本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が充分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が充分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構を介して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として稼働させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)の一部をなす。
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。図1には、そのうち一つを図示)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の位置、即ち空気を取り入れる吸気口に所在する。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。
外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置12は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。EGR装置12は、排気通路14における触媒141の上流側と吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側とを連通する外部EGR通路121と、EGR通路121上に設けたEGRクーラ122と、EGR通路121を開閉し当該EGR通路121を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ123とを要素とする。EGR通路121の入口は、排気通路14における排気マニホルド142またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路121の出口は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク133に接続している。
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ15が付帯している。ブレーキブースタ15は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側の部位(または、サージタンク133)から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタ15は、負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧が加わる変圧室(大気圧室)とを有し、定圧室が負圧管路151を介して吸気通路13に接続している。負圧管路151は、スロットルバルブ132の下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路151上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブ152を設けてある。
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、定圧室と変圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、定圧室と変圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、定圧室と変圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタ15により増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダ16において液圧力に変換される。マスタシリンダ16が出力するマスタシリンダ圧、即ちマスタシリンダ16が吐出するブレーキ液の圧力は、液圧回路を介してブレーキキャリパやホイールシリンダ等といったブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置による車両の制動に用いられる。
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、発電用モータジェネレータ2及び発電機インバータ21を制御する発電機ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03、走行用モータジェネレータ4及び駆動機インバータ41を制御する駆動機ECU04等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECUが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、運転者がブレーキペダルを踏んでいることを検出するスイッチ、運転者によるブレーキペダルの踏込量を検出するセンサまたはマスタシリンダ16から吐出されるブレーキ液の圧力であるマスタシリンダ圧を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路13(特に、サージタンク133)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセル開度や、シフトポジション即ちシフトレバー若しくはセレクタレバーの位置、現在の車両の車速、路面の勾配、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、ブレーキブースタ15が蓄えている負圧の大きさ、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
原則として、蓄電装置3が現在充分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が閾値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力を以て発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
図3に、車両の運転者が要求する出力と、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の運転の要否との関係を示している。要求出力は、運転者が操作するアクセル開度及び車速によって決まる。駆動輪62に与えるべき駆動力は、アクセル開度が大きいほど大きくなる。要求出力は、駆動輪62に与えるべき駆動力が大きいほど大きくなり、車速が高くなるほど大きくなる。図3上、右上方に向かうほど要求出力が大きいということになる。
ECU0は、駆動輪62に与えるべき駆動力が比較的小さく、車速も比較的低い低出力領域Iでは、内燃機関1に燃料を供給せずにその運転を停止し、発電用モータジェネレータ2を発電機として稼働させない。低出力領域Iでは、走行用モータジェネレータ4が、蓄電装置3のみから電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。低出力領域Iは、典型的には、アクセル開度が0または所定値以下に小さいとき、あるいは車両の減速走行中である。
対して、ECU0は、駆動輪62に与えるべき駆動力がある程度以上大きい、または車速がある程度以上高い中高出力領域II、IIIでは、内燃機関1に燃料を供給してこれを運転し、発電用モータジェネレータ2を発電機として稼働させる。要求出力が顕著に大きくない中出力領域IIでは、走行用モータジェネレータ4が、主として発電用モータジェネレータ2から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。このとき、蓄電装置3からは、少量の電力供給を受けるか、または全く電力供給を受けない。要求出力が顕著に大きい高出力領域IIIでは、走行用モータジェネレータ4が、発電用モータジェネレータ2及び蓄電装置3の双方から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。
内燃機関1の気筒に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了した後、内燃機関1の各気筒の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転速度即ちエンジン回転数は、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(発電機ECU02において)検出することができ、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することもできる。
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能な状態となった、換言すれば発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
しかして、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整するフィードバック制御を実施する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
因みに、ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を実現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。このEFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
但し、図4に示すように、ECU0は、(特に、内燃機関1の回転を停止した状態で車両が走行している状況の下で)ブレーキブースタ15の定圧室に現在蓄えている負圧が下限閾値を下回るときには(ステップS1)、現在の要求出力の大小にかかわらず、発電用モータジェネレータ2により内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリングを行う(ステップS2)。内燃機関1のクランクシャフトを回転させ、各気筒1のピストン及び吸排気バルブを運動させれば、吸気通路13における吸気の流通が起こり、吸気絞り弁であるスロットルバルブ132の下流に吸気負圧が発生して、その負圧をブレーキブースタ15の定圧室に補充することができる。なお、ステップS2にて、内燃機関1のモータリングに代えて、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してクランクシャフトを自立的に回転させるファイアリングを実行することを妨げない。
ブレーキブースタ15に吸気負圧を供給するための内燃機関1のモータリング(または、ファイアリング。ステップS2)は、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧が上限閾値以上に回復するまで(ステップS3)続行する。当然ながら、ステップS3にいう上限閾値は、ステップS1にいう下限閾値よりも高位の値である。
ブレーキブースタ15が蓄える負圧が上限閾値以上に回復した暁には、そのときのアクセル開度または走行用モータジェネレータ4に対する要求出力の大きさに応じて、以後の処理を選択する。加速要求条件が成立していない(ステップS0)、例えばアクセル開度が所定値よりも小さく、または要求出力が所定値よりも小さいならば、発電用モータジェネレータ2による内燃機関1のモータリングを停止し(ステップS7)、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の回転を停止させる。ステップS0にいう加速要求条件とは、例えば、運転者が操作するアクセル開度が所定値以上に大きいこと、またはアクセル開度及び車速に対応した要求出力が所定値以上に大きいことである。あるいは、走行用モータジェネレータ4の出力、回転数(駆動輪62のものでもよい)、印加電流または印加電圧等の単位時間あたりの増加量が所定値以上に大きいことを以て、加速要求条件が成立したものとしてもよい。
アクセル開度が所定値以上であるが判定値よりは小さい、または要求出力が所定値以上であるが判定値よりは小さいならば(ステップS4)、発電用モータジェネレータ2による内燃機関1のモータリングを停止するとともに、これまで蓄電装置3から発電用モータジェネレータ2に供給していた電力の一部または全部を走行用モータジェネレータ4に供給する(ステップS6)。即ち、蓄電装置3から走行用モータジェネレータ4に供給する電力をそれ以前よりも増大させ、走行用モータジェネレータ4が出力し駆動輪62に入力する駆動力を増強する。ステップS4にいう判定値は、ステップS0にいう所定値よりも高位の値である。
アクセル開度が判定値以上に大きい、または要求出力が判定値以上に大きいならば(ステップS4)、発電用モータジェネレータ2による内燃機関1のモータリングから、内燃機関1を始動してこれを自立的に回転させるファイアリングへと移行するとともに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させて発電を行い、その発電した電力の一部または全部を走行用モータジェネレータ4に供給する(ステップS5)。即ち、ステップS6と比較して走行用モータジェネレータ4に供給する電力をさらに増大させて、走行用モータジェネレータ4が出力し駆動輪62に入力する駆動力を一層増強する。ステップS5では、ステップS2と比較して、スロットルバルブ132の開度をより拡大し、気筒11に充填される吸気量及び燃料噴射量を増量する。
ステップS4にいう判定値は、現在蓄電装置3が出力可能な電力と、現在走行用モータジェネレータ4に要求されている出力との大小関係を規定する。つまり、アクセル開度または要求出力が判定値よりも小さいことは、蓄電装置3が出力可能な電力が走行用モータジェネレータ4に対する要求出力を上回っており、発電用モータジェネレータ2による発電を行わずとも、蓄電装置3のみから車両の加速走行に必要となる電力を走行用モータジェネレータ4に供給できることを意味する。翻って、アクセル開度または要求出力が判定値以上に大きいことは、蓄電装置3が出力可能な電力が走行用モータジェネレータ4に対する要求出力を下回っており、発電用モータジェネレータ2による発電を行わなければ、車両の加速走行に必要となる電力を走行用モータジェネレータ4に供給できないことを意味する。
なお、ステップS6またはS7にて、内燃機関1の回転を停止させるのではなく、これを始動してアイドリングまたはアイドリングに近い低負荷領域で運転するファイアリングを行ってもよい。アイドリングまたは低負荷の運転領域では、スロットルバルブ132の開度が必要最小限度に絞られ、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流に大きな吸気負圧が発生する。この吸気負圧を充当することにより、上限閾値よりも大きな負圧をブレーキブースタ15に蓄えることができる。
以降、ステップS1に関して補足する。ECU0は、センサを介して現在ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧の大きさを恒常的にセンシングしている。定圧室内の負圧は、ブレーキペダルが踏み込まれて原位置(ブレーキペダルに外力が加わっていないときにブレーキペダルが復帰する位置)から奥方に変位する、即ちブレーキペダルの踏込量が増大するとともに定圧室の容積が縮小する期間に減少するのみならず、ブレーキペダルに対する踏み込みが緩められてブレーキペダルが原位置に帰還する、即ちブレーキペダルの踏込量が減少するとともに定圧室の容積が拡大し変圧室から定圧室に大気が流入する期間にも減少する。
ステップS1にて、単純にセンシングしている現在の負圧の大きさを下限閾値と比較すると、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩め、またはブレーキペダルから足を離したときにステップS1の条件が真となり、内燃機関1のモータリング(または、ファイアリング。ステップS2)が開始されることがあり得る。運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングで内燃機関1が起動すると、その振動や騒音により運転者が違和感を覚える懸念がある。
そこで、図5に示すように、本実施形態のECU0は、ステップS1の判断処理に際し、運転者によりブレーキペダルが踏まれているならば(ステップS11)、そのブレーキペダルが踏まれた段階、換言すれば運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めブレーキペダルの踏込量が減少を始める前の段階で、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めブレーキペダルの踏込量が減少する期間にブレーキブースタ15の定圧室に蓄えた負圧が減少する量を予測する(ステップS12)。
ステップS12にて、ブレーキペダルの踏込量が減少する期間にブレーキブースタ15の負圧が減少する量は、ブレーキペダルの踏み込みが緩められその踏込量が減少を始める前のブレーキペダルの踏込量(の極大値)が大きいほど多くなると考えられる。ブレーキペダルの踏込量について、これを直接検出するストロークセンサが車両に実装されていれば、当該ストロークセンサを介して現在のブレーキペダルの踏込量を知得することができる。この場合、ECU0のメモリには予め、ブレーキペダルの踏み込みが緩められる前の踏込量(の極大値)と、ブレーキペダルの踏み込みが緩められブレーキペダルが原位置に向かって変位する過程で減少する負圧の量の予測値との関係を規定したマップデータまたは関数式が格納されている。ECU0は、センサを介して検出したブレーキペダルの踏込量をキーとして当該マップを検索するか、センサを介して検出したブレーキペダルの踏込量を当該関数式に代入して演算することで、ブレーキペダルの踏み込みが緩められる過程で減少する負圧の量の予測値を得る。
ストロークセンサが車両に実装されておらず、現在ブレーキペダルが踏まれているか否かのみを検出可能なブレーキスイッチが実装されているならば、当該ブレーキスイッチにより現在のブレーキペダルの踏込量を知得することはできず、他の手段を併用する必要がある。例えば、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧とともに、ブレーキ装置にブレーキ液圧を供給するマスタシリンダ16が吐出する液圧力をセンサを介して検出し、またはブレーキ装置に印加された液圧力をセンサを介して検出して、その液圧力の大きさに基づいてブレーキペダルの踏込量、ひいてはブレーキペダルの踏込量が減少する期間にブレーキブースタ15の負圧が減少する量を推測する。この場合、ECU0のメモリには予め、ブレーキペダルの踏み込みが緩められる前のブレーキブースタ15の負圧(の極小値)、及びブレーキペダルの踏み込みが緩められる前のブレーキ液圧力(の極大値)と、ブレーキペダルの踏み込みが緩められブレーキペダルが原位置に向かって変位する過程で減少する負圧の量の予測値との関係を規定したマップデータまたは関数式が格納されている。ステップS12にて、ECU0は、センサを介して検出したブレーキブースタ15の負圧及びブレーキ液圧力をキーとして当該マップを検索するか、センサを介して検出したブレーキブースタ15の負圧及びブレーキ液圧力を当該関数式に代入して演算することで、ブレーキペダルの踏み込みが緩められる過程で減少する負圧の量の予測値を得る。
その上で、ECU0は、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めブレーキペダルの踏込量が減少を始める前の段階で、センサを介して知得している現在の定圧室内の負圧の大きさから、ステップS12にて求めた負圧の減少量の予測値を減算し、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の定圧室の負圧の大きさを予想する(ステップS13)。そして、予想した定圧室内の負圧が下限閾値を下回るならば(ステップS14)、未だ運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めておらず、センサを介して知得している現在の定圧室内の負圧が下限閾値を下回っていなくとも、定圧室内の負圧が下限閾値を下回ったと見なす(ステップS15)。その結果、図4に示すステップS1の条件が真となり、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を回復するための内燃機関1のモータリング(ステップS2)が開始されることとなる。
センサを介して知得している現在の定圧室内の負圧の大きさから、ステップS12にて求めた負圧の減少量の予測値を減算したものが、下限閾値以上であるならば(ステップS14)、定圧室内の負圧が下限閾値を下回ったとは見なさない(ステップS16)ことは言うまでもない。このときには、図4に示すステップS1の条件が偽となり、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を回復するための内燃機関1のモータリング(ステップS2)が開始されない。
ステップS1の判断処理の際、運転者によりブレーキペダルが全くまたは殆ど踏まれていないならば(ステップS11)、単純にセンサを介して知得している現在の定圧室内の負圧を下限閾値と比較してよい(ステップS17)。
図6に、本実施形態のECU0が実施する制御の模様を例示する。仮に、ステップS1にて、運転者によるブレーキペダルの操作如何によらず、単純にセンシングしている現在の負圧の大きさを下限閾値と比較すると、図6中に一点鎖線で表すように、運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングt2ではじめて負圧が下限閾値を下回ることになる。よって、運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングt2で内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始してしまい、運転者に違和感を与えかねない。
これに対し、本実施形態のように、運転者がブレーキペダルを踏み込んだタイミングt1で、同運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の予想される定圧室内の負圧の大きさを下限閾値と比較する(ステップS11ないしS14)こととすれば、図6中に実線で表しているように、当該タイミングt1で、実際に定圧室内の負圧が下限閾値を下回るよりも前に、先回りして内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始できるため、運転者に違和感を与えずに済む。
図5に示している、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の定圧室内の負圧を予想する処理(ステップS11ないしS16)は、運転者が車両を走行させ、かつブレーキペダルを踏んでフットブレーキを作動させる可能性のある状況下に限って実施してもよい。例えば、現在のシフトポジションやパーキングブレーキの作動の有無をセンシングし、シフトポジションがPレンジにあるときやパーキングブレーキが作動しているときには、図5に示す処理を実施せず、単純にセンシングしている現在の定圧室内の負圧と下限閾値との大小比較を行ってよい。
ECU0が、ステップS11ないしS13を通じて予想した、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の定圧室内の負圧の大きさに応じて、上限閾値を可変調整してもよい。ブレーキブースタ15に蓄えている負圧を充分に回復させたいのであれば、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の予想される定圧室内の負圧が小さいほど、上限閾値を高く設定する。これにより、予想される定圧室内の負圧が比較的大きいときには、内燃機関1のモータリング(または、ファイアリング。ステップS2)の実行期間を短縮することができる。逆に、予想される定圧室内の負圧が小さいほど、上限閾値を低く設定しても構わない。
なお、ブレーキブースタ15の定圧室内の負圧(センサを介して検出している実際の負圧であることもあれば、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の予想される負圧であることもある)と比較するべき下限閾値を常時一定とせず、適宜に上下させることも考えられる。図7に示すように、ECU0が、ステップS1の判断処理にあたり、運転者によりブレーキペダルが踏まれておりその踏込量が減少傾向にない場合(ステップS18)即ち踏込量の単位時間あたりの変化量が正値または0であって負値でない場合には、そうでない場合(ステップS10)即ちブレーキペダルが踏まれていないかブレーキペダルの踏込量の単位時間あたりの変化量が負値である場合と比較して、下限閾値をより高い値に設定する(ステップS19)。下限閾値を引き上げることにより、運転者がブレーキペダルを踏み込んだときにステップS1の条件が真となる可能性が高まる。つまり、運転者がブレーキペダルを踏み込んだときに内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始しやすくなり、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後に内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始する可能性が低下する。
図8に、本実施形態のECU0が実施する制御の模様を例示する。図8中の破線は、ECU0がステップS18ないしS10を通じて上下させる、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧と比較するべき下限閾値を表している。仮に、運転者がブレーキペダルを踏み込む期間に下限閾値を引き上げることをせず、下限閾値を平常の低位値のままとすると、図8中に一点鎖線で表すように、運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングt2ではじめて負圧が下限閾値を下回ることになる。よって、運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングt2で内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始してしまい、運転者に違和感を与えかねない。
だが、下限閾値を平常の低位値よりも高く引き上げれば(ステップS18ないしS10)、図8中に実線で表しているように、運転者がブレーキペダルを踏み込んだタイミングt1で定圧室内の負圧が下限閾値を下回り、内燃機関1のモータリング(ステップS2)を開始できる。これにより、運転者に違和感を与えずに済む。
上述の通り下限閾値を適宜上下させる場合には、図5に示している、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めた後の定圧室内の負圧を予想する処理(ステップS11ないしS16)は必ずしも必要とならない。
図7に示している、ブレーキペダルの操作の状態に応じて下限閾値を可変調整する処理(ステップS18ないしS10)は、運転者が車両を走行させ、かつブレーキペダルを踏んでフットブレーキを作動させる可能性のある状況下に限って実施してもよい。例えば、現在のシフトポジションやパーキングブレーキの作動の有無をセンシングし、シフトポジションがPレンジにあるときやパーキングブレーキが作動しているときには、図7に示す処理を実施せず、下限閾値を平常の値に一定化した上で、センシングしている現在の定圧室内の負圧と比較してよい。
本実施形態では、駆動輪62に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機4と、走行用電動機4に供給するべき電力を発電する発電機2に発電のための駆動力を供給できる内燃機関1と、内燃機関1の吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流で発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタ15と、内燃機関1に当該内燃機関1を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機2とを具備するハイブリッド車両を制御する制御装置0であって、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときに、モータリング用電動機2により内燃機関1を回転させるモータリングまたは内燃機関1に燃料を供給してこれを始動し回転させるファイアリングを行い、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値よりも高い上限閾値以上に回復するまで当該モータリングまたはファイアリングを継続するものであり、運転者によりブレーキペダルが踏まれた段階で(ステップS11)、その踏み込みが緩められブレーキペダルが原位置に向かって変位する過程でブレーキブースタ15に蓄えた負圧が減少する量を予測し(ステップS12)、現在のブレーキブースタ15の負圧からその減少量を減じた結果(ステップS13)が下限閾値を下回るならば(ステップS15)、実際にブレーキペダルの踏み込みが緩められブレーキブースタ15の負圧が下限閾値を下回るよりも前に内燃機関1のモータリングまたはファイアリングを開始する(ステップS15、S2)ハイブリッド車両の制御装置0を構成した。
並びに、本実施形態では、駆動輪62に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機4と、走行用電動機4に供給するべき電力を発電する発電機2に発電のための駆動力を供給できる内燃機関1と、内燃機関1の吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流で発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタ15と、内燃機関1に当該内燃機関1を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機2とを具備するハイブリッド車両を制御する制御装置0であって、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときに、モータリング用電動機2により内燃機関1を回転させるモータリングまたは内燃機関1に燃料を供給してこれを始動し回転させるファイアリングを行い、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値よりも高い上限閾値以上に回復するまで当該モータリングまたはファイアリングを継続するものであり、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれる期間(ステップS18)における下限閾値を、ブレーキペダルの踏み込みが緩められまたはブレーキペダルが踏まれていない期間における平常の下限閾値(ステップS10)よりも高い値に設定する(ステップS19)ハイブリッド車両の制御装置0を構成した。
本実施形態によれば、運転者がブレーキペダルを踏むのを止めたタイミングで内燃機関1が起動することを抑制でき、運転者に違和感を与える問題を有効に回避できる。この効用を享受するために、追加的な負圧タンクや電動の負圧ポンプ、内燃機関1及びモータリング用電動機2が発する振動や騒音を吸収する制振材や遮音材等を付設する必要はなく、コストの高騰を招かずに済む。
また、いわゆるポンピングブレーキ、即ち運転者がブレーキペダルを踏み込んだりその踏み込みを緩めたりを複数回繰り返す操作を行ったとしても、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値を下回るおそれが低減し、車両の制動の確実性、安全性が増す。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態における車両はシリーズ方式のハイブリッド車両であり、内燃機関1が出力する駆動力を発電機2ではなく車両の駆動輪62に入力することは考えられていなかった。
だが、他の方式のハイブリッド車両、内燃機関が出力する駆動力を車両の走行のために駆動輪に供給する態様のハイブリッド車両に、本発明を適用することも可能である。このときには、内燃機関と駆動輪との間に、両者の間で駆動力を伝達可能な状態と、両者の間で駆動力を伝達せず内燃機関が駆動輪から独立して回転/停止可能な状態とを切換可能な動力伝達機構(断接切換可能なクラッチや、遊星歯車を利用した伝達機構等)を介設しておく。そして、アクセル開度等に対応した要求出力に応じて、内燃機関を運転するか停止するかを判断し、内燃機関を運転する場合には動力伝達機構を後者の状態として内燃機関をモータリングしたり、気筒に燃料を供給して内燃機関をファイアリングし、かつ動力伝達機構を前者の状態として内燃機関が出力する駆動力を駆動輪に供給したりできるようにする。内燃機関の運転を停止する場合には、動力伝達機構を後者の状態とすることは言うまでもない。
その他、各部の具体的な構成や処理の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。