以下、本発明の打撃作業機の一実施形態について、図面を用いて説明する。
図1及び図2に示す打撃作業機10は、ねじ部材を回転させて締め付け、相手材としての木材やコンクリートに固定する作業、ねじ部材を緩める作業に用いるインパクトドライバである。打撃作業機10は、中空のハウジング11を有する。ハウジング11は、モータケース12と、モータケース12に連続するグリップ14と、を備えている。ハンマケース13が、モータケース12に固定されており、グリップ14に装着部15が設けられている。
モータケース12内に電動モータ16が設けられている。電動モータ16は、電機子としてのステータ20と、界磁としてのロータ21と、を備えている。ステータ20は、モータケース12内に回転しないように設けられており、ステータ20は、ステータコア22と、ステータコア22に巻かれ、かつ、電流が供給される3本のコイル23U,23V,23Wを備えている。
ロータ21は、出力軸17と、出力軸17に固定されたロータコア21Aと、ロータコア21Aの回転方向に沿って配置された複数個の永久磁石24と、を備えている。出力軸17は2個の軸受18,19により回転可能に支持されている。3本のコイル23U,23V,23Wに電流が供給されると回転磁界が形成され、ロータ21が回転する。複数個の永久磁石24は、極性が異なる永久磁石24を回転方向に沿って交互に配置してある。
電動モータ16は、電流が流れるブラシを用いないブラシレス電動モータであり、電動モータ16は、3本のコイル23U,23V,23Wに供給する電流の向きをそれぞれ切り替えることにより、ロータ21の回転方向を切り替えることができる。
ハウジング11内に、モータケース12内とハンマケース13内とを仕切る隔壁25が設けられている。隔壁25はハウジング11に対して回転しないように取り付けられている。隔壁25は軸受19を支持し、モータケース12は軸受18を支持している。ロータ21は軸線A1を中心として回転可能である。
環状のハンマケース13は軸孔26を有しており、軸孔26に、円筒状のスリーブ30により回転可能に支持されたアンビル27が配置されている。アンビル27は金属製であり、かつ、軸線A1を中心として回転可能である。また、アンビル27は、ハンマケース13の内部から、モータケース12の外部に亘って設けられており、アンビル27に工具保持孔28が設けられている。工具保持孔28は、モータケース12の外に開口されている。作業者は、作業工具としてのドライバビット29を工具保持孔28に着脱する。
また、アンビル27に、工具保持孔28と同心状に支持軸31が設けられている。支持軸31は、ハンマケース13内に配置されている。さらに、アンビル27の外周面において、ハンマケース13内に配置された箇所には、突起部32が複数個設けられている。具体的には、3個の突起部32が、アンビル27の回転方向に等角度の間隔、つまり、120度間隔で配置されている。3個の突起部32は、図1及び図3のように、アンビル27の外周面から径方向に突出している。3個の突起部32は、互いに平行な第1側面及び第2側面を備えている。第1側面及び第2側面は、アンビル27の径方向に沿って配置されている。アンビル27の回転方向で突起部32の単体の幅は、アンビル27の径方向で一定である。
一方、ハンマケース13内に減速機33が設けられている。減速機33は、軸線A1に沿った方向で、軸受19とアンビル27との間に配置されている。減速機33は、電動モータ16の回転力をアンビル27に伝達する動力伝達装置であり、減速機33はシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。
減速機33は、出力軸17と同心状に配置されたサンギヤ34と、サンギヤ34の外周側を取り囲むように設けたリングギヤ35と、サンギヤ34及びリングギヤ35に噛み合わされた複数のピニオンギヤ36を自転、かつ、公転可能に支持したキャリヤ37と、を有する。サンギヤ34は中間軸38の外周面に形成されており、中間軸38は出力軸17と共に一体回転する。リングギヤ35は隔壁25に固定されており、かつ、回転しない。キャリヤ37は、軸受39により回転可能に支持されている。軸受39は隔壁25により支持されている。キャリヤ37は環状である。
また、キャリヤ37と共に軸線A1を中心として一体回転するスピンドル40が、ハンマケース13内に設けられている。スピンドル40は金属製であり、かつ、軸線A1に沿った方向でアンビル27と軸受39との間に配置されている。スピンドル40の軸線A1方向における端部に、支持孔41が形成されている。支持孔41へ支持軸31が挿入されており、スピンドル40とアンビル27とは、相対回転可能である。
スピンドル40の外周面に、カム溝42が2本設けられている。2本のカム溝42は、スピンドル40の回転方向で異なる範囲に配置されている。また、ハンマケース13内に、金属製のハンマ43が収容されている。ハンマ43は環状であり、かつ、軸孔44を備えている。スピンドル40は軸孔44に配置されている。ハンマ43は、軸線A1に沿った方向で、減速機33とアンビル27との間に配置されている。ハンマ43は、スピンドル40に対して回転可能であり、かつ、アンビル27に対して軸線A1に沿った方向に作動可能である。
ハンマ43は、外筒部45及び内筒部80を有しており、外筒部45は内筒部80の外側に配置されている。内筒部80の内周面にカム溝46が2個形成されている。2個のカム溝46は、ハンマ43の円周方向で互いに異なる範囲に配置されている。
そして、1本のカム溝42及び1個のカム溝46を1組として、1個のカムボール47が保持されている。このため、ハンマ43は、スピンドル40及びアンビル27に対して、カムボール47が転動可能な範囲で軸線A1に沿った方向に移動可能である。また、ハンマ43は、スピンドル40に対して、カムボール47が転動可能な範囲で回転可能である。
さらに、ハンマ43は、外筒部45と内筒部80との間に形成した保持溝48を有する。保持溝48は減速機33に向けて開口されている。保持溝48は軸線A1を中心として環状に設けられている。さらに、保持溝48にスプリング49が配置されている。スプリング49は金属製であり、圧縮荷重を受けて反発力を生じる。また、キャリヤ37に、環状のプレート50が取り付けられており、スプリング49の端部がプレート50に接触している。スプリング49は、軸線A1に沿った方向の荷重が加えられた状態で、プレート50とハンマ43との間に配置されている。スプリング49の押圧力はハンマ43に加えられ、ハンマ43は軸線A1に沿った方向でアンビル27に近づく向きで押されている。
さらに、突起部51が、ハンマ43に設けられている。突起部51は、ハンマ43において軸線A1方向でアンビル27に最も近い端部から、軸線A1方向に突出している。突起部51は複数、一例として、ハンマ43の回転方向に等角度の間隔で3個設けられている。つまり、3個の突起部51は、互いに120度間隔で配置されている。ハンマ43の径方向で、3個の突起部51が配置された範囲は、3個の突起部32が配置された範囲と重なっている。3個の突起部51は、ハンマ43の端面視で三角形状であり、いずれかの頂点が、各突起部51の内周端に配置されている。つまり、各突起部51は、三角形の2辺に相当する第1側面及び第2側面を、それぞれ備えている。
次に、打撃作業機10における電動モータ16の制御系統を、図2及び図4を参照して説明する。装着部15に着脱される電源部52が設けられている。装着部15に本体側端子53が設けられている。電源部52は、収容ケース52Aと、収容ケース52A内に収容した複数の電池セル52Bとを有する。電池セル52Bは、充電及び放電が可能な二次電池であり、電池セル52Bは、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケルカドミウム電池を用いることができる。電源部52は直流電源である。電源部52は、電池セル52Bの電極に接続された電池側端子54を有し、電源部52が装着部15に取り付けられると本体側端子53と電池側端子54とが接続される。
電源部52の電流を電動モータ16に供給する経路に、インバータ回路55が設けられている。インバータ回路55は、3相ブリッジ形式に接続されたFET(Field effect transistor )からなる6個のスイッチング素子Q1~Q6を備える。スイッチング素子Q1~Q3は、電源部52の正極側にそれぞれ接続され、スイッチング素子Q4~Q6は、電源部52の負極側にそれぞれ接続されている。軸受18と電動モータ16との間にインバータ回路基板56が設けられており、インバータ回路55は、インバータ回路基板56に設けられている。
また、インバータ回路基板56に、ロータ21の回転位置を検出するロータ位置検出センサ57が設けられている。ロータ位置検出センサ57はホールICにより構成されており、ロータ位置検出センサ57は、インバータ回路基板56に対して、ロータ21の回転方向に所定の間隔毎、例えば、角度60度毎に3個配置されている。3個のロータ位置検出センサ57は、永久磁石24により形成される磁界をそれぞれ検出し、かつ、検出結果に応じた信号をそれぞれ出力する。
また、装着部15内に制御回路基板58が設けられている。制御回路基板58にモータ制御部59が設けられている。モータ制御部59は、演算部60と、制御信号出力回路61と、モータ電流検出回路62と、電池電圧検出回路63と、ロータ位置検出回路64と、モータ回転数検出回路65と、制御回路電圧検出回路66と、スイッチ操作検出回路67と、印加電圧設定回路68と、を有している。
ロータ位置検出センサ57から出力される信号は、ロータ位置検出回路64に入力され、ロータ位置検出回路64はロータ21の回転位相を検出し、ロータ位置検出回路64から出力された信号は演算部60に入力される。
演算部60は、処理プログラムとデータに基づいて、インバータ回路55への駆動信号を出力する中央処理装置と、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM(Read Only Memory)と、データを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)と、を含むマイクロコンピュータである。
電源部52からインバータ回路55に電力を供給する経路に抵抗Rsが配置されており、モータ電流検出回路62は、抵抗Rsの電圧降下から、電動モータ16に供給される電流値を検出し、検出信号を演算部60へ出力する。電池電圧検出回路63は、電源部52からインバータ回路55に供給される電圧を検出し、検出信号を演算部60へ出力する。
ロータ位置検出回路64は、各ロータ位置検出センサ57の出力信号を受けて、ロータ21の位置信号を演算部60及びモータ回転数検出回路65へ出力する。モータ回転数検出回路65は、入力される位置信号からロータ21の回転数を検出し、その検出結果を演算部60へ出力する。
電源部52の電圧は、制御回路電圧供給回路69を介して所定電圧値でモータ制御部59の全体に供給される。また、制御回路電圧検出回路66は、制御回路電圧供給回路69を介してモータ制御部59に供給される電源部52の電圧を検出し、検出結果を演算部60へ出力する。
また、装着部15の外面にタクタイルスイッチ71が設けられている。作業者がタクタイルスイッチ71を操作して複数のモード、例えば、低速モード、中速モード、高速モードのうち、何れかのモードを選択可能である。タクタイルスイッチ71の操作で選択されたモードは、スイッチ操作検出回路67により検出され、スイッチ操作検出回路67から出力された信号は、演算部60に入力される。
モータ制御部59は、選択されたモードに対応して電動モータ16の目標回転数を設定できる。目標回転数は、単位時間あたりにおけるロータ21の回転数である。モータ制御部59が、中速モードで設定する目標回転数は、低速モードで設定する目標回転数よりも高く、かつ、高速モードで設定する目標回転数よりも低い。さらに、印加電圧設定回路68は、選択されたモードに応じて電動モータ16に印加する電圧を設定し、演算部60へ信号を入力する。
さらに、回転方向切替スイッチ72が設けられており、作業者は回転方向切替スイッチ72を操作して、電動モータ16の回転方向を切り換える。回転方向切替スイッチ72から出力される信号は、演算部60に入力される。グリップ14にトリガ73及びDCスピードコントロールスイッチ74が設けられている。DCスピードコントロールスイッチ74は、トリガ73に操作力が付加されているとオンし、トリガ73に対する操作力が解除されているとオフする。また、DCスピードコントロールスイッチ74は、トリガ73の操作量を検出し、かつ、操作量に応じた信号を出力する。DCスピードコントロールスイッチ74がオンまたはオフされる信号、トリガ73の操作量に応じた信号は、演算部60へ入力される。
演算部60は、各種の回路及び各種のスイッチから入力される信号に基づいて、電動モータ16のコイル23U,23V,23Wに供給する電流の向き、インバータ回路55のスイッチング素子Q1~Q6のオン・オフタイミング、スイッチング素子Q1~Q6のオン割合であるデューティ比を求め、その信号を制御信号出力回路61へ出力する。
演算部60は、トリガ73を操作してDCスピードコントロールスイッチ74がオンすると、ロータ位置検出回路64の位置検出信号に基づいて、所定のスイッチング素子Q1~Q3を、それぞれ交互にオン・オフ動作するスイッチング制御を実行するための駆動信号、所定のスイッチング素子Q4~Q6をそれぞれスイッチング制御するためのパルス幅変幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号を形成し、駆動信号及びパルス幅変調信号を制御信号出力回路61に出力する。
また、演算部60は、DCスピードコントロールスイッチ74が検出するトリガ73の操作量に応じて、作業者が、一例として、低速モード、中速モード、高速モードの何れを選択しているかを判断可能である。
制御信号出力回路61は、演算部60からの駆動信号に基づいて、スイッチング素子Q1のゲートにスイッチング素子駆動信号を出力し、スイッチング素子Q2のゲートにスイッチング素子駆動信号を出力し、スイッチング素子Q3のゲートにスイッチング素子駆動信号を出力し、スイッチング素子Q4のゲートにパルス幅変調信号を出力し、スイッチング素子Q5のゲートにパルス幅変調信号を出力し、スイッチング素子Q6のゲートにパルス幅変調信号を出力する。つまり、3個のスイッチング素子Q1~Q3は、スイッチング素子駆動信号により別々にオン・オフされ、3個のスイッチング素子Q4~Q6は、パルス幅変調信号により別々にオン・オフされ、そのオン割合であるデューティ比が制御される。
この制御により、コイル23U,23V,23Wのそれぞれに、所定の通電の向き、所定の通電タイミング、所定の期間で交互に通電が行われ、ロータ21が、目標回転方向及び目標回転数で回転される。目標回転方向は、作業者が回転方向切替スイッチ72を操作して設定し、目標回転数は、作業者がタクタイルスイッチ71を操作して設定することが可能である。また、演算部60は、DCスピードコントロールスイッチ74から出力される信号を処理することにより、トリガ73の操作量に応じた目標回転数を設定することも可能である。一例として、トリガ73の操作量が増加することに伴い、目標回転数が上昇する。
上記の制御により、6個のスイッチング素子Q1~Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線されたコイル23U,23V,23Wに別個に接続または遮断される。インバータ回路55に印加される電圧は、U相に対応する電圧Vuとしてコイル23Uに供給され、V相に対応する電圧Vvとしてコイル23Vに供給され、W相に対応する電圧Vwとしてコイル23Wに供給される。また、演算部60は、目標回転数に応じてデューティ比を変化させる。
モータ制御部59が、トリガ73の操作量に応じてモードを選択する場合、トリガ73の操作量に応じて目標回転数を設定する。なお、各モードに応じて、目標回転数の範囲は異なる。中速モードにおける目標回転数の範囲は、低速モードにおける目標回転数の最大値を超え、かつ、高速モードにおける目標回転数の最低値未満である。
モータ制御部59が、タクタイルスイッチ71の操作により選択されたモードに応じて、ロータ21の目標回転数を設定する場合、一例として、高速モードにおける目標回転数23,000rpm に設定し、中速モードにおける目標回転数を14,000rpm に設定し、低速モードにおける目標回転数を4,000rpmに設定可能である。
また、モータ制御部59は、モータ回転数検出回路65から入力される信号に基づいて、ロータ21の実際の回転数を検出する。そして、モータ制御部59は、パルス幅変調信号のデューティ比を制御して、ロータ21の実際の回転数を目標回転数に近づけるように、フィードバック制御を実行する。なお、トリガ73の操作が解除されてDCスピードコントロールスイッチ74がオフすると、インバータ回路55のスイッチング素子Q1~Q6が、常時オフされ、電流はコイル23U,23V,23Wに供給されず、ロータ21は停止する。
また、ハウジング11または装着部15に表示部70が設けられており、表示部70は液晶ディスプレイまたはランプにより構成されている。モータ制御部59から表示部70に表示信号が出力される。作業者は、表示部70を目視して、電動モータ16を制御するモード、ロータ21の実際の回転数、電源部52の電圧を確認可能である。
次に、打撃作業機10の使用例を説明する。電動モータ16のロータ21が回転すると、出力軸17の回転力は、減速機33のサンギヤ34に伝達される。サンギヤ34に回転力が伝達されると、リングギヤ35が反力要素となり、キャリヤ37が出力要素となる。すなわち、サンギヤ34の回転力がキャリヤ37に伝達されるとき、サンギヤ34の回転速度に対してキャリヤ37の回転速度が減速されることで、回転力が増幅される。なお、減速機33は、入力要素としてのサンギヤ34と、出力要素としてのキャリヤ37との間の変速比が一定であり、変速比を変更できない。
キャリヤ37に回転力が伝達されると、スピンドル40はキャリヤ37と共に一体回転し、スピンドル40の回転力は、カムボール47を介してハンマ43に伝達される。すると、ハンマ43が回転を開始した位置から、1/3回転する前に突起部51と突起部32とが係合し、ハンマ43の回転力がアンビル27に伝達される。そして、ハンマ43と、アンビル27とが一体回転し、アンビル27の回転力はドライバビット29を介して対象物に伝達され、ねじ部材が締め付けられる。
その後、ねじ部材の締め付けが行われて、アンビル27を回転させるために必要な回転力が高くなると、スピンドル40の回転速度がハンマ43の回転速度を超えて、スピンドル40がハンマ43に対して回転する。アンビル27を回転させるために必要な回転力は、ねじ部材の太さまたは長さが大きくなる程増加する。スピンドル40がハンマ43に対して回転すると、カムボール47とカム溝46との接触面で生じる反力により、ハンマ43がスプリング49の押圧力に抗して、アンビル27から離れる向きで軸線A1に沿った方向に作動する。ハンマ43がアンビル27から離れる向きで作動することを後退と呼ぶ。ハンマ43が後退すると、スプリング49が受ける圧縮荷重が増加し、スプリング49の反発力が増加する。
ハンマ43が後退して突起部51が突起部32から離れると、ハンマ43の回転力はアンビル27に伝達されなくなるとともに、突起部51が突起部32を乗り越える。突起部51が突起部32を乗り越えた時点で、スプリング49がハンマ43に加える押圧力は、ハンマ43を後退させる向きの力を超える。すると、カムボール47がカム溝42,46に沿って転動することで、ハンマ43がスピンドル40に対して回転し、かつ、ハンマ43はアンビル27に近づく向きで作動する。ハンマ43がアンビル27に近づく向きで作動することを前進と呼ぶ。その後、ハンマ43の突起部51が、アンビル27の突起部32に衝突し、アンビル27に回転方向の打撃力が加えられる。
以後、ロータ21が回転している間、上記の作用を繰り返し、打撃作業機10によるねじ部材の締め付け作業が継続される。なお、電動モータ16のロータ21の回転方向が、ねじ部材を締め付ける場合とは逆になると、ねじ部材が緩められる。
モータ制御部59が行う制御の一例を、図5のフローチャートを参照して説明する。モータ制御部59は、ステップS10において、低速モードが選択されているか否かを判断する。モータ制御部59は、一例として、トリガ73の操作量が所定量を超えている場合に、ステップS10でNoと判断する。モータ制御部59は、ステップS10でNoと判断すると、ステップS11において通常制御を行い、ステップS10に進む。通常制御は、一例として、次の第1通常制御または第2通常制御である。
第1通常制御は、デューティ比を固定する制御である。第1通常制御で固定するデューティ比は、突起部51が突起部32を乗り越えることが可能なハンマ43の回転力に応じた値である。高速モードが選択されている場合におけるデューティ比は、中速モードが選択されている場合におけるデューティ比よりも高い。
第2通常制御は、電動モータ16の回転数を固定する制御である。モータ制御部59は、電動モータ16の目標回転数を高回転数に設定し、電動モータ16の実際の回転数を目標回転数に近づけるフィードバック制御を行う。フィードバック制御では、デューティ比をPID(Proportional Integral Differential)制御する。高速モードが選択されている場合における目標回転数は、中速モードが選択されている場合における目標回転数よりも高い。高回転数は、定速度制御で選択する回転数よりも高い。定速度制御で選択する回転数は後述する。
これに対して、モータ制御部59は、ステップ10の判断時点において、トリガ73の操作量が所定量以下であると、ステップS10でYesと判断する。
モータ制御部59は、ステップS10でYesと判断すると、ステップS12でデューティ比を固定する制御を行う。固定される第1デューティ比は、一例として5%である。
モータ制御部59は、ステップS12に次ぐステップS13において、電動モータ16の負荷が増加したか否かを判断する。モータ制御部59は、一例として、電動モータ16に印加される電流値が上昇するか、または、電動モータ16の実際の回転数が低下すると、ステップS13でYesと判断し、ステップS14で定速度制御を行う。定速度制御は、電動モータ16の目標回転数を一定にする制御である。
モータ制御部59が定速度制御を行う場合、インバータ回路55を第1デューティ比よりも大きな第2デューティ比で制御する。第2デューティ比は、突起部51が突起部32に係合し、かつ、電動モータ16の負荷が増加した場合に、突起部51が突起部32を乗り越えることが可能なハンマ43の回転力に応じた値である。モータ制御部59は、インバータ回路55を制御するデューティ比を、一例として、5%から20%に上昇させる。
なお、モータ制御部59は、ステップS13でNoと判断すると、ステップS10に進む。モータ制御部59が、ステップS11の通常制御で設定する目標回転数は、モータ制御部59がステップS13でYesと判断した場合に、トリガ73の操作量に応じて設定する目標回転数よりも高い。
モータ制御部59は、ステップS14に次ぐステップS15において、ハンマ43がアンビル27を打撃したか否かを判断する。モータ制御部59は、ステップS15でNoと判断すると、モータ制御部59は、ステップS16において、電動モータ16の負荷が低下したか否かを判断する。モータ制御部59は、ステップS16でNoと判断するとステップS15に進み、ステップS16でYesと判断すると、ステップS10に進む。
モータ制御部59は、ステップS15でYesと判断すると、ステップS17において“低速モード用の打撃制御”を行い、ステップS10に進む。
モータ制御部59が行う“低速モード用の打撃制御”の内容が、図6に示されている。モータ制御部59は、ステップS20において打撃周期を設定し、かつ、タイマーをスタートさせる。モータ制御部59が設定する打撃周期は、例えば、突起部51が突起部32に係合した状態で、ハンマ43がアンビル27に対して軸線A1方向に作動し始めた時点から、突起部51が突起部32を乗り越えてハンマ43がアンビル27を打撃した後、突起部51が突起部32に係合した状態で、ハンマ43がアンビル27に対して軸線A1方向に作動し始めるまでの目標時間である。モータ制御部59は、目標時間の一例として250msを記憶している。
モータ制御部59は、突起部51が突起部32に係合した状態で、ハンマ43がアンビル27に対して軸線A1方向に作動し始めたことを、電動モータ16の実際の回転数、電流値などから判断可能である。
モータ制御部59は、更にステップS21において、インバータ回路55を制御するデューティ比を、第1デューティ比に設定する。モータ制御部59は、ステップS22において、タイマーがスタートした時点からの実際の経過時間が、目標時間に到達したか否かを判断する。
モータ制御部59は、ステップS22でNoと判断すると、ステップS22の判断を繰り返す。モータ制御部59は、ステップS22でYesと判断すると、ステップS23において、低速モードが選択されているか否かを判断する。ステップS23の判断は、ステップS10の判断と同じである。
モータ制御部59は、ステップS23でNoと判断すると、ステップS24の処理を行い、図6の制御を終了する。ステップS24の処理は、ステップS11の処理と同じである。
モータ制御部59は、ステップS23でYesと判断すると、ステップS25で打撃周期を設定し、かつ、タイマーをスタートさせる。モータ制御部59が行うステップS25の処理は、ステップS20の処理と同じである。モータ制御部59は、ステップS26において、インバータ回路55を制御するデューティ比を、第2デューティ比に設定する。第2デューティ比は、突起部51が突起部32に係合し、かつ、電動モータ16の負荷が増加した場合に、突起部51が突起部32を乗り越えて、ハンマ43がアンビル27を打撃することの可能な値である。
モータ制御部59は、ステップS27において、突起部51が突起部32を乗り越えたか否かを判断する。モータ制御部59は、電動モータ16の実際の回転数が判定閾値以上であると、突起部51が突起部32を乗り越えたと判断する。モータ制御部59は、電動モータ16の実際の回転数が判定閾値未満であると、突起部51は突起部32を乗り越えていないと判断する。モータ制御部59は、判定閾値を予め記憶している。
モータ制御部59は、ステップS27でYesと判断すると、モータ制御部59は、ステップS28において、インバータ回路55を制御するデューティ比を、第1デューティ比に設定する。モータ制御部59が行うステップS28の処理は、ステップS21の処理と同じである。モータ制御部59は、ステップS29において、ステップS25からの実際の経過時間が、目標時間に到達したか否かを判断する。
モータ制御部59は、ステップS29でNoと判断すると、ステップS29の判断を繰り返す。モータ制御部59は、ステップS29でYesと判断すると、ステップS23に進む。
モータ制御部59は、ステップS27でNoと判断すると、ステップS30において、ステップS25からの実際の経過時間が、目標時間に到達したか否かを判断する。モータ制御部59は、ステップS30でNoと判断すると、ステップS31において、電動モータ16の負荷が低減したか否かを判断する。モータ制御部59が行うステップS31の判断は、図5のステップS16の判断と同じである。
モータ制御部59は、ステップS31でNoと判断すると、ステップS27に進む。モータ制御部59は、ステップS31でYesと判断すると、図6の制御を終了する。モータ制御部59は、ステップS30でYesと判断すると、ステップS32において、表示部で“エラー”を表示させ、図6の制御を終了する。また、モータ制御部59は、ステップS32で高負荷制御を終了し、かつ、電動モータ16を停止させる。
図7は、図6の制御例に対応するタイムチャートの例である。デューティ比として、第1デューティ比及び第2デューティ比が示されている。電動モータ16の実際の回転数における判定閾値は、突起部51が突起部32を乗り越えたか否かを判断するための値である。
モータ制御部59は、時刻T1よりも前において、デューティ比を第1デューティ比に制御している。モータ制御部59は、時刻T1、例えば、図6のステップS26の時点において、デューティ比を第1デューティ比から第2デューティ比に変更している。
モータ制御部59は、時刻T2、例えば、図6のステップS27でYesと判断されてステップS28に進んだ時点で、デューティ比を第2デューティ比から第1デューティ比に変更している。
モータ制御部59は、時刻T2以降、デューティ比を第1デューティ比に設定している。モータ制御部59は、時刻T3、例えば、ステップS29、ステップS23を経由してステップS26に進んだ時点で、デューティ比を第1デューティ比から第2デューティ比に変更している。電流値は、時刻T1から時刻T2に至る間に上昇及び低下している。電動モータ16の実際の回転数は、時刻T1から上昇し、時刻T2から時刻T3に至る間に低下している。なお、時刻T1から時刻T3までの経過時間は、一例として250msである。
さらに、モータ制御部59は、時刻T3から時刻T4を経て時刻T5に至る間、時刻T1から時刻T3至る間と同じ制御を行っている。電流値は、時刻T3から時刻T4に至る間に上昇及び低下している。電動モータ16の実際の回転数は、時刻T3から上昇し、時刻T4から時刻T5に至る間に低下している。
さらに、モータ制御部59は、時刻T5から時刻T6及び時刻T7を経て時刻T8に至る間、時刻T1から時刻T3至る間と同じ制御を行っている。電流値は、時刻T5から時刻T6に至る間に上昇及び低下している。電動モータ16の実際の回転数は、時刻T5から上昇し、時刻T6から時刻T7に至る間に低下している。
なお、図6の制御例において、モータ制御部59は、タイマーがスタートした時点からの実際の経過時間が、目標時間に到達すると、デューティ比を第1デューティ比から第2デューティ比に切り替えている。
このように、モータ制御部59は、電動モータ16の負荷に基づいでデューティ比を制御することにより、電動モータ16に印加される電圧を調整する。つまり、電動モータ16に印加される電圧は、図7に示すデューティ比または電流値と同様に変化する。
モータ制御部59は、一例として、電動モータ16に供給される電流値または電動モータ16の回転数のうち、少なくとも一方に基づいて、電動モータ16の負荷を検知可能である。モータ制御部59は、電動モータ16に供給される電流値が上昇すると、電動モータ16の負荷が増加したと判断可能である。モータ制御部59は、電動モータの回転数が低下すると、電動モータ16の負荷が増加したと判断可能である。
なお、モータ制御部59は、トリガ73の操作量を常時検出しており、トリガ73の操作量に基づいて、中速モード、または高速モードが選択されたと判断可能である。このため、モータ制御部59は、図5に示されているルーチンとは異なるルーチンで、低速モード用の打撃制御と通常制御とを切り替えることも可能である。さらに、図6に示されているルーチンとは異なるルーチンで、低速モード用の打撃制御と通常制御とを切り替えることも可能である。
また、モータ制御部59は、タクタイルスイッチ71の操作により選択されたモードに応じて、図5の制御例、及び図6の制御例を行うことも可能である。タクタイルスイッチ71によりモードが選択されていると、トリガ73に操作力が付加されると、モータ制御部59は電動モータ16を回転させる。モータ制御部59は、トリガ73に対する操作力が解除されると、電動モータ16を停止させる。モータ制御部59は、トリガ73の操作量に関わり無く、電動モータ16の回転数をモードに応じた回転数に制御する。そして、モータ制御部59は、トリガ73の操作量ではなく、タクタイルスイッチ71の操作により選択されているモードに基づいて、ステップS10の判断、ステップS23の判断を行う。
本実施形態で説明した事項の技術的意味の一例は、次の通りである。打撃作業機10は、打撃作業機の一例である。アンビル27は、工具支持部の一例である。軸線A1は、軸線の一例である。ハンマ43は、打撃部の一例である。電動モータ16は、電動モータの一例である。突起部51は、第1係合部の一例である。突起部32は、第2係合部の一例である。インバータ回路55は、スイッチ部の一例である。モータ制御部59は、制御部の一例、及び負荷検知部の一例である。
モータ制御部59が、図6のフローチャートのステップS21及びステップS28において行う制御は、低負荷制御の一例である。モータ制御部59が、図6のフローチャートのステップS26において行う制御は、高負荷制御の一例である。トリガ73は、操作部材の一例である。
モータ制御部59がステップS13でYesと判断した場合に、トリガ73の操作量に応じて設定する目標回転数は、第1目標回転数の一例である。また、モータ制御部59がステップS13でYesと判断し、トリガ73の操作量に応じて目標回転数を設定することが、第1制御の一例である。
モータ制御部59がステップS11で設定する目標回転数は、第2目標回転数の一例である。また、モータ制御部59がステップS11で目標回転数を設定することが、第2制御の一例である。
さらに、モータ制御部59は、トリガ73の操作量を、操作量が異なる第1操作量と第2操作量とに区別可能であるが、第1操作量と第2操作量との区別する固定的な閾値の有無に関わり無く、第1操作量をよりも第2操作量の方が多ければよい。モータ制御部59が、ステップS20で設定する目標時間が、“目標時間”の一例である。タクタイルスイッチ71は、モード切替部の一例である。低速モードは、目標回転数が最も低いモードの一例である。
以上のように、電動モータ16の負荷が低い場合、つまり、突起部51が突起部32に近づく場合は、第1のデューティ比に対応する電圧を電動モータ16を印加する。電動モータ16の負荷が大きくなり始める、つまり、突起部51が突起部32を乗り越える場合は、第2のデューティ比に対応する電圧を、電動モータ16にを印加することが可能となる。
本実施形態における打撃作業機は、次の特徴を有している。作業工具を支持する工具支持部と、軸線を中心として回転可能であり、かつ、前記工具支持部に対して前記軸線方向に作動可能な打撃部と、前記打撃部を回転させる電動モータと、前記打撃部に設けられた第1係合部と、前記工具支持部に設けられ、かつ、前記第1係合部が係合及び乗り越え可能な複数の第2係合部と、を有する打撃作業機であって、前記第1係合部は、前記複数の第2係合部の何れかに係合して前記打撃部の回転力を前記工具支持部に伝達し、前記第1係合部は、前記工具支持部を回転させるために必要な回転力が増加して前記打撃部が前記軸線方向に作動すると、係合している前記第2係合部を乗り越え、かつ、乗り越えた前記第2係合部とは別の前記第2係合部を打撃し、前記電動モータに印加する電圧を制御するためにオン及びオフされるスイッチ部と、前記スイッチ部のオン及びオフを制御する制御部と、が設けられ、前記制御部は、前記第1係合部が前記第2係合部に近づくときは、前記スイッチ部のオン割合であるデューティ比を第1デューティ比として第1の電圧を前記電動モータに印加し、前記第1係合部が前記第2係合部を乗り越えるときは、前記デューティ比を第2デューティ比として、前記第1の電圧より高い第2の電圧を前記電動モータに印加する、打撃作業機。
打撃作業機は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、制御部または負荷検出部の少なくとも一方は、電気部品または電子部品の単体でもよいし、複数の電気部品または複数の電子部品を有するユニットでもよい。電気部品または電子部品は、プロセッサ、制御回路及びモジュールを含む。制御部と負荷検出部とが同一の部品でもよいし、制御部と負荷検出部とが、それぞれ別々の部品でもよい。
また、工具支持部は、ねじ部材としてのビスを締め付けるドライバビット、ねじ部材としてのボルトの頭部を挿入する凹部を備えたドライバビットを含む。凹部を備えたドライバビットは、ソケットまたはボックスとも呼ばれる。また、作業工具は、雌ねじを有するナットを回転させて、雄ねじを有するボルトに固定する構造を含む。
さらに、作業工具は、木材、コンクリート等に穴をあけるドリルビットを含む。第1係合部及び第2係合部は、互いに係合して回転力を伝達する。第1係合部は、ハンマから軸線方向に突出した突起、またはハンマから径方向に突出した突起を含む。第2係合部は、工具支持部から軸線方向に突出した突起、または工具支持部から径方向に突出した突起を含む。
また、減速機に代えて、入力要素と出力要素との間の変速比を段階的または無段階に変更可能な変速機を設けることもできる。この場合、ハウジングに変速比切り替えスイッチを設け、作業者が変速比切り替えスイッチを操作して、変速機の変速比を変更する。
さらに、電動モータに電流を供給する電源部は、直流電源の他、交流電源でもよい。さらに、電動モータは、ブラシレス電動モータに代えて、ブラシ付き電動モータを用いることも可能である。
さらに、操作部材は、直線状に往復作動可能なレバーまたはスイッチ、回転動作可能なノブ、所定の角度範囲内で円弧状に作動可能なレバーを含む。モード切替部は、作業者の操作力で作動するレバー、スイッチ、ボタンの他、液晶ディスプレイを含む。