JP7211587B2 - 変圧器内部異常および劣化の診断方法と診断装置 - Google Patents

変圧器内部異常および劣化の診断方法と診断装置 Download PDF

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Description

本発明は変圧器内部異常および劣化を容易に診断することができる診断方法と診断装置に関する。
変圧器は電力設備の重要な機器である。その使用寿命は数10年と長いので、使用期間中に変圧器が不具合なく稼働しているか否か、異常診断を行い、故障する前に適切な修理を施し得ることが重要である。また、使用中の機器を今後どの程度使い続けることができるのか劣化診断して更新計画を立てるなどの施策をとることが、機器の信頼性確保の面で重要であり、それら診断技術の高度化が望まれている。
本発明者らは、稼働状態の変圧器振動について振動検出器と電子回路またはソフトウエアを用いた信号処理による手段を用いて、稼働状態の変圧器の振動応答を解析する技術について研究しており、以下の特許文献1~3に記載の如く種々の解析手段を提案している。
特許文献1では、稼働状態の変圧器振動について、低周波数領域から可聴音領域に検出感度を有する振動検出器を用い、電子回路またはソフトウエアを用いた信号処理手段を用いて稼働状態の変圧器に付加されている通電電流により生じる電磁力に起因して稼働中の変圧器から発生する種々の振動の固有振動数または変圧器に対する通電電流による加振力の位相を基準とする機械的振動の位相あるいはそれらの両方を求め、稼働状態の変圧器の振動応答を解析する技術を提供した。
特許文献2では、時間の関数である信号を連続的または断続的に取得する取得手段と、取得した信号の複素周波数スペクトルを演算して算出する周波数解析手段と、取得した信号を時間と周波数の両面から同時に信号処理を行う時間周波数解析演算手段と、取得した時間を関数とする信号に含まれると推定される雑音成分を除去する雑音成分除去手段と、雑音成分を除去した後の源信号を表示する表示手段を備えた技術を提供した。
特許文献3では、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変 圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、タ ンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体であって、巻線に通電して変圧器を稼働している間に、変圧器の稼働に支障のない打撃力でタンクの天板をハ ンマーで叩いて得られる機械的振動に基づき、該機械的振動の固有振動数の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する技術を提供した。
特開2017-106893号公報 特開2018-36113号公報 特開2018-96706号公報
ところで、変圧器タンク振動は以下の成分から成ると考えられる。
A. 電源由来の振動成分
B. 変圧器の構造由来の振動成分
(1)タンク固有振動
(a)タンク測定面固有振動
(b)タンク隣接面固有振動
(c)タンク立体固有振動
(2)巻線固有振動
(3)鉄心固有振動
(4)その他、配線などの内部構造振動
C. 変圧器設置建屋振動成分
これらの中で、巻線固有振動数を調べることで巻線の異常および劣化診断が可能であり、鉄心固有振動数を調べることで鉄心の異常および劣化診断が可能であると上述の特許文献1に記載されている。
特許文献1において、巻線や鉄心の固有振動数を求める方法として、位相差を測定して求める方法と固有振動数を直接求める方法を示している。
特許文献1において、位相差を測定して求める方法とは、電源由来の振動成分の位相と電源電流波形の位相との差を測定する方法であり、巻線や鉄心の固有振動数が電源周波数の何倍波に近い振動数を持つのか検討しておくことが良い、と記載されているが、その検討方法は示されていない。
特許文献1において、固有振動数を直接求める方法について、構造由来の振動成分のうち、タンク固有振動を除外し、残った振動成分のうち負荷率依存性があるものを巻線振動、負荷率依存性が無いものを鉄心振動と解析するといった手順が記載されているが、構造由来の振動成分は数限りなく存在し、どの周波数成分に着目すべきか選び出すのは容易ではない。
特許文献2は特定の固有振動数についての信号処理方法について述べたものであるが、どの周波数成分に着目すべきか信号処理だけでは判断がつかない。
特許文献3において、変圧器の天板をハンマリングし、巻線や鉄心の固有振動数を測定することを述べた。変圧器の各所に加速度センサを設置し、変位と位相を測定して鉄心の振動モードを測定する方法を述べたが、巻線の振動モードの測定方法については述べられていない。
そこで、本発明の課題は、変圧器の振動特性を測定し、巻線の固有振動数と固有振動モードを推定して変圧器内部の異常や劣化を診断する方法と装置を提供することである
(1)本発明の変圧器内部異常および劣化の診断方法は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、前記タンクを構成する底板と側板と天板に複数の加速度センサを設置し、前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に前記加速度センサにより振動を測定し、前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、前記巻線の振動モードにおいては、前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することを特徴とする。
(2)本発明の(1)に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、前記加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して表示装置にアニメーション表示し、この表示内容の把握から、前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することが好ましい。
(3)本発明の(1)または(2)に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記底板または天板をハンマリングした結果得られる前記固有周波数における振動ピークを測定することにより、前記変圧器の振動応答を解析することが好ましい。
(4)本発明の(1)乃至(3)のいずれかにおいて求めた前記縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度を健全な変圧器の縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断することが好ましい
(5)本発明の変圧器内部異常および劣化の診断装置は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、前記タンクを構成する底板と側板と天板に取り付けられる複数の加速度センサと、前記巻線の振動モードまたは前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、前記巻線の振動モードまたは前記鉄心の振動モードの固有振動数の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する演算装置と、前記演算装置から送られた信号を基に前記タンクの振動をアニメーション表示する表示装置と、を備え、前記演算装置は、所定の周波数帯における前記表示装置の表示内容と、前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に、稼働状態の変圧器の振動応答を解析する機能を、備えたことを特徴とする。
(6)本発明の(5)に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置において、前記演算装置は、前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して前記表示装置に送り、この表示内容の把握から、前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する演算装置を備えたことが好ましい。
(7)本発明の(5)または(6)に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置において、前記縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度を健全な変圧器の縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断する機能を備えたことが好ましい。
本発明の診断方法と診断装置によれば、稼働時に計測できるタンクの底板と天板が逆位相で振動し側板振動よりも大きな振動を巻線の縦振動モードと推定することができ、この巻線縦振動の固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度を基に稼動状態の変圧器の内部異常または劣化を診断できる。
変圧器において、健全な変圧器で上述の巻線縦振動の固有振動数を把握しておけば、上述のごとく測定した変圧器の巻線縦振動の固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度との比較を行い、乖離が大きければ稼動状態の変圧器の内部異常または劣化発生と診断できる。
また、稼働時の変圧器タンクに取り付けた複数の加速度センサから得られる変圧器タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して表示装置にアニメーション表示し、この表示内容の把握から、巻線縦振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、巻線縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することができる。
また、変圧器について、インパクトハンマーにより変圧器の天板あるいは底板から変圧器に稼働に支障ない範囲で打撃を加え、計測結果から巻線の縦振動モードと固有振動数あるいは鉄心の特定の方向の振動モードあるいはねじりモードの固有振動数を求めることで、上述の場合と同様に稼動状態の変圧器の内部異常または劣化を診断できる。
また、変圧器を製造した場合、巻線や鉄心の振動モードを求め、その固有振動数を正常値として測定し、記録するとともに、巻線や鉄心を強制的に変形させた状態の巻線の振動モードと固有振動数を異常値として測定し、記録しておくことで、稼働後の変圧器の該当振動モードと固有周波数を測定し、前記正常値および異常値と比較することで稼働後の変圧器の異常や劣化の診断が可能になる。
(a)は本発明に係る診断装置の一例を示す構成図、(b)は同診断装置で診断対象とする変圧器の全体構造と内部構造の一例を示す斜視図。 (a)は同変圧器に対する加速度センサの取り付け位置の概要について示す説明図、(b)は同変圧器の内部に設けられているコイル体の内部構造の一例を示す部分断面図。 同変圧器に対し31個の加速度センサを取り付けた位置の具体例を示す説明図。 上述の31個の加速度センサを備えた変圧器を稼働しながら測定した結果に対し解析ソフトを用いて高速フーリエ変換した結果(FFT結果)を重ねて示すグラフ。 (a)は同変圧器の162Hzピークの振動モードについて長辺側の側板を斜め方向から見た場合の1周期分の振動の様子を9等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同9等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同9等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図、(i)は同第8番目の図。 (a)は162Hzピークの振動モードについて同変圧器の短辺側の側板を斜め方向から見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は第1番目の図。 (c)は同8等分して示す際の第2番目の図、(d)は第3番目の図。 (e)は同8等分して示す際の第4番目の図、(f)は第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は第7番目の図。 (a)は228Hzピークの振動モードについて同変圧器の長辺側の側板を斜め方向から見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は第1番目の図、(c)は第2番目の図。 (d)は同8等分して示す際の第3番目の図、(e)は第4番目の図、(f)は第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は第4番目の図、(f)は第7番目の図。 (a)は388Hzピークの振動モードについて同変圧器の長辺側の側板を斜め方向から見た場合の1周期分の振動の様子を9等分して示す際の初期状態の図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同9等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同9等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図、(i)は同第8番目の図。 (a)は388Hzピークの振動モードについて同変圧器の短辺側の側板を斜め方向から見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は第1番目の図。 (c)は同8等分して示す際の第2番目の図、(d)は第3番目の図。 (e)は同8等分して示す際の第4番目の図、(f)は第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は第7番目の図。 (a)は同変圧器の13Hzピークの振動モードについて長辺側の側板を見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同8等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図。 変圧器の底板をハンマリングによりインパクト試験した場合の測定結果の一例を示すグラフ。 変圧器の底板をハンマリングによりインパクト試験した場合の測定結果の他の例を示すグラフ。 (a)は同変圧器の17Hzピークの振動モードについて長辺側の側板を見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同8等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図。 (a)は同変圧器の38Hzピークの振動モードについて長辺側の側板を見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同8等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図。 (a)は同変圧器の184Hzピークの振動モードについて長辺側の側板を見た場合の1周期分の振動の様子を8等分して示す際の初期状態を示す図、(b)は同第1番目の図、(c)は同第2番目の図。 (d)は同8等分して示す際の第3番目の図、(e)は同第4番目の図、(f)は同第5番目の図。 (g)は同8等分して示す際の第6番目の図、(h)は同第7番目の図。 鉄心のモードを示す図であり、(a)はX方向曲げモードを示す斜視図、(b)はY方向曲げモードを示す斜視図、(c)はねじりモードを示す斜視図。 同変圧器に対し取り付けた加速度センサのうち、解析のために8個の加速度センサを用いた場合の具体例を示す説明図。 本発明に係る診断方法の一例を示すフローチャート。 (a)は変圧器巻線のうちディスク巻線の一例構造を示す図、(b)は変圧器巻線のコイルを軸方向に一様なものと近似して分布定数系とみなしたモデルを示す図。 変圧器巻線に関し、両端が固定された弦と仮定して縦方向をx、横方向をyとした座標系で考える場合の説明図。 時刻tにおける座標xの位置の変位をy(x,t)と仮定し、運動方程式を導くため、微小要素に働く力を考えるための説明図。 上述の運動方程式を導くため、断面積Sの微小要素に働く力を考えるための説明図。 変圧器のスペーサーに用いるプレスボードの圧縮ひずみ特性例を示す図。 変圧器のスペーサーの収縮と締付け力の低下と弾性率の低下の関係を示す図。
<第1実施形態>
以下、本発明に係る変圧器の内部異常および劣化の診断方法の第1実施形態について油入変圧器の場合を例にとり、図面に基づき説明する。
図1(a)は変圧器の内部異常および劣化を診断する装置の第1実施形態を示す構成図であり、本実施形態の診断装置Aは、一例として図1(b)に示す構造の油入変圧器(以下、単に変圧器と記載する。)1の内部異常および劣化を診断する装置である。
この例の変圧器1は、タンク2の内部に3つの巻線型のコイル体3がそれらの中心軸を上下に向けて収容され、タンク2の内部に絶縁油が満たされてなる。各コイル体3の中心部にケイ素鋼板などの磁性体からなる鉄心5が挿通され、各鉄心5は各々の上下端部においてケイ素鋼板などの磁性体からなるロッド状のヨーク部6に一体化されている。
図1(b)に示す変圧器1はタンク2の内部に収容されているコイル体などの構造物をタンク2から取り出した状態として描いている。
各鉄心5の両端部とヨーク部6の周囲を囲むように図示略の枠状の締め金部が設けられ、上下の締め金部に図2(b)に示す締め付け金具8が延出形成され、上下の締め付け金具8により各コイル体3が上下から挟まれ、各コイル体3に締め付け力が付加されている。
この例の変圧器1において、3つのコイル体3は、図1(b)に例示するように左側から順にU相用、V相用、W相用などとして配列されている。3つのコイル体3はそれらの周囲に8本整列された支柱部材7に囲まれ、これら支柱部材7の底部側を結合した底部枠7aとこれら支柱部材7の上部側を結合した上部枠7bに囲まれている。また、各支柱部材7の上端部は上部枠7bの若干上方まで延在され、天板4に一体化され、これら全体を覆うタンク2に収容されている。
本実施形態においてコイル体3は、例えば図2(b)に示すように外側コイル9と内側コイル10からなり、外側コイル(1次コイル)9は外巻線(1次巻線)11と絶縁スペーサー(固体絶縁物)12を上下に積層した積層体を上部絶縁体13と下部絶縁体15により挟み付けて構成されている。内側コイル(2次コイル)10は内巻線(2次巻線)16と絶縁スペーサー(固体絶縁物)17を上下に積層した積層体を上部絶縁物18と下部絶縁物19で挟み付けて構成されている。
上部絶縁物13、18と下部絶縁物15、19を上下の締め付け金具8により挟み付けることで各コイル体3には上下から締め付け力が作用され、この状態でコイル体3は絶縁油に浸漬されている。
また、タンク2の天井またはタンク側面に電力を入出力するための図示略のブッシングが形成されている。
前記構成の変圧器1は、送電線などから送られる高電圧を電力使用者の近くで降圧する用途などに使用されるので、巻線11、16には常時電流が流されている。巻線11、16に電流を流すことで電磁力が作用するので、コイル体3や鉄心5には電磁力が作用し、これらが振動する。この振動は変圧器1の全体に伝わり、タンク2の側板2Aや底板2B、天板2Cにも伝達される。
また、送電線で短絡事故や地絡事故などが起きると変圧器1の巻線には定格負荷電流の10倍から数10倍に達する大きな電流が流れることがあり、規格以上の電磁力と振動が変圧器1に作用することもある。
これら種々の要因から、変圧器1の絶縁物は経時的に徐々に劣化が進行する。また、締め付け力と振動が常時作用するプレスボードなどの絶縁スペーサーはセルロース繊維からなるため、劣化するおそれがあり、短絡事故や地絡事故あるいは加熱などに起因して巻線や鉄心にも予想外の劣化を生じるおそれがある。
以上説明のように変圧器1は長期間使用することにより各部において劣化が進行するおそれがある。
図1(a)に示す変圧器の内部異常および劣化の診断装置Aは、変圧器1に沿わせて配置される振動検出器(加速度センサ)22と、この振動検出器22からの出力信号を受けて増幅する増幅器(加速度センサンプ)25とこの増幅器25からの出力を受ける信号解析器(位相差検出器)26とこの信号解析器26に接続された演算装置27を主体として構成されている。診断装置Aにおいて、変圧器1に通電するための電圧を計測する電圧計(通電電圧計)23とこの電圧計23に増幅器(通電電圧アンプ)24を介し信号解析器26が接続されている。
なお、変圧器1には後述するように複数(31個)の加速度センサを取り付けるが、図1(a)は診断装置Aの概要を示した図であるので、変圧器1に取り付けた加速度センサを1個のみとして簡略化して描いた。
図1(a)に示す診断装置Aを用いて以下に説明する手順で変圧器1の振動を解析するが、本実施形態の診断装置Aが変圧器1の内部異常および劣化の診断を行う場合に用いる実験モード解析に従う基本理論については、先に本発明者らが特許出願している特許文献1(特開2017-106893号公報)の段落0021~0095に記載されているので、ここでは詳細説明を省略する。
特許文献1の段落0091に記載の(38)式で示しているように巻線の固有振動数と締め付け力には以下のΩr=(π/L)・(T/ρ)1/2の関係がある。ただしこの式において、Lは巻線の軸方向の長さ、Tは縦方向の締め付け力、ρは巻線を分布常数系とみなした場合の線密度を表す。
変圧器1のコイル体3を構成する巻線は、セルロース絶縁紙により絶縁され、プレスボードに装着されているが、締め付け力が低下するのは、セルロース絶縁紙やプレスボードが劣化して変化することが要因となる。
従って、変圧器1を製造した際あるいは使用開始段階等で変圧器1に問題を生じていないと判断される健全な状態において、巻線の振動解析を行い、振動モードおよび固有振動数を求めておき、変圧器1を稼働後は数年後あるいは定期的に振動解析検査を行って、稼働中の変圧器1の振動モードおよび固有振動数を求め、健全な状態と対比し、その差異を把握することにより、変圧器1の内部異常あるいは劣化診断ができる。
変圧器1の振動・騒音の一次的原因は鉄心の振動と巻線の振動であり、両者の振動がタンク、その他に伝搬する。よって、変圧器1においてタンク2の振動は鉄心振動と巻線振動とタンク自身の振動の合成となる。鉄心の状態を診断する場合は通電騒音振動のうち、鉄心振動成分を評価し、巻線の状態を診断する場合は巻線振動成分を評価する。鉄心振動と巻線振動はそれぞれ固有振動数を有する。
固有振動数が電源系の振動数に近いと共鳴現象が起きる。加振力は電源周波数の2倍成分が最も大きいが、電源周波数の奇数倍または偶数倍の加振力も存在し、鉄心振動や巻線振動やタンク振動の固有振動数が電源周波数の2倍以外の整数倍に近い場合には、電源周波数の2倍成分の振動よりも大きな振幅を生じる場合がある。電源系の加振力に対する機械系の固有振動数を測定して変圧器内部異常および劣化診断をすることができる。
即ち、変圧器構成物の固有振動数(鉄心振動と巻線振動とタンク自身の振動のそれぞれの固有振動数)を求めると稼働中の変圧器の状態を解析することができる。
「巻線振動の解析」
次に、巻線振動の解析について説明する。
一般的な油入変圧器の寿命は、変圧器の外部で短絡故障が発生した場合に変圧器コイル巻線に加わる電磁機械力にコイルの絶縁紙が耐えられなくなった状態と考えられる。
一方、短絡故障時に巻線の軸方向にも一次巻線(外巻線)11と二次巻線(内巻線)16が反発する電磁力(外部推力)が作用する。巻線部に挿入された絶縁物が経年劣化により寸法収縮して、巻線の締付力が低下した場合、外部推力により軸方向の巻線構造が損なわれる可能性が生じる。このような状態も変圧器の寿命と考えられる。締付け力が低下して巻線に緩みが生じると巻線からの騒音は大きくなる。
変圧器の各部位の締付けトルク値が規定値よりも小さくなると、正常時の各周波数成分のレベルが分布する範囲から大きく外れたレベルになると考えられる。
次に、変圧器の巻線に印加される加振力について説明する。
変圧器巻線の内巻線16と外巻線11には反対方向に電流が流れており、たがいに漏れ磁場を形成する。巻線に印加される電磁力はローレンツ力であり、電流と磁界にそれぞれ直角方向に作用する。軸方向の電磁力は内巻線16も外巻線11もともに圧縮力となり、電磁力は電流の2乗に比例する。よって、軸方向の加振力の振動数は電流の振動数(すなわち電源周波数)の2倍となる。
巻線の締付け力の低下は巻線の固有振動数の変化として現れる。よって、実験モード解析により、直接的あるいは後述の補償法を用いて巻線振動に含まれる振動成分を明らかにすれば良い。直接的とは、加速度センサや加速度センサなどの加速度センサにおける生の波形をフーリエ変換して振動成分を明らかにすることを意味する。
変圧器が比較的新品に近い場合、または新品の場合、巻線締付け力は十分に大きく、振動が発生しにくくなっている。その場合、固有振動数に関係する振動は発生せず、無周期の減衰運動になる。その結果、強制振動が与えられても強制振動の振動数以外の振動成分は発生しなくなる。そのような場合でも、位相遅れを測定する方法であれば、固有振動数に関する情報が得られる。
図1(a)に示す解析器26と演算装置27はパーソナルコンピューターから構成され、演算装置27がCPUであり、メモリやハードディスクなどの記憶装置が解析器26に搭載され、解析器26の記憶装置に健全な初期状態などの未劣化状態の変圧器の巻線振動の解析結果情報が記憶されている。測定結果から得られる巻線の固有振動数などの情報が解析器26の記憶装置に記録され、健全な初期状態の巻線振動の解析情報との対比がなされる。なお、演算装置27には表示装置28が接続されていて、演算装置27が演算した結果を画像表示できるように構成されている。表示装置28に表示される演算結果については後述する。
解析器26の記憶装置に健全な初期状態の変圧器の解析情報に対し、何割程度の低下が見られるかに応じて対比テーブルが記録されている。
実際に測定され、演算装置27により計算された巻線振動の解析結果が、初期状態に対し低下していることが判明した場合に、当該変圧器1の劣化度が寿命に達したか否か診断される。診断の基準値は変圧器ごとに個別に設定する。診断の基準値を解析器26の記憶装置に記録しておき、演算装置27の測定結果とテーブルを対比判断することにより変圧器の寿命を診断できる。
位相差から機械系の固有振動数を求める場合、巻線部に使用されている絶縁物の劣化が軽度の場合は電源周波数の2倍の振動(2倍振動)が主な変圧器振動であり、2倍振動の位相差に着目して解析するのが良い。
ただし、機械系の固有振動数が電源周波数の2倍の振動数とは別な整数倍の振動数に近い場合、共鳴の効果でより大きな振動振幅を与える場合があり、その場合はその大きな振幅の振動数成分について解析する方が良い場合もある。
締付け力が低下すると、巻線の軸方向に作用する電磁力に加え、巻線の半径方向に作用する電磁力による振動も発生すると考えられ、変圧器の劣化が進行すると、高次の振動成分の振幅が大きくなると考えられる。そこで、劣化が進んだ変圧器については高次の振動成分の振幅に着目して解析することが有効である。
巻線の高次の固有振動モードによる過渡振動は以下に説明する方法により求めることができる。
劣化が進んだ変圧器で巻線締付け力が弱くなってくると、巻線に緩みが生じ、変圧器を稼働している場合に生じる単振動の加振力が歪んで、伝達され、色々なモードの振動が誘起されると考えられる。
このため、変圧器1の天板と側板と底板に複数の加速度センサを取り付け、種々の振動を検出して解析することにより、変圧器1の劣化に起因して生じている特定の振動を検出し、それが巻線による振動であると特定できると、変圧器の内部異常および劣化を推定することができる。
2倍振動振幅に対しより高次の振動成分の振幅が大きくなることを捉えて巻線部に使用されている絶縁物が劣化していると診断することができる。この場合、高次の振動成分は歪んで伝達された加振力により決まった位相遅れを有するようになると考えられる。
そこで、本実施形態では変圧器1の長辺側の側板2Aと底板2Bと天板2Cに対し、コイル体3の振動において縦振動をできるだけ正確に検知できるようにコイル体3の上下に位置するように加速度センサを取り付けることが好ましい。図1(b)では記載の簡略化のために3基のコイル3の上方の天井版4にのみ加速度センサAE、AE、AEを設けた例を示した。このように加速度センサを3つのコイル体3の上方に設けることで、後述する巻線の縦振動を計測することができる。
次に、実際に長期間稼働した変圧器に対し、側板2Aと底板2Bと天板2Cに加速度センサを取り付ける場合の一例について図2(a)を用いて説明する。
例えば図2(a)に示すように直方体状の鋼板製のタンクを備えた変圧器1について振動解析する場合がある。
この場合、底板2Bの下面と、天板2Cの上面に加速度センサを取り付けた上に、側板2Aを周回する位置に複数の加速度センサを取り付けることができる。
側板2Aにおいて、例えば、図2(a)に示すように、○で囲んだ数字で示す1~4の位置に個別に加速度センサを取り付けることができる。
本発明者は変圧器1の振動を詳細に解析するために、図3に示すような形状であり、実際に50Hzで32年稼働した(定格電流比30%)の油入変圧器(3相、定格容量6.78MVA、1次側22kV、2次電圧1.2kV、窒素密封型変圧器)のタンクに、31個の加速度センサを取り付けた測定用サンプル変圧器を用意した。このサンプル変圧器を商用周波数で稼働させ、サンプル変圧器の立体振動モードを計測することとした。
図3では、加速度センサの取り付け位置を優先して表示するため、サンプル変圧器の具体形状を簡略化して概形のみ記載している。
サンプル変圧器Sとしたのは、3つのコイル体を収容した箱状の本体部40の上に左右両端側からはみ出すように天板41が設けられた変圧器である。このサンプル変圧器のサイズは、高さ約265cm、幅240cm、奥行き86cmである。その他各部の寸法を図2(a)に示した。
サンプル変圧器Sの底板と側板と天板に対し、図3の矩形状の□で囲んだ1~31の数字が示すように31個の加速度センサを各所に取り付けた。
図3に示す小さい○印は、矩形箱状の本体部40を構成する短辺側の側板45、46と長辺側の側板47、48をそれぞれ等分した場合の区分印を示す。図3の右短辺側の側板45には、第1の加速度センサ、第2の加速度センサ、第31の加速度センサを取り付け、左側の側板46には第3の加速度センサと第4の加速度センサを取り付けた。小さい○印で示す区分印の個数から各加速度センサの取り付け位置を示す。
例えば、図3の右短辺側の側板45は区分印により縦方向(高さ方向)に7等分され、横方向(水平方向)に9等分されているので、第1の加速度センサは、短辺側の側板45を縦方向に7等分した場合の1/7の高さ位置であり、側板45を幅方向に9等分した位置において長辺側の側板47に近い端部位置から3/9の位置に取り付けている。
図3の手前長辺側の側板47には、図3に示すように第13~第20の加速度センサを取り付けた。区分印は、長辺側の側板47を幅方向(左右方向)に24等分しているので、一例として第15の加速度センサは、側板47の1/7の高さ位置であって、側板の横方向に左短辺側の側壁46の境界位置から2/24の位置に取り付けた。その他の加速度センサの取付位置は図3に示した通りであるので、それら加速度センサの取付位置の詳細説明は省略する。
底板50に対し第21の加速度センサ~第26の加速度センサを取り付けた。第21の加速度センサ、第23の加速度センサ、第25の加速度センサの取り付け位置は、コイル体3の下方に位置するように、かつ、図3に示す底板50の奥側の長辺から15cmだけ離れた位置に設置した。
第22の加速度センサ、第24の加速度センサ、第26の加速度センサの取付位置は、コイル体3の下方に位置するように、かつ、図3に示す底板50の手前側の長辺から15cmだけ離れた位置とした。
天板41の上には第27の加速度センサを底板側の第21の加速度センサの真上に位置するように設置し、第29の加速度センサを底板側の第25の加速度センサの真上に位置するように設置した。
図3に示すサンプル変圧器Sにおいて長辺側の側面47の上方に位置する天板41の側面側に第28の加速度センサと第30の加速度センサを取り付けた。
その他の加速度センサの取付位置は図3に数字で示しているので、それらの詳細な位置説明は略するが、奥側の側板48に第5~第12の加速度センサを取り
付けた。
以上説明のサンプル変圧器Sについて、巻線に50Hzの商用周波数で通電して稼働中に上述の31個の加速度センサが検出した31点の実稼働振動のFFT結果(高速フーリエ解析結果)を31点重ねて表示した結果を図4に示す。解析ソフトは、「ME’scope VES」を用いている。サンプル変圧器は定格電流比30%の稼働状態で各点120秒振動測定した結果である。
図4の横軸は周波数(0~400Hz)を示し、縦軸はFFT結果を示す規格化振動強度を対数表示している。
演算装置27に接続された表示装置28は解析ソフトによる図4に示す解析結果を表示することができる。
図4に示す振動について周波数毎のピークを分析した結果を以下に示す。なお、図4は31個の加速度センサが計測した全ての周波数の振動を解析した結果を1つのグラフに描いたものであるが、計測データは0~400Hzの範囲で全ての周波数毎に取得したので、以下の結果説明では、目立った周波数のピークのみ解説した。
5Hz:X方向のロッキング
7Hz:Y方向のロッキング
9Hz:Z方向伸縮 UVWのZ方向位相差120度
13Hz:Z方向単純振動 底板の(1,1)モードと同期、側板のX方向の伸縮あり
17Hz:2面、4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード) 底板(1,1)上下連動
21Hz:底板(1,1)振動に加えY方向変位大 側板天板がY方向に連動
23Hz:6面伸縮(呼吸モード)
38Hz:X方向曲げモード
52Hzと64Hz:天板UW反転固有振動
69Hz:2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)
85Hz:3面の固有振動目立つ 3面固有振動
88Hz:底板は(2,2)モードに近く、X方向位相差あり
100Hz:1面3面が(2,2)共鳴 体積不変振動
114Hz:3面固有振動
125Hzと130Hz:底板(4,1)固有振動に2面4面が連動
162Hz:底板のUVWに位相差120度ある、巻線縦方向伸縮モード
184Hz:ねじりモード
193Hz:1面3面(2,1)、モード連動
200Hz:1面(2,1)、モード4面(1,1)、モード連動
228Hz:2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)底板天板連動なし ねじれも混じる
231Hz:側板1面~4面と天板の呼吸モード
247Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
259Hz:4面と1面の協調振動
277Hz:ねじりモード
288Hzと292Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
300Hz:主に1面2面3面が連動して振動
323Hz:底板固有振動 残り5面はほとんど変位なし
388Hz:U相1面側3面側逆位相の縦方向伸縮モード
以上の解析結果の説明文章において、1面は長辺奥側(裏側)の側板48を示し、2面は短辺左側の側板46を示し、3面は長辺手前側の側板47を示し、4面は短辺右側の側板45を示す。
「162Hzピークの振動モード」
先の振動解析結果において、162Hzに現れた振動モードがUVWの3相の位相差120度があることが分かったので、巻線縦方向伸縮モードであると判断した。
そして、側板47側から見た1周期分の振動の様子を9等分して図5(a)~図7(i)に示す。丸印で示した底板に着目すると、図5(c)ではV相のコイル体が最大に浮き上がり、図6(f)ではW相のコイル体が最大に浮き上がり、図7(i)図ではU相のコイル体が最大の浮き上がりを示した。そして、それぞれの位相差が120度であることが分かった。
162Hzピークの振動モードは、1秒間にこの動きを162回行っていることを示している。
演算装置27は表示装置28に対し表示信号を送り、先の1周期分の振動の様子を9等分して図5(a)~図7(i)に示した図形を連続アニメーションとして観察者の肉眼で視認できる程度の時間分割した速度で繰り返し表示する機能を有する。このため、観察者は、表示装置28に表示されている図5(a)~図7(i)に示した図形の立体アニメーション表示から、W相のコイル体の浮き上がりと、U相のコイル体の浮き上がりが交互に繰り返される状態であると分析できる。
なお、この162Hzのピークには限らないが、高次元のピークを観察し、U相、V相、W相が位相差120度で伸縮していると観測できたならば、それが巻線の縦振動モードであると判断できる。
なお、立体アニメーション表示する場合に視認できる程度の時間分割した速度として、1周期を1秒間~数秒間で表示する速度のアニメーション表示を選択できる。
次に、162Hzピークの振動モードについて、2面側(短辺側の側板46側)から見た1周期分の振動の様子を8等分して図8(a)~図11(h)に示す。丸印で示したU相のコイル体直上とU相のコイル体直下に設置した加速度センサ位置(第27と第21の加速度センサ)は、図9(c)で最も伸び、図10(f)で最も縮んでいることから、巻線が上下方向に伸縮している縦振動モードであることが分かる。
表示装置28には、先の1周期分の振動の様子を8等分して図8(a)~図11(h)に示した図形を連続アニメーションとして観察者の肉眼で視認できる程度の時間分割した速度で繰り返し表示できる。このため、観察者は、表示装置28に表示されている図8(a)~図11(h)に示した図形の立体アニメーション表示から、天板と底板が上下に伸縮している状態を視認でき、この表示から巻線が上下方向に伸縮している状態であると認識できる。
なお、以下に説明する振動解析では、いずれも表示装置28に表示された8等分あるいは9等分の画像に基づく立体アニメーション表示の視認に基づく解析結果から、各振動の状態を判断し、分析している。
「228Hzピークの振動モード」
228Hzの振動モードは2面4面のY方向伸縮(Y方向曲げモード)にX方向のねじれが混じった振動である。1周期分の振動の様子を8等分して図12(a)~図14(h)に示す。
図12(a)では、2面と4面(図3に示すように2面は短辺左側の側板46を示し、4面は短辺右側の側板45を示す。)が最も膨らんでおり、図13(e)では逆に最も凹んでいて、Y方向に伸縮していることが分かる。また、4面(図3に示す側板45)が原点に対し図12(a)ではXの正方向に最も変位しているのに対し、図13(e)ではXの負の方向に最も変位している。ただし、2面(図3に示す側面46)のX方向の変位はあまり大きくない。また、228Hzピークの場合、底板や天板、1面と3面はほとんど変位していない。
よって、228Hzピークは鉄心のY方向伸縮(Y方向曲げモード)が主な振動モードと読み取ることができる。
表示装置28には、図12(a)~図14(h)に示した図形を連続アニメーションとして繰り返し表示できる。このため、観察者は、表示装置28に表示されている図形の立体アニメーション表示から、Y方向に伸縮している状態を視認でき、Y方向曲げモードが主な振動モードと読み取ることができる。
「388Hzピークの振動モード」
388Hzの振動モードは基本的には巻線縦方向伸縮モードとみられるが、W相のコイル体直下の底板の1面側(図3の側板48)と3面側(図3の側板47)が逆位相になっている。
3面側から見た1周期分の振動の様子を9等分して図15(a)~図17(i)に示す。図15(a)、図16(d)、図17(g)に丸印で示した底板の振動に着目すると、図16(d)ではV相が、図17(g)ではU相が最大の浮き上がりであり、位相差が120度であるが、図15(a)ではW相のコイル体直下の底板の1面側が最大に浮き上がっており3面側は最大に沈み込んでいるので、U相とV相とW相の位相差120度の縦振動を正確には表現していないと推定される。
周波数が388Hzと大きいので高次の振動モードであると考えられることから、第21の加速度センサ~第26の加速度センサのように6つの加速度センサのみで底面の振動を完全に把握することは原理的に不可能であることから、ここでの振動モードの同定は暫定的で考える。
次に2面側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図18(a)~図21(h)に示す。丸印で示したU相のコイル体直上とU相のコイル体直下に設置した加速度センサ(第27と第21)は図19(c)で最も伸び、図21(g)で最も縮んでいることから、巻線が上下方向に伸縮しているモードであるが、図19(c)と図21(g)では位相差が180度と少しずれている。
「13Hzピークの振動モード」
3面側から見た13Hzピークの振動モードについて1周期分の振動の様子を8等分して図22(a)~図24(h)に示す。
13Hzの振動モードはほぼ単純なZ方向の振動であり、それに加えて底板の(1,1)モードと同期し、側板のX方向の伸縮も見られる。
変圧器全体の最大の沈み込みは、図22(a)に、最大の浮き上がりは図23(e)に示されているが、本来の底板(1,1)モードは、22Hzが固有振動数であると思われる。図23(e)において、○印の位置はXYZ方向の原点を示し、変圧器全体が上方に変位していることが判る。
以上の結果をまとめると、変圧器1のタンク2について、複数の箇所に設けた加速度センサの計測結果から、機械系振動数をME’scopeでモード解析した結果、13HzピークはZ方向の単純振動、162Hzと388Hzピークは巻線の縦方向伸縮、228Hzピークは鉄心のY方向伸縮(Y方向曲げモード)が主な振動モードであると判定できた。
本発明者が先に特許出願した特許文献1に記載の技術では、機械系振動成分を見出す手順は、全体の振動スペクトルから、電源由来の振動、タンク壁面由来の振動、建屋由来の振動を引き算して、残りが機械系振動成分であると仮定した。
しかし、本実施形態で説明したように、変圧器を立体的に振動測定し、ME’scopeでモード解析すれば、巻線の械系振動成分を直接見出すことが可能であることが分かった。
このため、前述のサンプル変圧器Sであれば、稼働中に得られる162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを巻線縦振動モードとして捉えることができるので、これらのデータを固有周波数と振動モードと判断し、変圧器の内部異常および劣化の診断に利用する。
測定対象の変圧器について、製造初期あるいは製造後の異常を生じていない正常状態の変圧器に関し、前記162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを測定して記録しておく。
これらに対し、前記サンプル変圧器と同等構造ではあるが、変圧器の製造時に巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器を別途作製し、この試験用変圧器から得られる162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを計測しておき、この周波数の振動強度などを変圧器の異常値として調査し、記録しておく。
これらのデータの記録は、変圧器を生産して出荷する際に、出荷変圧器用の基礎データとして記録しておき、販売した変圧器と共に使用者に情報として渡しても良いし、変圧器の製造メーカーのデータセンターに保管しておくこともできる。
変圧器を購入した使用者は、変圧器を稼働後、所定の期間が経過したならば、変圧器の天板と底板に加速度センサを取り付けて、162Hzと388Hzの縦方向伸縮モードを解析し、固有周波数と振動強度を測定する。
この測定結果と先の変圧器生産時などの健全な状態で測定しておいた固有周波数と振動強度の測定結果を比較し、両データに予め決めておいた閾値を超える差異が生じていれば、診断した変圧器は寿命がきているか、内部異常が生じた変圧器であると診断できる。
両方のデータを比較する場合、予め決めておいた閾値は、例えば以下に説明するように決定できる。
変圧器を製造する場合、巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器を別途作製し、この試験用変圧器から得られる162Hzの縦方向伸縮モードを計測しておき、この周波数の振動強度などを変圧器の異常値として調査し、記録しておく。
上述のデータを比較する際、162Hzあるいは388Hzの縦方向伸縮モードを解析し、固有周波数と振動強度を求めた結果、上述の周波数の振動強度が正常値として記録しておいた数値よりも異常値として記録しておいた数値に近い場合、内部異常が生じている確率が高いか、劣化が進行していると判断できる。両者を比較した場合、異常値と同じ数値が出た場合は、内部異常が生じているか劣化していると判断できる。両者を比較した場合、異常値よりも正常値に近い数値が出た場合、変圧器は多少の劣化はしているものの寿命には達していないと判断できる。
図3に示すサンプル変圧器に対する加速度センサの取付位置は、U相とV相とW相のコイル体3に対する完全な上下対称位置ではなく、多少ずれた位置に加速度センサを取り付けている。
このため、上述した388Hzの縦方向伸縮モードにおいてU相とV相とW相の位相差120度の縦振動を正確には表現していない結果を含んだ結果となったが、加速度センサの取付位置はU相とV相とW相のコイル体3に対し、上下対称な位置とすることがより好ましい。
次に、前述のサンプル変圧器Sに対し、強制的に振動を付加し、各加速度センサで振動を計測し、計測結果を解析することで変圧器の内部異常および劣化診断を行う場合について説明する。
この場合、図1(b)に示すインパクトハンマーHを用い、サンプル変圧器の天板や底板に衝撃を加え、加速度センサで振動を測定するインパクト試験を行うことができる。
一例として、図3に示すサンプル変圧器Sの底板に取り付けた第26の加速度センサの位置から第25の加速度センサ側に5cm寄った位置を叩き、第26の加速度センサで測定するインパクト試験を実施できる。
図25は定格電流比30%の実稼働中にインパクトハンマーHにより上述の位置に衝撃を加えるインパクト試験を行った結果を示す。
なお、インパクト試験により励起される振動は、電源系振動成分(50Hzの倍数)以外の周波数の振動よりも大きい。このため、電源系振動成分以外の振動成分に対し、実稼働中であってもインパクト試験が可能である。
図26は、図3に示すサンプル変圧器Sの底板に取り付けた第29の加速度センサの位置から第30の加速度センサ側に5cm寄った位置を叩き、第29の加速度センサで測定するインパクト試験の結果を示す。
図25と図26は、周波数応答関数であり、単位力(1N)の入力あたりの振動強度(m/s)を表す。
図25に示す測定結果と図26に示す測定結果のいずれにおいても、周波数162Hzにおける小さな振動ピークを検出することができた。これらのピークは、先に説明したとおり、巻線の縦振動に起因するものと判断できる。
このため、変圧器を製造直後、インパクトハンマーHを用いて、あるいは健全な状態の変圧器の天板あるいは底板に衝撃を加えた結果得られる振動を解析し、周波数162Hzの振動ピークを記録しておく。
そして、その変圧器の稼働後、必要な時期にインパクトハンマーHを用いて変圧器の天板あるいは底板に衝撃を加えた結果得られる周波数162Hzの振動ピークを解析し、健全な状態の変圧器で得られたピークと、所定時間稼働後の変圧器で得られたピークを比較することで変圧器の内部異常の診断あるいは劣化を診断することができる。
また、先の例と同様に、先の変圧器と同等構造ではあるが、変圧器の製造時に巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器を別途作製し、この試験用変圧器から得られる162Hzの縦方向伸縮モードを計測しておき、この周波数の振動強度などを変圧器の異常値として調査し、記録しておく。
次に、変圧器の所要時間稼働後、天板あるいは底板に衝撃を加えた結果得られる解析結果と比較し、162Hzのピークの振動強度が巻線や鉄心の締め付け状態を規定の締め付け力から外した状態の試験用変圧器で得られた結果と同等あるいは近い値であれば、変圧器に内部異常を生じているかあるいは変圧器が劣化していると診断することができる。
例えば、変圧器に内部異常を生じているかあるいは変圧器が劣化していると診断できる閾値として前述のピークの振動強度が10%変動した場合を採用することができる。なお、この閾値10%については後に詳述する。
固有周波数と振動強度を求めた結果、上述の周波数の振動強度が正常値として記録しておいた数値よりも異常値として記録しておいた数値に近い場合、内部異常が生じている確率が高いか、劣化が進行していると判断できる。両者を比較した場合、異常値よりも正常値に近い数値が出た場合、変圧器は多少の劣化はしているものの寿命には達していないと診断できる。
以上説明の如く、製造直後などのように健全な状態の変圧器について、振動解析を行い、162Hz、388Hzなどのように巻線の縦振動に起因する振動の振動モードあるいは周波数、振動強度などを測定して変圧器を販売する場合のデータベースに追加しておくことにより、製造販売する変圧器に付加価値を付与することができる。
即ち、変圧器を購入したユーザーは、変圧器初期状態の162Hz、388Hzなどのように巻線の縦振動に起因する振動の振動モードあるいは周波数、振動強度などの諸情報を変圧器の購入時に把握することができる。
これらの情報を把握しておき、変圧器の設置後、10年経過した場合、あるいは、大きな地震を経た場合などに、上述の方法で変圧器の振動モードを計測し、初期状態の振動モードと比較し、初期状態の周波数、振動強度などと比較することで、変圧器の使用者は、変圧器の診断ができるようになる。
即ち、初期状態の情報を備えた変圧器ならば、地震後あるいは年数の経過時に変圧器に加速度センサを取り付けて振動解析を行い、変圧器の内部異常や劣化の状態を診断できるようになる。
従って、上述の初期状態の情報を備えた変圧器を販売するならば、付加価値の高い変圧器として販売できるようになる効果がある。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態は鉄心の異常および劣化に基づく変圧器の異常および劣化の診断方法に関する。
診断装置の構成は、図1(a)に示す診断装置と同一であり、変圧器全体構造および内部構造も図1(b)の変圧器と同一である。
本第2実施形態においても、図2に示す○で囲む数値の1~4に示す変圧器1の側板と、それに加えて底板および天板に対し、鉄心の振動をできるだけ正確に検知できるように複数の加速度センサを取り付けることが好ましい。
先の実施形態と同様、図3を基に説明したように変圧器に31個の加速度センサを取り付け、定格電流比30%の稼働状態で各点120秒振動測定した結果を用い、以下に鉄心振動について解析した結果について述べる。
「17Hzピークの振動モード」
先に、図4に示す振動について周波数毎のピークを分析した結果について説明したが、それらの中で17Hzに現れた振動モードが、鉄心のY方向曲げモードであると判断した。その判断の根拠を以下に説明する。
17Hzピークの振動モードについて、図3の長辺側の側面47側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図27(a)~(c)、図28(d)~(f)、図29(g)~(h)に示す。
丸印で示したW相コイル体近傍に設置した第31の加速度センサと、U相コイル体近傍に設置した第3の加速度センサの両者が、○印で示すように図27(c)で最も伸 び、○印で示すように図29(g)で最も縮んでいる。このことから、17Hzの振動モードに関し、鉄心が短辺側の側板45の面と側板46の面のY方向に伸縮しているY方向曲げモードであると分かる。
「38Hzピークの振動モード」
38Hzピークの振動モードについて図3の短辺側の側板45側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図30(a)~(c)、図31(d)~(f)、図32(g)~(h)に示す。
図3に示す長辺側の側板48に設置した第11の加速度センサと第12の加速度センサと、長辺側の側板47に設置した第19の加速度センサと第20の加速度センサは、○印で示すように図30(b)で最もX方向の正の方向に変位しており、○印で示すように図31(f)で最もX方向の負の方向に変位している。また、天板や底板に設置した他の加速度センサはX方向に対して大きな変位はみられないことから、38Hzピークの振動モードに関し、鉄心がX方向に屈曲しているX方向曲げモードであることが分かる。
「184Hzピークの振動モード」
184Hzピークの振動モードについて図3の天板41側から見た1周期分の振動の様子を8等分して図33(a)~(c)、図34(d)~(f)、図35(g)~(h)に示す。天板41に設置した第27の加速度センサと第29の加速度センサと、天板41に接する側板に設置した第28の加速度センサと第30の加速度センサは、図34(d)で最も時計回りに変位しており、図35(h)で最も反時計回りに変位している。図33~図35の各図に示すように底板50に設置した他の加速度センサの計測値に大きな変位はみられないことから、184Hzピークの振動モードは、上部鉄心がねじり振動しているねじりモードであると判断できる。
ここで、水野末良他による「変圧器鉄心の固有振動特性」(平成25年、電気学会全国 大会 5-195)によると、鉄心について、2種類の曲げモードと1種類のねじりモードが示されている(図36参照)。
例えば、図36に示す鉄心38において、支柱部35、35、35と上部側のヨーク部36と下部側のヨーク部37とからなる構成とする。
図36(a)がY方向曲げモードを示し、図36(b)がX方向曲げモードを示し、図36(c)がねじりモードを示していると表現できる。
図36に示す各モードにおいて特徴的なことは、図36(a)のY方向曲げモードにおいて、○囲み数値の7と10に示すように左右の支柱部35が撓むことであり、図36(b)のX方向曲げモードにおいて、○囲み数値の8、12、9、11のように支柱部35が撓むことである。図36(c)のねじりモードにおいては、○囲み数値の2、6、3、5のように上部側のヨーク部36と支柱部35が撓むことである。
先に説明した本実施形態における曲げモードとねじりモードの命名は、上述の文献の曲げモードとねじりモードに倣っている。
前述の振動モードを確度よく同定するために、変圧器に対する加速度センサの設置位置は、なるべく多い方が良い。しかし、測定時間や変圧器本体へのセンサ設置の容易さにより、常時、図3のように十分に多くの加速度センサを設置できるわけではない。
そのような場合、例えば図37に示すように変圧器Sに対し8箇所設置するだけでも振動モードの推定は可能である。例えば、変圧器の側板45、46、47、48を取り囲むように第3の加速度センサと、第11の加速度センサと、第12の加速度センサと、第31の加速度センサと、第20の加速度センサと、第19の加速度センサを取り付け、天板41上に第27の加速度センサと第29の加速度センサを取り付けることができる。
第3の加速度センサと第11の加速度センサと第12の加速度センサと第31の加速度センサと第20の加速度センサと第19の加速度センサの取り付け位置の詳細は、図3に示す各加速度センサの取り付け位置と同等である。
また、それ以下のセンサ設置数であっても、3軸加速度計を使用するか、振動データのFFT解析の全体像から検討するならば、確度は低下するが、各モードについて推定可能である。
一方、十分に多くの位置の振動を加速度センサで測定することにより、異常や劣化が発生している位置を推測することが可能となる。例えば、UVW相に対し、それぞれ巻線の直上または直下のタンク面に加速度センサを設置して振動測定した場合、正常な相には固有振動数に変化が無く、異常や劣化が発生している相の固有振動数には変化があると考えられる。
よって、異常や劣化が疑われる部位の近傍に加速度センサを設置して振動測定することにより、変圧器内のどこの部位に異常や劣化が生じているか、タンク振動を基に外部診断することが可能である。
図38は、本発明に係る診断方法の一例に対応するフローチャートを示す。
図38に示すフローチャートの前半部分において、上部破線で囲んだ部分は未劣化の正常変圧器における変圧器振動を立体アニメーション表示させ、巻線の固有振動モードと鉄心の固有振動モードを同定し、固有振動モードに対応する固有振動数を同定する工程を示す。
固有振動モードを同定するには、変圧器の天板と側板と底板のうち、適切な箇所に加速度センサーを設置して振動データを取得する。理想的には、図3に示す約30箇所の振動を測定するならば、低次の巻線の縦振動モードおよび鉄心の曲げ・ねじりモードをもれなく測定できる。
図38に示すようにステップS1では、未劣化の変圧器に対し、望ましくは先の図3に示す例に示す如く約30カ所に加速度センサを取り付け、ステップS2において、各加速度センサの測定結果を基に先に説明したように解析ソフトを用いて立体アニメーション表示する。続くステップS3では、未劣化正常稼働時の変圧器の巻線縦振動モードを把握し、更に、鉄心のX方向曲げモードとY方向曲げモードおよびねじりモードの固有振動数を把握する。把握したこれらのモードや固有振動数などの情報を、未劣化の正常な変圧器の基本情報として、図1(a)に示す診断装置Aの解析器26に搭載されているメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶しておく。
固有振動数を把握した後、期間をおいて同変圧器振動を再測定する。その期間とは異常や劣化が生じた可能性があり、それを確認する必要に応じて決められる。例えば、巻線や鉄心の変形やそれらを支えるプレスボードが脱落することは、短絡故障時や落雷発生時に変圧器に短絡電流が流れたり、地震により変圧器が揺れたりした際に、巻線や鉄心に大きな外力が作用した場合に生じる可能性が高いと考えられるため、定期的に点検する以外にそのような事象の後にも点検することが望まれる。
また、プレスボードの劣化は数十年単位に渡って徐々に進行すると考えられるが、変圧器の過負荷運転により劣化が加速する場合もあるため、5~10年おきに定期的に点検するか、過負荷運転を実施した後に点検することが好ましい。また、プレスボードの劣化が進んだ変圧器では、鉄心や巻線の締付け力が低下しているので、先に述べた巻線や鉄心の異常も発生しやすくなるため、経年変圧器は頻度を高めた点検が望まれる。
図38に示すフローチャートの後半部分は劣化や異常の診断手順を示す。
予め上述の基本情報を記録しておいた変圧器に対し、ステップS4において、必要箇所に加速度センサを取り付けて上述の実施形態で説明したように固有振動数の周波数における振動モードを解析する。ステップS4で行う振動測定は、未劣化状態の変圧器に対してステップS1~S3で行った解析と同等で良い。
この解析により得られた結果を診断装置Aの解析器26に搭載されているメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶されている未劣化状態の変圧器の基本情報とステップS5で比較し、変動幅が何%であるのか対比して診断する。
例えば、閾値を10%と規定しておくならば、10%を超える変動を生じていた場合、診断結果S6に示すように異常または劣化が発生していると診断する。あるいは、診断結果S7に示すように異常または劣化が発生していないと診断する。
以上のフローに示す如く、変圧器の異常あるいは劣化を診断することができる。
なお、固有振動数が未劣化正常時の変圧器の固有振動数に比較してどれだけ変動すると異常や劣化であると判断するかについては、変圧器の仕様によりそれぞれ異なる。
例えば、劣化や異常とは別に、相関関係として、固有振動数が約10%低下すると巻線の締付け力が半減すると考えられる。そして、その閾値を超えて固有振動数が変動した変圧器は、異常または劣化を生じていると診断することができるので、10%を閾値として採用することができる。
変圧器の上述のような状態は、比較的小さい短絡電流や地震動によっても巻線や鉄心に更なる異常をきたす可能性が高くなることから、他の点検も併せて実施するなどして、変圧器の運転継続の可否や変圧器更新の可否を決定する。一方、閾値未満の変動幅であれば継続稼働が可能と判断し、運転は継続し、後日再点検することが望ましい。
図1(b)に示す診断装置Aの解析器26に搭載されているメモリやハードディスクなどの記憶装置には変圧器の上述した基本情報が記憶されている。
基本情報とは、先に説明した複数の加速度センサを用いて未劣化状態の変圧器に対し振動解析した結果の情報である。
これに対し、先に説明したように32年稼働した後の変圧器の振動解析結果から、変圧器1のタンク2について、複数の箇所に設けた加速度センサの計測結果から、機械系振動数をME’scopeでモード解析した結果、13HzピークはZ方向の単純振動または鉄心振動、162Hzと388Hzピークは巻線の縦方向伸縮、228Hzピークは鉄心のY方向伸縮(Y方向曲げモード)が主な振動モードであると判定できた。
また、17Hzピークの振動モードは、鉄心のY方向曲げモードであり、38Hzピークの振動モードは、X方向曲げモードであり、184Hzピークの振動モードは、鉄心のねじり振動モードであると判定できた。
このため、先の実施形態において分析した変圧器と同等構造の他の稼働中の変圧器を診断する場合、これらの情報を予め解析器26に搭載されているメモリやハードディスクなどの記憶装置に対比情報として記憶させておくことが望ましい。
即ち、162Hzと388Hzピークは巻線の縦方向振動モード、17Hzと228Hzピークは鉄心のY方向曲げモード、38Hzピークは鉄心のX方向曲げモード、184Hzピークは鉄心のねじり振動モードである。
よって、先の実施形態において分析した変圧器と同等構造の他の稼働中の変圧器を診断する場合、これら周波数のピークを測定して把握し、未劣化状態の変圧器のこれら周波数のピークの振動と比較すると、巻線に問題を生じているのか、鉄心に問題を生じているのか、容易に判断することができる。
「巻線振動数に関する説明」
次に、変圧器における巻線の締め付け力と固有振動数の関係について説明する。
変圧器巻線のうちディスク巻線を例にとりその構造を図39(a)に示す。巻線の軸方向(縦方向)に円盤状のコイル60が積み重ねられており、コイル60、60間にはスペーサー61が挿入されている。コイル60の冷却のためにコイル60、60間に絶縁油が流れるようにスペーサー61は円周方向に間隔をあけて配置されている。巻線の上端・下端には絶縁リング62が配置され、巻線と鉄心を絶縁している。
図39(a)に示す構造は、一例として、図1(b)に示した変圧器のコイル体3の構造に該当し、図36(a)に示す構造は縦方向に適当な力で締付けられている。
変圧器巻線のコイル60を軸方向に一様なものと近似して分布定数系とみなしたモデルを図39(b)に示す。ここで、Lは巻線の軸方向の長さ、ρは平均の線密度、Eは平均の弾性率、Sはコイルの受圧面積、Tは巻線の締付け力を表す。
(1)横方向の固有振動
両端が固定された弦と仮定して縦方向をx、横方向をyとした座標系で考えることにする(図40参照)。
時刻tにおける座標xの位置の変位をy(x,t)とおく。運動方程式を導くため、図41に示すような微小要素に働く力を考える。
変位があまり大きくないとき、この要素の質量はρdxと近似できる。また、この微小要素に作用する変位方向の力、すなわち復元力は、微小要素の両端に作用する張力である。具体的には、微小要素の左端(座標xの断面)で変位の負の方向にTθ、微小要素の右端(座標x+dxの断面)で変位の正の方向にT{θ+(∂θ/∂x)・dx}である。したがって、運動方程式は次の式(1)で与えられる。
Figure 0007211587000001
さらに、弦の変位と傾きの間には、以下の式(2)で示す関係があるので、式(2)を式(1)に代入して整理すると以下の(3)式が得られる。
Figure 0007211587000002
Figure 0007211587000003
ここで、c=T/ρである。
境界条件をy(0,t)=0、y(L,t)=0とし、初期変位と初期条件をy(x,0)=y0(x)、dy(x,0)/dt=v0(x)と指定する。変数分離法を用い、解y(x,t)をY(x)G(t)と表すと、次の式(4)が得られる。
Figure 0007211587000004
式(4)において、右辺左辺がそれぞれ一定値であると考え、その定数を-ω2とおくと次の(5)式と(6)式が得られる。
Figure 0007211587000005
Figure 0007211587000006
ここで、k=ω/cである。
これら式の一般解はそれぞれ以下の式のようになる。
Y(x)=Acoskx+Bsinkx
G(t)=Ccosωt+Dsinωt
ただし、A、BおよびC、Dは任意定数であって、境界条件と初期条件から決定される。その結果、これを満足するkの値は以下の式(7)となる。
Figure 0007211587000007
従って、n次の固有振動数ωnは次の式(8)のように表すことができる。
Figure 0007211587000008
(2)縦方向の固有振動
両端が固定された棒として縦方向をxとした座標系で考えることにする。時刻tにおける座標xの位置の変位をu(x,t)とおく。運動方程式を導くため、図42に示すような断面積Sの微小要素に働く力を考える。断面に作用する力は断面に垂直方向の応力をσ(x,t)としたときσ(x,t)Sで表され、さらに縦方向の変位とひずみをそれぞれu(x,t)、ε(x,t)、縦弾性係数Eには次の式(9)の関係がある。
Figure 0007211587000009
この微小要素に作用する変位方向の力、すなわち復元力は、微小要素の両端に作用する張力である。具体的には微小要素の左端(座標xの断面)で変位の正の方向にσS、微小要素の右端(座標x+dxの断面)で変位の負の方向にσS+∂(σS)/∂x・dxである。
したがって、微小要素の運動方程式は、棒の線密度をρとして以下の式(10)で示すことができる。
Figure 0007211587000010
棒が均質で断面が一様であると近似すると、上の式(10)は次の式(11)のように書き直すことができる。
Figure 0007211587000011
ここで、c=ES/ρである。
横方向の固有振動で議論した場合と同様な数式が得られたことから、同様な数式の展開により、縦方向の固有振動数は次の式(12)のように表すことができる。
Figure 0007211587000012
変圧器のスペーサーに用いるプレスボードの圧縮ひずみ特性例を図43に示す。
実際には弾性率はひずみに対して一定ではなく、締付け力が大きくなるにつれて大きくなる。このことは、締め付けるほどきつくなり、縮みにくくなる実感と一致している。一般に応力とひずみの関係は次の式(13)で与えられる。
Figure 0007211587000013
よって、等価的な弾性率は以下の式(14)で表される。
Figure 0007211587000014
よって、Tを用いて固有振動数は以下の式(15)で表される。
Figure 0007211587000015
仮にb=1の場合、次の式(16)のように横方向固有振動数の1/√ε倍になる。
Figure 0007211587000016
(3)異常や劣化と固有振動数変動の関係
次に、変圧器の異常や劣化と巻線や鉄心の固有振動数変動の関係について述べる。
始めに巻線スペーサーの劣化と巻線縦方向固有振動数の低下の関係について説明する。
図44はスペーサーの収縮と締付け力の低下と弾性率の低下の関係を示す図である。
巻線の初期締付け力として、巻線に張力Tを与えていたと仮定し、その時の巻線ひずみ量をε、巻線弾性率をEとする。巻線スペーサーに使用されるプレスボードは経年劣化で体積が減少し、厚みが減ることが知られている。
時間tが経過した時点でスペーサーの厚さが減少し、ひずみ量がεtに減少したと仮定する。その時点での締付け力はTtに低下し、弾性率はEtに低下したと仮定する。すると、縦方向固有振動数は次の式(17)のように初期値ω0nからωtnに低下する。
Figure 0007211587000017
よって、スペーサーのプレスボードが劣化すると巻線縦方向固有振動数が低下することが説明された。従って、先に説明した複数の加速度センサを用いて巻線縦方向固有振動数の変化を把握し、未劣化の変圧器の巻線縦方向固有振動数と比較することが、変圧器の内部異常や劣化を把握する上で有用であると判る。
巻線が変形したり、スペーサーが脱落したりすると、締付け力が低下し、弾性率が低下し、巻線縦方向固有振動数が低下する。
また、締付け力が低下すると、縦方向だけでなく横方向の固有振動数も低下することから、縦方向と横方向が複合した高次の固有振動モードの固有振動数も低下すると考えられる。よって、低次の基本振動モードに限らず、妨害振動が少ない測定容易な固有振動モードについて測定、解析すれば変圧器の診断が行えることがわかる。
次に、鉄心について述べる。積層されたケイ素鋼板において、積層方向に圧縮力を加えた時の応力とひずみの関係は、スペーサーのプレスボードの場合と同様に非線形である。
変圧器に設けられている鉄心は、ボルトで締結されており、経年や短絡故障時の電磁力や地震動のためボルトが緩むことが考えられる。鉄心の締付け力低下により弾性率が低下することから、鉄心の締付け力の低下も、鉄心の固有振動数の低下を捉えることで診断できることがわかる。
従って、先に説明した複数の加速度センサを用いて鉄心固有振動数の変化を把握し、未劣化の変圧器の鉄心固有振動数と比較することが、変圧器の内部異常や劣化を把握する上で有用であると判る。
A…診断装置、1…変圧器、2…タンク、2A…側板、2B…底板、2C…天板、
3…コイル体、4…天板、5…鉄心、6…ヨーク部、7…支柱部材、
9…外側コイル(1次コイル)、10…内側コイル(2次コイル)、11…外巻線、
12…絶縁スペーサー、16…内巻線、17…絶縁スペーサー、18…上部絶縁物、
19…下部絶縁物、22…振動検出器(加速度センサ)、23…電圧計、
24、25…増幅器、26…解析器、27…演算装置、28…表示装置、35…支柱部、36…上部側のヨーク部、37…下部側のヨーク部、38…鉄心、41…天板、
45、46…短辺側の側板、47、48…長辺側の側板、50…底板、
S…サンプル変圧器、AE、AE、AE…加速度センサ。

Claims (7)

  1. コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、
    前記タンクを構成する底板と側板と天板に複数の加速度センサを設置し、前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に前記加速度センサにより振動を測定し、
    前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、
    前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、
    前記巻線の振動モードにおいては、
    前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することを特徴とする変圧器内部異常および劣化の診断方法。
  2. 請求項1に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、前記加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して表示装置にアニメーション表示し、この表示内容の把握から、
    前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析することを特徴とする請求項1記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法において、
    前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記底板または天板をハンマリングした結果得られる前記固有周波数における振動ピークを測定することにより、前記変圧器の振動応答を解析することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかにおいて求めた前記縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度を健全な変圧器の縦振動モードの固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
  5. コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、
    前記タンクを構成する底板と側板と天板にそれぞれ複数取り付けられる加速度センサと、
    前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードに特徴的な固有振動を拾い出し、前記巻線の振動モードまたは前記巻線の振動モードに加えて前記鉄心の振動モードの固有振動数の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する演算装置と、
    前記演算装置から送られた信号を基に前記タンクの振動をアニメーション表示する表示装置と、を備え、
    前記演算装置は、所定の周波数帯における前記表示装置の表示内容と、前記底板において前記コイル体の下方位置と前記天板において前記コイル体の上方位置にそれぞれ取り付けた上下の加速度センサの測定情報に基づいて、前記下方位置と前記上方位置の間隔が最も縮む状態と最も伸びる状態を周期的に有する逆位相で前記底板と前記天板が振動する場合の固有振動を前記巻線の縦振動モードと推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に、稼働状態の変圧器の振動応答を解析する機能を、備えたことを特徴とする変圧器内部異常および劣化の診断装置。
  6. 前記演算装置は、前記複数の加速度センサから得られる情報を基に、前記タンクの振動を肉眼で視覚可能となるように時間分割して前記表示装置に送り、
    この表示内容の把握から、前記縦振動モードを推定し、前記縦振動モードから得られる固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度の変化を基に稼働状態の変圧器の振動応答を解析する機能を備えたことを特徴とする請求項5に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置。
  7. 前記縦振動モードの固有振動数を健全な変圧器の縦振動モードの前記固有周波数と該固有周波数に対応する振動強度と比較してその差異により変圧器の内部異常や劣化を診断する機能を備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の変圧器内部異常および劣化の診断装置。
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