JP7255852B2 - 核酸アプタマー及びその使用 - Google Patents
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Description
本発明の第1態様に係る核酸アプタマーは、下記一般式(I)~(III)のいずれかに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドからなり、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、PPM1Dに対する結合能を有する。
Y11は、以下の(a11)又は(a12)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a11)配列番号1に示される塩基配列;
(a12)配列番号1に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y12は、以下の(a13)又は(a14)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a13)配列番号2に示される塩基配列;
(a14)配列番号2に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y13は、以下の(a15)又は(a16)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a15)配列番号3に示される塩基配列;
(a16)配列番号3に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
Y21は、以下の(a21)又は(a22)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a21)配列番号4に示される塩基配列;
(a22)配列番号4に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y22は、以下の(a23)又は(a24)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a24)配列番号5に示される塩基配列;
(a25)配列番号5に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y23は、以下の(a25)又は(a26)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a25)配列番号6に示される塩基配列;
(a26)配列番号6に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
Y31は、以下の(a31)又は(a32)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a31)配列番号7に示される塩基配列;
(a32)配列番号7に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y32は、以下の(a33)又は(a34)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a33)配列番号8に示される塩基配列;
(a34)配列番号8に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y33は、以下の(a35)又は(a36)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a35)配列番号9に示される塩基配列;
(a36)配列番号9に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
前記Y12が配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y13が配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であってもよい。
前記Y22が配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y23が配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であってもよい。
前記Y32が配列番号8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y33が配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であってもよい。
PPM1Dは、605アミノ酸残基からなり、PPMファミリーに分類されるPP2C型Ser/Thrホスファターゼである。PPM1Dは乳がんや卵巣がん等の様々ながん細胞において、その遺伝子の増幅や過剰発現が報告されており、抗がん剤の標的として注目されている。PPM1Dの構造の特徴点としては、塩基性アミノ酸残基を豊富に含むループ構造の領域(Basic-residue-rich loop;B-loop)を有し、当該B-loopは酵素の活性中心近傍に位置している(図1参照)。図1に示すように、B-loopのアミノ酸配列は「VWKRPRLTHNGPVRRSTVIDQIPF」(配列番号16)である。このB-loopは他のPPMファミリーに分類されるホスファターゼ(例えば、PPM1A等)には存在せず、B-loopはPPM1Dの基質認識や細胞内局在に寄与していると考えられている。これらのことから、発明者らは、PPM1DのB-loopを標的としたDNAアプタマーの探索を行った結果、PPM1Dに特異的に結合する核酸アプタマーを開発するに至った。なお、ここでいう「PPM1DのB-loopに特異的に結合する」とは、PPM1D以外のホスファターゼに結合せず、さらに、PPM1DのB-loop以外の部位にも結合せず、PPM1DのB-loopにのみ結合することを意味する。本実施形態の核酸アプタマーは、後述する実施例に示すように、酵素選択性を有し、PPM1DのB-loopを標的とするPPM1D特異的阻害剤である。
グアニン四重鎖(「G-quadruplex」、「G4」、「Gカルテット」とも呼ばれる)構造は、DNAの高次構造の一つであり、4組のグアニン配列により形成される特定の立体構造である。グアニンリッチなDNA分子では陽イオンに応答し、グアニン四重鎖構造を形成する。このことに着目し、発明者らは、2.8×1011種の多様性を有し、陽イオン刺激により立体構造が変化しグアニン四重鎖構造を形成する骨格を母体としたDNAアプタマー(以下、「イオン刺激応答性DNAアプタマー(Ion- responsive DNA Aptamer;IRDAptmer)」と称する場合がある)のライブラリを独自にデザインした。当該ライブラリの中から、PPM1DのB-loopに特異的に結合する核酸アプタマーをスクリーニングし、同定した。
=(核酸アプタマー存在下でのPPM1Dの酵素活性)/(核酸アプタマー非存在下でのPPM1Dの酵素活性)×100
本実施形態の核酸アプタマーは、後述する実施例に示すように、プロペラ型のグアニン四重鎖構造を形成する。
アプタマーとは、一般に、標的分子に特異的に結合する分子であり、核酸アプタマーやペプチドアプタマーが知られている。
本実施形態の核酸アプタマーは、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、PPM1Dに対する結合能を有する核酸アプタマーであり、具体的には、陽イオンの濃度が0.1mM未満程度の低濃度ではグアニン四重鎖構造を形成せず、一方で、陽イオンの濃度が0.1mM以上100mM以下程度の生体内濃度変化域下では、立体構造が変化し、グアニン四重鎖構造を形成することで、PPM1DのB-loopに特異的に結合することができるものである。そのため、陽イオン刺激を与える場所及び時間を制御することで、本実施形態の核酸アプタマーのPPM1Dに対する結合能を時空間的に制御することができ、正常細胞に影響を与えず、PPM1Dを過剰発現しているがん細胞に対して特異的に抗がん活性を発揮することができる。
本実施形態の核酸アプタマーは、下記一般式(I)に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド(以下、「ポリヌクレオチド(I)」と称する場合がある)からなり、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、PPM1Dに対する結合能を有する。
Y11は、以下の(a11)又は(a12)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a11)配列番号1に示される塩基配列;
(a12)配列番号1に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y12は、以下の(a13)又は(a14)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a13)配列番号2に示される塩基配列;
(a14)配列番号2に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y13は、以下の(a15)又は(a16)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a15)配列番号3に示される塩基配列;
(a16)配列番号3に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
n11、n12、n13及びn14はそれぞれX11、X12、X13及びX14の個数を示す。また、一般式(I)中、「-(X11)n11-」、「-(X12)n12-」、「-(X13)n13-」及び「-(X14)n14-」は、核酸アプタマーにおいてグアニン四重鎖構造を形成する母体骨格である。
n11は2又は3であり、3が好ましい。n12、n13及びn14はそれぞれ独立に2以上6以下の整数であり、4以上6以下の整数が好ましく、6がより好ましい。
n11、n12、n13及びn14が上記数であることで、より安定したグアニン四重鎖構造を形成することができる。
X11、X12、X13及びX14はそれぞれ独立に連続する2つ以上のグアニン残基を含むポリヌクレオチド残基である。グアニン残基の他にチミン残基、アデニン残基又はウラシル残基を含んでもよく、チミン残基又はアデニン残基を含むことが好ましい。
好ましい「-(X12)n12-」、「-(X13)n13-」及び「-(X14)n14-」としては、例えばn12、n13及びn14が6である場合に、「TTAGGG」(配列番号18)等が挙げられる。
Y11は、以下の(a11)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a11)配列番号1に示される塩基配列
(a13)配列番号2に示される塩基配列
(a15)配列番号3に示される塩基配列
(a12)配列番号1に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a14)配列番号2に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a16)配列番号3に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
他の実施形態の核酸アプタマーは、下記一般式(II)に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド(以下、「ポリヌクレオチド(II)」と称する場合がある)からなり、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、PPM1Dに対する結合能を有する。
Y21は、以下の(a21)又は(a22)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a21)配列番号4に示される塩基配列;
(a22)配列番号4に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y22は、以下の(a23)又は(a24)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a24)配列番号5に示される塩基配列;
(a25)配列番号5に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y23は、以下の(a25)又は(a26)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a25)配列番号6に示される塩基配列;
(a26)配列番号6に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
n21、n22、n23及びn24はそれぞれX21、X22、X23及びX24の個数を示す。また、一般式(II)中、「-(X21)n21-」、「-(X22)n22-」、「-(X23)n23-」及び「-(X24)n24-」は、核酸アプタマーにおいてグアニン四重鎖構造を形成する母体骨格である。
n21は2又は3であり、3が好ましい。n22、n23及びn24はそれぞれ独立に2以上6以下の整数であり、4以上6以下の整数が好ましく、6がより好ましい。
n21、n22、n23及びn24が上記数であることで、より安定したグアニン四重鎖構造を形成することができる。
X21、X22、X23及びX24はそれぞれ独立に連続する2つ以上のグアニン残基を含むポリヌクレオチド残基である。グアニン残基の他にチミン残基、アデニン残基又はウラシル残基を含んでもよく、チミン残基又はアデニン残基を含むことが好ましい。
好ましい「-(X22)n22-」、「-(X23)n23-」及び「-(X24)n24-」としては、例えばn22、n23及びn24が6である場合に、「TTAGGG」(配列番号18)等が挙げられる。
Y21は、以下の(a21)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a21)配列番号4に示される塩基配列
(a23)配列番号5に示される塩基配列
(a25)配列番号6に示される塩基配列
(a22)配列番号4に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a24)配列番号5に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a26)配列番号6に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
さらに他の実施形態の核酸アプタマーは、下記一般式(III)に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド(以下、「ポリヌクレオチド(III)」と称する場合がある)からなり、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、PPM1Dに対する結合能を有する。
Y31は、以下の(a31)又は(a32)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a31)配列番号7に示される塩基配列;
(a32)配列番号7に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y32は、以下の(a33)又は(a34)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a33)配列番号8に示される塩基配列;
(a34)配列番号8に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y33は、以下の(a35)又は(a36)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a35)配列番号9に示される塩基配列;
(a36)配列番号9に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
n31、n32、n33及びn34はそれぞれX31、X32、X33及びX34の個数を示す。また、一般式(III)中、「-(X31)n31-」、「-(X32)n32-」、「-(X33)n33-」及び「-(X34)n34-」は、核酸アプタマーにおいてグアニン四重鎖構造を形成する母体骨格である。
n31は2又は3であり、3が好ましい。n32、n33及びn34はそれぞれ独立に2以上6以下の整数であり、4以上6以下の整数が好ましく、6がより好ましい。
n31、n32、n33及びn34が上記数であることで、より安定したグアニン四重鎖構造を形成することができる。
X31、X32、X33及びX34はそれぞれ独立に連続する2つ以上のグアニン残基を含むポリヌクレオチド残基である。グアニン残基の他にチミン残基、アデニン残基又はウラシル残基を含んでもよく、チミン残基又はアデニン残基を含むことが好ましい。
好ましい「-(X32)n32-」、「-(X33)n33-」及び「-(X34)n34-」としては、例えばn32、n33及びn34が6である場合に、「TTAGGG」(配列番号18)等が挙げられる。
Y31は、以下の(a31)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a31)配列番号7に示される塩基配列
(a33)配列番号8に示される塩基配列
(a35)配列番号9に示される塩基配列
(a32)配列番号7に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a34)配列番号8に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
(a36)配列番号9に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列
また、核酸アプタマーのPPM1DのB-loopに対する結合能は、野生型のPPM1DとPPM1DのB-loop欠損体とを用いて、上記測定方法を行うことで確認することができる。具体的には、標識の検出時に、野生型のPPM1Dでは標識が検出され、一方で、PPM1DのB-loop欠損体では標識が検出されなかった場合には、核酸アプタマーはPPM1DのB-loopに結合しており、当該核酸アプタマーはPPM1DのB-loopに対する結合能を有すると判断することができる。
本実施形態の抗がん剤は、上記核酸アプタマーを有効成分として含有する。
一実施形態において、本発明は、上記核酸アプタマーの有効量を、治療を必要とする患者又は患畜に投与する、がんの治療方法又は予防方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、がんの治療又は予防のための、上記核酸アプタマーを提供する。
一実施形態において、がんの治療又は予防用の医薬組成物を製造するための、上記核酸アプタマーの使用を提供する。
細胞の培養には、上記細胞培養用組成物を用いることができる。
核酸アプタマーによるPPM1DとPPM1Dの基質(例えば、p53等)との結合阻害を確認する方法としては、例えば、核酸アプタマーを接触させた細胞と、核酸アプタマーを接触させていない細胞とを比較し、接触させた細胞のほうが、PPM1Dの酵素活性が低下している又はPPM1Dによって脱リン酸化された基質の割合が低下している場合に、核酸アプタマーがPPM1DとPPM1Dの基質との結合を阻害していると判断することができる。
核酸アプタマーによる細胞増殖抑制を確認する方法としては、例えば、核酸アプタマーを接触させた細胞と、核酸アプタマーを接触させていない細胞とを比較し、接触させた細胞のほうが、細胞増殖率が低い場合に、核酸アプタマーが細胞の増殖を抑制していると判断することができる。
核酸アプタマーによるp53の活性化を確認する方法としては、例えば、核酸アプタマーを接触させた細胞と、核酸アプタマーを接触させていない細胞とを比較し、接触させた細胞のほうが、リン酸化状態のp53の割合が増加している場合に、核酸アプタマーがp53を活性化していると判断することができる。
1.SELEX法を用いたPPM1D結合DNAアプタマーのスクリーニング
陽イオン刺激により立体構造が変化しグアニン四重鎖構造を形成するDNAアプタマー(以下、「イオン刺激応答性DNAアプタマー(Ion- responsive DNA Aptamer;IRDAptmer)」と称する場合がある)のライブラリを独自に開発し、SELEX法を用いて陽イオン存在下でPPM1DのB-loopに特異的に結合するDNAアプタマーをスクリーニングした(図3参照)。イオン刺激応答性DNAアプタマーは下記一般式(IV)に示される塩基配列からなる。なお、一般式(IV)中、Nは任意の塩基であり、アデニン、グアニン、シトシン又はチミンのいずれかの塩基である。「common seq.」は、common sequence(共通配列)の略記であり、DNAアプタマーの増幅のために用いられたプライマー配列である。また、一般式(IV)において「AGG」(配列番号17)及び3つの「TTAGGG」(配列番号18)からなる4組のグアニンを含む配列によりグアニン四重鎖構造が形成される。
p53(15P)を基質として用いた。p53(15P)のアミノ酸配列は、「Ac-VEPPLXQETFSDLW-NH2」(配列番号23)である。「Ac」はアセチル基を示し、Xはリン酸化されたセリン残基である。p53(15P)(10μM)、PPM1D(4nM)、及び各DNAアプタマー(10μM)を緩衝液に添加し、混合溶液を調製し、10分間静置した。混合溶液の調製に用いられた緩衝液の組成は、50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、30mM MgCl2、100mM NaClである。その後に、遊離リン酸検出試薬Biomol Green (Enzo Life Sciences,Inc.社製、型番:BML-AK111-1000)を用いて、脱リン酸化されたp53(15P)の量を算出することにより、PPM1Dの酵素活性を定量し、各DNAアプタマーによるPPM1Dの阻害効果を確認した。結果を図5に示す。図5において、「Control」はp53(15P)及びPPM1Dを混合し、DNAアプタマーを含まない反応系である。「Library」は、「5’-(common seq.)-N40-(common seq.)-3’」である。「M1D-Q1F」、「M1D-Q4F」及び「M1D-Q5F」は、上記M1D-Q1、M1D-Q4及びM1D-Q5の5’末端及び3’末端にそれぞれSELEX法で用いられたプライマー配列(配列番号24及び25)が付加されたものである。「M7F」は、「5’-(common seq.)-CCCCAAGCCCACTAAGATTAGTTTAATTTGAACTCCGGTG-(common seq.)-3’」(配列番号26)である。各DNAアプタマーを添加した反応系における酵素活性は、Controlでの酵素活性を100%としたときの相対値で表している。
次いで、M1D-Q5FのPPM1Dに対する阻害効果が配列依存的なものであることを確認するために、M1D-Q5Fの配列をランダム化したDNAアプタマー(以下、「M1D-Q5F Random」と略記する場合がある)を用いて、上記「2.」と同様の反応系にて、阻害効果を確認した。反応液中の各DNAアプタマーの濃度が100nM、1μM、2μM、3.3μM、5μM又は10μMとなるように濃度をふって添加し、各濃度における酵素活性を測定した。結果を図6に示す。図6において、「IC50」は50%阻害濃度を示し、M1D-Q5Fを用いた反応系について阻害曲線から「IC50 = 2.9±0.2μM」と算出された。
Q5FがPPM1DのB-loopを標的としていることを確認するために、PPM1DSubB及び野生型のPPM1D(以下、「PPM1DWT」と略記する場合がある)とM1D-Q5Fとの結合試験を行った。0、0.050、0.10、0.50又は1.00μgのPPM1Dをそれぞれ基板上にコーティングし、0.5μMの5'末端にビオチンを付加したM1D-Q5Fを含む1×PBS溶液を滴下し、120分間静置した後に、基板を洗浄した。次いで、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を加えて、60分間静置した後に、基板を洗浄した。次いで、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホネート)(ABTS)基質を添加した。この基質はHRPによって酸化されて青緑色を生ずる。基質添加後の溶液について、プレートリーダーを用いて測定した405nmにおける吸光度(OD405)を測定した。結果を図7に示す。
次いで、M1D-Q5FがPPM1D特異的に結合することを確認するために、他の種類のホスファターゼであるPPM1A及びScp1を用いて、阻害効果を確認した。基質としては、pNPPを用いた。pNPP(1mM)、各ホスファターゼ(20nM)、及びM1D-Q5F(100nM、1μM、5μM又は10μM)を緩衝液に添加し、混合溶液を調製し、10分間静置した。混合溶液の調製に用いられた緩衝液の組成は、PPM1D及びPPM1Aにおいては50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA、10mM MnCl2、100mM NaClである。Scp1においては、50mM Tris-Acetate(pH5.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA、10mM MgCl2、100mM NaClである。各濃度における酵素活性を測定した。結果を図8に示す。図8において、「IC50」は50%阻害濃度を示し、PPM1Dを用いた反応系について阻害曲線から「IC50 = 1.75±0.04μM」と算出された。
BLItzTM systemを用いて、120mMのカリウムイオン又はナトリウムイオン存在下でのM1D-Q5FとPPM1Dとの結合相互作用の速度定数及びアフィニティ(ka、kd、KD)を算出した。結合曲線を図9に、解離定数(KD)を以下の表2に示す。
円偏光二色性分光計(日本分光社製、型番:JASCO CD J-720WI)を用いて、140mMのカリウムイオン又はナトリウムイオンの存在下でのM1D-Q5FのCDスペクトルを得た。結果を図10に示す。図10において、「M1D-Q5FC」とは、M1D-Q5Fのグアニン四重鎖構造を形成する配列のGをCに置換したオリゴDNA「5’-(common seq.)-GACCTAATTGTTACCCGCGTTGTTACCCTGGGACTTACCC-(common seq.)-3’」(配列番号:27)である。
100mMのカリウムイオン又はナトリウムイオンの存在下で上記「2.」と同様の反応系にて、阻害効果を確認した。反応液中のM1D-Q5Fの濃度が5μMとなるように調製した。結果を図13に示す。
これらのことから、カリウムイオン存在下では、構造変化が大きいものの、グアニン四重鎖構造内での結合が強く、PPM1DのB-loopにフィットしにくいのに対して、ナトリウムイオン存在下では構造変化が小さいが、グアニン四重鎖構造内での結合がカリウムイオン存在下よりも弱く、程良く不安定であり、B-loopにフィットしやすいものと推察された(図14参照)。
PPM1Dが過剰発現していることが知られているヒト乳がん由来MCF7細胞(2×105cells/well)に3μMのM1D-Q5F又はM1D-Q1Fをリポフェクション法により導入し、2日間培養した。細胞を回収して、ウエスタンブロッティング法により、p53及びp21のタンパク質発現量を検出した。結果を図15に示す。p53はPPM1Dの基質であり、細胞周期においてがん抑制因子として働き、アポトーシス誘導に関連する因子である。p21はp53により発現が制御されており、S期のおける細胞周期進行の制御因子である。図15においてコントロールとしてアクチンのタンパク質も検出した。
これらのことから、M1D-Q5FはPPM1D阻害を介して抗がん活性を惹起することが示唆された。
陽イオン(140mMの塩化ナトリウム若しくは塩化カルシウム)存在下又は非存在下のM1D-Q5F又はM1D-Q5FC(1μM)に10μg/mLのDNase Iを添加し、添加から0、10、20、30及び60分後にサンプルを回収して、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてヌクレアーゼ耐性を確認した。なお、「M1D-Q5FC」とは、上記「7.」と同様のDNAアプタマーである。結果を図18に示す。また、図18に示すバンドのシグナルを定量化したグラフを図19に示す。図19において、各条件下の0分でのバンドのシグナルを100%としたときの相対値で表している。
このことから、グアニン四重鎖構造の形成により、M1D-Q5Fのヌクレアーゼ耐性が上昇することが示唆された。
M1D-Q5FC(1μM)又はM1D-Q5FC(1μM)を、10%のウシ胎児血清(FBS)、110mMの塩化ナトリウム及び5mMの塩化カリウムを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に添加し、0、1、2、3及び5日間インキュベートした。各日数経過後にサンプルを回収して、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてM1D-Q5Fの血清存在下での安定性を確認した。結果を図20に示す。また、図20に示すバンドのシグナルを定量化したグラフを図21に示す。図21において、各条件下の0日後(インキュベート開始時)でのバンドのシグナルを100%としたときの相対値で表している。
以上のことから、グアニン四重鎖構造の形成により、インビボ系においてM1D-Q5Fは高い安定性を有することが示唆された。
M1D-Q5Fの5’末端側及び3’末端側のプライマー配列を全て削ったM1D-Q5(配列番号14)を作製し(図22参照)、上記「2.」と同様の反応系にて、PPM1D阻害効果を確認することで、M1D-Q5Fの低分子量化を検討した。結果を図23に示す。また、図23の阻害曲線から算出されたIC50を表3に示す。
Cy3標識したM1D-Q5F(0.5 μM)及び未標識のM1D-Q5F(2.5 μM)をリポフェクション法によりMCF7細胞に導入し、48時間培養した。培養後、核染色用のDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)を用いた蛍光染色を行い、細胞をスピニングディスク型共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス製、型番:SpinSR10)、倍率:(全体像)100倍で観察した。結果を図24に示す。図24において、一番下の蛍光像は、右上の蛍光像(Merge)において四角で囲まれた部分を拡大した像(375倍)である。また、一番下の蛍光像では、DAPIの染色像内部におけるM1D-Q5Fの局在点を中心に、X軸(横軸)、Y軸(縦軸)で切断した断面をオリンパスFV31S-SWソフトウェアで解析した。その結果をそれぞれ下側(X軸)及び右側(Y軸)に示している。
M1D-Q5F、及びM1D-Q5について、上記「7.」と同様の方法を用いて、M1D-Q5FのCDスペクトル(カリウムイオンの濃度:0、5、10、30、60、140若しくは500mM又は1M)、及びM1D-Q5のCDスペクトル(カリウムイオンの濃度:0、1、30、140若しくは500mM又は1M)を得た。結果を図25に示す。
ウアバインは、強心配糖体のひとつであり、Na+, K+-ATPアーゼの特異的阻害剤であり、細胞内のナトリウムイオンの上昇及びカリウムイオンの減少を誘起することが知られている。このウアバインをM1D-Q5Fと共に細胞に導入することによるM1D-Q5Fの活性制御を検討した(図26参照)。具体的には、100nMのウアバイン及び3μMのM1D-Q5Fをリポフェクション法によりMCF7細胞に導入し、2日間培養した。また、ウアバイン及びM1D-Q5F無添加の細胞群、ウアバインを添加せず、M1D-Q5Fを添加した細胞群、ウアバインを添加し、M1D-Q5Fを添加しない細胞群も同様に準備し、培養した。培養後、「9.」と同様の方法を用いて、p53及びp21のタンパク質発現量を検出した。結果を図27に示す。図27においてコントロールとしてアクチンのタンパク質も検出した。また、図27に示すバンドのシグナルを定量化したグラフを図28に示す。図28において、ウアバイン及びM1D-Q5F無添加の細胞群でのバンドのシグナルを1としたときの相対値で表している。
1.SELEX法を用いたPPM1D結合DNAアプタマーのスクリーニング
実施例1の「1.」と同様の方法(1回目、4回目及び8回目のSELEXプロセスの前処理として、PPM1DSubBを用いてDepletion法も実施)を用いて、カリウムイオン存在下で、PPM1Dに結合するDNAアプタマーをスクリーニングした。なお、実施例1の「1.」で用いたライブラリと比べて、Common sequenceが異なるライブラリを用いた。5’末端のプライマー配列を配列番号28に示し、3’末端のプライマー配列を配列番号29に示す。
上記「1.」で同定されたG4CAA1及びG4CAA2の5’末端及び3’末端にプライマー配列を付加したもの(以下、それぞれ「G4CAA1F」及び「G4CAA2F」と称する場合がある)を用いた。G4CAA1Fの塩基配列を配列番号11に示し、G4CAA2Fの塩基配列を配列番号13に示す。また、G4CAA1及びG4CAA2の塩基配列について、核酸組成は同じで配列をランダム化したもの(以下、それぞれ「G4CAA1 rdm」及び「G4CAA2 rdm」と称する場合がある)も作製した。G4CAA1 rdmの塩基配列を配列番号30に示し、G4CAA2 rdmの塩基配列を配列番号31に示す。G4CAA1 rdm及びG4CAA2 rdmは、イオン応答性のグアニン四重鎖構造を形成できないものであると考えられる。
上記「2.」の結果を踏まえて、G4CAA1、G4CAA2、G4CAA1 rdm及びG4CAA2 rdmを用いて、PPM1Dに対する阻害活性を解析した。基質としては、pNPPを用いた。pNPP(1mM)、ホスファターゼ(20nM)、及び各DNAアプタマー(100nM、1μM、5μM又は25μM)を緩衝液に添加し、混合溶液を調製し、10分間静置した。混合溶液の調製に用いられた緩衝液の組成は、50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA、10mM MnCl2、100mM KClである。各濃度における酵素活性を測定した。結果を図30に示す。また、図30に示す阻害曲線から算出されたIC50を表5に示す。
次いで、G4CAA1及びG4CAA2がPPM1D特異的に結合することを確認するために、他の種類のホスファターゼであるPPM1A及びScp1を用いて、阻害効果を確認した。基質としては、pNPPを用いた。pNPP(1mM)、各ホスファターゼ(20nM)、及び各DNAアプタマー(100nM、1μM、5μM又は25μM)を緩衝液に添加し、混合溶液を調製し、10分間静置した。混合溶液の調製に用いられた緩衝液の組成は、PPM1D及びPPM1Aで50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA、10mM MnCl2、75mM KClである。Scp1で50mM Tris-acetate(pH5.5)、0.02% β-mercaptoethanol、0.1mM EGTA、10mM MgCl2、75mM KClである。各濃度における酵素活性を測定した。結果を図31に示す。図31において、PPM1Dを用いた反応系について阻害曲線からG4CAA1では「IC50 = 7.68±0.87μM」と算出され、G4CAA2では「IC50 = 0.65±0.16μM」と算出された。
G4CAA1、G4CAA2、G4CAA1 rdm及びG4CAA2 rdmについて、実施例1の「7.」と同様の方法を用いて、CDスペクトルを得た。結果を図32(G4CAA1及びG4CAA1 rdm)、並びに、図33(G4CAA2及びG4CAA2 rdm)に示す。
75mMのカリウムイオン又はナトリウムイオンの存在下で上記「2.」と同様の反応系にて、阻害効果を確認した。反応液中の各DNAアプタマーの濃度が10μMとなるように調製した。結果を図36に示す。
Claims (7)
- 下記一般式(I)~(III)のいずれかに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドからなり、陽イオン存在下でグアニン四重鎖構造を形成し、Protein phosphatase magnesium-dependent 1 Deltaに対する結合能を有する、核酸アプタマー。
Y11は、以下の(a11)又は(a12)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a11)配列番号1に示される塩基配列;
(a12)配列番号1に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y12は、以下の(a13)又は(a14)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a13)配列番号2に示される塩基配列;
(a14)配列番号2に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y13は、以下の(a15)又は(a16)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a15)配列番号3に示される塩基配列;
(a16)配列番号3に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
Y21は、以下の(a21)又は(a22)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a21)配列番号4に示される塩基配列;
(a22)配列番号4に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y22は、以下の(a23)又は(a24)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a24)配列番号5に示される塩基配列;
(a25)配列番号5に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y23は、以下の(a25)又は(a26)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a25)配列番号6に示される塩基配列;
(a26)配列番号6に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。)
Y31は、以下の(a31)又は(a32)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a31)配列番号7に示される塩基配列;
(a32)配列番号7に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y32は、以下の(a33)又は(a34)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a33)配列番号8に示される塩基配列;
(a34)配列番号8に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列;
Y33は、以下の(a35)又は(a36)の塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である。
(a35)配列番号9に示される塩基配列;
(a36)配列番号9に示される塩基配列において、1又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列。) - 前記Y11が配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、
前記Y12が配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y13が配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である、請求項1に記載の核酸アプタマー。 - 前記Y21が配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、
前記Y22が配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y23が配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である、請求項1に記載の核酸アプタマー。 - 前記Y31が配列番号7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、
前記Y32が配列番号8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基であり、且つ、
前記Y33が配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド残基である、請求項1に記載の核酸アプタマー。 - 配列番号10~15のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである、請求項1に記載の核酸アプタマー。
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸アプタマーを有効成分として含有する、抗がん剤。
- 請求項6に記載の抗がん剤と、
陽イオンチャネル作用剤と、
を含む、がん治療キット。
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