JP7058858B2 - 脂質二重膜形成器具及びそれを用いた脂質二重膜形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、脂質二重膜形成器具及びそれを用いた脂質二重膜形成方法に関する。
生物を構成する細胞や、細胞内に存在するミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体等の各種オルガネラ、細胞核等は、外側が生体膜で覆われており、この生体膜は、基本的に脂質二重膜から構成されている。生理活性を有する様々なタンパク質、すなわち、レセプターや酵素等がこの脂質二重膜を貫通する形で脂質二重膜上に保持されている。これらの膜貫通タンパク質は、生体内で重要な役割を果たしている。特に、細胞膜上に存在する各種レセプターは、生体内に存在するリガンドと結合することにより、様々な生理学的反応を引き起こす引き金になることがわかっている。このため、レセプターの機能を亢進する各種リガンドや、レセプターの機能を阻害する阻害剤等が医薬品として用いられており、また、新たな医薬品として利用可能な天然又は人工のリガンドや阻害剤が研究されている。
また、脂質二重膜にタンパク質を保持してセンサーとして利用することも知られている。例えば、脂質二重膜に嗅覚レセプタータンパク質を保持して臭気センサーとしたり、液滴接触法で脂質二重膜を形成する際の液滴中に、被検物質と特異的に結合する特異結合性物質を含ませ、一方、脂質二重膜にイオンチャネルタンパクを保持して、被検物質が存在する場合には被検物質が特異結合性物質と結合してイオンチャネルを閉塞するようにしたセンサーも知られている(特許文献1)。特許文献1には、空気中に存在する被検物質を検出しやすくするために、液滴接触法において接触させる一方の液滴をヒドロゲルとすることも記載されている。
一方、特許文献2には、液滴接触法により接触させた2つの液滴を機械的に分離し、次いで一方の液滴を移動させて異なる液滴と再度接触させて脂質二重膜を形成させることにより、接触させる液滴を交換することが可能な脂質二重膜形成器具が記載されている。
特開2017-83210号公報 特開2014-100672号公報
特許文献1等に記載されている、脂質二重膜を具備するセンサーは、大気中に含まれる臭気物質の検出等にも用いられる。実験室内(又は商業的に脂質二重膜形成器具を製造する場合には製造工場内)で液滴を調製して脂質二重膜を形成する場合には、脂質二重膜を具備する器具をその使用場所まで輸送する必要があり、輸送中又は保管中に脂質二重膜が破壊される恐れがある。この問題を解決するため、使用場所で脂質二重膜を形成することが考えられるが、屋外等の使用場所で実験器具を用いて、液滴をウェルに滴下して脂質二重膜を形成するのは非現実的である。
したがって、本発明の目的は、使用場所で簡便な操作で脂質二重膜を形成することができる、脂質二重膜形成器具及びそれを用いた脂質二重膜の形成方法を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、液滴接触法に供する2つの液滴が接触しない状態で使用場所まで輸送し、使用場所で簡単な操作により2つの液滴を接触させて脂質二重膜を形成することにより、上記目的を達成することができることに想到し、かつ、このようなことを可能にする脂質二重膜形成器具を考え出した。
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
1. 脂質二重膜形成器具であって、
基板と、
該基板内に設けられ、平坦な開口部を有する第1のウェルと、
該第1のウェル内に充填された、第1の脂質一重膜形成性液滴と、
前記基板に対して相対的に移動可能な移動部材と、
該移動部材内に設けられ、平坦な開口部を有する第2のウェルと、
該第2のウェル内に充填された、第2の脂質一重膜形成性液滴と、
前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを同時に被覆する1個のシール部材と
を具備し、
前記器具の使用前には、前記第1のウェルと前記第2のウェルは、互いに離れた位置にあり、使用時には、前記移動部材を前記基板に対して相対的に移動させ、前記第1のウェルの前記開口部と、前記第2のウェルの前記開口部とが重なり合って、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とが接触し、この接触部位において脂質二重膜が形成され
前記移動部材は、前記基板内に設けられた溝に摺動可能に挿入されており、
前記シール部材は、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを同時に被覆する単一の粘着テープである、
脂質二重膜形成器具。
2. 前記移動部材は、前記基板外に突出する突起部を具備する記載の器具。
3. 前記シール部材は、前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴のそれぞれと接触しない位置に配置されている、1又は2記載の器具。
4. 前記第1のウェルの前記開口部又は前記第2のウェルの前記開口部には、透孔を有する隔壁が配置され、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とは、該透孔を介して接触する、1~のいずれか1項に記載の器具。
5. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が、ヒドロゲルの形態にある、1~のいずれか1項に記載の器具。
6. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が、凍結状態にある、1~のいずれか1項に記載の器具。
7. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴に含まれる有機溶媒が、n-ヘキサデカンを含む、記載の器具。
8. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴に含まれる有機溶媒が、n-ヘキサデカンとn-デカンの混合溶媒である、記載の器具。
9. 前記第1のウェル及び前記第2のウェルのそれぞれの底部に電極が配置されている、1~のいずれか1項に記載の器具。
14. 1~のいずれか1項に記載の器具を準備する工程と、
該器具をその使用場所まで輸送する工程と、
使用場所において、前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が凍結状態にある場合にはこれらの液滴を融解後、前記第1のウェルの前記開口部と前記第2のウェルの前記開口部とが重なり合う位置まで前記移動部材を前記基板に対して相対的に移動させて、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを接触させ、この接触部位において脂質二重膜を形成させる工程とを含む、脂質二重膜の形成方法。
本発明により、使用場所で簡便な操作で脂質二重膜を形成することができる、脂質二重膜形成器具及びそれを用いた脂質二重膜の形成方法が提供された。本発明の器具を用いれば、屋外等の被検物質の検出場所において、実験器具を全く用いることなく、簡便な操作でその場で脂質二重膜を形成することができるので、脂質二重膜が輸送中や保管中に破壊される恐れがなくなる。
本発明の脂質二重膜形成器具の一実施形態の模式的分解斜視図である。 本発明の脂質二重膜形成器具の他の一実施形態の模式的分解斜視図であり、器具の保管及び輸送中の状態を示す図である。 図2に示す脂質二重膜形成器具の使用時の状態を示す図である。 下記参考例及び実施例において行った電流測定の結果を示す図である。 下記実施例において行った、往復試験における電流測定の結果を示す図である。
本発明の脂質二重膜形成器具は、液滴接触法による脂質二重膜形成方法により脂質二重膜を形成するものである。液滴接触法自体は、この分野において周知であり、上記した特許文献1及び特許文献2にも記載されている。すなわち、脂質一重膜で囲包された液滴同士を接触させることにより、その接触面に脂質二重膜を生成させる方法である。脂質一重膜で囲包された液滴は、周知の方法に従い、容易に形成することができる。例えば、脂質二重膜形成性脂質溶液に水又は水溶液(緩衝液等)を添加することにより容易に脂質一重膜を形成することができる。ここで、脂質二重膜形成性脂質としては、リポソームの作製に用いられている周知のリン脂質でよく、生体膜における反応を模するためには、生体膜と同じか類似したものが好ましく、この分野において従来から広く用いられているリン脂質、例えば、ジフィタノイルフォスファチジルコリン(diphytanoyl phosphatidylcholine, DPhPC)、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(dipalmytoyl phosphatidylcholine)、パルミトイルオレオイルフォスファチジルコリン(1-Palmitoyl 2-Oleoyl phosphatidylcholine, POPC)、ジオレオイルフォスファチジルコリン(Dioleoyl phosphatidylcholine, DOPC)等を好ましい例として挙げることができる。これらの多くは市販されているので、市販品を好ましく用いることができる。脂質二重膜の形成に用いられる溶液中のリン脂質の濃度は、脂質二重膜が形成可能な濃度であれば特に限定されないが、通常、5g/L~30g/L程度、好ましくは10g/L~20g/L程度である。また、リン脂質溶液の溶媒は、特に限定されないが、有機溶媒が好ましく、n-デカンのような脂肪族炭化水素溶媒が好ましい。脂質二重膜に、α-ヘモリシンのようなイオンチャネルタンパクや嗅覚レセプター等の機能性タンパクを保持する場合には、周知のように、少なくともいずれか一方の液滴内に、該タンパク質を溶解しておく。この際のタンパク質の終濃度は、特に限定されないが、通常、0.1nM~10nM程度、好ましくは0.5nM~2nM程度である。
液滴は、液体であってもよいが、ヒドロゲルの形態であってもよく、本発明では、「液滴」という語は、ヒドロゲルの形態にあるものも包含する意味で用いている。液滴がヒドロゲルの形態にある場合であっても、脂質一重膜が形成され、脂質一重膜が形成された他の液滴と接触することにより脂質二重膜を形成することができることは、上記した特許文献1に記載されている。輸送時や保管時の安定性を高め、輸送中の振動等により、液滴がシール部材(後述)と接触することを防止する観点から、本発明においては、液滴はヒドロゲルの形態にあることが好ましい。ヒドロゲルは、単に、液滴にアガロース、寒天、ゼラチン等(以下、「ヒドロゲル化剤」)を含ませることにより容易に形成することができる。液滴中のヒドロゲル化剤の最終濃度は、ヒドロゲルを形成できるのであれば特に限定されないが、通常、0.05質量%~20質量%程度、好ましくは、0.1質量%~15質量%程度、さらに好ましくは、0.3質量%~3.0質量%程度である。
保管及び輸送時の液滴の安定性を高めるために、液滴は凍結状態であってもよい。凍結は、通常の冷凍庫(通常、-20℃)内で器具を保持することにより行うことができる。ヒドロゲルの形態にある液滴も凍結状態にして保管及び輸送することが可能である。この場合、凍結された液滴を使用直前に融解後、脂質二重膜を形成させる。なお、液滴がヒドロゲルの形態にある場合には、「融解」は、ヒドロゲル自体を溶かす必要はなく、ヒドロゲル内に保持される水分が融解すればよい。器具を室温で放置すればこのようになる。液滴を凍結状態にして保管、輸送する場合、液滴中に含まれる有機溶媒は、n-ヘキサデカンを含むことが好ましく、特に、n-ヘキサデカンと、広く用いられているn-デカンとの混合溶媒であることが好ましい。有機溶媒がn-ヘキサデカンを含むこと、特にn-ヘキサデカンとn-デカンとの混合溶媒であることにより、融解後に迅速、確実に脂質二重膜が形成されやすくなる。n-ヘキサデカンとn-デカンとの混合溶媒を用いる場合、その比率(n-ヘキサデカン:n-デカン)は、体積基準で、4:6~8:2程度が好ましい。
本発明の脂質二重膜形成器具では、基板内に形成された第1のウェル内に第1の液滴を充填し、基板に対して相対的に移動可能な移動部材内に設けられた第2のウェル内に第2の液滴を充填する。第1のウェル及び第2のウェルは、それぞれ、平坦な開口部を有している。保管時及び輸送時は、第1のウェルと第2のウェルは互いに離れた位置にある。使用時には、移動部材を前記基板に対して相対的に移動させ、前記第1のウェルの前記開口部と、前記第2のウェルの前記開口部とが重なり合って、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とが接触し、この接触部位において脂質二重膜が形成される。
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は、本発明の脂質二重膜形成器具の好ましい1実施形態の模式的分解斜視図である。脂質二重膜形成器具は、基板10を具備し、基板10内には、第1のウェル12が設けられている。第1のウェル12は、平坦な開口部12aを有する。なお、図1に示す第1のウェル12は、平坦な開口部12aを持つ円筒状であるので、C字形となっているが、ウェル(後述する第2のウェルも含めて)は、必ずしもC字形である必要はなく、特許文献2に示されるような直方体や立方体であってもよい。第1のウェル12の底部には、電極を接続するための透孔12bが形成されている。第1のウェル12内には、第1の脂質一重膜形成性液滴(図示せず)(以下、「第1の液滴」)が充填される。
脂質二重膜形成器具は、基板10に対して相対的に移動可能な移動部材14を具備する。移動部材14内には、第2のウェル16が設けられている。第2のウェル16は、第1のウェル12と同様、平坦な開口部を有し、C字形をしている。第2のウェル16の開口部には、透孔18aを有する隔壁18が配置され、第2のウェル16は、この透孔18aでのみ開口している。このような透孔18aを有する隔壁18は、必ずしも必要ではないが、形成される脂質二重膜の面積を小さくすることにより、脂質二重膜を迅速に形成し、形成された脂質二重膜が安定的に保持されることに役立つ。透孔の直径は、特に限定されないが、通常、0.1mm~1mm程度である。この隔壁を構成する材質としては、特許文献1にも記載されているように、パラキシレン系ポリマー(商品名パリレン)を好ましく用いることができる。移動部材14は、基板10内に設けられた溝20に摺動可能に挿入されている。溝20の底面は、第2のウェル16の底面を構成しており、脂質二重膜形成器具の使用時に第2のウェル16の底面を構成する部位には、電極を接続するための透孔20aが設けられている。第2のウェル16内には、第2の脂質一重膜形成性液滴(図示せず)(以下、「第2の液滴」)が充填される。
器具の保管時及び輸送時においては、第1のウェル12及び第2のウェル16は、それぞれ図示しないシール部材により被覆されている。シール部材は、第1のウェル12を被覆するものと、第2のウェル16を被覆するものとを個別に設けてもよいが、単一のシール部材で両方のウェルを被覆してもよく、後者の方が簡便で構造も単純であるので好ましい。シール部材で両液滴を被覆することにより、液滴の乾燥及び液滴への異物混入が防止される。図1に示されるように、基板10の上面と、第1のウェル12の上部との間には段差22が設けられており、一方、通常、第2のウェル16の高さも第1のウェル12の高さと同じであるので、基板10の上面を単一のシール部材で被覆することにより、第1の液滴及び第2の液滴とシール部材とが接触しない位置にシール部材を配置することができる。シール部材は、粘着テープで構成することが好ましい。粘着テープでシール部材を構成し、1枚の粘着テープを基板10の上面に貼り付けておくことが簡便で好ましい。器具の使用時には、単に1枚の粘着テープを剥離することによりシール部材を除去することができる。
器具の使用時には、シール部材を除去し(シール部材が粘着テープの場合には、粘着テープを剥離する)、第1のウェル12の開口部と第2のウェル16の開口部が重なり合う位置に来るまで移動部材14を指等で移動させる(溝20内を摺動させる)。これにより、第1の液滴と第2の液滴とが透孔18aを介して接触し、透孔18a内に脂質二重膜が形成される。なお、液滴が凍結状態にある場合には、両液滴を接触させる前に液滴を融解する。液滴の融解は、単に器具を室温下に放置することにより行うことができる。例えば、室温下で30分~6時間程度放置することにより行うことができる。あるいは、50℃で10~30分程度加熱してもよい。また、器具を冷蔵保存(例えば4℃)した場合にも、室温下で5分~30分程度放置して液滴を室温に戻した後に脂質二重膜を形成することが好ましい。後述の実施例で実験的に確認されたように、第1の液滴と第2の液滴とを透孔18aを介して接触させた状態で放置することにより、透孔18a内に脂質二重膜が形成され、かつ、液滴内に含めておいた機能性タンパク質(実施例ではイオンチャネルタンパクであるα-ヘモリシン)が脂質二重膜に機能的に保持される。
図2及び図3には、移動部材が、移動の際に指でつまむ突起部を有する、本発明の好ましい脂質二重膜形成器具の実施形態が示されている。図2及び図3において、図1に示す実施形態と同じものには同じ参照番号が付されている。図2は、器具の保管、輸送時の状態、図3は、器具の使用時の状態を示す。
図2及び図3に示す実施形態では、基板10の側面に透孔26が設けられ、一方、移動部材14には、この透孔26を貫通して基板10の外側にまで突出する突起部14aが設けられている。また、移動部材14の上面と、第2のウェル16の上部との間には段差24が設けられている。この場合、1枚の粘着テープをシール部材として用いて基板10の上面と移動部材14の上面に貼り付けることにより、第1のウェル12と第2のウェル16を被覆すると同時に、移動部材14の基板10に対する位置を固定することができ、移動部材14が、保管、輸送中に意図せず移動することを防止することができる。
器具の保管、輸送時は、図2に示すように、第1のウェル12と第2のウェル16とは、互いに離れた位置にある。器具の使用時には、図3に示すように、第1のウェル12と第2のウェル16の各開口部が重なり合う位置に来るように、指で突起部14aをつまんで移動させる。そうすると、図1に示す実施形態で説明したのと同様に、透孔18a内において脂質二重膜が形成される。
図2及び図3に示す実施形態では、突起部14aは、水平方向に突出する突起であるが、鉛直方向に突出する突起であってもよい。また、移動部材14の上面に凹部を設け、この凹部に爪をかけて移動部材14を移動させるようにしてもよい。
また、図1~図3に示す各実施形態では、移動部材14が基板10内に設けられた溝20内を水平方向に摺動するものであるが、基板10に、鉛直方向に延びるガイドを設け、移動部材14を、このガイド内で鉛直方向に摺動させることもできる。この場合、器具の保管、輸送時には、移動部材14を、基板10よりも上方に配置して第1のウェル12と第2のウェル16が互いに接触しないように配置し、使用時には、移動部材14を指で下方に押し込んで第1のウェル12と第2のウェル16の各開口部を重ね合わせることができる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
参考例1、実施例1
1. 脂質二重膜形成器具
図1に示す脂質二重膜器具を作製した。基板10の厚さは4mm、移動部材14の厚さは3mm、第1のウェル12及び第2のウェル16の直径はそれぞれ4mm、高さはそれぞれ3mm(従って、段差22は1mmとなる)、透孔18aの直径は0.6mmであった。また、透孔12b及び透孔20aには、銀-塩化銀電極を配置した。
2. 脂質およびゲル・水溶液の準備
(1) 脂質分散デカン溶液を作製した。脂質(DPhPC, Avanti Polar Lipids)を質量比1:1のn-デカン:ヘキサデカン(シグマ)に分散させ、20 mg/mLとした(脂質溶液)。
(2) アガロースゲル(Agarose Type IX-A, Ultra-low Gelling Temperature, Sigma-Aldrich)45 mgを計量し、遠沈管に入れた。
(3) アガロース濃度が1.5%になるように別途準備した1 M KCl(10 mM リン酸バッファ, pH7.4)を加えた。
(4) 突沸に気を付けながら、電子レンジ(500 W)で沸騰させてアガロースを溶かした。ゲルが均一となるよう、適宜ボルテックスミキサーで撹拌しながら十分に溶かした。
(5) 溶解後、エッペンチューブに小分けにしてヒートブロック(40℃)上で保持した(アガロースゲル溶液)。
(6) 100 nM α-ヘモリシン(Sigma-Aldrich)水溶液を別途作製しておいた。
3.脂質・ゲル溶液のウェルへの滴下・封止
(1) ヒートブロック(40℃)で温めてあるゲル溶液(99 μL)に100 nM α-ヘモリシン(1 μL)を加えた(終濃度1 nM、ヘモリシンゲル溶液)。ウェルに滴下するまでヒートブロック上で保持した。
(2) 移動部材を動かし、ウェル同士が互いに離れて接触しない状態にした。
(3) 脂質溶液を3μLずつ2つのウェルに加えた。ウェル底面にオイルが広がった。
(4) 第1のウェルにアガロースゲル溶液(27μL)を加えた。
(5) 続けて、第2のウェルにヘモリシンゲル溶液(27μL)を加えた。
(6) シール部材として粘着テープ(ポリオレフィン マイクロシーリングテープ、3 M)を基板上面に空気が入らないよう貼り付けた(実施例1)。上記のとおり、1mmの段差22があるので、ゲル溶液(ウェル上部)や移動部材14上面は、粘着テープと触れない。なお、参考例1では、シール部材は貼り付けなかった。
4. 保管
作製した器具を一夜(15時間)冷蔵保存(4℃)した(実施例1)。なお、参考例1では、保存せず、液滴を調製後、すぐに下記の測定を行った。
5. 脂質二重膜形成及び測定
実施例1では、冷蔵保存後の器具を室温で5分~30分間放置して室温に戻し、粘着テープを剥離した。参考例1、実施例1とも、透孔12bに配置した電極をアースし、透孔20aに配置した電極を周知のパッチアンプ回路(特許文献1)に接続して両ウェル間を流れる電流を測定した。印加電圧は50~100 mVとし、増幅率1 mV/pAまたは10 mV/pA、サンプリング周波数5 kHzにおいてイオン電流を観測した。取得シグナルには、ベッセルローパスフィルタ1 kHzを施した。移動部材14を指で移動して、第1の液滴と第2の液滴が、透孔18aを介して接触する状態とした。この後も電流測定を継続した。
6. 測定結果
電流の測定結果を図4の(a)(参考例1)及び図4の(b)(実施例1)に示す。図4の(a)及び(b)に示されるように、階段状の電流が測定された。この結果は、脂質二重膜が形成され、かつ、α-ヘモリシンが脂質二重膜中に機能的に保持され、α-ヘモリシンが持つナノ孔(イオンチャネル)を介してイオンの移動が起きたことを示している。脂質二重膜に保持されるα-ヘモリシンの分子数が増えると、測定される電流が増大するので、電流が階段状になる。図4の(a)に示すように、参考例1では、最初の階段状電流が測定されるまでの時間(すなわち、α-ヘモリシンを保持する脂質二重膜が形成されるまでの時間)は24±28秒であり、迅速に脂質二重膜が形成された。また、実施例1でも、最初の階段状電流が測定されるまでの時間概ね10秒~5分であり、同様に迅速に脂質二重膜が形成された。
さらに、特許文献2と同様に、第2の液滴に50merの一本鎖ポリチミジル酸(ssDNA)を含ませて、上記と同様な操作を行い、電流を測定した結果を図4の(c)に示す。ssDNAがα-ヘモリシンのナノ孔を通過する際に、イオンチャネルが閉塞されてイオンが流れなくなるので、電流の降下が起きる。図4の(c)に示すように、このような電流降下が観察され、本実施例の器具によりssDNAの検出が可能であることが確認された。
実施例2
実施例1で作製した器具を種々の時間(約15時間、約40時間、約90時間、7日間又は1ヶ月間)凍結保存(-20℃)し、あるいは宅配便の冷凍便(-10℃)で運搬試験(計2日間)を行った後、実施例1と同様に電流測定を行った。
その結果、移動部材14を動かした後、速やかに脂質二重膜が形成され、α-ヘモリシン由来のナノ孔形成を示すシグナルを観測した。脂質二重膜が形成されるまでの時間は、概ね10秒~5分であった。運搬試験に関しては2分以内の脂質二重膜形成成功率は、5/6であった。その際の電流測定結果を図5に示す。上記保管条件、輸送条件のいずれにおいても、本発明の脂質二重膜形成器具により脂質二重膜を形成できることが示された。
10 基板
12 第1のウェル
12a 開口部
12b 透孔
14 移動部材
14a 突起
16 第2のウェル
18 隔壁
18a 透孔
20 溝
20a 透孔
22 段差
24 段差
26 透孔

Claims (10)

  1. 脂質二重膜形成器具であって、
    基板と、
    該基板内に設けられ、平坦な開口部を有する第1のウェルと、
    該第1のウェル内に充填された、第1の脂質一重膜形成性液滴と、
    前記基板に対して相対的に移動可能な移動部材と、
    該移動部材内に設けられ、平坦な開口部を有する第2のウェルと、
    該第2のウェル内に充填された、第2の脂質一重膜形成性液滴と、
    前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを同時に被覆する1個のシール部材と
    を具備し、
    前記器具の使用前には、前記第1のウェルと前記第2のウェルは、互いに離れた位置にあり、使用時には、前記移動部材を前記基板に対して相対的に移動させ、前記第1のウェルの前記開口部と、前記第2のウェルの前記開口部とが重なり合って、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とが接触し、この接触部位において脂質二重膜が形成され
    前記移動部材は、前記基板内に設けられた溝に摺動可能に挿入されており、
    前記シール部材は、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを同時に被覆する単一の粘着テープである、
    脂質二重膜形成器具。
  2. 前記移動部材は、前記基板外に突出する突起部を具備する請求項記載の器具。
  3. 前記シール部材は、前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴のそれぞれと接触しない位置に配置されている、請求項1又は2記載の器具。
  4. 前記第1のウェルの前記開口部又は前記第2のウェルの前記開口部には、透孔を有する隔壁が配置され、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とは、該透孔を介して接触する、請求項1~のいずれか1項に記載の器具。
  5. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が、ヒドロゲルの形態にある、請求項1~のいずれか1項に記載の器具。
  6. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が、凍結状態にある、請求項1~のいずれか1項に記載の器具。
  7. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴に含まれる有機溶媒が、n-ヘキサデカンを含む、請求項記載の器具。
  8. 前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴に含まれる有機溶媒が、n-ヘキサデカンとn-デカンの混合溶媒である、請求項記載の器具。
  9. 前記第1のウェル及び前記第2のウェルのそれぞれの底部に電極が配置されている、請求項1~のいずれか1項に記載の器具。
  10. 請求項1~のいずれか1項に記載の器具を準備する工程と、
    該器具をその使用場所まで輸送する工程と、
    使用場所において、前記第1の脂質一重膜形成性液滴及び前記第2の脂質一重膜形成性液滴が凍結状態にある場合にはこれらの液滴を融解後、前記第1のウェルの前記開口部と前記第2のウェルの前記開口部とが重なり合う位置まで前記移動部材を前記基板に対して相対的に移動させて、前記第1の脂質一重膜形成性液滴と前記第2の脂質一重膜形成性液滴とを接触させ、この接触部位において脂質二重膜を形成させる工程とを含む、脂質二重膜の形成方法。
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