JP7239921B2 - 陽電子消滅特性測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、被測定試料となる物質内における陽電子の消滅特性を解析するための陽電子消滅特性測定装置に関する。
陽電子の物質中における寿命を測定することによって、金属、半導体等の結晶中の空孔や各種の点欠陥に関する情報が得られる。また,高分子等の絶縁物中ではサブナノからナノスケールの空隙の情報が得られる。このため、陽電子を物質に照射し、物質中でのその寿命を測定する陽電子消滅寿命測定法が用いられている。陽電子消滅寿命測定法は、特に原子空孔等のサブナノからナノスケールの構造評価に対して有効であることが知られている。
陽電子消滅寿命測定法においては、陽電子が物質中の電子と反応して対消滅によって消滅する際の約511keVのエネルギーのγ線を測定することによって、陽電子が消滅したタイミングが認識される。通常の陽電子消滅寿命測定法においては、陽電子源として22Naが用いられ、22Naの原子核がβ崩壊する際に発生する陽電子が測定に用いられる。陽電子源は試料となる物質と接して設けられ、陽電子が物質に入射したタイミングは、22Na内において原子核がβ崩壊によって発生したタイミングとみなすことができ、この時点と上記のような陽電子が消滅したタイミングとの時間差が物質中での陽電子の寿命に対応する。このβ崩壊に際しては、陽電子と同時に1.27MeVのエネルギーのγ線が発生するため、このγ線を計測したタイミングが、前記の寿命計測の開始タイミングとされる。このため、1.27MeVのγ線をスタート信号用のγ線とし、約511keVのγ線をストップ信号用のγ線とし、これらの検出タイミングの時間差を測定することによって、試料中における陽電子の寿命を測定することができる。測定の精度を高めるためには、このように対となって認識されるストップ信号用のγ線とスタート信号用のγ線の組み合わせの数(イベント数)が多くなることが好ましい。
図12は、このような陽電子消滅特性測定装置800の構成を簡略化して示す図であり、図13はこれによる測定原理を示す図である。図12において、試料(被測定試料)S側からは、陽電子源Xから発生した前記の1.27MeVのγ線(スタート信号用γ線(発生γ線)γ0)と、試料Sから発せられた対消滅による前記の約511keVのγ線(ストップ信号用γ線(対消滅γ線)γ1)が発せられる。スタート信号用γ線γ0を検出するためのスタート信号用γ線検出器(発生ガンマ線検出器)11、ストップ信号用γ線γ1を検出するためのストップ信号用γ線検出器(対消滅γ線検出器)12は、共にシンチレーション検出器によるγ線計測によりこれらのγ線を検出してパルス出力をする。これらの検出器は、例えばγ線光子を吸収することにより可視光の発光をするシンチレータと、この発光を検出する光電子増倍管で構成される。
検出されたγ線光子による出力パルスのパルス高によって、検出されたγ線光子がスタート信号用γ線γ0、ストップ信号用γ線γ1のどちらのエネルギーをもつかを認識することができる。このため、スタート信号用γ線検出器11がスタート信号用γ線γ0を認識し、ストップ信号用γ線検出器12がストップ信号用γ線γ1を認識する設定とされる。このため、スタート信号用γ線検出器11により認識されたスタート信号用γ線γ0の直後(略同時)にストップ信号用γ線検出器12により認識されたストップ信号用γ線γ1があれば、これらの検出時刻の差(時間差)が試料Sにおける陽電子消滅寿命に対応する。実際にはこのように測定された時間差は一定ではなく、その平均値やばらつき等、各種の統計量が試料Sの各種特性に対応するため、この時間差のヒストグラム(時間差データ)が取得される。また、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12は試料S側から発せられた全てのスタート信号用γ線γ0、ストップ信号用γ線γ1を検出することはできず、かつ、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12は時系列的に多くのスタート信号用γ線γ0、ストップ信号用γ線γ1を検出する。このため、ストップ信号用γ線検出器12で認識された一つのストップ信号用γ線γ1に対して、このストップ信号用γ線γ1を発した陽電子が陽電子源Xで発生した際に発せられたスタート信号用γ線γ0に対応したスタート信号用γ線検出器11のパルス出力を適正に認識した上で、前記の時間差を測定することが必要になる。
この場合において、スタート信号用γ線検出器11のパルス出力D0において、図13(a)の上段の通りにパルスP01~P04が順次出力され、ストップ信号用γ線検出器12のパルス出力D1において、図13(a)の下段の通りにパルスP11~P14が順次出力された場合について説明する。ここで、図12におけるコインシデンス回路20は、スタート信号用γ線検出器11のパルス出力D0とストップ信号用γ線検出器12のパルス出力D1において、検出時刻が近い(略同時であるとみなせる)パルスの組み合わせを抽出する。図13(a)の場合には、パルスP01とパルスP11、パルスP04とP13の組み合わせがこれにより抽出される。図13(b)は、この場合における時間軸を拡大した図であり、計数部30は、パルスP01の時刻t0とパルスP11の時刻t1の差を上記の時間差として認識する。パルスP04とパルスP13の組み合わせについても同様に時間差を認識する。計数部30は、同様にして抽出された多数のパルスの組み合わせの各々について、この時間差を検出し、上記の時間差データを、図13(c)に模式的に示されたような形状のヒストグラム(度数分布)として作成することができる。
図13(a)において、スタート信号用γ線検出器11側(D0)のパルスP02、P03は対応するストップ信号用γ線γ1が検出されなかったため、あるいはストップ信号用γ線検出器12側(D1)のパルスP12、P14は対応するスタート信号用γ線γ0が検出されなかったために、上記の解析には使用されない。一般的には試料S中での陽電子消滅寿命はμsec以下と短く、図13(a)における時間軸上で隣接するパルスの間隔がこれよりも十分長ければ、このように同一の陽電子の発生と消滅に対応すると推定される組み合わせを適正に認識することができ、各組み合わせにおける時間差を、陽電子消滅寿命に対応するものとして認識することができる。上記時間差データの精度を高めるには、認識された上記の組み合わせの数(有効な検出イベント)を多くすることが必要であり、このためには上記の測定のために長時間を要する。
ここで、陽電子源Xからは全方位角にわたり区別なく陽電子が発せられるが、このうち、上記の測定に寄与する(試料S中で対消滅のγ線を発する)のは、試料Sに入射した陽電子のみである。このため、試料Sによる有効な検出イベント数を多くするためには、図12に示されたように陽電子源Xの周囲の全方位を試料Sが取り囲むような形態とすることが好ましい。しかしながら、この場合には、このような形態を実現することが容易ではない、あるいは試料Sの種類によってはこうした形態を実現することが実質的に不可能である場合があった。このため、実際には、例えば小さな陽電子源Xを2枚の薄板状の試料Sで挟んだ形態とされ、実質的に図12に示されたような形態とされる場合が多かった。
しかしながら、こうした場合においても試料を2枚の薄板状とすることが必要となり、その実現が困難となる場合があった。また、この場合には試料をこのような薄膜状の形態とする加工が必要となった。これに対して、試料を非破壊で分析できることが望まれた。
特許文献1には、こうした点を考慮し、試料Sに対しての加工を要さない陽電子消滅特性測定装置が記載されている。図14(a)は、この陽電子消滅特性測定装置900の構成を簡略化して示す図である。スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12は、図12の構成と同様に設けられる。また、コインシデンス回路20も同様に設けられている。
この場合においては、試料Sの主面に、陽電子源Xが組み込まれたヘッド部40(特許文献1においては陽電子検出器と記載)が当接して設けられる。この場合には、試料Sに対する加工は不要であり、ヘッド部40を試料Sに接触あるいは近接させた状態で測定が行われる。この場合には、有効な検出イベントを構成する陽電子は、ヘッド部40側から試料Sがある上側に向かったものだけとなるため、その数は図12の構成の場合の約半分となる。一方、試料Sに入射しなかった陽電子が陽電子源Xでスタート信号用γ線γ0を発することは同様である。更に、この陽電子は試料S以外(例えば試料Sと反対側の大気)でも対消滅γ線(ストップ信号用γ線γ1)を発し、これはストップ信号用γ線検出器12で検出される。このように試料Sの外部で発生したストップ信号用γ線γ1においても、対応するスタート信号用γ線γ0が検出された場合には、前記のような(略)同時性が成立する。しかしながら、この場合のストップ信号用γ線γ1は試料S内で発生したものでないため、この組み合わせによる測定結果は試料Sとは無関係である。このため、図14(a)の形態の試料Sの評価を行うに際しては、このような組み合わせは上記のような有効な検出イベントと認識しないことが好ましい。
ヘッド部40は、このように試料Sに入射しなかった陽電子を検出するために用いられる。図14(b)は、ヘッド部40の構造を示す分解図である。このヘッド部40においては、試料S側に薄膜状の密封用カバー41、小さな陽電子源X、陽電子検出用シンチレータ42が積層される。陽電子検出用シンチレータ42は、陽電子を吸収することにより発光する材料で構成され、陽電子検出用シンチレータ42におけるこの発光は下側の集光器43で集光され、光電子増倍管(受光部)44で検出される。陽電子源Xは密封用カバー41によって陽電子検出用シンチレータ42上で保持され、密封用カバー41が十分に薄ければ、陽電子源Xから上方に放出された陽電子については、主に試料S中における陽電子の消滅特性を反映することとなり、密封用カバー41の材質は既知であり、その陽電子の消滅特性も既知であることから、その影響を取り除いて解析を行うことができる。陽電子源Xで発生し試料Sに入射しなかった陽電子は陽電子検出用シンチレータ42に入射すると考えることができる。このため、図14(b)において陽電子源Xから下側に向かった陽電子により陽電子検出用シンチレータ42が発した発光が光電子増倍管44のパルス出力として認識される。すなわち、ヘッド部40は、陽電子の発生源として機能すると同時に、図14(a)において下側に向かい試料Sには入射しなかった陽電子を検出するために用いられる。
この陽電子消滅特性測定装置900においては、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12、ヘッド部40のパルス出力における、前記のコインシデンス回路20とは逆の非同時性を認識するためのアンチコインシデンス回路50が用いられる。図15は、アンチコインシデンス回路50が用いられる場合の動作を説明する図である。図15の上段(D0)、中段(D1)は、図13(b)に対応し、ここでは、前記のように、前記のコインシデンス回路20を用いた同時性による選別により、組み合わせA、B、Cの各パルスが抽出されたものとする。一方、図15の下段は、対応する期間におけるヘッド部40の出力DHである。ここでは、組み合わせA、Cに対応する期間内ではDHでは出力が得られず、組み合わせBに対応する期間にDHの出力PH0が検出されたものとする。
この場合において、組み合わせBにおける陽電子(組み合わせBにおけるスタート信号用γ線γ0に対応した陽電子)は、試料Sに入射したものではないと推定できる。このため、上記のヒストグラム(時間差データ)を作成するにあたり、対応する期間で出力PH0が検出された組み合わせBは、時間差の計数の対象から排除される。D0とD1の間で同時性が認められた組み合わせA、B、Cのうち、組み合わせBにおいてDHとの同時性をアンチコインシデンス回路50が認識する(あるいは組み合わせA、CにおいてDHとの非同時性を認識すると)、計数部60は、組み合わせA、Cのみに関して上記の時間差を算出して上記のヒストグラム作成のためのデータとして用いる。すなわち、この場合には、計数部60は、コインシデンス回路20により同時性が認識され、かつアンチコインシデンス回路50により非同時性が認められた組み合わせのみを抽出し、前記のように時間差を算出してそのヒストグラムを時間差データとして作成する。
このように試料Sの一面に固定したヘッド部40を用いて試料Sに入射しなかった陽電子を認識し、この陽電子に起因すると推定される組み合わせを時間差の測定対象から除外することにより、試料Sに加工を施さなくとも、高精度で陽電子消滅寿命特性を測定することが可能となる。図16は、このようにして得られた時間差データの一例である。
その後、この時間差データを解析するに際しては、例えば、異なる時定数をもつ複数の減衰特性の重ね合わせでこの時間差データに対するフィッティングを行うことにより、各減衰特性の時定数やその重ね合わせの際の係数を求めるという手法を用いることができる。この際に得られた時定数や重ね合わせの係数は、試料Sの物性や内部構造を直接反映するため、これによって試料Sにおける各種の情報を得ることができる。非特許文献1には、この解析の具体的手法が記載されている。
特開2012-127942号公報
山脇正人、「サブナノ・ナノ空孔評価のための陽電子寿命測定技術の現状と課題」、産総研計量標準報告(2011年9月)、Vol.3、No.3、367頁
例えば、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12は、共にγ線検出用のシンチレータと、この発光を検出する光電子増倍管で構成される。シンチレータにおいてγ線を吸収した後に生じる発光には、例えば一定の寿命が存在し、この寿命はシンチレータの材料に応じて定まる。このため、上記のような各検出器の出力パルスの波形はシンチレータの発光特性(材料)等によって定まり、上記の時間差データの精度はこの波形等に応じて変化する。すなわち、上記のような時間差データにおける時間分解能は、検出器の特性によって定まる。
このため、上記のようなフィッティングを行う際には、上記のように想定された各減衰特性として、実際にはこの時間分解能を考慮した上で補正されたものを用いることが必要となる。具体的には、非特許文献1に記載されるように、補正された各減衰特性は、補正前の各減衰特性と、上記の時間分解能に対応した広がりをもつガウス分布となる誤差関数とのコンボリューション(畳み込み)によって得られる。
また、例えば実測された図16の特性を上記のように複数の減衰特性の重ね合わせであるとしたフィッティングを行う場合においては、その時間の原点(基準時刻)を定めた上でこの重ね合わせを行うことが必要となる。しかしながら、前記のような検出器の時間分解能の場合と同様に、この基準時刻も正確には図16において不定である。一方、上記のフィッティングの結果は、この基準時刻の設定によって大きく影響を受ける。このため、高精度の測定をするためには、この基準時刻を定めることも重要である。
上記の時間分解能や基準時刻は、検出器を初めとする陽電子消滅特性測定装置を構成する各構成要素の特性等に応じで定まり、測定対象となる試料に対する測定とは別の測定、例えば予め詳細な特性の判明している標準試料に対する測定によって求めることができる。実際には装置自身に起因してこのように測定結果に影響を与えるパラメータ(装置データ)は、上記の時間分解能や基準時刻以外にも存在するが、このようなパラメータについても同様である。
特許文献1に記載の技術を含め、従来の技術においては、高精度の測定を行うためには、このように標準試料を用いた他の測定が別途必要となった。ただし、一般的に、上記のような装置に依存するパラメータ(装置関数)は測定の度に常に同一であるとも限らない。このため、試料の特性をより高精度で算出するためには、このような標準試料の測定も試料の測定に応じて行うことが必要となった。
このため、試料に対する加工を必要とせず、かつ高精度で容易に陽電子消滅特性を測定することができる陽電子消滅特性測定装置が望まれた。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の陽電子消滅特性測定装置は、
陽電子源から発生した陽電子の被測定試料中における消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定装置であって、前記陽電子源における前記陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をする発生γ線検出器と、前記陽電子の対消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をする対消滅γ線検出器と、前記被測定試料に当接または近接して設置され、前記陽電子源を含み、かつ前記陽電子源が発した前記陽電子のうち前記被測定試料に入射しなかったものを検出してパルス出力をするヘッド部と前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力のうち、時間的に近接した組み合わせを抽出し、当該組み合わせを、前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記ヘッド部の前記パルス出力とが時間的に近接しない第1の組み合わせと、前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記ヘッド部の前記パルス出力とが時間的に近接する第2の組み合わせに分類し、前記第1の組み合わせにおける前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力に基づき第1データを、前記第2の組み合わせにおける前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力に基づき前記第1データと同様の手法で作成された第2データを、それぞれ取得するデータ取得部と、前記第2データを用いて前記第1データを解析することによって前記消滅特性を解析する解析部と、を具備することを特徴とする
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記解析部は、前記第1データに対して影響を及ぼす装置の特性に関連する量である装置データを前記第2データから算出し、当該装置データを用いて前記第1データに基づき前記被測定試料における前記消滅特性を算出することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置は、前記データ取得部において、前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力と前記発生γ線検出器の前記パルス出力との間の時間差のヒストグラムが前記第1データ及び前記第2データとして作成され、前記解析部は、前記第1データを複数の減衰特性の重ね合わせとしたフィッティングを、当該減衰特性の減衰時定数、前記重ね合わせにおける重ね合わせ係数をパラメータとして行い、前記減衰時定数、前記重ね合わせ係数の最適値を算出することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記解析部は、前記第2データより、前記第1データにおける時間分解能、及び前記第1データにおける前記重ね合わせの原点となる基準時刻を、前記装置データとして算出することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置は、前記データ取得部において、前記対消滅γ線検出器における前記パルス出力のパルス高のヒストグラムに対応するエネルギースペクトルが前記第1データ及び前記第2データとして作成されることを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置は、前記第1データ及び前記第2データにおいて、前記エネルギースペクトルは、前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力と前記発生γ線検出器の前記パルス出力との間の時間差毎に作成されることを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記解析部は、前記第1データ及び前記第2データにおいて、時間差毎に作成された前記エネルギースペクトルのそれぞれに基づき特性値を算出し、予め定められた前記時間差に対応した前記特性値で、他の前記特性値を規格化することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記解析部は、前記第1データにおける前記特性値の、前記第2データにおいて対応する前記特性値に対する比率を算出することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記ヘッド部は、前記陽電子源と、前記陽電子源に対して前記被測定試料と反対側に配置され、前記陽電子を吸収することにより蛍光を発する陽電子検出用シンチレータと、前記蛍光を受光して前記パルス出力をする受光部と、を具備することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅特性測定装置において、前記陽電子検出用シンチレータは無機シンチレータで構成されたことを特徴とする。
本発明は以上のように構成されているので、試料に対する加工を必要とせず、かつ高精度で容易に陽電子消滅特性を測定することができる。
本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置の構成を示す図である。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置における動作を示すフローチャートである。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置における、スタート信号用γ線検出器、ストップ信号用γ線検出器、ヘッド部のパルス出力の関係の例を示す図である。 時間差データの一般的な解析手法を模式的に示す図である。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置において得られる第2時間差データの具体的な例である。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置の第1の変形例の構成を示す図である。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置の変形例で測定された第1スペクトル、第2スペクトルの例である。 領域内のカウント数積分量を用いた、一般的なエネルギースペクトルの解析手法を示す図である。 第1スペクトル、第2スペクトルによるSパラメータ、Wパラメータの経時変化を算出した結果である。 第1スペクトル、第2スペクトルによるSパラメータ、Wパラメータの経時変化を、それぞれにおける初期の値で規格化して算出した結果である。 本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置の第2の変形例の構成を示す図である。 従来の陽電子消滅特性測定装置の第1の例の構成を示す図である。 従来の陽電子消滅特性測定装置の第1の例における、測定原理を説明する図である。 従来の陽電子消滅特性測定装置の第2の例の構成を示す図である。 従来の陽電子消滅特性測定装置の第2の例における、スタート信号用γ線検出器、ストップ信号用γ線検出器、ヘッド部のパルス出力の関係の例を示す図である。 実測された時間差データの例である。
以下、本発明の実施の形態に係る陽電子消滅特性測定装置について説明する。この陽電子消滅特性測定装置1は、特許文献1に記載の陽電子消滅特性測定装置と共通の構成要素を具備する。図1は、この陽電子消滅特性測定装置1の構成を図14(a)に対応させて示す図である。ここで、試料Sの形態、陽電子源X中で陽電子が発生した際のスタート信号用γ線(発生γ線)γ0を検出するスタート信号用γ線検出器(発生γ線検出器)11、陽電子の対消滅によって発生したストップ信号用γ線(対消滅γ線)γ1を検出するストップ信号用γ線検出器(対消滅γ線検出器)12については前記の陽電子消滅特性測定装置900と同様であり、ヘッド部40も同様に用いられ、その構造も図14(b)に示されたものと同様である。このため、陽電子源Xを具備するヘッド部40により、試料Sに入射しなかった陽電子が検出されることも同様である。
また、コインシデンス回路20、アンチコインシデンス回路50も同様に用いられ、これらは電子消滅特性測定装置900における場合と同様の判定をする。すなわち、コインシデンス回路20によりスタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12の出力パルスの(略)同時性が認識され、アンチコインシデンス回路50により、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12の出力パルスとヘッド部40の出力パルスの(略)非同時性が認識される。
なお、前記のように、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12は実際にはγ線検出用のシンチレータと光電子増倍管とで構成されるため、これらとヘッド部40の構成(図14(b))は類似している。ただし、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12におけるシンチレータとしてはγ線を吸収することにより蛍光を発するものが用いられるのに対して、陽電子検出用シンチレータ42としては陽電子を吸収することにより蛍光を発するものが用いられる。
また、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12においては、出力パルス間の時間差が正確に算出できるように、出力パルスの時刻が高い時間分解能をもって認識できるような持続時間の短い発光をする、高い時間分解能をもつγ線検出用のシンチレータが使用される。一方、ヘッド部40の出力パルスは、アンチコインシデンス回路50による(略)非同時性の判定のみに用いられ、この出力パルスの時刻が高い精度で認識される必要はない。このため、陽電子検出用シンチレータ42には、高い時間分解能は要求されない。
計数部(データ取得部)70は、前記と同様にコインシデンス回路20による同時性の判定結果、及びアンチコインシデンス回路50による非同時性(同時性)の判定結果に基づいて、時間差に対応した計数を行うが、その動作の内容は前記の計数部60とは異なり、ここでは上記の判定結果に応じた計数によって作成した2つのヒストグラム(第1時間差データ、第2時間差データ)を作成し、これらを記憶部80に記憶させる。第1時間差データは、前記の電子消滅特性測定装置900で得られた時間差データと同じものであり、第2時間差データは、後述するように、第1時間差データにおける、試料Sの陽電子消滅特性に対して装置に起因して発生した影響を除去するためのデータとして用いられる。
寿命解析部(解析部)90は、記憶部80から第2時間差データを読出し、第1時間差データにおいて、上記のように装置に起因して発生した影響を考慮し、試料Sの本来の陽電子消滅特性の解析結果を出力する。
図2は、この陽電子消滅特性測定装置1における動作のフローチャートである。ここでは、まず、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12、ヘッド部40による検出が継続的に行われ、計数部70は、これに応じて2つのヒストグラムを作成する(S1)。この動作の内容について以下に詳細に説明する。
図3は、スタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12の出力(D0、D1)と、ヘッド部40の出力(DH)のうち、D0とD1のパルス出力のうち、コインシデンス回路20により(略)同時性があると認識されたものを示す例であり、図15に対応する。ここでは、このように認識される組み合わせとして、組み合わせD~Hの5つがあるものとする。
また、このうち、組み合わせE、Gにおいて、D0、D1のパルス出力と、DHのパルス出力との間に(略)同時性が認識されている。この判定は、アンチコインシデンス回路50を用いて行うことができる。前記の電子消滅特性測定装置900では、組み合わせE、Gは時間差の測定においては除外され、他の組み合わせD、F、Hのみが時間差の測定(時間差データの作成)に用いられた。
これに対して、この電子消滅特性測定装置1において、計数部70は、組み合わせD、F、H(第1の組み合わせ)における時間差のヒストグラムを第1時間差データとして作成すると共に、これとは別に、組み合わせE、G(第2の組み合わせ)における時間差も測定し、そのヒストグラムを第2時間差データとして作成する。すなわち、アンチコインシデンス回路50によりヘッド部40の出力との間の非同時性が認められた第1の組み合わせからなる第1グループとし、同時性が認められた(非同時性が認められなかった)第2の組み合わせを第2グループとし、計数部70は、上記のような時間差データを、第1グループ、第2グループについて個別に作成する。
測定が終了したら、第1時間差データ(第1データ)と第2時間差データ(第2データ)は、互いに独立したデータとして記憶部80に記憶される(S2)。
ここで、第1時間差データは、前記のとおり陽電子の試料S中における消滅特性を反映する。図14(b)の構造において、密封用カバー41を十分に薄くすれば、この特性は主に試料S中における陽電子の消滅特性を反映することとなり、密封用カバー41の材質は既知であり、その陽電子の消滅特性も既知であることから,その影響を取り除いて解析を行うことができる。第2時間差データは、主にヘッド部40側における消滅特性を反映する。ここで、試料Sは測定の対象であるのに対して、陽電子検出用シンチレータ42の材料は定まっているため、その特性を予め知ることが可能であり、陽電子検出用シンチレータ42を標準試料として用いることができる。すなわち、この電子消滅特性測定装置1においては、試料Sに対する測定と、標準試料となる陽電子検出用シンチレータ42に対する測定が同時に行われる。
図4は、例えば図16に示されたようなヒストグラム(時間差データ)に対する解析の一般的な手法を模式的に示す図である。ここでは、時間差データ(下段)が、上段に示すような2つの異なる時定数(τ1、τ2)をもつ減衰特性1、2の重ね合わせであるものとする。ここで、τ1、τ2の値と減衰特性1、2の重ね合わせに対する2つの係数をパラメータとしたフィッティングを行うことにより、各係数と各時定数の最適値を算出することができる。この際、重ね合わされる各減衰特性を前記のように時間分解能を用いて補正するためには、この時間分解能が予め判明していることが要求される。また、また、前記のように、このフィッティングの際に、ヒストグラムの横軸(時間軸)の原点となる基準時刻が定まっていることも要求される。このような時間分解能や基準時刻は、装置に起因して定まる装置データであり、こうした装置データも上記のフィッティングによって同時に求める(上記のフィッティングの際のパラメータとする)ことも原理的には不可能ではないが、この場合には、フィッティングのパラメータの数が多くなる。一般的に、フィッティングの際のパラメータの数が多くなった場合には、最終的に算出されたパラメータの数値の誤差が大きくなる。このため、この場合には、算出された上記の時定数の値の誤差が大きくなる。
このため、前記のように、試料Sに対する測定とは別に、標準試料に対する測定を行い、これによって上記の時間分解能や基準時刻を算出することが好ましい。標準試料としては、例えば陽電子消滅寿命(平均)が零でありかつその分布の広がりも零であるδ関数的な特性をもつものが理想的であるが、実際にはこのような物質は存在しない。このため、ここで用いられる標準試料としては、例えば陽電子消滅寿命が試料Sよりも十分短く、かつその陽電子消滅特性(図16)が、単一の減衰特性で表されるものを用いることができる。この場合においては、フィッティングにおけるパラメータの数が少なくなるため、フィッティングにより算出された時間分解能や基準時刻の値の誤差を小さくすることができる。更に、上記の減衰の時定数の値を既知とすれば、パラメータは時間分解能と基準時刻の2つのみとなるため、時間分解能と基準時刻を更に正確に算出することができる。なお、時間分解能と基準時刻以外にも、同様に上記の解析において影響を与える他の装置起因のパラメータ(装置データ)を求め、これを第1時間差データの解析に用いることができる。
上記のヘッド部40における陽電子検出用シンチレータ42の材料として、こうした標準試料となる材料を用いることができる。前記の通り、陽電子検出用シンチレータ42自身における発光の時間分解能は要求されず、その代わりに上記のような標準試料としての好ましい特性をもつものを用いることができる。こうした材料としては、例えばBaFのような無機結晶(無機シンチレータ)のように単一の陽電子消滅寿命成分を示すものを用いることができる。図5は、この場合において実際に得られた第2時間差データの例である。この場合には、陽電子消滅寿命が図16の場合よりも短く、かつ単一の減衰時定数をもつことが確認できる。寿命解析部90は、図5の特性に対して、この材料における陽電子消滅寿命を既知とし、時間分解能、基準時刻をパラメータとしたフィッティングを行うことにより、時間分解能、基準時刻を算出できる(S3)。
その後、寿命解析部90は、このように得られた時間分解能、基準時刻を用いて、第1時間差データに対する図4に示された解析を行うことができる。この際、例えば第1時間差データが減衰特性1、2の重ね合わせであると仮定した際の、上記の時間分解能を考慮し、かつ上記の基準時刻を用いて、各減衰特性の時定数(τ1、τ2)と重ね合わせの係数(C1、C2)をパラメータとしたフィッティングを行い、各時定数、各係数を算出することができ(S4)、その結果を出力させることができる(S5)。この結果においては、時間分解能や基準時刻による影響が補正されているため、この結果は試料Sをより正確に反映する。
上記の陽電子消滅特性測定装置1によって、試料Sに加工を施さずに、ヘッド部40を試料Sに当接又は近接させて、試料Sの陽電子消滅寿命を正確に測定することができる。同様の構成を用いて、陽電子消滅寿命以外の消滅特性も正確に測定することができる。図6は、このような陽電子消滅特性測定装置2の構成を示す。
この陽電子消滅特性測定装置2は、陽電子消滅における寿命-運動量相関(AMOC:Age-MOmentum Correlation)測定を行う。ここでは、前記の陽電子消滅特性測定装置1と同様の機能に加えて、試料S中における対消滅γ線(ストップ信号用γ線γ1)のエネルギースペクトル(エネルギーの広がり)が評価される。このエネルギースペクトルは、陽電子と反応して対消滅した試料S中の電子の状態(運動量)を反映する。ここでは、前記の陽電子消滅特性測定装置1と同様に計数部70、寿命解析部90が用いられるため、上記と同様に試料Sにおける陽電子消滅寿命を正確に測定することができる。
一方、ここでは、試料S側から発せられたγ線を検出するための半導体検出器(消滅γ線検出器)100が更に設けられる。半導体検出器100は、ストップ信号用γ線検出器12と同様に、試料S側から発せられた対消滅γ線を検出する。このγ線光子は、ストップ信号用γ線検出器12における場合と同様に、パルス出力として認識され、そのパルス高がγ線のエネルギーに対応することも同様である。ただし、このパルス高(エネルギー)に対する分解能は、シンチレータが用いられたストップ信号用γ線検出器12よりも高い。このため、ストップ信号用γ線検出器12においては対消滅γ線の検出タイミングの認識が主機能であったのに対し、半導体検出器100によって、対消滅γ線の中心エネルギー(511keV)周辺におけるエネルギースペクトルを得ることができる。前記の時間差の場合と同様に、このエネルギースペクトルは、多数回の検出を行った際の横軸をエネルギーとしたヒストグラムとして、スペクトル作成部(データ取得部)110が作成する。
ここで、スタート信号用γ線検出器11の出力、ストップ信号用γ線検出器12、半導体検出器100の出力の(略)同時性を判定するトリプルコインシデンス回路120、ヘッド部40と半導体検出器100の出力の(略)非同時性を判定するアンチコインシデンス回路130が、前記のコインシデンス回路20、アンチコインシデンス回路50と同様に用いられる。この場合、前記と同様に、トリプルコインシデンス回路120によってスタート信号用γ線検出器11、ストップ信号用γ線検出器12の出力パルスと同時性が認められた半導体検出器100の出力パルスは、ストップ信号用γ線(対消滅γ線)γ1に対応すると推定される。このうち、アンチコインシデンス回路130によってヘッド部40の出力との非同時性が認められたものは、試料Sにおいて発生したものであり、同時性が認められたものは試料S外(ヘッド部40)で発生したものと推定される。
このため、前記の時間差データと同様に、スペクトル作成部110は、トリプルコインシデンス回路120によって同時性が認められた半導体検出器100の出力パルスのうち、アンチコインシデンス回路130によって非同時性が認められたもののパルス高(エネルギー)のヒストグラムを第1スペクトル(第1データ)として作成し、これを記憶部80に記憶させる。一方、スペクトル作成部110は、トリプルコインシデンス回路120によって同時性が認められた半導体検出器100の出力パルスのうち、アンチコインシデンス回路130によって非同時性が認められなかった(同時性が認められた)もののエネルギーのヒストグラムを、同様に第2スペクトル(第2データ)として作成し、これを記憶部80に記憶させる。
前記の通り、第1スペクトルは、試料Sにおいて陽電子と反応した電子の状態を反映し、第2スペクトルは、ヘッド部40(陽電子検出用シンチレータ42)において陽電子と反応した電子の状態を反映する。陽電子検出用シンチレータ42としては予め定まった材料が用いられ、エネルギースペクトルにおける標準試料としても用いることができる。スペクトル解析部(解析部)140は、例えば第1スペクトル中における値の第2スペクトル中における値に対する比率等を用いて、試料S中の電子の状態の解析を行うことができる。図7は、実際に測定された第1スペクトル、第2スペクトルの例である。縦軸が対数表示であるが、両者の差異が確認できる。
ここで、前記の計数部70がストップ信号用γ線検出器12とスタート信号用γ線検出器11のパルス出力の時間差を計測し、スペクトル作成部110は、半導体検出器100の出力パルスのエネルギー計測し、これらふたつの計測による信号のコインシデンス時のみに計測をすることもできる。この場合には、上記の第1スペクトル、第2スペクトルを、この時間差毎にそれぞれ複数作成することができる。この場合、例えば試料S中における初期の陽電子消滅における電子・陽電子の状態を反映したエネルギーと、長時間経過後の陽電子消滅における電子・陽電子の状態を反映したエネルギーを、個別に評価できる。ここで第2スペクトルを標準として用いることができるため、寿命計測同様にエネルギー測定においても装置の状態の変化の影響を取り除くことができる。
以下に、実際にこの解析を行った結果について説明する。図8は、一般的なエネルギースペクトルに対する解析の手法を示す例である。ここで、中心エネルギー(約511keV)の周りの広がりが大きい場合には、この対消滅γ線を発生させた電子の運動量が大きく、この広がりが小さな場合にはこの運動量が小さい。ただし、実際に得られるエネルギースペクトルにおいては統計的誤差が多いために、実際にこの広がりを数値的に評価することは容易ではない。このために、図8において、中央の領域Xにおけるカウント数の全体カウント数に対する比率(Sパラメータ)、領域Y(両側)におけるカウント数の全体カウント数に対する比率(Wパラメータ)が、この評価のための特性値として用いられる。これらのパラメータにおいては、領域内のカウント数の積分値が用いられるため、統計的誤差を小さくした状態での評価が可能となる。前記のようにエネルギースペクトルを時間差毎に求めた場合には、各エネルギースペクトルにおけるカウント数は特に小さくなるため、これらのパラメータを用いることが有効となる。SパラメータとはWパラメータとは負の相関があることは明らかであるが、その係数(縦軸:Wパラメータ、横軸:Sパラメータとした場合の傾き)から陽電子の消滅相手の元素の情報が得られる。
図9は、上記のように複数の時間差(-200ps、100ps、400ps、700ps)毎に試料1、試料2について算出し、それぞれで上記のSパラメータ、Wパラメータを算出した結果(試料1:黒丸,試料2:白丸)である。ここでは、前記のようなエネルギー測定の標準値による補正が行われていないため、試料1と試料2の結果の比較が困難である。
これに対して、図10は、それぞれにおける時間差が-750ps~50psの場合の試料1、試料2によるSパラメータ、Wパラメータで、図9におけるSパラメータ、Wパラメータを用いて規格化した場合である。ここでは早い時刻でSパラメータとWパラメータが同じ値を示すことが既知であったため、規格化が可能であった。ここで、時間の経過とともに、試料1、試料2の結果が乖離している。これは、Sパラメータ、Wパラメータは、初期には金属材料のバルク中における陽電子消滅を示しているために同じ値になるが、時間の経過とともに欠陥に捕捉された陽電子の消滅成分を反映するためである。このため、各試料における欠陥内部の化学構造が異なることを明確に示すことができている。本発明では、このような方法を用いなくとも、第2スペクトルのデータを用いて規格化することが可能となるため、全く異なる変化を示す2つの試料においても高精度に比較することが可能となる。
このため、上記のように第1時間データ、第2時間差データを算出すると共に、第1スペクトル、第2スペクトルを作成する図6の構成は、AMOC測定において特に有効である。また、逆に、このような時間差毎の解析を行わない場合には、図6の陽電子消滅特性測定装置2の変形例として、図11に示す陽電子消滅特性測定装置3を用いることもできる。このように、単にエネルギー測定のみを行う場合においては、アンチコインシデンス回路131を用いてヘッド40のパルス出力と半導体検出器100のパルス出力の非同時性、同時性を判定することによって第1スペクトル、第2スペクトルを前記と同時に作成することができる。前記の寿命測定の時間分解能の場合と同様に、標準試料(陽電子検出用シンチレータ42)として、例えば予め電子の運動量分布(エネルギースペクトルの広がりに対応)が判明しているものを用いて、第2スペクトルよりエネルギー分解能の変化を評価し、この結果を第1スペクトルの解析に反映させることもできる。
なお、上記の例では、各スペクトルにおいて、その広がりを評価するための特性値として、前記のようなSパラメータ、Wパラメータが用いられた。しかしながら、このような特性値としては、他の手順で第1スペクトル、第2スペクトルから作成されたものを用いてもよい。また、上記の例ではエネルギースペクトルの広がりが評価の対象となったが、エネルギースペクトルにおける他の特性を評価する場合には、そのために用いる特性値はその内容に応じて適宜設定される。
上記の陽電子消滅特性測定装置1においては、試料Sに対応するデータ(第1データ)、試料S以外に対応するデータ(第2データ)として、それぞれ第1時間差データ、第2時間差データが作成され、陽電子消滅特性測定装置2においては、更に第1データ、第2データとして、それぞれ第1スペクトル、第2スペクトルが作成された。この他にも、ヘッド部40のパルス出力との非同時性、同時性の判定を用いて、試料Sに対応する第1データ、試料S以外(ヘッド部40)に対応する第2データを、測定の目的(測定される物理量)に応じて適宜設定することができる。この際、第1データ、第2データは、消滅γ線検出器の出力パルスを、上記のような同時性、非同時性に応じて2つのグループに選別し、同様の手法を各グループに適用した上で作成される。上記の例では、この手法は、発生γ線との間の時間差のヒストグラムを作成すること(第1時間差データ、第2時間差データ)、パルス高のヒストグラムを作成すること(第1スペクトル、第2スペクトル)であったが、この手法は、測定の内容に応じて適宜設定が可能である。
また、上記のヘッド部40と同様に、陽電子源Xを含み、かつ試料S側に入射しない陽電子を検出してパルス出力をすることができる限りにおいて、ヘッド部の具体的構成は任意である。上記の例では、陽電子検出用シンチレータ42が標準試料となったが、この場合には、標準試料はこの具体的構成に応じて適宜設定される。同様に、発生ガンマ線検出器、対消滅γ線検出器についても、適宜設定が可能である。また、上記の例では、解析部(寿命解析部90、スペクトル解析部140)が陽電子消滅特性測定装置内に設けられたが、上記のように第1データ、第2データが個別に作成されれば、上記の解析部と同様の動作を外部の機器(パーソナルコンピュータ等)で行わせてもよい。
このように、上記の陽電子消滅特性測定装置においては、試料に加工を施すことが不要であり、かつ、被測定試料に対する測定と標準試料に対する測定を実質的に同時に行うことができるため、高効率で高精度の測定を行うことができる。
1、2、3、800、900 陽電子消滅特性測定装置
11 スタート信号用γ線検出器(発生ガンマ線検出器)
12 ストップ信号用γ線検出器(対消滅γ線検出器)
20 コインシデンス回路
30、60、70 計数部(データ取得部)
40 ヘッド部
41 密封用カバー
42 陽電子検出用シンチレータ
43 集光器
44 光電子増倍管(受光部)
50、130、131 アンチコインシデンス回路
80 記憶部
90 寿命解析部(解析部)
100 半導体検出器
110 スペクトル作成部(データ取得部)
120 トリプルコインシデンス回路
140 スペクトル解析部(解析部)
P01~P04、P11~P14、PH0、PH1 パルス
S 試料(被測定試料)
X 陽電子源
γ0 スタート信号用γ線(発生γ線)
γ1 ストップ信号用γ線(対消滅γ線)

Claims (10)

  1. 陽電子源から発生した陽電子の被測定試料中における消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定装置であって、
    前記陽電子源における前記陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をする発生γ線検出器と、
    前記陽電子の対消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をする対消滅γ線検出器と、
    前記被測定試料に当接または近接して設置され、前記陽電子源を含み、かつ前記陽電子源が発した前記陽電子のうち前記被測定試料に入射しなかったものを検出してパルス出力をするヘッド部と
    前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力のうち、時間的に近接した組み合わせを抽出し、当該組み合わせを、前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記ヘッド部の前記パルス出力とが時間的に近接しない第1の組み合わせと、前記発生γ線検出器の前記パルス出力と前記ヘッド部の前記パルス出力とが時間的に近接する第2の組み合わせに分類し、前記第1の組み合わせにおける前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力に基づき第1データを、前記第2の組み合わせにおける前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力に基づき前記第1データと同様の手法で作成された第2データを、それぞれ取得するデータ取得部と、
    前記第2データを用いて前記第1データを解析することによって前記消滅特性を解析する解析部と、
    を具備することを特徴とする陽電子消滅特性測定装置。
  2. 前記解析部は、
    前記第1データに対して影響を及ぼす装置の特性に関連する量である装置データを前記第2データから算出し、当該装置データを用いて前記第1データに基づき前記被測定試料における前記消滅特性を算出することを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  3. 前記データ取得部において、前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力と前記発生γ線検出器の前記パルス出力との間の時間差のヒストグラムが前記第1データ及び前記第2データとして作成され、
    前記解析部は、前記第1データを複数の減衰特性の重ね合わせとしたフィッティングを、当該減衰特性の減衰時定数、前記重ね合わせにおける重ね合わせ係数をパラメータとして行い、前記減衰時定数、前記重ね合わせ係数の最適値を算出することを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  4. 前記解析部は、前記第2データより、前記第1データにおける時間分解能、及び前記第1データにおける前記重ね合わせの原点となる基準時刻を、前記装置データとして算出することを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  5. 前記データ取得部において、前記対消滅γ線検出器における前記パルス出力のパルス高のヒストグラムに対応するエネルギースペクトルが前記第1データ及び前記第2データとして作成されることを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  6. 前記第1データ及び前記第2データにおいて、前記エネルギースペクトルは、前記対消滅γ線検出器の前記パルス出力と前記発生γ線検出器の前記パルス出力との間の時間差毎に作成されることを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  7. 前記解析部は、前記第1データ及び前記第2データにおいて、時間差毎に作成された前記エネルギースペクトルのそれぞれに基づき特性値を算出し、予め定められた前記時間差に対応した前記特性値で、他の前記特性値を規格化することを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  8. 前記解析部は、前記第1データにおける前記特性値の、前記第2データにおいて対応する前記特性値に対する比率を算出することを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  9. 前記ヘッド部は、
    前記陽電子源と、
    前記陽電子源に対して前記被測定試料と反対側に配置され、前記陽電子を吸収することにより蛍光を発する陽電子検出用シンチレータと、
    前記蛍光を受光して前記パルス出力をする受光部と、
    を具備することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
  10. 前記陽電子検出用シンチレータは、無機シンチレータで構成されたことを特徴とする請求項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
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