本発明者らは、鋭意検討した結果、硬水中から金属イオンを除去するイオン除去技術(軟水化技術)において、従来使用されていなかった「微細気泡」を用いることで金属イオンの除去を促進できるという新規な知見を見出し、以下の発明に至った。
以下に、本発明に係る実施の形態1-3を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1におけるイオン除去システム1の概略構成を示す図である。
<全体構成>
実施形態1におけるイオン除去システム1は、一次側流路2と、イオン除去装置3と、分離装置4と、二次側流路5とを備えている。
一次側流路2は、イオン除去装置3に接続されている。一次側流路2は、イオン除去装置3に硬水を供給する流路である。実施の形態1において、一次側流路2とイオン除去装置3との接続部分には、ポンプPが設けられている。ポンプPは、一次側流路2を流れる硬水を、イオン除去装置3を通じて分離装置4へ流すように機能する。ポンプPの駆動は、制御部6により制御される。
イオン除去装置3は、硬水を収容する硬水収容部3Aと、微細気泡を発生させて硬水収容部3Aに供給する微細気泡発生部3Bとを備えている。イオン除去装置3は、硬水収容部3Aにおいて硬水中の金属イオンを微細気泡に吸着させて、硬水中から金属イオンを除去する装置である。微細気泡発生部3Bは、ポンプPにガスが入らないように、ポンプPよりも硬水の流れ方向の下流側に配置されている。
実施の形態1において、金属イオンとは、カルシウムイオン(Ca2+)又はマグネシウムイオン(Mg2+)である。また、実施の形態1において、微細気泡とは、直径100μm以下の気泡である。微細気泡には、マイクロバブル(直径が例えば1μm以上100μm以下)と、ナノバブル(直径が例えば1μm未満)が含まれる。マイクロバブルは、水処理の分野における当業者がマイクロオーダーの気泡径と認識できる気泡としてもよい。また、ナノバブルは、水処理の分野における当業者がナノオーダーの気泡径と認識できる気泡としてもよい。微細気泡は、水中での滞留時間が長いこと、気泡単体として直径が大きくなりにくく他の気泡と合体しにくいこと、接触面積が大きく化学反応が生じやすいこと等、通常の気泡とは異なった性質を有する。
なお、微細気泡としては、直径100μm以上の気泡(ミリバブルなど)を少しの割合で含むものでもよい。例えば、直径100μm以下の割合が90%以上のものを微細気泡と定義してもよい。これに加えて、直径60μm以下の割合が50%以上、直径20μm以下の割合が5%以上などの条件を加えてもよい。また、気泡の直径(気泡径)を測定する際には、例えば、高速度カメラで微細気泡を含む硬水を直接撮影して、画像処理により3点法で気泡径を算出してもよく、あるいは、それ以外の任意の方法で測定してもよい。気泡径を測定するタイミングは、微細気泡が滞留している時間であれば任意のタイミングであってもよい。なお、前述した高速度カメラを用いた測定方法の条件の一例は、以下の通りである。
高速度カメラ :FASTCAM 1024 PCI (株式会社フォトロン)
レンズシステム :Z16 APO (Leica社)
対物レンズ :Planapo 2.0x(Leica社)
撮影速度 :1000fps
シャッター速度 :1/505000sec
画像領域 :1024×1024 pixel(マイクロバブル撮影領域 1.42mm×1.42mm、ミリバブル撮影領域 5.69mm×5.69mm)
画像処理ソフト :Image-Pro Plus (Media Cybermetics社)
実施の形態1において、微細気泡発生部3Bには、イオン除去用ガス供給部7と溶解剤供給部8とがガス切替機構9を介して接続されている。
イオン除去用ガス供給部7は、硬水中の金属イオンを除去するイオン除去用ガスを微細気泡発生部3Bに供給するように構成されている。実施の形態1において、イオン除去用ガス供給部7は、イオン除去用ガスとして「空気」あるいは「オゾンガス」を微細気泡発生部3Bに供給可能に構成されている。特にイオン除去用ガスとして「オゾンガス」を用いた場合の原理については、実施の形態4でより詳細に説明する。なお、イオン除去用ガス供給部7は、例えば、イオン除去用ガスが充填されたタンクを備えてもよい。また、イオン除去用ガス供給部7は、イオン除去用ガスを生成する装置であってもよい。さらに、イオン除去用ガス供給部7は、イオン除去用供給源に接続される装置であってもよい。
溶解剤供給部8は、硬水中から除去された金属イオンを結晶化して析出した金属成分の結晶を溶解させる溶解剤の一例である溶解用ガスを微細気泡発生部3Bに供給するように構成されている。実施の形態1において、溶解剤供給部8は、溶解用ガスとして「二酸化炭素(CO2)」を微細気泡発生部3Bに供給するように構成されている。溶解剤供給部8は、分離装置4に溶解剤を供給できるように、分離装置4よりも硬水の流れ方向の上流側に配置されている。なお、溶解剤供給部8は、例えば、溶解剤が充填されたタンクを備えてもよい。また、溶解剤供給部8は、溶解剤を生成する装置であってもよい。さらに、溶解剤供給部8は、溶解剤供給源に接続される装置であってもよい。
ガス切替機構9は、イオン除去用ガス又は溶解用ガスのいずれか一方が微細気泡発生部3Bに供給されるように切り替える機構である。ガス切替機構9を切り替えることにより、イオン除去用ガスによる軟水化処理と溶解用ガスによる再生処理とを選択的に行うことができる。ガス切替機構9は、例えば、1以上の弁によって構成されている。ガス切替機構9の切替動作は、制御部6により制御される。
微細気泡発生部3Bは、イオン除去用ガスが供給されるようにガス切替機構9が切り替えられたとき、イオン除去用ガスを含む微細気泡を発生させる。この微細気泡が硬水中から金属イオンを除去して金属成分の結晶を分離することにより、硬水が軟水化処理される。軟水化処理の原理については、後で詳しく説明する。
一方、微細気泡発生部3Bは、溶解用ガスが供給されるようにガス切替機構9が切り替えられたとき、溶解用ガスを含む微細気泡を発生させる。この微細気泡により、後述するように分離装置4に付着した金属成分の結晶を溶解させて再生処理することができる。再生処理の原理については、後で詳しく説明する。
分離装置4は、硬水収容部3Aの上方外周部に設けられた接続流路3Cを介してイオン除去装置3に接続されている。分離装置4は、イオン除去装置3によって硬水中から除去された金属イオンを結晶化して析出した金属成分の結晶を分離する装置である。イオン除去装置3及び分離装置4により、硬水中における金属イオンの濃度(硬度)を所定濃度以下まで低下させて、軟水を製造することが可能になる。なお、硬水及び軟水の定義としては、例えば、WHOの定義を用いてもよい。すなわち、硬度120mg/L未満を軟水と定義し、硬度120mg/L以上を硬水と定義してもよい。
実施の形態1において、分離装置4は、下方に向けて直径が小さくなるテーパ状の内周面4Aaを有し、硬水が内周面4Aaに沿って下方に向けて螺旋状に流れることによって金属成分の結晶を分離するサイクロン方式の遠心分離装置である。実施の形態1において、分離装置4は、内周面4Aaを有する分離部4Aと、金属成分の結晶を貯留する結晶貯留部4Bとを備えている。
分離部4Aには、分離部4Aの中心軸から偏心した方向にイオン除去装置3を通過した水を吐出するように接続流路3Cが接続されている。このような偏心配置により、分離部4A内に吐出される水は、内周面4Aaに沿って下方に向けて螺旋状に流れる。硬水中から除去された比重の大きな金属イオンは、遠心分離によって内周面4Aa側に移動し、内周面4Aaの近傍で金属成分の結晶として析出する。当該結晶の一部は内周面4Aaに付着する。
結晶貯留部4Bは、分離部4Aの下方に配置されている。結晶貯留部4Bは、金属成分の結晶を含む水を排出する排出流路4Baを備えている。排出流路4Baには、排出流路4Baを開閉可能な開閉弁10が設けられている。開閉弁10の開閉動作は、制御部6により制御される。また、排出流路4Baの開閉弁10よりも排出方向の下流側には、排出側逆流防止機構11が設けられている。
排出側逆流防止機構11は、金属成分の結晶が分離装置4内に逆流するのを防止する機構である。この排出側逆流防止機構11により、硬水から金属成分の結晶が分離された処理水(軟水)に、再び金属成分の結晶が混入することを抑えることができる。排出側逆流防止機構11は、例えば、1以上の逆止弁で構成されている。また、排出側逆流防止機構11は、例えば、バキュームブレーカで構成されてもよい。さらに、排出側逆流防止機構11は、排出流路4Baの出口に吐水口空間を設けて逆流を防止するように構成されてもよい。
二次側流路5は、分離装置4に接続されている。二次側流路5は、金属成分の結晶が分離された処理水を分離装置4から取り出す流路である。実施の形態1において、分離装置4はサイクロン方式の遠心分離装置であるので、金属成分の結晶を内周面4Aaの近傍に集めることができる。二次側流路5内に金属成分の結晶が侵入するのを抑えるため、二次側流路5は、内周面4Aaから離れた位置である分離部4Aの上方中央部に接続されている。
二次側流路5を流れる処理水は、例えば、キッチン、浴室、トイレ、洗面などに供給される。処理水の使用により、一次側流路2から二次側流路5まで流れる液体の流量が急激に減少した場合、硬水中から金属イオンを遠心分離する速度が低下し、金属イオンの除去効率が低下することが起こり得る。また、金属成分の結晶が処理水中に混入することが起こり得る。
このため、実施の形態1において、分離装置4と一次側流路2とには、分離装置4により硬水から金属成分の結晶が分離された処理水の一部を一次側流路2に戻す戻し流路12が接続されている。すなわち、一次側流路2とイオン除去装置3と分離装置4と戻し流路12とで循環流路が構成されている。この循環流路により、一次側流路2から二次側流路5まで流れる液体の流量の変動をより安定化させて、金属イオンの除去効率の低下を抑えることができる。また、ポンプPを駆動することにより、強制的に循環流路内で液体を循環させることで、当該液体の流量の変動をより安定化させて、金属イオンの除去効率の低下を抑えることができる。また、金属成分の結晶が処理水中に混入することを抑えることができる。
なお、循環流路を流れる液体の流量は、軟水の使用流量以上(例えば、2リットル/分)であることが好ましい。循環流路を流れる液体の流量が軟水の使用流量よりも大きければ大きいほど、液体の流量の変動をより安定化させて、安定して軟水を製造することができる。また、循環流路は、密閉系であることが好ましい。これにより、循環流路内に空気が取り込まれることを抑えて、液体の流量の変動をより安定化させることができる。
実施の形態1において、戻し流路12の一端部12aは、分離部4Aの中心軸側で開口している。これにより、内周面4Aaの近傍に析出する金属成分の結晶が戻し流路12内に侵入するのを抑えている。また、イオン除去装置3の接続流路3Cは、戻し流路12の一端部12aよりも下方で分離部4Aに接続されている。すなわち、戻し流路12の一端部12aは、金属イオンが除去された硬水が下方に向けて螺旋状に吐出される接続流路3Cの出口よりも上方に位置する。これにより、内周面4Aaの近傍に析出する金属成分の結晶が戻し流路12内に侵入するのをさらに抑えている。
また、一次側流路2には、供給側逆流防止機構13が設けられている。供給側逆流防止機構13は、微細気泡や処理水が硬水の供給側に逆流するのを防止する機構である。供給側逆流防止機構13は、例えば、1以上の逆止弁で構成されている。実施の形態1において、供給側逆流防止機構13は、戻し流路12よりも一次側流路2の硬水の流れ方向の上流側に設けられている。これにより、微細気泡や処理水などが硬水の供給側に逆流するのをより確実に防止することができる。
また、例えば、イオン除去装置3が故障するなどしてメンテナンスが必要な場合、当該メンテナンス中は水の使用ができなくなる。このため、実施の形態1において、一次側流路2と二次側流路5とは、バイパス流路14により接続されている。また、イオン除去システム1は、一次側流路2を流れる硬水の流れ方向を、イオン除去装置3又はバイパス流路14のいずれか一方へ向けるように切り替える流れ切替機構を備えている。当該流れ切替機構を切り替えることにより、一次側流路2を流れる硬水をバイパス流路14を通じて二次側流路5に流すことができるので、メンテナンス中でも硬水の使用を可能にすることができる。また、メンテナンス中でなくても、流れ切替機構を切り替えることにより、硬水と処理水(軟水)とを選択的に使用することが可能になる。
実施の形態1において、流れ切替機構は、一次側流路2を開閉可能な第1弁15Aと、二次側流路5を開閉可能な第2弁15Bと、バイパス流路14を開閉可能な第3弁15Cとを備えている。第1弁15A、第2弁15B、及び第3弁15Cの開閉動作は、制御部6により制御される。
制御部6は、第1弁15A及び第2弁15Bを開放するとともに第3弁15Cを閉塞する第1制御と、第1弁15A及び第2弁15Bを閉塞するとともに第3弁15Cを開放する第2制御とを選択的に実行するように構成されている。制御部6が第1制御を実行することで、一次側流路2を流れる硬水がイオン除去装置3へ流れて軟水化処理され、二次側流路5に流入する。これにより、二次側流路5の出口には処理水(軟水)が吐水されることになる。また、制御部6が第2制御を実行することで、一次側流路2を流れる硬水が、バイパス流路14を通じて二次側流路5に流入する。これにより、二次側流路5の出口には硬水が吐水されることになる。すなわち、制御部6が第1制御又は第2制御を実行することで、二次側流路5の出口から硬水又は処理水(軟水)を選択的に吐水させることができる。
実施の形態1ではさらに、紫外線照射器16が設けられている。紫外線照射器16は、硬水収容部3Aの硬水に紫外線を照射する部材である。実施の形態1の紫外線照射器16は、硬水収容部3A内において鉛直方向に延びる略円柱状の部材として設けられている。
図1AのA-A断面図を図1Bに示す。図1Bに示すように、紫外線照射器16は硬水収容部3Aの中央部に設けられており、矢印Pで示すように、硬水収容部3Aの外周部49に向かって紫外線を照射するように構成されている。これにより、硬水中の微細気泡Xに対して紫外線を照射することが可能である。
<軟水化処理>
次に、微細気泡による軟水化処理の原理についてより詳しく説明する。
空気を含む微細気泡が硬水中に供給されることで、硬水中の金属イオンに対して以下の(1)、(2)の欄に記載するような作用が生じると推測される。具体的には、硬水中の金属イオンを微細気泡に吸着させるとともに、吸着した金属イオンを結晶化させて、硬水中から金属成分の結晶を除去することができると推測される。より具体的には、以下の通りである。なお、以下の(1)、(2)の欄に記載する特定の原理に拘束される訳ではない。
(1)金属イオンの吸着
図2に示すように、空気を含む微細気泡が硬水中に供給されると、微細気泡の表面にはH+(水素イオン)とOH-(水酸化物イオン)が混在し、H+は正の電荷に帯電し、OH-は負の電荷に帯電する(図2ではOH-のみを図示)。一方で、硬水中には、正の電荷に帯電した金属イオンとして、Ca2+及びMg2+が存在する。以降の説明では、金属イオンとしてCa2+を例として説明する。
正の電荷を持つCa2+は、分子間力の作用(イオン間相互作用)によって、微細気泡の表面に存在するOH-に吸着される。このようにしてCa2+を微細気泡に吸着させることができる。なお、微細気泡の表面にはCa2+に反発するH+が存在するが、H+よりもOH-が優先的に作用してCa2+を吸着すると考えられる。この「金属イオンの吸着」は、主としてイオン除去装置3内で行われる。
(2)金属イオンの結晶化
図2で示した反応に加えて、空気を含む微細気泡を硬水中に供給することにより、図3で示す反応が促進される。具体的には、硬水中に供給された微細気泡は通常の気泡とは異なり浮上しにくく、硬水中に溶け出していくため、表面張力が増加して、図3に示すように徐々に収縮していく。前述したように、微細気泡の表面にはCa2+が吸着されている。より具体的には、可溶性のCa(HCO3)2(炭酸水素カルシウム)のカルシウムイオンとして存在している。ここで、微細気泡が徐々に収縮していくと、微細気泡の表面におけるCa2+の溶解濃度が上昇する。溶解濃度の上昇により、ある時点で過飽和の状態となり、Ca2+が結晶化して析出する。具体的な化学式で表すと、以下の式1の通りである。
(式1)
Ca(HCO3)2→CaCO3+CO2+H2O
CaCO3(炭酸カルシウム)は不溶性(非水溶性)であるため、金属成分の結晶として析出する。これにより、Ca(HCO3)2のCa2+として溶解していたものが、金属成分の結晶として析出される。このような反応が促進されることにより、硬水中から金属イオンのCa2+を結晶化して析出したCaCO3を分離することができる。この「金属イオンの結晶化」は、主として分離装置4の分離部4A内で行われる。
なお、同じ水の中で式1とは逆向きの反応も生じうるが、微細気泡を継続的に供給することにより、当該平衡関係において式1の向きの反応が優先的に行われるものと推測される。
実施の形態1において、分離装置4はサイクロン方式の遠心分離装置であるので、金属成分の結晶は、分離部4Aの内周面4Aaの近傍に析出し、結晶貯留部4Bに貯留される。結晶貯留部4Bに貯留された金属成分の結晶は、開閉弁10が開放されることにより、排出流路4Baを通じて排出される。このようにして、硬水中から金属成分の結晶を分離することで、硬水を軟水化することができる。
さらに実施の形態1では、紫外線照射器16により硬水収容部3A内の硬水に紫外線を照射している。これにより、以下の式Aに示す反応が促進されるものと考えられる。
(式A)
O(1D)+H2O→2OH-
式Aにおいて、O(1D)は、励起状態の酸素原子である。O(1D)は、紫外線が硬水中の酸素成分(オゾン等)と反応することにより生じる。式Aに示すように、O(1D)が水と反応することにより、硬水中におけるOH-の量が増加する。これにより、図2を用いて説明したようなOH-によるCa2+の吸着効果を増大させることができ、金属イオンの除去を促進することができる。
<再生処理>
次に、微細気泡による再生処理の原理についてより詳しく説明する。
軟水化処理を行うことで、金属イオンを結晶化して析出したCaCO3の一部は、分離部4Aの内周面4Aaに付着する。このCaCO3をCa(HCO3)2に戻すための処理として、再生処理を行う。具体的には、微細気泡発生部3Bが、軟水化処理時とは異なる気体である二酸化炭素を含む微細気泡を発生させる。
図4に示すように、分離部4Aの内周面4Aaに付着したCaCO3に対して二酸化炭素の微細気泡を供給することで、以下の反応が促進される。
(式2)
CaCO3+CO2+H2O→Ca(HCO3)2
当該反応により、不溶性のCaCO3から可溶性(水溶性)のCa(HCO3)2が生成される。Ca(HCO3)2は水の中に溶け出していき、結晶貯留部4Bに移動する。結晶貯留部4Bに移動したCa(HCO3)2は、開閉弁10が開放されることにより、排出流路4Baを通じて排出される。これにより、分離部4Aの内周面4Aaに付着していた不溶性のCaCO3を外部に排出し、元の状態に戻すことができる。その後、前述した軟水化処理を改めて実施することができる。
なお、前記では、金属イオンとしてCa2+を例として説明したが、Mg2+についても同様の反応が起こると推測される。
前述したように、イオン交換樹脂を用いて硬水中から金属イオンを除去するようにした場合には、イオン交換樹脂を再生するのに大量の塩水を必要とする。これに対して、実施の形態1のイオン除去システム1によれば、微細気泡を用いて硬水中から金属イオンを除去するので、イオン交換樹脂を再生するのに必要な大量の塩水を不要することができる。これにより、再生処理を簡単にして、メンテナンスを容易にすることができる。また、塩水を含む再生排水も生じないため、土壌汚染や下水処理の負荷を抑えることができ、環境性を向上させることができる。さらに、処理水におけるナトリウムイオンの濃度も高くならないため、生成した処理水を飲用水として使用することができる。
また、実施の形態1のイオン除去システム1によれば、イオン除去用ガスとして空気を用いるので、微細気泡の発生にかかるコストを極めて低く抑えることができる。
さらに、実施の形態1のイオン除去システム1によれば、硬水中から金属イオンを除去した後に、溶解用ガスとして二酸化炭素の微細気泡を供給することで、再生処理を行う。これにより、不溶性のCaCO3から可溶性のCa(HCO3)2を生成する反応を促進することができ、再生処理を促進することができる。
(実験例1)
次に、微細気泡による軟水化処理の原理を確認するために行った実験例1について説明する。ここでは、図5A、5Bに示す装置20を用いて実験を行った。
図5A、5Bは、実験例1で用いる装置20の概略構成を示す図である。図5Aは、微細気泡を発生させてから所定時間経過後(具体的には15秒経過後)の状態を示し、図5Bは、図5Aに示す状態からさらに所定時間経過後(具体的には45秒経過後)の状態を示す。図5Aの状態は、図6における微細気泡発生からの経過時間が15秒の状態に対応し、図5Bの状態は、図6における微細気泡発生からの経過時間が60秒の状態に対応する。
図5A、5Bに示す装置20は、硬水21を収容する水槽22(硬水収容部)において底面側から微細気泡23を供給可能とする実験装置である。装置20では、硬水21中における金属イオンの濃度を底面側と水面側の2箇所で測定することができる。このような装置20を用いて水槽22内に微細気泡23を供給し、底面側と水面側の金属イオンの濃度推移を検出したところ、図6に示す結果が得られた。
図6に示す結果により、前述した「微細気泡による金属イオンの吸着」の効果を実証することができた。具体的な結果については後述する。
図5A、5Bに示すように、装置20は、水槽22と、ガス供給部24と、第1配管25と、微細気泡発生部26と、第2配管27と、ポンプ28と、第1取水部30と、第2取水部32と、金属イオン濃度検出器34とを備えている。
水槽22は、硬水21を収容する水槽である。図5A、5Bに示す例では、水槽22は上下方向に長い槽として構成されている。ガス供給部24は、第1配管25を介して微細気泡発生部26にガスを供給する部材である。微細気泡発生部26は、ガス供給部24から供給されるガスをもとに微細気泡23を発生させる装置である。微細気泡発生部26は、前述した微細気泡発生部3Bに対応する。ガス供給部24から微細気泡発生部26へのガスの供給は、ポンプ28による第2配管27を介した負圧作用により行われる。
第1取水部30は、水槽22の底面22a付近から硬水21のサンプル水を取水する部材である。第2取水部32は、水槽22の水面22b付近からサンプル水を取水する部材である。第1取水部30及び第2取水部32の高さ位置は任意の位置に設定してもよく、第1取水部30から第2取水部32までの距離D1を所望の値に調整することができる。
図5A、5Bに示す例では、第1取水部30の高さ位置は、微細気泡発生部26が微細気泡23を発生させる高さ位置と略同じ位置に設定されている。
金属イオン濃度検出器34は、第1取水部30及び第2取水部32から取水されたサンプル水における金属イオンの濃度を検出する部材である。
前記構成において微細気泡発生部26及びポンプ28を運転すると、ポンプ28による第2配管27を介した負圧作用により、ガス供給部24から第1配管25を介して微細気泡発生部26へガスが送られる。このガスを原料として微細気泡発生部26は微細気泡23を発生させ、水槽22へ供給する(図5Aの矢印A1)。
微細気泡発生部26及びポンプ28を所定期間運転させて(実験例1では15秒)、微細気泡23を継続的に発生させる。
その後、微細気泡発生部26及びポンプ28の運転を停止する。運転停止後、所定の休止期間を設ける(実験例1では45秒)。
図5Aに示すように、運転期間の終了時(微細気泡発生から15秒後)には、水槽22内に供給された微細気泡23が硬水21内を上昇して(矢印A2)、水槽22の下方部分に滞留していることが目視により確認された。
図5Bに示すように、休止期間の終了時(微細気泡発生から60秒後)には、硬水21中に供給された微細気泡23がさらに上昇して水面22bまで到達し(矢印A3)、水槽22の上方部分に滞留していることが目視により確認された。
前記運転中における所定のタイミングで第1取水部30及び第2取水部32からサンプル水を取り出し、金属イオン濃度検出器34により金属イオンの濃度を測定した結果を図6に示す。
図6の結果に関する具体的な実験条件を以下に記載する。
(実験条件)
ガス供給部24が供給するガスの種類: 空気
硬水21の硬度: 約300mg/L
硬水21の温度: 25℃
第1取水部30から第2取水部32までの距離D1: 約1m
微細気泡発生部26及びポンプ28の運転期間: 15秒
微細気泡発生部26及びポンプ28の休止期間: 45秒
金属イオン濃度検出器34: 堀場製作所製・LAQUA F-70
測定対象の金属イオン: Ca2+
サンプル水の取出タイミング:運転開始から0秒後、15秒後、30秒後、60秒後
図6は、横軸に微細気泡発生からの経過時間(秒)を表し、縦軸に金属イオン濃度検出器34で検出した金属イオン(Ca2+)の濃度推移(%)を表す。金属イオンの濃度推移は、運転開始時に測定した金属イオン濃度を100%としたときの金属イオン濃度の推移を表すものである。
図6に示すように、水槽22の底面22a付近で第1取水部30から抽出されたサンプル水の濃度は、15秒経過時には約108%まで上昇している。その後の休止期間では徐々に減少し、最終的には約97%まで漸減している。
一方、水槽22の水面22b付近で第2取水部32から抽出されたサンプル水の濃度は、15秒経過時までほぼ100%を維持した後、その後の休止期間では徐々に増加し、最終的には約115%まで漸増している。
前記金属イオンの濃度推移の結果と、微細気泡23の挙動とを関連付けると、以下の通りである。
図5Aに示す15秒経過時においては、微細気泡23が滞留している第1取水部30のサンプル水では金属イオン濃度が上昇している。一方で、微細気泡23が滞留していない第2取水部32のサンプル水では金属イオン濃度がほとんど変化していない。
図5Bに示す60秒経過時においては、微細気泡23が滞留していない第1取水部30のサンプル水では金属イオン濃度が100%弱まで減少している。一方で、微細気泡23が滞留している第2取水部32のサンプル水では金属イオン濃度が大幅に上昇している。
このような結果によれば、硬水21中の金属イオンであるCa2+は微細気泡23によって吸着され、微細気泡23の上昇に伴ってともに上昇していると推測される。
前記推測に基づき、前述した「微細気泡による金属イオンの吸着」の効果を実証することができた。
(実施の形態2)
本発明に係る実施の形態2のイオン除去システムについて説明する。なお、実施の形態2では、主に実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態2においては、実施の形態1と同一又は同等の構成については同じ符号を付して説明する。また、実施の形態2では、実施の形態1と重複する記載は省略する。
実施の形態2では、軟水化処理における微細気泡の気体として、空気ではなく窒素を用いる点が、実施の形態1と異なる。
微細気泡発生部3Bから窒素の微細気泡を発生させて硬水中に供給することで、前述した「(1)金属イオンの吸着」、「(2)金属イオンの結晶化」の作用に加えて、以下の(3)、(4)の欄に記載するような作用が促進されると推測される。なお、以下の(3)、(4)の欄に記載する特定の原理に拘束される訳ではない。
(3)金属イオンの吸着の促進
図7(a)に示すように、微細気泡の周囲には、H+とOH-が帯電している。前述したように、負の電荷に帯電したOH-には、正の電荷に帯電したCa2+が吸着される。このような状況下で、微細気泡として窒素を用いた場合、以下の式3の反応が促進される。
(式3)
N2+6H++6e-→2NH3
NH3+H2O→NH4
++OH-
式3の反応が促進されることにより、図7(b)に示すように、OH-イオンの数に対してH+イオンの数が減少する。これにより、微細気泡としては負の電荷が強くなり、正の電荷をもつCa2+が吸着されやすくなる。
実施の形態2のように窒素を用いた場合では、実施の形態1のように空気を用いた場合と比較して、前記式3の反応を促進できるため、金属イオンの吸着がより促進される。これにより、硬水中からより多くの金属イオンを分離して除去することができる。
なお、前記原理は窒素に限らず、H+イオンと反応し、OH-イオンの数に対してH+イオンの数を減少させることができる気体であれば、同様に当てはまると推測される。
(4)金属イオンの結晶化の促進
窒素は、空気とは異なる不活性ガスであるため、硬水中に供給されたときに、硬水中に含まれる気体の分圧のバランスが崩れた状態となる。これにより、図8に示すような反応が促進される。
図8に示すように、窒素で構成される微細気泡に対して、硬水中に溶けた他の気体成分が置き換わろうと作用する。図8に示す例では、微細気泡の周囲に存在するCa(HCO3)2にCO2が含まれており、このCO2が抽出されて窒素に置き換わろうと作用する。すなわち、以下の反応が促進される。
(式4)
Ca(HCO3)2→CaCO3+CO2+H2O
このように、可溶性のCa(HCO3)2から不溶性のCaCO3が生じる反応が生じる。このとき、CO2とH2Oが生じる。CaCO3は不溶性であるため、金属成分の結晶として析出する。
前記反応により、硬水中にCa(HCO3)2のCa2+として含まれていた金属イオンを結晶化して析出させることができる。これにより、硬水中から金属成分の結晶を除去することができる。
なお、前記原理は窒素に限らず、硬水中に溶けている気体の分圧のバランスを崩れさせる空気以外の気体であれば、同様に当てはまると推測される。
前述したように、実施の形態2では、窒素を取り込んで微細気泡を発生させて硬水中に供給することで、空気を用いた場合に比べて、「(3)金属イオンの吸着の促進」、「(4)金属イオンの結晶化の促進」の欄で説明した反応を促進することができる。これにより、硬水中から金属イオンを除去する精度を向上させることができる。
(実施の形態3)
本発明に係る実施の形態3のイオン除去システムによる金属イオンの除去方法について説明する。なお、実施の形態3では、主に実施の形態1、2と異なる点について説明し、実施の形態1、2と重複する記載は省略する。
実施の形態1、2では、微細気泡発生部3Bが空気を含む微細気泡を発生させるのに対して、実施の形態3では、複数種類の気体を混合した混合ガスを含む微細気泡を発生させる点が、実施の形態1、2と異なる。
実施の形態3では、微細気泡を発生させるための混合ガスとして、塩基性ガスである第1のガスと、第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質のガスである第2のガスの2種類のガスを混合したものを用いる。すなわち、図1に示すイオン除去用ガス供給部7は、イオン除去用ガスとして、第1のガスと第2のガスを混合した混合ガスを微細気泡発生部3Bに供給する。
第1のガスと第2のガスとを含む混合ガスにより微細気泡を発生させることで、前述した「(1)金属イオンの吸着」、「(2)金属イオンの結晶化」の作用に加えて、以下の(5)、(6)の欄に記載するような作用が促進されると推測される。なお、以下の(5)、(6)の欄に記載する特定の原理に拘束される訳ではない。
(5)第1のガスによる微細気泡表面の電位変化
混合ガスに含まれる第1のガスは、酸塩基反応でH+を受け取る塩基性ガスである。第1のガスは水に溶けることで、OH-を生じさせる。具体的には、以下の式5-1の反応を生じさせる。
(式5-1)
X+H2O→XH++OH-
式5-1では、第1のガスを化学式Xで表している。式5-1の反応が生じることで、図9に示すように、微細気泡40の周囲に存在するOH-の割合が、H+の割合に比べて増加する(図9ではH+の図示を省略している)。固体-液体の界面の電位は水中のH+/OH-が電位決定イオンであるため水質のpHの依存が強く、H+が多くなると正の電荷が強くなり、OH-が多くなると負の電荷が強くなる。これにより、微細気泡40としては負の電荷が強くなり、正の電荷をもつCa2+が吸着されやすくなる。このようにして、微細気泡40による金属イオンの吸着効果を向上させることができる。
さらに実施の形態3では、第1のガスとして塩基性ガスのアンモニアを用いている。アンモニアを用いた場合、前述した式5は以下の式6に具体化される。
(式6)
NH3+H2O→NH4
++OH-
水への溶解度が高く汎用的な気体であるアンモニアを用いて微細気泡40を発生させることで、前述した金属イオンの吸着効果を向上させながら微細気泡40の発生コストを低減することができる。
なお、前記原理はアンモニアに限らず、塩基性ガスであれば、同様に当てはまると推測される。このような塩基性ガスとしては例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジ-n―ブチルアミン、エタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N.N―ジメチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、プロピレンイミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、モルホリン、N―メチルモルホリン、N―エチルモルホリンが挙げられる。
また、式5-1に示す通り、Xは塩基性ガスに限らず、水(H2O)と反応して水酸基イオン(OH-)を供与する「水酸基イオン供与ガス」であれば、同様の効果を奏すると考えられる。水酸基イオン供与ガスとしては、例えば、可溶性のオゾンガス(O3)が挙げられる。オゾンガスを水に供給した場合、前記式5-1に類似する以下の式5-2に示す反応が生じると考えられる。
(式5-2)
O3+H2O+2e-→O2+2OH-
前記式5-2によれば、以下の式5-3に示す反応を生じさせる水酸基イオン供与ガス「X」も同様の効果を奏すると考えられる。
(式5-3)
XO+H2O+2e-→X+2OH-
なお、オゾンに関しては実験例6で説明する。
(6)第2のガスによる微細気泡の維持
「(5)第1のガスによる微細気泡表面の電位変化」の欄で説明したように、混合ガスに含まれる塩基性ガスである第1のガスは水に溶解して、微細気泡40の表面におけるOH-の割合を増加させる。このような第1のガスに対して、第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質のガスである第2のガスを混合している。このような第2のガスを混合することで、第1のガスが水に溶けた状態でも微細気泡40の全体が水に溶けることが防止され、微細気泡40の状態を維持することができる。微細気泡40の状態を維持することで、実施の形態1、2で説明した微細気泡に由来するCa2+イオンの吸着効果を維持することができる。
実施の形態3では、第2のガスとして窒素を用いている。人体に無害で汎用的な気体である窒素を用いて微細気泡40を発生させることで、安全性を担保しながら微細気泡40の発生コストを低減することができる。また、窒素は非水溶性ガス(非可溶性ガス)であるため、微細気泡40の状態を維持する効果をより効果的に発揮することができる。
前記原理は窒素に限らず、塩基性ガスである第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質のガスであれば、同様に当てはまると推測される。なお、第2のガスを選択する際には、温度及び圧力を含む条件が同一条件下で水への溶解速度(溶解度)が第1のガスよりも遅い(低い)ものを選択してもよい。このような第2のガスとしては、例えば、溶解度が低い順に、窒素、水素、一酸化炭素、ブタン、酸素、メタン、プロパン、エタン、一酸化窒素、エチレン、プロペン、アセチレン、二酸化炭素が挙げられる。この中でも特に、一酸化窒素、酸素、水素などの非水溶性ガスを用いた場合、微細気泡40の状態を維持する効果をより効果的に発揮することができる。
なお、「(3)金属イオンの吸着の促進」、「(4)金属イオンの結晶化の促進」の欄では、図7、図8を用いて、窒素が硬水中に溶けていくことについて説明したが、この反応も同時に起こっているものと考えられる。窒素は非水溶性であるために水に溶けにくく、微細気泡40の状態を維持する作用を強く発揮するが、水に溶ける分も少なからず存在する。よって、「(3)金属イオンの吸着の促進」、「(4)金属イオンの結晶化の促進」の欄で説明した窒素が水に溶ける現象も少なからず、「(6)第2のガスによる微細気泡の維持」の欄で説明した窒素が微細気泡を維持する現象と同時に起こるものと考えられる。
前述したように、本実施の形態3の微細気泡発生部は、水と反応して水酸基イオンを供与する第1のガスと、第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質の第2のガスとを混合した混合ガスによる微細気泡40を発生させる。水酸基イオン供与ガスである第1のガスは水と反応して、微細気泡40の表面におけるOH-の割合を増加させる。これにより、Ca2+などの金属イオンを微細気泡40に吸着させる効果を増加させることができる。さらに、第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質の第2のガスを混合することで、微細気泡40が完全に水に溶けてしまうことを防止し、微細気泡40の状態を維持することができる。
また、本実施の形態3では、第1のガスは可溶性の塩基性ガス(アンモニア)である。このように塩基性ガスである第1のガスを先に水に溶かし、塩基性ガスに比べて溶解速度が遅い性質の第2のガスをマイナスに帯電させており、2つのガスの溶解速度の差を利用して前記効果を奏することができる。
微細気泡40におけるアンモニアと窒素の混合割合は任意の値に設定してもよいが、例えば、アンモニアに対する窒素の混合割合が大きくなるように設定してもよい(例えば、アンモニア:窒素の物質量(体積比)が1:99)。このような設定によれば、アンモニアの溶解によってOH-が増加する領域が微細気泡40の表面近傍のみに留まり、微細気泡40から離れた位置ではOH-の割合が変化しにくくなる。このようにして、微細気泡40の表面近傍のみを変化させながら、水全体の水質を変えないようにすることができる。一方で、窒素の割合を多くすることで、微細気泡40の状態をより長く維持することができる。このように、混合ガスにおいて、塩基性ガスである第1のガスの物質量よりも、塩基性ガスよりも溶解速度が遅い第2のガスの物質量を多く設定することで、前記効果を奏することができる。なお、同温、同圧の条件下では、物質量と体積は比例するものであるため、物質量と体積のいずれを用いて第1のガスと第2のガスとの混合割合を設定してもよい。
あるいは、窒素に対するアンモニアの混合割合が大きくなるように設定してもよい。このような設定によれば、硬水中に含まれる金属イオンをより結晶化して除去することができる。このような結晶化促進の原理については、実験例2-4で説明する。
また、実施の形態3では、アンモニアと窒素とを別々に微細気泡化してそれらを混合せずに別々に硬水に供給する供給形態とは異なり、アンモニアと窒素とを混合した混合ガスによる微細気泡40を硬水に供給する。このような供給形態によれば、アンモニアが微細気泡40から離れた位置で単体で溶解することが防止されるため、微細気泡40の表面近傍のみでOH-を増加させるという機能を十分に発揮することができる。
次に、前述した第1のガスであるアンモニアと第2のガスである窒素とを混合した混合ガスによる微細気泡40の金属イオンの吸着効果、特に、金属イオンを最終的に結晶化させるまでの仮説原理について、図10の模式図を用いて説明する。
図10に示すように、微細気泡40を硬水中に供給すると、微細気泡40を構成するアンモニアと窒素のうち、水溶性のアンモニアが周囲の水に溶解していく(アンモニアガス溶解)。これにより、「(5)第1のガスによる微細気泡表面の電位変化」の欄で説明したように、微細気泡40の表面にNH4
+が生じるとともに、OH―の割合が増加する(表面濃縮)。このとき、Ca2+イオンの吸着効果が増大している。
表面濃縮がさらに進むと、微細気泡40の表面におけるOH-の濃度が最大になる。すなわち、微細気泡40の表面におけるpHが最大となり、微細気泡40のゼータ電位が最大となる(局所pH大、ゼータ電位大)。
前述した「アンモニアガス溶解」、「表面濃縮」、「局所pH大、ゼータ電位大」の状態では、Ca2+は微細気泡40に吸着された状態にある。このとき、Ca2+を吸着した微細気泡40を硬水から分離すれば、硬水中から金属イオンを除去することができる。
前記分離を行わなかった場合あるいは分離を行ったものの微細気泡40として残ったものについて、微細気泡40の表面で吸着されていたCa2+の結晶化が始まる。具体的には、Ca2+が結晶化して結晶42として析出される。さらに結晶42の析出に伴って、微細気泡40の消滅が始まる(消滅)。
Ca2+の結晶化及び微細気泡40の消滅が進むと、微細気泡40の状態を維持していた非水溶性の窒素が溶存ガスとして水の中に拡散していく(溶存ガス拡散)。
前述した「消滅」、「溶存ガス拡散」の状態では、硬水中に金属イオンとして含まれていたものが結晶42として析出している。このように析出した結晶42を硬水から分離することで、硬水中の金属イオンを結晶化して除去することができる。
(実験例2-4)
次に、微細気泡40におけるアンモニアと窒素の混合割合による金属成分の結晶化への影響を確認するために行った実験例2-4について説明する。ここでは、図11に示す装置50を用いて実験を行った。
図11は、実験例2-4で用いる装置50の概略構成を示す図である。図11に示す装置50は、混合ガス供給部52と、処理槽54と、第1の配管56と、第2の配管58と、採水バルブ60と、採水器62と、貯水タンク64と、ポンプ66と、流量調整バルブ68と、流量計70とを備えている。
混合ガス供給部52は、処理槽54に混合ガスを供給する部材である。混合ガス供給部52は、アンモニア供給源72と、窒素供給源74と、混合比調整バルブ76と、供給用配管78と、微細気泡発生部80とを備える。
混合ガス供給部52は、アンモニア供給源72と窒素供給源74を用いて、アンモニア(第1のガス)と窒素(第2のガス)を混合した混合ガスを生成する。アンモニアと窒素の混合割合は、混合比調整バルブ76によって任意の比率に設定可能である。混合ガスは供給用配管78を通じて、処理槽54の底部に設けられた微細気泡発生部80に供給される。微細気泡発生部80は混合ガスを微細気泡化する部材である。
処理槽54は、処理対象の処理水として硬水を収容する槽(硬水収容部)である。処理槽54の硬水中に混合ガスによる微細気泡を供給することにより、実施の形態3で説明した原理によって、硬水中から金属成分の除去、特に結晶化が行われる。処理後の処理水は第1の配管56に送られる。第1の配管56の途中には採水バルブ60が設けられている。採水バルブ60の開閉によって、第1の配管56内を通る処理水の採水が行われる。採水された処理水は採水器62に入れられる。
第1の配管56は貯水タンク64に接続されている。貯水タンク64は処理水を貯留するタンクである。貯水タンク64に貯留される処理水は、第2の配管58を通じて処理槽54に戻される。これにより処理水が循環する。
第2の配管58には、ポンプ66、流量調整バルブ68、及び流量計70が取り付けられている。ポンプ66は、貯水タンク64内の処理水を第2の配管58に流す推進力を発生させる部材である。流量調整バルブ68は、第2の配管58を通る処理水の流量を調整するバルブである。流量計70は、第2の配管58に流れる処理水の流量を測定する機器である。
このような装置50を用いて、ポンプ66を連続運転しながら処理槽54において硬水中の金属成分の除去処理を行うとともに、処理後の処理水を採水器62から採取して、各種パラメータを測定した。実験例2-4では、処理水に含まれていた金属成分が結晶化する割合(結晶化率)について調査した。なお、本明細書における結晶化率とは、原子、分子が規則正しく周期的な配列で構成されたものに限らず、単に固体として析出した物質の割合を意味する。結晶化率は「析出率」と称してもよい。
実験例2-4で実際に処理した処理水を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果の例を図12に示す。図12に示すように、処理水82の中に多数の結晶84が析出している。
実験例2、3では、処理対象の処理水として硬水1を用いた。硬水1はエビアン(登録商標)・硬度約300mg/Lである。実験例4では、硬水1、硬水2の2種類を用いた。硬水2はコントレックス(登録商標)・硬度約1400mg/Lである。
(実験例2)
実験例2は前述した装置50を用いて、ポンプ66を動作させて硬水を処理槽54に流入させながら、所定時間経過後の処理水を採水器62にてサンプル水として採取したものである。実験例2では、混合ガスにおけるアンモニアと窒素の混合割合を変化させて、それぞれの混合割合における結晶化率の違いについて調査した。実験例2の具体的な実験条件を以下に示す。実験例2では、処理槽54から第1の配管56に供給される処理水は、採水器62で採取されるもの以外は全て廃棄し、貯水タンク64には供給しないようにした。
(実験条件)
処理水の種類: 硬水1
混合ガスにおけるアンモニアの混合比率: 0%(窒素のみ)、30%、40% 、50%、60%、70%、80% 、90%、100%(アンモニアの み)
処理水の流量: 2.6L/分
混合ガスの流量: 0.03L/分
ポンプを動作させてから採取するまでの時間: 3分
サンプル水の測定項目: pH、Ca硬度(mg/L)、全炭 酸濃度(mg/L)
サンプル水の測定項目については、採取したサンプル水をろ過することにより、サンプル水中に析出した金属成分の結晶を取り除いたもので測定を行った。Ca硬度は、単位体積当たりの処理水に含まれるCa2+の含有量を炭酸カルシウム(CaCO3)に換算した値である。pH、Ca硬度、全炭酸濃度の測定には、それぞれ市販の計測器を用いた。
実験例2による実験結果を図13A、図13Bに示す。
図13Aは、横軸に混合ガスにおけるアンモニアの混合比率(%)を表し、縦軸にサンプル水の結晶化率(%)を表す。図13Bは、横軸にサンプル水のpHを表し、縦軸にサンプル水の結晶化率(%)を表す。
「結晶化率」は、(運転前のサンプル水のCa硬度―運転後のサンプル水のCa硬度)/運転前のサンプル水のCa硬度、により計算した。このように計算される結晶化率は、単位体積当たりのサンプル水においてどれだけの金属イオンが結晶化したかを表す。結晶化率が高いほど、サンプル水からより多くの金属イオンが結晶化したことを示す。
図13A、13Bに示すように、アンモニアの混合比率が高くなるほど、結晶化率が上昇している。特にアンモニアの混合比率が70%以上になると、結晶化率が飛躍的に上昇している。
図13A、13Bに示すように、アンモニアの混合比率が高くなるほど、pHも上昇していることがわかる。ただしpHは上昇しているが、最大でも8.5~9の間の値である。厚生労働省が定めている上水のpH基準は5.8~8.6の範囲であり、アンモニアの混合比率が高い場合でもその範囲に近い値で推移していることがわかる。また薬機等法で規定されているアルカリイオン水の望ましい飲用範囲はpH9~10である。この範囲よりもpHの値を低く抑えることができているため、飲用水としても適していることがわかる。
アンモニアの混合比率が高い場合でもpHの上昇が過度に大きくならない要因としては、前述の図10を用いて説明したように、処理水全体のpHを上昇させるのではなく、微細気泡40周辺の局所pHを主に上昇させている点にあると考えられる。
(実験例3)
実験例3は実験例2と同様に、前述した装置50を用いて、ポンプ66を動作させて硬水を処理槽54に流入させながら、所定時間経過後の処理水を採水器62にてサンプル水として採取したものである。実験例3では、混合ガスにおけるアンモニアの混合比率を70%と100%の2パターンのみ用いた。また、実験例2とは異なり、ポンプ66の運転から所定間隔ごとにサンプル水を採取して各種パラメータを測定した。さらに、実験例2とは異なり、処理槽54から第1の配管56に供給される処理水は、採水器62で採取されるもの以外は全て貯水タンク64に戻して処理水を循環させた。実験例3の具体的な実験条件を以下に示す。
(実験条件)
処理水の種類: 硬水1
混合ガスにおけるアンモニアの混合比率: 70%、100%(アンモニアのみ )
処理水の流量: 2.6L/分
混合ガスの流量: 0.03L/分
サンプル水の測定項目: pH、Ca硬度(mg/L)、全炭 酸濃度(mg/L)
実験例3による実験結果を図14A、図14B、図14Cに示す。
図14Aは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水の結晶化率(%)を表す。図14Bは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水のCa硬度(mg/L)を表す。図14Cは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水のpHを表す。
図14Aに示すように、アンモニアの混合比率が70%、100%のいずれの場合でも、運転時間が経過するにつれて結晶化率が上昇している。また、図14Bに示すように、運転時間が経過するにつれてCa硬度は低下している。これより、混合ガスによる微細気泡の投入によって、硬水中に溶けていた金属成分のCa2+がCaCO3として結晶化していることが分かる。
一方で、アンモニアの混合比率が70%の場合よりも100%の場合の方が、結晶化率の上昇速度及びCa硬度の低下速度は早くなっている。これより、Ca2+をCaCO3に結晶化させることに関してアンモニアが大きく寄与していることが分かる。
図14Cに示すように、運転時間が経過するにつれて、アンモニアの混合比率が70%、100%のいずれの場合でもpHがゆるやかに上昇している。アンモニアの混合比率が70%の場合と100%の場合とではpHの値にそれほど大きな違いは見られない。また運転時間が50分を経過したときでも、pHは9~10の間であり、過度には上昇していない。このようにpHの上昇速度がそれほど早くならない要因としては、図10を用いて説明したように、処理水全体のpHを上昇させるのではなく、微細気泡40周辺の局所pHを主に上昇させている点にあると考えられる。
(実験例4)
実験例4は実験例2、3と同様に、前述した装置50を用いて、ポンプ66を動作させて硬水を処理槽54に流入させながら、所定時間経過後の処理水を採水器62にてサンプル水として採取したものである。実験例3と同様に、ポンプ66の運転から所定間隔ごとにサンプル水を採取して各種パラメータを測定した。また、実験例3と同様に、処理槽54から第1の配管56に供給される処理水は、採水器62で採取されるもの以外は全て貯水タンク64に戻して処理水を循環させるようにした。一方で、実験例4では、混合ガスにおけるアンモニアの混合比率を70%の1パターンのみ用いた。また、実験例2、3とは異なり、処理水として、硬水1(硬度約300mg/L)、硬水2(硬度約1400mg/L)の2種類の硬水を用いた。実験例4の具体的な実験条件を以下に示す。
(実験条件)
処理水の種類: 硬水1、硬水2
混合ガスにおけるアンモニアの混合比率: 70%
処理水の流量: 2.6L/分
混合ガスの流量: 0.03L/分
サンプル水の測定項目: pH、Ca硬度(mg/L)、全炭
酸濃度(mg/L)
実験例4による実験結果を図15A、図15B、図15C、図15Dに示す。
図15Aは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水の結晶化率(%)を表す。図15Bは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水のCa硬度(mg/L)を表す。図15Cは、横軸にポンプ66の運転時間(分)を表し、縦軸にサンプル水のpHを表す。図15Dは、図15Bのグラフで、縦軸に全炭酸濃度(mg/L)を追加したものである。
図15A、図15Bに示すように、硬水1、硬水2ともに、運転時間が経過するにつれて結晶化率が上昇するとともに、Ca硬度が低下している。これより、混合ガスによる微細気泡の投入によって、硬水中に溶けていた金属成分のCa2+がCaCO3として結晶化していることが分かる。
また、図15A、図15Cに示すように、硬水1と硬水2では、結晶化率の上昇速度及びpHの上昇速度が大きく異なっていることがわかる。具体的には、硬水1の方が硬水2よりも、結晶化率の上昇速度及びpHの上昇速度が速いことがわかる。この点に関して本発明者らは「全炭酸濃度」に着目し、図15Dに示すデータをもとに考察した。
図15Dに示すように、硬水1の全炭酸濃度に関して、運転時間が50分のときの値は150~200mg/Lである。すなわち、硬水1にはHCO3
-及びCO3
2―が多く含まれている。なお、運転時間が50分のときの硬水1の結晶化率は、図15Aに示すように70~80%に到達している。これに対して、硬水2の全炭酸濃度については、運転時間が70分のときの値は約20mg/Lとなっている。硬水1と比較すると、硬水2ではHCO3
-及びCO3
2―の含有量が大幅に少ないことがわかる。なお、運転時間が70分のときの硬水2の結晶化率は、図15Aに示すデータによれば約40%と見込まれる。
HCO3
-及びCO3
2―は、実施の形態1-3の原理で説明したようにCa2+をCaCO3として結晶化するための成分として機能する。このようなHCO3
-及びCO3
2―を多く含むため、硬水1の方が硬水2よりも結晶化率の上昇速度が早いものと考えられる。
硬水1、2に含まれる金属成分の含有量及び全炭酸濃度に関して次の表1に示す。
表1に示すように、硬水1であるエビアン(登録商標)に含まれる単位体積当たりのCa、Mg、CO3
2―の含有量はそれぞれ80、26、357mg/Lである。硬水2であるコントレックス(登録商標)に含まれる単位体積当たりのCa、Mg、CO3
2―の含有量は468、74.8、372mg/Lである。このように硬水1、硬水2に含まれる単位体積当たりのCO3
2―の含有量は357mg/Lと372mg/Lでほぼ同じである。これに対して、硬水中に含まれるCa及びMgの含有量に対するCa及びMgの溶解に必要なCO3
2―の量は、硬水1で約184mg/L、硬水2で約887mg/Lである。すなわち、硬水1では、Ca及びMgの溶解に必要なCO3
2―の量に対して、実際に含まれるCO3
2―の量が約173mg/L余っている。これは、微細気泡による混合ガスを投入したときに、Ca2+を結晶化させるためのCO3
2―が豊富に存在していることを意味する。これに対して、硬水2では、Ca及びMgの溶解に必要なCO3
2―の量に対して、実際に含まれるCO3
2―の量が約515mg/L不足している。これは、微細気泡による混合ガスを投入したときに、Ca2+を結晶化させるためのCO3
2―が少なく、結晶化が促進されないと考えられる。
前記結果より、処理される硬水にHCO3
-及びCO3
2―などの炭酸が豊富に含まれていれば、結晶化の上昇速度を向上できると考えられる。これに基づいて硬水の全炭酸量を増加させるために、微細気泡を投入する前に硬水中に炭酸ガスを投入するようにしてもよい。具体的には、炭酸ガスを発生させる炭酸ガス発生部をさらに備えてもよい。そして、微細気泡発生部が発生させた微細気泡を硬水に供給する前に、炭酸ガス発生部により炭酸ガスを発生させて硬水中に供給してもよい。これにより、硬水中の金属成分の結晶化を促進することができると考えられる。
前述したように、実験例2-4によれば、混合ガスにおける窒素の物質量よりもアンモニアの物質量が多くなるように設定することで、金属成分の結晶化を促進することができる。さらに、混合ガスにおけるアンモニアの混合比率を70%以上に設定することで、金属成分の結晶化を大幅に促進することができる。
(実験例5)
実験例5は、前述した装置50を用いて処理したサンプル水(軟水)に関して、「泡立ち」を評価する官能性評価の実験である。泡立ちは、水面から生じる泡の高さ・大きさによる起泡力に関連する。一般的には、硬度成分が少ないほど泡立ちが大きいとされ、例えば洗浄用途で使用した際に洗浄効果が高いなどの利点を有する。
実験例5では、実験例2-4と異なり、混合ガスではなく単独のガスとしてのアンモニアをもとに微細気泡を発生させた。すなわち、図11に示す装置50において、窒素供給源74を使用せずにアンモニア供給源72のみを使用して微細気泡を発生させた。なお、装置50の使用方法については実験例2-4と同様であるため、説明を省略する。
実験例5の実験方法は、空気調和・衛生工学会の「泡立ち」に関する規格:SHASE-S 218に基づく。具体的には、純石鹸1.5gを200mlの水で希釈した希釈水を準備し、希釈水を1mL、対象となる処理水9mLを混合して、10mLの評価水としてメスシリンダーに入れた。なお、純石鹸は、化粧石鹸カウブランド赤箱a1(牛乳石鹸共進社株式会社)を使用し、200mlの水は、オートスチル、WG221(ヤマト科学株式会社)の蒸留水を使用した。メスシリンダーを50回振った後、1分後における水面から立つ泡の高さを測定した。
実験例5では、装置50で処理したサンプル水に加えて、硬水、水道水、純水の3種類を使用して同様の実験を行った。これらの水およびサンプル水の硬度は、以下の通りである。
硬水の硬度 :全硬度300mg/L、Ca硬度200mg/L、Mg硬度100mg/L
水道水の硬度 :全硬度72mg/L、Ca硬度49mg/L、Mg硬度23mg/L
純水の硬度 :全硬度0mg/L、Ca硬度0mg/L、Mg硬度0mg/L
サンプル水の硬度 :全硬度118mg/L、Ca硬度21mg/L、Mg硬度97mg/L
実験例5による実験結果を図16に示す。図16は、横軸に水の種類を表し、縦軸に、評価水の水面から延びる泡の高さ(mm)を表す。縦軸は泡立ち・起泡力を表す。
図16に示すように、Ca硬度、Mg硬度のいずれも最も高い「硬水」は泡立ちがほとんどなく0に近いのに対して、「水道水」、「サンプル水」および「純水」は同じぐらいの高い泡立ちを示した。すなわち、装置50を用いて処理した「サンプル水」は、処理前の硬水に対して泡立ちが改善されており、「水道水」、「純水」に近い泡立ちを実現している。これより、実施の形態の方法により硬水から金属イオンを除去することで泡立ちを改善できるとともに、軟水である水道水、純水と同じレベルの泡立ちを実現できることが示された。
図16に示す結果と前記硬度の具体値を比較すると、Ca硬度が小さいほど、泡立ちが大きくなっている。これより、Mg硬度よりもCa硬度の値の方が、泡立ちに対して直接的に影響する支配的なパラメータであることがわかる。
(実験例6)
実験例6は、実験例2-4と同様の装置50(図11)を用いて処理水(硬水)を処理し、処理したサンプル水の結晶化率を比較するものである。
実験例6では、微細気泡であるマイクロバブルを用いた場合と、微細気泡でないミリバブルを用いた場合の結晶化率の違いを比較した。すなわち、図11に示す装置50において、微細気泡発生部80をそのまま使用してマイクロバブルを発生させた場合と、微細気泡発生部80の代わりに別の気泡発生部(図示せず)を使用してミリバブルを発生させた場合の2パターンで実験を行った。
さらに、実験例6では、実験例2-4と異なり、混合ガスではなく単独のガスであるオゾンをもとに気泡を発生させた。すなわち、図11に示す装置50において、アンモニア供給源72と窒素供給源74の代わりにオゾン供給源(図示せず)を使用した。なお、実施の形態3で説明したように、オゾンガスは水酸基イオン供与ガスである。
実験例6の実験条件は以下の通りである。
処理水の種類(共通) :硬水1
処理水の流量(共通) :12L/min
処理槽54の貯留水量(共通) :9L
オゾンガスの流量(共通) :0.12L/min
マイクロバブルの平均気泡径 :56μm
ミリバブルの平均気泡径 :1021μm
サンプル水の測定項目(共通) :Ca硬度(mg/L)、全硬度(mg/L)
実験例6による実験結果を図17A、図17Bに示す。
図17Aは、横軸に時間(分)を表し、縦軸にCa硬度の結晶化率(%)を表す。図17Bは、横軸に時間(分)を表し、縦軸に全硬度の結晶化率(%)を表す。
図17A、図17Bに示すように、Ca硬度と全硬度のいずれに関しても、ミリバブルよりもマイクロバブルの方が高い結晶化率を実現していることがわかる。すなわち、微細気泡でないミリバブルを用いた場合よりも、微細気泡であるマイクロバブルを用いた場合の方が結晶化率は高く、微細気泡による金属イオンの結晶化の効果が実証されたといえる。
(実施の形態4)
本発明に係る実施の形態4のイオン除去システム200による金属イオンの除去方法について、図18を用いて説明する。なお、実施の形態4では、主に実施の形態1と異なる点について説明し、実施の形態1と重複する記載は省略する。
実施の形態4のイオン除去システム200では、溶解剤供給部8に代えて、オゾン生成器17およびバルブ18を備える点が、実施の形態1と異なる。特に実施の形態1では、イオン除去用ガス供給部7からオゾンガスを直接的に供給するようにしていたが、実施の形態4では、イオン除去用ガス供給部7から供給されるイオン除去用ガスをもとにオゾン生成器17がオゾンガスを発生させる点が異なる。
オゾン生成器17は、オゾン(O3)を生成して微細気泡発生部3Bに供給する部材である。オゾン生成器17は、イオン除去用ガス供給部7から供給されるイオン除去用ガス(例えば空気)をもとにオゾンを生成する。オゾン生成器17は、無声放電方式、コロナ放電方式、沿面放電方式、電気分解方式、UVランプ方式、プラズマ放電方式など、任意の方式によりオゾンを生成してもよい。
バルブ18は、イオン除去用ガス供給部7とオゾン生成器17の間に設けられたバルブである。バルブ18は、イオン除去用ガス供給部7からオゾン生成器17へのイオン除去用ガスの供給を制御する。
微細気泡発生部3Bは、オゾン生成器17から送られてくるオゾンガスをもとに、オゾンガスの微細気泡を発生させる。オゾンガスの微細気泡は硬水収容部3Aに供給されて、硬水収容部3A内を上昇する。オゾンガスの微細気泡が上昇する過程で、紫外線照射器16により紫外線が照射される。オゾンガスの微細気泡に対する紫外線の照射により、以下の式B-1、B-2に示す反応が促進されるものと考えられる。
(式B-1)
O3+hv(λ<310nm)→O(1D)+O2
(式B-2)
O(1D)+H2O→2OH-
上記式において、hはプランク定数であり、vは振動数であり(hv=E:光エネルギー)、λは波長であり、O(1D)は、励起状態の酸素原子である。
式B-1の通り、オゾンガスの微細気泡に紫外線を照射することにより、励起状態の酸素原子と、非励起状態の通常の酸素原子とが発生する。このうち、励起状態の酸素原子が式B-2で示すように水と反応することにより、OH-の量が増加する。これにより、図2を用いて説明したようなOH-によるCa2+の吸着効果を増大させることができ、金属イオンの除去を促進することができる。
硬水収容部3A内においては、気体である微細気泡と、固体である結晶とが混在しているが、例えば螺旋状の旋回流を生じさせることで、気体、固体、液体をそれぞれ分離させることができる。これにより、比重の重い結晶を外側に分離することができ、中央部に配置した紫外線照射器16から外側に向かって紫外線を照射すれば、紫外線が結晶で遮られることを抑制することができ、オゾンガスの微細気泡に紫外線を効率的に当てることができる。
なお、硬水収容部3A内に紫外線が発生するため、硬水収容部3Aの外周部49など紫外線の照射を受ける部分には、特定の材質を用いてもよい。例えばゴムの場合には、EPDM、シリコンゴム、フッ素ゴムなどを用いてもよく、樹脂の場合には、フッ素樹脂、塩化ビニルなどを用いてもよく、金属の場合には、ステンレス、チタンなどを用いてもよい。これにより、紫外線の照射による悪影響を低減することができる。
上述したように、実施の形態4のイオン除去システム200によれば、微細気泡発生装置3Bは、オゾンガスの微細気泡を発生させるとともに、微細気泡に対して紫外線照射器17により紫外線を照射している。これにより、式B-1、B-2に示す反応を促進することができ、金属イオンの除去効果を増大させることができる。
(実験例7)
次に、実施の形態4に関する実験例7について説明する。ここでは、図19に示す装置100を用いて実験を行った。
図19は、実験例7で用いる装置100の概略構成を示す図である。図19に示す装置100は、硬水収容部102Aと、微細気泡発生部102Bと、イオン除去用ガス供給部104と、オゾン生成器106と、バルブ108と、紫外線照射器110と、電源112と、スターラー114と、pH測定器116とを備えている。実施の形態4で既に説明した部材については適宜説明を省略する。
実験例7で用いる硬水収容部102Aは、容量2リットルのメスシリンダーである。硬水収容部102Aに収容する硬水は、温度25℃、容量1.5リットルの「エビアン(登録商標)」である。
実験例7で用いる微細気泡発生部102Bは、直径400μm~2000μmのマイクロバブル、ミリバブルを発生させる散気管である。
実験例7で用いるオゾン生成器106は、無声放電式の「レイシー オゾナイザー YGR-20」であり、オゾン濃度を300ppmに調整して使用した。
実験例7で用いる紫外線照射器110は、波長254nmの紫外線を照射するヘレウス社製のUVランプである。
電源112は、紫外線照射器110をON/OFFする部材である。スターラー114は、硬水収容部102A内の硬水を撹拌する部材である。pH測定器116は、硬水収容部102A内の硬水のpHを測定する部材である。pH測定器116は、pH電極116Aと、本体部116Bとを備える。
実験例7で用いるpH電極116Aは、堀場製作所製のToupH電極9615S-10Dである。本体部116Bは、堀場製作所製のF74BWである。
上記構成を用いて、イオン除去用ガス供給部104からオゾン生成器106へ0.5L/分で空気を供給した。オゾン生成器106は、300ppmのオゾンを発生させて微細気泡発生部102Bへ供給した。微細気泡発生部102Bによりオゾンガスのマイクロバブルおよびミリバブルを発生させて硬水収容部102A内の硬水に供給し、スターラー114で硬水を撹拌した。実験開始から60分間の硬水のpHをpH測定器116により測定した。
実験例7では電源112を操作することにより、紫外線照射器110を運転した場合と、運転しない場合の両方で実験を行った。さらに紫外線照射器110を運転しない場合に、オゾン生成器106によりオゾンガスを発生させる場合と、オゾンガスを発生させずに空気をそのまま用いる場合の両方で実験を行った。これらの実験結果を図20に示す。
図20において、横軸は経過時間(単位:分)を表し、縦軸はOH-の変動率(初期値に対する変動割合)(単位:mol))を表す。図20では、空気の微細気泡を供給して紫外線を照射しないパターンをパターン1、オゾンガスの微細気泡を供給して紫外線を照射しないパターンをパターン2、オゾンガスの微細気泡を供給して紫外線を照射するパターンをパターン3とした。
図20に示すように、3つのパターンにおけるOH-の増加率に差が生じている。具体的には、パターン3、パターン2、パターン1の順に、OH-の増加率が高くなっている。オゾンガスの微細気泡を供給して紫外線を照射するパターン3の増加率が最も高いことから、オゾンガスと紫外線を組み合わせた場合にOH-を最も効率的に増加させることができ、金属イオンの除去率を増大できることがわかる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、紫外線照射器16を設ける場合について説明したが、このような場合に限らず、紫外線照射器16を設けない場合であってもよい。
また、前記では、軟水化処理においてイオン除去用ガスとして空気、オゾンガス又は窒素を用いたが、本発明はこれに限定されない。イオン除去用ガスとして空気、オゾンガス、窒素以外のガスを用いてもよい。
また、前記では、再生処理を行う溶解用ガスとして二酸化炭素を用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶解用ガスとして、水に溶けた際に水素イオンを出すガスである硫化水素(H2S→H++HS-)や塩化水素(HCL→H++CL-)を用いてもよい。
また、前記では、再生処理を行う溶解剤の一例として溶解用ガスを用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶解剤として、金属成分の結晶を溶解させる液体(溶解用液)を用いてもよい。このような液体としては、例えば、塩酸、硫酸、クエン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。このような液体を用いることで、溶解剤供給部8の大きさを小さくすることができる。また、溶解剤を交換する頻度を少なくすることができる。また溶解剤として液体を用いる場合には、ポンプPに気体が入ることを抑えることができるので、ポンプPの硬水の流れ方向の下流側に溶解剤供給部8を配置する必要性を無くすことができる。すなわち、溶解剤供給部8は、一次側流路2とイオン除去装置3と分離装置4と戻し流路12とで構成される循環流路内に配置すればよい。この構成によっても、分離装置4に溶解剤を供給して分離装置4に付着した結晶を溶解させて再生処理することができる。
また、前記では、硬水中にイオン除去用ガスを含む微細気泡のみを供給するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、硬水中にイオン除去用ガスを含む微細気泡に加えて、別のガスを供給してもよい。この場合、別のガスは、微細気泡として硬水に供給してもよいし、通常の気泡として硬水に供給してもよい。
また、前記では、第1弁15A、第2弁15B、及び第3弁15Cの開閉動作を制御部6により自動的に制御するようにしたが、本発明はこれに限定されない。第1弁15A、第2弁15B、及び第3弁の開閉動作を手動で行うようにしてもよい。
また、前記では、塩基性ガスである第1のガスと、第1のガスに比べて溶解速度が遅い性質の第2のガスの2種類のガスを混合した微細気泡を用いる場合について説明したが、これら2種類のガスに加えて別のガスを混合してもよい。すなわち、第1のガスと第2のガスを含む2種類以上のガスを混合した混合ガスによる微細気泡を用いてもよい。
なお、前記様々な実施の形態及び変形例のうちの任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。また、各実施の形態における要素の組合せや順序の変化は、本開示の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。