仲裁者となる可能性のある人物として、ストレスを与えられている被害者に親近感を持っている人物が挙げられる。さらに、いじめなどの被害者にストレスを与える事象自体を悪いことであると認識していることにより、そのような事象を止めたいと望むような正義感の強い人物も、仲裁者となる可能性がある。
仲裁者となる可能性のある人物を特定する方法の1つとして、いじめなどの事象を検出した時点やいじめなどの事象の検出時点の直前において、被害者と仲の良い人物を選ぶこともできる。しかし、事象の種類によっては、事象が発生していることを検出するための観察期間が長くなることがある。例えば、被害者が仲間はずれにされていることや、被害者が周囲の人から無視されていることを検出するためには、被害者の周囲の人の行動を長期間にわたって観測することになる。すると、事象の検出時点では、事象の発生から時間が経っている。いじめなどの事象が長期化すると、被害者と仲の良い人物の中には、自分も被害者と一緒に被害を受けることを恐れて被害者と距離を置く人も出てくることが予想される。すると、単に事象を検出した時点で被害者と仲の良い人物を検出した場合、事象の継続期間中に被害者との間の距離を置いただけで被害者に対しては親近感を持っている人物を仲裁者の候補として抽出できないという問題が発生する。また、単に事象を検出した時点で被害者と仲の良い人物を検出した場合には、正義感が強い人物を仲裁者の候補として抽出することも困難である。
図1は、実施形態にかかる仲裁者の抽出方法の例を説明する図である。なお、以下の説明では、読みやすくするために、被害者の外的要因に起因して被害者にストレスを与える事象として検出される対象がいじめである場合を例として説明することがあるが、いじめ以外のハラスメントなどについてもいじめと同様に仲裁者を抽出できる。
いじめが発生している集団において、その集団に属する人物を、被害者、加害者、観衆、および、傍観者の4種類に分類することができる。被害者は、いじめの被害を受けている人物である。加害者は、被害者に対していじめを行っている人物である。観衆は、いじめ自体には参加していないが、被害者が加害者にいじめられている状態を楽しんで見ている人物である。従って、観衆は、いじめに参加していないものの、いじめを消極的に肯定しているといえる。
傍観者は、いじめに参加しておらず、いじめが行われている状態を傍観している人物である。傍観者の中には、いじめに対して無関心な人物といじめを快く思っていない人物が含まれる。さらに、傍観者は、いじめの検出時に被害者と親しい人物(図1のA)、いじめの発生前は被害者と親しいがいじめの検出時には被害者と距離を置いている人物(図1のB)、および、正義感が強くいじめをやめさせたいと望む人物(図1のC)を含む。
そこで、実施形態にかかる抽出装置10は、いじめを検出すると共に、いじめの種別を特定する。また、抽出装置10は、いじめの種別ごとに、その種別が所定期間以上にわたって収集した映像や音声などの情報を用いて検出される種別であるかを判定する。なお、この判定を行うために、抽出装置10は、予め、いじめの種別とその種別のいじめを検出するための期間が所定期間以上であるかを対応付けた情報を保持しているものとする。抽出装置10は、いじめの種別が、所定期間以上にわたって収集した情報を用いて検出される種別である場合、いじめの検出に使用した情報とその情報が取得された時刻を用いて、その事象の開始時点を推測する処理を行う。さらに、抽出装置10は、いじめの発生前は被害者と親しいがいじめの検出時には被害者と距離を置いている人物(図1のB)を特定し、特定した人物をいじめの仲裁者として抽出できる。
抽出装置10は、さらに、いじめの発生前は被害者と親しい人物(図1のB)に加えて、正義感が強い人物(図1のC)や、いじめの検出時に被害者と親しい人物(図1のA)も特定することもできる。図1のA~Cの全てを特定した場合、抽出装置10は、いじめの検出時に被害者と親しい人物(A)、いじめの発生前は被害者と親しい人物(B)、および、正義感が強い人物(C)の全てを、仲裁者の候補として抽出することができる。
さらに、抽出装置10は、収集データ31として記録しているデータ中に含まれている映像や音声などのデータを用いて、収集データ31に記録されている人物と被害者との間の人間関係などを特定できる。このため、いじめに対応する教師などは、いじめに気付いてから調査を行わなくても、被害者と他の生徒との間の人間関係に基づいた仲裁者の候補を得ることができる。いじめに対応する教師等は、抽出装置10が仲裁者として出力した人物のリストから、協力を要請する仲裁者を選択できる。従って、抽出装置10を用いることにより、いじめに対応する教師等の処理負担が軽減される。
このように、抽出装置10は、いじめなどの被害者にストレスを与える事象を止めるための仲裁者となる可能性のある人物を適切に特定することを支援することができる。いじめなどの被害者にストレスを与える事象は、学校、職場、地域社会など、複数の人が集まる様々な状況で発生し得る。学校、職場、地域社会など、複数の人が集まる場所において発生した問題を解決するために行動する教師、マネージャー、カウンセラーなどは、抽出装置10を用いて、仲裁者の候補を容易に特定することができるようになる。
<装置構成>
図2は、抽出装置10の構成の例を説明する図である。抽出装置10は、通信部11、制御部20、記憶部30、出力装置104を備える。
通信部11は、送信部12と受信部13を備える。送信部12は、他の装置にパケットを送信し、受信部13は他の装置からパケットを受信する。送信部12や受信部13がパケットを送受信する他の装置には、被害者にストレスを与える事象の検出に使用するデータの提供元や、仲裁者候補の抽出結果の送信先などが含まれる。ストレスを与える事象の検出に使用するデータの提供元には、映像データの送信元となるカメラ、音声データの送信元となるマイク、SNSで送受信されたテキスト情報の提供元の装置などが含まれる。
記憶部30は、収集データ31、名簿情報32、種別テーブル33、および、指標値テーブル34を有する。収集データ31は、カメラ、マイク、SNSで送受信されたテキスト情報の提供元の装置などから得られたデータである。名簿情報32は、監視対象となっている場所に現れる可能性のある人物の情報である。なお、SNSで送受信されたテキスト情報からいじめが特定される場合には、名簿情報32は、SNSに参加する人物の名簿である。名簿情報32は、個々の生徒についての氏名や識別情報(生徒ID)などを記録する。種別テーブル33は、発生し得る事象の種別と、各種別の事象を検出するための観察期間が所定の閾値以上であるかを示す情報を保持する。指標値テーブル34は、被害者や加害者との間の対人関係の良好度を数値化するための指標値を求める際に使用される。種別テーブル33や指標値テーブル34の例については後述する。
制御部20は、検出部21、計算部22、開始推定部23、および抽出部24を有する。検出部21は、被害者にストレスを与える事象を検出する。計算部22は、適宜、収集データ31と指標値テーブル34を用いることにより、収集データ31に情報が収集されている人物について、被害者や加害者との間の人間関係の良好度の指標値を計算する。開始推定部23は、検出された事象のうちで、検出のための観察期間が所定の期間以上である事象について、その事象が開始した時点を推定するための処理を行う。開始推定部23は、適宜、計算部22の計算結果や種別テーブル33を用いる。抽出部24は、仲裁者となり得る人物を抽出する。抽出部24は、検出のための観察期間が所定の期間未満である事象については、事象が検出された時点や、事象が検出された時点の前の所定の期間について算出された指標値を用いて、仲裁者を抽出する。一方、検出のための観察期間が所定の期間以上の事象について、抽出部24は、事象の開始時点の前の所定の期間から事象の検出時点までの期間について算出された指標値を用いて、仲裁者を抽出する。抽出部24は、抽出結果を出力装置104に出力する。
出力装置104は、抽出部24から入力された情報に基づいて、仲裁者の情報をオペレータが視認できるように出力する。なお、出力装置104は、仲裁者の情報に加えて、事象の発生、事象の被害者、事象での加害者などの他の情報も表示することもできる。
なお、図2は一例であり、実装に応じて抽出装置10の構成は変更され得る。例えば、いじめに対応しようとする教師などが使用する装置に対して、抽出装置10が抽出結果を送信する場合、抽出装置10は出力装置104を備えていなくても良い。この場合、抽出部24は、得られた結果を送信部12経由で送信先の装置に送信する。さらに、抽出装置10が収集データ31を収集するためのマイクやカメラなどの入力装置を備えていても良い。抽出装置10が収集データ31を収集するための入力装置を有する場合、抽出装置10は、入力装置から取得したデータを収集データ31として記憶する。なお、抽出装置10は、収集データ31を収集するための入力装置を有する場合においても、他の装置から収集データ31として使用できるデータを受信しても良い。
図3は、抽出装置10のハードウェア構成の例を説明する図である。抽出装置10は、プロセッサ101、メモリ102、バス105、出力装置104を備える。さらに、抽出装置10は、入力装置103、記憶装置106、可搬記憶媒体駆動装置107、ネットワークインタフェース109の1つ以上を有していても良い。
プロセッサ101は、任意の処理回路であり、例えば、Central Processing Unit(CPU)とすることができる。プロセッサ101は、制御部20として動作する。プロセッサ101は、例えば、メモリ102や記憶装置106に記憶されたプログラムを実行することができる。メモリ102は、プロセッサ101の動作により得られたデータや、プロセッサ101の処理に用いられるデータを、適宜、記憶する。記憶装置106は、プログラムやデータなどを格納し、格納している情報を、適宜、プロセッサ101などに提供する。メモリ102や記憶装置106は、抽出装置10において、記憶部30として動作する。
バス105は、プロセッサ101、メモリ102、入力装置103、出力装置104、記憶装置106、可搬記憶媒体駆動装置107、ネットワークインタフェース109を、相互にデータの送受信が可能になるように接続する。入力装置103は、キーボード、マウス、マイク、カメラなど、情報の入力に使用される任意の装置であり、出力装置104は、ディスプレイなど、データの出力に使用される任意の装置である。可搬記憶媒体駆動装置107は、メモリ102や記憶装置106のデータを可搬記憶媒体108に出力することができ、また、可搬記憶媒体108からプログラムやデータ等を読み出すことができる。ここで、可搬記憶媒体108は、Compact Disc Recordable(CD-R)やDigital Versatile Disk Recordable(DVD-R)を含む、持ち運びが可能な任意の記憶媒体とすることができる。ネットワークインタフェース109は、適宜、抽出装置10が他の装置と通信するための処理を行う。ネットワークインタフェース109は、通信部11として動作する。
<第1の実施形態>
第1の実施形態では、学校の教室において発生しているいじめについて、仲裁者となる人物を抽出する場合の例を説明する。また、教室には、映像データを収集するためのカメラと音声データを収集するためのマイクが予め設置されているものとする。
図4は、種別テーブル33の例を説明する図である。種別テーブル33は、いじめの種別と、個々の種別のいじめの検出のための観察期間の長さを対応付けている。観察期間が所定期間以上にわたっているかは、例えば、そのいじめの行為が1回だけ行われている間の観測によっていじめが発生していることを特定できるかによって分類されても良い。この場合、いじめの種別のうち、そのいじめの行為が1回だけ行われている間に収集した映像や音声などのデータを用いて特定できる種別は、観察期間が所定期間よりも短期間である(種別テーブル33中の「短期」)と分類される。一方、複数回のいじめの行為の各々の間に収集した映像や音声などのデータを合わせて解析する事により特定できる種別は、観察期間が所定期間よりも長期間である(種別テーブル33中の「長期」)と分類される。
図4の例では、暴力、暴言、仲間はずれ、嫌なことを強要、物を隠す、無視、悪いうわさを流すという7つの種別が挙げられている。これらの種別のうち、暴力、暴言、嫌なことを強要、物を隠すという4つの種別のいじめは、それらの行為が1回行われている間に撮影された映像や収音された音声データを解析することによって、いじめを特定することができる。このため、これらの4つの種別のいじめについての観察期間は「短期」に分類されている。一方、仲間はずれ、無視、悪いうわさを流すという3つの種別については、それらの種別の行為が行われている間に取得された複数回分のデータを合わせて総合的に解析することによって特定される。このため、これらの3つの種別のいじめについての観察期間は「長期」に分類されている。
図5は、指標値の求め方の例を説明する図である。被害者との間の人間関係の良好度を表わす指標値は、被害者との間の会話量、アイコンタクトの頻度、被害者と一緒にいる時間の長さ、および、被害者と一緒にいるときの表情の少なくとも1つを用いて決定される。また、指標値を求めるための基準は、実際の人間関係を正しく評価できるように、いじめなどの事象が発生していない状況下で取得されたデータ等を用いて調整され得る。以下、被害者と一緒にいる時の表情を用いて指標値を求める場合を例として、指標値の計算基準の設定方法の例を説明する。
計算部22は、予め、収集データ31中の映像に写っている人物の表情がポジティブな感情またはネガティブな感情を表わしている度合いを判定する基準を記憶している。以下、表情がポジティブまたはネガティブな感情を表わしている度合いのことを、「表情のポジネガ度」と記載することがある。計算部22は、表情のポジネガ度の計算基準として予め記憶している基準に基づいて、いじめが発生していない時期に収集された収集データ31中に映っている人物の各々についてポジネガ度を算出する。ここで、いじめが発生していない場合での人間関係は、調査対象のいじめに関して取得された収集データ31とは異なるデータとして記録されている情報であっても良い。また、後述する方法でいじめの開始時期が特定された場合には、開始時期の前に取得されたデータをいじめが発生していない場合での人間関係を表わすデータとすることができる。図5のテーブルTa1の右端の欄に、いじめが発生していない時期の収集データ31に映っている生徒の各々に対するポジネガ度の計算結果の例を示す。テーブルTa1の例では、ポジネガ度は5段階で表わされる。テーブルTa1の例では、複数のデータを用いて計算したポジネガ度の平均値を示している。この例では、5が非常にポジティブな表情であり、数字が小さくなるにつれて表情のポジティブ度が小さくなり、1が非常にネガティブな表情であるとする。図5のテーブルTa1の左端の欄の値は、そのエントリに計算結果が示されている生徒を識別する生徒IDである。
図5のテーブルTa1の右端に記載されている計算値は、計算部22に設定された基準に基づいて計算されているが、必ずしも被害者と被害者の周囲の人の間の人間関係を適切に表していない場合がある。例えば、表情の変化が起こりにくい人の場合、計算部22が基準に基づいて求めた値よりもポジティブな感情やネガティブな感情を有している可能性がある。
そこで、計算部22が保持している基準に基づいて算出したポジネガ度の計算値を、実際の関係と合わせるために、いじめなどが発生したクラスでのアンケート結果や、いじめなどが発生したクラスの生徒を教師などが観察した結果と比較する。アンケートや観察結果では、被害者との人間関係が良いかをポジネガ度と同じ段階数で評価する。図5のテーブルTa1の中央の欄の値は、各エントリの生徒に対してのアンケート結果や教師による観察結果によって、いじめ発生の前での被害者との間の人間関係が評価された結果である。テーブルTa1の例では、アンケート結果や教師による観察結果も5段階評価であり、5が最も人間関係が良いことを示す。また、数値が小さくなるにつれて、人間関係の良好度が低くなることを表わし、1は最も人間関係が悪い状態を示す。
計算部22は、図5のテーブルTa1の中央の欄の値と計算値が一致するように、判定の際に使用する基準を調整する。このとき、例えば、生徒ごとに表情のポジネガ度の評価基準を微調整しても良い。
テーブルTa1に示す値を用いて個々の生徒についての評価基準の微調整を行うのとは別に、計算部22は、表情のポジネガ度を指標値に換算するためのテーブルTa2も保持する。テーブルTa2では、指標値は-1から1の間の値で表わされており、ポジネガ度と指標値の間の対応関係が設定されている。なお、テーブルTa2は一例である。例えば、ポジネガ度と指標値の間の対応付けはテーブルTa2に示すよりも詳細に行われていても良い。また、計算部22は、ポジネガ度と指標値の対応関係を、ポジネガ度の関数として指標値をプロットしたグラフとして保持していても良い。
従って、計算部22は、テーブルTa1を用いて個々の生徒の表情の変化しやすさに合わせた基準を用いて、個々の生徒の表情のポジネガ度をその生徒と被害者との人間関係を表わすように算出することができる。さらに、ポジネガ度として算出した被害者との人間関係を、テーブルTa2に示すようなポジネガ度と指標値の間の対応関係を用いて、指標値に変換できる。
図5を参照しながら、表情のポジネガ度を用いて指標値を求める場合の例を説明したが、指標値を求める際に使用されるデータは表情のポジネガ度でなくても良い。例えば、会話量、アイコンタクト頻度、笑顔の検出頻度などについても、計算部22は、人間関係を適切に評価するための基準と指標値に変換するための対応関係を保持することができ、これらの値を用いて指標値を求めることができる。
図6は、第1の実施形態にかかる抽出方法の例を説明するフローチャートである。図6の例では、予め、抽出装置10の受信部13は、映像データおよび音声収録データとして、収集データ31を受信しているものとする。
検出部21は、収集データ31として記憶部30に保持されている映像データおよび音声収録データを解析することにより、いじめを検出する(ステップS1、S2)。映像データおよび音声収録データの解析やいじめの検出方法は、任意の方法であって良い。例えば、検出部21は、人の移動曲線、人の移動速度、複数の人の相対位置、人の手や足などの動き、人の表情などを用いて、人の行動種別パターンを解析することができる。この結果、検出部21は、例えば、ある生徒が他の生徒を蹴飛ばしている、殴っているなどの行動種別を特定できる。また、音声データの解析により、検出部21は、発話内容、発話の際の感情の動きなどを特定できる。なお、検出部21は、音声データの解析のために、音声の特徴のモデルとマッチングから感情の種類などを特定するための情報を予め保持することができる。検出部21は、いじめの検出時刻、いじめの被害者情報などをいじめ情報として保持する。ここで、いじめの被害者情報には、被害者の生徒ID、被害者の顔の特徴、被害者の名前などが含まれる。検出部21は、適宜、いじめ情報を記憶部30に保存しても良い。
次に、検出部21は、いじめの種別を判定する(ステップS3)。例えば、休み時間あるいは昼食時に、高い頻度で、特定の生徒がグループから孤立している場合、検出部21は、仲間はずれや無視が行われていると判定する。さらに、特定の人物と他の人物の間の会話量が減る、特定の人物と他の人物の間でアイコンタクトが発生した直後に他の人物の方が目をそらすなどの状況が頻繁に発生する場合も、検出部21は、仲間はずれや無視を検出したと判定できる。また、激しい動きによる他の生徒への接触や、ある生徒が手、腕、足、脚によって攻撃をしている映像が特定された場合、検出部21は暴力によるいじめが行われていると判定する。さらに、ある生徒の顔の表情が泣いている表情あるいは困っている表情であることに加えて、周囲にいる生徒が嘲笑しているような音声が得られた場合、検出部21は、被害者に嫌なことを強要しているなどの状況が発生していると判定する。検出部21は、判定したいじめの種別を開始推定部23に出力する。
開始推定部23は、検出のための観察期間が閾値以上の種別のいじめが検出されたかを判定する(ステップS4)。ステップS4の処理の際に、開始推定部23は、種別テーブル33(図4)を用いる。開始推定部23は、種別テーブル33において観察期間が「短期」に分類されている種別を、検出のための観察期間が閾値未満の種別であると判定する(ステップS4でNo)。開始推定部23は、判定結果を計算部22と抽出部24に出力する。すると、抽出部24は、計算部22で計算された指標値を用いながら観察期間の短いいじめでの仲裁者候補抽出の処理を行う(ステップS5)。
一方、種別テーブル33において観察期間が「長期」に分類されている種別を、開始推定部23は、検出のための観察期間が閾値以上の種別であると判定する(ステップS4でYes)。開始推定部23は、判定結果を計算部22と抽出部24に出力する。すると、抽出部24は、計算部22で計算された指標値を用いて観察期間の長いいじめでの仲裁者候補抽出の処理を行う(ステップS6)。
以下、観察期間の短い種別のいじめでの仲裁者候補抽出処理と、観察期間の長い種別のいじめでの仲裁者候補抽出処理に分けて、抽出装置10で行われる仲裁者の抽出方法の例を説明する。
(1a)観察期間の短い種別のいじめでの仲裁者候補の抽出処理
図7は、観察期間が短い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図7では、変数xと定数Xを使用する。定数Xは、収集データ31に記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数である。変数xは、処理対象とした生徒の数を計数するために用いられる。なお、図7は処理の一例であり、実装に応じて処理の手順は変更され得る。例えば、ステップS11とS12は、並行して行われても良いし、いずれか一方が他方よりも先に行われても良い。さらに、ステップS14の処理は、ステップS15の前の任意のタイミングで行われ得る。
計算部22は、観察期間の短い種別のいじめを検出したことが通知されると、映像データおよび音声データを、収集データ31から取得する(ステップS11)。計算部22は、ステップS11で取得したデータを用いて、収集データ31に映像や音声が含まれている生徒の各々について、生徒IDを特定すると共に、被害者との間の人間関係の指標値を計算する。抽出部24は、検出部21または記憶部30から、いじめ情報を取得する(ステップS12)。いじめ情報には、いじめの検出時刻、被害者の生徒ID、被害者の顔の特徴、被害者の名前などが含まれる。抽出部24は、計算部22で得られた計算結果から、いじめの検出時刻から遡った所定の期間についての被害者との間の人間関係の指標値を抽出する(ステップS13)。
図8は、指標値の例を説明する図である。例えば、収集データ31に記録されている各生徒について、図8に示すような指標値が計算部22によって計算されているとする。いじめの検出時刻が時刻tであるとする。また、所定の期間の開始点は時刻2であるとする。すると、抽出部24は、図8に示す情報のうち、時刻2から時刻tまでの指標値を、図8の計算結果に含まれている各生徒について抽出する。
図7のステップS14において、抽出部24は、変数xを1に設定する(ステップS14)。抽出部24は、ステップS13で抽出した指標値を用いて、x番目の生徒の被害者との人間関係の指標値の平均値を算出する(ステップS15)。抽出部24は、x番目の生徒について得られた平均値が閾値1を上回っているかを判定する(ステップS16)。閾値1は、被害者との間の人間関係が仲裁者となり得る程度に良好であるかを判定するために使用される。閾値1の値は、経験的に決定されても良く、また、いじめが発生する前に観測された収集データ31を分析した結果に基づいて設定されても良い。
x番目の生徒について得られた平均値が閾値1を上回っている場合、抽出部24は、x番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS16でYes、ステップS17)。ステップS17の処理が終わった後、および、x番目の生徒について得られた平均値が閾値1以下の場合、抽出部24は変数xを1つインクリメントする(ステップS18)。抽出部24は、変数xが定数Xを超えたかを判定する(ステップS19)。変数xが定数Xを超えていない場合、ステップS15以降の処理が繰り返される(ステップS19でNo)。一方、変数xが定数Xを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS19でYes)。
(1b)観察期間の長い種別のいじめでの仲裁者候補の抽出処理
図9は、観察期間が長い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明する図である。観察期間が長い種別のいじめの場合でも、図6を参照しながら説明したように、検出部21は、収集データ31として記憶部30に記憶されている映像データや音声データを用いて、いじめを検出できる(ステップS31)。また、観察期間が長い種別のいじめに対する処理でも、計算部22は、収集データ31に映像や音声が含まれている生徒の各々について、生徒IDを特定すると共に、被害者との間の人間関係の指標値を計算するものとする。さらに、検出部21は、検出したいじめの種別を開始推定部23に通知する。
図9の例では、開始推定部23は、検出のための観察期間が閾値以上の種別のいじめが検出されたと判定したとする。この場合、開始推定部23は、計算部22によって計算された加害者と被害者の人間関係の指標値を、その指標値の計算に用いられたデータの取得時刻と対応付けることにより、いじめの当事者の間の人間関係の指標値の時間変化を求める(ステップS32)。ケースC1は、いじめの加害者と被害者の間の人間関係の指標値の時間変化の例である。時刻TDはいじめを検出した時点を表す。閾値2は、人間関係が悪いかを判定するために使用する閾値である。人間関係の指標値が閾値2以下の場合に人間関係が悪いと判定できるものとする。閾値2は、経験則などによって設定されても良く、また、指標値の計算の際に用いる基準を調整するために行ったアンケートの結果を指標値に換算することで得られる情報を用いて設定されても良い。開始推定部23は、いじめの加害者と被害者の間の人間関係の指標値が閾値2以下になった時点をいじめの開始時点であると推定する(ステップS33)。ケースC1の例では、時刻TSにおいて加害者と被害者の間の人間関係の指標値が閾値2になっている。このため、時刻TSがいじめの開始時点として推定される。
なお、いじめの加害者が複数である場合には、計算部22において、加害者の各々について、被害者の間の人間関係の指標値が個別に算出される。この場合、開始推定部23は、指標値の算出に使用されたデータの収集時刻ごとに、得られた指標値の平均値を求める。開始推定部23は、求めた平均値を時間の関数として分析することにより、加害者と被害者の間の人間関係の指標値の平均値が閾値2以下となる時刻を、いじめの開始時点として推定する。
計算部22は、いじめの開始時点であると推定されている時刻TSより前の所定の期間(ケースC1に示す期間N1)にわたって得られた収集データ31を用いて、いじめが発生する前の人間関係の指標値を算出する(ステップS34)。ただし、ステップS34では、いじめの加害者以外で収集データ31にデータを収集されている人物の各々について、いじめの被害者との間の人間関係の指標値が算出される。すなわち、ステップS34では、いじめが発生する前の段階での、いじめの被害者と加害者以外の人との間の人間関係の指標値を求めている。
ステップS34の処理と並行して、計算部22は、いじめが発生してからいじめが検出されるまでの間の期間に収集された収集データ31を用いて、いじめが発生した後の人間関係の指標値を算出する(ステップS35)。ステップS35でも、いじめの加害者以外で収集データ31にデータを収集されている人物の各々について、いじめの被害者との間の人間関係の指標値が算出される。従って、ステップS35では、いじめの発生後での、いじめの被害者と加害者以外の人との間の人間関係の指標値を求めている。
抽出部24は、ステップS34およびS35で得られた人間関係の指標値を時間の関数として解析することにより、仲裁者の候補を抽出する(ステップS36)。以下、図10を参照しながら抽出部24の処理の例を説明する。
図10は、指標値の経時変化の例を説明する図である。図10のケースでは、Aという人物とBという人物の各々について、被害者との間の人間関係の指標値の時間変化を示している。抽出部24は、いじめの影響がない場合に被害者と人間関係が良い人物を仲裁者として選択できる。いじめの影響がない場合に被害者と人間関係が良い人物は、いじめが発生する前の人間関係推定期間(N1)において、被害者との人間関係の指標値の平均値が高い人物である。従って、抽出部24は、いじめが発生する前の期間N1での指標値の平均値が高い人物を、仲裁者として選択することができる。
さらに、抽出部24は、いじめに対して否定的な考えを持っている正義感の強い人物も仲裁者として選択できる。正義感の強い人物は、いじめが発生した後であっても被害者を露骨に避けるなどの行動をとらず、いじめに加担しにくいと考えられる。従って、正義感の強い人物は、いじめが発生した後の人間関係の変化推定期間(期間N2)において、被害者との人間関係の指標値の悪化が比較的遅いと考えられる。例えば、抽出部24は、被害者との人間関係の指標値が閾値3を下回る時刻が相対的に遅い人物も仲裁者として選択することができる。被害者との人間関係の指標値が変動することにより、被害者との人間関係の指標値が閾値3を下回る時刻が複数ある場合、抽出部24は、被害者との人間関係の指標値が閾値3を下回る時刻のうちの最も遅いものを仲裁者の選択基準として使用できる。ここで、閾値3は、人間関係が良好であると判定できる指標値の最小値である。閾値3は、いじめが発生する前に観測された収集データ31の分析結果などに基づいて設定されても良く、また、オペレータの経験などによって設定されても良い。
以上の基準を用いると、人物Aは、期間N1にわたって、被害者との人間関係の指標値の平均値が比較的高いので、抽出部24によって仲裁者として選択され得る。一方、人物Aと人物Bのいずれも、期間N2において被害者との人間関係の指標値が閾値3を下回らない。このため、人物Aと人物Bのいずれも正義感の強い人物として抽出部24によって仲裁者として選択され得る。
図11は、観察期間が長い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図11を参照しながら、いじめの開始時点が特定された後で行われる処理の詳細を説明する。図11では、変数yと定数Yを使用する。定数Yは、収集データ31に記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数である。変数yは、処理対象とした生徒の数を計数するために用いられる。なお、図11は処理の一例であり、実装に応じて処理の手順は変更され得る。例えば、ステップS43とS44は、並行して行われても良いし、いずれか一方が他方よりも先に行われても良い。
開始推定部23は、検出された種別のいじめの観察期間が長い場合、いじめの開始時点の推定処理を行う。開始推定部23は、観察期間が長い種別のいじめが検出されたことといじめの開始時点の推定結果を計算部22に通知する。計算部22は、観察期間が長い種別のいじめが検出されたことを開始推定部23から通知されると、変数yを1に設定する(ステップS41)。なお、図11の例でも観察期間が短い種別のいじめの場合と同様に、計算部22は、観察期間の長い種別のいじめが検出されたことが通知されると、映像データおよび音声データを、収集データ31から取得するものとする。
その後、計算部22は、y番目の生徒について、いじめの開始時点TSよりも期間N1だけ遡った時点からいじめを検出した時点TDまでの被害者との間の人間関係の指標値A(t)を算出する(ステップS42)。ここで、指標値は収集データ31の収集が行われた各時点に対して求められるので、計算部22は指標値を時間の関数A(t)として求めることになる。抽出部24は、計算部22での計算結果のうち、いじめの発生前(期間N1)での指標値A(t)の平均値Aaveを算出する(ステップS43)。抽出部24は、計算部22での計算結果のうち、いじめの発生後(期間N2)での指標値A(t)の値が閾値3を下回る時刻のうちの最も遅い時刻Tyを求める(ステップS44)。なお、期間N2の間に指標値A(t)の値が閾値3を下回らない場合、抽出部24は、y番目の生徒についての時刻Tyをいじめの検出時点TDに設定する。
その後、抽出部24は、いじめの発生前(期間N1)での指標値A(t)の平均値Aave、および、指標値A(t)の値が閾値3を下回る時刻のうちの最も遅い時刻Tyを用いて、y番目の生徒の仲裁者候補評価値Cを算出する(ステップS45)。例えば、ステップS45において、抽出部24は、以下の式(1)によって仲裁者候補評価値Cを算出できる。
式(1)の第1項は、いじめの発生前での指標値A(t)の平均値Aaveの倍数である。すなわち、いじめの発生前に被害者との人間関係が良好であるほど、式(1)の第1項が大きくなる。従って、式(1)の第1項は、いじめの発生前に被害者と親しい人物を仲裁者として選択しやすくしている。
式(1)の第2項は、(Ty-TS)の倍数である。ここで、(Ty-TS)は、いじめの開始時点から、y番目の生徒と被害者との間の人間関係が閾値3を下回るまでにかかる時間の長さである。従って、いじめの開始時点から、被害者との間の人間関係が閾値3を下回るまでにかかる時間が長い人物ほど、式(1)の第2項が大きくなる。いじめの開始時点から、被害者との間の人間関係が閾値3を下回るまでにかかる時間が長い人物は、いじめに加担しにくく、正義感の強い人物であるといえる。従って、式(1)の第2項は、正義感の強い人物を仲裁者として選択しやすくしている。
式(1)中のαは、0から1の間の値であり、平均値Aaveと時刻Tyの遅さとのいずれの要素をより重視して仲裁者を選択するかに関する重みである。抽出装置10のオペレータは、αの値を調整することによって、いじめの発生前に被害者と親しい人物と正義感の強い人物のどちらを優先的に仲裁者にするかを設定できる。なお、αの値は、適宜、抽出装置10の受信部13や入力装置103を介して、オペレータから設定され得る。α=1の場合は、いじめの発生前に被害者と親しい人物を仲裁者に選択する。一方、α=0の場合は、いじめの発生前に被害者と親しいかに関わらず、正義感が強く、いじめの発生によって被害者と距離をおくまでの時間が長い人物を仲裁者に選択する。同様に、0<α<1の場合、抽出部24は、αの値が大きいほど、いじめの発生前での被害者との親しさを優先して仲裁者を選択し、αの値が小さいほど、正義感の強さを優先して仲裁者を選択することができる。
抽出部24は、y番目の生徒の仲裁者候補評価値Cが閾値4よりも大きいかを判定する(ステップS46)。閾値4は、仲裁者として適切であると判定される仲裁者候補評価値Cの最小値である。ここで、閾値4は、経験などに基づいて予め決められた値でも良く、また、抽出装置10の受信部13や入力装置103を介して、オペレータから設定される値であっても良い。オペレータが閾値4を設定できる場合、オペレータは、抽出装置10で選択された仲裁者の数と希望する仲裁者の数の差分を小さくするように、閾値4の値を調整しても良い。
y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値4を上回っている場合、抽出部24は、y番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS46でYes、ステップS47)。ステップS47の処理が終わった後、および、y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値4以下の場合、抽出部24は変数yを1つインクリメントする(ステップS48)。抽出部24は、変数yが定数Yを超えたかを判定する(ステップS49)。変数yが定数Yを超えていない場合、ステップS42以降の処理が繰り返される(ステップS49でNo)。一方、変数yが定数Yを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS49でYes)。
なお、図11の例では、生徒ごとに被害者との間の人間関係の指標値の計算や仲裁者として選択するかが求められたが、計算部22は収集データ31に記録された全ての生徒に対してまとめて指標値を計算してもよい。この場合、抽出部24は、収集データ31に記録された全ての生徒に対してまとめて指標値の平均値Aaveと時刻Tyを求めることができる。
図12は、収集データ31に記録された全ての生徒に対してまとめて指標値が計算される場合に、仲裁者の抽出の際に使用するデータの例である。例えば、収集データ31に記録されている各生徒について、図12のテーブルTa11に示すような指標値が計算部22によって計算されているとする。いじめの検出時刻TDが時刻Tであり、いじめの開始時刻が時刻5(図示せず)であるとする。また、期間N1の開始点は時刻2であるとする。すると、抽出部24は、テーブルTa11に示す情報のうち、時刻2から時刻5までの指標値の平均値をAaveとして求める。テーブルTa11の右端の欄に、各生徒についての指標値の平均値Aaveを示す。
さらに、抽出部24は、テーブルTa11中の指標値を閾値3と比較することにより、いじめの発生後(期間N2)での指標値A(t)の値が閾値3を下回る時刻のうちの最も遅い時刻Tyを求める。いじめの開始時刻が時刻5である場合、各生徒について、時刻5以降の時刻について求められた指標値A(t)の値と閾値3が比較される。テーブルTa12が各生徒についての時刻Tyの特定結果である。テーブルTa12の例では、生徒ID=1の生徒についての時刻Tyは時刻10であり、生徒ID=2の生徒についての時刻Tyは時刻6である。
このように、収集データ31に記録された全ての生徒に対してまとめて指標値の平均値Aaveと時刻Tyが得られた場合、抽出部24は、テーブルTa11とTa12の値を用いて、各生徒についての仲裁者候補評価値Cを算出する。その後の判定処理は、図11を参照しながら説明したとおりである。
このように、第1の実施形態によると、抽出装置10は、いじめを検出するための観察期間が長期間である場合、いじめの検出時に被害者と親しい人物、いじめの発生前は被害者と親しい人物、正義感が強い人物を仲裁者として特定することもできる。このため、抽出装置10は、いじめによる人間関係の変化の影響を受けて、仲裁者となり得る人物を特定することに失敗することを防ぐことができる。
一方、いじめを検出するための観察期間が短期間である場合、いじめの発生からいじめの検出までの間の時間が短いため、いじめの検出時点においては、いじめの影響による人間関係の変動は無視できる。このため、いじめの検出時点から所定期間の間の人間関係を用いて仲裁者を特定することにより、長期的な観察を行う種別のいじめの際よりも簡潔な処理で仲裁者を特定できる。
さらに、第1の実施形態によると、オペレータは、抽出部24での演算に使用する重み(式(1)中のα)の値を調整することにより、いじめの発生前での被害者との親しさと、正義感の強さのいずれを優先して仲裁者を選択するかを調整することができる。また、仲裁者候補評価値Cと比較される閾値4の値を調整することによって、オペレータは、いじめの対処方法に応じた所望の人数の仲裁者を特定することができる。例えば、大勢の仲裁者に被害者と親しくすることを依頼して被害者をサポートする場合には、閾値4を小さくして抽出装置10で選択される仲裁者の人数を増やすことができる。一方、仲裁者の人数を絞って、仲裁者を被害者に深く関わらせることで被害者のメンタル面をサポートするような方法でいじめを解決しようとする場合には、オペレータは閾値4の値を大きくすることもできる。
なお、以上の例では、学校の教室を例としたが、第1の実施形態は、学校の他に職場や施設などの、複数の人物が集まる任意の場所で発生するいじめやハラスメントなどの解決のための仲裁者の特定を行うために使用できる。
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、SNSにおいて発生しているいじめについて、仲裁者となる人物を抽出する場合の例を説明する。第2の実施形態では、いじめなどが発生しているおそれがある場合に、学校などの団体は、適宜、SNSの運営会社などにSNSで送受信されているテキストのデータや個々のテキストの送信時刻、友人リストなどの情報を求めることができるものとする。ここで、友人リストは、SNSにおいて相互認証されたユーザのリストである。SNSの運営会社等は、学校側からの求めに応じて、学校側から指定されたSNSコミュニティで送受信されたテキストデータ、個々のテキストの送信時刻、友人リストなどの情報を、学校側から指定された抽出装置10に提供するものとする。抽出装置10は、SNSの運営会社から提供された情報を、収集データ31や名簿情報32として記憶する。
図13は、第2の実施形態にかかる抽出方法の例を説明するフローチャートである。検出部21は、収集データ31として記憶部30に保持されているSNSのテキストデータを解析することにより、いじめを検出する(ステップS61、S62)。
テキストデータの解析やいじめの検出方法は、任意の方法であって良い。例えば、検出部21は、あるユーザの友人リストに含まれているエントリ数が急激に減少した場合に、その友人リストを利用するユーザに対するいじめが発生している可能性があると判定する。そこで、検出部21は、エントリ数が急激に減少した友人リストを利用するユーザと、他のユーザの間で送受信されたテキストデータを解析しても良い。このとき、検出部21は、いじめの際に使用されることが予測される文言が解析対象のテキストデータに含まれている回数が所定の閾値を超えた場合に、いじめが発生していると判定することができる。なお、記憶部30は、いじめの際に使用されることが予測される文言のリストを予め保持することができ、検出部21は、適宜、文言のリストを読み出すことができる。さらに、エントリ数が急激に減少した友人リストを利用するユーザが送信したメッセージに対する応答が遅い場合や応答がない場合も、検出部21は、いじめが発生していると判定することができる。検出部21は、いじめの検出時刻、いじめの被害者情報などをいじめ情報として保持する。ここで、いじめの被害者情報には、被害者の生徒ID、被害者の名前などが含まれる。検出部21は、適宜、いじめ情報を記憶部30に保存しても良い。
次に、検出部21は、いじめの種別を判定する(ステップS63)。例えば、いじめの際に使用されることが予測される文言が処理対象のテキストデータから検出されている場合、検出部21は、暴言によるいじめが発生したと判定する。また、あるユーザに対するメッセージへの返信がない場合や極端に遅い場合には、仲間はずれや無視などのいじめが発生していると判定する。検出部21は、判定したいじめの種別を開始推定部23に出力する。
開始推定部23は、検出のための観察期間が閾値以上の種別のいじめが検出されたかを判定する(ステップS64)。ステップS64の処理の際に、開始推定部23は、種別テーブル33を用いる。第2の実施形態で使用される種別テーブル33に含まれるいじめの種別は、第1の実施形態と異なっていても良い。例えば、第2の実施形態で使用される種別テーブル33は、暴言、仲間はずれ、無視、悪いうわさを流すという4つの種別を含むことができる。暴言は、暴言が記載されたテキストデータを解析することによって、いじめを特定することができる。このため、暴言は、観察期間が「短期」である種別のいじめである。一方、仲間はずれ、無視、悪いうわさを流すという3つの種別については、それらの種別の行為が行われている間に取得された複数回分のテキストデータをあわせて総合的に解析することによって特定される。このため、これらの3つの種別のいじめについての観察期間は「長期」に分類される。
開始推定部23は、検出部21で検出された種別が種別テーブル33において「短期」の観察期間に対応付けられている場合、検出されたいじめは検出のための観察期間が閾値未満の種別であると判定する(ステップS64でNo)。開始推定部23は、判定結果を計算部22と抽出部24に出力する。すると、抽出部24は、計算部22で計算された指標値を用いて、観察期間の短いいじめでの仲裁者候補抽出の処理を行う(ステップS65)。
一方、検出部21で検出された種別が種別テーブル33において「長期」の観察期間に対応付けられている場合、開始推定部23は、検出されたいじめは検出のための観察期間が閾値以上の種別であると判定する(ステップS64でYes)。開始推定部23は、判定結果を計算部22と抽出部24に出力する。すると、抽出部24は、計算部22で計算された指標値を用いて、観察期間の長いいじめでの仲裁者候補抽出の処理を行う(ステップS66)。
(2a)観察期間の短い種別のいじめでの仲裁者候補抽出処理
図14は、観察期間が短い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図14では、変数xと定数Xを使用する。定数Xは、収集データ31にSNSテキストが記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数である。変数xは、処理対象とした生徒の数を計数するために用いられる。
計算部22は、観察期間の短い種別のいじめであることが通知されると、SNSテキスト情報を、収集データ31から取得する(ステップS71)。計算部22は、ステップS71で取得したテキストを作成した生徒の各々について、生徒IDを特定すると共に、被害者との間の人間関係の指標値を計算する。このとき、計算部22は、SNSで送受信されたテキストデータの文面やテキストの送信時刻を用いて、人間関係を推定して人間関係の良好度を指標値に換算する。例えば、計算部22は、SNSのテキスト情報から人間関係の良好度を推定する際に、ポジティブな回答の頻度が多い程、人間関係が良いと判定する。さらに、計算部22は、発信に対する回答までの時間が短いほど、被害者との人間関係が良いと判定する。なお、第2の実施形態においても、人間関係の良好度の評価に用いる基準は、第1の実施形態と同様にアンケート結果と計算部22での分析結果の比較によって生成されるものとする。また、計算部22は、第1の実施形態と同様の手順により、人間関係の良好度の評価結果を指標値に変換する際に使用するテーブルも生成できる。
抽出部24は、検出部21または記憶部30から、いじめ情報を取得する(ステップS72)。いじめ情報には、いじめの検出時刻、被害者の生徒ID、被害者の名前などが含まれる。抽出部24は、計算部22で得られた計算結果のうち、いじめの検出時刻における被害者との間の人間関係の指標値を抽出する(ステップS73)。抽出部24は、変数xを1に設定する(ステップS74)。
抽出部24は、ステップS73で抽出した指標値のうち、x番目の生徒の被害者との人間関係の指標値が閾値5を上回っているかを判定する(ステップS75)。閾値5は、被害者との間の人間関係が仲裁者となり得る程度に良好であるかを判定するために使用される。閾値5の値は、経験的に決定されても良く、また、いじめが発生する前に観測された収集データ31を分析した結果に基づいて設定されても良い。
x番目の生徒について得られた平均値が閾値5を上回っている場合、抽出部24は、x番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS75でYes、ステップS76)。ステップS76の処理が終わった後、および、x番目の生徒について得られた平均値が閾値5以下の場合、抽出部24は変数xを1つインクリメントする(ステップS77)。抽出部24は、変数xが定数Xを超えたかを判定する(ステップS78)。変数xが定数Xを超えていない場合、ステップS75以降の処理が繰り返される(ステップS78でNo)。一方、変数xが定数Xを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS78でYes)。
なお、図14は処理の一例であり、実装に応じて処理の手順は変更され得る。例えば、ステップS71とS72は、並行して行われても良いし、いずれか一方が他方よりも先に行われても良い。さらに、ステップS74の処理は、ステップS75の前の任意のタイミングで行われ得る。
図15は、第2の実施形態での指標値の例を説明する図である。図15を参照しながら図14のステップS75、S76での処理の例を説明する。例えば、収集データ31に記録されている各生徒について、図8に示すような指標値が計算部22によって計算されたとする。また、閾値5は0.5であるとする。この場合、生徒ID=1の生徒は、いじめの検出時点での被害者との間の人間関係の指標値が0.85であるので、指標値は閾値5を超えている。このため、抽出部24は、生徒ID=1の生徒を仲裁者とする。一方、生徒ID=2の生徒は、いじめの検出時点での被害者との間の人間関係の指標値が0.4であるので、指標値は閾値5未満である。このため、抽出部24は、生徒ID=2の生徒を仲裁者としない。同様の処理が全ての生徒について行われる。
(2b)観察期間の長い種別のいじめでの仲裁者候補抽出処理
図16は、観察期間が長い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図16を参照しながら、いじめの開始時刻が推定された後に行われる処理の例を説明する。図16中の定数Yは、収集データ31にSNSテキストが記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数である。変数yは、処理対象とした生徒の数を計数するために用いられる。なお、図16は処理の一例であり、実装に応じて処理の手順は変更され得る。例えば、ステップS93とS94は、並行して行われても良いし、いずれか一方が他方よりも先に行われても良い。
第2の実施形態においても、検出された種別のいじめの観察期間が長い場合、開始推定部23は、第1の実施形態と同様に計算部22で計算された指標値を用いることにより、いじめの開始時点の推定処理を行う。開始推定部23は、観察期間が長い種別のいじめが検出されたことといじめの開始時点の推定結果を計算部22に通知する。計算部22は、観察期間が長い種別のいじめが検出されたことを開始推定部23から通知されると、変数yを1に設定する(ステップS91)。
その後、計算部22は、y番目の生徒について、いじめの開始時点TSからいじめを検出した時点TDまでの被害者との間の人間関係の指標値A(t)を算出する(ステップS92)。なお、指標値はテキストデータが収集された各時点に対して求められるので、指標値A(t)は時間の関数である。抽出部24は、計算部22での計算結果のうち、いじめの開始時点での指標値A_startを特定する(ステップS93)。抽出部24は、計算部22での計算結果のうち、いじめの発生後(期間N2)の単位時間でのΔAが負方向の最大値となる時刻Tdyを求める(ステップS94)。ここで、時刻Tdyは、ΔAが負方向の最大値となるとなる単位時間の期間の開始時刻である。換言すると、時刻Tdyは、いじめの開始時刻以降でy番目の生徒と被害者との間の人間関係の指標値が最も急激に減少する時刻である。すなわち、時刻Tdyは、いじめの開始時刻以降でy番目の生徒と被害者との間の人間関係が最も急激に悪化する時刻であるといえる。
その後、抽出部24は、いじめの開始時点での指標値A_start、および、ΔAが負方向の最大値となる時刻Tdyを用いて、y番目の生徒の仲裁者候補評価値Cを算出する(ステップS95)。例えば、ステップS95において、抽出部24は、以下の式(2)によって仲裁者候補評価値Cを算出できる。
式(2)の第1項は、いじめの開始時点での指標値A_startの倍数である。すなわち、いじめの開始時点に被害者との人間関係が良好であるほど、式(2)の第1項が大きくなる。従って、式(2)の第1項は、いじめの開始時点に被害者と親しい人物を仲裁者として選択しやすくしている。
式(2)の第2項は、(Tdy-TS)の倍数である。ここで、(Tdy-TS)は、いじめの開始時点から、y番目の生徒と被害者との間の人間関係がいじめの発生後に最も急激に悪化するまでにかかる時間の長さである。従って、いじめ発生によって被害者との間の人間関係が急激に悪化するまでにかかる時間が長い人物ほど、式(2)の第2項が大きくなる。いじめ発生によって被害者との間の人間関係が急激に悪化するまでにかかる時間が長い人物は、いじめに加担しにくく、正義感の強い人物であるといえる。従って、式(2)の第2項は、正義感の強い人物を仲裁者として選択しやすくしている。
式(2)中のαは、0から1の間の値であり、指標値A_startと時刻Tdyの遅さとのいずれの要素をより重視して仲裁者を選択するかに関する重みである。従って、抽出装置10のオペレータは、第1の実施形態と同様に、αの値を調整することによって、いじめの開始時点に被害者と親しい人物と正義感の強い人物のどちらを優先的に仲裁者にするかを設定できる。α=1の場合は、いじめの開始時点に被害者と親しい人物を仲裁者に選択する。一方、α=0の場合は、いじめの開始時点で被害者と親しいかに関わらず、正義感が強く、いじめの発生によって被害者と疎遠になるまでの時間が長い人物を仲裁者に選択する。同様に、0<α<1の場合、抽出部24は、αの値が大きいほど、いじめの開始時点での被害者との親しさを優先して仲裁者を選択し、αの値が小さいほど、正義感の強さを優先して仲裁者を選択することができる。
抽出部24は、y番目の生徒の仲裁者候補評価値Cが閾値6よりも大きいかを判定する(ステップS96)。閾値6は、仲裁者として適切であると判定される仲裁者候補評価値Cの最小値である。閾値6は、経験などに基づいて予め決められても良く、また、抽出装置10の受信部13や入力装置103を介して、オペレータから設定されても良い。オペレータが閾値6を設定する場合、オペレータは、抽出装置10で選択された仲裁者の数と希望する仲裁者の数の差分を小さくするように、閾値6の値を調整しても良い。例えば、オペレータは、少人数の仲裁者を被害者に深く関わらせることでいじめを回避する場合には、閾値6の値を大きくすることができる。一方、多くの仲裁者を被害者に関わらせることによっていじめを抑制する場合には、オペレータは、閾値6の値を小さくすることができる。
y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値6を上回っている場合、抽出部24は、y番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS96でYes、ステップS97)。ステップS97の処理が終わった後、および、y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値6以下の場合、抽出部24は変数yを1つインクリメントする(ステップS98)。抽出部24は、変数yが定数Yを超えたかを判定する(ステップS99)。変数yが定数Yを超えていない場合、ステップS92以降の処理が繰り返される(ステップS99でNo)。一方、変数yが定数Yを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS99でYes)。
なお、図16の例では、生徒ごとに被害者との間の人間関係の指標値の計算や仲裁者として選択するかの判定が行われたが、計算部22はテキストデータが得られた全ての生徒に対してまとめて指標値の変化量を計算しても良い。この場合、抽出部24は、収集データ31に記録された全ての生徒に対してまとめて指標値A_startと時刻Tyを求めることができる。
図17は、テキストデータが得られた全ての生徒に対してまとめて指標値の変化量が計算される場合に、仲裁者の抽出の際に使用するデータの例を説明する図である。テキストデータが得られた全ての生徒に対して指標値の変化量が図17のテーブルTa13に示すように求められたとする。ここで、いじめの発生時刻は時刻1であり、いじめの検出時刻はTDであるとする。従って、テーブルTa13の例では、いじめの発生からいじめの検出までが期間1~期間MのM個の期間に分けられている。抽出部24は、期間1~期間MのうちでΔAが負方向の最大値となる期間の開示時刻を、負方向の変化が一番大きい時刻として特定する。
このように、テキストデータが得られた全ての生徒に対してまとめて指標値A_startと時刻Tyが得られた場合、抽出部24は、得られた値を用いて各生徒についての仲裁者候補評価値Cを算出する。その後の判定処理は、図16を参照しながら説明したとおりである。
このように、第2の実施形態を用いると、抽出装置10は、SNSでのコミュニティ内で発生したいじめについても仲裁者を選択することができる。なお、学校の先生やカウンセラーなど、いじめを抑制しようとする人物が使用する装置の情報が予め抽出装置10に登録されている場合、抽出部24は、登録された装置に対して仲裁者を通知できる。
第2の実施形態では、抽出装置10は、いじめが行われているSNSコミュニティに参加しているユーザの情報をSNSの運営会社等から取得している。このため、抽出装置10は、いじめの発生といじめの加害者を特定すると、仲裁者の選択と並行して、いじめが行われているSNSコミュニティの参加者が使用している端末に対して警告を送信することもできる。例えば、図13のステップS63の処理が終わった時点で、抽出装置10の検出部21は、いじめの加害者が使用している端末に対して、いじめの加害者として特定していることを通知する警告メッセージを送信するための処理を行っても良い。この場合、学校の先生やカウンセラーが仲裁者と共にいじめの解決に取り組む前の段階で、いち早く加害者に対していじめを止めるように働きかけることができる。
第2の実施形態でも第1の実施形態と同様に、抽出装置10は、いじめを検出するための観察期間が長期間である場合、いじめの検出時に被害者と親しい人物、いじめの発生前は被害者と親しい人物、正義感が強い人物を仲裁者として選択できる。このため、抽出装置10は、仲裁者として適切である人物を、いじめによる人間関係の変化の影響によって選択できなくなることを避けることができる。さらに、いじめを検出するための観察期間が短期間である場合については、観察期間中での人間関係の変化の影響を無視できるので、長期的な観察を行う種別のいじめの際よりも簡潔な処理で仲裁者を特定できる。
第2の実施形態でも、オペレータは、抽出部24での演算に使用する重み(式(2)中のα)の値を調整することにより、いじめの開始時点での被害者との親しさと、正義感の強さのいずれを優先して仲裁者を選択するかを調整することができる。また、閾値6を変動させることにより、オペレータは、いじめの対処方法に応じた所望の人数の仲裁者を特定することができる。
<第3の実施形態>
被害者と親しい人物や正義感の強い人物は仲裁者となり得るが、仲裁者が加害者側にも影響を及ぼしやすい人物であると、いじめの仲裁がよりスムーズになることが期待できる。そこで、第3の実施形態では、被害者との人間関係や正義感の強さに加えて、加害者との人間関係も考慮して仲裁者を選択する場合の例を説明する。以下の例では、収集データ31として抽出装置10が収集した映像と音声を用いて仲裁者を抽出する場合の例を説明する。
第3の実施形態においても、いじめの検出やいじめの種別の特定方法は、第1および第2の実施形態と同様である。さらに、観察期間が長い種類のいじめについて、いじめの開始時期を検出する方法も、第1の実施形態と同様である。
図18は、第3の実施形態にかかる観察期間が短い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図18のステップS111~S116は、図7を参照しながら説明した図7のステップS1~S16の処理と同様である。また、図18でも、定数Xは収集データ31に記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数であり、変数xは処理対象とした生徒の数を計数するために用いる変数である。
x番目の生徒について得られた平均値が閾値1を上回っている場合、計算部22は、x番目の生徒と加害者との間の人間関係の指標値を計算する(ステップS116でYes)。抽出部24は、計算部22の計算結果を用いて、x番目の生徒と加害者との間の人間関係の指標値の平均値(Bave)を算出する(ステップS117)。抽出部24は、x番目の生徒と加害者との間の人間関係の平均値Baveが閾値7を上回っているかを判定する(ステップS118)。閾値7は、加害者に対して影響を与えることが予想される程度に加害者との間の人間関係が良好であると判定される指標値の最小値である。閾値7もオペレータの経験などによって設定され得る。
平均値Baveが閾値7を上回っている場合、抽出部24は、x番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS118でYes、ステップS119)。ステップS119の処理が終わった後、および、平均値Baveが閾値7以下の場合(ステップS118でNo)、抽出部24は変数xを1つインクリメントする(ステップS120)。さらに、x番目の生徒について得られた平均値が閾値1以下である場合も、抽出部24は変数xを1つインクリメントする(ステップS116でNo、ステップS120)。抽出部24は、変数xが定数Xを超えたかを判定する(ステップS121)。変数xが定数Xを超えていない場合、ステップS115以降の処理が繰り返される(ステップS121でNo)。一方、変数xが定数Xを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS121でYes)。
図19は、第3の実施形態にかかる観察期間が長い種別のいじめでの仲裁者の抽出方法の例を説明するフローチャートである。図19のステップS131~S136は、図11を参照しながら説明したステップS41~S46の処理と同様である。また、図19でも、定数Yは収集データ31に記録されている生徒のうち、被害者と加害者のいずれでもない生徒の数であり、変数yは処理対象とした生徒の数を計数するために用いる変数である。
y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値4を上回っている場合、計算部22は、y番目の生徒と加害者との間の人間関係の指標値を計算する(ステップS136でYes)。抽出部24は、計算部22の計算結果を用いて、y番目の生徒と加害者との間の人間関係の指標値の平均値(Bave)を算出する(ステップS137)。抽出部24は、y番目の生徒と加害者との間の人間関係の平均値Baveが閾値8を上回っているかを判定する(ステップS138)。閾値8は、加害者に対して影響を与えることが予想される程度に加害者との間の人間関係が良好であると判定される指標値の最小値である。閾値8は図18で使用される閾値7と同じ値であっても良く、また、閾値7と異なる値であっても良い。閾値8もオペレータの経験などによって設定され得る。
平均値Baveが閾値8を上回っている場合、抽出部24は、y番目の生徒を仲裁者候補とする(ステップS138でYes、ステップS139)。ステップS139の処理が終わった後、および、平均値Baveが閾値8以下の場合、抽出部24は変数yを1つインクリメントする(ステップS140)。さらに、y番目の生徒について得られた仲裁者候補評価値Cが閾値4以下である場合も、抽出部24は変数yを1つインクリメントする(ステップS136でNo、ステップS140)。抽出部24は、変数yが定数Yを超えたかを判定する(ステップS141)。変数yが定数Yを超えていない場合、ステップS132以降の処理が繰り返される(ステップS141でNo)。一方、変数yが定数Yを超えた場合、全ての生徒に対して仲裁者となるかの判定を行っているので、抽出部24は、仲裁者候補として選択した生徒の情報を出力装置104に出力して、処理を終了する(ステップS141でYes)。
図17、図18は、音声データや映像データを用いていじめの検出や仲裁者の選択を行う場合を例としたが、SNSテキストデータを用いる場合でも、同様に、加害者との人間関係の良い人物を仲裁者として選択することができる。
このように、第3の実施形態を用いると、抽出装置10は、被害者と加害者の両方との人間関係が良い人物や、加害者と親しいが正義感が強い人物を仲裁者として選択することができる。このため、教師やカウンセラーは、抽出装置10から通知された仲裁者と連携することにより、よりスムーズにいじめを回避することができる。
<その他>
例えば、種別テーブル33において、観察期間が所定期間以上にわたっているかを分類するために使用される基準は、実装に応じて変更され得る。例えば、そのいじめの行為が所定回数だけ行われている間の観測から特定できる場合には、観察期間が「短期」であると分類されても良い。
以上に説明した仲裁者の抽出方法は例であって、抽出の際に行われる処理は実装に応じて変更され得る。例えば、第1の実施形態で説明した抽出処理と第2の実施形態で説明した抽出処理のいずれも、任意の種類の収集データ31に対して適用できる。すなわち、SNSのテキストデータを用いて観察期間の短い種別のいじめでの仲裁者を選択する場合に、図14のステップS73~S78の処理の代わりに図7のステップS13~S19を適用することができる。また、SNSのテキストデータを用いて観察期間の長い種別のいじめでの仲裁者を選択する場合に、図17のステップS92~S99の処理の代わりに図11のステップS42~S49を適用することができる。同様に、映像や音声のデータを用いて観察期間の短い種別のいじめでの仲裁者を選択する場合に、図7のステップS13~S19の代わりに図14のステップS73~S78の処理を適用することができる。さらに、映像や音声のデータを用いて観察期間の長い種別のいじめでの仲裁者を選択する場合に、図11のステップS42~S49の処理の代わりに図17のステップS92~S99を適用することもできる。
第3の実施形態では、被害者と加害者の両方との人間関係が良い人物や、加害者と親しいが正義感が強い人物を仲裁者として選択する場合を例としたが、これも一例である。例えば、第1および第2の実施形態に従って、仲裁者を選択した上で、被害者と加害者の両方との人間関係が良い人物や、加害者と親しいが正義感が強い人物を仲裁者としてより適している人物に分類することもできる。この場合、抽出部24は、仲裁者となり得る人物として、被害者と人間関係は良いが加害者とは人間関係が良くない人物や、加害者と親しくないが正義感が強い人物を挙げることができる。さらに、抽出部24は、仲裁者により適した人物として、被害者と加害者の両方との人間関係が良い人物や、加害者と親しいが正義感が強い人物のリストを生成した上で、リスト中の人物を仲裁者の有力候補として出力できる。このように変形すると、抽出装置10から情報を取得した教師やカウンセラーは、所望の解決手順に従って仲裁者の選択をしやすくなる。
以上の説明で記載したテーブルや数式は一例である。例えば、実装に応じて、テーブル中の情報要素が変更されても良い。また、仲裁者候補評価値Cの計算に使用する数式も、実装に応じて変更されることがある。
なお、以上の説明では、学校やSNSで発生するいじめに対する対応を例として説明したが、抽出装置10は、任意の場所で発生し得るいじめや、いじめ以外のハラスメントなどに対応するための仲裁者の選択を行う際に使用できる。