JP7115740B2 - 消化プロセスの観察方法 - Google Patents

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本発明は、食物の消化プロセスの経時的変化を観察する消化プロセスの観察方法に関する。
食物、腸内細菌叢及び宿主の三者は、相互に深い影響を及ぼし、個々人の健康・栄養状況に影響を与えている。食物及び特定の栄養素は、個々の生体環境からどのように影響を受け消化吸収のプロセスを経るのか、また細胞・組織にどのような代謝の影響を及ぼすのかを理解するには、個体レベルでの代謝情報の解析が必要である。
近年、質量分析法を用いたメタボローム解析に注目が集まっているが、個体レベルの代謝についての研究手法は未開拓である。イメージング質量分析法(imaging mass spectrometry IMS)は、プローブを用いずに対象分子そのものを直接イオン化、検出することで、組織切片に存在する生体分子の分布を可能にした新技術である(特許文献1,2)。
この分析法は物質固有の質量を用いて可視化させるため、詳細な局在を捉えることができる。近年様々なイオン化法及び分離分析法を組み合わせた質量分析装置による可視化が試みられている。その中でもマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization :MALDI)と飛行時間型質量分析計(Time of Flight Mass Spectrometry :TOF-MS)を組み合わせたIMSの報告が多くなってきている。MALDI-TOF-MSは汎用性の高い装置であり、検出できる物質の適応範囲や測定質量領域が広い。
特開2007-157353号公報 特開2014-215043号公報
本発明は、動物の消化器官における食物の消化プロセスの経時的変化を観察する消化プロセスの観察方法を提供することを目的とする。
本発明にかかる消化プロセスの観察方法は、動物の消化器官における食物の代謝物質についてイメージング質量分析を行うことにより、前記動物の前記食物の消化プロセスの経時的変化を観察することを特徴とする。
本発明によれば、個体レベルでの代謝情報を取得することにより、特定の栄養素が個々の生体環境からどのような影響を受け消化吸収のプロセスを経ているのかについて明確な情報が得られる。
イメージング質量分析装置の概念図である。 クリオスタットで10μmごとに薄切りされたP1マウスであり、50μmごとに写真を撮影した図のうち、1850μm、3400μm及び7350μmでの写真図である。 クリオスタットで深度3000μmから12μmの厚さの冠状面切片を作製し、ITOスライドガラスに融解接着させたことを示す図である。 P1マウス腹部の組織形態解析を示す図であり、そのうち(A)は光学顕微鏡による写真図であり、(B)はデジタルカメラで撮影した写真図であり、(C)はHE染色写真図である。 消化管内物質のIMS画像であり、P1マウスにおいて胃から大腸に至までの食物消化プロセスの経時的変化が示されている図である。 P1マウス腹部のヌクレオチド代謝物質のイメージング図である。 (A)は胆汁酸の一種であるタウコロール酸taurocholic acid(TCA)のIMS画像であり、(B)は光学顕微鏡画像を重ね合わせたものである。
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
本実施形態にかかる消化プロセスの観察方法は、動物の消化器官における食物の代謝物質についてイメージング質量分析を行うことにより、動物の食物の消化プロセスの経時的変化を観察する。
図1に示されるように、イメージング質量分析装置900は、試料導入部100と、例えばMALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)であるイオン源200と、例えば飛行時間型質量分析計TOF-MS(Time-of-Flight Mass Spectrometry)である分離分析部300と、データ処理部400と、からなる。試料導入部100で試料が装置に導入され、イオン源200で試料がイオン化され、分離分析部300でイオンが質量の違いによって分離されて検出され、データ処理部400でデータ処理される。
代謝物質は例えばヌクレオチド代謝物質である。ヌクレオチド代謝物質は例えばAMP、ADP又はATPである。AMPは、核酸塩基のアデニン、五炭糖のリボース、1つのリン酸より構成されており、リン酸とアデノシン(ヌクレオシド)の間でリン酸エステルを形成している。ADPは、アデニン、リボース、及び二つのリン酸分子からなる化学物質である。ATPは、アデノシンのリボースに3分子のリン酸が付き、2個の高エネルギーリン酸結合を持つヌクレオチドである。
消化器官は、例えば胃、十二指腸、小腸及び大腸から少なくとも二つ選択される。
(動物)
動物実験は、同志社大学動物実験委員会の審査を受け同動物実験指針にのっとり施行した。実験にはICRマウス(哺乳1日目(P1)、清水実験材料)、ICRマウス(4週齢、雌、清水実験材料)を用いた。P1マウスはIsoflurane(Mylan)で麻酔を行い、液体窒素で急速凍結した。4週齢マウスは、頚椎脱臼を行い、皮を剥ぎ、液体窒素で急速凍結した。
(P1マウス腹部の組織形態解析)
凍結したP1マウスを固定し、クライオスタット(Leica CM3050)で10μm厚ごとに薄切していき、それぞれ断面をデジタルカメラで撮影した(図2)。また、クライオスタットで10μm厚切片を作成し(庫内温度-22℃:、試料台温度:-20℃)、HE染色を行った。
(HE染色)
標本を、PBSを溶媒とする4%PFA(Wako)に30分間浸漬して、流水で5分間洗浄した。その後、hematoxylin(CERTISTAIN)に5分間浸漬して、同様に5分間洗浄した。HCl(Wako)を0.1%含む70% ethanolで2秒間分別し,5分間水洗して、更にeosin(Wako)に20秒間浸漬し、ethanolで10分間脱水後、xylene(JUNSEI)で10分間透徹を行った。封入には、Malinol(JUNSEI)とxyleneの混合液を用いた。
(P1マウス組織切片作成)
凍結したP1マウスを固定し、クライオスタット(Leica CM3050)で10μm厚ごとに薄切していき(庫内温度-22℃:、試料台温度:-20℃)、腸管がよくみえる、腹側の皮膚から約3000μmの深度の部分から10μ厚の切片をつくり、透明伝導性コートを施したITOスライドグラスに融解接着させた(図3)。
(4週齢マウス組織切片作成)
凍結した4週齢マウスを固定し、クライオスタット(Leica CM3050)で12μm厚ごとに薄切していき(庫内温度-23℃:、試料台温度:-16℃)、腸管がよくみえる部分から12μ厚の切片をつくり、透明伝導性コートを施したITOスライドグラスに融解接着させた。
(マトリックス・キャリブレーション溶液の調製)
試料に塗布する9-AA溶液とキャリブレーション用にDHB(2,5-Dihydroxybenzoic Acid, 以下DHB)を調整した。これらは70%Methanolを溶媒として溶解させた。即ち70%Methanol+naptalamは、Methanol(Wako) 7ml+Water 3ml+naptalam 1μlとした。9-AA溶液4mg/mlは、9-Aminoacridine for synthesis(Merck) 4mg+70%Methanol 1mlとした。DHB溶液10mg/mlは、2,5-Dihydroxybenzoic Acid(Wako) 10mg+70%Methanol 1mlとした。
(IMS測定)
測定には大気圧MALDI-QIT-TOF-MSを搭載した顕微質量計 iMScopeのプロトタイプ機(島津製作所)を用いた。装置を制御するPCでIMS solutionを起動させ、分析のアプリケーションを起動した。装置への装着前に、サンプルホルダに付着した埃をブロアで飛ばした。装置の試料扉を開き、試料台にサンプルホルダを装着した。試料台奥と左の当たり面に確実にサンプルホルダが押し当てられているか、確認した。装置の試料扉を閉じて、サンプルホルダを装置にロードした。ウィザードに従って、サンプルIDや保存先などのサンプル情報を入力した。マトリックス塗布前後の試料の位置を装置に登録するため、ウィザードに従って位置合わせ情報を取得した。撮影条件の設定を行い、試料プレートの全体像を撮影した。
顕微鏡で試料を観察し、測定する領域を指定した。レーザーの照射位置がずれないように、顕微鏡倍率40 倍(40×)でピントが最良になる高さに合わせ、試料の高さ調節を行った。撮影したい観察倍率にし、分析画像の撮影を行った。同様にレーザー照射条件最適化のための画像も撮影した。
サンプルホルダの金属部分にマトリックスがかからないよう、マトリックスを塗布しない部分にパラフィルムを巻き、調製した9-AA溶液をエアブラシによるマトリックス溶液吹き付け法(スプレー法)により4ml程塗布した。マトリックスの塗布は、試料表面に小さな結晶を均一に生成することが重要であるため、均一にエアブラシを用いて塗布した。
塗布を行った後、パラフィルムをはがし、レーザー照準調整とキャリブレーションを行うために、試料プレートのマトリックスを塗布していない部分にDHBを1 μl滴下した。完全に乾いた事を確認したのち、試料観察時と同様に試料台にサンプルホルダを装着し、位置合わせを行った。顕微鏡倍率40×で、較正用サンプルのDHBの画像を撮影した。矩形で分析領域を指定し、レーザーのパラメーターを照射径0、強度20に設定し、較正を開始した。ウィザードに従って、レーザー照射位置を較正した。LCMS solutionの再解析質量較正機能で、先ほど測定したデータを用い質量較正を行った。このデータを装置に反映させ、レーザー照射条件の最適化を行った。レーザーの強度や照射径などの分析条件を設定後、測定を開始した。
P1マウスでの条件は以下であった。
Figure 0007115740000001
4週齢マウスでの条件は以下であった。
Figure 0007115740000002
(データ解析)
得られたデータをIMS Solution(島津製作所)を用いて、解析を行った。HMDB(http://www.hmdb.ca/spectra/ms/search)のデータベースを用いて、質量スペクトラムから物質の推定を行った。階層的クラスタリング(Hierarchical Cluster Analysis, HCA)を用いて、TCAと近似性の高いスペクトル群データを収集した。
(P1マウス腹部の組織形態解析)
図4(A)はP1マウス腹部の光学顕微鏡画像であり、肝臓、胃、十二指腸、小腸、大腸及び膀胱の状態を示す図である。
図4(B)はP1マウス断面をデジタルカメラで撮影した画像である。胃の中の白色の内容物は母乳であり、小腸、大腸を経るごとに黄色が増している。胆汁の主成分である胆汁色素は、ヘモグロビンの代謝産物であり、Bilirubinという黄褐色の色素である。この色素により黄色が増していると考えられる。
図4(C)はP1マウス腹部のHE染色画像である。肝臓、胃、十二指腸、小腸、大腸及び膀胱の状態を示す図である。
(P1マウス腹部のIMS)
図5は、消化管内物質のIMS画像であり、P1マウスにおいて胃から大腸に至までの食物消化プロセスの経時的変化が示されている図である。マススペクトルm/z値=615.318では胃における消化活動が見られ、m/z=616.218では小腸における消化活動が見られ、m/z=639.307では大腸における消化活動が見られ消化活動が見られる。
図6はP1マウスの組織にIMSを用いて解析した結果の平均スペクトラム(肝臓から膀胱までの平均)である。AMP(アデノシン一リン酸)m/z=346.05、ADP(アデノシン二リン酸)m/z=426.02、ATP(アデノシン三リン酸)m/z=505.99であった。図示されていないTCA m/z=514.29であり、一番相対強度が強いものはTCAであった。UMP(ウリジン一リン酸)、UDP(ウリジン二リン酸)等の他のピークも確認した。
図7(A)は胆汁酸の一種であるタウコロール酸taurocholic acid(TCA)のIMS画像であり、図7(B)は光学顕微鏡画像を重ね合わせたものである。胆汁酸由来のイオン化分子のシグナルは、肝臓、小腸に強く現れ、肝臓より小腸に強いシグナルが得られた。図7(A)の右下の楕円で囲まれた部分は、他の消化管の部位と比べて胆汁酸の分布が極端に少ない。これはこの部分が大腸であり、胆汁酸が回腸末端で門脈系を経て肝臓に循環したからであると推測できる。胆汁酸は肝細胞で産生され、総肝管を通って胆のうに一時貯蔵・濃縮される。食事時に胆のうが収縮され、十二指腸に排出される。十二指腸管内に一旦分泌された胆汁酸は約95%が回腸末端から再度吸収され、門脈を経て肝臓に戻る。この腸肝循環と呼ばれる現象を個体レベルで可視化することに成功した。
生活習慣病、肥満、羸痩等の症状改善に利用できる。
100:試料導入部
200:イオン源
300:分離分析部
400:データ処理部
900:イメージング質量分析装置

Claims (4)

  1. 動物の消化器官における食物の代謝物質についてイメージング質量分析を行うことにより、前記動物の前記食物の消化プロセスの経時的変化を観察する、消化プロセスの観察方法。
  2. 前記代謝物質はヌクレオチド代謝物質である請求項1記載の消化プロセスの観察方法。
  3. 前記ヌクレオチド代謝物質はAMP、ADP又はATPであるである請求項2記載の消化プロセスの観察方法。
  4. 前記消化器官は、胃、十二指腸、小腸及び大腸から少なくとも二つ選択される請求項1乃至3の何れか1項記載の消化プロセスの観察方法。
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