JP7211587B2 - 変圧器内部異常および劣化の診断方法と診断装置 - Google Patents
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Description
A. 電源由来の振動成分
B. 変圧器の構造由来の振動成分
(1)タンク固有振動
(a)タンク測定面固有振動
(b)タンク隣接面固有振動
(c)タンク立体固有振動
(2)巻線固有振動
(3)鉄心固有振動
(4)その他、配線などの内部構造振動
C. 変圧器設置建屋振動成分
これらの中で、巻線固有振動数を調べることで巻線の異常および劣化診断が可能であり、鉄心固有振動数を調べることで鉄心の異常および劣化診断が可能であると上述の特許文献1に記載されている。
特許文献1において、位相差を測定して求める方法とは、電源由来の振動成分の位相と電源電流波形の位相との差を測定する方法であり、巻線や鉄心の固有振動数が電源周波数の何倍波に近い振動数を持つのか検討しておくことが良い、と記載されているが、その検討方法は示されていない。
変圧器において、健全な変圧器で上述の巻線縦振動の固有振動数を把握しておけば、上述のごとく測定した変圧器の巻線縦振動の固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度との比較を行い、乖離が大きければ稼動状態の変圧器の内部異常または劣化発生と診断できる。
また、稼働時の変圧器タンクに取り付けた複数の加速度センサから得られる変圧器タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して表示装置にアニメーション表示し、この表示内容の把握から、巻線縦振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、巻線縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することができる。
また、変圧器を製造した場合、巻線や鉄心の振動モードを求め、その固有振動数を正常値として測定し、記録するとともに、巻線や鉄心を強制的に変形させた状態の巻線の振動モードと固有振動数を異常値として測定し、記録しておくことで、稼働後の変圧器の該当振動モードと固有周波数を測定し、前記正常値および異常値と比較することで稼働後の変圧器の異常や劣化の診断が可能になる。
以下、本発明に係る変圧器の内部異常および劣化の診断方法の第1実施形態について油入変圧器の場合を例にとり、図面に基づき説明する。
図1(a)は変圧器の内部異常および劣化を診断する装置の第1実施形態を示す構成図であり、本実施形態の診断装置Aは、一例として図1(b)に示す構造の油入変圧器(以下、単に変圧器と記載する。)1の内部異常および劣化を診断する装置である。
この例の変圧器1は、タンク2の内部に3つの巻線型のコイル体3がそれらの中心軸を上下に向けて収容され、タンク2の内部に絶縁油が満たされてなる。各コイル体3の中心部にケイ素鋼板などの磁性体からなる鉄心5が挿通され、各鉄心5は各々の上下端部においてケイ素鋼板などの磁性体からなるロッド状のヨーク部6に一体化されている。
図1(b)に示す変圧器1はタンク2の内部に収容されているコイル体などの構造物をタンク2から取り出した状態として描いている。
この例の変圧器1において、3つのコイル体3は、図1(b)に例示するように左側から順にU相用、V相用、W相用などとして配列されている。3つのコイル体3はそれらの周囲に8本整列された支柱部材7に囲まれ、これら支柱部材7の底部側を結合した底部枠7aとこれら支柱部材7の上部側を結合した上部枠7bに囲まれている。また、各支柱部材7の上端部は上部枠7bの若干上方まで延在され、天板4に一体化され、これら全体を覆うタンク2に収容されている。
上部絶縁物13、18と下部絶縁物15、19を上下の締め付け金具8により挟み付けることで各コイル体3には上下から締め付け力が作用され、この状態でコイル体3は絶縁油に浸漬されている。
また、タンク2の天井またはタンク側面に電力を入出力するための図示略のブッシングが形成されている。
これら種々の要因から、変圧器1の絶縁物は経時的に徐々に劣化が進行する。また、締め付け力と振動が常時作用するプレスボードなどの絶縁スペーサーはセルロース繊維からなるため、劣化するおそれがあり、短絡事故や地絡事故あるいは加熱などに起因して巻線や鉄心にも予想外の劣化を生じるおそれがある。
以上説明のように変圧器1は長期間使用することにより各部において劣化が進行するおそれがある。
なお、変圧器1には後述するように複数(31個)の加速度センサを取り付けるが、図1(a)は診断装置Aの概要を示した図であるので、変圧器1に取り付けた加速度センサを1個のみとして簡略化して描いた。
特許文献1の段落0091に記載の(38)式で示しているように巻線の固有振動数と締め付け力には以下のΩr=(π/L)・(T/ρ)1/2の関係がある。ただしこの式において、Lは巻線の軸方向の長さ、Tは縦方向の締め付け力、ρは巻線を分布常数系とみなした場合の線密度を表す。
従って、変圧器1を製造した際あるいは使用開始段階等で変圧器1に問題を生じていないと判断される健全な状態において、巻線の振動解析を行い、振動モードおよび固有振動数を求めておき、変圧器1を稼働後は数年後あるいは定期的に振動解析検査を行って、稼働中の変圧器1の振動モードおよび固有振動数を求め、健全な状態と対比し、その差異を把握することにより、変圧器1の内部異常あるいは劣化診断ができる。
即ち、変圧器構成物の固有振動数(鉄心振動と巻線振動とタンク自身の振動のそれぞれの固有振動数)を求めると稼働中の変圧器の状態を解析することができる。
次に、巻線振動の解析について説明する。
一般的な油入変圧器の寿命は、変圧器の外部で短絡故障が発生した場合に変圧器コイル巻線に加わる電磁機械力にコイルの絶縁紙が耐えられなくなった状態と考えられる。
一方、短絡故障時に巻線の軸方向にも一次巻線(外巻線)11と二次巻線(内巻線)16が反発する電磁力(外部推力)が作用する。巻線部に挿入された絶縁物が経年劣化により寸法収縮して、巻線の締付力が低下した場合、外部推力により軸方向の巻線構造が損なわれる可能性が生じる。このような状態も変圧器の寿命と考えられる。締付け力が低下して巻線に緩みが生じると巻線からの騒音は大きくなる。
変圧器の各部位の締付けトルク値が規定値よりも小さくなると、正常時の各周波数成分のレベルが分布する範囲から大きく外れたレベルになると考えられる。
変圧器巻線の内巻線16と外巻線11には反対方向に電流が流れており、たがいに漏れ磁場を形成する。巻線に印加される電磁力はローレンツ力であり、電流と磁界にそれぞれ直角方向に作用する。軸方向の電磁力は内巻線16も外巻線11もともに圧縮力となり、電磁力は電流の2乗に比例する。よって、軸方向の加振力の振動数は電流の振動数(すなわち電源周波数)の2倍となる。
巻線の締付け力の低下は巻線の固有振動数の変化として現れる。よって、実験モード解析により、直接的あるいは後述の補償法を用いて巻線振動に含まれる振動成分を明らかにすれば良い。直接的とは、加速度センサや加速度センサなどの加速度センサにおける生の波形をフーリエ変換して振動成分を明らかにすることを意味する。
解析器26の記憶装置に健全な初期状態の変圧器の解析情報に対し、何割程度の低下が見られるかに応じて対比テーブルが記録されている。
ただし、機械系の固有振動数が電源周波数の2倍の振動数とは別な整数倍の振動数に近い場合、共鳴の効果でより大きな振動振幅を与える場合があり、その場合はその大きな振幅の振動数成分について解析する方が良い場合もある。
劣化が進んだ変圧器で巻線締付け力が弱くなってくると、巻線に緩みが生じ、変圧器を稼働している場合に生じる単振動の加振力が歪んで、伝達され、色々なモードの振動が誘起されると考えられる。
このため、変圧器1の天板と側板と底板に複数の加速度センサを取り付け、種々の振動を検出して解析することにより、変圧器1の劣化に起因して生じている特定の振動を検出し、それが巻線による振動であると特定できると、変圧器の内部異常および劣化を推定することができる。
例えば図2(a)に示すように直方体状の鋼板製のタンクを備えた変圧器1について振動解析する場合がある。
この場合、底板2Bの下面と、天板2Cの上面に加速度センサを取り付けた上に、側板2Aを周回する位置に複数の加速度センサを取り付けることができる。
側板2Aにおいて、例えば、図2(a)に示すように、○で囲んだ数字で示す1~4の位置に個別に加速度センサを取り付けることができる。
図3では、加速度センサの取り付け位置を優先して表示するため、サンプル変圧器の具体形状を簡略化して概形のみ記載している。
図3に示す小さい○印は、矩形箱状の本体部40を構成する短辺側の側板45、46と長辺側の側板47、48をそれぞれ等分した場合の区分印を示す。図3の右短辺側の側板45には、第1の加速度センサ、第2の加速度センサ、第31の加速度センサを取り付け、左側の側板46には第3の加速度センサと第4の加速度センサを取り付けた。小さい○印で示す区分印の個数から各加速度センサの取り付け位置を示す。
第22の加速度センサ、第24の加速度センサ、第26の加速度センサの取付位置は、コイル体3の下方に位置するように、かつ、図3に示す底板50の手前側の長辺から15cmだけ離れた位置とした。
図3に示すサンプル変圧器Sにおいて長辺側の側面47の上方に位置する天板41の側面側に第28の加速度センサと第30の加速度センサを取り付けた。
その他の加速度センサの取付位置は図3に数字で示しているので、それらの詳細な位置説明は略するが、奥側の側板48に第5~第12の加速度センサを取り
付けた。
図4の横軸は周波数(0~400Hz)を示し、縦軸はFFT結果を示す規格化振動強度を対数表示している。
演算装置27に接続された表示装置28は解析ソフトによる図4に示す解析結果を表示することができる。
7Hz:Y方向のロッキング
9Hz:Z方向伸縮 UVWのZ方向位相差120度
13Hz:Z方向単純振動 底板の(1,1)モードと同期、側板のX方向の伸縮あり
17Hz:2面、4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード) 底板(1,1)上下連動
21Hz:底板(1,1)振動に加えY方向変位大 側板天板がY方向に連動
23Hz:6面伸縮(呼吸モード)
38Hz:X方向曲げモード
69Hz:2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)
85Hz:3面の固有振動目立つ 3面固有振動
88Hz:底板は(2,2)モードに近く、X方向位相差あり
100Hz:1面3面が(2,2)共鳴 体積不変振動
125Hzと130Hz:底板(4,1)固有振動に2面4面が連動
162Hz:底板のUVWに位相差120度ある、巻線縦方向伸縮モード
184Hz:ねじりモード
193Hz:1面3面(2,1)、モード連動
228Hz:2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)底板天板連動なし ねじれも混じる
231Hz:側板1面~4面と天板の呼吸モード
247Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
277Hz:ねじりモード
288Hzと292Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
300Hz:主に1面2面3面が連動して振動
323Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
388Hz:U相1面側3面側逆位相の縦方向伸縮モード
以上の解析結果の説明文章において、1面は長辺奥側(裏側)の側板48を示し、2面は短辺左側の側板46を示し、3面は長辺手前側の側板47を示し、4面は短辺右側の側板45を示す。
先の振動解析結果において、162Hzに現れた振動モードがUVWの3相の位相差120度があることが分かったので、巻線縦方向伸縮モードであると判断した。
そして、側板47側から見た1周期分の振動の様子を9等分して図5(a)~図7(i)に示す。丸印で示した底板に着目すると、図5(c)ではV相のコイル体が最大に浮き上がり、図6(f)ではW相のコイル体が最大に浮き上がり、図7(i)図ではU相のコイル体が最大の浮き上がりを示した。そして、それぞれの位相差が120度であることが分かった。
162Hzピークの振動モードは、1秒間にこの動きを162回行っていることを示している。
なお、この162Hzのピークには限らないが、高次元のピークを観察し、U相、V相、W相が位相差120度で伸縮していると観測できたならば、それが巻線の縦振動モードであると判断できる。
なお、立体アニメーション表示する場合に視認できる程度の時間分割した速度として、1周期を1秒間~数秒間で表示する速度のアニメーション表示を選択できる。
表示装置28には、先の1周期分の振動の様子を8等分して図8(a)~図11(h)に示した図形を連続アニメーションとして観察者の肉眼で視認できる程度の時間分割した速度で繰り返し表示できる。このため、観察者は、表示装置28に表示されている図8(a)~図11(h)に示した図形の立体アニメーション表示から、天板と底板が上下に伸縮している状態を視認でき、この表示から巻線が上下方向に伸縮している状態であると認識できる。
なお、以下に説明する振動解析では、いずれも表示装置28に表示された8等分あるいは9等分の画像に基づく立体アニメーション表示の視認に基づく解析結果から、各振動の状態を判断し、分析している。
228Hzの振動モードは2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)にX方向のねじれが混じった振動である。1周期分の振動の様子を8等分して図12(a)~図14(h)に示す。
よって、228Hzピークは鉄心のY方向伸縮(Y方向曲げモード)が主な振動モードと読み取ることができる。
表示装置28には、図12(a)~図14(h)に示した図形を連続アニメーションとして繰り返し表示できる。このため、観察者は、表示装置28に表示されている図形の立体アニメーション表示から、Y方向に伸縮している状態を視認でき、Y方向曲げモードが主な振動モードと読み取ることができる。
388Hzの振動モードは基本的には巻線縦方向伸縮モードとみられるが、W相のコイル体直下の底板の1面側(図3の側板48)と3面側(図3の側板47)が逆位相になっている。
3面側から見た1周期分の振動の様子を9等分して図15(a)~図17(i)に示す。図15(a)、図16(d)、図17(g)に丸印で示した底板の振動に着目すると、図16(d)ではV相が、図17(g)ではU相が最大の浮き上がりであり、位相差が120度であるが、図15(a)ではW相のコイル体直下の底板の1面側が最大に浮き上がっており3面側は最大に沈み込んでいるので、U相とV相とW相の位相差120度の縦振動を正確には表現していないと推定される。
3面側から見た13Hzピークの振動モードについて1周期分の振動の様子を8等分して図22(a)~図24(h)に示す。
13Hzの振動モードはほぼ単純なZ方向の振動であり、それに加えて底板の(1,1)モードと同期し、側板のX方向の伸縮も見られる。
変圧器全体の最大の沈み込みは、図22(a)に、最大の浮き上がりは図23(e)に示されているが、本来の底板(1,1)モードは、22Hzが固有振動数であると思われる。図23(e)において、○印の位置はXYZ方向の原点を示し、変圧器全体が上方に変位していることが判る。
しかし、本実施形態で説明したように、変圧器を立体的に振動測定し、ME’scopeでモード解析すれば、巻線の械系振動成分を直接見出すことが可能であることが分かった。
測定対象の変圧器について、製造初期あるいは製造後の異常を生じていない正常状態の変圧器に関し、前記162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを測定して記録しておく。
これらに対し、前記サンプル変圧器と同等構造ではあるが、変圧器の製造時に巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器を別途作製し、この試験用変圧器から得られる162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを計測しておき、この周波数の振動強度などを変圧器の異常値として調査し、記録しておく。
これらのデータの記録は、変圧器を生産して出荷する際に、出荷変圧器用の基礎データとして記録しておき、販売した変圧器と共に使用者に情報として渡しても良いし、変圧器の製造メーカーのデータセンターに保管しておくこともできる。
この測定結果と先の変圧器生産時などの健全な状態で測定しておいた固有周波数と振動強度の測定結果を比較し、両データに予め決めておいた閾値を超える差異が生じていれば、診断した変圧器は寿命がきているか、内部異常が生じた変圧器であると診断できる。
変圧器を製造する場合、巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器を別途作製し、この試験用変圧器から得られる162Hzの縦方向伸縮モードを計測しておき、この周波数の振動強度などを変圧器の異常値として調査し、記録しておく。
このため、上述した388Hzの縦方向伸縮モードにおいてU相とV相とW相の位相差120度の縦振動を正確には表現していない結果を含んだ結果となったが、加速度センサの取付位置はU相とV相とW相のコイル体3に対し、上下対称な位置とすることがより好ましい。
この場合、図1(b)に示すインパクトハンマーHを用い、サンプル変圧器の天板や底板に衝撃を加え、加速度センサで振動を測定するインパクト試験を行うことができる。
一例として、図3に示すサンプル変圧器Sの底板に取り付けた第26の加速度センサの位置から第25の加速度センサ側に5cm寄った位置を叩き、第26の加速度センサで測定するインパクト試験を実施できる。
なお、インパクト試験により励起される振動は、電源系振動成分(50Hzの倍数)以外の周波数の振動よりも大きい。このため、電源系振動成分以外の振動成分に対し、実稼働中であってもインパクト試験が可能である。
図26は、図3に示すサンプル変圧器Sの底板に取り付けた第29の加速度センサの位置から第30の加速度センサ側に5cm寄った位置を叩き、第29の加速度センサで測定するインパクト試験の結果を示す。
そして、その変圧器の稼働後、必要な時期にインパクトハンマーHを用いて変圧器の天板あるいは底板に衝撃を加えた結果得られる周波数162Hzの振動ピークを解析し、健全な状態の変圧器で得られたピークと、所定時間稼働後の変圧器で得られたピークを比較することで変圧器の内部異常の診断あるいは劣化を診断することができる。
次に、変圧器の所要時間稼働後、天板あるいは底板に衝撃を加えた結果得られる解析結果と比較し、162Hzのピークの振動強度が巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器で得られた結果と同等あるいは近い値であれば、変圧器に内部異常を生じているかあるいは変圧器が劣化していると診断することができる。
例えば、変圧器に内部異常を生じているかあるいは変圧器が劣化していると診断できる閾値として前述のピークの振動強度が10%変動した場合を採用することができる。なお、この閾値10%については後に詳述する。
即ち、変圧器を購入したユーザーは、変圧器初期状態の162Hz、388Hzなどのように巻線の縦振動に起因する振動の振動モードあるいは周波数、振動強度などの諸情報を変圧器の購入時に把握することができる。
即ち、初期状態の情報を備えた変圧器ならば、地震後あるいは年数の経過時に変圧器に加速度センサを取り付けて振動解析を行い、変圧器の内部異常や劣化の状態を診断できるようになる。
従って、上述の初期状態の情報を備えた変圧器を販売するならば、付加価値の高い変圧器として販売できるようになる効果がある。
本発明の第2実施形態は鉄心の異常および劣化に基づく変圧器の異常および劣化の診断方法に関する。
診断装置の構成は、図1(a)に示す診断装置と同一であり、変圧器全体構造および内部構造も図1(b)の変圧器と同一である。
先の実施形態と同様、図3を基に説明したように変圧器に31個の加速度センサを取り付け、定格電流比30%の稼働状態で各点120秒振動測定した結果を用い、以下に鉄心振動について解析した結果について述べる。
先に、図4に示す振動について周波数毎のピークを分析した結果について説明したが、それらの中で17Hzに現れた振動モードが、鉄心のY方向曲げモードであると判断した。その判断の根拠を以下に説明する。
17Hzピークの振動モードについて、図3の長辺側の側面47側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図27(a)~(c)、図28(d)~(f)、図29(g)~(h)に示す。
丸印で示したW相コイル体近傍に設置した第31の加速度センサと、U相コイル体近傍に設置した第3の加速度センサの両者が、○印で示すように図27(c)で最も伸 び、○印で示すように図29(g)で最も縮んでいる。このことから、17Hzの振動モードに関し、鉄心が短辺側の側板45の面と側板46の面のY方向に伸縮しているY方向曲げモードであると分かる。
38Hzピークの振動モードについて図3の短辺側の側板45側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図30(a)~(c)、図31(d)~(f)、図32(g)~(h)に示す。
図3に示す長辺側の側板48に設置した第11の加速度センサと第12の加速度センサと、長辺側の側板47に設置した第19の加速度センサと第20の加速度センサは、○印で示すように図30(b)で最もX方向の正の方向に変位しており、○印で示すように図31(f)で最もX方向の負の方向に変位している。また、天板や底板に設置した他の加速度センサはX方向に対して大きな変位はみられないことから、38Hzピークの振動モードに関し、鉄心がX方向に屈曲しているX方向曲げモードであることが分かる。
184Hzピークの振動モードについて図3の天板41側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図33(a)~(c)、図34(d)~(f)、図35(g)~(h)に示す。天板41に設置した第27の加速度センサと第29の加速度センサと、天板41に接する側板に設置した第28の加速度センサと第30の加速度センサは、図34(d)で最も時計回りに変位しており、図35(h)で最も反時計回りに変位している。図33~図35の各図に示すように底板50に設置した他の加速度センサの計測値に大きな変位はみられないことから、184Hzピークの振動モードは、上部鉄心がねじり振動しているねじりモードであると判断できる。
例えば、図36に示す鉄心38において、支柱部35、35、35と上部側のヨーク部36と下部側のヨーク部37とからなる構成とする。
図36(a)がY方向曲げモードを示し、図36(b)がX方向曲げモードを示し、図36(c)がねじりモードを示していると表現できる。
先に説明した本実施形態における曲げモードとねじりモードの命名は、上述の文献の曲げモードとねじりモードに倣っている。
そのような場合、例えば図37に示すように変圧器Sに対し8箇所設置するだけでも振動モードの推定は可能である。例えば、変圧器の側板45、46、47、48を取り囲むように第3の加速度センサと、第11の加速度センサと、第12の加速度センサと、第31の加速度センサと、第20の加速度センサと、第19の加速度センサを取り付け、天板41上に第27の加速度センサと第29の加速度センサを取り付けることができる。
また、それ以下のセンサ設置数であっても、3軸加速度計を使用するか、振動データのFFT解析の全体像から検討するならば、確度は低下するが、各モードについて推定可能である。
よって、異常や劣化が疑われる部位の近傍に加速度センサを設置して振動測定することにより、変圧器内のどこの部位に異常や劣化が生じているか、タンク振動を基に外部診断することが可能である。
図38に示すフローチャートの前半部分において、上部破線で囲んだ部分は未劣化の正常変圧器における変圧器振動を立体アニメーション表示させ、巻線の固有振動モードと鉄心の固有振動モードを同定し、固有振動モードに対応する固有振動数を同定する工程を示す。
固有振動モードを同定するには、変圧器の天板と側板と底板のうち、適切な箇所に加速度センサーを設置して振動データを取得する。理想的には、図3に示す約30箇所の振動を測定するならば、低次の巻線の縦振動モードおよび鉄心の曲げ・ねじりモードをもれなく測定できる。
予め上述の基本情報を記録しておいた変圧器に対し、ステップS4において、必要箇所に加速度センサを取り付けて上述の実施形態で説明したように固有振動数の周波数における振動モードを解析する。ステップS4で行う振動測定は、未劣化状態の変圧器に対してステップS1~S3で行った解析と同等で良い。
例えば、閾値を10%と規定しておくならば、10%を超える変動を生じていた場合、診断結果S6に示すように異常または劣化が発生していると診断する。あるいは、診断結果S7に示すように異常または劣化が発生していないと診断する。
以上のフローに示す如く、変圧器の異常あるいは劣化を診断することができる。
例えば、劣化や異常とは別に、相関関係として、固有振動数が約10%低下すると巻線の締付け力が半減すると考えられる。そして、その閾値を超えて固有振動数が変動した変圧器は、異常または劣化を生じていると診断することができるので、10%を閾値として採用することができる。
変圧器の上述のような状態は、比較的小さい短絡電流や地震動によっても巻線や鉄心に更なる異常をきたす可能性が高くなることから、他の点検も併せて実施するなどして、変圧器の運転継続の可否や変圧器更新の可否を決定する。一方、閾値未満の変動幅であれば継続稼働が可能と判断し、運転は継続し、後日再点検することが望ましい。
基本情報とは、先に説明した複数の加速度センサを用いて未劣化状態の変圧器に対し振動解析した結果の情報である。
また、17Hzピークの振動モードは、鉄心のY方向曲げモードであり、38Hzピークの振動モードは、X方向曲げモードであり、184Hzピークの振動モードは、鉄心のねじり振動モードであると判定できた。
即ち、162Hzと388Hzピークは巻線の縦方向振動モード、17Hzと228Hzピークは鉄心のY方向曲げモード、38Hzピークは鉄心のX方向曲げモード、184Hzピークは鉄心のねじり振動モードである。
次に、変圧器における巻線の締め付け力と固有振動数の関係について説明する。
変圧器巻線のうちディスク巻線を例にとりその構造を図39(a)に示す。巻線の軸方向(縦方向)に円盤状のコイル60が積み重ねられており、コイル60、60間にはスペーサー61が挿入されている。コイル60の冷却のためにコイル60、60間に絶縁油が流れるようにスペーサー61は円周方向に間隔をあけて配置されている。巻線の上端・下端には絶縁リング62が配置され、巻線と鉄心を絶縁している。
変圧器巻線のコイル60を軸方向に一様なものと近似して分布定数系とみなしたモデルを図39(b)に示す。ここで、Lは巻線の軸方向の長さ、ρは平均の線密度、Eは平均の弾性率、Sはコイルの受圧面積、Tは巻線の締付け力を表す。
両端が固定された弦と仮定して縦方向をx、横方向をyとした座標系で考えることにする(図40参照)。
時刻tにおける座標xの位置の変位をy(x,t)とおく。運動方程式を導くため、図41に示すような微小要素に働く力を考える。
変位があまり大きくないとき、この要素の質量はρdxと近似できる。また、この微小要素に作用する変位方向の力、すなわち復元力は、微小要素の両端に作用する張力である。具体的には、微小要素の左端(座標xの断面)で変位の負の方向にTθ、微小要素の右端(座標x+dxの断面)で変位の正の方向にT{θ+(∂θ/∂x)・dx}である。したがって、運動方程式は次の式(1)で与えられる。
境界条件をy(0,t)=0、y(L,t)=0とし、初期変位と初期条件をy(x,0)=y0(x)、dy(x,0)/dt=v0(x)と指定する。変数分離法を用い、解y(x,t)をY(x)G(t)と表すと、次の式(4)が得られる。
これら式の一般解はそれぞれ以下の式のようになる。
Y(x)=Acoskx+Bsinkx
G(t)=Ccosωt+Dsinωt
ただし、A、BおよびC、Dは任意定数であって、境界条件と初期条件から決定される。その結果、これを満足するkの値は以下の式(7)となる。
両端が固定された棒として縦方向をxとした座標系で考えることにする。時刻tにおける座標xの位置の変位をu(x,t)とおく。運動方程式を導くため、図42に示すような断面積Sの微小要素に働く力を考える。断面に作用する力は断面に垂直方向の応力をσ(x,t)としたときσ(x,t)Sで表され、さらに縦方向の変位とひずみをそれぞれu(x,t)、ε(x,t)、縦弾性係数Eには次の式(9)の関係がある。
したがって、微小要素の運動方程式は、棒の線密度をρとして以下の式(10)で示すことができる。
横方向の固有振動で議論した場合と同様な数式が得られたことから、同様な数式の展開により、縦方向の固有振動数は次の式(12)のように表すことができる。
実際には弾性率はひずみに対して一定ではなく、締付け力が大きくなるにつれて大きくなる。このことは、締め付けるほどきつくなり、縮みにくくなる実感と一致している。一般に応力とひずみの関係は次の式(13)で与えられる。
次に、変圧器の異常や劣化と巻線や鉄心の固有振動数変動の関係について述べる。
始めに巻線スペーサーの劣化と巻線縦方向固有振動数の低下の関係について説明する。
図44はスペーサーの収縮と締付け力の低下と弾性率の低下の関係を示す図である。
巻線の初期締付け力として、巻線に張力T0を与えていたと仮定し、その時の巻線ひずみ量をε0、巻線弾性率をE0とする。巻線スペーサーに使用されるプレスボードは経年劣化で体積が減少し、厚みが減ることが知られている。
時間tが経過した時点でスペーサーの厚さが減少し、ひずみ量がεtに減少したと仮定する。その時点での締付け力はTtに低下し、弾性率はEtに低下したと仮定する。すると、縦方向固有振動数は次の式(17)のように初期値ω0nからωtnに低下する。
巻線が変形したり、スペーサーが脱落したりすると、締付け力が低下し、弾性率が低下し、巻線縦方向固有振動数が低下する。
また、締付け力が低下すると、縦方向だけでなく横方向の固有振動数も低下することから、縦方向と横方向が複合した高次の固有振動モードの固有振動数も低下すると考えられる。よって、低次の基本振動モードに限らず、妨害振動が少ない測定容易な固有振動モードについて測定、解析すれば変圧器の診断が行えることがわかる。
変圧器に設けられている鉄心は、ボルトで締結されており、経年や短絡故障時の電磁力や地震動のためボルトが緩むことが考えられる。鉄心の締付け力低下により弾性率が低下することから、鉄心の締付け力の低下も、鉄心の固有振動数の低下を捉えることで診断できることがわかる。
従って、先に説明した複数の加速度センサを用いて鉄心固有振動数の変化を把握し、未劣化の変圧器の鉄心固有振動数と比較することが、変圧器の内部異常や劣化を把握する上で有用であると判る。
3…コイル体、4…天板、5…鉄心、6…ヨーク部、7…支柱部材、
9…外側コイル(1次コイル)、10…内側コイル(2次コイル)、11…外巻線、
12…絶縁スペーサー、16…内巻線、17…絶縁スペーサー、18…上部絶縁物、
19…下部絶縁物、22…振動検出器(加速度センサ)、23…電圧計、
24、25…増幅器、26…解析器、27…演算装置、28…表示装置、35…支柱部、36…上部側のヨーク部、37…下部側のヨーク部、38…鉄心、41…天板、
45、46…短辺側の側板、47、48…長辺側の側板、50…底板、
S…サンプル変圧器、AE1、AE2、AE3…加速度センサ。
Claims (7)
- コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、
前記タンクを構成する底板と側板と天板に複数の加速度センサを設置し、前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に前記加速度センサにより振動を測定し、
前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、
前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、
前記巻線の振動モードにおいては、
前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することを特徴とする変圧器内部異常および劣化の診断方法。 - 請求項1に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、前記加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して表示装置にアニメーション表示し、この表示内容の把握から、
前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することを特徴とする請求項1記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。 - 請求項1または請求項2に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、
前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記底板または天板をハンマリングした結果得られる前記固有周波数における振動ピークを測定することにより、前記変圧器の振動応答を解析することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかにおいて求めた前記縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度を健全な変圧器の縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
- コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、
前記タンクを構成する底板と側板と天板にそれぞれ複数取り付けられる加速度センサと、
前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードの固有振動数の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する演算装置と、
前記演算装置から送られた信号を基に前記タンクの振動をアニメーション表示する表示装置と、を備え、
前記演算装置は、所定の周波数帯における前記表示装置の表示内容と、前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に、稼働状態の変圧器の振動応答を解析する機能を、備えたことを特徴とする変圧器内部異常および劣化の診断装置。 - 前記演算装置は、前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して前記表示装置に送り、
この表示内容の把握から、前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する機能を備えたことを特徴とする請求項5に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置。 - 前記縦振動モードの固有振動数を健全な変圧器の縦振動モードの前記固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断する機能を備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置。
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