JP7051043B6 - 電子スピン情報に着目した画像化及び分析方法並びにプログラム及びシステム - Google Patents

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Description

本発明は、磁気共鳴法(核磁気共鳴、電子スピン共鳴、強磁性共鳴、その他)及びその画像化法を用い、電磁波共鳴吸収、動的核偏極及び常磁性緩和促進などを併せて活用して、常磁性物質(遊離電子や不対電子を一つ以上有する物質で、電子スピンにより磁気モーメントを持つ物質)中の電子スピンに由来する情報に着目した画像化及び分析を行うための方法並びにプログラム及びシステムに関する。
磁気共鳴法は静磁場下に置かれた電子スピンや核スピンが外部磁場強度に応じた熱平衡状態に分極し、ここに共鳴電磁波を照射すると夫々のスピンが電磁波エネルギーを共鳴吸収することで分極状態が変化し、その後にスピン緩和を経て元の熱平衡分極状態に復帰する現象を利用し、共鳴吸収或いはスピン緩和のいずれかを検出する分光法である。従って、電磁波共鳴吸収とスピン緩和、検出は、磁気共鳴画像化法及び分析法に不可欠な概念である。対象スピンに応じて、電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance。電子常磁性共鳴、EPR:Electron Paramagnetic Resonanceとも呼ぶ)と核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)があり、NMR ImagingやMRI(Magnetic Resonance Imaging)はNMRを利用した画像化法である(例えば、非特許文献1~5参照)。
<材料化学、生命科学における電子スピンとESRスペクトル>
常磁性物質は不対電子を有する物質の総称で、電子は負電荷の粒子性とスピンによる波動性を有し、常磁性物質中の電子スピンはそのスピン波動性を基に磁気ないし光、音響で検出される(例えば、非特許文献2,3参照)。常磁性物質は、触媒過程を利用する反応機構の多くで反応中間体として存在し、燃料電池や太陽電池、半導体などの触媒過程を利用する材料化学では主要反応中間体として重要な役割を果たしている(例えば、非特許文献6参照)。
一方、生体内では、常磁性物質は、フリーラジカル、金属錯体酵素、生体内酸化還元(レドックス:Redox)代謝反応中間体などの状態で存在し、これらが単分子で存在している場合もあれば、蛋白質や核酸、脂質などと結合している場合や、或いは、更にこれらの常磁性物質結合生体高分子が凝集体となって存在している場合もある(例えば、非特許文献7、8参照)。これらの常磁性物質は、生体内ではレドックス反応を介して、或いは、その反応生成物である活性酸素などを通じて恒常性維持に関わる必須物質であると共に、これら物質の生体内制御が異常になると、がんや種々の酸化ストレス疾患の成因・増悪因子となることから最も基本的なバイオマーカーである。
これらの常磁性物質のESRスペクトルは、常磁性物質の種類、量、大きさ、運動状態などで大きく異なる(例えば、非特許文献2,3参照)。
本発明者は、これまでESRを用いて、種々の生命科学研究を行ってきた。これらの発表論文(非特許文献8-21参照)並びに関連書籍(非特許文献7参照)、関連論文(非特許文献22-29参照)を基に、本発明の技術で検出し分析・画像化し得るESRに関わる対象例の詳細を示す。
正常な生体組織をESR測定すると、その多くにはg=2.0035、g=1.97、g=1.94に広幅なシグナルを持つ類似のESRスペクトルが観測される(非特許文献7参照)。また、組織により更にg=2.01、g=2.03、g=4のESRシグナルも認められる。これらのシグナルの強度は組織によって異なり全体のスペクトルも変化する。その一例を、以下に示す。
図2は、ウサギの各組織を急速凍結しXバンドESR分光器を用いて77Kで出力0.01mWおよび200mWで測定した実験結果の腎組織ESRスペクトルである(非特許文献7参照)。有機ラジカルはg=2.00に、有機過酸化ラジカルはg=2.03に広く観測される。図2には存在しないが、g=2.06に有機硫黄ラジカルが出る場合もある。
上記g=2.00の有機炭素ラジカル量を組織間で比較したのが図3である。標準偏差や誤差は大きいものの、肝臓、腎臓、心臓では脾臓や肺、筋に較べて明らかに多く、後述する各組織の縦緩和時間との関係が認められる(非特許文献7参照)。この有機炭素ラジカルは化学発癌物質含有飼料を与えたラット肝臓試料でg=2.035に変化し、硫黄含有蛋白NO-Fe2+錯体の電子スピンによるものと考えられている(非特許文献7参照)。
図4は、溶液中で酸素雰囲気下ビタミンCとアジド系医薬品を混合したときのXバンドESRスペクトルである(非特許文献8参照)。別の実験から、このスペクトルは、g=2.06で有機窒化酸素ラジカルであること、窒素雰囲気下では前駆体として存在し、酸素存在下で直ちに安定な有機フリーラジカルに変換することから生体内で酸素濃度に依存して生成している可能性がある(非特許文献8参照)。もし、このラジカルの生成状態や生成組織がヒトで可視化されると医薬品の評価に新たな手法が導入されることとなる。
最近、種々のリン脂質の生理機能が明らかになりつつある。リン脂質の中でも脂肪酸鎖が一つのリゾリン脂質は、以前から強い生理作用が認められている。図5Aは、リゾレシチンの生理作用を解析するためにスピンラベルしたリゾレシチン水溶液のESRスペクトルである(非特許文献9参照)。リゾレシチン濃度に応じて凝集したミセル状態の広幅一本線シグナルが単分子リゾレシチンの三本線シグナルに重なっている様子が認められる。また、リゾレシチンをリポソーム膜や赤血球と混和すると、図5Bに示すように、ミセルシグナルが更に広幅化しミセル中でスピン・スピン相互作用が低下していることが認められる(非特許文献10参照)。図5Cは、スピンラベルしたステアリン酸が肝小胞体膜に挿入したときのスペクトルで、脂質二重膜で異方性回転運動を示すシグナルが観測される(非特許文献11参照)。
常磁性物質は他の分子と反応すると、その常磁性を失う。肝臓の小胞体にはP-450薬物代謝酵素が存在し、電子スピンを放出することで、薬物代謝に重要な役割を果たすとともに化学物質発癌の惹起にもかかわることから、多くの研究がなされてきた。
図5CでNADPHを添加するとESRシグナル強度が減衰する様子が判る。これは肝小胞体膜P-450酵素を活性化した際のESRシグナル変化を測定したもので、酵素反応がどのように起こっているかを分析できる(非特許文献11参照)。
以上の結果は、試験管内での情報の取得例であるが、生体計測ESRを用いることで生体内での常磁性物質の変化を得ることが可能で(非特許文献33、44-48参照)、後述するように、電磁波の生体内浸透性を考慮すると動物では1GHz以下の、ヒト用では100MHz以下の電磁波を用いてESR測定することが望まれる。一方、ESRスペクトルは、計測時の外部磁場強度に強く依存する(非特許文献3参照)。図6は、LバンドESR(1GHz)スペクトルをXバンドと比較して示したもので(非特許文献13参照)、このようにESRシグナルが外部磁場強度に依存することから共鳴・検出磁場強度への配慮が必要である。
図7Aは、2種類の常磁性物質(TEMPOL、CPROXYL)をマウスの尾静脈に投与した後の頭部(a、c)と腹部(b、d)でのESRスペクトルである(非特許文献12参照)。TEPOLを尾静脈投与した場合、頭部、腹部共に3本のピークが徐々に小さくなり、直ちにシグナル減衰が起こるが、CPROXYLの場合、頭部ではシグナル強度が一旦上昇し続いて減衰する。発明者は、このシグナル減衰を観測する生体計測手法をスピンプローブ法と名付け、鉄過剰症や糖尿病、循環器疾患、ディーゼル排気ガスによる肺障害、脳梗塞などの疾患でESRシグナル減衰を指標として病態発生と相関することを明らかにしてきた(非特許文献16-19、32参照)。
一方、図7B及び図7Cは医薬品(リピオドール)にスピン標識したエマルジョンを試料管及び生体内に投与後にdESR測定した結果である。図5Aと同様に、凝集体では広幅一本線シグナルが観測される。マウスに尾静脈投与すると胸部で直後に凝集体シグナルが観測され、時間とともに消失行く様子が判る(非特許文献14参照)。これらの例示でも、生体内で発生した事象を直接画像化あるいは分析できると種々の酸化ストレス疾患の画像診断が可能となる。
以上のESR測定は生命科学のほかに様々な現象の解明に適用し得る。
図8は、水処理過程における活性酸素の生成をスピントラップ法でとらえたESRスペクトルであり、様々な反応中間体が発生している様子が認められる(非特許文献20,21参照)。
材料科学においても、最近、興味ある報告がなされている。
図9は、ペロブスカイト太陽電池で用いられているspiro-OMeTADでの太陽光ホール形成にLi-TFSIドープが及ぼす効果をESR法で測定した結果である。spiro-OMeTADをヘリウムガス雰囲気下でXバンドESRを用いて室温で測定したところ、g=2.0030に線幅???μTのESRシグナルが検出され、Li-TFSIドープにより電子スピン数は二桁以上に増大している。また、太陽の照射時間に応じて電子スピン数は増加した(非特許文献22参照)。
この他にも、C3N5半導体でのXバンドESRスペクトルで、g=2.003に一本線シグナルが検出され、sp2混成芳香族パイ(π)軌道中に不対電子が存在していることが認められている(非特許文献23参照)。
以上に加えて、燃料電池においてもレドックス反応による活性酸素の生成が報告されている。図8に示したスピントラップ法を用いて、rGO/BiO1-xIにおいて、Fe2+/Fe3+redox反応でOHラジカルやスーパーオキシドアニオンラジカルなどの活性酸素が生成すること、活性酸素の生成は、EDTAキレート剤で抑制されることから、燃料電池反応槽内で電子スピン(活性酸素及びe-)が単分子で存在していることが推測されている(非特許文献24参照)。
近年、スピントロニクスがエレクトロニクスの次世代概念として注目されている。スピントロニクスは、量子コンピュータやスピン流、スピン発電など着実に研究が進展しているものの、計測法が確立していないことに由来する未解決分野も多くある。遊離電子(free electron, electrons (et -))には電荷とスピンの性質があり、この二つの性質のうちスピントロニクスでは電子スピンに注目しスピン流やスピン発電などの新概念に繋がっている(非特許文献25~29参照)。
遊離電子スピンのESRスペクトルは、古くから研究されており、図10に示すようにg=2.0023に線幅0.01-0.03mTの非常に鋭い一本線シグナルとして観測される。このg=2.0023のシグナルは遊離電子スピン(et -)であることが知られており、極微量の酸素の存在で広幅化する(非特許文献26参照)。また、遊離電子スピンのESR飽和曲線では、非常に低いパワーで飽和し、かつ非常に狭幅の静磁場モジュレーションで飽和することから、遊離電子スピンの縦緩和時間は数十ミリ秒と極めて長いことが示唆されている(非特許文献27参照)。
この他に、グラフェントランジスターデバイスで脱酸素状態の気相ESR(非特許文献28参照)やスピン流で存在する配向電子スピンの強磁性共鳴(ESR装置で測定でき、ESRよりも低磁場で共鳴が検出される)スペクトルで、明瞭なシグナルが検出されている(非特許文献29参照)。
以上の研究結果は、cw-ESR(cw; continuous wave(連続波))を用いたものであり、共鳴磁場を掃引しながらESR計測する。連続波の代わりにESRパルスを用いると、一回のパルス照射で種々のESRスペクトル情報を取得できる(非特許文献31参照)。
<ESR画像化法>
電子スピンを画像化するESR画像化法が開発された(非特許文献32、33参照)。
図11は、脳のESR画像を取得する目的で開発したスピンプローブ剤の頭部におけるESR画像である(非特許文献15参照)。3種類のスピンプローブ(carboxy-PROXYL、methoxy-PROXYL、acetoxy-PROXYL)をマウス尾静脈に投与後、直ちにマウス頭部で2次元ESR画像を撮像すると、図中A;膜非透過性のcarboxy-PROXYLでは脳以外の頭部で画像が認められるのに対し、図中B;methoxy-PROXYLでは頭部全体に画像が認められ、血液脳関門を自由に通過していることが示唆される。更に、図中C;acetoxy-PROXYLは、細胞内の加水分解酵素により膜非透過性のcarboxy-PROXYLに変換する性質を有し、マウス尾静脈投与後のマウス頭部の画像では脳内のみで認められる。
このようにスピンプローブ剤を化学修飾することで血液脳関門や細胞膜の透過性が向上し、更に脳内残留性や細胞内対流性がも高まる(非特許文献15参照)。これらのスピンプローブは後述するDNP-MRI法を用いた疾患モデル動物での病態解析に広く使われている(非特許文献44、48参照)。
このESR画像化装置は、2000年代に日本電子及びブルッカーから市販された。しかし、ESRシグナルの線幅が広く横緩和時間が短いために、空間・時間分解能が他の画像化装置に較べ劣っていた。更に、ESR画像化法ではデコンボリューション法を用いて電子スピンの位置情報を取得し逆投影法で画像化しているため、複数種の常磁性種が混在しESRスペクトルが重なる試料では画像化できない。その場合にはESRスペクトル・空間分離法を用いて個々の常磁性物質の位置情報を別個に取得し、それらの情報を逆投影し画像化する方法が用いられている(非特許文献59参照)。しかし、必要なデータ数が膨大になりミッシングアングルも生じるため明瞭な画像を得ることが困難であった。このような問題があり、現在ではESR画像化装置は市販されていない(非特許文献48参照)。発明者自身もESR画像化装置開発を中断し、後述のようにDNP-MRI装置の開発を進めた。
<核磁気共鳴画像化法>
一般に磁気共鳴においては巨視的な磁化の方程式(ブロッホ方程式)を使用することが好適である。熱平衡状態の磁化は、外部磁場の強さに依存し、磁化の時間依存の変化は、以下に示されるブロッホ方程式(1)に従う(非特許文献54参照)。
dM/dt = γM×B-(Mxi+Myj)/T2-(Mz-M0)k/T1 (1)
但し、Mは静磁場中に置かれた原子核の角運動量ベクトル(M=(Mx,My,Mz))、γは磁気回転比、Bは静磁場ベクトル、×はベクトルの外積、iとj、kは夫々x軸、y軸、z軸の単位ベクトル、T1はスピン-格子緩和時間(縦緩和時間)、T2はスピン-スピン緩和時間(横緩和時間)、M0はMzの熱平衡状態の磁化の値を表している。
前記ブロッホ方程式(1)から、静磁場ベクトルBがz軸に平行でB=(0,0,B)と表される場合について、時刻tにおけるz方向の磁化Mz(t)を求めると、
Mz(t) = M0-(M0-Mz(0))exp(-t/T1) (2)
と表される。
NMRを利用した画像化法であるNMR Imagingは、Lauterburによって1973年に提案された(非特許文献34参照)。彼は、前年(1972年)に発表されたWeismanらの縦緩和時間(坦がんマウス尾のNMR研究(非特許文献35参照))を参照し、キャピラリー(id;1mm)を純水、MnSO4水溶液(0.19mM)で満たした2本のキャピラリーを重水中に静置し60MHzのcw-NMRに傾斜磁場(700Hz/cm, 1.6mT/m)を付け2次元画像及び差画像を作成した。更に、Lauterburは将来的には溶液やソフトマターでの可視化、とりわけ悪性腫瘍の生体観測に有効と報告している。
パルスNMRを研究していたMansfieldは高速画像化法のパルスシーケンスEPI(Echo-Planar-Imaging)で特許を取得し、NMR Imagingの実用化が可能となり、両氏は2003年のノーベル医学生理学賞を受賞した。その後、NMR Imaging研究では、高速化と高感度化に関する研究がすすめられ、NMR Imagingは、MRIに名称変更され、発展した(非特許文献5参照)。
Bloembergenらは、常磁性物質が存在しない溶液での核スピンの緩和に関して、量子力学手法を用いて詳細に解析しBPP理論を提出した(非特許文献57参照)。BPP理論では縦緩和時間T1は、スペクトル密度関数で記述でき(ωIc/ (1+((ωIc)2)1/2)に比例する。その為に、核スピンの共鳴角周波数(ωI)と相関時間(τc)の積(ωIc)が1のときに緩和時間は最小となり、相関時間が1/ωから離れるほど大きくなる。例示として、図22は、水分子の回転相関時間(τc)と水分子の緩和時間の関係を核磁気共鳴周波数別に示したもので、後述するようにMRIで高磁場(7T、300MHz以上)になると造影剤の効果が減少することになる。
一般にMRIは、均一な静磁場に線形勾配磁場を与えて核磁化分布を求め、それらを画素単位(ピクセルないしボクセル)で画像化したものであり、撮像される画素(x,y)のシグナル強度S(x,y)は、スピンエコーを用いた二次元イメージングの場合は式(3)で、グラディエントエコー法では式(4)で表される(非特許文献5参照)。
S(x,y)=kρ(x,y){1-exp(-(TR/T1(x,y))} exp(-(TE/T2(x,y)) (3)
S(x,y)=kρ(x,y){1-exp(-(TR/T1(x,y))}×
exp{-(TE/T2(x,y)) sinα/(1-cosαexp(-TR/ T1(x,y)))} (4)
但し、kは定数、ρ(x,y)は画素内の核スピン密度、TRはパルス系列の繰り返し時間、TEは90度パルスからスピンエコーまでの時間、T1(x,y)、T2(x,y)は、画素(x,y)内の核スピンの縦・横緩和時間である。また、式(4)のαはMRIにおける照射パルスのフリップ角度で、90度の場合には式(3)となる。
NMRでの積算間隔やMRIにおける繰り返し時間(TR)が短いと照射パルス後の縦磁化が十分回復されないために感度低下を招く。NMRパルスによる縦磁化消失と縦緩和による回復を考慮し、最大輝度を与えるフリップ角度は、以下の式(5)から得られ、この角度をエルンスト角度と呼ぶ。
エルンスト角度=cos-1(exp(-TR/T1)) (5)
しかし、後述のように画素毎に縦緩和時間が異なるのでエルンスト角度に縛られることなく、全体を最適化するフリップ角度の選択が有効である。
式(3)、(4)は、90度あるいは?度パルス照射で減少した縦磁化がTR時間で縦緩和により回復する過程を記述したもので、TRを変えた一連の画像を得ることで縦緩和時間の情報が得られる。また、TE<<T2の条件では式(3)は
S(x,y)=kρ(x,y){1-exp(-(TR/T1(x,y))} (6)
となる。本式(6)は、式(2)でMo =kρ(x,y), Mz(0)=0の場合に相当する。
緩和時間は、分子の回転相関時間に依存し、遊離水のように自由に動ける場合は数秒程度と長いが、蛋白質に結合し運動性が低い場合には短くなり、凝集塊を形成する場合は更に短くなる。MRIでは、画素内の緩和速度R(T1の逆数)に着目し、単分子の緩和速度Rfree、蛋白分子の緩和速度Rprotein、更に凝集塊の緩和速度Raggregateの総和から、緩和時間を次の式(7)から求め、縦緩和時間T1の臓器依存性を説明している(非特許文献5参照)。
T1=1/(Rfree + Rprotein + Raggregate) (7)
縦緩和時間T1は図22に示す通り、静磁場にも依存する。ヒトの各臓器での水素核の縦緩和時間(T1)と磁気共鳴周波数ν(Hz)との関係に関し、幾つかの計算式が提案されている。その一例として、次の式(8)が経験則として利用されており、充分なNMR信号が得られない低磁場での緩和時間を推測することが可能である(非特許文献36参照)。
T(秒)=A×νB (8)
なお、式(8)でのパラメータAとBは、図12(A)に例示されている。このパラメータを用いた計算結果を図12(B)に示す。
MRIでは、臓器間の、或いは病変部位の緩和時間の違いを画像化しており、画像化法としてT1強調画像やT2強調画像がある。また、以下に示す簡便なT1画像化法もある。式(3)のTRの代わりに異なる撮像間隔(TIとTI2)で2枚の画像を取得すると、画素(x,y)の画像輝度は次の式(9)と式(10)で表される。
S(x,y)=kρ(x,y){1-exp(-(TI/T1(x,y))} exp(-(TE/T2(x,y)) (9)
S(x,y)=kρ(x,y){1-exp(-(TI2/T1(x,y))} exp(-(TE/T2(x,y)) (10)
これらの画素強度S(x,y)とS(x,y)の比は、
S(x,y) / S(x,y)
={1-exp(-(TI1/T1(x,y))}/ {1-exp(-(TI2/T1(x,y))} (11)
であり、exp(-(TI2/T1(x,y)<<1となるように十分に長いTI2を選べば、
T1(x,y)=-TI1/log(1-S(x,y) / S(x,y)) (12)
となり、このT1(x,y)は、T1画像と呼ばれている。また、T2(x,y)は、TRを一定とし、TEをTE1、TE2と変えた2枚の画素強度S3(x,y)と S4(x,y)の比
S3(x,y)/S4(x,y)=exp(-(TE1/T2(x,y))}/ exp(-(TE2/T2(x,y))} (13)
から、
T2(x,y)=(TE2-TE1)/log(S3(x,y)/S4(x,y)) (14)
と計算でき、このT2(x,y)は、T2画像と呼ばれている。なお、kρ(x,y)は、T1(x,y)とT2(x,y)を用いて計算でき、スピン密度画像と呼ばれている。しかし、2点の画像輝度からT1(x,y)やT2(x,y)を求めると大きな誤差を生じることが少なくない。
NMRでは緩和時間の計測に反転回復(Inversion Recovery; IR)法や飽和回復(Saturation Recovery; SR)法が用いられている。IR法では十分に長いTR(T1の5倍以上)でのシグナル強度をSIとすると、種々の計測間隔(TI)でのNMRシグナル強度SI n は次の式(15)で表され、TIに対する片対数プロットからT 1 を求めることが一般的に行われている。
SIn / SI= 12exp(-(TI/T1)} (15)
このIR法を利用し、MRIでも上記の方法でT 1 を求めることは可能で、パルスシーケンスを活用した高速T 1 画像化法としてDIR法やFLAIR法などが開発され、微小病巣を高感度に画像化する手法として利用されいる(非特許文献5参照)。
その一例として、認知症の重要なリスクファクターとして大脳皮質での微小梗塞に関するMRIを用いたコホート研究(非特許文献37参照)を例示する。図13は、家族性アルツハイマー症患者の頭部画像で、用いたパルスシーケンスは、SWI(A)、DIR(B、D)、FLAIR(C)である(非特許文献37-1参照)。DIRを用いると画像Bと画像Dに矢印で示すように大脳皮質に高信号病巣が認められる。FLAIRでも高信号病巣が認められるが信号強度は低い(図13画像C)。アミロイドアンギオパチー群(27名)と微小塞栓歴群(43名)でROC解析した結果、AUCは前者で0.87、後者で0.85と非常に高値であることからMRIが認知症の良い診断法となり得ることが示唆されている(非特許文献37-2参照)。
以上のような医療用MRIに加えて、最近では材料科学分野でもNMR Imagingの技術が使われ始めた。例えば、図14に示すように、メタノール燃料電池のセルを拡散MRI装置で撮像すると作動時と非作動時で明瞭な差が見られている(非特許文献38参照)。
<動的核偏極>
NMRやMRIは核磁化の分極エネルギーが小さいために、他の分析方法・画像化法に比較して感度が著しく低い。この欠点に克服する手法の一つとして、動的核偏極(DNP:Dynamic Nuclear Polarization)を併用した方法が提案されている。
電子スピンの磁気回転比は水素核スピンよりも660倍大きく、同一静磁場中での分極も660倍である。DNPは電子スピンと核スピンの分極差を利用したもので、静磁場中で電子スピンを励起すると電子スピンと超微細結合(hfc; hyperfine coupling)している核スピンの分極が増大する現象である。この現象は、オーバーハウザー(Overhauser)が1953年に予見・発表した(非特許文献39参照)ことから、オーバーハウザー効果(Overhauser Effect:OE)として知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
Solomonは、先のBPP理論を常磁性物質(電子スピン)含有溶液に発展させ、電子スピンと核スピンの双極子・双極子相互作用理論を示した(非特許文献40参照)。
図15は、核スピン及び電子スピンが1/2のもっとも単純な分極エネルギー準位を示したものである。図15の「A」、「B」は、それぞれ低磁場と高磁場における核ゼーマン項および電子ゼーマン項のエネルギーレベルを、またwnおよびweは、それぞれのゼーマン分裂における核スピンおよび電子スピンの単位時間での遷移確率を示しており、図15の「C」、「D」は、低磁場と高磁場における電子スピンと核スピンが超微細結合している4つの分極エネルギーレベルと、4つの分極エネルギーレベル間での遷移確率、w0, w1, w1’, w2を表している。
ここで、実験的に観測可能な量は、異なるLamor角周波数で識別可能な巨視的磁気モーメント<Iz>および<Sz>である。熱平衡状態での磁気モーメントIoおよびSoを考慮すると、超微細結合している核スピンと電子スピンの縦磁気モーメント<Iz>および<Sz>は、ソロモン(Solomon)方程式と呼ばれる、以下のような連立微分方程式(16)、(17)で記述される(非特許文献40参照)。
d<Iz>/dt =-(w0 + 2w1 + w2)(<Iz>-I0) - (w2-w0)(<Sz>-S0) (16)
d<Sz>/dt =-(w0 + 2w1’+ w2)(<Sz>-S0) - (w2-w0)(<Iz>-I0) (17)
また、超微細結合している両スピンの横磁化に係る遷移確率をu0、u1、u1’、u2とすると、超微細結合している核スピンと電子スピンの横磁気モーメント<Ix>および<Sx>は、
d<Ix>/dt =-(u0 + 2u1 + u2)<Ix> - (u2-u0)<Sx> (18)
d<Sx>/dt =-(u0 + 2u1’+ u2)<Sx> - (u2-u0)<Ix> (19)
と表される。
図15の「A」、「B」に示すwnの値は、常磁性物質が存在しない場合の核スピンの遷移確率で、縦緩和時間T1の逆数に相当する。また、weの値は電子スピンの超微細結合に依らない遷移確率である。一般にweはwnより数桁大きいので、外部磁場を高磁場から低磁場に変換すると、図15の「E」に示すように、電子スピンは直ちに熱平衡状態に戻り、<Sz>=So、<Sx>=0となるが、核スピンの分極は高磁場の状態を維持しNMRの時間領域で緩和時間に従い徐々に熱平衡状態に変化する。
電子スピンとの超微細結合による核スピンの緩和時間は
1/T1= w0 + 2w1 + w2 (20)
1/T2= u0 + 2u1 + u2 (21)
で表される。また、式(16)は便宜上、しばしば以下の式で表示される。
d<Iz>/dt = -ρ(<Iz>-I0) - σ(<Sz>-S0) (16’)
但しσ=w2-w0、ρ=w0+ 2w1 + w2であり、σは電子・核スピンが共に反転するDNPに係る遷移確率で、ρは電子スピンと超微細相互作用している核スピンの縦緩和に係る遷移確率である。
式(16’)で定常状態(d<Iz> /dt =0)を仮定すると、電子スピンが飽和している場合には<Sz>=0であるから
<Iz>=Io + (σ/ ρ)×So (22)
となりOverhauserの式が導かれる。従って、核磁気モーメント<Iz>は電子スピン分極に(σ/ ρ)が乗じたものとなり、最大で磁気回転比の割合、即ちIoの660倍となる。
また、過渡的条件下では、初期値を(<Iz>-I0t=0=0、(<Sz>-S0t=0=Siとするとρ=ρ’の場合(核スピン共鳴及び電子スピン共鳴が極狭幅の場合に相当)には一般解として式(23)、(24)が得られる。
<Iz>t= I0 + (1/2)Si (e(-(2w1 + 2w2)/t) - e(-(2w0 + 2w1 )/t) (23)
<Sz>t= S0 + (1/2)Si (e(-(2w1 + 2w2)/t) + e(-(2w0 + 2w1 )/t) (24)
一方、スピントロニクスや材料科学の分野では、遊離電子スピンが気相中や固体材料のエッジなどに存在し、その縦緩和時間T1は数十ミリ秒と非常に長い場合がある(非特許文献27参照)。この場合には電子スピンの遷移確率weは約10 2~3 /秒であり、核スピンでの遷移確率と同じ時間領域であり、上記の前提無しに解を求める必要がある
今、x(t)=<Iz> hfc-I0、y(t)= <Sz> hfc-S0と置き、(16)、(17)の解を求めると、以下のように表される。
x(t)
=-[(βx(0)-y(0))/(α-β)] exp[-(w0+2w1+w2+wn) - (w2-w0)α]t
+[(αx(0)-y(0))/(α-β)] exp[-(w0+2w1+w2+wn) - (w2-w0)β]t (25)
y(t)
=[(x(0)+αy(0))/ (α-β)] exp[-(w0+2w1+w2+wn) - (w2-w0)α]t
-[ (x(0)+βy(0))/(α-β)] exp[-(w0+2w1+w2+wn) - (w2-w0)β]t (26)
但し、
α=-(w1-w1' + (wn-we)/2)/(w2-w0) + ([(w1-w1' + (wn-we)/2)/(w2-w0)]2+1)1/2
(27)
β=-(w1-w1' + (wn-we)/2)/(w2-w0)-([(w1-w1' + (wn-we)/2)/(w2-w0)]2+1)1/2
(28)
このように、連立微分方程式(25)、(26)の解を求めると、解は観測量<Iz>および<Sz>の減衰が単純な指数関数ではなく、2つの指数関数の線形結合で表される。更に、核及び電子のゼーマン分裂における核スピンおよび電子スピンの遷移確率wn、weを付加した以下の式(29)、(30)の解を求める必要があり、電子スピンの緩和時間が長い場合には、状況に適したシミュレーションと実測が重要である。
d<Iz>/ dt =-(ρ+ wn)(<Iz>-I0) -σ(<Sz>-S0) (29)
d<Sz>/ dt =-(ρ’+ we)(<Sz>-S0) - σ(<Iz>-I0) (30)
電子スピンと核スピンが超微細相互作用している場合の遷移確率wiはスペクトル密度関数を用い以下のように表される。
w0 =(1/10)kτc / [1+(ωIS)2τc ] (31)
w1 =(3/20)kτc / [1+ωI 2τc ] (32)
w1’ =(3/20)kτc / [1+ωS 2τc ] (33)
w2 =(3/5)kτc / [1+(ωIS)2τc ] (34)
k=h’2γI 2γS 2/rIS 6 (35)
但し、τcは回転相関時間、ωIとωSは夫々核スピンと電子スピンの共鳴角周波数、h’はプランク定数hを2πで除した値を、rISは電子スピンと核スピン間の距離である。
ここで、電子スピンの共鳴角周波数は核スピンより660倍高いことから、(ωIS) 2=(ωI+ωS) 2S 2と見做すことができる。従って、(31)~(34)を用いると
σ=(1/2)(h’2γI 2γS 2/rIS 6c / (1+ωS 2τc ) (36)
ρ=(1/10)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)(7τc / (1+ωS 2τc )+3τc / (1+ωI 2τc ))
(37)
となる。これらは電子スピンと核スピンの超微細相互作用のうち双極子相互作用を扱ったものである。
1956年にSolomonとBlombergen(非特許文献60参照)は、電子スピンと核スピンの超微細結合として上述の双極子項(DD)の他に等方性のスカラー項(SC)を加え、
wi=(wi)DD + (wi)sc, i= 0~2
とし、式(31)から(34)で示した遷移確率は双極子項(DD)であることから、スカラー項(SC)を以下の式(38)~(41)で示した。
(wo)sc = (1/2)(A /h’)2e/(1+(ωIS)2τe 2)) (38)
(w1)sc=(w1’)sc=(w2)sc=0 (39)
(u0)sc = (u2)sc
= (1/8)(A /h’)2e+(1/2)(τe/(1+(ωIS)2τe 2))) (40)
(u1)sc = (u1’)sc = (1/8)(A /h’)2(1/2)τe/(1+(ωIS)2τe 2)) (41)
但し、Aはスカラー項の値、τeは電子スピンと核スピンの交換相関時間である。
従って、全体の遷移確率として次式(42)、(43)が得られる。
σ=(1/2)(h’2γI 2γS 2/rIS 6c / (1+ωS 2τc )
-(1/2)(A /h’)2e/(1+ωS 2τe 2)) (42)
ρ=(1/10)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)(7τc / (1+ωS 2τc )
+3τc / (1+ωI 2τc ))+(1/2)(A /h’)2e/(1+ωS 2τe 2)) (43)
このσとρを用いるとOverhauser式(22)でのσ/ρは双極子項とスカラー項を足したものになる。
HausserとStehlikは、上記のSolomon・Bloembergen式(42)と(43)をもとに、超微細相互作用以外での核スピンの遷移確率wnを加味した上で、定常状態(d<Iz> /dt =0)を仮定して、DNPによる増強因数EをE=<Iz>/I0と定義し、以下の式(44)を導いた。
E =<IZ>/I0 =1+ξ・f・s・γSI (44)
但し、coupling factor(結合因数:ξ)とleakage factor(漏れ因数:f)、saturation factor(飽和因数:s)は、以下の式(45)~(47)に示す値で、γSとγIは電子スピンと核スピンの磁気回転比である。
ξ=σ/ρ (45)
f =(w0+ 2w1 + w2)/(w0 + 2w1 + w2+ wn) (46)
s =(S0-<Sz>)/ S0 (47)
なお、s=γS H2 2ττ/(1+τ 2IS)2S H2 2ττ)であり、τとτは電子スピンの縦・横緩和時間、H2 2はESR照射パワーである。
HausserとStehlikはまた、電子スピン縦緩和への電子・核スピン交換時間の寄与分βを考慮し、電子・核スピン交換時間τe、分子交換時間τh、回転相関時間τr、並進相関時間τtを導入し、以下の式を導いた。
ρs=(A2 /2)J s2 IS))+βJs1I)、σs=-(A2/2)J s2 IS)) (48)
σd=((1/10)(h’2γI 2γS) 2/rIS 6)×(6JdIS)-JdIS)) (49)
ρd = (1/10)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)×(6JdIS) +JdIS) + 3 JdI) (50)
但し、Js(ω)=τs/(1+ω2τs 2)、Jd(ω)=τd/(1+ω2τd 2)、
τs1=(1/τ1+1/τe)-1、τs2=(1/τ2+1/τe)-1、τd=(1/τe+1/τr)-1
で、結合定数ξは次式(51)から計算できるとした。
σ=σds、ρ=ρds、ξ=σ/ρ=(σds) / (ρds) (51)
式(42)-(45)から、両ρ、ξともにラーモア周波数(ωI、ωS)に依存することが明らかである。彼らは種々のプロトン共鳴周波数での回転拡散状態での結合因数ξを計算した。図16は結合定数を水素核スピンの共鳴磁場に対してプロットしたもので、後述する並進拡散条件で求めた結合因数ξも示してある。図16から、低磁場(0.1T以下)では双極子-双極子相互作用は0.5に、スカラー相互作用は-1に近いが、外部磁場が大きくなると結合因数は徐々に小さくなり、1T以上になると0.1以下となることが解る。従って、DNPを有効に活用するには0.1T以下の低磁場が望ましいとされている。(非特許文献41参照)。
<動的核偏極のNMR、MRIへの活用>
1988年に、Lurieらは、溶液中のフリーラジカル画像法として、DNPを用いたMRI、PEDRI(Proton Electron Double Resonance Imaging)を発表した(非特許文献43参照)。このDNP-MRIは、DNP発見者のOverhauserに因んでOMRI(Overhauser-enhanced MRI)とも呼ばれる(例えば、非特許文献44参照)。このDNP-MRIでは、NMR信号を画像化することから、空間分解能はMRIに匹敵する。また、図17に示すように、ESR照射の周波数または共鳴磁場を変えることにより、複数の常磁性種を同時に区別して分光学的に画像化できる(例えば、非特許文献45~48参照)。また、生体由来の酸化還元分子から生成する反応中間体を視覚化することも可能である(非特許文献45、47参照)。溶液としては、水溶液以外にリポソーム膜(非特許文献46参照)や有機溶媒(非特許文献47参照)中でも可視化できる。
ところで、生体用DNP-MRIでは電子スピン共鳴電磁波の生体内に到達し、生体内の常磁性物質をESR励起しなければならない。電磁波の生体浸透性は種々の因子が関与し複雑であるが、図18に示すように、電磁波の周波数が高くなると浸透性が低下する(非特許文献49参照)。その為、電子スピン共鳴電磁波の周波数は、小動物実験では1GHz以下が、臨床診断を指向した装置では150MHz以下が使われている(特許文献3、非特許文献33参照)。この共鳴磁場は、それぞれ、35mT、5mTであり、MRIの外部磁場としては著しく低いために充分な輝度のMRI画像が得られないという問題があり(例えば、非特許文献44,48参照)、欧州のMRI開発企業はFC-DNP-MRIの開発を中断している(非特許文献48参照)。
一方、DNPを用いた溶液NMR研究は、電子スピンと核スピンの相互作用解析に応用され、1960年から1980年にかけて大きな研究進展があった。DNPには、上記の機序以外にsolid-state DNP、Thermal mixing、Cross interaction、disolved DNPがあり、核スピン分極を最大化することでNMRの感度を高める試みがなされている(例えば、非特許文献42参照)。その一例として、DNP-SS-NMR(DNP-solid-state NMR;動的核偏極・固体核磁気共鳴法)が、マジック角度を併用して高感度のたんぱく質の構造解析に使われ、専用装置も日欧で市販されている(例えば、非特許文献50参照)。また、溶解DNP-MRIは常磁性物質を核磁化増強補助剤として用い、生体由来物質を炭素13核で標識し核磁化を極低温下ガラス状態で予め増大させた後に溶解して生体内に投与し標識物質及びそれらの代謝物の計測・画像化する方法で、米国のGE社を中心にコンソーシアム研究が進められている(例えば、非特許文献51参照)。
<外部磁場変換法>
DNP-MRIを開発したLurieは、NMR信号を高磁場で検出するためにMRIでの静磁場強度を高磁場に変換する磁場変換法(Field Cycling:FC)を用いるFC-溶液DNP-MRIも開発した(例えば、特許文献2、3、非特許文献52,53、68参照)。
この磁場変換法は、NMR緩和度測定に利用されている技術で、分極磁場(B0P)と検出磁場(B0D)を高磁場に変換するのは、Curie則から縦磁化の大きさが外部磁場に比例し、NMR感度が外部磁場の3/2乗に比例することを利用し高感度化を図るためである(非特許文献54、55参照)。
特許文献2に示される従前のFC-溶液DNP-MRIは、高磁場で核スピンを分極した後に外部静磁場を低磁場に変換し、電子スピン励起を行い動的核偏極させた水素核スピンを再度高磁場に変換し検出・画像化する方法で、電子スピン励起時のMRI画像と非励起時のMRI画像の差画像から電子スピンの画像を得る技術である。
図19は、磁場変換サイクルでの核磁化Mz(t)の変化を示す説明図である。
磁場変換において、図19に示されるように、外部磁場(Bo)の強度は、分極期間ではBoP、進化期間ではBoE、検出期間ではBoDの値を取るようなBoP-BoE-BoDのサイクルが繰り返される(非特許文献54参照)。この磁場変換に対して核スピンおよび電子スピンの分極も変化する。
そこで、各磁場での熱平衡状態での分極を考える。
N個のスピン(N =Nα+Nβ、以下において、核スピンはNn、電子スピンはNeで表すこととする)を含む巨視的な試料を静磁場の中に置いたときに、図15に示すように、核スピンではαスピンが低いエネルギー状態に、電子スピンではβスピンが低いエネルギー状態にあり、ゼーマン分裂のエネルギーレベルでの占有スピンの数NαおよびNβは、次のようにボルツマン分布で決定される(例えば、非特許文献1参照)。但し、以下の式に現れるh’はプランク定数hを2πで除した値を意味する。
Nαn / Nβn =exp(γIh’B0/ kT)= 1+γIh’B0/ kT (52)
Nβe / Nαe =exp(γSh’B0/ kT)= 1+γSh’B0/ kT (53)
式(52)、(53)の最右辺は、高温近似が成立する場合に該当し、核スピンと電子スピンの分極(P)については、次の式で表される。
n=(Nαn-Nβn)/(Nαn+Nβn)=γIh’B0/ 2kT (54)
e= (Nβe-Nαe)/ (Nβe+Nαe)=γh’B0/ 2kT (55)
従って、静磁場がBoP-BoE-BoDと変換すると、それぞれの磁場における熱平常状態での核スピンの縦磁化は式(54)でB0がBoPないしBoE、BoDに置き換わった値となり、それぞれにおける熱平衡状態での核スピンの磁化はスピン数Nnを考慮すると
MoP=Nn(γIh’)BoP / 2kT (56)
MoE=Nn(γIh’)BoE / 2kT (57)
MoD=Nn(γIh’)BoD / 2kT (58)
となり、BoP-BoE-BoDのサイクルに応じて熱平衡状態の縦磁化もM0P、M0E、M0Dと変化する。式(2)のM0にM0P、M0E、M0Dを導入し、BoP-BoE-BoDのサイクルにおけるMz(t)を計算すると図19の破線で表される。電子スピンの磁化に関しても同様に表される。なお、BoDは、BoPと等しい値を取ることが多い(非特許文献54参照)。
従前のFC-DNP-MRIでは、定常状態を仮定した式(44)により示される増強因数の概念をそのまま磁場変換法に応用してきた。例えば、ルーリエ(Lurie)のグループのYoungdee等によって、FC-DNP-MRIでの核磁化の変化に関して、以下のような式が提示されている(非特許文献52参照)。
MD
= M0-(M0-ME)exp(-tD / T1)+(M0-ME)exp(-(tEPR+ tD)/ T1) (59)
MD DNP
= M0-(M0-EME)exp(-tD / T1)+(M0-EME)exp(-(tEPR+ tD)/ T1) (60)
ここで、磁化M0は分極用(検出用)高磁場BoP(D)での、MEはDNP用低磁場BoEでの熱平衡状態の縦磁化で、Eは増強因数、tEPRは電子スピン励起時間、tDは高磁場に変換後MRI計測するまでの時間である。
Youngdee等は別途、DNP用低磁場BoEに固定して動的核偏極を行い、増強因数Eを求め、式(60)に用いた(非特許文献52参照)。
図20は、非特許文献52で採用された磁場変換条件(実細線;分極用高磁場BoPと検出磁場BoDを56mT、DNP用低磁場BoEを10mTとし、BoP-BoE-BoP(D)のサイクルを0.7秒と0.6秒で繰り返す)とYoungdee等の式(59)、(60)で計算した縦磁化の変動結果(短破線; 式(59)で計算、長破線;式(60)で計算)を示している。
図21に非特許文献52のパルスシーケンスを示す。分極用高磁場BoP からDNP用低磁場BoEに変換後に電子スピン励起により動的核偏極を起こし、検出用高磁場BoD(P)に変換した直後に90度パルスを用いたグラディエントエコー(GE)法(図21)の下後半に示すパルスシークエンス)でNMRシグナルを検出している。Youngdee等は、実測データが図20の計算結果と一致することから、式(59)、(60)を更に展開しFC-DNP-MRI法の最適条件を求める手法を提案している。
しかし、式(60)で用いている増強因数Eは、定常状態を前提にした理論を基に求めており、磁場変換中の磁化変化を無視して計算することは必ずしも妥当とはいえない。従前の議論は、式(60)の適用範囲を過度に一般化した点で問題がある。
特許文献1に示されるような既知のFC-DNP-MRIの装置の構成や動作を簡単に説明しておく。
図36および図37は、それぞれ、特許文献1に示されるような既知のFC-DNP-MRIの装置の構成や動作を示すための説明図である。
図36に例示されるMRI(NMR)走査装置は、Bo磁界を生成するための4個の同軸方向に配置されたコイル(大型の主コイル対11と小型の外側コイル対12)、軸心がコイル11、12の軸心と同一でBo磁界を減じるためのコイル14、勾配磁場コイル13が配置される。また、同じ軸上に磁場方向が直交する送受信NMR信号コイル15とESR発信用コイル17が配置される。そして、被検体はこれらの中央に包囲されている。
図36に示されるコイル11と12および14は、それぞれ、主静磁場電源、副静磁場電源に接続され、各電源は、図37に示されるような静磁場制御シーケンスを介してフィールド・サイクリング・モードで動作させられる。コイル11と12で高い磁場強度(図37では0.01T)の静磁場が形成され、主静磁場を低磁場強度(図37では0.0051T)にするようにコイル14に電流が印加される。MRI撮像の対象である被検体中の水素核の磁化は高磁場で通常のMRI撮像シーケンスを用いて取得する。続いて、コイル14に電流を印加し、静磁場が低磁場となり或る待機時間を置いたのちに、ESRシーケンサが作動しESR発振器、アンプを経てESRコイル17へ印加される。
次に、ESR励起とコイル14の両方をオフにすることによりDNPを終了し、Bo磁界が、迅速に高磁場に再復帰した後、DNPで分極が変化した核スピンとバルクの核スピンのMRI撮像に入る。上記の操作を異なる磁場勾配で繰り返し取得することで必要なMRIデータを取得する。
MRI検出はグラディエントエコー法(GE)を用いて、90度パルスが(図37の3番目のラインにより示される如く)コイル15に対して印加され、磁場勾配電流が(図37の4番目から3つのラインにより示される如く)勾配コイルに対して印加される。この結果、コイル15により検出される出力NMRイメージ信号(図37の7番目のラインで表わされる)を生じることになる。
しかし、特許文献2に示される従前のFC-溶液DNP-MRIは、磁場固定型溶液DNP-MRIをそのまま磁場変換型FC-溶液DNP-MRIに転用しただけで理論的に問題点があった。更に、電子スピン励起し動的核偏極させた水素核スピンの分極が弱くMRI画像輝度も不十分で、欧州のMRI開発企業はFC-溶液DNP-MRIの開発を中断している(非特許文献47参照)。
このような背景も踏まえ、特許文献3では、FC-DNP-MRIの理論的解析を行い、常磁性物質を画像化する方法を提案した。しかし、特許文献3は、常磁性物質の画像化に特化したものであることから、その用途に制約があった。
WO92/04640 WO94/03824 特願2019-216166
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<電子スピン情報>
スピン情報は、量子科学技術分野では個々の核・電子スピンの情報を意味する用語として使われており、個々の電子スピン情報の保持・伝送・計測・イメージングが研究されている。
本明細書では、これらの個々の電子スピンの情報に加えて、観測視野の最小単位、画素(ピクセル、ボクセル等)に含有される電子スピンの全情報を包含して「電子スピン情報」と呼ぶ。
即ち、遊離電子には負電荷とスピンの性質があり、質量を持つ粒子でありかつ波動性がある。この電子スピンは、その波動性に基づいて自身の軌道と、或いは周囲の核スピンと相互作用する。また、電子スピンは様々な状態で存在する。電子スピンが有機物中にある場合には有機フリーラジカルと、金属錯体或いは金属酵素にある場合には常磁性物質と呼ばれる。加えて、遊離電子スピンが一定方向に拡散したり、その量が変化したり、電子スピンを有するフリーラジカルや常磁性物質が他分子と結合し分子サイスが増大したり、更に凝集塊となって分子運動が低下したり、液晶内や脂質膜などで配向する。このように電子スピンが置かれている状況に応じて電子スピンの性質(自身の、あるいは他スピンとの相互作用など)は大きく異なる。しかし、有機フリーラジカルや常磁性物質は電子スピンが逆向きのスピンと結合したり、他分子に移動することで電子スピン固有の性質を失う。これら電子スピンの状態や変化はESRスペクトルを観測することで決定される。このように、ESR現象には電子スピンの様々な情報が含まれており、これらを全て含有するものとして「電子スピン情報」と定義する。
静磁場に置かれた核-電子スピン系の全体的なスピンハミルトニアンHは、次のように表される(非特許文献1~4参照)。
H =-γI h’(I・B0)+γS h’(S・B0)+ HIS + HII + HSS+・・・ (61)
ここで、I, Sは、それぞれ、核スピン演算子(ベクトル)、電子スピン演算子(ベクトル)、B0は静磁場(ベクトル)である。式(61)の最初の2項は、それぞれ、核ゼーマン項および電子ゼーマン項を表している。また、HIS、HII、HSSは、それぞれ、核スピンと電子スピン間の相互作用(超微細結合)、核スピン-核スピン間の相互作用、電子スピン-電子スピン間の相互作用を表している。
<常磁性緩和促進>
近年の構造生物学におけるNMR解析で電子スピンとの相互作用によるNMRシグナル変化の解析が利用されている。例えば、MutLはDNPミスマッチ修復プロセスの中心分子であり、亜鉛イオンとATPに依存して作用発現することが知られている。MutLにおける金属イオンとATPの結合に関する溶液HSQC-NMR研究では、亜鉛イオンの代わりにマンガンイオンを用いた2次元スペクトルでアミノ酸残基番号が357番、402番、404番のアミノ酸残基のNMRシグナル減少率が著しいから、マンガンがこれらアミノ酸残基の中心にあるものと推定した(非特許文献30参照)。このように、金属イオン(電子スピン)が存在すると核スピンの緩和時間に大きく影響し、蛋白質のような生体高分子では金属イオン近傍の核スピンのNMRシグナル強度が大きく低下する。この現象は「常磁性緩和促進」(Paramagnetic Relaxation Enhancement: PRE)と呼ばれ、緩和促進の程度は、電子スピンの種類や量の他に、例えば、分子の大きさ、凝集、回転や並進等の運動性などにも依存し,NMRを用いた金属結合タンパク質の動的構造解析に活用されている(非特許文献61参照)。
MRIは式(3)、(4)で示すように、生体内の水分子の緩和時間を画像化した技術である。CTやPETに比較してMRIの画像輝度の差が少ないために、Gd錯体やMn錯体などがMRI造影剤として開発され、汎用されている。これらGd錯体やMn錯体の造影機序は金属イオンの常磁性によるもので、その開発に「常磁性緩和促進(PRE; Paramagnetic Relaxation Enhancement)」理論が用いられている(非特許文献62、63参照)。
常磁性の金属イオン・錯体を含む水溶液の縦緩和時間(T1)と横緩和時間(T2)は溶媒の反磁性緩和時間(Ti)Dと、常磁性物質(濃度を[C]mMとする)の添加で促進される緩和時間(Ti)Pとの間で次の関係がある。
(1/Ti)obsd = (1/Ti)D+(1/Ti)P i=1, 2 (62)
(1/Ti)P = C×ri i=1, 2 (63)
ここでriは緩和度で単位はmM-1 s-1である。
金属錯体と溶媒水との相互作用を内殻水(Inner-Sphere)と 外殻水(Outer-Sphere)に分けると、
(1/Ti)p = (1/Ti)inner sphere+(1/Ti)outer sphere i=1, 2 (64)
である。内殻水の緩和時間は金属イオン(M)のモル分率PMと金属イオンに結合している水分子の数qから次式で表される。
(1/T1) inner sphere
= PM・q/(T1MM ) (65)
(1/T2) inner sphere
= PM・q(T2M -1M -1+T2M -1) +ΔωM 2)/ (τM ((τM -1+T2M -1)2 +ΔωM 2 (66)
ここでTiMは結合水の緩和時間、τM は金属イオンでの結合水の滞在時間、ΔωMは化学シフト差である。
以上のように定義すると、金属イオン・錯体の電子スピン(スピン量子数;S)と超微細結合している水分子の緩和時間T1Mは動的核偏極(前述)に述べたSolomon-Bloembergen理論式を金属イオン(M)に拡張した以下の式(67)、(68)で表される(非特許文献67)。
1/T1M = (2/3)(A/ h’)2S(S+1)(τe2 / (1+ωS 2τe2 2))
+(2/15)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)S(S+1)((7τc2/(1+ωS 2τc2 )
+3τc1/(1+ωI 2τc1 ) (67)
1/T2M = (1/3)(A/ h’)2S(S+1)(τe1e2 /(1+ωS 2τe2 2))
+(1/15)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)S(S+1)(4τc1+13τc2/(1+(ωIS)2τc2 )
+3τc1/(1+ωI 2τc1 ) (68)
ここでτe2 -1M -1 +T2e -1、 τc1 -1 R -1M -1 +T1e -1、τc2 -1 R -1M -1 +T2e -1
電子スピンの緩和時間は種々の要素が関係し、特に10mT以下の低磁場ではゼロ磁場分裂による影響が大きいことから、BloembergenとMorganはスピン緩和時間を次式(69)、(70)で表した(非特許文献68)。
1/T1e=(12/5)Δ2τν(1/(1+ωS 2τν 1)+ 4/(1+4ωS 2τν ) (69)
1/T2e=(12/10)Δ2τν (3+5/(1+ωS 2τν 1)+ 2/(1+4ωS 2τν ) (70)
ここで、Δはゼロ磁場の寄与を示す項で、τνは磁場非依存性の相関時間である。
これらの式を用いると、任意の外部磁場(周波数)での電子スピンと超微細相互作用している核スピンの遷移確率(w0、w1、w2;1/T1 = w0+ 2w1 + w2)が分子の回転相関時間τRや分子と溶媒水の接触時間τM、電子スピンの緩和時間T1e、T2e(ゼロ磁場分裂の大きさと相関時間で決定)から、計算できる。
計算結果を図23Aに、水素核のラーモア周波数を横軸にとった緩和度(ri;式58参照)を示す(非特許文献62、63参照)。図23Aの上図は回転相関時間τRが1ナノ秒、図23Aの下図は0.1ナノ秒である(非特許文献63参照)。電子スピンの磁気回転比は核スピンの660倍であるため、NMRの観測時間領域ではωI 2τc1 に較べると共鳴周波数が高くなるほどωS 2τc2 >>1となり、式(67)でのスカラー項と双極子項の7τc2/(1+ωS 2τc2 )の寄与は小さくなる。図23Aに“7term”で示したように、1MHzを超えると徐々に小さくなり、10MHz以上でゼロとなる。また、スピン分子のサイズが大きくなる、或いは粘性が増すとストークス式に従い、回転相関時間τRは長くなり、緩和度が増大する(非特許文献63参照)。
図23Bに示すように、20~30MHz付近に急激な緩和度上昇が認められる。その高さは、核スピンの金属イオン分子での滞在時間τMが短いと小さいが、長くなると一旦徐々に大きくなり、更に長くなると減少し、結合状態になると消失する(非特許文献62参照)。このように、緩和度は金属イオン分子の回転拡散時間や結合水の滞在時間、ゼロ磁場分裂定数などに大きく依存することが分かる。
外殻水の場合には金属イオンに結合する水分子数qは零で、水分子と常磁性金属イオンの並進拡散運動の寄与が大きい。Freedは回転相関時間に電子スピン分子と溶媒水の並進拡散運動による衝突頻度の理論を提案した(非特許文献64,65参照)。
並進拡散ではスカラー項は効いてこないので、式(67)の双極子項をスペクトル密度関数で記述すると、
1/T1M = (2/15) (h’2γI 2γS 2/rIS 6)S(S+1)(7J2S)+3J1I)) (67’)
である。このスペクトル密度関数としてFreedらは新たに両分子間の最短距離をb、両分子の拡散定数の和をDとして次の式で記述した。
J t (ω, τt)=(1+5z/8+z2/8)(1+z+z2/2+z3/6+4z4/81+z5/81+z6/648) (71)
但し、z = (2ω,τt)1/2,、τt = b2/D
図16の並進拡散状態での計算値は式(71)を用いて計算した結果である。
また、PolnaszekらはFreed式でニトロキシルラジカル水溶液の縦緩和時間を計算し、実験値とよく一致することを示した(非特許文献66参照)。非常に複雑な式であるが、発明者もFreed式で理論計算すると論文と良く一致する結果が得られた。
因みに、式(67)で電子スピン量子数として1/2を代入すると、遷移確率ρとの間で以下の関係にあり、式(49)と一致する。
1/T1M=ρ=w0 + 2w1 + w2
=(1/10)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)(7τc / (1+ωS 2τc )
+3τc / (1+ωI 2τc ))+(1/2)(A /h’)2e/(1+ωS 2τe 2)) (72)
= (2/15) (h’2γI 2γS 2/rIS 6)S(S+1)(7J(ωS, τc)
+3J(ωI, τc)) +(1/2)(A /h’)2(J(ωSe)) (73)
<電子スピン情報による動的核偏極と常磁性緩和促進>
動的核偏極と常磁性緩和促進は文献により記述法が異なるが、共にSolomon・Bloembergen方程式であり、スペクトル密度関数での相関時間で統一して種々の項が表現される。そこで、便宜的に縦緩和に絞って、スペクトル密度関数を用いて遷移確率wを表すと以下の式となる(非特許文献67参照)。
(w0)SC= (2/3)(A /h’)2(S(S+1) J(ωISe) (38’)
(w1)SC=(w1’)SC =(w2)SC =0 (39’)
(w0)DD =(2/15)(μ0/4π)2S(S+1)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)J(ωISc2) (31’)
(w1)DD =(3/15)(μ0/4π)2S(S+1)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)J(ωIc1) (32’)
(w1’)DD =(3/15)(μ0/4π)2S(S+1)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)J(ωSc1) (33’)
(w2)DD =(12/15)(μ0/4・2S(S+1)(h’2γI 2γS 2/rIS 6)J(ωISc2) (34’)
但し、
J(ω,τ) = τ/(1+ω2τ2)、τci = (τr -1m -1+Tie-1)-1 (i=1,2)、τei = (τm -1+Tie-1)-1 (i=1,2)であり、τrは回転相関時間、τは電子スピンと核スピンの接触時間、T1e とT2e は電子スピンの縦・横緩和時間、ωIとωSは夫々核スピンと電子スピンの共鳴角周波数、h’はプランク定数hを2πで除した値を、rISは電子スピンと核スピン間の距離、Sは電子スピン量子数である。なお、電子スピン量子数S>1/2の場合にはゼロ磁場分裂があるので、T1e とT2eは、式(69)と(70)で表される。
対象とする電子スピンMと超微細相互作用している核スピンの遷移確率は、
σ=((w2)SC+(w2)DD)-((w0)SC+(w0)DD) (36’)
ρ=((w0)SC+(w0)DD)+ 2((w1)SC+(w1)DD)+((w2)SC+(w2)DD) (37’)
である。 動的核偏極は既に述べたように、電子スピンと超微細相互作用している核スピンがESR励起により揃って遷移して起こることから、上述の式(36’)のσがその駆動力で、スペクトル密度関数でωS 2τe2 ないしωS 2τc2 の項があり、図23Aに“7term”→で示したように高周波(2MHz、共鳴磁場0.05T以上)になると減少し、図16で示した結合因数ξ=σ/ρの磁場依存性の結果とよく一致する。
前述のソロモン方程式(16)と(17)で全緩和プロセスを説明するために、電子スピンMと超微細相互作用していない核スピンおよび電子スピン自身遷移確率wn、weを考慮すると、前述のように、
d<Iz>/ dt =-(ρ+ wn)(<Iz>-I0) -σ(<Sz>-S0) (25)
d<Sz>/ dt =-(1ρ’+ we)(<Sz>-S0) -σ(<Iz>-I0) (26)
で表される。
ここで、電子スピン自身の緩和は核スピンの緩和に較べて10も速いことから式(26)の寄与は無視でき、式(25)の第2項(<Sz>-S0)に飽和因数s=(S0-<Sz>)/ S0を導入すると、
d<Iz>/ dt =-(ρ+ wn)(<Iz>-I0) +σsS0 (25’)
となり、電子スピンMをESR励起させた際の画素(x,y,z)における核スピンの縦磁化Mz(x,y,z)(t) MESR(+)は、
Mz(x,y,z)(t) MESR(+)
=M0 (x,y,z)-[σ/(ρ+wn)]sS0
+{Mz(x.y.z)(0)MESR(+)-(M0(x.y.z)-[σ/(ρ+ wn)] sS0)}exp(-(ρ+wn)t) (74)
と表される。
また、ESR非照射時の画素(x,y,z)における核スピンの縦磁化Mz(x,y,z)(t) MESR(-)は、
Mz(x,y,z)(t) M ESR(-)
=M0 (x,y,z)+{ Mz(x,y,z)(0)M ESR(-)-M0 (x,y,z)}exp(-(ρ+wn)t) (75)
と表される。
式(74)のMz(x,y,z)(t) MESR(+)と式(75)のMz(x,y,z)(t) MESR(-)=の差は、電子スピン共鳴した特定の「電子スピン情報」による変化量である。複数種の「電子スピン情報」がある場合には、個々の電子スピン共鳴データ(共鳴周波数或いは共鳴磁場、シグナル強度・縦緩和時間、シグナル線幅・横緩和時間)を取得することで、それぞれの「電子スピン情報」を各画素における画像データとして取得できる。また、異方性ESRスペクトルからも、より複雑な情報が取得できる。
一方、常磁性緩和促進の理論は金属錯体に限定したものでなく、無機・有機ラジカルなどを含む電子スピンを有する全ての分子に当てはまる普遍的概念である。
既に述べたように、溶液中の電子スピンの遷移確率weは核スピンの遷移確率(wi(i = 0~2)及びwn)よりも数桁以上大きいことから、核磁気モーメントの観測時間スケールでは電子スピンは<SZ> = S0と見做すことができ、
d<Iz>/ dt =-(ρ+ wn)(<Iz>-I0) (25”)
となる。
従って、対象とする電子スピンMと超微細結合している核スピンの画素当たりの縦磁化Mz(x,y,z)(t) M
Mz(x,y,z)(t) M
= M0(x,y,z)M +(Mz(x,y,z)(0)M-M0(x,y,z)M)exp(-(ρ+ wn)t) (76)
で表され、式(75)と一致する。
また、電子スピンMと超微細結合していない周辺領域の核スピンの画素当たりの縦磁化Mz(x,y,z)(t) bulk
Mz(x,y,z)(t) bulk
= M0(x,y,z)bulk +(Mz(x,y,z)(0)bulk-M0(x,y,z)bulk)exp(-wnt) (77)
となる。
このように、電子スピンMを含まないときの核スピンの遷移確率wnに対し、電子スピンMと超微細結合している核スピンの遷移確率はρ+wn(但しρ=w0 + 2w1 + w2)となり、縦緩和時間もT=1/wnからT1M=1/(ρ+ wn)へと常磁性緩和促進される。
図3に示すように、生体では電子スピン(フリーラジカルや金属イオン、金属蛋白など)が臓器ごとに異なった濃度で微量存在し、MRIの画像輝度・解剖学的画像に寄与している。従って、電子スピンM が無い状態の遷移確率wnとしては図10に示す緩和時間T bulkを用いて、wn=1/Tbulkとすることが必要である。
SBM理論で述べたように、緩和は種々の電子スピン情報に由来する遷移確率wnの総和である。電子スピン情報には電子スピンの種類や、量、縦緩和時間・線幅・横緩和時間などの動的環境が含まれることから、電子スピンnの緩和速度Rn(s-1)は次の式(78)で表される。
Rn=Cn×r (78)
但しCn=電子スピンの濃度(mM)、r=緩和度(mM-1-1)である。NMR計測試料内、或いはMRI画素内の緩和時間T(x,y,z)は、全電子スピン情報に由来する緩和速度の総和、ΣRn(s-1)との間で次の式(79)の関係があり、NMRのシグナル強度、MRIの画像輝度に反映される。
T(x,y,z)=1/ΣRn(s-1) (79)
従って、個別の緩和速度を分離特定し数値化できれば、その数値を電子スピン情報として新たな次元に持つ3次元NMRや4次元MRIが可能となる。しかし、NMRやMRIでは、電子スピン情報以外にスピン緩和に影響を及ぼす因子があり、現有のNMR分光器やMRI画像装置では測定対象内の電子スピン情報を決定するには動的核偏極の画像情報が有用である。
電子スピンと超微細相互作用している核スピンの遷移確率(緩和時間の逆数)は超微細結合している電子スピン情報(種・量・動的環境)を反映している。既に述べてきたように、生体内にはESRで観測される多種多様な電子スピンが混在しており、その量は臓器により著しく異なる。これらが各臓器での緩和時間に反映している。MRI画像では臓器ごとに緩和時間が異なり、その違いを解剖学的画像として表示している。また、臓器内でガンや炎症などを生じるとMRI画像に変化がみられる。
一方、生体ESR測定やDNP-MRIからガンや炎症部位で様々な電子スピン分子が産生することが知られている。PREを利用したMRIでは電子スピン情報を特定できないがDNP-MRIは核スピンと超微細相互作用している電子スピンをESR励起することで生じる核スピンの分極を画像化したもので、電子スピン情報が反映している。
以上のようにDNPとPREは共に電子スピン・核スピン間超微細相互作用に基づいた現象であるが、その機序は異なる。もし、DNPとPREを異なる画像情報として有効に連結させることが出来れば、新たな電子スピン情報の画像化アルゴリズムが発見されることが期待され、これが本発明の課題である。
上述のような課題に対処するためには、NMRないしMRIで電子スピン情報に由来する動的核偏極と緩和促進効果とを併用し、NMRやMRIにおけるピーク高や画像輝度から緩和促進効果分を抽出し、ESR照射によるDNP効果を重ね合わせることが有効である。そして、これにより、これまでのNMRピーク高やMRI画像輝度という情報に加えて、核スピン緩和に大きく影響する「常磁性緩和促進」とその原因となっている電子スピン情報を区別して特定した情報を数値化し、この数値を新たな次元として現有の情報に付加することで3次元NMRないし4次元MRIとすることが可能となるものである。
特に、図17に示すように、ESRの共鳴周波数(磁場)を掃引してDNP信号を取得すると、通常のESR計測で得られる電子スピン情報、即ち、電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間、微細分裂などがDNP信号として容易に分離・取得できる(非特許文献45―48参照)。これらの電子スピン情報(DNPによる情報)を、色の3属性(色相、明度、彩度)を利用し、例えば、電子スピンの種類を色相で、その量を明度で、線幅・横緩和時間を彩度で表示することは臨床診断において疾患の原因物質を的確に可視化することになり極めて有効である。この表示法の基準を予め定義し統一的に活用すれば、装置間での相違は無くなり、医療現場での無用な混乱を避けることが出来る。
本発明は、磁気共鳴法(核磁気共鳴、電子スピン共鳴、強磁性共鳴、その他)及びその画像化法を用い、常磁性緩和促進によるNMRシグナル強度、あるいはMRI画像輝度の変化分を高感度に捉え、電子スピン共鳴吸収による動的核偏極を電子スピン情報の抽出フィルターとして活用し、電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間を抽出し、新たな次元を付加した画像化及び分析方法並びにプログラム及びシステムに関するものであり、本発明の実施の態様を例示すれば、以下のとおりである。
なお、電子スピン情報をとして、電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間以外の情報を加えること、及び上記電子スピン情報を光技術や音響技術などで励起・検出することを妨げるものではない。
<実施態様1>
少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピン情報を抽出し画像化及び/又は分析するための方法であって、
常磁性緩和促進に関わる核磁化情報を取得するステップと、
動的核偏極に関わる核磁化情報を取得するステップと、
前記常磁性緩和促進に関わる核磁化情報、及び、動的核偏極に関わる核磁化情報に基づいて、前記試料中の電子スピン情報を画像化及び/又は分析するステップと、
を含む方法。
<実施態様2>
少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピン情報を抽出し画像化及び/又は分析するための方法であって、
前記試料における対象とする基本的な電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として、さらに他のデータを含む電子スピン情報を取得するステップと、
前記試料の電子スピンが共存しない場合のNMR緩和時間と電子スピン情報を含む場合の緩和時間を、固定磁場あるいは異なる磁場環境で、緩和時間が異なる臓器ごとに、ないし想定される病変ごとに、電子スピン情報データベースを含め予め求めた情報から推測あるいは実測し取得するステップと、
前記取得した緩和時間を基に、スライス断面(画像素子、関心領域など含む)での磁化データを取得するために、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスと共鳴磁場(周波数)を決定するステップと、
前記決定したシークエンスと共鳴磁場(周波数)を基に、スライス断面ごとに核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第1の時点(TI2)及び第2の時点(TI1)で180度パルスを照射し、第3の時点(TE)で対象とする電子スピンMの常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)M)を取得するステップと、
前記決定したシークエンスと共鳴磁場(周波数)を基に、前記第4の時点(TI3)後から電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<TI1)間照射した後の時点(TE)で対象とする電子スピンMの動的核偏極に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(+))を取得し、同じく前記第4の時点(TI3)後から電子スピン共鳴電磁波を照射しないでTesr(Tesr<TI1)後の時点(TE)で核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(―))を取得するステップと、
前記動的核偏極に関わるESR照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(+))とESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(―))の差ないし割合から対象とする電子スピン情報のDNP抽出用フィルター情報を取得するステップと、
前記常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)M)に、前記DNP抽出用フィルター情報を加算、乗算などで付加し、前記試料中の電子スピン情報を画像情報化して表示するステップと、
別途得られた解剖学的MRI画像に色の3属性を用いて電子スピン情報画像を融像するステップと
を含む方法。
<実施態様3>
少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピン情報を抽出し画像化及び/又は分析するための方法であって、
前記試料における基本的な電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として、さらに他のデータをも含む電子スピン情報を取得するステップと、
前記試料の対象とする電子スピンMが共存しない場合のNMR緩和時間と電子スピン情報を含む場合の緩和時間を、固定磁場あるいは異なる磁場環境で、緩和時間が異なる臓器ごとに、ないし想定される病変ごとに、予め求めた情報から推測あるいは実測し取得するステップと、
前記取得した緩和時間を基に、スライス断面(画像素子、関心領域など含む)での磁化データを取得するために、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスと共鳴磁場(周波数)を決定するステップと、
前記決定したシークエンスを基に、スライス断面ごとに高磁場(BoH)で核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第4の時点(TI2)及び第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換・放置し、第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、第7の時点(TE)で常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)M)を取得するステップと、
前記第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換しTrap後に電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<(TI1+2*Trap))間照射し、前記第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、前記第7の時点(TE)で対象とする電子スピンMの動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))を取得し、同じく前記第4の時点(TI3)後から電子スピン共鳴電磁波を照射しないでTesr(Tesr<TI1)後の時点(TE)で核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(―))を取得するステップと、
前記動的核偏極に関わるESR照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(+))とESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z)MESR(―))の差ないし割合から対象とする電子スピン情報のDNP抽出用フィルター情報を取得するステップと、
前記常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)M)に、前記DNP抽出用フィルター情報を加算、乗算などで付加し、前記試料中の電子スピン情報を画像情報化して表示するステップと、
別途得られた解剖学的MRI画像に色の3属性を用いて電子スピン情報画像を融像するステップと
を含む方法。
<実施態様4>
少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して電子スピン情報を画像化するための電子スピン情報の画像化方法であって、
前記の両核スピンが、一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に高磁場環境でスピン緩和過程を経て高分極を獲得し第1の画像データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記の両核スピンが低分極に緩和する過程で第2の画像データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記低磁場環境に移行後前記第2の画像データを取得するまでの期間に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の画像データを取得するステップと
前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記低磁場環境に移行後前記第2の画像データを取得するまでの期間に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射しないで、第4の画像データを取得するステップと
前記第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の画像情報を取得するとともに、前記第3の画像データ及び第4の画像データに基づいて前記電子スピン情報の動的核偏極に関わる画像情報を取得するステップと、
を含み、前記常磁性緩和促進によるスピン分極の画像情報と動的核偏極に関わる画像情報から前記電子スピン情報に特有の画像データを特定し、前記試料において電子スピン情報を含む部位と含まない部位の画像データを取得・表示することを特徴とする方法。
<実施態様5>
少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して電子スピン情報を画像化するための電子スピン情報の画像化方法であって、
前記の両核スピンが、磁場環境下で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に第1の画像データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後にスピン緩和過程を経て高分極を獲得した後に第2の画像データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で高分極を獲得した後に、前記の第2の画像データ及び第1の画像データの取得時刻の時間差に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の画像データを取得するステップと
前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記低磁場環境に移行後前記第2の画像データを取得するまでの期間に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射しないで、第4の画像データを取得するステップと
前記第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の画像情報を取得するとともに、前記第3の画像データ及び第4の画像データに基づいて前記常磁性物質の動的核偏極に関わる画像情報を取得するステップと、
を含み、前記常磁性緩和促進によるスピン分極の画像情報と動的核偏極に関わる画像情報から前記電子スピン情報に特有の画像データを特定し、前記試料において電子スピン情報を含む部位と含まない部位の画像データを取得・表示することを特徴とする方法。
<実施態様6>
少なくとも1種類の電子スピン情報が存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、複数の両核スピンを常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して分析する方法であって、
前記の両核スピンが、磁場環境下で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に第1の磁化データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後にスピン緩和過程を経て高分極を獲得した後に第2の磁化データを取得するステップと、
前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で高分極を獲得した後に、前記の第2の磁化データ及び第1の磁化データの取得時刻の時間差に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の磁化データを取得するステップと
前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記低磁場環境に移行後前記第2の画像データを取得するまでの期間に匹敵する期間、或いは、高分極を獲得後に低磁場環境で、緩和過程から計算される期間、電子スピン共鳴電磁波を照射しないで、第4の画像データを取得するステップと
前記第1の磁化データ及び第2の磁化データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報を取得するとともに、前記第3の磁化データ及び第4の磁化データに基づいて前記動的核偏極に関わる情報を取得するステップと、
を含み、前記の電子スピン情報を含む試料中の核スピンの常磁性緩和促進によるスピン分極の情報と前記動的核偏極に関わる情報から前記電子スピン情報に由来する特有の核スピンの磁化データを取得・表示することを特徴とする方法。
<実施態様7>
実施態様1~6に記載の方法において、電子スピン情報が複数する存在する場合にCW-ESRを用いた場合、あるいはパルスESRで単一パルスで励起出来ない範囲を対象とする場合に1又は複数のステップを繰り返すことを特徴とする方法。
<実施態様8>
実施態様1~7に記載の方法において、明瞭なESRスペクトルが得られない場合に、動的核偏極スペクトルから得た電子スピン情報に基づきESR照射を行い、前記動的核偏極に関わる核磁化情報の画像情報を取得することを特徴とする方法。
<実施態様9>
実施態様1~8に記載の方法において、全てのボクセルに対して1又は複数のステップを繰り返すことを特徴とする方法。
<実施態様10>
実施態様1~9に記載の方法において、前記電子スピン情報に加え、素子情報を用いることを特徴とする方法。
<実施態様11>
実施態様1~10に記載の方法であって、更に、積算回数を重ねることで前記核磁化情報を増幅するステップを含む方法。
<実施態様12>
実施態様1~11に記載の方法において、緩和時間T1を推定し、推定した緩和時間T1を用いて最適なフリップ角度を含むシークエンスを決定し、最大感度で最短観測時間を達成することを特徴とする方法。
<実施態様13>
実施態様1~12に記載の方法において、磁場環境を形成するために、磁場固定型DNP-NMR、磁場変換型(FC)、周波数変換型、温度変換型DNP-NMRの1つ又は複数を用いること、あるいは、磁気共鳴法以外の光技術や音響技術を用いることを特徴とする方法。
<実施態様14>
実施態様1~13に記載の方法において、電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間に対し、色の3属性(色相、明度、彩度)を活用し、DNP惹起物質の種類即ち原因物質、DNP惹起物質の量・縦緩和時間、DNP効果の程度に関わる線幅・横緩和時間を表示するとともに、表示法の基準を予め定義し統一的に活用することを特徴とする方法。
<実施態様15>
実施態様1~14に記載の方法であって、4次元MRIを使用する場合に、前記電子スピン情報を、原因物質ごとに、その量と特性を、予め定義された色の3属性(色相、彩度、明度)に基づき統一的に表示することを特徴とする方法。
<実施態様16>
コンピュータに実施態様1~15に記載の方法を実行させるためのプログラム。
<実施態様17>
1又は複数のプロセッサを備え、該1又は複数のプロセッサに実施態様16に記載のプログラムを実行させることにより、試料中の電子スピン情報を画像化及び/又は分析することを特徴とするシステム。
なお、上述の実施の態様において、各ステップの実施順序は、各ステップの記載の順序に限定されるものではない点に留意されたい。
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法に基づき記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問うものではない。また、「プログラム」は単一の形で構成されてもよいが、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されてもよく、また、他の既存のプログラムと協働してその機能を達成するように構成されたものであってもよい。このソースコードはMR fingureprintや合成MRIなど、他のMRI手法に活用することもできる。
また、「システム」は、コンピュータのソフトウエアによって各種機能を実現する機能実現手段の組合せとして構成されてもよい。機能実現手段には、例えば、プログラムモジュールが含まれ得る。システムに含まれる1又は複数のプロセッサが、プログラムの一部又は全部を分担するように構成してもよい。なお、システムの一部又は全部が、クラウド中に存在するものであってもよく、ハードウエアとして構成されてもよい。
本発明によれば、理論的検討により得られた新規な知見に基づき電子スピン情報を画像化/分析するための方法並びにプログラム及びシステムを提供することができる。
図1Aは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Bは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Cは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の更に別の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Dは、本発明の常磁性物質の画像化方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Eは、本発明の常磁性物質の画像化方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Fは、本発明の常磁性物質の分析方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートである。 図1Gは、本発明の常磁性物質の分析方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートである。 図2は、ウサギの腎組織を急速凍結しXバンドESR分光器を用いて77Kで出力0.01mWおよび200mWで測定したESRスペクトルである。 図3は、図2のg=2.00の有機炭素ラジカル量を組織間で比較したものである。 図4は、溶液中で酸素雰囲気下ビタミンCとアジド系医薬品を混合したときのXバンドESRスペクトルである。 図5Aは、リゾレシチンの生理作用を解析するためにニトロキシルラベルしたリゾレシチン水溶液のESRスペクトルである。 図5Bは、リゾレシチンを赤血球と混和した後の一定時間経過後ESRスペクトルである。 図5Cは、スピンラベルしたステアリン酸が肝小胞体膜に挿入したときのスペクトルである。 図6は、LバンドESR(1GHz)スペクトルをXバンドと比較して示したグラフである。 図7Aは、2種類の常磁性物質をマウスの尾静脈に投与した後の頭部と腹部でのESRシグナルである。 図7Bは、医薬品(リピオドール)にスピン標識したエマルジョンの試料管内のESRスペクトルである。 図7Cは医薬品(リピオドール)にスピン標識したエマルジョンの生体内のESRスペクトルである。 図8は、水処理過程における活性酸素の生成をスピントラップ法でとらえたESRスペクトルである。 図9は、ペロブスカイト太陽電池で用いられているspiro-OMeTADでの太陽光ホール形成にLi-TFSIドープが及ぼす効果をESR法で測定した結果である。 図10は、炭素Anthracite中の遊離電子スピン情のESRスペクトルとそのESR特性を示すグラフである。 図11は、脳の電子スピン情報を取得する目的で開発したスピンプローブを尾静脈内投与し頭部でのESR画像である。 図12は、異なる磁場におけるヒトの各組織の縦緩和時間に関して式(4)を用いて経験則で計算するためのパラメータをまとめた表(A)と、このパラメータを用いた計算結果(B)である。 図13は、ヒト頭部でのDIRやFLAIR、T1強調画像法のパルスシーケンスで撮像したMRI画像である。 図14は、メタノール燃料電池のセルを300MHzのNMR装置を拡散MRI装置に改変して撮像した画像である。 図15は、核スピン及び電子スピンが1/2のもっとも単純なケースで各エネルギー準位での様子を示した説明図である。 図16は、結合因数ξのラーモア周波数、即ち、外部静磁場に依存性の計算結果を示すグラフである。 図17は4種類の有機ラジカルのESRスペクトル(a)、共鳴周波数を変えたときのDNP-MRI画像(b)とそれぞれの画像強度(c)である。 図18は、電磁波の生体内透過性と周波数の関係を示したグラフである。 図19は、磁場変換サイクルでの核磁化Mz(t)の変化を示す説明図である。 図20は、非特許文献52で採用された磁場変換条件とYoungdee等の式(59)、(60)で計算した縦磁化の変動結果を示すグラフである。 図21は、非特許文献52のパルスシーケンスを示す説明図である。 図22は、水分子の回転相関時間(τc)と水分子の緩和時間の関係を核磁気共鳴周波数別に示したグラフである。 図23Aは、水素核のラーモア周波数を横軸にとった緩和度を示すグラフである。 図23Bは、水素核のラーモア周波数を横軸にとった緩和度を金属イオン分子上での核スピンの滞在時間τMごとに示すグラフである。 図24は、XバンドcwESRを用いてニトロキシルラジカル水溶液とメラニンのポリビニルアルコールゲルを測定したESRスペクトル並びに飽和曲線である。 図25Aは、メラニン100mgを含むPVAゲルを満たした試験管とニトロキシルラジカルCmp2mM水溶液を満たした試験管を0.5TのMRIで飽和回復法により撮像した画像輝度を示すグラフである。 図25Bは、硫酸銅溶液と、ニトロキシルラジカルCmp水溶液を3TのMRIで反転回復法パルスシーケンスを用いた実測画像から得た輝度を各TI(観測間隔時間)に対してプロットしたグラフである。 図26Aは、図26B、図28~図32で用いたファントムを示しており、異なる緩和度を有する電子スピンA、B、Cが3つの緩和度を示す溶液となるように単独或いは混合物として存在する場合を想定したファントム例である。 図26Bは、図26Aのファントム例を外部磁場3TMRIでパルスシーケンスとしてDIR(Double Inversion Recovery)法を用いて撮像した画像輝度をシミュレーションしたシミュレーション結果の一例を示す表である。 図27は、実施形態例4-1、比較例4-1について実施条件(E=-10)で計算した結果を、実施形態例4-2、比較例4-2について実施条件(E=-0.5)で計算した結果を例示する表である。 図28は、図26Aのファントム例をそれぞれ、3T、0.1TでのTE時における縦磁化(Mz)を例示する表である。 図29Aは、図26Aのファントム例のAとBが脳にあると想定して、外部固定磁場Bo=0.1Tにおいてスライス断面で特定のDIRパルスシーケンス条件を用いて、TI(1) からTEの間にESR非照射とESR照射(E=0.95)を交互に繰り返した場合を想定して縦磁化の経時変化をシミュレーションした結果を示す表である。 図29Bは、図29Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データから再構成した脳(白質と灰白質)のMRI画像を示す模式図である。 図29Cは、脳に微小病巣が発生したMRI画像を示す模式図である。 図29Dは、電子スピン情報を反映したDNP-MRI画像を示す模式図で、図29Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データとESR照射の画像データから再構成した脳(白質に微小病巣AとB、と灰白質に微小病巣AとBが存在)のMRI画像を用いて電子スピン情報を電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として新たな次元に付加したスライス断面画像の再構成例を示す模式図である。 図30は、2次元NMRに電子スピン情報を新たな次元として、電子スピン情報の中から電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として加えた3次元NMRをシミュレーションした一例を示す模式図である。 図31Aは、ヒト脳の白質と灰白質に2種の異なる電子スピン情報を有する微小病変(図26Aのファントム例のAとB)が存在すると想定したファントムで、特定のパルスシーケンスを用いてNMR計測したときの縦磁化を例示する表である。0.5Tと10mTの連続波ESR型磁場変換DNP-MRIを用いて、10mTで連続波ESRを400ミリ秒間照射(E=0.99の条件)し、0.5Tでスライス断面での縦磁化挙動をDouble Inversion Recovery法により実施した実施例である。 図31Bは、、図31Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データから再構成した脳(白質と灰白質)のMRI画像を示す模式図である。 図31Cは、図31Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データから再構成した脳(白質に微小病巣AとB、と灰白質に微小病巣AとBが存在)のMRI画像を示す模式図である。 図31Dは、図31Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データとESR照射の画像データから再構成した脳(白質に微小病巣AとB、と灰白質に微小病巣AとBが存在)のMRI画像を用いて電子スピン情報を電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として新たな次元に付加したスライス断面画像の再構成例を示す模式図である。 図32Aは、図31でのcw-ESR照射をパルスESR照射に変え、ヒト脳の白質と灰白質に2種の異なる電子スピン情報を有する微小病変(図26Aのファントム例のAとB)が存在すると想定したファントムでの90度NMRパルス照射時の縦磁化を例示する表である。 図32Bは、図32Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データとESR照射の画像データから再構成した脳(白質に微小病巣AとB、と灰白質に微小病巣AとBが存在)のMRI画像を用いて電子スピン情報を電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として新たな次元に付加したスライス断面画像の再構成例を示す模式図である。 図33は、ニトロキシルラジカル水溶液(Cmp2mM)を従来法FC-DNP-MRIで得ていた画像情報を便宜的に用いて、本発明に基づいたアルゴリズムで画像処理し取得された電子スピン情報画像の一例を示すものである。 図34は、健常人の掌の下にFADラジカル水溶液ないしメラニンのPVAゲル充満試料管を静置し従来法FC-DNP-MRIで得ていた画像情報を便宜的に用いて、本発明に基づいたアルゴリズムで画像処理し取得された電子スピン情報画像の一例を示すものである。 図35は、ニトロキシルラジカル水溶液(Cmp1mMと4mM)を従来法FC-DNP-MRIで得ていた画像情報を便宜的に用いて、本発明に基づいたアルゴリズムで画像処理し取得された電子スピン情報画像の一例を示すものである。 図36は、既知のFC-MRIの装置の構成を示すための説明図である。 図37は、既知のFC-MRIの装置の動作を示すための説明図である。 図38Aはマンガンを含む種々の酵素の緩和度をプロトンラーモア周波数に対してプロットした報告グラフである。 図38Bは種々の金属イオンを含む蛋白質の緩和度をプロトンラーモア周波数に対してプロットした報告グラフである。
本発明は、磁気共鳴の電磁波共鳴吸収、緩和現象および動的核偏極の原点に戻り、理論的検討により得られた新規な知見に基づき、NMRないしESR、FMC、MRIで常磁性緩和促進効果と動的核偏極を併用し、電子スピン情報を活用した観測・画像化、分析するための手法を提案するものである。
以下、本発明者により得られた新規な知見を、従来提示されている知見と対比しつつ、理論的検討も踏まえて詳述した後、このような新規な知見に基づいてなされた本発明について、実施態様を例示し説明することとする。
なお、本発明は、特許請求の範囲の記載に基づき解釈されるべきであり、以下において説明する実施形態例により本発明が限定されるものではないことに留意されたい。また、当業者であれば、他の類似する実施形態を使用することができること、また、本発明から逸脱することなく適宜実施形態の変更又は追加を行うことができることに留意すべきである。
<電子スピン情報の抽出と核スピン緩和時間の推定>
電子スピン情報を抽出するに当たり、ESR分光器を用いて種々のESR条件のもとで、対象試料のESRスペクトルや飽和曲線、緩和時間などを前もって測定する、或いは推測し、動的核偏極の条件を設定することが必要である。
一方、核スピン緩和に関しては各臓器・組織・病変部位ごとに電子スピン情報による常磁性緩和促進効果が異なり、かつ静磁場にも依存することから、使用する静磁場でのヒトの各臓器におけるT1を適切に推測することは重要である。図9と式(4)或いは測定対象に応じて最適な式を用いて縦緩和時間を推定する。また、種々の電子スピンの常磁性緩和促進に関して多くの文献情報がある。例えば、図26Aで例示したニトロキシルラジカルの緩和度は0.2mM-1-1程度と著しく低いが十分な電子スピン情報画像が得られている。それに対し、図38Aに示すようにマンガン酵素ではピルビン酸キナーゼでは20MHzでの緩和度が250mM-1-1以上と大きいのに対し、カルボキシペプチダーゼでは1MHz以下でも40mM-1-1程度の緩和度があり、また、図38Bに示すように活性酸素であるスーパーオキシドの消去酵素SODでは0.1MHzでも7mM-1-1程度の緩和度があり、動的核偏極が期待できる(非特許文献69参照)。これらを含め、既報のデータに加え、新たな実験で得たデータなどを用いて、生体内の種々の電子スピン分子による磁気共鳴特性を整理することで本発明の電子スピン情報画像化に有効なデータベースを作成すると、パルスシーケンス及び外部磁場、共鳴周波数の設定・予測に活用できる。
しかしながら、現在のMRIにおける緩和時間画像化法には幾つかの問題点がある。通常のMRIでは位相検波器を用いてNMR信号を検出しており、同位相(in phase)と直角位相(in quadrature)で検波し、夫々の信号強度、IpとIqから実画像(Mag)と位相画像(Φ)を次の式(80)と(81)から求めている(非特許文献5参照)。
Mag=(Ip2+Iq2)1/2 (80)
Φ=arctan(Iq/Ip) (81)
従って、図25Bに示すように、MRIでは画像輝度は負の信号強度に対しても“正”の画像輝度として示される。反転回復法で撮像した場合には信号強度は負から回復しMzが零になる時点(null point、ヌル点)以降から正となる。多種のスピン情報が混在する場合にはヌル点前のMzデータが含まれる場合も有り、位相成分を用いて“正負”を決定し、ノイズレベルを補正することが必要である。これらの操作を行い、縦緩和による画像輝度の変化が最大になる条件、即ち常磁性緩和促進の効果を最大限に活用することが可能となる。
緩和時間の差を用いた電子スピン情報の画像化とは、電子スピンが存在する局所とその周辺部分とを区別して画像化することである。このような画像化に当たっては、(1)常磁性物質の電子スピンと超微細結合していない周辺領域の核スピンの挙動と、(2)常磁性物質の電子スピンと超微細結合している核スピンの挙動と、(3)ESR照射による動的核偏極で変化した核スピンの挙動とに着目する必要がある。
そこで、前述の方程式(25)と(26)についてHausserらが用いた定常状態を前提にすることなく、飽和因数sを用いて、以下の式(82)が得られる。
<Iz(t)> ESR(+)
=I0-[σ/(ρ+wn)]sS0 +{<Iz>(0)-(I0-[σ/(ρ+ wn)] sS0)}exp(-(ρ+wn)t) (82)
式(82)の<Iz(t)>ESR(+)は、電子スピン共鳴した特定の「電子スピン情報」による変化量であり、複数種の「電子スピン情報」に対して、個々の電子スピン共鳴データ(共鳴周波数或いは共鳴磁場、シグナル強度・縦緩和時間、シグナル線幅・横緩和時間)を取得することで、それぞれの「電子スピン情報」の各画素における画像データが取得できる。また、異方性ESRスペクトルからも、より複雑な情報が取得できる。
ところで、式(3)、(4)で表される画素のシグナル強度S(x,y)をベースとして、以下の式(83)で表される量
[S(x,y,z;(t) ESR(+ ))-S(x,y,z;(t) ESR(-))] (83)
は、動的核偏極による変化分を示しており、様々な電子スピン情報が混在していても、予め取得したESRスペクトルデータから電磁波照射で共鳴した電子スピンの電子スピン情報のみを抽出することも可能で、この抽出情報は、DNPの程度を示す「DNP画像情報」である。但し、S(x,y,z;(t) ESR(+ ))は、ESR照射時の時刻tにおけるシグナル強度、S(x,y,z;(t) ESR(-))は、非照射時の時刻tにおけるシグナル強度を表す。なお、連続波ESRの代わりにパルスESRを採用すると、磁場掃引する必要が無く短時間で十分なDNP効果を得ること、及び個々の電子スピン共鳴データ(共鳴周波数或いは共鳴磁場、シグナル強度・縦緩和時間、シグナル線幅・横緩和時間)を同時取得することができ、「DNP画像情報」との紐付けも可能となる利点を有する(図28参照)。
なお、熱負荷の観点から、この「DNP画像情報」で十分な画像輝度を得ることは好ましくなく、低ESR照射量で取得した「DNP画像情報」をDNPの程度を示す「DNPフィルター」として電子スピン情報の特定に活用することが有効である。
そこで、電子スピン情報を反映した「常磁性緩和促進画像情報」のボクセル毎に「DNP画像情報」を「DNPフィルター」として乗じる、或いはk-空間で重畳することで電子スピン情報を画像化でき、かつESRデータと紐付けることで個々の電子スピン情報を分離・特定できる。これが、本発明の画像化方法の特徴の1つである。加えて、SSFP(Steady-State Free Precession)やTrue-FISPなどのパルスシーケンスを活用することで短時間に撮像することも可能である(非特許文献5参照)。
また、電磁波の生体内透過性は、図18に示すように、周波数及び生体部位に大きく依存することから、測定部位に応じてESR照射電磁波の周波数を下げることが有効である。最も普及しているESR分光器は、Xバンドと呼ばれる9GHzの電磁波を用いており、外部磁場は0.3Tである。現在市販されているオープン型MRIの外部磁場は0.2Tないし0.4Tで汎用ESRとほぼ同じである。図18から明らかなように、外部磁場の強さを1/10にするだけでヒトの頭部のDNPが可能となる。更に1/5に低下すればヒトの腹部を含む全身がDNP可能となる。
<本発明の基本的形態>
本発明は、磁気共鳴の緩和現象および動的核偏極の原点に戻り、理論的検討により得られた前述のような新規な知見に基づき、NMRないしMRIで常磁性緩和促進効果を活用して高感度信号を取得し、動的核偏極で電子スピン情報を抽出して両者を加算あるいは乗算、フーリエ面で重畳するなどにより電子スピン情報を新たな次元の情報として付加する観測・画像化、分析するための手法を提案するものであり、そのような新規な手法の採用により、従来想定し得ない格別の作用効果を有するものである。
例えば、色の3属性(色相、彩度、明度)を活用し、電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間をESRスペクトルから分離・取得し、電子スピンの種類即ち原因物質毎に色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度で表示する手法は、表示法の基準を予め定義し統一的に活用すれば、装置間での相違は無くなり、医療現場での無用な混乱を避けることが出来る。
本発明は、本発明の方法及びプログラムを実行する装置を新たに作成することにより実施することができるが、既存の装置に対する動作態様の変更や部材の若干の追加等によっても実施可能である。また、固定磁場に限らず、磁場変換法を用いるDNP-MRIでも実施可能である。
前述の新規な知見からも明らかなように、本発明においては、<Mz>を正確に追跡し常磁性緩和促進を最大限に検出することが重要である。そこで、<Mz>を正確に追跡するための計算手法を概略説明する。
縦緩和時間T1は臓器ごとに異なり、かつ静磁場にも依存することから、使用する静磁場でのヒトの各臓器におけるT1を適切に推測することは重要である。この点を前提として、磁化Mzを、ブロッホ方程式をベースとして、外部磁場(Bo)と関連付ける。
例えば、電磁波が浸透しにくい深部の電子スピンに対しては、外部磁場を低磁場に変換することが有効である。その場合には高磁場と低磁場において磁化Mzを計算する必要があり、その計算例を挙げる。
1)時刻t:tL(n-1)~tHn(高磁場):
Mz(t) = M0H +(Mz(tL(n-1)) - M0H)exp(-(t-tL(n-1))/T1H) (84)
2)時刻t:tHn~tLn(低磁場):
Mz(t) = M0L +(Mz(tHn)-M0L)exp(-(t-tHn)/T1L) (85)
2’)時刻t:tHn~tLn(低磁場)かつESR照射:
Mz(t) = M0L +(Mz(tHn)-M0L、DNP)exp(-(t-tHn)/T1L) (85’)
3)時刻t:tLn~tH(n+1) (高磁場):
Mz(t) = M0H +(Mz(tLn)-M0H)exp(-(t-tLn)/T1H) (86)
以下、上述の式(84)~(86)も必要に応じて参酌しつつ、電子スピン情報の画像化方法及び分析方法の基本的形態を例示し説明する。
図1Aは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートであり、常磁性緩和促進に関わる核磁化情報を取得するステップ(S01)と、動的核偏極に関わる核磁化情報を取得するステップ(S02)と、前記常磁性緩和促進に関わる核磁化情報、及び、動的核偏極に関わる核磁化情報に基づいて、前記試料中の電子スピン情報を画像化及び/又は分析するステップ(S03)を含む方法を示すものである。なお、各ステップに関しては、図1Aの構成を更に具体化した以下の形態例において詳細に説明することとする。
図1Bは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートであり、特に、DNP用励起高周波電磁波が到達し得る条件での電子スピン情報の画像化/分析方法に係る本発明の基本的形態の一例を説明するためのフローチャートである。
対象試料での基本的な電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として電子スピン情報を取得する(ステップS11)。
対象試料の電子スピンが共存しない場合のNMR緩和時間と電子スピン情報を含む場合の緩和時間を、予め推測あるいは実測して取得し(ステップS12)、それらの緩和時間を基に、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスを決定する(ステップS13)。
ステップS13で決定したシークエンスを基に、スライス断面ごとに核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第1の時点(TI2)及び第2の時点(TI1)で180度パルスを照射し、第3の時点(TE)で常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))を取得する(ステップS14)。
前記第2の時点(TI1)後から電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<TI1)間照射し、前記第3の時点(TE)で動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))を取得する(ステップS15)。なお、電子スピン情報が複数の場合で連続波ESRを用いる場合には、上記と同様のサイクルを繰り返し、動的核偏極に関わる核磁化情報を取得する(ステップS15’)。
全てのボクセルにおける核磁化情報を取得するために、前述のステップS14からステップS15(S15’)を繰り返し、全ボクセルについて常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))と動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))を取得する(ステップS16)。
ステップS16で得た、ステップS14とステップS15での全ボクセルでの核磁化情報について位相情報を基に正負を判定し必要に応じてノイズ補正を行う。(ステップS17)。
ステップS17で得た常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))と動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))の差からDNP抽出用フィルター情報をボクセル毎に取得する(ステップS18)。
ステップS14で得た常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))に、ステップS18で得たDNP抽出用フィルター情報を重畳し、対象試料中の電子スピン情報を画像情報化して表示する(ステップS19)。
表示法としては、電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間に対し、色の3属性(色相、明度、彩度)を活用し、DNP惹起物質の種類即ち原因物質毎に色相で区別し、DNP惹起物質の量・縦緩和時間を明度で、DNP効果の程度に関わる線幅・横緩和時間を彩度で表示するとともに、表示法の基準を予め定義し統一的に活用する。これにより、装置間での相違は無くなり、医療現場での無用な混乱を避けることが出来る。
ここで、各ステップのTR、第1の時点、第2と第3の時点は、緩和時間T1とフリップ角度に応じて最適化することが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではない。
また、S13からS15(S15’)までを連続して行なわないで、ステップS13、S14、S15(S15’)毎にステップS17を行い、各ステップでの要件にあった情報を取得しても良い。
なお、ステップS19における「重畳」は、例えば、画像化した空間で乗じる方法やk-空間で重畳するなど画像化に応じたアルゴリズムにより達成することができ、これらに限られるものではない。また、ステップS17とS18で得られたボクセル情報をボクセルでの緩和過程の組成に分解しMRI画像を再構成する方法(例えば、合成MRIやfingar-print MRIなど)に用いることもできる。
NMR情報の取得はDNP用低磁場で行うことも、検出用高磁場で行うことも可能であり、その選択はステップS12で決定することができる。
図1Cは、本発明の電子スピン情報の画像化/分析方法に係る基本的形態の更に別の一例を説明するためのフローチャートであり、特に、磁場変換型DNP-NMRに係る方法の一例を示すものである。なお、以下の説明において、図1Bと重複する部分の説明は省くこととする。
対象試料での基本的な電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として電子スピン情報を取得する(ステップS21)。
対象試料の電子スピンが共存しない場合のNMR緩和時間と電子スピン情報を含む場合の緩和時間を、予め推測あるいは実測して取得し(ステップS22)、
それらの緩和時間をを基に、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスを決定する(ステップS23)。
ステップS23で決定したシークエンスを基に、スライス断面ごとに高磁場(BoH)で核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第4の時点(TI2)及び第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換・放置し、第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、第7の時点(TE)で常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))を取得する(ステップS24)。
前記第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換しTrap後に電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<(TI1+2*Trap))間照射し、前記第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、前記第7の時点(TE)で動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))を取得する(ステップS25)。なお、電子スピン情報が複数の場合で連続波ESRを用いる場合には、上記と同様のサイクルを繰り返し、動的核偏極に関わる核磁化情報を取得する(ステップS25’)。
全てのボクセルにおける核磁化情報を取得するために、前述のステップS24からステップS25(S25’)を繰り返し、全ボクセルについて常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))と動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))を取得する(ステップS26)。
ステップS26で得た、ステップS24とステップS25での全ボクセルでの核磁化情報について位相情報を基に正負を判定し必要に応じてノイズ補正を行う。(ステップS27)。
ステップS27で得た常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))と動的核偏極に関わる核磁化情報(IESR(+))の差からDNP抽出用フィルター情報をボクセル毎に取得する(ステップS28)。
ステップS24で得た常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(IESR(-))に、ステップS28で得たDNP抽出用フィルター情報を重畳し、対象試料中の電子スピン情報を画像情報化して表示する(ステップS29)。
次に、特に、磁場変換動的核偏極(FC-DNP)に好適な画像化方法及び分析方法の基本的形態を例示し、説明する。
図1Dは、本発明の電子スピン情報の画像化方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートであり、特に、磁場変換動的核偏極(FC-DNP)に係る方法の一例を示すものである。
対象試料における緩和時間と常磁性物質が混在する場合の緩和時間を予め得ている情報から推測し(ステップS11*)、それらの緩和時間をもとに磁気データを取得するためにフリップ角度を含め磁化データを取得するシークエンスを決定する(ステップS12*)。
ステップS12で決定したシークエンスをもとに、N緩和過程を経て核スピンが高分極を獲得した後、低分極に緩和する過程中の第1の時点(TR+t1)で第1の画像データを取得する(ステップS13*)。
再び緩和過程を経て核スピンが高分極を獲得した後、低分極に緩和する第2の時点(2TR+t2;t2>t1)で第2の画像データを取得する(ステップS14*)。
再び緩和過程を経て核スピンの分極を獲得し、前記第1の時点及び第2の時点により決定される期間((3TR+t1)~(3TR+t2))、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の時点(3TR+t3; t3=或いは>t2)で第3の画像データを取得する(ステップS15*)。なお、常磁性種が複数の場合には、上記と同様のサイクルを繰り返し、第3の画像データを取得する(ステップS15’*)。
全てのボクセルにおける画像データを取得するために、異なる傾斜磁場で前述のステップS13からステップS15*(S15’*)を繰り返し、全ボクセルについて画像データを取得する(ステップS16*)。
第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて、常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報をボクセル毎に取得する(ステップS17*)。
第2の画像データ及び第3の画像データに基づいて、常磁性物質によるDNPに関わる情報をボクセル毎に取得する(ステップS18*)。
ステップS17*で得た常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報にステップS18*で得たDNPに関わる情報を重畳して電子スピン情報の画像データを表示する(ステップS19*)。
ここで、各ステップのTRは、ステップ間で異なっても良い。また、第1の時点は、続く緩和過程の開始直後とすることが望ましく、また、第2と第3の時点は、緩和時間T1とフリップ角度に応じて最適化することが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではない。
また、S13*からS15*(S15’*)までを連続して行なわないで、ステップS13*、S14*、S15*(S15’*)毎にステップS17*を行い、各ステップでの要件にあった画像データを取得しても良い。
前記態様のステップS11*~S18*において、常磁性種毎にESR条件を変更するステップS15’*で得た常磁性種毎のDNP効果をDNPフィルターとして重畳させることもでき、このような構成を採用すれば、個々の常磁性種の画像を得ることができる。
なお、ステップS19*における「重畳」は、例えば、画像化した空間で乗じる方法やk-空間で重畳するなど画像化に応じたアルゴリズムにより達成することができ、これらに限られるものではない。また、ステップS17*とS18*で得られたボクセル情報をボクセルでの緩和過程の組成に分解しMRI画像を再構成する方法(例えば、合成MRIやfingar-print MRIなど)に用いることもできる。
NMR情報の取得はDNP用低磁場で行うことも、検出用高磁場で行うことも可能であり、その選択はステップS12*で決定することができる。
図1Eは、本発明の電子スピン情報の画像化方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートであり、特に、磁場固定型動的核偏極(FC-DNP)に係る方法の一例を示すものである。なお、以下の説明において、図1Dと重複する部分の説明は省くこととする。
ステップS22*で決定したシークエンスをもとに、NMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンが分極を獲得し始める過程中の第1の時点(TR+t1)で第1の画像データを取得し(ステップS23*)、再びNMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンの緩和時間程度を経過し高分極を獲得した後の第2の時点(2TR+t2;t2>t1)で第2の画像データを取得する(ステップS24*)。
再びNMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンの緩和時間程度を経過し高分極を獲得した後の第2の時点から電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の時点(3TR+t3 t3>=t2)で第3の画像データを取得する(ステップS25*)。
常磁性種が複数の場合には、上記と同様のサイクルを繰り返し、第3の画像データを取得する(ステップS25’*)。
異なる磁場勾配でステップS23*からS25*(S25’*)を繰り返し全ボクセルについての画像データを取得する(ステップS26*)。
第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて、常磁性緩和促進に関わるスピン分極の変化を画像化するとともに、第2の画像データ及び第3の画像データに基づいて、常磁性物質によるDNPに関わる情報を画像化する(ステップS27*)。
ここで、第1の時点は、続く緩和過程の開始直後とすることが望ましく、また、第2と第3の時点は、緩和時間T1とフリップ角度に応じて最適化することが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではない。
なお、ステップS21*~S26*において、常磁性種毎にESR条件を変更するステップS25’*で得た常磁性種毎のDNP効果をDNPフィルターとして重ね合わせることもでき、このような構成を採用すれば、個々の常磁性種の画像を得ることができる。
また、NMR情報の取得はDNP用低磁場で行うことも、検出用高磁場で行うことも可能であり、その選択はステップS22*で決定することができる。
図1Fは、本発明の電子スピン情報の磁場変換型DNP-NMR分析方法に係る基本的形態の一例を説明するためのフローチャートである。以下、このフローチャートに基づき、この形態の一例を説明する。
この形態は、動的核偏極(DNP)を前提とした、常磁性物質の電子スピンと超微細結合している核スピンと結合していない核スピンを緩和過程で両NMRシグナルの高感度観測に係る方法であり、以下のような動作で構成されている。
対象試料における緩和時間と常磁性物質が混在する場合の緩和時間を予め得ている情報から推測し(ステップS31*)、それらの緩和時間をもとに磁気データを取得するためにフリップ角度を含め磁化データを取得するシークエンスを決定する(ステップS32*)。
前記シークエンスをもとに、緩和過程を経て核スピンが高分極を獲得した後、低分極に緩和する過程中の第1の時点(TR+t1)で第1の磁化データを取得する(ステップS33*)。
再び緩和過程を経て核スピンが高分極を獲得した後、低分極に緩和する第2の時点(2TR+t2;t2>t1)で第2の磁化データを取得する(ステップS34*)。
再び緩和過程を経て核スピンの分極を獲得し、前記第1の時点及び第2の時点により決定される期間((3TR+t1)~(3TR+t2))、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の時点(3TR+t3; t3>=t2)で第3の磁化データを取得する(ステップS35*)。
第1の磁化データ及び第2の磁化データに基づいて、常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報を取得する(ステップS36*)。
第2の磁化データ及び第3の磁化データに基づいて、常磁性物質によるDNPに関わる情報を取得する(ステップS37*)。
ステップS36で得られた常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報にS37で得られた常磁性物質によるDNPに関わる情報を重畳して常磁性物質の分極情報を確定し電子スピン情報のNMR信号として表示する(ステップS38*)。
ここで得られた核磁気共鳴情報が十分でない場合には、再び緩和過程を経て核スピンの分極を獲得し、前述のステップS33*からステップS35*を核磁気共鳴情報が十分となるまで繰り返す。
なお、第1の時点は、続く緩和過程の開始直後とすることが望ましく、また、第2の時点と第3の時点は、緩和時間T1とフリップ角度に応じて最適化することが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではない。
図1Gは、本発明の電子スピン情報の磁場固定型DNP-NMR分析方法に係る基本的形態の別の一例を説明するためのフローチャートである。
ステップS42*で決定されたシークエンスをもとに、NMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンが分極を獲得し始める過程中の第1の時点(TR+t1)で第1の磁化データを取得する(ステップS43*)。
再びNMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンの緩和時間程度を経過し高分極を獲得した後の第2の時点(2TR+t2;t2>t1)で第2の磁化データを取得する(ステップS44*)。
再びNMRパルス照射により核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に緩和過程を経て核スピンの緩和時間程度を経過し高分極を獲得した後の第2の時点から電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の時点(3TR+t3 t3>=t2)で第3の磁化データを取得する(ステップS45*)。なお、常磁性種が複数の場合には、上記と同様のサイクルを繰り返し、第3の磁化データを取得する(ステップS45’*)。
第1の磁化データ及び第2の磁化データに基づいて、常磁性緩和促進に関わるスピン分極の変化に関する磁化データを取得するとともに、第2の磁化データ及び第3の磁化データに基づいて、常磁性物質によるDNPに関わる磁化情報を取得し、電子スピン情報毎のNMRシグナルを表示する(ステップS46*)。
ここで得られた核磁気共鳴情報が十分でない場合には、再び緩和過程を経て核スピンの分極を獲得し、前述のステップS13*からステップS16*を核磁気共鳴情報が十分となるまで繰り返す。
また、第1の時点は、続く緩和過程の開始直後とすることが望ましく、また、第2の時点と第3の時点は、緩和時間T1とフリップ角度に応じて最適化することが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではない。
<実施形態例>
以下、本発明の電子スピン情報を動的核偏極と常磁性緩和促進により個別の電子スピン情報毎に特定・数値化しNMRあるいはMRIに新たな次元として付加することで3次元NMR、4次元MRIとして表示することに関する実施形態を例示するとともに、本発明の実施形態例による効果を比較例とのシミュレーションによる対比により説明する。また、ヒト仮想ファントムを用いて縦緩和時間が異なる場合についても説明する。
なお、本発明の実施形態例と比較例は、観測時点が実施形態例では固定磁場あるいは低磁場変換後を含めて動的核偏極の画像情報を取得している。また、動的核偏極に関しては、特許文献2及び3で示したデータ取得を踏襲した実施条件で計算されている。また、各実施条件は、基本的に従前発表された実験例等に基づいて設定されたものであり、S(x、y)の計算は、基本的に、上記の式(3)及び(4)に基づくものである。
<実施形態例1>
電子スピン情報を特定するには、一旦ESRスペクトルを取得した後、対象とする電子スピン情報をESR励起し生じた動的核偏極によるNMR信号強度の変化あるいはMRIでの画像輝度変化を通じて、電子スピン情報の抽出を行う。従って、対象電子スピンのESRスペクトルの形状や飽和特性を前もって知ることが重要である。
XバンドcwESRを用いて室温にてニトロキシルラジカル水溶液とメラニンのポリビニルアルコールゲルを測定したESRスペクトルを夫々図24の(A)と(B)に示す。前者は鋭い3本線のスペクトル、後者はブロードな1本線のスペクトルで、複数種の電子スピンがあってもスペクトル情報(g値、超微細結合、線幅)から電子スピン情報を抽出することが可能である。また、電子スピンの運動性はシグナルの線幅変化として現れることから、線幅も考慮して特色的なESRシグナルを励起することで種々の電子スピン情報の抽出が可能である。
図24の(C)は夫々のラジカルに対しESR励起電磁波の照射パワー“P”を変えたときのESRシグナル強度をP1/2に対してプロットした飽和曲線である。遊離電子の場合には図10に示したように10-3mWでシグナル減衰が起こる(非特許文献26,27参照)のに対し、メラニンでは4mW、ニトロキシルラジカルでは40mWまでシグナル減衰が認められず、縦緩和時間が短い、即ち、より高出力のESR照射をしないと<Sz>が生じにくいことが分かる。これらの飽和曲線を得ることで最適なESR励起電磁波の照射パワー“P”を推測することが可能である。
ここでは例示していないが、パルスESRを活用すると前述のように種々の情報が短時間かつ同時に取得できる。
<実施形態例2>
本発明では動的核偏極と常磁性緩和促進の両者を有効活用することから、核スピンの緩和現象の把握が重要である。その測定例として2つの結果を示す。
図25Aはメラニン100mgを含むPVA液を満たした試験管とニトロキシルラジカルCmp2mM水溶液を満たした試験管を0.5TMRIで飽和回復法により撮像した結果である。メラニンの方がCmpよりも早く飽和する様子が判る。
図25Bは、実測画像から得た輝度を各TI(観測間隔時間)に対してプロットしたものである。実測画像から輝度を得るために、2本のミクロ試験管内を合成有機ラジカルCmp水溶液0.1mM(A)と5mM(B)で満たし、両試験管を3mMの硫酸銅水溶液が入った容器(C)内に封入し、パルスシーケンスとして反転回復法を用いて3TMRIで撮像し、撮像後、ROIをA、B、C及び容器外(noise)に設定し、画像輝度を求めた。
図25Bにおいて、A,B,C共にTIが長くなると一旦ノイズレベルまで減少した後に再び増大する。これはヌル点を挟んで信号強度が負から正に変わるためで、図25Bに現れる値からノイズ輝度を減算し正と負を補正する必要があることが分かる。
<実施形態例3>
図26Aに示すように、緩和度が0.2mM-1-1、5mM-1-1、40mM-1-1を有する電子スピンA,B,Cがあり、それらがcase1~3に示すように、単独或いは混合物として存在する複数の微小病巣(それぞれの緩和速度は0.3/秒、0.8/秒、2.0/秒)が脳(緩和時間が1.1秒)が出来た場合を想定したファントムを用意した。
このファントムを外部磁場3TMRIでパルスシーケンスとしてDIR(Double Inversion Recovery)法を用いて撮像した画像輝度をシミュレーションした。図26Bはシミュレーション結果の一例である。DIRパルスシーケンス条件は、<1>非特許文献37-1と同じTR=15000ms、TE=28ms、TI(1)=325ms、TI(2)=3400ms、<2>非特許文献37-2と同じTR=5500ms、TE=298ms、TI(1)=450ms、TI(2)=2550ms、<3>新たにTR=4000ms、TE=100ms、TI(1)=330ms、TI(2)=3000ms と<4>TR=3000ms、TE=290ms、TI(1)=740ms、TI(2)=1500msとした。
なお、シミュレーションに当たっては、TRの原をTE終了時とし、原点からTE分遡った点がTI(1)の終了点で、そこから(TE+TI(1))分遡った点がTI(2)の終了点となる。従って、DIRパルスシーケンスではTRの終点から(TE+TI(1)+TI(2))分遡った点で180度パルスを照射し、(TE+TI(1))分遡った点で再度180度パルスを照射し、(TE)分遡った点で90度パルスを照射し、エコーを計測する。他の実施形態例でもパルスシーケンスの時定数の扱いは同様である。
DIR法では緩和時間が大きく異なっても短時間に一定値に収斂する特色をし、サイクル1、2、3回目のTE時での縦磁化(Mz)を求めると、いずれのDIRパルスシーケンス条件でも2サイクルと3サイクルでファントムの全てのROIで同じ値となった。シミュレーション結果で括弧内は結果が負の値で、画像輝度は正の値で示される。この結果から、画像輝度を用い常磁性緩和促進値とシグナルの正負を補正して求めた常磁性緩和促進値を図26Bに示す。最下部に記した本計算例<4>ではTI(1)が長いために縦磁化(Mz)が全て正であるが、TI(1)が短い他の3例では緩和時間が長くなると縦磁化が負となることが認められた。現有MRIでは縦磁化の絶対値を画像輝度としていることが多く、DIR法で得られる画像輝度の差画像から求めた常磁性緩和促進効果は緩和時間と相関していないことが分かる。それに対し、位相情報を基に画像輝度に正負号を付し真のシグナル強度を求めた場合の差画像は常磁性緩和促進効果が適切に反映されている。
<実施形態例4>
次に、非特許文献68での条件を用いて、本発明の磁場変換動的核偏極(FC-DNP)に好適な画像化方法及び分析方法に関する実施形態を例示する。
非特許文献68ではBoH=0.45T、およびBoL=4.6mTでのFC-DNP-MRIであり、tH(n-1)、tLn は、nに依存せず、それぞれ、1050ms、750msとされている。実施条件は、ラジカルが無い溶液の緩和時間として2000ms(0.45T)と600ms(4.6mT)を、ラジカルが存在する場合の緩和時間として1000ms(0.45T)と400ms(4.6mT)を用い、Eは、-10、0.5の2つのケースで、それぞれ、実施形態例4-1および4-2、比較例4-1および4-2として示した。
MRIの観測時点は、実施形態例と対応する比較例では異なり、実施形態例においては、磁場がBoL に変更された直後、及び、BoHに変更される直前であり、比較例においては、磁場がBoHに変更された10ミリ秒後である。
図27の表1*-1は、実施形態例4-1、比較例4-1について、上述のような実施条件(E=-10)で計算した結果を、表1*-2は、実施形態例4-2、比較例4-2について、上述のような実施条件(E=-0.5)で計算した結果を例示するもので、外部磁場変換が100倍大きくなっていることから、常磁性緩和促進の効果は共に2000倍以上大きい。非特許文献68ではDNPによる増強因数は0から1の間とされており、実施形態例4-2、比較例4-2に近く、ESR照射による輝度変化は20以下である。しかし、常磁性緩和促進による画像増大効果により最終的画像輝度は4万を超えている。
<実施形態例5>
BoH=0.5T、およびBoL=5mT、tH=700ミリ秒、tL=300ミリ秒、フリップ角度が90度でのグラディエントエコー法によるFC-DNP-MRIであり、式(8)を用いて各臓器のBoH及びBoLでの常磁性物質が無い場合の縦緩和時間を推測し、合成有機常磁性物質(常磁性緩和促進R=0.3)が溶存する場合の縦緩和時間を計算で求め、動的核偏極による増強因数E=0.5として計算した。従って、MRIの実際の撮像結果に極めて近いものである。MRIの観測時点は、実施形態例4と同様である。
図27の表2*からも明らかなように、縦緩和時間は血液で1300ミリ秒と非常に長く、常磁性物質による緩和時間の短縮も大きく、常磁性緩和促進による画像増大効果が290倍で、低磁場での緩和時間が長いため動的核偏極の効果は7と小さい。
一方、肝臓での縦緩和時間は高磁場(0.5T)でも300ミリ秒と短く、低磁場(5mT)では50ミリ秒と見積もられ、常磁性緩和促進による緩和時間の短縮も小さく、常磁性緩和促進による画像増大効果が110倍程度である。
脳の灰白質部位での縦緩和時間は高磁場(0.5T)では660ミリ秒程度と、低磁場(5mT)では150ミリ秒と見積もられ、常磁性緩和促進による緩和時間の短縮も中程度で、常磁性緩和促進による画像増大効果が320倍程度で、従前の方法による画像輝度22に対して320倍向上している。
以上の知見から、図1DのS12*のステップで撮像条件を最適化することで更に高い効果が期待される。また、従前の方法では常磁性物質の画像は動的核偏極による差分であり、7から25程度ときわめて低く、本発明の方法では臓器に依存して従前の方法の110倍から300倍もの高感度画像が得られており、本発明の有効性が明白に実証されている。
<実施形態例6>
前述の実施形態例3の図26Bの<4>に示した条件、即ちDIRパルスシーケンス条件、TR=3000ms、TE=290ms、TI(1)=740ms、TI(2)=1500msを用いて、磁場を3Tに固定してスライス断面でTI(1) からTEの間にESR非照射とESR照射を交互に繰り返した場合を想定して縦磁化の経時変化をシミュレーションした。特許文献1及び特許文献2にある従前のDNP-MRIでは大きなDNP効果(E=0.1以上)を得るためにESR照射量を大きくする必要があったが、本発明者による特許文献3ではDNPフィルターとしてDNPを用いるために、微弱なESR照射量で充分な可視化が可能である。本実施例でもESR照射に伴う負荷を軽減するために微弱なESR照射(DNP効果E=0.99)を仮定してシミュレーションした。
図28の上部に3T、下部に0.1TでのTE時における縦磁化(Mz)を示す。DIR法の特色である緩和時間が大きく異なっても短時間に一定値に収斂し、3種の電子スピン情報毎にESR非照射での縦磁化(Mz)が減少し常磁性緩和促進が認められる。またESR照射と非照射の差からDNP効果を求めると緩和度に応じて変化するDNP効果が得られている。
図18に示すように電磁波の生体内透過性は周波数に大きく依存することから、ヒトを対象とする場合にはESR励起周波数を0.1GHz(外部磁場で5mT)以下に、マウスでは2GHz(外部磁場で0.1T以下)にすることが望まれる。そこで、外部磁場を0.1Tに固定してシミュレーションした結果を図28の下部に記した。外部磁場を1/30に下げたことにより熱平衡時の縦磁化も1/30まで小さくなりNMR感度及びDNP効果も外部磁場に応じて低下した。
<実施形態例7>
以上の結果を基に、図11に示した脳の初期微小病巣のモデルとして、脳白質及び灰白質に2種の電子スピン情報を有する病巣(常磁性緩和促進効果が低い状態、即ち縦緩和速度を0.3/秒と0.8/秒。緩和度(/mM秒)で比較するとガドリニウム造影剤の1/50程度)が出来た場合をシミュレーションした。具体的には、撮像時間を考慮し外部固定磁場Bo=0.1Tにおいてスライス断面でDIRパルスシーケンス条件、TR=1000ms、TE=94ms、TI(1)=240ms、TI(2)=500msを用いて、TI(1) からTEの間にESR非照射とESR照射(E=0.95)を交互に繰り返した場合を想定して縦磁化の経時変化をシミュレーションし、その結果を図29Aに示す。
図29Dに、本シミュレーションで得たスライス断面でのESR非照射での縦磁化(Mz)と照射時の縦磁化(Mz)変化から求めた電子スピン情報を加味した個別(AとB)の縦磁化(Mz;ここでは加算した例を示す。)を組織(白質、灰白質)ごとに表示した。このように電子スピン情報毎にDNP効果をDNPフィルターとして用いることで新たな次元を有するMRI画像が明確となった。
図29B、C、Dは、図29Aに示したスライス断面でのESR非照射の画像データと照射時の画像輝度データから再構成した脳(白質と灰白質)のMRI画像(図29B)、脳に微小病巣が発生したMRI画像(図29C)、及び電子スピン情報を反映したDNP-MRI画像(図29D)である。図29Dでは、DNP効果を電子スピン情報の抽出DNPフィルターとして用いるために、微弱なESR照射量で充分な縦磁化変化を得ることで4次元MRIに必要な画像データの取得が可能である。電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量・縦緩和時間、線幅・横緩和時間を分離・取得し、色の3属性(色相、彩度、明度)を活用し、種類即ち原因物質毎に色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度で表示することができる。これまでのMRI画像に対して、その病巣原因(例えば、図13に示した心房細動による微小出血病変とアミロイド性の炎症病変)ごとに、電子スピン情報の中から電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で表示した。4次元情報として可視化され、これまでのMRIに較べ全く異次元の情報を有する新たな画像が明確に示され、画像診断手法として異次元の世界を齎すであろう。
<実施形態例8>
金属酵素を始め生体分子には電子スピンを有する分子が多数あり、その機能的構造生物学は今後ますます重要位なるものと推測される。これら生体常磁性分子の解析としてESRが盛んに用いられてきた(例えば、非特許文献5参照)が、最近、構造生物学の進展に伴い常磁性緩和促進を利用したHSQC-NMR解析が利用され始めた(例えば、非特許文献61参照)。この手法を用いると反応中心である常磁性金属と反応中間体であるフリーラジカルを分別して解析することが可能と推測されるが、HSQC-NMR解析だけでは電子スピン情報を特定できないため限界がある。そこで、実施形態例4での手法を基に、2次元NMRに電子スピン情報を新たな次元として、電子スピン情報の中から電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として加えた3次元NMRをシミュレーションし、その一例を図30に示す。
<実施形態例9>
FC-DNP-MRIの結果を示す。ESR励起電磁波は電子スピンの磁気回転比がプロトンの660倍であることから、同じ磁場強毒で磁気共鳴を行うと電磁波周波数が660倍も高く、静磁場0.5Tでは電子スピンの共鳴周波数は14GHzとなり、生体への浸透性はほとんどない。従って、ヒトなど生体試料を対象とする場合には、電子スピン情報を取得する部位で静磁場を10mT(電子スピン共鳴周波数で280MHz)程度まで低減することが有効である。
特許文献3に記載したように、発明者は磁場変換DNP-MRIの理論的解析を行い新たな概念のもとに常磁性物質の磁気共鳴データを取得し可視化・分析する発明を出願した。本発明では更に電子スピン情報を磁場変換DNP-MRIで抽出し画像化・分析する実施例を以下に示す。
図31Aは、図26Aに示したヒト脳の白質と灰白質で2種の異なる電子スピン情報を有する微小病変が存在するファントムで、Tlap(磁場変換のラップ時間)を50m秒とし外部磁場0.5TでDIRパルスシーケンスを用いてスライス断面でTI(2)に180度パルス照射し、続いてTI(1)に180度パルス照射後に磁場を10mTに変換し400m秒間ESR照射しDNPを惹起した後に、再び外部磁場を0.5Tに戻しTlap後に90度パルス照射しNMR計測したときの縦磁化である。
図31Bから図31Dに、実施形態例7と同様に電子スピン情報を電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として新たな次元に付加したスライス断面画像の再構成した例を示す。
<実施形態例10>
ESR照射を連続波(cw)でなくパルスで行うと磁場掃引の必要が無くマイクロ秒で電子スピンの分極を反転できる。そこで、実施形態例7で示した条件でCWESRの代わりにESRパルスを用いて縦磁化の経時変化をシミュレーションした。外部磁場0.5Tにおいてスライス断面でDIRパルスシーケンスを用いてTI(2)に180度パルス照射し、続いてTI(1)に180度パルス照射後に磁場を10mTに変換しTlap後にESRパルス(E=0.1)を1ミリ秒間照射した後に磁場を0.5Tに戻しTE時に90度パルス照射しNMR計測した。
図32Aは、図26Aに示したヒト脳の白質と灰白質で2種の異なる電子スピン情報を有する微小病変が存在するファントムでの90度NMRパルス照射時の縦磁化である。ESRパルス照射後に0.5Tでの時間が長い分縦磁化が著しく大きくなっている。また、短時間のESRパルス照射で効率よくDNPを齎すことが知られており、実際にはDNP効果は0,1よりもはるかに大きくなるものと推測される。
図32Bに示すように、高感度で電子スピン情報を電子スピンの種類即ち原因物質を色相で区別し、その量・縦緩和時間を明度で、線幅・横緩和時間を彩度として新たな次元に付加した画像が得られた。
<実施形態例11>
図33は、本発明に基づいて取得された電子スピン情報画像の一例を示すものである。
撮像した標品はポリビニルアルコールで充満したゴム手袋の横に合成ニトロキシルラジカル2mMと精製水を封入した試料管を並べたものである。
撮像条件は、
(1)310mTに磁場を固定しTR=500ミリ秒, TE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(2)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(3)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で、4.7mTで1300ミリ秒ESR照射(1.6W)し、310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
である。なお、画像輝度はフリーソフトImageJで対象部位ごとに求めた。
従来法では電子スピン画像を画像(3)と(2)の差から求めているが、本発明法である新手法では常磁性緩和促進画像(画像(1)と(2)の差)を求めた後にDNP画像(画像(3)と(2)の差)をDNPフィルターとして乗じた。その結果、極めて明瞭な電子スピン画像が得られ、その輝度は従来法の7800倍であった。
常磁性緩和促進画像に用いたパルスシーケンスは従来法の画像を便宜的に利用したもので最適条件でないが、前述の実施形態例に示したパルスシーケンスを用いれば、更に超高感度の電子スピン画像が得られるものと期待できる。
<実施形態例12>
図34は、本発明に基づいて取得された電子スピン情報画像の一例を示すものである。
撮像した標品は、ミトコンドリア電子伝達系に係るFADラジカルと黒色腫メラノーマに存在するメラニンラジカルで、臨床応用を想定している。
健常人の掌の下に、i)FADとNADHを等量封入しFADラジカルを発生させた試料管、ないしii)メラニン5mg/PVA懸濁液を封入した試料管を、精製水封入試料管と並べて置き、温度変化を計測しつつ撮像した。
撮像条件は、実施形態例11と同じで、
(1)310mTに磁場を固定しTR=500ミリ秒, TE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(2)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(3)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で、4.7mTで1300ミリ秒ESR照射(1.6W)し、310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
である。なお、画像輝度はフリーソフトImageJで対象部位ごとに求めた。
常磁性緩和促進画像では、2個の試料管と共にヒトの手の筋肉、関節などが見えている。FADラジカルとメラニンラジカルの画像輝度は、従来法では夫々748と413であるのに対し、本発明法である新手法では405万、248万と極めて高感度の画像が得られ、従来法の5000倍以上の画像輝度である。
実施形態例11に述べたように、常磁性緩和促進画像は従来法での画像から便宜的に利用したもので、用いたパルスシーケンスは常磁性緩和促進画像としては最適条件でない。
しかしながら、前述の実施形態例に示したパルスシーケンスを用いれば、更に超高感度の電子スピン画像が得られるものと期待される。
また、図34に示したように、FADラジカルとメラニンラジカルのESRスペクトルは異なることから、ESR照射条件を変えるか、パルスESR照射法を利用することで、夫々を色度で区別して画像化できる。
<実施形態例13>
図35は、本発明に基づいて取得された電子スピン情報画像の別の一例を示すものである。
撮像した標品はポリビニルアルコールで充満したゴム手袋の横に濃度の異なる合成ニトロキシルラジカル2mMと精製水を封入した試料管を並べたものである。
撮像条件は、
(1)310mTに磁場を固定しTR=500ミリ秒, TE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(2)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
(3)[4.7mT(1330ミリ秒)―(110ミリ秒)-310mT(450ミリ秒)―(110ミリ秒)]の磁場変換で、4.7mTで1300ミリ秒ESR照射(1.6W)し、310mTに変換220ミリ秒後にTE=7ミリ秒、フリップ角=90度で撮像、
である。なお、画像輝度はフリーソフトImageJで対象部位ごとに求めた。
従来法では電子スピン画像を画像(3)と(2)の差から求めているが、本発明法である新手法では常磁性緩和促進画像(画像(1)と(2)の差)を求めた後にDNP画像(画像(3)と(2)の差)をDNPフィルターとして乗じた。その結果、極めて明瞭な電子スピン画像が得られ、その輝度は従来法の7960倍(1mM)と10000倍(4mM)で濃度依存性が示された。

Claims (16)

  1. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を特定して高輝度で高分解に画像化及び/又は分析するための方法であって、
    前記対象とする電子スピンMをESR励起したときの核磁化情報、及び、前記ESR励起しないときの核磁化情報を時系列的に取得するシークエンスを備え、
    前記対象とする電子スピンMと超微細結合していない領域の核スピンの核磁化情報と前記対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンの核磁化情報に基づき、常磁性緩和促進に関わる高分極の核磁化情報を取得するステップと、
    前記対象とする電子スピンMのESR励起の有無による動的核偏極で変化が生じた核スピンの核磁化情報に基づき動的核偏極に関わる核磁化情報を取得するステップと、
    前記対象とする電子スピンMによる常磁性緩和促進に関わる高分極の核磁化情報に、前記動的核偏極に関わる核磁化情報を演算することで、前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を特定するとともに高輝度で高分解に画像化及び/又は分析するステップと、
    を含む方法。
  2. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁場固定型磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を抽出し画像化及び/又は分析するための方法であって、
    前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として含む電子スピン情報を取得するステップと、
    前記対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンが存在しない場合のNMR緩和時間と前記対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンが存在する場合のNMR緩和時間を、予め求めた情報から推測あるいは実測し取得するステップと、
    前記取得した緩和時間を基に、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスを決定するステップと、
    前記決定したシークエンスを基に、スライス断面ごとに核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第1の時点(TI2)及び第2の時点(TI1)で180度パルスを照射し、第3の時点(TE)で前記対象とする電子スピンMの常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z)M)を取得するステップと、
    前記決定したシークエンスを基に、第4の時点(TI3)後から電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<TI3)間照射し、前記第3の時点(TE)で動的核偏極に関わる核磁化情報(Mz(x,y,z)MESR(+)を取得し、同じく前記第4の時点(TI3)後から電子スピン共鳴電磁波を照射しないでTesr(Tesr<TI3)後の前記第3の時点(TE)でESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(―) を取得するステップと、
    前記動的核偏極に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(+) )と前記ESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(―) )の差ないし割合から前記対象とする電子スピンM情報のDNP抽出用フィルター情報を取得するステップと、
    前記常磁性緩和促進に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z) M に、前記DNP抽出用フィルター情報を加算或いは乗算することで前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を画像情報化して表示するステップと、
    を含む方法。
  3. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁場変換型磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を抽出し画像化及び/又は分析するための方法であって、
    前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報として、CW-ESRあるいはパルスESRを用いて得られたESRスペクトルから共鳴周波数或いは共鳴磁場を電子スピンの種類即ちDNP惹起原因物質として、ESRシグナル高・縦緩和時間をDNP惹起物質の量として、シグナルの線幅・横緩和時間をDNP効果の程度として含む電子スピン情報を取得するステップと、
    前記試料中に前記対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンが存在しない場合のNMR緩和時間と前記対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンが存在する場合のNMR緩和時間を、予め求めた情報から推測あるいは実測し取得するステップと、
    前記取得した緩和時間を基に、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、ESR照射時間(Tesr)、検出間隔時間(TI)、フリップ角度を含むスライス断面での磁化データを取得するシークエンスを決定するステップと、
    前記決定したシークエンスを基に、スライス断面ごとに高磁場(BoH)で核スピンが高分極を獲得した後、緩和する緩和過程中の第4の時点(TI2)及び第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換・放置し、第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、第7の時点(TE)で常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(Mz(x,y,z) M を取得するステップと、
    前記第5の時点(TI1)で180度パルスを照射し、外部磁場を直ちに低磁場(BoL)に変換しTrap後に電子スピン共鳴電磁波をTesr(Tesr<(TI1+2*Trap))間照射し、前記第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、前記第7の時点(TE)で前記対象とする電子スピンMの動的核偏極に関わる核磁化情報(Mz(x,y,z) MESR(+) を取得し、同じく電子スピン共鳴電磁波を照射しないで前記Tesr後、前記第6の時点(Trap+TE)で高磁場(BoH)に戻し、前記第7の時点(TE)でESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(―) )を取得するステップと、
    前記動的核偏極に関わる核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(+) )と前記ESR非照射核磁化画像情報(Mz(x,y,z) MESR(―) )の差ないし割合から前記対象とする電子スピンMのDNP抽出用フィルター情報を取得するステップと、
    前記常磁性緩和促進に関わる核磁化情報(Mz(x,y,z)M)に、前記DNP抽出用フィルター情報を加算或いは乗算することで、前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を画像情報化して表示するステップと、
    を含む方法。
  4. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁場変換型磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を抽出し画像化するための電子スピン情報の画像化方法であって、
    前記の両核スピンが、一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に高磁場環境でスピン緩和過程を経て高分極を獲得し第1の画像データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記の両核スピンが低分極に緩和する過程で第2の画像データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、前記ステップと同じ過程を経て高分極を獲得した後に低磁場環境で、前記低磁場環境に移行後前記第2の画像データを取得するまでの期間に匹敵する期間、電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の画像データを取得するステップと
    前記第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の画像情報を取得するとともに、前記第2の画像データ及び第3の画像データに基づいて前記の対象とする電子スピンの動的核偏極に関わる画像情報を取得するステップと、
    を含み、前記常磁性緩和促進によるスピン分極の画像情報と動的核偏極に関わる画像情報から前記対象とする電子スピンMに特有の画像データを演算することで特定し、前記試料において前記対象とする電子スピンMを含む部位と含まない部位の画像データを取得・表示することを特徴とする方法。
  5. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁場固定型磁気共鳴法を用い、常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を画像化するための電子スピン情報の画像化方法であって、
    前記の両核スピンが、磁場環境下で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に第1の画像データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後にスピン緩和過程を経て高分極を獲得した後に第2の画像データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、前記の第1の画像データ取得時刻の時間差に匹敵する期間電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の画像データを取得するステップと
    前記第1の画像データ及び第2の画像データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の画像情報を取得するとともに、前記第1の画像データ及び第3の画像データに基づいて前記対象とする電子スピンの動的核偏極に関わる画像情報を取得するステップと、
    を含み、前記常磁性緩和促進によるスピン分極の画像情報と動的核偏極に関わる画像情報から前記対象とする電子スピンMに特有の画像データを演算することで特定し、前記試料において前記対象とする電子スピンMを含む部位と含まない部位の画像データを取得・表示することを特徴とする方法。
  6. 少なくとも1種類の電子スピンが存在する試料中で対象とする電子スピンMと超微細結合する核スピンと超微細結合しない核スピンが共存する環境で磁気共鳴法を用い、複数の両核スピンを常磁性緩和促進と動的核偏極を併用して分析する方法であって、
    前記の両核スピンが、磁場環境下で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後に第1の磁化データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で一旦両核スピンの縦磁化が消失ないし減じた後にスピン緩和過程を経て高分極を獲得した後に第2の磁化データを取得するステップと、
    前記の両核スピンが、前記磁場環境と同じ磁場環境で、前記の第1の画像データ取得時刻の時間差に匹敵する期間電子スピン共鳴電磁波を照射し、第3の磁化データを取得するステップと
    前記第1の磁化データ及び第2の磁化データに基づいて常磁性緩和促進に関わるスピン分極の情報を取得するとともに、前記第1の磁化データ及び第3の磁化データに基づいて前記動的核偏極に関わる情報を取得するステップと、
    を含み、前記対象とする電子スピンMが存在する試料中の核スピンの常磁性緩和促進によるスピン分極の情報と前記動的核偏極に関わる情報から前記対象とする電子スピンMに由来する特有の核スピンの磁化データを取得・表示することを特徴とする方法。
  7. 請求項1~のいずれか1項に記載の方法において、常磁性物質及び強磁性物質によるT2*を含む緩和促進によるスピン分極の情報画像の他に磁気感受性強調画像に電子スピン共鳴を起こした場合の動的核偏極によらない画像変化を用いることを特徴とする方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、前記対象とする電子スピンが複数する存在する場合に各ステップを繰り返すことを特徴とする方法。
  9. 請求項1~5、7、8のいずれか1項に記載の方法において、全てのボクセルに対して各ステップを繰り返し、前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を画像化することを特徴とする方法。
  10. 請求項1~9のいずれか1項に記載の方法であって、更に、積算回数を重ねることで前記核磁化情報を増幅するステップを含む方法。
  11. 請求項1~10のいずれか1項に記載の方法において、緩和時間T1を推定し、推定した緩和時間T1を用いて最適なフリップ角度を含むシークエンスを決定し、最大感度で最短観測時間を達成することを特徴とする方法。
  12. 請求項1~5,7~11のいずれか1項に記載の方法において、前記電子スピンMに関する電子スピン情報を画像化する際に、電子スピン情報の中から電子スピンの種類、量、緩和時間、線幅に対し、色の3属性(色相、明度、彩度)を活用し、該当電子スピン物質の種類即ち原因物質、量、緩和時間、線幅を表示するとともに、表示法の基準を予め定義し統一的に活用することを特徴とする方法。
  13. 請求項1~5、7~12のいずれか1項に記載の方法であって、前記電子スピンMに関する電子スピン情報を画像化する際に前記電子スピン情報を、原因物質ごとに、その量と特性を、予め定義された色の3属性(色相、彩度、明度)に基づき統一的に表示することを特徴とする方法。
  14. 請求項12又は13に記載の方法であって、更に、別途得られた解剖学的MRI画像に前記色の3属性を用いて前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報の画像を融像するステップを含む方法。
  15. コンピュータに請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行させプログラム。
  16. 1又は複数のプロセッサを備え、該1又は複数のプロセッサに請求項15に記載のプログラムを実行させることにより、前記対象とする電子スピンMに関する電子スピン情報を画像化及び/又は分析することを特徴とするシステム。
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