本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、信号取得条件等を変更することなく高精度の信号検出を可能にする地中レーダ装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための地中レーダ装置は、探査信号を送信する送信部と、検出信号を受信する受信部と、受信部からの検出信号を参照信号により処理する処理部とを備え、処理部は、参照信号を時間的に非線形に変化させて検出信号に合成することにより探査物を検出する。
上記地中レーダ装置では、処理部が参照信号を時間的に非線形に変化させて検出信号に合成するので、信号取得条件等を変更することなく検出信号に対して時間伸張を生じさせた様々な信号を形成でき、探査物の検出を高精度化することができる。具体的には、例えば検出信号に対して相対的な時間伸張を生じさせて元に戻すことができ、複数種の時間伸張を経た信号に対して共通性を抽出する相関処理を施すならば、処理部で発生する定在的なノイズがそれ自体で相殺されてノイズの低減を達成できる。
本発明の具体的な側面では、処理部は、参照信号によって検出信号に対して部分的に相対的な所定の時間伸張を与える変換を行うとともに当該所定の時間伸張を除く逆変換を行い、時間伸張を異ならせた変換及び逆変換によって得た複数の補正信号から出力信号を生成する。この場合、変換及び逆変換によって検出信号が再生され、元の時間伸張が異なる複数の再生信号において、処理部で発生する定在的なノイズを非定在的なものとすることができる。
本発明の別の側面では、処理部は、複数の補正信号を加算平均することによって出力信号を生成する。この場合、検出信号に含まれるノイズのうち処理部で発生し非定在化されたものを平滑化することができ、ノイズの低減が可能になる。
本発明のさらに別の側面では、処理部は、時間伸張を異ならせた変換として、各時間で時間伸張率が所定以上異なる複数の変換パターンを切り替えて処理を行う。この場合、検出信号に含まれるノイズの非定在化が確実となり、ノイズ低減の効果が高まる。
本発明のさらに別の側面では、複数の変換パターンは、各時間における時間伸張率が平均的に一様になるように設定されている。
本発明のさらに別の側面では、処理部は、時間伸張を異ならせた変換として、複数に分割された区間単位で時間伸張を行うとともに、時間伸張の対象となる区間を変更しつつ均等に選択する。
本発明のさらに別の側面では、処理部は、所定時間内に取得した多数の信号波形からタイミングをずらしながらサンプリングを行って波形抽出を行うとともに、タイミングの調整によって時間的な変換及び逆変換を行う。この場合、サンプリングのタイミングに対応する時間シフトの設定によって時間伸張量の設定を簡易に行うことができ、所望の時間伸張量を与えた検出信号を得ることができる。
本発明のさらに別の側面では、送信部は、地中探査用の電波を周期的に送信するとともに、受信部は、地中探査用の電波に同期させて電波を受信する。この場合、低レベルの信号から埋設物に対応する信号を抽出することができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態である地中レーダ装置の構造や動作について説明する。
図1に示すように、地中レーダ装置100は、台車等の各種移動体200に搭載されて移動しながら地中探査を行う。地中レーダ装置100は、電波により計測を行う計測部100Aと、移動体200の位置情報を収集する位置情報取得部100Bと、データ処理等を行う制御装置100Cとを備える。移動体200は、計測部100Aによる探査位置を変化させるため、車輪200aや駆動機構200b等を有する。
地中レーダ装置100のうち、計測部100Aは、詳細は後述するが、探査信号を送信する送信部20aと、検出信号を受信する受信部20bとを備える(図3参照)。位置情報取得部100Bは、GPS受信機、速度計、加速度計等を備えており、計測部100Aの位置である測定点つまり探査位置を計測して位置情報として出力する。制御装置100Cは、計測部100Aからの検出信号をデジタル的にデータ処理する。
図2に示すように、制御装置(処理部)100Cは、演算処理部101と、記憶部102と、入力部103と、表示部104と、インターフェース部105とを備える。制御装置100Cは、具体的には、地中探査用のプログラムを搭載したコンピューターを含み、ユーザーは、計測部100Aによる計測結果を、表示部104によって観察することができるだけでなく、各種計測パラメータの設定、信号処理に関する条件設定、計測結果の表示のためのデータ処理方法の選択等を、入力部103を介して演算処理部101に指示することができる。
演算処理部101は、記憶部102に保管されたプログラムやデータに基づいて動作し、入力部103やインターフェース部105から得た情報に基づいて処理を行い、処理の経過や結果を記憶部102に保管するとともに表示部104に提示する。特に、演算処理部101は、プログラム等に基づいてインターフェース部105を介して計測部100Aを動作させ、計測部100Aからの検出信号を処理して得た地点計測情報や経路断面計測情報を表示部104に表示させることができる。ここで、地点計測情報は、特定測定点での探査によって得た検出信号の受信強度を、電波の送信から受信までに経過した遅延時間又は反射時間の関数として表した波形パターンであり、以下ではAスコープ信号とも呼ぶ。また、経路断面計測情報は、検出信号の受信強度を、遅延時間と移動距離との関数で表したチャートであり、以下ではBスコープ信号とも呼ぶ。具体的には、地点計測情報(Aスコープ信号)は、検出信号の強度分布を、一方の軸を反射時間(又は深さ方向の距離)とし他方の軸を信号強度として表した強度波形である。また、経路断面計測情報(Bスコープ信号)は、移動体200の移動経路に沿った多数の測定点で収集した検出信号の強度分布を、一方の軸を反射時間(又は深さ方向の距離)とし他方の軸を経路方向の距離として、2軸方向の位置の関数として2次元的強度分布として表示する2次元画像データである。
図3に示すように、計測部100Aは、レーダ信号発生部10と、送信用増幅器21と、送信アンテナ31と、受信アンテナ32と、受信用増幅器22と、サンプリング処理部25と、計測側制御部60とを備える。
レーダ信号発生部10は、計測側制御部60に内蔵されたタイミング制御部61に駆動されてパルス状の送信波SP1を生成する。レーダ信号発生部10は、より具体的には、パルス状の送信波SP1を所定の時間間隔で間欠的に出力する。送信用増幅器21は、レーダ信号発生部10で形成される送信波SP1を増幅し、送信アンテナ31は、送信用増幅器21に駆動されて送信波SP1に対応する電波としての探査信号S1を地面に向けて放射する。レーダ信号発生部10、送信用増幅器21、及び送信アンテナ31は、探査信号(電波)S1を周期的に送信する送信部20aとして機能する。送信波SP1は、例えばパルスやチャープである。
受信アンテナ32は、地中UGに存在する埋設物その他の探査対象物OBで反射されて戻って来た応答波(電波)S2を検出信号として受信し、受信用増幅器22は、受信アンテナ32で受信した応答波S2に対応する信号を増幅して応答波SP2を出力し、サンプリング処理部25は、応答波SP2からデジタル信号であるデータ信号SRを生成する。受信アンテナ32、及び受信用増幅器22は、地中探査用の電波に同期させて電波である応答波(検出信号)S2を受信し、応答波(検出信号)SP2を出力する受信部20bとして機能する。
サンプリング処理部25は、所定時間内に取得した多数の信号波形である多数の応答波SP2からタイミングをずらしながらサンプリングを行って波形抽出を行う。すなわち、サンプリング処理部25は、受信アンテナ32で所定の時間間隔で受信され受信用増幅器22で増幅された多数回分の応答波SP2について、レーダ信号発生部10で形成された送信波SP1に対応する参照波S3を用い、この参照波S3から得た参照信号又はサンプリングゲートのタイミングをずらしながらサンプリング処理を行って、応答波SP2から測定レンジに対応する一群の信号成分を抽出する。サンプリング処理部25で得られる信号成分は、参照波S3とのタイミング差(遅延時間ともいう)に対応する深さ方向の距離に関連付けられて、デジタル信号として出力される。つまり、サンプリング処理部25のデータ信号SRは、埋設物その他の探査対象物OBの分布を示す強度出力値であり、深さ方向の距離ごとに応答波SP2から得た信号成分の振幅を算出したものとなっている。サンプリング処理部25は、相関器、重み付けフィルター等を備えるものとできる。相関器により、応答波SP2について相関処理を行って送信波SP1との相関性の高い信号成分を抽出することができ、外乱的な電波によるノイズを低減することができる。重み付けフィルターは、応答波SP2に対して遅延時間に応じた重み付けを行うものであり、例えばSTC(sensitivity time control)を用いることができる。STCを用いることで、地表での反射や深さ方向の減衰の影響を補正することができる。
計測側制御部60は、レーダ信号発生部10の動作とサンプリング処理部25の動作とを制御するとともに、サンプリング処理部25からのデータ信号SR又はこれに加工を施した計測データを制御装置100Cに出力する。計測側制御部60とサンプリング処理部25とは、図2に示す制御装置100Cの制御下で制御装置100Cとともに処理部として動作し、受信部20bからの応答波(検出信号)SP2を参照波(参照信号)S3により処理する。
計測側制御部60は、サンプリング処理部25を適宜動作させてデータ信号SRを得る際に、計測側制御部60の制御下で参照波S3からサンプリングのための参照信号を生成し、参照信号の時間シフトを調整する。この時間シフトが一様で固定的なものであれば、サンプリングの時間間隔が一定となって、データ信号SRは時間的な歪みを有しないものとなる。一方、この時間シフトが非一様で変化するものであれば、サンプリングの時間間隔が変動して、データ信号SRは時間的な歪みを有するものとなる。
図4(A)及び4(B)は、参照信号によるサンプリング結果を概念的に説明する図である。図4(A)の場合、参照信号RS0に対応した一連のデータ点DP1,DP2,DP3,DP4…が得られている。ここで、参照信号RS0の時間シフト量は、一連のデータ点DP1,DP2,DP3,DP4…によって構成されるデータ信号SR0の出力間隔である時間的間隔TS0と応答波SP2内でのサンプリングポイントの間隔又は刻み時間(例えば1ns)で決まる。なお、説明を簡単にするため、図中に単一の応答波SP2を示しているが、一連のサンプリングに際しては、時間的に隣接するが取得タイミングが異なる多数の応答波SP2が用いられ、正確なサンプリングのタイミングは、送信波SP1の時間的間隔TS0に対して単一の応答波SP2内でのサンプリングポイントの間隔又は刻み時間(例えば1ns)を加算した時間シフト量に対してn-1倍(nはサンプリングポイントの番号)した時刻となる。図4(B)の場合、参照信号RS1に対応した一連のデータ点DP1',DP2',DP3',DP4'…が得られている。ここで、参照信号RS1の時間シフト量は、一連のデータ点DP1',DP2',DP3',DP4'…によって構成されるデータ信号SR1の時間的間隔TS1と応答波SP2内でのサンプリングポイントの間隔又は刻み時間(例えば1ns)で決まる。
参照信号の時間シフト量は、データ信号DPの各データ点を生成する時間間隔をαとし、単一の応答波SP2内でのサンプリングポイントの間隔をβとして、β/αで表すこともできる。多くの場合、αは送信波SP1の繰り返し間隔に相当する。具体的には、例えば、10~500MHz帯域のレーダ信号を用いて、100nsのサンプリングレンジ(探査レンジ)を持つ地中レーダ装置100とした場合、時間シフト量β/αを、1ns/10μsとすると、サンプリングされた受信信号(Aスコープ信号)は、1~50kHz帯域で1msの時間長の信号になり、時間伸長率は10000倍となる。
図4(A)に示すサンプリングタイミングを基準とする場合、図4(B)に示すサンプリングタイミングに変更すると、時間伸張率は、TS1/TS0倍(図示の例では2倍)となる。逆に、図4(B)に示すサンプリングタイミングを基準とする場合、図4(A)に示すサンプリングタイミングに変更すると、時間伸張率は、TS0/TS1倍(図示の例では1/2倍)となる。つまり、時間的間隔TS0,TS1の調整により、様々な倍率で時間萎縮量や時間伸長量を設定することができる。さらに、応答波SP2の全体を同じ時間シフト量でサンプリングする必要はなく、応答波SP2の局所的部分で時間シフト量を変更してもよい。具体的には、応答波SP2の局所的部分に対するサンプリングの局所的な時間シフト量を、応答波SP2の基本的部分に対するサンプリングの標準的な時間シフト量とは異なるものとすることができる。このことは、参照信号RS0,RS1を時間的に非線形に変化させてデータ信号(検出信号)SRに合成することに相当する。参照信号RS0,RS1を時間的に非線形に変化させることで、基本的なデータ信号SRに対して所望のパターンで時間伸長や時間萎縮を行った様々なデータを簡易に得ることができる。例えば局所的な時間伸長を含む変換パターンで処理してデータ信号SRを得ることで、要部を拡大したような地点計測情報(Aスコープ信号)を得ることができ、例えば局所的な時間萎縮を含む変換パターンで処理してデータ信号SRを得ることで、要部を圧縮したような地点計測情報(Aスコープ信号)を得ることができる。
演算処理部101は、処理部として、地点計測情報(Aスコープ信号)を得る際に、サンプリング処理部25を適宜動作させることにより、参照波S3のタイミング差に相当する時間シフトを設定し、所望の変換パターンで時間伸長や時間萎縮を行うことで後述する複数の波形信号SO1又はAスコープ元信号SO2(図5参照)を得るとともに、これらの波形信号SO1又はAスコープ元信号SO2に対して加算平均その他の演算処理を行って、Aスコープ信号ASにおいてノイズを低減する。Aスコープ信号ASのノイズ低減については、図7等を参照して後に詳述する。
図5は、地中レーダ装置100の処理部90を説明する機能的な回路ブロック図である。処理部90は、図2及び3に示すサンプリング処理部25、計測側制御部60、演算処理部101等を含む信号処理回路である。処理部90は、所定時間内に取得した多数の信号波形である多数の応答波SP2からタイミングをずらしながらサンプリングを行って波形抽出を行うとともに、タイミングの調整によって時間的な変換及び逆変換を行う。サンプリング処理部25は、サンプラー25aとアンプ25bとA/D変換器25cとを含む。補正処理回路91、バッファ92、相関処理回路93は、演算処理部101又は計測側制御部60のデジタル演算処理機能によって達成される。サンプリング処理部25において、サンプラー25aには、受信用増幅器22からの応答波SP2が入力され、計測側制御部60の制御下で参照波S3から得た参照信号RSを利用してサンプリングが行われる。参照信号RSは、サンプリングタイミングを局所的に変更した非線形な信号であり、予め準備された様々な局所的な又は相対的な時間伸長を含む複数の変換パターンが順次選択される。結果的に、サンプラー25aの出力は、応答波SP2に対して選択した変換パターンに対応する様々な時間伸張を生じさせた信号となっており、標準的なデータ信号SRに対して選択した変換パターンに対応する様々な相対的な時間伸縮を生じさせた信号となっている。サンプラー25aの出力は、アンプ25bで増幅され、A/D変換器25cに入力される。A/D変換器25cからのデータ信号SRは、補正処理回路91において時間伸縮を元に戻して歪みを解消する補正処理を受けて元の波形に対応する波形信号SO1に修正される。さらに、補正処理回路91から出力された補正処理後の波形信号SO1は、Aスコープ信号を生成するためのAスコープ元信号SO2としてバッファ92に順次保管される。バッファ92は、記憶部102の一部とすることができるが、記憶部102とは別に設けることもできる。相関処理回路93は、バッファ92に保管された複数のAスコープ元信号SO2のグループSG1を一括して読み出し、グループSG1を構成する複数のAスコープ元信号SO2を振幅に関して加算平均することで、ノイズを低減したAスコープ信号ASを出力する。
図5に示す回路において、サンプラー25aによる処理後の信号に直接混入するノイズは、基本的に装置内部で発生するノイズであり、例えば、デジタル回路からのクロック系のノイズNZの漏れ込みがある。このようなノイズNZは、定在的なノイズであり、データ信号SRを単純に加算平均しても低減させることができない。このため、時間シフトに関して様々な時間伸長や時間萎縮を与える複数の変換パターンを準備し、このような変換パターンを与えたデータ信号SRを生成するとともに、時間変調を解消するような逆変換の補正処理を施した波形信号SO1を得る。逆変換の補正処理に際して、サンプリング処理部25から出力されるデータ信号SRに対しては、補正処理回路91によってデータ信号SRにおける時間の部分的な伸縮を解消するような逆変換(以下、補正関数とも呼ぶ)の補正処理が施される。ここで、補正処理回路91は、デジタル処理回路であり、サンプラー25aに設定される時間シフトから予測される時間の相対的伸縮をデジタル的に相殺するような時間軸の補正、つまりデータ信号SRにおける時刻の増加に対して適宜の係数を掛ける動作を行う。サンプラー25aに設定される変換用の時間シフト量と、補正処理回路91で行われる補正処理又は逆変換用の係数とは、一組として管理され、テーブルとして処理部90を有する演算処理部101の記憶部102に保管されている。データ信号SRの生成に際して、複数の変換パターンを切り替えて用い、複数の変換パターンは、変換の影響が十分に生じるように各時間で時間シフト量が所定以上異なるものとする。そして、複数の変換パターンは、時間的な伸縮の履歴が偏らないようなものとする。波形信号SO1は、変換パターンに対応して複数生成され、これらの波形信号SO1又はAスコープ元信号SO2を加算平均することで、ノイズNZが局所的に時間変調されて位相や周期が変動する状態で加算平均され、ノイズNZがそれ自体で相殺することになる。つまり、ノイズNZが定在的なものであっても非定在的なものであっても、Aスコープ信号ASからノイズNZを除去することができる。
図6(A)~6(F)は、時間変調を行う変換と時間変調を元に戻す逆変換とによってノイズを除去する手法について説明する概念図である。この場合、測定レンジ内において複数に分割された時間な区間TA1,TA2,TA3の単位で相対的な時間伸張を行うとともに、時間伸張の対象となる区間を変更しつつ均等に選択する。図6(A)及び6(B)は、応答波SP2の局所的部分に対応する測定レンジ内の最初の第1区間TA1で相対的な時間変調の変換を行ったデータ信号SRを示す。この場合、第1区間TA1で時間シフト量を例えば1ns/20μsとし、応答波SP2の基本部分に対応する第2及び第3区間TA2,TA3で時間シフト量を例えば1ns/10μsとする。図6(A)において、データ信号SRの本体成分SI内に3つのピークP1,P2,P3が現れ、図6(B)において、定在的なノイズNZが現れている。ピークP1については、時間変調によって2倍程度の時間的な伸張が生じている。なお、図6(A)の本体成分SIと図6(B)のノイズNZとは、本来重畳して計測されるが、ここでは説明の便宜のため分離して表示している。図6(C)及び6(D)は、応答波SP2の局所的部分に対応する測定レンジ内の中央の第2区間TA2で相対的な時間変調の変換を行ったデータ信号SRを示す。この場合、応答波SP2の基本部分に対応する第1区間TA1で時間シフト量を例えば1ns/10μsとし、第2区間TA2で時間シフト量を例えば1ns/20μsとし、応答波SP2の基本部分に対応する第3区間TA3で時間シフト量を例えば1ns/10μsとする。図6(C)において、データ信号SRの本体成分SI内に3つのピークP1,P2,P3が現れ、図6(D)において、定在的なノイズNZが現れている。ピークP2については、時間変調によって2倍程度の時間的な伸張が生じている。図6(E)及び6(F)は、応答波SP2の局所的部分に対応する測定レンジ内の最後の第3区間TA3で相対的な時間変調の変換を行ったデータ信号SRを示す。この場合、応答波SP2の基本部分に対応する第1及び第2区間TA1,TA2で時間シフト量を例えば1ns/10μsとし、第3区間TA3で時間シフト量を例えば1ns/20μsとする。図6(E)において、データ信号SRの本体成分SI内に3つのピークP1,P2,P3が現れ、図6(F)において、定在的なノイズNZが現れている。ピークP3については、時間変調によって2倍程度の時間的な伸張が生じている。図6(G)は、図6(A)に示す本体成分SIに対して第1区間TA1で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示し、図6(H)は、図6(B)に示すノイズNZに対して第1区間TA1で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示す。図6(H)のノイズNZは、第1区間TA1に時間圧縮部分NZaを有する。図6(I)は、図6(C)に示す本体成分SIに対して第2区間TA2で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示し、図6(J)は、図6(D)に示すノイズNZに対して第2区間TA2で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示す。図6(J)のノイズNZは、第2区間TA2に時間圧縮部分NZaを有する。図6(K)は、図6(E)に示す本体成分SIに対して第3区間TA3で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示し、図6(L)は、図6(F)に示すノイズNZに対して第3区間TA3で時間変調を元に戻す逆変換を行った状態を示す。図6(L)のノイズNZは、第3区間TA3に時間圧縮部分NZaを有する。図6(G)、図6(I)、及び図6(K)に示す本体成分SIを加算平均した場合、元の本体成分SIが維持される。図6(H)、図6(J)、及び図6(L)に示すノイズNZを加算平均した場合、ノイズは消しあって減少する。
図7(A)は、時間変調を行う変換とその時間変調を元に戻す逆変換とを行わない従来型の処理によって得たAスコープ信号ASを示し、図7(B)は、図7(A)のAスコープ信号ASに含まれる定在的なノイズNZを示す。図7(C)は、図6(H)、図6(J)、及び図6(L)に示すノイズNZの加算平均に対応し、図7(B)に示す定在的なノイズNZが圧縮されている。結果的に、図7(D)に示すように、本実施形態の手法では、Aスコープ信号ASにおいてピークP1,P2,P3を維持でき、かつ、ノイズNZを減少させることができる。
図8(A)~8(C)は、応答波SP2に適用する変換パターンを例示するチャートである。図8(A)は、第1区間TA1で応答波SP2に対して相対的な時間変調を与える際の変換パターンCP11を示し、図8(B)は、第2区間TA2で応答波SP2に対して相対的な時間変調を与える際の変換パターンCP21を示し、図8(C)は、第3区間TA3で応答波SP2に対して相対的な時間変調を与える際の変換パターンCP31を示す。これらの変換パターンCP11,CP21,CP31は、各時間における時間伸張率が平均的に一様になるように設定されている。時間変調率を段階的に変更する場合、図8(A)に示す変換パターンCP12、図8(B)に示す変換パターンCP22、及び図8(C)に示す変換パターンCP32を追加して計6の変換パターンを切り換えることとすることができる。ここで、変換パターンCP11と変換パターンCP12とは、第1区間TA1における時間伸張率が例えば倍程度異なる。これらの変換パターンCP11,CP21,CP31,CP12,CP22,CP32も、各時間における時間伸張率が平均的に一様になるような組み合わせとなっている。
図9は、応答波SP2に適用する変換パターンと、データ信号SRに適用する逆変換パターンとの対応関係の一例を説明する図である。逆変換パターンIV11による時間変調は、図8(A)にも示す変換パターンCP11による時間変調を反転させたようなものとなっており、変換パターンCP11による処理後に逆変換パターンIV11による処理を行うことで、変換パターンCP11によって生じた時間的伸縮が相殺される。なお、詳細な説明を省略するが、図8(B)及び8(C)に示す変換パターンCP21,CP31に対しても、それぞれに適合する逆変換パターンが準備される。
以上の説明では、時間軸の測定レンジを3つの区間に分けているが、2つの区間に分けたり、4つ以上の区間に分けてそれぞれの区間で遅延時間を設定することができる。また、同じ区間でパターンごとに設定する時間伸張率は、1段階や2段階に限らず、3段階以上とすることができる。ただし、区間で時間伸張の影響が略均等になるように区間の時間伸張率を設定する。
図10を参照して、データ信号SRの出力処理について説明する。演算処理部101は、応答波SP2に適用する変換パターンの番号nを初期値1に設定する(ステップS11)。変換パターンは、1つのデータ信号SRを得るための参照波S3又は参照信号RSを生成する際の時間シフトを規定したものであり、シフトテーブルとして記憶部102に保管されている。具体的には、図8(A)~8(C)に例示するような変換パターンが時間の関数としてテーブル化されている。次に、演算処理部101は、計測部100Aに対して変換パターンnにて探査を行わせる(ステップS12)。具体的には、例えば図8(A)に示す変換パターンCP11で参照信号RSを生成しつつ応答波SP2を取り込んで、図6(A)及び6(B)に示すような本体成分SI及びノイズNZを含むデータ信号SRを得る。次に、演算処理部101は、データ信号SRに対してステップS12で用いた変換パターンによる時間変調を元に戻す逆変換に相当する補正処理を実施し、時間的歪みを解消した波形信号SO1を得る(ステップS13)。演算処理部101は、補正処理を実施して得た波形信号SO1又はAスコープ元信号SO2を修正した計測データとしてバッファ92又は記憶部102に保管する(ステップS14)。演算処理部101は、現在使用している変換パターンの番号nが最大値Nか否かを確認し(ステップS15)、変換パターンの番号nが最大値Nでない場合(ステップS15でNo)、変換パターンの番号を1増やしてn=n+1とし(ステップS16)、次の変換パターンによる探査等を繰り返す(ステップS12~S14)。具体的には、例えば図8(B)に示す変換パターンCP21で参照信号RSを生成しつつ応答波SP2を取り込んで、図6(C)及び6(D)に示すような本体成分SI及びノイズNZを含むデータ信号SRを得るとともに補正処理によってAスコープ元信号SO2を得る。一方、変換パターンの番号nが最大値Nである場合(ステップS15でYes)、波形信号SO1又はAスコープ元信号SO2に相当するn個の計測データをバッファ92又は記憶部102から読み出して、これらを加算平均する(ステップS17)。次に、演算処理部101は、ステップS17で加算平均によって得たAスコープ信号ASを表示部104に表示させる(ステップS18)。
ここで、ステップS17で行う計測データの加算平均の意味について説明する。まず、第n番目の変換パターンでのサンプラー25aの信号出力をSn(t)とする。ここで、数値tは時間を意味する。また、サンプラー25a後の回路で混入するノイズNZをNn(t)とする。信号出力Sn(t)は、必要成分であり、ノイズNn(t)は、不要成分である。ノイズが混入したデータ信号SRをRn(t)とし、参照信号RSの変換パターンを元に戻すような逆変換の補正関数をyn( )とする。この場合、ノイズが混入した信号Rn(t)は、
Rn(t)=Sn(t)+Nn(t)
で与えられ、この信号Rn(t)を補正関数yn( )で処理したAスコープ信号の元となる計測データAn(t)は、
An(t)=yn(Rn(t))=yn(Sn(t))+yn(Nn(t))
となる。ここで、yn(Sn(t))は、変換パターンを元に戻したデータ信号SRであり、変換パターンによる差が解消されて全てのn=1~Nについて、
yn(Sn(t))=S
0(t)
となる。S
0(t)は、変換パターンによる処理を行わない従来手法で得たデータ信号SRと同様のものである。よって、
An(t)=S
0(t)+yn(Nn(t))
となる。この計測データAn(t)をn=1~Nで加算平均すると
となる。補正関数yn( )は、n毎に異なり、yn(Nn(t))を加算平均した値は減少し、
となる。また、S
0(t)は、平均的で変化しないものであり、加算平均されたAn(t)は、変換パターンの均等な分散やランダム性によってS/N比が向上したものとなる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態の地中レーダ装置100によれば、処理部として機能するサンプリング処理部25、計測側制御部60、及び制御装置100Cが、参照信号RSを時間的に非線形に変化させてデータ信号(検出信号)SRに合成するので、信号取得条件等を変更することなくデータ信号(検出信号)SRに対して時間伸張を生じさせた様々な信号を形成でき、探査物の検出を高精度化することができる。
以上の実施形態で説明された構造、形状、大きさ、及び配置関係については、本発明を理解及び実施できる程度に概略的に示したものに過ぎない。したがたって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
例えば、上記実施形態では、測定レンジ内で分割された複数の時間的な区間において遅延時間を設定しているが、測定レンジ全体で複数の時間伸張率を設定し、複数の時間伸張率で変換及び逆変換がなされたAスコープ元信号同士を加算平均してAスコープ信号を得ることもできる。
以上の説明では、所定の時間伸張を行う変換とその逆変換とがなされた複数のAスコープ元信号を加算平均してAスコープ信号を得ているが、時間伸張率に応じて加重平均を行うこともできる。さらに、多数のAスコープ元信号から各種手法による相関を求めることでAスコープ信号を得ることもできる。
図8(A)~8(C)に示す例では、時間伸張率が遅延時間又は深さに応じて階段状に変化する変換パターンを用いているが、時間伸張率が遅延時間に応じて連続的に変化する変換パターンを用いることもできる。