JP7127170B1 - 熱膨張性耐火材 - Google Patents

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Abstract

【課題】緩やかな昇温速度で昇温しても十分に膨張することができ、耐火性に優れる熱膨張性耐火材を提供する。【解決手段】ゴム成分及び樹脂から選択される少なくとも1種のマトリックス成分と、熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火材であって、300℃で前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率I)に対する、昇温速度5℃/minにて20℃から300℃まで昇温させて前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)が0.5~1.0である、熱膨張性耐火材。【選択図】なし

Description

本発明は、熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材に関する。
建築分野では、防火のために、建具、柱、壁材等の建築材料に耐火材が用いられる。耐火材としては、樹脂に、難燃剤、無機充填材などに加えて、熱膨張性黒鉛が配合された熱膨張性耐火材等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような熱膨張性耐火材は、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。
熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材は、例えば、建築物の開口部に設けられるドア、窓などの建具と、これらを包囲するドア枠、窓枠などの枠との隙間に設けられ、火災時には該シートが厚み方向に膨張して、建具と枠材の隙間を閉塞し、延焼を防止することができる。
特開2017-141463号公報
ところが、熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火材を用いても、緩やかな昇温速度で加熱した際に十分に膨張できない耐火材の場合、ドアや窓の炎と接しない面(非加熱面)で十分に膨張することができず、非加熱面の耐火材強度が脆くなり十分な耐火性を発現しないことが分かった。
そこで本発明は、緩やかな昇温速度で昇温しても十分に膨張することができ、耐火性に優れる熱膨張性耐火材を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、樹脂及びゴム成分から選択される少なくとも1種のマトリックス成分と、熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火材において、特定の膨張倍率(膨張倍率I)と膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)を所定範囲とすることで上記課題を解決できることを見出した。
本発明の要旨は、下記[1]~[10]の通りである。
[1]ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分と、熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火材であって、300℃で前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率I)に対する、昇温速度5℃/minにて20℃から300℃まで昇温させて前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)が0.5~1.0である、熱膨張性耐火材。
[2]前記膨張倍率IIが30倍以上である、[1]に記載の熱膨張性耐火材。
[3]100℃~300℃において、昇温速度40℃/minで昇温させたときの250℃における前記マトリックス成分の粘度Aに対する、100℃~300℃において5℃/minにて昇温させたときの250℃における前記マトリックス成分の粘度Bとの比率(B/A)が2.0以下である、[1]又は[2]に記載の熱膨張性耐火材。
[4]前記マトリックス成分の粘度Bが3000Pa・s以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[5]前記熱膨張性黒鉛の含有量が、マトリックス成分100質量部に対して20~500質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[6]前記マトリックス成分が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ウレタンエラストマー、クロロプレンゴム、及びEPDMからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[7]前記ゴム成分が、ニトリル量10~35質量%のアクリロニトリル-ブタジエンゴムである、[1]~[6]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[8]前記ゴム成分が、100℃におけるムーニー粘度が30~80のアクリロ-ニトリルブタジエンゴムである、[1]~[7]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[9]前記樹脂が、酢酸ビニル含量が20質量%以上の高Vac成分を含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリ酢酸ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[8]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[10]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含む、[6]~[9]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[熱膨張性耐火材]
本発明の熱膨張性耐火材は、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材であって、300℃で前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率I)と、昇温速度5℃/minにて20℃から300℃まで昇温させて前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)が0.5~1.0である。以下、本発明の熱膨張性耐火材のことを、単に耐火材という場合もある。
(膨張倍率)
本発明の耐火材は、300℃下で前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率I)と、昇温速度5℃/minにて20℃から300℃まで昇温させながら前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)(以下、「比率(II/I)」と表記)が0.5~1.0である。比率(II/I)が前記下限値未満である場合、耐火材を徐々に昇温させた場合において、耐火材が十分膨張せず、耐火性が損なわれる。こうした観点を踏まえると、比率(II/I)は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。なお、比率(II/I)は、マトリックス成分を適宜選択することで調整できる。
本発明の耐火材における膨張倍率IIは、耐火材を徐々に昇温させた場合においても、耐火材が十分膨張し、比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすくする観点から、7倍以上が好ましく、15倍以上がより好ましく、30倍以上がさらに好ましい。他方、膨張倍率IIの上限については、特に限定されるものではないが、残渣残存率及び残渣硬さを一定以上維持する観点から、好ましくは55倍以下、より好ましくは50倍以下、さらに好ましくは45倍以下である。
本発明の耐火材における膨張倍率Iは、比率(II/I)が上記範囲を満たせるものであれば特に限定されないが、火災発生時に、耐火材が直接炎に晒された場合においても耐火性を担保する観点から、好ましくは8倍以上、より好ましくは17倍以上、さらに好ましくは33倍以上であり、そして好ましくは70倍以下、より好ましくは60倍以下、さらに好ましくは50倍以下である。
(マトリックス成分)
本発明の耐火材は、ゴム成分及び樹脂から選択される少なくとも1種であるマトリックス成分を含有する。マトリックス成分はゴム成分が好ましい。
<ゴム成分>
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンエラストマーなどが挙げられる。
これらの中でも、残渣硬さ及び膨張圧力を高め、耐火性を向上させる観点から、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ウレタンエラストマー、クロロプレンゴム、EPDMからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすい観点から、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種がさらに好ましく、アクリロニトリル-ブタジエンゴムが特に好ましい。アクリロニトリル-ブタジエンゴムは、耐火材を徐々に昇温させた場合においても、構造が安定するため、火災発生時に適切な粘度を維持することができ、比率(II/I)を所望の範囲に調整して、耐火性を向上しやすい。
アクリロニトリル-ブタジエンゴムのニトリル量は、8~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。ニトリル量が上記の範囲にあるアクリロニトリル-ブタジエンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすく、比率(II/I)も所望の範囲に調整しやすい。
アクリロニトリル-ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~90が好ましく、30~80がより好ましく、40~70がさらに好ましい。100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が上記の範囲にあるアクリロニトリル-ブタジエンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすく、比率(II/I)も所望の範囲に調整しやすい。
クロロプレンゴムは、耐火材における含有炭素の割合を低くすることができるため、耐火性を高める観点から、耐火材に含まれるゴムとしてクロロプレンゴム使用することも好ましい。
クロロプレンゴムとしては、硫黄変性タイプ(Gタイプ)、非硫黄変性タイプ(Wタイプ)等も用いることができる。
クロロプレンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、60~120が好ましく、70~90がより好ましい。100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が上記の範囲にあるクロロプレンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすく、比率(II/I)も所望の範囲に調整しやすい。
なお、本明細書においてムーニー粘度はJIS K6300に準拠して測定される。
クロロプレンゴムを用いる場合は、耐火材は、後述する可塑剤を含有することが好ましい。耐火材の成形性を高める観点から、後述する可塑剤の中でも脂肪族エステル系可塑剤が好ましく、中でもエーテル結合を有する脂肪族エステル系可塑剤がより好ましく、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルがさらに好ましい。アジピン酸ジブトキシエトキシエチルの市販品としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカサイザーRS-107等が該当し、アジピン酸エーテルエステル系と称される。
なお、樹脂に対する可塑剤の使用量については後述する。
スチレン-ブタジエンゴム(SBR)としては、スチレンとブタジエンのランダム共重合体が挙げられる。スチレン-ブタジエンゴムのスチレン量は、20~60質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましく、30~45質量%がさらに好ましい。スチレン量が上記の範囲にあるスチレン-ブタジエンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすく、比率(II/I)も所望の範囲に調整しやすい。
スチレン-ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~60が好ましく、30~55がより好ましく、40~50がさらに好ましい。100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が上記の範囲にあるスチレン-ブタジエンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすく、比率(II/I)も所望の範囲に調整しやすい。
<樹脂>
樹脂としては熱硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよいが、好ましくは熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ウレタンエラストマーなどのウレタン系樹脂などが挙げられる。
上記した熱可塑性樹脂の中でも、比率(II/I)を高めて耐火性を向上させる観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びポリ酢酸ビニル樹脂が好ましい。また、耐火性をより向上させる観点から、酢酸ビニル含量の多い熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂としては、酢酸ビニル含量が20質量%以上の高Vac成分を含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリ酢酸ビニル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリ酢酸ビニル樹脂であることがより好ましい。なお、酢酸ビニル含量が20質量%以上の高Vac成分とは、酢酸ビニル含量が20質量%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分を意味する。エチレン-酢酸ビニル共重合体及びポリ酢酸ビニル樹脂は、非塩素系樹脂であるため、ダイオキシンなどが発生し難く、かつ、可塑剤を含有させることなく、比較的低温で熱膨張性黒鉛などと共に混練でき、また耐火材の成形性も良好になるため、耐火材に含まれる樹脂として使用することが好ましい。
高Vac成分の酢酸ビニル含有量は、及び、比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすい観点から、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、酢酸ビニル含有量が、20質量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(低Vac成分)を含んでもよい。比率(II/I)所望の範囲に調整して、耐火性を高める観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体全量基準で、高Vac成分の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、耐火材の膨張圧力を高める観点及び成形性を良好にする観点から、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(以下、低MFR成分ともいう)を含むことが好ましい。該低MFR成分の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、6.0g/10min以下であることがより好ましく、1.0g/10min以下であることが更に好ましい。低MFR成分の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、耐火材の成形性の観点から、0.05g/10min以上であることが好ましく、0.07g/10min以上であることがより好ましく、0.1g/10min以上であることがさらに好ましい。
エチレン-酢酸ビニル共重合体の190℃におけるメルトフローレートは、荷重2.16kgにおける測定値であり、JIS K7210:1999に準拠して測定される。
エチレン-酢酸ビニル共重合体全量基準で、低MFR成分の含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
なお、MFRと酢酸ビニル含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の構造を表す別々のパラメーターであるため、低MFR成分に該当し、かつ高Vac成分にも該当する成分も存在する。
エチレン-酢酸ビニル共重合体の中でも、酢酸ビニル含量が20質量%以上50質量%未満の高Vac成分を使用する場合は、膨張圧力を高め、耐火性を向上させる観点などから、該高Vac成分は上記した低MFR成分であることが好ましい。言い換えると、該高Vac成分のMFR(190℃)は、好ましくは8.0g/10min以下、より好ましくは6.0g/10min以下、更に好ましくは1.0g/10min以下であり、そして好ましくは0.05g/10min以上であり、より好ましくは0.1g/10min以上であり、さらに好ましくは0.3g/10min以上である。
エチレン-酢酸ビニル共重合体の中でも、酢酸ビニル含量が50質量%以上の高Vac成分を使用する場合は、比率(II/I)を所望の範囲に調整して、耐火性を向上させる観点などから、該高Vac成分の100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、好ましくは10~50、より好ましくは20~40である。
ポリ酢酸ビニル樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であり、これを耐火材に含まれる樹脂として用いることで、比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすく、耐火性も効果的に向上する。ポリ酢酸ビニル樹脂の重量平均分子量は、耐火材の成形性を良好にしつつ、膨張圧力を高める観点から、好ましくは10万~100万であり、より好ましくは20万~60万であり、さらに好ましくは30万~50万である。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定して得られる標準ポリスチレン換算値である。
(マトリックス成分の粘度)
本発明の耐火材は、100℃~300℃において、昇温速度40℃/minで昇温させたときの250℃におけるマトリックス成分の粘度Aに対する、100℃~300℃において5℃/minにて昇温させたときの250℃におけるマトリックス成分の粘度Bの比率(B/A)(以下、「比率(B/A)」と表記)が2.0以下であることが好ましい。比率(B/A)が2.0以下であることにより、耐火材を徐々に昇温させた場合においても、マトリックス成分の粘度が過剰に高まることを防止できる。そのため、耐火材が膨張しやすくなり、膨張倍率の比率も所定の範囲を満たすことができ、耐火性が向上する。また、耐火材の製造過程において、樹脂組成物の流動性をある程度担保でき、優れた成形性を得られることにより、良質な耐火材の提供が可能になる。こうした観点を踏まえると、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。
なお、比率(B/A)の下限は、特に限定されるものではないが、耐火材を徐々に昇温させた場合においても、耐火材樹脂組成物の硬さをある程度担保し、最低限の成形性を得る観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上である。
比率(B/A)は、マトリックス成分の種類、粘度、分子量などにより適宜調整できる。
本発明におけるマトリックス成分の粘度Bは、耐火材を徐々に昇温させた場合においても、耐火材が十分膨張しやすくしたり、優れた成形性を得たりする観点から、7500Pa・s以下が好ましく、5000Pa・s以下がより好ましく、3000Pa・s以下がさらに好ましい。他方、マトリックス成分の粘度Bの下限については、特に限定されるものではないが、成形性を良好にする観点から、好ましくは1000Pa・s以上、より好ましくは1200Pa・s以上、さらに好ましくは1300Pa・s以上である。
本発明におけるマトリックス成分の粘度Aは、比率(B/A)が上記範囲を満たせるものであれば特に限定されないが、火災発生時に、耐火材を急速に昇温させた場合においても、耐火材が十分膨張しやすくしたり、優れた成形性を得たりする観点から、6000Pa・s以下が好ましく、4500Pa・s以下がより好ましく、2500Pa・s以下がさらに好ましい。他方、マトリックス成分の粘度Bの下限については、特に限定されるものではないが、最低限の成形性を得る観点から、好ましくは800Pa・s以上、より好ましくは900Pa・s以上、さらに好ましくは1100Pa・s以上である。
(熱膨張性黒鉛)
本発明の耐火材は、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の原料粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
熱膨張性黒鉛は中和処理されてもよい。つまり、上記のように強酸化剤などで処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。
本発明の耐火材中の熱膨張性黒鉛の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは20~500質量部であり、より好ましくは30~250質量部であり、さらに好ましくは70~150質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなり、膨張倍率の比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすくなる。他方、熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
本発明における熱膨張性黒鉛は、平均アスペクト比が好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上であり、そして通常は1000以下である。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比がこれら下限値以上であると、耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。
熱膨張性黒鉛のアスペクト比は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法(長径)と最小寸法(短径)を測定し、これらの比(最大寸法/最小寸法)の平均値として求める。
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、所望の膨張圧力とする観点から、好ましくは50~500μmであり、より好ましくは100~400μmである。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法の平均値として求める。
上記した熱膨張性黒鉛の最小寸法及び最大寸法は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
(難燃剤)
本発明の耐火材は、難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤を含有することにより、耐火性が向上する。
難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。難燃剤としては、下記一般式(1)で表される化合物等も挙げられる。
Figure 0007127170000001
前記一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を示す。Rは、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。前記難燃剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の難燃剤としては、ホウ素系化合物及び金属水酸化物を使用することもできる。
ホウ素系化合物としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及びハイドロタルサイト等が挙げられる。金属水酸化物を用いた場合、発火により生じた熱によって水が生成し、速やかに消火することができる。
前記難燃剤の中でも、安全性やコスト等の観点から、赤リン、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)等のリン酸エステル、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、及びホウ酸亜鉛が好ましい。中でも、亜リン酸アルミニウム、及びポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
なお、上記に列挙した難燃剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよいが、1種を単独で使用することが好ましく、亜リン酸アルミニウムを使用することがより好ましい。亜リン酸アルミニウムは、膨張性があるため、これを含む耐火材は、膨張圧力が高まりやすく、より効果的に耐火性を向上させ易い。
難燃剤の平均粒子径は、1~200μmが好ましく、1~60μmがより好ましく、3~40μmがさらに好ましく、5~20μmがさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火材における難燃剤の分散性が向上し、難燃剤を樹脂中に均一に分散させたり、樹脂に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。また、平均粒子径が上記範囲外となると、樹脂中に難燃剤が分散しにくくなり、樹脂中に難燃剤を均一に分散させたり、多量に配合させたりすることが難しくなる。
なお、難燃剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
本発明の耐火材の難燃剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、15~1000質量部であることが好ましく、20~300質量部がより好ましく、30~100質量部が更に好ましい。難燃剤の含有量がこれら下限値以上であると、耐火材の耐火性が向上する。また、難燃剤の含有量がこれら上限値以下であると、樹脂中に均一に分散しやすくなり、成形性などが優れたものとなる。
(架橋剤)
本発明の耐火材は、架橋剤を含んでもよく、特にゴム成分として、アクリロニトリル-ブタジエンゴムを用いる場合は、架橋剤を併用することで、膨張圧力を高めることができ、耐火性が向上する。耐火材が架橋剤を含む場合は、火災の際の熱により、ゴム成分などのマトリックス成分の架橋が進行して、粘度が高くなり、それに伴い、膨張圧力が高まるものと考えられる。
架橋剤としては、公知のものが制限なく使用でき、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物、アゾ化合物などを挙げることができる。
硫黄系架橋剤としては、硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、塩化硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄等の無機系のものでもよいが、含硫黄有機架橋剤であってもよい。含硫黄有機架橋剤としては、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼピノン-2)、チウラムポリスルフィド、2-(4’-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3-ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α’ -ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート:ベンゾイルパーオキサイド:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
また、上記した架橋剤の中でも、耐火材を製造する際に、各成分を混練する温度(例えば70℃~150℃)で架橋反応が生じ難く、かつ、火災時の熱によりアクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのゴム成分の架橋反応が生じやすいものが好ましい。具体的には、硫黄系架橋剤が好ましく、これらの中では、架橋性の観点から無機系のものが好ましく、硫黄がより好ましい。
耐火材が架橋剤を含有する場合は、架橋剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.2~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~3質量部である。
(架橋促進剤)
本発明の耐火材は、架橋剤に加えて架橋促進剤が配合されることも好ましい。架橋促進剤としては、例えば、金属酸化物を挙げることができる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。本発明において金属酸化物を使用する場合、酸化亜鉛を使用することが好ましい。これら金属酸化物は、ステアリン酸などの炭素数12~24,好ましくは炭素数16~20の長鎖脂肪族カルボン酸と併用することがより好ましい。なお、このように、金属酸化物と併用される長鎖脂肪族カルボン酸も本明細書では架橋促進剤とする。
本発明の耐火材で使用できる架橋促進剤としては、上記したもの以外にも、例えば、チアゾール系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、グアニジン系化合物などが挙げられる。チアゾール系化合物としてはビス(ベンゾチアゾール-2-イルチオ)亜鉛が挙げられる。 架橋促進剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋促進剤としては、金属酸化物及びチアゾール系化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、これらを併用する態様も好ましい。この際、金属酸化物は、ステアリン酸などの炭素数16~20の長鎖脂肪族カルボン酸とさらに併用させてもよい。
本発明の耐火材において架橋促進剤を使用する場合の架橋促進剤の配合量は、特に限定されないが、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部であり、さらに好ましくは1~8質量部である。
(可塑剤)
本発明の耐火材は、可塑剤を含有してもよい。可塑剤を用いることにより、成形性が良好になりやすい。可塑剤を使用する場合において、可塑剤の含有量は、特に限定されないが、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは10~200質量部であり、より好ましくは20~60質量部である。可塑剤の含有量がこれら下限値以上であると耐火材の成形性が向上する。可塑剤の含有量がこれら上限値以下であると比率(II/I)を所望の範囲に調整しやすくなり、また、膨張圧力も高くなって、耐火性が向上しやすくなる。
可塑剤の具体例としては、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、又は炭素原子数10~13程度の高級アルコール又は混合アルコールのフタル酸エステル等のフタル酸エステル系可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジ-n-オクチルアジペート、ジ-n-デシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル等の脂肪族エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。
(無機充填材)
本発明の耐火材は、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材を更に含有してもよい。
難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材としては特に制限されず、例えば、アルミナ、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウム等の金属炭酸塩、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填材は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機充填材の平均粒子径は、0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。無機充填材は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火材の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
本発明の耐火材が、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材を含有する場合、その含有量は樹脂100質量部に対して、好ましくは10~300質量部、より好ましくは10~200質量部である。無機充填材の含有量が前記範囲内であると、耐火材の機械的物性を向上させることができる。
本発明の耐火材は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、分散剤、ゲル化促進剤、充填材、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の耐火材は、耐火性の観点から、熱膨張後の残渣硬さが、好ましくは0.10kgf/cm以上、より好ましくは0.13kgf/cm以上、さらに好ましくは0.17kgf/cm以上、よりさらに好ましくは0.22kgf/cm以上である。上記残渣硬さは、耐火材が膨張しやすくすることで耐火性を確保する観点から、好ましくは1.00kgf/cm以下であり、より好ましくは0.95kgf/cm以下であり、さらに好ましくは0.85kgf/cm以下である。
本発明の耐火材は、水に60℃で1週間浸漬した後においても、上記した範囲の残渣硬さを示すことが好ましい。水に長期間浸漬した後で膨張残渣が上記範囲内であると耐水性も良好である。なお、残渣硬さは、耐火材を加熱して膨張した後の膨張残渣において硬さを測定することで求めることができる。
(厚さ)
本発明の耐火材は、シート状であることが好ましく、その厚さは特に限定されないが、耐火性及び取扱い性の観点から、0.2~10mmが好ましく、0.5~3.0mmがより好ましい。
(耐火材の製造方法)
本発明の耐火材は例えば下記のようにして製造することができる。
まず、所定量の熱膨張性黒鉛、樹脂、必要に応じて配合される可塑剤、難燃剤、架橋剤、無機充填材、及びその他の成分を、混練ロールなどの混練機で混練して、耐火性樹脂組成物を得る。
次に、得られた耐火性樹脂組成物を、例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形等、公知の成形方法によりシート状などに成形することで耐火材を得ることができる。
混練する際の温度及びシート状に成形する温度は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満であることが好ましく、架橋剤を配合する場合は、架橋剤が架橋し難い温度であることが好ましい。そのため、混練する温度は、70~150℃が好ましく、90~140℃がより好ましい。シート状に成形する温度は、80~130℃が好ましく、90~120℃がより好ましい。
(積層シート)
本発明の耐火材は、他のシート部材や粘着剤層が積層され積層シートを構成してもよい。積層シートは、例えば、基材と、基材の片面又は両面に積層される耐火材とを備える。基材は通常、織布又は不織布である。織布又は不織布に使用される繊維としては、特に限定はされないが、不燃性材料又は準不燃材料が好ましく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等が好ましい。
上記積層シートは、例えば、耐火性樹脂組成物を基材の上にシート状に成形して得ることができる。
また、積層シートは、耐火材と粘着剤層を備えるものであってもよい。粘着剤層は、例えば、耐火材の片面又は両面に積層されてもよい。
さらに、積層シートは、耐火材と、基材と、粘着剤層とを備えてもよい。そのような積層シートは、基材の一方の面に耐火材、他方の面に粘着剤層が設けられてもよいし、基材の一方の面の上に、耐火材及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。粘着剤層は、例えば、離型紙に塗工した粘着剤を積層シートに転写することで形成できる。
本発明の耐火材は、及びこれを用いた積層シートは、具体的には、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の各種の建具、自動車、電車などの各種車両、船舶、航空機などに使用できるが、これらの中では建具に使用されることが好ましい。建具としては、具体的には、壁、梁、柱、床、レンガ、屋根、板材、窓、障子、扉、ドア、戸、ふすま、欄間、配線、配管などに使用することができるが、これらに限定されない。本発明の耐火材は、及びこれを用いた積層シートは、特に、窓、扉、ドアなどの建具の隙間に適用することで、火災等の際に炎が隙間を通過して侵入するのを防止することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[評価方法]
(1)膨張倍率I
各実施例、及び比較例の耐火材を所定のサイズにした(厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mm)。該所定のサイズの耐火材をステンレス製の板(98mm角・厚み0.3mm)の底面に設置し、あらかじめ300℃に設定しておいた電気炉に該耐火材を入れ、該耐火材を30分間加熱した。加熱後の耐火材の厚さを加熱前の耐火材の厚さで除することにより、膨張倍率Iを求めた。
(2)膨張倍率II
20℃に設定した電気炉に耐火材を入れ、そこから5℃/minの昇温速度で昇温し300℃に到達した時点で該耐火材を取り出した以外は(1)と同様にして膨張倍率IIを求めた。
(3)マトリックス成分の粘度A
表1に示す配合のうち、マトリックス成分を100℃で加熱プレスし、1mm厚み、直径2cmの円状の試験片を作製した。その後「MCR 302」(Anton Paar社製)を用いて、角周波数63rad/sの条件で100℃~300℃まで昇温速度40℃/minの条件で加熱しながら粘度を評価し、250℃における粘度を測定した。
(4)マトリックス成分の粘度B
昇温速度を5℃/minにした以外は(3)の測定と同様にして、徐々に昇温したときのマトリックス成分の250℃における粘度を測定した。
(5)残渣硬さ
あらかじめ600℃に昇温しておいた電気炉に耐火材を入れ、30分間加熱させた後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製フィンガーフィリングテスター)に供給し、0.25cmの圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定した。
(6)耐火時間
ケイ酸カルシウム板(日本インシュレーション社製)で作製したドアと、ドア枠とからなる耐火時間評価用ドア部材を作製した。該耐火時間評価用ドア部材のドアの側面と、ドア枠とは1cmの隙間が空いている。ドアの側面に、所定のサイズにした各実施例及び比較例の耐火材(厚み1.8mm、幅25mm、長さ1000mm)を取り付けた。次いで耐火炉にて、ISO834の標準加熱曲線に従って加熱して、耐火材が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。剥がれ落ちるまでの時間が長いほど、耐火性に優れた耐火材である。
なお、耐火時間の評価基準は、以下の通りである。
A:剥がれ落ちるまでの時間が90分以上
B:剥がれ落ちるまでの時間が75分以上90分未満
C:剥がれ落ちるまでの時間が60分以上75分未満
D:剥がれ落ちるまでの時間が60分未満
(7)成形性
ロールで混錬する際、硬すぎて流動しなかったり、柔らかすぎて流れやすくなり、形を保つことが出来なかったりすると収率が悪化する。成形性は、投入した材料のうち、混錬後シート状態で取り出せた収率で下記の通りで判定した。
A:90%以上
B:70%以上90%未満
C:50%以上70%未満
D:50%未満
各実施例、比較例で使用した各種成分は以下のとおりである。
(マトリックス成分)
1.ゴム成分
・NBR(1) 日本ゼオン社製「Nipol DN401L」
ムーニー粘度ML(1+4):70、ニトリル含有量18質量%
・NBR(2) 日本ゼオン社製「Nipol 1052J」
ムーニー粘度ML(1+4):46、ニトリル含有量33.5質量%
・NBR(3) 日本ゼオン社製「Nipol DN101L」
ムーニー粘度ML(1+4):60、ニトリル含有量42.5質量%
・NBR(4) 日本ゼオン社製「Nipol DN401」
ムーニー粘度ML(1+4):77.5、ニトリル含有量18質量%
・NBR(5) 日本ゼオン社製「Nipol DN101LL」
ムーニー粘度ML(1+4):32、ニトリル含有量18質量%
・SBR(1) 日本ゼオン社製「Nipol 1502」
ムーニー粘度ML(1+4):52、スチレン含有量23.5質量%
・SBR(2) 日本ゼオン社製「Nipol 1739」
ムーニー粘度ML(1+4):49、スチレン含有量40質量%
・クロロプレンゴム(1) 東ソー株式会社製「スカイプレンTSR-56」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):70
・クロロプレンゴム(2) 東ソー株式会社製「スカイプレン640」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):85
2.ポリ酢酸ビニル樹脂
・ポリ酢酸ビニル(1) 巴化学工業株式会社製「VINNAPAS 4FS」
重量平均分子量:30万 g/mol
・ポリ酢酸ビニル(2) 巴化学工業株式会社製「VINNAPAS 25FS」
重量平均分子量:50万 g/mol
3.エチレン-酢酸ビニル共重合体
・EVM(1) ランクサス社製「レバプレン500」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):27
酢酸ビニル含量:50質量%
・EVM(2) ランクサス社製「レバプレン800」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):27
酢酸ビニル含量:80質量%
・EVA(1) 三井・ダウポリケミカル株式会社製「EV180」
190℃におけるMFR:0.2g/10min
(熱膨張性黒鉛)
・熱膨張性黒鉛 ADT社製「ADT351」
平均アスペクト比:21.3
(難燃剤)
・亜リン酸アルミニウム 太平化学産業株式会社製「APA100」
・ポリリン酸アンモニウム クラリアントケミカルズ社製「AP422」
(可塑剤)
・アジピン酸エーテルエステル系 (株)ADEKA製「アデカサイザーRS-107」
(架橋剤)
・硫黄 細井化学工業株式会社社製「微粉硫黄S」
(架橋促進剤)
・亜鉛華(酸化亜鉛) 堺化学工業株式会社社製「ZnO」
・ステアリン酸 新日本理化株式会社社製「ステアリン酸 5000」
・ジクミルパーオキサイド 日本油脂株式会社製「パークミルD」
・ビス(ベンゾチアゾール-2-イルチオ)亜鉛 三新化学工業社製「サンセラーMZ」
(実施例1~17、比較例1~3)
表1に示す配合にて、マトリックス成分、熱膨張性黒鉛、難燃剤、架橋剤、及び可塑剤をロールに投入して、120℃で5分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、100℃で3分間プレス成形して、厚さ1.8mmのシート状の耐火材を得た。評価結果を表1に示した。
Figure 0007127170000002
以上の実施例に示すように、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含有し、かつ膨張倍率の比率が所定範囲内である本発明の耐火材は、耐火時間が長く、耐火性に優れることが分かった。
これに対して、膨張倍率の比率が所定範囲外である、各比較例の耐火材は、耐火時間が短く、耐火性に劣ることが分かった。

Claims (9)

  1. ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分と、熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火材であって、
    300℃で前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率I)に対する、昇温速度5℃/minにて20℃から300℃まで昇温させて前記耐火材を膨張させたときの膨張倍率(膨張倍率II)の比率(II/I)が0.5~1.0である、熱膨張性耐火材。
  2. 前記膨張倍率IIが30倍以上である、請求項1に記載の熱膨張性耐火材。
  3. 100℃~300℃において、昇温速度40℃/minで昇温させたときの250℃における前記マトリックス成分の粘度Aに対する、100℃~300℃において5℃/minにて昇温させたときの250℃における前記マトリックス成分の粘度Bとの比率(B/A)が2.0以下である、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火材。
  4. 前記マトリックス成分の粘度Bが3000Pa・s以下である、請求項1~3のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
  5. 前記マトリックス成分が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ウレタンエラストマー、クロロプレンゴム、及びEPDMからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
  6. 前記ゴム成分が、ニトリル量10~35質量%のアクリロニトリル-ブタジエンゴムである、請求項1~のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
  7. 前記ゴム成分が、100℃におけるムーニー粘度が30~80のアクリロ-ニトリルブタジエンゴムである、請求項1~のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
  8. 前記樹脂が、酢酸ビニル含量が20質量%以上の高Vac成分を含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリ酢酸ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
  9. 前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含む、請求項5又は8に記載の熱膨張性耐火材。
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