以下、本発明の実施形態に係る地盤予測システムを、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る地盤予測システムを説明するための模式的概念図である。図2は、基礎構造の一例を説明するための模式図である。図3は、図1に示す演算装置(算出部)のニューラルネットワークの模式的概念図である。
本実施形態に係る地盤予測システム1は、たとえば、端末6を用いて、建設予定となる未設建物の地盤沈下の状態を予測するものである。以下に、地盤予測システム1を説明する。
地盤予測システム1は、記憶装置3および演算装置4にデータを入力するキーボードなどの入力装置2と、未設建物の地盤沈下の状態を予測するためのプログラムが記憶されたROMまたはRAM等からなる記憶装置3と、未設建物の地盤沈下を予測するCPU等からなる演算装置4と、を備えている。
演算装置4には、建設予定の未設建物の建物条件の値および建設予定の未設建物の地盤条件の値が入力値として入力され、入力された入力値から、建設予定の未設建物の地盤状態パラメータの値を算出し、算出した地盤状態パラメータの値を出力値として出力する算出部42を備えている。なお、本実施形態では、算出部42は、既設建物の建物条件の値および既設建物の地盤条件の値から、既存建物の地盤状態パラメータの算出を学習する機能をも有する。
まず、既設建物の地盤沈下の算出を学習する際に地盤予測システム1に入力される既設建物の建物条件の値および既設建物の地盤条件の値、地盤予測システム1から出力される既設建物の地盤状態パラメータの値について説明する。また、未設建物の地盤沈下の状態を予測する際に、地盤予測システム1に入力される未設建物の建物条件の値および未設建物の地盤条件の値、地盤予測システム1から出力される未設建物の地盤状態パラメータの値も同様であるので、これらも合わせて説明する。以下の説明では、これらのそれぞれの値は、同じパラメータであるので「既設建物または未設建物」の値として説明する。
図1に示すように、既設建物または未設建物の建物条件の値は、(1)既設建物または未設建物の用途を数値化して設定された用途パラメータの値、(2)既設建物または未設建物の階数、(3)既設建物または未設建物の建築面積、および(4)既設建物または未設建物に選択された基礎形式を数値化して設定された基礎パラメータの値、を含む。
「用途パラメータ」は、既設建物または未設建物の用途に応じたパラメータであり、その用途が、たとえば、病院、学校、工場、またはオフィスビル等に合わせて、既設建物または未設の重量が変動することから、これらの用途に応じて数値化され、設定されている。たとえば、用途パラメータは、地番沈下し難い用途の順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。
「建物階数」は、既設建物または未設建物の階数であり、「建物面積」は、既設建物または未設建物の基礎部分に相当する面積である。
「基礎パラメータ」は、既設建物または未設建物に選択された基礎形式を数値化して設定されたパラメータである。具体的には、図2に示すように、杭11Aを設けた直接基礎構造10A、杭11Bを設けたパイル・ドラフト基礎構造10B、摩擦杭11Cによる杭基礎構造10C、支持層Gにより支持される支持杭11Dによる杭基礎構造10Dを挙げることができ、これらの基礎形式(基礎構造の形式)を数値化して設定される。たとえば、地番沈下し難い基礎構造の順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。
さらに、杭基礎構造10Cの場合には、摩擦杭11Cの長さ、摩擦杭11Cの種類等により、さらに、地番沈下し難い順に、これに応じた大きさの数値が設定されてもよい。さらに、図2に示す基礎構造の他にも、例えば、セメントミルクにより地盤改良された基礎構造等を含んでもよく、この構造にも、上述した如き数値が設定される。
さらに、建物条件の値に、既設建物または未設建物の地域を数値化して設定された地域パラメータを含んでもよい。具体的には、地域ごとの地形に起因して、地盤沈下し易い地域が分かっており、「地域パラメータ」は、既設建物または未設建物の地域ごとに、地盤沈下し難い地域順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。この地域パラメータの代わりに、既設建物または未設建物の位置情報を数値化した位置情報パラメータの値を、入力値として含んでもよい。位置情報パラメータは、たとえば、既設建物または未設建物の緯度と経度に応じて設定されたパラメータである。
建設された既設建物の地域またはその位置によっては、その地形等が起因して、既設建物の地盤沈下の状態が、他の建物の地域または他の位置で建設された既設建物の地番沈下の状態と、大きく異なることがある。従って、既設建物または未設建物の地域またはその位置を、地域パラメータの値または位置情報パラメータとして数値化し、設定することで、後述する建設予定地の地域またはその位置に特有の地盤沈下の影響を反映することができる。
既設建物または未設建物の地盤条件の値は、(5)既設建物または未設建物の建物が建設された建設地または建設予定地のボーリング試験により得られた、地表からの深度、(6)深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および(7)深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む。
具体的には、ボーリング試験において、例えば、地表からの深度に応じて、土質の種類が調査される。ここで、「土質パラメータ」とは、土質ごとに数値化されて設定されたパラメータである。たとえば、土質には、粘土、シルト、細砂、粗砂、細礫、中礫、粗礫、コブル、またはボルタなどを挙げることができ、この土質ごとに、数値化されている。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布に対応する数値が、設定されていてもよい。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布が大きくなるに従って、建物からの荷重を支持する支持力が大きい(地盤沈下し難い)ことから、この順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。
「標準貫入試験におけるN値」とは、標準貫入試験(JIS A 1219に準拠した試験)で測定されたN値、スウェーデン式サウンディング試験(JIS A 1212に準拠した試験)に基づく換算N値などを挙げることができ、N値が大きいほど、建物からの荷重を支持する支持力が大きい。
既設建物または未設建物の地盤条件の値としては、所定の深度ごとに、その深度と、深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および、深度に応じた標準貫入試験におけるN値が入力される。たとえば、既設建物または未設建物ごとに、深度N1と、深度N1に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および、深度N1に応じた標準貫入試験におけるN値が入力される。続けて、深度N2と、深度N2に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および、深度N2に応じた標準貫入試験におけるN値が入力される。さらに、深度N3、N4、…の場合も同様に行う。
「地盤状態パラメータ」は、建物の地盤沈下の状態を数値化して設定された値であり、例えば、この値が小さいほど地盤沈下がし難いような数値に設定されている。
本実施形態では、算出部42は、これまでに建設された複数の既設建物A、B、C、…の入力値に対して算出される出力値が、各既設建物A、B、C、…で実際に測定された地盤状態パラメータの値に収束するように、地盤状態パラメータの算出を機械学習により学習する。
この学習は、例えば、入力値の数に応じた変数からなる所定の数式に対して、各変数に乗じられる変数を、繰り返し補正することにより行ってもよい。本実施形態では、図3に示すように、算出部42は、ディープニューラルネットワーク(DNN):以下「ニューラルネットワーク」という)43を備えており、ニューラルネットワーク43は、既設建物または未設建物の建物条件の値と地盤条件の値とを入力値とし、地盤状態パラメータの値を出力値として算出するものである。
具体的には、ニューラルネットワーク43は、入力層43Aを有している。入力層43Aは、既設建物または未設建物のそれぞれに対して、(1)用途パラメータの値、(2)建物の階数、(3)建物の建築面積、(4)基礎パラメータの値、(5)地表からの深度N1、(6)深度N1に応じた土質パラメータの値、(7)深度N1に応じたN値、(8)地表からの深度N2、(9)深度N2に応じた土質パラメータの値、および(10)深度N2に応じたN値…、等、入力値に合わせた個数の入力層ニューロン素子43aを含む。この入力層43Aの入力層ニューロン素子43aは、入力する条件データの種類に応じて、増やすことができる。
ニューラルネットワーク43は、出力層43Eを有している。出力層43Eは、地盤状態パラメータを出力する1つの出力層ニューロン素子43eを含む。ニューラルネットワーク43は、3つの中間層43B、43C、43Dを有している。3つの中間層43B、43C、43Dは、入力層43Aと出力層43Eとの間に設けられている。各中間層43B、43C、43Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子43b、43c、43dを含む。
なお、本実施形態では、中間層が3つの層で構成されるが、たとえば、中間層が、1つ、2つの層、4つ以上の層で構成されていてもよく、中間層が3つの層に限定されるものではない。さらに、各中間層43B、43C、43Dを構成する中間層ニューロン素子43b、43c、43dは、入力層ニューロン素子43aの個数に応じた個数であるが、入力されるデータ数に応じて、入力層ニューロン素子43aの個数に応じて変化させてもよく、入力されるデータ数と異なる個数の中間層のニューロン素子を、各中間層が備えてもよい。
中間層43B、43C、43Dは、入力層43A側の同じ層にあるニューロン素子のニューロンパラメータを用いて、所定の演算を行い、その演算結果を、出力層43E側のニューロン素子に出力するものである。具体的には、中間層ニューロン素子43b、43c、43dおよび出力層ニューロン素子43eは、入力層ニューロン素子43aまたは入力層43A側の中間層ニューロン素子43b、43c、43dから入力されるニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行う。
具体的には、演算を実行する中間層ニューロン素子43b、43c、43dと、出力層ニューロン素子43eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータの値)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータの値を演算する。たとえば、中間層43Bの各中間層ニューロン素子43bは、各入力層ニューロン素子43aの入力値がニューロンパラメータの値として入力され、活性化関数により、入力層ニューロン素子43aごとのニューロンパラメータの値が演算される。
この際、各中間層43B、43C、43Dの中間層ニューロン素子43b、43c、43dにより算出したニューロンパラメータは、その素子内において、活性化関数により演算されたニューロンパラメータに対して、重み付け係数が乗算することで、出力すべきニューロンパラメータとして算出され、出力層ニューロン素子43eまたは出力層43E側の中間層ニューロン素子43c、43dに出力される。
本実施形態では、出力層ニューロン素子43eで出力された既設建物A、B、C、…の地盤状態パラメータの値が、実際に測定した既設建物A、B、C、…の地盤状態パラメータの値に対して所定の範囲に収束するまで、各中間層ニューロン素子43b、43c、43dのニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、地盤状態パラメータの算出(方法)を予め学習することができる。なお、実際に測定した既設建物A、B、C、…の地盤状態パラメータの値は、入力装置2を介して、既設建物の建物条件、既設建物の地盤条件に合わせて、演算装置4に入力される。
なお、本実施形態では、中間層ニューロン素子43b、43c、43dにおいて、活性化関数により算出されたニューロンパラメータに対して乗算される重み付け係数を、各中間層ニューロン素子43b、43c、43dに設けたが、これに加えて、出力層ニューロン素子43eにもさらに活性化関数により算出されたニューロンパラメータに対して乗算される重み付け係数を設けてもよい。
未設建物の地盤沈下の状態を予測する際には、機械学習後に重み付け係数が補正されたニューラルネットワーク43に、例えば、端末6から、未設建物の建物条件の値および地盤条件の値を入力値として入力する。ニューラルネットワーク43は、入力された入力値から、未設建物の地盤状態パラメータの値を算出し、算出した地盤状態パラメータの値を出力値として出力する。
本実施形態によれば、算出部42のニューラルネットワーク43は、これまでに建設された複数の既設建物の建物条件の値と、これに対応する既設建物の地盤条件の値とから、数値化されて設定された既設建物の地盤沈下の状態のパラメータの値の算出を学習したものである。したがって、建設予定となる未設建物の建物条件の値と、未設建物の地盤条件の値とを入力すれば、未設建物の地盤沈下の状態のパラメータの値(すなわち地盤沈下の程度)をより正確に算出することができる。また、ニューラルネットワークを用いることにより、より客観的に、未設建物の地盤状態パラメータの値を正確に算出することができる。
また、既設建物または未設建物の用途パラメータの値、既設建物または未設建物の階数、既設建物または未設建物の建築面積、および既設建物または未設建物の基礎パラメータの値は、基礎から地盤に作用する荷重に関連する値である。したがって、これらの値を入力値とすることにより、この荷重を厳密に計算することなく、この荷重を地盤状態パラメータに簡単に反映することができる。
さらに、既設建物または未設建物が建設された建設地または建設予定地のボーリング試験により得られた、地表からの深度、深度に応じた土質を数値化して設定された土質パラメータの値、および深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む地盤条件の値は、基礎から作用する荷重の支持力に関連する値である。したがって、これらの値を入力値とすることにより、この支持力が、地盤状態パラメータに反映されることになる。
また、本実施形態では、算出部42のニューラルネットワーク43に、学習機能を設けることにより、既設建物の地盤状態パラメータの値を、実際に測定された地盤状態パラメータに対して所定の範囲に収束することができるばかりでなく、建設予定の未設建物を新たに建設した後に、この建設した建物の地盤状態のパラメータを測定すれば、新たに建設した建物について、同様の学習を行うことができる。
なお、本実施形態では、算出部42に学習機能を持たせたが、ニューラルネットワーク43による学習を別の演算装置で行い、学習されたニューラルネットワークから地盤状態パラメータを算出するプログラムのみを、地盤予測システム1に設けてもよい。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。