[第1の実施の形態]
以下、第1の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられる。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、又は遊技機用などとして広く用いられることが可能である。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を図1乃至図5に示す。図1は、回転電機10の縦断面斜視図であり、図2は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面図であり、図3は、回転軸11に直交する方向での回転電機10の横断面図(図2のIII-III線断面図)であり、図4は、図3の一部を拡大して示す断面図であり、図5は、回転電機10の分解図である。なお、図3では、図示の都合上、回転軸11を除き、切断面を示すハッチングを省略している。以下の記載では、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
回転電機10は、大別して、軸受部20と、ハウジング30と、回転子40と、固定子50と、インバータユニット60とを備えている。これら各部材は、いずれも回転軸11と共に同軸上に配置され、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。
軸受部20は、軸方向に互いに離間して配置される2つの軸受21、22と、その軸受21、22を保持する保持部材23とを有している。軸受21、22は、例えばラジアル玉軸受であり、それぞれ外輪25と、内輪26と、それら外輪25及び内輪26の間に配置された複数の玉27とを有している。保持部材23は円筒状をなしており、その径方向内側に軸受21、22が組み付けられている。そして、軸受21、22の径方向内側に、回転軸11及び回転子40が回転自在に支持されている。
ハウジング30は、円筒状をなす周壁部31と、その周壁部31の軸方向両端部のうち一方の端部に設けられた端面部32とを有している。周壁部31の軸方向両端部のうち端面部32の反対側は開口部33となっており、ハウジング30は、端面部32の反対側が開口部33により全面的に開放された構成となっている。端面部32には、その中央に円形の孔34が形成されており、その孔34に挿通させた状態で、ネジやリベット等の固定具により軸受部20が固定されている。また、ハウジング30内、すなわち周壁部31及び端面部32により区画された内部スペースには、回転子40と固定子50とが収容されている。本実施形態では回転電機10がアウタロータ式であり、ハウジング30内には、筒状をなす回転子40の径方向内側に固定子50が配置されている。回転子40は、軸方向において端面部32の側で回転軸11に片持ち支持されている。
回転子40は、中空筒状に形成された回転子本体41と、その回転子本体41の径方向内側に設けられた環状の磁石部42とを有している。回転子本体41は、略カップ状をなし、磁石保持部材としての機能を有する。回転子本体41は、筒状をなす磁石保持部43と、同じく筒状をなしかつ磁石保持部43よりも小径の固定部44と、それら磁石保持部43及び固定部44を繋ぐ部位となる中間部45とを有している。磁石保持部43の内周面に磁石部42が取り付けられている。
固定部44の貫通孔44aには回転軸11が挿通されており、その挿通状態で回転軸11に対して固定部44が固定されている。つまり、固定部44により、回転軸11に対して回転子本体41が固定されている。なお、固定部44は、凹凸を利用したスプライン結合やキー結合、溶接、又はかしめ等により回転軸11に対して固定されているとよい。これにより、回転子40が回転軸11と一体に回転する。
また、固定部44の径方向外側には、軸受部20の軸受21、22が組み付けられている。上述のとおり軸受部20はハウジング30の端面部32に固定されているため、回転軸11及び回転子40は、ハウジング30に回転可能に支持されるものとなっている。これにより、ハウジング30内において回転子40が回転自在となっている。
回転子40には、軸方向両側のうち片側にのみ固定部44が設けられており、これにより、回転子40が回転軸11に片持ち支持されている。ここで、回転子40の固定部44は、軸受部20の軸受21、22により、軸方向に異なる2位置で回転可能に支持されている。すなわち、回転子40は、回転子本体41における軸方向の両側端部のうち一方の側において、軸方向2箇所の軸受21、22により回転可能に支持されている。そのため、回転子40が回転軸11に片持ち支持される構造であっても、回転子40の安定回転が実現されるようになっている。この場合、回転子40の軸方向中心位置に対して片側にずれた位置で、回転子40が軸受21、22により支持されている。
また、軸受部20において回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22と、その逆側(図の上側)の軸受21とは、外輪25及び内輪26と玉27との間の隙間寸法が相違しており、例えば回転子40の中心寄りの軸受22の方が、その逆側の軸受21よりも隙間寸法が大きいものとなっている。この場合、回転子40の中心寄りの側において、回転子40の振れや、部品公差に起因するインバランスによる振動が軸受部20に作用しても、その振れや振動の影響が良好に吸収される。具体的には、回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22において予圧により遊び寸法(隙間寸法)を大きくしていることで、片持ち構造において生じる振動がその遊び部分により吸収される。前記予圧は、定位置予圧でもよいが、軸受22の軸方向外側(図の上側)の段差に予圧用バネ、ウェーブワッシャ等を挿入することで与えてもよい。
また、中間部45は、径方向中心側とその外側とで軸方向の段差を有する構成となっている。この場合、中間部45において、径方向の内側端部と外側端部とは、軸方向の位置が相違しており、これにより、軸方向において磁石保持部43と固定部44とが一部重複している。つまり、固定部44の基端部(図の下側の奥側端部)よりも軸方向上側に、磁石保持部43が突出するものとなっている。本構成では、中間部45が段差無しで平板状に設けられる場合に比べて、回転子40の重心近くの位置で、回転軸11に対して回転子40を支持させることが可能となり、回転子40の安定動作が実現できるものとなっている。
上述した中間部45の構成によれば、回転子40には、径方向において固定部44を囲みかつ中間部45の内寄りとなる位置に、軸受部20の一部を収容する軸受収容凹部46が環状に形成されるとともに、径方向において軸受収容凹部46を囲みかつ中間部45の外寄りとなる位置に、後述する固定子50の固定子巻線51のコイルエンド部54を収容するコイル収容凹部47が形成されている。そして、これら各収容凹部46、47が、径方向の内外で隣り合うように配置されるようになっている。つまり、軸受部20の一部と、固定子巻線51のコイルエンド部54とが径方向内外に重複するように配置されている。これにより、回転電機10において軸方向の長さ寸法の短縮が可能となっている。
コイルエンド部54は、径方向の内側又は外側に曲げられることで、そのコイルエンド部54の軸方向寸法を小さくすることができ、固定子軸長を短縮することが可能である。コイルエンド部54の曲げ方向は、回転子40との組み付けを考慮したものであるとよい。回転子40の径方向内側に固定子50を組み付けることを想定すると、その回転子40に対する挿入先端側では、コイルエンド部54が径方向内側に曲げられるとよい。その逆側の曲げ方向は任意でよいが、空間的に余裕のある外径側が製造上好ましい。
また、磁石部42は、磁石保持部43の径方向内側において、周方向に沿って磁極が交互に変わるように配置された複数の磁石により構成されている。ただし、磁石部42の詳細については後述する。
固定子50は、回転子40の径方向内側に設けられている。固定子50は、略筒状に巻回形成された固定子巻線51と、その径方向内側に配置された固定子コア52とを有しており、固定子巻線51が、所定のエアギャップを挟んで円環状の磁石部42に対向するように配置されている。固定子巻線51は複数の相巻線よりなる。それら各相巻線は、周方向に配列された複数の導線が所定ピッチで互いに接続されることで構成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の3相巻線と、X相、Y相及びZ相の3相巻線とを用い、それら3相2組の相巻線を用いることで、固定子巻線51が6相の相巻線として構成されている。また、固定子巻線51は、封止材としての合成樹脂材からなる絶縁部材である封止部材57により封止されている。
固定子コア52は、軟磁性材からなる積層鋼板により円環状に形成されて中空円筒状を呈し、固定子巻線51の径方向内側に組み付けられている。
固定子巻線51は、軸方向において固定子コア52に重複する部分であり、かつ固定子コア52の径方向外側となるコイルサイド部53と、軸方向において固定子コア52の一端側及び他端側にそれぞれ張り出すコイルエンド部54、55とを有している。コイルサイド部53は、径方向において固定子コア52と回転子40の磁石部42にそれぞれ対向している。回転子40の内側に固定子50が配置された状態では、軸方向両側のコイルエンド部54、55のうち軸受部20の側(図の上側)となるコイルエンド部54が、回転子40の回転子本体41により形成されたコイル収容凹部47に収容されている。ただし、固定子50の詳細については後述する。
インバータユニット60は、ハウジング30に対してボルト等の締結具により固定されるユニットベース61と、そのユニットベース61に組み付けられる電気コンポーネント62とを有している。ユニットベース61は、ハウジング30の開口部33側の端部に対して固定されるエンドプレート部63と、そのエンドプレート部63に一体に設けられ、軸方向に延びるケーシング部64とを有している。エンドプレート部63は、その中心部に円形の開口部65を有しており、開口部65の周縁部から起立するようにしてケーシング部64が形成されている。
ケーシング部64の外周面には固定子50が組み付けられている。つまり、ケーシング部64の外径寸法は、固定子コア52の内径寸法と同じか、又は固定子コア52の内径寸法よりも僅かに小さい寸法になっている。ケーシング部64の外側に固定子コア52が組み付けられることで、固定子50とユニットベース61とが一体化されている。また、ユニットベース61がハウジング30に固定されることからすると、ケーシング部64に固定子コア52が組み付けられた状態では、固定子50がハウジング30に対して一体化された状態となっている。
また、ケーシング部64の径方向内側は、電気コンポーネント62を収容する収容空間となっており、その収容空間には、回転軸11を囲むようにして電気コンポーネント62が配置されている。ケーシング部64は、収容空間形成部としての役目を有している。電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する半導体モジュール66や、制御基板67、コンデンサモジュール68を具備する構成となっている。
ここで、上記図1~図5に加え、インバータユニット60の分解図である図6を用いて、インバータユニット60の構成をさらに説明する。
ユニットベース61において、ケーシング部64は、筒状部71と、その筒状部71の軸方向両端部のうち一方の端部(軸受部20側の端部)に設けられた端面部72とを有している。筒状部71の軸方向両端部のうち端面部72の反対側は、エンドプレート部63の開口部65を通じて全面的に開放されている。端面部72には、その中央に円形の孔73が形成されており、その孔73に回転軸11が挿通可能となっている。
ケーシング部64の筒状部71は、その径方向外側に配置される回転子40及び固定子50と、その径方向内側に配置される電気コンポーネント62との間を仕切る仕切り部となっており、筒状部71を挟んで径方向内外に、回転子40及び固定子50と電気コンポーネント62とが並ぶようにそれぞれ配置されている。
また、電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する電気部品であり、固定子巻線51の各相巻線に対して所定順序で電流を流して回転子40を回転させる力行機能と、回転軸11の回転に伴い固定子巻線51に流れる3相交流電流を入力し、発電電力として外部に出力する発電機能とを有している。なお、電気コンポーネント62は、力行機能と発電機能とのうちいずれか一方のみを有するものであってもよい。発電機能は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生電力として外部に出力する回生機能である。
電気コンポーネント62の具体的な構成として、回転軸11の周りには、中空円筒状をなすコンデンサモジュール68が設けられており、そのコンデンサモジュール68の外周面上に、複数の半導体モジュール66が周方向に並べて配置されている。コンデンサモジュール68は、互いに並列接続された平滑用のコンデンサ68aを複数備えている。具体的には、コンデンサ68aは、複数枚のフィルムコンデンサが積層されてなる積層型フィルムコンデンサであり、横断面が台形状をなしている。コンデンサモジュール68は、12個のコンデンサ68aが環状に並べて配置されることで構成されている。
なお、コンデンサ68aの製造過程においては、例えば、複数のフィルムが積層されてなる所定幅の長尺フィルムを用い、フィルム幅方向を台形高さ方向とし、かつ台形の上底と下底とが交互になるように長尺フィルムが等脚台形状に切断されることにより、コンデンサ素子が作られる。そして、そのコンデンサ素子に電極等を取り付けることでコンデンサ68aが作製される。
半導体モジュール66は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子を有し、略板状に形成されている。本実施形態では、回転電機10が2組の3相巻線を備えており、その3相巻線ごとにインバータ回路が設けられていることから、計12個の半導体モジュール66が電気コンポーネント62に設けられている。
半導体モジュール66は、ケーシング部64の筒状部71とコンデンサモジュール68との間に挟まれた状態で配置されている。半導体モジュール66の外周面は筒状部71の内周面に当接し、半導体モジュール66の内周面はコンデンサモジュール68の外周面に当接している。この場合、半導体モジュール66で生じた熱は、ケーシング部64を介してエンドプレート部63に伝わり、エンドプレート部63から放出される。
半導体モジュール66は、外周面側、すなわち径方向において半導体モジュール66と筒状部71との間にスペーサ69を有しているとよい。この場合、コンデンサモジュール68では軸方向に直交する横断面の断面形状が正12角形である一方、筒状部71の内周面の横断面形状が円形であるため、スペーサ69は、内周面が平坦面、外周面が曲面となっている。スペーサ69は、各半導体モジュール66の径方向外側において円環状に連なるように一体に設けられていてもよい。なお、筒状部71の内周面の横断面形状をコンデンサモジュール68と同じ12角形にすることも可能である。この場合、スペーサ69の内周面及び外周面がいずれも平坦面であるとよい。
また、本実施形態では、ケーシング部64の筒状部71に、冷却水を流通させる冷却水通路74が形成されており、半導体モジュール66で生じた熱は、冷却水通路74を流れる冷却水に対しても放出される。つまり、ケーシング部64は水冷機構を備えている。図3や図4に示すように、冷却水通路74は、電気コンポーネント62(半導体モジュール66及びコンデンサモジュール68)を囲むように環状に形成されている。半導体モジュール66は筒状部71の内周面に沿って配置されており、その半導体モジュール66に対して径方向内外に重なる位置に冷却水通路74が設けられている。
筒状部71の外側には固定子50が配置され、内側には電気コンポーネント62が配置されていることから、筒状部71に対しては、その外側から固定子50の熱が伝わるとともに、内側から半導体モジュール66の熱が伝わることになる。この場合、固定子50と半導体モジュール66とを同時に冷やすことが可能となっており、回転電機10における発熱部材の熱を効率良く放出することができる。
また、電気コンポーネント62は、軸方向において、コンデンサモジュール68の一方の端面に設けられた絶縁シート75と、他方の端面に設けられた配線モジュール76とを備えている。この場合、コンデンサモジュール68の軸方向両端面のうち一方の端面(軸受部20側の端面)は、ケーシング部64の端面部72に対向しており、絶縁シート75を挟んだ状態で端面部72に重ね合わされている。また、他方の端面(開口部65側の端面)には、配線モジュール76が組み付けられている。
配線モジュール76は、合成樹脂材よりなり円形板状をなす本体部76aと、その内部に埋設された複数のバスバー76b、76cを有しており、そのバスバー76b、76cにより、半導体モジュール66やコンデンサモジュール68と電気的接続がなされている。具体的には、半導体モジュール66は、その軸方向端面から延びる接続ピン66aを有しており、その接続ピン66aが、本体部76aの径方向外側においてバスバー76bに接続されている。また、バスバー76cは、本体部76aの径方向外側においてコンデンサモジュール68とは反対側に延びており、その先端部にて配線部材79に接続されるようになっている(図2参照)。
上記のとおりコンデンサモジュール68の軸方向両側に絶縁シート75と配線モジュール76とがそれぞれ設けられた構成によれば、コンデンサモジュール68の放熱経路として、コンデンサモジュール68の軸方向両端面から端面部72及び筒状部71に至る経路が形成される。これにより、コンデンサモジュール68において半導体モジュール66が設けられた外周面以外の端面部からの放熱が可能になっている。つまり、径方向への放熱だけでなく、軸方向への放熱も可能となっている。
また、コンデンサモジュール68は中空円筒状をなし、その内周部には所定の隙間を介在させて回転軸11が配置されることから、コンデンサモジュール68の熱はその中空部からも放出可能となっている。この場合、回転軸11の回転により空気の流れが生じることにより、その冷却効果が高められるようになっている。
配線モジュール76には、円板状の制御基板67が取り付けられている。制御基板67は、所定の配線パターンが形成されたプリントサーキットボード(PCB)を有しており、そのボード上には各種ICや、マイコン等からなる制御装置77が実装されている。制御基板67は、ネジ等の固定具により配線モジュール76に固定されている。制御基板67は、その中央部に、回転軸11を挿通させる挿通孔67aを有している。
なお、配線モジュール76の軸方向両側のうちコンデンサモジュール68の反対側に制御基板67が設けられ、その制御基板67の両面の一方側から他方側に配線モジュール76のバスバー76cが延びる構成となっている。かかる構成において、制御基板67には、バスバー76cとの干渉を回避する切欠が設けられているとよい。例えば、円形状をなす制御基板67の外縁部の一部が切り欠かれているとよい。
上述のとおり、ケーシング部64に囲まれた空間内に電気コンポーネント62が収容され、その外側に、ハウジング30、回転子40及び固定子50が層状に設けられている構成によれば、インバータ回路で生じる電磁ノイズが好適にシールドされるようになっている。すなわち、インバータ回路では、所定のキャリア周波数によるPWM制御を利用して各半導体モジュール66でのスイッチング制御が行われ、そのスイッチング制御により電磁ノイズが生じることが考えられるが、その電磁ノイズを、電気コンポーネント62の径方向外側のハウジング30、回転子40、固定子50等により好適にシールドできる。
筒状部71においてエンドプレート部63の付近には、その外側の固定子50と内側の電気コンポーネント62とを電気的に接続する配線部材79(図2参照)を挿通させる貫通孔78が形成されている。図2に示すように、配線部材79は、圧着、溶接などにより、固定子巻線51の端部と配線モジュール76のバスバー76cとにそれぞれ接続されている。配線部材79は、例えばバスバーであり、その接合面は平たく潰されていることが望ましい。貫通孔78は、1カ所又は複数箇所に設けられているとよく、本実施形態では2カ所に貫通孔78が設けられている。2カ所に貫通孔78が設けられる構成では、2組の3相巻線から延びる巻線端子を、それぞれ配線部材79により容易に結線することが可能となり、多相結線を行う上で好適なものとなっている。
上述のとおりハウジング30内には、図4に示すように径方向外側から順に回転子40、固定子50が設けられ、固定子50の径方向内側にインバータユニット60が設けられている。ここで、ハウジング30の内周面の半径をdとした場合に、回転中心からd×0.705の距離よりも径方向外側に回転子40と固定子50とが配置されている。この場合、回転子40及び固定子50のうち径方向内側の固定子50の内周面(すなわち固定子コア52の内周面)から径方向内側となる領域を第1領域X1、径方向において固定子50の内周面からハウジング30までの間の領域を第2領域X2とすると、第1領域X1の横断面の面積は、第2領域X2の横断面の面積よりも大きい構成となっている。また、軸方向において回転子40の磁石部42及び固定子巻線51が重複する範囲で見て、第1領域X1の容積が第2領域X2の容積よりも大きい構成となっている。
なお、回転子40及び固定子50を磁気回路コンポーネントとすると、ハウジング30内において、その磁気回路コンポーネントの内周面から径方向内側となる第1領域X1が、径方向において磁気回路コンポーネントの内周面からハウジング30までの間の第2領域X2よりも容積が大きい構成となっている。
次いで、回転子40及び固定子50の構成をより詳しく説明する。一般に、回転電機における固定子の構成として、積層鋼板よりなりかつ円環状をなす固定子コアに周方向に複数のスロットを設け、そのスロット内に固定子巻線を巻装するものが知られている。具体的には、固定子コアは、ヨーク部から所定間隔で径方向に延びる複数のティースを有しており、周方向に隣り合うティース間にスロットが形成されている。そして、スロット内に、例えば径方向に複数層の導線が収容され、その導線により固定子巻線が構成されている。
ただし、上述した固定子構造では、固定子巻線の通電時において、固定子巻線の起磁力が増加するのに伴い固定子コアのティース部分で磁気飽和が生じ、それに起因して回転電機のトルク密度が制限されることが考えられる。つまり、固定子コアにおいて、固定子巻線の通電により生じた回転磁束がティースに集中することで、磁気飽和が生じると考えられる。
また、一般的に、回転電機におけるIPMロータの構成として、永久磁石がd軸に配置され、q軸にロータコアが配置されたものが知られている。このような場合、d軸近傍の固定子巻線が励磁されることで、フレミングの法則により固定子から回転子のq軸に励磁磁束が流入される。そしてこれにより、回転子のq軸コア部分に、広範囲の磁気飽和が生じると考えられる。
図7は、固定子巻線の起磁力を示すアンペアターン[AT]とトルク密度[Nm/L]との関係を示すトルク線図である。破線が一般的なIPMロータ型の回転電機における特性を示す。図7に示すように、一般的な回転電機では、固定子において起磁力を増加させていくことにより、スロット間のティース部分及びq軸コア部分の2カ所で磁気飽和が生じ、それが原因でトルクの増加が制限されてしまう。このように、当該一般的な回転電機では、アンペアターン設計値がX1で制限されることになる。
そこで本実施形態では、磁気飽和に起因するトルク制限を解消すべく、回転電機10において、以下に示す構成を付与するものとしている。すなわち、第1の工夫として、固定子において固定子コアのティースで生じる磁気飽和をなくすべく、固定子50においてスロットレス構造を採用し、かつIPMロータのq軸コア部分で生じる磁気飽和をなくすべく、SPMロータを採用している。第1の工夫によれば、磁気飽和が生じる上記2カ所の部分をなくすことができるが、低電流域でのトルクが減少することが考えられる(図7の一点鎖線参照)。そのため、第2の工夫として、SPMロータの磁束増強を図ることでトルク減少を挽回すべく、回転子40の磁石部42において磁石磁路を長くして磁力を高めた極異方構造を採用している。
また、第3の工夫として、固定子巻線51のコイルサイド部53において導線の径方向厚さを小さくした扁平導線構造を採用してトルク減少の挽回を図っている。ここで、上述の磁力を高めた極異方構造によって、対向する固定子巻線51には、より大きな渦電流が発生することが考えられる。しかしながら、第3の工夫によれば、径方向に薄い扁平導線構造のため、固定子巻線51における径方向の渦電流の発生を抑制することができる。このように、これら第1~第3の各構成によれば、図7に実線で示すように、磁力の高い磁石を採用してトルク特性の大幅な改善を見込みつつも、磁力の高い磁石ゆえに生じ得る大きい渦電流発生の懸念も改善できるものとなっている。
さらに、第4の工夫として、極異方構造を利用し正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石部を採用している。これによれば、後述するパルス制御等によって正弦波整合率を高めてトルク増強を図ることができるとともに、ラジアル磁石と比べ緩やかな磁束変化のため渦電流損もまた更に抑制することができるのである。
また、第5の工夫として、固定子巻線51を複数の素線を寄せ集めて撚った素線導体構造(素線集合体)としている。これによれば、基本波成分は集電されて大電流が流せるとともに、扁平導線構造で周方向に広がった導線で発生する周方向に起因する渦電流の発生を、素線それぞれの断面積が小さくなるため、第3の工夫による径方向に薄くする以上に効果的に抑制することができる。そして、複数の素線が撚り合っていることで、導体からの起磁力に対しては、電流通電方向に対して右ネジの法則で発生する磁束に対する渦電流を相殺することができる。
このように、第4の工夫、第5の工夫をさらに加えると、第2の工夫である磁力の高い磁石を採用しながら、さらにその高い磁力に起因する渦電流損を抑制しながらトルク増強を図ることができる。
以下に、上述した固定子50のスロットレス構造、固定子巻線51の扁平導線構造、及び磁石部42の極異方構造について個別に説明を加える。ここではまずは、固定子50におけるスロットレス構造と固定子巻線51の扁平導線構造とを説明する。図8は、回転子40及び固定子50の横断面図であり、図9は、図8に示す回転子40及び固定子50の一部を拡大して示す図である。図10は、図11のX‐X線に沿った固定子50の横断面を示す断面図であり、図11は、固定子50の縦断面を示す断面図である。また、図12は、固定子巻線51の斜視図である。なお、図8及び図9には、磁石部42における磁石の磁化方向を矢印にて示している。
図8乃至図11に示すように、固定子コア52は、軸方向に複数の電磁鋼板が積層され、かつ径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしており、回転子40側となる径方向外側に固定子巻線51が組み付けられるものとなっている。固定子コア52において、回転子40側の外周面が導線設置部(導体エリア)となっている。固定子コア52の外周面は凹凸のない曲面状をなしており、その外周面において周方向に所定間隔で複数の導線群81が配置されている。固定子コア52は、回転子40を回転させるための磁気回路の一部となるバックヨークとして機能する。この場合、周方向に隣り合う各2つの導線群81の間には軟磁性材からなるティース(つまり、鉄心)が設けられていない構成(つまり、スロットレス構造)となっている。本実施形態において、それら各導線群81の間隙56には、封止部材57の樹脂材料が入り込む構造となっている。つまり、固定子50において、周方向における各導線群81の間に設けられる導線間部材が、非磁性材料である封止部材57として構成されている。封止部材57の封止前の状態で言えば、固定子コア52の径方向外側には、それぞれ導線間領域である間隙56を隔てて周方向に所定間隔で導線群81が配置されており、これによりスロットレス構造の固定子50が構築されている。言い換えれば、各導線群81は、後述するように2つの導線(conductor)82からなり、固定子50の周方向に隣り合う各2つの導線群81の間は、非磁性材のみが占有している。この非磁性材とは、封止部材57以外に空気などの非磁性気体や非磁性液体などをも含む。なお、以下において、封止部材57は導線間部材(conductor-to- conductor member)ともいう。
なお、周方向に並ぶ各導線群81の間においてティースが設けられている構成とは、ティースが、径方向に所定厚さを有し、かつ周方向に所定幅を有することで、各導線群81の間に磁気回路の一部、すなわち磁石磁路を形成する構成であると言える。この点において、各導線群81の間にティースが設けられていない構成とは、上記の磁気回路の形成がなされていない構成であると言える。
図10に示すように、固定子巻線(すなわち電機子巻線)51は、所定の厚みT2(以下、第1寸法とも言う)と幅W2(以下、第2寸法とも言う)を有するように形成されている。厚みT2は、固定子巻線51の径方向において互いに対向する外側面と内側面との間の最短距離である。幅W2は、固定子巻線51の多相(実施例では3相:U相、V相及びW相の3相あるいはX相、Y相及びZ相の3相)の1つとして機能する固定子巻線51の一部分の固定子巻線51の周方向の長さである。具体的には、図10において、周方向に隣り合う2つの導線群81が3相の内の1つである例えばU相として機能する場合、周方向において当該2つの導線群81の端から端までの幅W2である。そして、厚みT2は幅W2より小さくなっている。
なお、厚みT2は、幅W2内に存在する2つの導線群81の合計幅寸法より小さいことが好ましい。また、仮に固定子巻線51(より詳しくは導線82)の断面形状が真円形状や楕円形状、又は多角形形状である場合、固定子50の径方向に沿った導線82の断面のうち、その断面において固定子50の径方向の最大の長さをW12、同断面のうち固定子50の周方向の最大の長さをW11としても良い。
図10及び図11に示すように、固定子巻線51は、封止材(モールド材)としての合成樹脂材からなる封止部材57により封止されている。つまり、固定子巻線51は、固定子コア52と共にモールド材によりモールドされている。なお樹脂は、非磁性体、又は非磁性体の均等物としてBs=0(すなわち、磁束が0)と看做すことができる。
図10の横断面で見れば、封止部材57は、各導線群81の間、すなわち間隙56に合成樹脂材が充填されて設けられており、封止部材57により、各導線群81の間に絶縁部材が介在する構成となっている。つまり、間隙56において封止部材57が絶縁部材として機能する。封止部材57は、固定子コア52の径方向外側において、各導線群81を全て含む範囲、すなわち径方向の厚さ寸法が各導線群81の径方向の厚さ寸法よりも大きくなる範囲で設けられている。
また、図11の縦断面で見れば、封止部材57は、固定子巻線51のターン部84を含む範囲で設けられている。固定子巻線51の径方向内側では、固定子コア52の軸方向に対向する端面の少なくとも一部を含む範囲で封止部材57が設けられている。この場合、固定子巻線51は、各相の相巻線の端部、すなわちインバータ回路との接続端子を除く略全体で樹脂封止されている。
封止部材57が固定子コア52の端面を含む範囲で設けられた構成では、封止部材57により、固定子コア52の積層鋼板を軸方向内側に押さえ付けることができる。これにより、封止部材57を用いて、各鋼板の積層状態を保持することができる。なお、本実施形態では、固定子コア52の内周面を樹脂封止していないが、これに代えて、固定子コア52の内周面を含む固定子コア52の全体を樹脂封止する構成であってもよい。
回転電機10が車両動力源として使用される場合には、封止部材57が、高耐熱のフッ素樹脂や、エポキシ樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、LCP樹脂、シリコン樹脂、PAI樹脂、PI樹脂等により構成されていることが好ましい。また、膨張差による割れ抑制の観点から線膨張係数を考えると、固定子巻線51の導線の外被膜と同じ材質であることが望ましい。すなわち、線膨張係数が、一般的に他樹脂の倍以上であるシリコン樹脂は望ましくは除外される。なお、電気車両の如く、燃焼を利用した機関を持たない電気製品においては、180℃程度の耐熱性を持つPPO樹脂やフェノール樹脂、FRP樹脂も候補となる。回転電機の周囲温度が100℃未満と見做せる分野においては、この限りではない。
回転電機10のトルクは磁束の大きさに比例する。ここで、固定子コアがティースを有している場合には、固定子での最大磁束量がティースでの飽和磁束密度に依存して制限されるが、固定子コアがティースを有していない場合には、固定子での最大磁束量が制限されない。そのため、固定子巻線51に対する通電電流を増加して回転電機10のトルク増加を図る上で、有利な構成となっている。
本実施形態では、固定子50においてティースを無くした構造(スロットレス構造)を用いたことにより、固定子50のインダクタンスが低減される。具体的には、複数のティースにより仕切られた各スロットに導線が収容される一般的な回転電機の固定子ではインダクタンスが例えば1mH前後であるのに対し、本実施形態の固定子50ではインダクタンスが5~60μH程度に低減される。本実施形態では、アウタロータ構造の回転電機10としつつも、固定子50のインダクタンス低減により機械的時定数Tmを下げることが可能となっている。つまり、高トルク化を図りつつ、機械的時定数Tmの低減が可能となっている。なお、イナーシャをJ、インダクタンスをL、トルク定数をKt、逆起電力定数をKeとすると、機械的時定数Tmは、次式により算出される。次式から、インダクタンスLの低減により機械的時定数Tmが低減されることが確認できる。
Tm=(J×L)/(Kt×Ke)
固定子コア52の径方向外側における各導線群81は、断面が扁平矩形状をなす複数の導線82が固定子コア52の径方向に並べて配置されて構成されている。各導線82は、横断面において「径方向寸法<周方向寸法」となる向きで配置されている。これにより、各導線群81において径方向の薄肉化が図られている。また、径方向の薄肉化を図るとともに、導体領域が、ティースが従来あった領域まで平らに延び、扁平導線領域構造となっている。これにより、薄肉化により断面積が小さくなることで懸念される導線の発熱量の増加を、周方向に扁平化して導体の断面積を稼ぐことで抑えている。なお、複数の導線を周方向に並べ、かつそれらを並列結線とする構成であっても、導体被膜分の導体断面積低下は起こるものの、同じ理屈に依る効果が得られる。なお、以下において、導線群81のそれぞれ、および導線82のそれぞれを、伝導部材(conductive member)とも言う。
スロットがないことから、本実施形態における固定子巻線51では、その周方向の一周における固定子巻線51が占める導体領域を、固定子巻線51が存在しない導体非占有領域より大きく設計することができる。なお、従来の車両用回転電機は、固定子巻線の周方向の一周における導体領域/導体非占有領域は1以下であるのが当然であった。一方、本実施形態では、導体領域が導体非占有領域と同等又は導体領域が導体非占有領域よりも大きくなるようにして、各導線群81が設けられている。ここで、図10に示すように、周方向において導線82(つまり、後述する直線部83)が配置された導線領域をWA、隣り合う導線82の間となる導線間領域をWBとすると、導線領域WAは、導線間領域WBより周方向において大きいものとなっている。
固定子巻線51における導線群81の構成として、その導線群81の径方向の厚さ寸法は、1磁極内における1相分の周方向の幅寸法よりも小さいものとなっている。すなわち、導線群81が径方向に2層の導線82よりなり、かつ1磁極内に1相につき周方向に2つの導線群81が設けられる構成では、各導線82の径方向の厚さ寸法をTc、各導線82の周方向の幅寸法をWcとした場合に、「Tc×2<Wc×2」となるように構成されている。なお、他の構成として、導線群81が2層の導線82よりなり、かつ1磁極内に1相につき周方向に1つの導線群81が設けられる構成では、「Tc×2<Wc」の関係となるように構成されるとよい。要するに、固定子巻線51において周方向に所定間隔で配置される導線部(導線群81)は、その径方向の厚さ寸法が、1磁極内における1相分の周方向の幅寸法よりも小さいものとなっている。
言い換えると、1本1本の各導線82は、径方向の厚さ寸法Tcが周方向の幅寸法Wcよりも小さいとよい。またさらに、径方向に2層の導線82よりなる導線群81の径方向の厚さ寸法(2Tc)、すなわち導線群81の径方向の厚さ寸法(2Tc)が周方向の幅寸法Wcよりも小さいとよい。
回転電機10のトルクは、導線群81の固定子コア52の径方向の厚さに略反比例する。この点、固定子コア52の径方向外側において導線群81の厚さを薄くしたことにより、回転電機10のトルク増加を図る上で有利な構成となっている。その理由としては、回転子40の磁石部42から固定子コア52までの距離(つまり鉄の無い部分の距離)を小さくして磁気抵抗を下げることができるためである。これによれば、永久磁石による固定子コア52の鎖交磁束を大きくすることができ、トルクを増強することができる。
また、導線群81の厚さを薄くしたことにより、導線群81から磁束が漏れても固定子コア52に回収されやすくなり、磁束がトルク向上のために有効に利用されずに外部に漏れることを抑制することができる。つまり、磁束漏れにより磁力が低下することを抑制でき、永久磁石による固定子コア52の鎖交磁束を大きくして、トルクを増強することができる。
導線82(conductor)は、導体(conductor body)82aの表面が絶縁被膜82bにより被覆された被覆導線よりなり、径方向に互いに重なる導線82同士の間、及び導線82と固定子コア52との間においてそれぞれ絶縁性が確保されている。この絶縁被膜82bは、後述する素線86が自己融着被覆線であるならその被膜、又は、素線86の被膜とは別に重ねられた絶縁部材で構成されている。なお、導線82により構成される各相巻線は、接続のための露出部分を除き、絶縁被膜82bによる絶縁性が保持されるものとなっている。露出部分としては、例えば、入出力端子部や、星形結線とする場合の中性点部分である。導線群81では、樹脂固着や自己融着被覆線を用いて、径方向に隣り合う各導線82が相互に固着されている。これにより、導線82同士が擦れ合うことによる絶縁破壊や、振動、音が抑制される。
本実施形態では、導体82aが複数の素線(wire)86の集合体として構成されている。具体的には、図13に示すように、導体82aは、複数の素線86を撚ることで撚糸状に形成されている。また、図14に示すように、素線86は、細い繊維状の導電材87を束ねた複合体として構成されている。例えば、素線86はCNT(カーボンナノチューブ)繊維の複合体であり、CNT繊維として、炭素の少なくとも一部をホウ素で置換したホウ素含有微細繊維を含む繊維が用いられている。炭素系微細繊維としては、CNT繊維以外に、気相成長法炭素繊維(VGCF)等を用いることができるが、CNT繊維を用いることが好ましい。また、素線86の表面は、ポリイミドの被膜やアミドイミドの被膜からなる高分子絶縁層である、いわゆるエナメル被膜で覆われていることが好ましい。
導線82は、固定子巻線51においてn相の巻線を構成する。そして導線82(すなわち、導体82a)の各々の素線86は、互いに接触状態で隣接している。導線82は、巻線導体が、複数の素線86が撚られて形成される部位を、相内の1か所以上に持つとともに、撚られた素線86間の抵抗値が素線86そのものの抵抗値よりも大きい素線集合体となっている。言い換えると、隣接する各2つの素線86はその隣接する方向において第1電気抵抗率を有し、素線86の各々はその長さ方向において第2電気抵抗率を有する場合、第1電気抵抗率は第2電気抵抗率より大きい値になっている。なお、導線82が複数の素線86により形成されるとともに、第1電気抵抗率が極めて高い絶縁部材により複数の素線86を覆う素線集合体となっていても良い。また、導線82の導体82aは、撚り合わされた複数の素線86により構成されている。
上記の導体82aでは、複数の素線86が撚り合わされて構成されているため、各素線86での渦電流の発生が抑えられ、導体82aにおける渦電流の低減を図ることができる。また、各素線86が捻られていることで、1本の素線86において磁界の印加方向が互いに逆になる部位が生じて逆起電圧が相殺される。そのため、やはり渦電流の低減を図ることができる。特に、素線86を繊維状の導電材87により構成することで、細線化することと捻り回数を格段に増やすこととが可能になり、渦電流をより好適に低減することができる。
なお、ここでいう素線86同士の絶縁方法は、前述の高分子絶縁膜に限定されず、接触抵抗を利用し撚られた素線86間で電流を流れにくくする方法であってもよい。すなわち撚られた素線86間の抵抗値が、素線86そのものの抵抗値よりも大きい関係になっていれば、抵抗値の差に起因して発生する電位差により、上記効果を得ることができる。たとえば、素線86を作成する製造設備と、回転電機10の固定子50(電機子)を作成する製造設備とを別の非連続の設備として用いることで、移動時間や作業間隔などから素線86が酸化し、接触抵抗を増やすことができ、好適である。
上述のとおり導線82は、断面が扁平矩形状をなし、径方向に複数並べて配置されるものとなっており、例えば融着層と絶縁層とを備えた自己融着被覆線で被覆された複数の素線86を撚った状態で集合させ、その融着層同士を融着させることで形状を維持している。なお、融着層を備えない素線や自己融着被覆線の素線を撚った状態で合成樹脂等により所望の形状に固めて成形してもよい。導線82における絶縁被膜82bの厚さを例えば80μm~100μmとし、一般に使用される導線の被膜厚さ(5~40μm)よりも厚肉とした場合、導線82と固定子コア52との間に絶縁紙等を介在させることをしなくても、これら両者の間の絶縁性を確保することができる。
また、絶縁被膜82bは、素線86の絶縁層よりも高い絶縁性能を有し、相間を絶縁することができるように構成されていることが望ましい。例えば、素線86の高分子絶縁層の厚さを例えば5μm程度にした場合、導線82の絶縁被膜82bの厚さを80μm~100μm程度にして、相間の絶縁を好適に実施できるようにすることが望ましい。
また、導線82は、複数の素線86が撚られることなく束ねられている構成であってもよい。つまり、導線82は、その全長において複数の素線86が撚られている構成、全長のうち一部で複数の素線86が撚られている構成、全長において複数の素線86が撚られることなく束ねられている構成のいずれかであればよい。まとめると、導線部を構成する各導線82は、複数の素線86が束ねられているとともに、束ねられた素線間の抵抗値が素線86そのものの抵抗値よりも大きい素線集合体となっている。
各導線82は、固定子巻線51の周方向に所定の配置パターンで配置されるように折り曲げ形成されており、これにより、固定子巻線51として相ごとの相巻線が形成されている。図12に示すように、固定子巻線51では、各導線82のうち軸方向に直線状に延びる直線部83によりコイルサイド部53が形成され、軸方向においてコイルサイド部53よりも両外側に突出するターン部84によりコイルエンド54、55が形成されている。各導線82は、直線部83とターン部84とが交互に繰り返されることにより、波巻状の一連の導線として構成されている。直線部83は、磁石部42に対して径方向に対向する位置に配置されており、磁石部42の軸方向外側となる位置において所定間隔を隔てて配置される同相の直線部83同士が、ターン部84により互いに接続されている。なお、直線部83が「磁石対向部」に相当する。
本実施形態では、固定子巻線51が分布巻により円環状に巻回形成されている。この場合、コイルサイド部53では、相ごとに、磁石部42の1極対に対応する間隔で周方向に直線部83が配置され、コイルエンド54、55では、相ごとの各直線部83が、略V字状に形成されたターン部84により互いに接続されている。1極対に対応して対となる各直線部83は、それぞれ電流の向きが互いに逆になるものとなっている。また、一方のコイルエンド54と他方のコイルエンド55とでは、ターン部84により接続される一対の直線部83の組み合わせがそれぞれ相違しており、そのコイルエンド54、55での接続が周方向に繰り返されることにより、固定子巻線51が略円筒状に形成されている。
より具体的には、固定子巻線51は、各相2対ずつの導線82を用いて相ごとの巻線を構成しており、固定子巻線51のうち一方の3相巻線(U相、V相、W相)と他方の3相巻線(X相、Y相、Z相)とが径方向内外の2層に設けられるものとなっている。この場合、固定子巻線51の相数をS(実施例の場合は6)、導線82の一相あたりの数をmとすれば、極対ごとに2×S×m=2Sm個の導線82が形成されることになる。本実施形態では、相数Sが6、数mが4であり、8極対(16極)の回転電機であることから、6×4×8=192の導線82が固定子コア52の周方向に配置されている。
図12に示す固定子巻線51では、コイルサイド部53において、径方向に隣接する2層で直線部83が重ねて配置されるとともに、コイルエンド54、55において、径方向に重なる各直線部83から、互いに周方向逆となる向きでターン部84が周方向に延びる構成となっている。つまり、径方向に隣り合う各導線82では、固定子巻線51の端部を除き、ターン部84の向きが互いに逆となっている。
ここで、固定子巻線51における導線82の巻回構造を具体的に説明する。本実施形態では、波巻にて形成された複数の導線82を、径方向に隣接する複数層(例えば2層)に重ねて設ける構成としている。図15(A)、図15(B)は、n層目における各導線82の形態を示す図であり、図15(A)には、固定子巻線51の側方から見た導線82の形状を示し、図15(B)には、固定子巻線51の軸方向一側から見た導線82の形状を示している。なお、図15(A)、図15(B)では、導線群81が配置される位置をそれぞれD1、D2、D3、…と示している。また、説明の便宜上、3本の導線82のみを示しており、それを第1導線82_A、第2導線82_B、第3導線82_Cとしている。
各導線82_A~82_Cでは、直線部83が、いずれもn層目の位置、すなわち径方向において同じ位置に配置され、周方向に6位置(3×m対分)ずつ離れた直線部83同士がターン部84により互いに接続されている。換言すると、各導線82_A~82_Cでは、いずれも回転子40の軸心を中心とする同一の円上において、固定子巻線51の周方向に隣接して並ぶ7個の直線部83の両端の2つが1つのターン部84により互いに接続されている。例えば第1導線82_Aでは、一対の直線部83がD1、D7にそれぞれ配置され、その一対の直線部83同士が、逆V字状のターン部84により接続されている。また、他の導線82_B、82_Cは、同じn層目において周方向の位置を1つずつずらしてそれぞれ配置されている。この場合、各導線82_A~82_Cは、いずれも同じ層に配置されるため、ターン部84が互いに干渉することが考えられる。そのため本実施形態では、各導線82_A~82_Cのターン部84に、その一部を径方向にオフセットした干渉回避部を形成することとしている。
具体的には、各導線82_A~82_Cのターン部84は、同一の円(第1の円)上で周方向に延びる部分である1つの傾斜部84aと、傾斜部84aからその同一の円よりも径方向内側(図15(B)において上側)にシフトし、別の円(第2の円)に達する頂部84b、第2の円上で周方向に延びる傾斜部84c及び第1の円から第2の円に戻る戻り部84dとを有している。頂部84b、傾斜部84c及び戻り部84dが干渉回避部に相当する。なお、傾斜部84cは、傾斜部84aに対して径方向外側にシフトする構成であってもよい。
つまり、各導線82_A~82_Cのターン部84は、周方向の中央位置である頂部84bを挟んでその両側に、一方側の傾斜部84aと他方側の傾斜部84cとを有しており、それら各傾斜部84a、84cの径方向の位置(図15(A)では紙面前後方向の位置、図15(B)では上下方向の位置)が互いに相違するものとなっている。例えば第1導線82_Aのターン部84は、n層のD1位置を始点位置として周方向に沿って延び、周方向の中央位置である頂部84bで径方向(例えば径方向内側)に曲がった後、周方向に再度曲がることで、再び周方向に沿って延び、さらに戻り部84dで再び径方向(例えば径方向外側)に曲がることで、終点位置であるn層のD7位置に達する構成となっている。
上記構成によれば、導線82_A~82_Cでは、一方の各傾斜部84aが、上から第1導線82_A→第2導線82_B→第3導線82_Cの順に上下に並ぶとともに、頂部84bで各導線82_A~82_Cの上下が入れ替わり、他方の各傾斜部84cが、上から第3導線82_C→第2導線82_B→第1導線82_Aの順に上下に並ぶ構成となっている。そのため、各導線82_A~82_Cが互いに干渉することなく周方向に配置できるようになっている。
ここで、複数の導線82を径方向に重ねて導線群81とする構成において、複数層の各直線部83のうち径方向内側の直線部83に接続されたターン部84と、径方向外側の直線部83に接続されたターン部84とが、それら各直線部83同士よりも径方向に離して配置されているとよい。また、ターン部84の端部、すなわち直線部83との境界部付近で、複数層の導線82が径方向の同じ側に曲げられる場合に、その隣り合う層の導線82同士の干渉により絶縁性が損なわれることが生じないようにするとよい。
例えば図15(A)、図15(B)のD7~D9では、径方向に重なる各導線82が、ターン部84の戻り部84dでそれぞれ径方向に曲げられる。この場合、図16に示すように、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、曲がり部の曲率半径を相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82の曲率半径R1を、径方向外側(n+1層目)の導線82の曲率半径R2よりも小さくする。
また、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、径方向のシフト量を相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82のシフト量S1を、径方向外側(n+1層目)の導線82のシフト量S2よりも大きくする。
上記構成により、径方向に重なる各導線82が同じ向きに曲げられる場合であっても、各導線82の相互干渉を好適に回避することができる。これにより、良好な絶縁性が得られることとなる。
次に、回転子40における磁石部42の極異方構造について説明する。図8及び図9に示すように、磁石部42は、円環状をなし、回転子本体41の内側(詳しくは磁石保持部43の内周側)に設けられている。磁石部42は、ハルバッハ配列と称される磁石配列を用いて構成されている。すなわち、磁石部42は、磁化方向(磁極の向き)を径方向とする第1磁石91と、磁化方向(磁極の向き)を周方向とする第2磁石92とを有しており、周方向に所定間隔で第1磁石91が配置されるとともに、周方向において隣り合う第1磁石の間となる位置に第2磁石92が配置されている。第1磁石91及び第2磁石92は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石からなる永久磁石である。
第1磁石91は、固定子50に対向する側(内周側)の極が交互にN極、S極となるように周方向に互いに離間して配置されている。また、第2磁石92は、各第1磁石91の隣において周方向の磁極の向きが交互に逆向きとなるように配置されている。
また、第1磁石91の外周側、すなわち回転子本体41の磁石保持部43の側には、例えば電磁鋼板や軟鉄、圧粉鉄心材料よりなる磁性体93が配置されている。この場合、磁性体93の周方向の長さ(特に磁性体93の回転子40の径方向内側の辺の周方向の長さ)は第1磁石91の周方向の長さ(特に第1磁石91の回転子40の径方向外側の辺の周方向の長さ)と同じである。また、第1磁石91と磁性体93とを一体化した状態でのその一体物の径方向の厚さは、第2磁石92の径方向の厚さと同じである。換言すれば、第1磁石91は第2磁石92よりも磁性体93の分だけ径方向の厚さが薄くなっている。各磁石91、92と磁性体93とは、例えば接着剤により相互に固着されている。磁石部42において第1磁石91の外周側は、固定子50とは反対側であり、磁性体93は、径方向における第1磁石91の両側のうち、固定子50とは反対側(反固定子側)に設けられている。
次に、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。図17は、回転電機10の制御システムの電気回路図であり、図18は、制御装置77による制御処理を示す機能ブロック図である。
図17では、固定子巻線51として2組の3相巻線51a、51bが示されており、3相巻線51aはU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、3相巻線51bはX相巻線、Y相巻線及びZ相巻線よりなる。3相巻線51a、51bごとに、第1インバータ101と第2インバータ102とがそれぞれ設けられている。インバータ101、102は、相巻線の相数と同数の上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、固定子巻線51の各相巻線において通電電流が調整される。なお、インバータ101、102の各スイッチが、図1等に示す半導体モジュール66に相当する。
各インバータ101、102には、直流電源103と平滑コンデンサ104とが並列に接続されている。直流電源103は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。なお、平滑コンデンサ104が、図1等に示すコンデンサモジュール68に相当する。
制御装置77は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ101、102における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子40の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)が含まれる。制御装置77は、インバータ101、102の各スイッチを操作するための操作信号を生成して出力する。
第1インバータ101は、U相、V相及びW相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。上アームスイッチSpUと下アームスイッチSnUとの間の中間接続点にはU相巻線の一端が、上アームスイッチSpVと下アームスイッチSnVとの間の中間接続点にはV相巻線の一端が、上アームスイッチSpWと下アームスイッチSnWとの間の中間接続点にはW相巻線の一端が、各々接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
第2インバータ102は、第1インバータ101と同様の構成を有しており、X相、Y相及びZ相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。上アームスイッチSpXと下アームスイッチSnXとの間の中間接続点にはX相巻線の一端が、上アームスイッチSpYと下アームスイッチSnYとの間の中間接続点にはY相巻線の一端が、上アームスイッチSpZと下アームスイッチSnZとの間の中間接続点にはZ相巻線の一端が、各々接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点で互いに接続されている。
図18には、U、V、W相の各相電流を制御する制御処理と、X、Y、Z相の各相電流を制御する制御処理とが示されている。ここではまず、U、V、W相側の制御処理について説明する。
制御装置77は、上位の制御装置から入力された指令信号に含まれるトルク指令値で回転電機10を回転させるための上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnの各々の所定導通率の情報と、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnの各々が所定導通率で駆動する所定期間と、の情報を格納している対照表(トルク-導通率、所定期間 対照表)を備えている。具体的に当該対照表は、トルク指令値に対する所定導通率との関係に係る情報、及びトルク指令値に対する所定期間との関係に係る情報を格納する。また、当該対照表において、所定期間の期間開始時点及び期間終了時点は回転子40の磁極位置θに応じて設定されている。なお、対照表は、電流指令値に対する所定導通率との関係に係る情報、及び電流指令値に対する所定期間との関係に係る情報を格納していてもよい。上位の制御装置から入力された指令信号にトルク指令値に代えて電流指令値が含まれている場合には、電流指令値に対する所定導通率との関係に係る情報、及び電流指令値に対する所定期間との関係に係る情報を格納した対照表を用いて所定導通率及び所定期間を決定する。
また、回転電機10に供給する電力の実効電圧は、直流電源103の電圧と所定導通率との関係で変化するので、制御装置77は、上述の対照表を参照して決定した所定導通率を、電圧センサ(図示せず)で検出した直流電源103の電圧(以下、「電源電圧」と略記)に応じて調整してもよい。例えば、電源電圧が基準値よりも高い場合は、決定した所定導通率を小さくし、電源電圧が基準値よりも低い場合は、決定した所定導通率を大きくすることにより、回転電機10に供給する電力の実効電圧を調整する。所定導通率の調整は、一例として、電源電圧と所定導通率との関係を記した電圧対照表を予め備え、当該電圧対照表を用いて行う。
本実施の形態では、導通率は、PWM制御によって生成される電圧の波形の1周期間に対するインバータ101、102のスイッチング素子(上アームスイッチSp、下アームスイッチSn)がオンになったことで生じる1のパルスの時間の割合である。また、PWM制御によって生成される電圧の波形の1周期は、前述の1のパルスの時間と前述のスイッチング素子がオフになりパルスが生じない時間との和である。導通率は、電圧のパルスの時間と電圧の波形の1周期との比であるから、百分率として表現する場合もあるが、本実施の形態では、原則として、導通率は0以上1以下の数値として扱い、数値の直感的な理解を優先する場合は百分率で表現する。
インバータ101、102は、制御装置77によって算出された導通率に従ってインバータ101、102のスイッチング素子である上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnをオンオフさせて各相の巻線に供給する電力を生成する。
制御装置77は、上述の対照表を参照し、入力されたトルク指令値及び回転子40の磁極位置θに応じた導通率及び所定期間を示す操作信号を作成する。所定期間の期間開始時点及び期間終了時点は、回転子40の磁極位置θに応じて決定する。
操作信号の作成に際しては、U相、V相、W相の各相の巻線温度が参酌される。例えば、巻線温度が所定の閾値以上の場合には、巻線温度が所定の閾値未満の場合よりも導通率及び所定期間の少なくとも1つを低下させた操作信号を作成する。巻線温度は、サーミスタ等の温度検知用の素子を用いて取得する。
また、巻線温度が上述の所定の閾値よりも高い所定値以上となった場合には、温度が所定値を下回ってしばらくするまで導通率を一例として0.5に設定するか、全素子(上アームスイッチSp及び下アームスイッチSn)の導通率をゼロに設定する。このように導通率を低下させることにより、回転電機10の負荷を軽減し、巻線の温度を低下させる。
制御装置77は、作成した操作信号をパルスジェネレータ112aに出力する。パルスジェネレータ112aは、操作信号に基づいて、PWM制御で、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnをオンオフさせる矩形波状のPWM信号を生成してドライバ114に出力する。
パルスジェネレータ112aが出力したPWM信号は、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnの各々のスイッチング素子をオンオフさせるには電圧が足りないので、ドライバ114において昇圧される。昇圧されたPWM信号は、駆動信号としてインバータ101に出力される。
以上、U、V、W相側の制御処理について説明した。X、Y、Z相側の制御処理も、パルスジェネレータ112bがPWM信号を生成する点を除けば、U、V、W相側の制御処理と略同じなので、詳細な説明は省略する。
図19は各相に出される導通率指令のタイムチャートである。U、V、W相は電気角度で120度ずつ位相差を持たせ、U相とX相、V相とY相、W相とZ相は電気角度で30度ずつ位相差を持たせている。図19の横軸は、電気角度に対応した時間である。
図19に示したように、時間taで上アームスイッチSpUがオンになり、下アームスイッチSnWがオンになると、U相巻線からW相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間taから電気角度で30度に相当する時間が経過した時間tbで上アームスイッチSpXがオンになり、下アームスイッチSnZがオンになると、X相巻線からZ相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間taから電気角度で120度に相当する時間が経過した時間tcで上アームスイッチSpVがオンになると、U相巻線と共にV巻線からW相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間tcから電気角度で30度に相当する時間が経過した時間tdで上アームスイッチSpYがオンになると、X相巻線と共にY相巻線からZ相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間tcから電気角度で120度に相当する時間が経過した時間teで上アームスイッチSpWがオンになり、下アームスイッチSnUがオンになると、V相巻線と共にW巻線からU相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間teから電気角度で30度に相当する時間が経過した時間tfで上アームスイッチSpZがオンになり、下アームスイッチSnXがオンになると、Y相巻線と共にZ相巻線からX相巻線に直流電源103の電力が通電される。
時間teから電気角度で120度に相当する時間が経過した時間tgで下アームスイッチSnVがオンになると、W相巻線からU相巻線とV相巻線とに直流電源103の電力が通電される。
時間teから電気角度で30度に相当する時間が経過した時間thで下アームスイッチSnYがオンになると、Z相巻線からX相巻線とY相巻線とに直流電源103の電力が通電される。
時間tgから電気角度で120度に相当する時間が経過した時間ti以降は、上述の時間taからの通電が繰り返される。
図20に各相における導通率の変化の詳細を示す。基本単位は電気角度で360毎の繰り返しとなり、指令値が変化するまでは同じ状態を繰り返す。導通率はゼロから1.0の間の任意の値をとる。期間(t0~t1)は導通率0.5の休止期間である。導通率0.5とは上アームスイッチSpと下アームのトランジスタが相補的に導通率0.5ずつで断続している平衡状態なので巻線の平均電流はゼロである。なお、スイッチング周波数は全期間を通じて一定値であり、例えば50kHzに設定してある。固定子巻線51に鉄心等の磁性物質で構成された芯部であるティースが存在しないのでインダクタンスが極めて小さく巻線の時定数が0.2msec以下となるため十分速い周波数で駆動する必要がある。なお、ティースレスの場合、固定子巻線51の導体間に空隙を設けることが一般的だが、空隙に代えて、アルミニウム又は樹脂等の非磁性物質で構成された芯部を有してもよい。
本実施の形態では、固定子巻線51にティースが存在しないことにより、十分速い周波数で駆動する必要がある反面、固定子巻線51に鎖交する磁束は空隙中を無拘束に流れることになり、仮に固定子巻線51の電流波形が乱れていても鎖交磁束は滑らかに変化するので、後述するように、回転電機10の騒音振動はそれほど問題とならない。
指令値dutyは今、所定のトルクを出力するのに必要な導通率であり、性能測定に基づいて予め決定されて格納されている。期間(t1~t2)は導通率0.5~dutyの値に変化させる徐変期間である。この期間が長いとレスポンスが悪くなるので適度に早く立ち上げるのがよい。期間(t2~t3)は所定導通率であるdutyの値で駆動する所定期間であり、上アームスイッチSpの導通率がdutyであり、下アームスイッチSnの導通率は1-dutyで相補的に駆動される。
相補的な駆動とは、一例としてU相の場合、上アームスイッチSpUが所定導通率であるdutyでオンオフを繰り返している際に、下アームスイッチSnUが導通率1-dutyで、上アームスイッチSpUとは相補的にオンオフを繰り返すことをいう。具体的には、上アームスイッチSpUがオンの際には、下アームスイッチSnUはオフであり、上アームスイッチSpUがオフの際には、下アームスイッチSnUはオンになる。
図21は、相補的な駆動における上アームスイッチSpU及び下アームスイッチSnUの動作の一例を示した説明図である。本実施の形態では、電圧の波形の1周期を「1」とした場合の上アームスイッチSpUの導通率はdutyであり、上アームスイッチSpUに対して相補的に動作する下アームスイッチSnUの導通率は1-dutyとなる。しかしながら、上アームスイッチSpU及び下アームスイッチSnUが同時にオンになると、インバータ101、102が損傷するので、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnの同時オンを防止するために、所謂微小なデッドタイムを設定する。その結果、厳密には、上アームスイッチSpUの導通率はdutyよりもわずかに小さな値であり、下アームスイッチSnUの導通率は1-dutyよりもわずかに小さな値となるが、本実施の形態では、説明を簡略化するために、便宜上、上アームスイッチSpUの導通率はduty、下アームスイッチSnUの導通率は1-dutyとする。また、図21では、U相について説明したが、他のV相、W相、及びX相、Y相、Z相も、相補的な駆動の動作はU相の場合と同様なので、詳細な説明は省略する。
相補的な駆動において、上アームスイッチSpUがオンになった結果、U相巻線には渦電流が生じ得るが、上アームスイッチSpUがオフになったタイミングで下アームスイッチSnUをオンにすることにより、発生した渦電流を直流電源103の負極端子(グランド)に逃がすことができるので、導通損失を極少化できる。
期間(t2~t3)において、上アームスイッチSpの所定導通率はdutyで一定であり、かつ下アームスイッチSnの導通率は1-dutyで一定である。本実施の形態では、上アームスイッチSpの所定導通率と、下アームスイッチSnの導通率とを、所定期間(t3-t2)等において各々一定とする制御を、高周波導通率一定制御と呼称する。
なお、所定期間(t3-t2)は電気角度で120度以上、180度未満と設定する。120度未満だと各相に未通電期間が発生しトルク性能を発揮できないばかりかトルク脈動を生じさせる。180度以上となると上アームスイッチSpと下アームスイッチSnが同時にオンする状態が発生しインバータ101、102が直流電源103と短絡する為、これを回避しなければならない。
期間(t3~t4)は導通率をdutyから0.5に徐変する期間であり、期間(t4~t5)は導通率が0.5の休止期間である。
期間(t5~t6)は導通率を0.5~1-dutyに徐変する期間であり、期間(t6~t7は導通率を所定の1-dutyで駆動する期間である。上アームスイッチSpの導通率が1-dutyで駆動され、下アームスイッチSnの導通率がdutyで駆動される、上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとが相補的に駆動される期間である。この所定期間(t7-t6)は所定期間(t3-t2)に等しく設定すればよい。期間(t7~t8)は導通率を1-dutyから0.5に徐変する期間である。
一連の期間につき、(t4-t0)を180度、(t8-t0)を360度に設定することが前提である。なお、実際の運用では、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnの同時オンを防止するために、前述の相補的な駆動の場合と同様に、所謂微小なデッドタイムを設定するので、例えば導通率が0.5の状態でも厳密には導通率が0.49などといった微小な休止期間を設けることが一般的である。
トルクを増やしたい場合はduty値を大きく、所定期間(t3-t2)を120度以上、180度未満の範囲内で長くすればよい。duty値及び所定期間(t3-t2)の長さは、各々、独立に設定しても、従属的に設定してもよい。従属的な設定とは、例えば、duty値を大きくする場合に、所定期間(t3-t2)の長さを長くする、又は所定期間(t3-t2)の長さを長くする場合に、duty値を大きくする、という設定である。
図20では、所定期間(t3-t2)及び所定期間(t3-t2)に後続する所定期間(t7-t6)を180度期間単位で対称的、すなわち所定期間(t7-t6)と所定期間(t3-t2)とを等長に設定している。かかる設定により、回転電機10を安定かつ静粛に運転できるとともに、上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnを相補的に駆動するので、導通損失が極少化できる。しかしながら、騒音振動が気にならない装置であれば、所定期間(t7-t6)と所定期間(t3-t2)とを不等に設定することも可能である。
図22は、トルクと所定期間長との対応関係の一例を示した説明図である。図22に示すように、トルクを増大させる場合には、図20の所定期間(t3-t2)の長さを長くする。図22では、トルクと所定期間長とには比例関係が存在するが、一般の回転電機では、かかる態様に限定されない。回転電機の仕様によっては、トルクと所定期間長との関係は非線形的でもよく、具体的な態様は、回転電機の仕様に応じて決定する。
図23に従来の中周波PWM制御と本実施の形態に係る本願の高周波導通率一定制御の比較を示す。回転電機10は巻線の時定数が200μ秒のものを使用した。図23(A)はスイッチング周波数10kHzの正弦波PWM制御を適用した結果、図23(B)はスイッチング周波数50kHz、上アームスイッチSpの導通率は0.75(下アームスイッチSnの導通率は0.25)、導通率一定期間は電気角度で120度の高周波導通率一定制御を適用した結果である。
図23(A)に示したように、PWM制御は逐次電流フィードバックを実施しているので比較的正弦波に近いエンベロープが得られるものの、スイッチング毎の電流脈動が大きく、しかも周波数が大きいためインバータやモータ鉄心での損失が大きい。これ以上スイッチング周波数を上げてゆくと、電流センサの検出値のA/D変換が速いスイッチング周波数に対応できず、電流制御性が損なわれてしまう。
一方、本実施の形態では、図23(B)に示したように、電流センサの検出値をA/D変換して使用する電流フィードバック制御を適用する必要が無いため、低次の電流歪は発生しているものの、スイッチング毎の電流脈動は電流フィードバック制御を伴ったPWM制御に比べて1/10程度に抑制できており、高周波の損失は抑制できる。
なお、制御装置77は、高周波導通率一定制御のみを実施可能な構成に限定されない。言い換えると、制御装置77は、高周波導通率一定制御に加えて、高周波導通率一定制御を使用しない場合に、電流フィードバック制御を実施しても良い。電流フィードバック制御を実施する場合には、電流センサやA/D変換器が必要となるものの、冗長性を高めたり、状況に応じた制御方法の使い分けが可能になる。
図23(B)における低次の電流歪は、低次の高調波によって生じている。しかしながら、低次の高調波が原因の低次の電流歪は、実用上さほどの問題とはならない。理由は、固定子50にはティースが存在しないので空隙中の比透磁率がほぼ1.0となっており、磁束の流れに空間的拘束力がないため、当該磁束は空隙を自在に流れ、適度に均等化される。その結果、巻線に鎖交する磁束波形は滑らかになり、低次の電流歪による振動騒音は、さほど気にならなくなるためである。
図24は、本実施の形態における通電制御の処理の一例を示したフローチャートである。ステップ170では、制御装置77の上位の制御装置から指令信号が制御装置77に入力されたか否かを判定し、指令信号が入力された場合は、手順をステップ172に移行し、指令信号が入力されない場合は、処理をリターンする。
ステップ172では、回転子40の位置情報である磁極位置θを取得する。磁極位置θは、レゾルバ、TMRセンサ又はホールセンサ等の角度検出器が出力した信号から抽出される。そして、ステップ174では、角度検出器等が出力した信号に基づいて、回転子40の回転速度を取得する。
ステップ176では、巻線の温度情報を取得する。温度情報は、サーミスタ等の温度検知用の素子を用いて取得する。そして、ステップ178では直流電源103の電源電圧を取得する。
ステップ180では、所定期間及び所定導通率を決定する。所定期間及び所定導通率は、上述の対照表を参照して決定し、例えば、上位の制御装置から入力された指令信号が示すトルク指令値が大きければ所定期間を長くすると共に所定導通率を大きくし、当該トルク指令値が小さければ所定期間を短くすると共に所定導通率を小さくする。所定期間の期間開始時点及び期間終了時点は、ステップ172で取得した回転子40の磁極位置θに応じて決定する。所定期間の期間開始時点及び期間終了時点を含む位相の変化は、ステップ174で取得した回転速度に応じて決定する。対照表を用いて決定した所定導通率は、ステップ178で取得した電源電圧に応じて調整する。また、所定導通率の調整は、前述のように、電源電圧と所定導通率との関係を記した電圧対照表を用いて行う。さらに、ステップ176で取得した巻線温度が所定の閾値以上の場合には、巻線温度が所定の閾値未満の場合よりも導通率及び所定期間の少なくとも1つを低下させる。
ステップ182では、入力されたトルク指令値、巻線温度及び電源電圧に応じた導通率及び所定期間を示し、回転子40の磁極位置θ及び回転子40の回転速度に応じた位相を示す操作信号を作成する。そして、ステップ184では、生成した操作信号をパルスジェネレータ112a、112bに出力して処理をリターンする。
以上説明したように、本実施の形態によれば、図20に示した所定期間(t3-t2)等において、上アームスイッチSpの所定導通率を一定にすると共に、上アームスイッチSpに対して相補的に動作する下アームスイッチSnの導通率を一定とすることにより、インバータ101、102によるスイッチング毎の電流脈動が抑制される。
さらに、本実施の形態によれば、上アームスイッチSpの所定導通率を一定にすると共に、上アームスイッチSpに対して相補的に動作する下アームスイッチSnの導通率を一定とすることにより、電流センサに依拠した電流フィードバック制御を要しないので、スイッチング動作のさらなる高速化が可能であり、スイッチング毎の電流脈動が抑制され得る高周波導通率一定制御が可能となる。
その結果、本実施の形態によれば、ティースレス巻線の回転電機において安定した回転制御が可能な回転電機の制御装置及び回転電機の制御方法を得ることができる。
[第2の実施の形態]
続いて、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、直流電源103とインバータ101、102との間に電圧調整器212を挿入した点で第1の実施の形態と相違するが、電圧調整器212及び制御装置177以外の構成は第1の実施の形態と同一なので、第1の実施の形態と同一の構成については、第1の実施の形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図25に本実施の形態に係る制御システムの回路構成を示す。図26に示すように、電圧調整器212はリアクトル214と直流電源103側のスイッチング素子216及びインバータ101側のスイッチング素子218の各々のスイッチング素子からなるチョッパ回路、いわゆるHブリッジ型の昇降圧コンバータである。また、電圧調整器212のインバータ側出力端は、平滑コンデンサ204で短絡されている。
電圧調整器212の出力電圧は、各々のスイッチング素子の導通率で確定できる。Hブリッジ型昇降圧コンバータ自体は公知なので詳しい動作原理の説明は割愛し、このブリッジ回路を本実施の形態にどのように活用するかを説明する。
本実施の形態では、図20に示したような所定期間(t3-t2)において、インバータ101、102側の各々のスイッチング素子はスイッチングを実施せず、いわゆる矩形波電圧駆動を行う。つまり上アームスイッチSpの導通率dutyが1.0の状態を最大電気角度で180度期間まで継続させる。180度後に上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnを反転させて、残りの180度期間は下アームスイッチSnの導通率(1-duty)を1.0と制御するので、上アームスイッチSpの導通率はduty=0.0と制御する。この状態だと電源電圧が巻線インピーダンスで終端されることとなり、過大な電流が流れることとなるから、巻線への印加電圧を電圧調整器212で然るべき電流値になるように調整する。然るべき電流値及び印加すべき電圧は、制御装置177に格納された対照表を用いて制御する。制御装置177は、当該対照表を参照しながら逐次電圧制御を実施する。対照表は、一例として、トルク指令値又は電流指令値に対して電圧調整器212が出力する電圧値を回転子40の所定の回転数毎に設定したものである。
巻線の時定数が十分に小さいため、導通率1(百分率では100%)のスイッチオン直後の電流の流れ方はLR回路(積分回路)のステップ応答となり、若干立ち上がりが遅れるものの、最終到達電流値は印加電圧をVt、巻線の抵抗値をRとすると Vt/R というオームの法則に則った値となる。つまりは流しうる電流値はVtで決定されるので、このVtを流すべき電流に応じてあらかじめ決定しておけばよい。
線間電圧には最大で電圧調整器212の出力電圧であるVtが印加される。固定子巻線51が3相のY結線であるならば、相電圧はVt/1.732の電圧が印加されるので、相電流の到達値はVt/1.732Rとなる。なお、巻線抵抗は通電による自己発熱により変化するので温度検出器などを用いて温度を検出し電圧の補正を掛けてもよい。
電圧調整器212のスイッチングは100kHz程度で実施することが近年報告されている。電動機巻線と異なり単相巻線でリアクトル214の小型化を指向したいので、スイッチング周波数を高くして小型化を図る。またリアクトル214のコア材料も超高周波指向に振った専用の材料が開発されており、かかるコア材料をリアクトル214に採用することにより、電力変換効率が向上し得る。
本実施の形態では、電圧調整器212による電圧調整と、インバータ101、102による3相駆動とを分離して専用設計したことにより、巻線に供給する電力のトータルでの電力変換効率が良好となる。
また、本実施の形態では、インバータ101、102側ではスイッチング素子はスイッチングしないのでスイッチング損失が発生せず、サージ電圧も抑制可能である。インバータ101、102側は、電流検出も、正弦波PWM制御で巻線に印加する電圧の位相決定に係るDQ変換も、必要ないので演算負荷が軽減できる。
図27は、本実施の形態における回転電機10に供給される電流の波形の一例を示した説明図である。電流フィードバック制御を伴わない本実施の形態の電流の波形は、図27に示したように、細かな電流脈動はゼロとなっている。
低次の高調波は、図23(B)に示した第1の実施の形態よりも大きくなっているものの、本実施の形態の固定子50にはティースが存在しないので空隙中の比透磁率がほぼ1.0となっており、磁束の流れに空間的拘束力がないため、当該磁束は空隙を自在に流れ、適度に均等化されるため、巻線に鎖交する磁束波形は滑らかになる。従って、図27に示された程度の含入率では、振動騒音はさほど気にならなくなる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、図20に示したような所定期間(t3-t2)において、インバータ101、102側の各々のスイッチング素子はスイッチングを実施せず、いわゆる矩形波電圧駆動を行うと共に、電流フィードバック制御及びDQ変換を廃することにより、インバータ101、102によるスイッチング毎の電流脈動が抑制される。
本実施の形態によれば、電流センサに依拠した電流フィードバック制御及びDQ変換を要しないので、制御装置177の演算負荷を低減でき、スイッチング動作のさらなる高速化が可能であり、ティースレスによって巻線が低インダクタンス化された回転電機10の回転制御を円滑に行うことができる。
その結果、本実施の形態によれば、ティースレス巻線の回転電機において安定した回転制御が可能な回転電機の制御装置及び回転電機の制御方法を得ることができる。
尚、第1の実施の形態及び第2の実施の形態はアウタロータ型で示したが、勿論インナロータ型に適用してもよい。
(変形例)
上記第1の実施形態及び第2の実施の形態では、固定子コア52の外周面を凹凸のない曲面状とし、その外周面に所定間隔で複数の導線群81を並べて配置する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、図28に示すように、固定子コア52は、固定子巻線51の径方向両側のうち回転子40とは反対側(図の下側)に設けられた円環状のヨーク141と、そのヨーク141から、周方向に隣り合う直線部83の間に向かって突出するように延びる突起部142とを有している。突起部142は、ヨーク141の径方向外側、すなわち回転子40側に所定間隔で設けられている。固定子巻線51の各導線群81は、突起部142と周方向において係合しており、突起部142を導線群81の位置決め部として用いつつ周方向に並べて配置されている。なお、突起部142が「導線間部材」に相当する。
突起部142は、ヨーク141からの径方向の厚さ寸法、言い換えれば、図28に示すように、ヨーク141の径方向において、直線部83のヨーク141に隣接する内側面320から突起部142の頂点までの距離Wが、径方向内外の複数層の直線部83のうち、ヨーク141に径方向に隣接する直線部83の径方向の厚さ寸法の1/2(図のH1)よりも小さい構成となっている。言い換えれば、固定子巻線51(固定子コア52)の径方向における導線群81(伝導部材)の寸法(厚み)T1(導線82の厚みの2倍、言い換えれば、導線群81の固定子コア52に接する面320と、導線群81の回転子40に向いた面330との最短距離)の4分の3の範囲は非磁性部材(封止部材57)が占有していればよい。こうした突起部142の厚さ制限により、周方向に隣り合う導線群81(すなわち直線部83)の間において突起部142がティースとして機能せず、ティースによる磁路形成がなされないようになっている。突起部142は、周方向に並ぶ各導線群81の間ごとに全て設けられていなくてもよく、周方向に隣り合う少なくとも1組の導線群81の間に設けられていればよい。例えば、突起部142は、周方向において各導線群81の間の所定数ごとに等間隔で設けられているとよい。突起部142の形状は、矩形状、円弧状など任意の形状でよい。
また、固定子コア52の外周面では、直線部83が一層で設けられていてもよい。したがって、広義には、突起部142におけるヨーク141からの径方向の厚さ寸法は、直線部83における径方向の厚さ寸法の1/2よりも小さいものであればよい。
なお、回転軸11の軸心を中心とし、かつヨーク141に径方向に隣接する直線部83の径方向の中心位置を通る仮想円を想定すると、突起部142は、その仮想円の範囲内においてヨーク141から突出する形状、換言すれば仮想円よりも径方向外側(すなわち回転子40側)に突出しない形状をなしているとよい。
上記構成によれば、突起部142は、径方向の厚さ寸法が制限されており、周方向に隣り合う直線部83の間においてティースとして機能するものでないため、各直線部83の間にティースが設けられている場合に比べて、隣り合う各直線部83を近づけることができる。これにより、導体82aの断面積を大きくすることができ、固定子巻線51の通電に伴い生じる発熱を低減することができる。かかる構成では、ティースがないことで磁気飽和の解消が可能となり、固定子巻線51への通電電流を増大させることが可能となる。この場合において、その通電電流の増大に伴い発熱量が増えることに好適に対処することができる。また、固定子巻線51では、ターン部84が、径方向にシフトされ、他のターン部84との干渉を回避する干渉回避部を有することから、異なるターン部84同士を径方向に離して配置することができる。これにより、ターン部84においても放熱性の向上を図ることができる。以上により、固定子50での放熱性能を適正化することが可能になっている。
また、固定子コア52のヨーク141と、回転子40の磁石部42(すなわち各磁石91、92)とが所定距離以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図28のH1に縛られるものではない。具体的には、ヨーク141と磁石部42とが2mm以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図28のH1以上であってもよい。例えば、直線部83の径方向厚み寸法が2mmを越えており、かつ導線群81が径方向内外の2層の導線82により構成されている場合に、ヨーク141に隣接していない直線部83、すなわちヨーク141から数えて2層目の導線82の半分位置までの範囲で、突起部142が設けられていてもよい。この場合、突起部142の径方向厚さ寸法が「H1×3/2」までになっていれば、導線群81における導体断面積を大きくすることで、前記効果を少なからず得ることはできる。
また、固定子コア52は、図29に示す構成であってもよい。なお、図29では、封止部材57を省略しているが、封止部材57が設けられていてもよい。図29では、便宜上、磁石部42及び固定子コア52を直線状に展開して示している。
図29の構成では、固定子50は、周方向に隣接する導線82(すなわち直線部83)の間に、導線間部材としての突起部142を有している。固定子50は、固定子巻線51が通電されると、磁石部42の磁極の1つ(N極、またはS極)とともに磁気的に機能し、固定子50の周方向に延びる一部分350を有する。この部分350の固定子50の周方向への長さをWnとすると、この長さ範囲Wnに存在する突起部142の合計の幅(すなわち、固定子50の周方向への合計の寸法であると共に、回転子の1磁極に対する導線間の周方向の幅寸法)をWtとし、突起部142の飽和磁束密度(又は導線間部材の飽和磁束密度)をBs、磁石部42の1極分の周方向の幅寸法をWm、磁石部42の残留磁束密度をBrとする場合、突起部142は、下記の式(1)を満たす磁性材料により構成されている。
Wt×Bs≦Wm×Br …(1)
なお、範囲Wnは、周方向に隣接する複数の導線群81であって、励磁時期が重複する複数の導線群81を含むように設定される。その際、範囲Wnを設定する際の基準(境界)として、導線群81の間隙56の中心を設定することが好ましい。例えば、図29に例示する構成の場合、周方向においてN極の磁極中心からの距離が最も短いものから順番に、4番目までの導線群81が、当該複数の導線群81に相当する。そして、当該4つの導線群81を含むように範囲Wnが設定される。その際、範囲Wnの端(起点と終点)が間隙56の中心とされている。
図29において、範囲Wnの両端には、それぞれ突起部142が半分ずつ含まれていることから、範囲Wnには、合計4つ分の突起部142が含まれている。したがって、突起部142の幅(すなわち、固定子50の周方向における突起部142の寸法、言い換えれば、隣接する導線群81の間隔)をAとすると、範囲Wnに含まれる突起部142の合計の幅は、Wt=1/2A+A+A+A+1/2A=4Aとなる。
詳しくは、本実施形態では、固定子巻線51の3相巻線が分布巻であり、その固定子巻線51では、磁石部42の1極に対して、突起部142の数、すなわち各導線群81の間となる間隙56の数が「相数×Q」個となっている。ここでQとは、1相の導線82のうち固定子コア52と接する数である。なお、導線82が回転子40の径方向に積層された導線群81である場合には、1相の導線群81の内周側の導線82の数であるともいえる。この場合、固定子巻線51の3相巻線が各相所定順序で通電されると、1極内において2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石部42の1極分の範囲Wmにおいて固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の合計幅寸法Wtは、突起部142(つまり、間隙56)の周方向の幅寸法をAとすると、「励磁される相数×Q×A=2×2×A」となる。
そして、こうして合計幅寸法Wtが規定された上で、固定子コア52において、突起部142が、上記式(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、合計幅寸法Wtは、1極内において比透磁率が1よりも大きくなりえる部分の周方向寸法でもある。また、余裕を考えて、合計幅寸法Wtを、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法としてもよい。具体的には、磁石部42の1極に対する突起部142の数が「相数×Q」であることから、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法(合計幅寸法Wt)を、「相数×Q×A=3×2×A=6A」としてもよい。
なお、ここでいう分布巻とは、磁極の1極対周期(N極とS極)で、固定子巻線51の一極対があるものである。ここでいう固定子巻線51の一極対は、電流が互いに逆方向に流れ、ターン部84で電気的に接続された2つの直線部83とターン部84からなる。上記条件みたすものであれば、短節巻(Short Pitch Winding)であっても、全節巻(Full Pitch Winding)の分布巻の均等物とみなす。
次に、集中巻の場合の例を示す。ここでいう集中巻とは、磁極の1極対の幅と、固定子巻線51の一極対の幅とが異なるものである。集中巻の一例としては、1つの磁極対に対して導線群81が3つ、2つの磁極対に対して導線群81が3つ、4つの磁極対に対して導線群81が9つ、5つの磁極対に対して導線群81が9つのような関係であるものが挙げられる。
ここで、固定子巻線51を集中巻とする場合には、固定子巻線51の3相巻線が所定順序で通電されると、2相分の固定子巻線51が励磁される。その結果、2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石部42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の幅寸法Wtは、「A×2」となる。そして、こうして幅寸法Wtが規定された上で、突起部142が、上記式(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、上記で示した集中巻の場合は、同一相の導線群81に囲まれた領域において、固定子50の周方向にある突起部142の幅の総和をAとする。また、集中巻におけるWmは「磁石部42のエアギャップに対向する面の全周」×「相数」÷「導線群81の分散数」に相当する。
ちなみに、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石、フェライト磁石といったBH積が20[MGOe(kJ/m3)]以上の磁石ではBd=1.0強[T]、鉄ではBr=2.0強[T]である。そのため、高出力モータとしては、固定子コア52において、突起部142が、Wt<1/2×Wmの関係を満たす磁性材料であればよい。
また、後述するように導線82が外層被膜182を備える場合には、導線82同士の外層被膜182が接触するように、導線82を固定子コア52の周方向に配置しても良い。この場合は、Wtは、0又は接触する両導線82の外層被膜182の厚さ、と看做すことができる。
図28や図29の構成では、回転子40側の磁石磁束に対して不相応に小さい導線間部材(突起部142)を有する構成となっている。なお、回転子40は、インダクタンスが低くかつ平坦な表面磁石型ロータであり、磁気抵抗的に突極性を有していないものとなっている。かかる構成では、固定子50のインダクタンス低減が可能となっており、固定子巻線51のスイッチングタイミングのずれに起因する磁束歪みの発生が抑制され、ひいては軸受21、22の電食が抑制される。
(他の変形例)
上記以外の変形例を以下に列記する。
磁石部42のうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。具体的には、例えば、図4に示す磁石部42(具体的には、第1、第2磁石91、92)のうち径方向内側の面と、回転子40の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。
スロットレス構造の回転電機としては、その出力が数十Wから数百W級の模型用などに使用される小規模なものが知られている。そして、一般的には10kWを超すような工業用の大型の回転電機でスロットレス構造が採用された事例を本願発明者は把握していない。その理由について本願発明者は検討した。
近年主流の回転電機は、次の4種類に大別される。それら回転電機とは、ブラシ付きモータ、カゴ型誘導モータ、永久磁石式同期モータ及びリラクタンスモータである。
ブラシ付きモータには、ブラシを介して励磁電流が供給される。このため、大型機のブラシ付きモータの場合、ブラシが大型化したり、メンテナンスが煩雑になったりしたりする。これにより、半導体技術の目覚ましい発達に伴い、誘導モータ等のブラシレスモータに置換されてきた経緯がある。一方、小型モータの世界では、低い慣性及び経済性の利点から、コアレスモータも多数世の中に供給されている。
カゴ型誘導モータでは、1次側の固定子巻線で発生させる磁界を2次側の回転子の鉄心で受けてカゴ型導体に集中的に誘導電流を流して反作用磁界を形成することにより、トルクを発生させる原理である。このため、機器の小型高効率の観点からすれば、固定子側及び回転子側ともに鉄心をなくすことは必ずしも得策であるとは言えない。
リラクタンスモータは、当に鉄心のリラクタンス変化を活用するモータであり、原理的に鉄心をなくすことは望ましくない。
永久磁石式同期モータでは、近年IPM(つまり埋め込み磁石型回転子)が主流であり、特に大型機においては、特殊事情がない限りIPMである場合が多い。
IPMは、磁石トルク及びリラクタンストルクを併せ持つ特性を有しており、インバータ制御により、それらトルクの割合が適時調整されながら運転される。このため、IPMは小型で制御性に優れるモータである。
本願発明者の分析により、磁石トルク及びリラクタンストルクを発生する回転子表面のトルクを、磁石部のうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DM、すなわち、一般的なインナロータの固定子鉄心の半径を横軸にとって描くと図30に示すものとなる。
磁石トルクは、下記の式(2)に示すように、永久磁石の発生する磁界強度によりそのポテンシャルが決定されるのに対し、リラクタンストルクは、下記の式(3)に示すように、インダクタンス、特にq軸インダクタンスの大きさがそのポテンシャルを決定する。下記の式(2)、(3)における、Ψは永久磁石の磁束量、Iqはq軸電流、Idはd軸電流、Lqは巻線のq軸インダクタンス、Ldは巻線のd軸インダクタンス、そしてkは定数である。
磁石トルク=k・Ψ・Iq …(2)
リラクタンストルク=k・(Lq-Ld)・Iq・Id …(3)
ここで、永久磁石の磁界強度と巻線のq軸インダクタンスLqの大きさとを磁石直径DMで比較してみた。永久磁石の発する磁界強度、すなわち磁束量Ψは、固定子と対向する面の永久磁石の総面積に比例する。円筒型の回転子であれば円筒の表面積になる。厳密には、N極とS極とが存在するので、円筒表面の半分の専有面積に比例する。円筒の表面積は、円筒の半径と、円筒長さとに比例する。つまり、円筒長さが一定であれば、円筒の半径に比例する。
一方、巻線のq軸インダクタンスLqは、鉄心形状に依存はするものの感度は低く、むしろ固定子巻線の巻数の2乗に比例するため、巻数の依存性が高い。なお、μを磁気回路の透磁率、Nを巻数、Sを磁気回路の断面積、δを磁気回路の有効長さとする場合、インダクタンスL=μ・N2×S/δである。巻線の巻数は、巻線スペースの大きさに依存するため、円筒型モータであれば、固定子の巻線スペース、すなわちスロット面積に依存することになる。図31に示すように、スロット面積は、スロットの形状が略四角形であるため、周方向の長さ寸法a及び径方向の長さ寸法bとの積a×bに比例する。
スロットの周方向の長さ寸法は、円筒の直径が大きいほど大きくなるため、円筒の直径に比例する。スロットの径方向の長さ寸法は、当に円筒の直径に比例する。つまり、スロット面積は、円筒の直径の2乗に比例する。また、上記の式(3)からも分かる通り、リラクタンストルクは、固定子電流の2乗に比例するため、いかに大電流を流せるかで回転電機の性能が決まり、その性能は固定子のスロット面積に依存する。以上より、円筒の長さが一定なら、リラクタンストルクは円筒の直径の2乗に比例する。このことを踏まえ、磁石トルク及びリラクタンストルクとDMとの関係性をプロットした図が図30である。
図30に示すように、磁石トルクはDMに対して直線的に増加し、リラクタンストルクはDMに対して2次関数的に増加する。DMが比較的小さい場合は磁石トルクが支配的であり、固定子鉄心半径が大きくなるに連れてリラクタンストルクが支配的であることがわかる。本願発明者は、図30における磁石トルク及びリラクタンストルクの交点が、所定の条件下において、おおよそ固定子鉄心半径=50mmの近傍であるとの結論に至った。つまり、固定子鉄心半径が50mmを十分に超えるような10kW級のモータでは、リラクタンストルクを活用することが現在の主流であるため鉄心を無くすことは困難であり、このことが大型機の分野においてスロットレス構造が採用されない理由の1つであると推定される。
スロットレス構造の大型機でトルクを向上させるには、回転子の磁極数を、例えば32極又は48極等のように多くすることが考えられる。かかる磁極数の回転子に、従来並みの巻き数の巻線を適用すると、低電流でも所望のトルクで回転でき、省電力を図ることができる。
しかしながら、多磁極数の回転子と従来並みの巻き数の巻線を備えた回転電機は、当該巻線への誘起電圧が過大となって従来の電力機器では運転が困難になるという問題が生じる。
そこで、スロットレス構造の巻線の巻き数を従来よりも少なくすると共に、従来並みの電流で駆動することにより省電力を図るということが考えられた。しかしながら、スロットレス構造で巻線の巻き数を下げると巻線のインダクタンスが劇的に低減してしまい、巻線の時定数が小さくなりすぎてスイッチング制御の電流フィードバックを基本とするブラシレスモータでは安定な運転ができないというおそれがある。
固定子に鉄心が使用される回転電機の場合、鉄心の磁気飽和が常に課題となる。特にラジアルギャップ型の回転電機では、回転軸の縦断面形状は1磁極当たり扇型となり、機器内周側程磁路幅が狭くなりスロットを形成するティース部分の内周側寸法が回転電機の性能限界を決める。いかに高性能な永久磁石を使おうとも、この部分で磁気飽和が発生すると、永久磁石の性能を十分にひきだすことができない。この部分で磁気飽和を発生させないためには、内周径を大きく設計することになり結果的に機器の大型化に至ってしまうのである。
例えば、分布巻の回転電機では、3相巻線であれば、1磁極あたり3つ乃至6つのティースで分担して磁束を流すのだが、周方向前方のティースに磁束が集中しがちであるため、3つ乃至6つのティースに均等に磁束が流れるわけではない。この場合、一部(例えば1つ又は2つ)のティースに集中的に磁束が流れながら、回転子の回転に伴って磁気飽和するティースも周方向に移動してゆく。これがスロットリップルを生む要因にもなる。
以上から、DMが50mm以上(特許請求の範囲の記載では「最外径が100mm以上」)なるスロットレス構造の回転電機において、磁気飽和を解消するために、ティースを廃止したい。しかし、ティースが廃止されると、回転子及び固定子における磁気回路の磁気抵抗が増加し、回転電機のトルクが低下してしまう。磁気抵抗増加の理由としては、例えば、回転子と固定子との間のエアギャップが大きくなることがある。このため、上述したDMが50mm以上となるスロットレス構造の回転電機において、トルクを増強することについて改善の余地がある。したがって、上述したDMが50mm以上となるスロットレス構造の回転電機に、上述したトルクを増強できる構成を適用するメリットが大きい。
なお、アウタロータ構造の回転電機に限らず、インナロータ構造の回転電機についても、磁石部のうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。