非特許文献1のように、小売電気事業者が発電ユニットを自ら用意し、電力需要の過少予測により生じた電力不足を瞬時予備力で補う方式では、発電ユニットの保守や管理に要する費用負担が増える。また、一般的に自社の発電ユニットで発電する電力や、事後的に購入する電力の単価は、予め一般電気事業者と契約して確保する電力の単価よりも高くなる。したがって、予測誤差が大きくなるほど小売電気事業者の損失が増加してしまう。
電力需要の過少予測による損失LLaは、不足電力の調達方法に応じて異なるが、不足電力を自社の発電ユニットで補う場合の損失LLaは次式(1)で求められる。
LLa=Cs+VLa*Cp+Pim (VLa, t) (1)
ここで、Csは発電ユニットによる発電を開始するためのイニシャルコストである。VLaは過少予測により生じる不足電力量である。Cpは発電ユニットが発電する電力の単価である。Pimは予測誤差が生じた時間tと電力の売買価格差により生じる損失であり、不足電力VLaの関数となる。また、不足電力を市場で事後的に購入する場合の損失LLaは次式(2)で求められる。
LLa=VLa*Pb+Pim (VLa, t) (2)
ここで、Pbは不足電力を市場で事後的に購入する場合の単価である。一方、電力需要の過大予測による損失LExは次式(3)で求められる。
LEx=Ca (VEx)-VEx*Ps+Pim (VEx, t) (3)
ここで、Caは過大予測により生じた余剰電力VExの購入または発電に要したコストであり、余剰電力VExの関数となる。Psは余剰電力VExを市場で販売する際の単価であり、購入価格よりも大幅に低下する。Pimは予測誤差が生じた時刻tにおける電力の売買価格差により生じる損失であり、余剰電力VExの関数となる。
このように、電力需要の予測誤差により小売電気事業者が被る損失は、予測精度のみならず、需要予測に基づいて予め電力を取得する際の単価と予測誤差分の電力を市場で事後的に調達する際の単価との不均衡に大きく依存することになる。
なお、特許文献1,2によれば顧客の電力需要を高い精度で予測できるので過小予測や過大予測を最小限に抑えられるものの、予測誤差が原因の売買電を不要とできるまでの精度は期待できない。
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、小売電気事業者が顧客の電力需要を予測し、実測値に対する予測誤差をバッテリの充放電で補える電力管理システムを提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明は、需要予測に基づいて調達した電力を顧客へ配電する電力管理システムにおいて、以下の構成を具備した点に特徴がある。
(1) 所定の予測期間ごとに各予測エリアの電力消費を予測する手段と、予測エリアごとに電力消費の予測値と実測値との誤差を計算する手段と、予め用意したバッテリを予測期間内での誤差の累積が縮小するように充放電する手段とを具備した。
(2) 充放電する手段は、過大予測により生じた余剰電力をバッテリに充電し、過少予測により生じた不足電力をバッテリに放電させるようにした。
(3) 予測エリアが少なくとも一つずつ複数の分散管区に仮想的に収容され、バッテリが分散管区内の少なくとも1つの予測エリアに用意され、調達した電力が、収容した予測エリアの予測値に基づいて各分散管区に割り当てられ、充放電する手段は、各分散管区に割り当てられた電力と当該分散管区の電力消費の実測値との誤差が縮小するように各バッテリを充放電するようにした。
(4) 充放電する手段は、各分散管区に収容された複数の予測エリアの誤差の総和が分散管区ごとに縮小するようにバッテリを充放電するようにした。
(5) 充放電する手段は、分散管区内の一の予測エリアで余剰電力が生じると、当該一の予測エリアに用意したバッテリを当該一の予測エリアの電力で充電し、または当該一の予測エリアと異なる他の予測エリアに用意したバッテリを当該他の予測エリアの電力で充電するようにした。
(6) 充放電する手段は、分散管区内の一の予測エリアで電力不足が生じると、当該一の予測エリアに用意したバッテリの電力を当該一の予測エリアへ放電し、または当該一の予測エリアと異なる他の予測エリアに用意したバッテリの電力を当該他の予測エリアへ放電するようにした。
(7) 充放電する手段は、余剰電力を充電残量の少ないバッテリへ優先的に充電するようにした。
(8) 充放電する手段は、不足電力を充電残量の多いバッテリから優先的に放電させるようにした。
(9) 前記各予測エリアの電力消費を予測する手段が、各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して履歴ベース予測値を計算する履歴ベース予測手段と、カレンダ情報に紐付いたエリア間の人の移動履歴を学習して構築した移動予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して人の移動を予測する移動予測手段と、各エリアの所在人数に紐付いた消費電力の履歴情報を学習して構築した移動ベース予測モデルに前記予測した移動後の所在数を適用して移動ベース予測値を計算する移動ベース予測手段と、履歴ベース予測値と移動ベース予測値との予測差に基づいて予測日の消費電力を予測する予測精度改善手段とを具備した。
(10) 履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算するようにした。
(11) 前記外因が、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速の少なくとも一つを含む気象情報であることとした。
(12) 前記外因が、消費電力予測に影響を及ぼすイベントの情報であることとした。
(13) 履歴ベース予測手段は、履歴ベース予測値を第1の周期で計算し、移動予測手段は、人の移動を前記第1の周期よりも長い第2の周期で予測するようにした。
(14) 予測日が複数の時間帯に分割され、移動予測手段は、時間帯ごとに人の移動を予測するようにした。
(15) 前記各予測エリアの電力消費を予測する手段が、各エリアの消費電力履歴を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日の情報を適用して履歴ベース予測値を計算する履歴ベース予測手段と、エリア間の人の移動履歴を学習して構築した移動予測モデルに予測日の情報を適用して各エリアの人の移動を予測する移動予測手段と、予測日に各エリアの人の実移動数を略リアルタイムで検知する移動検知手段と、予測日の各時刻における移動の予測値と実移動数との予測差に基づいて、消費電力予測に影響するイベントの発生を推定するイベント推定手段と、前記イベントの発生が推定されると、前記履歴ベース予測値に基づいて求められる消費電力予測値を補正する予測補正手段とを具備した。
(16) エリア間の人の移動に影響を及ぼすイベントが発生した旨のイベント警報を取得する手段をさらに具備し、イベント推定手段は、予測差およびイベント警報に基づいてイベントの発生を推定するようにした。
(17) イベント警報を取得する手段は、気象等の特別警報、警報および注意報、道路交通情報ならびに鉄道運行情報の少なくとも一つを取得するようにした。
(18) 予測補正手段は移動の予測差に基づいて消費電力予測値を補正するようにした。
(19) 履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算するようにした。
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1) 予測期間ごとに顧客の需要予測に基づいて電力を調達して小売りする際、予測値が実測値を超えるとバッテリを充電する一方、実測値が予測値を超えるとバッテリを放電するので、予測期間内での短期的な予測誤差にかかわらず、予測期間全体では実際の電力消費量を需要予測に近付けることができる。したがって、予測誤差に起因した割高な買電や割安な売電を減少させ、予測誤差に対して課されるペナルティも減少させることができるようになる。
(2) バッテリの充電状態を監視し、充電残量の低いバッテリへ優先的に充電し、また充電残量の多いバッテリから優先的に放電させるようにしたので、バッテリへの効率的な充放電が可能になる。
(3) 充放電する手段は、各分散管区に割り当てられた電力と当該分散管区の電力消費の実測値との誤差が縮小するように各バッテリを充放電するので、分散管区ごとに予測誤差に対して課されるペナルティを削減できる。
(4) 分散管区内のいずれかの予測エリアで生じた過大予測による余剰電力を、分散管区内のいずれかの予測エリアに設けたバッテリへの充電によって消費できるので、全ての予測エリアにバッテリを設けなくても、分散管区単位で電力消費量を需要予測に近付けることができる。したがって、分散管区ごとに予測誤差に対して課されるペナルティを削減できる。
(5) 分散管区内のいずれかの予測エリアで生じた過少予測による電力不足を、分散管区内のいずれかの予測エリアに設けたバッテリの放電によって補うことができるので、全ての予測エリアにバッテリを設けなくても、分散管区単位で電力消費量を需要予測に近付けることができる。したがって、分散管区ごとに予測誤差に対して課されるペナルティを削減できる。
(6) 分散管区に収容された複数の予測エリアのいずれかにおける過少予測により生じた電力不足をバッテリの放電で補う際、充電残量の十分なバッテリを放電させるので、十分な電力を補えるようになる。
(7) 分散管区に収容された複数の予測エリアのいずれかにおける過大予測により生じた余剰電力をバッテリへの充電で消費する際、空き容量の十分なバッテリに充電するので、十分な電力を消費できるようになる。
(8) 予測日の消費電力を消費電力履歴に基づいて予測した履歴ベース予測値を、予測日の消費電力を人の移動履歴に基づいて予測した移動ベース予測値との差分に基づいて修正し、予測日の消費電力を予測することで、人の移動に起因した予測精度の低下を防止することができ、安定的に予測精度が高く、低い処理負荷により短時間での予測が可能な消費電力予測システム、方法およびプログラムを提供できるようになる。
(9) 履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して履歴ベース予測モデルを構築するので、消費電力予測に外因を反映させることができ、高精度な消費電力予測が可能になる。
(10) 気象情報やイベント情報などの、消費電力変動の大きな要因となる外因を考慮することで、これらの外因の消費電力予測への影響を緩和できるようになる。
(11) 履歴ベース予測値を第1の周期で計算し、移動予測を第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動を予測することで、予測計算の負担を軽減できるようになる。
(12) 予測日を複数の時間帯に分割し、時間帯ごとに人の移動を予測することで、人の移動傾向が時間帯に応じて固有な場合も、人の移動を高精度で予測できるようになる。
(13) エリア間の人の移動に影響し、その結果、消費電力履歴に基づいて予測した履歴ベース予測値の予測精度を低下させるようなイベントが推定されると、履歴ベース予測値を補正するので、事前に予測し得ない突発的なイベントが発生した場合でも正確な消費電力予測が可能になる。加えて、履歴ベース予測値の補正は、履歴ベース予測値の予測精度を低下させるようなイベントが推定された場合のみ行われるので、再予測の処理負担を軽減できるようになる。
(14) エリア間の人の移動に影響するイベントが発生した旨のイベント警報を取得できるようにしたので、履歴ベース予測値の予測精度を低下させるようなイベントを確実に推定できるようになる。
(15) 予測日の各時刻における移動の予測値と実移動数との予測差に基づいて消費電力予測値を補正することで、予測差との相関の高い履歴ベース予測値の変動を正確に補正できるようになる。
(16) 履歴ベース予測手段は、消費電力履歴および外因の履歴情報を学習して履歴ベース予測モデルを構築し、予測対象日の気象予報やイベント予定などの外因を用いるので、消費電力予測に外因を反映させることができ、高精度な消費電力予測が可能になる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電力管理システム1を含む電力ネットワークの主要部の構成を示したブロック図であり、送配電ネットワーク3には、電力会社の発電設備2および小売電気事業者Rが管理する配電設備が接続されている。
配電エリアは複数の分散管区Kに分割(例えば、10分割)されており、各分散管区Kに少なくとも一つの予測エリアAが仮想的に配置される。小売電気事業者Rと配電契約した顧客は、いずれかの予測エリアに収容される。各分散管区には送配電ネットワーク3から割り当てに応じて電力が供給される。
小売電気事業者Rの電力供給システム1は、消費電力の予測システム11および監視システム12を含む。予測システム11は、後に詳述するように、予測エリアごとに予測期間の電力需要を予測する。本実施形態では、予測期間が24時間(予測日)に設定され、予測日毎に電力需要が予測される。
電力供給システム1は、全ての予測エリアの予測日における予測値を集計し、電力会社から当該予測値に基づいて電力を調達する一方、予測日における予測値と実測値との誤差を予測エリアAごとに把握する。電力会社、または日本電力卸売市場(JEPX)から調達した電力は分散管区単位で割り当てられる。
各分散管区Kへの電力の割当量は、各分散管区Kが収容する予測エリアAの需要予測の総量によって決定される。したがって、分散管区K1には、予測エリアA1の予測値と予測エリアA2の予測値との総量が割り当てられる。小売電気事業者Rには、分散管区Kごとに割当量(予測値)と消費量(実測値)との差分に応じてペナルティが課されるため、割当量に消費量を合わせることが望まれる。
小売電気事業者Rは、電力需要の予測値が実測値を下回る過少予測により生じ得る不足電力をその放電により補い、また予測値が実測値を上回る過大予測により生じ得る余剰電力をその充電により蓄積/消費するバッテリBを予測エリアAごとに確保している。ただし、複数の予測エリアAを分散管区に収容し、分散管区ごとに需要予測に実消費を一致させる制御を行う場合は、分散管区内の少なくとも一つの予測エリアAにバッテリを用意すればよい。本実施形態では、分散管区K1に収容された2つの予測エリアA1,A2に注目して説明を続ける。
予測エリアA1には3つのバッテリB1,B2,B3が配置され、予測エリアA2には1つのバッテリB4が配置されている。予測エリアA2には太陽光パネルSPが設けられ、バッテリB4は太陽光パネルSPが発電する電力によっても充電される。これらのバッテリBは、小売電気事業者Rが自ら所有しても良いし、あるいは第三者が所有して小売電気事業者Rが使用契約しても良い。
監視システム12は、過少予測により不足電力が生じた予測エリアAのバッテリBへ放電を要求し、当該バッテリBを放電させることで過少予測による不足電力を補う。放電対象のバッテリBは、原則として過少予測が発生した予測エリアAから充電残量に基づいて選択される。
監視システム12は更に、過大予測により余剰電力が生じた予測エリアAのバッテリBへ充電を要求し、当該バッテリBを充電することで過大予測による余剰電力を消費する。充電対象のバッテリBは、原則として過大予測が発生した予測エリアAから充電残量に基づいて選択される。ソーラパネルSPを有する予測エリアA2では、過大予測が発生したか否かに関わらず、充電不足のバッテリB4に対してはソーラパネルSPの発電量に基づいて充電が行われる。充電不足のバッテリが無ければソーラパネルSPの発電量は予測エリアA2内で直接消費される。
なお、過少予測が生じた予測エリアAに充電残量の十分なバッテリBなく、あるいは過大予測が生じた予測エリアAに空き容量の十分なバッテリBがないと、同じ分散管区内の他の予測エリアのバッテリが選択され、当該他の予測エリアに対して当該バッテリによる充放電が行われる。ただし、配電効率の観点から他の分散管区内のバッテリが選択されることは原則としてない。
図2は、前記消費電力予測システム11の第1実施形態の主要部の構成を示したブロック図であり、市町村あるいは都道府県といった比較的大きなエリアを対象に、消費電力の履歴情報に基づいて将来の消費電力(履歴ベース予測値)を予測する電力予測部5と、各エリアの所在人数に基づいて消費電力(移動ベース予測値)を予測し、各予測値の予測差に応じて履歴ベース予測値を調整しその予測精度を改善する予測精度改善部6とから構成される。
電力予測部5において、消費電力履歴データベースiDB-h1には、エリアごとにカレンダ情報と紐付いた過去の消費電力が履歴情報ci-1として登録されている。このような消費電力履歴ci-1は、Advanced Metering Infrastructure(AMI)を使用して収集できる。
外因データベースeDB-i1~eDB-iNには、エリアごとに消費電力に影響を及ぼす外因として、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速といった過去の気象情報や将来の気象予報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報などが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報ei-i1~ei-iNとして登録されている。このような外因履歴ei-i1~ei-iNは、API (Application Programming Interface)を介して収集できる。
消費電力予測サーバSV1には、第1MLアルゴリズムa1が登録されている。第1MLアルゴリズムa1は、消費電力履歴データベースiDB-h1においてカレンダ情報と紐付けられた消費電力履歴ci-1と、外因データベースeDB-i1~eDB-iNにおいてカレンダ情報と紐付けられた外因履歴ei-i1~ei-iNとの関係を機械学習(ML)することで重回帰分析を行い、各エリアの予測日における消費電力を当該予測日の気象予報やイベント情報などの外因に基づいて予測する履歴ベース予測モデルM1を構築する。
前記履歴ベース予測モデルM1は、予測日のカレンダ情報および気象予報等の外因に基づいて、図3に示すように、各エリアの予測日の消費電力Yhを、次式(4)に基づいて30分周期で予測する。本実施形態では、毎日の午前10時に翌日の消費電力が予測され、48個の履歴ベース予測値Yhi(i∈{0, 1…, 47})が履歴ベース予測値データベースiDB-f1に蓄積される。
ここで、Yhiはi番目の周期における履歴ベース予測値、β0,iはi番目の周期に適用される回帰直線の切片、Nは機械学習パラメータ数、βk,iはi番目の周期におけるk番目の機械学習パラメータの回帰係数、pk,iはi番目の周期に適用されるk番目の機械学習パラメータの値である。
このように、本実施形態では予測日の消費電力が30分周期で予測され、48個/日の履歴ベース予測値Yhiが得られるので、電気事業者は特にピーク時の消費の変動を綿密に予測することができる。
予測精度改善部6において、移動履歴データベースiDB-h2には、エリアごとに他のエリアからの人の流れおよび他のエリアへの人の流れが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報mi-1として登録されている。このような移動履歴mi-1は、自身の所在地を共有することに同意したユーザのスマートフォンが有する位置識別機能を介して収集できる。
移動予測サーバSV2には、第3MLアルゴリズムa3が登録されている。第3MLアルゴリズムa3は、予測日のエリア間の人の流れを、図4に示すように、移動履歴データベースiDB-h2に登録されている各エリア間での人の移動履歴mi-1を要素とする遷移行列に基づいて予測し、更に移動後の各エリアの所在人数を計算する移動予測モデルM3を構築する。
図4は、4つのエリアA1,A2,A3,A4間を相互に移動する人の流れを示しており、遷移行列では、要素m14がエリアA1からエリアA4への人の流れを表し、要素m41がエリアA4からエリアA1への人の流れを表し、要素m11がエリアA1からエリアA1への人の流れを表している。人の流れの予測結果mfは移動予測データベースiDB-f2に登録される。
ここで、例えば人の一般的な移動パターンを考えると、朝に通勤で職場まで移動した後、夕方まで職場で勤務し、勤務を終えた夜に家に移動するなど、移動の合間に一定時間同じ場所に居続ける移動パターンが想定される。また、人の流れの予測周期を短くすると、各エリアの境界近傍での僅かな人の流れも予測に影響するので予測演算の負荷が増加する。
そこで、本実施形態では移動履歴mi-1に基づく移動予測を、前記履歴ベース予測に用いる重回帰分析のパラメータとしては取り込まずに独立させ、その予測周期を前記履歴ベース予測の周期(30分)よりも長くすることで処理負荷の軽減を図る。
本実施形態では、後に詳述するように、予測日を4つの時間帯T1,T2,T3,T4に分割し、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに消費電力予測Yhが計算されるところ、前記移動予測モデルM3も、エリア間での人の移動および各エリアの所在人数を、一つの予測モデルで時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測する。各時間帯T1,T2,T3,T4は等間隔である必要はなく、人の移動パターンが類似する時間間隔で分割しても良い。
前記消費電力予測サーバSV1には更に、第2MLアルゴリズムa2が登録されている。第2MLアルゴリズムa2は、移動予測データベースiDB-f2に登録されている各エリアの人の流れの予測値mfに基づいて推定される当該エリアの所在人数、移動履歴データベースiDB-h2に登録されている移動履歴mi-1および消費電力履歴データベースiDB-h1に登録されている消費電力履歴ci-1の関係を機械学習(ML)することで、各時間帯T1,T2,T3,T4に対応する4つの移動ベース予測モデルM2j (M21,M22,M23,M24) を構築する。
各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24は、図5,6に示すように、エリアごとに各時間帯T1,T2,T3,T4で予測された予測日の各所在人数に基づいて消費電力の移動ベース予測値Ymj(j∈{1, 2, 3, 4})を時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算する。
前記消費電力予測サーバSV1は更に、図7に示すように、前記履歴ベース予測モデルM1が30分周期で予測した履歴ベース予測値Yhiの時間帯T1,T2,T3,T4のごとの平均値(時間帯平均)Yh_aj(Yh_a1,Yh2_a2,Yh3_a3,Yh4_a4)を計算し、各時間帯平均Yh_ajと、前記各移動ベース予測モデルM2jが時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測した移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)とを次式(5)に適用して、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測差γj(γ1,γ2,γ3,γ4)を計算する。
γj = Ymj - Yh_aj (5)
前記消費電力予測サーバSV1は更に、図8に示すように、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算した予測差γ1,γ2,γ3,γ4を、それぞれ各時間帯の履歴ベース予測値Yhiから、次式(6)に基づいて調整することで、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを計算する。精度改善された消費電力予測値YiはデータベースiDB-efに蓄積される。
Yi = Yhi +γj (6)
図9は、消費電力予測サーバSV1および移動予測サーバSV2が協調し、各データベースDBに蓄積されている履歴情報を用いて各予測モデルMを構築しながら予測日の消費電力を予測し、さらにその予測精度を改善する構成を示した機能ブロック図であり、図10は、その手順を示したフローチャートである。
履歴ベース予測部201は、各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴ci-1および外因履歴ei-i1~ei-iNを機械学習して構築した履歴ベース予測モデルM1に、予測日のカレンダ情報および外因を適用して消費電力の履歴ベース予測値Yhiを計算する。前記外因としては、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速などの気象情報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報を使用できる。前記履歴ベース予測部201は、前記履歴ベース予測モデルM1に予測日のカレンダ情報および外因を適用し、第1の周期(例えば、30分)で履歴ベース予測値Yhiを計算することができる。
移動予測部202は、エリア間のカレンダ情報に紐付いた人の移動履歴mi-1を学習して構築した移動予測モデルM3に、予測日のカレンダ情報を適用して各エリア間の人の流れmfを予測する。移動予測モデルM3は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動mfを予測することができる。
移動ベース予測部203は、予測日を複数の時間帯(本実施形態では、4つの時間帯T1,T2,T3,T4)に分割し、各エリアの所在人数に紐付いた消費電力履歴ci-1および外因ei-i1~ei-iNを学習して、移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24を前記時間帯ごとに構築する。そして、各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24に、前記予測した人の流れ後の各エリアの所在人数mfを適用することで消費電力の移動ベース予測値Ymjを計算する。
予測差計算部204は、履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yhi_ajと移動ベース予測値Ymjとの予測差γjを計算する。前記予測差計算部204は、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに求めた履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)と、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算した移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)との予測差γj(γ1,γ2,γ3,γ4)を計算することができる。
予測精度改善部205は、履歴ベース予測値Yhiを予測差γmjで修正し、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを出力する。前記予測精度改善部205は、時間帯T1の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ1を適用する。同様に、時間帯T2の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ2を適用し、時間帯T3の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ3を適用し、時間帯T4の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ4を適用することができる。これにより、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを出力することができる。
次いで、図10のフローチャートを参照して説明する。ステップS1では、消費電力の予測エリアおよび予測日が指定される。ステップS2では、予測エリアの予測日に関する気象予報やイベント情報などの外因が取得される。ステップS3では、予測エリアの予測日の消費電力を予測する予測モデルが登録済みであるか否かが判断され、未登録であればステップS4へ進む。
ステップS4では、前記履歴ベース予測部201において履歴ベース予測モデルM1が構築される。前記履歴ベース予測部201はさらに、予測エリア、予測日および予測エリアの予測日に関する気象予測やイベント情報などの外因を前記履歴ベース予測モデルM1に適用することで、履歴ベース予測値Yhiが30分周期で計算される。
これと並行して、ステップS5では、移動予測部202において、予測エリアの予測日における流入人数および流出人数を予測する移動予測モデルM3が構築される。移動予測部202はさらに、前記移動予測モデルM3に予測エリアおよび予測日を適用することで予測エリアの予測日における人の移動予測値mfを計算する。
ステップS6では、移動ベース予測部203において、予測エリアの予測日の消費電力を、当該予測日の前記流入人数/流出人数に基づいて推定される各エリアの所在人数に基づいて予測する移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24が、前記時間帯T1,T2,T3,T4ごとに構築される。移動ベース予測部203はさらに、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測した移動予測を、対応する各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24に適用することで、予測エリアの予測日における移動ベース予測値Ymjを時間帯ごとに計算(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)する。
このように、本実施形態では履歴ベース予測モデルM1の構築および予測(ステップS4)と、移動予測モデルM3の構築および予測(ステップS5)ならびに移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24の構築および予測(ステップS6)とが並行して行われるので、全体的な処理コストを低減できるようになる。
ステップS7では、前記履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)が計算される。ステップS8では、図8に示したように、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに、履歴ベース予測値の時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)と前記時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測された移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)との予測差γが前記予測差計算部204により計算される。
ステップS9では、予測精度改善部205が、各履歴ベース予測値Yhiに、その時間帯T1,T2,T3,T4に応じた予測差γ1,γ2,γ3,γ4を反映して予測精度を改善する。なお、前記ステップS4において、予測モデルが登録済みであると判断されるとステップS10へ進み、登録済みの各予測モデルが、その後に取得した履歴情報に基づいて更新される。
図11は、消費電力の予測値と実測値との関係を時間帯T1,T2,T3,T4(V列)ごとに比較した例を示した図であり、履歴ベース予測値(X列)を移動ベース予測値との予測差(γ1,γ2,γ3,γ4)に基づいて修正した後の予測値(Y列)は、いずれも実測値(Z列)に近付いており、履歴ベース予測値Yhiの精度が移動ベース予測値Ymjにより改善されていることが判る。
図12は、本発明の機能ブロック図であり、主に前記監視システム12の構成を示している。
予測誤差取得部121は、各予測日における電力需要の予測値と実測値との差分を予測誤差ΔPとして自ら計算し、または前記消費電力予測システム11から取得する。充放電決定部122は、予測誤差ΔPまたはその累積値が所定の許容レンジ±ΔPrefから外れると、余剰電力のバッテリBへの充電または不足電力のバッテリBからの放電を決定する。前記許容レンジ±ΔPrefは固定値であっても良いし、電力価格、発電コスト、蓄電コスト、時刻等の各種パラメータに応じて適応的に変動する変動値であっても良い。
バッテリ監視部123は、各バッテリBの充電残量を、その電圧または充放電履歴に基づいて監視する。充電バッテリ決定部124は、余剰電力をバッテリへ充電する際、充電残量のより少ない1ないし複数のバッテリBを充電対象に決定する。放電バッテリ決定部125は、不足電力をバッテリBから放電させる際、充電残量のより多い1ないし複数のバッテリBを放電対象に決定する。充放電部126は、前記各バッテリ決定部124,125の決定結果に応じて、充電対象のバッテリBに対する余剰電力の充電または放電対象のバッテリに対する不足電力の放電を実行する。
前記充放電部126は、バッテリBが小売電気事業者Rの管理下にあれば、バッテリBの充放電を自ら制御する一方、バッテリBの充放電が外部の事業者により管理されている場合には、要害事業者に対してバッテリBの充放電を要求する。
図13は、前記充放電決定部122による充放電の決定方法を模式的に示した図である。時刻t1において、電力消費の予測値(●)が実測値(○)を上回る過大予測の累積値ΣΔPが、許容される予測誤差レンジ±ΔPrefから外れると、余剰電力の充電が決定される。また、時刻t2において、電力消費の予測値(●)が実測値(○)を下回る過少予測の累積値ΣΔPが予測誤差レンジ±ΔPrefから外れると、不足電力の放電が決定される。前記予測誤差レンジ±ΔPrefは固定値に限定されず、各種のパラメータに応じて動的に変動しても良い。
図14は、図1の分散管区K1を例にして充電バッテリ決定部124が充電バッテリを決定する方法を説明するための図である。予測日(N+1)の時間帯T2において電力需要の予測値が実測値を上回る過大予測が発生し、その累積値ΣΔPが許容レンジ±ΔPrefから外れると、充電バッテリ決定部124はバッテリ監視部123からバッテリB1~B4の充電残量を取得する。
本実施形態では、時間帯T2においてバッテリB1の充電残量が最も低下している旨の監視結果を取得するので、充電バッテリ決定部124はバッテリB1を充電対象に決定する。充放電部126は、時間帯T3の開始タイミングからバッテリB1への充電を開始する。なお、時間帯T3は一日のうちで電力需要のピークと重なるが、本実施形態ではバッテリB1への充電が実行され、その分だけ電力消費量が増えることになる。
図15は、前記図14の例において、バッテリ充電を行わない従来技術における電力消費量およびバッテリ充電を行う本実施形態における電力消費量を、需要予測と比較した図である。本実施形態では、時間帯T3においてバッテリB1への充電により余剰電力が消費されるので、従来技術との比較で電力消費が増加し、分散管区単位では需要予測により近い値となっていることが判る。
バッテリB1に充電できる電気量をVCHとすれば、余剰電力をVCHだけ減じることができるので、次式(7),(8)のように、小売電気事業者は過大予測による損失LExをL'Exまで減じることができる。
L'Ex=Ca (V'Ex)-V'Ex*Ps+Pim (V'Ex, t) (7)
ただし、
V'Ex=VEx-VCH (8)
このように、本実施形態によれば、予測日内での短期的な予測誤差にかかわらず、予測日全体では、実際の電力消費量を需要予測に近付けることができる。したがって、過大予測に起因した割安な売電を抑制できるようになる。
図16は、前記放電バッテリ決定部125による放電バッテリの他の決定方法を、前記分散管区K1を例にして説明するための図である。予測日(N+1)の時間帯T2においてエリアA1での電力需要の予測値が実測値を下回る過少予測が発生し、その累積が許容レンジ±ΔPrefから外れると、放電バッテリ決定部125はバッテリ監視部123からバッテリの充電残量を取得する。いずれのバッテリも充電残量が不十分であると、当該タイミングではバッテリからの放電は行われないので過少予測の状態が継続する。
一方、バッテリB4は間帯T2からT3にかけてソーラパネルSPにより充電された結果、時間帯T4ではフル充電状態となっている。放電バッテリ決定部125は、バッテリB4の充電残量が最も多い旨の監視結果を取得すると、当該バッテリB4を前記過少予測による電力不足を補うための放電対象に決定し、時間帯T4の開始タイミングからバッテリB4を放電させる。その結果、エリアA2の時間帯T4ではバッテリB4の放電量だけ電力消費量が削減される。
図17は、前記分散管区K1において、バッテリ放電を行わない従来技術における電力消費量、およびバッテリ放電を行う本実施形態における電力消費量を、需要予測と比較した図である。
本実施形態では、エリアA1の時間帯T2における電力消費が予測値を超えたために当該時点ではエリアA1、A2の電力消費総量が需要予測を大きく超えている。しかしながら、その後の時間帯T4においてバッテリB4の電力がエリアA2に放電されることで当該エリアA2への配電が抑制される。その結果、従来技術との比較での電力消費量が減少し、分散管区単位では電力消費量を需要予測に近付けることができる。
このように、本実施形態では分散管区K1の一の予測エリアA1で電力不足が生じると、当該予測エリアA1と異なる他の予測エリアA2に用意したバッテリB4の電力を当該他の予測エリアA2へ放電することもできるので、全ての予測エリアにバッテリを設けなくても、分散管区単位で電力消費量を需要予測に近付けることができる。したがって、分散管区ごとに予測誤差に対して課されるペナルティを削減できる。
なお、図16,17では過少予測による電力不足を例にして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、分散管区K1の一の予測エリアA1で余剰電力が生じる場合は、当該予測エリアA1に用意したバッテリB1,B2,B3を当該予測エリアA1の余剰電力で充電しても良いし、あるいは予測エリアA1と異なる他の予測エリアA2に用意したバッテリB4を当該予測エリアA2の電力で充電しても良い。
本実施形態において、バッテリから放電できる電気量をVDHとすれば、次式(9),(10)のように不足電力をVDHだけ減じることができるので、小売電気事業者は損失を減じることができる。
L'La=V'La*Pb+Pim (V'La, t) (9)
ただし、
V'La=VLa-VDH (10)
このように、本実施形態によれば、予測エリアごとの予測誤差にかかわらず、分散管区単位では消費電力の実測値を予測値に近付けることができる。したがって、過少予測が原因の電力不足を事後的に補うための割高な買電を削減できるのみならず、分散管区単位での予測誤差に基づくペナルティを減少できるようになる。
図18は、前記消費電力予測システム11の第2実施形態の主要部の構成を示したブロック図であり、電力予測部7、移動予測部8および予測補正部9を主要な構成としている。
前記電力予測部7は、市町村あるいは都道府県といった比較的大きなエリアを対象に、消費電力の履歴情報に基づいて将来の消費電力を予測する。前記移動予測部8は、各エリア間の人の移動履歴に基づいて予測日の各エリア間の人の移動を予測する。
電力予測補正部9は、予測日の各時刻(例えば、1時間周期)における人の移動に関する予測値mfと実測値(実移動数)mrとを比較し、予測差Δmがイベント推定閾値△m_refを超えるなどして、消費電力予測に影響を及ぼすイベントが発生したと推定されると当初の消費電力予測値を補正する。
電力予測部7において、消費電力履歴データベースiDB-h1には、エリアごとにカレンダ情報と紐付いた過去の消費電力が履歴情報ci-1として登録されている。このような消費電力履歴ci-1は、Advanced Metering Infrastructure(AMI)を使用して収集できる。
外因データベースeDB-i1~eDB-iNには、エリアごとに消費電力に影響を及ぼす外因として、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速といった過去の気象情報や将来の気象予報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報などが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報ei-i1~ei-iNとして登録されている。このような外因履歴ei-i1~ei-iNは、API (Application Programming Interface)を介して収集できる。
消費電力予測サーバSV1には、第1ML(Machine Learning)アルゴリズムa1が登録されている。第1MLアルゴリズムa1は、消費電力履歴データベースiDB-h1においてカレンダ情報と紐付けられた消費電力履歴ci-1と、外因データベースeDB-i1~eDB-iNにおいてカレンダ情報と紐付けられた外因履歴ei-i1~ei-iNとの関係を機械学習(ML)することで重回帰分析を行い、予測エリアの予測日における消費電力を当該予測日のカレンダ情報ならびに外因としての気象予報やイベント情報に基づいて予測する履歴ベース予測モデルM1を構築する。
履歴ベース予測モデルM1は、予測日のカレンダ情報および気象予報、イベント情報などの外因に基づいて、図3を参照して説明した第1実施形態と同様に、予測エリアの予測日における30分周期の消費電力Yhを、上式(4)に基づいて一括で予測する。本実施形態でも、毎日の午前10時に翌日の消費電力が予測され、48個の履歴ベース予測値Yhi(i∈{0, 1…, 47})が履歴ベース予測値データベースiDB-f1に蓄積される。
このように、本実施形態では予測日の30分周期の消費電力が一括で予測され、48個/日の履歴ベース予測値Yhiが得られるので、電気事業者は特にピーク時の消費の変動を綿密に予測することができる。
移動予測部8において、移動履歴データベースiDB-h2には、エリアごとに他のエリアからの人の流れおよび他のエリアへの人の流れが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報mi-1として登録されている。このような移動履歴mi-1は、自身の所在地を共有することに同意したユーザのスマートフォンが有する位置識別機能を介して収集できる。
移動予測サーバSV2には、第2MLアルゴリズムa2が登録されている。第2MLアルゴリズムa2は、予測日のエリア間の人の流れを、前記図4を参照して説明した第1実施形態と同様に、移動履歴データベースiDB-h2に登録されている各エリア間での人の移動履歴mi-1を要素とする遷移行列に基づいて予測し、更に移動後の各エリアの所在人数を予測する移動予測モデルM2を構築する。人の流れの予測結果mfは移動予測データベースiDB-f2に登録される。
また、本実施形態では第1実施形態と同様に、移動履歴mi-1に基づく移動予測を、前記履歴ベース予測に用いる重回帰分析のパラメータとしては取り込まずに独立させ、その予測周期を前記履歴ベース予測の周期(30分)よりも長くすることで処理負荷の軽減を図る。
予測補正部9において、予測補正サーバSV3には第3アルゴリズムa3が登録されている。第3アルゴリズムa3は、例えばルールベースのアルゴリズムであり、前記移動履歴データベースiDB-h2からエリア間の人の移動に関する現在の(最新の)情報(実移動数mr)を略リアルタイムで取得する。そして、前記移動予測部8が予測した現在の移動予測mfとの差分を予測差Δmとして計算し、予め登録されているイベント推定閾値Δm_refと比較する。
前記予測補正サーバSV3は、前記予測差Δmがイベント推定閾値Δm_refを超えていると、当初の消費電力予測に影響を及ぼす突発的なイベント、例えば地震、暴風雨、降雪等が発生したと推定し、エリア間での人の移動が予測よりも早まるのに合わせて消費電力予測値を補正する。
イベントデータベースeDB-W1~eDB-Wkは、エリア間での人の移動に影響を及ぼすイベントに関して外部組織が発信する情報を取得して記憶する。本実施形態では、気象庁が発信する気象等の特別警報(大雨特別警報、大雪特別警報など)、警報(大雨警報、大雪警報など)および注意報(大雨注意報、大雪注意報など)、日本道路交通情報センタが発信する通行止めなどの道路交通情報、ならびに鉄道事業者が発信する運行停止などの鉄道運行情報の少なくとも一つが、イベント情報として取得、蓄積される。このようなイベントに関する外部情報は、MQTT (Message Queue Telemetry Transport)のサブスクライブ方式などの特定のプロトコルを使用することで取得できる。
前記予測補正サーバSV3は、前記予測差Δmに加えて、イベントデータベースeDB-W1~eDB-Wkに蓄積されているイベント情報を参考に、消費電力予測に影響を及ぼすイベントの発生を推定することができる。
図19,20は、予測日の16時頃に大雪警報を発するイベントが生じたために多くの人が帰宅時間を早めるなどした結果、エリアBに関する人の移動が早まり、これに応じて予測差Δmが変化する様子を示している。
図20には、予測日の各時刻における所在人数の予測数(U列)、エリアBからエリアAへ移動する予測人数(V列)、エリアBの実所在人数(W列)、エリアBからエリアAへ移動した実人数(X列)、移動人数差(Y列)およびエリアBの見直し後所在人数(Z列)の関係が示されている。
図示の例では、イベント推定閾値Δm_refが「30」に設定されており、15時までは最大でも「-2」であった予測差Δmが、16時頃に発生したイベントを契機に実移動数mrが急増した結果、16時台には「-65」となって閾値Δm_refを上回っている。そのため、見直された所在人数(Z列)は、その予測数(U列)と比べて大幅に上昇していることが判る。
前記予測補正サーバSV3は更に、前記イベントの発生を検知すると、実移動数mrに基づいた各エリアの1時間後の人数の見直しを移動予測サーバSV2に依頼し、見直し後の人数を前記各エリアの所在人数と消費電力との関係に適用するなどして1時間後の消費電力予値Yiを補正する。
あるいは、消費電力履歴データベースiDB-h1および移動履歴データベースiDB-h2を参照し、予測日のカレンダ情報、消費電力履歴および各エリアの所在人数等に基づいて消費電力予測値Yiを補正するようにしても良い。
図21は、所在人数の見直しに伴って消費電力予測値Yiが補正される様子を示す図であり、午後5時に予測差Δmがイベント推定閾値Δm_refを超えたと判断されたため、現在の人の移動数から予測される各エリアの1時間後の所在人数に基づいて消費電力予測Yiの補正が実行されている。
図示の例では、イベント発生後の所在人数の増加が当初の予測よりも1時間早まっているので、消費電力予測Yiも当初の履歴ベース予測値Yhiと比べて約1時間早まっている。そのため、18:00~19:00の履歴ベース予測値Yhiが1時間早まるように補正され、17:00~18:00の消費電力予測Yiとされている。
図22は、移動予測サーバSV2および予測補正サーバSV3が協調し、移動の予測値mfと実測値mrとの予測差Δmがイベント推定閾値Δm_refを超えたことに応答して消費電力予測Yiを補正する構成を示した機能ブロック図であり、図23は、その手順を示すフローチャートである。
図22において、履歴ベース予測部301は、各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力ci-1の履歴情報を機械学習して構築した履歴ベース予測モデルM1に、予測日のカレンダ情報を適用することで、例えば第1の周期(例えば、30分)で消費電力の履歴ベース予測値Yhiを計算する。
前記履歴ベース予測部301はまた、前記消費電力履歴ci-1に加えて、外因データベースeDB-i1~eDB-iNにおいてカレンダ情報と紐付けられた外因履歴ei-i1~ei-iNとの関係を学習して構築した履歴ベース予測モデルM1に、予測日のカレンダ情報および外因を適用することで履歴ベース予測値Yhiを計算しても良い。前記外因としては、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速などの気象情報や、花火大会、スポーツなどのイベント情報を使用できる。
移動予測部302は、エリア間のカレンダ情報に紐付いた人の移動履歴mi-1を学習して構築した移動予測モデルM2に、予測日のカレンダ情報を適用して各エリア間の人の流れmfを予測する。移動予測モデルM2は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動mfを予測することができる。
移動検知部303は、予測日にエリア間の人の実移動数mrを略リアルタタイムで検知する。予測差計算部304は、予測日の各時刻における前記移動予測mfと実移動数mrとの予測差Δmを求める。イベント推定部305は、予測差Δmをイベント推定閾値Δm_refと比較し、予測差Δmが閾値Δm_refを超えると、消費電力予測に影響をおよぼす突発的なイベントが発生したと推定する。
予測補正部306は、前記イベント推定部305によりイベントが検知されると、当該イベントにより変化する人の移動に基づいて、予測日における各エリアの各時刻における所在人数を見直す。さらに、見直された所在人数に基づいて履歴ベース予測値Yhiを補正することで消費電力予測値Yiを算出する。
本実施形態では、エリアごとに所在人数と消費電力との関係を予め学習しておき、見直された所在人数の差分Δmに応じた消費電力の変動分Y(Δm)を前記履歴ベース予測値Yhiに加算することで消費電力予測値Yiを補正することができる。
図23のフローチャートを参照し、ステップS21では、移動検知部103が現在の実移動数mrを略リアルタイムで取得する。ステップS22では、前記移動予測部302が予測した現在の予測移動数mfを取得する。ステップS23では、実移動数mrと予測移動数mfとの予測差Δmが算出される。
ステップS24では、予測差Δmがイベント推定閾値Δm_refと比較され、予測差Δmが閾値Δm_refを超えていると、消費電力予測に影響を及ぼす突発的なイベントが発生したと推定してステップS25へ進む。
ステップS25では、各エリアの実移動数mrに基づいて、直後(例えば、1時間後)の各エリアの所在人数が見直される。ステップS26では、エリアごとに所在人数の差分Δmに基づいて電力消費量の変動分Y(Δm)が計算される。ステップS27では、前記変動分Y(Δm)を前記履歴ベース予測値Yhiに加算することで消費電力予測値Yiが求められる。
なお、上記の実施形態では、突発的なイベントによりエリア間での人の移動が前倒しされ、消費電力予測値Yiが、当初の履歴ベース予測値Yhiを時間的に前にシフトするように補正される場合を例にして説明した。しかしながら、本発明はこれのみに限定されるものではなく、例えば地震や電車の車両故障等により、人の移動が後倒しされ、消費電力予測値Yiが、当初の履歴ベース予測値Yhiを時間的に後にシフトするように補正される場合にも同様に適用できる。
また、上記の実施形態では消費電力予測システム11を2つの実施例で説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、エリアごとに消費電力を予測できシステムできれば、どのような予測システムであっても良い。