一般的に、ファスナーは、開閉を目的としたものであって、それほど高い接合強度を期待できない。また、ライニング部材の反転は流体圧を作用させて行うため、ライニング部材の反転途中の箇所は、筒軸方向の引張力を受ける。そのため、特許文献1のライニング部材の反転時には、ファスナーとプラスチックテープのファスナーを覆う部分に、筒軸方向の引張応力が集中して作用しやすい。それにより、ファスナーが破損して、プラスチックテープのファスナーを覆う部分が局所的に引き伸ばされて、樹脂注入口が開いてしまう恐れがある。
硬化性樹脂液が熱硬化性のものである場合には、硬化性樹脂液の硬化時間短縮のために、反転した状態のライニング部材に内圧を作用させつつ加熱することが多い。このとき、熱により軟化したプラスチックテープは、開いた状態の樹脂注入口の内側に入り込むように、局所的に膨張しやすい。このような膨張が生じると、開いた状態の樹脂液注入口の内側に硬化性樹脂が存在しても、ライニング部材の厚みが局所的に薄くなり、ライニング部材の強度(剛性)が局所的に低くなる。特に、ライニング部材がガラス繊維などの高強度繊維を含む場合、ライニング部材の局所的な強度の低下が顕著となる。
硬化性樹脂液を常温硬化してライニング材に熱が加わらないようにする場合には、開いた状態の樹脂液注入口の内側に硬化性樹脂が存在すれば、ライニング部材の厚みが局所的に薄くなることは無いものの、樹脂液注入口が開いていることで、ライニング部材の強度(剛性)は局所的に低くなる恐れがある。
また、複数の樹脂注入口にそれぞれファスナーを設けるのは、煩雑な作業になり、ライニング部材の加工に時間を要してしまう。
本発明は、ライニング部材に硬化性樹脂液を注入するための注入口を形成しても、内張りされた状態のライニング部材の局所的な強度低下を防止できると共に、注入後の注入口の接合作業を容易に行うことができるライニング部材への樹脂注入方法を提供することを目的とする。
第1の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、筒状の繊維層および前記繊維層の外周面を覆う樹脂層からなり、内外面を反転させて管路に内張りされるライニング部材の内側に、硬化性樹脂液を注入する方法であって、前記ライニング部材に、前記ライニング部材の筒軸方向に対して傾斜する直線状または曲線状のスリットを形成するスリット形成工程と、前記スリットから前記ライニング部材の内側に硬化性樹脂液を注入する樹脂注入工程と、前記樹脂注入工程の後、前記スリットを縫合糸により縫い合わせるスリット縫合工程と、を有し、前記スリット縫合工程において、前記縫合糸が、前記ライニング部材の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向と、前記ライニング部材の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に連続して配置され、かつ、前記縫合糸の縫い目が、いずれもほぼ同じ長さとなるように、前記スリットを縫合することを特徴とする。
このライニング部材で管路の内張りをする際には、まず、ライニング部材にスリットを形成する。そして、スリットからライニング部材の内側に硬化性樹脂液を注入する。硬化性樹脂液の注入後、ライニング部材の繊維層を利用して、スリットを縫合糸で縫合する。そして、ピンチローラー等によって、ライニング部材の全域に均一に硬化性樹脂液を含浸させる。縫合と含浸の後、ライニング部材の内外面を反転させて、管路の内面に密着させた状態で硬化性樹脂液を硬化させる。
ライニング部材のスリットは、ライニング部材の筒軸方向に対して傾斜している。そのため、スリットがライニング部材の筒軸方向に沿って形成されている場合に比べて、ライニング部材の反転時または反転後に、ライニング部材に周方向の力が作用した際、スリットが受ける開く方向の力を低減できる。よって、スリットが開きにくい。さらに、このスリットは、ライニング部材の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向と、ライニング部材の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に連続して配置される縫合糸によって縫合されている。そのため、ライニング部材の反転時に、スリットの周辺部がライニング部材の筒軸方向の引張力を受けた場合に、縫合糸のうちライニング部材の筒軸方向または筒軸方向に近い方向に延びる部分が、引張応力を受け持つため、スリットが開くように変形することを防止できる。また、ライニング部材の反転時や反転後に、スリットの周辺部がライニング部材の周方向の引張力を受けた場合に、縫合糸のうちライニング部材の周方向または周方向に近い方向に延びる部分が、引張応力を受け持つため、スリットが開くように変形することを防止できる。よって、硬化性樹脂液を硬化させた後のライニング部材の厚みが局所的に薄くなることを防止でき、内張りされた状態のライニング部材の局所的な強度低下を防止できる。
また、縫合糸による縫合は、ファスナーの取付けに比べて容易である。さらに、スリットを縫合する縫合方法は、ライニング部材の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向と、ライニング部材の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に縫うというシンプルな縫合方法である。したがって、スリットの接合作業を容易に行うことができる。
なお、本発明のライニング部材は、複数のスリットを有していてもよい。スリットが複数ある場合、1つのスリットに対して、「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」と「スリット縫合工程」がこの順で行われてさえいれば、全てのスリットの上記3つの工程の順番は問わない。例えば、全てのスリットの「スリット形成工程」の後、1つのスリットの「樹脂注入工程」と「スリット縫合工程」を完了してから、別のスリットの「樹脂注入工程」を開始してもよい。また、例えば、1つのスリットの「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」を実施後、次の(隣りの)スリットの「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」を実施してもよい。
また、スリットが曲線状の場合、「スリットがライニング部材の筒軸方向に対して傾斜している」とは、スリットの両端を結ぶ直線またはスリットの中央部の接線が、ライニング部材の筒軸方向に対して傾斜していることをいう。
第2の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第1の発明において、前記スリット縫合工程において、前記縫合糸が、前記ライニング部材の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向と、前記ライニング部材の周方向に対して15°以上20°以下の方向に、交互に連続して配置されるように、前記スリットを縫合することを特徴とする。
ライニング部材の反転時や反転後に、スリットの周辺部がライニング部材の周方向の引張力を受けた場合、縫合糸のうちライニング部材の周方向に近い方向に延びる部分が、ライニング部材の周方向と平行に近づくように、スリットの周辺部はねじれ変形しやすい。ところが、スリットを縫合する縫合糸の一部は、ライニング部材の周方向に対して15°以上20°以下の方向に配置される。つまり、ライニング部材の周方向または周方向にかなり近い方向に配置される。そのため、上述のねじれ変形を低減できる。よって、スリットがより開きにくい。加えて、管路に内張りされたライニング部材にしわが生じるのを防止できる。
第3の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第1または第2の発明において、前記スリット縫合工程において、前記縫合糸が、前記ライニング部材の筒軸方向に対して15°以上20°以下の方向と、前記ライニング部材の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に連続して配置されるように、前記スリットを縫合することを特徴とする。
ライニング部材の反転時に、スリットの周辺部がライニング部材の筒軸方向の引張力を受けた場合、縫合糸のうちライニング部材の筒軸方向に近い方向に延びる部分が、ライニング部材の筒軸方向と平行に近づくように、スリットの周辺部はねじれ変形しやすい。ところが、スリットを縫合する縫合糸の一部は、ライニング部材の筒軸方向に対して15°以上20°以下の方向に配置される。つまり、ライニング部材の筒軸方向または筒軸方向にかなり近い方向に配置される。そのため、上述のねじれ変形を低減できる。よって、スリットがより開きにくい。加えて、管路に内張りされたライニング部材にしわが生じるのを防止できる。
第4の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第1~第3の発明のいずれかにおいて、前記スリット縫合工程の後、前記スリットおよび前記縫合糸を覆うように、スリット被覆樹脂膜を前記樹脂層に接着するスリット被覆工程を有することを特徴とする。
この構成によると、スリットおよび縫合糸は、スリット被覆樹脂膜によって覆われる。そのため、ライニング部材の気密性を確保できる。
第5の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第4の発明において、前記スリット被覆樹脂膜は、前記樹脂層と同じ樹脂からなることを特徴とする。
この構成によると、ライニング部材の樹脂層とスリット被覆樹脂膜との接着性が良好であり、スリット被覆樹脂膜の剥離を防止できる。さらに、ライニング部材の伸びや強度などの特性を均一化でき、スリット被覆樹脂膜がライニング部材の性能に悪影響を与えることを防止できる。
第6の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第4または第5の発明において、前記スリット被覆樹脂膜のシール性を検査する検査工程を有し、前記検査工程は前記ライニング部材に、前記ライニング部材の内側に連通する空気吸入孔を形成する空気吸入孔形成工程と、前記スリット被覆工程の後、前記ライニング部材の外周面における前記スリット被覆樹脂膜を含む領域に、有色液を付着させる有色液付着工程と、前記有色液付着工程の後、前記空気吸入孔から前記ライニング部材の内側の空気を吸引する空気吸引工程と、前記有色液が前記ライニング部材の内部に浸入したか否かで前記スリット被覆樹脂膜のシール性を判定する判定工程と、を有することを特徴とする。
この構成によると、スリット被覆樹脂膜のシール性を検査する場合には、ライニング部材には、空気吸入孔を形成する。空気吸入孔は、ライニング部材の内側に連通する。また、硬化性樹脂液の注入後、スリットと縫合糸を覆うスリット被覆樹脂膜を、ライニング部材の樹脂層(外周面)に接着する。その後、ライニング部材の外周面におけるスリット被覆樹脂膜を含む領域に、有色液を付着させる。次に、空気吸入孔からライニング部材の内側の空気を吸引する。スリット被覆樹脂膜を含む領域からスリットを通りライニング部材の内部へ有色液が浸入した場合には、スリット被覆樹脂膜とライニング部材との隙間から有色液がライニング部材の内側に浸入したと考えられる。そのため、この場合には、スリット被覆樹脂膜はシール性が無いと判定する。逆に、浸入しない場合には、スリット被覆樹脂膜はシール性が有ると判定する。
このような比較的簡単な方法で、スリット被覆樹脂膜のシール性を検査できる。また、スリット被覆樹脂膜のシール性が無いと判定した場合には、スリット被覆樹脂膜を剥がして新たにスリット被覆樹脂膜を形成するか、既存のスリット被覆樹脂膜の上に重ねて樹脂膜を形成して、スリット被覆樹脂膜のシール性を確保する。よって、管路に内張りされた状態のライニング部材の品質を確保できる。
第7の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第1~第6の発明のいずれかにおいて、前記縫合糸が、アラミド繊維を含むことを特徴とする。
この構成によると、縫合糸が、高強度繊維であるアラミド繊維を含むため、縫い目が少なくても十分な縫合強度を確保できる。また、アラミド繊維は伸度が小さいので、縫合糸が伸びることによるスリットの目開きを防止できる。さらに、アラミド繊維は耐熱性が高いため、硬化性樹脂液が熱硬化性のものである場合に、硬化時間短縮のためにライニング部材を加熱しても、縫合糸の強度の低下を防止できる。つまり、縫合強度の低下を防止できる。
第8の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第1~第7の発明のいずれかにおいて、前記ライニング部材の内側に、筒状で且つ繊維で構成され、前記ライニング部材と共に内外面を反転させて管路に内張りされる第2ライニング部材が配置されており、前記第2ライニング部材に、直線状または曲線状の第2スリットを形成する第2スリット形成工程を有し、前記樹脂注入工程において、前記スリットおよび前記第2スリットから前記第2ライニング部材の内側に前記硬化性樹脂液を注入することを特徴とする。
この構成によると、管路に内張りされる構造体に必要な強度を第2ライニング部材に分散できるので、管路に内張りされる構造体全体の強度を維持しつつ、ライニング部材は強度を下げることができる。具体的には、ライニング部材の厚さを薄くしたり、繊維層を構成する材料強度を下げることができる。よって、第2ライニング材を設けない場合に比べて、ライニング部材のスリットを縫合糸で縫合する作業をより容易に行うことができる。
第9の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第8の発明において、前記第2スリット形成工程において、前記第2スリットを前記第2ライニング部材の周方向に沿って形成することを特徴とする。
この構成によると、第2ライニング部材の第2スリットは、第2ライニング部材の周方向に沿って形成されている。そのため、ライニング部材および第2ライニング部材の反転後または反転時に、第2ライニング部材が周方向の引張力を受けて拡径または膨張している際、第2スリットが開く方向の力を受けることを防止できる。つまり、第2スリットが確実に開きにくい。よって、硬化性樹脂液を硬化させた後のライニング部材および第2ライニング部材の厚みが局所的に薄くなることをより確実に防止でき、内張りされた状態のライニング部材および第2ライニング部材の局所的な強度低下をより確実に防止できる。
なお、第2スリットが曲線状の場合、「第2スリットを第2ライニング部材の周方向に沿って形成する」とは、第2スリットの両端を結ぶ直線または第2スリットの中央部の接線が、第2ライニング部材の周方向に沿うように、第2スリットを形成することをいう。
第10の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第8または第9の発明において、前記ライニング部材の前記スリットの周辺部と前記第2ライニング部材の前記第2スリットの周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、当該スリットと当該第2スリットが交差するか、もしくは、離れるように、前記スリット形成工程および前記第2スリット形成工程において前記スリットおよび前記第2スリットを形成することを特徴とする。
ライニング部材の繊維層および第2ライニング部材に硬化性樹脂液を含浸させた状態では、ライニング部材の内周面(繊維層の内周面)と第2ライニング部材の外周面は、硬化性樹脂液を介して密着する。ライニング部材のスリットの周辺部と第2ライニング部材の第2スリットの周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、当該スリットと当該第2スリットは、交差するか、もしくは、離れている。したがって、ライニング部材に硬化性樹脂液を含浸させた状態では、ライニング部材のスリットの周辺部は、硬化性樹脂液を介して第2ライニング部材に密着し、且つ、スリットのほぼ全域が、第2ライニング部材の開口していない部分に覆われている。また、第2ライニング部材の第2スリットの周辺部は、硬化性樹脂液を介してライニング部材に密着し、且つ、第2スリットのほぼ全域が、ライニング部材の開口していない部分に覆われている。硬化性樹脂液は、ライニング部材への含浸状態を維持できるように比較的高い粘性のものが用いられる。そのため、ライニング部材および第2ライニング部材の反転時、ライニング部材または第2ライニング部材に力がかかっても、硬化性樹脂液を介したスリットの周辺部と第2ライニング部材との密着状態、および、硬化性樹脂液を介した第2スリットの周辺部とライニング部材との密着状態を維持できる。よって、スリットおよび第2スリットに開く方向の力が掛かることを抑制でき、スリットおよび第2スリットが開きにくい。
硬化性樹脂液が熱硬化性のものである場合には、硬化性樹脂液の硬化時間短縮のために、反転した状態のライニング部材に内圧を作用させつつ加熱する。このとき、上述したように、スリットおよび第2スリットが開きにくいので、たとえ、スリットを覆う樹脂膜が熱により軟化しても、樹脂膜がスリットの内側に入り込むように膨張することを防止できる。よって、硬化性樹脂液を硬化させた後のライニング部材の厚みが局所的に薄くなることを防止でき、内張りされた状態のライニング部材の局所的な強度低下を防止できる。
また、硬化性樹脂液を常温硬化させた場合には、硬化性樹脂液を硬化させた後のライニング部材の厚みが局所的に薄くなることはない。上述したように、スリットおよび第2スリットが開きにくいので、内張りされた状態のライニング部材の局所的な強度低下を防止できる。
第11の発明の管路のライニング部材への樹脂注入方法は、第6~第10の発明のいずれかにおいて、前記検査工程は、前記樹脂注入工程時または前記樹脂注入工程の後、前記空気吸引工程の前に、前記ライニング部材内に、前記スリットおよび前記空気吸入孔に連通し且つ前記ライニング部材の筒軸方向の両側が前記硬化性樹脂液で閉塞された空間を形成する工程を含むことを特徴とする。
この構成によると、ライニング部材内に、スリットと空気吸入孔に連通し且つ筒軸方向の両側が硬化性樹脂液で閉塞された空間を形成する。空気吸入孔からライニング部材内の空気を吸入すると、この閉塞された空間の空気を吸引することになる。そのため、スリット被覆樹脂膜とライニング部材との間に生じている隙間が僅かであっても、小さい吸引力で、有色液がライニング部材の内側に浸入する。よって、簡易な検査方法によって、スリット被覆樹脂膜のシール性を高い精度で判定することができる。
本発明によれば、ライニング部材に硬化性樹脂液を注入するための注入口を形成しても、内張りされた状態のライニング部材の局所的な強度低下を防止できると共に、注入後の注入口の接合作業を容易に行うことができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るライニング材1の断面斜視図である。本実施形態のライニング材1は、例えば上下水道管等の既設管路の補修に用いられる。ライニング材1は、内外面を反転させて管路に内張りされる。
まず、ライニング材1の構造について説明する。ライニング材1は、筒状の第1ライニング部材10(本発明のライニング部材に相当する)と、第1ライニング部材10の内側に配置された筒状の第2ライニング部材20とを有する。
第1ライニング部材10は、筒状の繊維層11と、繊維層11の外周面全体を覆う樹脂層12とで構成される。繊維層11は、例えばポリエステル繊維等で製織された織布である。繊維層11は、筒軸方向に沿った縫製部を有さない、シームレスの筒状織物であってもよく、軸方向に沿った縫製部を有する筒状織布であってもよい。また、繊維層11は、例えばポリエステル繊維等の不織布であってもよい。樹脂層12は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂から選択される。樹脂層12は、繊維層11に密着しており、気体および液体が通過しない気密性(不透過性)を有する。
第2ライニング部材20は、矩形状の繊維シート21からなる。第2ライニング部材20は、繊維シート21の両端部を重ね合わせて筒状にしたものである。繊維シート21の両端部を重ね合わせた部分を、オーバーラップ部22という。オーバーラップ部22は、第2ライニング部材20の筒軸方向の全長にわたって、筒軸方向に沿って形成されている。
図2に示すように、オーバーラップ部22は、例えばホットメルト接着剤23によって仮接合されている。つまり、繊維シート21の重ね合わされた両端部同士は、ホットメルト接着剤23によって仮接合されている。より具体的には、繊維シート21の一端部にホットメルト接着剤23を塗布して、この一端部と他端部と重ね合わせることで両者を接合している。ホットメルト接着剤23は、オーバーラップ部22の全域に塗布されるのではなく、筒軸方向に平行な複数(図2では2本)のライン状の領域にのみ塗布される。オーバーラップ部22の接合強度は、ライニング材1を管路P内で反転させる際にずれないように仮止めする程度の接合強度で十分である。そして、後で説明するが、管路P内にライニング材1を設置した後の樹脂硬化工程における加熱によって、ホットメルト接着剤23は軟化し、オーバーラップ部22の接合は解除される。
第2ライニング部材20の筒状形態での周長は、第1ライニング部材10の周長よりも短い。図1に示すように、第1ライニング部材10をその周長の半分の幅となるように扁平状に配置した状態において、第2ライニング部材20は、弛みや折り返しの無い状態で、第1ライニング部材10の内側に配置できる。
第2ライニング部材20を構成する繊維シート21は、ガラス繊維(高強度繊維)を含む。繊維シート21は、第2ライニング部材20の周方向に沿って配置されるガラス繊維を含む。また、繊維シート21は、第2ライニング部材20の筒軸方向に沿って配置されるガラス繊維を含むことが好ましい。図3に示すように、第2ライニング部材20(繊維シート21)は、ポリエステル等の有機繊維の不織布24(例えば、スパンボンド不織布)と、ガラスロービングで織られたガラスロービングクロス25とが交互に積層されてニードルパンチによって接合された構造となっている。ガラスロービングは、ガラス繊維を引き揃えたもので、筒状にした第2ライニング部材20の周方向に沿って配置され、内張り後の外圧に対する主の強度メンバーとなる。繊維シート21の両面は、不織布24で構成されている。なお、繊維シート21は、少なくとも一方の面が、ガラスロービングクロス25で構成されてもよい。
次に、上述したライニング材1を用いて既設管路Pを補修する方法について説明する。
まず、図4に示すように、ライニング材1に、熱硬化性樹脂液を注入する注入口(第1スリット13および第2スリット26)を形成する(スリット形成工程)。そして、図5に示すように、この注入口からライニング材1の内側に熱硬化性樹脂を注入する(樹脂注入工程)。注入後、図6に示すように、第1スリット13を縫合糸14により縫い合わせる(スリット縫合工程)。その後、図8に示すように、第1スリット13および縫合糸14を覆うようにスリット被覆樹脂膜15を、第1ライニング部材1の樹脂層11に接着する(スリット被覆工程)。また、熱硬化性樹脂液の注入後、第1ライニング部材10の繊維層11と第2ライニング部材20の注入量に応じた領域に熱硬化性樹脂をピンチローラーなどを用いて含浸させる(樹脂含浸工程)。以上の工程を繰り返すことで、ライニング材1の全域に熱硬化性樹脂液を含浸させる。以上の工程は、ライニング材1をリール等に巻き取りながら連続的に行うことができる。そのため、長尺のライニング材1への硬化性樹脂液の注入と含浸を容易に行うことが可能である。また、一定長さのライニング材1に対して注入口(第1スリット13および第2スリット26)の数を増やせば、つまり何度も熱硬化性樹脂液を注入すれば、ライニング材1を仮置きする作業スペースをコンパクトにすることができる。
その後、熱硬化性樹脂液が含浸されたライニング材1はリール等に巻かれた状態で補修管路のある現場に移動させ、ライニング材1をセットした反転機に圧縮空気を作用させてその内外面を反転させながら、管路内に設置する(反転設置工程)。次に、反転した状態のライニング材1を加熱するとともに内側から加圧することで、第2ライニング部材20を拡径させると共に、ライニング材1に含浸された熱硬化性樹脂液を硬化させる(樹脂硬化工程)。なお、スリット形成工程、樹脂注入工程、スリット縫合工程、スリット被覆樹脂膜形成工程は、本発明の「管路のライニング部材への樹脂注入方法」に含まれる。以下、各工程について詳細に説明する。
第1スリット13および縫合糸14をスリット被覆樹脂膜15で覆うことで、第1ライニング部材10の気密性が確保される。本実施形態では、ライニング材1に熱硬化性樹脂液を注入・含浸させる作業を行いつつ、スリット被覆樹脂膜15のシール性を検査する。つまり、スリット被覆樹脂膜15が第1ライニング部材10の内外の連通を完全に遮断できているかどうか検査する。なお、この検査は行わなくてもよい。
(スリット形成工程)
図4に示すように、第1ライニング部材10に、直線状の第1スリット13を形成する。また、第2ライニング部材20に、直線状の第2スリット26を形成する。スリット形成工程を繰り返すことで、第1ライニング部材10には、複数の第1スリット13が形成され、第2ライニング部材20には、複数の第2スリット26が形成される。本実施形態では、1つの第1スリット1と1つの第2スリット26を形成してから、樹脂注入工程に進むが、複数の第1スリット1と複数の第2スリット26を形成してから、樹脂注入工程に進んでもよい。
複数の第1スリット13は、筒軸方向に並ぶように形成される。複数の第1スリット13は、等間隔に形成することが好ましく、その間隔は後述する硬化性樹脂液の注入量によって決められる。第1スリット13は、本発明のライニング部材のスリットに相当する。第1スリット13は、第1ライニング部材10の筒軸方向に対して傾斜するように形成される。第1スリット13の第1ライニング部材10の筒軸方向に対する傾斜角度は、内張り時に圧力によって作用する応力が0°と90°方向に働くので、25°以上65°以下が好ましく、45°がより好ましい。なお、第1スリット13の第1ライニング部材10の筒軸方向に対する傾斜角度とは、第1スリット13に沿った直線と筒軸方向に平行な直線とがなす角度のうち小さい方の角度をいう。本実施形態では、この傾斜角度は45°である。第1ライニング部材10の周方向における第1スリット13の長さは、後述する注入ノズル30が挿入できればよく、第1ライニング部材10の周長の半分よりも短い。第1スリット13は、切り込みである。つまり、第1スリット13は、第1ライニング部材10を部分的に切断することで形成される。よって、第1スリット13を形成しやすい。
複数の第2スリット26は、筒軸方向に並ぶように形成される。複数の第2スリット26は、第1ライニング部材10の複数の第1スリット13の近傍にそれぞれ形成される。第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20の第2スリット26の周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、第1スリット13と第2スリット26が交差する位置に、第2スリット26は形成される。第2スリット26は、第2ライニング部材20の周方向に沿って形成される。第2ライニング部材20の周方向における第2スリット26の長さは、後述する注入ノズル30が挿入できればよく、第2ライニング部材20の周長の半分よりも短い。第2スリット26は、切り込みである。つまり、第2スリット26は、第2ライニング部材20を部分的に切断することで形成される。よって、第2スリット26を形成しやすい。第2スリット26は、オーバーラップ部22以外の部分に形成される。それにより、第2スリット26をより形成しやすい。
(空気吸入孔形成工程)
スリット被覆樹脂膜15のシール性を検査するために、第1ライニング部材10に、図5に示すように、空気吸入孔16を形成する。複数のスリット被覆樹脂膜15の検査を行うことで、第1ライニング部材10には複数の空気吸入孔16が形成される。空気吸入孔16は、第1スリット13の近傍に形成される。空気吸入孔16は、第1スリット13よりも短い直線状の切り込みである。
(樹脂注入工程)
図5に示すように、第1ライニング部材10の第1スリット13および第2ライニング部材20の第2スリット26に注入ノズル30を挿入する。そして、この注入ノズル30から第2ライニング部材20の内側に熱硬化性樹脂液を注入する。注入ノズル30は、ライニング材1の筒軸方向に熱硬化性樹脂液を放出できるように、注入ノズル30の筒軸方向がライニング材1の筒軸方向と略平行となるように配置する。熱硬化性樹脂液は、1つの第1スリット13に対して1回注入する。このときの熱硬化性樹脂液の注入量は、注入と含浸の作業スペースとなる作業台にライニング材1を延ばせる長さに相当することが好ましい。なお、熱硬化性樹脂液は、1つの第1スリット13に対して、注入ノズル30の挿入方向を変えて、2回注入してもよい。つまり、1回目は、第1スリット13のライニング材1の筒軸方向の一方側に注入し、2回目は、同じ第1スリット13のライニング材1の筒軸方向の他方側に注入してもよい。
(スリット縫合工程)
熱硬化性樹脂液の注入後、図6および図7に示すように、第1スリット13を縫合糸14で縫い合わせる。縫合は、連続縫いとする。縫い始めにおいて、縫合糸14の端部を、第1ライニング部材10の内側の最初の縫い目となる部分と結ぶ。なお、縫合糸14の端部に予め結び目(玉結び)を作っておいて、縫い始めてもよい。最初の縫い目となる部分と結ぶことで、縫合糸14の縫い始めの端部が、第1ライニング部材10から抜けるのをより確実に防止できる。また、縫い終わりには、返し縫いを行う。本実施形態では、返し縫いの縫い目の方向は、第1スリット13の方向とほぼ平行であるが、これに限らない。返し縫いの後、結び目(玉止め)を作って、縫合糸14を切断する。この結び目は、第1ライニング部材10の内側に形成する。この結び目によって、縫合糸14の縫い終わりの端部が、第1ライニング部材10から抜けるのを防止できる。さらに、返し縫いをすることで、縫合糸14の縫い終わりの端部が、第1ライニング部材10から抜けるのをより確実に防止できる。なお、返し縫いをしていれば、縫い終わりに結び目(玉止め)を設けなくてもよい。
第1スリット13の縫合は、縫合糸14が、第1ライニング部材10の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向(以下、略筒軸方向という)と、第1ライニング部材10の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向(以下、略周方向という)に、交互に連続して配置されるように行う。縫合糸14の一部の第1ライニング部材10の周方向に対する傾斜角α(図7参照)は、0°以上40°以下が好ましく、15°以上20°以下がより好ましい。縫合糸14の一部の第1ライニング部材10の筒軸方向に対する傾斜角β(図7参照)は、0°以上40°以下が好ましく、15°以上20°以下がより好ましい。本実施形態では、α、βともほぼ18°である。
第1ライニング部材10の略筒軸方向に沿った複数の縫い目の長さは、互いにほぼ同じとする。また、第1ライニング部材10の略周方向に沿った複数の縫い目の長さは、互いにほぼ同じとする。第1ライニング部材10の略筒軸方向に沿った各縫い目の長さは、第1ライニング部材10の略周方向に沿った各縫い目の長さとほぼ同じであることが好ましい。それにより、第1ライニング部材10に力がかかったときに、力の方向に関わらず、第1スリット13の周辺部がねじれ変形するのを防止できる。よって、第1スリット13が開きにくい。
本実施形態では、縫合糸14のうち、第1ライニング部材10の略筒軸方向に沿った部分が、第1ライニング部材10の内側にあり、第1ライニング部材10の略周方向に沿った部分が、第1ライニング部材10の外側にある。なお、第1ライニング部材10の略筒軸方向に沿った部分が、第1ライニング部材10の外側にあり、第1ライニング部材10の略周方向に沿った部分が、第1ライニング部材10の内側にあってもよい。
縫合糸14は、例えば、アラミド繊維である。アラミド繊維は、高強度繊維であるため、縫い目が少なくても十分な縫合強度を確保できる。また、アラミド繊維は、伸度が小さいので、縫合糸14が伸びることによるスリットの目開きを防止できる。さらにアラミド繊維は耐熱性が高いため、熱硬化性樹脂液の硬化時間短縮のために第1ライニング部材10を加熱しても、縫合糸14の強度の低下を防止できる。つまり、縫合強度の低下を防止できる。
(スリット被覆工程)
縫合後、図8に示すように、第1スリット13および縫合糸14を覆うように、スリット被覆樹脂膜15を第1ライニング部材10の樹脂層12に接着する。スリット被覆樹脂膜15は、熱可塑性樹脂からなる。スリット被覆樹脂膜15は、例えば、第1スリット13および縫合糸14の上に溶融した熱可塑性樹脂を線状に載せた後、この熱可塑性樹脂をローラーで押圧することで形成される。スリット被覆樹脂膜15を形成する熱可塑性樹脂は、第1ライニング部材10の樹脂層12と同じ樹脂であることが好ましい。それにより、第1ライニング部材10の樹脂層11とスリット被覆樹脂層との接着性が良好であり、第1スリット被覆樹脂膜15の剥離を防止できる。さらに、第1ライニング部材10の伸びや強度などの特性を均一化でき、スリット被覆樹脂膜15が第1ライニング部材10の性能に悪影響を与えることを防止できる。
(スリット連通空間形成工程)
図8では、ライニング材1の熱硬化性樹脂液が含浸した領域を、格子のハッチングで表示している。図9では、熱硬化性樹脂液を、ドットのハッチングで表示している。スリット被覆樹脂膜15のシール性を検査するために、樹脂注入工程の後、図8および図9に示すように、第1ライニング部材10内に、第1スリット13と空気吸入孔16に連通し且つ第1ライニング部材10の筒軸方向の両側が熱硬化性樹脂液で閉塞されたスリット連通空間17を形成する。具体的には、例えば、第1スリット13の筒軸方向の両側に注入された熱硬化性樹脂液を周方向に押し広げてスリット連通空間17を形成してもよい。なお、このスリット連通空間形成工程は、樹脂注入工程と同時に行ってもよい。また、樹脂注入工程の後に行う場合、後述する空気吸引工程より前であれば、どのタイミングで行ってもよい。
(有色液付着工程)
スリット被覆樹脂膜15のシール性を検査するために、スリット連通空間形成工程およびスリット被覆工程の後、第1ライニング部材10の外周面におけるスリット被覆樹脂膜15を含む領域に、有色液(図示せず)を付着させる。有色液は、例えば、水に着色料を添加したものであり、第1ライニング部材10の樹脂層11およびスリット被覆樹脂膜15と異なる色を選定する。有色液は、スリット被覆樹脂膜15の表面だけでなく、縁にも付着させる。
(空気吸引工程)
有色液付着工程の後、空気吸入孔16に吸引ノズル(図示せず)を挿入し、吸引ノズルからスリット連通空間17内の空気を吸引する。このとき、検査精度を上げるために、第1ライニング部材10の第1スリット13を含む領域が、第2ライニング部材20の外周面に密着しないようにする。
(判定工程)
第1スリット13から第1ライニング部材10の内側に有色液が吸引された場合には、スリット被覆樹脂膜15とライニング部材との隙間から有色液が第1ライニング部材10の内側に浸入したと考えられる。そのため、この場合には、スリット被覆樹脂膜15はシール性が無いと判定する。逆に、第1スリット13から第1ライニング部材10の内側に有色液が吸引されない場合には、スリット被覆樹脂膜15はシール性が有ると判定する。第1スリット13から第1ライニング部材10の内側に有色液が吸引されたか否かは、ライニング部材10の外側から目視で確認してもよく、空気吸入孔16から有色液が吸引されるかどうかで判断してもよい。このような比較的簡単な方法で、スリット被覆樹脂膜15のシール性を検査できる。また、スリット被覆樹脂膜15のシール性が無いと判定した場合には、例えば、スリット被覆樹脂膜15を剥がして新たにスリット被覆樹脂膜15を形成するか、既存のスリット被覆樹脂膜15の上に重ねて樹脂膜を形成し、スリット被覆樹脂膜15のシール性を再検査することが好ましい。これにより、スリット被覆樹脂膜15のシール性を確実に確保できるので、管路Pに内張りされた状態のライニング材1の品質を確保できる。
(空気吸入孔被覆工程)
検査終了後、空気吸入孔16を覆うように、樹脂膜(図示せず)を第1ライニング部材10の樹脂層12に接着する。この樹脂膜は、熱可塑性樹脂からなる。この樹脂膜を形成する熱可塑性樹脂は、第1ライニング部材10の樹脂層12と同じ樹脂であることが好ましい。
(樹脂含浸工程)
空気吸引工程の後、1回に注入された熱硬化性樹脂液を、第1ライニング部材10の繊維層11および第2ライニング部材20の注入量に応じた領域に熱硬化性樹脂液を含浸させる。樹脂液の含浸方法としては、内側に熱硬化性樹脂液が注入されたライニング材1をピンチローラーなどで挟んで絞るという、一般的な方法でもよい。また、ライニング材1により均一に樹脂を含浸させるという観点から、以下の方法を採用することが好ましい。即ち、熱硬化性樹脂液を注入後、含浸させたい領域を、その筒軸方向が略上下方向となるように配置して、余分な樹脂液を重力で落としつつ含浸させたい領域に均一に樹脂液を含浸させる。
スリット形成工程から樹脂含浸工程までの工程を複数回ずつ行うことで、第1ライニング部材10の繊維層11および第2ライニング部材20の所定の領域に熱硬化性樹脂液を含浸させる。1つの注入口(第1スリット13および第2スリット26)に対して、「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」と「スリット縫合工程」がこの順で行われてさえいれば、全ての注入口の上記3つの工程の順番は問わない。例えば、全ての注入口の「スリット形成工程」の後、1つの注入口の「樹脂注入工程」と「スリット縫合工程」を完了してから、別のスリットの「樹脂注入工程」を開始してもよい。また、例えば、1つの注入口の「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」を実施後、「スリット縫合工程」を行う前に、次の(隣りの)注入口の「スリット形成工程」と「樹脂注入工程」を実施してもよい。その場合、1つの注入口以外の注入口(詳細には第1スリット13)は目張りして減圧可能としておくことが望ましい。「スリット形成工程」は任意に追加可能である。ニップ等で注入口(第1スリット13および第2スリット26)を形成したい箇所の手前側で樹脂液を一時的に止めて、「スリット形成工程」~「樹脂注入工程」を経て樹脂液を追加できる。
なお、注入口(第1スリット13および第2スリット26)の形成されている領域への樹脂液の含浸は、以下の3つの方法のどちらを採用してもよい。以下の3つの方法では、ライニング材1の一部を筒軸方向が上下方向となるように配置してから含浸させる。いずれの方法も、予め、対象となる注入口(以下、対象注入口と称する)の上方の注入口から下方に樹脂液が注入されて、対象注入口の上方の領域に樹脂液が含浸されている。
第1の方法では、対象注入口から上方に注入した樹脂液を、対象注入口の上方近傍に溜めておく。その前またはその後に、対象注入口から下方に樹脂液を注入して、対象注入口の下方の領域に樹脂液を含浸させる。対象注入口のスリット被覆工程および空気吸入孔被覆工程を終えた後、対象注入口の上方近傍に溜めた樹脂液を下方に移動させて、対象注入口が形成されている領域に樹脂液を含浸させる。
第2の方法では、対象注入口の上方の注入口から注入された樹脂液を、対象注入口の上方の領域に含浸させると共に、一部を対象注入口の手前(上方の近傍)に溜めておく。そして、対象注入口から下方に樹脂液を注入して、対象注入口の下方の領域に樹脂液を含浸させる。対象注入口のスリット被覆工程および空気吸入孔被覆工程を終えた後、対象注入口の上方近傍に溜めた樹脂液を下方に移動させて、対象注入口が形成されている領域に樹脂液を含浸させる。
第3の方法では、対象注入口から下方に樹脂液を注入して、対象注入口の下方の領域に樹脂液を含浸させると共に、一部を対象注入口の下方近傍に溜めておく。対象注入口のスリット被覆工程および空気吸入孔被覆工程を終えた後、対象注入口の下方近傍に溜めた樹脂液を上方に移動させて、対象注入口が形成されている領域に樹脂液を含浸させる。
(反転設置工程)
図10に示すように、管路Pは、地上に開口している立坑Qに連続しており、ライニング材1は、立坑Qから管路P内に設置される。図11(a)に示すように、熱硬化性樹脂液が含浸されたライニング材1は、地上のトラック40(図10参照)に設けられた反転機41のリール42に巻き取られている。また、ライニング材1の先端は、反転機41の口金43に環状に固定されている。
図11(b)に示すように、反転機41内に圧縮空気を導入すると、口金43に固定されたライニング材1の折り返し部分に空気圧が作用する。第1ライニング部材10の樹脂層12は気密性を有するため、空気圧が作用することで、ライニング材1の折り返し部分は、進行方向(図中の右方向)へと前進し、ライニング材1が反転し始める。このとき、ライニング材1は、リール42から引き出されながら前進する。図12は、反転中のライニング材1の進行方向先端部を、進行方向前方から見た図である。図11(c)に示すように、ライニング材1は、さらに進行方向に前進しながら連続して反転し続ける。そして、図10に示すように、反転した状態のライニング材1が管路P内に配置される。最終的には、ライニング材1は、その全長にわたって内外面が反転されて管路P内に設置される。第2ライニング部材20のオーバーラップ部22がホットメルト接着剤23によって仮接合されていることで、ライニング材1の反転時に、繊維シート21の両端部同士がスライドしてしまうことを防止できる。反転した状態において、第2ライニング部材20よりも周長の短い第1ライニング部材10が、第2ライニング部材20の内側に配置される。よって、第1ライニング部材10は、内側に空気圧が作用しても弛んだ状態となっている。この方法は特に管路P内に曲管が配置されている場合に、曲管部分に生じるライニング材の皺を抑えるのに有用である。
(樹脂硬化工程)
管路P内に反転した状態で設置されたライニング材1の内側に、加熱空気や蒸気等の加熱媒体を供給して、ライニング材1を熱硬化性樹脂液の硬化温度(例えば、80~100℃)以上に加熱しつつ、ライニング材1を内側から加圧する。
加熱媒体の熱により、オーバーラップ部22を仮接合しているホットメルト接着剤23が軟化し、接合が解除される。また、反転設置工程後の状態では、気密性を有する第1ライニング部材10が、第2ライニング部材20の内側に配置されるため、第1ライニング部材10の内側に加熱媒体を供給することで、第1ライニング部材10が弛んだ状態から膨張して、第2ライニング部材20を内側から加圧する。それにより、第2ライニング部材20を構成する繊維シート21の両端部が周方向にスライドして、第2ライニング部材20が拡径する(即ち、周長が長くなる)。そして、図13に示すように、ライニング材1が管路Pの内面に押し付けられて密着し、その状態で熱硬化性樹脂が熱硬化する。以上により、ライニング材1が管路Pに内張りされる。図13には、繊維シート21の両端部の重なり部分を、拡大して表示している。なお、樹脂硬化工程において、第1ライニング部材10の周長の数%~10%増大する。
以上、本実施形態について説明したが、本実施形態によると以下の効果が得られる。
第1ライニング部材10の第1スリット13は、第1ライニング部材10の筒軸方向に対して傾斜している。そのため、第1スリット13が第1ライニング部材10の筒軸方向に沿って形成されている場合に比べて、ライニング材1の反転時または反転後に、ライニング材1に周方向の力が作用した際、第1スリット13が受ける開く方向の力を低減できる。より具体的には、内圧が加わったライニング材1に作用する力は筒軸方向を1とした場合に周方向には2の力が加わる(薄肉円筒の式)。そのため、作用が大きい周方向の力に対して傾斜させることによって、第1スリット13が開きにくい。
さらに、この第1スリット13は、第1ライニング部材10の筒軸方向または周方向よりも筒軸方向に近い方向と、第1ライニング部材10の周方向または筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に連続して配置される縫合糸14によって縫合されている。そのため、第1ライニング部材10の反転時に、第1スリット13の周辺部が第1ライニング部材10の筒軸方向の引張力を受けた場合に、縫合糸14のうち第1ライニング部材10の筒軸方向または筒軸方向に近い方向に延びる部分が、引張応力を受け持つため、第1スリット13が開くように変形することを防止できる。また、第1ライニング部材10の反転時や反転後に、第1スリット13の周辺部が第1ライニング部材10の周方向の引張力を受けた場合に、縫合糸14のうち第1ライニング部材10の周方向または周方向に近い方向に延びる部分が、引張応力を受け持つため、第1スリット13が開くように変形することを防止できる。よって、熱硬化性樹脂液を硬化させた後の第1ライニング部材10の厚みが局所的に薄くなることを防止でき、内張りされた状態の第1ライニング部材10の局所的な強度低下を防止できる。
また、縫合糸14による縫合は、ファスナーの取付けに比べて容易である。さらに、第1スリット13を縫合する縫合方法は、第1ライニング部材10の周方向よりも筒軸方向に近い方向と、第1ライニング部材10の筒軸方向よりも周方向に近い方向に、交互に縫うというシンプルな縫合方法である。したがって、第1スリット13の接合作業を容易に行うことができる。
第1ライニング部材10の反転時や反転後に、第1スリット13の周辺部が第1ライニング部材10の周方向の引張力を受けた場合、縫合糸14のうち第1ライニング部材10の周方向に近い方向に延びる部分が、第1ライニング部材10の周方向と平行に近づくように、第1スリット13の周辺部はねじれ変形しやすい。ところが、第1スリット13を縫合する縫合糸14の一部が、第1ライニング部材10の周方向に対して15°以上20°以下の方向に配置された場合には、第1ライニング部材10の周方向または周方向にかなり近い方向に配置されることになる。そのため、上述のねじれ変形を低減できる。よって、第1スリット13がより開きにくい。加えて、管路Pに内張りされた第1ライニング部材10にしわが生じるのを防止できる。
第1ライニング部材10の反転時に、第1スリット13の周辺部が第1ライニング部材10の筒軸方向の引張力を受けた場合、縫合糸14のうち第1ライニング部材10の筒軸方向に近い方向延びる部分が、第1ライニング部材10の筒軸方向と平行に近づくように、第1スリット13の周辺部はねじれ変形しやすい。ところが、第1スリット13を縫合する縫合糸14の一部が、第1ライニング部材10の筒軸方向に対して15°以上20°以下の方向に配置された場合には、第1ライニング部材10の筒軸方向または筒軸方向にかなり近い方向に配置されることになる。そのため、上述のねじれ変形を低減できる。よって、第1スリット13がより開きにくい。加えて、管路Pに内張りされた第1ライニング部材10にしわが生じるのを防止できる。
第2ライニング部材20の第2スリット26は、第2ライニング部材20の周方向に沿って形成されている。そのため、第1ライニング部材10および第2ライニング部材20の反転後または反転時に、第2ライニング部材20が周方向の引張力を受けて拡径または膨張している際、第2スリット26が開く方向の力を受けることを防止できる。つまり、第2スリット26が確実に開きにくい。よって、熱硬化性樹脂液を硬化させた後の第1ライニング部材10および第2ライニング部材20の厚みが局所的に薄くなることをより確実に防止でき、内張りされた状態の第1ライニング部材10および第2ライニング部材20の局所的な強度低下をより確実に防止できる。
第1ライニング部材10の繊維層および第2ライニング部材20に熱硬化性樹脂液を含浸させた状態では、第1ライニング部材10の内周面(繊維層の内周面)と第2ライニング部材20の外周面は、熱硬化性樹脂液を介して密着する。第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20の第2スリット26の周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、当該第1スリット13と当該第2スリット26は、交差する。したがって、第1ライニング部材10に熱硬化性樹脂液を含浸させた状態では、第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部は、熱硬化性樹脂液を介して第2ライニング部材20に密着し、且つ、第1スリット13のほぼ全域が、第2ライニング部材20の開口していない部分に覆われている。また、第2ライニング部材20の第2スリット26の周辺部は、熱硬化性樹脂液を介して第1ライニング部材10に密着し、且つ、第2スリット26のほぼ全域が、第1ライニング部材10の開口していない部分に覆われている。熱硬化性樹脂液は、第1ライニング部材10への含浸状態を維持できるように比較的高い粘性(500~15000cps)のものが用いられる。そのため、第1ライニング部材10および第2ライニング部材20の反転時、第1ライニング部材10または第2ライニング部材20に力がかかっても、熱硬化性樹脂液を介した第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20との密着状態、および、熱硬化性樹脂液を介した第2スリット26の周辺部と第1ライニング部材10との密着状態を維持できる。よって、第1スリット13および第2スリット26に開く方向の力が掛かることを抑制でき、第1スリット13および第2スリット26が開きにくい。
熱硬化性樹脂液の硬化時間短縮のために、反転した状態の第1ライニング部材10に内圧を作用させつつ加熱している。このとき、上述したように、第1スリット13および第2スリット26が開きにくいので、たとえ、第1スリット13を覆う樹脂膜15が熱により軟化しても、樹脂膜15が第1スリット13の内側に入り込むように膨張することを防止できる。よって、熱硬化性樹脂液を硬化させた後の第1ライニング部材10の厚みが局所的に薄くなることを防止でき、内張りされた状態の第1ライニング部材10の局所的な強度低下を防止できる。
本実施形態では、ライニング材1内に、注入口と空気吸入孔16に連通し且つ筒軸方向の両側が硬化性樹脂液で閉塞されたスリット連通空間17を形成する。空気吸入孔16からライニング材1内の空気を吸入すると、この閉塞された空間17の空気を吸引することになる。そのため、スリット被覆樹脂膜15と第1ライニング部材10との間に生じている隙間が僅かであっても、小さい吸引力で、有色液がライニング材1の内側に浸入する。よって、簡易な検査方法によって、スリット被覆樹脂膜15のシール性を高い精度で判定することができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。後述する変更例は適宜組み合わせて実施してもよい。
1]本発明の第2ライニング部材の構造は、図3に示す構造に限らない。また、ガラスロービングクロス25と不織布24が交互に積層されていなくてもよい。例えば、複数枚のガラスロービングクロス25の両側にのみ不織布24が積層されていてもよい。また、不織布24が全く設けられていなくてもよい。また、ガラスロービングクロス25の代わりに、ガラス繊維を撚り合わせたガラスヤーンで織られたガラスクロスを用いてもよい。本発明の第2ライニング部材は、ガラス繊維以外の高強度繊維(例えば、アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維等)を含んでいてもよい。本発明の第2ライニング部材は、熱硬化性樹脂にガラス繊維等の高強度繊維の短繊維を分散させたSMC(シートモールディングコンパウンド)であってもよい。本発明の第2ライニング部材は、高強度繊維を含む織布を含むことが好ましい。また、第2ライニング部材は、少なくとも第2ライニング部材の周方向に沿って配置されたガラス繊維を含むことが好ましい。第2ライニング部材は、第2ライニング部材の筒軸方向に沿って配置されたガラス繊維を含んでいてもよい。
2]上記実施形態では、第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20の第2スリット26の周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、第1スリット13と第2スリット26が交差するように、第1スリット13および第2スリット26は形成されている(図1参照)。しかし、例えば図14(a)に示すライニング材101のように、第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20の第2スリット126の周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、第1スリット13と第2スリット126が離れるように、第1スリット13および第2スリット126は形成されていてもよい。この場合、ライニング材1に熱硬化性樹脂液を含浸させた状態では、第1ライニング部材10の第1スリット13の周辺部は、熱硬化性樹脂液を介して第2ライニング部材20に密着し、且つ、第1スリット13の全域が、第2ライニング部材20の開口していない部分に覆われている。また、第2ライニング部材20の第2スリット126の周辺部は、熱硬化性樹脂液を介して第1ライニング部材10に密着し、且つ、第2スリット126の全域が、第1ライニング部材10の開口していない部分に覆われている。そのため、ライニング材1の反転時に、ライニング材1に力がかかっても、熱硬化性樹脂液を介した第1スリット13の周辺部と第2ライニング部材20との密着状態、および、熱硬化性樹脂液を介した第2スリット126の周辺部と第1ライニング部材10との密着状態を上記実施形態よりも強固に維持できる。よって、第1スリット13および第2スリット126に開く方向の力が掛かることを抑制でき、第1スリット13および第2スリット126が開きにくい。但し、注入ノズル30を挿入しやすいという点では、第1スリット13と第2スリット26が交差することが好ましい。
3]上記実施形態の第2スリット26は、第2ライニング部材20の周方向に沿って形成されている。しかし、例えば図14(b)に示すライニング材201のように、第2スリット226が、ライニング材201の筒軸方向に沿って形成されていてもよい。また、第2スリット26は、第2ライニング部材20の筒軸方向に対して傾斜していてもよい。但し、いずれの場合も、第1ライニング部材の第1スリットの周辺部と第2ライニング部材の第2スリットの周辺部を弛みなく平坦状に重ねた状態において、第1スリットと第2スリットが交差するか、もしくは、離れるように、第1スリットおよび第2スリットは形成されることが好ましい。第1スリットと第2スリットが完全に重なる位置に形成されていてもよい。
4]上記実施形態の第1スリット13および第2スリット26は、それぞれ複数設けられている。しかし、本発明の第1スリットおよび第2スリットの数は、それぞれ、1つであってもよい。この場合、スリット(第1スリットおよび第2スリット)の筒軸方向の片側または両側に、熱硬化性樹脂液を注入する。それにより、ライニング材の一端から全量注入する場合に比べて、ライニング材のスリット周辺に溜まる熱硬化性樹脂液の量を減らすことができ、注入作業と含浸作業が容易になり比較的コンパクトなスペースで容易に行うことができる。
5]上記実施形態の第1スリット13および第2スリット26は、直線状である。しかし、本発明の第1スリットは曲線状であってもよい。また、本発明の第2スリットは曲線状であってもよい。
6]前記実施形態では、第2ライニング部材20のオーバーラップ部22が、ホットメルト接着剤23で接合されていたが、これ以外の方法、例えば、縫製で接合されてもよい。但し、縫製で接合する場合は、樹脂硬化工程で第2ライニング部材20に内圧が作用したときに縫製部が破断するように、比較的弱い接合にする必要がある。また、オーバーラップ部22を構成する繊維シート21の端部同士の間に作用する摩擦力が大きい等の理由から、ライニング材1の管路内への設置時に、第2ライニング部材20が大きく広がる虞がない場合には、オーバーラップ部22を接合しなくてもよい。
7]オーバーラップ部22が接合されていない場合または接合強度が弱い場合、上述の反転設置工程で、ライニング材1の反転と同時に、繊維シート21の両端部がスライドして第2ライニング部材20が拡径し、ライニング材1が管路の内面に密着してもよい。この場合、熱硬化性樹脂が加熱不足となり未硬化の原因となる、管路Pとライニング材1との間への水の浸入を遮断できると共に、管路P内部の滞留水をライニング材の進行方向の前方へ押し出すことができる。
8]上記実施形態の第2ライニング部材20は、オーバーラップ部22を有しており、第1ライニング部材10よりも周長が短いが、この構成に限定されない。
例えば図15(a)に示すライニング材301のように、第2ライニング部材320の周長が第1ライニング部材10の周長よりも長く、第1ライニング部材10をその周長の半分の幅となるように扁平状に配置した状態において、第2ライニング部材320は、弛んだ部分である弛み部327を有してもよい。弛み部327は、第2ライニング部材320の周方向の一部分にのみ形成される。弛み部327は、第2ライニング部材320の筒軸方向に沿って形成される。第2スリット26は、第2ライニング部材320における弛み部327以外の部分に形成される。それにより、第2スリット26を形成しやすい。なお、図15(a)では、弛み部327は、第2スリット26と対向しているが、対向しなくてもよい。第2スリットが、弛み部と斜向かいの位置に形成されていてもよく、弛み部と第2スリットが同一平面上に形成されていてもよい。
また、例えば図15(b)および図15(c)に示すライニング材401、501のように、第2ライニング部材420、520の周長が第1ライニング部材10の周長よりも長く、第1ライニング部材10をその周長の半分の幅となるように扁平状に配置した状態において、第2ライニング部材420、520は、折り返された部分である折り返し部427、527、528を有してもよい。折り返し部427、527、528は、第2ライニング部材20の筒軸方向に沿って形成される。図15(b)に示す第2ライニング部材420は、その幅方向の片側に折り返し部427を有する。図15(c)に示す第2ライニング部材520は、その幅方向の両側に折り返し部527、528を有する。図15(b)および図15(c)では、折り返し部427、527、528は、図中の上側に折り返されているが、下側に折り返されていてもよい。第2スリット26は、第2ライニング部材420、520における折り返し部427、527、528以外の部分に形成される。それにより、第2スリット26を形成しやすい。さらに、第2スリット26は、第2ライニング部材420、520において折り返し部427、527、528と重なる部分以外の部分に形成されることが好ましい。
このような弛み部327または折り返し部427、527、528を有する第2ライニング部材320、420、520の周長は、高強度繊維を周方向に配置した場合は伸びしろを期待できないので、管路の内面に密着できる周長に設定される。また、第1ライニング部材10の周長は、第2ライニング部材320、420、520の内周面に密着できる周長に設定される。このライニング材301、401、501を反転させる際、反転された第2ライニング部材20に内圧がかかると、弛み部327または折り返し部427、527、528が解消されて、第2ライニング部材20は弛み無く膨張する。そして、図16に示すように、反転した状態のライニング材301、401、501は、管路Pの内面に密着する。その後、樹脂硬化工程において、反転したライニング材301、401、501の内側に加熱媒体を供給して内側から加圧しつつ加熱すると、ライニング材301、401、501が管路の内面に密着した状態で熱硬化性樹脂液が硬化する。このように、弛み部327または折り返し部427、527、528を有する第2ライニング部材320、420、520は、樹脂硬化工程においてほとんど拡径しない。
9]上記実施形態では、ライニング材1の内側に注入される硬化性樹脂液として、熱硬化性樹脂液を用いている。しかし、本発明のライニング部材の内側に注入される硬化性樹脂液は、例えば、光硬化性、さらには、常温硬化性のものを使用することもできる。但し、上記実施形態のように、第2ライニング部材20が、ホットメルト接着剤23によって仮接合されたオーバーラップ部22を有する場合には、硬化性樹脂液の硬化とホットメルト接着剤23の軟化(接合解除)を一度に行うことができるように、熱硬化性の樹脂液を採用することが好ましい。
10]上記実施形態では、第1ライニング部材10(本発明のライニング部材に相当)の内側に、第2ライニング部材20が配置されている。しかし、本発明のライニング部材の内側には、第2ライニング部材は設けなくてもよい。この場合、ライニング部材の強度を高めるために、ライニング部材は高強度繊維を含むことが好ましい。但し、上記実施形態のように、第1ライニング部材10の内側に第2ライニング部材20を配置した場合、ライニング材1として必要な強度を第2ライニング部材20に分散できるので、ライニング材1全体の強度を維持しつつ、第1ライニング部材10は強度を下げることができる。具体的には、第1ライニング部材10の厚さを薄くしたり、繊維層を構成する材料強度を下げることができる。よって、第2ライニング材20を設けない場合に比べて、第1ライニング部材10の第1スリット13を縫合糸14で縫合する作業をより容易に行うことができる。
11]上記実施形態では、ライニング材1の途中に設けた複数の注入口(第1スリット13および第2スリット26)のみから、硬化性樹脂液をライニング材1の内側に注入している。しかし、従来のようにライニング材1の一端から硬化性樹脂液を一定量注入すると共に、ライニング材1の1つまたは複数の注入口から硬化性樹脂液を注入してもよい。
12]上記実施形態では、空気圧によってライニング材1を反転させている。しかし、本発明のライニング部材は、空気圧以外の流体圧(例えば水圧)によって反転させてもよい。