以下、図面を参照して実施形態を説明する。
図1は、実施形態に係る編成列車の車両情報通信システム10の模式図である。図1に示すように、車両情報通信システム10は、主車両に複数の副車両が連結された編成列車に適用され、具体的には、機関車2に複数の貨車3A~Cが連結された貨物列車1に適用される。図1では簡略化のため貨車3A~Cを3つだけ図示しているが、一般的には、貨物列車1の機関車2には多数(例えば、20両以上)の貨車が連結される。
貨物列車1が長距離運行する際には、物流コストが最小になるように効率良く貨車を組み合せるため、途中駅で目的地の異なる貨車を分離したり、途中駅で新たな貨車を合流させて連結したりして、貨車の繋ぎ替えが行われる。そのため、途中駅において列車編成が頻繁に入れ替えられることになる。
図2は、図1に示す車両情報通信システム10のブロック図である。図1及び2に示すように、車両情報通信システム10は、サーバ11と、機関車2に搭載された親機ユニット12と、貨車3A~Cに夫々搭載された子機ユニット13A~C(監視ユニット又は異常走行検知装置とも称す)とを備える。サーバ11は、ネットワークN(例えば、インターネット)を介して親機ユニット12と通信可能に接続されている。サーバ11は、各車両に固有の番号である車両番号と各車両の通信上のID情報である車両IDとの間の対応関係を有するID対応関係情報を予め記憶している。なお、サーバ11は、貨物列車1のID対応関係情報だけでなく、他の貨物列車のID対応関係情報も予め記憶している。
車両番号は、機関車2の固有の番号である機関車番号と、貨車3A~Cの固有の番号である貨車番号とを含む。車両IDは、機関車2に搭載された親機ユニット12の通信上のID情報である親機ID(図1の「M0」)と、各貨車3A~Cに搭載された子機ユニット13A~Cの通信上のID情報である子機ID(図1の「M1~Mn」)とを含む。サーバ11は、このID対応関係情報を親機ユニット12にネットワークNを介して送信する。
ネットワークNには、貨物列車1を含む各貨物列車の運行管理を行う指令所14に設けられた既存の運行管理システムが通信可能に接続されている。当該運行管理システムは、各貨車の出発駅/目的駅や配達納期等の要件を達成し且つ物流効率が最大化されるように貨車の組合せを最適化するプログラムに基づいて各貨物列車の編成計画を作成している。
即ち、指令所14の運行管理システムは、各車両(機関車2及び貨車3A~Cを含む)の夫々の編成上の連結位置と、各車両の車両番号(機関車番号及び貨車番号)との対応関係を含む夫々の編成情報を有する。指令所14は、この夫々の編成情報から貨物列車1としての編成情報を抽出して親機ユニット12にネットワークNを介して送信する。なお、連結位置は、1つの列車における先頭車両からの連結順番を意味し、例えば、機関車2の連結位置が「0」とすると、機関車2に直接連結された第1貨車の連結位置を「1」とし、第1貨車に連結された第2貨車の連結位置を「2」とする。
親機ユニット12は、子機ユニット13A~Cに対する通信とネットワークNを介した通信との間のゲートウェイである。親機ユニット12は、編成情報受信部21、ID対応関係受信部22、ID編成認識部23、演算部24、機関車無線通信部25、及び、状態出力部26を備える。編成情報受信部21は、指令所14の運行管理システムから貨物列車1の編成情報(連結位置及び車両番号の対応関係)を受信する。ID対応関係受信部22は、サーバ11からID対応関係情報(車両番号及び車両IDの対応関係)を受信する。
ID編成認識部23は、編成情報受信部21で受信した貨物列車1の編成情報とID対応関係受信部22で受信したID対応関係情報とに基づいて、自列車の貨物列車1の子機IDと、当該子機IDに対応する貨車の連結位置と、当該子機IDに対応する貨車3A~Cの貨車番号との間の対応関係表Xを求め、当該貨物列車1の機関車2に連結された貨車3A~Cの子機IDを認識する。
以上のように、子機IDと貨車番号との対応関係の情報をサーバ11に予め用意しておき、指令所14において既に存在する列車の編成情報を利用して互いの情報を突き合わせることで、頻繁に編成を入れ換える貨物列車1においても、機関車2に連結された貨車3A~Cの子機IDを簡単かつ迅速に認識できる。
演算部24は、ID編成認識部23で認識された列車編成の子機IDを用いた無線通信を機関車無線通信部25に指令することや、機関車無線通信部25が受信した状態情報を状態出力部26に出力指令することなどを行う。機関車無線通信部25は、子機ユニット13A~Cから各貨車3A~Cの異常又は正常に関する状態情報を含む信号を受信する。機関車無線通信部25及び子機ユニット13A~Cの無線方式としては、例えば、双方向通信が可能なLPWA(Low Power Wide Area)を用いることができる。
図3は、図2に示す子機ユニット13A~Cのブロック図である。子機ユニット13A~Cは、貨車3A~Cを監視して異常走行等を検知する装置である。子機ユニット13A~Cは互いに同様の構成であるため、1つの子機ユニット13Aについて代表して説明する。図3に示すように、子機ユニット13Aは、振動センサ31(車両状態センサ、物理量センサ)、走行センサ32、プロセッサ33、記憶器34、無線通信機35、電源回路36、動作確認スイッチ37、及び、ケース38を備える。また、子機ユニット13Aは、後述の手ブレーキセンサ67及びブレーキ圧センサ77に接続されている。
振動センサ31は、貨車3Aの状態を検出する車両状態センサの一種であり、異常時に値が増加する物理量を検出する物理量センサの一例である。具体的には、振動センサ31は、貨車3Aの上下加速度を検出するセンサである。振動センサ31が検出する上下加速度は、貨車3A~Cの走行速度が上がるにつれて値が増加する傾向を有する物理量である。なお、車両状態センサは、振動センサ31に限られず、例えば、異常時に値が増加する物理量である台車の軸受温度を検出するセンサでもよい。なお、本実施形態の振動センサ31は、CPUを内蔵しており、子機ユニット13Aのプロセッサ33からの指令に応じて、検出信号の送信/非送信の選択や、起動状態/スリープ状態の選択等を行うことができる。
走行センサ32は、貨車3Aの走行速度の取得に用いられるセンサであり、走行速度を検出する速度センサでもよいし、走行方向の加速度を検出する加速度センサでもよい。加速度センサを用いた場合には、検出される加速度をプロセッサ33にて積分することで走行速度を求めるとよい。
プロセッサ33は、手ブレーキセンサ67及びブレーキ圧センサ77の検出信号に基づいて、貨車3Aの手ブレーキの状態を判定する。プロセッサ33は、振動センサ31及び走行センサ32の検出信号に基づいて脱線の発生を判定する。記憶器34は、プロセッサ33に接続されており、車両の異常走行時に生じる上下振動加速度の波形パターン等を予め記憶している。無線通信機35は、プロセッサ33からの指令により自己の子機IDと共に信号を無線送信する。無線通信機35は、半二重通信にて通信を行うため、全二重通信にて通信する場合に比べ、無線通信にかかる消費電力が抑制される。なお、無線通信機35は、CPUを内蔵しており、プロセッサ33からの指令に応じて、起動状態/スリープ状態の選択等を行うことができる。
電源回路36は、交換可能な電池Bに接続され、子機ユニット13Aに電力を供給する。動作確認スイッチ37は、磁力により操作可能に構成されており、磁力が作用しない状態でOFFになり、磁力が作用した状態でONになる。動作確認スイッチ37がONになると、プロセッサ33は、子機ユニット13Aが正常動作することを確認し、正常に動作すれば正常動作信号を無線通信機35に無線送信させる。即ち、子機ユニット13Aが正常動作しない状態においては、動作確認スイッチ37がONになっても無線通信機35から正常動作信号が無線送信されない。なお、プロセッサ33は、子機ユニット13Aが正常動作しない状態で動作確認スイッチ37がONになると、異常動作信号を無線通信機35に送信させる構成としてもよい。
ケース38は、振動センサ31、走行センサ32、プロセッサ33、記憶器34、無線通信機35、電源回路36及び動作確認スイッチ37を収容している。ケース38は、そのうち少なくとも動作確認スイッチ37に対向する部分が磁力透過性を有する構成であればよいが、本実施形態のケース38は、全体として磁力透過性を有する材料(例えば、合成樹脂)で形成されている。
このように、動作確認スイッチ37をケース38に収容するため、動作確認スイッチ37に防水構造が必要なくなると共に、ケース38を分解せずともケース38に外部から磁力発生源を近づけるだけで、ケース38外から簡単に動作確認スイッチ37を操作することが可能になる。
図4は、図2に示す動作確認端末機15のブロック図である。図4に示すように、動作確認端末機15は、磁石41(磁力発生源)、受信機42、プロセッサ43、及び、出力器44を備える。動作確認端末機15は、貨車等の定期点検を行う際に作業者が手で持ち運びできるものである。磁石41は、子機ユニット13Aの動作確認スイッチ37に磁力を作用させて操作するための磁力発生源である。当該磁力発生源は、永久磁石でも電磁石でもよい。当該磁力発生源は、受信機42、プロセッサ43及び出力器44を備えたユニットとは別体であってもよい。
受信機42は、子機ユニット13A~Cの無線通信機35が送信する正常動作信号を受信する。プロセッサ43は、不揮発メモリに保存されたプログラムに基づいて揮発性メモリを用いて演算処理する。プロセッサ43は、受信機42が正常動作信号を受信したか否かを識別可能な出力を出力器44に実施させる。出力器44は、例えば、表示装置である。なお、出力器44は、受信機42が正常動作信号を受信したか否かを作業者が判別するための出力を行えばよく、表示装置に代わりに無線送信機でもよいし音声出力装置でもよい。
このような構成によれば、貨車等の定期点検を行う際に作業者が動作確認端末機15の磁石41を子機ユニット13Aのケース38に近づけると、子機ユニット13Aの動作確認結果が無線通信機35を介して動作確認端末機15へ出力される。よって、動作確認端末機15を1台用意するだけで、子機ユニット13A~Cの正常動作確認を簡単に行うことができる。
そして、子機ユニット13A~Cの正常動作の確認は、機関車2に貨車3A~Cが連結された編成完了毎に行うのではなく、編成前の貨車3A~Cごとの定期点検時に動作確認スイッチ37を操作することで行われる。即ち、車両再編成よりも頻度の少ない定期点検において子機ユニット13A~Cの正常動作確認を行うので、無線通信機35の動作機会を減らすことができる。また、子機ユニット13A~Cの正常動作確認は、親機ユニット12からの要求信号の受信をトリガーとするのではなく、動作確認スイッチ37の操作をトリガーとしているので、無線通信機35を受信待機状態にしておく必要もない。よって、電池Bを電源とする子機ユニット13A~Cの動作確認のための電力消費を低減でき、子機ユニット13A~Cに設ける電池Bの交換頻度を低減できる。
図5は、図3に示す子機ユニット13A(13B,13C)の手ブレーキ不緩解判定に関する機能を説明するブロック図である。即ち図5は、子機ユニット13A(13B,13C)のうち手ブレーキ不緩解判定にフォーカスした図面である。図5に示すように、貨車3A(3B,3C)には、人間が手で操作して制輪子4を作動させる手ブレーキ機構60が搭載されている。手ブレーキ機構60は、制輪子4にロッド61を介して連結されて且つブラケット62に対して回動軸63を介して揺動自在に連結された揺動アーム64と、揺動アーム64に連結された線状体65(例えば、チェーン)と、線状体65を巻取り可能なハンドル66とを備える。手ブレーキ機構60は、公知の構成である。
本実施形態では、ブラケット62のうち回動軸63から所定距離だけ離れた部位に、手ブレーキセンサ67(車両状態センサ)が追加されている。本実施形態では一例として、手ブレーキセンサ67は近接スイッチである。揺動アーム64のうち回動軸63から前記所定距離だけ離れた部位には、手ブレーキセンサ67の検知対象物となるマグネット68が設けられている。手ブレーキセンサ67は、子機ユニット13Aに有線接続されてプロセッサ33に電気的に接続されている。
ハンドル66により線状体65が巻き取られておらず制輪子4が車輪から完全に離間した緩解状態では、揺動アーム64は、スプリング(図示しない)によりマグネット68が手ブレーキセンサ67に重なる位置に付勢されている。作業者がハンドル66を一方向に回転操作して線状体65が巻き取られて揺動アーム64が揺動することで制輪子4が車輪を押圧した不緩解状態では、マグネット68が手ブレーキセンサ67から離反する。即ち、手ブレーキセンサ67がマグネット68の磁力を検知しているときは、手ブレーキ機構60が緩解状態にあり、手ブレーキセンサ67がマグネット68の磁力を検知していないときは、手ブレーキ機構60が不緩解状態にある。
また、貨車3A(3B,3C)には、機関車2の運転席からの操作により制輪子4を動作させるブレーキ系統70が搭載されている。ブレーキ系統70は、各貨車に連なって圧縮空気が通流する共通ブレーキ管71と、共通ブレーキ管71に接続された空気溜め部72と、ブレーキ管71と空気溜め部72との間に介設された制御弁73と、空気溜め部72に接続された測重弁74と、制御弁73及び測重弁74に接続された応荷重弁75と、貨車の積載重量に応じて応荷重弁75から出される圧縮空気のブレーキ圧を制輪子4に導く個別ブレーキ管76とを備える。ブレーキ系統70は、公知の構成である。
本実施形態では、ブレーキ系統70に対して、個別ブレーキ管76の制動圧を検出するブレーキ圧センサ77が追加されている。ブレーキ圧センサ77は、子機ユニット13Aに有線接続されてプロセッサ33に電気的に接続されている。ブレーキ圧センサ77は、圧力センサでもよいし圧力スイッチでもよい。
子機ユニット13Aのプロセッサ33は、ソフトウェア的には、無線通信機起動/スリープ制御部51と、手ブレーキ状態判定部52とを備える。無線通信機起動/スリープ制御部51及び手ブレーキ状態判定部52は、不揮発メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサ33が揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
無線通信機起動/スリープ制御部51は、所定の起動条件が成立すると無線通信機35を起動状態にする一方、所定のスリープ条件が成立すると無線通信機35をスリープ状態にする。前記起動条件は、貨物列車1が編成されてから貨物列車1が発車するまでの間に発生する所定のイベントが検出されたとの条件を含む。前記スリープ条件は、前記イベントが検出されていないとの条件を含む。
具体的には、無線通信機起動/スリープ制御部51は、通常は無線通信機35をスリープ状態にしておき、ブレーキ圧センサ77で検出したブレーキ圧が所定値を超えたとのイベントが検出されると無線通信機35を起動状態にする。また、無線通信機起動/スリープ制御部51は、振動センサ31が検出する上下加速度が異常であると判定されると、無線通信機35をスリープ状態から起動状態にし、無線通信機35に送信動作を行わせる。
手ブレーキ状態判定部52は、手ブレーキセンサ67からの情報により、手ブレーキ機構60が緩解状態であるか不緩解状態であるかを判定する。手ブレーキ状態判定部52は、ブレーキ圧センサ77で検出したブレーキ圧が所定値を超えたとのイベントが検出されていないときは、手ブレーキ機構60が不緩解状態であると判定されても、無線通信機35に送信指令を行わない。手ブレーキ状態判定部52は、ブレーキ圧センサ77で検出したブレーキ圧が所定値を超えたとのイベントが検出されているときに、手ブレーキ機構60が不緩解状態であると判定されると、異常信号として不緩解信号を自己の子機IDと共にブロードキャスト送信させる。
親機ユニット12(図2参照)は、子機ユニット13A~Cからブロードキャスト送信された不緩解信号を機関車無線通信部25で受信し、その不緩解信号の子機IDをID編成認識部23の対応関係表Xと照合する。親機ユニット12は、受信した不緩解信号の子機IDがID編成認識部23の対応関係表Xの子機IDと一致する場合には、自己の貨物列車1で異常が発生したと判定すると共に、どの連結位置の貨車で異常が発生したかを特定する。
以上のように、貨物列車1が編成されてから貨物列車1が発車するまでの間の発車準備状態の期間にフォーカスし、当該期間に発生するイベントが検出されないときは、子機ユニット13A~Cの無線通信機35をスリープ状態にするので、無線通信機35の消費電力が大幅に抑制される。即ち、貨物列車1が編成される前は手ブレーキ機構60が不緩解状態であっても問題なく、且つ、貨物列車1が発車するときは手ブレーキ機構60の緩解が確認された後であるため手ブレーキ機構60の状態確認が不要である。
よって、発車準備状態の期間に発生するイベントが検出されるまでは無線通信機35をスリープ状態にし、当該イベントが検出されると無線送信機35をスリープ状態から起動状態する。そして、手ブレーキ機構60が不緩解状態であることが検出されると、無線送信機35に不緩解信号を送信させ、手ブレーキ機構60が緩解状態であることが検出されると、無線通信機35に緩解信号を送信させる。これにより、無線送信機35の消費電力の低減と、発車前における手ブレーキ機構60の不緩解状態の通知とが好適に実現される。
以上のように、無線通信機35は、貨物列車1の編成後かつ発車前のイベント発生時、異常発生時(手ブレーキ不緩解、脱線発生等)、動作確認スイッチ37のON時以外は、スリープ状態となることで、無線通信機35を極力スリープ状態にしておくことができ、無線通信機35の消費電力を好適に低減できる。
そして、貨物列車1の編成後で且つ貨物列車1の発車前の発車準備状態の期間には、通常はブレーキ圧を上昇させてブレーキシステムの正常確認を行う手順が定められており、当該手順を利用し、子機ユニット13A(13B,13C)が貨車3A(3B,3C)のブレーキ圧をブレーキ圧センサ77から有線で受信することで、無線通信機35を動作させることなく発車準備状態を把握することができる。よって、無線通信機35の消費電力が更に低減される。
しかも、子機ユニット13A~Cの無線通信機35は、手ブレーキセンサ67により手ブレーキ不緩解が検出されると不緩解信号を親機ID宛てに指定送信するのではなく、不緩解信号を子機IDと共にブロードキャスト送信するので、子機ユニット13A~Cは事前に親機IDを受信する必要が無くなる。そのため、親機ユニット12から親機IDを受信するために子機ユニット13A~Cの無線通信機35を受信待機状態にする必要がなくなり、子機ユニット13A~Cの通信動作を停止させておくことができる。よって、子機ユニット13A~Cの消費電力を低減でき、子機ユニット13A~Cに設ける電池Bの交換頻度を低減できる。
図6は、図3に示す子機ユニット13A(13B,13C)の脱線判定に関する機能を説明するブロック図である。即ち図6は、子機ユニット13A(13B,13C)のうち脱線判定にフォーカスした図面である。図6に示すように、子機ユニット13A(13B,13C)のプロセッサ33は、ソフトウェア的には、センサ制御部81と、第1異常走行判定部82と、第2異常走行判定部83とを備える。これら各部81~83は、不揮発メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサ33が揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
センサ制御部81は、振動センサ31の検出値が所定の閾値Aを下回るときは、振動センサ31にプロセッサ33に向けた検出信号の送信動作を実施させない。センサ制御部81は、振動センサ31の検出値が閾値Aを上回るときは、振動センサ31にプロセッサ33に向けた検出信号の送信動作を実施させる。
即ち、振動センサ31は、異常発生が起こり得るとき(振動センサ31の検出値が閾値を超えるとき)にプロセッサ33に検出信号を送信してプロセッサ33で異常の有無を判定する一方で、振動センサ31は、異常発生が起こり得ないとき(振動センサ31の検出値が閾値未満のとき)は、プロセッサ33に検出信号を送信しない。よって、振動センサ31によるプロセッサ33への送信処理の機会と、プロセッサ33によるセンサ検出値の異常判定処理の機会とを削減できる。よって、子機ユニット13A~Cの消費電力を低減でき、子機ユニット13A~Cに設ける電池Bの交換頻度を低減できる。
また、振動センサ31が検出する上下加速度は、正常走行時において貨車3A~Cの走行速度が上がるにつれて値が増加する傾向を有するので、閾値Aが固定であると高速走行時の異常判定の精度が低下する可能性がある。そこで、センサ制御部81は、走行センサ32で検出される走行速度が増加するにつれて閾値Aを段階的又は連続的に増加させる。それにより、正常な高速走行時に振動センサ31がプロセッサに検出信号を送信する機会を減らし、消費電力を低減することができる。
更に、センサ制御部81は、走行センサ32で検出される走行速度が減少するにつれて、振動センサ31から受信する検出信号のサンプリング周波数を段階的又は連続的に減少させる。即ち、低速走行時は単位時間あたりの走行距離が短いため、走行速度が減少するにつれて振動センサ31の検出信号のサンプリング周波数を減少させることで、異常検出の精度低下を防ぎながらも消費電力の増加を抑制することができる。
また、貨物列車1の走行速度は急変し難いため、走行センサ32のサンプリング周波数を小さくしても、走行速度の変化を検出し損ねる可能性は低い。そこで、センサ制御部81は、振動センサ31のサンプリング周波数や閾値Aの変更のために参照する走行センサ31のサンプリング周波数を、振動センサ31のサンプリング周波数よりも小さくすることで、異常検出の精度低下を防ぎながらも走行センサ31による電力消費を低減できる。
センサ制御部81は、走行センサ32で検出される走行速度がゼロであり貨物列車1が停止状態であると判定すると、振動センサ31にスリープ状態になるように指令する。このように、異常による影響がない列車停止時には振動センサ31をスリープ状態にすることで、振動センサ31による電力消費を低減できる。
図7は、図3に示す子機ユニット13A(13B,13C)の処理を説明するフローチャートである。以下、図7の流れに沿って適宜図3~6及び8を参照しながら説明する。まず、貨物列車1の貨車3A~Cが車庫にあり、定期点検等が行われる段階で、作業者が動作確認端末機15を用いて子機ユニット13A~Cの動作確認を行う。即ち、作業者が子機ユニット13A(13B,13C)の動作確認スイッチ37にケース38の外側から磁石41を近づけることで、動作確認スイッチ37がONになると(ステップS1:N)、それをトリガーとしてプロセッサ33が動作確認を実施する(ステップS2)。
プロセッサ33は、子機ユニット13A(13B,13C)が正常動作しない場合には、送信不能でなければ無線通信機35に異常動作信号を送信させ、正常動作することが確認されると無線通信機35に正常動作信号を送信させる(ステップS3)。動作確認端末機15がその正常動作信号を受信して出力器44により正常動作確認済であることが出力されると、作業者は子機ユニット13A(13B,13C)が正常であることを確認できる。動作確認端末機15による動作確認作業が終了して磁石41が子機ユニット13A(13B,13C)から離されると、動作確認スイッチ37がOFFになる(ステップS1:Y)。
次いで、手ブレーキ状態判定部52は、手ブレーキセンサ67からの情報により手ブレーキ機構60が緩解されているか否かを判定する(ステップS4)。手ブレーキ機構60が緩解状態である場合には(ステップS4:Y)、ステップS9に進む。手ブレーキ機構60が不緩解状態である場合には(ステップS4:N)、無線通信機起動/スリープ制御部51がブレーキ圧センサ77で検出されたブレーキ圧が前記所定値を超えたか否かを判定する(ステップS5)。ブレーキ圧が前記所定値を超えていない場合には(ステップS5:N)、無線通信機起動/スリープ制御部51は無線通信機35をスリープ状態に維持し、ステップS9に進む。
ブレーキ圧が前記所定値を超えた場合には(ステップS5:Y)、それが所定時間以上続いたか否かを判定する(ステップS6)。ブレーキ圧が前記所定値を超えた状態が前記所定時間以上続かない場合には(ステップS6:N)、無線通信機起動/スリープ制御部51は無線通信機35をスリープ状態に維持し、ステップS9に進む。ブレーキ圧が前記所定値を超えた状態が前記所定時間以上続いた場合には(ステップS6:Y)、無線通信機起動/スリープ制御部51が無線通信機35を起動し、手ブレーキ状態判定部52が無線通信機35に不緩解信号を子機IDと共にブロードキャスト送信させる(ステップS7)。
子機ユニット13A(13B,13C)が親機ユニット12から不緩解信号の受信確認を受信してない場合には、再び不緩解信号を子機IDと共にブロードキャスト送信するためにステップS1に戻る(ステップS8:N)。子機ユニット13A(13B,13C)が親機ユニット12から不緩解信号の受信確認を受信した場合には、ステップS9に進む。
次いで、子機ユニット13A(13B,13C)のセンサ制御部81は、走行センサ32からの情報により貨物列車1が走行中であるか否かを判定する(ステップS9)。貨物列車1が走行中でない場合には(ステップS9:N)、センサ制御部81は、振動センサ31をスリープ状態にして異常走行監視を行わずにステップS1に戻る。貨物列車1が走行中である場合には(ステップS9:Y)、振動センサ31を起動状態にして異常走行の発生を監視する(ステップS10)。
以下、異常走行監視の例として脱線監視について詳述する。図8は、脱線発生時に貨車3A(3B,3C)に生じる上下加速度を示す振動波形グラフの例である。脱線発生時の振動波形では、脱線発生から数秒ほど経過した時点では大きなピーク値を示すものの、脱線発生直後の初期段階ではピーク値が十分に大きくならない。そこで本実施形態では、時間的に複数段階に分けて脱線判定が行われる。具体的には、子機ユニット13A(13B,13C)のプロセッサ33において、第1異常走行判定部82が初期段階の脱線判定を行い、第2異常走行判定部83がその後の後続段階の脱線判定を行う。
子機ユニット13A(13B,13C)の記憶器34には、貨車3A(3B,3C)の異常走行時に生じる振動センサ31の検出信号の波形に相当する異常走行波形のうち初期部分の波形パターンである複数の初期波形パターンを予め記憶している。この複数の初期波形パターンは、事前の実験又はシミュレーションにより複数種類の脱線の振動波形パターンを取得して、それら振動波形パターンのうち脱線発生から所定の初期期間(例えば、1~4秒)の部分を抽出したものである。
第1異常走行判定部82は、振動センサ31から受信した検出信号の波形と、記憶器34に予め記憶された複数の初期波形パターンの各々との間の波形プロファイルの合致度を演算し、その合致度が所定の合致基準を満たすと異常走行が発生したと判定する。この判定には、公知のパターンマッチング技術を用いることができる。例えば、振動センサ31の検出信号の波形と、記憶器34に記憶された各初期波形パターンとの間の相関値が前記合致度として演算され、当該相関値が所定の基準を満たすと互いの波形が近似(合致)していると判断するパターンマッチングが行われる。
第1異常走行判定部82は、振動センサ31の検出信号の波形と、記憶器34に記憶された各初期波形パターンとの間の合致度が所定の合致基準を満たす(例えば、合致度が所定の高閾値T1以上である)ものがあれば、脱線が発生したと判定し(ステップS11:N)、無線通信機35をスリープ状態から起動状態にし、無線通信機35に異常信号として脱線信号を子機IDと共にブロードキャスト送信させる(ステップS12)。このように、第1異常走行判定部82によれば、脱線発生の初期段階で脱線を検知できるので、脱線検知速度を上げることができる。
振動センサ31の検出信号の波形と、記憶器34に記憶された各初期波形パターンとの間の合致度が高閾値T1以上であると第1異常走行判定部82により判定されない場合にも、第2異常走行判定部83が、振動センサ31の検出信号が所定の異常走行条件を満たすか否かを判定する。即ち、第1異常走行判定部82と第2異常走行判定部83との二段階で脱線判定するので、第1異常走行判定部82が判別し切れない脱線状態を第2異常走行判定部83により検知でき、脱線の検知精度が高くなる。
本実施形態では、第1異常走行判定部82により前記合致度が高閾値T1以上であると判定されなかった場合でも、前記合致度が中閾値T2(T2<T1)以上であると判定された場合には、第2異常走行判定部83により脱線判定を行う。第2異常走行判定部83の判定方法は種々考えられるが、その一例として第1異常走行判定部82と同様にパターンマッチング技術が用いられる。
具体的には、記憶器34は、貨車3A(3B,3C)の異常走行時に生じる振動センサ31の検出信号の波形に相当する異常走行波形のうち前記初期部分よりも後の波形パターンである複数の後続波形パターンを予め記憶している。この複数の後続波形パターンは、事前の実験又はシミュレーションにより複数種類の脱線の振動波形パターンを取得して、それら振動波形パターンのうち脱線発生から所定の初期期間(例えば、1~4秒)経過した後の部分を抽出したものである。
第2異常走行判定部83は、振動センサ31から受信した検出信号の波形と記憶器34に記憶された各後続波形パターンとの合致度を演算し、その合致度が所定の合致基準を満たす(所定の閾値よりも高い)ものがあれば、脱線が発生したと判定する。このように、第2異常走行判定部83においてもパターン判定を行うことで、単なる閾値判定に比べて検知精度を高めることができる。なお、第2異常走行判定部83は、パターン判定の代わりに、振動センサ31から受信した検出信号の値が所定の閾値を超えると脱線が発生したと判定する構成としてもよい。そうすれば、第2異常走行判定部83の判定処理を速く行うことができる。
第1異常走行判定部82及び第2異常走行判定部83は、振動センサ31の検出値が所定の判定開始閾値を下回るときは判定処理を行わない一方で、前記検出値が前記判定開始閾値を上回るときに判定処理を行う。こうすれば、第1異常走行判定部82及び第2異常走行判定部83は、異常発生が起こり得ないとき(即ち、振動センサ31の検出値が判定開始閾値を下回るとき)は、判定処理を行わないので、子機ユニット13A(13B,13C)の消費電力を削減できる。
また、前記判定開始閾値は、貨車3A(3B,3C)の走行速度が増加するにつれて段階的又は連続的に増加するように設定される。こうすれば、走行速度が増加するにつれて増加する振動を監視する場合であっても、正常状態を誤って異常状態と判定する可能性を減らすことができる。
また、異常走行監視の例として、脱線以外の異常走行も監視するものとしてもよい。記憶器34は、異常走行の種類に関連付けた複数の異常波形パターンを予め記憶する。これら異常波形パターンと異常走行の種類(例えば、車輪の脱線、車輪のフラット、軌道の異常、台車の動力伝達機構の回転異常等)との関連付けは、事前に実験又はシミュレーションにより得られたデータに基づいて行われる。
異常走行判定部82,83は、振動センサ31の検出信号の波形と記憶器34に記憶された各異常波形パターンとの合致度を演算し、その合致度が所定の合致基準を満たすものがあれば、その合致基準を満たした異常波形パターンに対応する異常走行が発生したと判定する。このように、異常走行の種類と関連付けて波形パターンを記憶器34に記憶させておくことで、異常走行の発生のみならず異常走行の種類も特定することができる。なお、脱線以外の異常走行の発生の判定では、脱線判定のように初期波形パターンと後続波形パターンとの二段階に分けてパターンマッチングを実施してもよいし、初期波形と後続波形とに分けずに一段階でパターンマッチングを実施してもよい。
図9は、図2に示す親機ユニット12の処理を説明するフローチャートである。図9のシーケンスは、運行路線上の各駅の発車前に実施される。以下、図9の流れに沿って適宜図1及び2を参照しながら説明する。まず、親機ユニット12は、発車しようとする現在駅が、運行路線上の最初の出発駅であるか又は出発駅と終着駅との間の中間駅であるかを判定する(ステップS21)。親機ユニット12は、現在駅が出発駅又は中間駅ではない(即ち、終着駅である)と判定すると(ステップS21:N)、当該シーケンスを終了する。現在駅が出発駅又は中間駅であると判定されると(ステップS21:Y)、親機ユニット12は指令所14に貨物列車1の編成情報(連結位置及び車両番号)を送信するように要求する(ステップS22)。
次いで、親機ユニット12は、サーバ11にID対応関係情報(車両ID及び車両番号)を送信するように要求する(ステップS23)。編成情報及びID対応関係情報を受信した親機ユニット12は、前述した編成情報に関するID対応関係表Xを作成する(ステップS24)。次いで、親機ユニット12は、発車準備完了が入力されたか否かを判定する(ステップS25)。運転士等から発車準備完了が入力されると(ステップS25:Y)、制御弁73が動かされて個別ブレーキ管76のブレーキ圧が上昇し、ブレーキ系統70の動作確認が行われる(ステップS26)。
このとき、機関車無線通信部25が子機ユニット13A~Cの全てからブレーキ緩解信号を受信した場合には(ステップS27:N)、演算部24が状態出力部26に出発OKである旨を出力させる。他方、機関車無線通信部25が手ブレーキ不緩解信号を受信した場合には(ステップS27:Y)、そのブレーキ不緩解信号の子機IDをID編成認識部23の対応関係表Xと照合する(ステップS28)。機関車無線通信部25が受信した不緩解信号の子機IDがID編成認識部23の対応関係表Xの子機IDと一致しない場合には(ステップS28:N)、演算部24は、自己の貨物列車1ではブレーキ不緩解が発生していないと判断し、状態出力部26に出発OKである旨を出力させる。なお、ステップS27において、機関車無線通信部25が子機ユニット13A~Cの全てから手ブレーキ不緩解信号を受信しなかった場合に演算部24が状態出力部26に出発OKである旨を出力してもよい。
他方、機関車無線通信部25が受信した不緩解信号の子機IDがID編成認識部23の対応関係表Xの子機IDと一致する場合には(ステップS28:Y)、演算部24は、その不緩解信号を送信した子機ユニット13A(13B,13C)に受信確認信号を送信する(ステップS29)。そして、演算部24は、自己の貨物列車1でブレーキ不緩解が発生したと判定して且つどの連結位置の貨車でブレーキ不緩解が発生したかを特定し、その情報を指令所14に送信して手ブレーキの緩解動作を指示する。