まず、照明が人体に与える影響について説明する。
背景技術で述べたWELL認証を例に挙げると、サーカディアンに配慮した照明設計が求められる。なお、サーカディアンに配慮するとは、概日リズム(サーカディアンリズム)、に配慮するということである。
ヒトのサーカディアンリズムは1日より長く約25時間であり、これを1日、つまり24時間周期に合わせなければ、1日とずれたリズム周期となってしまう。そこで、24時間に合わせるための同調因子として光が重要な役割を果たしている。太陽の光を浴びることでヒトの体内時計が24時間に調整され、これにより、生来的に人は朝起きて夜寝るといった1日のリズムの中で生活している。
つまり、人間の体内には、24時間周期のリズムで生活するために、光を利用した同調機能が備わっている。具体的には、脳の視床下部に視交叉上核という非常に小さい領域があり、これがサーカディアンリズムを統率する体内時計の役割を担っている。また、この視交叉上核に光信号を与える細胞として、網膜上の内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive Retinal Ganglion Cell:以下、ipRGCと呼ぶ)がある。
ipRGCはメラノプシンという光受容タンパク質を含み、メラノプシンがサーカディアンリズムの光同調に関与することが明らかにされている。メラノプシンは、光の波長に応じた吸収特性を有しており、そのピークは480nm~490nm付近にある。
また、メラノプシンは睡眠促進ホルモンであるメラトニンの分泌または抑制にも関与しているとされ、例えばipRGCへの刺激量が増えることによって、メラトニンの分泌が抑制されると考えられている。なお、通常であれば、体内のメラトニンの分泌ピークは夜間に訪れ、メラトニンが分泌されることで睡眠が促進される。従って、日中はメラトニンの分泌は抑制されている。
上述のWELL認証では、サーカディアンに配慮した照明設計であるかを評価するために、等価メラノピック照度(Equivalent Melanopic Lux:以下、EMLと呼ぶ)が導入されている。EMLは、下記の式(1)で求められる。
また、式(1)におけるMeranopic Ratio(メラノピック比:以下、MRと呼ぶ)は、下記の式(2)で求められる。
ここで、Lightは照明灯具による光の分光分布、Circadianは上述した480nm~490nm付近にピークを有するメラノプシンの分光感度特性に基づくサーカディアン応答、Visualは視感度応答を示す。図1は、サーカディアン応答及び視感度応答の曲線を記した図である。
式(1)からわかるように、EMLの数値を上げる方向性としては、照度を上げるか、MRを上げるか、の2通りが考えられる。また、サーカディアンリズムの特性に対する依存性は、照度よりもMRの方が大きいことが窺える。従って、サーカディアンリズムに配慮する上では、MRの値を考慮する方が好ましいと考えられる。また、サーカディアン応答に基づけば、およそ470nmの波長から490nmの波長の範囲における発光強度は、特にメラトニンの分泌制御に寄与する波長帯と考えられる。
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を限定するものではない。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。また、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
<第1実施形態>
第1実施形態に係る照明制御システムについて説明する。図2は、照明制御システム100のシステム構成を記したシステム構成図である。また、照明制御システム100による照明制御が実行される場所として、建築物1を例にあげて説明する。
建築物1は、例えば、1または複数の企業の従業員が働くオフィスビルである。オフィスビルは、複数階の構造を有しており、図2の例は、N階建てのオフィスビルを表している。この建築物1では、1階には受付が設けられ、エレベーター(昇降機)を利用して所望の階に移動することができる。
2階より上の階には複数の居室空間が設けられており、企業は所望の居室20をレンタルして利用することができる。各階に複数の居室20が設けられており、それぞれの居室20を識別する情報として、例えば、居室番号が付される。図2の例では、居室番号として、2階の2つの居室20にそれぞれ、201、及び、202、が、N階の1つの居室20に、N01が付されている。このように居室番号の典型的な形態として、最初に階数を示す数字を付し、続けてその階にある部屋を個々に識別する番号を付すことが多い。
図3は、建築物1において形成された居室20の一例を記す図である。居室20は、主に天井21と床22と壁23によって囲まれた空間を形成する。居室への出入りのために壁23の一部に扉が設けられ、外気や外光の取り入れが可能な窓が所々設けられる。なお、窓の無い居室があってもよい。また、居室20の天井21には、複数の照明装置24が取り付けられる。また、室内の温度や湿度を調節するために空調機器が設けられる。
企業が利用する際には、この居室空間にさらに机や椅子が配置される。居室20で作業をする人(従業員)は、椅子に座り机で作業をしている間、照明装置24による照明光を浴びることとなる。そのため、作業に適した一定以上の照度の照明が当たるように照明装置24は配置される。例えば、一般的な事務作業が行われる場合、机上照度が500lx以上、より好ましくは750lx以上となるように照明光を照射する。
なお、このような照度の基準は、建築物1の用途やそこで行われる作業内容によっても異なる。例えば、一般のオフィス、工場、学校、あるいは、商業施設などによって基準は異なることがある。またさらに、国によっても異なることがあり、例えば、日本国には、JIS Z9110という基準がある。
従って、居室20の天井21に設けられた照明装置24に求められる「一定以上の照度」とは、建築物1の用途やそこで行われる作業内容、また、その建築物1が建てられる国の基準などに基づいて適切に定められるものである。その意味で、照明制御システム100は、作業環境に応じた一定以上の照度の照明光を照射するように制御する照明制御システムである。
また、オフィスビルには、企業に貸す居室20の他に、オフィスビルを管理するための管理室10が設けられる。管理室10には、昇降機、空調、照明などのビル設備を管理するための設備が設けられる。また、管理室10には、管理端末11と、照明制御装置12と、が用意されている。なお、図2の例では、管理室は最上階に設けられているが、どの階に設けるかは任意に決めればよい。
図2の破線は通信の接続関係を表している。つまり、破線で繋がっている装置同士が通信可能に接続していることを表している。管理端末11及び複数の照明装置24は、照明制御装置12と通信可能に接続する。照明制御装置12は、制御の対象となる照明装置24と通信可能に接続し、通信を介して照明装置24の照明を制御する。通信接続には、有線または無線による既知の通信手段を用いることができる。なお、破線で繋がっていない装置同士が通信可能に接続していてもよい。また、図2で図示された装置以外の装置と通信可能に接続してもよい。
管理端末11、及び、照明制御装置12は、コンピュータやサーバ装置などの情報処理装置で構成することができる。図4は、情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。情報処理装置では、CPU70、ROM71、RAM72、ストレージ73、グラフィクスI/F74、データI/F75、通信I/F76、及び、入力デバイス77が、バスに対して接続される。
ストレージ73は、データを不揮発に記憶することが可能な記憶媒体である。例えば、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなどを用いることができる。CPU70は、ROM71およびストレージ73に記憶されるプログラムに従い、RAM72をワークメモリとして用いて処理を実行するプロセッサである。グラフィクスI/F74は、生成された表示制御信号を、装置が表示可能な信号に変換して出力するインタフェースである。
データI/F75は、外部からのデータの入力を行うためのインタフェースである。例えば、USBなどによるインタフェースを適用することができる。通信I/F76は、所定のプロトコルを用いてネットワークと通信を行うためのインタフェースである。入力デバイス77は、ユーザ入力を受け付けて所定の制御信号を出力する。
図5は、照明制御装置12によって実行される情報処理(機能)を説明する機能ブロック図である。各機能ブロックで表される機能は、例えば、CPU70がプログラムを実行することで実現される。照明制御装置12は、調光管理部13、調光設定登録部14、及び、調光設定記憶部15を有する。
調光管理部13は、建築物1において、居室20に配されている複数の照明装置24を管理し、照明装置24による照明を制御する機能部である。例えば、調光制御に関する設定(調光設定)に基づき、居室20の照明を制御する。
調光設定登録部14は、調光設定を登録する機能部である。調光設置記憶部B5は、調光設定が登録された調光設定情報を記憶する機能部である。例えば、オフィスビルの管理者が、管理端末11を操作して調光設定を入力し、照明制御装置12に登録を要求することで、照明制御装置12の調光設定登録部14が、登録要求に応じて調光設定記憶部15の調光設定情報に調光設定を登録する。
照明装置24は、照明灯具30と、電源アダプタ50と、調光ドライバ60と、を有して構成される。図6は、照明装置24の構成と、照明装置24と外部装置との接続の一例を記した図である。
図6に記すように、照明装置24では、照明灯具30と電源アダプタ50とが接続し、電源アダプタ50と調光ドライバ60とが接続している。また、照明灯具30と電源アダプタ50とは、DCハーネス等の電気配線で接続されている。電源アダプタ50と調光ドライバ60とは、通信ケーブル等の通信配線で接続されている。つまり、照明灯具30と電源アダプタ50とは、電気配線の抜き差しで容易に着脱可能である。電源アダプタ50と調光ドライバ60も同様に、通信配線の抜き差しで容易に着脱可能である。
電源アダプタ50は、建築物1の天井裏に通された配線と接続し、外部電源装置から電力の供給を受けることができる。調光ドライバ60は、有線または無線の通信手段によって、照明制御装置12と通信可能に接続する。なお、照明灯具30と電源アダプタ50とが、一体の装置で構成されてもよい。また、電源アダプタ50と調光ドライバ60とが、一体の装置で構成されてもよい。
電源アダプタ50は、外部電源装置からの電力を照明灯具30に供給する電力供給部51を有する。例えば、電力供給部51は、外部電源装置からのAC電源をDC電源に変換して照明灯具30に供給する。
調光ドライバ60は、照明灯具30によって発光される光を調節する調光制御部61を有する。また、照明灯具30による光を制御するためのドライバプログラムを搭載している。従って、調光ドライバ60には、ドライバプログラムを実行するための情報処理機構が設けられている。例えば、CPU、ROM、または、RAMなどを有している。調光制御部61は、通信可能に接続する照明制御装置12から照明制御のための情報である調光指示を受信し、調光指示に基づいて照明灯具30の光を制御する。
照明灯具30は、ベースプレート31、基板32、複数の発光装置36、発光制御部35、カバー33、及び、留め具34を有する。また、複数の発光装置36には、1以上の第1発光装置37と、1以上の第2発光装置38と、が含まれる。また、発光装置36は、発光素子39、波長変換部材40、及び、成形体42を有する。
図7は、電源アダプタ50が取り付けられた状態の照明灯具30、を照明灯具30の天井設置面側からみた、斜視図である。また、図8は、照明灯具30の発光面(天井設置面と反対側の面)を記した図である。なお、図8では、照明灯具30のカバー33を外した状態を示している。図9は、照明灯具30が有する発光装置36を示す概略断面図である。
照明灯具30では、ベースプレート31に基板32が取り付けられている。また、基板32に複数の発光装置36が実装されている。複数の発光装置36は、配線を通じて電気的に接続しており、発光制御部35を介して発光装置36への通電が行われ、発光装置36による発光は制御される。
また、基板32に配置された複数の発光装置36を囲うようにして、カバー33がベースプレート31に取り付けられている。ベースプレート31の発光装置36が配置される側の面と反対側の面(天井設置面)において、留め具34が設けられている。また、天井設置面側で、照明灯具30と電源アダプタ50とは接続する。電源アダプタ50には、上述した外部電源装置と接続するための電源端子と、調光ドライバ60と接続するための調光端子と、が設けられている。
また、照明灯具30では、第1発光装置37と第2発光装置38とが、交互に並べて配される。図8の例では、複数の発光装置36が行列状に配置されており、1列(あるいは1行)ずつ、第1発光装置37と第2発光装置38が交互に並べられる。なお、行あるいは列単位ではない単位で交互に配置してもよい。例えば、発光装置1個の単位や、複数個の単位で、交互に配置してもよい。
第1発光装置37と第2発光装置38とは、異なる発光スペクトルを有している。例えば、波長変換部材40に含有される蛍光体41の種類や含有率を異ならせることで実現できる。また例えば、第1発光装置37における発光素子39と、第2発光装置38における発光素子39と、をそれぞれ異なる発光スペクトルの発光素子とすることで実現できる。発光素子39と蛍光体41の両方を異ならせてもよい。
照明灯具30では、発光制御部35によって、第1発光装置37における発光と、第2発光装置38における発光と、をそれぞれ制御することができる。例えば、第1発光装置37と第2発光装置38のうちの一方だけを発光させることができる。また例えば、第1発光装置37または第2発光装置38による発光の度合いを調節することができる。なお、照明灯具30の形態や発光装置36の形態は図に示した例に限らず、既知の形状や構造、構成を利用することができる。
ここで、第1実施形態の照明制御システム100において採用される発光装置36の発光スペクトルについて説明する。照明灯具30は、第1発光装置37と第2発光装置38のそれぞれに対し、以下に複数例示する発光スペクトルの中から異なるものを選択して実現することができる。なお、例示は、照明灯具30において採用され得るいくつかの例であって、本発明の適用においては、ここで示した発光装置に必ずしも限定されなくてよい。
<発光装置例1>
例1の発光装置36は、410nm以上490nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39を有し、波長変換部材40において、式(Y,Gd,Tb,Lu)3(Al,Ga)5O12:Ceで表される希土類アルミン酸塩蛍光体と、式(Ca,Sr)AlSiN3:Euで表されるシリコンナイトライド蛍光体と、を含有する。図10Aには、蛍光体41の含有率を調整し、黒体放射軌跡に近い色度で、相関色温度の値を変えた複数の発光スペクトルを記す。また、例1の発光装置36では、180lm/W以上210lm/W以下の範囲の発光効率と、80以上90未満の範囲の平均演色評価数と、が実現される。
ここで、黒体放射軌跡に近い色度とは、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.02以上0.02以下の範囲内である光をいうものとする。また、本明細書において、蛍光体の組成を示す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これら複数の元素のうち少なくとも一種の元素を組成中に含むことを意味し、前記複数の元素から二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。また、本明細書において、蛍光体の組成を示す式中、コロン(:)の前は母体結晶を構成する元素及びそのモル比を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
<発光装置例2>
例2の発光装置36は、410nm以上490nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39を有し、波長変換部材40において、式Sr4Al14O25:Euで表されるアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を含有する。図10Bには、蛍光体41の含有率を調整し、黒体放射軌跡に近い色度で、相関色温度の値を変えた複数の発光スペクトルを記す。また、例2の発光装置36では、170lm/W以上195lm/W以下の範囲の発光効率と、80以上90以下の範囲の平均演色評価数と、が実現される。
<発光装置例3>
例3の発光装置36は、410nm以上490nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39を有し、波長変換部材40において、式(Ca,Sr,Ba)8MgSi4O16(F,Cl,Br)2:Euで表されるケイ酸塩蛍光体を含有する。図10Cには、蛍光体41の含有率を調整し、黒体放射軌跡に近い色度で、相関色温度の値を変えた複数の発光スペクトルを記す。また、例3の発光装置36では、155lm/W以上185lm/W以下の範囲の発光効率と、90以上95未満の範囲の平均演色評価数と、が実現される。
<発光装置例4>
例4の発光装置36は、410nm以上490nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39を有し、波長変換部材40において、式(Ca,Sr,Ba)5(PO4)3(Cl,Br):Euで表されるアルカリ土類リン酸塩蛍光体と、志位3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mnで表されるフルオロジャーマネート蛍光体と、を含有する。図10Dには、蛍光体41の含有率を調整し、黒体放射軌跡に近い色度で、相関色温度の値を変えた複数の発光スペクトルを記す。また、例4の発光装置36では、115lm/W以上140lm/W以下の範囲の発光効率と、95以上100未満の範囲の平均演色評価数と、が実現される。
<発光装置例5>
例5の発光装置36は、410nm以上490nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39を有し、波長変換部材40において、式Sr4Al14O25:Euで表されるアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を含有する。図10Eには、例5の発光装置36による発光スペクトルを記す。例5の発光装置36は、470nm以上から490nm以下における発光強度を高めた発光装置でありサーカディアン特性に有効な発光スペクトルを示す。
発光装置36では、CIE1931表色系の色度図において、xが0.280及びyが0.070である第一の点と、色度座標におけるxが0.280及びyが0.500である第二の点と、を結ぶ第一の直線と、第二の点と、色度座標におけるxが0.013及びyが0.500である第三の点と、を結ぶ第二の直線と、第一の点から色度座標におけるxの値の小さい方に延びる純紫軌跡と、第三の点から色度座標におけるyの値の小さい方に延びるスペクトル軌跡と、で画定された領域内の光を発する。この光は、黒体放射軌跡から離れた色度であるため、他の発光装置と調色することで、照明光を作り出す。
また、例5の発光装置36では、MRの値が2.0以上である。また、発光スペクトル全体の発光強度に対する470nmから490nmの範囲の発光強度の割合が15%以上である。また、115lm/W以上140lm/w以下の範囲の発光効率が実現される。
これら例示した発光装置例1~例5に関する発光スペクトルの特徴は、図10A~図10Eに基づいて特定することができる。例えば、ピーク波長を有する波長帯域や、半値幅などを、これらの図から特定することができる。
次に、照明制御システム100による照明制御について説明する。図11は、照明制御システム100における照明制御の流れを記したフローチャート図である。以下、各フローについて説明する。
ステップS1において、照明を点けるためにスイッチが入れられる。スイッチは、例えば、企業の従業員で、その日最初に居室20に到着した従業員が入れる。あるいは、リモート制御によって、コンピュータが動的にスイッチを入れてもよい。例えば、オフィスビル1階の入館ゲートが、社員証などのICカードによる認証を要しており、ICカードが認証されることで、その企業の居室の照明スイッチをONに設定してもよい。
ステップS2において、照明制御装置12は、照明を点ける要求信号である照明リクエストを受信する。照明リクエストには、その照明スイッチによる照明のON/OFF制御の対象となる照明装置24を特定する照明特定情報が含まれる。照明特定情報には、例えば、居室番号を採用することができる。この場合、居室単位で照明装置24の制御がされることとなる。なお、居室20が広い場合、居室20をより細分化した領域に分けて、制御の単位としてもよい。
ステップS3において、照明制御装置12の調光管理部13は、調光設定記憶部15に記憶されている調光設定情報から調光設定を取得する。また、調光管理部13は、受信した照明リクエストに含まれる照明特定情報と、調光設定記憶部15に記憶されている調光設定情報とに基づいて、照明特定情報に紐付く調光設定を取得する。
図12は、調光設定記憶部15に記憶される調光設定情報のデータ構成の一例を示す図である。この例の調光設定情報は、居室20を借りる企業単位、言い換えると、建築物1の1又は複数の居室20を利用する契約者の単位で設定される契約者情報16である。
契約者情報16には、契約者に応じて、契約者識別コード、フロア、居室、及び、基本勤務時間が登録される。契約者識別コードは、居室20をレンタルしている企業、つまり、レンタル契約の契約者を識別する情報である。フロアにはその契約者がレンタルする居室20がある階数が、居室にはその居室20の居室番号が登録される。つまり、照明特定情報が登録される。
基本勤務時間には、その契約者が所望する時間帯が登録される。契約者が適宜決めればよいが、典型的には、その企業の勤務形態に基づく始業時間から終業時間までが、基本勤務時間として登録される。一般には、始業時間は、7時から10時30分の間に設定され、終業時間は16時から19時の間に設定されることが想定される。
また、図12に示すように、1つの企業が複数の居室をレンタルし、居室に応じて異なる基本勤務時間を登録することもできる。また、昼休みに消灯する場合に、昼休みの時間帯を登録することもできる。照明制御装置12の調光管理部13は、この契約者情報16から、照明リクエストに含まれる照明特定情報に紐づく調光設定を取得する。
図13Aから図13Eは、調光設定記憶部15に記憶される調光設定情報の一例を説明するための図である。この例の調光設定情報は、一日のサイクルで、どのように照明を制御するかを規定する調光ルール情報17である。
調光ルール情報17は、時間帯に応じてサーカディアン特性が変化するように、例えば、サーカディアン特性の度合いを、時間帯に応じて定めている。また、調色を行う場合は、相関色温度を、時間帯に応じて定めるようにしてもよい。図13Aから図13Dには、時間帯に応じてサーカディアン特性を定めた調光ルールの例が、図13Eには、時間帯に応じて相関色温度を定めた調光ルールの例が示されている。
照明灯具30において、第1発光装置37による光と第2発光装置38による光と、を照射する割合を変化させることで、照明装置24による照明のサーカディアン特性、または、相関色温度は変化させることができる。つまり、調光ルール情報は、照明灯具30の第1発光装置37による光と第2発光装置38による光の照射割合を、1日のうちの時間帯に応じて変化させるルールを定めた情報である。
図13Aの例(調光ルール1)では、0時から6時まではサーカディアン特性が一日のうちの最低値となっており、6時になると最大値に変わる。その後、15時30分までは最大値を保ち、15時30分から基本勤務時間の終業時間に至るまでの間、経時的にサーカディアン特性が減少していく。そして終業時間を過ぎた後は24時まで最低値となっている。
つまり、調光ルール1には、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(6時)にサーカディアン特性を増加させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(15時30分)からサーカディアン特性を減少させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(15時30分)から契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の終業時間)に至るまで、段階的にサーカディアン特性を減少させることが定められている。
図13Bの例(調光ルール2)では、0時から基本勤務時間の始業時間の1時間前まではサーカディアン特性が一日のうちの最低値となっており、始業時間の1時間前になると最大値に変わる。その後、15時30分までは最大値を保ち、15時30分から18時に至るまでの間、経時的にサーカディアン特性が減少していく。そして18時を過ぎた後は24時まで最低値となっている。
つまり、調光ルール2には、契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の始業時間)に基づいてサーカディアン特性を増加させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(15時30分)からサーカディアン特性を減少させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時間帯(15時30分から18時)に、段階的にサーカディアン特性を減少させることが定められている。また、契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の始業時間)と、予め定められる所定の条件(始業時間の1時間前)に基づいて、サーカディアン特性を増加させる時刻が決定されることが定められている。
図13Cの例(調光ルール3)では、0時から6時まではサーカディアン特性が一日のうちの最低値となっており、6時から基本勤務時間の始業時間に至るまでの間、経時的にサーカディアン特性が増加していく。その後、始業時間から終業時間までは最大値を保ち、終業時間になると最低値に変わる。そして終業時間を過ぎた後は24時まで最低値となっている。
つまり、調光ルール3には、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(6時)からサーカディアン特性を増加させることが定められている。また、契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の終業時間)にサーカディアン特性を減少させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(6時)から契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の始業時間)に至るまで、段階的にサーカディアン特性を増加させることが定められている。
図13Dの例(調光ルール4)では、0時から日の出の時刻(日昇時刻)まではサーカディアン特性が一日のうちの最低値となっており、日昇時刻から基本勤務時間の始業時間に至るまでの間、経時的にサーカディアン特性が増加していく。その後、15時30分までは最大値を保ち、15時30分から基本勤務時間の終業時間に至るまでの間、経時的にサーカディアン特性が減少していく。また、終業時間には、サーカディアン特性は最小値にならず、集合時間後も経時的にサーカディアン特性が減少していく。そして20時に最小値となり、その後は24時まで最低値を保っている。
つまり、調光ルール4には、自然環境情報(日昇時刻)に基づいて、サーカディアン特性を増加させる時刻が決定されることが定められている。なお、日昇時刻は、照明制御システム100が構築される地域に関し統計的に得られる情報で定めておくことができる。なお、日没時刻に基づいて、日没に合わせてサーカディアン特性が低くなるように調光ルールを定めてもよい。また、日没から日昇の間、サーカディアン特性を最低値にする調光ルールを定めてもよい。
また、調光ルール4には、契約者により定められる所定の時刻(基本勤務時間の終業時間)においてサーカディアン特性を最大値の所定の割合(例えば、50%)にまで経時的に減少させていくことが定められている。さらに、その後は、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(20時)まで経時的にサーカディアン特性を減少させることが定められている。また、
図13Eの例(調光ルール5)では、0時から6時までは相関色温度が一日のうちの最低値となっており、6時から基本勤務時間の始業時間に至るまでの間、経時的に相関色温度が上昇していく。その後、始業時間から15時30分までは最大値を保ち、15時30分から基本勤務時間の終業時間に至るまでの間、経時的に相関色温度が減少していく。そして終業時間を過ぎた後は24時まで最低値となっている。
つまり、調光ルール5には、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(6時)に相関色温度を増加させることが定められている。また、建築物1の管理者により定められる所定の時刻(15時30分)から相関色温度を減少させることが定められている。また、相関色温度の増加及び減少は、段階的に行われることが定められている。
このように、調光ルールは、1日の間で、照明装置24の照明によるサーカディアン特性の値を変化させるルールを定める。また、照明灯具30の第1発光装置37による光と第2発光装置38による光との照射割合を変化させることで、サーカディアン特性の値を変化させることができる。
この調光ルールは、10時における前記照明光のメラノピック比が、17時における前記照明光のサーカディアン特性よりも大きくなるように定められるとよい。また、10時から12時の間のサーカディアン特性の最大と最小の差が、14時から18時の間のサーカディアン特性の最大と最小の差よりも小さくなるように定められるとよい。また、10時から12時の間のサーカディアン特性の平均値が、16時から18時の間のサーカディアン特性の平均値よりも高くなるように定められるとよい。
なお、これらの例示した調光ルールに限らず、各例で示した要素を組み合わせて調光ルールは定めることができる。また、ここで示した要素以外を取り入れて調光ルールを定めてもよい。例えば、昼休みの時間帯における調光ルールを定めるなどしてもよい。
なお、このような調光ルールは、人体への影響に配慮されたルールとなっている。詳細は後述するが、第1発光装置37と第2発光装置38を適当に選択することで、相関色温度を定めた調光ルール5によっても、人体への影響に配慮された照明の制御が行われる。照明制御システム100において、調光ルールは、朝起きて夜寝るという人間の生活リズムに配慮し、朝や昼といった活動時間帯でサーカディアン特性の値が高くなり、夕方や夜になると日中よりもサーカディアン特性の値が低くなるように照明の制御態様を定める。また、契約者の勤務形態に合わせた調光ルールとすることで、勤務時間中における従業員の知的生産性を高めつつも、健全な生活リズムを促すことができる。
照明制御装置12の調光管理部13は、このような調光ルール情報17を調光設定記憶部15に記憶されている調光設定情報から取得する。なお、調光設定記憶部15には、少なくとも1つの調光ルールが登録された調光ルール情報が記憶されていればよい。定められた調光ルールが1つの場合、契約者に対して一律に適用される。
また、複数の調光ルールを記憶しておき、契約者に所望の調光ルールを選択させてもよい。あるいは、その契約者の勤務形態などを考慮してカスタマイズされた調光ルールを登録するようにしてもよい。契約者に応じた調光ルールを適用する場合、例えば、契約者情報において、各契約者に適用する調光ルールを特定する情報が登録される。
ステップS4において、照明制御装置12の調光管理部13は、取得した調光設定情報に基づいて、現在時刻における調光度を決定する。例えば、契約者情報と、調光ルール情報と、に基づいて、現在時刻におけるサーカディアン特性または相関色温度から、これに対応する調光度を特定し、第1発光装置37による光を照射する割合と、第2発光装置38による光を照射する割合と、をそれぞれ決定する。
なお、第1発光装置37と第2発光装置38の照射割合は、調光ドライバ60において決定されてもよい。つまり、照明制御装置12においては、サーカディアン特性または相関色温度の値(調光度)を特定し、この値を調光ドライバ60に送信する。そして、調光度を受信した調光ドライバ60において照射割合が決定されてもよい。サーカディアン特性の値と、発光装置36の照射割合と、の対応関係は、照明灯具30の特性データとして、照明制御システム100(照明制御装置12または調光ドライバ60)において管理されている。
ここで、照明制御システム100が、オフィスビルなどの建築物1で企業に利用される場合、照明がONである間は、照度については作業環境に応じた一定以上の値が保たれる。つまり、サーカディアン特性を変化させる際に、極端に照度が下がり従業員の作業性を損なわせてしまうといったことがないように照明制御は行われる。一般的なオフィスビルでは、例えば、机上照度で500lx以上の照度が当たるように照明灯具30による照明光は照らされる。
また、少なくとも、基本的な従業員の作業時間帯において、照明がONとなっている間は、作業環境に応じた一定以上の照度に制御される。基本的な従業員の作業時間帯とは、例えば、始業時間または9時から、終業時間または18時までの間で、昼休みを除いた時間帯が挙げられる。なお、作業時間帯はこれに限らない。例えば、サマータイムなどの制度を有する国では早い時間帯となることが考えられる。
ステップS5において、照明制御装置12の調光管理部13は、決定した調光度によって照明が調光制御されるように照明装置24に対して調光指示を送信する。図6の構成では、照明制御装置12が、通信可能に接続する調光ドライバ60に対し、照明指示を送信する。以降、照明制御装置12は、照明スイッチがOFFとなって照明OFFリクエストを受信するまでは、定期的に調光度を決定し、調光指示を送信する。また、照明OFFリクエストを受信した場合は、照明装置24に対して消灯指示を送信する。
ステップS6において、調光指示を受信した照明装置24は、受信した調光指示に応じて、照明灯具30の第1発光装置37による光と第2発光装置38による光と、を照射する割合を制御して、照明光を照射する。これにより照明がONの状態となる。図6の構成では、調光ドライバ60の調光制御部61が、照明灯具30の発光制御部35を制御し、この制御に応じて発光制御部35が第1発光装置37及び第2発光装置38を適当な照射割合で発光させる。
なお、調光ドライバ60が、調光を制御する照明灯具30に対して適用される調光ルールを記録しておき、調光ドライバ60において、ステップS2からステップS6までの処理を実行してもよい。この場合、照明制御装置12は、新規契約や契約更新に伴い調光設定情報の登録や更新が生じたタイミングで、対象となる調光ドライバ60に対して調光設定を送信し、調光ドライバ60は受信した調光設定を記録する。また、調光ルールが始業時間や終業時間に応じたルールとなっている場合、照明制御装置12は、調光ルール及び条件パラメータ(始業時間または終業時間)を含んだ調光設定を送信する。
このように、照明制御システム100では、照明がONとなっている間は、調光ルールに基づき、その時間帯に応じた調光が行われる。
次に、照明制御システム100において、第1発光装置37と第2発光装置38に採用する発光装置を、上述した発光装置例1~発光装置例5の中から選択し、上述の調光ルールに基づいて調光制御を行った場合について説明する。なお、調色制御を行わない場合と、調色制御を行う場合と、に分けて説明する。
調色制御を行わない場合、第1発光装置37と第2発光装置38には、同じ相関色温度の発光装置を採用することができる。そのため、ここでは第1発光装置37及び第2発光装置38に例5の発光装置は採用されていない。例えば、オフィスビルのような建物では、昼光色や昼白色の光を発光する照明灯具30が採用されることが多い。また、CIE1931表色系の色度図における相関色温度の範囲では、3000K以上7000K以下にある発光装置が採用されることが多い。
なお、ここでの同じ相関色温度とは、厳密に同じ相関色温度の値である場合に限らない。例えば、昼光色同士、昼白色同士、または、電球色同士など、照明の分野で同色帯として認識される相関色温度の範囲を含んでよい。また例えば、相関色温度が5000Kから6000Kの間、3500Kから4500Kの間、または、2000Kから3000Kの間を、同じ相関色温度としてもよい。但し、第1発光装置37と第2発光装置38の相関色温度の差が500K以内に収まっているのが好ましく、100K以内に収まっているのがなお好ましい。
また、相関色温度が高い方の差の許容範囲の方が、相関色温度が低い方の差の許容範囲よりも大きくてよい。例えば、6500Kよりも大きい相関色温度で揃える場合、±500K以内に収まっているのが好ましい(従って、6500Kで揃える場合、7000Kから6000Kまでのばらつきが同じ相関色温度として許容される)。5000Kから5750Kの範囲のいずれかで相関色温度を揃える場合、±250K以内に収まっているのが好ましい。また、3400Kから4600Kの範囲のいずれかで相関色温度を揃える場合、±150K以内に収まっているのが好ましい。2700Kから3150Kまでの範囲のいずれかで相関色温度を揃える場合、±100K以内に収まっているのが好ましい。
表1は、第1発光装置37及び第2発光装置38に、例1から例5の発光装置の中から異なる発光装置を選択して、調光ルールに基づき調光制御を行った場合のサーカディアン特性についてをまとめたものである。ここで、サーカディアン特性としては、MR(メラノピック比)と、発光スペクトルの全体の発光強度に対する470nmから490nmの範囲の発光強度の割合と、を求めた。表では、それぞれをサーカディアン特性1、サーカディアン特性2、としている。
第1発光装置37及び第2発光装置38のうち、サーカディアン特性の値が高い方の発光装置のみを発光させて照明光を照らすことで、サーカディアン特性を最大とした調光制御を実行することができる。一方で、サーカディアン特性の値が低い方の発光装置のみを発光させて照明光を照らすことで、サーカディアン特性を最小とした調光制御を実行することができる。表1では、第1発光装置37にサーカディアン特性の高い方の発光装置を、第2発光装置38にサーカディアン特性の低い方の発光装置を記している。
なお、最大あるいは最小を得る制御は、必ずしも、第1発光装置37及び第2発光装置38のうちの一方のみを発光させる態様でなくてもよい。第1発光装置37及び第2発光装置38の発光比率を調節して、調光ルールに定められたサーカディアン特性の最大と最小を実現できればよい。
表1からわかるように、同じ相関色温度で照明装置24による照明を制御する照明制御システム100では、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性1が最大となるときと最小となるときの差を0.010以上とすることができる。またさらに、その差を0.165以上とすることができる。
また、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性2が最大となるときと最小となるときの差を0.05%以上とすることができる。またさらに、その差を4.70%以上とすることができる。
この他にも、同じ相関色温度におけるサーカディアン特性1の制御範囲や、サーカディアン特性2の制御範囲は、同様にして表1の開示から導くことができる。また、発光装置例1~発光装置例4の発光効率や平均演色評価数と、表1とを複合して、総合的な制御を行うことができる。
例えば、表1の実施例1-3、2-3、及び、3-3は、発光装置例1~発光装置例4の中で、発光効率の良い2つの発光装置を選んだときの結果である。この結果からは、170lm/W以上の発光効率を維持しつつ、サーカディアン特性1が最大となるときと最小となるときの差を0.085以上とすることができる。またさらに、その差を0.100以上とすることができる。
また、第1発光装置37及び第2発光装置38の相関色温度が5000Kの場合と6500Kの場合とにおいて、サーカディアン特性1の最大と最小の差が最大となる実施例と、サーカディアン特性2の最大と最小の差が最大となる実施例と、は共通している。具体的には、実施例2-1及び実施例3-1が、差が最大となる実施例である。
サーカディアン特性1はサーカディアン応答に対応した評価値であり、サーカディアン特性2は470nmから490nmのメラノピックのピーク波長に対応した評価値である。図1のサーカディアン応答からもわかるように、サーカディアン特性1は、470nmから490nm以外の波長範囲の発光スペクトルによっても影響を受ける。
サーカディアン特性1の差が大きく、かつ、サーカディアン特性2の差が大きい照明灯具30を使用することで、サーカディアン応答に優れ、さらに、メラトニンの分泌制御にも優れた、照明制御システム100を実現することができる。
調色制御を行う場合、第1発光装置37と第2発光装置38には、異なる相関色温度の発光装置を採用することができる。調色の範囲としては、例えば、2700Kから6500Kまで、または、3000Kから5000Kまで、といった範囲が挙げられる。つまり、電球色から昼光色または昼白色までの範囲で調色できる照明灯具30が採用されることが多い。
サーカディアンリズムに合わせて調色を行おうとする場合、相関色温度の高い方を第1発光装置37、低い方を第2発光装置38とすると、第1発光装置37にサーカディアン特性の高い発光装置を採用し、第2発光装置38にサーカディアン特性の低い発光装置を採用する。相関色温度の高い昼光色や昼白色の照明が日中に、相関色温度の低い電球色の照明が朝方や夕方に照らされるためである。なお、調色の態様はこれに限らないが、自然の動きに逆行するような調色は、人体に悪影響を与える可能性がある。
表2は、第1発光装置37及び第2発光装置38に、例1から例6の発光装置の中から異なる発光装置を選択して、調光ルールに基づき調光制御を行った場合のサーカディアン特性についてをまとめたものである。なお、調色を行う場合、同じ発光装置を用いたとしても、サーカディアン特性の値は変化するため、第1発光装置37及び第2発光装置38に、同じ発光装置を用いたときの結果を従来例として記す。
調色を制御する照明制御システム100では、調色範囲の最大で、サーカディアン特性は最大となり、調色範囲の最小で、サーカディアン特性は最小となる。なお、表2の実施例において、発光装置の例5は、サーカディアン特性1が2.843で、サーカディアン特性2が21.32%である。
表2からわかるように、照明装置24による照明の調色を制御する照明制御システム100では、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性1が最大となるときと最小となるときの差を、2700Kから6500Kの調色範囲で、0.65以上とすることができる。またさらに、その差を0.80以上とすることができる。
また、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性1が最大となるときと最小となるときの差を、3000Kから5000Kの調色範囲で、0.40以上とすることができる。またさらに、その差を0.50以上とすることができる。このように、調色を行う方が、同色で制御する場合と比べて、サーカディアン特性1の制御範囲が大きい。
また、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性2が最大となるときと最小となるときの差を、2700Kから6500Kの調色範囲で6.50%以上とすることができる。またさらに、その差を7.00%以上とすることができる。
また、1日のサイクルの中で、サーカディアン特性2が最大となるときと最小となるときの差を、3000Kから5000Kの調色範囲で、4.50%以上とすることができる。またさらに、その差を5.00%以上とすることができる。
また、表2からわかるように、照明制御システム100では、サーカディアン特性1の値が1.13以上の第1発光装置と、0.48以下の第2発光装置と、を有する照明装置によって、2700Kから6500Kの範囲の調色を制御することができる。また、サーカディアン特性1の値が0.95以上の第1発光装置と、0.55以下の第2発光装置と、を有する照明装置によって、3000Kから5000Kの範囲の調色を制御することができる。
また、表2の実施例5-1から実施例5-3と、実施例5-4から実施例5-6とは、調色範囲を同じにして、第1発光装置37の相関色温度、及び、第2発光装置38の相関色温度が異なる例である(但し、例5の発光装置は異なっていない)。表2の結果から、同じ調色範囲であっても値が異なっていることがわかる。
また、2700Kの第1発光装置37と6500Kの第2発光装置38を使用して3000Kから5000Kの調色を行っても、サーカディアン特性1が最大となるときと最小となるときの差を0.40以上とすることができる。またさらに、その差を、0.45以上とすることができる。
照明装置に同じ発光装置例の組合せを採用するのであれば、調色範囲に近い発光装置を用いた方が、サーカディアン特性の最小値をより小さくできる傾向にあり、調色範囲から遠い発光装置を用いた方が、サーカディアン特性の最大値をより大きくできる傾向にあることが考察される。また、調色範囲に近い発光装置でなくても、サーカディアン特性に良好な照明装置を構成できることがわかる。
例えば、3000Kから5000Kの範囲で調色を行う場合、第1発光装置37としては、5000Kから8000Kの範囲内に相関色温度を有する発光装置を採用することができる。第2発光装置38としては、1500Kから3000Kの範囲内に相関色温度を有する発光装置を採用することができる。
例えば、2700Kから6500Kの範囲で調色を行う場合、第1発光装置37としては、6500Kから8000Kの範囲内に相関色温度を有する発光装置を採用することができる。第2発光装置38としては、1500Kから2700Kの範囲内に相関色温度を有する発光装置を採用することができる。
例えば、調色を行う場合、第1発光装置37としては、8000K以下の相関色温度を有するものに替えて、CIE1931表色系の色度図において、色度座標におけるxが0.280及びyが0.070である第一の点と、色度座標におけるxが0.280及びyが0.500である第二の点と、を結ぶ第一の直線と、第二の点と、色度座標におけるxが0.013及びyが0.500である第三の点と、を結ぶ第二の直線と、第一の点から色度座標におけるxの値の小さい方に延びる純紫軌跡と、第三の点から色度座標におけるyの値の小さい方に延びるスペクトル軌跡と、で画定された領域内の光を発する発光装置を採用することができる。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る照明制御システムについて説明する。第2実施形態に係る照明制御システムは、照明灯具が、第1発光装置及び第2発光装置に加えて、さらに第3発光装置を有して構成される点で、第1実施形態に係る照明制御システムと異なる。また、照明装置において、第1発光装置、第2発光装置、及び第3発光装置による発光が制御される点で、第1実施形態に係る照明制御システムと異なる。その他の点については、第1実施形態に係る照明制御システムと同様である。従って、図6、図8、及び図9を除いて、第1実施形態の説明に利用した図は、第2実施形態においても適用される。これらの図に関する説明も同様である。
図14は、照明制御システムにおける、照明装置224の構成と、照明装置224と外部装置との接続の一例を記した図である。また、図15は、照明灯具230の発光面(天井設置面と反対側の面)を記した図である。なお、図15では、照明灯具230のカバー33を外した状態を示している。また、図16は、照明灯具230が有する第3発光装置237を示す概略断面図である。
図14に記すように、照明装置224では、照明灯具230に採用される発光装置36として、第3発光装置237を有する。また、発光制御部35によって、第1発光装置37における発光と、第2発光装置38における発光に加え、さらに、第3発光装置237における発光を、それぞれ制御することができる。例えば、第1発光装置37と第2発光装置38のうちの一方だけを発光させることができる。
また、第3発光装置237は、発光素子39、封止部材43、及び、成形体42を有する。封止部材43は、発光素子39を封止し、また、発光素子39から発せられる光を拡散して、光出射面から出射する。第3発光装置237では、第1発光装置37及び第2発光装置38と比べて、波長変換部材を有していない。なお、封止部材43に代えて、波長変換部材を採用してもよい。
第3発光装置237による発光は、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する。例えば、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する発光素子39によって構成することができる。また、第3発光装置237は、420nm以上の可視光領域において、光強度が発光ピークの光強度の10%以上となる光を発光しないのが好ましい。
また、第3発光装置237は、320nm以下の領域において、光強度が発光ピークの光強度の10%以上となる光を発光しないのが好ましい。つまり、第3発光装置237は、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有し、かつ、第3発光装置237から発せられる実質的に有効な光の発光波長が、320nm以上420nm以下の範囲に収まっていることが好ましい。なお、ここでの実質的に有効な光とは、発光ピークの光強度の10%以上の光強度で発せられる光である。
照明制御システム200では、第3発光装置237による発光は、実質的に照明光として利用されない。言い換えると、照明灯具230において、電球色や昼白色など照明光として実現すべき白色光は、第3発光装置237による発光がなくても実現される。つまり、第3発光装置237による発光は、照明光としての調色や調光に大きな影響を与えず、人体への影響に配慮するために設けられた補助光である。
そのため、照明灯具230において、第3発光装置237が配置される数は、第1発光装置37が配置される数よりも少なく、かつ、第2発光装置38が配置される数よりも少ない。また、照明灯具230が発する第3発光装置237による補助光は、第1発光装置37及び第2発光装置38による照明光と比べて、小さい照度で放射される。
照明制御システム200では、照明光のサーカディアン特性の変動に対応して、第3発光装置237の放射照度[W/m2]が制御される。なお、調光の制御のための機構は、第1実施形態で説明した内容と同様である。
例えば、照明制御システム200では、照明光のサーカディアン特性の増減に対応して、第3発光装置237の放射照度[W/m2]が制御される。つまり、図13A乃至図13Eで例示した照明光のサーカディアン特性の変動に合わせて、第3発光装置237による補助光の発光も制御される。サーカディアン特性が最大のときには、第3発光装置237の放射照度も最大となり、サーカディアン特性が最小のときには、第3発光装置237の放射照度も最小となる。
例えば、第3発光装置237による発光は、最大で、5.0W/m2の放射照度とすることができる。また、最小で、0.0W/m2、つまり、第3発光装置237による発光をOFFとすることができる。
ここで、第3発光装置237による補助光の効果について説明する。360nmから400nmの範囲の光を浴びることで、近視抑制やうつ病の改善に効果があるといった研究結果が報告されている。そのため、第3発光装置237による補助光は、勤務時間の中でも活発に業務を行わせたい時間帯に照射するのが好ましい。従って、サーカディアン特性に対応して第3発光装置237による発光を制御することが、一つの好ましい制御形態である。
なお、360nm以上400nm以下の波長範囲は、紫外線A波に含まれるため、長時間、強い光が肌に照射されると光老化が起こる。照明制御システム200では、この点に配慮して、第3発光装置237による補助光の放射照度の最大が調整される。例えば、日本の神奈川県における真夏の正午の時間帯において、紫外線A波の放射照度はだいたい50W/m2であることを考え、照明制御システム200では、この1/10から1/5程度、つまり、放射照度の上限を10W/m2以下とするのが好ましい。
またさらに、照明制御システム200では、第3発光装置237による補助光の継続発光の上限時間を設定し、上限時間を超えて補助光による発光が継続されないように制御してもよい。例えば、調光制御部61は、補助光の連続発光が上限時間に達すると、一定時間、補助光は発光を制限し、一定時間が経過した後に、補助光の発光を再開するように制御する。具体例として、継続発光の上限時間を1時間半に設定し、上限時間到達時から発光が制限される制限時間を30分に設定することが挙げられる。
長時間の照射を回避することで、光老化を抑制することができる。また、第1発光装置37や第2発光装置38のような照明光であれば、勤務時間に突然照明が消えると業務に支障をきたすが、第3発光装置237が消えたとしても、照明灯具230は、照明として機能したままであるため、業務に支障をきたすことはない。
このように、サーカディアン特性に対応して第3発光装置237を制御する照明制御システム200は、特に、照明灯具230が、同じ相関色温度の第1発光装置37及び第2発光装置38を有して構成される場合に有効であると考えられる。第1実施形態で記した表1と表2を比較すれば明らかなように、同じ相関色温度で構成される場合、異なる相関色温度で構成される場合と比べて、サーカディアン特性の変化量(最大と最小の差)は小さい。そのため、照明光だけでなく、補助光も利用することで、適当な時間帯に活動の活発化を促すことができる。
また例えば、照明制御システム200は、サーカディアン特性の増減に反対して、第3発光装置237の放射照度[W/m2]が制御される。つまり、図13A乃至図13Eで例示した照明光のサーカディアン特性の変動とは逆の変動で、第3発光装置237による補助光の発光も制御される。サーカディアン特性が最大のときには、第3発光装置237の放射照度は最小となり、サーカディアン特性が最小のときには、第3発光装置237の放射照度は最大となる。
このように、サーカディアン特性に反対して第3発光装置237を制御する照明制御システム200は、例えば、異なる相関色温度の第1発光装置37及び第2発光装置38を有して照明を制御する病院などの施設において有効であると考えられる。第1実施形態で記した表2から明らかなように、異なる相関色温度で構成される場合、相関色温度が低くなるとサーカディアン特性も低くなる。例えば、うつ病患者のいる病室などにおいては、サーカディアン特性の低下による活性化の抑制作用に呼応して、気分が落ち込んでしまうリスクを抑制したい場合もあり得る。そのため、サーカディアン特性が低下する時間帯に補助光を放射することで、サーカディアンリズムを整えつつ、精神状態の安定化を図ることができる。
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態の照明制御システム200では、第3発光装置237が、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光を照射するものとして説明したが、補助光はこれに限定されない。第2実施形態で説明した第3発光装置237には、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光の他に、360nmから750nmの範囲以外に発光ピークを有する発光装置が含まれていてもよい。
例えば、ビタミンDの生成を促す295nm以上315nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光を照射してもよい。但し、この波長範囲の光は、紫外線B波に含まれるため、紫外線A波よりも光老化の影響が大きい。従って、放射照度の最大は、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光よりも低くするのが望ましい。
なお、照明制御システム200における第3発光装置237には、360nm以上400nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光の代わりに、他の補助光、例えば295nm以上315nm以下の範囲に発光ピークを有する補助光を採用するようにしてもよい。補助光としては、400nm以下あるいは750nm以上の波長範囲に発光ピークを有し、かつ、420nm以上730nm以下の波長範囲における発光がピーク光強度の10%以下である補助光を採用することができる。また、この補助光は、放射照度を制御することで、人体の体内リズムや精神状態などに影響を与える光である。
以上、本発明に係る各実施形態を説明してきたが、本発明の技術思想は、説明してきた具体的な実施形態に限定されるわけではない。例えば、実施形態において、本発明に係る照明制御システムの設置場所をオフィスビルに限る必要はない。例えば、病院、工場、学校、あるいは、商業施設などにおいて照明制御システムが構築されていてもよい。
また、サーカディアンリズムに係る特性は、実施形態で説明したものに限らなくてもよい。例えば、実施形態では、サーカディアン特性1として、480nm~490nm付近にピークを有する図1のサーカディアン応答曲線を用いたMRの値を採用したが、このサーカディアン応答曲線に代えて、Brainard教授により464nm付近にピークを有する人体へのメラトニン分泌抑制の作用スペクトルを用いて算出したサーカディアン特性を採用してもよい。
また、第1発光装置37及び第2発光装置38を、それぞれ個々に発光装置36として形成して照明灯具を構成する例を説明したが、第1発光装置37及び第2発光装置38を、1つの発光装置として形成してもよい。
図17Aから図17Cは、1つの発光装置36の筐体に、第1発光装置37及び第2発光装置38を含む形態のいくつかの例示である。この場合、第1発光装置37及び第2発光装置38は、1つの成形体42を共有して構成される。
図17Aは、1つの成形体42によって、2つのキャビティが形成され、第1発光装置37に係る発光素子39及び波長変換部材40、第2発光装置38に係る発光素子39及び波長変換部材40が、それぞれのキャビティに配置される発光装置36の形態を示している。
図17Bは、1つの成形体42によって、1つのキャビティが形成され、第1発光装置37に係る発光素子39及び波長変換部材40、第2発光装置38に係る発光素子39及び波長変換部材40がキャビティに配置される発光装置36の形態を示している。
また、第1発光装置37による発光のための波長変換部材40であって、第2発光装置38による発光に必要のない波長変換部材40は、第1発光装置37に係る発光素子39の周囲にのみ設けられる。同様に第2発光装置38による発光のための波長変換部材40であって、第1発光装置37による発光に必要のない波長変換部材40は、第2発光装置38に係る発光素子39の周囲にのみ設けられる。第1発光装置37及び第2発光装置38による発光のいずれにも必要な波長変換部材40は、第1発光装置37及び第2発光装置38を覆って設けられる。
図17Cは、1つの成形体42によって、1つのキャビティが形成され、第1発光装置37に係る発光素子39及び波長変換部材40、第2発光装置38に係る発光素子39及び波長変換部材40がキャビティに配置される発光装置36の形態を示している。
また、図17Bと比べ、第1発光装置37による発光のための波長変換部材40であって、第2発光装置38による発光に必要のない波長変換部材40はない。第2発光装置38による発光のための波長変換部材40であって、第1発光装置37による発光に必要のない波長変換部材40が、第2発光装置38に係る発光素子39の周囲にのみ設けられる。
また、第2発光装置38に係る発光素子39の周囲にのみ設けられる波長変換部材40は、複数層で構成される。なお、一層であってもよい。各層において、蛍光体は、下面に偏在して設けられる。例えば、ガラス材にシート状の蛍光体を貼り付けることで、このような波長変換部材40を形成することができる。
また、第2発光装置38に係る発光素子39の側面は、反射層44に覆われている。これにより、第1発光装置37に係る発光素子39からの光は、第2発光装置38に係る発光素子39に入射する前に反射層44に反射される。よって、第1発光装置37に係る発光素子39からの光が、第2発光装置38に係る発光素子39の周囲にのみ設けられる波長変換部材40によって波長変換されることを抑制することができる。
また、各実施形態により開示された全ての構成要素を必要十分に備えることを必須とせずとも、本発明は適用され得る。当業者、あるいは、発明の属する技術分野において、設計の自由度の範囲であれば、特許請求の範囲に、実施形態により開示された構成要素の一部が記載されていないとしても、本発明の適用は可能であり、本明細書はこれを含むものであることを前提として発明を開示する。