以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面においては、同一の符号が付された構成要素は、実質的に同一の構造または機能を有するものとする。また、本発明に係る多段ルーツ式ポンプは、技術的に矛盾しない限りにおいて、後述する第1実施形態およびその変更例、ならびに第2~第9実施形態のうちの少なくとも2以上の態様を組み合わせたものであってもよい。さらに、先行する実施形態で述べた事項は、技術的に矛盾しない限りにおいて、後続する変更例および実施形態にも適宜符号を読み替えて準用される。
[本発明と先行技術との関係]
初めに、図39および40を参照しながら、先行技術に係る配管接続型および直列内装型の多段ルーツ式ポンプの構成および問題点を述べた後に、当該問題点を解決するためになされた本発明に係る多段ルーツ式ポンプの概要を述べる。
(配管接続型多段ルーツ式ポンプ)
図39に示すように、配管接続型の多段ルーツ式ポンプの一例としての外装2段ルーツ式ポンプ50は、2台の単段ルーツ式ポンプ51、52が外部の配管53で直列に接続される構造を有する。
<構成>
単段ルーツ式ポンプ51(以下、単に「単段ポンプ51」と記載する。)は低圧側のポンプであり、単段ルーツ式ポンプ52(以下、単に「単段ポンプ52」と記載する。)は高圧側のポンプである。例えば、外装2段ルーツ式ポンプ50を真空ポンプとして用いる場合、単段ポンプ51は真空側のポンプ、単段ポンプ52は大気圧側のポンプとなる。単段ポンプ51は、圧縮されるガスの吸込口51aを有し、単段ポンプ52は、圧縮されたガスの吐出口52aを有する。また、単段ポンプ51のケーシング内部に設けられたロータ(図示せず)の駆動軸51bの一端がモータ54に接続され、単段ポンプ52のケーシング内部に設けられたロータ(図示せず)の駆動軸52bの一端がモータ54に接続される。
外装2段ルーツ式ポンプ50は、吸込口51aから吸い込まれたガスを1段目の単段ポンプ51で圧縮した後に、配管53を通して圧縮ガスを2段目の単段ポンプ52に移送し、単段ポンプ52で圧縮ガスをさらに大気圧または所望の圧力まで圧縮し、吐出口52aから圧縮ガスを排出する。
<問題点>
外装2段ルーツ式ポンプ50のような配管接続型の多段ルーツ式ポンプは、複数台の単段ルーツ式ポンプ(51、52)が外部の配管(53)で直列に接続される構造であることから、以下の問題を有する。第1に、複数台の単段ルーツ式ポンプ(51、52)分の広い設置面積が必要となる。第2に、ガスが複数台の単段ルーツ式ポンプ(51、52)を接続する配管(53)内を流れる際の圧力損失により、排気性能が低下し、かつ、ポンプ(51、52)を駆動するモータ(54)の消費動力が増加する。第3に、それぞれの単段ルーツ式ポンプ(51、52)において生じるガスの脈動により、2台の単段ルーツ式ポンプ(51、52)を接続する配管(53)の表面から騒音が発生するとともに、配管(53)が振動する。第4に、2台の単段ルーツ式ポンプ(51、52)を駆動する必要があるため、それぞれの単段ルーツ式ポンプ(51、52)の駆動軸(51b、52b)に軸封機構(図示せず)を設ける必要がある。
(直列内装型多段ルーツ式ポンプ)
図40に示すように、直列内装型多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ60は、ケーシング61の内部に、2組のロータ62、63が2本の回転軸64の軸方向に直列に配置される構造を有する。すなわち、直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、2組のロータ62、63は、同軸上に配置される。
<構成>
ケーシング61は、例えば、ロータ62の上方に圧縮されるガスの吸込口61aを有し、ロータ63の下方に圧縮されたガスの吐出口61bを有する。ロータ62、63は、それぞれ、回転軸64に回転可能に支持されており、互いに反対方向に回転する。2本の回転軸64のそれぞれの軸端にはタイミングギヤ65が取り付けられている。タイミングギヤ65の歯数は、2組のロータ62、63が同じ回転速度で回転するように設定される。また、回転軸64の両端部は、それぞれベアリング66A、66Bにより支持されている。回転軸64のタイミングギヤ65と反対側の軸端は、図示しないモータに接続される。
また、内装2段ルーツ式ポンプ60は、ロータ62とロータ63とが同軸上に直列に配置されることから、1段目(低圧側)のロータ62で圧縮されたガスを2段目(高圧側)のロータ63に移送するためのガス流路67を有する。このガス流路67は、ロータ62の下方にロータ62の長手方向に延びた部分と、ロータ62とロータ63とに挟まれた鉛直方向に延びた部分とを有する。ガス流路67の鉛直方向に延びた部分は、ロータ62の端面とガス流路67とを仕切る仕切り板68Aと、ロータ63の端面とガス流路67とを仕切る仕切り板68Bとにより囲まれている。
内装2段ルーツ式ポンプ60は、吸込口61aから吸い込まれたガスを1段目のロータ62で圧縮した後に、ガス流路67を通して圧縮ガスを2段目のロータ63に移送し、ロータ63で圧縮ガスをさらに大気圧または所望の圧力まで圧縮し、吐出口61bから圧縮ガスを排出する。
<問題点>
内装2段ルーツ式ポンプ60のような直列内装型の多段ルーツ式ポンプは、複数段のロータ(62、63)を回転軸(64)の軸方向に沿って直列に配置する構造であることから、以下の問題を有する。第1に、軸方向に直列に配置された前段(低圧側)のロータ(62)から後段(高圧側)のロータ(63)にガスを移送するためのガス流路(67)が必要となる。そのガス流路(67)を設けるためには、各段のロータ(62、63)を含むポンプ作動領域間に仕切り板(68A、68B)を設けるなどしてケーシング(61)をポンプ作動領域の数に分割する必要がある。第2に、直列に配置された複数段のロータ(62、63)の長さの合計以上の回転軸(64)の長さが必要となることため、回転軸(64)が長くなる。例えば、内装2段ルーツ式ポンプ60では、1段目と2段目の間の移動容積比を1.6~1.8程度にする場合、回転軸64の長さは、2段目のロータ63の長さを1とすると、2.6~2.8よりも長い3程度の長さが必要となる。そのため、特に、大型の(ロータ長さが長い)ロータを設ける場合に剛性が低下する。第3に、回転軸(64)を両端で支持するベアリング(66A、66B)が、軸方向に直列に配置された複数のポンプ作動領域を挟むように設けられるため、ベアリング(66A、66B)間の距離が長くなる。ポンプの運転条件により各ポンプ作動領域の吸込圧力と吐出圧力の差圧が大きくなると、この差圧により、軸と直交する方向の大きな荷重が各ポンプ作動領域のロータ(62、63)に負荷される。この場合にベアリング(66A、66B)間の距離が長いと、荷重による回転軸(64)の撓みが大きくなり、ロータ(62、63)の外周面とケーシング(61)の内面との間の僅かなすき間が維持できなくなる。その結果、回転するロータ(62、63)の外周面とケーシング(61)の内面とが接触し、ポンプの作動が停止する。第4に、ガスの圧縮熱により回転軸(64)とロータ(62、63)の温度が上昇すると、回転軸(64)とロータ(62、63)が熱膨張する。このとき、ベアリング(66A、66B)間の距離が長いと、熱膨張により、軸受(66A)と軸受(66B)側のロータ(62、63)の端面位置が大きく変動する。したがって、ポンプの運転中にロータ(62、63)の端面とケーシング(61)の内面との接触を防止するためには、予め大きな熱膨張を見込んでロータ(62、63)とケーシング(61)の内面との間に広いすき間を設定しなければならない。その結果、充分なポンプの排気性能が得られない。第5に、回転軸(64)の長さが長いことから、ロータ(62、63)、ケーシング(61)等の加工および組立が難しくなり、加工精度や組立精度が低下する場合がある。このように、ロータ(62、63)、ケーシング(61)等の加工精度や組立精度が低いことなどにより、各段のポンプ作動領域間で、ロータ(62、63)およびケーシング(61)の位置合わせの精度が低いと、ロータ(62、63)相互間およびロータ(62、63)とケーシング(61)との間のすき間に影響が出る。そのため、ロータ(62、63)、ケーシング(61)等には、高い加工精度および組立精度が求められる。したがって、ロータ(62、63)とケーシング(61)の内面との間のすき間は、加工精度および組立精度の高さに応じて、ある程度余裕を持って広めに設定する必要がある。その結果、上記と同様に充分なポンプの排気性能が得られない。
(本発明の好適な実施形態に係る多段ルーツ式ポンプ)
以上述べた配管接続型および直列内装型の多段ルーツ式ポンプにおける問題点を解決するために、本発明の好適な実施形態に係る多段ルーツ式ポンプは、主に、以下の(A)および(B)の特徴を有している。
(A)複数段(複数組)の圧縮要素(ロータ、回転軸等)を回転軸の軸方向に対して並列に配置すること
(B)並列に配置された複数段(複数組)の圧縮要素のうち、少なくとも1つの隣接する圧縮要素間の移動容積比RQ(下記式(1)を参照)を1より大きくすること
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ただし、式(1)において、QthLは、隣接する2つの圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素の移動容積であり、QthHは、隣接する2つの圧縮要素のうち高圧側の圧縮要素の移動容積である。
本発明の多段ルーツ式ポンプは、以上の特徴を有することにより、上述した配管接続型および直列内装型の多段ルーツ式ポンプと比較して、以下のような利点を有する。
第1に、1つのケーシング内に複数の圧縮要素を並列に配置することで、配管接続型多段ルーツ式ポンプのように、単段ポンプを複数台直列に配置し、各単段ポンプ間を配管で接続する必要がなくなる。したがって、複数の単段ポンプおよび配管を設置するのに必要であったスペースが、ほぼ単段ポンプ1台分のスペースで済むため、設置面積の減少による省スペース化を実現できる。
第2に、配管接続型多段ルーツ式ポンプでは、ケーシングや各機械要素を包含するカバー等の構成部品の数は、ポンプ2台分必要となる。一方、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、1つのケーシング内に複数の圧縮要素が配置されていることから、ケーシングや各機械要素を包含するカバー等の構成部品の数は、ポンプ1台分でよい。その結果、コストも大幅に削減できる。
第3に、配管接続型多段ルーツ式ポンプでは、単段ポンプの台数分だけ軸封機構を設けることが必要になるが、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、ケーシングが1つであるため、多段ポンプであってもポンプ1台分の軸封機構を設けるだけでよい。
第4に、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、複数台の単段ポンプを接続する配管が不要となるため、配管から発生する騒音および振動、ならびにガスが配管を流れる際の圧力損失を低減できる。
第5に、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、1つのケーシング内に複数の圧縮要素を並列に配置することで、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、隣接する圧縮要素間の仕切り板(例えば、上述した仕切り板68A、68B)を設ける必要がなくなる。したがって、本発明によれば、ロータ等の圧縮要素の配置のみにより、ケーシングの内部を複数(圧縮要素の数)のポンプ作動領域に分割できる。
第6に、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、複数の圧縮要素が回転軸の軸方向に対して並列に配置されているため、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、回転軸やケーシングが長くなりすぎることがなく、回転軸が短くなる。したがって、回転軸やケーシングの剛性が低下したりすることはないという利点がある。特に、ポンプを大風量化しようとする場合には、この利点があることで有利となる。すなわち、ポンプの風量はロータの長さに比例することから、大風量化のためにはロータを長くする必要がある。この場合、直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、複数の圧縮要素が同じ回転軸上に直列に配置されているため、回転軸が非常に長くなり、剛性が低下したり、装置の製作が困難になったりする。したがって、直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、大風量化が困難であった。これに対して、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、複数の圧縮要素が回転軸の軸方向に対して並列に配置されているため、ロータの長さを長くしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。
第7に、直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、複数の圧縮要素が同軸上に配置されているため、ケーシングとロータに高い加工精度および組立精度が求められ、ポンプ製作の難易度が上がる。例えば、各段のポンプ作動領域間で、ロータとケーシングの寸法を合わせたり、正確に位置合わせをしたりする必要がある。このような加工精度や組立精度が低くなると、ロータ相互間のすき間、およびロータとケーシング間のすき間を、余裕を持って広めに設定しておかなければならない等の影響が出る。これに対して、本発明の多段ルーツ式ポンプでは、複数の圧縮要素が別軸上に並列に配置されるため、各段のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプの性能上支障がない範囲で収まる。そのため、本発明の多段ルーツ式ポンプには、直列内装型多段ルーツ式ポンプと比較すると、それほど高い加工精度および組立精度は求められない、という利点がある。
<並列内装型多段ルーツ式ポンプ特有の課題とその解決手段の概要>
ここで、本発明者らが、複数段のロータ等の圧縮要素を回転軸の軸方向に対して並列に配置した多段ルーツ式ポンプ(以下、「並列内装型多段ルーツ式ポンプ」と記載する。)についてさらに検討したところ、上述した配管接続型多段ルーツ式ポンプおよび直列内装型多段ルーツ式ポンプと比べ、吐出ガスの温度が著しく上昇することを知見した。これは、前段(低圧側)の圧縮要素で圧縮されて温度が上昇したガスが、放熱されずに後段(高圧側)の圧縮要素に直接吸い込まれ、後段の圧縮要素でさらに圧縮されて温度が上昇するためである。このような温度上昇は、多段ルーツ式ポンプの段数が増えるほどさらに顕著になる。このように、ガスの温度が著しく上昇する場合、この温度上昇によりロータおよびケーシングの熱膨張も大きくなる。そこで、この熱膨張により、ロータとケーシングとの間、または、ロータ相互間で接触することを防止するため、予め後段の圧縮要素におけるロータとケーシングとのすき間およびロータ相互間のすき間を、余裕を持って広めに設定する必要がある。その結果、後段の圧縮要素においてガスの漏れ量、すなわち、高圧側から低圧側に逆流するガスの量が増えるため、体積効率が低下する、という問題があることがわかった。ここで、多段ルーツ式ポンプの「体積効率」とは、多段ルーツ式ポンプの構造から導かれる理論風量に対する実際の風量の比率(実際の風量/理論風量)のことを意味する。
また、後段の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、後段の圧縮要素の吐出側(高圧側)から後段の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が多くなるほど、後段の圧縮要素の吸込圧力が上昇する。後段の圧縮要素の吸込圧力が上昇すると、後段の圧縮要素の吸込圧力(前段の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と前段の圧縮要素の吸込圧力との差圧が大きくなる。その結果、前段の圧縮要素の軸動力も増大してしまう、という問題もあることがわかった。
一方、複数の単段ルーツ式ポンプが配管で接続された配管接続型多段ルーツ式ポンプでは、前段(低圧側)の圧縮要素で圧縮されたガスは、ケーシングの外部に設けられた配管を通って後段(高圧側)の圧縮要素に移送される。また、複数段の圧縮要素を回転軸に沿って直列に配置した直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、前段の圧縮要素で圧縮されたガスは、ケーシング内に設けられたガス流路を通って後段の圧縮要素に移送される。このように、配管接続型多段ルーツ式ポンプおよび直列内装型多段ルーツ式ポンプでは、前段の圧縮要素で圧縮されたガスは、後段の圧縮要素に直接吸い込まれずに、一旦配管やガス流路を通過する。そのため、前段の圧縮要素で圧縮されたガスは、配管やガス流路の通過中などに放熱されるため、複数の圧縮要素を軸方向に対して並列に配置した場合のように、ガスの顕著な温度上昇の問題が生じない。
以上のように、本発明者らは、並列内装型多段ルーツ式ポンプでは、後段の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制する、という新たな課題があることを見出した。この課題は、配管接続型多段ルーツ式ポンプおよび直列内装型多段ルーツ式ポンプなどにおいては生じない、並列内装型多段ルーツ式ポンプ特有の課題である。この課題が解決されれば、ガスの圧縮効率の低下を抑制し、かつ、前段の圧縮要素の軸動力を低下させることも可能となる。
そこで、後述する第1~第5実施形態に係る多段ルーツ式ポンプでは、ケーシング内に封液を供給する封液供給機構を設けることにより、上述した課題を解決している。すなわち、この封液供給機構を設けることにより、ケーシング内に供給された封液を用いて各圧縮要素へ吸い込まれる前のガスを一旦冷却した後に後段の圧縮要素に吸い込ませることができるため、後段の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、第1~第5実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、後段の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
また、後述する第6~第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプでは、第1~第5実施形態における封液供給機構を設けることに加え、後段(高圧側)の圧縮要素に含まれるロータのサイズを前段(低圧側)の圧縮要素に含まれるロータのサイズよりも小さくすることにより、上述した課題を解決している。すなわち、後段のロータのサイズを小さくすることにより、後段のロータ自体の熱膨張を抑制できるため、ロータ相互間およびロータとケーシング間のすき間を予め狭く設定できる。その結果、後段の圧縮要素におけるガスの漏れ量が低減する。したがって、第6~第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、第1~第5実施形態よりも、後段の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制する効果を高めることができる。
以上のように、本発明の第1~第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプには、封液供給機構が設けられており、この封液供給機構によりケーシング内に供給された封液により、ケーシング内のガスが冷却される。すなわち、本発明の第1~第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプは、湿式ポンプの一例である。
以下、上述した課題を解決する本発明の好適な実施形態として、第1~第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの構成、動作および作用効果を述べる。ここで、本明細書において「ポンプ」とは、ブロワ及び真空ポンプを含む概念である。また、ブロワとは、大気圧のガスを吸い込んで大気圧以上の圧力まで圧縮して吐き出す装置であり、真空ポンプとは、大気圧以下の圧力でガスを吸い込んで大気圧まで圧縮して吐き出す装置である。
[第1実施形態]
図1~図5Eを参照しながら、本発明の第1実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図1は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ100(以下、「ポンプ100」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図2、図3および図4は、それぞれ、図1のII-II線、III-III線およびIV-IV線で切断した断面図である。図5A~図5Eは、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによるガスの圧縮方法を示す説明図である。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図1~図4に示すように、ポンプ100は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング110と、2段(2組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング110には、ポンプ100により圧縮されるガスの吸込口111および吐出口113が設けられている。本実施形態では、吸込口111は、ケーシング110の鉛直方向上部に、吐出口113は、ケーシング110の鉛直方向下部に設けられている。すなわち、ポンプ100は、下部垂直吐出しの形式である。このような場合のみならず、吸込口111および吐出口113は、吸込口111から導入されたガスが、1段目の圧縮要素および2段目の圧縮要素で圧縮された後に吐出口113から排出されるような位置に設けられていればよい。例えば、吸込口111がケーシング110の鉛直方向の上部、吐出口113がケーシング110の側面に設けられていてもよい(下部水平吐出し方式であってもよい)。また、ポンプ100は立て形のポンプであるが、後述する第3変更例のように、横形のポンプを用い、当該ポンプにおいて吸込口および吐出口がケーシングの側面に設けられていてもよい。
また、詳しくは後述するように、ケーシング110は、同じ段の圧縮要素が有する2本の回転軸122、122を含む仮想平面または2本の回転軸132、132を含む仮想平面の法線方向に沿って、2段の圧縮要素が並列配置されるように圧縮要素を収容する。このように、本実施形態では、回転軸122、132の軸方向に対して並列に配置された複数段の圧縮要素が単一のケーシング110に内装されており、各圧縮要素を接続する外部の配管や内部のガス流路などは特に設けられていない。そのため、前段(本実施形態では1段目)の圧縮要素で圧縮されて吐き出されたガスは、後段(本実施形態では2段目)の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれる。
ケーシング110の素材は、ケーシング110が十分な強度と剛性を有するようなものであれば特に制限はされないが、例えば、鋳鉄(FC)、ダクタイル鋳鉄(FCD)、機械構造用炭素鋼鋼材(SC)などが使用できる。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング110内に、吸込口111側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口113側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、上述した直列内装型多段ルーツ式ポンプ(図40を参照)のように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング110内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ121、121と、2本の回転軸122、122とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ131、131と、2本の回転軸132、132とを有する。
図2に示すように、ロータ121は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部121a、121b、121cを有する形状である。また、各突出部121a、121b、121cの間には、凹部121dが設けられている。同様に、ロータ131も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部131a、131b、131cを有する形状である。また、各突出部131a、131b、131cの間には、凹部131dが設けられている。
1対のロータ121、121は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸122、122は、1対のロータ121、121を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸122、122は、2つのベアリング123A、123Bにより支持されている。同様に、1対のロータ131、131は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸132、132は、1対のロータ131、131を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸132、132は、2つのベアリング133A、133Bにより支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸122と回転軸132とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ131について、ロータ121と重複する説明を省略し、ロータ121の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ121、121同士およびロータ121とケーシング110の内面110aとが接触しないように、各々のロータ121、121同士の間および突出部121a、121b、121cの先端(葉端)とケーシング110の内面110aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ121が配置される。このすき間は、必要な圧縮比に応じて、ケーシング110とロータ121の2片の突出部により囲まれた空間の十分な密閉性が保たれるように設定すればよいが、可能な限り小さいことが好ましい。具体的には、上記のすき間は、例えば、3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。以下、この十分な密閉性が保たれたわずかなすき間を有する状態を「シール」された状態と称することとする。各々のロータ121、121は、後述するタイミングギヤ161A、161Bにより回転位相が維持されており、ロータ121の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。したがって、ロータの回転の高速化が図れ、摩耗がないため内部潤滑も不要となる。同様に、ロータ131は、対となるロータ131およびケーシング110の内面110dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ131、131は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。
ここで、1対のロータ121、121の突出部121a、121b、121cのそれぞれが、該ロータ121を支持する回転軸122の中心を回転中心として、回転角度が115度以上の範囲で、ケーシング110aの内面との間でシールされた状態を保つことが好ましい。そのためには、ケーシング110の1段目(低圧側)の内面110aの吸込口111側の端部110bおよびロータ121の回転中心を結ぶ線分と、内面110aの2段目(高圧側)の圧縮要素側の端部110cおよびロータ121の回転中心とを結ぶ線分とのなす角θが、115度以上の範囲となるようにケーシング110の形状を設定すればよい。このことは、1対のロータ131、131についても同様であり、ケーシング110の2段目の内面110dの1段目の圧縮要素側の端部110eおよびロータ131の回転中心を結ぶ線分と、内面110aの吐出口113側の端部110fおよびロータ131の回転中心とを結ぶ線分とのなす角θが、115度以上の範囲となるようにケーシング110の形状を設定することが好ましい。これにより、ロータ121、131により圧縮されたガスが、吸込口111側に逆流することを防止でき、その結果、十分にシールされた状態が保たれる。角θが115度以上の範囲となるように設定されることが好ましい点については、後述する各実施形態でも同様である。
ポンプ100では、1段目の圧縮要素であるロータ121、回転軸122等と、2段目の圧縮要素であるロータ131、回転軸132等とは、単一のケーシング110内において、同じ段の2本の回転軸122、122(または2本の回転軸132、132)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ121と2段目のロータ131とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口111、1段目のロータ121、2段目のロータ131および吐出口113が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口111からケーシング110内に導入されると(図2の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ121により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図2の矢印Gm)。ロータ121により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ131により圧縮された後に、そのまま吐出口113からケーシング110外に排出される(図2の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ100によれば、単一のケーシング110内において、1段目のロータ121と2段目のロータ131とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ121)と2段目の圧縮要素(ロータ131)との間に仕切りを設けなくても、ロータ121、131の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ100では、ロータ121とロータ131とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸122、132やケーシング110の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ100を大風量化するためにロータ121、131の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ100の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
また、後述するように、1段目のロータ121の長さL1と、2段目のロータ131の長さL2とが同じ長さ(L1=L2)にできる。したがって、本実施形態のポンプ100によれば、1段目のロータ121と2段目のロータ131に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるので、部品の種類が減らせるとともに、同じロータを使用できることから組立が容易になるというメリットがある。その結果、生産効率の向上やコストの削減につながる。
なお、ロータ121、131の素材としては、高精度の加工が容易なものが好適であり、例えば、鋳鉄(FC)、ダクタイル鋳鉄(FCD)などが使用できる。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ100では、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ121)と2段目の圧縮要素(ロータ131)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ただし、式(1)において、QthLは、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素(本実施形態では1段目の圧縮要素)の移動容積であり、QthHは、高圧側の圧縮要素(本実施形態では2段目の圧縮要素)の移動容積である。
ここで、再び図1および図2を参照しながら、移動容積比RQの詳細を述べる。まず、本実施形態における移動容積(Displacement)Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング110とロータ121またはロータ131とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。なお、JIS B0132:2005によれば、押しのけ量とは、圧縮要素(本実施形態では、ロータ121、131)によって押しのけられる単位時間当たりの容積のことである。また、圧縮要素(本実施形態では、ロータ121、131)によって押しのけられる1回転当たりの容積を、押しのけ容積Vthともいう。すなわち、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さである。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸122、132に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ100における移動容積比RQは、以下のようにして計算される。まず、1段目のロータ121を例に挙げると、左右1対のロータ121、121が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが6回(左側のロータ121と右側のロータ121とで、それぞれ3回ずつ)繰り返される。2段目のロータ131についても同様である。ここで、図2に示すように、ロータ121の2片の突出部(例えば、突出部121aと突出部121b)とケーシング110の内面110aとで囲まれる空間の回転軸122に垂直な断面の断面積をS1とすると、1段目(低圧側)の圧縮要素の移動面積A1は、A1=6×S1となる。同様に、ロータ131の2片の突出部(例えば、突出部131bと突出部131c)とケーシング110の内面110dとで囲まれる空間の回転軸132に垂直な断面の断面積をS2とすると、2段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=6×S2となる。以上より、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、N1は1段目のロータ121の回転数、N2は2段目のロータ131の回転数を表す。ここで、ロータ121とロータ131の直径および形状は同一である。したがって、1段目の移動面積A1と2段目の移動面積A2は等しい。また、図1に示すように、ロータ121の長さL1とロータ131の長さL2は等しい。よって、上記式(3)は、以下の式(3-1)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を1より大きくするためには、1段目のロータ121の回転数N1を2段目のロータ131の回転数N2よりも高くすればよい(N1>N2)。このように、本実施形態では、1段目の圧縮要素の回転数N1と2段目の圧縮要素の回転数N2の回転数比(N1/N2)により、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2が決定される。これにより、1段目のロータ121の長さL1と2段目のロータ131の長さL2とを同一にできるので、1段目のロータ121と2段目のロータ131とをポンプ100の部品として共通化できる。その結果、部品の種類が減らせるので、生産効率の向上やコストの削減につながる。また、通常は、50Hz対応のモータと60Hz対応のモータとでは、異なる性能を有するポンプを用いることが必要となるが、本実施形態のポンプ100によれば、駆動ギヤ165および駆動ギヤ166の減速比を変えることで、50Hz対応のモータと60Hz対応のモータの両方に共通して用いることができる。さらに、駆動ギヤ165および駆動ギヤ166の減速比を変え、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の回転数比を調整することで、移動容積比RQ1-2が変わるので、ポンプ100の風量が容易に調整できる。
一方、配管接続型2段ルーツ式ポンプにおいて移動容積比を1以上にしたい場合には、ロータ長さが異なる2つの単段のポンプを直列に配置することになる。そのため、装置が非常に大型化してしまう。また、直列内装型2段ルーツ式ポンプにおいて移動容積比を1以上にしたい場合には、回転数比を変えることができないので、長さが異なる2組のロータを同軸上に直列に配置することになる。そのため、ロータの回転軸が非常に長くなってしまう。本実施形態のポンプ100によれば、これらの問題点も解決できる。
一般に、単段ルーツ式ポンプでは、その軸動力は、吸込口と吐出口における圧力差とその移動容積で決まる。詳細には、単段ルーツ式ポンプの理論軸動力Lth(s)は、以下の式(4-1)に示すように、単段ルーツ式ポンプの移動容積Qthsと、吐出圧力Psと吸込圧力Pdの差ΔP(ΔP=Pd-Ps)との積となる。したがって、単段ルーツ式ポンプでは、吐出圧力と吸込圧力の差(ΔP)を一定とすると、移動容積(Qths)に比例した軸動力が必要となる。
Lth(s)=Qths×ΔP ・・・(4-1)
一方、多段ルーツ式ポンプの軸動力Lth(m)は、以下の式(4-2)に示すように、多段ルーツ式ポンプの段数iをn段とすると、各段における吐出圧力と吸込圧力の差ΔPiと移動容積Qthiとの積の総和となる。
例えば、2段ルーツ式ポンプの理論駆動力Lth(2)は、以下の式(4-3)で表される。ただし、Lth1およびLth2は、それぞれ、式(4-4)および式(4-5)で表される。
Lth(2)=Lth1+Lth2 ・・・(4-3)
Lth1=Qth1×ΔP1 ・・・(4-4)
Lth2=Qth2×ΔP2 ・・・(4-5)
ただし、式(4-3)、(4-4)および(4-5)において、Lth1は1段目のポンプの理論動力、Lth2は2段目のポンプの理論動力、Qth1は1段目のポンプの移動容積、Qth2は2段目のポンプの移動容積、ΔP1は2段目の吸込圧力Ps2(2段目の吸込圧力Ps2は、1段目の吐出圧力と等しい。)と1段目の吸込圧力Ps1との差(ΔP1=Ps2-Ps1)、ΔP2は吐出圧力Pdと2段目の吸込圧力Ps2との差(ΔP2=Pd-Ps2)である。
ここで、2段ルーツ式ポンプの排気性能を単段ルーツ式ポンプの排気性能と同じ性能にする場合、単段ルーツ式ポンプの吸込圧力Psと2段ルーツ式ポンプの1段目の吸込圧力Ps1とは等しいことから、Pd-Ps=(Pd-Ps2)+(Ps2-Ps1)となり、以下の式(4-6)の関係が成り立つ。すなわち、吐出圧力Pdと吸込圧力Psとの差ΔPが、ΔP1とΔP2の合計となる。したがって、2段ルーツ式ポンプでは、単段ルーツ式ポンプの昇圧分(ΔP)を、1段目のポンプの昇圧分(ΔP1)と2段目のポンプの昇圧分(ΔP2)とで分担して昇圧できる。
ΔP=ΔP1+ΔP2 ・・・(4-6)
また、2段ルーツ式ポンプの排気性能を単段ルーツ式ポンプの排気性能と同じ性能にする場合、以下の式(4-7)の関係を満たす。
Qths=Qth1 ・・・(4-7)
このとき、1段目と2段目の移動容積比RQ1-2(=Qth1/Qth2)が1より大きいと、すなわち、2段目の移動容積Qth2が1段目の移動容積Qth1よりも小さいと、上述の通り、軸動力は移動容積に比例するため、小さくなった移動容積分に比例して軸動力を低減できる。具体的には、移動容積比RQ1-2が1より大きい2段ルーツ式ポンプは、1段目の移動容積Qth1と2段目の移動容積Qth2の差ΔQth1-2(=Qth1-Qth2)とΔP2との積(ΔQth1-2×ΔP2)の分だけ、同じ排気性能の単段ルーツ式ポンプよりも軸動力を低減できる。
同様に、例えば、3段ルーツ式ポンプの理論駆動力Lth(3)は、以下の式(4-8)で表される。ただし、Lth1、Lth2およびLth3は、それぞれ、式(4-9)、式(4-10)および式(4-11)で表される。
Lth(3)=Lth1+Lth2+Lth3 ・・・(4-8)
Lth1=Qth1×ΔP1 ・・・(4-9)
Lth2=Qth2×ΔP2 ・・・(4-10)
Lth3=Qth3×ΔP3 ・・・(4-11)
ただし、式(4-8)、(4-9)、(4-10)および(4-11)において、Lth1は1段目のポンプの理論動力、Lth2は2段目のポンプの理論動力、Lth3は3段目のポンプの理論動力、Qth1は1段目のポンプの移動容積、Qth2は2段目のポンプの移動容積、Qth3は3段目のポンプの移動容積、ΔP1は2段目の吸込圧力Ps2(2段目の吸込圧力Ps2は、1段目の吐出圧力と等しい。)と1段目の吸込圧力Ps1との差(ΔP1=Ps2-Ps1)、ΔP2は3段目の吸込圧力Ps3(3段目の吸込圧力Ps3は、2段目の吐出圧力と等しい。)と2段目の吸込圧力Ps2との差(ΔP2=Ps3-Ps2)、ΔP3は吐出圧力Pdと3段目の吸込圧力Ps3との差(ΔP3=Pd-Ps3)である。
ここで、3段ルーツ式ポンプの排気性能を単段ルーツ式ポンプの排気性能と同じ性能にする場合、単段ルーツ式ポンプの吸込圧力Psと2段ルーツ式ポンプの1段目の吸込圧力Ps1とは等しいことから、2段ルーツ式ポンプの場合と同様に、以下の式(4-12)の関係が成り立つ。すなわち、吐出圧力Pdと吸込圧力Psとの差ΔPが、ΔP1とΔP2とΔP3の合計となる。したがって、3段ルーツ式ポンプでは、単段ルーツ式ポンプの昇圧分(ΔP)を、1段目のポンプの昇圧分(ΔP1)と2段目のポンプの昇圧分(ΔP2)と3段目のポンプの昇圧分(ΔP3)とで分担して昇圧できる。
ΔP=ΔP1+ΔP2+ΔP3 ・・・(4-12)
また、3段ルーツ式ポンプの排気性能を単段ルーツ式ポンプの排気性能と同じ性能にする場合、2段ルーツ式ポンプの場合と同様に、以下の式(4-7)の関係を満たす。
Qths=Qth1 ・・・(4-7)
このとき、1段目と2段目の移動容積比RQ1-2(=Qth1/Qth2)が1より大きく、かつ、2段目と3段目の移動容積比RQ2-3(=Qth2/Qth3)が1より大きいと、すなわち、2段目の移動容積Qth2が1段目の移動容積Qth1よりも小さく、かつ、3段目の移動容積Qth3が2段目の移動容積Qth2よりも小さいと、上述の通り、軸動力は移動容積に比例するため、小さくなった移動容積分に比例して軸動力を低減できる。具体的には、移動容積比RQ1-2が1より大きく、かつ、移動容積比RQ2-3が1より大きい3段ルーツ式ポンプは、1段目の移動容積Qth1と2段目の移動容積Qth2の差ΔQth1-2(=Qth1-Qth2)とΔP2との積(ΔQth1-2×ΔP2)に加え、2段目の移動容積Qth2と3段目の移動容積Qth3の差ΔQth2-3(=Qth2-Qth3)とΔP3との積(ΔQth2-3×ΔP3)の分だけ、同じ排気性能の単段ルーツ式ポンプよりも軸動力を低減できる。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ100の駆動軸167の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図1、図3および図4に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ161(161A、161B)と、1対の第2タイミングギヤ162(162A、162B)と、第1駆動ギヤ165と、第2駆動ギヤ166と、モータ入力軸である単一の駆動軸167と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ161A、161Bは、1段目の2本の回転軸122の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ121、121の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ162A、162Bは、2段目の2本の回転軸132の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ131、131の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
ここで、1対のロータ121、121(または1対のロータ131、131)の回転位相がずれると、1対のロータ121、121(または1対のロータ131、131)同士が接触してしまうおそれがある。そのため、第1タイミングギヤ161および第2タイミングギヤ162の素材としては、例えば、クロムモリブデン鋼などのような強度および硬度に優れる材料を使用することが好ましい。また、クロムモリブデン鋼を使用して所望のタイミングギヤの形状に加工した後に、浸炭焼入れと研磨仕上げを施して、第1タイミングギヤ161および第2タイミングギヤ162の耐久性を向上させることがより好ましい。
また、第1駆動ギヤ165は、1対の第1タイミングギヤ161のうちの一方の第1タイミングギヤ161Aと噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ166は、1対の第2タイミングギヤ162のうちの一方の第2タイミングギヤ162Aと噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸167は、第1駆動ギヤ165と第2駆動ギヤ166とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ165と第2駆動ギヤ166とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。この駆動軸167は、後述するサイドカバー180に設けられたベアリング168Aと、ベアリング・ギヤ室173に設けられたベアリング168Bとにより支持されている。また、駆動軸167のベアリング168B側の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、ロータ121の長さL1とロータ131の長さL2とが同じである。したがって、上述した移動容積比を1より大きくする(RQ>1とする)ためには、1段目のロータ121の回転数を2段目のロータ131の回転数より高くする必要がある。言い換えると、1段目のロータ121の回転速度を2段目のロータ131の回転速度より速くする必要がある。そこで、ポンプ100では、1段目のロータ121の回転数が2段目のロータ131の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ165および第2駆動ギヤ166の歯数が設定される。例えば、駆動軸167の回転速度から回転軸122、132の回転速度を減速させる場合には、第1駆動ギヤ165の減速比が第2駆動ギヤ166の減速比よりも小さくなるように、第1駆動ギヤ165および第2駆動ギヤ166の歯数を設定すればよい。ここでの「減速比」とは、互いに噛み合う駆動ギヤとタイミングギヤとの歯数の比率(=タイミングギヤの歯数/駆動ギヤの歯数)のことである。この場合、第1タイミングギヤ161と第2タイミングギヤ162の歯数が同じであるとすると、第1駆動ギヤ165の歯数を第2駆動ギヤ166の歯数よりも多くすればよい。各駆動ギヤ165、166の減速比をどの程度とするかは、所望の移動容積比RQが得られるように適宜決定すればよい。一方、駆動軸167の回転速度から回転軸122、132の回転速度を増速させる場合や同等の場合であっても、1段目のロータ121の回転数が、2段目のロータ131の回転数よりも高くなるように、第1駆動ギヤ165および第2駆動ギヤ166の歯数が設定されれば差し支えない。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ100を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング110が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口115をさらに有してもよい。図2に示した例では、中間吐出口115をケーシング110の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口115の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図2に示した断面において、ケーシング110の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口115が設けられていてもよい。
中間吐出口115は、真空ポンプとして使用されるポンプ100の軸動力を低減するために設けられるが、まず、軸動力について説明する。上述したように、1段目の軸動力Lth1は、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口111から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1(ΔP1=Ps2-Ps1)と1段目の移動容積Qth1との積となる(Lth1=ΔP1×Qth1)。2段目の軸動力Lth2も同様に、吐出圧力Pdと2段目の吸込圧力Ps2との差ΔP2(ΔP2=Pd-Ps2)と2段目の移動容積Qth2との積となる(Lth2=ΔP2×Qth2)。ΔP1、ΔP2が大きいほど、また、移動容積Qth1、Qth2が大きいほど、軸動力Lth1、Lth2が大きくなるため、大きな動力のモータが必要となる。
次に、中間吐出口115について説明する。中間吐出口115は、1段目の圧縮要素の吐出側と2段目の圧縮要素の吸込側の中間位置に設けられる。この中間位置の圧力(中間圧力Pm)は、1段目の圧縮要素(ロータ121)からの吐出圧力と等しく、また、この圧力は、2段目の圧縮要素(ロータ131)への吸込圧力とも等しい。
真空ポンプの場合、吸込口111から吸い込んだガスは、吐出口113で大気圧まで圧縮される。言い換えると大気圧までの圧縮で十分であるが、1段目の吸込圧力が高くなると、2段目の吸込圧力(1段目の吐出圧力、中間圧力とも等しい。)が大気圧以上に昇圧されることがある。上述の通り、1段目の軸動力Lth1は、ΔP1(ΔP1=Ps2-Ps1)と1段目の移動容積Qth1との積となる(Lth1=ΔP1×Qth1)ため、ΔP1が著しく上昇し、軸動力が増大してしまう。これは、1段目の吸込圧力、2段目の吸込圧力ともに大気圧の状態から排気が始まるポンプ起動時にも顕著である。したがって、モータの動力を低減するためには、ΔP1をできるだけ小さくすることが好ましい。
そこで、1段目と2段目の間の中間位置に、外部の大気と連通した中間吐出口115を設けることで、中間圧力Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口115から、より圧力の低い大気に排出され(図2の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ131)への吸込圧力が小さくなるため、ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ100を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ100の起動時は、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素ともに大気圧の状態から排気が開始される。したがって、ポンプ100が吸込口111に向けてガスを引き始めた段階では、2段目の吸込圧力が大気圧の状態で1段目の圧縮要素からも大気圧のガスが移送されると、中間圧力Pmは、大気圧と移動容積比RQとの積まで上昇する。このように、ポンプ100がガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
なお、中間吐出口115を設ける場合には、中間吐出口115には逆止弁(図示せず。)を設ける必要がある。逆止弁を設けることにより、中間圧力Pmが大気圧以下の場合には、大気圧からの差圧により逆止弁が閉じ、中間圧力Pmが大気圧以上の場合には、逆止弁が開き、より圧力の低い大気に排気される。
<封液供給機構>
封液供給機構は、ケーシング110内に封液を供給する機構であり、この封液供給機構として、ポンプ100には、図1および図2に示すように、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口112、114と、第2封液供給口116(116A、116B)とが設けられている。封液供給機構により供給される封液としては、水、その他のプロセス流体が用いられる。なお、本明細書および図面において、封液として水が用いられる場合、当該封液を「封水」と記載することとする。
仕切弁1は、ポンプ100の外部に設けられた封液供給装置(図示せず。)からの封液の供給量を調節するために用いられる。図1および図2には、仕切弁1として、手動のものが例示されているが、自動の仕切弁であってもよい。仕切弁1が全閉の場合には、封液供給装置からケーシング110内への封液の供給が遮断され、仕切弁1が一部開放の場合には、封液供給装置からケーシング110内への封液の供給が調節され、仕切弁1が全開の場合には、封液供給装置からケーシング110内へ最大流量で封液が供給される(封液の供給が制限されない)。仕切弁1の開度は、各圧縮要素に吸い込まれるガスを十分に冷却するのに必要な封液の流量となるように調節される。封液の量が多くなるほど、ポンプ100の動力が大きくなるため、ポンプ100の大きさ(移動容積)を考慮し、ガスが十分に冷却され、かつ、ポンプ100の動力が過度に大きくならない適切な流量になるように封液の供給量を調節することが好ましい。
流量計3は、封液供給装置からケーシング110内へ供給する封液の流量を計測する計器である。流量計3の種類としては特に制限されず、例えば、電磁式流量計、カルマン渦式流量計、羽根車式流量計、浮き子式流量計、熱式流量計、ダイヤフラム式流量計、超音波式流量計、コリオリ式流量計等、公知の流量計が用いられる。この流量計3により測定された流量に基づき、仕切弁1の開度が調節される。
第1封液供給口112、114は、ポンプ100の1段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置に封液を供給するための封液の導入口である。第1封液供給口112は、ポンプ100の吸込口111に接続された配管111aに設けられる。この第1封液供給口112からケーシング110内に封液を導入する場合、封液は、吸込口111の直上からロータ121の中央部付近に向けて供給される。また、第1封液供給口114は、図1に示すように、ケーシング110におけるロータ121の端部付近の上部に設けられる。この第1封液供給口114からケーシング110内に封液を導入する場合、封液は、ロータ121の上部からロータ121の端部付近に向けて供給される。
なお、第1封液供給口114は、必ずしも設けられる必要はないが、ロータ121の長さが長い場合には、1段目の圧縮要素に吸い込まれるガスを均一に冷却するため、第1封液供給口114を設けることが好ましい。また、1段目の圧縮要素に吸い込まれるガスを均一に冷却するためには、ロータ121の両端付近の上部にそれぞれ第1封液供給口114を設けることが好ましいが、ロータ121の一端側のみに第1封液供給口114を設けてもよい。
第2封液供給口116は、ポンプ100の2段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第2封液供給口116は、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられる。図2に示した例では、第2封液供給口116をケーシング110の両側面に1箇所ずつ(右側面に設けられた第2封液供給口116Aと、左側面に設けられた第2封液供給口116Bの合計2箇所)設けた例が示されているが、第2封液供給口116の数は特に制限されず、必ずしもケーシング110の両側面に設ける必要はない。例えば、図2に示した断面において、ケーシング110の左側面また右側面のみに1箇所のみ設けられてもよい。ケーシング110に設けられる第2封液供給口116の個数、または、ケーシング110内の中間位置(2段目の圧縮要素の吸込位置)に封液を供給するために用いられる第2封液供給口116の個数は、上述したように、ポンプ100の大きさ(移動容積)を考慮して決定される。すなわち、封液の供給量が、各圧縮要素に吸い込まれる直前のガスが十分に冷却され、かつ、ポンプ100の動力が過度に大きくならない適切な流量になるように、上記第2封液供給口116の個数を決定すればよい。
上述した構成を有する本実施形態の封液供給機構を設けることにより、1段目および2段目の圧縮要素へ吸い込まれるガスの温度が低下する。言い換えると、ケーシング110内に供給された封液を用いて各圧縮要素へ吸い込まれる前のガスを一旦冷却した後に後段の圧縮要素に吸い込ませることができることから、2段目のロータ131およびケーシング110の熱膨張も小さくなる。したがって、2段目の圧縮要素におけるロータ131とケーシング110とのすき間およびロータ131相互間のすき間を狭く設定できる。その結果、2段目の圧縮要素においてガスの漏れ量、すなわち、高圧側から低圧側に逆流するガスの量が少なくなるため、体積効率が向上する。
また、2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、2段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から2段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、2段目の圧縮要素の吸込圧力(1段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と1段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、1段目の圧縮要素の軸動力を小さくすることができる。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ100は、ケーシング110とベアリング・ギヤ室173との間、および、ケーシング110とベアリング室174との間に、中間室として、サイドカバー180を有している。図1に示すように、サイドカバー180には、シール機構Sb、Scが設けられているため、第1タイミングギヤ161、第2タイミングギヤ162、第1駆動ギヤ165、第2駆動ギヤ166、ベアリング123A、123B、133A、133Bの潤滑油がケーシング110内へ漏れ込むことがなく、また、ケーシング110内に吸い込まれたガスに含まれるドレンなどで潤滑油が劣化することを防止できる。なお、第1タイミングギヤ161、第2タイミングギヤ162、第1駆動ギヤ165、第2駆動ギヤ166、ベアリング123A、123B、133A、133Bの潤滑方法としては、例えば、ハネカケ潤滑を使用できるが、特に制限されるものではない。
また、上述したサイドカバー180に設けられたシール機構の他に、図1に示すように、駆動軸167がベアリング・ギヤ室173を貫通する箇所に、軸封機構Saが設けられている。本実施形態のポンプ100では、単一のケーシング110内に2段の圧縮要素が単一の段群として設けられているため、配管接続型多段ルーツ式ポンプと異なり、駆動軸167の軸封機構の設置箇所が1箇所で済む。なお、シール機構Sb、Scおよび軸封機構Saのシール方法としては、特に制限されず、ポンプ100により圧縮するガスの種類に応じて適宜選択すればよい。具体的には、シール機構Sb、Scおよび軸封機構Saとして、オイルシール、ラビリンスシール、メカニカルシール(シングルメカニカルシール、ダブルメカニカルシール)などを単独で、または組み合わせて用いることができる。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、図1~図5Eを参照しながら、上述した構成を有するポンプ100の駆動方法、ならびにポンプ100によるガスの圧縮方法およびガスの冷却方法を述べる。
<ポンプの駆動方法>
図1~図4に示すように、図示しないモータにより駆動軸167が回転すると、駆動軸167に支持された第1駆動ギヤ165および第2駆動ギヤ166が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ161A、161Bのうち、第1駆動ギヤ165と噛み合う一方の第1タイミングギヤ161Aが、第1駆動ギヤ165とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ161Aの回転数は、第1駆動ギヤ165の回転数から、第1駆動ギヤ165の歯数と第1タイミングギヤ161Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ161Aの歯数/第1駆動ギヤ165の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ161Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ161Bは、第1タイミングギヤ161Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ161Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ121、121は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ121、121の回転により、吸込口111付近のガスが、吸込口111からケーシング110内に吸い込まれた(図2の矢印Gs)後に、ロータ121により圧縮されて中間位置に吐き出される(図2の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ162A、162Bのうち、第2駆動ギヤ166と噛み合う一方の第2タイミングギヤ162Aが、第2駆動ギヤ166とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ162Aの回転数は、第2駆動ギヤ166の回転数から、第2駆動ギヤ166の歯数と第2タイミングギヤ162Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ162Aの歯数/第2駆動ギヤ166の歯数)で減速された回転数となる。また、第2タイミングギヤ162Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ162Bは、第2タイミングギヤ162Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ162Aと互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ131、131は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ131、131の回転により、1段目のロータ121により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ131に掻き込まれた(図2の矢印Gm)後に、ロータ131により圧縮されて吐出口113から外部に排出される(図2の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口115から、より圧力の低い大気に排出され(図2の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ131)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口111から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ100を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ100が吸込口111に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口112、114を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口116を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ161Aとの間の第1駆動ギヤ165の減速比が、第2タイミングギヤ162Aとの間の第2駆動ギヤ166の減速比よりも小さくなっている。したがって、ロータ121の回転数N1がロータ131の回転数N2よりも高くなる。また、ロータ121の長さL1とロータ131の長さL2が等しく、ロータ121とロータ131の形状が同じであることから、上述したように、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素との間の移動容積比RQは、1より大きくなる。
<ガスの圧縮方法>
次に、図5A~図5Eを参照しながら、ポンプ100によるガスの圧縮方法を述べる。なお、図5A~図5Eにおいて、粗いドットハッチングは、圧力の低い部分(低圧部)を示し、細かいドットハッチングは、圧力の高い部分(高圧部)を示している。また、ガスの圧縮方法については、ポンプ100の2段の圧縮要素のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素を例に挙げて説明する。
上述したように、ケーシング110の内部で、1対のロータ121および1対のロータ131が、ケーシング110の内面110aとの間、ロータ121相互間およびロータ131相互間に僅かなすき間を保って互いに反対方向に回転する。このとき、1つのロータ121(例えば、図示した例では、左側のロータ121)の突出部121aの先端(以下、「葉端121a」と記載する。)が吸込口111を通過する際、ケーシング110との間で捕捉した一定量の低圧ガスを吸込口111側から吐出口113側までに移送し、高圧側へ押し込む形で吐出する。
詳細には、まず、図5Aに示すように、1つのロータ121の葉端121aが吸込口111を通過する。このとき、突出部121bの先端(以下、「葉端121b」と記載する。)は、内面110aとシールされた状態にある。その後、図5Bに示すように、葉端121aと、内面110aの吸込口111側の端部110bとがシールされた状態となる際に、葉端121aと葉端121bと内面110aで囲まれた容積Vの低圧ガスが捕捉される。さらに、図5Cに示すように、葉端121aおよび葉端121bと、内面110aとがシールされた状態を保ちながら、容積Vの低圧ガスが吐出口113側へ向けて移送される。次いで、図5Dに示すように、容積Vの低圧ガスが捕捉された状態を保ったまま、葉端121bが、内面110aの2段目の圧縮要素側の端部110cに到達し、図5Eに示すように、葉端121bがそこからさらに回転し、2段目の圧縮要素側の中間位置に到達した瞬間、吐出側の中間圧(低圧ガスよりも高い圧力)のガスが1段目のポンプ作動領域内に逆流し、低圧ガスが背圧を受けて圧縮される。
その後、図示してはいないが、2段目の圧縮要素においても、1段目と同様にして、ロータ121から吐き出されたガスが、ロータ131の2つの葉端とケーシング110の内面110dとにより囲まれた容積Vでロータ131に捕捉され、吐出口113側まで移送された後に、吐出側の高圧ガスの逆流により圧縮(逆流圧縮)され、吐出口113からケーシング110の外部に排出される。
なお、上記のように、吐出側の高圧ガスの逆流により、吸込側の低圧ガスが逆流圧縮される際、急激な圧力変化が生じる。この圧力変化により、ポンプ100から騒音が発生する。これに対して、本実施形態では、ロータ121、131として、三葉ロータを用いていることから、後述する二葉ロータの場合と比較して、上記の圧力変化が起こる周期が2/3となり、また、圧力ピークの最大値も減少する。その結果、ポンプ100によるガスの逆流圧縮が滑らかに行われ、騒音を低減できる。
(第1変更例)
次に、図6を参照しながら、本実施形態のロータ121、131の形状を変更した第1変更例について述べる。本変更例に係る多段ルーツ式ポンプ101(以下、「ポンプ101」と記載する。)は、上述した第1実施形態に係るポンプ100とは、ロータの形状のみが異なる変更例である。本変更例は、後述する第2~第9実施形態の変更例としても適用できる。
図6に示すように、ポンプ101は、1段目および2段目の圧縮要素として、それぞれ、1対のロータ141、151と、2本の回転軸142、152とを有する。
<ロータ141、151>
ロータ141は、二葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した2片の突出部141a、141bを有する所謂まゆ形の断面形状である。また、各突出部141a、141bの間には、凹部141dが設けられている。同様に、ロータ151も、二葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した2片の突出部151a、151bを有する所謂まゆ形の断面形状である。また、各突出部151a、151bの間には、凹部151dが設けられている。なお、以下、必要に応じて、ロータ151について、ロータ141と重複する説明を省略し、ロータ141の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ141、141同士およびロータ141とケーシング110の内面110aとが接触しないように、各々のロータ141、141同士の間および突出部141a、141bの先端(葉端)とケーシング110の内面110aと間には、わずかなすき間ができる(シールされた状態となる)ように、ロータ141が配置される。
ここで、1対のロータ141、141の突出部141a、141bのそれぞれが、該ロータ141を支持する回転軸142の中心を回転中心として、回転角度が175度以上の範囲で、ケーシング110aの内面との間でシールされた状態を保つことが好ましい。そのためには、ケーシング110の1段目(低圧側)の内面110aの吸込口111側の端部110bおよびロータ141の回転中心を結ぶ線分と、内面110aの2段目(高圧側)の圧縮要素側の端部110cおよびロータ141の回転中心とを結ぶ線分とのなす角θが、175度以上の範囲となるようにケーシング110の形状を設定すればよい。このことは、1対のロータ151、151についても同様であり、ケーシング110の2段目の内面110dの1段目の圧縮要素側の端部110eおよびロータ151の回転中心を結ぶ線分と、内面110dの吐出口113側の端部110fおよびロータ151の回転中心とを結ぶ線分とのなす角θが、175度以上の範囲となるようにケーシング110の形状を設定することが好ましい。これにより、ロータ141、151により圧縮されたガスが、吸込口111側に逆流することを防止でき、その結果、十分にシールされた状態が保たれる。
<移動容積比>
本変更例のポンプ101における移動容積比RQは、以下のようにして計算される。まず、左右1対のロータ141、151が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが4回ずつ(1つのロータ141、151で、それぞれ2回ずつ)繰り返される。ここで、ロータ141の2片の突出部(突出部141aと突出部141b)とケーシング110の内面110aとで囲まれる空間の回転軸142に垂直な断面の断面積をS1’とすると、1段目(低圧側)の圧縮要素の移動面積A1は、A1=4×S1’となる。同様に、ロータ151の2片の突出部(突出部151aと突出部151b)とケーシング110の内面110dとで囲まれる空間の回転軸152に垂直な断面の断面積をS2’とすると、2段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=4×S2’となる。このように、本変更例では、第1実施形態とは移動面積A1、A2の算出方法が異なる。他の点は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
<用途の違い>
本変更例に係るポンプ101の用途は、特に制限されるものではないが、本変更例のロータ141、151のように、二葉ロータを採用する場合には、ポンプ101を湿式真空ポンプに用いることが好適である。一方、第1実施形態のロータ121、131のように、三葉ロータを採用する場合には、ポンプ100を乾式ブロワに用いることが好適である。湿式真空ポンプを使用するシステムの例としては、酸素発生装置(PSA/VSA)などが挙げられ、乾式ブロワを使用するシステムの例としては、窒素(N2)スタートアップブロワなどが挙げられる。
(第2変更例)
次に、図7を参照しながら、本実施形態のロータ121の形状を変更した第2変更例について述べる。本変更例に係る多段ルーツ式ポンプ102(以下、「ポンプ102」と記載する。)は、上述した第1実施形態に係るポンプ100とは、1段目のロータの形状のみが異なる変更例である。本変更例は、後述する第2~第9実施形態の変更例としても適用できる。
図7に示すように、ポンプ101は、1段目および2段目の圧縮要素として、それぞれ、1対のロータ141、131と、2本の回転軸142、132とを有する。すなわち、ポンプ101では、1段目のロータ141が第1変更例と同じ二葉ロータであり、2段目のロータ131が第1実施形態と同じ三葉ロータである。その他の構成および動作については、上述した第1実施形態または第1変更例と同様である。なお、図7に示した例とは逆に、1段目のロータを第1実施形態と同じ三葉ロータとし、2段目のロータを第1変更例と同じ二葉ロータとしたものも本発明の範囲に含まれる。
(第3変更例)
次に、図8を参照しながら、本実施形態に係るポンプ100を横形のポンプに変更した第3変更例に係る多段ルーツ式ポンプ103(以下、「ポンプ103」と記載する。)について述べる。本変更例は、後述する第2~第9実施形態の変更例としても適用できる。
図8に示すように、ポンプ103は、第1実施形態に係るポンプ100と同様に、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング110と、2段(2組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。圧縮要素、駆動機構および封液供給機構の詳細な構成については、上述した第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
ポンプ103は、上述したように横形のポンプであることから、吸込口111および吐出口113がケーシング110の側面側に設けられ、中間吐出口115がケーシング110の上面側に設けられ、第2封液供給口116がケーシング110の上面側および下面側に設けられる。よって、吸込口111からケーシング110内に吸い込まれたガスは、水平方向に進みながら、1段目および2段目の圧縮要素により順に圧縮され、吐出口113から排出される。
また、ポンプ103では、第1実施形態のポンプ100と同様に、1段目の圧縮要素であるロータ121、回転軸122等と、2段目の圧縮要素であるロータ131、回転軸132等とは、単一のケーシング110内において、同じ段の2本の回転軸122、122(または2本の回転軸132、132)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ121と2段目のロータ131とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口111、1段目のロータ121、2段目のロータ131および吐出口113が、水平方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口111からケーシング110内に導入されると(図8の矢印Gs)、水平方向右向き(吸込口111から吐出口113に向かう向き)に進み、ロータ121により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図8の矢印Gm)。ロータ121により圧縮されたガスは、さらに水平方向右向きに進み、2段目のロータ131により圧縮された後に、そのまま吐出口113からケーシング110外に排出される(図8の矢印Gd)。
その他の事項については、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
[第2実施形態]
次に、図9~図11を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図9は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ200(以下、「ポンプ200」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図10は、図9のX-X線で切断した断面図である。図11は、図9のXI-XI線で切断した断面図である。第1実施形態のポンプ100は、1段目(低圧側)のロータ121と2段目(高圧側)のロータ131の長さおよび直径が同一で、かつ、1段目のロータ121の回転数が2段目のロータ131の回転数よりも高いという例であったが、本実施形態に係るポンプ200は、1段目のロータ221と2段目のロータ231の回転数および直径が等しく、かつ、1段目のロータ221の長さが2段目のロータ231の長さよりも長いという例である。なお、以下では、第1実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図9~図11に示すように、ポンプ200は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング210と、2段の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング210の構成および機能は、第1実施形態に係るケーシング110と同様である。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング210内に、吸込口211側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口213側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング210内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ221、221と、2本の回転軸222、222とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ231、231と、2本の回転軸232、232とを有する。
図10に示すように、ロータ221は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部221a、221b、221cを有する形状である。また、各突出部221a、221b、221cの間には、凹部221dが設けられている。同様に、ロータ231も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部231a、231b、231cを有する形状である。また、各突出部231a、231b、231cの間には、凹部231dが設けられている。
1対のロータ221、221は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸222、222は、1対のロータ221、221を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸222、222は、2つのベアリング223、223により支持されている。同様に、1対のロータ231、231は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸232、232は、1対のロータ231、231を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸232、232は、2つのベアリング233、233により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸222と回転軸232とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ231について、ロータ221と重複する説明を省略し、ロータ221の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ221、221同士およびロータ221とケーシング210の内面210aとが接触しないように、各々のロータ221、221同士の間および突出部221a、221b、221cの先端(葉端)とケーシング210の内面210aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ221が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ221、221は、後述するタイミングギヤ261A、261Bにより回転位相が維持されており、ロータ221の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ231は、対となるロータ231およびケーシング210の内面210dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ231、231は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。その他、ロータ221、231の構成および機能は、第1実施形態に係るロータ121、131の構成および機能と同様である。
ポンプ200では、第1実施形態のポンプ100と同様に、1段目の圧縮要素であるロータ221、回転軸222等と、2段目の圧縮要素であるロータ231、回転軸232等とは、単一のケーシング210内において、同じ段の2本の回転軸222、222(または2本の回転軸232、232)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ221と2段目のロータ231とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口211、1段目のロータ221、2段目のロータ231および吐出口213が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口211からケーシング210内に導入されると(図10の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ221により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図10の矢印Gm)。ロータ221により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ231により圧縮された後に、そのまま吐出口213からケーシング210外に排出される(図10の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ200によれば、単一のケーシング210内において、1段目のロータ221と2段目のロータ231とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ221)と2段目の圧縮要素(ロータ231)との間に仕切りを設けなくても、ロータ221、231の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ200では、ロータ221とロータ231とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸222、232やケーシング210の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ200を大風量化するためにロータ221、231の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ200の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ200においても、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ221)と2段目の圧縮要素(ロータ231)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング210とロータ221またはロータ231とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さであり、Nは、ロータの回転数である。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸222、232に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ200における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、以下の式(3)により計算される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ221の長さ、L2は2段目のロータ231の長さ、N1は1段目のロータ221の回転数、N2は2段目のロータ231の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ200では、1段目のロータ221の長さL1が、2段目のロータ231の長さL2と異なる点で、上述した第1実施形態とは異なる。そのため、ポンプ200は、第1実施形態に係るポンプ100のように、1段目のロータ221と2段目のロータ231に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるというメリットは享受できない。一方、ポンプ200によれば、1段目のロータ221の長さL1が、2段目のロータ231の長さL2よりも長くなっていることから(L1>L2)、1段目のロータ221の回転数N1と、2段目のロータ231の回転数N2を同じ(すなわち、N1=N2)としても、移動容積比RQを1以上にできる。
なお、ポンプ200において、ロータ221とロータ231の直径および形状は同一である。したがって、1段目の移動面積A1と2段目の移動面積A2は等しい。また、ロータ221の回転数N1とロータ231の回転数N2とは等しい。よって、上記式(3)は、以下の式(3-2)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を1より大きくするためには、1段目のロータ221の長さL1を2段目のロータ231の長さL2よりも大きくすればよい(L1>L2)。このように、本実施形態では、1段目のロータ221の長さL1と2段目のロータ231の長さL2のロータ長さ比(L1/L2)により、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2が決定される。これにより、1段目のロータ221の回転数N1と2段目のロータ231の回転数N2とを同一にできるので、詳しくは後述するように、ギヤ構成がシンプルになり、ギヤの点数も減らせる。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ200の駆動軸267の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図9および図11に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ261(261A、261B)と、1対の第2タイミングギヤ262(262A、262B)と、共通駆動ギヤ265と、モータ入力軸である単一の駆動軸267と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ261A、261Bは、1段目の2本の回転軸222の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ221、221の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ262A、262Bは、2段目の2本の回転軸232の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ231、231の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。なお、第1タイミングギヤ261および第2タイミングギヤ262の素材は、第1実施形態に係る第1タイミングギヤ161および第2タイミングギヤ162の素材と同様である。
また、共通駆動ギヤ265は、1対の第1タイミングギヤ261のうちの一方の第1タイミングギヤ261Aと、1対の第2タイミングギヤ262のうちの一方の第2タイミングギヤ262Aの両方と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸267は、共通駆動ギヤ265を回転可能に支持する。この駆動軸267は、サイドカバー280に設けられたベアリング268と、ベアリング・ギヤ室273に設けられたベアリング268とにより支持されている。また、ベアリング・ギヤ室273に設けられたベアリング268側の駆動軸267の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、ロータ221の長さL1が、ロータ231の長さL2よりも長い。したがって、上述した移動容積比を1より大きくする(RQ>1とする)ためには、1段目のロータ221の回転数が2段目のロータ231の回転数と同じでよい。言い換えると、1段目のロータ221の回転速度を2段目のロータ231の回転速度と同じ速さにすることができる。そこで、ポンプ200では、1段目のロータ221の回転数が2段目のロータ231の回転数と同じになるように、同じ歯数の第1タイミングギヤ261と第2タイミングギヤ262とが同一の共通駆動ギヤ265に噛み合うようにしている。なお、各ロータ221、231の長さをどの程度とするかは、所望の風量および移動容積比RQが得られるように適宜決定すればよい。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ200を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング210が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口215をさらに有してもよい。図10に示した例では、中間吐出口215をケーシング210の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口215の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図10に示した断面において、ケーシング210の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口215が設けられていてもよい。中間吐出口215は、第1実施形態に係る中間吐出口115と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
図9および図10に示すように、本実施形態に係るポンプ200にも、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口212、214と、第2封液供給口216(216A、216B)とが設けられている。第1封液供給口212は、ポンプ200の吸込口211に接続された配管211aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口214は、ケーシング210におけるロータ221の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。また、第2封液供給口216は、ケーシング210の側面において、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ200は、ケーシング210とベアリング・ギヤ室273との間、および、ケーシング210とベアリング室274との間に、中間室として、サイドカバー280を有している。このサイドカバー280は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。また、ポンプ200にも、第1実施形態に係るポンプ100と同様のシール機構および軸封機構が設けられている。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ200の駆動方法を述べる。なお、ポンプ200によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図9~図11に示すように、図示しないモータにより駆動軸267が回転すると、駆動軸267に支持された共通駆動ギヤ265が回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ261A、261Bのうち、共通駆動ギヤ265と噛み合う一方の第1タイミングギヤ261Aが、共通駆動ギヤ265とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ261Aの回転数は、共通駆動ギヤ265の回転数から、共通駆動ギヤ265の歯数と第1タイミングギヤ261Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ261Aの歯数/共通駆動ギヤ265の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ261Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ261Bは、第1タイミングギヤ261Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ261Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ221、221は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ221、221の回転により、吸込口211付近のガスが、吸込口211からケーシング210内に吸い込まれた(図10の矢印Gs)後に、ロータ221により圧縮されて中間位置に吐き出される(図10の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ262A、262Bのうち、共通駆動ギヤ265と噛み合う一方の第2タイミングギヤ262Aが、共通駆動ギヤ265とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ262Aの回転数は、共通駆動ギヤ265の回転数から、共通駆動ギヤ265の歯数と第2タイミングギヤ262Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ262Aの歯数/共通駆動ギヤ265の歯数)で減速された回転数となる。ここで、第1タイミングギヤ261Aと第2タイミングギヤ262Aとは、同じ歯数であり、かつ、同じ共通駆動ギヤ265に噛み合っていることから、第2タイミングギヤ262Aの回転方向および回転数は、第1タイミングギヤ261Aと同じになる。また、第2タイミングギヤ262Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ262Bは、第2タイミングギヤ262Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ262Aと互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ231、231は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ231、231の回転により、1段目のロータ221により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ231に掻き込まれた(図10の矢印Gm)後に、ロータ231により圧縮されて吐出口213から外部に排出される(図10の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口215から、より圧力の低い大気に排出され(図10の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ231)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口211から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ200を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ200が吸込口211に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口212、214を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口216を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、ロータ221の長さL1がロータ231の長さL2よりも大きくなっている。また、第1タイミングギヤ261Aとの間の共通駆動ギヤ265の減速比は、第2タイミングギヤ262Aとの間の共通駆動ギヤ265の減速比と同じになっている。したがって、ロータ221の回転数N1は、ロータ231の回転数N2と同じになる。また、ロータ221とロータ231の形状が同じであることから、上述したように、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素との間の移動容積比RQは、1より大きくなる。
[第3実施形態]
次に、図12~図14を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図12は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ300(以下、「ポンプ300」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図13は、図12のXIII-XIII線で切断した断面図である。図14は、図12のXIV-XIV線で切断した断面図である。第1実施形態のポンプ100は、1段目(低圧側)のロータ121と2段目(高圧側)のロータ131の長さおよび直径が同一で、かつ、1段目のロータ121の回転数が2段目のロータ131の回転数よりも高いという例であったが、本実施形態に係るポンプ300は、1段目のロータ321と2段目のロータ331の回転数および長さが等しく、かつ、1段目のロータ321の直径が2段目のロータ331の直径よりも大きいという例である。なお、以下では、第1実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図12~図14に示すように、ポンプ300は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング310と、2段の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング310の構成および機能は、第1実施形態に係るケーシング110と同様である。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング310内に、吸込口311側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口313側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング310内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ321、321と、2本の回転軸322、322とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ331、331と、2本の回転軸332、332とを有する。
図13に示すように、ロータ321は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部321a、321b、321cを有する形状である。また、各突出部321a、321b、321cの間には、凹部321dが設けられている。同様に、ロータ331も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部331a、331b、331cを有する形状である。また、各突出部331a、331b、331cの間には、凹部331dが設けられている。
1対のロータ321、321は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸322、322は、1対のロータ321、321を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸322、322は、2つのベアリング323、323により支持されている。同様に、1対のロータ331、331は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸332、332は、1対のロータ331、331を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸332、332は、2つのベアリング333、333により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸322と回転軸332とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ331について、ロータ321と重複する説明を省略し、ロータ321の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ321、321同士およびロータ321とケーシング310の内面310aとが接触しないように、各々のロータ321、321同士の間および突出部321a、321b、321cの先端(葉端)とケーシング310の内面310aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ321が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ321、321は、後述するタイミングギヤ361A、361Bにより回転位相が維持されており、ロータ321の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ331は、対となるロータ331およびケーシング310の内面310dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ331、331は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。その他、ロータ321、331の構成および機能は、第1実施形態に係るロータ121、131の構成および機能と同様である。
ポンプ300では、第1実施形態のポンプ100と同様に、1段目の圧縮要素であるロータ321、回転軸322等と、2段目の圧縮要素であるロータ331、回転軸332等とは、単一のケーシング310内において、同じ段の2本の回転軸322、322(または2本の回転軸332、332)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ321と2段目のロータ331とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口311、1段目のロータ321、2段目のロータ331および吐出口313が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口311からケーシング310内に導入されると(図13の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ321により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図13の矢印Gm)。ロータ321により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ331により圧縮された後に、そのまま吐出口313からケーシング310外に排出される(図13の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ300によれば、単一のケーシング310内において、1段目のロータ321と2段目のロータ331とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ321)と2段目の圧縮要素(ロータ331)との間に仕切りを設けなくても、ロータ321、331の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ300では、ロータ321とロータ331とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸322、332やケーシング310の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ300を大風量化するためにロータ321、331の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ300の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ300においても、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ321)と2段目の圧縮要素(ロータ331)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング310とロータ321またはロータ331とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さであり、Nは、ロータの回転数である。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸322、332に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ300における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、以下の式(3)により計算される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ321の長さ、L2は2段目のロータ331の長さ、N1は1段目のロータ321の回転数、N2は2段目のロータ331の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ300では、1段目のロータ321の直径D1が、2段目のロータ331の直径D2と異なる点で、上述した第1実施形態とは異なる。そのため、ポンプ300は、第1実施形態に係るポンプ100のように、1段目のロータ321と2段目のロータ331に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるというメリットは享受できない。一方、ポンプ300によれば、1段目のロータ321の直径D1が、2段目のロータ331の直径D2よりも大きくなっていることから(D1>D2)、1段目のロータ321の回転数N1と、2段目のロータ331の回転数N2を同じ(すなわち、N1=N2)としても、移動容積比RQを1以上にできる。
なお、ポンプ300において、ロータ321の直径D1は、ロータ331の直径D2よりも大きい。したがって、1段目の移動面積A1は、2段目の移動面積A2よりも大きくなる(A1>A2)。また、ロータ321の長さL1とロータ331の長さL2とは等しく、ロータ321の回転数N1とロータ331の回転数N2とは等しい。よって、上記式(3)は、以下の式(3-3)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を1より大きくするためには、1段目のロータ321の直径D1を2段目のロータ331の直径D2よりも大きくすることにより、1段目の移動面積A1を2段目の移動面積A2よりも大きくすればよい(A1>A2)。このように、本実施形態では、1段目のロータ321の直径D1と2段目のロータ331の直径D2のロータ直径比(D1/D2)、言い換えると、1段目の移動面積A1と2段目の移動面積A2の移動容積比(A1/A2)により、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2が決定される。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ300の駆動軸367の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図13および図15に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ361(361A、361B)と、1対の第2タイミングギヤ362(362A、362B)と、第1駆動ギヤ365と、第2駆動ギヤ366と、モータ入力軸である単一の駆動軸367と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ361A、361Bは、1段目の2本の回転軸322の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ321、321の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ362A、362Bは、2段目の2本の回転軸332の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ331、331の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。なお、第1タイミングギヤ361および第2タイミングギヤ362の素材は、第1実施形態に係る第1タイミングギヤ161および第2タイミングギヤ162の素材と同様である。
また、第1駆動ギヤ365は、1対の第1タイミングギヤ361のうちの一方の第1タイミングギヤ361Aと噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ366は、1対の第2タイミングギヤ362のうちの一方の第2タイミングギヤ362Aと噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸367は、第1駆動ギヤ365と第2駆動ギヤ366とを回転可能に支持する。この駆動軸367は、サイドカバー380に設けられたベアリング368と、ベアリング・ギヤ室373に設けられたベアリング368とにより支持されている。また、ベアリング・ギヤ室373に設けられたベアリング368側の駆動軸367の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、ロータ321の直径D1が、ロータ331の直径D2よりも大きい。したがって、上述した移動容積比を1より大きくする(RQ>1とする)ためには、1段目のロータ321の回転数が2段目のロータ331の回転数と同じでよい。言い換えると、1段目のロータ321の回転速度を2段目のロータ331の回転速度と同じ速さにすることができる。そこで、ポンプ300では、1段目のロータ321の回転数が2段目のロータ331の回転数と同じになるように、第1タイミングギヤ361、第2タイミングギヤ362、第1駆動ギヤ365および第2駆動ギヤ366の歯数が設定される。例えば、駆動軸367の回転速度から回転軸322、332の回転速度を減速させる場合には、第1駆動ギヤ365の減速比が第2駆動ギヤ366の減速比と等しくなるように、第1タイミングギヤ361、第2タイミングギヤ362、第1駆動ギヤ365および第2駆動ギヤ366の歯数を設定すればよい。ここでの「減速比」は、第1実施形態と同様である。この場合、第1駆動ギヤ365の歯数と第1タイミングギヤ361の歯数との比率(=第1タイミングギヤ361の歯数/第1駆動ギヤ365の歯数)が、第2駆動ギヤ366の歯数と第2タイミングギヤ362の歯数との比率(=第2タイミングギヤ362の歯数/第2駆動ギヤ366の歯数)と等しければよい。なお、本実施形態では、ロータ321の直径D1が、ロータ331の直径D2よりも大きいため、第1タイミングギヤ361の歯数は、第2タイミングギヤ362の歯数よりも大きくなる。一方、駆動軸367の回転速度から回転軸322、332の回転速度を増速させる場合や同等の場合であっても、1段目のロータ321の回転数が、2段目のロータ331の回転数と等しくなるように、第1駆動ギヤ365および第2駆動ギヤ366の歯数が設定されれば差し支えない。なお、各ロータ321、331の直径をどの程度とするかは、所望の風量および移動容積比RQが得られるように適宜決定すればよい。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ300を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング310が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口315をさらに有してもよい。図13に示した例では、中間吐出口315をケーシング310の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口315の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図13に示した断面において、ケーシング310の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口315が設けられていてもよい。中間吐出口315は、第1実施形態に係る中間吐出口115と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
図12および図13に示すように、本実施形態に係るポンプ300にも、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口312、314と、第2封液供給口316(316A、316B)とが設けられている。第1封液供給口312は、ポンプ300の吸込口311に接続された配管311aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口314は、ケーシング310におけるロータ321の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。また、第2封液供給口316は、ケーシング310の側面において、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ300は、ケーシング310とベアリング・ギヤ室373との間、および、ケーシング310とベアリング室374との間に、中間室として、サイドカバー380を有している。このサイドカバー380は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。また、ポンプ300にも、第1実施形態に係るポンプ100と同様のシール機構および軸封機構が設けられている。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ300の駆動方法を述べる。なお、ポンプ300によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図12~図14に示すように、駆動軸367に支持された第1駆動ギヤ365および第2駆動ギヤ366が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ361A、361Bのうち、第1駆動ギヤ365と噛み合う一方の第1タイミングギヤ361Aが、第1駆動ギヤ365とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ361Aの回転数は、第1駆動ギヤ365の回転数から、第1駆動ギヤ365の歯数と第1タイミングギヤ361Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ361Aの歯数/第1駆動ギヤ365の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ361Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ361Bは、第1タイミングギヤ361Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ361Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ321、321は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ321、321の回転により、吸込口311付近のガスが、吸込口311からケーシング310内に吸い込まれた(図13の矢印Gs)後に、ロータ321により圧縮されて中間位置に吐き出される(図13の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ362A、362Bのうち、第2駆動ギヤ366と噛み合う一方の第2タイミングギヤ362Aが、第2駆動ギヤ366とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ362Aの回転数は、第2駆動ギヤ366の回転数から、第2駆動ギヤ366の歯数と第2タイミングギヤ362Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ362Aの歯数/第2駆動ギヤ366の歯数)で減速された回転数となる。また、第2タイミングギヤ362Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ362Bは、第2タイミングギヤ362Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ362Aと互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ331、331は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ331、331の回転により、1段目のロータ321により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ331に掻き込まれた(図13の矢印Gm)後に、ロータ331により圧縮されて吐出口313から外部に排出される(図13の矢印Gd)。
ここで、本実施形態では、第1駆動ギヤ365および第2駆動ギヤ366が同一の駆動軸367に支持されており、かつ、第1駆動ギヤ365の歯数と第1タイミングギヤ361Aの歯数との比から算出される減速比と、第2駆動ギヤ366の歯数と第2タイミングギヤ362Aの歯数との比から算出される減速比とが等しい。そのため、第1タイミングギヤ361の回転数と、第2タイミングギヤ362の回転数とが等しい。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口315から、より圧力の低い大気に排出され(図13の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ331)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口311から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ300を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ300が吸込口311に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口312、314を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口316を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、ロータ321の直径D1がロータ331の直径D2よりも大きくなっている。また、第1タイミングギヤ361Aとの間の第1駆動ギヤ365の減速比は、第2タイミングギヤ362Aとの間の第2駆動ギヤ366の減速比と同じになっている。したがって、ロータ321の回転数N1は、ロータ331の回転数N2と同じになる。また、ロータ321の長さL1とロータ331の長さL2とが同じであることから、上述したように、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素との間の移動容積比RQは、1より大きくなる。
[第4実施形態]
次に、図15~図18を参照しながら、本発明の第4実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図15は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ400(以下、「ポンプ400」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図16、図17および図18は、それぞれ、図15のXVI-XVI線、XVII-XVII線およびXVIII-XVIII線で切断した断面図である。上述した第1~第3実施形態のポンプ100、200、300は、2段の圧縮要素を有する2段ルーツ式ポンプの例であったが、本実施形態に係るポンプ400は、3段の圧縮要素を有する3段ルーツ式ポンプの例である。ここで、1段目(最も低圧側)の圧縮要素と2段目(中間)の圧縮要素との関係は、第1実施形態に係るポンプ100の1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の関係と同様であり、2段目(中間)の圧縮要素と3段目(最も高圧側)の圧縮要素との関係は、第2実施形態に係るポンプ200の1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の関係と同様である。なお、以下では、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図15~図18に示すように、ポンプ400は、回転圧縮機の一種である3段ルーツ式ポンプであり、ケーシング410と、3段(3組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング410の構成および機能は、第1実施形態に係るケーシング110と同様である。
ここで、ケーシング410は、同じ段の圧縮要素が有する2本の回転軸422、422を含む仮想平面、2本の回転軸432、432を含む仮想平面、または、2本の回転軸442、442を含む仮想平面の法線方向に沿って、3段の圧縮要素が並列配置されるように圧縮要素を収容する。このように、本実施形態では、回転軸422、432、442の軸方向に対して並列に配置された複数段の圧縮要素が単一のケーシング410に内装されており、各圧縮要素を接続する外部の配管や内部のガス流路などは特に設けられていない。そのため、1段目の圧縮要素で圧縮されて吐き出されたガスは、2段目の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれて圧縮された後に吐き出され、さらに、3段目の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれる。したがって、3段ルーツ式ポンプの各圧縮要素により圧縮されたガスの温度上昇は、2段ルーツ式ポンプの場合と比べ、ガスの温度上昇の問題はさらに深刻となる。そこで、本実施形態では、詳しくは後述するように、1段目と2段目の間の中間位置に存在するガスの冷却だけでなく、2段目と3段目の間の中間位置に存在するガスの冷却も実施される。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング410内に、吸込口411側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口413側に位置する3段目(高圧側)の圧縮要素と、1段目と3段目の間に配置される2段目(中間)の圧縮要素の、3段の圧縮要素とが設けられている。3段の圧縮要素間には、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング410内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ421、421と、2本の回転軸422、422とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ431、431と、2本の回転軸432、432とを有する。3段目の圧縮要素は、1対のロータ441、441と、2本の回転軸442、442とを有する。
図16に示すように、ロータ421は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部421a、421b、421cを有する形状である。また、各突出部421a、421b、421cの間には、凹部421dが設けられている。同様に、ロータ431も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部431a、431b、431cを有する形状である。また、各突出部431a、431b、431cの間には、凹部431dが設けられている。同様に、ロータ441も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部441a、441b、441cを有する形状である。また、各突出部441a、441b、441cの間には、凹部441dが設けられている。
1対のロータ421、421は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸422、422は、1対のロータ421、421を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸422、422は、2つのベアリング423、423により支持されている。同様に、1対のロータ431、431は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸432、432は、1対のロータ431、431を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸432、432は、2つのベアリング433、433により支持されている。同様に、1対のロータ441、441も、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸442、442は、1対のロータ441、441を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸442、442は、2つのベアリング443、443により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸422と回転軸432と回転軸442とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ431、441について、ロータ421と重複する説明を省略し、ロータ421の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ421、421同士およびロータ421とケーシング410の内面410aとが接触しないように、各々のロータ421、421同士の間および突出部421a、421b、421cの先端(葉端)とケーシング410の内面410aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ421が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ421、421は、後述するタイミングギヤ461A、461Bにより回転位相が維持されており、ロータ421の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ431は、対となるロータ431およびケーシング410の内面410dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ431、431は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ441は、対となるロータ441およびケーシング410の内面410gとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ441、441は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。その他、ロータ421、431、441の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ400では、1段目の圧縮要素であるロータ421、回転軸422等と、2段目の圧縮要素であるロータ431、回転軸432等と、3段目の圧縮要素であるロータ441、回転軸442等と、は、単一のケーシング410内において、同じ段の2本の回転軸422、422(または2本の回転軸432、432、または2本の回転軸442、442)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ421と2段目のロータ431と3段目のロータ441とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口411、1段目のロータ421、2段目のロータ431、3段目のロータ441および吐出口413が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口411からケーシング410内に導入されると(図16の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ421により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図16の矢印Gm1)。ロータ421により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ431により圧縮された後に、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間に進む(図16の矢印Gm2)。ロータ431により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、3段目のロータ441により圧縮された後に、そのまま吐出口413からケーシング410外に排出される(図16の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ400によれば、単一のケーシング410内において、1段目のロータ421と2段目のロータ431と3段目のロータ441とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、1段目の圧縮要素(ロータ421)と2段目の圧縮要素(ロータ431)との間、および、2段目の圧縮要素(ロータ431)と3段目の圧縮要素(ロータ441)との間に仕切りを設けなくても、ロータ421、431、441の配置自体で、3段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、3段のロータを有する場合、ロータ3つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ400では、ロータ421とロータ431とロータ441とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸422、432、442やケーシング410の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ400を大風量化するためにロータ421、431、441の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目と3段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ400の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。ここで、3段以上の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプでは、回転軸およびケーシングの剛性低下、大風量化の困難性、高い加工精度および組立精度の必要性などの問題が、2段ルーツ式ポンプの場合よりもさらに深刻なものとなる。このような場合に、本実施形態に係るポンプ400によれば、上記の問題が全て解決されるため、複数の圧縮要素を別の軸上に並列配置するメリットが大きい。
また、後述するように、1段目のロータ421の長さL1と、2段目のロータ431の長さL2とを同じ長さにできる。したがって、本実施形態のポンプ400によれば、1段目のロータ421と2段目のロータ431に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるので、部品の種類が減らせるというメリットがある。その結果、生産効率の向上やコストの削減につながる。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ400では、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ421)と2段目の圧縮要素(ロータ431)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ただし、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を求める場合、式(1)において、QthLは、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素(本実施形態では1段目の圧縮要素)の移動容積であり、QthHは、高圧側の圧縮要素(本実施形態では2段目の圧縮要素)の移動容積である。
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング410とロータ421、ロータ431またはロータ441とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Nは、ロータの回転数であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さである。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸422、432、442に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ400における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、以下のようにして計算される。まず、1段目のロータ421を例に挙げると、左右1対のロータ421、421が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが6回(左側のロータ421と右側のロータ421とで、それぞれ3回ずつ)繰り返される。2段目のロータ431についても同様である。ここで、図16に示すように、ロータ421の2片の突出部(例えば、突出部421aと突出部421b)とケーシング410の内面410aとで囲まれる空間の回転軸422に垂直な断面の断面積をS1とすると、1段目(低圧側)の圧縮要素の移動面積A1は、A1=6×S1となる。同様に、ロータ431の2片の突出部(例えば、突出部431bと突出部431c)とケーシング410の内面410dとで囲まれる空間の回転軸432に垂直な断面の断面積をS2とすると、2段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=6×S2となる。以上より、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、N1は1段目のロータ421の回転数、N2は2段目のロータ431の回転数を表す。ここで、ロータ421とロータ431の直径および形状は同一である。したがって、1段目の移動面積A1と2段目の移動面積A2は等しい。また、図15に示すように、ロータ421の長さL1とロータ431の長さL2は等しい。よって、上記式(3)は、以下の式(3-1)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を1より大きくするためには、1段目のロータ421の回転数N1を2段目のロータ431の回転数N2よりも高くすればよい(N1>N2)。このように、本実施形態の1段目と2段目の間では、1段目の圧縮要素の回転数N1と2段目の圧縮要素の回転数N2の回転数比(N1/N2)により、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2が決定される。これにより、1段目のロータ421の長さL1と2段目のロータ431の長さL2とを同一にできるので、1段目のロータ421と2段目のロータ431とをポンプ400の部品として共通化できる。
また、ポンプ400では、別の回転軸上に並列に配置された2段目の圧縮要素(ロータ431)と3段目の圧縮要素(ロータ441)との間においても、上記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
ただし、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3を求める場合、式(1)において、QthLは、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素(本実施形態では2段目の圧縮要素)の移動容積であり、QthHは、高圧側の圧縮要素(本実施形態では3段目の圧縮要素)の移動容積である。
上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、上記式(2)で表される。したがって、本実施形態のポンプ400における2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3は、以下のようにして計算される。まず、2段目のロータ431を例に挙げると、左右1対のロータ431、431が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが6回(左側のロータ431と右側のロータ431とで、それぞれ3回ずつ)繰り返される。3段目のロータ441についても同様である。ここで、上述したように、2段目(中間)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=6×S2となる。同様に、ロータ441の2片の突出部(例えば、突出部441bと突出部441c)とケーシング410の内面410gとで囲まれる空間の回転軸442に垂直な断面の断面積をS3とすると、3段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A3は、A3=6×S3となる。以上より、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3は、下記式(5)で表される。
ただし、式(5)において、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、Qth3は3段目の圧縮要素の移動容積、N2は2段目のロータ431の回転数、N3は3段目のロータ441の回転数を表す。ここで、本実施形態のポンプ400では、2段目のロータ431の長さL2が、3段目のロータ441の長さL3と異なる。そのため、ポンプ400の2段目と3段目との関係では、1段目と2段目との関係のように、2段目のロータ431と3段目のロータ441に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるというメリットは享受できない。一方、2段目のロータ431の長さL2が、3段目のロータ441の長さL3よりも長くなっていることから(L2>L3)、2段目のロータ431の回転数N2と、3段目のロータ441の回転数N3を同じ(すなわち、N2=N3)としても、移動容積比RQ2-3を1以上にできる。
なお、ポンプ400において、ロータ431とロータ441の直径および形状は同一である。したがって、2段目の移動面積A2と3段目の移動面積A3は等しい。また、ロータ431の回転数N2とロータ441の回転数N3とは等しい。よって、上記式(5)は、以下の式(5-1)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3を1より大きくするためには、2段目のロータ431の長さL2を3段目のロータ441の長さL3よりも大きくすればよい(L2>L3)。このように、本実施形態では、2段目のロータ431の長さL2と3段目のロータ441の長さL3のロータ長さ比(L2/L3)により、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3が決定される。これにより、2段目のロータ431の回転数N2と3段目のロータ441の回転数N3とを同一にできるので、詳しくは後述するように、ギヤ構成がシンプルになり、ギヤの点数も減らせる。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ400の駆動軸467の軸動力を低減できる。なお、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2と、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3とが双方ともに1より大きい場合が例示されている。この場合には、軸動力の低減効果が顕著に向上できる。ただし、本発明に係る3段ルーツ式ポンプとしては、RQ1-2とRQ2-3の少なくともいずれか一方の移動容積比が1より大きければよい。例えば、RQ1-2とRQ2-3のいずれか一方が1より大きく、他方が1である3段ルーツ式ポンプも、本発明に係る多段ルーツ式ポンプとして使用できる。
<駆動機構>
図15、図17および図18に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ461(461A、461B)と、1対の第2タイミングギヤ462(462A、462B)と、1対の第3タイミングギヤ463(463A、463B)と、第1駆動ギヤ464と、第2駆動ギヤ465と、第3駆動ギヤ466と、モータ入力軸である駆動軸467と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ461A、461Bは、1段目の2本の回転軸422の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ421、421の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ462A、462Bは、2段目の2本の回転軸432の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ431、431の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第3タイミングギヤ463A、463Bは、2段目の2本の回転軸442の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ431、431の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、第1駆動ギヤ464は、1対の第1タイミングギヤ461のうちの一方の第1タイミングギヤ461Aと噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ465は、1対の第2タイミングギヤ462のうちの一方の第2タイミングギヤ462Aと噛み合うように設けられている。また、第3駆動ギヤ466は、1対の第2タイミングギヤ462のうちの一方の第2タイミングギヤ462Bと、1対の第3タイミングギヤ463のうちの一方の第3タイミングギヤ463Bの両方と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸467は、第1駆動ギヤ464と第2駆動ギヤ465とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ464と第2駆動ギヤ465とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。また、駆動軸467は、後述するサイドカバー480に設けられたベアリング468と、ベアリング・ギヤ室473に設けられたベアリング468とにより支持されている。ベアリング・ギヤ室473に設けられたベアリング468側の駆動軸467の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。また、第3駆動ギヤ466は、回転軸469の軸端に設けられている。回転軸469の第3駆動ギヤ466が設けられていない方の軸端は、後述するサイドカバー480に設けられたベアリング470により支持されている。
上述したように、本実施形態では、ロータ421の長さL1とロータ431の長さL2とが同じである。したがって、1段目と2段目の間の移動容積比を1より大きくする(RQ1-2>1とする)ためには、1段目のロータ421の回転数を2段目のロータ431の回転数より高くする必要がある。言い換えると、1段目のロータ421の回転速度を2段目のロータ431の回転速度より速くする必要がある。そこで、ポンプ400では、1段目のロータ421の回転数が2段目のロータ431の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ464および第2駆動ギヤ465の歯数が設定される。例えば、駆動軸467の回転速度から回転軸422、432の回転速度を減速させる場合には、第1駆動ギヤ464の減速比が第2駆動ギヤ465の減速比よりも小さくなるように、第1駆動ギヤ464および第2駆動ギヤ465の歯数を設定すればよい。この場合、第1タイミングギヤ461と第2タイミングギヤ462の歯数が同じであるとすると、第1駆動ギヤ464の歯数を第2駆動ギヤ465の歯数よりも多くすればよい。各駆動ギヤ464、465の減速比をどの程度とするかは、所望の移動容積比RQ1-2が得られるように適宜決定すればよい。一方、駆動軸467の回転速度から回転軸422、432の回転速度を増速させる場合や同等の場合であっても、1段目のロータ421の回転数が、2段目のロータ431の回転数よりも高くなるように、第1駆動ギヤ464および第2駆動ギヤ465の歯数が設定されれば差し支えない。
また、本実施形態では、ロータ431の長さL2が、ロータ441の長さL3よりも長い。したがって、2段目と3段目の間の移動容積比を1より大きくする(RQ2-3>1とする)ためには、2段目のロータ431の回転数が3段目のロータ441の回転数と同じでよい。言い換えると、2段目のロータ431の回転速度を3段目のロータ441の回転速度と同じ速さにすることができる。そこで、ポンプ400では、2段目のロータ431の回転数が3段目のロータ441の回転数と同じになるように、同じ歯数の第2タイミングギヤ462と第3タイミングギヤ463とが同一の第3駆動ギヤ466に噛み合うようにしている。なお、各ロータ431、441の長さをどの程度とするかは、所望の風量および移動容積比RQ2-3が得られるように適宜決定すればよい。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ400を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング410が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置、および、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、それぞれ、ガスを外部に吐出する中間吐出口415、417をさらに有していてもよい。図16に示した例では、中間吐出口415、417をそれぞれ、ケーシング410の左側面に1箇所ずつのみ設けた例が示されているが、中間吐出口415、417の数は特に制限されず、2箇所以上ずつ設けてもよい。例えば、図16に示した断面において、ケーシング410の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口415が設けられ、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口417が設けられていてもよい。その他の事項については、中間吐出口415、417は、第1実施形態に係る中間吐出口115と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
ポンプ400には、図15および図16に示すように、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口412、414と、第2封液供給口416(416A、416B)と、第3封液供給口418(418A、418B)とが設けられている。
第1封液供給口412、414は、ポンプ400の1段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置に封液を供給するための封液の導入口である。第1封液供給口412は、ポンプ400の吸込口411に接続された配管411aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口414は、図15に示すように、ケーシング410におけるロータ421の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第2封液供給口416は、ポンプ400の2段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第2封液供給口416は、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第3封液供給口418は、ポンプ400の3段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第3封液供給口418は、隣接する圧縮要素間、すなわち、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
上述した構成を有する本実施形態の封液供給機構を設けることにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素へ吸い込まれるガスの温度が低下する。言い換えると、ケーシング410内に供給された封液を用いて各圧縮要素へ吸い込まれる前のガスを一旦冷却した後に後段の圧縮要素に吸い込ませることができることから、2段目のロータ431、3段目のロータ441およびケーシング410の熱膨張も小さくなる。したがって、2段目の圧縮要素におけるロータ431とケーシング410とのすき間およびロータ431相互間のすき間、ならびに、3段目の圧縮要素におけるロータ441とケーシング410とのすき間およびロータ441相互間のすき間を狭く設定できる。その結果、2段目および3段目の圧縮要素においてガスの漏れ量(特に3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量)、すなわち、高圧側から低圧側に逆流するガスの量が少なくなるため、体積効率が向上する。
また、2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、2段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から2段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、2段目の圧縮要素の吸込圧力(1段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と1段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、1段目の圧縮要素の軸動力を小さくすることができる。さらに、3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、3段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から3段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、3段目の圧縮要素の吸込圧力(2段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と2段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、2段目の圧縮要素の軸動力も小さくすることができる。このように、3段以上の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプでは、軸動力の低減効果が2段の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプよりも大きくなる。
なお、本実施形態では、2段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第2封液供給口416からなる封液供給機構)と、3段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第3封液供給口418からなる封液供給機構)とが設けられているが、いずれか一方の封液供給機構のみを設けることでも、上述した吐出ガスの顕著な温度上昇の抑制効果は得られる。ただし、より確実に吐出ガスの温度上昇を抑制するためには、これらの2つの封液供給機構を両方設けた方が好ましい。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ400は、ケーシング410とベアリング・ギヤ室473との間、および、ケーシング410とベアリング室474との間に、中間室として、サイドカバー480を有している。このサイドカバー480は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ400の駆動方法を述べる。なお、ポンプ400によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図15~図18に示すように、図示しないモータにより駆動軸467が回転すると、駆動軸467に支持された第1駆動ギヤ464および第2駆動ギヤ465が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ461A、461Bのうち、第1駆動ギヤ464と噛み合う一方の第1タイミングギヤ461Aが、第1駆動ギヤ464とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ461Aの回転数は、第1駆動ギヤ464の回転数から、第1駆動ギヤ464の歯数と第1タイミングギヤ461Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ461Aの歯数/第1駆動ギヤ464の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ461Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ461Bは、第1タイミングギヤ461Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ461Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ421、421は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ421、421の回転により、吸込口411付近のガスが、吸込口411からケーシング410内に吸い込まれた(図16の矢印Gs)後に、ロータ421により圧縮されて1段目と2段目の中間位置に吐き出される(図16の矢印Gm1)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ462A、462Bのうち、第2駆動ギヤ465と噛み合う一方の第2タイミングギヤ462Aが、第2駆動ギヤ465とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ462Aの回転数は、第2駆動ギヤ465の回転数から、第2駆動ギヤ465の歯数と第2タイミングギヤ462Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ462Aの歯数/第2駆動ギヤ465の歯数)で減速された回転数となる。また、第2タイミングギヤ462Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ462Bは、第2タイミングギヤ462Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ462Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ431、431は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ431、431の回転により、1段目のロータ421により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ431に掻き込まれた後に(図16の矢印Gm1)、ロータ431により圧縮されて2段目と3段目の中間位置に吐き出される(図16の矢印Gm2)。
さらに、第2タイミングギヤ462Bと噛み合う第3駆動ギヤ466が、第2タイミングギヤ462Bとは反対方向に回転する。また、1対の第3タイミングギヤ463A、463Bのうち、第3駆動ギヤ466と噛み合う第3タイミングギヤ463Bが、第3駆動ギヤ466とは反対方向に回転する。ここで、第2タイミングギヤ462Bと第3タイミングギヤ463Bとは、同じ歯数であり、かつ、共通の第3駆動ギヤ466に噛み合っていることから、第3タイミングギヤ463Bの回転方向および回転数は、第2タイミングギヤ462Bと同じになる。また、第3タイミングギヤ463Bと噛み合う他方の第3タイミングギヤ463Aは、第3タイミングギヤ463Bの歯数と同じ歯数であるため、第3タイミングギヤ463Bと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ441、441は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ441、441の回転により、2段目のロータ431により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から3段目のロータ441に掻き込まれた後に(図16の矢印Gm2)、ロータ441により圧縮されて吐出口413から外部に排出される(図16の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm1が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口415から、より圧力の低い大気に排出され(図16の矢印Ge1および矢印Gd)、中間圧力Pm1が大気圧以下まで下がる。同様に、2段目と3段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm2が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口417から、より圧力の低い大気に排出され(図16の矢印Ge2および矢印Gd)、中間圧力Pm2が大気圧以下まで下がる。したがって、2段目および3段目の圧縮要素(ロータ431、441)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口411から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1、および、3段目の吸込圧力Ps3と2段目の吸込圧力Ps2との差ΔP2を小さくすることができる。その結果、ポンプ400を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ400が吸込口411に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pm1、Pm2が大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口412、414を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口416を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第3封液供給口418を通して3段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目、2段目および3段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目および3段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目および3段目の圧縮要素(特に、3段目の圧縮要素)におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ461Aとの間の第1駆動ギヤ464の減速比が、第2タイミングギヤ462Aとの間の第3駆動ギヤ466の減速比よりも小さくなっている。したがって、ロータ421の回転数N1がロータ431の回転数N2よりも高くなる。また、ロータ421の長さL1とロータ431の長さL2が等しく、ロータ421とロータ431の形状が同じであることから、上述したように、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素との間の移動容積比RQ1-2は、1より大きくなる。
一方、ロータ431の長さL2がロータ441の長さL3よりも大きくなっている。また、第2タイミングギヤ462Bとの間の第3駆動ギヤ466の減速比は、第3タイミングギヤ463Bとの間の第3駆動ギヤ466の減速比と同じになっている。したがって、ロータ431の回転数N2は、ロータ441の回転数N3と同じになる。また、ロータ431とロータ441の形状が同じであることから、上述したように、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素との間の移動容積比RQ2-3は、1より大きくなる。
すなわち、本実施形態における1段目と2段目の間の関係は第1実施形態と同様であり(1段目と2段目のロータの長さが同じで、回転数が異なる)、2段目と3段目の間の関係は第2実施形態と同様である(2段目と3段目のロータの長さが異なり、回転数が同じ)。
[第5実施形態]
次に、図19~図22を参照しながら、本発明の第5実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図19は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ500(以下、「ポンプ500」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図20、図21および図22は、それぞれ、図19のXX-XX線、XXI-XXI線およびXXII-XXII線で切断した断面図である。第5実施形態のポンプ500は、第4実施形態に係るポンプ400と同様に、3段の圧縮要素を有する3段ルーツ式ポンプの例である。ここで、1段目(最も低圧側)と2段目(中間)との関係は、第4実施形態に係るポンプ400の1段目と2段目の関係と同様であるが、2段目(中間)と3段目(最も高圧側)との関係が、第4実施形態に係るポンプ400の2段目と3段目の関係と異なる例である。具体的には、ポンプ500では、2段目(中間)のロータ531と3段目(高圧側)のロータ541の長さが同一で、かつ、2段目のロータ531の回転数が3段目のロータ541の回転数よりも高いという例である。なお、以下では、第4実施形態と異なる点を中心に述べ、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図19~図22に示すように、ポンプ500は、回転圧縮機の一種である3段ルーツ式ポンプであり、ケーシング510と、3段(3組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング510の構成および機能は、第4実施形態に係るケーシング410と同様である。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング510内に、吸込口511側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口513側に位置する3段目(高圧側)の圧縮要素と、1段目と3段目の間に配置される2段目(中間)の圧縮要素の、3段の圧縮要素とが設けられている。3段の圧縮要素間には、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング510内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ521、521と、2本の回転軸522、522とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ531、531と、2本の回転軸532、532とを有する。3段目の圧縮要素は、1対のロータ541、541と、2本の回転軸542、542とを有する。
図20に示すように、ロータ521は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部521a、521b、521cを有する形状である。また、各突出部521a、521b、521cの間には、凹部521dが設けられている。同様に、ロータ531も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部531a、531b、531cを有する形状である。また、各突出部531a、531b、531cの間には、凹部531dが設けられている。同様に、ロータ541も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部541a、541b、541cを有する形状である。また、各突出部541a、541b、541cの間には、凹部541dが設けられている。
1対のロータ521、521は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸522、522は、1対のロータ521、521を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸522、522は、2つのベアリング523、523により支持されている。同様に、1対のロータ531、531は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸532、532は、1対のロータ531、531を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸532、532は、2つのベアリング533、533により支持されている。同様に、1対のロータ541、541も、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸542、542は、1対のロータ541、541を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸542、542は、2つのベアリング543、543により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸522と回転軸532と回転軸542とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ531、541について、ロータ521と重複する説明を省略し、ロータ521の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ521、521同士およびロータ521とケーシング510の内面510aとが接触しないように、各々のロータ521、521同士の間および突出部521a、521b、521cの先端(葉端)とケーシング510の内面510aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ521が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ521、521は、後述するタイミングギヤ561A、561Bにより回転位相が維持されており、ロータ521の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ531は、対となるロータ531およびケーシング510の内面510dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ531、531は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ541は、対となるロータ541およびケーシング510の内面510gとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ541、541は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。その他、ロータ521、531、541の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ500では、1段目の圧縮要素であるロータ521、回転軸522等と、2段目の圧縮要素であるロータ531、回転軸532等と、3段目の圧縮要素であるロータ541、回転軸542等と、は、単一のケーシング510内において、同じ段の2本の回転軸522、522(または2本の回転軸532、532、または2本の回転軸542、542)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ521と2段目のロータ531と3段目のロータ541とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口511、1段目のロータ521、2段目のロータ531、3段目のロータ541および吐出口513が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口511からケーシング510内に導入されると(図20の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ521により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図20の矢印Gm1)。ロータ521により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ531により圧縮された後に、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間に進む(図20の矢印Gm2)。ロータ531により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、3段目のロータ541により圧縮された後に、そのまま吐出口513からケーシング510外に排出される(図20の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ500によれば、単一のケーシング510内において、1段目のロータ521と2段目のロータ531と3段目のロータ541とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、1段目の圧縮要素(ロータ521)と2段目の圧縮要素(ロータ531)との間、および、2段目の圧縮要素(ロータ531)と3段目の圧縮要素(ロータ541)との間に仕切りを設けなくても、ロータ521、531、541の配置自体で、3段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、3段のロータを有する場合、ロータ3つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ500では、ロータ521とロータ531とロータ541とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。このような構成により生じる効果については、第4実施形態と同様である。
また、後述するように、1段目のロータ521の長さL1と、2段目のロータ531の長さL2と、3段目のロータ541の長さL3とをすべて同じ長さにできる。したがって、本実施形態のポンプ500によれば、1段目のロータ521と2段目のロータ531と3段目のロータ541に同じロータ(形状および大きさが同じロータ)を使用できるので、部品の種類が減らせるとともに、同じロータを使用できることから組立が容易になるというメリットが非常に大きい。その結果、生産効率のさらなる向上やコストのさらなる削減につながる。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ500では、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ521)と2段目の圧縮要素(ロータ531)との間において、第4実施形態と同様に、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング510とロータ521、ロータ531またはロータ541とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Nは、ロータの回転数であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さである。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸522、532、542に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ500における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、第4実施形態のポンプ400における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2と同様にして計算されるため、詳細な説明を省略する。
また、ポンプ500では、別の回転軸上に並列に配置された2段目の圧縮要素(ロータ531)と3段目の圧縮要素(ロータ541)との間においても、上記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
ただし、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3を求める場合、式(1)において、QthLは、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素(本実施形態では2段目の圧縮要素)の移動容積であり、QthHは、高圧側の圧縮要素(本実施形態では3段目の圧縮要素)の移動容積である。
上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、上記式(2)で表される。したがって、本実施形態のポンプ500における2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3は、以下のようにして計算される。まず、2段目のロータ531を例に挙げると、左右1対のロータ531、531が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが6回(左側のロータ531と右側のロータ531とで、それぞれ3回ずつ)繰り返される。3段目のロータ541についても同様である。ここで、上述したように、2段目(中間)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=6×S2となる。同様に、ロータ541の2片の突出部(例えば、突出部541bと突出部541c)とケーシング510の内面510gとで囲まれる空間の回転軸542に垂直な断面の断面積をS3とすると、3段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A3は、A3=6×S3となる。以上より、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3は、下記式(5)で表される。
ただし、式(5)において、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、Qth3は3段目の圧縮要素の移動容積、N2は2段目のロータ531の回転数、N3は3段目のロータ541の回転数を表す。ここで、ロータ531とロータ541の直径および形状は同一である。したがって、2段目の移動面積A2と3段目の移動面積A3は等しい。また、図19に示すように、ロータ531の長さL2とロータ541の長さL3は等しい。よって、上記式(5)は、以下の式(5-2)のように書き替えられる。
したがって、本実施形態では、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3を1より大きくするためには、2段目のロータ531の回転数N2を3段目のロータ541の回転数N3よりも高くすればよい(N2>N3)。ここで、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2を1より大きくするためには、1段目のロータ521の回転数N1を2段目のロータ回転数N2よりも高くすればよい(N1>N2)ことから、本実施形態では、各ロータ521、531、541の回転数の関係は、N1>N2>N3となる。このように、本実施形態の2段目と3段目の間でも、2段目の圧縮要素の回転数N2と3段目の圧縮要素の回転数N3の回転数比(N2/N3)により、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3が決定される。これにより、1段目のロータ521の長さL1と、2段目のロータ531の長さL2と、3段目のロータ541の長さL3とをすべて同一にできるので、1段目のロータ521と2段目のロータ531と3段目のロータ541をポンプ500の部品としてすべて共通化できる。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ500の駆動軸567の軸動力を低減できる。なお、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2と、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3とが双方ともに1より大きい場合が例示されている。この場合には、軸動力の低減効果が顕著に向上できる。ただし、本発明に係る3段ルーツ式ポンプとしては、RQ1-2とRQ2-3の少なくともいずれか一方の移動容積比が1より大きければよい。例えば、RQ1-2とRQ2-3のいずれか一方が1より大きく、他方が1である3段ルーツ式ポンプも、本発明に係る多段ルーツ式ポンプとして使用できる。
<駆動機構>
図19、図21および図22に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ561(561A、561B)と、1対の第2タイミングギヤ562(562A、562B)と、1対の第3タイミングギヤ563(563A、563B)と、第1駆動ギヤ564と、第2駆動ギヤ565と、2-3段間中間ギヤ566と、第3駆動ギヤ567と、モータ入力軸である駆動軸568と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ561A、561Bは、1段目の2本の回転軸522の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ521、521の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ562A、562Bは、2段目の2本の回転軸532の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ531、531の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第3タイミングギヤ563A、563Bは、2段目の2本の回転軸542の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ531、531の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、第1駆動ギヤ564は、1対の第1タイミングギヤ561のうちの一方の第1タイミングギヤ561Aと噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ565は、1対の第2タイミングギヤ562のうちの一方の第2タイミングギヤ562Aと噛み合うように設けられており、第3駆動ギヤ567は、1対の第3タイミングギヤ563のうちの一方の第3タイミングギヤ563Aと噛み合うように設けられている。また、2-3段間中間ギヤ566は、1対の第2タイミングギヤ562のうちの一方の第2タイミングギヤ562Aと噛み合うように設けられている。すなわち、第2タイミングギヤ562Aは、第2駆動ギヤ565と2-3段間中間ギヤ566の両方と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸568は、第1駆動ギヤ564と第2駆動ギヤ565とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ564と第2駆動ギヤ565とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。また、駆動軸568は、後述するサイドカバー580に設けられたベアリング569と、ベアリング・ギヤ室573に設けられたベアリング569とにより支持されている。ベアリング・ギヤ室573に設けられたベアリング569側の駆動軸568の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。また、2-3段間中間ギヤ566と第3駆動ギヤ567とは、同一の回転軸570に回転可能に支持されている。回転軸570の一方の軸端(2-3段間中間ギヤ側の軸端)は、サイドカバー480に設けられたベアリング571により支持され、他方の軸端(第3駆動ギヤ571側の軸端)は、ベアリング・ギヤ室573に設けられたベアリング571に支持されている。
上述したように、本実施形態では、ロータ521の長さL1とロータ531の長さL2とロータ541の長さL3とが同じである。したがって、1段目と2段目の間の移動容積比を1より大きくする(RQ1-2>1とする)ためには、1段目のロータ521の回転数を2段目のロータ531の回転数より高くする必要がある。言い換えると、1段目のロータ521の回転速度を2段目のロータ531の回転速度より速くする必要がある。そこで、ポンプ500では、1段目のロータ521の回転数が2段目のロータ531の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ564および第2駆動ギヤ565の歯数が設定される。例えば、駆動軸568の回転速度から回転軸522、532の回転速度を減速させる場合には、第1駆動ギヤ564の減速比が第2駆動ギヤ565の減速比よりも小さくなるように、第1駆動ギヤ564および第2駆動ギヤ565の歯数を設定すればよい。この場合、第1タイミングギヤ561と第2タイミングギヤ562の歯数が同じであるとすると、第1駆動ギヤ564の歯数を第2駆動ギヤ565の歯数よりも多くすればよい。各駆動ギヤ564、565の減速比をどの程度とするかは、所望の移動容積比RQ1-2が得られるように適宜決定すればよい。一方、駆動軸568の回転速度から回転軸522、532の回転速度を増速させる場合や同等の場合であっても、1段目のロータ521の回転数が、2段目のロータ531の回転数よりも高くなるように、第1駆動ギヤ564および第2駆動ギヤ565の歯数が設定されれば差し支えない。
同様に、2段目と3段目の間の移動容積比を1より大きくする(RQ2-3>1とする)ためには、2段目のロータ531の回転数を3段目のロータ541の回転数より高くする(回転速度より速くする)必要がある。そこで、ポンプ500では、2段目のロータ531の回転数が3段目のロータ541の回転数より高くなるように、2-3段間中間ギヤ566および第3駆動ギヤ567の歯数が設定される。図示した例では、同一の回転軸570に支持された2-3段間中間ギヤ566と第3駆動ギヤ567の回転数が同じである。そのため、2-3段間中間ギヤ566により減速される第2タイミングギヤ562の減速比が、第3駆動ギヤ567により減速される第3タイミングギヤ563の減速比よりも小さくなるように、2-3段間中間ギヤ566および第3駆動ギヤ567の歯数を設定すればよい。この場合、第2タイミングギヤ562と第3タイミングギヤ563の歯数が同じであるとすると、2-3段間中間ギヤ566の歯数を第3駆動ギヤ567の歯数よりも多くすればよい。2-3段間中間ギヤ566および第3駆動ギヤ567による減速比をどの程度とするかは、所望の移動容積比RQ2-3が得られるように適宜決定すればよい。このようなギヤ構成以外であっても、2段目のロータ531の回転数が、3段目のロータ541の回転数よりも高くなるように、2-3段間中間ギヤ566および第3駆動ギヤ567の歯数が設定されれば差し支えない。なお、各ロータ521、531、541の回転数をどの程度とするかは、所望の風量および移動容積比RQ1-2、RQ2-3が得られるように適宜決定すればよい。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ500を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング510が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置、および、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、それぞれ、ガスを外部に吐出する中間吐出口515、517をさらに有していてもよい。図20に示した例では、中間吐出口515、517をそれぞれ、ケーシング510の左側面に1箇所ずつのみ設けた例が示されているが、中間吐出口515、517の数は特に制限されず、2箇所以上ずつ設けてもよい。例えば、図20に示した断面において、ケーシング510の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口515が設けられ、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口517が設けられていてもよい。その他の事項については、中間吐出口515、517は、第1実施形態に係る中間吐出口115と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
ポンプ500には、図19および図20に示すように、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口512、514と、第2封液供給口516(516A、516B)と、第3封液供給口518(518A、518B)とが設けられている。
第1封液供給口512、514は、ポンプ500の1段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置に封液を供給するための封液の導入口である。第1封液供給口512は、ポンプ500の吸込口511に接続された配管511aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口514は、図19に示すように、ケーシング510におけるロータ521の端部付近の上部に設けられ、第4実施形態に係る第1封液供給口414と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第2封液供給口516は、ポンプ500の2段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第2封液供給口516は、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第4実施形態に係る第2封液供給口416と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第3封液供給口518は、ポンプ500の3段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第3封液供給口518は、隣接する圧縮要素間、すなわち、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第4実施形態に係る第3封液供給口418と同じ構成、機能および作用効果を有する。
上述した構成を有する本実施形態の封液供給機構を設けることにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素へ吸い込まれるガスの温度が低下する。言い換えると、ケーシング510内に供給された封液を用いて各圧縮要素へ吸い込まれる前のガスを一旦冷却した後に後段の圧縮要素に吸い込ませることができることから、2段目のロータ531、3段目のロータ541およびケーシング510の熱膨張も小さくなる。したがって、2段目の圧縮要素におけるロータ531とケーシング510とのすき間およびロータ531相互間のすき間、ならびに、3段目の圧縮要素におけるロータ541とケーシング510とのすき間およびロータ541相互間のすき間を狭く設定できる。その結果、2段目および3段目の圧縮要素においてガスの漏れ量(特に3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量)、すなわち、高圧側から低圧側に逆流するガスの量が少なくなるため、体積効率が向上する。
また、2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、2段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から2段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、2段目の圧縮要素の吸込圧力(1段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と1段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、1段目の圧縮要素の軸動力を小さくすることができる。さらに、3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、3段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から3段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、3段目の圧縮要素の吸込圧力(2段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と2段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、2段目の圧縮要素の軸動力も小さくすることができる。このように、3段以上の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプでは、軸動力の低減効果が2段の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプよりも大きくなる。
なお、より確実に吐出ガスの温度上昇を抑制するためには、2段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第2封液供給口516からなる封液供給機構)と、3段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第3封液供給口518からなる封液供給機構)とを両方設けた方が好ましい点については、上述した第4実施形態と同様である。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ500は、ケーシング510とベアリング・ギヤ室573との間、および、ケーシング510とベアリング室574との間に、中間室として、サイドカバー580を有している。このサイドカバー580は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ500の駆動方法を述べる。なお、ポンプ500によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図19~図22に示すように、図示しないモータにより駆動軸568が回転すると、駆動軸568に支持された第1駆動ギヤ564および第2駆動ギヤ565が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ561A、561Bのうち、第1駆動ギヤ564と噛み合う一方の第1タイミングギヤ561Aが、第1駆動ギヤ564とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ561Aの回転数は、第1駆動ギヤ564の回転数から、第1駆動ギヤ564の歯数と第1タイミングギヤ561Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ561Aの歯数/第1駆動ギヤ564の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ561Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ561Bは、第1タイミングギヤ561Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ561Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ521、521は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ521、521の回転により、吸込口511付近のガスが、吸込口511からケーシング510内に吸い込まれた(図20の矢印Gs)後に、ロータ521により圧縮されて1段目と2段目の中間位置に吐き出される(図20の矢印Gm1)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ562A、562Bのうち、第2駆動ギヤ565と噛み合う一方の第2タイミングギヤ562Aが、第2駆動ギヤ565とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ562Aの回転数は、第2駆動ギヤ565の回転数から、第2駆動ギヤ565の歯数と第2タイミングギヤ562Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ562Aの歯数/第2駆動ギヤ565の歯数)で減速された回転数となる。また、第2タイミングギヤ562Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ562Bは、第2タイミングギヤ562Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ562Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ531、531は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ531、531の回転により、1段目のロータ521により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ531に掻き込まれた後に(図20の矢印Gm1)、ロータ531により圧縮されて2段目と3段目の中間位置に吐き出される(図20の矢印Gm2)。
さらに、第2タイミングギヤ562Aと噛み合う2-3段間中間ギヤ566が、第2タイミングギヤ562Aとは反対方向に回転する。ここで、2-3段間中間ギヤ566と第3駆動ギヤ567とは、共通の回転軸570に支持されているため、2-3段間中間ギヤ566と第3駆動ギヤ567は、同じ方向に同じ回転速度で回転駆動する。また、1対の第3タイミングギヤ563A、563Bのうち、第3駆動ギヤ567と噛み合う第3タイミングギヤ563Aが、第3駆動ギヤ567とは反対方向に回転する。このときの第3タイミングギヤ563Aの回転数は、第3駆動ギヤ567の回転数から、第3駆動ギヤ567の歯数と第3タイミングギヤ563Aの歯数との比から算出される減速比(第3タイミングギヤ563Aの歯数/第3駆動ギヤ567の歯数)で減速された回転数となる。なお、第3駆動ギヤ567の回転数は、第2タイミングギヤ562Aと2-3段間中間ギヤ566との歯数の比により算出される変速比で増速された2-3段間中間ギヤ566の回転数と同じである。第3タイミングギヤ563Aと噛み合う他方の第3タイミングギヤ563Bは、第3タイミングギヤ563Aの歯数と同じ歯数であるため、第3タイミングギヤ563Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ541、541は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ541、541の回転により、2段目のロータ531により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から3段目のロータ541に掻き込まれた後に(図20の矢印Gm2)、ロータ541により圧縮されて吐出口513から外部に排出される(図20の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm1が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口515から、より圧力の低い大気に排出され(図20の矢印Ge1および矢印Gd)、中間圧力Pm1が大気圧以下まで下がる。同様に、2段目と3段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm2が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口517から、より圧力の低い大気に排出され(図20の矢印Ge2および矢印Gd)、中間圧力Pm2が大気圧以下まで下がる。したがって、2段目および3段目の圧縮要素(ロータ531、541)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口511から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1、および、3段目の吸込圧力Ps3と2段目の吸込圧力Ps2との差ΔP2を小さくすることができる。その結果、ポンプ500を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ500が吸込口511に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pm1、Pm2が大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口512、514を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口516を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第3封液供給口518を通して3段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目、2段目および3段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目および3段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目および3段目の圧縮要素(特に、3段目の圧縮要素)におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ561Aとの間の第1駆動ギヤ564の減速比が、第2タイミングギヤ562Aとの間の2-3段間中間ギヤ566の減速比よりも小さくなっている。したがって、ロータ521の回転数N1がロータ531の回転数N2よりも高くなる。また、ロータ521の長さL1とロータ531の長さL2が等しく、ロータ521とロータ531の形状が同じであることから、上述したように、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素との間の移動容積比RQ1-2は、1より大きくなる。
同様に、第2タイミングギヤ562Aとの間の2-3段間中間ギヤ566の減速比が、第3タイミングギヤ563Aとの間の第3駆動ギヤ567の減速比よりも小さくなっている。したがって、ロータ531の回転数N2がロータ541の回転数N3よりも高くなる。また、ロータ531の長さL2とロータ541の長さL3が等しく、ロータ531とロータ541の形状が同じであることから、上述したように、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素との間の移動容積比RQ2-3は、1より大きくなる。
すなわち、本実施形態における1段目と2段目の間の関係および2段目と3段目の間の関係はともに第1実施形態と同様である(1段目と2段目と3段目のロータの長さが同じで、回転数が異なる)。
[第6実施形態]
次に、図23~図29を参照しながら、本発明の第6実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図23は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ600(以下、「ポンプ600」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図24および図25は、それぞれ、図23のXXIV-XXIV線およびXXV-XXV線で切断した断面図である。図26および図27は、第1実施形態に係るポンプ100における漏れ面積を説明するための断面図であり、図28および図29は、本実施形態に係るポンプ600における漏れ面積を説明するための断面図である。第1実施形態のポンプ100は、1段目(低圧側)のロータ121と2段目(高圧側)のロータ131の長さおよび直径が同一で、かつ、1段目のロータ121の回転数が2段目のロータ131の回転数よりも高いという例であったが、本実施形態に係るポンプ600は、1段目のロータ621の長さおよび直径が、2段目のロータ631の長さおよび直径よりも大きく、かつ、1段目のロータ621の回転数の方が、2段目のロータ631の回転数よりも低い、という例である。なお、以下では、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図23~図25に示すように、ポンプ600は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング610と、2段(2組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング610の構成および機能は、第1実施形態に係るケーシング110と同様である。
また、ケーシング610は、同じ段の圧縮要素が有する2本の回転軸622、622を含む仮想平面または2本の回転軸632、632を含む仮想平面の法線方向に沿って、2段の圧縮要素が並列配置されるように圧縮要素を収容する。このように、本実施形態では、回転軸622、632の軸方向に対して並列に配置された複数段の圧縮要素が単一のケーシング610に内装されており、各圧縮要素を接続する外部の配管や内部のガス流路などは特に設けられていない。そのため、前段(本実施形態では1段目)の圧縮要素で圧縮されて吐き出されたガスは、後段(本実施形態では2段目)の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれる。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング610内に、吸込口611側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口613側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング610内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ621、621と、2本の回転軸622、622とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ631、631と、2本の回転軸632、632とを有する。
図24に示すように、ロータ621は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部621a、621b、621cを有する形状である。また、各突出部621a、621b、621cの間には、凹部621dが設けられている。同様に、ロータ631も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部631a、631b、631cを有する形状である。また、各突出部631a、631b、631cの間には、凹部631dが設けられている。
1対のロータ621、621は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸622、622は、1対のロータ621、621を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸622、622は、2つのベアリング623、623により支持されている。同様に、1対のロータ631、631は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸632、632は、1対のロータ631、631を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸632、632は、2つのベアリング633、633により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸622と回転軸632とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ631について、ロータ621と重複する説明を省略し、ロータ621の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ621、621同士およびロータ621とケーシング610の内面610aとが接触しないように、各々のロータ621、621同士の間および突出部621a、621b、621cの先端(葉端)とケーシング610の内面610aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ621が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ621、621は、後述するタイミングギヤ661A、661Bにより回転位相が維持されており、ロータ621の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ631は、対となるロータ631およびケーシング610の内面610dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ631、631は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。ここで、本実施形態では、後述するように、2段目のロータ631相互間およびロータ631とケーシング610との間のすき間の方が、1段目のロータ621相互間およびロータ621とケーシング610との間のすき間よりも狭く設定される。その他、ロータ621、631の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ600では、1段目の圧縮要素であるロータ621、回転軸622等と、2段目の圧縮要素であるロータ631、回転軸632等とは、単一のケーシング610内において、同じ段の2本の回転軸622、622(または2本の回転軸632、632)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ621と2段目のロータ631とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口611、1段目のロータ621、2段目のロータ631および吐出口613が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口611からケーシング610内に導入されると(図24の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ621により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図24の矢印Gm)。ロータ621により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ631により圧縮された後に、そのまま吐出口613からケーシング610外に排出される(図24の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ600によれば、単一のケーシング610内において、1段目のロータ621と2段目のロータ631とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ621)と2段目の圧縮要素(ロータ631)との間に仕切りを設けなくても、ロータ621、631の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ600では、ロータ621とロータ631とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸622、632やケーシング610の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ600を大風量化するためにロータ621、631の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ600の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ600においても、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ621)と2段目の圧縮要素(ロータ631)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング610とロータ621またはロータ631とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さであり、Nは、ロータの回転数である。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸622、632に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ600における移動容積比RQは、以下のようにして計算される。まず、1段目のロータ621を例に挙げると、左右1対のロータ621、621が1回転する毎に、それぞれ、ガスの吸い込みと吐き出しが6回(左側のロータ621と右側のロータ621とで、それぞれ3回ずつ)繰り返される。2段目のロータ631についても同様である。ここで、図24に示すように、ロータ621の2片の突出部(例えば、突出部621aと突出部621b)とケーシング610の内面610aとで囲まれる空間の回転軸622に垂直な断面の断面積をS1とすると、1段目(低圧側)の圧縮要素の移動面積A1は、A1=6×S1となる。同様に、ロータ631の2片の突出部(例えば、突出部631aと突出部631b)とケーシング610の内面610dとで囲まれる空間の回転軸632に垂直な断面の断面積をS2とすると、2段目(高圧側)の圧縮要素の移動面積A2は、A2=6×S2となる。以上より、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ621の長さ、L2は2段目のロータ631の長さ、N1は1段目のロータ621の回転数、N2は2段目のロータ631の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ600では、ロータ621の直径D1は、ロータ631の直径D2よりも大きい(D1>D2)。したがって、1段目の移動面積A1は、2段目の移動面積A2よりも大きくなる(A1>A2)。また、1段目のロータ621の長さL1が、2段目のロータ631の長さL2よりも長い(L1>L2)。一方、1段目のロータ621の回転数N1は、2段目のロータ631の回転数N2よりも低い(N1<N2)。このような場合であっても、移動容積比RQを1以上とすることができれば、第1実施形態とは異なり、2段目(高圧側)のロータ631の回転数を、1段目(低圧側)のロータ621の回転数よりも高くしてもよい。
この第6実施形態に係るポンプ600の構成からわかるように、隣接する圧縮要素間の移動容積比RQを1以上とすることができさえすれば、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素とで、ロータの直径および長さ、ならびに各ロータの回転数を自由に設計することができる。例えば、本実施形態のように、1段目(低圧側)のロータ621の直径D1を2段目(高圧側)のロータ631の直径D2よりも大きくした場合には、移動容積比RQが1以上という要件を満たす必要はあるが、1段目のロータ621の長さが2段目のロータ631の長さ以上であり、かつ、1段目のロータ621の回転速度が2段目のロータ631の回転速度以下である、といった場合もあり得る。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ600の駆動軸667の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図23および図25に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ661と、1対の第2タイミングギヤ662と、第1駆動ギヤ665と、第2駆動ギヤ666と、モータ入力軸である単一の駆動軸667と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ661A、661Bは、1段目の2本の回転軸622の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ621、621の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ662A、662Bは、2段目の2本の回転軸632の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ631、631の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、第1駆動ギヤ665は、1対の第1タイミングギヤ661のうちの一方の第1タイミングギヤ661Aと噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ666は、1対の第2タイミングギヤ662のうちの一方の第2タイミングギヤ662Aと噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸667は、第1駆動ギヤ665と第2駆動ギヤ666とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ665と第2駆動ギヤ666とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。この駆動軸667は、サイドカバー680に設けられたベアリング668と、ベアリング・ギヤ室673に設けられたベアリング668とにより支持されている。また、ベアリング・ギヤ室673に設けられたベアリング668側の駆動軸667の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、2段目のロータ631の回転数が、1段目のロータ621の回転数より高い。言い換えると、2段目のロータ631の回転速度が、1段目のロータ621の回転速度より速い。そこで、ポンプ600では、2段目のロータ631の回転数が1段目のロータ621の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ665および第2駆動ギヤ666の歯数が設定される。図25には、例えば、駆動軸667の回転速度から回転軸622の回転速度を減速させ、回転軸632の回転速度を増速する例が示されている。図25に示した例では、第1タイミングギヤ661の歯数が、第1駆動ギヤ665の歯数よりも多く、第1駆動ギヤ665の歯数が、第2駆動ギヤ666の歯数よりも少なく、第2タイミングギヤ662の歯数が、第2駆動ギヤ666の歯数よりも少なくなっている。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ600を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング610が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口615をさらに有してもよい。図24に示した例では、中間吐出口615をケーシング610の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口615の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図24に示した断面において、ケーシング610の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口615が設けられていてもよい。中間吐出口615は、第1実施形態に係る中間吐出口115と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
図23および図24に示すように、本実施形態に係るポンプ600にも、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口612、614と、第2封液供給口616(616A、616B)とが設けられている。第1封液供給口612は、ポンプ600の吸込口611に接続された配管611aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口614は、ケーシング610におけるロータ621の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。また、第2封液供給口616は、ケーシング610の側面において、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ600は、ケーシング610とベアリング・ギヤ室673との間、および、ケーシング610とベアリング室674との間に、中間室として、サイドカバー680を有している。このサイドカバー680は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
<ガスの漏れ量>
図26~図29を参照しながら、多段ルーツ式ポンプに含まれる各圧縮要素におけるガスの漏れ量について説明する。なお、図26は、図27のXXVI-XXVI線により切断した断面図であり、図28は、図29のXXVIII-XXVIII線により切断した断面図である。
圧縮要素における吐出側(高圧側)から吸込側(低圧側)へのガスの漏れ量QLは、多段ルーツ式ポンプの吸込圧力Psと吐出圧力Pdとの差圧ΔP(=Pd-Ps)と、ロータ相互間、ロータとケーシング間等のすき間により形成される漏れ面積ALと、により決まる。差圧ΔPが一定であるとすると、漏れ面積ALが小さいほど、吐出側から吸込側へのガスの漏れ量QLが少なくなる。後段の圧縮要素の吐出側(高圧側)から吸込側(低圧側)へのガスの漏れ量QLが少なくなると、後段の圧縮要素への吸込圧力PsHが低下する。吸込圧力PsHが低下すると、前段の圧縮要素への吸込圧力PsLとの差圧が小さくなるため、前段の圧縮要素の軸動力が低下する。以下、本実施形態に係るポンプ600におけるガスの漏れ面積ALについて、第1実施形態に係るポンプ100におけるガスの漏れ面積ALと比較しながら述べる。
まず、図26および図27に示すように、第1実施形態に係るポンプ100において、1段目の圧縮要素における全漏れ面積AL1および2段目の圧縮要素における全漏れ面積AL2は、それぞれ、以下の式(6)および(7)で表される。
AL1=Ar1+Ax1+As1 ・・・(6)
AL2=Ar2+Ax2+As2 ・・・(7)
ただし、式(6)において、Ar1は、1段目のロータ121の突出部の先端とケーシング110の内面とのすき間により形成される漏れ面積であり、Ax1は、ロータ121相互間のすき間により形成される漏れ面積であり、As1は、ロータ121の長さ方向の両端(ロータサイド)とケーシング110との間のすき間により形成される漏れ面積である。また、式(7)において、Ar2は、2段目のロータ131の突出部の先端とケーシング110の内面とのすき間により形成される漏れ面積であり、Ax2は、ロータ131相互間のすき間により形成される漏れ面積であり、As2は、ロータ131のロータサイドとケーシング110との間のすき間により形成される漏れ面積である。
また、漏れ面積Ar1、Ax1、As1、Ar2、Ax2、As2は、以下の式(6-1)~(6-3)および(7-1)~(7-3)により求められる。
Ar1=2×Cr1×L1 ・・・(6-1)
Ax1=Cx1×L1 ・・・(6-2)
As1=CsA1×(D1+H1)+CsB1×(D1+H1) ・・・(6-3)
Ar2=2×Cr2×L2 ・・・(7-1)
Ax2=Cx2×L2 ・・・(7-2)
As2=CsA2×(D2+H2)+CsB2×(D2+H2) ・・・(7-3)
ただし、式(6-1)~(6-3)および(7-1)~(7-3)において、Cr1、Cr2は、それぞれ、ロータ121、131の突出部の先端とケーシング110の内面とのすき間の図26に示した断面での距離である。Cx1、Cx2は、それぞれ、ロータ121、131相互間のすき間の図26で示した断面での距離である。CsA1、CsA2は、それぞれ、ロータ121、131の長さ方向の一方のロータサイドとケーシング110との間のすき間の図27に示した断面での距離である。CsB1、CsB2は、それぞれ、ロータ121,131の長さ方向の他方のロータサイドとケーシング110との間のすき間の図27に示した断面での距離である。また、L1、L2は、それぞれ、ロータ121、131の長さであり、D1、D2は、それぞれ、ロータ121、131の直径である。
ここで、上述したように、ポンプ100のような並列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、第1実施形態のように封液供給機構を設けない場合には、1段目(低圧側)の圧縮要素で圧縮されたガスが、放熱されずに2段目(高圧側)の圧縮要素に直接吸い込まれ、2段目の圧縮要素でさらに圧縮されることにより、ガスの温度が著しく上昇する。そこで、第1実施形態では、封液供給機構により1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスを冷却することにより、2段目の圧縮要素におけるガスの温度上昇を抑制している。そのため、すき間Cr2、Cx2、CsA2、CsB2をロータ131の熱膨張を見越して広めに取る必要がない。
仮に、ポンプ100において封液供給機構を設けない場合には、すき間Cr2、Cx2、CsA2、CsB2をロータ131の熱膨張を見越して広めに取る必要がある。その結果、2段目の圧縮要素における漏れ面積Ar2、Ax2、As2が大きくなり(すなわち、全漏れ面積AL2が大きくなり)、吐出側から吸込側へのガスの漏れ量が増加する。
次に、図28および図29に示すように、本実施形態に係るポンプ600においても、1段目の圧縮要素における全漏れ面積AL1および2段目の圧縮要素における全漏れ面積AL2は、それぞれ、上記の式(6)および(7)で表される。
ただし、式(6)において、Ar1は、1段目のロータ621の突出部の先端とケーシング610の内面とのすき間により形成される漏れ面積であり、Ax1は、ロータ621相互間のすき間により形成される漏れ面積であり、As1は、ロータ621の長さ方向の両端(ロータサイド)とケーシング610との間のすき間により形成される漏れ面積である。また、式(7)において、Ar2は、2段目のロータ631の突出部の先端とケーシング610の内面とのすき間により形成される漏れ面積であり、Ax2は、ロータ631相互間のすき間により形成される漏れ面積であり、As2は、ロータ631のロータサイドとケーシング610との間のすき間により形成される漏れ面積である。
また、ポンプ600においても、漏れ面積Ar1、Ax1、As1、Ar2、Ax2、As2は、上記の式(6-1)~(6-3)および(7-1)~(7-3)により求められる。
ただし、式(6-1)~(6-3)および(7-1)~(7-3)において、Cr1、Cr2は、それぞれ、ロータ621、631の突出部の先端とケーシング610の内面とのすき間の図28に示した断面での距離である。Cx1、Cx2は、それぞれ、ロータ621、631相互間のすき間の図28で示した断面での距離である。CsA1、CsA2は、それぞれ、ロータ621、631の長さ方向の一方のロータサイドとケーシング610との間のすき間の図29に示した断面での距離である。CsB1、CsB2は、それぞれ、ロータ621,631の長さ方向の他方のロータサイドとケーシング610との間のすき間の図29に示した断面での距離である。また、L1、L2は、それぞれ、ロータ621、631の長さであり、D1、D2は、それぞれ、ロータ621、631の直径である。
ここで、ロータ相互間、ロータとケーシング間等のすき間は、ロータ、ケーシングの熱膨張量を考慮して設定されるが、熱膨張量はロータの長さおよび直径に比例するため、ロータの長さが短いほど、ロータの直径が小さいほど、各々の隙間を小さく設定できる。本実施形態に係るポンプ600では、2段目のロータ631の長さL2が、1段目のロータ621の長さL1よりも小さく、かつ、2段目のロータ631の直径D2が、1段目のロータ621の直径D1よりも小さい。したがって、ロータ631の熱膨張量が小さくなるため、ポンプ600の2段目の圧縮要素における各々のすき間Cr2、Cx2、CsA2、CsB2を、1段目の圧縮要素における各々のすき間Cr1、Cx1、CsA1、CsB1よりも小さく設定できる。その結果、ポンプ600の2段目の圧縮要素における漏れ面積Ar2、Ax2、As2が小さくなり(すなわち、全漏れ面積AL2が小さくなり)、吐出側から吸込側へのガスの漏れ量QLが減少する。
以上述べたように、本実施形態に係るポンプ600のように、高圧側の圧縮要素におけるロータ(本実施形態では、2段目のロータ631)のサイズを小さくすることにより、第1実施形態に係るポンプ100等のように封液供給機構を設けなくても、高圧側の圧縮要素の吐出側(高圧側)から吸込側(低圧側)へのガスの漏れ量QLを減少させることができる。一方で、2段目のロータ631のサイズが小さくなることにより、2段目の圧縮要素の1回転当たりの移動容積が小さくなるため、2段目のロータ631の回転数を上げることで2段目の移動容積Qth2を所定の大きさに調整している。
例えば、2段目のロータ631のサイズを小さくした上で、さらに、ロータ631の回転数N2を1段目のロータ621の回転数N1と同じか、ロータ621の回転数N1よりも低くすると、2段目の圧縮要素の移動容積Qth2が小さくなりすぎてしまう。ここで、ポンプ全体としての圧力比rの仕様は決まっている(例えば、2段のルーツ式ポンプの場合には、r≦3)ことから、2段目の圧縮の要素の移動容積Qth2が小さくなると、その分、1段目の圧縮要素の移動容積Qth1を大きくする必要がある。したがって、このような場合、移動容積Qth2が小さくなりすぎた分、移動容積Qth1が大きくなりすぎてしまう。すなわち、移動容積比RQ(=Qth2/Qth1)が大きくなりすぎてしまう。1段目の移動容積Qth1が大きくなりすぎると、1段目の圧縮要素で圧縮されるガスの圧縮率も高くなることから、その分、1段目の圧縮要素で圧縮後のガスの温度の上昇量も大きくなる。また、移動容積比RQが大きくなりすぎると、1段目の圧縮要素の2段目の圧縮要素に対する仕事の分担の割合が高くなることから、1段目の軸動力が大きくなりすぎてしまう。
そこで、本実施形態に係るポンプ600では、2段目のロータ631のサイズを小さくした場合でも、2段目の圧縮要素の移動容積Qth2が小さくなりすぎないように、2段目のロータ631の回転数N2を上げる(1段目のロータ621の回転数N1よりも高くする)ことにより、移動容積比RQが大きくなりすぎないように、2段目の圧縮要素の移動容積Qth2を適切な大きさに調整している。
以上の構成を有する本実施形態に係るポンプ600によれば、上述したように、ロータ631のサイズを小さくすることにより、2段目の圧縮要素における漏れ量QL2が低下するため、2段目の圧縮要素への吸込圧力PsHが低下する。吸込圧力PsHが低下すると、1段目の圧縮要素への吸込圧力PsLとの差圧が小さくなるため、1段目の圧縮要素の軸動力が低下する。一方、2段目の圧縮要素への吸込圧力PsHが低下することから、2段目の圧縮要素からの吐出圧力PdHとの差圧が大きくなることから、2段目の軸動力は高くなる。しかし、2段目のロータ631のサイズが小さいことから、2段目の軸動力の上昇分は、1段目の軸動力の低下分よりも小さくなるため、ポンプ600全体としての軸動力は低下する。このことは、後述する実施例においても示されている。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ600の駆動方法を述べる。なお、ポンプ600によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図23および図25に示すように、図示しないモータにより駆動軸667が回転すると、駆動軸667に支持された第1駆動ギヤ665および第2駆動ギヤ666が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ661A、661Bのうち、第1駆動ギヤ665と噛み合う一方の第1タイミングギヤ661Aが、第1駆動ギヤ665とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ661Aの回転数は、第1駆動ギヤ665の回転数から、第1駆動ギヤ665の歯数と第1タイミングギヤ661Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ661Aの歯数/第1駆動ギヤ665の歯数)で減速された回転数となる。また、一方の第1タイミングギヤ661Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ661Bは、第1タイミングギヤ661Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ661Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ621、621は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ621、621の回転により、吸込口611付近のガスが、吸込口611からケーシング610内に吸い込まれた(図24の矢印Gs)後に、ロータ621により圧縮されて中間位置に吐き出される(図24の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ662A、662Bのうち、第2駆動ギヤ666と噛み合う一方の第2タイミングギヤ662Aが、第2駆動ギヤ666とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ662Aの回転数は、第2駆動ギヤ666の回転数から、第2駆動ギヤ666の歯数と第2タイミングギヤ662Aの歯数との比から算出される変速比(第2タイミングギヤ662Aの歯数/第2駆動ギヤ666の歯数)で増速された回転数となる。また、一方の第2タイミングギヤ662Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ662Bは、一方の第2タイミングギヤ662Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ662Aと互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ631、631は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ631、631の回転により、1段目のロータ621により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ631に掻き込まれた(図24の矢印Gm)後に、ロータ631により圧縮されて吐出口613から外部に排出される(図24の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口615から、より圧力の低い大気に排出され(図24の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ631)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口611から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ600を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ600が吸込口611に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口612、614を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口616を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ661の回転速度が減速される一方で、第2タイミングギヤ662の回転速度が増速されるように、各ギヤの歯数が決められている。また、ロータ621の直径D1がロータ631の直径D2よりも大きい。さらに、ロータ621の長さL1がロータ631の長さL2よりも長い。このような特殊な条件下であっても、上述したように、移動容積比RQが1より大きくなるようにすることは可能である。
[第7実施形態]
次に、図30および図31を参照しながら、本発明の第7実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図30は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ700(以下、「ポンプ700」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図31は、図30のXXXI-XXXI線で切断した断面図である。第6実施形態のポンプ600は、1段目(低圧側)のロータ621と2段目(高圧側)のロータ631の長さおよび直径が異なるという例であったが、本実施形態に係るポンプ700は、1段目のロータ721の長さが、2段目のロータ731の長さよりも大きく、かつ、1段目のロータ721の直径が、2段目のロータ731の直径と等しい、という例である。なお、以下では、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図30および図31に示すように、ポンプ700は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング710と、2段(2組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング710の構成および機能は、第6実施形態に係るケーシング610と同様である。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング710内に、吸込口711側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口713側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング710内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ721、721と、2本の回転軸722、722とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ731、731と、2本の回転軸732、732とを有する。
図31に示すように、ロータ721は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部721a、721b、721cを有する形状である。また、各突出部721a、721b、721cの間には、凹部721dが設けられている。同様に、ロータ731も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部731a、731b、731cを有する形状である。また、各突出部731a、731b、731cの間には、凹部731dが設けられている。
1対のロータ721、721は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸722、722は、1対のロータ721、721を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸722、722は、2つのベアリング723、723により支持されている。同様に、1対のロータ731、731は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸732、732は、1対のロータ731、731を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸732、732は、2つのベアリング733、733により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸722と回転軸732とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ731について、ロータ721と重複する説明を省略し、ロータ721の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ721、721同士およびロータ721とケーシング710の内面710aとが接触しないように、各々のロータ721、721同士の間および突出部721a、721b、721cの先端(葉端)とケーシング710の内面710aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ721が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ721、721は、後述するタイミングギヤ761、761により回転位相が維持されており、ロータ721の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ731は、対となるロータ731およびケーシング710の内面710dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ731、731は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。ここで、本実施形態では、後述するように、2段目のロータ731相互間およびロータ731とケーシング710との間のすき間の方が、1段目のロータ721相互間およびロータ721とケーシング710との間のすき間よりも狭く設定される。その他、ロータ721、731の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ700では、1段目の圧縮要素であるロータ721、回転軸722等と、2段目の圧縮要素であるロータ731、回転軸732等とは、単一のケーシング710内において、同じ段の2本の回転軸722、722(または2本の回転軸732、732)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ721と2段目のロータ731とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口711、1段目のロータ721、2段目のロータ731および吐出口713が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口711からケーシング710内に導入されると(図31の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ721により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図31の矢印Gm)。ロータ721により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ731により圧縮された後に、そのまま吐出口713からケーシング710外に排出される(図31の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ700によれば、単一のケーシング710内において、1段目のロータ721と2段目のロータ731とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ721)と2段目の圧縮要素(ロータ731)との間に仕切りを設けなくても、ロータ721、731の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ700では、ロータ721とロータ731とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸722、732やケーシング710の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ700を大風量化するためにロータ721、731の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ700の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ700においても、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ721)と2段目の圧縮要素(ロータ731)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング710とロータ721またはロータ731とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さであり、Nは、ロータの回転数である。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸722、732に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ700における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、上述した第6実施形態と同様に、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ721の長さ、L2は2段目のロータ731の長さ、N1は1段目のロータ721の回転数、N2は2段目のロータ731の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ700では、ロータ721の直径D1は、ロータ731の直径D2と等しい(D1=D2)ため、1段目の移動面積A1は、2段目の移動面積A2と等しい(A1=A2)。また、1段目のロータ721の長さL1が、2段目のロータ731の長さL2よりも長い(L1>L2)。一方、1段目のロータ721の回転数N1は、2段目のロータ731の回転数N2よりも低い(N1<N2)。このような場合であっても、移動容積比RQを1以上とすることができれば、第1実施形態とは異なり、2段目(高圧側)のロータ731の回転数を、1段目(低圧側)のロータ721の回転数よりも高くしてもよい。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ700の駆動軸767の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図30に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ761と、1対の第2タイミングギヤ762と、第1駆動ギヤ765と、第2駆動ギヤ766と、モータ入力軸である単一の駆動軸767と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ761、761は、1段目の2本の回転軸722の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ721、721の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ762、762は、2段目の2本の回転軸732の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ731、731の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、第1駆動ギヤ765は、1対の第1タイミングギヤ761のうちの一方の第1タイミングギヤ761と噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ766は、1対の第2タイミングギヤ762のうちの一方の第2タイミングギヤ762と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸767は、第1駆動ギヤ765と第2駆動ギヤ766とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ765と第2駆動ギヤ766とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。この駆動軸767は、サイドカバー780に設けられたベアリング768と、ベアリング・ギヤ室773に設けられたベアリング768とにより支持されている。また、ベアリング・ギヤ室773に設けられたベアリング768側の駆動軸767の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、2段目のロータ731の回転数が、1段目のロータ721の回転数より高い。言い換えると、2段目のロータ731の回転速度が、1段目のロータ721の回転速度より速い。そこで、ポンプ700では、2段目のロータ731の回転数が1段目のロータ721の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ765および第2駆動ギヤ766の歯数が設定される。図30には、例えば、駆動軸767の回転速度から回転軸722の回転速度を減速させ、回転軸732の回転速度を増速する例が示されている。図30に示した例では、第1タイミングギヤ761の歯数が、第1駆動ギヤ765の歯数よりも多く、第1駆動ギヤ765の歯数が、第2駆動ギヤ766の歯数よりも少なく、第2タイミングギヤ762の歯数が、第2駆動ギヤ766の歯数よりも少なくなっている。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ700を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング710が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口715をさらに有してもよい。図31に示した例では、中間吐出口715をケーシング710の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口715の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図31に示した断面において、ケーシング710の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口715が設けられていてもよい。中間吐出口715は、第6実施形態に係る中間吐出口615と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
図30および図31に示すように、本実施形態に係るポンプ700にも、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口712、714と、第2封液供給口716(716A、716B)とが設けられている。第1封液供給口712は、ポンプ700の吸込口711に接続された配管711aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口714は、ケーシング710におけるロータ721の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。また、第2封液供給口716は、ケーシング710の側面において、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ700は、ケーシング710とベアリング・ギヤ室773との間、および、ケーシング710とベアリング室774との間に、中間室として、サイドカバー780を有している。このサイドカバー780は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
<ガスの漏れ量>
2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量QLに関しては、基本的に、上述した第6実施形態と同様であるが、以下の点で相違する。すなわち、本実施形態では、ロータ731の直径D2は、ロータ721の直径D1と等しいため、2段目の圧縮要素におけるロータ731とケーシング710との間のすき間Cr2と、ロータ731相互間のすき間Cx2の減少効果が第6実施形態よりも小さい。そのため、2段目の圧縮要素における漏れ面積Ar2、Ax2の減少効果が第6実施形態よりも小さい。しかしながら、ロータ731のロータサイドのすき間CsA2、CsB2の減少効果は第6実施形態と同等にできるため、2段目の圧縮要素における全漏れ面積AL2の減少効果は、本実施形態においても十分に得られる。その結果、2段目の圧縮要素における吐出側から吸込側へのガスの漏れ量QLが減少する。ただし、全漏れ面積AL2の減少効果をさらに高めるためには、上述した第6実施形態のように、ロータ731の直径D2をロータ721の直径D1よりも小さくすることが好ましい。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ700の駆動方法を述べる。なお、ポンプ700によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図30に示すように、図示しないモータにより駆動軸767が回転すると、駆動軸767に支持された第1駆動ギヤ765および第2駆動ギヤ766が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ761、761のうち、第1駆動ギヤ765と噛み合う一方の第1タイミングギヤ761が、第1駆動ギヤ765とは反対方向に回転する。このときの一方の第1タイミングギヤ761の回転数は、第1駆動ギヤ765の回転数から、第1駆動ギヤ765の歯数と一方の第1タイミングギヤ761の歯数との比から算出される減速比(一方の第1タイミングギヤ761の歯数/第1駆動ギヤ765の歯数)で減速された回転数となる。また、一方の第1タイミングギヤ761と噛み合う他方の第1タイミングギヤ761は、一方の第1タイミングギヤ761の歯数と同じ歯数であるため、一方の第1タイミングギヤ761と反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ721、721は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ721、721の回転により、吸込口711付近のガスが、吸込口711からケーシング710内に吸い込まれた(図31の矢印Gs)後に、ロータ721により圧縮されて中間位置に吐き出される(図31の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ762、762のうち、第2駆動ギヤ766と噛み合う一方の第2タイミングギヤ762が、第2駆動ギヤ766とは反対方向に回転する。このときの一方の第2タイミングギヤ762の回転数は、第2駆動ギヤ766の回転数から、第2駆動ギヤ766の歯数と一方の第2タイミングギヤ762の歯数との比から算出される変速比(一方の第2タイミングギヤ762の歯数/第2駆動ギヤ766の歯数)で増速された回転数となる。また、一方の第2タイミングギヤ762と噛み合う他方の第2タイミングギヤ762は、一方の第2タイミングギヤ762の歯数と同じ歯数であるため、一方の第2タイミングギヤ762と互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ731、731は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ731、731の回転により、1段目のロータ721により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ731に掻き込まれた(図31の矢印Gm)後に、ロータ731により圧縮されて吐出口713から外部に排出される(図31の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口715から、より圧力の低い大気に排出され(図31の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ731)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口711から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ700を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ700が吸込口711に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口712、714を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口716を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ761の回転速度が減速される一方で、第2タイミングギヤ762の回転速度が増速されるように、各ギヤの歯数が決められている。また、ロータ721の長さL1がロータ731の長さL2よりも長い。このような特殊な条件下であっても、上述したように、移動容積比RQが1より大きくなるようにすることは可能である。
[第8実施形態]
次に、図32および図33を参照しながら、本発明の第8実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図32は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ800(以下、「ポンプ800」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図33は、図32のXXXIII-XXXIII線で切断した断面図である。第6実施形態のポンプ600は、1段目(低圧側)のロータ621と2段目(高圧側)のロータ631の長さおよび直径が異なるという例であったが、本実施形態に係るポンプ800は、1段目のロータ821の直径が、2段目のロータ831の直径よりも大きく、かつ、1段目のロータ821の長さが、2段目のロータ831の長さと等しい、という例である。なお、以下では、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図32および図33に示すように、ポンプ800は、回転圧縮機の一種である2段ルーツ式ポンプであり、ケーシング810と、2段(2組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング810の構成および機能は、第6実施形態に係るケーシング610と同様である。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング810内に、吸込口811側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口813側に位置する2段目(高圧側)の圧縮要素の、2段の圧縮要素とが設けられている。2段の圧縮要素間には、直列内装型多段ルーツ式ポンプのように、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング810内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ821、821と、2本の回転軸822、822とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ831、831と、2本の回転軸832、832とを有する。
図33に示すように、ロータ821は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部821a、821b、821cを有する形状である。また、各突出部821a、821b、821cの間には、凹部821dが設けられている。同様に、ロータ831も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部831a、831b、831cを有する形状である。また、各突出部831a、831b、831cの間には、凹部831dが設けられている。
1対のロータ821、821は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸822、822は、1対のロータ821、821を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸822、822は、2つのベアリング823、823により支持されている。同様に、1対のロータ831、831は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸832、832は、1対のロータ831、831を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸832、832は、2つのベアリング833、833により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸822と回転軸832とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ831について、ロータ821と重複する説明を省略し、ロータ821の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ821、821同士およびロータ821とケーシング810の内面810aとが接触しないように、各々のロータ821、821同士の間および突出部821a、821b、821cの先端(葉端)とケーシング810の内面810aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ821が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ821、821は、後述するタイミングギヤ861、861により回転位相が維持されており、ロータ821の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ831は、対となるロータ831およびケーシング810の内面810dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ831、831は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。ここで、本実施形態では、後述するように、2段目のロータ831相互間およびロータ831とケーシング810との間のすき間の方が、1段目のロータ821相互間およびロータ821とケーシング810との間のすき間よりも狭く設定される。その他、ロータ821、831の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ800では、1段目の圧縮要素であるロータ821、回転軸822等と、2段目の圧縮要素であるロータ831、回転軸832等とは、単一のケーシング810内において、同じ段の2本の回転軸822、822(または2本の回転軸832、832)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ821と2段目のロータ831とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口811、1段目のロータ821、2段目のロータ831および吐出口813が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口811からケーシング810内に導入されると(図33の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ821により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図33の矢印Gm)。ロータ821により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ831により圧縮された後に、そのまま吐出口813からケーシング810外に排出される(図33の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ800によれば、単一のケーシング810内において、1段目のロータ821と2段目のロータ831とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、直列内装型多段ルーツ式ポンプと異なり、1段目の圧縮要素(ロータ821)と2段目の圧縮要素(ロータ831)との間に仕切りを設けなくても、ロータ821、831の配置自体で、2段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、2段のロータを有する場合、ロータ2つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ800では、ロータ821とロータ831とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸822、832やケーシング810の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ800を大風量化するためにロータ821、831の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ800の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ800においても、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ821)と2段目の圧縮要素(ロータ831)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング810とロータ821またはロータ831とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さであり、Nは、ロータの回転数である。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸822、832に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ800における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、上述した第6実施形態と同様に、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ821の長さ、L2は2段目のロータ831の長さ、N1は1段目のロータ821の回転数、N2は2段目のロータ831の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ800では、ロータ821の直径D1が、ロータ831の直径D2よりも大きい(D1>D2)ため、1段目の移動面積A1は、2段目の移動面積A2より大きい(A1>A2)。また、1段目のロータ821の長さL1は、2段目のロータ831の長さL2と等しい(L1=L2)。一方、1段目のロータ821の回転数N1は、2段目のロータ831の回転数N2よりも低い(N1<N2)。このような場合であっても、移動容積比RQを1以上とすることができれば、第1実施形態とは異なり、2段目(高圧側)のロータ831の回転数を、1段目(低圧側)のロータ821の回転数よりも高くしてもよい。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ800の駆動軸867の軸動力を低減できる。
<駆動機構>
図32に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ861と、1対の第2タイミングギヤ862と、第1駆動ギヤ865と、第2駆動ギヤ866と、モータ入力軸である単一の駆動軸867と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ861、861は、1段目の2本の回転軸822の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ821、821の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ862、862は、2段目の2本の回転軸832の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ831、831の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、第1駆動ギヤ865は、1対の第1タイミングギヤ861のうちの一方の第1タイミングギヤ861と噛み合うように設けられており、第2駆動ギヤ866は、1対の第2タイミングギヤ862のうちの一方の第2タイミングギヤ862と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸867は、第1駆動ギヤ865と第2駆動ギヤ866とを回転可能に支持する。すなわち、第1駆動ギヤ865と第2駆動ギヤ866とは、同一の駆動軸に回転可能に支持される。この駆動軸867は、サイドカバー880に設けられたベアリング868と、ベアリング・ギヤ室873に設けられたベアリング868とにより支持されている。また、ベアリング・ギヤ室873に設けられたベアリング868側の駆動軸867の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。
上述したように、本実施形態では、2段目のロータ831の回転数が、1段目のロータ821の回転数より高い。言い換えると、2段目のロータ831の回転速度が、1段目のロータ821の回転速度より速い。そこで、ポンプ800では、2段目のロータ831の回転数が1段目のロータ821の回転数より高くなるように、第1駆動ギヤ865および第2駆動ギヤ866の歯数が設定される。図32には、例えば、駆動軸867の回転速度から回転軸822の回転速度を減速させ、回転軸832の回転速度を増速する例が示されている。図32に示した例では、第1タイミングギヤ861の歯数が、第1駆動ギヤ865の歯数よりも多く、第1駆動ギヤ865の歯数が、第2駆動ギヤ866の歯数よりも少なく、第2タイミングギヤ862の歯数が、第2駆動ギヤ866の歯数よりも少なくなっている。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ800を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング810が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、ガスを外部に吐出する中間吐出口815をさらに有してもよい。図33に示した例では、中間吐出口815をケーシング810の左側面に1箇所のみ設けた例が示されているが、中間吐出口815の数は特に制限されず、2箇所以上設けてもよい。例えば、図33に示した断面において、ケーシング810の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、中間吐出口815が設けられていてもよい。中間吐出口815は、第6実施形態に係る中間吐出口615と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
図32および図33に示すように、本実施形態に係るポンプ800にも、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口812、814と、第2封液供給口816(816A、816B)とが設けられている。第1封液供給口812は、ポンプ800の吸込口811に接続された配管811aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口814は、ケーシング810におけるロータ821の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。また、第2封液供給口816は、ケーシング810の側面において、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ800は、ケーシング810とベアリング・ギヤ室873との間、および、ケーシング810とベアリング室874との間に、中間室として、サイドカバー880を有している。このサイドカバー880は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
<ガスの漏れ量>
2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量QLに関しては、基本的に、上述した第6実施形態と同様であるが、以下の点で相違する。すなわち、本実施形態では、ロータ831の長さL2は、ロータ821の長さL1と等しいため、2段目の圧縮要素におけるロータ831のロータサイドのすき間CsA2、CsB2の減少効果が第6実施形態よりも小さい。そのため、2段目の圧縮要素における漏れ面積As2の減少効果が第6実施形態よりも小さい。しかしながら、ロータ831とケーシング810との間のすき間Cr2と、ロータ731相互間のすき間Cx2の減少効果は第6実施形態と同等にできるため、2段目の圧縮要素における全漏れ面積AL2の減少効果は、本実施形態においても十分に得られる。その結果、2段目の圧縮要素における吐出側から吸込側へのガスの漏れ量QLが減少する。ただし、全漏れ面積AL2の減少効果をさらに高めるためには、上述した第6実施形態のように、ロータ831の長さL2をロータ821の長さL1よりも短くすることが好ましい。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ800の駆動方法を述べる。なお、ポンプ800によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図32に示すように、図示しないモータにより駆動軸867が回転すると、駆動軸867に支持された第1駆動ギヤ865および第2駆動ギヤ866が同じ方向に回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ861、861のうち、第1駆動ギヤ865と噛み合う一方の第1タイミングギヤ861が、第1駆動ギヤ865とは反対方向に回転する。このときの一方の第1タイミングギヤ861の回転数は、第1駆動ギヤ865の回転数から、第1駆動ギヤ865の歯数と一方の第1タイミングギヤ861の歯数との比から算出される減速比(一方の第1タイミングギヤ861の歯数/第1駆動ギヤ865の歯数)で減速された回転数となる。また、一方の第1タイミングギヤ861と噛み合う他方の第1タイミングギヤ861は、一方の第1タイミングギヤ861の歯数と同じ歯数であるため、一方の第1タイミングギヤ861と反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ821、821は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ821、821の回転により、吸込口811付近のガスが、吸込口811からケーシング810内に吸い込まれた(図33の矢印Gs)後に、ロータ821により圧縮されて中間位置に吐き出される(図33の矢印Gm)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ862、862のうち、第2駆動ギヤ866と噛み合う一方の第2タイミングギヤ862が、第2駆動ギヤ866とは反対方向に回転する。このときの一方の第2タイミングギヤ862の回転数は、第2駆動ギヤ866の回転数から、第2駆動ギヤ866の歯数と一方の第2タイミングギヤ862の歯数との比から算出される変速比(一方の第2タイミングギヤ862の歯数/第2駆動ギヤ866の歯数)で増速された回転数となる。また、一方の第2タイミングギヤ862と噛み合う他方の第2タイミングギヤ862は、一方の第2タイミングギヤ862の歯数と同じ歯数であるため、一方の第2タイミングギヤ862と互いに反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ831、831は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ831、831の回転により、1段目のロータ821により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ831に掻き込まれた(図33の矢印Gm)後に、ロータ831により圧縮されて吐出口813から外部に排出される(図33の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pmが大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口815から、より圧力の低い大気に排出され(図33の矢印Ge)、中間圧力Pmが大気圧以下まで下がる。したがって、2段目の圧縮要素(ロータ831)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口811から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1を小さくすることができる。その結果、ポンプ800を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ800が吸込口811に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pmが大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口812、814を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口816を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目および2段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目および2段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ861の回転速度が減速される一方で、第2タイミングギヤ862の回転速度が増速されるように、各ギヤの歯数が決められている。また、ロータ821の直径D1がロータ831の直径D2よりも大きい。このような特殊な条件下であっても、上述したように、移動容積比RQが1より大きくなるようにすることは可能である。
[第9実施形態]
次に、図34~図37を参照しながら、本発明の第9実施形態に係る多段ルーツ式ポンプについて詳述する。図34は、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプの一例としての内装2段ルーツ式ポンプ900(以下、「ポンプ900」と省略して記載する。)の全体構成を示す部分断面図である。図35、図36および図37は、それぞれ、図34のXXXV-XXXV線、XXXVI-XXXVI線およびXXXVII-XXXVII線で切断した断面図である。上述した第6~第8実施形態のポンプ600、700、800は、2段の圧縮要素を有する2段ルーツ式ポンプの例であったが、本実施形態に係るポンプ900は、3段の圧縮要素を有する3段ルーツ式ポンプの例である。ここで、1段目(最も低圧側)の圧縮要素と2段目(中間)の圧縮要素との関係および2段目(中間)の圧縮要素と3段目(最も高圧側)の圧縮要素との関係はともに、第6実施形態に係るポンプ600の1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の関係と同様である。なお、以下では、上述した実施形態と重複する説明を適宜省略する。
(多段ルーツ式ポンプの構成)
図34~図37に示すように、ポンプ900は、回転圧縮機の一種である3段ルーツ式ポンプであり、ケーシング910と、3段(3組)の圧縮要素と、駆動機構と、封液供給機構とを主に備える。
<ケーシング>
ケーシング910の構成および機能は、第6実施形態に係るケーシング610と同様である。
ここで、ケーシング910は、同じ段の圧縮要素が有する2本の回転軸922、922を含む仮想平面、2本の回転軸932、932を含む仮想平面、または、2本の回転軸942、942を含む仮想平面の法線方向に沿って、3段の圧縮要素が並列配置されるように圧縮要素を収容する。このように、本実施形態では、回転軸922、932、942の軸方向に対して並列に配置された複数段の圧縮要素が単一のケーシング910に内装されており、各圧縮要素を接続する外部の配管や内部のガス流路などは特に設けられていない。そのため、1段目の圧縮要素で圧縮されて吐き出されたガスは、2段目の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれて圧縮された後に吐き出され、さらに、3段目の圧縮要素に直接(そのまま)吸い込まれる。したがって、3段ルーツ式ポンプの各圧縮要素により圧縮されたガスの温度上昇は、2段ルーツ式ポンプの場合と比べ、ガスの温度上昇の問題はさらに深刻となる。そこで、本実施形態では、詳しくは後述するように、1段目と2段目の間の中間位置に存在するガスの冷却だけでなく、2段目と3段目の間の中間位置に存在するガスの冷却も実施される。
<圧縮要素>
本実施形態の圧縮要素としては、単一のケーシング910内に、吸込口911側に位置する1段目(低圧側)の圧縮要素と、吐出口913側に位置する3段目(高圧側)の圧縮要素と、1段目と3段目の間に配置される2段目(中間)の圧縮要素の、3段の圧縮要素とが設けられている。3段の圧縮要素間には、仕切り板等は設けられておらず、複数の圧縮要素が、一体のケーシング910内に単一の段群として設けられている。各段の圧縮要素は、1対のロータと、当該1対のロータを支持する2本の回転軸と、をそれぞれ独立に有する。具体的には、本実施形態では、1段目の圧縮要素は、1対のロータ921、921と、2本の回転軸922、922とを有する。2段目の圧縮要素は、1対のロータ931、931と、2本の回転軸932、932とを有する。3段目の圧縮要素は、1対のロータ941、941と、2本の回転軸942、942とを有する。
図35に示すように、ロータ921は、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部921a、921b、921cを有する形状である。また、各突出部921a、921b、921cの間には、凹部921dが設けられている。同様に、ロータ931も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部931a、931b、931cを有する形状である。また、各突出部931a、931b、931cの間には、凹部931dが設けられている。同様に、ロータ941も、三葉ロータであり、そのロータプロフィルは、回転中心から径方向に突出した3片の突出部941a、941b、941cを有する形状である。また、各突出部941a、941b、941cの間には、凹部941dが設けられている。
1対のロータ921、921は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸922、922は、1対のロータ921、921を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸922、922は、2つのベアリング923、923により支持されている。同様に、1対のロータ931、931は、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸932、932は、1対のロータ931、931を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸932、932は、2つのベアリング933、933により支持されている。同様に、1対のロータ941、941も、それぞれ、互いに反対方向に回転可能に設けられている。2本の回転軸942、942は、1対のロータ941、941を回転可能に支持しており、互いに平行に配置されている。また、2本の回転軸942、942は、2つのベアリング943、943により支持されている。さらに、本実施形態では、回転軸922と回転軸932と回転軸942とが、互いに平行となるように配置される。なお、以下、必要に応じて、ロータ931、941について、ロータ921と重複する説明を省略し、ロータ921の内容を適宜読み替えるものとする。
1対のロータ921、921同士およびロータ921とケーシング910の内面910aとが接触しないように、各々のロータ921、921同士の間および突出部921a、921b、921cの先端(葉端)とケーシング910の内面910aと間には、わずかなすき間ができるように、ロータ921が配置される。このすき間の大きさについては、第1実施形態と同様である。各々のロータ921、921は、後述するタイミングギヤ961A、961Bにより回転位相が維持されており、ロータ921の断面形状は、例えば、いわゆるインボリュート曲線となっているため、上記のわずかなすき間、すなわち、シールされた状態を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ931は、対となるロータ931およびケーシング910の内面910dとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ931、931は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。同様に、ロータ941は、対となるロータ941およびケーシング910の内面910gとの間にわずかなすき間ができるように配置される。また、1対のロータ941、941は、わずかなすき間を保ちながら、互いに接触することなく反対方向に回転できる。その他、ロータ921、931、941の構成および機能は、上述した各実施形態に係るロータの構成および機能と同様である。
ポンプ900では、1段目の圧縮要素であるロータ921、回転軸922等と、2段目の圧縮要素であるロータ931、回転軸932等と、3段目の圧縮要素であるロータ941、回転軸942等と、は、単一のケーシング910内において、同じ段の2本の回転軸922、922(または2本の回転軸932、932、または2本の回転軸942、942)を含む仮想の平面の法線方向に沿って、並列に配置されている。すなわち、1段目のロータ921と2段目のロータ931と3段目のロータ941とは、それぞれ、別の軸に支持されており、かつ、同じ段の2本の回転軸が互いに平行で、かつ、異なる段の2本の回転軸も互いに平行に配置される。換言すると、ガスの吸込口911、1段目のロータ921、2段目のロータ931、3段目のロータ941および吐出口913が、鉛直方向に沿って並んで配置される。したがって、ガスが吸込口911からケーシング910内に導入されると(図35の矢印Gs)、鉛直下方に進み、ロータ921により圧縮された後に、1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間に進む(図35の矢印Gm1)。ロータ921により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、2段目のロータ931により圧縮された後に、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間に進む(図35の矢印Gm2)。ロータ931により圧縮されたガスは、さらに鉛直下方に進み、3段目のロータ941により圧縮された後に、そのまま吐出口913からケーシング910外に排出される(図35の矢印Gd)。
このように、本実施形態に係るポンプ900によれば、単一のケーシング910内において、1段目のロータ921と2段目のロータ931と3段目のロータ941とが別の軸上に並列に配置されている。そのため、1段目の圧縮要素(ロータ921)と2段目の圧縮要素(ロータ931)との間、および、2段目の圧縮要素(ロータ931)と3段目の圧縮要素(ロータ941)との間に仕切りを設けなくても、ロータ921、931、941の配置自体で、3段の圧縮要素のポンプ作動領域に分けることができる。また、直列内装型多段ルーツ式ポンプの場合には、3段のロータを有する場合、ロータ3つ分以上の回転軸の長さが必要となるが、ポンプ900では、ロータ921とロータ931とロータ941とが別軸上に並列に配置されているため、ロータの回転軸の長さは、ロータ1つ分程度の長さで足りる。したがって、回転軸922、932、942やケーシング910の剛性の低下を抑制できる。特に、ポンプ900を大風量化するためにロータ921、931、941の長さを長くしたとしても剛性が低下したりすることがないため、大風量化が容易となる。さらに、1段目と2段目と3段目のポンプ作動領域間で、寸法の精度や位置合わせの精度がそれ程高くなくても、組立上およびポンプ900の性能上支障がない範囲で収まるため、それほど高い加工精度および組立精度は求められない。ここで、3段以上の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプでは、回転軸およびケーシングの剛性低下、大風量化の困難性、高い加工精度および組立精度の必要性などの問題が、2段ルーツ式ポンプの場合よりもさらに深刻なものとなる。このような場合に、本実施形態に係るポンプ900によれば、上記の問題が全て解決されるため、複数の圧縮要素を別の軸上に並列配置するメリットが大きい。
<移動容積比>
本実施形態のポンプ900では、別の回転軸上に並列に配置された1段目の圧縮要素(ロータ921)と2段目の圧縮要素(ロータ931)との間において、下記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
RQ=QthL/QthH ・・・(1)
ここで、本実施形態における移動容積Qthとは、いわゆる押しのけ量のことであり、回転数Nに比例した、ケーシング910とロータ921、ロータ931またはロータ941とで囲まれた空間の時間当たりの理論容積である。すなわち、移動容積Qth(m3/min)は、以下の式(2)で表される。
Qth=Vth(m3/rev)×N(min-1)
=A(m2/rev)×L(m)×N(min-1) ・・・(2)
ただし、式(2)において、Vthは、押しのけ容積であり、Nは、ロータの回転数であり、Aは、1回転当たりの移動面積であり、Lは、ロータの長さである。移動面積Aは、押しのけ容積Vtの回転軸922、932、942に垂直な断面における断面積である。
本実施形態のポンプ900における1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2は、第4実施形態等と同様に、下記式(3)で表される。
ただし、式(3)において、Qth1は1段目の圧縮要素の移動容積、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、A1は1段目の圧縮要素の移動面積、A2は2段目の圧縮要素の移動面積、L1は1段目のロータ921の長さ、L2は2段目のロータ931の長さ、N1は1段目のロータ921の回転数、N2は2段目のロータ931の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ900では、ロータ921の直径D1は、ロータ931の直径D2よりも大きい(D1>D2)。したがって、1段目の移動面積A1は、2段目の移動面積A2よりも大きくなる(A1>A2)。また、1段目のロータ921の長さL1が、2段目のロータ931の長さL2よりも長い(L1>L2)。一方、1段目のロータ921の回転数N1は、2段目のロータ931の回転数N2よりも低い(N1<N2)。このような場合であっても、移動容積比RQを1以上とすることができれば、第4実施形態等とは異なり、2段目(高圧側)のロータ931の回転数を、1段目(低圧側)のロータ921の回転数よりも高くしてもよい。
また、ポンプ900では、別の回転軸上に並列に配置された2段目の圧縮要素(ロータ931)と3段目の圧縮要素(ロータ941)との間においても、上記式(1)で表される移動容積比RQが1より大きい。
ただし、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3を求める場合、式(1)において、QthLは、2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素のうち低圧側の圧縮要素(本実施形態では2段目の圧縮要素)の移動容積であり、QthHは、高圧側の圧縮要素(本実施形態では3段目の圧縮要素)の移動容積である。
上述したように、移動容積Qth(m3/min)は、上記式(2)で表される。したがって、本実施形態のポンプ900における2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3は、第4実施形態等と同様に、下記式(5)で表される。
ただし、式(5)において、Qth2は2段目の圧縮要素の移動容積、Qth3は3段目の圧縮要素の移動容積、N2は2段目のロータ931の回転数、N3は3段目のロータ941の回転数を表す。
ここで、本実施形態のポンプ900では、ロータ931の直径D2は、ロータ941の直径D3よりも大きい(D2>D3)。したがって、2段目の移動面積A2は、3段目の移動面積A3よりも大きくなる(A2>A3)。また、2段目のロータ931の長さL2が、2段目のロータ941の長さL3よりも長い(L2>L3)。一方、2段目のロータ931の回転数N2は、3段目のロータ941の回転数N3よりも低い(N2<N3)。このような場合であっても、移動容積比RQを1以上とすることができれば、第4実施形態等とは異なり、3段目(高圧側)のロータ941の回転数を、2段目(低圧側)のロータ931の回転数よりも高くしてもよい。
以上のように、移動容積比RQが1より大きいと、ポンプ900の駆動軸967の軸動力を低減できる。なお、本実施形態では、1段目と2段目の間の移動容積比RQ1-2と、2段目と3段目の間の移動容積比RQ2-3とが双方ともに1より大きい場合が例示されている。この場合には、軸動力の低減効果が顕著に向上できる。ただし、本発明に係る3段ルーツ式ポンプとしては、RQ1-2とRQ2-3の少なくともいずれか一方の移動容積比が1より大きければよい。例えば、RQ1-2とRQ2-3のいずれか一方が1より大きく、他方が1である3段ルーツ式ポンプも、本発明に係る多段ルーツ式ポンプとして使用できる。
<駆動機構>
図34、図36および図37に示すように、本実施形態の駆動機構は、1対の第1タイミングギヤ961(961A、961B)と、1対の第2タイミングギヤ962(962A、962B)と、1対の第3タイミングギヤ963(963A、963B)と、1-2段間中間ギヤ964と、2-3段間中間ギヤ965と、モータ入力軸である駆動軸967と、を備える。
1対の第1タイミングギヤ961A、961Bは、1段目の2本の回転軸922の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ921、921の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第2タイミングギヤ962A、962Bは、2段目の2本の回転軸932の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ931、931の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。1対の第3タイミングギヤ963A、963Bは、2段目の2本の回転軸942の軸端に互いに噛み合うように設けられており、1対のロータ931、931の回転位相が一致するように、同じ歯数となっている。
また、1-2段間中間ギヤ964は、1対の第1タイミングギヤ961のうちの一方の第1タイミングギヤ961Aと、1対の第2タイミングギヤ962のうちの一方の第2タイミングギヤ962Aの両方と噛み合うように設けられており、2-3段間中間ギヤ965は、1対の第2タイミングギヤ962のうちの一方の第2タイミングギヤ962Aと、1対の第3タイミングギヤ963のうちの一方の第3タイミングギヤ963Aの両方と噛み合うように設けられている。さらに、駆動軸967は、1-2段間中間ギヤ964を回転可能に支持する。また、駆動軸967は、後述するサイドカバー980に設けられたベアリング968と、ベアリング・ギヤ室973に設けられたベアリング968とにより支持されている。ベアリング・ギヤ室973に設けられたベアリング968側の駆動軸967の軸端は、モータ(図示せず。)に接続されている。また、2-3段間中間ギヤ965は、回転軸969に回転可能に支持されている。回転軸969は、サイドカバー980に設けられたベアリング970と、ベアリング・ギヤ室973に設けられたベアリング970とにより支持されている。
上述したように、本実施形態では、2段目のロータ931の回転数が、1段目のロータ921の回転数より高い。言い換えると、2段目のロータ931の回転速度が、1段目のロータ921の回転速度より速い。そこで、ポンプ900では、2段目のロータ931の回転数が1段目のロータ921の回転数より高くなるように、第1タイミングギヤ961、第2タイミングギヤ962および1-2段間中間ギヤ964の歯数が設定される。図34および図37には、例えば、駆動軸967の回転速度から回転軸922および回転軸932の回転速度を減速する例が示されている。図34および図37に示した例では、第1タイミングギヤ961および第2タイミングギヤ962が共通の1-2段間中間ギヤ964と噛み合い、第1タイミングギヤ961および第2タイミングギヤ962の歯数がともに1-2段間中間ギヤ964の歯数より多くなっている。また、1-2段間中間ギヤ964の歯数と第1タイミングギヤ961の歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ961の歯数/1-2段間中間ギヤ964の歯数)の方が、1-2段間中間ギヤ964の歯数と第2タイミングギヤ962の歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ962の歯数/1-2段間中間ギヤ964の歯数)よりも大きくなるように、第1タイミングギヤ961の歯数が、第2タイミングギヤ962の歯数よりも多くなっている。これにより、2段目のロータ931の回転数が、1段目のロータ921の回転数より高くなる。
また、本実施形態では、3段目のロータ941の回転数が、2段目のロータ931の回転数より高い。言い換えると、3段目のロータ941の回転速度が、2段目のロータ931の回転速度より速い。そこで、ポンプ900では、3段目のロータ941の回転数が2段目のロータ931の回転数より高くなるように、第2タイミングギヤ962、第3タイミングギヤ963および2-3段間中間ギヤ965の歯数が設定される。図34および図37には、例えば、第2タイミングギヤ962の回転速度から回転軸969の回転速度を増速し、回転軸969の回転速度から第3タイミングギヤ963の回転速度を減速する例が示されている。図34および図37に示した例では、第2タイミングギヤ962および第3タイミングギヤ963が共通の2-3段間中間ギヤ965と噛み合い、第2タイミングギヤ962および第3タイミングギヤ963の歯数がともに2-3段間中間ギヤ965の歯数より多くなっている。また、2-3段間中間ギヤ965の歯数と第2タイミングギヤ962の歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ962の歯数/2-3段間中間ギヤ965の歯数)の方が、2-3段間中間ギヤ965の歯数と第3タイミングギヤ963の歯数との比から算出される減速比(第3タイミングギヤ963の歯数/2-3段間中間ギヤ965の歯数)よりも大きくなるように、第2タイミングギヤ962の歯数が、第3タイミングギヤ963の歯数よりも多くなっている。これにより、3段目のロータ941の回転数が、2段目のロータ931の回転数より高くなる。
<中間吐出口>
本実施形態のポンプ900を真空ポンプとして使用する場合、ケーシング910が、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置、および、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に、それぞれ、ガスを外部に吐出する中間吐出口915、917をさらに有していてもよい。図35に示した例では、中間吐出口915、917をそれぞれ、ケーシング910の左側面に1箇所ずつのみ設けた例が示されているが、中間吐出口915、917の数は特に制限されず、2箇所以上ずつ設けてもよい。例えば、図35に示した断面において、ケーシング910の右側面のうち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口915が設けられ、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に中間吐出口917が設けられていてもよい。その他の事項については、中間吐出口915、917は、第6実施形態に係る中間吐出口615と実質的に同じ構成および機能を有する。
<封液供給機構>
ポンプ900には、図34および図35に示すように、封液供給機構として、仕切弁1と、流量計3と、第1封液供給口912、914と、第2封液供給口916(916A、916B)と、第3封液供給口918(918A、918B)とが設けられている。
第1封液供給口912、914は、ポンプ900の1段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置に封液を供給するための封液の導入口である。第1封液供給口912は、ポンプ900の吸込口911に接続された配管911aに設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口112と同じ構成、機能および作用効果を有する。第1封液供給口914は、図34に示すように、ケーシング910におけるロータ921の端部付近の上部に設けられ、第1実施形態に係る第1封液供給口114と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第2封液供給口916は、ポンプ900の2段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(1段目の圧縮要素と2段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第2封液供給口916は、隣接する圧縮要素間、すなわち、1段目(低圧側)の圧縮要素と2段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
第3封液供給口918は、ポンプ900の3段目の圧縮要素におけるガスの吸込位置(2段目の圧縮要素と3段目の圧縮要素の中間位置)に封液を供給するための封液の導入口である。第3封液供給口918は、隣接する圧縮要素間、すなわち、2段目(低圧側)の圧縮要素と3段目(高圧側)の圧縮要素との間の中間位置に設けられ、第1実施形態に係る第2封液供給口116と同じ構成、機能および作用効果を有する。
上述した構成を有する本実施形態の封液供給機構を設けることにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素へ吸い込まれるガスの温度が低下する。言い換えると、ケーシング910内に供給された封液を用いて各圧縮要素へ吸い込まれる前のガスを一旦冷却した後に後段の圧縮要素に吸い込ませることができることから、2段目のロータ931、3段目のロータ941およびケーシング910の熱膨張も小さくなる。したがって、2段目の圧縮要素におけるロータ931とケーシング910とのすき間およびロータ931相互間のすき間、ならびに、3段目の圧縮要素におけるロータ941とケーシング910とのすき間およびロータ941相互間のすき間を狭く設定できる。その結果、2段目および3段目の圧縮要素においてガスの漏れ量(特に3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量)、すなわち、高圧側から低圧側に逆流するガスの量が少なくなるため、体積効率が向上する。
また、2段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、2段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から2段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。2段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、2段目の圧縮要素の吸込圧力(1段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と1段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、1段目の圧縮要素の軸動力を小さくすることができる。さらに、3段目の圧縮要素におけるガスの漏れ量、すなわち、3段目の圧縮要素の吐出側(高圧側)から3段目の圧縮要素の吸込側(低圧側)への漏れ量が少なくなるほど、3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下する。3段目の圧縮要素の吸込圧力が低下すると、3段目の圧縮要素の吸込圧力(2段目の圧縮要素の吐出圧力と等しい)と2段目の圧縮要素の吸込圧力との差圧が小さくなる。その結果、2段目の圧縮要素の軸動力も小さくすることができる。このように、3段以上の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプでは、軸動力の低減効果が2段の圧縮要素を有する多段ルーツ式ポンプよりも大きくなる。
より確実に吐出ガスの温度上昇を抑制するためには、2段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第2封液供給口916からなる封液供給機構)と、3段目の圧縮要素への吸込位置のガスを冷却するための封液供給機構(すなわち、仕切弁1、流量計3および第3封液供給口918からなる封液供給機構)とを両方設けた方が好ましい点については、上述した第4実施形態と同様である。
<その他の構成>
その他、本実施形態のポンプ900は、ケーシング910とベアリング・ギヤ室973との間、および、ケーシング910とベアリング室974との間に、中間室として、サイドカバー980を有している。このサイドカバー980は、第1実施形態に係るサイドカバー180と実質的に同じ構成および機能を有する。
(多段ルーツ式ポンプの動作)
続いて、上述した構成を有するポンプ900の駆動方法を述べる。なお、ポンプ900によるガスの圧縮方法は、上述した第1実施形態のポンプ100と同様である。
<ポンプの駆動方法>
図34~図37に示すように、図示しないモータにより駆動軸967が回転すると、駆動軸967に支持された1-2段間中間ギヤ964が回転駆動する。次いで、1対の第1タイミングギヤ961A、961Bのうち、1-2段間中間ギヤ964と噛み合う一方の第1タイミングギヤ961Aが、1-2段間中間ギヤ964とは反対方向に回転する。このときの第1タイミングギヤ961Aの回転数は、1-2段間中間ギヤ964の回転数から、1-2段間中間ギヤ964の歯数と第1タイミングギヤ961Aの歯数との比から算出される減速比(第1タイミングギヤ961Aの歯数/1-2段間中間ギヤ964の歯数)で減速された回転数となる。また、第1タイミングギヤ961Aと噛み合う他方の第1タイミングギヤ961Bは、第1タイミングギヤ961Aの歯数と同じ歯数であるため、第1タイミングギヤ961Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ921、921は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ921、921の回転により、吸込口911付近のガスが、吸込口911からケーシング910内に吸い込まれた(図35の矢印Gs)後に、ロータ921により圧縮されて1段目と2段目の中間位置に吐き出される(図35の矢印Gm1)。
同様に、1対の第2タイミングギヤ962A、962Bのうち、1-2段間中間ギヤ964と噛み合う一方の第2タイミングギヤ962Aが、1-2段間中間ギヤ964とは反対方向に回転する。このときの第2タイミングギヤ962Aの回転数は、1-2段間中間ギヤ964の回転数から、1-2段間中間ギヤ964の歯数と第2タイミングギヤ962Aの歯数との比から算出される減速比(第2タイミングギヤ962Aの歯数/1-2段間中間ギヤ964の歯数)で減速された回転数となる。また、第2タイミングギヤ962Aと噛み合う他方の第2タイミングギヤ962Bは、第2タイミングギヤ962Aの歯数と同じ歯数であるため、第2タイミングギヤ962Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ931、931は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ931、931の回転により、1段目のロータ921により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から2段目のロータ931に掻き込まれた後に(図35の矢印Gm1)、ロータ931により圧縮されて2段目と3段目の中間位置に吐き出される(図35の矢印Gm2)。
さらに、第2タイミングギヤ962Aと噛み合う2-3段間中間ギヤ965が、第2タイミングギヤ962Aとは反対方向に回転する。また、1対の第3タイミングギヤ963A、963Bのうち、2-3段間中間ギヤ965と噛み合う第3タイミングギヤ963Aが、2-3段間中間ギヤ965とは反対方向に回転する。また、第3タイミングギヤ963Aと噛み合う他方の第3タイミングギヤ963Bは、第3タイミングギヤ963Aの歯数と同じ歯数であるため、第3タイミングギヤ963Aと反対方向に同じ回転数で回転する。これにより、1対のロータ941、941は、回転位相が保たれた状態で、互いに反対方向に同じ回転数で回転する。この1対のロータ941、941の回転により、2段目のロータ931により圧縮されて中間位置に吐き出されたガスが、中間位置から3段目のロータ941に掻き込まれた後に(図35の矢印Gm2)、ロータ941により圧縮されて吐出口913から外部に排出される(図35の矢印Gd)。
また、本実施形態では、1段目と2段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm1が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口915から、より圧力の低い大気に排出され(図35の矢印Ge1および矢印Gd)、中間圧力Pm1が大気圧以下まで下がる。同様に、2段目と3段目の間の中間位置の圧力(中間圧力)Pm2が大気圧以上の場合には、圧力差によりガスが中間吐出口917から、より圧力の低い大気に排出され(図35の矢印Ge2および矢印Gd)、中間圧力Pm2が大気圧以下まで下がる。したがって、2段目および3段目の圧縮要素(ロータ931、941)への吸込圧力が小さくなるため、2段目の吸込圧力Ps2と吸込口911から吸い込まれるガスの圧力(1段目の吸込圧力Ps1)との差ΔP1、および、3段目の吸込圧力Ps3と2段目の吸込圧力Ps2との差ΔP2を小さくすることができる。その結果、ポンプ900を作動するモータの動力を低減できる。特に、ポンプ900が吸込口911に向けてガスを引き始めた段階では、中間圧力Pm1、Pm2が大気圧以上になりやすいため、ガスの引き始めの段階において、特に、モータの動力低減効果が高い。
さらに、本実施形態では、外部の封液供給装置から、第1封液供給口912、914を通して1段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第2封液供給口916を通して2段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給し、第3封液供給口918を通して3段目の圧縮要素のガスの吸込位置へ封液を供給する。この際、流量計3で計測される流量を確認しながら、適切な封液の供給量となるように仕切弁1の開度を調節する。このように、1段目、2段目および3段目のガスの吸込位置へ封液を供給することにより、1段目、2段目および3段目の圧縮要素に吸い込まれるガスの温度が低下し、2段目および3段目の圧縮要素におけるガスの顕著な温度上昇を防止できる。その結果、ロータおよびケーシングの熱膨張量が小さくなるため、ロータ相互間およびロータとケーシングとの間のすき間を予め広く設定する必要がない。したがって、本実施形態に係る多段ルーツ式ポンプによれば、2段目および3段目の圧縮要素(特に、3段目の圧縮要素)におけるガスの顕著な温度上昇を起因とするガスの漏れ量の増加を抑制できる。
なお、本実施形態では、第1タイミングギヤ961Aとの間の1-2段間中間ギヤ964の減速比が、第2タイミングギヤ962Aとの間の1-2段間中間ギヤ964の減速比よりも大きくなっている。したがって、ロータ921の回転数N1がロータ931の回転数N2よりも低くなる。また、ロータ921の長さL1がロータ931の長さL2よりも長く、かつ、ロータ921の直径D1がロータ931の直径D2よりも大きい。このような特殊な条件下であっても、上述したように、移動容積比RQ1-2が1より大きくなるようにすることは可能である。
また、第2タイミングギヤ962Aとの間の2-3段間中間ギヤ965の減速比が、第3タイミングギヤ963Aとの間の2-3段間中間ギヤ965の減速比よりも大きくなっている。したがって、ロータ931の回転数N2がロータ941の回転数N3よりも低くなる。また、ロータ931の長さL2がロータ941の長さL3よりも長く、かつ、ロータ931の直径D2がロータ941の直径D3よりも大きい。このような特殊な条件下であっても、上述したように、移動容積比RQ2-3が1より大きくなるようにすることは可能である。
[多段ルーツ式ポンプの用途]
以上、本発明の好適な実施形態として、第1~第9実施形態に係るポンプ100(第1~第3変更例を含む。)、200、300、400、500、600、700、800、900の構成および動作について詳細に説明したが、続いて、上記ポンプの好適な用途例について述べる。
なお、上述した各実施形態の多段ルーツ式ポンプをブロワとして用いた場合の吐出圧力、および、各実施形態の多段ルーツ式ポンプを真空ポンプとして用いた場合の吸込圧力は、例えば、各実施形態の多段ルーツ式ポンプを真空ポンプとして用いた場合、吸込圧力(ゲージ圧)を、最大-80kPa(絶対圧で20kPa)程度とすることができる。また、各実施形態の多段ルーツ式ポンプによる吸込ガス量については、例えば、1~400m3/minとすることができる。このような各実施形態の多段ルーツ式ポンプ(ポンプ100、200、300、400、500、600、700、800、900)の性能を活かせる用途の例として、例えば、以下の用途例が挙げられる。
(用途例:酸素発生装置)
図38を参照しながら、第1~第9実施形態に係るポンプ100、200、300、400、500、600、700、800、900、ならびに第1~第3変更例に係るポンプ101、102、103を適用可能な用途の一例について説明する。図38は、酸素発生装置10の全体構成を示している。
酸素発生装置10は、吸着剤を使用し,空気中から窒素ガス等を除去して濃度90~93%の酸素ガスを製造する装置である。液体酸素などに比べ安価で安定した酸素が供給できるため、多量の酸素を利用する場面で導入されている。酸素発生装置10としては、PSA(Pressure Swing Adsorption)とVSA(Vacuum Swing Adsorption)の2種類があり、VSA酸素発生装置は起動・停止の切り替えが容易であるため、立上げの複雑な深冷分離に代わる酸素発生装置として活用されている。
図38に示すように、酸素発生装置10は、原料空気ブロワ11と、2本の吸着塔12A、12Bと、均圧塔13と、酸素昇圧ブロワ14と、アフタークーラ15と、減圧ポンプ16と、排気サイレンサ17と、バルブスキッド18とを備える。原料である空気は、原料空気ブロワ11により、モレキュラシーブを充填した吸着塔12A、12Bに導かれる。吸着塔12A、12Bは2塔で構成されており、この吸着塔12A、12Bにおいて一定濃度の酸素が連続的に発生する。1塔の吸着塔(例えば、吸着塔12A)で吸着が行われている間に、もう1塔の吸着塔(例えば、吸着塔12B)は再生され、一定時間が経過すると、吸着が行われる塔が切り換えられる。窒素ガスなどの不純物を吸着した吸着剤の再生(脱着)は、吸着塔12A、12B内の圧力を減圧にすることにより行われる。原料の空気から窒素ガスなどの不純物が除去された酸素を主成分とするガスは、均圧塔13に導かれ、一定圧力に調整された後に、酸素昇圧ブロワ14にて昇圧される。昇圧されるとガスの温度が上昇することから、アフタークーラ15にて酸素昇圧ブロワ14から送られたガスを冷却することにより、濃度90~93%の酸素ガスが得られる。アフタークーラ15では、例えば、冷却水を流すことによりガスを冷却する。一方、不純物である窒素ガス等の不純物は、吸着塔12A、12B内で吸着剤から減圧ポンプ16で減圧され脱着した後に、排気サイレンサ17から排気ガスとして排出される。
以上のような酸素発生装置10において、例えば、上述した実施形態に係る窒素ガスなどの不純物を吸着した吸着剤の再生(脱着)のため、吸着塔12A、12B内の圧力を大気圧から-80kPaG程度まで短時間に繰り返し減圧行う減圧ポンプ16として、ポンプ100、200、300、400、500、600、700、800、900などが好適に使用される。
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
例えば、上述した形態においては、主に、立て形の多段ルーツ式ポンプの場合について説明したが、本発明に係る多段ルーツ式ポンプは、横形の多段ルーツ式ポンプであってもよい。
また、上述した形態においては、2段ルーツ式ポンプおよび3段ルーツ式ポンプの場合について説明したが、本発明に係る多段ルーツ式ポンプは、4段以上の圧縮要素を備える多段ルーツ式ポンプであってもよい。
また、上述した形態においては、圧縮要素が二葉ロータおよび三葉ロータを有する場合について説明したが、本発明に係る多段ルーツ式ポンプでは、圧縮要素が四葉以上のロータを有する多段ルーツ式ポンプであってもよい。なお、四葉ロータは、例えば、コンプレッサ等に用いることができる。
また、上述した形態においては、全ての隣接する圧縮要素間の移動容積比RQが1より大きい場合について説明したが、本発明に係る多段ルーツ式ポンプが、3段以上の多段ルーツ式ポンプである場合には、一部の圧縮要素間において移動容積比RQが1より大きければよく、残りの隣接する圧縮要素間では、移動容積比RQが1(低圧側の移動容積と高圧側の移動容積が等しい)であってもよい。
また、上述した形態においては、隣接する圧縮要素間のロータの回転数比により移動容積比RQを1以上とする際に、隣接する圧縮要素に含まれるロータの長さおよび直径を同一とした場合について説明したが、移動容積比RQが1以上という要件を満たせば、本発明に係る多段ルーツ式ポンプでは、必ずしも、隣接する圧縮要素に含まれるロータの長さおよび直径が同一でなくてもよい。すなわち、移動容積比RQが1以上という要件を満たせば、ロータのサイズ(長さ、直径等)は、特に制限されない。
また、上述した形態においては、隣接する圧縮要素間のロータの長さを変えることにより移動容積比RQを1以上とする際に、隣接する圧縮要素のそれぞれのロータの回転数を同一とした場合について説明したが、移動容積比RQが1以上という要件を満たせば、本発明に係る多段ルーツ式ポンプでは、必ずしも、隣接する圧縮要素のそれぞれのロータの回転数が同一でなくてもよい。
また、上述した第2実施形態では、1段目のロータの回転数と2段目のロータの回転数が等しく、1段目のロータの直径と2段目のロータの直径が等しく、かつ、1段目のロータの長さが2段目のロータの長さよりも長い例を挙げた。さらに、第3実施形態では、1段目のロータの回転数と2段目のロータの回転数が等しく、1段目のロータの長さと2段目のロータの長さが等しく、かつ、1段目のロータの直径が2段目のロータの直径よりも大きい例を挙げた。しかし、これらの例に限られず、本発明には、例えば、1段目のロータの回転数と2段目のロータの回転数が等しく、1段目のロータの長さが2段目のロータの長さより長く、かつ、1段目のロータの直径が2段目のロータの直径よりも大きい例も含まれる。