JP7165330B2 - 多層構造体とその製造方法及び利用方法 - Google Patents
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Description
本発明の他の態様は、細胞外マトリックスで構成された管状構造の層が複数積層されてなる多層構造の管状体を有する多層構造体を製造する方法に関する。本発明の他の態様に係る多層構造体の製造方法は、管状の成形用外型の内周面と、成形用外型に挿通した棒状又は管状の成形用内型の外周面との間に形成される管状空間に、細胞外マトリックスの溶液を充填した後に固化させ、成形用外型及び成形用内型を取り外して、細胞外マトリックスで構成された第一の管状構造の層を形成する成形工程と、外側の管状構造の層の中空部内に細胞外マトリックスの溶液を導入した後に固化させ、外側の管状構造の層の内周面に細胞外マトリックスで構成された内側の管状構造の層を積層する積層工程と、を含むことを要旨とする。そして、この本発明の他の態様に係る多層構造体の製造方法においては、第一の管状構造の層を外側の管状構造の層として積層工程を1回以上繰り返し行って、管状体を形成する。
本発明のさらに他の態様に係る多層構造体の利用方法は、細胞を備える上記一態様に係る多層構造体を利用する方法であって、管状体の中空部に培養液を導入して細胞を培養することを要旨とする。
本発明の多層構造体の製造方法によれば、足場材料が多層化されたインビトロ培養デバイスである多層構造体を、低コストで簡易に作製可能である。
本発明の多層構造体の利用方法によれば、複雑な生体内環境を再現したインビトロ細胞培養を行うことができる。
また、管状体1の形状は、図1のように直線状でもよいし、曲線状でもよい。曲線状である場合は、例えば円弧状、楕円状、2次曲線状、双曲線状、螺旋状に湾曲してなる湾曲状でもよいし、複数の直線部分が屈曲して連結してなる屈曲状でもよい。曲線状の管状体1を製造する場合には、曲線状の管状体を直接製造してもよいし、直線状の管状体を製造した後に湾曲又は屈曲させて製造してもよい。ただし、直線状の管状体を湾曲又は屈曲させると、管状体に損傷が生じるおそれがあるので、曲線状の管状体を直接製造することが好ましい。
また、皮膚を再現する場合は、管状体1を2層構造とし、第一の管状構造の層10Aをマトリゲルで構成して基底膜を模し、第二の管状構造の層10Bをコラーゲンで構成して真皮を模すとともにその内部に繊維芽細胞を播種し、管状体1の内周面に内皮細胞を播種し、管状体1の外周面にケラチノサイト等の表皮細胞を播種するとよい。第一の管状構造の層10Aの内部には細胞を播種しない。
前述したように成形用内型52の外周面に犠牲層53が被覆してある場合には、第一の管状構造の層10Aから成形用内型52を容易に取り外すことができる。すなわち、図2Bに示すように上記の加温を水や水溶液の中で行えば、図2Cに示すように、水溶性ポリマーを含有する犠牲層53が溶解して、第一の管状構造の層10Aや支持体20と成形用内型52との間に隙間が形成されるので、第一の管状構造の層10Aから成形用内型52を容易に取り外すことができる。
ただし、管状空間Sに細胞外マトリックスの溶液Lを充填した際に、細胞外マトリックスの溶液Lに犠牲層53の一部が溶解して、第一の管状構造の層10Aの内周面に凹凸が生じる場合がある。第一の管状構造の層10Aの内周面に凹凸が生じないようにするためには、犠牲層53の表面が均一に溶解するまで細胞外マトリックスの溶液Lを管状空間Sに流し続ける必要があるので、細胞外マトリックスの溶液Lの必要量が多くなる。そのため、成形用内型52の外周面に犠牲層53を被覆しなくてもよい。成形用内型52の外周面に犠牲層53を被覆しない構成であれば、細胞外マトリックスの溶液Lを管状空間Sに流し続ける必要がないので、細胞外マトリックスの溶液Lの使用量を、必要最低限の量とすることができる。
中空部内の細胞外マトリックスの溶液Lのうち外周側部分のみを固化させる方法は特に限定されるものではないが、中和法、加熱法、層流法等が挙げられる。まず、図2E、図2Fを参照しながら中和法を説明する。
なお、陰イオン含有液Pや陰イオンIの種類は、酸性の細胞外マトリックスの溶液Lを中和することができるならば特に限定されるものではない。
なお、加熱の方法は特に限定されるものではなく、気体状、液体状、又は固体状の熱媒体中で加熱する方法や、赤外線等の光の照射で加熱する方法を用いることができる。
なお、細胞外マトリックスの溶液Lではない液の種類は特に限定されるものではないが、例えば、アルギン酸ナトリウム及びその誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、多糖(デキストランなど)、グリセロール等の生体親和性の高い高分子の水溶液を用いることができる。
また、本実施形態の多層構造体は多層構造を有しているので、前述したように、複数の管状構造の層10に相互に別種の細胞30を播種した上で、管状体1の中空部に培養液Cを導入して共培養を行うことができる。
さらに、癌細胞を含有する培養液Cを用いて細胞培養を行ってもよい。そうすれば、癌細胞の多層構造体に対する挙動を観察することができるので、例えば癌細胞の血管への浸潤又は転移を試験することができる。
さらに、上記のような本実施形態の多層構造体の製造方法は、特殊な加工装置や専門技術を必要としないので、多層構造体を低コストで簡易に作製することができる。
例えば、前述した中和法の場合であれば、中和を行う時間、外側の管状構造の層10の中空部内に流し込む細胞外マトリックスの溶液Lの量(流入量)等により、管状構造の層10の厚さを調整することができる。また、前述した加熱法の場合であれば、加熱を行う時間、加熱温度、外側の管状構造の層10の中空部内に流し込む細胞外マトリックスの溶液Lの量(流入量)等により、管状構造の層10の厚さを調整することができる。
細胞外マトリックスの溶液Lの充填と固化を行う際には、治具を用いるなどして、積層用内型55の外周面が第一の管状構造の層10Aの内周面に接触しないように積層用内型55を保持するとよい。例えば、図4の(b)に示すように、管状の治具57a、57bを用いることにより、積層用内型55を第一の管状構造の層10Aに対して適正な位置及び姿勢に保持することができる。
このような別の実施形態の多層構造体の製造方法で積層を行えば、内側の管状構造の層10の厚さの制御が容易である。また、上記本実施形態の多層構造体の製造方法と比べて、別の実施形態の多層構造体の製造方法は、多層構造体の製造のための装置が簡易である。すなわち、送液装置60、チューブ61等を用いることなく、積層を行うことが可能である。
積層用内型55の材質は特に限定されるものではなく、成形用内型52と同様である。積層用内型55の外周面には犠牲層を被覆してもよいし、被覆しなくてもよい。また、管状の治具57a、57bの材質も特に限定されるものではなく、樹脂、ゴム、金属、ガラス、セラミック等が挙げられる。
ここで、別の実施形態の多層構造体の製造方法によれば内側の管状構造の層10の厚さの制御が容易である点について、実例を挙げて説明する。第一の管状構造の層10Aの内周面に、積層用内型55及び管状の治具57a、57bを用いる上記の方法により、第二の管状構造の層10Bを積層した。第一の管状構造の層10Aの外径は2400μm、内径は1000μmである。積層用内型55の外径は、300μm、400μm、又は500μmである。また、第一の管状構造の層10Aを構成する細胞外マトリックスは、ウシ皮膚由来I型コラーゲンである。第二の管状構造の層10Bを構成する細胞外マトリックスは、ウシ皮膚由来I型コラーゲンとマトリゲル由来マウス肉腫との混合物である。
これらの実例から、別の実施形態の多層構造体の製造方法によれば、内側の管状構造の層10の厚さが高精度で制御可能であることが分かる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。前述した本実施形態の多層構造体の製造方法と同様にして、多層構造体を製造した。以下に詳細に説明する。
成形用外型51として内径2.1mmのガラスキャピラリ、成形用内型52として長さ60mm、直径0.5mmのタングステンワイヤ、支持体20a、20bとして長さ7mm、内径0.7mm、外径1.7mmのシリコーンチューブを用意した。タングステンワイヤの外周面には、生体適合性を付与するために、厚さ5nmのポリパラキシリレン樹脂(日本パリレン合同会社のパリレンC(登録商標))の被膜が蒸着してある。そして、ポリパラキシリレン樹脂の被膜の外側に、グルコースからなる犠牲層53がさらに被覆してある。
ガラスキャピラリの内周面とタングステンワイヤの外周面とシリコーンチューブの端面との間に形成された管状空間、及び、ガラスキャピラリの内周面とシリコーンチューブ外周面との間の環状の隙間に、マイクロシリンジと注射針を用いて、ウシ真皮由来の再構成コラーゲン溶液(濃度4mg/mL)を注入した。
さらに、作製した多層構造体を用いてヒト臍帯静脈内皮細胞を培養した結果から、培養デバイスとして使用可能であることが確認された。
加熱法の場合は、中和法の場合と同様にして作製した第一の管状構造の層10Aの中空部内に、マイクロシリンジと注射針を用いて、ウシ真皮由来の再構成コラーゲン溶液(濃度4mg/mL)を注入した。そして、再構成コラーゲン溶液を注入した第一の管状構造の層10Aを、図2Bに示したのと同様に、17℃に保ったダルベッコ改変イーグル培地に浸漬した。
10 管状構造の層
10A 第一の管状構造の層
10B 第二の管状構造の層
20、20a、20b 支持体
30 細胞
51 成形用外型
52 成形用内型
53 犠牲層
55 積層用内型
57a、57b 治具
C 培養液
L 細胞外マトリックスの溶液
S 管状空間
Claims (19)
- 細胞外マトリックスで構成された管状構造の層が複数積層されてなる多層構造の管状体を有する多層構造体であって、
前記管状体の少なくとも一方の端部に、管状の支持体を、前記管状体と前記支持体のそれぞれの中空部が連続するように接続した多層構造体。 - 前記管状体の端面と前記支持体の端面とが接触し、且つ、前記管状体の端部の内周面が前記支持体の外周面の少なくとも一部を覆うように前記管状体の端部を形成するか、又は、前記支持体の端面に凹凸若しくは溝を設けた請求項1に記載の多層構造体。
- 前記細胞外マトリックスがコラーゲンである請求項1又は請求項2に記載の多層構造体。
- 前記複数の管状構造の層のうち少なくとも一つの層を他の層とは別種の細胞外マトリックスで構成した請求項1又は請求項2に記載の多層構造体。
- 前記複数の管状構造の層の内部、前記管状体の外周面、及び前記管状体の内周面のうち少なくとも一箇所に細胞を備える請求項1~4のいずれか一項に記載の多層構造体。
- 血管構造を再現したものである請求項5に記載の多層構造体。
- 細胞外マトリックスで構成された管状構造の層が複数積層されてなる多層構造の管状体を有する多層構造体を製造する方法であって、
管状の成形用外型の内周面と、前記成形用外型に挿通した棒状又は管状の成形用内型の外周面との間に形成される管状空間に、細胞外マトリックスの溶液を充填した後に固化させ、前記成形用外型及び前記成形用内型を取り外して、細胞外マトリックスで構成された第一の管状構造の層を形成する成形工程と、
外側の管状構造の層の中空部内に細胞外マトリックスの溶液を導入した後に固化させ、前記外側の管状構造の層の内周面に細胞外マトリックスで構成された内側の管状構造の層を積層する積層工程と、
を含み、
前記第一の管状構造の層を前記外側の管状構造の層として前記積層工程を1回以上繰り返し行って、前記管状体を形成する多層構造体の製造方法。 - 前記積層工程は、前記外側の管状構造の層の中空部内に細胞外マトリックスの溶液を充填し、その中空部内の細胞外マトリックスの溶液のうち外周側部分を固化させ、中心部分は固化させずに除去して、前記外側の管状構造の層の内周面に前記内側の管状構造の層を積層する工程である請求項7に記載の多層構造体の製造方法。
- 前記積層工程は、前記外側の管状構造の層に棒状又は管状の積層用内型を挿通し、前記外側の管状構造の層の内周面と前記積層用内型の外周面との間に形成される管状空間に、細胞外マトリックスの溶液を充填した後に固化させ、前記積層用内型を取り外して、前記外側の管状構造の層の内周面に前記内側の管状構造の層を積層する工程である請求項7に記載の多層構造体の製造方法。
- 前記外側の管状構造の層に挿通された前記積層用内型を、前記外側の管状構造の層と平行をなすように、且つ、前記外側の管状構造の層の中空部の径方向中心位置に保持する治具を用いる請求項9に記載の多層構造体の製造方法。
- 前記成形工程において、前記成形用外型内に管状の支持体を配し、前記支持体の内側に前記成形用内型を挿通させ、前記成形用外型の内周面と前記成形用内型の外周面と前記支持体の端面との間に形成される管状空間に、細胞外マトリックスの溶液を充填した後に固化させ、前記第一の管状構造の層の少なくとも一方の端部に、前記支持体を、前記第一の管状構造の層と前記支持体のそれぞれの中空部が連続するように接続する請求項7~10のいずれか一項に記載の多層構造体の製造方法。
- 水溶性ポリマーを含有する犠牲層が前記成形用内型の外周面に被覆されており、前記成形用内型を取り外すときに前記犠牲層を溶解させる請求項7~11のいずれか一項に記載の多層構造体の製造方法。
- 前記各管状構造の層の内部、前記管状体の外周面、及び前記管状体の内周面のうち少なくとも一箇所に細胞を播種する播種工程をさらに含む請求項7~12のいずれか一項に記載の多層構造体の製造方法。
- 前記細胞外マトリックスの溶液が細胞を含有する請求項7~12のいずれか一項に記載の多層構造体の製造方法。
- 請求項5又は請求項6に記載の多層構造体を利用する方法であって、前記管状体の中空部に培養液を導入して前記細胞を培養する多層構造体の利用方法。
- 前記管状体の中空部に培養液を灌流させて前記細胞を灌流培養する請求項15に記載の多層構造体の利用方法。
- 前記培養液を脈動させて灌流させる請求項16に記載の多層構造体の利用方法。
- 前記培養液が癌細胞を含有する請求項15~17のいずれか一項に記載の多層構造体の利用方法。
- 前記複数の管状構造の層に相互に別種の細胞を播種した上、前記管状体の中空部に培養液を導入して共培養を行う請求項15~18のいずれか一項に記載の多層構造体の利用方法。
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日本機械学会第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 2015, 29pm3-PN-13 |
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