JP7123713B2 - ブルーム発生の予兆を早期にとらえる方法 - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 1.公益社団法人 日本油化学会 第57回年会 講演要旨集、平成30年9月4日発行
本発明は、油脂が連続相である油脂組成物における表面微細構造の観察方法に関する。
チョコレートの研究は歴史が深く、なかでもブルームは最大の関心事として,過去,数多く検討されてきた。ブルームとは、何らかの要因でチョコレートの表面に存在する油脂が、結晶化し白化する現象である。
チョコレートにおいてブルームは品質として劣ると評価されるため、一般には、保存中にこのブルームが発生しないか、品質評価において重要な項目のひとつとなっている。
一般的な方法としては目視評価が用いられているが、評価者の経験による誤差を生じる懸念がある。
ブルームの発生を経時的に観察して過去の検討対象と比較する場合には、写真を用いて比較する場合が多いが、チョコレートの表面を光量や反射、色調などを同じ条件にて撮影する必要があり、技術的に難しい。また、目視で評価できる段階まである程度の期間が必要であり、必然的に保存試験は長期間になるため、変化をいち早く捉える目的で、温度を変化させる加速試験(サイクルテスト)が行われる場合もある。
一方で、製品開発の場面では、CBE(Cocoa Butter Equivalent:1,3位飽和、2位不飽和の対称型トリアシルグリセロールに富み、カカオバターと任意の割合で混合できる)や、CBR(Cocoa Butter Replacer:ラウリン系のハードバターでカカオバターへの相溶性は低い)、CBS(cocoa butter substitute:高エライジン酸タイプ及び低トランス非ラウリンタイプのハードバター)などの油脂や、乳化剤を主とした添加物の効果をみる場合、種類が増えるほど、その差を目視で捉えることは難しくなる。
これまで技術においては、SPM(走査型プローブ顕微鏡:Scanning Probe Microscope)を用いて、チョコレート表面の発生初期のブルームについて、液油の噴出からブルームの成長までをナノレベルで観察することには成功している。(非特許文献1、2)
特許文献1ではチョコレートの「光沢」を表面の凹凸の作用であるとして、光沢の有無と表面の凹凸の関係を見る為に、SPMを用いてチョコレート表面の観測を試みている。
しかし、SPMはその測定原理の都合上、発生初期のナノレベルでの形態変化を見ることは可能だが、広い視野における変化を捉えることは難しい。また、SPMは超微形態の計測が可能である一方、操作の習熟が必要であり、汎用性に欠ける問題があった。
一方、プロフィロメトリーや LV-SEM(低真空走査型電子顕微鏡)で表面の状態を観察し、凹凸を調べるという報告がある。(非特許文献3、特許文献2)
また、非特許文献4ではさらに、プロフィロメトリーの測定結果から、その形状画像と得られた roughness and waviness で評価している。
これらの論文や発明では、ツヤの評価に用いられる「表面粗さ」の指標を用いてブルームの発生、成長による表面構造の変化を評価しているものの、定量性に乏しい面があった。
特表2007-512822号公報 特表2003-534017号公報
Rousseau, D. On the porous mesostructure of milk chocolate viewed with atomic force miscroscopy, LWT Food Sci. Technol., (2006)39, 852-860. Rousseau and colleagues published their study in the Journal of the American Oil Chemists Society (Microscale Surface Roughening of Chocolate Viewed with Optical Profilometry. Journal of the American Oil Chemists Society, 2010;87(10):1127-1136). P. Bondioli, A. Gasparoli, L. Della Bella and S. Tagliabue, Eur. J. Lipid Sci. Technol., 104, 777 (2002). Rizwan S. Khan, Derick Rousseau, Hazelnut oil migration in dark chocolate - Kinetic, thermodynamic and structural considerations, European Journal of Lipid Science and Technology 108(5):434 - 443 (2006).
本発明の目的は、油脂が連続相である油脂組成物における表面微細構造の観察方法に関するものであり、より詳細には上記観察方法を元により迅速に油脂組成物、特に油性食品のブルームが起こりうるかをより早期に予測できる方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究した結果、表面微細構造の背が低く横幅が広い凸状構造である表面構造B又はその周辺に発生する基準面より下方に掘り込まれた凹状構造である表面構造B’の少なくとも一方の変化を観測することで、ブルームの予測することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、(1)としては、油脂が連続相である油脂組成物において、表面微細構造の表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方の変化を指標とする、ブルーム発生の予兆をとらえる方法であり、ただし、表面構造Bとは、基準面より上方に発生する背が低く横幅が広い油脂結晶の凸状構造を、表面構造B’は表面構造Bの周辺に基準面より下方に掘り込まれた凹状構造をそれぞれ指す。(2)としては、表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方の変化が体積変化である、(1)記載ブルーム発生の予兆をとらえる方法であり、(3)としては、3D Profilometer、LSM、SPM、AFM、SEM、CTから選択される一種以上の観測機器を用いる、請求項1ないし請求項2記載のブルーム発生の予兆をとらえる方法、に関するものである。
本発明によれば、表面微細構造の表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方の変化をを観測すること、より詳しくは体積変動を測定できる観測機器を用いて体積変動を観察することで、従来ではその発生を区別出来なかった表面構造Aと表面構造B又は表面構造B’を見分けること、そしてその大きさを体積や面積として定量的な評価が可能であることで、チョコレートの品質評価における、保存試験の大幅な期間短縮が可能である。
表面構造の代表的な形状を示す模式図である。 表面構造の経時変化(表面構造A発生初期)を示す模式図である。 表面構造の経時変化(表面構造B発生初期)を示す模式図である。 表面構造の経時変化(表面構造B伸張期)を示す模式図である。 LSM(レーザー画像)による表面構造の観測を示す図面代用写真である。 LSM(高さ像)による表面構造の観測を示す図面代用写真である。 LSM(3D画像)による表面構造の観測を示す図面代用写真である。 LSM(DIC像)による表面構造の観測を示す図面代用写真である。 Cryo-SEM(観察倍率250倍)による表面構造Aを示す図面代用写真である。 Cryo-SEM(観察倍率2000倍)による表面構造Aを示す図面代用写真である。 Cryo-SEM(観察倍率250倍)による表面構造Bを示す図面代用写真である。 Cryo-SEM(観察倍率2000倍)による表面構造Bを示す図面代用写真である。 Cryo-SEM(観察倍率2000倍)による表面構造B’を示す図面代用写真である。 LSM(3D画像)による表面構造の経時変化の観測を示す図面代用写真である。 LSM(3D画像)による断面プロファイルの位置を示す図面代用写真である。 LSMによる断面プロファイルを示す図面代用写真である。 保存期間と最大山高さ・最大谷深さの関係を示す図である。 保存期間と凸部・凹部の面積率の関係を示す図である。 保存期間と凸部・凹部の体積の関係を示す図である。
(油脂組成物)
油脂が連続相である油脂組成物を指す。連続相に含まれる形で固形分や水分が存在しても構わない。油脂組成物の表面構造は油脂が固化して結晶を為すことにより生じる為、測定時に固体脂の結晶部分が表面構造を持ってさえすればよく、その融点等は特に限定はされない。
また、観察対象の油脂組成物は油脂が連続相であり、結晶が成長することで表面構造が変化するものであれば、食品でなくても構わない。一例としては、ワックス表面、油性食品などが挙げられる。
表面構造が変化することで白化や斑状になると商品価値が既存する油脂組成物、一例としては、チョコレート様食品などは特に好適にもちいられる。
(油性食品・チョコレート)
なお、本発明において言うところの油性食品とは、油脂が連続相を為す食品であれば特に限定はされないが、一例を挙げると、チョコレートやチョコレート様食品、グレーズ様食品(糖を油脂中に分散させたもので上掛けなどの目的で用いられる)や、固形カレールーといったものが挙げられる。
またチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(昭和46年3月29日、公正取引委員会告示第16号)による「チョコレート生地」及び「準チョコレート生地」を含むものであって、カカオ豆から調製したカカオマス、カカオ脂、ココアパウダー及び糖類を原料とし、必要により他の食用油脂、乳製品、香料等を加え、チョコレート製造の工程を経たものをいい、またカカオマスを使用しない所謂ホワイトチョコレート生地をも包含するものである。
さらにチョコレート様食品とは従来のチョコレート(製造の際にテンパリングと呼ばれる温度操作を必要とするものが多い)に加え、テンパリング操作の必要のない、所謂ノーテンパリングタイプチョコレートをも含めたものを指す。
(保存条件)
時間の経過に伴い、油脂組成物中の油脂が結晶成長あるいは結晶転移などによって表面構造が変化する。その状態を保存、温度を保存温度という。保存温度は変動しても構わない。また油脂の融点を上回った状態でも、瞬時にすべての固体脂の結晶が融解して液状になるわけでなく一部は残存し、残存した結晶を種結晶として新たに結晶が成長して表面構造を形成する。さらには一度完全に融解した状態から冷却した状態からでも先の種結晶がある状態とは異なる結晶成長の表面構造ため、特にその保存温度の上限は限定されない。
また、結晶は保存温度が上下することで液状の油脂を媒介して促進するケースもあり、その製品の置かれる状況に即した温度変化の元で保存する、あるいはより過酷な条件で保存することでより早い段階で表面構造の変化を観察する事もあるため、保存中の温度は一定でなくても構わず、適宜設定することが出来る。
上記の温度を変動させる保存としてはサイクルテストと称されるものがあるが、その温度変化のパターンは適宜その油脂組成物の種類により適宜設定される。油脂組成物がチョコレートの場合の一例としては、17℃~28℃、18℃~25℃、18℃~28℃、17℃~32.5℃など様々なものがある。場合によってはチョコレート用油脂の融点を超える40℃に達温する場合もある。その場合でも、対象のチョコレートは完全に融解することはなく、固体脂結晶は残る。温度の移行は1~2時間程度の時間をかけて遷移させ、24時間周期で繰り返すことが多い。
(油脂組成物の組成)
油脂の含有量は、油脂が連続相になっていて、油脂組成物の表面微細構造の変化を見る事ができれば、その含有量は特に限定されない。上限は油脂のみで構成されている100重量%でも構わない。一方で油脂が無いと油脂組成物にはなり得ないので少なくとも含有している必要がある。すなわち特にその含有量は限定されないが油脂が油脂生成物全体に対して10重量%以上100重量%以下、望ましくは20重量%以上である事が望ましい。
また、上記の通り、油脂が油脂生成物全体に対して100重量%であることありうるため、油脂組成物に用いられる固形分の量も限定されないし、0重量%でも構わない。また0重量%であることもあり得る為、固形分の種類も特には限定されない。油脂組成物が油性食品、例えばカレールーの場合は小麦粉やカレーに用いられる香辛料が微細に粉砕されたものが、油性食品の中でもチョコレートの場合には糖類や粉乳類、カカオ固形分、抹茶パウダー、果実パウダー、ナッツ類などが挙げられる。さらには油性食品の油脂が連続相になっていれば、別の食品と組み合わせたものであっても構わない。一例としては、ビスケットに貼り付けたチョコレートや、クッキー中に埋没したチョコレートチップなどが挙げられる。
(油脂組成物の油脂)
油脂組成物に用いられる油脂の種類は分子構造が対称型のトリアシルグリセライドを主成分としテンパリング操作を必要とする(テンパー系)チョコレート様食品、ラウリン系、あるいは水素添加、ランダムエステル交換などの処理を経て得られるテンパリング操作を必要としない(ノーテンパー系)チョコレート様食品、液状の油脂を多く配合することで、柔らかい食感ものの高融点の油脂成分が凝集して堅い粒上組成物が発生しやすい(グレーニング)洋生チョコレート様食品、さらにそれらチョコレート食品を他の油性食品、たとえばショートニングなどチョコレート様食品に用いられている油脂とは異なる分子構造をもった油脂を多く含むもの、一例としてはチョコレートチップ入りクッキーなどのチョコレート部分が挙げられる。
油脂組成物の固体脂結晶が成長するに伴い表面構造が乱雑化し、表面の光の乱反射の割合が増える為、表面が白くなったり斑模様になったりする。これをブルームと呼んでいる。
なお、上記グレーニングも広義のブルームに含んで分類分けされているケースもあるが、本発明においては、白変につながる表面構造の変化に伴う現象に特に注目する為、単にブルームとした場合に、このグレーニングを含まないものとする。
(表面微細構造の観察方法)
表面微細構造とは油脂組成物の連続相を成す油脂の結晶が成長して表面に現れたものをさす。本発明は表面微細構造のなかでも、表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方のの変化を指標とするため表面構造B又は表面構造B’以外の表面構造と見分けることで、ブルームを予測することができる。
そのためには、3次元を測定できる必要がある。ここで3次元とは油脂組成物の表面を構成する平面に沿った方向である2軸(該平面に属し、特定の横方向(x軸)と、同じく該平面に属し、その縦方向に対して垂直である縦方向(y軸))と、該平面に対して垂直(すなわちx軸とy軸に対して垂直である高さ方向(z軸)のそれぞれを測定することができる観測方法が必要である。
(表面微細構造の観測方法)
ここで表面微細構造を観測方法について詳細に説明する。対象物の表面微細構造を観測するのは、従来表面の基準面からの高さを測定する観測装置はこれまでにあった。一例としては「表面粗さ」を測定する従来型SPM、プロフィロメトリー、LV-SEMが挙げられる。しかし、実際には表面微細構造の変化は以下のような経過で変化するものであることが、本発明の体積変動を観察することで示され、これにより、既存の高さの測定では、表面微細構造の初動を見逃しかねない点から不十分である。また3次元(高さ方向)の情報が得られない2D Profilometer、Raman/FT-IRは望ましくない。
使用する機器は以下に記述する表面微細構造の体積変動を測定できるという要件を満たす機器であれば特に限定はされない。望ましくは3D Profilometer、SPM、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope、SPMの一種)、SEM(走査型トンネル顕微鏡)、CT(Computed Tomography)は望ましく、特に3D Profilometer、そのなかでもLSM(Laser Scanning Microscopy)による測定が望ましい。
なお、従来技術においては、従来型のSPMは高さしか測れないため望ましくないとしたが、測定機器に付加的なオプションをつけることによって、体積変動を測定できるので、「表面微細構造の体積変動を測定できるという要件を満たす」限りにおいては、本発明の課題を解決する上で望ましい観測装置例とした。当然、従来型の高さしか測定できないタイプのSPMは高さ自体が高精度であっても、体積変動を測定できないと以下に示す、全く形状の異なる2つ以上の表面構造を見分けることができず、その利用は望ましくない。
また、観測装置において連続的な測定が難しいであったり、測定時に高真空がかかるなど、観測対象のサンプルにダメージがあるものも少なくなく、その点ではLSMは非破壊で繰り返し観察ができるため、特に望ましい。
(表面微細構造の解析方法)
観測装置を用いて表面微細構造を測定した上で、解析装置によってその測定値を解析する必要がある。観察装置によっては、解析装置が付随しているものもあるが、縦横と高さの情報を得る事ができる観測装置を用いて得られた情報を解析することができれば特に限定はされない。一例としてはDigital Surf社の「MountainsMap(登録商標)」などが挙げられる。
これら解析方法により表面微細構造の3次元の情報は実際の画像情報による視認であったり、3次元の情報として以下の、表面微細構造の表面構造B又は表面構造B’の変化を捉え、その変化を指標としてブルームを予測することができる。
(表面微細構造の形状)
測定対象の表面微細構造を測定機器で測定した場合に得られる情報は以下のようなものであり、その対応を図1に示す。
測定対象の油脂組成物は観測対象となる表面を持っており、その表面において測定のたびに測定視野において表面構造の凹凸の少ない部位を複数指定し、その高さの平均にあたる位置に存在する仮想の面を基準面(図1中G)と称する。以下のSp、Svを規定する基準となる。
(表面微細構造の経時変化~チョコレートを例に~)
油脂組成物の表面微細構造の変化を見るにあたり、具体的な例として油性食品であるチョコレートを挙げて説明する。
チョコレートは経時的にその構成している油脂成分が結晶転移により粗大化する現象をおこし、表面微細構造の変化を積み重ねることで、ついには肉眼でも確認しうるブルームとなり、商品価値を毀損するに至る。
しかしながら、その微細表面構造の変化についてはごく初期段階の詳細な挙動がわかっていなかった。しかし本発明によりその一端が明らかになった。
一例としてテンパリング操作をせずにスイートチョコレートを固化、20℃にてその微細表面構造を観測した場合を例に、従来の高さのみの観察ではなく本発明の3次元の測定情報を用いること、特に体積変化による観察が適している事を示す。
まず、保存の初期段階に結晶成長に伴う、面積に比して背の高い凸部(表面構造A、図中のA)が成長する。従来の高さによる観察では表面構造Aの最大山高さであるSpとして値が現れる。なお実際に等方性がある程度ある表面構造の場合は面積に比して背の高いというのは単に面積に相当する部分の径の最大長に比して背の高いと近似してかまわない。また、面積(径)に比してどの程度以上の背の高さをもって表面構造Aと表面構造B又は表面構造B’(後術)とを識別するかについては改めて規定する。(図2)
しかし、従来の考えでは知り得なかった背の低い凸部(表面構造B、図中のB)がこの直後より表面構造Aとは関係なく成長を始める。しかし従来の高さによる観測では、相変わらず表面構造Aの最大山高さであるSpが示されたままである。
表面構造Aも徐々に成長しており、Spは大きくなっていくが、表面構造Bは横方向に拡がっていく形で成長する為、Spは保存期間が進んでも、表面構造Aの最大山高さを示し続ける為、表面構造Bの存在は観測の数値上は全く現れない。なおこの時点では、外観上のブルームは肉眼では全くわからない。(図3)
表面構造Aも成長はしているものの、そのSpの上昇は頭打ちとなるが、表面構造Bは横方向に急速に拡がる。Spは相変わらず表面構造Aの最大山高さを示しているが、表面構造Bは低いながらも体積的には大きくなり、尚且つ、表面構造Bの成長により、周辺の表層近くの油脂が表面構造Bに吸い上げられる形で陥没し始める(表面構造B’、図中のB’ )(図4)。この場合はチョコレートである為、固形分が残り、広く拡がる表面構造Bと表面構造B’のそこに拡がる固形分が、急速に表面の反射能を低下させる。表面構造Bと表面構造B’はこのあと、徐々に広がり続けることでついには外観上も肉眼での観測にかかる程度の白化、いわゆるブルームとなる。
ここで、実際に目視によるブルームの主要因とみられるのが表面構造Bと表面構造B’であるが、表面構造Aとの高さが極端に違いすぎるため、高さによる測定にて観測されにくく、値として現れるのは表面構造Aの最大山高さである。また表面構造Aはこの場合はグレーニングと見られ、面の方向への成長はあまりせず、また高さ方向(Z軸)への方向への成長もある一定のところで頭打ちとなり、食感上粒状の異物感がある点で油脂組成物としての品質の低下要因の一つではあるが、外観上の影響としては主要因たりえない。
グレーニング(表面構造A)とブルームは別の機序によって発生しており、表面構造Aが発生したまま、表面の白化現象であるブルームには至らないケースがあり、表面構造Aだけではブルームの予測する材料とすることはできない。
よって、従来の高さのみの観察ではブルームにおける白変現象には直接関係が薄い表面構造Aの挙動はわかるのみであるが、本発明の3次元の測定情報を用いることで白変に直接影響のある表面構造Bと表面構造B’の挙動を捉えることができる。
以上示したとおり、表面の微細構造には大きくわけて、主に高さ方向(Z軸)へ伸張する表面構造Aと、油脂組成物表面の基準面より(z軸)上方に発生する背が低く横幅が広い凸状の油脂結晶である表面構造Bと、さらに表面構造Bの周辺に、基準面より下方に掘り込まれた凹状構造である表面構造B’があり、この中で白化現象につながる表面微細構造の変化、すなわち表面構造Bを指標とすることでブルームを予測することができる。
なお、表面構造Bと表面構造B’は同じ機序で、表面構造Bの成長に伴い、表面構造B’が広く掘れていく。
(表面構造Bおよび表面構造B’と表面構造Aの見分け方)
3次元を測定できる観察装置で得られた情報を解析装置により視覚化することで表面構造Bおよび表面構造B’を見出し、ブルームを予測することができる。
上記発生の機序に記載の通り、表面構造Aは基準面から先鋭的に突出しており、平滑な平面に突如現れる岩のような形状である。一方、表面構造Bは平面に油脂の結晶が横方向に薄く広がっており、草むらが繁茂しているような形状である。表面構造B’は表面構造Bが成長する材料として表面の油脂を吸い取った事により、固形分(チョコレートの場合は砂糖やカカオ固形分など)が露出し、あたかも表土が雨水で洗い流され、礫や小石がのこり露出した形状となる。
また、その表面構造Aと表面構造Bおよび表面構造B’とを見分けるには以下のような方法が考えられる。
すなわち、対象となる独立した表面構造の
(Z軸方向の最大長)/(x・y軸の属する平面上での最大長)比率が、0.1以上、望ましくは0.2以上、さらに望ましくは0.5以上ならば、それは表面構造A、0.1未満、望ましくは0.08未満、さらに望ましくは0.05未満ならば、それは表面構造Bと考えることができる。なお、Z軸方向の最大長は絶対値であり、負の方向(すなわち基準面以下に「掘れている」状態)であって構わず、表面構造B’についても表面構造Bと同様の基準で判断できる。
また、独立した個体とは高さ0の閉じた線により囲われた領域をさす。
(体積変化によるブルームの予測)
上記の通り、3次元を測定できる観察装置で得られた情報を解析装置により視覚化することで表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方を見出し、表面構造Aを識別し、表面構造の変化のごく初期の段階でブルームにつながる表面構造の変化を予測することが可能であるが、体積変化によりブルームを予測する方法について記述する。
本発明においては、水準面から上方への凸部(図4におけるBの部位)と下方の凹部(図4におけるDの部位)の体積を測定できる測定方法を用いる事ことが望ましい。(図4におけるBの部位)また、経時的に上記凹部と凸部の体積を測定する事が望ましく、そのためには視野を同一な状態に固定した状態で、基準面(図1のG)からの凹部・凸部の体積が測定により得られることが望ましい。また、観測に望ましい機器は上記に挙げたが、プログラムを付加する事で高さ(z軸)情報だけでなく、表面の(x・y軸)位置情報測定する事が可能な観測または解析装置付加することで3次元情報を観測できるならば、特に機器については限定されない。
(基準面(x・y軸)方向精度)
基準面方向とは図1のGに示されたとおり、上方への凸部と下方への凹部の高さを規定する基準面を構成する平面に沿った方向であり、基準面方向の解像度は表面構造Aが初発に発生するのを観測する必要がある、一方で基準面方向に広く拡がった形状である表面構造Bは表面構造Aより発生があとでかつ基準面方向の大きさは表面構造Aより大きい。従って表面構造Aが後述の高さを超えて成長した時点で確認できる事が望ましく、基準面方向の解像度は10μm以下、望ましくは5μm以下、さらに望ましくは1μm以下の精度で測定する事により体積変動を測定する事が望ましい。
(高さ(z軸方向)精度)
高さ(z軸方向)精度微細構造の高さの変動を1μm以下、望ましくは0.5μm以下、さらに望ましくは0.2μm以下の精度で測定する事により体積変動を測定する事が望ましい。
少なくとも1μmの精度があれば表面構造Bの体積変動を観測ことができる。また体積変動Aは体積変動B又は表面構造B’より遙かに大きいためその差異を十分に観測できる。
(体積変動によるブルームの予測)
表面微細構造の体積変動を10μm以下、望ましくは5μm以下、さらに望ましくは1μm以下の精度で測定する事により体積変動を測定する事が望ましい。
この精度を持って、体積変動を観察する。チョコレートを例にした表面微細構造の経時変化の際に記載したが、表面構造Aは底面積の増加は緩やかながらその高さは急激に上昇し、そしてある程度のところで頭打ちとなる。すなわち表面構造Aの成長に伴う体積変動は高さ(z軸)の伸張に大きく依存している。一方表面構造Bは表面構造Aとは異なり、発生後高さの増加は緩やかながらその表面方向(x・y軸方向)に急激に上昇していく。すなわち表面構造B(並びに付随して起こる表面構造B’)の成長に伴う体積変動は面(x・y軸方向)の伸張に大きく依存しており、高さの1乗項依存の表面構造Aと面である2乗項依存の表面構造Bとでは表面構造Bの増大が極めて大きい。よって体積変動を見る方が表面構造Bの増大を捉えやすい。
特にその増大を捉えるに際して特定の規定はないが、グラフなどで急激な増加量の拡大が見られる点をもって予測が可能である。
(面積変動によるブルームの予測)
また、上記の通り、3次元を測定できる観測装置で得られた情報を元に解析した体積変化によりブルームを予測出来る点は上述の通りだが、3次元の情報を元にした2次元(面積)変動によりブルームの予測をする方法について記述する。
すなわち高さのデータが正、すなわち基準面より上方に盛り上がっている部分の面積と、負、すなわち基準面より下方に掘り込まれている部分の面積の変動を観察することである。
上記機序の説明でもあるが、表面構造Aは高さの変動は急激に大きくなりその後頭打ちになる傾向があるが、その底面にあたる部分はさほど大きくならない。これは面積の増加が少ないということである。
一方、表面構造Bは高さの変動はそれほど大きくないもののその底面にあたる部分は急激に拡がっていく特徴がある。これは、面積の増加が大きいことを示している。
さらに表面構造B’も表面構造Bと同様に増加が大きく、しかも表面構造A自体には表面構造Bのような周囲をへこませる現象があまり起こらないため、そのZ軸が負の面積変動は表面構造Bの増大に直結しやすい点さらに望ましく用いる事ができる。
以上に示されるように、表面微細構造の表面構造B又は表面構造B’を観測すること、さらには体積変動を測定できる観測機器を用いて体積変動を観察することで、従来ではその発生を区別出来なかった表面構造Aと表面構造B又は表面構造B’を見分けること、そしてその大きさを体積や面積として定量的な評価が可能でとなることで、チョコレートの品質評価における、保存試験の大幅な期間短縮が可能となる。
以下、実施例を例示して本発明の効果を明瞭にするが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
実験例1(チョコレートの配合、製法)
市販のスイートチョコレート (不二製油株式会社製 油分35.3%)90重量部中に、ココアバター(商品名:ココアバター201 不二製油株式会社製)を10重量部加え、湯煎にて完全に溶解・混合後、30℃まで冷却してモールドに流し、10℃にて30分間固化させた。なお、保存初期の表面微細結晶の変化を捉える目的であるため、シード剤無添加、テンパリングなしの条件でチョコレートを作成した。
このチョコレートを20℃一定の実験室に移し、評価用の資料とした。
(レーザー顕微鏡による定点観察)
レーザー顕微鏡(Laser Microscope(3D & Profile Measurement、以下 LSM),Keyence VK-X150(以下LSMと称する)を用い、視野を固定して定点観察を行った。LSMでは1度の計測でレーザー画像(図5)、高さ像(図6)、3D画像(図7)、微分干渉像(以下、DIC像と称し、表面の凹凸を端的に表示できる)(図8)の4種類の画像を取得できる。50倍のレンズを用いて縦4×横4の連続した画像を取得し、目的に応じて、単独または連結画像(16 画像連結)の 2つの方法で解析した。
観察時は雰囲気温度を 20℃±1℃に保ち、横1500×縦1000μmの視野を固定して7日間、経時的に計測した。観察データをもとに、Keyence の LSM 付属のマルチファイル解析アプリケーションを用いて、表面粗さ、凹凸(体積・表面積)を解析した。主に全体像を連結画像で、より詳細な解析を必要とする場合は、画像連結によるノイズを避けるため単独画像を用いた。
(Cryo-SEM による微細表面構造の形状観察)
保存試験終了後、保存試験8日後の試料(以降D+8と称する。ただし+のあとの数字は経過した日数)を切り出し、オスミウムプラズマコーター(HPC-20,HOLLOW CATHODE PLASMA CVD,真空デバイス)で、20mA×15sec 蒸着して観察試料とした。試料は、HITACHI SU3500 走査型電子顕微鏡(Gatan Alto-1000 Cryo-Unit)を用い、-160℃雰囲気下で観察を行った。
なお、LSM で定点観察した位置を探し出すことが難しいため、SEM では LSM の視野の近傍を観察することとした。なお、Cryo-SEM の観察エリアは、予め LSM で計測し、観察位置近傍の表面状態を確認している。
Cryo-SEM による微細表面構造の形状観察は正確な高さこそその画像からはわかりにくいものの、その詳細な形状と表面方向に沿った大きさは十分に観察できる。観測装置の性状からはLSMと全く同じ視野を確保することはできないものの、LSMにて観察された表面構造A、表面構造B、表面構造B’と同じ分類に属するものの微細表面構造はこれにて明らかにできる。
図9・図10は9~15μm最大長であり、切り立った岩のような形状の表面構造である。
図11・図12はすでに視野からあふれるほど大きく、最大長は200μm以上あり、草が生い茂るような形状の表面構造である。また図13には図12と同じ形状の表面構造と、あたかも表土が流出したあとに残る小岩や礫のような固形分が露出している表面構造である。よって表面構造Aは図9と図10、表面構造Bは図11と図12、表面構造B’は図13の形状であることがわかる。
(LSMによる計測(3D画像))
D+0からD+5まで同位置の3D画像を図14に示す。
黒から濃灰色、灰色、薄灰色、白の順に白に近いほど構造的には高い位置を示す。(なお、本来の解析装置ではより視認性をよくする為にカラーでその高さを表現する事ができるが、本発明では黒から白へのグレー階調により高さ表現している。表面構造Aが多の構造に比して極端に大きい為、表面構造Bをより重点的に階調がでるようにグレー階調をコントロールしている。そのため表面構造Aは薄灰色で比較的階調がない表現にはなっているが、傾斜を持たせることで表面構造Aの大きさがわかるようになっている。
D+2から小さな粒状の構造が表面に現れ、日数が経過するごとにその数は増える。D+3で中央付近に生じた構造はD+4、D+5と同心円状に広がりを見せた。
形態的特徴から、表面構造Aは背が高くなるものの成長は頭打ちとなり、その底部にあたる面積は大きく広がらない、一方表面構造Bおよび表面構造B’は表面に大きく広がり、そして表面構造を荒らしていくものと推定できる。ただし、この時点で表面はツヤがない程度でブルームは見当たらず、目視でブルームが確認できたのはD+8以降であった。
ここで表面構造Aと表面構造Bと目される独立した表面構造の(Z軸方向の最大長)/(x・y軸の属する平面上での最大長)を求める。
D+6の時点で3次元データを求める。もともと観測装置が3次元のデータを測定したうえで、付属の解析装置が解析、得られた3次元情報から、高さや3D画像を電子的に構成しているので、3D画像から適切な表面構造Aと表面構造Bとを結ぶ断面の形(図15、線分C1C2)で高さデータを取得する。(図16)
左端のピーク先鋭的なピークをピークA、中央の横幅が大きいものの高さは低いピークをピークBとする。ピークAの高さは15.56μm、幅は19.23μmであり、ピークBの高さ(深さ)は5.31μm、幅は179.62μm、ピークB’の高さは3.07μm、幅は385.90μmであった。
これより表面構造の(Z軸方向の最大長)/(x・y軸の属する平面上での最大長)は
幅がx・y軸の属する平面上での最大長に相当し(ただし、表面構造の形状が同心円上であるため、この断面における幅を最大長とみなしてかまわないとした。)、高さがZ軸方向の最大長に相当するため、それぞれピークAが0.809、ピークBが0.030、ピークB’ が0.008であった。
よって、ピークAは表面構造A、ピークは表面構造B、ピークB’は表面構造B’に分類される。
なお、この断面のデータら表面構造が表面構造AかBかを判別することはできるが、3D画像がわからないとピークの正しい最大山高さに断面を設定する事ができないため、断面の高さ情報からは、表面構造を元にしたブルームの発生を予測することは困難である。
高さ像を演算する元となったデータ高さ(Sa、Sz、Sp、Sv)と、その高さデータより凸部位と凹部位の位置情報が得られる為、その凸・凹部位となる領域から面積率(視野に対する%)と、その領域における高さ情報から体積(μm)を得た。(表1)
以上、得られた情報で表面構造A(グレーニング)、表面構造B、表面構造B’を検知することが可能かを検証した。
Figure 0007123713000001
(LSM データ解析(表面粗さ))
まず、最大山高さSp、最大谷深さSv、それに段差Szに着目して、その値を経時的にその挙動を示した。
従来より用いられる表面粗さの指標である Sa(平均山高さ)、Sz(最大山高さ)のグラフを図17に示す。表面粗さ(Sa,Sz)、特に段差は、D+1~D+2 にかけての変化が大きい。これは、形状の情報が変化するより早い。表面構造Aは保存2日目ですでに発生しており、Spは大きなピークが観測されているものの、その後に発生した表面構造B、表面構造B’は表面構造Aよりすべて小さい為、3日目以降のSpの上昇はすべて、表面構造Aによるものであった。また、表面構造B’も2日目にはその兆し、3日目には確実に見られ、4日目には表面全体に凸凹が急速に拡がるが、Svからはその様子はうかがい知ることができない。
表面構造AはDIC像(図9・図10)からも表面構造B・表面構造B’(図11・図12)、そしてその後表面全面に拡がるブルームとは異なるグレーニングであることが見て取れるため、表面構造AのSpの値の発生(1日目)・急上昇(2日目)をもって、最終的にブルームの発生の予兆と見ることはできない。
(LSM データ解析(体積・面積率))
計測データから凸部・凹部に分けて、その体積を図19、面積率を図18のグラフにしめす。なお面積率は視野に対する対象範囲の比率である。そして面積率とはいうものの、基準面から上(凸部位)あるいは、下(凹部位)であることは、特定の領域における高さを測定できないと凹凸のいずれかの部位かを判断できないため、3次元の測定値すべてがないと得られない測定方法である。
体積と面積率は共に、D+3から顕著に増加しており、特に体積は対数的な伸びを示した。これは、LSM 像での表面の変化の時期と一致している。さらに凹凸を分けて評価したところ、凹部に対し凸部の体積増加が著しい。
面積率では凹部の面積の増加の方が著しいが、これは表面構造Aが縦方向に成長しているためと思われた。体積では、圧倒的に凸部(表面構造B)の増加が著しいことが確認できた。
この結果から、ブルームの成長を定量的に評価するためには油脂の移動量(体積)での評価が、また高さ情報を加味した上での面積率の観察でも評価ができるとみられる。
G:基準面
B:基準面から上方へ突出した部分(凸部)
D:基準面から下方へ陥入した部分(凹部)
Sp:領域内の凸部の最大山高さ
Sv:領域内の凹部の最大谷深さ
Sz: 最大高さ(段差)Sp+Svに相当する
Sa:平面からの凸凹の絶対値の平均、Sz/2に相当する
線分C1-C2:高さデータを取得した線分
本発明により、表面微細構造の表面構造Bを観測すること、さらには体積変動を測定できる観測機器を用いて体積変動を観察することで、従来ではその発生を区別出来なかった面構造AとBを見分けること、そしてその大きさを体積や面積として定量的な評価が可能となることで、チョコレートの品質評価における、保存試験の大幅な期間短縮が可能となった。

Claims (3)

  1. 油脂が連続相である油脂組成物において、表面微細構造の表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方の変化を指標とする、ブルーム発生の予兆をとらえる方法。
    ただし、表面構造Bとは、基準面より上方に発生する背が低く横幅が広い油脂結晶の凸状構造であって背が横幅の0.1倍よりも低いものを、表面構造B’は表面構造Bの周辺に基準面より下方に掘り込まれた凹状構造をそれぞれ指す。
  2. 表面構造B又は表面構造B’の少なくとも一方の変化が体積変化である、請求項1記載ブルーム発生の予兆をとらえる方法。
  3. 3D Profilometer、LSM、SPM、AFM、SEM、CTから選択される一種以上の観測機器を用いる、請求項1ないし請求項2記載のブルーム発生の予兆をとらえる方法。
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