JP7113720B2 - γ-アミノ酪酸捕集剤 - Google Patents

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Description

本発明は、茶葉、野菜類、穀類等に微量含まれているアミノ酸の一種であるγ-アミノ酪酸の捕集剤に関する。
γ-アミノ酪酸、即ち、GABA(ギャバ)は、茶葉、野菜類、穀類等に微量含まれ、リラックス効果を有する成分の一つとして知られている。また、γ-アミノ酪酸は、動脈硬化等の疾病予防効果、集中力向上効果を有していることも報告されており、例えば、特許文献1には、γ-アミノ酪酸をリラックス効果を有する機能性成分として使用することが提案されており、さらに、各種サプリメントや食品などに添加して販売もされている。
特許文献2には、γ-アミノ酪酸は、乳酸菌や酵母などの微生物による発酵法により生合成されることや、発芽玄米または茶葉から抽出されることが記載されている。しかるに、化学合成や微量成分の抽出などによりγ-アミノ酪酸を得ることは、高コストとなってしまうため、工業的には微生物による発酵法によりγ-アミノ酪酸を得ることが望まれる。
ところで、γ-アミノ酪酸を含む物質からγ-アミノ酪酸を精製する方法として、合成樹脂を用いることが一般に行われている。このような合成樹脂は高価であり、特別な装置を用いることが不可避である。しかしながら、これまでγ-アミノ酪酸を効率よく、より安価な吸着剤で精製する方法はほとんど検討されていない。
また、本出願人は、先に、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなり、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.90~5.00の範囲にあるテアニン吸着剤を提案した(特願2017-148422号)。
かかる吸着剤は、酸処理の程度が調整されて得られたジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物が、茶葉に含まれるアミノ酸の一種であるテアニンを、含テアニン水溶液から有効に吸着し得るという知見に基づいてなされたものであり、酸処理されていないジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(所謂、酸性白土)、高度に酸処理されたジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(所謂、活性白土)、或いはシリカなどと比較しても、より効果的にテアニンの水溶液からテアニンを吸着し得るものである。
特開2005-348656号 特開2000-166502号
本発明者等は、上記のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物が有するγ-アミノ酪酸吸着性についての研究を推し進めた結果、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が一定値以上にある多孔質無機材料は、適宜の濃度にγ-アミノ酪酸が溶解したγ-アミノ酪酸溶液からγ-アミノ酪酸を有効に吸着し、さらには、吸着したγ-アミノ酪酸を水及び/又は有機溶媒により容易に捕集し得ることを見出した。
従って、本発明の目的は、γ-アミノ酪酸の水溶液からγ-アミノ酪酸を有効に吸着することができ、さらに吸着したγ-アミノ酪酸を水及び/又は有機溶媒により容易に捕集することが可能なγ-アミノ酪酸捕集剤を提供することにある。
本発明によれば、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.1以上の範囲にある多孔質無機材料からなり、前記多孔質無機材料が、ジオクタヘドラル型スメクタイトもしくは、ジオクタヘドラル型スメクタイトの酸処理物、シリカ、シリカマグネシア、スチブンサイト或いはケイ酸マグネシウムであることを特徴とする、γ-アミノ酪酸水溶液からのγ-アミノ酪酸捕集剤が提供される。
本発明のγ-アミノ酪酸捕集剤においては、
素吸着法により測定されるBET比表面積の値が10m/g以上の範囲にあること、
が好適である。
本発明によれば、また、濃度0.02~30.0質量%のγ-アミノ酪酸水溶液を調製し、
前記γ-アミノ酪酸水溶液に、前記のγ-アミノ酪酸捕集剤を混合することにより、該γ-アミノ酪酸捕集剤にγ-アミノ酪酸を吸着せしめ、
次いで、固液分離により、γ-アミノ酪酸が吸着されているγ-アミノ酪酸捕集剤を回収し、
回収されたγ-アミノ酪酸捕集剤を、水及び/又は有機溶媒と混合し、該捕集剤からγ-アミノ酪酸を溶出させてγ-アミノ酪酸溶液を得ること、
を特徴とするγ-アミノ酪酸の捕集方法が提供される。
かかる捕集方法においては、
(1)前記水及び/又は有機溶媒は、6~12のpH(25℃)を有していること、
(2)発酵法で合成したGABA含有液を用いて、前記γ-アミノ酪酸を調製すること、
が好適である。
本発明においては、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)(以下、水蒸気BETと呼ぶことがある)と、窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)(以下窒素BETと呼ぶことがある)との比(A/B)が0.1以上である多孔質無機材料がγ-アミノ酪酸の捕集剤として使用される。このようなBET比を有する多孔質無機材料は、水蒸気BETが、窒素BETと同程度或いはそれ以上の大きな値を示す。このことは、この多孔質無機材料が親水性であることを示す。
本発明では、このような親水性を示す多孔質無機材料を、γ-アミノ酪酸の水溶液中に投入して混合することにより、該溶液中のγ-アミノ酪酸を有効に吸着することができる。
また、本発明の吸着剤は、濾過性も高く、吸着処理後の溶液から容易に分離することができる。即ち、所定のBET比を満足している限り、そのまま、γ-アミノ酪酸の捕集剤として使用することができる。
γ-アミノ酪酸の水溶液中からγ-アミノ酪酸を吸着した本発明の捕集剤は、固液分離した後、水及び/又は有機溶媒中に投入し、適宜撹拌・振とうすることにより、容易に吸着されているγ-アミノ酪酸を放出し、これにより、γ-アミノ酪酸を水溶液の形で捕集することができる。
このように本発明によれば、所定の親水性(BET比)を示す多孔質無機材料を選択することにより、溶液中のγ-アミノ酪酸に対して良好な吸着性を示し、γ-アミノ酪酸の捕集を効果的に行うことが可能となる。
<多孔質無機材料>
本発明において、γ-アミノ酪酸の捕集に使用する多孔質無機材料は、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.1以上、特に0.2以上のものである。このBET比が大きい程、水蒸気吸着量が大きいということであり、親水性が増大していることを意味する。即ち、上記でも説明したように、このようなBET比を有する多孔質無機材料は、水溶性であるγ-アミノ酪酸を溶液中に存在している状態で捕集、即ち、吸着することができる。例えば、BET比が上記範囲よりも小さい場合には、この多孔質無機材料の親水性が乏しいため、水溶液中に存在しているγ-アミノ酪酸を吸着できず、効率よく捕集することができない。
また、本発明で用いる多孔質無機材料の上記BET比は、10以下、特に3以下であることが好適である。このBET比が必要以上に大きくなると、濾過性が低下する傾向があるからである。
さらに、かかる多孔質無機材料は、BET比が上記範囲内にあることを条件として、窒素吸着法によるBET比表面積が10m/g以上、特に20~700m/gの範囲にあることが好ましい。即ち、水蒸気吸着法によるBET比表面積は、例えば、無機材料の粒子の内部(例えば層間や細孔内)まで水蒸気が浸透して保持されることにより表面積が測定されるが、液体窒素を用いて測定する窒素吸着法では、液体窒素が水蒸気ほどには粒子内部には浸透していない。このため、窒素吸着法によるBET比表面積は、実質的な表面積を示し、多孔質無機材料のγ-アミノ酪酸に対する捕集性(吸着性)、かかるBET比表面積値にも依存する。例えば、窒素吸着法によるBET比表面積値が過度に低い場合には、γ-アミノ酪酸との接触面積が低く、水溶液中でのγ-アミノ酪酸捕集性が低くなる傾向がある。また、窒素吸着法によるBET比表面積が非常に大きくなると、粒子径が微細になり、水蒸気吸着法によるBET比表面積の割合が大きく低下し、上記のようなBET比を満足することができなくなる。
本発明においては、上記のようなBET比を有している限り、任意の多孔質無機材料を使用することができるが、代表的には、ジオクタヘドラル型スメクタイト、シリカマグネシア及びシリカを挙げることができる。
上記のジオクタヘドラル型スメクタイトは、火山岩や溶岩等が海水の影響下で変成したものと考えられており、主要成分であるジオクタヘドラル型スメクタイトはSiO四面体層-AlO八面体層-SiO四面体層からなり、且つこれらの四面体層と八面体層が部分的に異種金属で同形置換された三層構造を基本構造(単位層)としており、このような三層構造の積層層間には、Ca,K,Na等の陽イオンや水素イオンとそれに配位している水分子が存在している。また、基本三層構造の八面体層中のAlの一部にMgやFe(II)が置換し、四面体層中のSiの一部にAlが置換しているため、結晶格子はマイナスの電荷を有しており、このマイナスの電荷が基本層間に存在する金属陽イオンや水素イオンにより中和されている。このようなジオクタヘドラル型スメクタイトには、酸性白土、ベントナイト、フラーズアース等があり、基本層間に存在する金属陽イオンの種類や量、及び水素イオン量等によってそれぞれ異なる特性を示す。例えば、ベントナイトでは、基本層間に存在するNaイオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが高く、一般に高アルカリサイドにあり、また、水に対して高い膨潤性を示し、さらにはゲル化して固結するという性質を示す。一方、酸性白土では、基本層間に存在する水素イオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが低く、一般に酸性サイドにあり、また、水に対して膨潤性を示すものの、ベントナイトと比較すると、その膨潤性は総じて低く、ゲル化には至らない。
本発明において、多孔質無機材料として使用されるジオクタヘドラル型スメクタイト(以下、単にスメクタイト系粘土と呼ぶことがある)は、前述したBET比を有している限り、特に限定されるものではなく、上述した各種の何れをも使用することができる。また、かかるスメクタイト系粘土は、粘土の成因、産地及び同じ産地でも埋蔵場所(切羽)等によっても相違するが、一般的には、酸化物換算で以下のような組成を有している。
SiO;50~75質量%
Al;11~25質量%
Fe;2~20質量%
MgO;2~7質量%
CaO;0.1~3質量%
NaO;0.1~3質量%
O;0.1~3質量%
その他の酸化物(TiO等);2質量%以下
Ig-loss(1050℃);5~11質量%
また、スメクタイト系粘土は、産地等によっては、石英等の不純物を多く含んでいることもある。従って、上記のスメクタイト系粘土は、必要により石砂分離、浮力選鉱、磁力選鉱、水簸、風簸等の精製操作に賦して不純物をできるだけ除去して使用に供される。
尚、所定のBET比表面積を満足しないスメクタイト系粘土については、その特有の結晶構造を破壊しない程度に、それ自体公知の酸処理を行うことにより、BET比表面積を本発明で規定する範囲に増大させることができる。
かかる酸処理は、酸水溶液中にスメクタイト系粘土を投入し、混合攪拌することにより行われる。酸処理に用いる酸水溶液は、特に限定されるものではないが、コスト、環境への影響等の観点から硫酸水溶液が一般に使用される。このような酸処理によって、スメクタイト系粘土中のNa分やCa分が取り除かれ、さらに、酸処理の進行に伴ってAl分やMg分が溶出し、表面積や細孔が増大し、BET比表面積の増大がもたらされるものである。
このような酸処理により得られるスメクタイト系粘土は、該粘土に特有のX線回折ピーク(例えば、2θ=62度(d=1.49~1.50Å)付近に生じる面指数(06)に由来する回折ピーク)を有しているが、その酸処理の程度に応じて、所謂活性白土、半活性白土などと呼ばれる。例えば、高濃度の酸水溶液を用いて長時間の酸処理を行って得られるものが活性白土であり、低濃度の酸水溶液を用いたり或いは処理時間を短くしてえられるものが半活性白土と呼ばれ、さらに弱い酸処理条件で酸処理したものは弱酸処理白土と呼ばれることもある。何れにしろ、酸処理により窒素吸着法によるBET比表面積やBET比は増大するが、必要以上に強く酸処理を行うと、窒素吸着法によるBET比表面積は増大するものの、BET比が低下し、場合によってはスメクタイト系粘土に特有の結晶構造が破壊されるため、注意を要する。
上述したジオクタヘドラル型スメクタイト及び酸処理物は、粉砕、分級等により、後述するγ-アミノ酪酸の捕集に適した粒径に粒度調整して使用に供することができる。
本発明において、多孔質無機材料として使用されるシリカマグネシアは、シリカ粒子とマグネシア粒子とが一体複合化した粒子であり、シリカ粒子とマグネシア粒子とが非常に微細なレベル(例えばナノレベル)で粒子同士が密着し、分離せずに一体化した構造を有しているものである。即ち、シリカマグネシアは、ケイ酸マグネシウムのように、シリカとマグネシアとの反応物ではなく、親水性のシリカ成分が独立した粒子の形態で存在しているため、上述したBET比を満足することができ、γ-アミノ酪酸の捕集に用いる多孔質無機材料として使用することができる。
本発明において、多孔質無機材料として使用されるシリカマグネシアは、シリカ成分とマグネシア成分とが、下記式(1):
R=Sm/Mm (1)
式中、Smは、SiO換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比(R)が0.1≦R≦3.5となる割合で含有していることが好適である。
即ち、シリカとマグネシアとが上記の量比で存在していることにより、複合一体化した状態が安定に保持される。例えば、上記の質量比(R)が3.5を超える場合或いは0.1未満の場合、シリカ或いはマグネシアの脱落を生じ易く、このため、γ-アミノ酪酸に対する捕集性が不安定となり、バラツキを生じ易くなるからである。
さらに、かかるシリカマグネシアは、シリカ成分とマグネシア成分が互いに遊離しておらず、緊密に複合化しているために、通常、その5質量%濃度の懸濁液のpH(25℃)は6.0~10.0の範囲にある。
本発明において、使用される上記のシリカ・マグネシア複合粒子は、シリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)とを、水分の存在下で均質に混合して水性スラリーとし(均質混合)、次いで熟成を行い、さらに、水分を除去することにより製造することができる。
尚、シリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)との量比は、前述した式(1)で表される質量比(R)が0.1~3.5となるように設定すればよい。
尚、傾向として、シリカの含有量が多くなるに従い、親水性が増大し、BET比が増大し、シリカの含有量が少ないとBET比が低下するする傾向がある。従って、この点を考慮して、予めラボ実験を行い、上記の質量比(R)を設定して所定のBET比を満足するシリカマグネシアを得ることができる。
原料のシリカ(A)としては非晶質の含水タイプのものが好適であり、ゲル法或いは沈降法の何れで製造されたものであってもよいが、一次粒子の小さいものが好適であり、所定のBET比を有するシリカマグネシアを得るためには、40m/g以上、特に140m/g以上であるものが好適である。
また、マグネシアもしくはその水和物(B)としては、結晶子の小さく且つ経時による炭酸化が進んでいないものがよい。例えば、BET比表面積が2m/g以上、好ましくは20m/g以上、特に好ましくは50m/g以上であるマグネシア粉末が使用される。
上記のシリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)との水分の存在下、例えば水中での均質混合では、原料の一つであるシリカ(二酸化ケイ素)がコロイド粒子乃至微細凝集粒子(1次乃至2次粒子)まで解れる。他方のマグネシア(酸化マグネシウム)も、水中に投入されて撹拌もしくは粉砕されると、溶解は殆ど起こらないが、マグネシア粒子表面の部分的な水和により、その結晶(もしくは新たに生成した水和物の結晶)の一部分或いは全部が崩壊もしくは剥離して、マグネシア(酸化マグネシウム)及び/又は酸化マグネシウム水和物からなる微細な粒子となって水中に分散される。
上記のような水分存在下での水性スラリーの調製では、各原料(A)、(B)や水の投入順序等に制限はないが、凝集やゲル化現象(増粘)が起こると、前述した微細粒子化(ナノ粒子化)や一体複合化の進行が妨げられる虞がある。このため、水性スラリーの固形分濃度は低い方が好ましい。一方で、生産性や経済性の見地からは固形分濃度は高い方がよい。従って、固形分濃度は3~15質量%、特に8~13質量%であることが好ましい。
熟成工程では、これらの微細粒子が均質に分散したスラリーから水分が除去され、固形分濃度が上昇していくと、シリカの粒子(A)とマグネシアの粒子(B)とが徐々に或いは急激に接近し、原子の交換や組み換えを伴うような化学結合を伴うことなく、一体複合化した形態に至り(一体複合化完了)、目的とするシリカ・マグネシア複合粒子が得られる。
上記のような均質混合及び熟成は、100℃以下で行い、50~97℃で行うことが好ましく、50~79℃で行うことが、ゲル化を有効に防止し且つ短時間で複合一体化を行う上で好適である。
尚、均質混合及び熟成は、攪拌翼を備えた攪拌槽中で攪拌下に行うのが一般的であるが、湿式ボールミルやコロイドミルによる粉砕もしくは分散下で行うこともできる。
また、温度やスラリーの仕込み容量等によっても異なるが、少なくとも0.5時間かけて均質混合及び熟成を行うことが必要である。また、温度が高いほど、ナノ粒子の流動性が高くなり効率よく均質化するため、より短時間で行うことができる。一般には、1~24時間、特に3~10時間程度かけて混合及び熟成が行われる。
熟成後には、スプレー乾燥機やスラリー乾燥機等を用いての蒸発乾燥により水分を除去するが、ろ過や遠心分離等の手段によりある程度の脱水を行った後に、箱形乾燥機、バンド乾燥機、流動層乾燥機等を用いて乾燥を行ってもよい。このとき、原料(B)の水和が少なくとも一部乃至は全部解消される。
上記のようにして、例えば水分含有率が10質量%以下であり、脱水により原料粒子である二酸化ケイ素(シリカ)粒子とマグネシア粒子とが緊密に複合化したシリカ・マグネシア複合粒子が、顆粒状、粉状、ケーキ状或いは団塊状で得られる。これらは、必要により、粉砕・分級、或いは成形を行い、後述するγ-アミノ酪酸の捕集に好適な粒子形状として使用に供される。
尚、本発明においては、上述したシリカマグネシアの代わりにシリカと酸化マグネシウムとが反応したケイ酸マグネシウムを使用することも可能であるが、γ-アミノ酪酸の吸着性能の観点から、シリカマグネシアを使用するほうが好ましい。
さらに、本発明においては、シリカも多孔質無機材料として使用することができる。このようなシリカとしては、種々のものが知られているが、特にケイ酸ソーダ等のケイ酸アルカリを酸と反応させることにより得られる所謂湿式法シリカが好適に使用される。例えば、四塩化ケイ素等を燃焼することにより得られる乾式シリカもしくはヒュームドシリカは、著しく微細であり、窒素吸着法BET比表面積が極めて大きいが、細孔を殆ど有しておらず、所定のBET比を満足することができないため、本発明では使用することができない。
本発明においては、前述したBET比が所定の範囲にある多孔質材料である限り、上記以外にも各種の鉱物や無機化合物、例えばスチブンサイトやケイ酸マグネシウムなども使用することができるが、γ-アミノ酪酸の捕集性という点で、ジオクタヘドラル型スメクタイト或いはその酸処理物やシリカマグネシアが最も好適に使用される。
また、後述するγ-アミノ酪酸脱離時の液のpH調整などのために、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、かんすい、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどのpH調整剤を、γ-アミノ酪酸の捕集性に悪影響を与えない限り、混合して使用することもできる。
<γ-アミノ酪酸の捕集>
本発明においては、発酵法で合成したGABA含有液に代表される含γ-アミノ酪酸物質から水を用いてγ-アミノ酪酸を抽出し、このγ-アミノ酪酸の水溶液に、前述した多孔質無機材料を投入し、混合撹拌することにより、γ-アミノ酪酸を捕集することができる。
即ち、γ-アミノ酪酸は水溶性であると共に、前述したように、用いる多孔質無機材料は水に対する親和性が高い。このため、溶液中に存在しているγ-アミノ酪酸は、溶液中から多孔質無機材料側に容易に移行し、この結果、γ-アミノ酪酸を効果的に吸着して捕集することができる。
尚、興味深いことは、活性炭(BET比が著しく小さい)を用いた場合には、γ-アミノ酪酸を吸着するが、本発明における多孔質無機材料とは異なり、γ-アミノ酪酸の脱離量は極めて少なくなっていることである。恐らく、活性炭の場合には、親水性が著しく低いために水が活性炭中に侵入し難くγ-アミノ酪酸が放出されないのではないかと考えられる。
また、本発明においては、多孔質無機材料としてジオクタヘドラル型スメクタイト或いはその酸処理物を用いた場合は、脱離工程で用いる溶液のpHが高い程γ―アミノ酪酸をより多く放出することができ、好適にはpH6~12の範囲にあるものが使用される。
γ―アミノ酪酸はアミノ酸であり、水溶液中では、陽イオン、双性イオンおよび陰イオンが平衡状態にあり、水溶液中のpH変化にしたがって平衡移動を生じる。
上記の吸着剤を水溶液中に添加させるとpHは低下し、γ―アミノ酪酸の平衡は陽イオンに移行する。このγ―アミノ酪酸の陽イオンが吸着剤の有する負電荷により補足されることで吸着される。次に脱離において高pHの溶液にγ―アミノ酪酸捕集剤を混合させると、γ―アミノ酸が陰イオンに平衡移動することで、γ―アミノ酪酸を脱離用液側に溶出させているのではないかと考えられる。
本発明において、含γ-アミノ酪酸物質としては、γ-アミノ酪酸濃度が0.02~30質量%、好ましくは0.02~10.0質量%の水溶液となるよう調整して使用される。
即ち、このγ-アミノ酪酸濃度が上記範囲にあるものを使用することにより、γ-アミノ酪酸をγ-アミノ酪酸捕集剤に効率よく吸着することができる。また、前記濃度が、過度に高いものは、γ-アミノ酪酸の抽出を行うことはできても、吸着剤を過度に投入しなければならず、固液分離することが困難となる。さらに、前記濃度が上記範囲よりも低いものは、廃水量が過度に多くなる恐れがあり、本発明では使用することが望ましくない。
γ-アミノ酪酸を捕集した後は、固液分離により、γ-アミノ酪酸が吸着されているγ-アミノ酪酸捕集剤を回収し、回収されたγ-アミノ酪酸捕集剤を、水及び/又は有機溶媒と混合し、該捕集剤からγ-アミノ酪酸を溶出させてγ-アミノ酪酸溶液を得ることができる。
本発明において、上記の水及び/又は有機溶媒としては、pHが2以上、特に6~12の範囲にあるものが使用される。
即ち、このpHが上記範囲にあるものを使用することにより、γ-アミノ酪酸が吸着されているγ-アミノ酪酸捕集剤からγ-アミノ酪酸を溶出することができる。また、pHが、過度に高いものは、γ-アミノ酪酸の抽出を行うことはできても、γ-アミノ酪酸捕集剤自体が溶解してしまいこの回収が困難となる。さらに、pHが上記範囲よりも低いものは、γ-アミノ酪酸溶出が困難で、本発明では使用することができない。
因みに、本発明において好適に使用される溶媒は、以下の通りである。

エタノール
また、上記範囲のpH調整のため、以下の物質を適宜用いることができる。
水酸化ナトリウム
水酸化カリウム
炭酸ナトリウム
炭酸水素ナトリウム
炭酸カリウム
かんすい
酸化マグネシウム
酸化カルシウム
本発明においては、取扱いが容易であり、且つ容易に入手できることから、水酸化ナトリウムが好適に使用される。
上述した溶媒、特に水溶液は、アルコール類を含んでいる場合が多く、混合溶媒として使用される場合が多いが、本発明では、このようなアルコール類の含有量は、混合溶媒中、50質量%以下に抑制されていることが好ましい。アルコール類が多く混合されている場合には、多孔質無機材料へのγ-アミノ酪酸の吸着が阻害されるからである。
水を用いてのγ-アミノ酪酸の抽出は、室温下(例えば15~30℃程度)の温度で、水溶液に茶葉等の含γ-アミノ酪酸物質を投入し、撹拌下に1時間以上保持すればよく、これにより、例えば、茶葉中に含まれるγ-アミノ酪酸を、10~100mg/L程度の量で溶媒中に抽出することができる。
さらに、茶葉の代わりに野菜類、穀類も利用可能であり、これらを嫌気的に処理してγ-アミノ酪酸含量を増加させたものも利用することができる。
また、本発明において、含γ-アミノ酪酸物質として、発酵法で合成したGABA含有液を使用する場合は、乳酸菌、麹、酵母などの微生物による発酵法で得たGABA含有液が好ましい。例えば、グルタミン酸ソ-ダ、ブドウ糖、パン酵母エキス等を含む培養液に、乳酸菌(ラクトバチルス ブレビス(IFO12005株)、ラクトバチルス ヒルガルディー K-3株(FERM P-18422)等)の培養液を添加し、20~30℃で、1~3日間培養し、この培養液を、加熱殺菌後、濾過して濾液を得る。なお、乳酸菌としてラクトバチルス ヒルガルディー K-3株(FERM P-18422)を用いた場合、培養液中のGABA含量は約5質量%、固形分当りに換算するとGABAは約70質量%を占める。GABA含有液は上述の通り、水と混合してγ-アミノ酪酸濃度が0.02~30.0質量%である含γ-アミノ酪酸水溶液として好適に用いられる。
本発明のγ-アミノ酪酸捕集剤によるγ-アミノ酪酸の捕集は、上記のようにして得られたγ-アミノ酪酸を含む水溶液中に、前述した多孔質無機材料を投入し、室温下(15~30℃程度)で混合撹拌すればよく、特に加熱等は必要でない。通常、1時間以上、混合撹拌を続けることにより、溶媒中のγ-アミノ酪酸のおよそ50質量%以上を多孔質無機材料に吸着することができる。
上記のようにして多孔質無機材料にγ-アミノ酪酸を吸着した後は、遠心分離、濾過等によりγ-アミノ酪酸が吸着されている多孔質無機材料を固液分離する。
固液分離された多孔質無機材料は、例えば、多孔質無機材料1g当り6ml以上の水及び/又は有機溶媒中に投入し、超音波振動等により撹拌処理することにより、多孔質無機材料に吸着保持されているγ-アミノ酪酸を前記溶媒中に溶出することができる。前記溶媒中に捕集されたγ-アミノ酪酸は、加熱等により濃縮することにより捕集され、サプリメントや食品等の用途に使用される。
かかる本発明によれば、γ-アミノ酪酸の水溶液中からはγ-アミノ酪酸を効果的に捕集することができるという大きな利点を有する。
また、γ-アミノ酪酸を多孔質無機材料で吸着して捕集した後、多孔質無機材料からγ-アミノ酪酸を溶出させるという手段を用いることにより、高純度のγ-アミノ酪酸を捕集することができることも、本発明の大きな利点である。
本発明の優れた効果を、次の実験例により説明する。
1.水蒸気吸着法によるBET比表面積(A)
日本ベル株式会社製BELSORPを用いて水蒸気吸着法により測定を行ない、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
2.窒素吸着法によるBET比表面積(B)
マイクロメリティクス社製TriStar 3000を用いて窒素吸着法により測定を行い、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
3.試験(I)
先ず、γ-アミノ酪酸(東京化成工業(株)製)を純水に溶かし、0.02質量%濃度のγ-アミノ酪酸溶液を得た。
当該アミノ酪酸溶液を50ml容量の遠沈管に採取し、吸着剤1.0gを加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製7780II)により遠心加速度10000rpmで10分処理した液の上澄みをメンブレンフィルター(ADVANTEC製A045A025A)で濾過した液(試料液)を得た。試料液の190nm波長光の吸光度を分光光度計((株)島津製作所製UV―2600)により測定した。このとき、吸着剤の溶解性塩類等の影響を差し引くため、あらかじめγ-アミノ酪酸未溶解の純水30gに同重量の吸着剤を加えて同様の操作をしたときの吸光度を試料液の吸光度から差し引き、試料液の補正吸光度とした。そして、予め作成したγ-アミノ酪酸濃度と190nm波長光の吸光度の関係を示す検量線を用いて試料液のγ-アミノ酪酸残存量を算出し、吸着剤添加前のγ-アミノ酪酸量から差し引いた値をγ-アミノ酪酸吸着量とした。
上記吸着試験にて試料液を回収した後に残った吸着剤(γ-アミノ酪酸含有吸着剤)にpH6のイオン交換水30gを添加し、振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
尚、イオン交換水のpHは、東亜ディーケーケー製pHメーターHM-30Rを用い、25℃で測定した。
次に遠心分離機((株)クボタ製7780II)により遠心加速度10000rpmで10分処理した液の上澄みをメンブレンフィルター(ADVANTEC製A045A025A)で濾過した液(試料液)を得た。上記吸着試験と同様の操作により、補正吸光度を測定し、試料液中のγ-アミノ酪酸量を測定した。このγ-アミノ酪酸量から残存していた吸着試験液由来のγ-アミノ酪酸量を差し引いた値をγ-アミノ酪酸脱離量とした。
4.試験(II)
γ-アミノ酪酸溶液の濃度を0.4質量%、吸着剤を5.0gにした以外は試験(I)と同様にして、γ-アミノ酪酸吸着試験およびγ-アミノ酪酸脱離試験を行った。
5.試験(III)
γ-アミノ酪酸溶液の濃度を30.0質量%にした以外は試験(I)と同様にして、γ-アミノ酪酸吸着試験を行い、試料液回収後に残った吸着剤に、75質量%硫酸でpH2に調製した水溶液30gを添加し、あとは試験(I)と同様にしてγ-アミノ酪酸脱離試験を行った。
また、pH2の水溶液に代えてイオン交換水を用いたパターン、pH2の水溶液に代えて0.1N水酸化ナトリウム水溶液でpH10に調製した水溶液を用いたパターンでもそれぞれγ-アミノ酪酸脱離試験を行った。
尚、各水溶液のpHは、東亜ディーケーケー製pHメーターHM-30Rを用い、25℃で測定した。
[実施例1]
吸着剤として市販のジオクタへドラル型スメクタイト(水澤化学工業(株)製酸性白土)を用い、試験(I)および(II)を行った。
[実施例2]
山形県鶴岡市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を110℃で乾燥し、粉砕し、さらに分級して粘土粉末を得た。ビーカーに5質量%硫酸水溶液220mlを採り、90℃に加熱した。そこへ粘土粉末30gを添加し、液温90℃に維持した状態で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、酸処理物を水でろ過洗浄し、洗浄後のろ過ケーキを110℃で乾燥し、粉砕し、さらに分級して弱酸処理白土粉末を得た。当該弱酸処理白土粉末を用い、試験(I)を行った。
[実施例3]
市販のジオクタへドラル型スメクタイトの酸処理物(a)(水澤化学工業(株)製活性白土)を用い、試験(I)、(II)および(III)を行った。
[実施例4]
水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤を用い、試験(I)を行った。
[実施例5]
水澤化学工業(株)製シリカゲルを用い、試験(I)および(III)を行った。
[実施例6]
市販のジオクタへドラル型スメクタイトの酸処理物(b)(水澤化学工業(株)製活性白土)を用い、試験(II)を行った。
[実施例7]
市販のジオクタへドラル型スメクタイトの酸処理物(c)(水澤化学工業(株)製活性白土)を用い、試験(II)を行った。
[実施例8]
新潟県胎内市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土2000kgを80℃に加熱した5質量%硫酸水溶液1700lに添加し、液温80℃~85℃で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、酸処理物を水洗し、150℃で乾燥し、粉砕し、さらに分級して弱酸処理白土粉末を得た。当該弱酸処理白土粉末を用い、試験(II)を行った。
[比較例1]
市販の活性炭粉末を用い、試験(I)、(II)および(III)を行った。
上記の吸着剤の水蒸気吸着法によるBET比表面積(A)、窒素吸着法によるBET比表面積(B)および試験(I)~(III)の結果を表1に示す。
Figure 0007113720000001

Claims (5)

  1. 水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.1以上の範囲にある多孔質無機材料からなり、前記多孔質無機材料が、ジオクタヘドラル型スメクタイトもしくは、ジオクタヘドラル型スメクタイトの酸処理物、シリカ、シリカマグネシア、スチブンサイト或いはケイ酸マグネシウムであることを特徴とするγ-アミノ酪酸溶液からのγ-アミノ酪酸捕集剤。
  2. 窒素吸着法により測定されるBET比表面積の値が10m/g以上の範囲にある請求項1記載のγ-アミノ酪酸捕集剤。
  3. 濃度0.02~30.0質量%のγ-アミノ酪酸水溶液を調製し、
    前記γ-アミノ酪酸水溶液に、請求項1または2に記載のγ-アミノ酪酸捕集剤を混合することにより、該γ-アミノ酪酸捕集剤にγ-アミノ酪酸を吸着せしめ、
    次いで、固液分離により、γ-アミノ酪酸が吸着されているγ-アミノ酪酸捕集剤を回収し、
    回収されたγ-アミノ酪酸捕集剤を、水及び/又は有機溶媒と混合し、該捕集剤からγ-アミノ酪酸を溶出させてγ-アミノ酪酸溶液を得ること、
    を特徴とするγ-アミノ酪酸の捕集方法。
  4. 前記水及び/又は有機溶媒は、6~12のpH(25℃)を有している請求項に記載のγ-アミノ酪酸の捕集方法。
  5. 発酵法で合成したγ-アミノ酪酸含有液を用いて、前記γ-アミノ酪酸水溶液を調製する請求項3または4に記載の捕集方法。
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