引き起こされる新生物または腫瘍を指し、その異常で制御されない成長は、宿主生物を致病する。一部の実施形態では、癌とは、限局性のままである良性腫瘍を指す。他の実施形態では、癌は、隣接する身体構造に侵入して破壊し、離れた部位までに広がった悪性腫瘍を指す。一部の実施形態では、癌は特異的癌抗原に関連する。
本明細書で使用されているように、被験者の疾患を「治療(treating)」することまたはその「治療(treatment)」は、検出可能か検出不可能かを問わず、1つまたは複数の症状の軽減または改善、病状(疾患を含む)の範囲の縮小、病状(疾患を含む)の安定した(すなわち、悪化しない)状態、病状(疾患を含む)の遅延または減速、病状(疾患を含む)の進行、改善または緩和、状態、および寛解(部分的または全体的)を含むが、これらの1つまたは複数に限られていない、有益なまたは望ましい結果を得るための方法を指す。
「薬学上許容される担体」とは、有効成分と一緒に医薬製剤を構成する担体のことである。薬学上許容される担体は、緩衝剤、賦形剤、安定剤、または防腐剤を含むが、これらに限られていない。
用語の「プロトコル」は、治療用製品の市販パッケージに通常含まれている説明書を指すために使用される。一般に、適応症、使用法、投与量、投与、併用療法、禁忌および/または警告などの、治療用製品の使用に関する情報はプロトコルにある。
本発明は、特定の実施形態について、特定の図面を参照して説明するが、本発明は、それに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。例えば、本明細書および特許請求の範囲で使用される「含む」という用語は、その他の要素またはステップを除外するものではない。単数名詞を言及する時に不定冠詞または定冠詞が使用され、例えば、「一(a)」または「1つ(an)」、「この(the)」は、特に説明しない限り、該名詞の複数形をも含む。
2.抗B7S1抗体およびその調製方法
本発明は、抗B7S1抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離された抗B7S1抗体またはそのフラグメントを包含する。
本発明の抗B7S1抗体は、好ましくはモノクローナルである。本明細書で提供される抗B7S1抗体のFab、Fab’、Fab’-SHおよびF(ab’)2フラグメントも本発明の範囲に含まれる。これらの抗体フラグメントは、酵素消化などの従来の手段によって生成することも、または、組換え技術によって生成することもできる。抗B7S1抗体およびそのフラグメントは、癌の診断および治療を含む、診断および治療の目的に使用することができる。
モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体の集団から得られる。つまり、天然に存在し得る変異が少量存在できることを除いて、集団を構成する個々の抗体は同じである。したがって、修飾語の「モノクローナル」は、抗体が異なる抗体の混合物ではないことを特徴としていることを示す。本発明のモノクローナル抗B7S1抗体は、ハイブリドーマ法または組換えDNA法(米国特許番号4,816,567)を使用して製造することができる。
ハイブリドーマ法では、B7S1分子全体または前記分子の一部(例えば、B7S1の細胞外ドメインを含むポリペプチド)とアジュバントと共によって、マウスまたはハムスターなどの他の適切な宿主動物を免疫する。B7S1分子またはB7S1分子の細胞外ドメインを含むポリペプチドは、本分野で公知の方法を使用して調製することができる。一実施形態では、B7S1の細胞外領域(ECD)を含むポリペプチドを使用して動物を免疫し、前記細胞外領域は、免疫グロブリン重鎖のFc部分に融合される。一実施形態では、B7S1-IgG1融合タンパク質を使用して動物を免疫する。二週間後、動物はブーストされる。7~14日後、動物から血液を採取し、血清の抗B7S1力価を測定する。力価が安定するまで動物をブーストする。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫することができる。そして、適切な融合剤(ポリエチレングリコールなど)を使用して、リンパ球を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59~103頁(Academic Press,1986))。
このように調製されたハイブリドーマ細胞は、好ましくは融合していない親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する1つまたは複数の物質を含む適切な培地に播種して培養される。好ましい骨髄腫細胞は、効果的に融合され、選択された抗体産生細胞によって安定した高レベルで抗体を産生することをサポートし、培地(HAT培地など)に感受性のある骨髄腫細胞である。その中で、好ましい骨髄腫細胞株は、SP-2またはX63-Ag8-653細胞などのマウス骨髄腫細胞株である。(Kozbor, J. Immunol, 133:3001 (1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51~63頁(Marcel Dekker, Inc., New York,1987))にまた、ヒトモノクローナル抗体の産生への、ヒト骨髄腫およびマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株の使用も記載されている。
ハイブリドーマ細胞を培養した培地における、B7S1に対するモノクローナル抗体の産生を測定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降、またはラジオイムノアッセイ(RIA)あるいは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって確定される。
そして、本分野における従来の方法によってモノクローナル抗体の結合親和性を確定することができる。必要な特異性、親和性および/または活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、限界希釈手順でサブクローニングし、標準的な方法でクローンを培養することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59~103頁(Academic Press,1986))。
この目的に適した培地は、例えば、D-MEMまたはRPMI-1640培地を含む。また、ハイブリドーマ細胞は、腹水腫瘍として動物体内で増殖する可能性がある。従来の免疫グロブリン精製手順により、サブクローニングによって分泌されたモノクローナル抗体は、培地、腹水または血清から適切に分離される。
本発明の抗B7S1抗体は、組み合わせライブラリーを使用して、所望の1つまたは複数の活性を有する合成抗体クローンをスクリーニングすることによって作製することができる。一般に、合成抗体クローンは、抗体可変領域(Fv)の異なるフラグメントを提示するファージを含むファージライブラリーをスクリーニングすることによって選択される。前記Fvフラグメントは、ファージコートタンパク質に融合する。このファージライブラリーは、目的の抗原に対するアフィニティークロマトグラフィーによってパンニングされる。クローンが発現したFvフラグメントは目的抗原に結合することができ、抗原に吸着するため、これによってライブラリーの非結合クローンから分離される。そして、結合したクローンは抗原から溶出され、抗原の吸着/溶出の追加サイクルによってさらに濃縮することができる。本発明の任意の抗B7S1抗体は、以下の方法によって得ることができる。すなわち、適切な抗原スクリーニングプログラムを設計し、目的ファージクローンを選択し、次いで、目的ファージクローンからのFv配列およびKabatらがSequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition, NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991)、Volume 1-3に記載した適切な定常領域(Fc)配列を使用して完全長の抗B7S1抗体クローンを構築する。
VHおよびVL遺伝子のレパートリー(repertoire)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々クローニングされ、ファージライブラリーでランダムに組換えられ、Winter et al.,Ann. Rev. Immunol,12:433-455(1994)に記載されているように、その中の抗原結合クローンを探すことができる。免疫源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。あるいは、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)に記載されているように、免疫化せずに広範囲の非自己および自己抗原に対する単一の供給源のヒト抗体を提供するようにナイーブ(naive)レパートリーをクローニングすることができる。最後に、ナイーブライブラリーは、HoogenboomおよびWinter,J.MoI Biol,227:381-388(1992)に記載されているように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを使用して高度に可変的なCDR3領域をコードしてインビトロで再配列することによって作製できる。
ナイーブライブラリー(天然または合成)から生成された抗体は中程度の親和性を持つことができるが、二次ライブラリーを構築してそれらから再選択することにより、親和性の成熟をインビトロでシミュレーションすることもできる。例えば、Hawkins et al.,J. MoL Biol.,226:889-896(1992)の方法、またはGram et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,89:3576-3580(1992)の方法において、エラーが発生しやすいポリメラーゼ(Leung et al.,Technique,1:11-15(1989)で報告されている)を使用してインビトロで突然変異をランダムに導入することができる。また、親和性の成熟は、選択した単一のFvクローン内に、1つまたは複数のCDRをランダムに変異させ(例えば、PCRと、目的のCDRにまたがるランダム配列を持つプライマーを使用する)、親和性のより高いクローンをスクリーニングすることで実行できる。別の効果的な方法は、Marks et al.,Biotechnol,10:779-783(1992)に記載されているように、ファージディスプレイによって選択されたVHまたはVLドメインを、免疫されていないドナーから得られた天然に存在するVドメイン変異体のレパートリーと再結合し、数ラウンドの鎖再編成でより高い親和性をスクリーニングすることである。
B7S1について、親和性がわずかに異なる場合でも、異なる親和性のファージ抗体から選択することも可能である。しかし、選択された抗体のランダムな突然変異(例えば、上記の親和性成熟技術のいくつかで実行されるようなもの)は、多くの突然変異体を産生するかもしれず、それらのほとんどは抗原に結合し、いくつかはより高い親和性を持っている。すべての高親和性変異体を保持するために、ファージを過剰のビオチン化B7S1とインキュベーションすることができるが、ビオチン化B7S1のモル濃度は、B7S1の目標モル親和性定数よりも低くなる。そして、高親和性結合ファージは、ストレプトアビジンでコーティングされた常磁性ビーズによって捕捉することができる。このような「バランスの取れた捕捉」により、抗体の結合親和性に基づいて抗体を選択でき、その感度により、親和性の低い大量に過剰するファージから、親和性の2倍まで低い変異体クローンを単離することができる。
抗B7S1クローンは、活性のパフォーマンスに基づいて選択できる。一実施形態では、本発明は、B7S1受容体とそのリガンドとの間の結合を遮断する抗B7S1抗体を提供する。本明細書に記載の特徴を有する本発明の抗B7-H3抗体は、任意の便利な方法によって、所望の特徴について抗B7S1ハイブリドーマクローンをスクリーニングすることによって得ることができる。例えば、所望の抗体が、B7-H3受容体とB7S1リガンドとの結合を遮断するまたは遮断しない抗B7S1モノクローナル抗体である場合、競合結合ELISAなどの結合競合アッセイで候補抗体をテストすることができる。その中で、プレートのウェルをB7S1でコーティングし、過剰なB7S1受容体を含む抗体の溶液を、コーティングされたプレートに広げ、結合した抗体を酵素反応によって検出する。例えば、結合した抗体を、HRP結合抗Ig抗体またはビオチン化抗Ig抗体と接触させ、HRP呈色反応を行う(例えば、ストレプトアビジン-HRPおよび/または過酸化水素を使用してプレートを呈色させ、ELISAプレートリーダーを使用して490nmで分光光度法よりHRP呈色反応を検出する)。
3.単離されたポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞及び組換え方法
本発明のハイブリドーマに由来するモノクローナル抗体またはファージディスプレイFvクローンをコードするDNAは、従来の方法を使用して容易に単離およびシーケンシングすることができる(例えば、ハイブリドーマまたはファージDNAテンプレートから目的の重鎖および軽鎖コーディング領域を特異的に増幅するように設計されているオリゴヌクレオチドプライマーを使用することによって)。いったん単離されると、前記DNAは発現ベクターに入れられ、組換え宿主細胞において所望のモノクローナル抗体の合成を得るように宿主細胞(例えば、大腸菌細胞、シミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または免疫グロブリンを産生しない骨髄腫細胞)にトランスフェクトされる。
本発明のFvクローンをコードするDNAは、全長または部分長の重鎖および/または軽鎖をコードするクローンを形成するように、重鎖および/または軽鎖定常領域をコードする既知のDNA配列(例えば、適切なDNA配列は、Kabat et al.,(同上)から得ることができる)と結合することができる。IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域を含む任意のアイソタイプの定常領域をこの目的に使用でき、そのような定常領域は、任意のヒトまたは動物種から取得できることを理解されたい。Fvクローンは、ある動物(ヒトなど)種の可変ドメインDNAに由来し、別の動物種の定常領域DNAと融合して「ハイブリッド」を形成する。本明細書で使用される「キメラ」および「ハイブリッド」抗体の定義には、全長重鎖および/または軽鎖のコード配列が含まれる。好ましい一実施形態では、ヒト可変DNAに由来するFvクローンは、ヒト定常領域DNAと融合して、すべてのヒトの全長または部分長の重鎖および/または軽鎖のコード配列を形成する。
本発明のハイブリドーマに由来する抗B7S1抗体をコードするDNAはまた改変されることができ、例えば、ハイブリドーマクローンに由来する相同マウス配列をヒト重鎖と軽鎖定常ドメインのコード配列で置き換える(例えば、Morrison et al.,Proc. Natl Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)に記載の方法など)。ハイブリドーマまたはFvクローンに由来する抗体またはフラグメントをコードするDNAは、非免疫グロブリンポリペプチドの全部または一部のコード配列を免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによってさらに改変することができる。このようにして、本発明のFvクローンまたはハイブリドーマクローンに由来する抗体の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」抗体が調製される。
本発明の抗体を組換えにより産生するために、それをコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクターに挿入される。抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に分離およびシーケンシングすることができる。多くの種類のベクターが利用可能である。ベクターの選択は、使用する宿主細胞に一部依存する。一般に、好ましい宿主細胞は、原核生物または真核生物(通常は哺乳動物)に由来するものである。IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域を含む任意のアイソタイプの定常領域をこの目的に施用でき、このような定常領域は、任意のヒトまたは動物種から取得できることを理解されたい。
4.コンジュゲートおよびその調製方法
本発明の抗B7S1抗体またはそのフラグメントと、1つまたは複数の他の分子(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、メイタンシノイド(maytansinoids)、ドラスタチン(dolastatins)、オーロスタチン(aurostatins)、トリコテセン(trichothecene)およびCC1065のような毒素、およびこれらの毒素の毒素活性を有する誘導体)とのコンジュゲートまたは免疫コンジュゲートも本明細書で考慮される。
一部の実施形態では、前記コンジュゲートは、1つまたは複数のメイタンシノイド分子にコンジュゲートされた本発明の抗体(全長またはフラグメント)を含む。メイタンシノイドは、チューブリンの重合を阻害することによって作用する有糸分裂阻害剤である。メイタンシン(maytansine)はもともと東アフリカの低木メイテヌスセレート(Maytenus serrate)から単離された(米国特許番号3,896,111)。その後、特定の微生物も、メイタンシノールやC-3メイタンシノールエステルなどのメイタンシノイドを生成することは発見された(米国特許番号4,151,042)。
メイタンシノイドを含む免疫コンジュゲート、その調製方法およびその治療用途は、例えば、米国特許第5,208,020、5,416,064号および欧州特許EP0425235B1に開示されており、その開示内容は参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
抗体とメイタンシノイドのコンジュゲートは、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸エステル(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体など、さまざまな二機能性タンパク質カップリング剤を使用して作成できる。
一部の実施形態では、前記免疫コンジュゲートは、ドラスタチンまたはドロスタチンペプチド類似体および誘導体、auristatinsにコンジュゲートされた本発明の抗体を含む(米国特許第5635483;5780588)。
一般に、ペプチドベースの薬物部分は、2つ以上のアミノ酸および/またはペプチドフラグメントの間にペプチド結合を形成することによって調製することができる。このようなペプチド結合は、例えば、ペプチド化学分野で公知の液相合成法によって調製することができる。auristatin/ドラスタチンの薬物部分は、US5635483;US5780588のような方法で調製することができる。また、Doronina(2003)Nat Biotechnol 21(7):778-784をも参照できる。
本発明はさらに、抗体と、核酸分解活性を有する化合物(例えば、リボヌクレアーゼまたはデオキシリボヌクレアーゼなどのDNAエンドヌクレアーゼ;DNase)との間に形成される免疫コンジュゲートを考慮した。
腫瘍を選択的に破壊するために、前記抗体は高放射性原子を含むことができる。放射性コンジュゲート抗体の生成には、様々な放射性同位元素を使用することができる。放射性または他の標識は、既知の方法でコンジュゲートに組み込むことができる。例えば、前記ペプチドは、生合成され得るか、または、例えば、水素の代わりにフッ素-9を含む適切なアミノ酸前駆体を使用して化学的アミノ酸合成によって合成され得る。「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」(Chatal,CRC Press 1989)にはその他の方法は詳しく説明されている。
5.抗体フラグメントおよびその調製方法
本発明は抗体フラグメントを包含する。特定の状況では、抗体全体の代わりに抗体フラグメントを使用することに利点がある。フラグメントのサイズが小さいと、迅速なクリアランスが可能になり、固形腫瘍へのアクセスが促進できる。
抗体フラグメントの生成のために様々な技術が開発されてきた。従来は、これらのフラグメントは、完全な抗体のタンパク質加水分解消化を介して得られる(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117(1992);およびBrennan et al., Science,229:81(1985)参照)。しかし、今は、これらのフラグメントは、組換え宿主細胞によって直接生成できる。Fab、FvおよびScFv抗体フラグメントは、大腸菌で発現及び分泌され得るため、これらのフラグメントはが大量に容易に生成できる。抗体フラグメントは、上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’-SHフラグメントは、大腸菌から直接回収し、化学的カップリングによりF(ab’)2フラグメントを形成することができる(Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992))。別の方法によれば、F(ab’)2フラグメントは、組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。米国特許5,869,046号には、サルベージ受容体結合エピトープ残基を含むインビボ半減期が増加したFabおよびF(ab’)2フラグメントは記載されている。抗体フラグメントを産生するための他の技術は、熟練した技術員には明らかであろう。
他の実施形態では、選択された抗体は一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および5,587,458号を参照されたい。FvトsFvは、完全な結合部位を持つが、定常領域をもたない唯一の種である。そのため、それらは、インビボ使用中の非特異的結合を低減するのに適している。sFvのアミノ末端またはカルボキシル末端でエフェクタータンパク質融合を生成するように、sFv融合タンパク質を構築することができる。Antibody Engineering、編集者Borrebaeck、同上を参照されたい。前記抗体フラグメントはまた、例えば、米国特許US5,641,870号に記載されているように、「線状抗体」であってもよい。このような線状抗体フラグメントは、単一特異性または二重特異性であってもよい。
6.ヒト化抗体およびヒト抗体
本発明は、ヒト化抗体を包含する。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法は本分野で知られている。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からそれに導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は通常「インポート」残基と呼ばれ、一般に「インポート」された可変ドメインから取得される。基本的に、ヒト化は、Winterらの方法に従って実行でき(Jones et al.,(1986) Nature 321:522-525;Riechmann et al.,(1988) Nature 332:323-327;Verhoeyen et al., (1988) Science 239:1534-1536)、ヒト抗体の対応する配列を超可変領域配列に置き換える。したがって、このような「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、完全なヒト可変ドメインよりも実質的に小さい部分は、非ヒト種からの対応する配列によって置き換えられる。実際には、ヒト化抗体は通常、いくつかの超可変領域残基およびおそらくいくつかのFR残基がげっ歯類抗体の類似部位からの残基によって置き換えられている抗体である。ヒト化抗体の作製に使用するヒト可変ドメイン(軽鎖および重鎖)の選択は、抗原性を低下させるために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法に拠れば、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対して、げっ歯類抗体の可変ドメイン配列をスクリーニングする。そして、げっ歯類の配列に最も近接したヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワークとする(Sims et al.,(1993) J. Immunol. 151:2296;Chothia et al., (1987) J. MoI. Biol. 196:901)。別の方法は、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを使用する。
さらに重要なのは、抗体が抗原に対する高い親和性および他の有利な生物学的特性を保持しながら抗体をヒト化することである。この目標を達成するために、ある方法によれば、ヒト化抗体は、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および様々な概念的なヒト化生成物を分析するプロセスを通して調製される。三次元免疫グロブリンモデルは一般に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の可能な三次元立体配座構造を説明および表示するコンピュータープログラムは利用可能である。これらの表示内容を調べることにより、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割を分析すること、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を与える残基を分析することができる。このようにして、受容体およびインポート配列からFR残基を選択して結合し、これによって、B7S1に対する親和性の増加などの所望の抗体特徴を取得できる。
トランスジェニック動物(マウスなど)は、内因性免疫グロブリンを生成することなく、免疫後にヒト抗体のレパートリー全体を生成できる。例えば、キメラおよび生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失が、内因性抗体の産生を完全に阻害することは記載されている。このような生殖系列変異マウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを導入すると、抗原チャレンジ後にヒト抗体が生成される。例えば、Jakobovits el al.,Nature, 362:255(1993);Bruggermann et al., Year in Immunol,7:33(1993)を参照できる。
遺伝子シャッフリング(Gene shuffling)はまた、非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体からのヒト抗体の取得にも使用でき、この場合、前記ヒト抗体は、最初の非ヒト抗体と類似した親和性と特異性を有する。この方法(「エピトープインプリンティング」とも呼ばれる)によって、上記のファージディスプレイ技術によって得られた非ヒト抗体フラグメントの重鎖または軽鎖可変領域は、レパートリーからのヒトVドメイン遺伝子で置き換えられ、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvまたはFabキメラ集団を作成する。抗原による選択により、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvまたはFabを単離することができ、ヒト鎖は、最初のファージディスプレイクローンの対応する非ヒト鎖が除去されたときに破壊された抗原結合部位を回復し、つまり、エピトープはヒト鎖パートナーの選択を制御(インプリント)する。このプロセスを繰り返して残りの非ヒト鎖を置き換えると、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日に公開されたPCT WO 93/06213参照)。CDR移植による従来の非ヒト抗体のヒト化とは異なり、この技術は、非ヒト由来のFRまたはCDR残基のない完全なヒト抗体を提供する。
7.二重特異性抗体およびその調製方法
二重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる抗原に結合特異性を有するモノクローナル抗体であり、好ましくはヒトまたはヒト化抗体である。現在の状況では、結合特異性の1つはB7S1に対するものであり、もう1つは他の抗原に対するものである。例示的な二重特異性抗体は、抗B7S1タンパク質の2つの異なるエピトープに結合することができる。二重特異性抗体は、細胞毒性剤を抗B7S1を発現する細胞に局在化させるためにも使用できる。これらの抗体は、B7S1結合アームと細胞毒性剤に結合するアームを持っている。
二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製できる。二重特異性抗体を作製するための方法は本分野で既知である。通常、二重特異性抗体の組換え生産は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの共発現に基づいており、2つの重鎖は異なる特異性を持っている。免疫グロブリン重鎖と軽鎖のランダムな組み合わせにより、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、おそらく10の異なる抗体分子の混合物を生成し、そのうちの1つだけが正しい二重特異性構造を持っている。正しい分子の精製は通常、アフィニティークロマトグラフィーステップによって完成するが、これは非常に面倒であり、収率も低い。別のより好ましい方法によって、所望の結合特異性(抗体-抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。融合物は好ましくは、免疫グロブリン重鎖定常ドメインに融合され、このドメインは、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含む。好ましくは、少なくとも1つの融合物に第1の重鎖定常領域(CH1)を有し、前記CH1は、軽鎖結合に必要な部位を含む。免疫グロブリン重鎖融合物及び(必要な場合)免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に共トランスフェクションする。最高の収率を提供するために異なる比率の3つのポリペプチド鎖を構築体において使用する場合、それは、実施形態において3つのポリペプチドフラグメントの相互比率を調節するために大きな柔軟性を提供する。ただし、少なくとも2つのポリペプチド鎖が等しい比率で発現されて高収率が得られる場合、または比率に特に意味がない場合は、2つまたは3つすべてのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入できる。
この方法の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、一方のアームに第1の結合特異性を持つハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、もう一方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することにより、便利な分離方法が提供されたため、この非対称構造は、望ましくない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離に寄与することは発見された。この方法はWO94/04690に開示されている。二重特異性抗体の生成の詳細について、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照されたい。
8.薬剤成分
所望の純度を有する抗体を、選択されてもよい生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th edition(2000))と混合して、本発明の抗体を含む治療剤を調製し、水溶液、凍結乾燥または他の乾燥製剤の形で保管する。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される用量および濃度下において被験者に対して毒性がなく、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジンおよびその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤;低分子量(10個くらいより少ない残基を有する)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖及びその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、フコースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体;および/またはTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤を含む。
本文の製剤はまた、治療される特定の適応症に必要な複数の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有する化合物を含んでもよい。このような分子は、予定の目的に有効な量で組み合わせに存在することに適している。
コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンにおいて、活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術または界面重合によって調製された、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのようなマイクロカプセルに封入されてもよい。
徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適切な例には、本発明の免疫グロブリンを含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれ、このマトリックスは、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルなどの成形品の形態である。
9.抗B7S1抗体の診断および治療の使用
一の局面では、本明細書に開示された抗体およびB7S1の特異的結合に基づいて、本発明の抗体を使用して、尿、血漿、細胞溶解物、および生検サンプルなどの生理学的サンプル中のB7S1ポリペプチドを検出および定量することができる。したがって、本明細書に開示された抗B7S1抗体を使用して、組織内のB7S1レベルを診断上に監視し、例えば、癌の進行および/または所与の治療レジメンの有効性を確定することができる。当業者が知っているように、本明細書に開示されたB7S1抗体は、検出を促進するために検出可能な材料とカップリングすることができる。特定の実施形態では、本明細書に開示された抗B7S1抗体またはそのフラグメントは、検出を促進するために固体支持体に結合される。
もう一の局面では、本明細書に開示された抗体とB7S1の特異的結合に基づいて、本発明の抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降による単離、フローサイトメトリーによる細胞の分析または選別、および免疫組織化学、細胞学分析、ELISAまたは免疫沈降法による固定した組織サンプルまたは細胞塗抹標本サンプル内のB7S1ポリペプチドの検出に使用することができる。
特定の実施形態では、検出、定量、または分析されるB7S1分子は、ヒトB7S1タンパク質またはそのフラグメントである。特定の実施形態では、B7S1タンパク質またはそのフラグメントを溶液(溶解溶液または破砕された細胞サブセルラー画分を含む溶液など)に置き、またはB7S1陽性細胞の表面に存在させ、或いはB7S1および他の細胞成分を含む複合物に含有させる。
本開示の検出方法は、インビトロおよびインビボで生物学的サンプル中のB7S1ポリペプチドの発現レベルを検出するために使用することができる。B7S1ポリペプチドを検出するためのインビトロ技術は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット、フローサイトメトリー、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、および免疫蛍光(IHCなど)を含む。また、B7S1ポリペプチドを検出するためのインビボ技術は、標識された抗B7S1抗体を被験者に導入することを含む。ほんの一例として、放射性マーカーで抗体を標識することができ、被験者における前記放射性マーカーの存在および位置は、標準的なイメージング技術によって検出できる。
タンパク質遺伝子の発現を検出するために使用できる抗体に基づいた他の方法は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)やラジオイムノアッセイ(RIA)などの免疫アッセイを含む。適切な抗体アッセイ標識は本分野で知られており、酵素標識(グルコースオキシダーゼなど)および放射性同位体または他の放射性試薬、並びに蛍光標識(フルオレセインおよびローダミン(rhodamine)など)、およびビオチンを含む。
本明細書に開示されたB7S1抗体またはそのフラグメントは、任意の種類の生物学的サンプルの診断試薬として使用することができる。一つの局面において、本明細書に開示されたB7S1抗体は、ヒトの生物学的サンプルの診断試薬として使用することができる。B7S1抗体は、様々な標準アッセイ形式のB7S1ポリペプチドを検出するために使用できる。このような形式は、免疫沈降、ウエスタンブロット、ELISA、ラジオイムノアッセイ、フローサイトメトリー、IHC、およびイムノメトリックアッセイを含む。
本発明はまた、被験者がB7S1ポリペプチドの発現または活性の増加に関連する医学的疾患または病状に罹患するリスクがあるかどうかを確定する(例えば、前癌細胞の検出)ための、抗B7S1抗体およびそのフラグメントの予後(または予測)における使用を提供する。したがって、本明細書に開示された抗B7-H3抗体およびそのフラグメントは、B7S1ポリペプチドの発現または活性の増加を特徴とする、またはB7S1ポリペプチドの発現または活性の増加に関連する医学的疾患または病状(例えば、癌)の発症前に個体を予防的に治療するように、予後または予測の目的で使用することができる。
本開示のもう一つの局面において、被験者におけるB7S1の発現を確定するための方法が提供され、これによって、B7S1ポリペプチドの発現または活性の増加を特徴とする、またはB7S1ポリペプチドの発現または活性の増加に関連する医学的疾患または病状(例えば、癌)の治療または予防化合物をスクリーニングする。
特定の実施形態では、上記の医学的疾患または病状は、前癌性状態または癌であり、前記医学的疾患または病状は、B7S1ポリペプチドの発現または活性の増加を特徴とし、またはB7S1ポリペプチドの発現または活性の増加に関連する。特定の実施形態では、癌に罹患している、または癌のリスクのある被験者を予後アッセイによって同定することができる。そのため、本開示は、B7S1ポリペプチドの発現レベルの増加に関連する疾患または病状(例えば、癌)を同定するための方法を提供し、ここで、テストサンプルは被験者から取得され、B7S1ポリペプチドを検出でき、対照サンプルと比較して、B7S1ポリペプチドのレベルが増加すると、被験者がB7S1ポリペプチドの発現レベルの増加に関連する疾患または病状(例えば、癌)に罹患している、またはその疾患または病状(例えば、癌)に罹患するリスクがあることを予測できる。
もう一つの局面において、本開示は、B7S1ポリペプチドの発現の増加に関連する疾患または病状(例えば、癌)に対する治療薬で被験者を効果的に治療できるかどうかを確定するための方法を提供し、ここで、生物学的サンプルは被験者から取得され、B7S1抗体を使用してB7S1ポリペプチドを検出する。被験者から取得された生物学的サンプル中のB7S1ポリペプチドの発現レベルを確定し、それを、無病の被験者から取得された生物学的サンプルで見られたB7S1発現レベルと比較する。健康な被験者から取得されたサンプルと比べ、疾患または病状を有すると疑われる被験者から取得されたサンプル中のB7S1ポリペプチドレベルの上昇は、テストされる被験者におけるB7S1関連の疾患または病状(例えば、癌)を示す。
一つの局面において、本開示は、B7S1ポリペプチド発現に対する薬剤の治療効果をモニタリングするための方法を提供する。このようなアッセイは、薬物スクリーニングおよび臨床試験に適用できる。例えば、癌と診断された患者など、B7S1発現の上昇を示す被験者の臨床試験でB7S1ポリペプチドレベルの低下における薬剤の有効性をモニタリングすることができる。B7S1ポリペプチドの発現に影響を与える薬剤は、薬剤を投与しその反応を観察することで同定できる。このように、B7S1ポリペプチドの発現パターンは、薬剤に対する被験者の生理学的反応を示すマーカーとして使用できる。
上記は、本発明の抗B7S1抗体およびそのフラグメントを使用した例示的なアッセイに過ぎない。現在または後に開発される抗体またはそのフラグメントを使用してB7S1を測定するための他の方法も本発明の範囲に含まれる。
一つの局面において、本発明は、そのような治療を必要とする被験者に、B7S1に特異的に結合する有効量の抗B7S1抗体またはそのフラグメントを投与することを含む、癌を治療するための方法を提供する。本発明の抗体は、B7S1分子を含む1つまたは複数の抗原分子の発現及び/または活性に関連する、または、B7S1分子を含む1つまたは複数の抗原分子の発現及び/または活性の増加に関連する疾患、障害または病状の治療、阻害、その進行の遅延、その再発の予防/遅延、当該疾患、障害または病状の改善または予防に使用することができる。
本発明の抗B7-H3抗体またはそのフラグメントの治療における使用について、本発明の抗体の適切な用量(単独でまたは他の薬剤と組み合わせて使用される場合)、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度と経過、抗体が予防または治療の目的で投与されるか、以前の治療、患者の病歴および抗体に対する反応、並びに主治医の判断によるものである。抗体は適切に患者に一回または複数回投与される。疾患のタイプおよび重症度に応じて、患者に投与される抗体の適切な用量は、任意選択で、例えば、1回または複数回で別々の投与、または連続注入で、約1μg/kgから15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)である。
本発明の抗体は、単独で、または他の組成物と組み合わせて治療に使用することができる。例えば、本発明の抗体は、別の抗体、ステロイド(吸入可能、全身または皮膚ステロイドなど)、化学療法剤(化学療法剤の混合物を含む)、他の細胞毒性剤、抗血管新生剤、サイトカインおよび/または成長阻害剤と共に投与することができる。上記のような併用療法は、組み合わせ投与(2つ以上の薬剤が同じまたは別々の製剤に含まれる)および別々の投与を含む。その場合、1つまたは複数の他の薬剤の投与前、投与中および/または投与後、本発明の抗B7S1抗体またはそのフラグメントを投与することができる。組み合わせて投与される治療薬の有効量は、使用する治療薬の種類及び治療される特定の患者などの要因によって決められ、そして、通常は医者または獣医によって決められる。
10.抗B7S1 CAR構築体
一実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体ポリペプチド(CAR)に係わり、キメラ抗原受容体ポリペプチドは、
B7S1に結合する抗体または抗体フラグメントを含む細胞外抗原結合ドメインと、細胞外抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置するスペーサーポリペプチド(ヒンジとも呼ばれる)と、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含み、
前記抗体または抗体フラグメントは、単鎖抗体フラグメントのVHおよびVLドメインを含み、好ましくは、リンカーポリペプチドはVHとVLドメインの間に位置し、好ましくは、前記リンカーは、抗体フラグメント-B7S1抗原の相互作用を妨害しないように配置される;
前記CARが前記CARを発現するT細胞で発現される場合、前記スペーサーポリペプチドは好ましくは、抗体フラグメント-B7S1抗原の相互作用および/またはT細胞活性化を妨害しないように配置される;
前記CARが前記CARを発現するT細胞で発現される場合、前記膜貫通ドメインは好ましくは、抗体フラグメント-B7S1抗原の相互作用および/またはT細胞活性化を妨害しないように配置される;
前記細胞内ドメインは、共刺激ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含み、前記細胞内ドメインは好ましくは、例えば、サイトカイン産生を増加させ、および/またはT細胞複製を促進することにより、B7S1標的に結合する時にT細胞活性化を刺激するシグナルを提供し、これによって細胞毒性効果を引き起こすように配置される。
本明細書に記載の各機能ドメインについて、当業者は、機能効果に使用される従来の方法を使用することにより、CARに必要な機能を選択およびテストすることができる。このようにして、本明細書で検討される任意の機能ドメインにおいて、本発明のCARに使用される任意の所与の特定のタンパク質配列の選択は、当業者が本分野で既知の従来の方法によって評価することができる。例えば、VHとVLドメイン間の複数のリンカーポリペプチド配列、細胞外抗原結合ドメインと膜貫通ドメイン間の複数のスペーサーポリペプチド配列(ヒンジとも呼ばれる)、複数の膜貫通ドメインと複数の細胞内ドメインを使用することができ、好ましくは、共刺激およびシグナル伝達ドメインを含む。
本発明の実施形態では、前記CAR、および本明細書で言及される様々な要素またはドメインは、抗体フラグメント-B7S1抗原の相互作用を有害に妨害しないように配置される。これによって、前記CARは前記CARを発現するT細胞で発現される時、T細胞活性化を有害に妨害せず、B7S1標的に結合した後に、CARによって提供された、T細胞活性化を刺激するシグナルを有害に妨害しない。B7S1を発現する腫瘍細胞による本発明のCAR-T細胞の特異的活性化は、INF-γ、IL-2およびTNF-αを放出することによって実証することができる。
一部の実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドを提供し、ここで、抗原結合フラグメントは、
1、GYTFTSYWMH(配列番号1)を含むCDR1配列、または、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
2、AIYPGNSDTDYNQKFKG(配列番号2)を含むCDR2配列、または、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、および
3、TVAHYFDY(配列番号3)を含むCDR3配列、または、配列番号3と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含む可変重鎖(VH)と、
4、KASQDVSFAVA(配列番号4)を含むCDR1配列、または、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
5、SASYRYT(配列番号5)を含むCDR2配列、または、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、および
6、QQHYNTPLT(配列番号6)を含むCDR3配列、または、配列番号6と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含む可変軽鎖(VL)とを含む。
一実施形態では、本発明は、配列番号1、配列番号2、および配列番号3を含むCDR配列を含むVHドメイン、および、配列番号4、配列番号5、および配列番号6を含むCDR配列を含むVLドメインを含む、本明細書に記載のキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドに係わる。
一部の実施形態では、配列番号1~6の特異的CDR配列と少なくとも80%の配列同一性を有する配列変異体は、配列番号1~6の特異的CDR配列のVHとVLドメインと基本的に同じまたは類似した機能特性を有するようにB7S1との結合を維持し、すなわち、親和性、特異性、及びエピトープ結合モードについて言えば、前記B7S1との結合は基本的に同じまたは類似している。
一実施形態では、本発明は、配列番号7または8と少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するVHドメインと、配列番号9または10と少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するVLドメインとを含む、本明細書に記載のキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドに係わる。
一つの好ましい実施形態では、H7S1 CARは、は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖に由来する可変領域を含み、単鎖可変フラグメント(scFv)の形で配置されている。前記scFvは好ましくは、柔軟性を提供してアンカー膜貫通部分によってシグナルを細胞内シグナル伝達ドメインに伝達するヒンジ領域に付着される。
一部の実施形態では、本明細書で考えられているCARは、複数のドメイン間でリンカー残基、例えば、VHとVLドメインを接続して2つのサブ結合ドメインの相互作用と相容するスペーサー(spacer)機能を提供するアミノ酸配列を含むリンカーを含んでもよい。これによって、得られたポリペプチドは、同じ軽鎖と重鎖可変領域を含む抗体と同じ標的分子に対する特異的結合親和性を保つ。本明細書で考えられているCARは、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以上のリンカーを含むことができる。具体的な実施形態では、リンカーは、約1から約25アミノ酸、約5から約20アミノ酸、または約10から約20アミノ酸の長さを有する。
リンカーの実例には、グリシンポリマー、グリシン-セリンポリマー、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、およびWhitlowリンカーなどの本分野で既知の他の柔軟なリンカーが含まれる。グリシンおよびグリシン-セリンポリマーは比較的構造化されていないため、融合タンパク質(本明細書に記載のCARなど)のドメイン間の中性テザーとすることができる。具体的な実施形態では、CARの結合ドメインの後に、1つまたは複数の「スペーサー」または「スペーサーポリペプチド」が続き、この「スペーサー」または「スペーサーポリペプチド」は、適切な細胞/細胞接触、抗原結合および活性化を可能にするように抗原結合ドメインがエフェクター細胞の表面から離れるようにそれを移動させる領域を指す。一部の実施形態では、スペーサードメインは、免疫グロブリンの一部であり、1つまたは複数の重鎖定常領域、例えば、CH2とCH3を含むが、これらに限定されない。スペーサードメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域または改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含んでもよい。一実施形態では、スペーサードメインは、IgG1またはIgG4のCH2とCH3ドメインを含む。一実施形態では、このようなスペーサー/ヒンジ領域のFc結合ドメインは、CARがマクロファージや他の自然免疫細胞上に発現するFc受容体に結合することを防ぐように変異する。
一部の実施形態では、CARの結合ドメインの後には、1つまたは複数の「ヒンジドメイン」が続くことができる。その役割は、適切な細胞/細胞接触、抗原結合および活性化を可能にするように、エフェクター細胞の表面から離れた位置に前記抗原結合ドメインを位置付けることである。CARは、結合ドメインと膜貫通ドメイン(TM)との間に1つまたは複数のヒンジドメインを含んでもよい。前記ヒンジドメインは、天然、合成、半合成、または組換えにより由来することができる。前記ヒンジドメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域または改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含んでもよい。本明細書に記載のCARに適する例示的なヒンジドメインは、1型膜タンパク質(例えば、CD8α、CD4、CD28、PD1、CD125、およびCD7)の細胞外領域に由来するヒンジ領域を含み、これらの野生型ヒンジ領域に由来することができ、または改変されることができる。別の実施形態では、前記ヒンジドメインは、PD1、CD152またはCD8αヒンジ領域を含む。
「膜貫通ドメイン」は、細胞外結合部分と細胞内シグナル伝達ドメインを融合し、CARを免疫エフェクター細胞の原形質膜に固定するCARの部分である。TMドメインは、天然、合成、半合成、または組換えに由来することができる。TMドメインは、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154およびPD1に由来することができる。一実施形態では、本明細書で考えられているCARは、CD8αまたはCD28に由来するTMドメインを含む。
特定の実施形態では、本明細書で考えられているCARは、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、ヒトB7S1ポリペプチドに結合する有効な抗B7S1 CARの情報を免疫エフェクター細胞の内部に伝達して、活性化、サイトカイン産生および増殖、細胞毒性活性などの、CARが結合する標的細胞への細胞毒性因子の放出、または細胞外CARドメインへの抗原結合によって引き起こされる他の細胞反応を含むエフェクター細胞機能を誘発することに関与するCARの一部を指す。「エフェクター機能」という用語は、免疫エフェクター細胞の専門的な機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカイン分泌活性であってもよい。したがって、用語の「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、タンパク質内の、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に専門的な機能を実行するようにガイドする部分を指す。本明細書で考えられているCARは、CAR受容体を発現するT細胞の有効性、増殖、および/または記憶の形成を増強するように、1つまたは複数の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で使用されているように、用語の「共刺激シグナル伝達ドメイン」とは、共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを指す。共刺激分子は、抗原受容体またはFc受容体以外の細胞表面分子であり、抗原に結合した後、Tリンパ球の効果的な活性化および機能に必要な第2のシグナルを提供する。
一実施形態では、前記CARは、共刺激ドメインとシグナル伝達(活性化)ドメインを含む細胞内ドメインを含む。したがって、前記CARの構築体は、天然のT細胞受容体複合体の細胞内シグナル伝達ドメイン(CD3ζ)と、完全なT細胞活性化を刺激するための第2のシグナルを提供する1つまたは複数の共刺激ドメインとを含むことができる。共刺激ドメインは、CAR T細胞のサイトカイン産生を増加させ、T細胞の複製とT細胞の持続性を促進すると考えられている。共刺激ドメインは、潜在的にCAR T細胞の枯渇を防ぎ、T細胞の抗腫瘍活性を増加させ、患者のCAR T細胞の生存率を高めることも示されている。非限定的な例として、4-1BB共刺激ドメインを有するCAR構築体は前臨床研究において、T細胞亜集団の組成の段階的且つ持続的な拡大およびエフェクター機能、増加した持続性および濃縮されたセントラルメモリーT細胞(TCM)に関連している。4-1BBは腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーのメンバーであり、インビボで誘導できる糖タンパク質受容体であり、主に抗原活性化されたCD4とCD8T細胞に発現される。非限定的な例として、CD28は免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーであり、休止および活性化されたCD4およびCD8T細胞に構成的に発現され、PI3K-AKTシグナル伝達経路を刺激することによってT細胞の活性化において重要な役割を果たす。一実施形態では、細胞内ドメインは、4-1BBとCD28共刺激ドメインの両方を含む。他の共刺激ドメインは、CD3ζシグナル伝達(活性化)ドメインに結合できるICOSおよびOX40を含む。
一部の実施形態では、本発明は、1つまたは複数のリンカー、スペーサー、膜貫通およびシグナル伝達ドメインをさらに含むキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドに係わる。一実施形態では、前記CARは、共刺激ドメインとシグナル伝達(活性化)ドメインとを含む細胞内ドメインを含む。リンカー、スペーサー、膜貫通および細胞内ドメインとして、異なる変異体を使用することができ、これは当業者にとって明らかである。第1世代のCARでは、シグナル伝達ドメインはTCR複合体のζ鎖で構成される。第2世代のCARには、CD28または4-1BBに由来する単一の共刺激ドメインが装備されている。第3世代のCARは、CD28、4-1BB、ICOSまたはOX40、CD3ζなど、2つの共刺激ドメインを含む。本発明は好ましくは、第2または第3世代のCARに関する。
CARの抗B7S1抗原結合ドメインが標的細胞の表面のB7S1に結合してCARのクラスター化を引き起こし、活性化刺激をCARを含む細胞に伝達する。CARの主な特徴は、免疫エフェクター細胞の特異性をリダイレクトする能力であり、それによって増殖、サイトカイン産生、食作用、または分子の産生を引き起こす。これらの分子は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に依存しない方式で標的抗原発現細胞の細胞死を媒介することができる。
本発明は、B7S1 CARをコードする核酸分子を前記CARを発現する免疫細胞に移入するためのすべての適切な方法をカバーし、当業者は、本発明を実施する時に適切な方法を選択することができる。例えば、T細胞を形質転換する複数の方法は本分野で知られており、それは、改変レトロウイルス法に基づく方法などの任意のウイルスベースの遺伝子導入方法、およびDNAベースのトランスポゾンおよびエレクトロポレーションによるmRNAの直接転移などの非ウイルス方法を含む。
したがって、一実施形態では、本発明は、本明細書に記載のCARの任意の実施形態によるキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子に係わる。本発明の別の局面は、本明細書に記載の核酸分子を含むベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくはγレトロウイルスベクターに係わる。本発明の別の局面において、本発明は、本明細書に記載のCARを発現できるトランスポゾンベクターに係わる。
11.抗B7S1 CAR構築体を発現する免疫細胞
一局面において、本発明は、本明細書に記載の核酸分子またはベクターを含む、および/または本明細書に記載のCARを発現する、遺伝子改変された免疫細胞に係る。
本発明において、抗B7S1 CAR構築体を発現する免疫細胞は、「遺伝子操作された」または「遺伝子改変された」免疫細胞である。「遺伝子操作された」または「遺伝子改変された」という用語は、DNAまたはRNAの形で追加の遺伝物質(例えば、本明細書で言及された抗B7S1 CARをコードするDNAまたはRNA)を細胞内のトータル遺伝物質に添加することを指す。
「免疫細胞」または「免疫エフェクター細胞」は、免疫系の、1つまたは複数のエフェクター機能(例えば、細胞毒性細胞殺傷活性、サイトカインの分泌、ADCCおよび/またはCDCの誘導)を有する任意の細胞である。免疫エフェクター細胞は、iPSC(人工多能性幹細胞)から分化することができ、自己(autologous)/自家(autogeneic)(「自体」)または非自己(「非自体」、例えば、同種異系、同系または異種)であってもよい、好ましい実施形態では、本発明の細胞は自己または同種異系である。
本明細書で考えられているCARと共に使用される例示的な免疫エフェクター細胞は、Tリンパ球を含む。「T細胞」または「Tリンパ球」という用語は、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休止Tリンパ球、サイトカイン誘導キラー細胞(CIK細胞)または活性化されたTリンパ球を含むことを意図している。他の細胞も免疫エフェクター細胞として、本明細書に記載のCARと共に使用することができる。特に、免疫エフェクター細胞は、NK細胞、NKT細胞、好中球、およびマクロファージをさらに含む。免疫エフェクター細胞はまた、エフェクター細胞のの前駆細胞を含み、このような前駆細胞は、インビボまたはインビトロで免疫エフェクター細胞に分化するように誘導されることができる。前駆細胞は、既定の培養条件下で免疫エフェクター細胞になるiPSCであってもよい。
本発明は、本明細書で考えられているCARを発現するエフェクター細胞を作製するための方法を提供する。一実施形態では、その方法は、エフェクター細胞が本明細書に記載の1つまたは複数のCARを発現するように、個体から単離された免疫エフェクター細胞をトランスフェクションまたは形質導入することを含む。一部の実施形態では、前記免疫エフェクター細胞は個体から単離され、遺伝子改変されたため、インビトロでさらに操作する必要はない。そして、そのような細胞は、個体に直接に再投与することができる。さらなる実施形態では、CARを発現するように遺伝子改変を行う前に、免疫エフェクター細胞を活性化させて刺激し、インビトロで増殖させる。これに関して、遺伝子改変(すなわち、本明細書に記載のCARを発現するための形質導入またはトランスフェクション)の前および/または後に免疫エフェクター細胞を培養することができる。
具体的な実施形態では、本明細書に記載の免疫エフェクター細胞のインビトロ操作または遺伝子改変の前に、被験者から細胞源を得る。具体的な実施形態では、CAR修飾された免疫エフェクター細胞はT細胞を含む。T細胞は、複数のソースから獲得でき、そのソースは、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位の組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含むが、これらに限定されたい。一部の実施形態では、T細胞は、当業者に知られている複数の技術を使用して、被験者から収集された単位の血液から獲得することができる。
CARを発現するために、PBMCを、本明細書で考えられている方法を使用して直接に遺伝子改変することができる。一部の実施形態では、PBMCの単離後、Tリンパ球をさらに単離する。また、一部の実施形態では、遺伝子改変および/または増幅の前または後に、細胞毒性およびヘルパーTリンパ球をナイーブ、記憶、およびエフェクター細胞亜集団に分類することができる。CD8+細胞は、標準的な方法を使用して取得できる。いくつかの実施形態では、CD8+細胞型に関連する様々な細胞表面抗原を同定することによって、CD8+細胞をさらにナイーブ、中央記憶、およびエフェクター細胞に分類する。
一部の実施形態では、本発明の免疫エフェクター細胞、例えば、本明細書に記載のT細胞は、当業者に知られている方法を使用して、人工多能性幹細胞(iPSC)から得ることができる。
受け入れられたCAR T細胞の生成方法は、成熟した循環T細胞の遺伝子改変と増幅に依存する。このようなプロセスは、自己T細胞を利用し、同種異系T細胞からの移植片対宿主(GvHD)疾患のリスク、およびMHC非互換性による拒絶反応を内因性TCR発現によって軽減する。別の方法として、直接インビトロ分化操作されたT細胞及び人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞は、本発明のCARを発現するように遺伝子改変できる実質的に無限な細胞源を提供する。一部の実施形態では、均質な細胞製品を一貫して繰り返して製造するための再生可能な供給源を表すいわゆるマスターiPSCラインを維持することができる。一部の実施形態では、目的の免疫細胞(好ましくはT細胞)への増幅と分化の前に、CARをコードする核酸を用いてマスターiPSC細胞株を形質転換することが考えられる。Tリンパ球は、例えば、iPSCから生成することができ、その結果、iPSCは、CARをコードする核酸で修飾され、次いで、患者に投与するために増幅および分化されてT細胞になる。CARでコードされた核酸による形質転換と投与前の増幅の前に、iPSCからの適切な免疫細胞(T細胞など)の分化を行うこともできる。本発明は、投与のための適切な数の細胞を提供するように、iPSC増幅、遺伝子改変、および増幅のすべての可能な組み合わせを考えた。
T細胞などの免疫エフェクター細胞は、既知の方法を使用して単離した後に遺伝子改変することができ、または、遺伝子改変の前にインビトロで免疫エフェクター細胞を活性化および増幅(或いは、前駆細胞の場合に分化)することができる。特定の実施形態では、T細胞などの免疫エフェクター細胞は、本明細書で考えられているキメラ抗原受容体によって遺伝子改変され(例えば、CARをコードする核酸を含むウイルスベクターで形質導入され)、そしてインビトロで活性化および増幅される。複数の実施形態では、米国特許第6,352,694号および第6,534,055号に記載されたような方法を使用して、遺伝子改変の前または後に、T細胞を活性化および増幅してCARを発現することができる。
一部の実施形態では、Crispr/CasおよびTALENで媒介された、B7S1 CARをコードする核酸の挿入を使用して、CAR遺伝子を免疫細胞ゲノムの非常に特定の部位に送達することができる。これにより、間違った位置または望ましくない位置に遺伝子を挿入するリスクを低減することができる。
一部の実施形態では、前記免疫細胞は好ましくは、Tリンパ球またはNK細胞から選ばれ、より好ましくは、細胞傷害性Tリンパ球から選ばれる。1つの好ましい実施形態では、本明細書に記載の核酸分子またはベクターを含む、および/または本明細書に記載のCARを発現する遺伝子改変された免疫細胞は、CD4+および/またはCD8+T細胞であることを特徴としている。
本明細書に記載の免疫細胞は、本明細書で言及された癌などの疾患の治療に使用することを意図としている。
12.キットと製品
本開示は、B7S1の発現レベルを確定するための診断方法を提供する。一つの具体的な局面において、本開示は、B7S1の発現レベルを確定するためのキットを提供する。前記キットは、本明細書に開示された抗B7S1抗体またはそのフラグメント、およびキットの使用に関する説明書、例えば、サンプルの収集、および/または検出および/または結果の分析のための説明書を含む。このキットは、生物学的サンプル(例えば、任意の体液)中のB7S1ポリペプチドの存在の検出に使用できる。前記体液は、例えば、喀痰、血清、血漿、リンパ液、嚢胞液、尿、便、脳脊髄液、腹水または血液、および人体組織の生検サンプルを含むが、これらに限られていない。テストサンプルはまた、腫瘍細胞、腫瘍に隣接する正常細胞、腫瘍組織タイプに対応する正常細胞、血液細胞、末梢血リンパ球、またはそれらの組み合わせであり得る。
特定の実施形態では、前記キットは、生物学的サンプル中のB7S1ポリペプチドに結合することができる、本発明の抗B7S1抗体以外の1つまたは複数の他のB7-H3抗体をさらに含んでもよい。その1つまたは複数のB7S1抗体は標識されてもよい。特定の実施形態では、前記キットは、例えば、B7S1ポリペプチドに結合する固体支持体に付着した第1の抗体を含み、且つ、任意選択で、2)B7S1ポリペプチドまたは第1の抗体と結合して検出可能な標識にコンジュゲートる異なる第2の抗体を含む。
前記キットはまた、例えば、緩衝剤、防腐剤またはタンパク質安定剤をさらに含んでもよい。前記キットはまた、酵素や基質など、検出可能な標識を検出するために必要なコンポーネントを含んでもよい。キットはまた、アッセイしてテストサンプルと比較できる、1つの対照サンプルまたは一連の対照サンプルを含んでもよい。前記キットの各コンポーネントは個別の容器に入れることができ、これらの容器すべてを一つのパッケージに入れることができる。また、サンプルの収集および/または検出および/または結果の分析のための説明など、キットの使用に関する説明をプロトコルに記載することができる。
もう一つの局面において、本発明は、上記の疾患の治療、予防、および/または診断に使用される材料を含む製品を提供する。その製品は、容器と、容器上または容器に関連するラベルまたはプロトコルを含み、そのラベルまたはプロトコルには、例えば、治療される適応症、投与レジメンおよび警告の書面の説明などがある。適切な容器はボトル、バイアル、注射器などを含む。容器は各種材料、例えばガラスまたはプラスチックから作られることができる。前記容器は、本発明の抗B7S1抗体またはそのフラグメントを含む組成物を収容し、この組成物自体、または別の組成物と組み合わせた場合、B7S1ポリペプチドの1つまたは複数の分子の発現または活性の増加を特徴とする、または1つまたは複数の分子の発現または活性の増加に関連する医学的疾患または病状(例えば、癌)の治療、予防および/または診断に効果的である。
前記製品は、(a)本発明の抗体を含む組成物を含む第1の容器;および(b)別の活性成分を含む組成物を有する、第2、第3、または第4の容器を含んでもよい。また、前記製品は、薬学上許容される緩衝液(例えば、静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液(Ringer‘s solution)およびグルコース溶液など)を含む容器をさらに含んでもよい。さらには、その他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針および注射器を含む、商業および使用者の角度から見ると必要とされるその他の材料、を含んでもよい。
抗B7S1マウス抗体の生成
BALB/cマウス(Vital River、6週齢)を、ヒトB7S1-Fc融合タンパク質の皮下注射によって免疫し、前記タンパク質は、ヒトB7S1(B7-H4およびB7Xとも呼ばれる)細胞外ドメイン(Leu25-258、NCBI参照配列:NP_078902.2)とmIgG2a Fc(Pro222-Lys453 GenBank:AGH20709.1)を融合することで構築した。1匹の動物について、50μlのPBS中の10μgのB7S1-Fc融合タンパク質を50μlの完全Freundアジュバント(CFA、Sigma-Aldrich、カタログ番号F6881)と混合した。免疫を3日間隔で5回繰り返した。最終ブースト免疫の3日後、注射部位に近いリンパ節を注意深く摘出した。PEG1500(ポリエチレングリコール1500、Roche TM、カタログ番号:783641、10×4mlを75mM Hepes中に、PEG 50% W/V)を用いてリンパ球とAg8.653骨髄腫細胞(Sigma-Aldrich、カタログ番号85011420)を融合し、HAT selection(Sigmaカタログ番号:H0262)とHFCS(ハイブリドーマ融合およびクローニングサプリメント(Hybridoma Fusion and Cloning Supplement)、50x、Rocheカタログ番号:11-363-735-001)を用いてクローニングした。ELISAおよびフローサイトメトリーにより、ヒトB7S1-FcおよびB7S1-his(Sinobiologic、カタログ番号10738-H08H-100)に結合できる抗体(実施例2と3参照)について、ハイブリドーマ上澄み中の、ヒトB7S1でトランスフェクションされたBAF3細胞をスクリーニングした。選択されたマウス抗B7S1#11-7は、CDR移植および復帰突然変異を使用してヒト化された。
CDR移植による抗体のヒト化:アクセプターフレームワークが選択された。NCBI Ig-Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/igblast/)を利用して、ヒト生殖系列データベース内で親抗体の可変領域配列を検索した。重鎖および軽鎖のCDR配列(配列番号1~6)はそれぞれ以下に示される。重鎖および軽鎖ごとに、5つの異なるヒト受容体(すなわち、親抗体との相同性が高いヒト可変領域)を選択した。ヒト受容体のCDRは、対応するマウスのものに置き換えられ、ヒト化された可変領域配列が得られた。5つのヒト化重鎖と5つのヒト化軽鎖を設計、合成し、発現ベクターに挿入した。ヒト化抗体を発現させた後、アフィニティーランキング試験に使用した。VH1-VL4およびVH1-VL5に対して最も強い結合親和性を有する抗体を選択して復帰突然変異に使用した。これらのバリアントの中で、結合および機能アッセイに基づいて、VH1-4/VL4-5、VH1-5/VL4-4、およびVH1-5/VL4-5(配列番号7~10)を選択した。
CDR1Hアミノ酸配列(配列番号1)
GYTFTSYWMH
CDR2Hアミノ酸配列(配列番号2)
AIYPGNSDTDYNQKFKG
CDR3Hアミノ酸配列(配列番号3)
TVAHYFDY
CDR1Lアミノ酸配列(配列番号4)
KASQDVSFAVA
CDR2Lアミノ酸配列(配列番号5)
SASYRYT
CDR3Lアミノ酸配列(配列番号6)
QQHYNTPLT
可変重鎖ドメイン(VH1-4) アミノ酸配列(配列番号7)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYWMHWVRQAPGQGLEWIAAIYPGNSDTDYNQKFKGKAKITAVTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCTTTVAHYFDYWGQGTMVTVSS
可変重鎖ドメイン(VH1-5) アミノ酸配列(配列番号8)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYWMHWVKQAPGQGLEWIAAIYPGNSDTDYNQKFKGKAKITAVTSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCTTTVAHYFDYWGQGTMVTVSS
可変軽鎖ドメイン(VL4-4) アミノ酸配列(配列番号9)
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCKASQDVSFAVAWYQQKPGQAPRLLISSASYRYTGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQHYNTPLTFGGGTKVEIK
可変軽鎖ドメイン(VL4-5) アミノ酸配列(配列番号10)
EIVMTQSPATLSLSPGERATLTCKASQDVSFAVAWYQQKPGQAPKLLISSASYRYTGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQHYNTPLTFGGGTKVEIK
ヒト化抗B7S1抗体の親和性の分析
ヒト化抗B7S1抗体の結合親和性をテストするために、ELISA分析を実施した。2μg/mlのヒトB7S1-his(Sinobiologic、カタログ番号10738-H08H-100)、マウスB7S1-his(R&Dシステム、カタログ番号4206-B7-100)、およびカニクイザルB7S1細胞外ドメイン(Leu25-Ser259、NCBI参照配列:XP_005542249.1)を0.5M炭酸塩/重炭酸塩緩衝液(pH9.6)中でMaxiSorp 96ウェルプレート(NUNC、449824)にコーティングし、4℃で一晩インキュベーションした。コーティングされたプレートをスキムミルク(5%、PBST中)で1時間ブロックした。ヒト化抗B7S1抗体を希釈してプレートに加え、室温で2時間インキュベーションした。PBST(0.05%tween-20を含む、1×PBS)で3回洗浄し、結合していない抗体を除去した。ヤギ抗ヒトIgG-HRP(Easybio、BE0122、PBS中1:5000)を添加して1時間インキュベーションした。PBST(0.05%tween-20を含む、1×PBS)で3回洗浄し、結合していない抗体を除去した。TMB(eBioscience、00-4201-56)(50μl/ウェル)を加えて呈色させ、2N H2SO4(50ul/ウェル)で停止させた。450nmおよび570nMで光学密度を測定した。表1に示すように、抗体は高い親和性で、ヒト、マウス、およびカニクイザルB7S1タンパク質に結合した。これは、複数のマウス疾患モデルを有効性研究に使用でき、カニクイザルがこれらの抗体薬剤の開発に関する毒物学的研究に適した種であることを示した。
また、Biacore 8Kを使用して、表面プラズモン共鳴(SPR)結合分析によって上記mAbの親和性をさらに分析した。SPRは、負の誘電定数材料と正の誘電定数材料の間の界面に入射光によって励起された伝導電子の共振振動である。抗体をFc捕捉法によってセンサーチップに固定させた。ヒトB7S1(Sinobiological、カタログ番号10738-H08H-100)を分析物として使用した。解離(kd)および会合(ka)速度定数のデータを、Biacore 8K評価ソフトウェアを使用して取得した。平衡解離定数(KD)は、kdとkaの比率から計算された。図1Bおよび表2に示すように、すべてのヒト化抗B7S1 mAbは、高い親和性(KD<1~4nM)でヒトB7S1細胞外領域に結合した。
B7S1によりトランスフェクションされた細胞株に結合したヒト化抗B7S1抗体
B7S1を過剰発現した細胞表面での抗B7S1抗体の結合親和性を評価するために、ヒトB7S1(NCBI参照配列:NP_078902.2)をBaF3細胞株上に構築した。細胞をPBSで洗浄し、5×105細胞/ウェルの細胞密度でそれらを96ウェルU字型プレートに分注した。生/死染色について、LIVE/DEAD(登録商標)Fixable Aqua死細胞染色キット(Life Technologies、L34957)を細胞に適用し(PBS中1:1000、100ul/ウェル)、4℃で10分間インキュベーションした。FACS緩衝液(PBS中2%FBS含有、100ul/ウェル)を各ウェルに加えて染色を停止させた。遠心分離(1200rpm、5分間)して上澄を捨て、FACS緩衝液で1回洗浄した。ヒト化抗B7S1抗体をFACS緩衝液で対応する濃度に希釈し、各ウェルに加えた(100ul/ウェル)。細胞を4℃で30分間インキュベーションし、FACS緩衝液で2回洗浄した。Alexa Fluor(登録商標)594標識ヤギ抗ヒトIgG(Jackson Immuno Research、109-585-088)(FACS緩衝液中1:500)を加え、結合した抗体を標識した。細胞を4℃で30分間インキュベーションした後、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞をフローサイトメトリーで分析し、結果を図2に示す。データは、抗体が高い親和性で、細胞上に発現したB7S1に結合したことを示している。例えば、テストされたmAbの結合EC50はサブnMの範囲内である。mAbがプレート上のヒトB7S1細胞外領域タンパク質に結合するだけではなく、細胞表面に発現するヒトB7S1分子にも効果的に結合することは、データによって実証された。
LPSによって刺激されたPBMCへ結合したヒト化抗B7S1抗体
末梢血単核細胞(PBMC)には、刺激下で細胞表面のB7S1発現をアップレギュレーションする単球が含まれている。この実施例は、単球に対するヒト化抗B7S1抗体の結合親和性を評価するためのものである。ヒトのバフィーコートをPBSで希釈し、Ficoll(GE、17-1440-02)の2倍の量にした。希釈したバフィーコートをFicollの上に軽く広げ、2500rpm、20℃で40分間、ブレーキをかけずに遠心分離した。PBMC層をFicollとその透明な上澄の間から注意深く取り除いた。PBSを5倍量のPBMCに加え、1200rpm、20℃で10分間遠心分離した。上澄を捨て、PBSで再度洗浄した。血小板を除去するために、900rpm、20℃で8分間遠心分離した。PBMCを培地(10%FBSと1%PSを含むRPMI-1640)に再懸濁し、カウントして96ウェルプレート(5×105細胞/ウェル)に分注し、LPS(100ng/ml)を加えた。24時間インキュベーションした後、細胞をPBSで2回洗浄した。生/死染色について、LIVE/DEAD(登録商標)Fixable Aqua死細胞染色キット(Life Technologies、L34957)を細胞に適用し(PBS中1:1000、100ul/ウェル)、4℃で10分間インキュベーションした。FACS緩衝液(PBS中2%FBS含有、100ul/ウェル)を各ウェルに加えて染色を停止させた。遠心分離(1200rpm、5分間)して上澄を捨て、FACS緩衝液で1回洗浄した。ヒト化抗B7S1抗体をFACS緩衝液で対応する濃度に希釈し、各ウェルに加えた(100ul/ウェル)。細胞を4℃で30分間インキュベーションし、FACS緩衝液で2回洗浄した。Alexa Fluor(登録商標)594標識ヤギ抗ヒトIgG(Jackson Immuno Research、109-585-088)(FACS緩衝液中1:500)を加え、結合した抗体を標識した。細胞を4℃で30分間インキュベーションした後、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞をフローサイトメトリーでテストした。その結果を図3に示す。データは、抗体が高い親和性で、ヒトPBMCから得られた初代細胞に発現したB7S1に結合したことを示している。すなわち、3つのヒト化mAbの結合EC50は3nM未満である。ヒト化mAbが、生理学的構造を有するB7S1分子に効果的に結合できることは、データによって実証された。これは、治療用抗体の開発に不可欠である。mAbは、抗体薬剤の結合特性の要件を満たしている。
抗B7S1抗体は、T細胞活性化に対するB7S1の阻害効果を遮断する
B7S1は活性化されたT細胞に結合し、その増殖と機能を阻害することが報告されている(Prasad et al.,Immunity 2003,18:863-873;Sica et al.,Immunity 2003,18:849-861)。B7S1抗体の遮断効果を研究するために、T細胞に基づく機能アッセイが確立された。PBMCは健康なドナーから入手され、Ficoll分離液(GE、カタログ番号:17-1440-02)で分離された。T細胞濃縮キット(Stem cell、カタログ番号:19051)によってすべてのT細胞をPBMCから分離した。CFSE(5 ug/mlまたは5uM、最初に1:1000または1:100、最後のステップで1:10)を用いてT細胞(5×107細胞/ml)を再懸濁した。37℃の暗水浴で10分間インキュベーションした後、10倍の完全培地を細胞に加え、室温で1500rpmで5分間遠心分離して細胞を収集し、完全培地で洗浄した。PBS中の抗CD3(BD、555329、0.2ug/ml)とB7S1(0.5ug/ml)を96ウェルプレート(100ul/ウェル)にコーティングし、4℃で一晩置いた。プレートをPBSで1回洗浄し、37℃で30分間完全培地でブロックした。抗B7S1抗体を完全培地で対応する濃度に希釈した後、コーティングされたプレートに添加した。抗体を37℃で1時間インキュベーションし、完全培地で1回洗浄した。抗CD3によって刺激されたIL-2に対する抗B7S1抗体の効果を、市販のELISAキット(eBioscience、カタログ番号:88-7025-88)で測定した。T細胞増殖は、フローサイトメトリー分析でCFSEを測定することによって決定された。死細胞をLIVE/DEAD(登録商標)Fixable Aqua死細胞染色キット(Life Technologies、L34957)で標識した。T細胞を抗CD3(Biolegend、317322)、抗CD4(BD、562402)、および抗CD8(BD、557834)で標識した。図4に示すように、抗B7S1抗体は、用量依存的に抗CD3により刺激されたT細胞によるIL-2の阻害効果を逆転した。また、図5に示すように、抗B7S1抗体は、抗CD3によって誘導されたCD4+およびCD8+ T細胞の増殖に対するB7S1の阻害効果を遮断した。本明細書のこれらのデータは、B7S1の生物学的活性を遮断することによって癌を治療するための治療薬として抗B7S1抗体を開発する可能性が高いことを示した。
抗B7S1遮断抗体の治療効果
B7S1機能に対して遮断効果を有する代替抗体(抗マウスB7S1抗体、MIH29、BD Biosciences)を、E.G7リンパ腫およびhepa1-6肝細胞癌(HCC)腫瘍モデルにおいてテストした。E.G7はATCCから購入した。Hepa1-6は、Haiyan Liu博士(中国蘇州大学)から惜しみなく提供された。E.G7は、2mM L-グルタミンを有するRPMI 1640培地で培養され、この培地は調整により、10%FBS、1.5g/L重炭酸ナトリウム、4.5g/Lグルコース、10mM HEPESおよび1.0mMピルビン酸ナトリウム、0.05mM 2-メルカプトエタノールおよび0.4mg/ml G418を含む。100uL PBSに再懸濁した7×106Hepa1-6または106 E.G7を、6~10週齢の野生型C57/BL6マウスに皮下注射した。抗B7S1遮断抗体の治療効果をテストするために、E.G7およびHepa1-6モデルに対して、100ugの対照または抗B7S1抗体(MIH29、BD Biosciences)を5日目から1日おきに腹腔内注射した。B7S1とPD-1の併用遮断の治療効果をテストするために、100ug対照抗体、抗B7S1、抗PD-1(J43、Bioxcell)または抗B7S1+抗PD-1を9日目から3日ごとに腹腔内注射した。CD4+またはCD8+ T細胞を枯渇させるために、100ug抗CD4(GK 1.5、Bioxcell)または抗CD8(2.43、Bioxcell)を1、2、7、12、および17日目に腹腔内注射した。図6Aおよび6Bに示すように、抗B7S1抗体によるB7S1への遮断は、E.G7およびHepa1-6の皮下腫瘍の増殖を有意に阻害した。B7S1とPD-1の遮断の組み合わせは、E.G7およびHepa1-6モデルにおいて腫瘍の増殖を阻害する相乗効果を示し、さらに、腫瘍の体積と重量を非常に低いレベルに低減した。相乗効果は、CD8+ TILでのPD-1とB7S1Rの共発現と代償性のアップレギュレーションに部分的に起因している。したがって、B7S1/B7S1R共阻害経路を標的とすることは、癌、特にHCCを治療する現在の抗PD-1の効果を増強することができる。